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特許7196652インクセット、画像形成装置、及び画像形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】インクセット、画像形成装置、及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20221220BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221220BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20221220BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09D11/40
B41J2/01 501
B41J2/14 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019017937
(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公開番号】P2020105476
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2018041502
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018247129
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敬詞
(72)【発明者】
【氏名】畠山 拓
(72)【発明者】
【氏名】田所 薫
(72)【発明者】
【氏名】小谷松 翔
(72)【発明者】
【氏名】井上 智博
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】熊井 未央
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-338860(JP,A)
【文献】特開2017-226218(JP,A)
【文献】特開平11-070729(JP,A)
【文献】特開2014-124874(JP,A)
【文献】特開2011-051154(JP,A)
【文献】特開2011-025462(JP,A)
【文献】特開2011-213115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41J 2/01- 2/16
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラックインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、イエローインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドを有し、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルのノズル径が、20μm以上30μm以下であり、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有する画像形成装置に用いられるインクセットであって、
ブラックインクと、
イエローインクと、を有し、
前記ブラックインク及び前記イエローインクの静的表面張力が、25℃で、22mN/m以上32mN/m以下であり、
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記第1のノズル及び前記第2のノズルの前記円筒部の軸方向長さが30μm以上である請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
更に、前記ノズル板は、
前記第1のノズルに連通し、前記第1のノズルの径よりも大きい径を有する、第1の導入部と、
前記第2のノズルに連通し、前記第2のノズルの径よりも大きい径を有する、第2の導入部と、を有する請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きい請求項1から3のいずれかに記載のインクセット。
【請求項5】
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きく、前記静的表面張力Aと前記静的表面張力Bとの差(A-B)が1.0mN/m以下である請求項1から4のいずれかに記載のインクセット。
【請求項6】
前記ブラックインクと、前記イエローインクは、
アセチレングリコール化合物、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びグリセリンを含み、
前記ブラックインク中のアセチレングリコール化合物の含有量と、前記イエローインク中のアセチレングリコール化合物の含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と、前記イエローインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のグリセリンの含有量と、前記イエローインク中のグリセリンの含有量の差が、絶対値で2質量%以下である請求項1から5のいずれかに記載のインクセット。
【請求項7】
前記インクジェットヘッドが、ライン型のインクジェットヘッドである請求項1から6のいずれかに記載のインクセット。
【請求項8】
ブラックインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、イエローインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドと、
ブラックインクと、
イエローインクと、を有し、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルのノズル径が、20μm以上30μm以下であり、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有し、
前記ブラックインク及び前記イエローインクの静的表面張力が、25℃で、22mN/m以上32mN/m以下であり、
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
前記第1のノズル及び前記第2のノズルの前記円筒部の軸方向長さが30μm以上である請求項8に記載の画像形成装置。
【請求項10】
更に、前記ノズル板は、
前記第1のノズルに連通し、前記第1のノズルの径よりも大きい径を有する、第1の導入部と、
前記第2のノズルに連通し、前記第2のノズルの径よりも大きい径を有する、第2の導入部と、を有する請求項8又は9に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きい請求項8から10のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きく、前記静的表面張力Aと前記静的表面張力Bとの差(A-B)が1.0mN/m以下である請求項8から11のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項13】
前記ブラックインクと、前記イエローインクは、
アセチレングリコール化合物、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びグリセリンを含み、
前記ブラックインク中のアセチレングリコール化合物の含有量と、前記イエローインク中のアセチレングリコール化合物の含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と、前記イエローインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のグリセリンの含有量と、前記イエローインク中のグリセリンの含有量の差が、絶対値で2質量%以下である請求項8から12のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項14】
前記インクジェットヘッドが、ライン型のインクジェットヘッドである請求項8から13のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項15】
ブラックインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、イエローインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドを有し、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルのノズル径が、20μm以上30μm以下であり、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有する画像形成装置を用いる画像形成方法であって、
ブラックインクと、
イエローインクと、を有し、
前記ブラックインク及び前記イエローインクの静的表面張力が、25℃で、22mN/m以上32mN/m以下であり、
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とする画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、画像形成装置、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷物に関する消費者需要の多様化が進んでいる。そのため、フルカラーでのオンデマンド印刷が可能であるインクジェット方式を用いた記録方法が注目されている。フルカラー印刷する場合には1つの画像形成装置内に、異なるカラーのインクを吐出するノズルが必要になる。
【0003】
例えば、特許文献1には、異なる流体を吐出するノズル面に隣接して配置し、ノズル面を拭き取るときに、ノズルに供給されている流体に対して加圧することで異なる流体同士の混ざりを防ぐことができる流体吐出装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、流体としてのインクを加圧することで、ノズル面を拭き取るときにインクは流出し、拭き取り部材に付着するため、インクの消費量増加や拭き取り部材の汚れによるノズル面の汚染といった課題がある。
【0005】
また、インク滴の吐出方向のばらつきを防ぐために、ノズル板のインク吐出側に開口した円筒部の軸方向長さが長いノズル孔を備えたインクジェットヘッドを用いる画像形成装置が開発されているが、この場合、ヘッド吐出面のクリーニング時に、インクの混色が顕著になるという課題がある。
【0006】
本発明は、異なる明度のインクを吐出するノズル列が隣接し、円筒部の軸方向長さが長いノズルを備えたインクジェットヘッドを用いた場合においても、インク吐出特性に優れたインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明のインクセットは、ブラックインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、イエローインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドを有し、前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有する画像形成装置に用いられるインクセットであって、ブラックインクと、イエローインクと、を有し、前記ブラックインクの静的表面張力Aが、前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、異なる明度のインクを吐出するノズル列が隣接し、円筒部の軸方向長さが長いノズルを備えたインクジェットヘッドを用いた場合においても、インク吐出特性に優れたインクセットを提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、シリアル型の画像形成装置の一例を示す斜視説明図である。
図2図2は、メインタンクの一例を示す斜視説明図である。
図3図3は、ライン型の画像形成装置の一例を示す概略図である。
図4図4は、ライン型の画像形成装置の内部の一例を示す概略図である。
図5図5は、払拭手段の一例を示す概略図である。
図6図6は、インクジェットヘッドのノズル配列方向と直行する方向に沿う断面説明図である。
図7図7は、図6の要部拡大断面説明図である。
図8図8は、インクジェットヘッドのノズル配列方向に沿う要部断面説明図である。
図9図9は、画像形成装置に用いられるインクジェットヘッドのノズル面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(インクセット)
本発明のインクセットは、複数色のインクを有するインクセットであり、2種以上の異なるカラーのインクを含む。異なるカラーのインクとして、淡い色のインクと、濃い色のインクを含む。
本発明において、淡い色、濃い色とは、CIE L色座標の明度(L)の大小のことを言う。
画像形成装置で用いられるインクには、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の4色が好適に用いられるが、通常これらのインクの明度はブラック<シアン<マゼンタ<イエローの順で淡く(明るく)なることが知られている。
本発明においては、特に、淡い色としてイエローを、濃い色としてブラックを有するインクセットを用いた場合に効果を奏する。
また、これらの色以外に、白、メタリック、ライトシアン、ライトイエロー、ライトマゼンタ、レッド、オレンジ、グリーン、バイオレットなど、任意の色のインクを用いてもよい。任意の2色を選んで用いてよく、例えば、イエローとシアン、マゼンタとブラック、など様々な組み合わせを選択してよい。2色の濃淡の差(明度の差)が大きいほど混色の問題は大きくなるため、本発明の効果は大きくなる。
なお、本発明において明度とは、CIE L色座標のLのことを言い、同一条件で作成したベタ画像をX-Rite938 分光測色濃度計(X-Rite社製)を用いて測定することで、インクの明度(L)を決定する。
【0011】
本発明のインクセットは、濃い色のインクと、淡い色のインクと、を有し、前記濃い色のインクの静的表面張力Aが、前記淡い色のインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とする。この特徴により、濃い色インクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、淡い色のインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッド(以下、ヘッド、吐出ヘッドなどとも称する)を有し、前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有する画像形成装置において、前記ノズル板のインク吐出側のノズル面を払拭部材により払拭したときに、前記濃い色のインクが、前記淡い色を吐出する前記第2のノズルに混入し、混色やノズル詰まりなどのインク吐出特性が低下することを防ぐことができる。同様に淡い色が、濃い色に混色するという事象も起こり得るが、濃い色が、淡い色に対して混色した場合のインク吐出特性の低下が最も画像品質に関わる。
【0012】
ノズル面はインク吐出と共に汚れが蓄積するため、払拭部材によりノズル面を払拭するなどして清掃する必要がある。このとき、濃い色のインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、淡い色のインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、がノズル面に隣接して配置されている場合、ノズル板のノズル面を払拭したときにインクが混じる恐れがある。濃い色のインクが淡い色のインクに混ざったときに問題は顕著となる。また、前記第1のノズル及び前記第2のノズルの、吐出開口径と同径の円筒部の軸方向長さが25μm以上である場合には、毛細管現象により、より高く、異なるインクを吸い上げてしまうことで多量の混色が生じてしまう恐れがある。
このとき、空吐出などの回復動作により回復を行うが、より高く、異なるインクを吸い上げてしまった場合には、多量の混色が起こるため、複数回の回復動作が必要になることによる画像形成速度の低下や、回復不十分による混色のための画像不良が起こる。
【0013】
本発明のインクセットは、濃い色のインクと、淡い色のインクと、を有し、前記濃い色のインクの静的表面張力Aが、前記淡い色のインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことにより、上記の課題を解決することができる。
これは、静的表面張力の差を一定以上有することで混合しにくい性質があること、静的表面張力が高いほどノズルへの濡れ性が低くなり、払拭部材についたインクからノズルへ再転移しにくくなる性質があること、などにより効果が得られると考えられる。
なお、動的表面張力と静的表面張力は異なる特性を評価する物性値であり、明確に異なる。本発明においては、ノズルへの濡れ性に起因する問題であるため、静的表面張力が重要である。
【0014】
本発明において、前記インクセットにおける濃い色としてはブラックインク、前記インクセットにおける淡い色としてはイエローインクであることが好ましい。これは、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの中で最も濃い(明度が低い)ブラックが、最も淡い(明るい)イエローに混色したときに大きな問題となるため、この問題を解決するのに本発明が最適であるからである。
【0015】
本発明のインクセットにおいて、前記濃い色のインクの静的表面張力Aは、前記淡い色のインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きく、0.7mN/m以上大きいことが好ましい。前記濃い色のインクの静的表面張力Aは、前記淡い色のインクの静的表面張力Bよりも大きく、その差の上限値は、1.2mN/m以下が好ましく、1.0mN/m以下であることがより好ましい。
前記濃い色のインクの静的表面張力Aは、前記淡い色のインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことで、ノズル面を払拭部材で払拭したときのインク吐出特性低下を好適に防ぐことができる。また、異なるインクの静的表面張力の差が1.2mN/m以下であることで、同一ヘッドを用いた場合に、統一したシステムでの画像形成、吐出制御が可能である。
【0016】
<<インク>>
以下、インクに用いる有機溶剤、水、色材、樹脂、添加剤等について説明する。
【0017】
<<<有機溶剤>>>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、アルキレングリコールなどの多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類等のエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類などが挙げられる。
多価アルコール類の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオールなどが挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。
アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドなどが挙げられる。
アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノールなどが挙げられる。
その他の有機溶剤としては、例えば、プロピレンカーボネート、炭酸エチレンなどが挙げられる。
特に、グリセリンを用いることでインクの保湿性が向上し、ノズルつまりなどが抑制されることで、本発明においては高い効果が得られる。
【0018】
有機溶剤として、炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。特に、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いることでインクの濡れ性が適切になり、本発明においては高い効果が得られる。
【0019】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0020】
<<<水>>>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0021】
<<<色材>>>
色材としては、特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、顔料として、混晶を使用してもよい。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性のよいものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、又は銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
更に、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36などが挙げられる。
【0022】
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35などが挙げられる。
【0023】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0024】
顔料を分散してインクを得る方法としては、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法などが挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
分散剤として、竹本油脂株式会社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<<<顔料分散体>>>
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いるとよい。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度は20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
顔料分散体に対し、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0026】
<<<樹脂>>>
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、アクリル-シリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いてもよい。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0028】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0029】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、インク中の固形分の粒径の最大頻度が最大個数換算で20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0030】
<<<添加剤>>>
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0031】
<<<界面活性剤>>>
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましい。シリコーン系界面活性剤としては、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコール、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物、などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学株式会社などから入手できる。
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般式(S-1)式で表される、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【0033】
[一般式(S-1)]
【化1】
(但し、一般式(S-1)式中、m、n、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表し、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
【0034】
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(信越化学工業株式会社製)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(日本エマルジョン株式会社製)、FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、BYK-33、BYK-387(ビックケミー株式会社製)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(東芝シリコン株式会社製)などが挙げられる。
【0035】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16である化合物がより好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に一般式(F-1)及び一般式(F-2)で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【0036】
[一般式(F-1)]
【化2】
上記一般式(F-1)で表される化合物において、水溶性を付与するためにmは0~10の整数が好ましく、nは0~40の整数が好ましい。
【0037】
[一般式(F-2)]
2n+1-CHCH(OH)CH-O-(CHCHO)-Y
上記一般式(F-2)で表される化合物において、YはH、又はC2n+1でnは1~6の整数、又はCHCH(OH)CH-C2n+1でnは4~6の整数、又はC2p+1でpは1~19の整数である。aは4~14の整数である。
【0038】
上記のフッ素系界面活性剤としては市販品を使用してもよい。この市販品としては、例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(いずれも、DIC株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(いずれも、Chemours社製);FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれも、株式会社ネオス製)、ポリフォックスPF-136A,PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられる。これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する浸透性、濡れ性、均染性が著しく向上する点から、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のポリフォックスPF-151N及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0039】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール化合物などが挙げられる。アセチレングリコール化合物としては、アセチレングリコール及びアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。エーテル基とヒドロキシル基の両方を有することで、エーテル溶剤やアルコール溶剤との親和性がよく、インクとしての不具合を起こすことが少ない。また、本発明においては、アセチレングリコール及びアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物を用いることで、ノズル等へのインクの濡れ性が好適になる。
アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物としては、例えば、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールなどのアセチレングリコール系のジオールに、アルキレンオキサイドを付加した化合物が挙げられる。
上記のアセチレングリコール及びアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物は市販品を使用してもよい。この市販品としては、例えば、サーフィノール104シリーズ、サーフィノール440シリーズ、オルフィン(いずれも日信化学工業株式会社製)などが挙げられる。
本発明においては、インク中にアセチレングリコール化合物を含有することが好ましい。アセチレングリコール化合物を含むことで、インクのノズルへの濡れ性が好適となり、吐出回復性をより向上させることができる。
【0040】
インク中における界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、濡れ性、吐出安定性に優れ、画像品質が向上する点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0041】
本発明においては、特に、アセチレングリコール化合物、グリセリン及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いることでインクの保湿性やインクの濡れ性が向上し、ノズル詰まりやノズルへの濡れ性が適正となることで、本発明においては高い効果が得られる。
【0042】
また、本発明のインクセットにおける、ブラックインクと、イエローインクは、
アセチレングリコール化合物、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びグリセリンを含み、
前記ブラックインク中のアセチレングリコール化合物の含有量と、前記イエローインク中のアセチレングリコール化合物の含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と、前記イエローインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のグリセリンの含有量と、前記イエローインク中のグリセリンの含有量の差が、絶対値で2質量%以下であることが好ましい。
インクセットにおいて、濃い色のインクに含まれているアセチレングリコール化合物、グリセリン及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルのそれぞれの含有量と、淡い色のインクに含まれているアセチレングリコール化合物、グリセリン及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルのそれぞれの含有量と、の差が、絶対値で2質量%以下であることで、インクがノズル内で混合した場合でも、凝集等によるインク物性の変質が起こりにくくなり、回復性を維持することができる。特に、ノズルの吐出開口径と同径の円筒部の軸方向長さが25μm以上である場合には毛細管現象により多くのインクが吸い上げられ、多量のインクが混入することがあり、混合するインク間でのアセチレングリコール化合物や有機溶剤の含有量の差が大きいとインク吐出特性の悪化が顕著である。
なお、含有量の差とは、インク中に含まれる有機溶剤全体量同士での差ではなく、各種のアセチレングリコール化合物や有機溶剤同士での差を言う。
【0043】
<<<消泡剤>>>
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0044】
<<<防腐防黴剤>>>
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0045】
<<<防錆剤>>>
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0046】
<<<pH調整剤>>>
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0047】
本発明のインクセットにおける、インクの物性は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業株式会社製、RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの動的表面張力は、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
インクの静的表面張力は、ヘッドのノズル、ノズル面、ヘッド内の液室等への濡れ性の観点から、25℃で、22mN/m以上が好ましく、24mN/m以上がより好ましく、26mN/m以上が更に好ましく、28.0mN/m以上が特に好ましい。吐出特性の安定化の観点から、上限値としては、32mN/m以下が好ましく、30.5mN/m以下がより好ましい。
インクのpHは、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7以上12以下が好ましく、8以上11以下がより好ましい。
【0048】
インクの静的表面張力及び動的表面張力は、例えば、全自動表面張力計(CBVP-Z、協和界面科学株式会社製)やDynoTester(SITA社製)を用いて、25℃で測定することができる。測定は5回測定し、最大値及び最小値を除く計3回の平均値を測定値とした。
【0049】
インクの静的表面張力及び動的表面張力は、インクに含まれる水、有機溶剤、界面活性剤、その他添加剤などの種類や含有量により制御できる。
【0050】
本発明のインクセットの用途は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、印刷物、塗料、コーティング材、下地用などに応用することが可能である。更に、インクとして用いて2次元の文字や画像を形成するだけでなく、3次元の立体像(立体造形物)を形成するための立体造形用材料としても用いることができる。
立体造形物を造形するための立体造形装置は、公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、インクの収容手段、供給手段、吐出手段や乾燥手段等を備えるものを使用することができる。立体造形物には、インクを重ね塗りするなどして得られる立体造形物が含まれる。また、記録媒体等の基材上にインクを付与した構造体を加工してなる成形加工品も含まれる。成形加工品は、例えば、シート状、フィルム状に形成された記録物や構造体に対して、加熱延伸や打ち抜き加工等の成形加工を施したものであり、例えば、自動車、OA機器、電気・電子機器、カメラ等のメーターや操作部のパネルなど、表面を加飾後に成形する用途に好適に使用される。
【0051】
<画像形成装置>
本発明の画像形成装置は、濃い色のインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、淡い色のインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドと、濃い色のインクと、淡い色のインクと、を有し、前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有し、前記濃い色のインクの静的表面張力Aが、前記淡い色のインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きい。
【0052】
前記濃い色のインク及び前記淡い色のインクとしては、前記インクセットにおいて記載されたインクを用いることができ、前記濃い色のインクとしてブラックインク、前記淡い色のインクとしてイエローインクが好適に用いられる。
【0053】
本発明の画像形成装置は、インクジェット記録方式による各種画像形成装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
本発明において、画像形成装置とは、記録媒体に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置、当該装置を用いて画像形成を行う装置である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この画像形成装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、ヘッドのノズル面を払拭する払拭手段、吐出不良を回復する回復手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
画像形成装置は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有してもよい。加熱手段、乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
また、画像形成装置は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
また、画像形成装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この画像形成装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の画像形成装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
【0054】
シリアル型の画像形成装置の一例について図1及び図2を参照して説明する。図1は同装置の斜視説明図である。図2はメインタンクの斜視説明図である。記録装置の一例としての画像形成装置400は、シリアル型画像形成装置である。画像形成装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
一方、装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出可能となる。
吐出ヘッド434の構成については詳細を後述する。
この記録装置には、インクを吐出する部分だけでなく、洗浄装置、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
前処理装置、後処理装置の一態様として、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)などのインクの場合と同様に、前処理液や、後処理液を有する液体収容部と液体吐出ヘッドを追加し、前処理液や、後処理液をインクジェット記録方式で吐出する態様がある。
前処理装置、後処理装置の他の態様として、インクジェット記録方式以外の、例えば、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法による前処理装置、後処理装置を設ける態様がある。
【0055】
次に、ライン型の画像形成装置の一例について図3及び図4を参照して説明する。画像形成装置(以下装置とも呼ぶ)1000は、給紙トレイ902と、排紙トレイ903と、操作部900と、ADF901と、カートリッジホルダ910と、カートリッジ912と、後処理装置914とを備える。
【0056】
給紙トレイ902は、用紙P(記録媒体)を収納する。排紙トレイ903は、後述するインクジェットヘッドにより画像等が形成された用紙Pの排出先である。操作部900はタッチパネルや物理ボタン等を備え、ユーザーは操作部900を介して装置本体に印刷命令等を指示することができる。ADF901は、所謂スキャナー装置である。
【0057】
インクカートリッジ912は、インクジェットヘッドが吐出するインクを収容した液体収容容器であり、カートリッジホルダ910に装着される。カートリッジ912内のインクは、チューブ等を介してインクジェットヘッドまで送液される。後処理装置914は、用紙をステープラでまとめたり、用紙を折り曲げたりする装置である。
【0058】
図4は、画像形成装置本体の内部構成を図示した図である。装置本体は、搬送ローラ904と、搬送経路960と、インクジェットヘッド907と、排紙口908と、切替部932と、反転経路961と、排出経路962と、ヘッド上方経路964と、吐出経路963と、乾燥装置920とを備える。
【0059】
搬送ローラ904は、給紙トレイ902や搬送経路960上にある用紙Pを搬送方向へと搬送するためのローラである。搬送ローラ904は、モーター等の駆動源により回転駆動可能なものと、駆動力をもたずに軸受に嵌まり込んでいるだけものを複数組み合わせている(本実施形態では区別しない)。
【0060】
搬送経路は、給紙トレイ902上にある用紙Pを搬送するための経路であり、用紙Pがインクジェットヘッド907の下方を通過した後に、用紙Pが排出口908から排出されるように構成されている。インクジェットヘッド907は、搬送経路960上にある用紙Pに対してインクを吐出する部分であり、圧電素子を用いたピエゾ型インクジェットヘッドや、熱を用いたサーマル型インクジェットヘッドなどを用いることが出来る。また本実施形態では、インクジェットヘッドを用紙Pの搬送方向と交差する方向に複数並べた、所謂ライン型インクジェットヘッド(又は、ワンパス型インクジェットヘッド)を用いている。
【0061】
切替部932は、用紙Pの搬送方向を切り替えるための爪であり、インクが付与された用紙Pを後処理装置914へと案内したり、排出口908へと案内したり、後述する反転経路961へと案内する。
【0062】
反転経路961と、排出経路962と、ヘッド上方経路964と、吐出経路963は、先述した搬送経路960に含まれる経路である。反転経路961は、インクが付与された用紙Pの表裏を反転させるための経路である。
【0063】
用紙Pを反転させる時は、用紙Pの搬送方向においてインクジェットヘッド907の下流に位置する切替部932を動作させ、インクが付与された用紙Pを反転経路961に案内する。用紙Pが反転経路961の端部付近(排出口908の近傍)まで到達した後に、搬送ローラ904の駆動を逆転させる等して、用紙Pを上流側へと搬送する。
【0064】
その後、用紙Pはインクジェットヘッド907の上方にあるヘッド上方経路964を介して、吐出経路963へと搬送される。以上により、用紙Pの表裏を反転させることができる。
【0065】
用紙Pの片面又は両面へのインク付与が完了した後は、用紙Pは排出経路962へと案内される。排出経路962は、インクジェットヘッド907と排出口908とを結ぶ経路であり、用紙Pは排出口908から排紙トレイ903へと排出される。
【0066】
また本実施形態では、鉛直方向においてインクジェットヘッド907の上方に排紙トレイ903を配置した構成としているため、排出経路962は液体吐出ヘッド907の下流から排出口908にかけて、インクジェットヘッド907が位置する側に向けて湾曲するようにして(反るようにして)配設している。更に、反転経路961は、排出経路962と隣接するように(沿うように)して配設している。
【0067】
これにより、反転経路961及び排出経路962を、小さいスペースに収めることができる。
【0068】
また、乾燥装置920は用紙Pに付与したインクを乾燥させるための装置であり、ファンなどを回転させて空気を送って乾燥させる装置や、ヒーター等の加熱部により用紙Pを加熱して乾燥させる装置などが挙げられる。もちろん、それらの組み合わせでもよい。本実施形態では、乾燥装置920は、ファンを回転させることで空気を送る送風装置としている。
【0069】
ここで、乾燥装置920の配置は、乾燥装置920による空気の送風方向(又は、加熱部による加熱エネルギーの照射方向でもよい。ここではまとめて乾燥エネルギーの照射方向と呼称する。)上に、反転経路961の一部及び排出経路962の一部が配置されるようにしている。
【0070】
これにより、乾燥装置920による乾燥エネルギーを、反転経路961に位置する用紙P及び、排出経路962に位置する用紙Pの両方に照射することができ、より簡易な構成で用紙Pを乾燥させることができる。
【0071】
また本実施形態では、乾燥装置920による乾燥エネルギーの照射方向において、反転経路961は、排出経路962よりも乾燥装置920側に配置している。これにより、両面印刷時に反転経路961へと搬送された用紙Pをすぐに乾燥させることができ、より効率的な乾燥を行うことができる。
【0072】
なお、画像形成装置1000のように、搬送経路や反転経路途中のインクジェットヘッド近傍に乾燥装置を配置する場合、ヘッドのノズルのインク乾燥が顕著となる。このとき、他の色との混入が起こっている場合、物性の異なるインクが混じり合っている場合、特にインクの変質が顕著であり、ノズルのインク乾燥に伴い、顕著にインク吐出特性が悪化する。本発明のインクセットを用いることで、インク混入を防ぐことや回復性が向上することで、乾燥性を向上させるためにインクジェットヘッド近傍に乾燥装置を配置しても、上記のような課題が起こりにくいという効果を得られる。
【0073】
また、カット紙を用いた実施形態について説明を行ったが、連続紙や折れ目を有する連帳紙など、連続した記録媒体などを用いることができ、必要に応じて記録媒体を巻き取る手段などを備えてもよい。
【0074】
本発明の画像形成装置は、上記の各構成だけでなく、その他、画像部が形成される前の記録媒体に前処理液などにより前処理を施す前処理装置、画像部が形成された後の記録媒体に後処理液などにより後処理を施す後処理装置、ヘッドのノズル面を払拭する払拭手段、吐出不良を回復する回復手段、などを備えてもよい。
【0075】
上記吐出不良を回復する回復手段としては、例えば、ヘッドからのインクの空吐出や、減圧吸引によりインクを吸引する方法などが挙げられる。
【0076】
インクジェットヘッドを用いて画像形成する画像形成装置は、インクの吐出に伴ってノズル面にインク滴が付着するなどにより、ノズル面への汚れの付着が生じる。このとき、ノズル面を払拭手段を用いて払拭することで、ノズル面に付着した汚れを払拭することができる。払拭手段の払拭部材には、特に制限は無いが、例えば、ワイパーブレードや、不織布を用いることができる。また、払拭部材として不織布を用いる場合、払拭時に、払拭部材に対して洗浄液を付与することで、払拭の効率を向上することができる。
【0077】
上記払拭手段の一例として、不織布を用いた払拭手段を、図5を用いて説明する。
図5に示す払拭手段300は、インク吐出ヘッド310のノズルプレート301のインク吐出側のノズル面301aを洗浄する装置である。
払拭手段300は、払拭部材としての不織布303と、洗浄液付与手段としての洗浄液付与ノズル302と、押圧部材としての押圧ローラ305と、払拭処理後の不織布を巻き取る巻き取りローラ304とを有している。
洗浄液は、洗浄液供給チューブを介して洗浄液タンクから供給される。前記洗浄液供給チューブの途中に設けられたポンプを駆動することにより、洗浄液付与ノズル302から洗浄液が、払拭部材としての不織布303に、記録時間により応じた洗浄液の付与量にて付与される。なお、不織布303はロール状に巻回されている。
そして、図5に示すように、洗浄液が付与された不織布303が押圧部材としての押圧ローラ305によってインク吐出ヘッド310のノズル面301aに当接して押圧されることにより、ノズル面301aが清浄される。払拭処理が終了後、不織布303は巻取りローラ304により巻き取られる。
【0078】
洗浄液付与手段としての洗浄液付与ノズル302は、複数設けることができ、制御手段の制御に基づき、圧がかけられるようになっており、その圧を適宜変えることにより洗浄液の付与量を調整することができる。また、制御手段の制御に基づき、洗浄液を付与するノズル数を変えることにより洗浄液の付与量を調整することができる。更に、制御手段の制御に基づき、洗浄液を付与する回数を変えることにより洗浄液の付与量を調整することができる。
【0079】
インク吐出ヘッドのインク吐出側のノズル面を洗浄する方法としては、次のような実施態様が挙げられる。
前記洗浄液の付与の際には、洗浄液付与ノズルには圧がかけられるようになっており、その圧を変えることにより洗浄液の付与量を所望の量に調整することができる。また、複数の洗浄液付与ノズルの付与するノズル数を変えることにより洗浄液の付与量の調整が可能であり、更には洗浄液付与ノズルから洗浄液を付与する回数を変えることにより付与量を調整することができる。このように、洗浄液を付与した払拭部材を用いて、記録終了後のノズル面を払拭すればよい。
【0080】
上述した画像形成装置において、単色のインクを吐出するヘッドを複数配置することもできるが、装置の小型化の観点から、1つのヘッドから複数色のインクを吐出させてもよい。シリアル型の画像形成装置の場合は、ヘッドを有するキャリッジを走査することで記録媒体全体を印字することができるため、少ないヘッドで画像形成可能だが、ライン型の画像形成装置を使用する場合には、使用する記録媒体の幅に合わせて複数のヘッドが必要となる。したがって、ライン型の画像形成装置の場合、各色の吐出ヘッドを用意すると装置が大型化するため、複数色のインクを吐出可能なヘッドを用いることが好ましい。以下、本実施形態においては、複数のノズル列を有し、複数色のインクを吐出可能なヘッドを用いた画像形成装置について記述する。
【0081】
<<インクジェットヘッド>>
次に、本発明で用いられるインクジェットヘッドについて図6から図8を参照して説明する。図6はインクジェットヘッドのノズル配列方向と直交する方向に沿う断面説明図、図7図6の要部拡大断面説明図、図8はインクジェットヘッドのノズル配列方向に沿う要部断面説明図である。
【0082】
インクジェットヘッドは、ノズル板1と、流路板2と、壁面部材である振動板部材3と、圧力発生素子である圧電素子11と、保持基板50と、FPCなどの配線部材60と、共通液室部材70と、カバー部材45とを備えている。
【0083】
ここで、流路板2、振動板部材3及び圧電素子11で構成される部分がアクチュエータ基板20となる。
【0084】
ノズル板1には、液体を吐出する複数のノズル4が形成されている。ここでは、ノズル4を配列したノズル列を4列配置した構成としている。
【0085】
流路板2は、ノズル板1及び振動板部材3とともに、ノズル4が通じる個別液室6、個別液室6に通じる流体抵抗部7、流体抵抗部7が通じる液導入部8を形成している。
【0086】
この液導入部8は振動板部材3の開口9と保持基板50の流路となる開口部51を介して共通液室部材70で形成される共通液室10に通じている。
【0087】
振動板部材3は、個別液室6の壁面の一部を形成する変形可能な振動領域30を形成している。そして、この振動板部材3の振動領域30の個別液室6と反対側の面には、振動領域30と一体的に圧電素子11が設けられ、振動領域30と圧電素子11によって圧電アクチュエータ構成している。
【0088】
圧電素子11は、振動領域30側から下部電極13、圧電層(圧電体)12及び上部電極14を順次積層形成して構成している。この圧電素子11上には絶縁膜21が形成されている。
【0089】
複数の圧電素子11の共通電極となる下部電極13は、共通配線15を介して共通電極電源配線パターン28に接続されている。なお、下部電極13は、ノズル配列方向ですべての圧電素子11に跨って形成される1つの電極層である。
【0090】
また、圧電素子11の個別電極となる上部電極14は、個別配線16を介して駆動回路部である駆動IC(以下、「ドライバIC」という。)500に接続されている。個別配線16などは絶縁膜22にて被覆されている。
【0091】
ドライバIC500は、圧電素子列の列間の領域を覆うようにアクチュエータ基板20にフリップチップボンディングなどの工法により実装されている。
【0092】
アクチュエータ基板20に搭載されたドライバIC500は、駆動波形(駆動信号)が供給される個別電極電源配線パターン29と接続されている。
【0093】
配線部材60に設けられた配線が、ドライバIC500と電気的に接続されており、配線部材60の他端側は装置本体側の制御部に接続される。
【0094】
そして、アクチュエータ基板20の振動板部材3側には、アクチュエータ基板20上の圧電素子11を覆っている保持基板50が接着剤で接合されている。
【0095】
保持基板50には、共通液室10と個別液室6側を通じる流路の一部となる開口部51と、圧電素子11を収容する凹部52と、ドライバIC500を収容する開口部53が設けられている。開口部51は、ノズル配列方向に亘って延びるスリット状の貫通穴であり、ここでは共通液室10の一部を構成している。
【0096】
この保持基板50は、アクチュエータ基板20と共通液室部材70との間に介在し、共通液室10の壁面の一部を形成している。
【0097】
共通液室部材70は、各個別液室6に液体を供給する共通液室10を形成する。なお、共通液室10は4つのノズル列に対応してそれぞれ設けられ、外部から所要の色の液体が供給される。
【0098】
共通液室部材70には、ダンパ部材90が接合されている。ダンパ部材90は、共通液室10の一部の壁面を形成する変形可能なダンパ91と、ダンパ91を補強するダンパプレート92とを有している。
【0099】
共通液室部材70はノズル板1の外周部及び保持基板50と接着剤で接合され、アクチュエータ基板20及び保持基板50を収容して、このヘッドのフレームを構成している。
【0100】
そして、ノズル板1の周縁部及び共通液室部材70の外周面の一部を覆うカバー部材45を設けている。
【0101】
この液体吐出ヘッドにおいては、ドライバIC500から圧電素子11の上部電極14と下部電極13の間に電圧を与えることで、圧電層12が電極積層方向、すなわち電界方向に伸張し、振動領域30と平行な方向に収縮する。これにより、振動領域30の下部電極13側に引っ張り応力が発生し、振動領域30が個別液室6側に撓み、内部の液体を加圧することで、ノズル4から液体が吐出される。
【0102】
ノズル板1には、インクを吐出するためのノズル4が形成されており、円筒形状を有している。ノズル4は、ノズル4にインクを導入する、ノズル4と連通した導入部231を有している。なお、図7及び図8は1つのノズルの概略図であり、第1のノズルと第2のノズルは同様の形状を有している。
【0103】
図7及び図8のように、ノズル4と導入部231という2段の垂直孔を備える構造とすることで、インク液滴の吐出方向をノズル4の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮することができる。
【0104】
ノズル4のノズル径250は、特に制限は無いが、吐出特性の観点から、20μm以上30μm以下あることが好ましく、20μm以上25μm以下であることがより好ましい。吐出特性とは、吐出するインクのばらつき(インク滴の大きさ、インクの吐出方向のばらつきなど)のことを言う。
【0105】
ノズル4は、吐出開口径と同径の円筒部240を有する。吐出開口径と同径の円筒部240を有するとは、換言すると、ノズル4が円筒形状に形成されていることを言い、ノズル4の中心軸は、吐出方向と平行な方向となる。なお、円筒部240は厳密に平行である必要は無いが、平行に準ずる対向した辺を有する。
なお、同径とは、円筒部全体にわたって厳密に同径状を有する必要はない。これは、製造時に微小な歪みが生じる可能性があるためであるが、吐出特性を向上するためには、吐出開口径と円筒部の径との差が5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
また、本発明においては、ノズル4の円筒部240は、長さが25μm以上であり、30μm以上が好ましい。円筒部240の長さが25μm以上であることで、インクの吐出曲がりを大きく抑制することができ、より高品質での画像形成が可能となる。
【0106】
しかしながら、円筒部240の長さが25μm以上である場合には、ノズル面210側の開口部から異なるインクが混入した場合、毛細管現象が強く働くことにより、よりノズル(ヘッド)内部へと混入が起こる。このとき、第2のノズル内や、更に内部の導入部231や個別液室6にまでインクの混入が起こる恐れがある。濃い色のインク(ブラックインク)が淡い色のインク(イエローインク)のノズルに混入してしまった場合、インクの色味が大きく変化し、画像品質の低下が生じる。
本発明のインクセットを用いることで、この問題を解決することができる。
【0107】
なお、ノズル4がテーパー状である場合には、毛細管現象が強く起こらないため、大きな問題にならない。ノズル孔4の吐出開口径と同径の円筒部240の軸方向長さの長さが、25μmに満たない場合には、毛細管現象による異なるインク混入による画像不良の課題は起こらず、ノズル面クリーニング後の吐出安定性や回復性に優れるが、吐出曲がり抑制の面で劣る。
【0108】
また、円筒部の軸方向長さの上限は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることが好ましい。この範囲に有ると、小さいインクジェットヘッドのノズル径からも、大きな圧力をかけることなくインクを吐出することが可能となる。
【0109】
導入部231は、ノズル4と連通し、ノズル4のノズル径250よりも大きい導入部の径251を有する。導入部の径251は、特に制限は無いが、ノズル径250よりも大きいことで、ノズル4へインクを送る圧力が少なくて済むため、好ましい。
導入部231の形状は、テーパー状であっても、円筒状であってもよいが、吐出曲がりが抑制されるため、円筒状であることが好ましい。
【0110】
ノズル板の材質は、特に制限は無いが、例えば、金属やシリコン材料などが用いられる。
【0111】
次に、図9を用いてノズル板1のインク吐出面(以下、ノズル面とも呼ぶ)について説明する。図9はノズル板1を、インク吐出面側から見たときの概略図である。なお、図6はノズル列を4列有するインクジェットヘッドの概略図であるが、図9では模式的にノズル列が2列であるノズル面について図示する。なお、ノズル列の数については適宜調整可能であり、制限は無い。
【0112】
ノズル面100は、複数のノズルが形成されたノズル列を複数有する。図9では、円筒形状の第1のノズル120が複数配置された第1のノズル列110と、円筒形状の第2のノズル121が複数配置された第2のノズル列111と、の2つのノズル列が隣接して形成されたノズル面を記載しているが、形成するノズル列の数に制限は無く、3つであっても、4つであってもよい。また、前記第1のノズル列110と前記第2のノズル列111は、それぞれの配列の軸方向が、払拭部材の払拭方向に交わる方向に配置されていればよく、必ずしも払拭部材と払拭方向と直交している必要は無い。なお、第1のノズル列110と第2のノズル列111は図示した並びと、互いに逆に配置してもよい。
【0113】
第1のノズル120は濃い色のインクを吐出可能であり、第2のノズル121は淡い色のインクを吐出可能である。以下、濃い色のインクとしてブラックインク、淡い色のインクとしてイエローインクを用いた場合について説明する。
【0114】
画像形成を行うことで、ノズル面にインク汚れが付着する。第1のノズル列110付近にはブラックインクが、第2のノズル列111付近にはイエローインクが付着する。ノズル面に付着したインクを払拭部材により払拭することで、吐出特性を維持することができる。
【0115】
第2のノズル列111側から第1のノズル列110へと払拭する場合、払拭部材にイエローインクが付着した後に第1のノズル120を払拭することになるが、このとき、淡い色であるイエローインクが濃い色であるブラックインクに混入する恐れが生じるが、混入しても、ブラックインクの色味に大きな変化は生じず、画像不良は問題とならない。
一方で、第1のノズル列110側から第2のノズル列111へと払拭する場合、払拭部材にブラックインクが付着した後に第2のノズル121を払拭することになるが、このとき、濃い色であるブラックインクが淡い色であるイエローインクに混入する恐れが生じ、混入した場合、イエローインクの色味に大きな変化が生じるため、画像不良が生じる。
また、第2のノズル列111側から第1のノズル列110へと払拭する場合であっても、既に払拭動作によって、払拭部材にブラックインクが付着している場合には、イエローインクを吐出する第2のノズル121へのブラックインクの混入の恐れが生じ、画像不良が生じる恐れが生じる。
【0116】
ノズル面100の払拭によってノズル内で色が混色した場合、空吐出や吸引などの回復動作による回復が行われるため、通常は混色による画像不良は改善される。
しかしながら、第1のノズル120及び第2のノズル121が、吐出開口径と同径の円筒部240の軸方向長さが25μm以上である場合、画像形成に用いるインクセットのインクの静的表面張力が最適化されていない場合には、毛細管現象によりインクがノズル内の奥(高く)まで混入してしまうことにより回復動作で回復できなくなることや、通常よりも回復動作を多くする必要が生じ、インクの廃棄量増加や、画質不良が起こる。
この問題は、本発明のインクセットを用いることで解決することができる。
【0117】
<画像形成方法>
続いて、画像形成方法の一例として、画像形成装置1000を用いた画像形成方法について説明する。この画像形成方法は、インク付与工程を含み、更に、乾燥工程と、払拭工程などを含んでいてもよい。
【0118】
インク付与工程は、給紙された記録媒体Pに対して、インク付与手段(インクジェットヘッド)907によりインクを付与して画像を形成する工程である。形成される画像は、文字、図形などの有意なものに限定されず、例えば、幾何学模様などのパターン、3次元像なども含まれる。
前記インク付与手段には、インクジェットヘッドが用いられ、上述した、図6図8を用いて説明したインクジェットヘッドを用いる。具体的に、前記インクジェットヘッドは、濃い色のインク(ブラックインク)を吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、淡い色のインク(イエローインク)を吐出する第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有し、前記第1のノズル及び前記第2のノズルの吐出開口径と同径の円筒部の軸方向長さが25μm以上である。その他のインクジェットヘッドの構成については、画像形成装置で上述した構成と同様である。
また、本発明の画像形成方法で用いられるインクは、上述したインクセットにおけるインクを用いることができ、濃い色のインク(ブラックインク)と、淡い色のインク(イエローインク)を有し、前記濃い色のインク(ブラックインク)の静的表面張力Aは、前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きい。その他のインクの構成については、インクセットで上述した構成と同様である。
【0119】
乾燥工程は、乾燥手段920により、インクが付与された記録媒体Pに送風して乾燥させる工程である。記録媒体Pに付与したインクを乾燥させる方法としては、特に制限はないが、インクが付与された記録媒体に温風などの加熱された流体を接触させる方法、インクが付与された記録媒体と加熱された物体とを接触させ伝熱により加熱する方法、赤外線や遠赤外線といったエネルギー線によりインクが付与された記録媒体を加熱する方法などがある。
【0120】
払拭工程は、図5の払拭手段300により、インクジェットヘッドのインク吐出面側のノズル面を払拭することで、ノズル面に付着した汚れを払拭する工程である。払拭手段としては、特に制限は無いが、ワイパーブレードや不織布などが用いられ、洗浄液を付与することで効率的に払拭することができるため、不織布を用いることが好ましい。また、不織布での払拭と、ワイパーブレードによる払拭を併用することで、よりノズル面を効果的に洗浄することができる。
【0121】
<記録媒体>
記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙等が挙げられる。
記録媒体としては、一般的な記録媒体として用いられるものに限られず、壁紙、床材、タイル等の建材、Tシャツなど衣料用等の布、テキスタイル、皮革等を適宜使用することができる。また、記録媒体を搬送する経路の構成を調整することにより、セラミックスやガラス、金属などを使用することもできる。
【0122】
<記録物>
本発明のインク記録物は、記録媒体上に、本発明のインクセットを用いて形成された画像を有してなる。
インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により記録して記録物とすることができる。
【0123】
また、本発明の用語における、画像形成、記録、印字、印刷等は、いずれも同義語とする。
記録媒体、メディア、被印刷物は、いずれも同義語とする。
【実施例
【0124】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0125】
(ブラック顔料分散体の調製例)
BET比表面積が150m/g、平均一次粒径が20nm、pHが4.0、DBP吸油量が620g/100gのカーボンブラック(NIPEX160、degussa社製)160質量部、ポリオキシエチレン(POE)(m=40)-β-ナフチルエーテル(竹本油脂株式会社製)400質量部、及びイオン交換水440質量部をプレミックスし、混合スラリーを作製した。ディスクタイプのメディアミルDMR型(アシザワ・ファインテック社製)により、直径が0.05mmのジルコニアビーズ(充填率55%)を用いて、周速10m/s、液温10℃で3分間混合スラリーを循環分散させた。
次に、遠心分離機(Model-7700、久保田商事社製)で粗大粒子を遠心分離し、顔料濃度が16質量%のブラック顔料分散体を得た。
【0126】
(イエロー顔料分散体の調製例)
カーボンブラックをピグメントイエロー74のファーストイエロー531(大日精化株式会社製)に変更した以外は、ブラック顔料分散体と同様にして、顔料濃度が16質量%のイエロー顔料分散体を得た。
【0127】
(ブラックインクの調製例1)
-ブラックインク1の調製-
下記処方の材料を合計で100質量部となるように混合し、1時間撹拌した後、平均孔径が1.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、ブラックインク1を得た。
-ブラックインク1の処方-
・ブラック顔料分散体・・・40.0質量部(固形分換算;6.4質量部)
・グリセリン(東京化成工業株式会社製)・・・15.0質量部
・2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)・・・5.0質量部
・1,2-ヘキサンジオール(東京化成工業株式会社製)・・・3.0質量部
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業株式会社製)・・・2.0質量部
・アセチレングリコール化合物としてのサーフィノール440(日信化学工業株式会社製)・・・1.7質量部
・スーパーフレックス420NS(第一工業製薬株式会社製;ウレタン樹脂)・・・1.5質量部(固形分)
・イオン交換水・・・残量
【0128】
(ブラックインクの調製例2~13、イエローインクの調製例1~9)
<ブラックインク2~13の調製、イエローインク1~9の調製>
ブラックインクの調製例1において、処方を下記表1から表3に示すように変更した以外は、ブラックインクの調製例1と同様にして、ブラックインク2~13、及びイエローインク1~9を得た。
【0129】
各インクの静的表面張力は、全自動表面張力計(CBVP-Z、協和界面科学株式会社製)を用いて、25℃の条件で5回測定し、最大値及び最小値を除く計3回の平均値を測定値とした。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【0133】
(実施例1~16、及び比較例1~4)
次に、表4に示すブラックインクとイエローインクを組み合わせて、インクセットとした。各インクセットについて、以下のようにして評価を行い、結果を表4に示した。
【0134】
<インク吐出特性-1:吐出安定性評価>
(1)30μmの軸方向長さである円筒部を有する図7に示すノズルを有する、図9に示すノズル面を具備するインクジェットヘッドを備えた図3及び図4に示すラインヘッド式のインクジェットプリンタにより、25℃で、表4に記載した各インクセットを用いて、記録媒体(A4サイズ、MyPaper、株式会社リコー製)に対して1200×1200dpiでベタ画像を10枚印刷した。
(2)インクジェットヘッドのノズル面を、図5に示す払拭装置を用いて、ノズル面のブラックインクを吐出するノズル列側からイエローインクを吐出するノズル列側方向に、不織布(クリーンワイパー、アンティコンGOLD、ポリエステル長繊維、原田産業株式会社製)で払拭した。
次に、再度、同じ条件でベタ画像を1枚印刷し、下記基準で吐出安定性を評価した。吐出乱れとは、不吐出を除く、吐出曲がりなどの不良のことである。なお、B以上が実用上問題のないレベルであり、Aが好ましい。
[評価基準]
A:吐出乱れなし
B:3箇所以下の吐出乱れあり
C:3箇所を超える吐出乱れあり
【0135】
<インク吐出特性-2:回復性評価>
(1)30μmの軸方向長さである円筒部を有する図7に示すノズルを有する、図9に示すノズル面を具備するインクジェットヘッドを備えた図3及び図4に示すラインヘッド式のインクジェットプリンタにより、25℃で、表4に記載した各インクセットを用いて、記録媒体(A4サイズ、MyPaper、株式会社リコー製)に対して1200×1200dpiでベタ画像を10枚印刷し、10枚目の画像濃度を分光濃度計(X-Rite939、エックスライト株式会社製)用いて測定し、基準濃度とした。
(2)インクジェットヘッドのノズル面を、図5に示す払拭装置を用いて、ノズル面のブラックインクを吐出するノズル列側からイエローインクを吐出するノズル列側方向に、不織布(クリーンワイパー、アンティコンGOLD、ポリエステル長繊維、原田産業株式会社製)で払拭した。
(3)空吐出動作(廃棄インク総量;10,000pl)を1回行った後、同じ条件でベタ画像を1枚印刷し、画像濃度を分光濃度計(X-Rite939、エックスライト株式会社製)用いて測定して測定濃度とし、基準濃度と比較した。
上記(1)~(3)の工程を、(3)における空吐出動作の回数を1回ずつ増やして繰り返し、濃度差が0.05以下となるまでに必要な空吐出動作の回数を求め、下記基準で回復性を評価した。C以上が実用上問題のないレベルであるが、B以上が本発明効果を得られる範囲であり、Aが好ましい。
[評価基準]
A:1回の空吐出で回復
B:2回の空吐出で回復
C:3回以上の空吐出で回復
D:回復しない
【0136】
なお、実施例16及び比較例2についてはノズルの吐出開口径と同径の円筒部の軸方向長さが25μmのインクジェットヘッドを、比較例4についてはノズルの吐出開口径と同径の円筒部の軸方向長さが20μmのインクジェットヘッドを用いて、吐出安定性及び回復性の評価を行った。
【0137】
【表4】
【0138】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> ブラックインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、イエローインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドを有し、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有する画像形成装置に用いられるインクセットであって、
ブラックインクと、
イエローインクと、を有し、
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とするインクセットである。
<2> 前記第1のノズル及び前記第2のノズルの前記円筒部の軸方向長さが30μm以上である前記<1>に記載のインクセットである。
<3> 更に、前記ノズル板は、
前記第1のノズルに連通し、前記第1のノズルの径よりも大きい径を有する、第1の導入部と、
前記第2のノズルに連通し、前記第2のノズルの径よりも大きい径を有する、第2の導入部と、を有する前記<1>又は<2>に記載のインクセットである。
<4> 前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きい前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクセットである。
<5> 前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きく、前記静的表面張力Aと前記静的表面張力Bとの差(A-B)が1.0mN/m以下である前記<1>から<4>のいずれかに記載のインクセットである。
<6> 前記ブラックインクと、前記イエローインクは、
アセチレングリコール化合物、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びグリセリンを含み、
前記ブラックインク中のアセチレングリコール化合物の含有量と、前記イエローインク中のアセチレングリコール化合物の含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と、前記イエローインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のグリセリンの含有量と、前記イエローインク中のグリセリンの含有量の差が、絶対値で2質量%以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載のインクセットである。
<7> 前記インクジェットヘッドが、ライン型のインクジェットヘッドである前記<1>から<6>のいずれかに記載のインクセットである。
<8> ブラックインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、イエローインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドと、
ブラックインクと、
イエローインクと、を有し、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有し、
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とする画像形成装置である。
<9> 前記第1のノズル及び前記第2のノズルの前記円筒部の軸方向長さが30μm以上である前記<8>に記載の画像形成装置である。
<10> 更に、前記ノズル板は、
前記第1のノズルに連通し、前記第1のノズルの径よりも大きい径を有する、第1の導入部と、
前記第2のノズルに連通し、前記第2のノズルの径よりも大きい径を有する、第2の導入部と、を有する前記<8>又は<9>に記載の画像形成装置である。
<11> 前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きい前記<8>から<10>のいずれかに記載の画像形成装置である。
<12> 前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.7mN/m以上大きく、前記静的表面張力Aと前記静的表面張力Bとの差(A-B)が1.0mN/m以下である前記<8>から<11>のいずれかに記載の画像形成装置である。
<13> 前記ブラックインクと、前記イエローインクは、
アセチレングリコール化合物、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びグリセリンを含み、
前記ブラックインク中のアセチレングリコール化合物の含有量と、前記イエローインク中のアセチレングリコール化合物の含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と、前記イエローインク中のトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の差が、絶対値で2質量%以下であり、
前記ブラックインク中のグリセリンの含有量と、前記イエローインク中のグリセリンの含有量の差が、絶対値で2質量%以下である前記<8>から<12>のいずれかに記載の画像形成装置である。
<14> 前記インクジェットヘッドが、ライン型のインクジェットヘッドである前記<8>から<13>のいずれかに記載の画像形成装置である。
<15> ブラックインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、イエローインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドを有し、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有する画像形成装置を用いる画像形成方法であって、
ブラックインクと、
イエローインクと、を有し、
前記ブラックインクの静的表面張力Aが、
前記イエローインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とする画像形成方法である。
<16> 濃い色のインクを吐出する円筒形状の第1のノズルが複数配置された第1のノズル列と、淡い色のインクを吐出する円筒形状の第2のノズルが複数配置された第2のノズル列と、が隣接して配置されたノズル板を有するインクジェットヘッドを有し、
前記第1のノズル及び前記第2のノズルが、インク吐出面側に開口した、軸方向長さが25μm以上である円筒部を有する画像形成装置に用いられるインクセットであって、
濃い色のインクと、
淡い色のインクと、を有し、
前記濃い色のインクの静的表面張力Aが、
前記淡い色のインクの静的表面張力Bよりも0.6mN/m以上大きいことを特徴とするインクセットである。
【0139】
前記<1>から<7>及び<16>のいずれかに記載のインクセット、前記<8>から<14>のいずれかに記載の画像形成装置、並びに前記<15>に記載の画像形成方法によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0140】
【文献】特開2009-202370号公報
【符号の説明】
【0141】
1 ノズル板
4 ノズル
100 ノズル面
110 第1のノズル列
111 第2のノズル列
120 第1のノズル
121 第2のノズル
231 導入部
240 円筒部
250 ノズルの径
251 導入部の径
400 画像形成装置
401 画像形成装置の外装
401c 装置本体のカバー
404 カートリッジホルダ
410 メインタンク
410k、410c、410m、410y ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク
411 インク収容部
413 インク排出口
414 収容容器ケース
420 機構部
434 吐出ヘッド
436 供給チューブ
1000 画像形成装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9