(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】屈曲基材の製造方法及び屈曲基材の成形型
(51)【国際特許分類】
C03B 23/025 20060101AFI20221220BHJP
C03B 23/035 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C03B23/025
C03B23/035
(21)【出願番号】P 2019552819
(86)(22)【出願日】2018-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2018041247
(87)【国際公開番号】W WO2019093341
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017217135
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 弘輝
(72)【発明者】
【氏名】金杉 諭
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-512183(JP,A)
【文献】米国特許第02840953(US,A)
【文献】英国特許出願公告第00674495(GB,A)
【文献】特開平06-219759(JP,A)
【文献】特開平02-026845(JP,A)
【文献】特表平08-501272(JP,A)
【文献】特開平11-263634(JP,A)
【文献】特開2016-169121(JP,A)
【文献】特開2011-176053(JP,A)
【文献】特表2004-527438(JP,A)
【文献】特表2006-521273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/025
C03B 23/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリフォーム基材を成形型の成形面に沿わせて少なくとも一部が湾曲した屈曲基材に成形する製造方法であって、
前記成形面の任意の点における鉛直方向のうち、前記プリフォーム基材が成形時に湾曲する方向を下方、反対向きを上方、上面視において前記成形面以外を外側とすると、
前記屈曲基材の外形と同一外形を有する前記成形面の上方から前記プリフォーム基材を載置させる基材載置工程と、
前記プリフォーム基材を加熱して軟化させることで、自重によって前記プリフォーム基材を前記成形面に沿わせて前記屈曲基材に成形する成形工程と、を含み、
前記基材載置工程において、前記成形面の外側から前記成形面の縁部へ向かって傾斜するガイド部を有するガイド部材を備えた成形型に前記プリフォーム基材を載置させ、
前記成形工程において、前記プリフォーム基材の周縁部を前記ガイド部に接触させて滑らせることで前記プリフォーム基材の周縁部を前記成形面の縁部に向かって案内させる、屈曲基材の製造方法。
【請求項2】
前記ガイド部材を、少なくとも前記成形面を挟んだ対向位置に設ける、請求項1に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項3】
前記プリフォーム基材の周縁部における角部を予め面取りしておく、請求項1または請求項2に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項4】
前記ガイド部材の前記ガイド部は、前記成形工程での温度における静止摩擦係数が0.5以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項5】
前記プリフォーム基材を、前記屈曲基材を平坦にしたときの外形に形成しておく、請求項1から4のいずれか一項に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程において前記プリフォーム基材を前記成形面に沿わせた後に、前記成形面に設けた吸着孔から吸引して前記プリフォーム基材を前記成形面に吸着させる吸着工程を行う、請求項1から5のいずれか一項に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項7】
前記ガイド部材の根元に、前記プリフォーム基材の縁部が係止可能なストレート部を設ける、請求項1から6のいずれか一項に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項8】
前記ガイド部材として、下方へ向かって断面積が大きくなるピン状のガイド部材を前記成形型に設け、前記ガイド部材の線状に形成され
た前記ガイド部に前記プリフォーム基材の周縁部を点接触させる、請求項1から7のいずれか一項に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項9】
前記ガイド部材として、下方へ向かって断面積が大きくなるブロック状のガイド部材を前記成形型に設け、前記ガイド部材の面状に形成
された前記ガイド部に前記プリフォーム基材の周縁部を線接触させる、請求項1から7のいずれか一項に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項10】
前記プリフォーム基材をガラス板によって成形する、請求項1から9のいずれか一項に記載の屈曲基材の製造方法。
【請求項11】
プリフォーム基材を成形型の成形面に沿わせて少なくとも一部が湾曲した屈曲基材に成形する成形型であって、
前記屈曲基材の外形と同一外形を有する前記成形面と、
前記成形面の外側から前記成形面の縁部へ向かって傾斜するガイド部を有するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記プリフォーム基材の周縁部を前記ガイド部に接触させて滑らせることで、前記プリフォーム基材の周縁部を前記成形面の縁部に向かって案内する、
屈曲基材の成形型。
【請求項12】
前記ガイド部は、表面粗さが50nm~1000nmである、請求項11に記載の屈曲基材の成形型。
【請求項13】
前記ガイド部は、傾斜角度が45°~89°である、請求項11または12に記載の屈曲基材の成形型。
【請求項14】
前記ガイド部は、前記プリフォーム基材
を前記屈曲基材に成形する際の成形温度における静止摩擦係数が0.5以下である、請求項11から13のいずれか一項に記載の屈曲基材の成形型。
【請求項15】
前記ガイド部の静止摩擦係数は0.01以上0.5以下である、請求項14に記載の屈曲基材の成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲基材の製造方法及び屈曲基材の成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
平坦状の板ガラスを所望の形状に成形する技術として、型を傾けることで平坦な板ガラスの一方の縁部を型の位置合わせピンに当接させ、その状態で加熱することで、板ガラスを型の成形面上へサギングさせて成形ガラス物品の表面形状をとるように形成する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように、単に板ガラスを成形面上へサギングさせただけでは、成形後の屈曲基材の外形を目標とする最終外形に合わせるのが困難である。このため、上記の成形方法では外形寸法精度の悪いガラス物品になるおそれがあった。上記の成形方法で外形寸法精度を向上するためには、成形後に成形ガラス物品の周縁部を研削して目標とする最終外形に仕上げる煩雑な後加工が必要であった。
しかも、上記成形方法では、型を傾けて板ガラスを成形するため、板ガラスに偏って重力が作用し、歪みが生じて品質が低下するおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、成形面へ高精度に位置決めして高品質な屈曲基材を容易に成形できる屈曲基材の製造方法及び屈曲基材の成形型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記構成からなる。
(1) プリフォーム基材を成形型の成形面に沿わせて少なくとも一部が湾曲した屈曲基材に成形する製造方法であって、
前記成形面の任意の点における鉛直方向のうち、前記プリフォーム基材が成形時に湾曲する方向を下方、反対向きを上方、上面視において前記成形面以外を外側とすると、
前記屈曲基材の外形と同一外形を有する前記成形面の上方から前記プリフォーム基材を載置させる基材載置工程と、
前記プリフォーム基材を加熱して軟化させることで、自重によって前記プリフォーム基材を前記成形面に沿わせて前記屈曲基材に成形する成形工程と、を含み、
前記基材載置工程において、前記成形面の外側から前記成形面の縁部へ向かって傾斜するガイド部を有するガイド部材を備えた成形型に前記プリフォーム基材を載置させ、
前記成形工程において、前記プリフォーム基材の周縁部を前記ガイド部に接触させて滑らせることで前記プリフォーム基材の周縁部を前記成形面の縁部に向かって案内させる、屈曲基材の製造方法。
(2) プリフォーム基材を成形型の成形面に沿わせて少なくとも一部が湾曲した屈曲基材に成形する成形型であって、
前記屈曲基材の外形と同一外形を有する前記成形面と、
前記成形面の外側から前記成形面の縁部へ向かって傾斜するガイド部を有するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記プリフォーム基材の周縁部を前記ガイド部に接触させて滑らせることで、前記プリフォーム基材の周縁部を前記成形面の縁部に向かって案内する、
屈曲基材の成形型。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば成形面へ高精度に位置決めして高品質な屈曲基材を容易に成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】
(A)から(C)は、本実施形態に係る屈曲基材の縁部における
面取り形状を
示す断面図である。
【
図4】屈曲基材及びプリフォーム基材の斜視図である。
【
図5】屈曲基材及びプリフォーム基材の平面図である。
【
図6】プリフォーム基材を屈曲基材に成形する成形装置の斜視図である。
【
図7】プリフォーム基材を屈曲基材に成形する成形装置の平面図である。
【
図9】成形装置を用いた屈曲基材の成形方法を説明する図であって、(a)から(c)は、それぞれ成形工程における成形装置の斜視図である。
【
図10】成形によるプリフォーム基材の外形の変動及び位置決めについて説明する成形装置の一部の平面図である。
【
図11】プリフォーム基材を屈曲基材に成形する成形の具体例を説明する図であって、(a)から(f)は、それぞれ成形工程における成形装置の概略斜視図である。
【
図12】プリフォーム基材を屈曲基材に成形する成形の具体例を説明する図であって、(a)から(f)は、それぞれ成形工程における成形装置の概略側面図である。
【
図13】プリフォーム基材を屈曲基材に成形する成形の具体例を説明する図であって、(a)から(f)は、それぞれ成形工程における成形装置の概略平面図である。
【
図14】他の実施形態で用いられる成形装置の斜視図である。
【
図15】他の実施形態で用いられる成形装置の平面図である。
【
図17】成形装置を用いた屈曲基材の成形方法を説明する図であって、(a)から(c)は、それぞれ成形工程における成形装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、屈曲基材10としてガラス板を例示して説明する。
図1は、本実施形態に係る屈曲基材10の斜視図である。
図2は、本実施形態に係る屈曲基材10の平面図である。
図3の(A)から(C)は、本実施形態に係る屈曲基材10の縁部における
面取り形状を示す断面図である。
【0010】
図1及び
図2に示すように、屈曲基材10は、一方の主面11(図中の下面)と、他方の主面12(図中の主面11の反対面である上面)と、を有するガラス板である。この屈曲基材10は、X方向及びY方向に沿ってそれぞれ下方へ凹状に湾曲した三次元形状を有する基材である。この屈曲基材10は、例えば、ヘッドアップディスプレイのミラーや車載品のカバーガラス等の基材として用いられる。
図3の(A)に示すように、屈曲基材10は、その縁部における角部13に凸曲面状に面取り加工が施されている。
角部13の面取り形状は、図3の(A)に示す両面C面取り形状や、図3の(B)に示す両面R面取り形状がある。また、図3の(C)に示すように、少なくともガイド部53と角部13との接触部がR面取りされている片面R面取り形状が好ましい。面取りRは単曲ではなくスプライン曲線でも良い。
図3の(C)に示す片面R面取り形状の面取り最小半径は、0.1mm以上が好ましい。それにより接触時の集中荷重を分散でき、成形中のガラスへの傷を抑制できる。さらに、片面R面取り形状の最小面取り半径は20mm以下が好ましい。それにより成形中にガイド部と角部とが点接触しやすくなり、ガラスが滑りやすい。R面取り部の境界部は曲率が連続となるようにつながっていてもよいし、C面取りして角を取っても良い。
【0011】
屈曲基材10のX方向寸法a、Y方向寸法b、板厚tは特に限定されない。板厚tは、屈曲基材10の全域で略一定にするのが好ましい。また、板厚tは、部分的に変化してもよく、屈曲基材10の全域で変化しても良い。
【0012】
屈曲基材10としては、無色透明の非晶質ガラスの他、結晶化ガラスや色ガラス等のガラス板が挙げられる。
【0013】
更に詳細には、ガラスとして、例えば、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラスを使用できる。厚さが薄くても強化処理によって大きな応力が入りやすく薄くても高強度なガラスが得られるアルミノシリケートガラスが好ましい。
【0014】
ガラス組成の具体例としては、酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiO2を50~80%、Al2O3を0.1~25%、Li2O+Na2O+K2Oを3~30%、MgOを0~25%、CaOを0~25%及びZrO2を0~5%含むガラスが挙げられるが、特に限定されない。より具体的には、以下のガラスの組成が挙げられる。なお、例えば、「MgOを0~25%含む」とは、MgOは必須ではないが25%まで含んでもよい、の意である。(i)のガラスはソーダライムシリケートガラスに含まれ、(ii)及び(iii)のガラスはアルミノシリケートガラスに含まれる。(v)のガラスはリチウムアルミノシリケートガラスに含まれる。
(i)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiO2を63~73%、Al2O3を0.1~5.2%、Na2Oを10~16%、K2Oを0~1.5%、Li2Oを0~5%、MgOを5~13%及びCaOを4~10%を含むガラス。
(ii)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を50~74%、Al2O3を1~10%、Na2Oを6~14%、K2Oを3~11%、Li2Oを0~5%、MgOを2~15%、CaOを0~6%及びZrO2を0~5%含有し、SiO2及びAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2O及びK2Oの含有量の合計が12~25%、MgO及びCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス。
(iii)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を68~80%、Al2O3を4~10%、Na2Oを5~15%、K2Oを0~1%、Li2Oを0~5%、MgOを4~15%及びZrO2を0~1%含有するガラス。
(iv)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を67~75%、Al2O3を0~4%、Na2Oを7~15%、K2Oを1~9%、Li2Oを0~5%、MgOを6~14%及びZrO2を0~1.5%含有し、SiO2及びAl2O3の含有量の合計が71~75%、Na2O及びK2Oの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
(v)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を56~73%、Al2O3を10~24%、B2O3を0~6%、P2O5を0~6%、Li2Oを2~7%、Na2Oを3~11%、K2Oを0~2%、MgOを0~8%、CaOを0~2%、SrOを0~5%、BaOを0~5%、ZnOを0~5%、TiO2を0~2%、ZrO2を0~4%を含むガラス。
【0015】
ガラス板は、例えば、化学強化処理を適切に行うため、そのガラス組成におけるLi2OとNa2Oの含有量の合計は12モル%以上が好ましい。更に、ガラス組成におけるLi2Oの含有率が増加するとガラス転移点が下がり成形が容易となるため、Li2Oの含有率は0.5モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、2モル%以上が更に好ましい。更に、表面圧縮応力(Compressive Stress;以下、CSとも略す)及び表面圧縮応力層深さ(Depth of Layer;以下、DOLとも略す)を大きくするため、ガラス組成がSiO2を60モル%以上、Al2O3を8モル%以上含むことが好ましい。
【0016】
更に、ガラス板に着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色剤を添加してもよい。例えば、可視域に吸収を持つ、Co、Mn、Fe、Ni、Cu、Cr、V、Bi、Se、Ti、Ce、Er、及びNdの金属酸化物である、Co3O4、MnO、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cu2O、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、TiO2、CeO2、Er2O3、Nd2O3等が挙げられる。
【0017】
ガラス板に着色ガラスを用いる場合、ガラス中に酸化物基準のモル百分率表示で、着色成分(Co、Mn、Fe、Ni、Cu、Cr、V、Bi、Se、Ti、Ce、Er、及びNdの金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1成分)を7%以下の範囲で含有してよい。着色成分が7%を超えると、ガラスが失透しやすくなる。この含量は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましい。また、ガラス板は溶融の際の清澄剤として、SO3、塩化物、フッ化物などを適宜含有してよい。
【0018】
ここで、屈曲基材10の素材として使用できる平板状ガラスであるプリフォーム基材10Pの製造方法について説明する。まず、各成分の原料を前述した組成となるように調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、公知の成形法により所定の厚さのガラス板を作製し、徐冷する。ガラスの作製法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法、ダウンドロー法及びロールアウト法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好適である。また、フロート法以外の連続作製法、すなわち、フュージョン法及びダウンドロー法も好適である。任意の作製法により平板状に作製されたガラス板は、徐冷後、所望のサイズに切断され、平板状ガラスが得られる。なお、より正確な寸法精度が必要な場合等には、切断後のガラス板に研磨・研削加工や端面加工、孔あけ加工を施してもよい。これにより、加熱工程などでのハンドリングにおいて割れや欠けを低減でき歩留まりを向上できるようになる。
【0019】
屈曲基材10は、処理層を有していてもよい。処理層には特に制限はない。処理層としては、例えば、反射光を散乱させ、光源の映り込みによる反射光の眩しさを低減する効果をもたらす防眩層が挙げられる。処理層は屈曲基材10自体の主面11,12を加工して形成してもよく、別途堆積処理方法により形成してもよい。処理層の形成方法として、例えば、屈曲基材10の少なくとも一部に化学的処理あるいは物理的処理により表面処理を施せばよい。防眩層の場合、所望の表面粗さの凹凸形状を形成する方法を使用できる。また、処理液を塗布あるいは噴霧する堆積処理方法や、成形等の熱的処理方法により屈曲基材10の少なくとも一部に凹凸形状を形成してもよい。処理層として、その他、反射防止層(AR層)や耐指紋拭取層(AFP層)を形成してよい。
【0020】
屈曲基材10がガラスである場合には、成形に使用するガラスの厚さtとしては0.5mm以上5mm以下が好ましい。この下限値以上の厚さを備えたガラスであれば、高い強度と良好な質感を屈曲基材10が得られる。また、ガラスの厚さtとしては0.7mm以上3mm以下がより好ましく、1mm以上3mm以下が更に好ましい。
【0021】
図4は、屈曲基材10及びプリフォーム基材10Pの斜視図である。
図5は、屈曲基材10及びプリフォーム基材10Pの平面図である。
【0022】
図4及び
図5に示すように、屈曲基材10は、平坦なプリフォーム基材10Pを湾曲させることで得られたものである。プリフォーム基材10Pは、成形品である屈曲基材10の形状から逆計算して得られた平坦なガラス板である。具体的には、プリフォーム基材10Pは、屈曲基材10をシミュレーションによって等分布荷重で平坦にすることで得られたもので、
図5に示すように、平面視において、屈曲基材10よりも大きな外形を有する平坦なガラス板である。
【0023】
次に、屈曲基材10を製造する成形装置を説明する。
図6は、プリフォーム基材10Pを屈曲基材10に成形する成形装置20の斜視図である。
図7は、プリフォーム基材10Pを屈曲基材10に成形する成形装置20の平面図である。
図8は、成形装置20及びガイド部材50の斜視図である。
【0024】
図6及び
図7に示すように、成形装置20は、成形型30と、ガイド部材50とを備えている。成形装置20は、屈曲基材10の素材である平坦なプリフォーム基材10Pを湾曲させて屈曲基材10に成形する装置である。
【0025】
成形型30は、その上面に、成形面31を有しており、この成形面31の周囲にガイド部材50が設けられている。成形面31は、Y方向及びX方向に沿ってそれぞれ下方へ凹状に湾曲した三次元形状に形成されている。成形面31は、屈曲基材10の素材となるプリフォーム基材10Pの一方の主面11が密着されることで、プリフォーム基材10Pを屈曲基材10の形状に成形する成形面である。ガイド部材50は、プリフォーム基材10Pを成形面31へ案内して位置決めする部材である。この成形面31を有する成形型30には、成形面31の上方からプリフォーム基材10Pが載置される。成形型30に載置されるプリフォーム基材10Pは、ガイド部材50によって案内されて成形面31上へ位置決めされる。具体的に、本実施形態では、プリフォーム基材10Pは、略矩形形状であるため、複数のガイド部材50は、プリフォーム基材10Pの長手方向(Y方向)両側と、プリフォーム基材10Pの短手方向(X方向)両側に、それぞれ配置されている。
【0026】
成形面31には、複数の吸引孔32が形成されている。これらの吸引孔32には、真空ポンプ(図示略)からの吸引ホース(図示略)が接続されており、真空ポンプによって吸引可能とされている。成形型30には、その上面における成形面31の周囲に複数の嵌合凹部33が形成されており、これらの嵌合凹部33に、ガイド部材50が嵌合されて装着されている。これにより、成形型30には、複数のガイド部材50が、成形面31の周囲に間隔をあけて立設されている。
【0027】
成形型30の材質はステンレス鋼等の耐酸化性のある金属、ヒューズドシリカガラスなどのガラス、セラミック、カーボンが好ましく、ヒューズドシリカガラスなどのガラス及びカーボンがより好ましい。ヒューズドシリカは高温かつ酸化雰囲気での耐性が高く、また成形面31に接触するプリフォーム基材10Pに欠点を形成しにくく、傷の少ない表面の屈曲基材10が得られる。カーボンは熱伝導率が高く屈曲基材10を効率的に生産できる。なお、成形型30の成形面31には、金属や酸化物、カーボン等の被膜が形成されていてもよい。
【0028】
図8に示すように、ガイド部材50は、ピン状に形成されており、ストレート部51と、傾斜部52とを有している。ストレート部51は、円柱状に形成されており、傾斜部52は、円錐状に形成されている。これにより、ガイド部材50は、その傾斜部52が、下方へ向かって断面積が次第に大きくなる形状とされている。
【0029】
ガイド部材50は、ストレート部51を成形型30の嵌合凹部33に嵌合させることで、成形型30の成形面31の周囲に立設される。ガイド部材50は、嵌合凹部33に嵌合された状態で、ストレート部51の上端部分が成形型30の上面から僅かに突出される。このストレート部51の成形型30の上面からの突出寸法は、成形面31と最近接する箇所で0mm以上であり、プリフォーム基材10Pの厚みtと同一寸法以下が好ましい。
【0030】
ガイド部材50は、成形型30の嵌合凹部33にストレート部51が嵌合されて成形型30に装着された状態で、傾斜部52における成形面31側が線状のガイド部53とされる。ガイド部53は、成形面31の外側から成形面31の縁部へ向かって傾斜されており、このガイド部53には、プリフォーム基材10Pの周縁部が点接触される。
【0031】
ガイド部材50のガイド部53は、プリフォーム基材10Pを屈曲基材10に成形する際の成形温度における静止摩擦係数が0.5以下とされている。プリフォーム基材10Pを屈曲基材10に成形する際の成形温度としては、ガラス転移点温度以上、融点以下、又はプリフォーム基材10Pの平衡粘性が1017Pa・s以下になる温度が好ましく、例えば、500℃~700℃が好ましい。なお、ガイド部53の静止摩擦係数は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。これはガイド部53との接触抵抗によるプリフォーム基材10Pの局所変形を抑制するためである。また、ガイド部53の静止摩擦係数は下限値に特に制限はないが、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。これはプリフォーム基材10Pの初期設置時にプリフォーム基材10Pの位置が極端にずれないようにするためである。なお、静摩擦係数は、JIS K 7125に記載の方法で測定できる。
【0032】
ガイド部53は、表面粗さが50nm~1000nmとされている。なお、ガイド部53の表面粗さRaは1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。これはプリフォーム基材10Pとの接触面がある程度の面強度を保つためである。また、ガイド部53の表面粗さRaは50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。これはプリフォーム基材10Pとの真実接触面を減らして摩擦による抵抗力を減らし、プリフォーム基材10Pの局所変形を防ぐためである。
【0033】
ガイド部53は、ストレート部51の底面に対する傾斜角度が45°~89°とされている。なお、ガイド部53の傾斜角度は89°以下が好ましく、80°以下がより好ましい。これは成形時のプリフォーム基材10Pとガイド部53との垂直応力を減らして摩擦力を減らし、プリフォーム基材10Pの局所変形を抑えるためである。また、ガイド部53の傾斜は45°以上が好ましく、50°以上がより好ましい。これはプリフォーム基材10Pが最終的にガイド部53に乗り上げたままとなって局所変形するのを防ぐためである。
【0034】
ガイド部材50の材質はステンレス鋼等の耐酸化性のある金属、ヒューズドシリカガラスなどのガラス、セラミック、カーボンが好ましい。また、ガイド部材50は、少なくともプリフォーム基材10Pの周縁部が接触するガイド部53に、低摩擦材をコーティングしておくのが好ましい。この低摩擦材のコーティングとしては、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)、窒化ホウ素(BN)などが好ましい。ガイド部材50としては、例えば、外周面にカーボン等の被膜を形成してもよく、また、カーボン単体から形成してもよい。また、ガラスの縁部にコーティングしても良い。低摩擦材のコーティングとしては、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)、窒化ホウ素(BN)、カーボン(C)などが好ましい。そして、低摩擦材を少なくともガイド部53にコーティングしたり、ガラス縁部にコーティングしたり、ガイド部材50自体の材質を選択することで、ガイド部53が所望の静止摩擦係数とされている。
【0035】
屈曲基材10を成形する成形装置20の成形型30は、搬出入ゾーン、加熱ゾーン及び徐冷ゾーンを有する加熱炉(図示略)の内部を一周期として移動される。そして、成形型30は、加熱炉の搬出入ゾーン、加熱ゾーン及び徐冷ゾーンの移動が繰り返されることで、屈曲基材10を連続生産する。
【0036】
次に、上記の成形装置20を用いた屈曲基材10の成形方法について説明する。
図9は、成形装置20を用いた屈曲基材10の成形方法を説明する図であって、
図9の(a)から(c)は、それぞれ成形工程における成形装置20の斜視図である。
図10は、成形によるプリフォーム基材10Pの外形の変動及び位置決めについて説明する成形装置20の一部の平面図である。
【0037】
(プリフォーム基材の成形)
まず、シミュレーションによって屈曲基材10を等分布荷重で平坦にすることで得られた外形のプリフォーム基材10Pを準備する(
図4,
図5参照)。
【0038】
(基材載置工程)
加熱炉の搬出入ゾーンにおいて、
図9(a)に示すように、成形装置20にプリフォーム基材10Pをセットする。具体的には、プリフォーム基材10Pを、搬送機構(図示略)によって成形装置20の成形型30の上方から複数のガイド部材50の内側に載置させる。このとき、平坦なプリフォーム基材10Pは、屈曲基材10と平面視の外形が同一の成形面31よりも平面視の外形が大きい。このため、
図10に示すように、プリフォーム基材10Pは、周縁部が成形面31からはみ出し、成形面31の周囲に立設されたガイド部材50の傾斜部52のガイド部53に当接されて係止される(
図10中点線参照)。これにより、プリフォーム基材10Pは、その周縁部がガイド部材50の傾斜部52に支持され、成形面31に対して上方へ離間した位置に配置される。なお、成形型30は、加熱炉で400℃程度に加熱された状態とされている。
【0039】
(成形工程)
成形型30は、加熱炉の加熱ゾーンへ移動する。これにより、プリフォーム基材10Pが成形温度に加熱される。
【0040】
図9(b)に示すように、プリフォーム基材10Pは、成形温度に加熱されることで軟化する。すると、プリフォーム基材10Pは、周縁部がガイド部材50のガイド部53と接触していることから、その中央部分が自重によって垂下する。これにより、プリフォーム基材10Pは、その平面視における外形が次第に小さくなり、ガイド部53に接触している周縁部は、ガイド部53に接触しながら自重により滑り落ちる。これにより、
図9(c)に示すように、プリフォーム基材10Pは、ガイド部53によって成形面31に案内されることで、
図10に示すように、成形面31に位置合わせされつつ成形型30の成形面31上に自重で垂下して配置される(
図10中実線参照)。なお、プリフォーム基材10Pの中央部が自重により垂下する際に、プリフォーム基材10Pの上面から少なくとも一部に押圧してもよい。
【0041】
この成形工程において、例えば、プリフォーム基材10Pの重心が中央からずれていたり、プリフォーム基材10Pが傾いてセットされると、プリフォーム基材10Pは、重心側や傾きの下方側が先に滑り落ち、一方の端部の縁部がガイド部材50のストレート部51に接触する。この場合、その後にプリフォーム基材10Pが軟化して自重による撓みが大きくなると、プリフォーム基材10Pは、ストレート部51との接触箇所を基点として、中央部分が成形面31へ近づき、一方の端部以外の縁部がガイド部53に接触しながら滑り落ち、成形面31に位置合わせされて成形面31上に配置される。なお、ガイド部材50に振動を加えることですべり性を向上しても良い。
【0042】
(吸着工程)
プリフォーム基材10Pが成形型30の成形面31上に配置された状態で真空ポンプが駆動し、成形面31に形成された吸引孔32から成形面31とプリフォーム基材10Pとの間の空気が吸引される。これにより、プリフォーム基材10Pは、成形面31に高精度に位置決めされた状態で成形面31に密着され、成形面31の曲面形状が転写されて所望の湾曲形状の屈曲基材10とされる。なお、プリフォーム基材10Pは真空ポンプによる吸引で曲面形状を付与するだけでなく、プリフォーム基材10Pの上面から少なくとも一部に押圧してもよく、これらを組み合わせてよい。
【0043】
(徐冷及び取出工程)
その後、屈曲基材10が成形面31に密着された成形型30は、徐冷ゾーンへ移動され、これにより、屈曲基材10が歪点以下まで冷却される。そして、冷却された屈曲基材10は、搬送機構によって成形型30から取り出される。屈曲基材10が取り出された成形型30には、次の屈曲基材10の成形のためのプリフォーム基材10Pが載置される。
【0044】
ここで、厚みtが1.8mmのプリフォーム基材10Pを成形装置20によって成形して屈曲基材10とするときの成形の具体例を説明する。なお、成形型30のガイド部53の静止摩擦係数を0.1とし、成形温度を630℃とする。
【0045】
図11の(a)から
図13の(f)は、プリフォーム基材10Pを屈曲基材10に成形する成形の具体例を説明する図である。
図11の(a)から(f)は、それぞれ成形工程における成形装置20の概略斜視図であり、
図12の(a)から(f)は、それぞれ成形工程における成形装置20の概略側面図であり、
図13の(a)から(f)は、それぞれ成形工程における成形装置20の概略平面図である。
【0046】
プリフォーム基材10Pを成形型30にセットした状態(
図11(a)、
図12(a)及び
図13(a)参照)からプリフォーム基材10Pを成形温度(630℃)に加熱すると、周縁部がガイド部53に支持されたプリフォーム基材10Pは、セット時から約1秒後に、中央側が自重で僅かに撓み、平面視における外形が僅かに小さくなる。
【0047】
すると、プリフォーム基材10Pは、重心側が先に滑り落ち、一方の端部の縁部がガイド部材50のストレート部51に接触する(
図11(b)、
図12(b)及び
図13(b)参照)。
【0048】
セット時から約3秒後、プリフォーム基材10Pはさらに軟化することで自重による撓みが大きくなり、その中央部分が成形面31へ近づき(
図11(c)、
図12(c)及び
図13(c)参照)、一方の端部以外の縁部がガイド部53に接触しながら滑り落ちる。
【0049】
セット時から約10秒後、プリフォーム基材10Pは、成形面31に位置決めされ、その周縁部がガイド部材50のストレート部51に接触し、主面11の外周側が成形面31に接触する(
図11(d)、
図12(d)及び
図13(d)参照)。
【0050】
セット時から約110秒後、プリフォーム基材10Pは、成形面31に対して中央部分に僅かに隙間をあけ、この中央部分を除く他の部分が密着した状態となる(
図11(e)、
図12(e)及び
図13(e)参照)。
【0051】
この状態において、真空ポンプによって0.08MPaで吸引孔32から成形面31とプリフォーム基材10Pとの間の空気を吸引すると、プリフォーム基材10Pの下方側の主面11の全体が成形面31に高精度に位置決めされた状態で密着される(
図11(f)、
図12(f)及び
図13(f)参照)。これにより、プリフォーム基材10Pは、成形面31の曲面形状が転写されて所望の湾曲形状の屈曲基材10とされる。
【0052】
このように、本実施形態に係る屈曲基材10の製造方法によれば、プリフォーム基材10Pを垂下させて成形面31に沿わせることで、少なくとも一部が湾曲した高品質な屈曲基材10を容易に成形できる。しかも、プリフォーム基材10Pを自重によって屈曲基材10に成形する際に、ガイド部材50のガイド部53によってプリフォーム基材10Pの周縁部を成形面31の周縁に向かって案内させるので、屈曲基材10の外形と同一外形を有する成形面31にプリフォーム基材10Pを精度良く位置決めできる。これにより、成形後に研削して外形を最終外形に仕上げる煩雑な後加工を不要にできる。このように、成形型30の成形面31へプリフォーム基材10Pを高精度に位置決めして高品質な屈曲基材10を容易に成形できる。屈曲基材10の外形と同一外形を有する成形面31とは、屈曲基材10の外形と成形面31の外形とが完全同一である必要はなく、少なくとも一部が一致していればよく、50%以上一致するのが好ましく、70%以上一致するのがより好ましい。
【0053】
特に、プリフォーム基材10Pを湾曲させる方向における成形面31を挟んだ対向位置に設けたガイド部材50のガイド部53によって、自重で垂下するプリフォーム基材10Pの周縁部を成形面31の周縁に向かって円滑に案内させて成形面31にプリフォーム基材10Pを精度良く位置決めできる。
【0054】
しかも、プリフォーム基材10Pの周縁部の角部13を予め面取りしておくことで、ガイド部材50のガイド部53に対するプリフォーム基材10Pの周縁部の滑りをよくできる。これにより、プリフォーム基材10Pの周縁部をガイド部53によって円滑に成形面31の縁部へ案内する。
【0055】
また、ガイド部材50のガイド部53の静止摩擦係数を、成形工程での温度において0.5以下とすることで、ガイド部材50のガイド部53に対するプリフォーム基材10Pの周縁部の滑りをよくできる。これにより、プリフォーム基材10Pの周縁部をガイド部53によって円滑に成形面31の縁部へ案内する。
【0056】
また、プリフォーム基材10Pを、屈曲基材10を平坦にしたときの外形に形成しておくことで、プリフォーム基材10Pを成形して屈曲基材10とした際に、成形された屈曲基材10を正確に目標の外形とできる。
【0057】
さらに、吸着工程によってプリフォーム基材10Pを確実に成形面31に密着する。これにより、成形精度をさらに高めて品質を向上できる。
【0058】
また、成形工程において、プリフォーム基材10Pの周縁部の一部は、ガイド部材50のストレート部51に係止される。これにより、重心の偏りや載置した際の傾きでプリフォーム基材10Pが斜めに垂下しても、下方側の縁部がストレート部51に係止され、その後、周縁部の他の部分がガイド部材50のガイド部53に案内されて成形面に位置決めされる。これにより、成形面31へプリフォーム基材10Pを確実に位置決めできる。
【0059】
また、プリフォーム基材10Pの周縁部をピン状に形成されたガイド部材50の線状のガイド部53に点接触させながら成形面31の縁部へ正確に案内する。
【0060】
そして、本実施形態に係る屈曲基材10の製造方法によって製造された屈曲基材10によれば、少なくとも一部が湾曲され、周縁部における角部13が2Dであるプリフォーム形状の段階で面取りされているので、成形後に3D形状となった周縁部を研削して面取りすることがない。そのため、周縁部の面取り断面形状の形状公差を±0.1mm以下とでき、かつ周縁部の外形寸法公差±0.2mm以下を満たす。これにより屈曲機材10は、例えば、ヘッドアップディスプレイのミラーや車載品のカバーガラス等の各種の基材として使用できる。
【0061】
(他の実施形態)
次に、他の実施形態について説明する。
なお、上記実施形態と同一構成部分は、同一符号を付して説明を省略する。
【0062】
図14は、他の実施形態で用いられる成形装置20の斜視図である。
図15は、他の実施形態で用いられる成形装置20の平面図である。
図16は、成形装置20及びガイド部材70の斜視図である。
【0063】
図14及び
図15に示すように、他の実施形態は、ピン状に形成されたガイド部材50とともに、ブロック状に形成された一対のガイド部材70を有する成形型30を用いて屈曲基材10を成形する。ガイド部材70は、互いに対向する位置に配置されている。ガイド部材70も、ストレート部71と、傾斜部72とを有しており、傾斜部72は、下方へ向かって断面積が次第に大きくなる形状とされている。
【0064】
図16に示すように、ガイド部材70は、成形型30の嵌合凹部33にストレート部71が嵌合されて成形型30に装着された状態で、傾斜部72における成形面31側が、面状のガイド部73とされる。ガイド部材70のガイド部73には、プリフォーム基材10Pの周縁部が接触される。ガイド部73は、成形面31の外側から成形面31の縁部へ向かって傾斜されている。このガイド部73は、幅広形状に形成されており、これにより、ガイド部73には、プリフォーム基材10Pの周縁部が線接触される。
【0065】
次に、上記の成形型30を用いた成形方法について説明する。
図17は、成形装置20を用いた屈曲基材10の成形方法を説明する図であって、
図17の(a)から(c)は、それぞれ成形工程における成形装置20の斜視図である。
【0066】
(プリフォーム基材の成形)
まず、シミュレーションによって屈曲基材10を等分布荷重で平坦にすることで得られたプリフォーム基材10Pを準備する(
図4,
図5参照)。
【0067】
(基材載置工程)
加熱炉の搬出入ゾーンにおいて、
図17(a)に示すように、成形装置20の成形型30に対して、搬送機構によってプリフォーム基材10Pがセットされる。具体的には、成形型30の成形面31の上方から、成形型30上に立設された複数のガイド部材50,70の内側にプリフォーム基材10Pが載置される。このとき、屈曲基材10に対して平面視の外形が大きい平坦なプリフォーム基材10Pは、その周縁部が成形面31の周囲に立設されたガイド部材50,70の傾斜部52,72のガイド部53,73に当接されて係止される。
【0068】
(成形工程)
成形型30を加熱炉の加熱ゾーンへ移動させ、プリフォーム基材10Pは成形温度に加熱される。プリフォーム基材10Pは、成形温度に加熱されることで軟化すると、
図17(b)に示すように、周縁部がガイド部材50,70のガイド部53,73と接触していることから、その中央部分が自重によって垂下する。すると、プリフォーム基材10Pは、その平面視における外形が次第に小さくなり、ガイド部53,73に接触している周縁部は、ガイド部53,73に接触しながら自重により滑り落ちる。これにより、
図17(c)に示すように、プリフォーム基材10Pは、ガイド部53,73によって成形面31に案内されることで成形面31に位置合わせされつつ、成形型30の成形面31上に自重で垂下して配置される。このとき、ガイド部材70は、幅広形状に形成されているので、プリフォーム基材10Pは、その両端の縁部がガイド部材70の面によって構成されるガイド部73に線接触しながら滑り落ちる。
【0069】
この成形工程において、例えば、プリフォーム基材10Pの重心が中央からずれていたり、プリフォーム基材10Pが傾いてセットされると、プリフォーム基材10Pは、重心側や傾きの下方側が先に滑り落ち、一方の端部の縁部がガイド部材70のストレート部71に接触する。そして、その後のプリフォーム基材10Pの軟化によって自重による撓みが大きくなると、プリフォーム基材10Pは、ストレート部71との接触箇所を基点として中央部分が成形面31へ近づき、一方の端部以外の縁部がガイド部53,73に接触しながら滑り落ち、成形面31に位置合わせされて成形面31上に配置される。
【0070】
(吸着工程)
プリフォーム基材10Pが成形型30の成形面31上に配置された状態で真空ポンプが駆動し、成形面31に形成された吸引孔32から成形面31とプリフォーム基材10Pとの間の空気が吸引される。これにより、プリフォーム基材10Pは、成形面31に高精度に位置決めされた状態で成形面31に密着され、成形面31の曲面形状が転写されて所望の湾曲形状の屈曲基材10とされる。
【0071】
(徐冷及び取出工程)
その後、屈曲基材10が成形面31に密着された成形型30は、徐冷ゾーンへ移動され、これにより、屈曲基材10が歪点以下まで冷却される。そして、冷却された屈曲基材10は、搬送機構によって成形型30から取り出される。屈曲基材10が取り出された成形型30には、次の屈曲基材10の成形のためのプリフォーム基材10Pが載置される。
【0072】
他の実施形態の場合も、プリフォーム基材10Pを自重によって屈曲基材10に成形する際に、ガイド部材50,70のガイド部53,73によってプリフォーム基材10Pの周縁部を成形面31の周縁に向かって案内させるので、屈曲基材10の外形と同一外形を有する成形面31にプリフォーム基材10Pを精度良く位置決めできる。これにより、成形後に研削して外形を最終外形に仕上げる煩雑な後加工を不要にできる。このように、他の実施形態は、成形型30の成形面31へプリフォーム基材10Pを高精度に位置決めして高品質な屈曲基材10を容易に成形できる。
【0073】
特に、成形型30は、プリフォーム基材10Pの周縁部をブロック状に形成されたガイド部材70の面状のガイド部73に線接触させながら成形面31の縁部へ正確に案内する。
【0074】
なお、上記実施形態では、下方へ凹む成形面31によって湾曲形状の屈曲基材10を成形する場合を例示したが、上方へ膨出する成形面31によって湾曲形状の屈曲基材10を成形してもよく、また、上下に湾曲する成形面31によって表裏に凹凸状に湾曲する屈曲基材10を成形してもよい。
【0075】
また、ガイド部材50,70の傾斜部52,72のガイド部53,73としては、プリフォーム基材10Pの周縁部を成形面31の縁部へ導くなだらかな形状であればよく、直線状に限らない。ガイド部53,73としては、例えば、緩やかに凹む湾曲形状であってもよく、また、緩やかに膨出する湾曲形状であってもよい。
【0076】
また、成形型30に立設させるガイド部材としては、プリフォーム基材10Pの縁部を成形面31の縁部へ導くガイド部を有する形状であれば、円錐形のピン状のガイド部材50あるいは幅広のブロック状のガイド部材70に限らず、例えば、三角錐等でもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、X方向及びY方向に沿ってそれぞれ湾曲する屈曲基材10を成形する場合を例示したが、一方向(例えばY方向)に沿って湾曲する屈曲基材10を成形してもよい。この場合、成形型30としては、湾曲させる方向(Y方向)の端部側だけにガイド部材50あるいはガイド部材70を備えたものでもよい。
【0078】
また、成形する屈曲基材10としては、ガラス板に限らず、セラミクス、樹脂、木材、金属等の板であってもよい。
【0079】
また、本発明の成形装置は、
図6に示す実施形態の様に、複数のガイド部材が同一形状を有してもよいし、
図14に示す他の実施形態の様に、複数のガイド部材が異なる形状を有してもよい。
また、プリフォーム基材は、成形装置にセットした段階で、複数のガイド部材の全てと接触させてもよい。或いは、プリフォーム基材は、成形装置にセットした段階で、複数のガイド部材の一部と接触させ、プリフォーム基材が垂下する段階で、接触する複数のガイド部材の数を増加するようにしてもよい。
【0080】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) プリフォーム基材を成形型の成形面に沿わせて少なくとも一部が湾曲した屈曲基材に成形する製造方法であって、
前記成形面の任意の点における鉛直方向のうち、前記プリフォーム基材が成形時に湾曲する方向を下方、反対向きを上方、上面視において前記成形面以外を外側とすると、
前記屈曲基材の外形と同一外形を有する前記成形面の上方から前記プリフォーム基材を載置させる基材載置工程と、
前記プリフォーム基材を加熱して軟化させることで、自重によって前記プリフォーム基材を前記成形面に沿わせて前記屈曲基材に成形する成形工程と、を含み、
前記基材載置工程において、前記成形面の外側から前記成形面の縁部へ向かって傾斜するガイド部を有するガイド部材を備えた成形型に前記プリフォーム基材を載置させ、
前記成形工程において、前記プリフォーム基材の周縁部を前記ガイド部に接触させて滑らせることで前記プリフォーム基材の周縁部を前記成形面の縁部に向かって案内させる、
屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、プリフォーム基材を垂下させて成形面に沿わせることで、少なくとも一部が湾曲した高品質な屈曲基材を容易に成形できる。しかも、プリフォーム基材を自重によって屈曲基材に成形する際に、ガイド部材のガイド部によってプリフォーム基材の周縁部を成形面の周縁に向かって案内させるので、屈曲基材の外形と同一外形を有する成形面にプリフォーム基材を精度良く位置決めできる。これにより、成形後に研削して外形を最終外形に仕上げる煩雑な後加工を不要にできる。このように、当該製造方法は、成形型の成形面へプリフォーム基材を高精度に位置決めして高品質な屈曲基材を容易に成形できる。
【0081】
(2) 前記ガイド部材を、少なくとも前記成形面を挟んだ対向位置に設ける、(1)に記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、プリフォーム基材を湾曲させる方向における成形面を挟んだ対向位置に設けたガイド部材のガイド部によって、自重で垂下するプリフォーム基材の周縁部を成形面の周縁に向かって円滑に案内させて成形面にプリフォーム基材を精度良く位置決めできる。
【0082】
(3) 前記プリフォーム基材の周縁部における角部を予め面取りしておく、(1)または(2)に記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、プリフォーム基材の周縁部の角部を予め面取りしておくことで、ガイド部材のガイド部に対するプリフォーム基材の周縁部の滑りをよくできる。これにより、プリフォーム基材の周縁部をガイド部によって円滑に成形面の縁部へ案内する。
【0083】
(4) 前記ガイド部材の前記ガイド部は、前記成形工程での温度における静止摩擦係数が0.5以下である、(1)から(3)のいずれか一つに記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、ガイド部材のガイド部の静止摩擦係数を、成形工程での温度において0.5以下とすることで、ガイド部材のガイド部に対するプリフォーム基材の周縁部の滑りをよくできる。これにより、プリフォーム基材の周縁部をガイド部によって円滑に成形面の縁部へ案内する。
【0084】
(5) 前記プリフォーム基材を、前記屈曲基材を平坦にしたときの外形に形成しておく、(1)から(4)のいずれか一つに記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、プリフォーム基材を成形して屈曲基材とした際に、成形された屈曲基材を正確に目標の外形とできる。
【0085】
(6) 前記成形工程において前記プリフォーム基材を前記成形面に沿わせた後に、前記成形面に設けた吸着孔から吸引して前記プリフォーム基材を前記成形面に吸着させる吸着工程を行う、(1)から(5)のいずれか一つに記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、吸着工程によってプリフォーム基材を確実に成形面に密着する。これにより、成形精度をさらに高めて品質を向上できる。
【0086】
(7) 前記ガイド部材の根元に、前記プリフォーム基材の縁部が係止可能なストレート部を設ける、(1)から(6)のいずれか一つに記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、成形工程において、プリフォーム基材の周縁部の一部はガイド部材のストレート部に係止される。これにより、重心の偏りや載置した際の傾きでプリフォーム基材が斜めに垂下しても、下方側の縁部がストレート部に係止され、その後、周縁部の他の部分がガイド部材のガイド部に案内されて成形面に位置決めされる。これにより、成形面へプリフォーム基材を確実に位置決めできる。
【0087】
(8) 前記ガイド部材として、下方へ向かって断面積が大きくなるピン状のガイド部材を前記成形型に設け、前記ガイド部材の線状に形成された前記ガイド部に前記プリフォーム基材の周縁部を点接触させる、(1)から(7)のいずれか一つに記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、プリフォーム基材の周縁部をピン状に形成されたガイド部材の線状のガイド部に点接触させながら成形面の縁部へ正確に案内する。
【0088】
(9) 前記ガイド部材として、下方へ向かって断面積が大きくなるブロック状のガイド部材を前記成形型に設け、前記ガイド部材の面状に形成された前記ガイド部に前記プリフォーム基材の周縁部を線接触させる、(1)から(7)のいずれか一つに記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、プリフォーム基材の周縁部をブロック状に形成されたガイド部材の面状のガイド部に線接触させながら成形面の縁部へ正確に案内する。
【0089】
(10) 前記プリフォーム基材をガラス板によって成形する、(1)から(9)のいずれか一つに記載の屈曲基材の製造方法。
この屈曲基材の製造方法によれば、プリフォーム基材をガラス板によって成形することで、少なくとも一部が湾曲したガラス板からなる高品質な屈曲基材を容易に成形できる。
【0090】
(11) プリフォーム基材を成形型の成形面に沿わせて少なくとも一部が湾曲した屈曲基材に成形する成形型であって、
前記屈曲基材の外形と同一外形を有する前記成形面と、
前記成形面の外側から前記成形面の縁部へ向かって傾斜するガイド部を有するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記プリフォーム基材の周縁部を前記ガイド部に接触させて滑らせることで、前記プリフォーム基材の周縁部を前記成形面の縁部に向かって案内する、
屈曲基材の成形型。
この屈曲基材の成形型によれば、プリフォーム基材を垂下させて成形面に沿わせることで、少なくとも一部が湾曲した高品質な屈曲基材を容易に成形できる。しかも、プリフォーム基材を自重によって屈曲基材に成形する際に、ガイド部材のガイド部によってプリフォーム基材の周縁部を成形面の周縁に向かって案内させるので、屈曲基材の外形と同一外形を有する成形面にプリフォーム基材を精度良く位置決めできる。これにより、成形後に研削して外形を最終外形に仕上げる煩雑な後加工を不要にできる。このように、当該成形型は、成形型の成形面へプリフォーム基材を高精度に位置決めして高品質な屈曲基材を容易に成形できる。
【0091】
(12) 前記ガイド部は、表面粗さが50nm~1000nmである、(11)に記載の屈曲基材の成形型。
この屈曲基材の成形型によれば、プリフォーム基材との接触面がある程度の面強度を保ち、また、プリフォーム基材との真実接触面を減らして摩擦による抵抗力を減らし、プリフォーム基材の局所変形を防ぐことができる。
【0092】
(13) 前記ガイド部は、傾斜角度が45°~89°である、(11)または(12)に記載の屈曲基材の成形型。
この屈曲基材の成形型によれば、成形時のプリフォーム基材とガイド部との垂直応力を減らして摩擦力を減らし、プリフォーム基材の局所変形を抑え、また、プリフォーム基材が最終的にガイド部に乗り上げたままとなって局所変形するのを防ぐことができる。
【0093】
(14) 前記ガイド部は、前記プリフォーム基材を前記屈曲基材に成形する際の成形温度における静止摩擦係数が0.5以下である、(11)から(13)のいずれかに記載の屈曲基材の成形型。
この屈曲基材の成形型によれば、ガイド部との接触抵抗によるプリフォーム基材の局所変形を抑制することができる。
【0094】
(15) 前記ガイド部の静止摩擦係数は0.01以上0.5以下である、(14)に記載の屈曲基材の成形型。
この屈曲基材の成形型によれば、ガイド部との接触抵抗によるプリフォーム基材の局所変形を抑制し、また、プリフォーム基材の初期設置時にプリフォーム基材の位置が極端にずれないようにすることができる。
(16) 少なくとも一部が湾曲した屈曲基材の周縁部において、少なくとも片面がR面取りされており、面取り断面形状の形状公差が±0.1mm以下であり、周縁部の外形寸法精度±0.2mm以下である屈曲基材。
【0095】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年11月10日出願の日本特許出願特願2017-217135に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0096】
10 屈曲基材
10P プリフォーム基材
13 角部
30 成形型
31 成形面
32 吸引孔
50 ガイド部材
51 ストレート部
53 ガイド部
70 ガイド部材
71 ストレート部
73 ガイド部