(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
F16K31/04 K
(21)【出願番号】P 2019016752
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩史
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-317924(JP,A)
【文献】特開昭49-027918(JP,A)
【文献】特開昭63-038779(JP,A)
【文献】特開平04-296271(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0040798(US,A1)
【文献】特表2008-519953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00 - 31/05
F16K 37/00
F16K 5/00 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体が連結される主軸と、前記主軸を回転させる電動モータと、前記電動モータに制動力を与える制動部と、前記主軸の回転が目標停止角度の手前に設けられた所定の回転角度に到達したときに到達信号を出力する位置検出部と、前記電動モータ及び前記制動部を制御する制御部と、を有する電動アクチュエータにおいて、
制御部は、
前記制動部に制動信号が出力されて前記電動モータが停止したときの主軸の回転角度と、前記電動モータの回転速度とに関わる制動情報が記憶された記憶部と、
前記電動モータからの回転速度信号が入力される回転速度入力部と、
前記位置検出部からの前記到達信号が入力される到達信号入力部と、
前記到達信号が入力されてから制動部に制動信号を出力するまでの時間である制動開始時間を、前記電動モータの回転速度と前記制動情報とに基づいて求める制動開始時間演算部と、
前記制動開始時間をカウントするタイマ部と、
前記制動部に前記制動信号を出力する制動信号出力部と、を有し、
前記制動信号は、前記位置検出部から前記到達信号が入力されてから前記制動開始時間が経過したときに、前記制動部に出力されることを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
弁体が連結される主軸と、前記主軸を回転させる電動モータと、前記電動モータに制動力を与える制動部と、前記主軸の回転が目標停止角度の手前に設けられた所定の回転角度に到達したときに到達信号を出力する位置検出部と、を有する電動アクチュエータの制御方法であって、
前記主軸の回転速度を検出するステップと、
前記主軸が所定の回転角度に到達したことを検出するステップと、
前記主軸の回転速度を参照して、前記主軸が前記所定の回転角度に到達してから前記制動部に制動信号を出力するまでの時間である制動開始時間を求めるステップと、
前記主軸が前記所定の回転角度に到達したことを検出して前記制動開始時間が経過したときに、前記制動部に前記制動信号を出力するステップと、
を有する電動アクチュエータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブの開閉動作をおこなうための電動アクチュエータ及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスや水などの各種流体を流す流路には、流路を遮断又は開放するためにボールバルブやバタフライバルブなどのバルブが使用されている。従来から、これらのバルブの開閉動作をおこなうために、例えば特許文献1や特許文献2に記載されている電動アクチュエータが使用されている。一般的に、電動アクチュエータは、電動モータと、弁体と連結される主軸と、電動モータの回転速度を所望の回転速度に減速して主軸に伝える減速ギヤセットと、弁体が開の位置に到達したことを検出する開側リミットスイッチと、弁体が閉の位置に到達したことを検出する閉側リミットスイッチと、電動モータを制動して停止時に主軸の停止位置を保持する制動部を備えている。
【0003】
この電動アクチュエータは、弁体が開の位置又は閉の位置に到達するまで電動モータを回転させ、弁体が開の位置又は閉の位置に到達したときに電動モータへの給電を停止し、さらに制動部を作動させて電動モータの回転を停止させることでバルブを開閉することができる。電動モータは、給電の停止及び制動部の作動がされたあとも直ちに停止することができず少しの間は慣性によって回転し、制動部を作動させてから一定の時間が経過したあとに停止する。そのため、電動モータへの給電が停止される開の位置及び閉の位置は、バルブが全開又は全閉になる位置で弁体が停止するように、その時間差が考慮されて調整される。
【0004】
この電動アクチュエータによれば、単一のバルブ開閉速度で動作させる場合は、そのバルブ開閉速度に応じて開の位置又は閉の位置を調整することで、バルブが全開又は全閉となる位置で弁体を精度よく停止させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-57394号公報
【文献】特開2014-92177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
要求されるバルブ開閉速度は、バルブの用途や流す流体の種類によって異なる場合がある。上記した従来の電動アクチュエータによれば、電動モータの出力トルクの範囲内であれば容易に電動モータの回転速度を変えることができるので、バルブ開閉速度を速くしたり遅くしたりすることは容易である。しかしながら、従来の電動アクチュエータは、電動モータへの給電が停止される開の位置(又は閉の位置)が単一のバルブ開閉速度用に調整されているので、異なるバルブ開閉速度で動作させた場合には、電動モータへの給電の停止と制動部の作動が、単一のバルブ開閉速度用に調整されたタイミングでなされると弁体の停止位置にずれが生じる。
【0007】
バルブの開閉速度を可変にし、かつ、バルブの開閉速度によらず弁体を確実に停止位置で停止させる手段として、例えば弁体が連結される主軸やモータの回転軸の回転位置を連続的に監視することによって弁体の位置を常に把握し、弁体の位置情報に基づいてモータを制御する方法が考えられる。しかしながら、この方法では、弁体の位置を連続的に把握するための機器を別途設けたり、複雑な制御を行ったりする必要があるので電動アクチュエータが高価になる。
【0008】
本発明は、これらの課題に鑑みてなされたものであり、弁体の開閉速度を設定可能範囲内で変えて動作させた場合でも弁体を目標とする停止位置(全開位置、全閉位置)に精度よく停止させることができる、安価な電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る電動アクチュエータは、弁体が連結される主軸と、主軸を回転させる電動モータと、電動モータに制動力を与える制動部と、主軸の回転が目標停止角度の手前に設けられた所定の回転位置に到達したときに到達信号を出力する位置検出部と、電動モータを制御する制御部と、を有する電動アクチュエータである。制御部は、制動部に制動信号が出力されて電動モータが停止したときの主軸の回転角度と、電動モータの回転速度とに関わる制動情報が記憶された記憶部と、
電動モータからの回転速度信号が入力される回転速度入力部と、
位置検出部からの到達信号が入力される到達信号入力部と、
到達信号が入力されてから制動部に制動信号を出力するまでの時間である制動開始時間を、電動モータの回転速度と制動情報とに基づいて求める制動開始時間演算部と、
制動開始時間をカウントするタイマ部と、
制動部に制動信号を出力する制動信号出力部と、を有する。
本発明に係る電動アクチュエータは、以上の構成を備え、位置検出部から到達信号が入力されてから制動開始時間が経過したときに、制動部に制動信号を出力するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電動アクチュエータ及び電動アクチュエータの制御方法は、制動部に制動信号を出力するタイミングを電動モータの回転速度を参照して求め、回転速度毎に適切なタイミングで電動モータを停止させることができるので、電動モータを異なる回転速度で動作させた場合でも弁体を目標とする停止位置に精度よく停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の電動アクチュエータの模式図である。
【
図2】本発明の電動アクチュエータのブロック図である。
【
図5】本発明における制動情報の一例を示す線図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態の電動アクチュエータの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細について、図を参照しつつ説明する。なお、ここに記載する実施の形態はあくまで例示に過ぎず本発明はこれに限られない。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態の電動アクチュエータを簡単に示す模式図である。
図2は、本発明の電動アクチュエータの制御部の詳細を示すブロック図である。
図3は、
図1におけるAA矢視断面図である。
図1では、電動アクチュエータが装着されるバルブも電動アクチュエータと共に示されている。
【0014】
図1に示すように、電動アクチュエータ1は例えばボールバルブVなどのバルブと接続されて使用される。ボールバルブVは、弁箱V1と、球状の弁体V2と、弁箱と弁体とを摺動可能にシールするシートリングV3と、弁箱内の流路と直交する方向から弁体に接続される弁棒V4とを有している。弁体V2は、弁棒V4が軸心周りに回されると、弁棒V4と共に回転して弁箱V1内の流路FPを開閉する。本実施の形態では、電動アクチュエータに接続されるバルブとしてボールバルブを使用した場合について示しているが、接続されるバルブはこれに限られない。電動アクチュエータは、例えば、バタフライバルブやセグメントボールバルブにも使用することができる。
【0015】
電動アクチュエータ1は、弁体V2が連結される主軸2と、主軸2を回転させる電動モータ3と、電動モータ3に制動力を与える制動部4と、主軸2の回転が目標停止角度の手前に設けられた所定の回転角度に到達したときに到達信号S2を出力する位置検出部5と、電動モータ3を制御する制御部6と、を有する。
【0016】
主軸2は、弁体V2と連結されている。本発明において、主軸2と弁体V2とは直接連結されていてもよく、また
図1に示すように弁体V2と連結されている弁棒V4などの他の部材を介して間接的に連結されていてもよい。主軸2と弁棒V4とは、互いの位置が相対的に移動することなく同軸上に固定することができる図示されないアダプタなどの部材で連結されている。弁体V2は、主軸2が回転することで弁棒V4と共に回転する。
【0017】
電動モータ3は、制御部6の指令によって回転と停止をすることができ、指示された回転速度で正方向及び逆方向に回転するように設けられている。電動モータ3は、例えば複数の平歯車が組み合わされた減速ギヤセットGを介して回転軸31が主軸2と連結され、高速で回転する回転軸31の回転速度は減速ギヤセットGによって減速されて主軸2に伝達される。一例として、減速比が1/300の減速ギヤセットGを使用した場合、回転軸31の回転速度は1/300に減速されて主軸2に伝達される。この場合、例えば電動モータ3の回転軸31の回転速度が4500rpmの場合は、主軸2の回転速度は15rpmとなる。
【0018】
制動部4は、電動モータ3に連結され、制御部6から入力される制動信号S3によって電動モータ3を制動する部分であり、例えば励磁作動型の電磁ブレーキなどである。
【0019】
位置検出部5は、主軸2の回転角度が目標停止角度の手前に設けられた所定の回転角度に到達したときに到達信号S2を制御部6に出力する部分である。本発明において、目標停止角度とは、最終的に停止させる目標とする主軸2の回転角度のことである。例えば弁体V2を全開又は全閉の位置で停止させる場合の目標停止角度は、弁体V2が全開又は全閉となるときの主軸2の回転角度である。位置検出部5には、主軸2が回転して所定の回転角度に到達したときに、主軸2に固定されたカムによって作動してON・OFFが切り替わるリミットスイッチや、エンコーダ、ロータリーポテンショメータなどを使用することができる。
【0020】
制御部6は、バルブの動作を制御する制御回路であり、記憶部61と、回転速度入力部62と、到達信号入力部63と、制動開始時間演算部64と、タイマ部65と、制動信号出力部66と、を有する。
【0021】
記憶部61には、制動部4に制動信号S3が出力されて電動モータ3が完全に停止したときの主軸2の回転角度と、電動モータ3の回転速度とに関わる制動情報が記憶されている。
【0022】
図1及び
図3を参照して、流路FPに対して主軸2及び弁体V2を回転角度θ=0°から回転角度θ=90°に回転させてボールバルブVを全開から全閉にする場合の制動情報の一例について具体的に説明する。ここで、回転角度θは、流路FPの中心線X1と弁体V2内の空洞の中心線X2との間の角度である。
図3のボールバルブVでは、回転角度θが0°のときが全開、θ=90°のときが全閉の状態である。θ=0°とθ=90°との間の所定の回転角度θaは、電動モータ3に停止信号S4が出力されると共に制動部4に制動信号S3が出力されるときの主軸2の回転角度である。所定の回転角度θaは、電動モータ3を使用可能な速度範囲内で最も高速で回転させた場合に、弁体V2を全閉位置又は全閉位置の手前の所定の位置で停止させることができる位置に決められている。所定の回転角度θaをこの位置にすることにより、電動モータ3の使用可能な速度範囲内のいずれの回転数で回転させても主軸2が目標停止角度を超えてしまうことがない。主軸2が所定の回転角度θaに到達することの検出は、主軸2の回転角度を位置検出部5で検出することで行われる。
【0023】
制動情報は、電動モータ3が制動されて完全に主軸2が停止する実際の回転角度θrと目標停止角度θt(バルブを全閉にする場合は90°)とのずれ量Δθと、電動モータ3の回転速度との関係を示す
図4及び
図5に示されるような情報であり、電動モータ3の回転速度毎に予め実測されたデータから求められた、ずれ量Δθを回転速度の関数で表した情報などである。
【0024】
回転速度入力部62は、電動モータ3が出力する回転速度信号S1が入力される。回転速度信号S1は、例えば電動モータ3が備えるホールセンサが出力するパルス信号である。電動モータ3は、回転軸31が一回転する毎に決まったパルス数(例えば、4パルスなど)のパルス信号が出力されるので、パルス信号の周波数と一回転当たりのパルス数から回転軸31の回転速度を求めることができる。
【0025】
到達信号入力部63は、位置検出部5からの到達信号S2が入力される。到達信号S2は、例えば前述したリミットスイッチからのON・OFF信号である。この場合、到達信号入力部63に入力された到達信号S2の状態を確認することで、主軸2が所定の回転角度θaに到達したことを判断することができる。
【0026】
制動開始時間演算部64は、制動開始時間を求める。本発明において、制御開始時間とは、到達信号S2によって主軸2が所定の回転角度θaに到達したと判断されてから、制動部4に制動信号S3の出力を開始するまでの時間のことである。本実施の形態で例示する形態の場合、制動開始時間tは次のようにして求めることができる。まず、到達信号S2が入力されると、電動モータ3の回転速度Rを参照して制動情報からずれ量Δθが求められ、次いで、求められたずれ量Δθと電動モータ3の回転速度Rから、その回転速度Rのときに主軸2がずれ量Δθを移動するために必要な時間が求められる。この時間が制動開始時間tである。電動アクチュエータ1は、到達信号S2が入力されてから制動開始時間tが経過したときに制動信号S3を制動部4に出力することで、主軸2を目標停止角度で停止させることができる。
【0027】
タイマ部65は、到達信号S2が入力されてから、制動開始時間演算部64で求められた制動開始時間tをカウントする。
【0028】
制動信号出力部66は、位置検出部5から到達信号S2が入力されてから、タイマ部65でカウントされた制動開始時間tが経過したときに制動部4に制動信号S3を出力する。
【0029】
第1の実施の形態の電動アクチュエータ1によれば、以上に説明した各部の動作により、制御部6から電動モータ3及び制動部4に電動モータ3の回転速度に応じて適切なタイミングで制動信号S3を出力して主軸2を精度よく目標停止角度で停止させることができるので、同様に弁体V2も精度よく目標とする停止位置に停止させることができる。また、弁体V2の開閉動作の途中で電動モータ3の回転速度を切り替えるような使用形態にも対応可能である。
【0030】
以上においては、一例として、目標停止角度θtが90°の場合、すなわちバルブにおいて弁体を全閉の位置で停止させる場合について説明しているが、本発明はこれに限られない。本発明の技術的思想には、弁体を全開の位置で停止させる場合や、任意の停止位置で停止させる場合も含まれる。
【0031】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態の電動アクチュエータを示す模式図である。
図6において、第1の実施の形態の電動アクチュエータと共通する部分は、同一の記号を付して説明を省略する。電動アクチュエータ1aは電動モータ3aを有する。電動モータ3aは、停止信号S4aが入力されると回転が停止されると共に自身を十分に制動できる機能を有する電動モータである。すなわち、電動アクチュエータ1aでは、第1の実施の形態における制動部4が省略されており、電動モータ3aが制動部4を兼ねている。また、停止信号S4aは、第1の実施の形態における制動信号S3を兼ねている。
【0032】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、電動アクチュエータの制御方法である。電動アクチュエータの制御方法の詳細については、上記において説明を終えているのでここでは説明を省略する。本発明の電動アクチュエータの制御方法は、発明の要旨を逸脱しない範囲で他の電動アクチュエータにも適用することができ、本発明の電動アクチュエータの制御方法が適用できる電動アクチュエータは、第1の実施の形態及び第2の実施の形態で説明された電動アクチェータに限られない。例えば、本発明の電動アクチュエータの制御方法は、電動モータの回転速度Rと制動開始時間tとの関係を制動情報として予め求めておき、その制動情報と電動モータの回転速度とに基づいて制動開始時間を求めるような電動アクチュエータにも適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1、1a:電動アクチュエータ
2:主軸
3、3a:電動モータ
31:回転軸
G:減速ギヤセット
4:制動部
5:位置検出部
6、6a:制御部
61:記憶部、62:回転速度入力部、63:到達信号入力部
64:制動開始時間演算部、65:タイマ部、66:制動信号出力部
V:ボールバルブ
V1:弁箱、V2:弁体、V3:シートリング、V4:弁棒
S1:回転速度信号、S2:到達信号、S3:制動信号、S4、S4a:停止信号
θ:回転角度、θa:所定の回転角度、θr:実際の回転角度、θt:目標回転角度
Δθ:ずれ量
R:回転速度
t:制動開始時間