(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】シリコン基板表面の金属不純物評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20221220BHJP
G01N 23/2202 20180101ALI20221220BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N23/2202
(21)【出願番号】P 2019224209
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】荒木 健司
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-229864(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0661239(KR,B1)
【文献】特開2019-201118(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0646525(KR,B1)
【文献】特開平03-208899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01N 1/00 - G01N 1/44
H01L 21/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板表面の金属不純物を評価する方法であって、
10.0~15.0質量%のフッ化水素と、19.0~23.0質量%の過酸化水素と、1.5~3.2質量%の塩化水素を含む酸混合溶液から発生する蒸気を、シリコン基板表面に15~30分間接触させて前記シリコン基板表面の気相分解を行い、
前記気相分解後の前記シリコン基板表面の金属不純物を全反射蛍光X線分析法により評価することを特徴とするシリコン基板表面の金属不純物評価方法。
【請求項2】
前記気相分解は、上部に開口を有する容器内に前記酸混合溶液を注入し、前記開口を覆うように前記シリコン基板を設置して、前記金属不純物評価を行う前記シリコン基板表面と前記容器内の前記酸混合溶液との間に密閉空間を形成し、前記酸混合溶液から発生する蒸気により、前記密閉空間に面した前記シリコン基板表面を気相分解処理することを特徴とする請求項1に記載のシリコン基板表面の金属不純物評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板表面の金属不純物分析方法に関し、特に全反射蛍光X線分析に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程では、ウェーハ清浄度管理が重要であり、ウェーハ表面不純物分析方法としてWSA(Wafer Surface Analysis)が行われている。WSAでは、ウェーハ表面に酸蒸気を晒し、ウェーハ表面自然酸化膜を溶解後、酸溶液でウェーハ表面を走査することで、自然酸化膜を含むウェーハ表面の不純物を回収し、回収した酸溶液を誘導結合プラズマ質量分析装置等で測定している。この方法は、ウェーハ表面不純物を回収・濃縮することで高感度分析が行えることを特徴とする反面、ウェーハ面内の不純物の位置情報は消失してしまう欠点がある。
【0003】
一方、簡便にウェーハ表面不純物を分析できる方法として、全反射蛍光X線分析法(Total refrection X-Ray Fluorescence analysis。以下、「TXRF法」という)がある。TXRF法は、全反射条件で入射したX線によりウェーハ表面不純物を励起し、発生する蛍光X線を検出することで、ウェーハ表面の不純物を高感度に検出できる方法である。
図10にTXRF法の原理図を示す。TXRF法は、非破壊で、かつ不純物のウェーハ面内分布を分析することが可能で、局所的な汚染の検出には威力を発揮する。一方、WSA等の化学分析に比べ、検出感度が劣るという問題もある。
【0004】
そこで、近年は、WSAとTXRF法を組み合わせ、不純物回収を行った酸溶液をウェーハ上で乾燥させ、その乾燥痕上でTXRF分析を行うことで、TXRF法の高感度化することも行われているが、TXRF法の利点であった不純物の位置情報が失われる欠点がある。このため、ウェーハ表面を気相分解した後に乾燥することで、ウェーハ表面の不純物をパーティクル状に凝集させ(
図11)、その状態でTXRF分析を行うことで、ウェーハ面内不純物の位置情報を保ったまま、検出強度が増加する効果を利用した方法も行われている(特許文献1)。
図12に、気相分解-TXRF法のフロー図を示す。
【0005】
TXRF法は、X線を臨界角以下の極浅い角度で入射させると、全反射が起こることを利用する分析方法であり、ウェーハ表面の不純物のみを励起することができる。このため、入射X線の散乱や基板からの蛍光X線によるバックグラウンド上昇の影響を抑えることが可能な高感度分析法である。また、TXRF法の更なる高感度化において、ウェーハ面内不純物の位置情報を維持したまま高感度化を行うには、特許文献1に記載されているように、ウェーハ表面を気相分解後に乾燥することで、ウェーハ表面不純物をパーティクル状に凝集させ、パーティクルからの散乱X線量を増加させることが効果的である。しかし、特許文献1には、気相分解におけるガスはHFのみが規定されており、また、気相分解時間と気相分解前後におけるTXRFのX線強度の関係について示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ウェーハ表面不純物のパーティクル状への形態変化における気相分解条件は、一般的にフッ化水素酸(HF水溶液)が用いられているものの、濃度や気相分解時間の最適値までは言及されていなかった。このため適切な気相分解が行われず、パーティクル状への形態変化が不十分となり、この結果、ばらつきの増大につながることが問題となることがわかった。特に、シリコンよりイオン化傾向の小さいCuのような元素はその傾向が顕著である。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、気相分解によりパーティクル状へ形態を変化させるための適切な気相分解条件を提供することにより、シリコン基板表面の金属不純物の位置情報を保ったまま、高感度でTXRF分析を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、シリコン基板表面の金属不純物を評価する方法であって、10.0~15.0質量%のフッ化水素と、19.0~23.0質量%の過酸化水素と、1.5~3.2質量%の塩化水素を含む酸混合溶液から発生する蒸気を、シリコン基板表面に15~30分間接触させて前記シリコン基板表面の気相分解を行い、前記気相分解後の前記シリコン基板表面の金属不純物を全反射蛍光X線分析法により評価するシリコン基板表面の金属不純物評価方法を提供する。
【0010】
このようなシリコン基板表面の金属不純物評価方法によれば、位置精度を保ったまま、高感度のTXRF分析を行うことができる。
【0011】
このとき、前記気相分解は、上部に開口を有する容器内に前記酸混合溶液を注入し、前記開口を覆うように前記シリコン基板を設置して、前記金属不純物評価を行う前記シリコン基板表面と前記容器内の前記酸混合溶液との間に密閉空間を形成し、前記酸混合溶液から発生する蒸気により、前記密閉空間に面した前記シリコン基板表面を気相分解処理するシリコン基板表面の金属不純物評価方法とすることができる。
【0012】
これにより、より簡便に、位置精度がより高い、高感度のTXRF分析を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のシリコン基板表面の金属不純物評価方法によれば、位置精度の高い、高感度のTXRF分析を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る金属不純物評価方法における、気相分解処理の一例を示す。
【
図2】気相分解時間と気相分解前後のCr、Fe、Ni、CuのX線強度増大比(Ratio)の関係を示す。
【
図3】気相分解時間とTXRF検出下限値の関係を示す。
【
図4】比較例1及び比較例2における気相分解前後のCr、Fe、Ni、CuのX線強度増大比(Ratio)を示す。
【
図5】比較例1及び比較例2における気相分解前のTXRF検出下限値を示す。
【
図6】比較例1及び比較例2における気相分解後のTXRF検出下限値を示す。
【
図7】比較例1~9、実施例1~3における気相分解前後のX線強度増大比(Ratio)を示す。
【
図8】比較例1~9、実施例1~3における気相分解前の各分析対象元素の検出下限値を示す。
【
図9】比較例1~9、実施例1~3における気相分解後の各分析対象元素の検出下限値を示す。
【
図11】気相分解~乾燥過程におけるパーティクルへの形態変化の説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
上述のように、シリコン基板表面の金属不純物の位置情報を保ったまま、高感度でTXRF分析を行う方法が求められていた。
【0017】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、フッ化水素酸と過酸化水素水と塩酸とを含む酸混合溶液が、気相分解時のTXRF分析に適したパーティクル状への形態変化に影響を及ぼすことを見出した。さらに、酸混合溶液中におけるフッ化水素(HF)と、過酸化水素(H2O2)と、塩化水素(HCl)の濃度を特定の濃度とし、かつ、特定の気相分解時間とすることで、シリコン基板表面の金属不純物の位置情報を保ったまま、従来より高感度にTXRF分析を行うことが可能となることを見出した。
【0018】
本発明者は、シリコン基板表面の金属不純物を評価する方法であって、10.0~15.0質量%のフッ化水素と、19.0~23.0質量%の過酸化水素と、1.5~3.2質量%の塩化水素を含む酸混合溶液から発生する蒸気を、シリコン基板表面に15~30分間接触させて前記シリコン基板表面の気相分解を行い、前記気相分解後の前記シリコン基板表面の金属不純物を全反射蛍光X線分析法により評価するシリコン基板表面の金属不純物評価方法により、気相分解前後のTXRF分析によるCuのX線強度増大比が、気相分解の薬液としてフッ化水素酸のみ(HF50質量%)を用いたときや、フッ化水素酸と過酸化水素水の酸混合溶液を用いたときのTXRF分析によるX線強度増大比よりも高く、5倍以上に増大し、また、検出感度を向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
以下、図面を参照して説明する。
【0020】
本発明に係る金属不純物評価方法では、シリコン基板における、TXRF分析を行う表面を気相分解してから、TXRF分析を行う。このとき、気相分解時における蒸気とシリコン基板表面との接触効率を考慮して、
図1に示すように、上部に開口を有する気相分解容器1を用いて行うことが好ましい。上部に開口を有する気相分解容器1内に酸混合溶液2を注入し、開口を覆うようにシリコン基板Wを設置して、シリコン基板Wの表面と気相分解容器1内の酸混合溶液2との間に密閉空間を形成し、酸混合溶液2から発生する蒸気3により、密閉空間に面したシリコン基板Wの表面を気相分解処理することができる。このようにして気相分解処理を行えば、より簡便に、位置精度がより高い、高感度のTXRF分析を行うことができる。但し、気相分解の方法はこれに限定されず、シリコン基板表面に、10.0~15.0質量%のフッ化水素(HF)と、19.0~23.0質量%の過酸化水素(H
2O
2)と、1.5~3.2質量%の塩化水素(HCl)を含む酸混合溶液から発生する蒸気を、15~30分間接触させてシリコン基板表面の気相分解を行うことができれば、どのような方法であっても構わない。
【0021】
また、気相分解時には気相分解容器をヒーター等で加熱しても良いし、シリコン基板上部から赤外線ランプ等を照射しても良く、気相分解時にシリコン基板表面に凝集した液滴が大きくなり過ぎないようにすることが好ましい。以下に述べる例では、室温(23℃)で、ヒーター等の加熱は行わない条件で気相分解を実施した。
【0022】
本発明者は、気相分解における蒸気発生源の薬液が、フッ化水素酸のみの場合や、フッ化水素酸+過酸化水素水の酸混合溶液の場合のみならず、フッ化水素酸+過酸化水素水+塩酸の酸混合溶液の場合について、気相分解時間におけるX線強度変化について調査した。その結果、詳細は後述するが、気相分解後のCuのX線強度は、気相分解前のX線強度に対して、フッ化水素酸のみの場合や、フッ化水素酸+過酸化水素水の酸混合溶液の場合では約1.5倍の増大であるのに対して、10.0~15.0質量%のフッ化水素(HF)と、19.0~23.0質量%の過酸化水素(H2O2)と、1.5~3.2質量%の塩化水素(HCl)を含む酸混合溶液の場合は、最大で約7倍の増大が見られることを見出した。これは、フッ化水素酸+過酸化水素水にさらに塩酸が加わることで、シリコン基板表面に凝集した水滴の酸化還元電位が高くなるとともに、酸化力が増加するため、フッ化水素酸単独の場合やフッ化水素酸+過酸化水素水の酸混合溶液の場合ではイオン化されなかったCuがイオン化し、乾燥時に他の元素と同様に凝集したためと考えられる。その結果、入射X線は凝集体(パーティクル)内部に僅かに侵入し、凝集体表面及び内部からも蛍光X線が放出されることから、X線検出強度が増加したものと考えられる。
【0023】
また、気相分解時間におけるX線強度増大比は、後述するようにおよそ15分で最大に達するが、30分以降は低下傾向が見られた。これは、凝集時に生成する凝集核を構成する凝集体が大きくなり過ぎると凝集体表面でのX線の乱反射の影響が増大し、X線の検出器への収率が減少するためと考えられる。
【0024】
特に、フッ化水素(HF)濃度が10.0~11.0質量%、過酸化水素(H2O2)濃度が21.9~22.1質量%、塩化水素(HCl)濃度が2.1~2.6質量%の混合酸溶液を用いることが好ましい。このような混合酸溶液を用いたときの、気相分解前後のTXRF分析によるCuのX線強度増大比は、フッ化水素酸のみ(HF50質量%)の薬液の場合や、フッ化水素酸+過酸化水素水の酸混合溶液の場合の気相分解前後のTXRF分析によるX線強度増大比(Ratio)より大きくなり、約7倍となる。また、気相分解時間は15~30分間で最大の効果を発揮する。
【0025】
図2に、10.7質量%のフッ化水素(HF)+22.1質量%の過酸化水素(H
2O
2)+2.6質量%の塩化水素(HCl)を含む酸混合溶液を用いて気相分解した場合について、気相分解時間と気相分解前後のCr、Fe、Ni、CuのX線強度増大比(Ratio)の関係を示す。気相分解時間の増加に伴いX線強度比(Ratio)は増大するが、気相分解時間が30分以上ではX線強度増大比(Ratio)が低下することが確認できた。言い換えると、気相分解時間を15~30分とすれば、高いX線強度比(Ratio)が得られることがわかった。
【0026】
同様に、
図3に、10.7質量%のフッ化水素(HF)+22.1質量%の過酸化水素(H
2O
2)+2.6質量%の塩化水素(HCl)を含む酸混合溶液を用いて気相分解した場合の、気相分解時間とTXRF検出下限値の関係を示す。X線強度増大比が最も高い15~30分の気相分解時間において、検出下限値も低い値を示すことがわかる。したがって、気相分解時間は15~30分間とすることにより、高感度でTXRF分析を行うことが可能となる。
【0027】
このように、10.0~15.0質量%のフッ化水素(HF)と、19.0~23.0質量%の過酸化水素(H2O2)と、1.5~3.2質量%の塩化水素(HCl)を含む酸混合溶液から発生する蒸気を用いて、15~30分の気相分解を行った場合、シリコン基板表面の金属不純物の位置情報を保ったまま、高感度でTXRF分析を行うことが可能となる。一方、上記範囲外の条件では、特に、CuのX線強度増大比が低く、検出下限値が高くなるため、高感度でTXRF分析を行うことが困難である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0029】
以下の実施例、比較例では、強制汚染ウェーハを用いて対比を行った。本評価を行うための強制汚染ウェーハは、清浄な直径200mmのp型のシリコンPWウェーハを用い、関東化学製1000ppm原子吸光用標準溶液(Cr、Fe、Ni、Cu)を適宜希釈し、多摩化学製超高純度エタノール(AA100)溶媒で調製した溶液を、ウェーハ中心に20μL滴下し、自然乾燥させ、滴下溶液中の各元素含有量が0.05ng、0.5ng、5ng、50ngである強制汚染ウェーハを準備した。
【0030】
全反射蛍光X線分析装置は、テクノス製TREX630Tを使用した。分析条件は、40kV、40mAで、X線入射角は0.05度で、測定時間は300秒/点とした。なお、本評価(実施例と比較例の対比)においては、気相分解前後で、シリコン基板表面の全反射蛍光X線分析法による評価を行った。
【0031】
シリコンウェーハの気相分解は、
図1に示す気相分解容器1を用いて行った。気相分解容器1内に、蒸気発生源となる薬液2を注入し、金属不純物評価を行うシリコン基板Wの表面であるPW面が下向きになるように気相分解容器1に載せ、薬液2からの蒸気3を密閉することで気相分解を行った。
【0032】
(比較例1)
図1に示す気相分解容器1内に、薬液2としてステラケミファ製EL級フッ化水素酸(50質量%)を200mL注入した場合について、金属不純物評価を行うシリコン基板Wの表面であるPW面が下向きになるように気相分解容器1に載せ、蒸気3を密閉することで気相分解を行った。気相分解時間は15分とし、気相分解後はクリーンドラフト内で自然乾燥を行った。
【0033】
(比較例2)
気相分解容器内に注入する薬液として、ステラケミファ製EL級フッ化水素酸(50質量%)と三徳化学製EL級過酸化水素水(31質量%)を1:1で混合した酸混合溶液を使用したこと以外は比較例1と同様にして気相分解を行った。
【0034】
図4に、比較例1及び比較例2における、気相分解前後のCr、Fe、Ni、CuのX線強度増大比(Ratio)を示す。このX線強度増大比(Ratio)は、(気相分解後のX線強度)/(気相分解前のX線強度)で計算され、気相分解前のX線強度に対し、気相分解のX線強度がどの程度増大したかを意味する。比較例1の気相分解後のCr、Fe、NiのX線強度は、気相分解前の約3倍、Cuは1.4倍である。一方、比較例2の気相分解後のCr、Fe、NiのX線強度は、気相分解前の12~13倍に増大するが、Cuは1.5倍であり、CuのX線強度の向上効果はほとんど見られない。
【0035】
同様に、比較例1及び比較例2について、
図5に気相分解前のTXRF検出下限値を、
図6に気相分解後のTXRF検出下限値を示す。X線強度増大比(Ratio)の大きなCr、Fe、Niは一定の検出下限値低下効果が見られたが、X線強度増大比(Ratio)の小さなCuは検出下限値の低下は見られなかった。
【0036】
(比較例3)
気相分解容器内に注入する薬液として、ステラケミファ製EL級フッ化水素酸(50質量%)と三徳化学製EL級過酸化水素水(31質量%)を1:3で混合した酸混合溶液を使用したこと以外は比較例1,2と同様にして気相分解を行った。
【0037】
(比較例4~9、実施例1~3)
比較例1~3と同様に、シリコンウェーハの気相分解を、
図1に示す気相分解容器1を用いて行った。気相分解容器1内に注入する薬液2として、ステラケミファ製EL級フッ化水素酸(50質量%)と、三徳化学製EL級過酸化水素水(31質量%)と、関東化学製EL級塩酸(36質量%)を表1に示した比率で混合した合計200mLの酸混合溶液を注入し、金属不純物評価を行うシリコン基板Wの表面であるPW面が下向きになるように気相分解容器1に載せ、HF+H
2O
2+HClを含む蒸気3を密閉することで気相分解を行った。気相分解時間は15分とし、気相分解後はクリーンドラフト内で自然乾燥を行うこととした。
【0038】
表1に、比較例1~9、実施例1~3で使用した薬液(比較例1以外は酸混合溶液)の混合比率を示す。
【0039】
【0040】
まず、シリコン基板表面の全反射蛍光X線分析法による評価結果に基づいて、各種薬液を使用した場合の気相分解前後のX線強度増大比(Ratio)を算出した。
図7に、比較例1~9、実施例1~3についてのX線強度増大比(Ratio)を示す。比較例1~9、実施例1~3のすべてにおいて、気相分解前のX線強度に比べ、気相分解後のX線強度が高くなっていることがわかる。
【0041】
一方、実施例のようにフッ化水素(HF)の濃度が10.0~15.0質量%、過酸化水素(H2O2)の濃度が19.0~23.0質量%、塩化水素(HCl)の濃度が1.5~3.2質量%である酸混合溶液を用いて気相分解を行った場合のCuのX線強度増大比は、比較例1のフッ化水素(HF)のみ(50質量%)や、比較例2のフッ化水素(HF)と過酸化水素(H2O2)の酸混合溶液による気相分解の場合のX線強度増大比より高く、5倍以上に増大することがわかる。特に、フッ化水素(HF)の濃度が10.0~11.0質量%、過酸化水素(H2O2)の濃度が21.9~22.1質量%、塩化水素(HCl)の濃度が2.1~2.6質量%の組成となるように混合した酸混合溶液を用いて気相分解を行った場合(実施例3)のCuのX線強度増大比は、約7倍に増大することがわかる。
【0042】
また、実施例1-3、比較例1-9における、気相分解前の各分析対象元素の検出下限値(atoms/cm
2)を
図8に、気相分解後の各分析対象元素の検出下限値(atoms/cm
2)を
図9に示す。この結果から、気相分解前後のX線強度増大比(Ratio)が大きくなる程、検出下限値が低くなることがわかる。特に、実施例1~3においては、高いX線強度増大比と、低い検出下限値が得られることがわかる。つまり、バックグラウンド強度変化はほとんど影響せず、単純にX線強度の増加が検出下限値の改善に結びついていると考えられる。
【0043】
以上詳述したように、10.0~15.0質量%のフッ化水素(HF)と、19.0~23.0質量%の過酸化水素(H2O2)と、1.5~3.2質量%の塩化水素(HCl)を含む酸混合溶液から発生する蒸気を用いて、15~30分の気相分解を行った場合、気相分解後のTXRF分析によるCuのX線強度増大比は、気相分解の薬液としてフッ化水素酸のみ(HF50質量%)を用いたときや、フッ化水素酸と過酸化水素水の酸混合溶液を用いたときより著しく高く、5倍以上に増大した。特に、フッ化水素(HF)濃度が10.0~11.0質量%、過酸化水素(H2O2)濃度が21.9~22.1質量%、塩化水素(HCl)濃度が2.1~2.6質量%の混合酸溶液を用いて気相分解を行うと、TXRF分析によるCuのX線強度増大比は、約7倍に増大し、Cuの検出下限値は約1/6に改善した。このように、シリコン基板表面の金属不純物の位置情報を保ったまま、高感度でTXRF分析を行うことが可能となる。一方、上記範囲外の条件では、特に、CuのX線強度増大比が低く、検出下限値が高くなるため、高感度でTXRF分析を行うことが困難であることがわかる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0045】
1…気相分解容器、 2…薬液(混合酸溶液)、 3…蒸気、 W…シリコン基板。