(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20221220BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20221220BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08L79/08 A
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019539509
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031670
(87)【国際公開番号】W WO2019044795
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2017164793
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀則
(72)【発明者】
【氏名】名木 達哉
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/196001(WO,A1)
【文献】特開平09-185064(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082579(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
G02F 1/13
C08L 79/08
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A-a)下記式(1)(式(1)において、iは0又は1であり、Xは単結合、エーテル結合、カルボニル、エステル結合、フェニレン、炭素原子数1乃至20の直鎖アルキレン、炭素原子数2乃至20の分岐アルキレン、炭素原子数3乃至12の環状アルキレン、スルホニル、アミド結合またはそれらの組みあわせからなる基であり、ここで、炭素原子数1乃至20のアルキレンは、エステル結合及びエーテル結合から選ばれる結合によって中断されていてもよく、フェニレン及びアルキレンの炭素原子はハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基及びハロアルコキシ基から選ばれる1又は複数の同一または相異なる置換基で置換されていてもよい。)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、
(A-b)脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と下記式(2)で表されるジアミンを含むジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、及び
有機溶媒を含有し、(A-a)及び(A-b)の重量比が、(A-a):(A-b)=
60:40~80:20であ
り、
前記(A-b)のジアミン成分が、前記式(2)で表されるジアミン以外に、下記式(5)(式(5)におけるW
2
は、2価の有機基であり、下記式[W
2
-19]、[W
2
-23]~[W
2
-26]、[W
2
-39]、[W
2
-59]~[W
2
-64]、[W
2
-67]、[W
2
-84]、[W
2
-86]、[W
2
-90]、[W
2
-94]、[W
2
-95]、[W
2
-98]、[W
2
-100]、[W
2
-113]~[W
2
-115]、[W
2
-121]~[W
2
-125]、[W
2
-129]、[W
2
-137]~[W
2
-139]、[W
2
-141]及び[W
2
-143]からなる群から選ばれるいずれかで表される構造である。R
1
、R
2
は、それぞれ独立して水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基である。)
で表される構造を有するジアミンを有する、液晶配向剤。
【化1】
【請求項2】
前記(A-a)のテトラカルボン酸二無水物成分中の10~100モル%が前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記(A-b)のテトラカルボン酸二無水物成分中の10~100モル%が脂肪族テトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記(A-b)のテトラカルボン酸二無水物成分中の80~100モル%が脂肪族テトラカルボン酸二無水物である、請求項1
~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記(A-b)のジアミン成分中の10~100モル%が、式(2)のジアミンであることを特徴とする請求項1
~4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記式(2)で表されるジアミン以外
のジアミンの構造が、[W
2
-60]、[W
2
-121](ただし、n=4である場合に限る)、[W
2
-129]、[W
2
-137]~[W
2
-139](ただし、[W
2
-137]~[W
2
-139]において、n=2又はn=4である場合に限る)及び[W
2
-143]からなる群から選ばれるいずれかで表される
構造である請求項1
~5のいずれか1項に記載の液晶配向剤
【請求項7】
前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも一種である請求項1
~6のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記脂肪族テトラカルボン酸二無水物がシクロブタンテトラカルボン酸二無水物または1,3-ジメチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物である請求項1
~7のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
[I]請求項1
~8のいずれか1項
に記載の
液晶配向剤を、横電界駆動用の導電膜を有する基板上に塗布して塗膜を形成する工程;
[II] [I]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する工程;及び
[III] [II]で得られた塗膜を加熱する工程;
を有することによって配向制御能が付与された横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を得る、前記液晶配向膜を有する基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の液晶配向剤から形成される横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜。
【請求項11】
請求項10に記載
の横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板。
【請求項12】
請求項
11に記載の基板を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【請求項13】
請求項
11記載の基板(第1の基板)を準備する工程;
[I’] 第2の基板上に請求項1
~8のいずれか1項
に記載の
液晶配向剤を、塗布して塗膜を形成する工程;
[II’] [I’]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する工程;及び
[III’] [II’]で得られた塗膜を加熱する工程;
を有することによって配向制御能が付与された液晶配向膜を得る、前記液晶配向膜を有する第2の基板を得る工程;及び
[IV] 液晶を介して前記第1及び第2の基板の液晶配向膜が相対するように、前記第1及び第2の基板を対向配置して液晶表示素子を得る工程;
を有することにより、横電界駆動型液晶表示素子を得る、該液晶表示素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き付き特性に優れる液晶表示素子を製造するための液晶配向剤、液晶配向膜および液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、軽量、薄型かつ低消費電力の表示デバイスとして知られ、近年では大型のテレビ用途に用いられるなど、目覚ましい発展を遂げている。液晶表示素子は、例えば、電極を備えた透明な一対の基板により液晶層を挟持して構成される。そして、液晶表示素子では、液晶が基板間で所望の配向状態となるように有機材料からなる有機膜が液晶配向膜として使用されている。
【0003】
すなわち、液晶配向膜は、液晶表示素子の構成部材であって、液晶を挟持する基板の液晶と接する面に形成され、その基板間で液晶を一定の方向に配向させるという役割を担っている。そして、液晶配向膜には、液晶を、例えば、基板に対して平行な方向など、一定の方向に配向させるという役割に加え、液晶のプレチルト角を制御するという役割を求められることがある。こうした液晶配向膜における、液晶の配向を制御する能力(以下、配向制御能と言う。)は、液晶配向膜を構成する有機膜に対して配向処理を行うことによって与えられる。
【0004】
配向制御能を付与するための液晶配向膜の配向処理方法としては、従来からラビング法が知られている。
しかしながら、ポリイミドなどからなる液晶配向膜の表面を擦るラビング法は、発塵や静電気の発生が問題となることがあった。また、近年の液晶表素子の高精細化や、対応する基板上の電極や液晶駆動用のスイッチング能動素子による凹凸のため、液晶配向膜の表面を布で均一に擦ることができず、均一な液晶の配向を実現できないことがあった。
【0005】
そこで、ラビングを行わない液晶配向膜の別の配向処理方法として、光配向法が盛んに検討されている。光配向法には様々な方法があるが、直線偏光またはコリメートした光によって液晶配向膜を構成する有機膜内に異方性を形成し、その異方性に従って液晶を配向させる。
【0006】
主な光配向法としては、分解型の光配向法が知られている。例えば、ポリイミド膜に偏光紫外線を照射し、分子構造の紫外線吸収の偏光方向依存性を利用して異方的な分解を生じさせる。そして、分解せずに残されたポリイミドにより液晶を配向させるようにする(例えば、特許文献1を参照のこと。)。
【0007】
また、光架橋型や光異性化型の光配向法も知られている。例えば、ポリビニルシンナメートを用い、偏光紫外線を照射し、偏光と平行な2つの側鎖の二重結合部分で二量化反応(架橋反応)を生じさせる。そして、偏光方向と直交した方向に液晶を配向させる(例えば、非特許文献1を参照のこと。)。また、アゾベンゼンを側鎖に有する側鎖型高分子を用いた場合、偏光紫外線を照射し、偏光と平行な側鎖のアゾベンゼン部で異性化反応を生じさせ、偏光方向と直交した方向に液晶を配向させる(例えば、非特許文献2を参照のこと。)。
【0008】
また、交流駆動による残像特性を改善する光配向膜として、シクロブタン環およびイミド基を含有するジアミンを用いて製造したポリアミック酸を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2、3及び4を参照のこと)。
【0009】
以上の例のように、光配向法による液晶配向膜の配向処理方法では、ラビングを不要とし、発塵や静電気の発生の懸念が無い。そして、表面に凹凸のある液晶表示素子の基板に対しても配向処理を施すことができ、工業的な生産プロセスに好適な液晶配向膜の配向処理の方法となる。
【0010】
一方、横電界方式の液晶セルは視野角特性に優れているものの、基板内に形成される電極部分が少ないために、液晶配向膜の電圧保持率が弱いと液晶に十分な電圧がかからず表示コントラストが低下してしまう。また、静電気が液晶セル内に蓄積されやすく、駆動によって生じる非対称電圧の印加によっても液晶セル内に電荷が蓄積され、これらの蓄積された電荷(残留DC)が液晶の配向の乱れ、あるいは残像や焼き付きとして表示に影響を与え、液晶素子の表示品位を著しく低下させる。このような状態で、再度通電した場合、初期段階において、液晶分子の制御が良好に行われずにフリッカ(ちらつき)等を生じてしまう。特に、横電界方式では、縦電界方式よりも画素電極と共通電極との距離が近いため、配向膜や液晶層に強い電界が作用してしまい、このような不都合が顕著となりやすいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第3893659号公報
【文献】韓国特許出願公開10-2016-0042614号公報
【文献】韓国特許出願公開10-2017-0127966号公報
【文献】韓国特許出願公開10-2018-0020722号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】M. Shadt et al., Jpn. J. Appl. Phys. 31, 2155 (1992).
【文献】K. Ichimura et al., Chem. Rev. 100, 1847 (2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のように、光配向法は、液晶表示素子の配向処理方法として従来から工業的に利用されてきたラビング法と比べてラビング工程そのものを不要とし、そのため大きな利点を備える。そして、ラビングによって配向制御能がほぼ一定となるラビング法に比べ、光配向法では、偏光した光の照射量を変化させて配向制御能を制御することができる。しかしながら、光配向法では、ラビング法による場合と同程度の配向制御能を実現しようとする場合、大量の偏光した光の照射量が必要となったり、安定な液晶の配向が実現できない場合がある。
【0014】
例えば、上記した特許文献1に記載の分解型の光配向法では、ポリイミド膜に出力500Wの高圧水銀灯からの紫外光を60分間照射する必要があるなど、長時間かつ大量の紫外線照射が必要となる。また、二量化型や光異性化型の光配向法の場合においても、数J(ジュール)~数十J程度の多くの量の紫外線照射が必要となる場合がある。さらに、光架橋型や光異性化型の光配向法の場合、液晶の配向の熱安定性や光安定性に劣るため、液晶表示素子とした場合に、配向不良や表示焼き付きが発生するといった問題があった。特に横電界駆動型の液晶表示素子では液晶分子を面内でスイッチングするため、液晶駆動後の液晶の配向ズレが発生しやすく、液晶配向ズレに起因する表示焼き付きが大きな課題とされている。
【0015】
したがって、光配向法では、配向処理の高効率化や安定な液晶配向の実現が求められており、液晶配向膜への高い配向制御能の付与を高効率に行うことができる液晶配向膜や液晶配向剤が求められている。
【0016】
また、残留DCに起因する表示焼き付きへの対策として、液晶配向膜としたときに、偏光紫外線照射によって液晶の配向制御能が付与されるポリアミック酸又はポリイミドとは別の成分として、体積抵抗率の低いポリアミック酸を配向剤に加えるという手法が利用されてきた。しかしながら、2種類のポリアミック酸又はポリイミドが混在する液晶配向剤を、23℃で保存することで、保存時間の経過と共に液晶配向安定性が低下していく場合がある。したがって、残留DC起因の表示焼き付きを解消しつつ、液晶配向安定性を低下させない液晶配向膜や液晶配向剤が求められている。
【0017】
本発明は、高効率に配向制御能が付与され、液晶配向ズレや残留DCに起因する焼き付き特性に優れた、横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリアミック酸又はポリアミック酸のイミド化重合体、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物と特定構造を有するジアミンから得られるポリアミック酸又はポリアミック酸のイミド化重合体を用いることにより、高効率に配向制御能が付与され、液晶配向ズレや残留DCに起因する焼き付き特性に優れた液晶配向膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
かくして、本発明は、上記の知見に基づくものであり、下記の要旨を有する。
1.(A-a)下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、
(A-b)脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と下記式(2)で表されるジアミンを含むジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、
及び有機溶媒を含有し、(A-a)及び(A-b)の重量比が、(A-a):(A-b)=55:45~90:10、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは60:40~85:15であることを特徴とする液晶配向剤。
【0020】
【0021】
式(1)において、iは0又は1であり、Xは単結合、エーテル結合、カルボニル、エステル結合、フェニレン、炭素原子数1乃至20の直鎖アルキレン、炭素原子数2乃至20の分岐アルキレン、炭素原子数3乃至12の環状アルキレン、スルホニル、アミド結合またはそれらの組みあわせからなる基であり、ここで、炭素原子数1乃至20のアルキレンは、エステル結合及びエーテル結合から選ばれる結合によって中断されていてもよく、フェニレン及びアルキレンの炭素原子はハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基及びハロアルコキシ基から選ばれる1又は複数の同一または相異なる置換基で置換されていてもよい。
【0022】
2.前記(A-a)のテトラカルボン酸二無水物成分中の10~100モル%が式(1)のテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする、1に記載の液晶配向剤。
3.前記(A-b)のテトラカルボン酸二無水物成分中の10~100モル%が脂肪族テトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする、1又は2に記載の液晶配向剤。
4.前記(A-b)のジアミン成分中の10~100モル%が、式(2)のジアミンであることを特徴とする、1から3のいずれか1つに記載の液晶配向剤。
【0023】
5.前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも一種である1から4のいずれか1つに記載の液晶配向剤。
6.前記脂肪族テトラカルボン酸二無水物がシクロブタンテトラカルボン酸二無水物または1,3-ジメチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物である1から5のいずれか1つに記載の液晶配向剤。
【0024】
7.[I]上記1乃至6のいずれかに記載の組成物を、横電界駆動用の導電膜を有する基板上に塗布して塗膜を形成する工程;
[II] [I]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する工程;及び
[III] [II]で得られた塗膜を加熱する工程;
を有することによって配向制御能が付与された横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を得る、前記液晶配向膜を有する基板の製造方法。
8.上記7に記載の方法により製造された横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板。
9.上記8に記載の基板を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【0025】
10.上記8記載の基板(第1の基板)を準備する工程;
[I’] 第2の基板上に請求項1乃至6記載の組成物を、塗布して塗膜を形成する工程;
[II’] [I’]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する工程;
[III’] [II’]で得られた塗膜を加熱する工程;を有することによって配向制御能が付与された液晶配向膜を得る、前記液晶配向膜を有する第2の基板を得る工程;及び
[IV] 液晶を介して前記第1及び第2の基板の液晶配向膜が相対するように、前記第1及び第2の基板を対向配置して液晶表示素子を得る工程;を有することにより、横電界駆動型液晶表示素子を得る、該液晶表示素子の製造方法。
11.上記10記載の方法により製造された横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の効果】
【0026】
本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜は、少ない偏光紫外線照射量で液晶を配向させることができ、液晶配向剤を23℃で保存しても、液晶配向膜の液晶配向安定性を悪化させることなく、直流電圧により蓄積した残留DCの緩和を速くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の液晶配向剤は、(A-a)下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、(A-b)脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と下記式(2)で表されるジアミンを含むジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、及び有機溶剤を含有し、(A-a)及び(A-b)の重量比が、(A-a):(A-b)=55:45~90:10、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは60:40~85:15であることを特徴とする。
【0028】
【0029】
式(1)において、iは0又は1であり、Xは単結合、エーテル結合、カルボニル、エステル結合、フェニレン、炭素原子数1乃至20の直鎖アルキレン、炭素原子数2乃至20の分岐アルキレン、炭素原子数3乃至12の環状アルキレン、スルホニル、アミド結合またはそれらの組みあわせからなる基であり、ここで、炭素原子数1乃至20のアルキレンは、エステル結合及びエーテル結合から選ばれる結合によって中断されていてもよく、フェニレン及びアルキレンの炭素原子はハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基及びハロアルコキシ基から選ばれる1又は複数の同一または相異なる置換基で置換されていてもよい。
以下、各構成要件について詳述する。
【0030】
<(A-a)成分>
本発明の液晶配向剤に用いられる(A-a)成分は、上記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体である。
【0031】
<テトラカルボン酸二無水物成分>
上記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、次のような化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記式中、qは1乃至20の整数を表す。
【0032】
【0033】
式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうち、直流電圧により蓄積した残留DCの緩和という点から上記式(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)、(1-5)、(1-7)が好ましく、安定供給という点から、上記式(1-1)、(1-5)が特に好ましい。
【0034】
(A-a)成分において、テトラカルボン酸二無水物成分全体に占める式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の量は、少なすぎると、本発明の効果が得られない。よって、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の量は、(A-a)成分の製造に用いられる全テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、30~100モル%が好ましく、より好ましくは、50~100モル%、さらに好ましくは、70~100モル%である。
【0035】
式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、それぞれ、単独で用いても、複数を併用してもよいが、その場合も、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、合計として上記の好ましい量を用いることが好ましい。
【0036】
<ジアミン成分>
本発明の(A-a)成分の製造に用いられるジアミン成分としては、下記式(5)で表されるジアミンが用いられる。
【0037】
【0038】
式(5)におけるW2は、2価の有機基であり、その構造は特に限定されるものではなく、2種類以上が混在していてもよい。あえて、その具体例を示すならば、下記の式[W2-1]~式[W2-152]で表される構造が挙げられる。R1、R2は、それぞれ独立して水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基であり、水素原子、又はメチル基がより好ましい。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
中でも、直流電圧により蓄積した残留DCの緩和の観点で、W2-7、W2-8、W2-20、W2-21、W2-23、W2-24、W2-26、W2-40、W2-41、W2-49、W2-51、W2-65、W2-67、W2-68、W2-69、W2-70、W2-71、W2-142、W2-144、W2-148、W2-151が好ましく、W2-65、W2-67、W2-68、W2-69、W2-70、W2-71、W2-142、W2-144、W2-148、W2-151がより好ましい。
【0058】
<(A-b)成分>
本発明の液晶配向剤に用いられる(A-b)成分は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と上記式(2)で表されるジアミンを含むジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体である。
【0059】
本発明で用いられる特定脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。なお、式中、X1としては下記(X-1)~(X-28)の何れかである。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
式(X-1)において、R3~R6は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基であり、水素原子、又はメチル基がより好ましい。
【0065】
上記のうち、(X-1)が光配向性の点から最も好ましく、(X-1)においてR3及びR5がメチル基でR4及びR6が水素原子であるものと、R3~R6が水素原子である構造が好ましく、中でも、R3~R6が水素原子である構造が特に好ましい。
【0066】
(A-b)成分において、テトラカルボン酸二無水物成分全体に占める脂肪族酸二無水物の量は、少なすぎると、本発明の効果が得られない。よって、脂肪族テトラカルボン酸二無水物の量は、(A-b)成分の製造に用いられる全テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、50~100モル%が好ましく、より好ましくは、60~100モル%、さらに好ましくは、80~100モル%である。
【0067】
本発明の(A-b)成分であるポリアミック酸及びポリアミック酸のイミド化重合体における式(2)で表されるジアミンの割合は、(A-b)成分の製造に用いられる全ジアミン1モルに対して、10~100モル%であることが好ましく、より好ましくは30~100モル%、さらに好ましくは50~100モル%である。
【0068】
本発明の液晶配向剤に含有される(A-b)成分であるポリアミック酸及びポリアミック酸のイミド化重合体は、上記式(2)で表されるジアミン以外に、上記式(5)で表されるジアミンを用いてもよい。
【0069】
本発明の液晶配向剤に含有される(A-b)成分であるポリアミック酸及びポリアミック酸のイミド化重合体において、式(5)で表されるジアミンの割合が多くなると、本発明の効果を損なう可能性があるため、好ましくない。したがって、式(5)で表されるジアミンの割合は、全ジアミン1モルに対して、0~90モル%が好ましく、より好ましくは0~70モル%、さらに好ましくは0~50モル%である。
【0070】
<ポリアミック酸の製造方法>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、以下に示す方法により合成することができる。
具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒の存在下で-20~150℃、好ましくは0~70℃において、30分~24時間、好ましくは1~12時間反応させることによって合成できる。
上記の反応に用いる有機溶媒は、モノマーおよび重合体の溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトンなどが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
重合体の濃度は、重合体の析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
上記のようにして得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられ、水、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどが好ましい。
【0071】
<ポリイミドの製造方法>
本発明に用いられるポリイミドは、前記ポリアミック酸をイミド化することにより製造することができる。
ポリアミック酸からポリイミドを製造する場合、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物との反応で得られた前記ポリアミック酸の溶液に触媒を添加する化学的イミド化が簡便である。化学的イミド化は、比較的低温でイミド化反応が進行し、イミド化の課程で重合体の分子量低下が起こりにくいので好ましい。
化学的イミド化は、イミド化させたい重合体を、有機溶媒中において塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌することにより行うことができる。有機溶媒としては前述した重合反応時に用いる溶媒を使用することができる。塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。
イミド化反応を行うときの温度は、-20~140℃、好ましくは0~100℃であり、反応時間は1~100時間で行うことができる。塩基性触媒の量はポリアミック酸基の0.5~30倍モル、好ましくは2~20倍モルであり、酸無水物の量はポリアミック酸基の1~50倍モル、好ましくは3~30倍モルである。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間を調節することで制御することができる。
ポリアミック酸のイミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤とすることが好ましい。
【0072】
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製された重合体の粉末を得ることができる。
前記貧溶媒は、特に限定されないが、メタノール、2-プロパノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられ、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどが好ましい。
【0073】
このようにして製造された(A-a)成分及び(A-b)成分の重量比は、(A-a):(A-b)=55:45~90:10、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは60:40~85:15であれば、発明の効果を発揮する。即ち、上記範囲であれば、直流電流により蓄積した残留DCの緩和が速く、かつ液晶配向安定性に優れるため、焼き付き特性に優れる。
【0074】
本発明に用いるポリイミド前駆体は、ジアミン成分とテトラカルボン酸誘導体との反応から得られるものであり、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル等が挙げられる。
【0075】
<ポリイミド前駆体-ポリアミック酸の製造>
(A-a)成分及び(A-b)成分の項に記載したポリアミック酸の製造方法の記載に準じる。
【0076】
<ポリイミド前駆体-ポリアミック酸エステルの製造>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステルは、以下に示す(1)、(2)又は(3)の製法で製造することができる。
【0077】
(1)ポリアミック酸から製造する場合
ポリアミック酸エステルは、前記のように製造されたポリアミック酸をエステル化することによって製造できる。具体的には、ポリアミック酸とエステル化剤を有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって製造することができる。
エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-t-ブチルアセタール、1-メチル-3-p-トリルトリアゼン、1-エチル-3-p-トリルトリアゼン、1-プロピル-3-p-トリルトリアゼン、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジンー2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の添加量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して、2~6モル当量が好ましい。
【0078】
有機溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンまたはγ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたは1,3-ジメチル-イミダゾリジノンが挙げられる。また、ポリイミド前駆体の溶媒溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、又は後述の式[D-1]~式[D-3]で示される溶媒を用いることができる。
これら溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、前記溶媒に混合して使用してもよい。また、溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
上記の反応に用いる溶媒は、ポリマーの溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時の濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0079】
(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンから製造することができる。
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを塩基と有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって製造することができる。
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行するためにピリジンが好ましい。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して、2~4倍モルであることが好ましい。
上記の反応に用いる溶媒は、モノマーおよびポリマーの溶解性からN-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの製造に用いる溶媒はできるだけ脱水されていることが好ましく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0080】
(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンから製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することにより製造することができる。
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを縮合剤、塩基、及び有機溶剤の存在下で0℃~150℃、好ましくは0℃~100℃において、30分~24時間、好ましくは3~15時間反応させることによって製造することができる。
前記縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’-カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ-1,3,5-トリアジニルメチルモルホリニウム、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2~3倍モルが好ましい。
【0081】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、ジアミン成分に対して2~4倍モルが好ましい。
また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミン成分に対して0~1.0倍モルが好ましい。
上記3つのポリアミック酸エステルの製造方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステルが得られるため、上記(1)又は上記(2)の製法が特に好ましい。
上記のようにして得られるポリアミック酸エステルの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0082】
<液晶配向剤>
本発明に用いられる液晶配向剤は、重合体成分が有機溶媒中に溶解された溶液の形態を有する。重合体の分子量は、重量平均分子量で2,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~300,000であり、さらに好ましくは、10,000~100,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、1,000~250,000であり、より好ましくは、2,500~150,000であり、さらに好ましくは、5,000~50,000である。
本発明に用いられる液晶配向剤の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点から1質量%以上であることが好ましく、溶液の保存安定性の点からは10質量%以下とすることが好ましい。特に好ましい重合体の濃度は、2~8質量%である。
【0083】
本発明に用いられる液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。また、単独では重合体成分を均一に溶解できない溶媒であっても、重合体が析出しない範囲であれば、上記の有機溶媒に混合してもよい。
【0084】
また、液晶配向剤に含有される有機溶媒は、上記のような溶媒に加えて液晶配向剤を塗布する際の塗布性や塗膜の表面平滑性を向上させる溶媒を併用した混合溶媒を使用することが一般的であり、本発明の液晶配向剤においてもこのような混合溶媒は好適に用いられる。併用する有機溶媒の具体例を下記に挙げるが、これらの例に限定されるものではない。
例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン、4,6-ジメチル-2-ヘプタノン、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2-(メトキシメトキシ)エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1-(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル、下記式[D-1]~[D-3]で表される溶媒などを挙げることができる。
【0085】
【0086】
式[D-1]中、D1は炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-2]中、D2は炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-3]中、D3は炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0087】
なかでも好ましい溶媒の組み合わせとしては、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルと2,6-ジメチル-4-ヘプタノン、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソプロピルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルと2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとジプロピレングリコールジメチルエーテル、などを挙げることができる。このような溶媒の種類及び含有量は、液晶配向剤の塗布装置、塗布条件、塗布環境などに応じて適宜選択される。
【0088】
また、本発明の液晶配向剤には、膜の機械的強度を上げるために以下のような添加物を添加してもよい。
【0089】
【0090】
【0091】
これらの添加剤は、液晶配向剤に含有される重合体成分の100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましい。0.1質量部未満であると効果が期待できず、30質量部を超えると液晶の配向性を低下させるため、より好ましくは0.5~20質量部である。
本発明の液晶配向剤には、上記の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、重合体以外の重合体、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的の誘電体若しくは導電物質、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的のシランカップリング剤、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物、さらには塗膜を焼成する際にポリアミック酸のイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等を添加しても良い。
【0092】
<液晶配向膜>及び<液晶配向膜の製造方法>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥、焼成して得られる膜である。本発明の液晶配向剤を塗布する基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板、ポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができ、液晶駆動のためのITO電極等が形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0093】
本発明の液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられる。本発明の液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される有機溶媒を十分に除去するために50℃~120℃で1分~10分間乾燥させ、その後150℃~300℃で5分~120分間焼成される。焼成後の塗膜の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nm、好ましくは10~200nmである。
【0094】
得られた液晶配向膜を配向処理する方法としては、ラビング法、光配向処理法などが挙げられる。
ラビング処理は既存のラビング装置を利用して行うことができる。この際のラビング布の材質としては、コットン、ナイロン、レーヨンなどが挙げられる。ラビング処理の条件としては一般に、回転速度300~2000rpm、送り速度5~100mm/s、押し込み量0.1~1.0mmという条件が用いられる。その後、純水やアルコールなどを用いて超音波洗浄によりラビングにより生じた残渣が除去される。
【0095】
光配向処理法の具体例としては、前記塗膜表面に、一定方向に偏向した放射線を照射し、場合によってはさらに150~250℃の温度で加熱処理を行い、液晶配向能を付与する方法が挙げられる。放射線としては、100nm~800nmの波長を有する紫外線および可視光線を用いることができる。このうち、100nm~400nmの波長を有する紫外線が好ましく、200nm~400nmの波長を有するものが特に好ましい。また、液晶配向性を改善するために、塗膜基板を50~250℃で加熱しつつ、放射線を照射してもよい。前記放射線の照射量は、1~10,000mJ/cm2が好ましく、100~5,000mJ/cm2が特に好ましい。上記のようにして作製した液晶配向膜は、液晶分子を一定の方向に安定して配向させることができる。
偏光された紫外線の消光比が高いほど、より高い異方性が付与できるため、好ましい。具体的には、直線に偏光された紫外線の消光比は、10:1以上が好ましく、20:1以上がより好ましい。
【0096】
上記で、偏光された放射線を照射した膜は、次いで水及び有機溶媒から選ばれる少なくとも1種を含む溶媒で接触処理してもよい。
接触処理に使用する溶媒としては、光照射によって生成した分解物を溶解する溶媒であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸メチル、ジアセトンアルコール、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及び酢酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を併用してもよい。
【0097】
汎用性や安全性の点から、水、2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール及び乳酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。水、2-プロパンール、及び水と2-プロパノールの混合溶媒が特に好ましい。
本発明において、偏光された放射線を照射した膜と有機溶媒を含む溶液との接触処理は、浸漬処理、噴霧(スプレー)処理などの、膜と液とが好ましくは十分に接触するような処理で行なわれる。なかでも、有機溶媒を含む溶液中に膜を、好ましくは10秒~1時間、より好ましくは1~30分浸漬処理する方法が好ましい。接触処理は常温でも加温してもよいが、好ましくは10~80℃、より好ましくは20~50℃で実施される。また、必要に応じて超音波などの接触を高める手段を施すことができる。
上記接触処理の後に、使用した溶液中の有機溶媒を除去する目的で、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの低沸点溶媒によるすすぎ(リンス)や乾燥のいずれか、又は両方を行ってよい。
【0098】
さらに、上記で溶媒による接触処理をした膜は、溶媒の乾燥及び膜中の分子鎖の再配向を目的に150℃以上で加熱してもよい。
加熱の温度としては、150~300℃が好ましい。温度が高いほど、分子鎖の再配向が促進されるが、温度が高すぎると分子鎖の分解を伴う恐れがある。そのため、加熱温度としては、180~250℃がより好ましく、200~230℃が特に好ましい。
加熱する時間は、短すぎると分子鎖の再配向の効果が得られない可能性があり、長すぎると分子鎖が分解してしまう可能性があるため、10秒~30分が好ましく、1分~10分がより好ましい。
【0099】
本発明の液晶配向膜を有する基板の製造方法としては、下記[I]ないし[IV]の工程を含むものが好ましい。
[I] (A-a)式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、(A-b)脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と式(2)で表されるジアミンを含むジアミン成分とを用いて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸のイミド化重合体から選ばれる少なくとも1種類の重合体、及び有機溶媒を含有する液晶配向剤を、横電界駆動用の導電膜を有する基板上に塗布して塗膜を形成する工程;
[II] [I]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する工程;及び
[III] [II]で得られた塗膜を加熱する工程;
を有する。
上記工程により、配向制御能が付与された横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を得ることができ、該液晶配向膜を有する基板を得ることができる。
【0100】
また、上記得られた基板(第1の基板)の他に、第2の基板を準備することにより、横電界駆動型液晶表示素子を得ることができる。
第2の基板は、横電界駆動用の導電膜を有する基板に代わって、横電界駆動用の導電膜を有しない基板を用いる以外、上記工程[I]~[III](横電界駆動用の導電膜を有しない基板を用いるため、便宜上、本願において、工程[I’]~[III’]と略記する場合がある)を用いることにより、配向制御能が付与された液晶配向膜を有する第2の基板を得ることができる。
【0101】
横電界駆動型液晶表示素子の製造方法は、
[IV] 上記で得られた第1及び第2の基板を、液晶を介して第1及び第2の基板の液晶配向膜が相対するように、対向配置して液晶表示素子を得る工程;
を有する。これにより横電界駆動型液晶表示素子を得ることができる。
【0102】
以下、本発明の製造方法の有する[I]~[III]、および[IV]の各工程について説明する。
<工程[I]>
工程[I]では、横電界駆動用の導電膜を有する基板上に、感光性の主型高分子及び有機溶媒を含有する重合体組成物を塗布して塗膜を形成する。
【0103】
<基板>
基板については、特に限定はされないが、製造される液晶表示素子が透過型である場合、透明性の高い基板が用いられることが好ましい。その場合、特に限定はされず、ガラス基板、またはアクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができる。
また、反射型の液晶表示素子への適用を考慮し、シリコンウェハなどの不透明な基板も使用できる。
【0104】
<横電界駆動用の導電膜>
基板は、横電界駆動用の導電膜を有する。
該導電膜として、液晶表示素子が透過型である場合、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)、IZO(Indium Zinc Oxide:酸化インジウム亜鉛)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、反射型の液晶表示素子の場合、導電膜として、アルミなどの光を反射する材料などを挙げることができるがこれらに限定されない。
基板に導電膜を形成する方法は、従来公知の手法を用いることができる。
【0105】
上述した重合体組成物を横電界駆動用の導電膜を有する基板上に塗布する方法は特に限定されない。
塗布方法は、工業的には、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷またはインクジェット法などで行う方法が一般的である。その他の塗布方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナ法(回転塗布法)またはスプレー法などがあり、目的に応じてこれらを用いてもよい。
【0106】
横電界駆動用の導電膜を有する基板上に重合体組成物を塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブンまたはIR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段により50~300℃、好ましくは50~180℃で溶媒を蒸発させて塗膜を得ることができる。このときの乾燥温度は、液晶配向安定性の観点から[III]工程よりも低いことが好ましい。
塗膜の厚みは、厚すぎると液晶表示素子の消費電力の面で不利となり、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、好ましくは5nm~300nm、より好ましくは10nm~150nmである。
尚、[I]工程の後、続く[II]工程の前に塗膜の形成された基板を室温にまで冷却する工程を設けることも可能である。
【0107】
<工程[II]>
工程[II]では、工程[I]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する。塗膜の膜面に偏光した紫外線を照射する場合、基板に対して一定の方向から偏光板を介して偏光された紫外線を照射する。使用する紫外線としては、波長100nm~400nmの範囲の紫外線を使用することができる。好ましくは、使用する塗膜の種類によりフィルター等を介して最適な波長を選択する。そして、例えば、選択的に光分解反応を誘起できるように、波長240nm~400nmの範囲の紫外線を選択して使用することができる。紫外線としては、例えば、高圧水銀灯又はメタルハライドランプから放射される光を用いることができる。
【0108】
偏光した紫外線の照射量は、使用する塗膜に依存する。照射量は、該塗膜における、偏光した紫外線の偏光方向と平行な方向の紫外線吸光度と垂直な方向の紫外線吸光度との差であるΔAの最大値(以下、ΔAmaxとも称する)を実現する偏光紫外線の量の1%~70%の範囲内とすることが好ましく、1%~50%の範囲内とすることがより好ましい。
【0109】
<工程[III]>
工程[III]では、工程[II]で偏光した紫外線の照射された塗膜を加熱する。加熱により、塗膜に配向制御能を付与することができる。
加熱は、ホットプレート、熱循環型オーブンまたはIR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段を用いることができる。加熱温度は、使用する塗膜で良好な液晶配向安定性及び電気特性を発現させる温度を考慮して決めることができる。
【0110】
加熱温度は、主鎖型高分子が良好な液晶配向安定性を発現する温度範囲内であることが好ましい。加熱温度が低すぎる場合、熱による異方性の増幅効果や熱イミド化が不十分となる傾向があり、また加熱温度が温度範囲よりも高すぎると、偏光露光によって付与された異方性が消失してしまう傾向があり、この場合自己組織化によって一方向に再配向することが困難になることがある。
【0111】
加熱後に形成される塗膜の厚みは、工程[I]で記した同じ理由から、好ましくは5nm~300nm、より好ましくは50nm~150nmであるのがよい。
以上の工程を有することにより、本発明の製造方法では、高効率な、塗膜への異方性の導入を実現することができる。そして、高効率に液晶配向膜付基板を製造することができる。
【0112】
<工程[IV]>
工程[IV]は、工程[III]で得られた、横電界駆動用の導電膜上に液晶配向膜を有する基板(第1の基板)と、同様に上記工程[I’]~[III’]で得られた、導電膜を有しない液晶配向膜付基板(第2の基板)とを、液晶を介して、双方の液晶配向膜が相対するように対向配置して、公知の方法で液晶セルを作製し、横電界駆動型液晶表示素子を作製する工程である。
なお、工程[I’]~[III’]は、工程[I]において、横電界駆動用の導電膜を有する基板の代わりに、該横電界駆動用導電膜を有しない基板を用いた以外、工程[I]~[III]と同様に行うことができる。工程[I]~[III]と工程[I’]~[III’]との相違点は、上述した導電膜の有無だけであるため、工程[I’]~[III’]の説明を省略する。
【0113】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤から前記液晶配向膜の製造方法によって液晶配向膜付きの基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作製し、それを使用して液晶表示素子としたものである。
液晶セル作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。尚、画像表示を構成する各画素部分にTFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。
まず、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えばITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされる。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成されたSiO2-TiO2からなる膜とすることができる。
【0114】
次に、各基板の上に、本発明の液晶配向膜を上記の方法で形成する。
一方の基板に他方の基板を互いの配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール材で接着する。シール材には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入しておく。また、シール材を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。シール材の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。
次に、シール材に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール材で包囲された空間内に液晶材料を注入する。その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付ける。以上の工程を経ることにより、本発明の液晶表示素子が得られる。
【0115】
本発明において、シール剤としては、例えば、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、ヒドロキシル基、アリル基、アセチル基などの反応性基を有する紫外線照射や加熱によって硬化する樹脂が用いられる。特に、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基の両方の反応性基を有する硬化樹脂系を用いるのが好ましい。
本発明のシール剤には接着性、耐湿性の向上を目的として無機充填剤を配合してもよい。使用しうる無機充填剤としては特に限定されないが、具体的には球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられ、好ましくは球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウムである。前記の無機充填剤は2種以上を混合して用いても良い。
【0116】
以上のようにして、本発明の重合体を用いて製造された横電界駆動型液晶表示素子用基板又は該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子は、少ない偏光紫外線照射量で、優れた液晶配向安定性と残留DCの緩和特性を発現することから、大画面で高精細の液晶テレビなどに好適に利用できる。また、本発明の方法によって製造された液晶配向膜は、信頼性に優れたものとなり、液晶を用いた可変位相器にも利用することができ、この可変位相器は、例えば共振周波数を可変できるアンテナなどに好適に利用できる。
【実施例】
【0117】
以下に、本発明について実施例等を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、化合物、溶媒の略号は、以下のとおりである。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
DA-1:下記構造式(DA-1)で表される化合物
DA-2:下記構造式(DA-2)で表される化合物
DA-3:下記構造式(DA-3)で表される化合物
DA-4:下記構造式(DA-4)で表される化合物
DA-5:下記構造式(DA-5)で表される化合物
DA-6:下記構造式(DA-6)で表される化合物
DA-7:下記構造式(DA-7)で表される化合物
CA-1:下記構造式(CA-1)で表される化合物
CA-2:下記構造式(CA-2)で表される化合物
CA-3:下記構造式(CA-3)で表される化合物
CA-4:下記構造式(CA-4)で表される化合物
【0118】
【0119】
【0120】
<粘度の測定>
合成例において、重合体溶液の粘度は、E型粘度計TVE-22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE-1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0121】
<合成例1>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-1を2.18g(5.40mmol)、DA-2を3.43g(12.6mmol)量り取り、NMPを55.8g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を3.25g(16.6mmol)添加し、さらにNMPを23.9g加え、窒素雰囲気下23℃で5時間撹拌してポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は178mPa・sであった。
このポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに30.2g分取し、NMPを16.8g、およびBCSを20.1g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-1)を得た。
【0122】
<合成例2>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-1を5.10g(12.6mmol)、DA-3を1.32g(5.40mmol)量り取り、NMPを61.8g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を2.19g(11.2mmol)、CA-2を1.21g(5.40mmol)添加し、さらにNMPを26.5g加え、窒素雰囲気下40℃で6時間撹拌してポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は193mPa・sであった。
このポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに31.3g分取し、NMPを17.4g、およびBCSを20.9g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-2)を得た。
【0123】
<合成例3>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-4を2.79g(14.0mmol)、DA-3を1.47g(6.00mmol)量り取り、NMPを50.5g加え、窒素を送りながら撹拌して溶解させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-3を5.59g(19.0mmol)添加し、さらにNMPを21.7g加え、窒素雰囲気下50℃で20時間撹拌してポリアミック酸の溶液を得た。このポリアミック酸の溶液の温度25℃における粘度は480mPa・sであった。
このポリアミック酸の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに29.0g分取し、NMPを25.1g、およびBCSを23.2g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-3)を得た。
【0124】
<合成例4>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-4を3.19g(16.0mmol)、DA-5を0.433g(4.00mmol)量り取り、NMPを47.3g加え、窒素を送りながら撹拌して溶解させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-3を5.59g(19.0mmol)添加し、さらにNMPを20.3g加え、窒素雰囲気下50℃で20時間撹拌してポリアミック酸の溶液を得た。このポリアミック酸の溶液の温度25℃における粘度は455mPa・sであった。
このポリアミック酸の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに30.7g分取し、NMPを26.6g、およびBCSを24.6g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-4)を得た。
【0125】
<合成例5>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-4を3.19g(16.0mmol)、DA-6を0.433g(4.00mmol)量り取り、NMPを47.3g加え、窒素を送りながら撹拌して溶解させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-3を5.59g(19.0mmol)添加し、さらにNMPを20.3g加え、窒素雰囲気下50℃で20時間撹拌してポリアミック酸の溶液を得た。このポリアミック酸の溶液の温度25℃における粘度は418mPa・sであった。
このポリアミック酸の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに30.1g分取し、NMPを26.1g、およびBCSを24.1g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-5)を得た。
【0126】
<合成例6>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-4を3.19g(16.0mmol)、DA-3を0.977g(4.00mmol)量り取り、NMPを41.0g加え、窒素を送りながら撹拌して溶解させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.65g(8.40mmol)添加し、窒素雰囲気下23℃で4時間撹拌した後に、CA-4を2.18g(10.0mmol)添加し、さらにNMPを17.6g加え、窒素雰囲気下50℃で18時間撹拌してポリアミック酸の溶液を得た。このポリアミック酸の溶液の温度25℃における粘度は246mPa・sであった。
このポリアミック酸の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに29.7g分取し、NMPを25.7g、およびBCSを23.8g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-6)を得た。
【0127】
<合成例7>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-7を3.97g(20.0mmol)量り取り、NMPを49.1g加え、窒素を送りながら撹拌して溶解させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-3を5.59g(19.0mmol)添加し、さらにNMPを21.0g加え、窒素雰囲気下50℃で20時間撹拌してポリアミック酸の溶液を得た。このポリアミック酸の溶液の温度25℃における粘度は376mPa・sであった。
このポリアミック酸の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに30.4g分取し、NMPを26.4g、およびBCSを24.3g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-7)を得た。
【0128】
<合成例8>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例1で得られた液晶配向剤(A-1)を8.07g、合成例3で得られた液晶配向剤(A-3)を12.1g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-8)を得た。
【0129】
<合成例9>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例1で得られた液晶配向剤(A-1)を8.12g、合成例4で得られた液晶配向剤(A-4)を12.2g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-9)を得た。
【0130】
<合成例10>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例1で得られた液晶配向剤(A-1)を8.21g、合成例5で得られた液晶配向剤(A-5)を12.3g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-10)を得た。
【0131】
<合成例11>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例2で得られた液晶配向剤(A-2)を6.02g、合成例6で得られた液晶配向剤(A-6)を14.0g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-11)を得た。
【0132】
<合成例12>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例2で得られた液晶配向剤(A-2)を6.11g、合成例7で得られた液晶配向剤(A-7)を14.3g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-12)を得た。
【0133】
<合成例13>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例1で得られた液晶配向剤(A-1)を4.24g、合成例3で得られた液晶配向剤(A-3)を16.96g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(A-13)を得た。
【0134】
<比較合成例1>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-1を2.18g(5.40mmol)、DA-2を3.43g(12.6mmol)量り取り、NMPを58.1g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-4を3.61g(16.6mmol)添加し、さらにNMPを24.9g加え、窒素雰囲気下50℃で18時間撹拌してポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は269mPa・sであった。
このポリアミック酸-ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに30.6g分取し、NMPを17.0g、およびBCSを20.4g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(B-1)を得た。
【0135】
<比較合成例2>
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-7を3.97g(20.0mmol)量り取り、NMPを39.5g加え、窒素を送りながら撹拌して溶解させた。このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を3.73g(19.0mmol)添加し、さらにNMPを16.9g加え、窒素雰囲気下23℃で4時間撹拌してポリアミック酸の溶液を得た。このポリアミック酸の溶液の温度25℃における粘度は265mPa・sであった。
このポリアミック酸の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに29.9g分取し、NMPを25.9g、およびBCSを23.9g加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(B-2)を得た。
【0136】
<比較合成例3>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、比較合成例1で得られた液晶配向剤(B-1)を8.14g、合成例3で得られた液晶配向剤(A-3)を12.2g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(B-3)を得た。
【0137】
<比較合成例4>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例2で得られた液晶配向剤(A-2)を6.07g、比較合成例2で得られた液晶配向剤(B-2)を14.2g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(B-4)を得た。
【0138】
<比較合成例5>
撹拌子を入れた50mL三角フラスコに、合成例2で得られた液晶配向剤(A-2)を10.1g、合成例7で得られた液晶配向剤(A-7)を10.1g量り取り、マグネチックスターラーで2時間撹拌して、液晶配向剤(B-5)を得た。
【0139】
<液晶配向安定性、及び残留DCの緩和特性評価用液晶セルの作製>
以下に、液晶配向安定性、及び残留DCの緩和特性を評価するための液晶セルの作製方法を示す。
FFS方式の液晶表示素子の構成を備えた液晶セルを作製した。初めに、電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×35mmの大きさで、厚さが0.7mmのガラス基板である。基板上には第1層目として対向電極を構成する、IZO電極を全面に形成した。第1層目の対向電極の上には、第2層目として、CVD法により成膜したSiN(窒化珪素)膜を形成した。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目として、IZO膜をパターニングして形成した櫛歯状の画素電極を配置し、第1画素及び第2画素の2つの画素を形成した。各画素のサイズは、縦10mm、横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により、電気的に絶縁されている。
【0140】
第3層目の画素電極は、特開2014-77845(日本国公開特許公報)に記載の図と同様、中央部分が屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極を、中央部分の屈曲した、くの字形状の電極要素を複数配列して構成したため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字の、くの字に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する偏光紫外線の偏光面を基板に投影した線分の方向を基準とした場合、画素の第1領域では、画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成し、画素の第2領域では、画素電極の電極要素が-10°の角度(時計回り)をなすように形成した。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が、互いに逆方向となるように構成した。
【0141】
次に、合成例8~12および比較合成例3~4で得られた液晶配向剤を、1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板に、スピンコート塗布にて塗布した。次いで、70℃に設定したホットプレート上で90秒間乾燥させた。次いで、ウシオ電機(株)製露光装置:APL-L050121S1S-APW01を用いて、基板に対して鉛直方向から、波長選択フィルターおよび偏光板を介して紫外線の直線偏光を照射した。このとき、偏光紫外線の偏光面を基板に投影した線分の方向が、3層目IZO櫛歯電極に対して10°傾いた方向となるように偏光面方向を設定した。次いで、230℃に設定したIR(赤外線)型オーブンで30分間焼成を行い、配向処理が施された膜厚100nmのポリイミド液晶配向膜付き基板を得た。また、対向基板として、裏面にITO電極が形成されている、高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板にも、上記と同様にして配向処理が施されたポリイミド液晶配向膜付き基板を得た。これら2枚の液晶配向膜付き基板を1組とし、片方の基板上に液晶注入口を残した形でシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合い、偏光紫外線の偏光面を基板に投影した線分の方向が平行になるようにして張り合わせて圧着した。その後、シール剤を硬化させて、セルギャップが4μmの空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-7026-100(メルク社製ネガ液晶)を注入し、注入口を封止して、FFS方式の液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを120℃で30分間加熱し、23℃で一晩放置してから、液晶配向安定性及び残留DCの緩和特性の評価に使用した。
【0142】
<液晶配向安定性の評価>
上記液晶セルを用い、60℃の恒温環境下、周波数30Hzで14VPPの交流電圧を96時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間を短絡させた状態にし、そのまま23℃で一晩放置した。
放置の後、液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。そして、第1画素の第2領域が最も暗くなる角度から第1領域が最も暗くなる角度まで液晶セルを回転させたときの回転角度を角度Δとして算出した。第2画素でも同様に、第2領域と第1領域とを比較し、同様の角度Δを算出した。そして、第1画素と第2画素の角度Δ値の平均値を液晶セルの角度Δとして算出した。この液晶セルの角度Δの値が0.4°未満の場合には「良好」、角度Δの値が0.4°以上の場合には「不良」と定義し評価した。
また、-20℃で8日間保存した液晶配向剤を使用した場合の角度Δの値をΔ[1]、23℃で8日間保存した液晶配向剤を使用した場合の角度Δの値をΔ[2]と定義して、23℃保存による角度Δの悪化度合いを、以下の計算式で算出した。
【0143】
23℃保存による角度Δの悪化度合い=Δ[2]÷Δ[1]×100
【0144】
この値が150未満の場合には「良好」、150以上の場合には「不良」と定義し評価した。
【0145】
<残留DCの緩和特性の評価>
上記液晶セルを、偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、画素電極と対向電極とを短絡して同電位にした状態で、2枚の偏光板の下からLEDバックライトを照射しておき、2枚の偏光板の上で測定するLEDバックライト透過光の輝度が最小となるように、液晶セルの角度を調節した。
次に、この液晶セルに周波数30Hzの矩形波を印加しながら、23℃の温度下でのV-T特性(電圧-透過率特性)を測定し、相対透過率が23%となる交流電圧を算出した。この交流電圧は電圧に対する輝度の変化が大きい領域に相当するため、輝度を介して残留DCを評価するのに都合がよい。
【0146】
次に、23℃の温度下において相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波を5分間印加した後、+1.0Vの直流電圧を重畳し30分間駆動させた。その後、直流電圧を切り、再び相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波のみを30分間印加した。
蓄積した電荷の緩和が速いほど、直流電圧を重畳したときの液晶セルへの電荷蓄積も速いことから、残留DCの緩和特性は、直流電圧を重畳した直後の相対透過率が30%以上の状態から、30分後の相対透過率がどの程度まで低下したのかで評価した。すなわち、直流電圧重畳30分後の相対透過率が29%未満まで低下した場合には「良好」、相対透過率が29%以上だった場合には「不良」と定義して評価を行った。
【0147】
<実施例1>
合成例8で得られた液晶配向剤(A-8)を-20℃で8日間保存したもの、及び23℃で8日間保存したものの2種類を用いて、上記記載のように液晶セルを作製した。偏光紫外線の照射は、高圧水銀灯を用いて、波長選択フィルター:240LCF、および254nmタイプの偏光板を介して行った。偏光紫外線の照射量は、ウシオ電機(株)製照度計UVD-S254SBを用いて光量を測定し、波長254nmで200、300、400、600、900、1500、2000mJ/cm2の照射量でそれぞれ変更して実施することにより、偏光紫外線照射量が異なる7個の液晶セルを作製した。
これらの液晶セルについて、液晶配向安定性を評価した結果、角度Δが最良だった偏光紫外線照射量は300mJ/cm2であり、角度Δ[1]は0.18°、角度Δ[2]は0.19°、23℃保存による角度Δの悪化度合いは106であり良好であった。
また、液晶配向安定性の評価の前に予め評価しておいた同じ偏光紫外線照射量の残留DCの緩和特性は、直流電圧重畳30分後の相対透過率が26.1%であり良好であった。
【0148】
<実施例2~6>
合成例9~13で得られた液晶配向剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、液晶配向安定性、残留DCの緩和特性を評価した。
【0149】
<比較例1~3>
比較合成例3~5で得られた液晶配向剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、液晶配向安定性、残留DCの緩和特性を評価した。
【0150】
実施例1~6および比較例1~3で用いた液晶配向剤について、(A-a)で表される重合体を含む液晶配向剤、(A-b)で表される重合体を含む液晶配向剤、(A-a)及び(A-b)で表される重合体を含む液晶配向剤中の、各々の重量%を、表1に示す。
表2に、実施例1~6および比較例1~3で得られた液晶配向剤を用いた際の、角度Δが最良だった偏光紫外線照射量、液晶配向安定性の評価の結果、残留DCの緩和特性の評価の結果を示す。
【0151】
【0152】
【0153】
表1に示すように、実施例1~6においては、交流駆動前後の配向方位角の差である角度Δは0.4°未満で良好であり、液晶配向剤を23℃で8日間保存した際の角度Δの悪化度合いも150未満で良好であり、300mJ/cm2という少ない偏光紫外線照射量で角度Δが最良となり、残留DCの緩和特性を示す直流電圧重畳30分後の相対透過率は29.0%未満で良好であり、いずれも良好な残像特性であることから、液晶表示素子の表示品質向上に優れる。一方、比較例1~3においては、角度Δ、角度Δの23℃保存による悪化度合い、偏光紫外線照射量、直流電圧重畳30分後の相対透過率の全てが良好な結果にはならなかった。
このように本発明の方法によって製造された液晶表示素子は、非常に優れた残像特性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の重合体を用いて製造された横電界駆動型液晶表示素子用基板又は該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子は、少ない偏光紫外線照射量で、優れた液晶配向安定性と残留DCの緩和特性を発現することから、生産性や残像特性に優れる。よって、大画面で高精細の液晶テレビなどに好適に利用できる。