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  • 特許-刃物用鋼帯の製造方法および刃物用鋼帯 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】刃物用鋼帯の製造方法および刃物用鋼帯
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20221220BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221220BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20221220BHJP
   C22C 38/28 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C21D9/46 R
C22C38/00 302Z
C22C38/18
C22C38/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019518787
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2018018685
(87)【国際公開番号】W WO2018212155
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017098914
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 亘
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-039547(JP,A)
【文献】特開平06-145907(JP,A)
【文献】特開2007-224405(JP,A)
【文献】特開平09-020923(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162997(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/085203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46-9/48
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.55~0.80%、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Cr:12.0~14.0%を含み、残部Fe及び不可避的不純物よりなる組成を有する刃物用鋼帯の製造方法において、
前記組成を有する冷間圧延用素材をバッチ式の焼鈍炉内で焼鈍するバッチ焼鈍工程と、
前記バッチ焼鈍工程後の冷間圧延用素材に、1回以上の冷間圧延を施して鋼帯とする冷間圧延工程と、を含み、
前記バッチ焼鈍工程は、炉内温度450℃超770℃未満で1~12時間加熱保持する第一均熱工程と、第一均熱工程の後に行われ、炉内温度770℃超900℃未満で1~16h加熱保持する第二均熱工程と、を含み、
前記刃物用鋼帯の金属組織は、炭化物が分散しているフェライト組織であり、
前記炭化物の密度は、100~200個/100μm である、刃物用鋼帯の製造方法
【請求項2】
前記刃物用鋼帯の炭化物平均径は、0.30~0.45μmである、請求項に記載の刃物用鋼帯の製造方法。
【請求項3】
質量%で、C:0.55~0.80%、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Cr:12.0~14.0%を含み、残部Fe及び不可避的不純物よりなる組成を有する刃物用鋼帯において、
前記刃物用鋼帯の金属組織は、炭化物が分散しているフェライト組織であり、
前記炭化物の密度は、100~200個/100μmであり、
前記刃物用鋼帯の炭化物平均径は、0.30~0.45μmである、刃物用鋼帯
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃物用鋼帯の製造方法および刃物用鋼帯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カッター等の刃物に用いられている刃物用鋼帯には、高硬度かつ耐摩耗性や耐食性に優れた、質量%でCを1.0%以下、Crを12.0~14.0%程度含むマルテンサイト系ステンレス鋼が使用されている。このようなマルテンサイト系ステンレス鋼帯は通常、熱間圧延後の熱延鋼帯に冷間圧延・軟化焼鈍を施して所望の製品形状に加工された後、焼入れ焼戻しを施されることで、高硬度組織を得ることが出来る。
【0003】
上述したような刃物用鋼帯の焼入れ焼戻し前の組織は、フェライト組織中に炭化物が分散した状態を呈しており、この炭化物の分布状態により硬度などの特性が変動する。炭化物の分布に関しては従来より多くの検討がなされており、例えば本願出願人が過去に提案した特許文献1には、短時間の熱処理で優れた硬さを得られるステンレスかみそり用鋼を提供するために、重量%でC:0.55を越え0.73%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Cr:12%以上14%以下、Mo:0.2%以上1.0%以下、Ni:無添加~1.0%、残部Fe及び不純物よりなり、焼鈍状態での炭化物密度を140~200個/100μmとした焼入れ性の優れたステンレスかみそり用鋼の発明がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-145907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたステンレスかみそり用鋼は、焼入れ性と冷間圧延性に優れた発明であるが、炭化物の密度向上のために高価な原料であるMoの添加を必須としており、Moを添加せずに炭化物密度を向上させることについては記載されておらず、検討の余地が残されている。そこで本発明の目的は、Moを添加せずに炭化物密度を適正な範囲に制御することができ、生産性の向上も期待できる刃物用鋼帯の製造方法および刃物用鋼帯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、Moを含有させずに適正な炭化物密度を有した鋼帯を得るために、バッチ式焼鈍炉の加熱条件について鋭意研究した。その結果、バッチ式焼鈍炉の昇温速度、加熱保持時間、温度を適正範囲に調整することで、Moを含有した特許文献1の鋼帯と同等の特性が得られることを知見し、本発明に想到した。
すなわち本発明の一態様は、質量%で、C:0.55~0.80%、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Cr:12.0~14.0%を含み、残部Fe及び不可避的不純物よりなる刃物用鋼帯の製造方法において、前記組成を有する冷間圧延用素材をバッチ式の焼鈍炉内で焼鈍するバッチ焼鈍工程と、前記バッチ焼鈍工程後の冷間圧延用素材に、1回以上の冷間圧延を施して鋼帯とする冷間圧延工程と、を含み、前記バッチ焼鈍工程は、炉内温度450℃超770℃未満で1~12時間加熱保持する第一均熱工程と、第一均熱工程の後に行われ、炉内温度770℃超900℃未満で1~16時間加熱保持する第二均熱工程と、を含む、刃物用鋼帯の製造方法である。
好ましくは前記刃物用鋼帯の金属組織は、炭化物が分散しているフェライト組織であり、前記炭化物の密度は、100~200個/100μmである。
好ましくは前記刃物用鋼帯の炭化物平均径は、0.30~0.45μmである。
本発明の別の一態様は、質量%で、C:0.55~0.80%、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Cr:12.0~14.0%を含み、残部Fe及び不可避的不純物よりなる組成を有する刃物用鋼帯において、
前記刃物用鋼帯の金属組織は、炭化物が分散しているフェライト組織であり、
前記炭化物の密度は、100~200個/100μmである、刃物用鋼帯である。
好ましくは前記刃物用鋼帯の炭化物平均径は、0.30~0.45μmである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高価なMoを添加せずに炭化物密度を適正な範囲に制御することができ、従来の連続焼鈍式よりも良好な生産性を有する刃物用鋼帯を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の刃物用鋼帯の表面の部位を観察した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。ただし本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。まず本発明に係る刃物用鋼帯の組成について限定理由を説明する。
C:0.55~0.80%
Cは、本発明に適した炭化物密度に調整し、かつ焼入れ時オーステナイト化温度において炭化物から基地(マトリックス)に固溶し、焼入れで生成するマルテンサイトの硬さを決定する重要な元素である。本発明に適した炭化物密度を得るために、Cの含有量は0.55%以上とする。好ましいCの下限は0.60%であり、更に好ましくは0.63%である。またCを過剰に含有すると、大型の共晶炭化物の生成や、耐食性の低下を招く可能性があるため、上限は0.80%とする。好ましいCの上限は0.78%であり、さらに好ましくは0.75%である。
【0010】
Si:1.0%以下
Siは、刃物用鋼帯の精錬時に脱酸剤として用いる他、鋼中に固溶し、低温焼戻しにおける軟化を抑制する元素である。しかし、過度の含有はSiO等の硬質介在物として刃物用鋼中に残存する確率が高く、刃欠けや点錆の原因となるため含有量を1.0%以下とする。なお、Siによる低温焼き戻しの軟化抵抗の効果を確実とし、硬質介在物の形成を防止するには、0.1~0.7%の範囲とするのが好ましい。更に好ましいSiの下限は0.15%であり、更に好ましいSiの上限は0.5%である。
Mn:1.0%以下
MnもSiと同様に精錬時の脱酸剤として用いることができる。しかし、Mnが1.0%を越えると熱間加工性を低下させるため、Mnの含有量は1.0%以下とする。なお、Mnを脱酸剤として用いた場合、Mnは少なからず刃物鋼中に残留する。そのため、Mnの下限は特に規定しないが、0%を超えるものとなる。好ましいMnの範囲は0.1~0.9%である。
【0011】
Cr:12.0~14.0%
Crは、刃物用鋼帯が有する優れた耐食性を維持し、本発明に適した炭化物密度を得るために必要なCr系炭化物を形成する重要元素である。前述のCrの効果を得るためには、少なくとも12.0%のCrが必要となる。一方、Crが14.0%を超えると、共晶炭化物の晶出量が増加することにより、刃物に刃欠けが発生する原因となる。そのため、Crの含有量は12.0~14.0%の範囲とする。前記のCrの効果をより確実に得るための好ましいCrの下限は12.5%であり、好ましいCrの上限は13.5%である。
【0012】
本発明では上記以外の成分はFe及び不可避的不純物とする。特にMoは従来では炭化物密度を向上させるために添加されているが、原料コストを低減させ、かつ本発明に適した炭化物密度を得るために、添加しない。その他の不可避的不純物元素としては、P、S、Cu、Al、Ti、N及びOが挙げられるが、本発明の効果を阻害しない下記に示す範囲内であれば、含有されていてもよい。
P≦0.03%、S≦0.005%、Cu≦0.5%、Al≦0.1%、Ti≦0.1%、N≦0.05%及びO≦0.05%。
【0013】
続いて本実施形態の製造方法について説明する。
本実施形態では、前述した組成を有する熱間圧延材を冷間圧延用素材とし、この冷間圧延用素材にバッチ焼鈍を行い(バッチ焼鈍工程)、バッチ焼鈍後の冷間圧延用素材に、1回以上の冷間圧延を施す(冷間圧延工程)ことで作製される。ここでバッチ焼鈍工程に移行する前に熱間圧延後の材料表面に存在するスケールや圧延疵を除去する目的で、熱間圧延材の表面を研磨してもよい。
【0014】
[バッチ焼鈍工程]
本実施形態では冷間圧延工程前に、コイル状に巻き取られた冷間圧延用素材(以下、コイルともいう)をバッチ式焼鈍炉を用いて真空中でバッチ焼鈍する。このバッチ焼鈍を適用することによって、複数のコイルを一度に焼鈍することができるため、連続焼鈍よりも生産性良く焼鈍することが可能である。本実施形態ではこのバッチ焼鈍の焼鈍条件において、前段加熱として素材の変態点未満の温度で加熱して、微細な炭化物を析出させる第一均熱工程と、第一均熱工程の後に行い、素材の変態点以上の温度で加熱して炭化物を球状化させる第二均熱工程とを有することが特徴である。本実施形態での第一均熱工程は、炉内温度450℃超770℃未満で1~12時間加熱保持する。この工程により、サイズが揃った微細な炭化物を析出させることが可能となる。炉内温度が450℃以下、または加熱保持時間が1時間未満の場合、炭化物が十分に析出せず好ましくない。温度が770℃以上、または加熱保持時間が12時間を超える場合、過剰に成長した炭化物同士が凝集してしまい、最終的な炭化物個数が減少するため好ましくない。より好ましい温度の下限は470℃である。さらに好ましい温度の下限は、600℃である。より好ましい温度の上限は750℃未満である。またより好ましい加熱保持時間の下限は3時間であり、より好ましい加熱保持時間の上限は9時間である。さらに好ましい加熱保持時間の上限は8時間であり、最も好ましい加熱保持時間の上限は7時間である。なお特に記載がない限り、本実施形態における「変態点」とは、Ac1点(オーステナイトが生成し始める温度)を示す。
【0015】
本実施形態では、上述したように第一均熱工程の後に、770℃超、かつ900℃未満の炉内温度で1~16時間加熱保持する、第二均熱工程を有する。第二均熱工程での温度を素材の変態点以上である770℃超、かつ900℃未満に設定することで、上述したように素材に固溶する炭化物を減少させつつ球状化熱処理することが可能であり、炭化物密度を高めることが可能である。炉内温度が770℃以下であると、組織がオーステナイト化せず炭化物が粗大化し、球状化が十分に進行しない可能性があるため好ましくない。温度が900℃以上であると、炭化物が過剰に固溶するため、その後の徐冷工程により再析出する炭化物が粗大化してしまう傾向にあるため、好ましくない。より好ましい温度の下限は800℃であり、より好ましい温度の上限は860℃である。また、より好ましい第二均熱工程の保持時間上限は13時間であり、さらに好ましくは11時間である。第二均熱工程の保持時間が1時間未満の場合、保持時間が短すぎるため、鋼帯の寸法不良や破断が発生する傾向にあり、好ましくない。本実施形態ではバッチ炉を適用しているため、一回の焼鈍時に複数のコイルを投入する(例えば、最大外径サイズがφ1000mmのコイルを10個投入する)ことが可能であるため、高い生産性を有する。なお、第二均熱工程の後には、十分に素材に炭化物を析出させるために、素材温度が600~800℃(ただし、第二均熱工程での炉内温度よりも低い温度)になるまで素材を徐冷する徐冷工程を行うことが好ましい。
【0016】
[冷間圧延工程]
本実施形態ではバッチ焼鈍工程を終えた冷間圧延用素材に、1回以上の冷間圧延を施すことで所望の板厚に調整された鋼帯を得ることが出来る。なおこの冷間圧延は複数回行っても良く、冷間圧延の間に鋼帯を軟化させるための中間焼鈍を行っても良い。また、最終冷間圧延の後に歪取りを目的とした歪取り焼鈍を行っても良い。
【0017】
[金属組織]
上述した本発明の製造方法を適用して得られた刃物用鋼帯の焼入れ焼戻し前の金属組織は、炭化物が分散しているフェライト組織であり、この炭化物の密度は、100~200個/100μmに調整することができる。この範囲内に収めることで、焼入れ性に優れた鋼帯を得ることが出来る。炭化物の密度が100個/100μm未満の場合、焼入れ時の炭化物の固溶量が少なくなって所望の硬さが得られなくなる傾向にある。炭化物の密度が200個/100μm超の場合、鋼帯の硬度が高くなり、生産性が低下する傾向にある。より好ましい炭化物密度の下限は120個/100μm、さらに好ましい炭化物密度の下限は130個/100μm、最も好ましい炭化物密度の下限は140個/100μmである。また好ましい炭化物密度の上限は、190個/100μmであり、より好ましい炭化物密度の上限は180個/100μmである。
【0018】
本発明に係る刃物用鋼帯の焼入れ焼戻し前の炭化物平均径は、0.30~0.45μmであることが好ましい。上述した範囲内に炭化物サイズを制御することで、焼入れ時の炭化物が固溶しやすくなる傾向にある。また、より好ましくは、平均径が0.30μm~0.40μmの微細な炭化物が多い方が好ましい。このように0.40μm以下の微細な炭化物を主に析出させることで、より良好な焼入れ性を得ることが可能である。なお、本実施形態における炭化物の測定方法は、例えば、鋼帯の表面(圧延面)をエッチングし、現出した組織を電子顕微鏡で10000倍で観察し、得られた画像について画像解析を行い、炭化物の個数および平均径(面積円相当径)を算出することにより、測定することができる。
【実施例
【0019】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。表1のNo.1に示す組成を有する厚み1.5mmの熱間圧延材(φ1000mmサイズのコイル10個)をバッチ炉で焼鈍した。そのバッチ焼鈍は、第一均熱工程として690~745℃で5時間加熱した後、第二均熱工程として800~850℃で6時間加熱するバッチ焼鈍とし、第二均熱工程後の材料が600~750℃の温度範囲に入るよう、徐冷した。その後冷間圧延と中間焼鈍を繰り返して厚さ0.1mmの厚さに仕上げ、本発明例1の刃物用鋼帯とした。また本発明例2として、第一均熱工程の条件を470~530℃で2時間加熱に設定し、第二均熱工程の温度を800~850℃で11時間加熱に設定し、他の条件はNo.1と同様の条件で刃物用鋼帯とした。対して表1のNo.11およびNo.12に示す組成を有し、厚み1.5mmの熱間圧延材を840℃に調整したバッチ炉で5時間バッチ焼鈍(本発明の第一均熱工程無し)し、本発明例と同じく冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚さ0.1mmの厚さに仕上げ、刃物用鋼帯とした。No.11の組成からなるものを比較例、No.12の組成からなるものを従来例とする。
【0020】
【表1】
【0021】
続いて作製した本発明例1、2、比較例、従来例の刃物用鋼帯から観察用試料を採取し、炭化物密度を測定した。また、本発明例1、比較例、従来例のビッカース硬さを測定した。炭化物密度測定については、試料の表面(圧延面)を酸性溶液でエッチングして炭化物を露出させた後、電子顕微鏡を用いて観察した。得られた画像は画像解析装置を用いて、100μmにおける炭化物密度を測定した。また本発明例1のみ、画像解析装置を用いて炭化物の平均径(面積円相当径)も測定した。ビッカース硬さはJIS-Z2244に規定された方法に従い、200Nの荷重により鋼帯の幅方向中央部の硬さを測定した。図1に本発明例1の金属組織の電子顕微鏡写真を示す。また表2に炭化物密度の測定結果を、表3に硬さの測定結果を示す。なお本発明例1の炭化物平均径は、0.35μmであった。なお追加の実験として、第二均熱工程の温度を800~850℃で約18時間程度の加熱に設定し、他の条件は本発明例1と同様の条件で刃物用鋼帯を作製し、得られた試料の炭化物密度を確認した結果、100個/μm未満であったことも確認した。
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
図1の結果より、本発明例1の刃物用鋼帯はフェライト組織中に白色の炭化物が分散している金属組織を呈していることが確認できた。また表2より、本発明例1、2の刃物用鋼帯は、ほぼ同等組成である比較例よりも炭化物密度が高く、Moを添加している従来例と同等または同等以上の炭化物密度に調整できたことを確認した。また、本発明例1の刃物用鋼帯は硬さもHV200以上を示しており、従来例と比較しても遜色ない値であることも確認できた。さらに本発明の実施例においてはバッチ焼鈍炉で一度に10コイル熱処理することが可能であった。このため、本発明によれば、連続焼鈍式と比較して生産性も高くすることができる。
以上より本発明の刃物用鋼帯は、良好な焼入れ性を発揮するために必要な炭化物密度を、Mo無しでも達成していることが分かる。

図1