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特許7196860ゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物およびその成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20221220BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221220BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221220BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20221220BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20221220BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20221220BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08L51/04
C08L101/00
C08L67/00
C08L69/00
C08L25/04
C08F279/02
C08F283/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019561570
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046754
(87)【国際公開番号】W WO2019131374
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2017247766
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】萩 実沙紀
(72)【発明者】
【氏名】松岡 新治
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 将史
(72)【発明者】
【氏名】平岡 達宏
(72)【発明者】
【氏名】前中 佑太
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-307849(JP,A)
【文献】特開平08-199036(JP,A)
【文献】特開2013-166895(JP,A)
【文献】特開2015-004051(JP,A)
【文献】特開2014-196483(JP,A)
【文献】特開平03-052952(JP,A)
【文献】特開平03-052950(JP,A)
【文献】特開昭63-312343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/00-279/06
C08F 265/00-265/10
C08F 283/00
C08L 25/00-25/18
C08L 51/00-51/10
C08L 67/00-69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム含有グラフト重合体および熱可塑性樹脂(B)を含む、ゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物であって、
前記ゴム含有グラフト重合体が、ゴムラテックス50~95質量%に、下記一般式(2)で表されるビニル単量体(f-2)を含むグラフト用単量体(b)5~50質量%を乳化グラフト重合させて得られるゴム含有グラフト重合体であり、
前記グラフト用単量体(b)が、前記グラフト用単量体(b)の総質量に対して71.1~95.0質量%のメチルメタクリレートを含む、ゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
CH=CRCOO(CHO[CO(CHO]H ・・・(2)(式中、Rは水素またはメチル基を表し、qは2~5、nは1~5の整数を表す)。
【請求項2】
グラフトさせるゴムの粒子径が50~400nmである、請求項1に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(B)がポリエステル樹脂である、請求項1または2に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(B)が芳香族ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のアロイである、請求項1または2に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)が芳香族ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイである、請求項1または2に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
射出成形体である、請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物およびその成形体に関する。
本願は、2017年12月25日に、日本出願された特願2017-247766号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ゴム含有グラフト重合体は、ゴム状重合体に対してビニル単量体がグラフト重合されたものである。ゴム含有グラフト重合体は、乳化重合で製造され、所定のゴム粒子径、ゴム構造を維持したまま多種多様な樹脂に分散させることができるため、衝撃強度が求められる樹脂に好適に用いられる。
【0003】
樹脂の衝撃強度を改良するには、一般的に樹脂中にゴムを均一に分散させることがよいとされる。しかしながら、ゴム自身は一般の熱可塑性樹脂に対して相容性が低く、単独では樹脂中にゴムを均一に分散することは困難である。
【0004】
樹脂中へのゴム分散性を改良するために、ゴム状重合体に対してビニル単量体でグラフト重合することが知られており、このビニル単量体としてメチルメタクリレートが好適に用いられている。この理由としてメチルメタクリレートがポリカーボネート、スチレン系樹脂、塩ビ樹脂等の幅広い熱可塑性樹脂と相容性が高いことが挙げられる。しかしながら、例えばポリエステル樹脂等のメチルメタクリレートとの相容性が比較的低い樹脂に用いた場合では、樹脂中へのゴム分散性は十分でなく、通常の溶融混練条件(押出条件)ではゴムが樹脂中で凝集してしまう傾向がある。また、2種以上の樹脂を混合したアロイに用いると、メチルメタクリレートとの相容性の差から、ゴムがどちらかの樹脂に偏在しやすく、十分な衝撃強度が得られない。
【0005】
また、熱可塑性樹脂は、家電やOA機器、自動車部品等、様々な用途に使用されているが、近年、これらの用途では、成形体の大型化や形状複雑化が進んでおり、多点ゲート方式による射出成型が行われるようになった。しかし、多点ゲート方式では、金型内で溶融樹脂が合流して融着するとき、ウェルドと呼ばれる脆弱な部分が形成される。ウェルドは強度低下の原因となるため、ウェルド部分の強度(ウェルド強度)の改善が求められている。
【0006】
特許文献1では、ブタジエン系ゴムにメチルメタクリレートを主成分としたビニル単量体をグラフト重合して得られるゴム含有グラフト重合体を、ポリカーボネート樹脂とスチレンアクリロニトリル樹脂のアロイに配合した例が開示されている。
しかし、グラフト鎖がメチルメタクリレートの場合、樹脂中でのゴムの分散が不十分なため、低温衝撃強度やウェルド強度は満足できるものではない。
【0007】
特許文献2には、シリコーン系ゴムにグリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートをグラフト重合したゴム含有グラフト重合体が開示されている。グリシジルメタクリレートはエポキシ基を有するため、ポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂と化学結合する。したがって、グラフト鎖にグリシジルメタクリレートを共重合させることで、ゴムを樹脂中に均一に分散させることができると考えられる。
しかし、エポキシ基により、熱可塑性樹脂またはゴム含有グラフト重合体での架橋が生じるため、エポキシ基量により流動性が低下することがある。また、エポキシ基量を調整しても十分満足できる機械的強度(衝撃強度・ウェルド強度等)を得ることができていない。
【0008】
特許文献3には、アクリル系ゴムに2-ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートをグラフト重合したゴム含有グラフト重合体が開示されている。
このゴム含有グラフト重合体を、ポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂といったエステル結合を有する熱可塑性樹脂に配合した場合、グラフト鎖のヒドロキシ基がエステル結合部分と化学反応を伴う共有結合が形成され、樹脂中にゴムを均一に分散する可能性があるが、ウェルド強度の向上には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-200137号公報
【文献】特表2013-527270号公報
【文献】特開2005-171253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明によれば、グラフト鎖に脂肪酸エステル、特にカプロラクトン環のようなラクトン環を開環させた鎖状エステルを組み込むことで、アロイを含む熱可塑性樹脂に、ゴムを均一に分散させ、ゴム含有グラフト重合体として求められる強度発現性を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の態様を有する。
【0012】
[1]ゴム含有グラフト重合体および熱可塑性樹脂(B)を含む、ゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物であって、前記ゴム含有グラフト重合体が、ゴムラテックス50~95質量%に、下記一般式(2)で表されるビニル単量体(f-2)を含むグラフト用単量体(b)5~50質量%を乳化グラフト重合させて得られるゴム含有グラフト重合体であり、前記グラフト用単量体(b)が、前記グラフト用単量体(b)の総質量に対して71.1~95.0質量%のメチルメタクリレートを含む、ゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
CH=CRCOO(CHO[CO(CHO]H ・・・(2)(式中、Rは水素またはメチル基を表し、qは2~5、nは1~5の整数を表す)
[2]グラフトさせるゴムの粒子径が50~400nmである、[1]に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
]前記熱可塑性樹脂(B)がポリエステル樹脂である、[1]または[2]に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
]前記熱可塑性樹脂(B)が芳香族ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のアロイである、[1]または[2]に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
]前記熱可塑性樹脂(B)が芳香族ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイである、[1]または[2]に記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物。
][1]~[]のいずれかに記載のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物を成形してなる成形体。
]射出成形体である、[]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴム含有グラフト重合体は、従来困難であった50~400nmのゴム粒子径において、アロイを含む熱可塑性樹脂に均一に分散させることができる。その結果、ゴム含有グラフト重合体として求められるウェルド強度や衝撃強度等の機械的強度に優れる。
本発明のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物は、本発明のゴム含有グラフト重合体を含むため、ゴム含有グラフト重合体を樹脂組成物中に均一に分散させることができ、本発明のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物を成形してなる本発明の成形体は機械的強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】各実施例または各比較例の樹脂組成物のペレットからウェルド強度測定用の試験片を得る際の条件を説明する外観写真である。
図2】本発明の成形品をTEM観察する際に用いる試験片の全体図と、端部付近からの試験片の切り出し方を示す模式図である。
図3】実施例8および比較例10のペレットを用いてTEM観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[ゴム含有グラフト重合体(A)]
本発明のゴム含有グラフト重合体(以下、「ゴム含有グラフト重合体(A)」とも言う。)は、ゴム状重合体(ゴムラテックス)に対して、ビニル単量体がグラフト重合されたもの(グラフトラテックス)である。
たとえば、乳化剤存在下、水媒体中で得られるゴム状重合体に対してグラフト用単量体(b)がグラフト重合されたものであり、乳化重合により製造されうる。
【0016】
本発明において「グラフト鎖」は、後述するゴム状重合体のゴム架橋成分と化学結合している、グラフト用単量体(b)がグラフト重合されて形成されたビニル重合体もしくはビニル共重合体を指す。
【0017】
(ゴム状重合体)
本発明に用いることができるゴム状重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものを用いることができる。
ゴム状重合体のガラス転移温度が0℃以下であれば、本発明の樹脂組成物から得られる成形体のシャルピー衝撃試験の値で表される衝撃強度が改善される。
【0018】
ゴム状重合体としては、具体的には以下のものが挙げられる。
ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、シリコーンゴム、シリコーン・アクリル複合ゴム(ジメチルシロキサンを主体とする単量体から得られるゴム状重合体の存在下に、アクリレートを含むビニル単量体の1種または2種以上を重合させて得られるもの)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合ゴム、スチレン・ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン・イソプレンブロック共重合ゴム等のブロック共重合体、およびそれらの水素添加物等。
【0019】
寒冷地においてはより低温(-20℃以下)での成形体の衝撃強度の改良が求められるため、ガラス転移温度が-20℃以下のブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、シリコーン・アクリル複合ゴムが好ましい。
【0020】
ゴム含有グラフト重合体(A)(100質量%)中のゴム状重合体の含有率は、成形体の衝撃強度の点から、50~95質量%の範囲であることが好ましく、70~94質量%がより好ましく、75~93質量%がさらに好ましく、77~92質量%が特に好ましく、80~91質量%が最も好ましい。
【0021】
(グラフト成分)
ゴム含有グラフト重合体の熱可塑性樹脂に対する分散性は、グラフト鎖の組成によって大きく異なる。
以下、ゴム含有グラフト重合体(A)を構成する、グラフト重合に由来する成分(グラフト用単量体(b)がゴム状重合体にグラフト重合されて形成された成分)を「グラフト成分」とも言う。
【0022】
本発明のゴム含有グラフト重合体(A)は、グラフト成分に、開環ラクトン部位を有するビニル単量体に由来する単位を含むことが好ましい。
前記開環ラクトン部位を有するビニル単量体は、下記一般式(1)で表されるビニル単量(f-1)が好ましい。
CH=CR1COO(CHO[CO(CHO]H ・・・(1)
(式中、R1は水素またはメチル基を表し、qは2~5、mは3~10、nは1~10の整数を表す。)
【0023】
ゴム含有グラフト重合体(A)のグラフト成分は、前記一般式(1)で示されるビニル単量体(f-1)とその他のビニル単量体との共重合体からなることが好ましい。このような共重合体は、側鎖の末端に開環ラクトン部位を有するため、側鎖末端に反応性の優れた第一級水酸基が位置している。前記一般式(1)に示される単量体(f-1)の共重合割合を変化させることにより、熱可塑性樹脂との反応性を変化させることが可能であり、さまざまな用途に適合させることができる。
【0024】
前記一般式(1)で示されるビニル単量体(f-1)とその他のビニル単量体との共重合体は、側鎖に開環ラクトンの繰り返し構造を有するため、側鎖末端の水酸基が主鎖から離れた位置に存在し、熱可塑性樹脂と反応しやすい。前記一般式(1)で示されるビニル単量体(f-1)に代えて、側鎖末端に水酸基を有する2-ヒドロキシエチルメタクリレートや2-ヒドロキシプロピルメタクリレートをはじめとするヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いた場合、グラフト鎖末端の水酸基は主鎖骨格の近傍に位置するため、水酸基の反応性が乏しい。また、2-ヒドロキシエチルメタクリレートは水溶性が非常に高いため、乳化重合させることが難しい。
【0025】
ビニル単量体(f-1)として、熱可塑性樹脂との反応性から、カプロラクトン変性ビニル単量体が好ましく、特に、下記一般式(2)で示されるカプロラクトンで変性された、ビニル単量体(f-2)が好適に用いられる。
CH=CRCOO(CHO[CO(CHO]H ・・・(2)
(式中、Rは水素またはメチル基を表し、qは2~5、nは1~5の整数を表す。)。
前記一般式(2)で示されるビニル単量体(f-2)は、水酸基含有重合性不飽和単量体とε-カプロラクトンとの付加反応によって得られる。
qとしては、2~3の整数であることが好ましく、2がより好ましい。
【0026】
以下、ビニル単量体(f-2)において、ε-カプロラクトン由来の部位(-CO(CHO-)を「カプロラクトン単位(CL)」と呼ぶ。
【0027】
ビニル単量体(f-1)またはビニル単量体(f-2)と共重合させる、グラフト用単量体(b)に含まれるその他のビニル単量体としては、ガラス転移温度が好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80~120℃であるビニル単量体を選択することが、その後の凝析工程から得られる粉体特性(粉体の流動性や粒子径)の点から好ましい。
【0028】
その他のビニル単量体としては、メチルメタクリレート、スチレンもしくはアクリロニトリルが挙げられ、これらは混合させてもよい。その他のビニル単量体は、特に、メチルメタクリレートであることが好ましい。
【0029】
前記ビニル単量体混合物においては、ゴム状重合体にグラフト重合されるグラフト用単量体(b)の総質量に対して、5質量%以内であれば、さらにビニル単量体が含まれていてもよく、このようなビニル単量体としては、たとえば、スチレンもしくはα-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル等が挙げられ、これらがメチルメタクリレートと共重合されていてもよい。たとえば、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体が、好適に用いられる。
【0030】
「グラフト鎖」に、ビニル単量体(f-1)に由来する単位、特にビニル単量体(f-2)に由来する単位を含むことによって、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性およびウェルド強度を向上させることができる。これは、ビニル単量体(f-1)に由来する単位、特にビニル単量体(f-2)に由来する単位を含むグラフト鎖が、エステル結合、炭酸エステル結合(-O-C(O)-O-)等の様々な官能基と共有結合を形成できること、かつ、炭素-炭素結合と開環ラクトン部位のエステル結合のため、ポリエステル、ポリカーボネート等の多くの熱可塑性樹脂と優れた相容性を示すからである。
【0031】
さらに、一般的に用いられるポリエステルやポリオールはそのエステル結合のため加水分解を受けやすいが、本発明のゴム含有グラフト重合体は、「グラフト鎖」にビニル単量体(f-1)に由来する単位、特にビニル単量体(f-2)に由来する単位を有する共重合体を用いることによって、そのグラフト鎖の側鎖末端に、ポリエステルの中では耐水性の最も優れたポリカプロラクトンの構造が存在するため、優れた耐加水分解性を発揮する。
【0032】
ゴム含有グラフト重合体(100質量%)中、グラフト用単量体(b)に由来する単位の含有率は、ゴム含有グラフト重合体(A)の樹脂中での分散性、および成形体の衝撃強度の点から、5~50質量%であることが好ましく、9~40質量%がより好ましく、11~30質量%がさらに好ましい。
【0033】
グラフト用ビニル単量体(b)に由来する単位の総質量を100質量%としたとき、ビニル単量体(f-1)およびビニル単量体(f-2)の含有率は、0.5~51質量%であることが好ましく、1.0~40質量%がより好ましく、2.5~30質量%がさらに好ましい。
【0034】
ゴム状重合体には、架橋し有機溶剤に不溶の成分であるゴム架橋成分と、架橋せずに重合している成分であるゴム非架橋成分が存在する。ゴム状重合体においてゴム架橋成分の含有割合が多いほうが好ましい。
【0035】
本発明のゴム含有グラフト重合体におけるグラフト鎖は、ゴム状重合体におけるゴム架橋成分と化学結合している、グラフト用単量体(b)に由来する単位を有する重合体である。
グラフト重合に供されるグラフト用単量体(b)は、実際にゴム状重合体に化学結合する「ビニル単量体mgp」と、ゴム状重合体に化学結合せずに、重合して、遊離重合体を生成する「ビニル単量体mfp」および重合反応しない「ビニル単量体mfm」に分類することができる。ゴム状重合体と化学結合するビニル単量体mgpのうち、架橋し有機溶剤に不溶の成分「ゴム架橋成分」と化学結合するグラフト用ビニル単量体を本発明の「グラフト鎖」と定義する(後述する「Rg」におけるグラフト鎖)。ビニル単量体mgpにおいて、架橋し有機溶剤に不溶の成分「ゴム架橋成分」と化学結合するビニル単量体の含有割合が多いほうが好ましい。
【0036】
ゴム含有グラフト重合体(A)における、ゴム状重合体に化学結合するビニル単量体mgpにおいて、「ゴム架橋成分」と化学結合するビニル単量体の量が多いと、後述する熱可塑性樹脂(B)中にゴムが分散しやすく、また、熱可塑性樹脂(B)とゴムとの界面強度が向上する。ゴム含有グラフト重合体(A)の分散性が良好で界面強度が強いほど成形体の衝撃強度が向上するため好ましい。
重合反応しないビニル単量体mfmは、その後の回収工程(後述する凝析または噴霧回収工程と得られた粉の乾燥工程)で、ほぼすべて取り除かれる。
【0037】
本発明のゴム含有グラフト重合体(A)は、次の5成分から構成される。
Rg:ゴム架橋成分と、それに化学結合しているグラフト用単量体(b)に由来するグラフト鎖
R0:ゴム架橋成分でグラフトしていないもの
Ng:ゴム非架橋成分と、それに化学結合しているグラフト用単量体(b)に由来するグラフト鎖
N0:ゴム非架橋成分でグラフトしていないもの
「遊離重合体Pf」:ゴム状重合体とグラフトしていないグラフト用単量体(b)に由来する重合物もしくは共重合物
【0038】
ゴム含有グラフト重合体(A)の有機溶剤不溶分はゴム架橋成分由来の成分(Rg+R0)である。
【0039】
Rg中の化学結合しているグラフト用単量体(b)に由来するグラフト鎖は、ビニル単量体(f-1)由来の成分を含み、ビニル単量体(f-1)由来の成分は、ビニル単量体(f-2)由来の成分であることが好ましい。
【0040】
ゴム含有グラフト重合体(A)は、有機溶剤と混合することにより、有機溶剤不溶分と有機溶剤可溶分に分離することができる。
有機溶剤不溶分と有機溶剤可溶分に分離する際に用いることができる有機溶剤は、ゴム含有グラフト重合体(A)を化学的に変質させないもので、かつ、ゴム含有グラフト重合体(A)を構成する非架橋の場合の各ポリマーに対する十分な溶解性があれば特に限定されない。好ましくは、アセトンおよびテトラヒドロフランを挙げることができる。
作業性の観点から、アセトンは揮発性が高く溶剤留去がしやすい点で好ましい。ただし、アセトンはスチレン主成分のポリマーに対して溶解性が低いので、ゴム含有グラフト重合体(A)にスチレン由来の構成単位が含まれる場合はテトラヒドロフランが好ましい。
【0041】
(有機溶剤可溶分および有機溶剤不溶分の測定方法)
ゴム含有グラフト重合体(A)の有機溶剤不溶分は、精秤したゴム含有グラフト重合体サンプルと有機溶剤とを十分に混合し、静置した後、遠心分離して有機溶剤可溶分と有機溶剤不溶分とを分離する操作を複数回行い、合わせた有機溶剤不溶分から有機溶媒を除去することで定量することができる。
【0042】
ゴム含有グラフト重合体(A)の有機溶剤可溶分および有機溶剤不溶分の測定方法の具体例として、有機溶剤としてアセトンを用いた例で説明する。有機溶剤として、アセトン以外の有機溶剤を用いる場合には、下記の例に準じて、アセトンを当該有機溶剤に代えて測定することができる。
【0043】
50mLのサンプルバイアルに、ゴム含有グラフト重合体サンプル1g(その質量を[W0](g)とする。)を精秤し、30mLのアセトンを添加し蓋を閉め、手で攪拌後、8時間静置し、遠心分離機(日立高速冷却遠心機(CR21G)、日立工機(株)製)を用いて、温度:4℃、回転数:14,000rpmで60分間遠心分離を行い、可溶分と不溶分を分離する。ただし、回転数:14,000rpmで60分間遠心分離を行った後、アセトンが白濁している場合は、回転数:14,000rpmで300分遠心分離し、アセトンが白濁していない状態で可溶分と不溶分を分離する。回転数:14,000rpmで60分間遠心分離を行った場合は、得られた不溶分に再度アセトン30mLを添加し分散させ、遠心分離機にて遠心分離し、可溶分と不溶分に分離する操作を3回繰り返す。不溶分は遠心分離後、窒素雰囲気下のイナートオーブン(DN610I、ヤマト科学社製)にセットし10時間以上40℃で加熱してアセトンを除去する。その後、40℃で真空乾燥し、不溶分の秤量を行い(その質量 を[W1](g)とする。)、その結果からアセトン不溶分(有機溶剤不溶分)の割合を下記式によって決定する。
アセトン不溶分(質量%)=([W1]/[W0])×100
【0044】
ゴム含有グラフト重合体(A)の100質量%における、有機溶剤不溶分の含有割合が91~99.5質量%、好ましくは95~99.5質量%であれば、「ゴム非架橋成分」が十分に少ないと判断でき、グラフト鎖を、「遊離重合体Pf」(ゴム状重合体とグラフトしていないもの)と同じ値であるとみなすことができる。この場合、ゴム含有グラフト重合体(A)は、前記Rgと前記「遊離重合体Pf」で構成されるとみなすことができる。
【0045】
ゴム含有グラフト重合体(A)は、グラフト鎖を有機溶剤可溶分と同じとみなすことができる場合、「遊離重合体Pf」に開環ラクトンに由来する単位(具体的には、カプロラクトン単位(CL))が含まれる。カプロラクトン単位(CL)を含むこれらの単位がグラフト鎖にあることで、ゴムの分散性が改良される。
【0046】
本発明のゴム含有グラフト重合体(A)の一態様としては、ゴム含有グラフト重合体(A)の有機溶剤不溶分を、さらに凍結粉砕を施した後に有機溶剤抽出して得られる有機溶剤抽出物(以下、「凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)」と呼ぶ。)において、カプロラクトン単位(CL)が含まれる。
ゴム含有グラフト重合体(A)の有機溶剤不溶分を凍結粉砕することによって、ゴム含有グラフト重合体(A)を分解し、架橋されているグラフト鎖を優先的に取り出すことができる。凍結粉砕によって、架橋されているグラフト鎖および架橋されているゴムの一部が有機溶剤で抽出される。つまり、凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)において、カプロラクトン単位(CL)が含まれるということは、ゴム含有グラフト重合体(A)のグラフト鎖に、カプロラクトン単位(CL)が含まれることを意味する。グラフト鎖にカプロラクトン単位(CL)が含まれることによって、衝撃強度に代表される機械的強度の成形加工依存性が低くできる。
【0047】
凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)に含まれる、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上の成分100質量部に対して、カプロラクトン単位(CL)の割合は0.1~40質量部であることが好ましく、0.5~30質量部がさらに好ましく、1.5~20質量部であることが特に好ましい。
凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)に含まれる、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上の成分100質量部に対する、カプロラクトン単位(CL)の割合が前記下限値以上であれば、官能基がマトリクス樹脂と反応してゴムが樹脂中に均一に分散するため、優れた機械的物性を発現しやすい。凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)に含まれる、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上の成分100質量部に対する、カプロラクトン単位(CL)の割合が前記上限値以下であれば、グラフト成分のTgが低くなりすぎず、その後の凝析工程が困難になることを抑制しやすい。
【0048】
凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)は、精秤したゴム含有グラフト重合体の有機溶剤不溶分を凍結粉砕後、凍結粉砕された有機溶剤不溶分に対して、有機溶剤と十分に混合し、静置した後、遠心分離して可溶分と不溶分とを分離する操作を複数回行い、合わせた可溶分から有機溶媒を除去することで定量することができる。
【0049】
凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)の抽出方法の具体例として、有機溶剤としてアセトンを用いた例で説明する。有機溶剤として、アセトン以外の有機溶剤を用いる場合には、下記の例に準じて、アセトンを当該溶媒に代えて測定することができる。
【0050】
粉砕容器として6751バイアル(ポリカーボネート管、スチールエンドプラグとスチロール型インパクター)を用い、ゴム含有グラフト重合体の有機溶剤不溶分0.9gを凍結粉砕(SPEX CertiPrep Ltd社製、製品名:SPEX6750 FREEZER/MILL :条件 予備冷却15分、粉砕時間2分間(20回/秒)、冷却時間2分冷却 、4サイクル)し、凍結粉砕された有機溶剤不溶分100mgを精秤し、50mLバイアルに移し、さらに30mLのアセトンを加えて攪拌後、10時間静置し、遠心分離機(日立高速冷却遠心機(CR22N)、日立工機(株)製)を用いて、温度:4℃、回転数:12,000rpmで60分間遠心分離を行い、可溶分と不溶分を分離する。得られた不溶分に再度アセトン30mLを添加し分散させ、遠心分離機にて遠心分離し、可溶分と不溶分に分離する。可溶分、不溶分それぞれイナートオーブンで窒素下、40度で10時間以上乾燥させる。
これらのうちの可溶分を乾燥させたものを、ゴム含有グラフト重合体の凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)とした。なお、凍結粉砕は、ゴム含有グラフト重合体の仕込み組成におけるガラス転移温度が60℃以上の成分の割合以下の割合で粉砕しなければならない。仕込み組成が不明な場合は、固体NMRによって、有機溶剤不溶分中のガラス転移温度が60℃以上の成分の割合を測定し、それを超えない範囲で粉砕する。
【0051】
ゴム含有グラフト重合体(A)が、ジエン系ゴム含有グラフト重合体である場合は、ゴム含有グラフト重合体(A)の有機溶剤不溶分を、さらにオゾン付加反応させた後に有機溶剤抽出して得られる有機溶剤抽出物(以下、「オゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)」と呼ぶ。)において、カプロラクトン単位(CL)が含まれる。
ジエン系ゴム含有グラフト重合体は、オゾン付加反応によって、ゴム含有グラフト重合体を分解し、架橋されているグラフト鎖を選択的に取り出すことができる。つまり、オゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)において、カプロラクトン単位(CL)が含まれるということは、ゴム含有グラフト重合体のグラフト鎖に、カプロラクトン単位(CL)が含まれることを意味する。グラフト鎖にカプロラクトン単位(CL)が含まれることによって、衝撃強度に代表される機械的強度の成形加工依存性が低くできる。
【0052】
オゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)に含まれる、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上の成分100質量部に対して、カプロラクトン単位(CL)の割合は0.1~40質量部が好ましく、0.5~30質量部がさらに好ましく、1.5~20質量部であることが特に好ましい。
オゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)に含まれる、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上の成分100質量部に対する、カプロラクトン単位(CL)の割合が前記下限値以上であれば、官能基がマトリクス樹脂と反応してゴムが樹脂中に均一に分散するため、優れた機械的物性を発現しやすい。オゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)に含まれる、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上の成分100質量部に対する、カプロラクトン単位(CL)の割合が前記上限値以下であれば、グラフト成分のTgが低くなりすぎず、その後の凝析工程が困難になることを抑制しやすい。
【0053】
ジエン系ゴム含有グラフト重合体の有機溶剤不溶分の、オゾン付加反応によるグラフト鎖の分離(単離)は、以下(1)~(9)の操作で行う。
(オゾン付加反応)
(1)ジエン系ゴム含有グラフト重合体の有機溶剤不溶分を6質量%、クロロホルムと塩化メチレンとの1:1混合液94質量%を調製し分散溶液とする。
(2)前記溶液をオゾン吸収ビンに入れ、-60℃以下に調製したドライアイス-メタノール溶液に漬ける。
(3)オゾン発生装置より発生したオゾンガスを吸収ビンに吹き込みオゾン付加を行う。
(4)オゾン付加後(吸収液が青色になる)、エアーを吹き込み過剰なオゾンを取り除く。
(5)ビーカーに還元剤(水素化ほう素ナトリウム)を10質量%、メタノール90質量%溶液に調整し、マグネチックスターラーで撹拌する。溶解後、(4)吸収液を入れ3時間以上撹拌する。
(6)撹拌後、(5)の溶液に、(5)溶液の質量の1/5に相当する質量の塩酸水溶液(1:1=塩酸:水)を加えて、3時間以上撹拌する。
(7)撹拌後、分液ロートに移し2層分離させる。この下層をナスフラスコに抜液する。
(8)ナスフラスコを65℃の恒温槽中にセットして、エバポレータによって揮発分を留去する。
(9)ナスフラスコ内の残存物を65℃で8時間以上真空乾燥して、ゴム含有グラフト重合体のオゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)を得る。
【0054】
(凍結粉砕後の有機溶剤抽出物およびオゾン付加反応後の有機溶剤抽出物の組成分析)
凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)またはオゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)を、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析計、熱分解温度500℃)に供することで、ポリマー組成分析およびカプロラクトン単位(CL)の定量をすることができる。
【0055】
本発明に用いることができるゴム状重合体の体積平均粒子径(Dv)は50~400nmであることが好ましく、50~300nmがより好ましく、70~250nmがさらに好ましい。
ゴム状重合体の粒子径が前記範囲内にあれば、光を散乱させず成形外観を好ましいものにしやすく、ゴムによる応力緩和が十分となり、衝撃強度も十分な値としやすい。
【0056】
体積平均粒子径は、光散乱法を使用したナノ粒子径分布測定装置やCHDF法(Capillary HydroDynamic Fractionation)を使用したキャピラリー粒度分布計により測定することができ、光散乱法で測定することが望ましい。
ゴム状重合体の体積平均粒子径は、乳化重合によるゴム状重合体の製造において、乳化剤の量を調整することにより調整することができる。
【0057】
ゴム状重合体の粒子径分布は小さいことが好ましく、具体的には1.5以下であることが好ましい。粒子径分布は体積平均粒子径(Dv)と個数平均粒子径(Dn)の比率(Dv/Dn)で定量化することが可能である。
粒子径分布は、乳化重合によるゴム状重合体の製造において、乳化剤の量を調整することにより小さくすることができ、粒子径分布を1.5以下とするには乳化重合によりゴム状重合体を製造することが好ましい。
【0058】
本発明のゴム含有グラフト重合体(A)を含む粉体の体積平均粒子径は、300~500μmであることが好ましい。
粉体の粒子径が300~500μmの範囲にあれば、樹脂組成物を調製する際の、配合時や混合装置内への投入時に、飛散を抑制でき、粉じん爆発等の不都合を生じさせるおそれが低く、さらに粉の流動特性が良好であり、製造工程での配管の詰まり等の不都合を生じさせにくい。
【0059】
(重合開始剤)
本発明のゴム含有グラフト重合体のグラフト重合の際に使用される重合開始剤としては、特に制限がなく、公知のものが使用できる。すなわち、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の熱分解型重合開始剤を用いることができる。また、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキサイド等の有機過酸化物、もしくは過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物といった過酸化物と、必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコース等の還元剤、および必要に応じて硫酸鉄(II)等の遷移金属塩、さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム等のキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウム等のリン系難燃剤等を併用したレドックス型重合開始剤として使用することもできる。
【0060】
また、グラフト鎖の重量平均分子量(Mw)を調節する必要がある場合は、重合時の連鎖移動剤、開始剤の使用量の調節および重合温度の調節等の常用の方法を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えばn-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが挙げられる。
【0061】
(アクリル系ゴム状重合体)
本発明のゴム含有グラフト重合体(A)に用いるゴム状重合体がアクリル系ゴムの場合、アクリル系ゴム状重合体(β-1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(b-1)(以下、単量体(b-1)という)50~100質量%、単量体(b-1)と共重合し得る単官能単量体(b-2)(以下、単量体(b-2)という)0~50質量%、および多官能単量体(b-3)(以下、単量体(b-3)という)0~5質量%を、合計質量が100質量%となるように用いて重合して得られる(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体が好ましい。
【0062】
単量体(b-1)としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル等のアクリル酸アルキルエステル単量体および、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル等のメタクリル酸アルキルエステル単量体が挙げられる。中でも、耐衝撃性が良好になることから、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチルからなる群より選ばれる1種以上の単量体を含むことが好ましい。
これらは単独または2種以上を併用して用いることができる。
【0063】
アクリル系ゴム状重合体(β-1)(100質量%)における単量体(b-1)の割合は、耐衝撃性の面から、60質量%~100質量%がより好ましく、70質量%~100質量%がさらに好ましく、80質量%~98質量%が特に好ましく、90質量%~95質量%が最も好ましい。
【0064】
単量体(b-2)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、アクリル酸ニトリル、メタクリル酸ニトリル等のシアン化ビニル単量体、(メタ)アクリル基変性シリコーン等の各種ビニル系単量体が挙げられる。
【0065】
これらは単独または2種以上を併用して用いることができる。単量体(b-2)の重合方法は特に限定されず、単量体(b-1)と同時に仕込み共重合してもよいし、単量体(b-1)と別に仕込み、重合してもよい。
【0066】
アクリル系ゴム状重合体(β-1)(100質量%)における単量体(b-2)の割合は、耐衝撃性の面から、0質量%~40質量%がより好ましく、0質量%~30質量%がさらに好ましく、0質量%~20質量%が特に好ましく、0.5質量%~5質量%が最も好ましい。
【0067】
単量体(b-3)としては、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4-ブチレングリコール、ジビニルベンゼン、多官能(メタ)アクリル基変性シリコーン、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル等が挙げられる。
これらは単独または2種以上を併用して用いることができる。
単量体(b-3)の重合方法は特に限定されないが、適切な架橋構造を得るために、単量体(b-1)または/および単量体(b-2)と混合し、重合することが好ましい。
【0068】
アクリル系ゴム状重合体(β-1)(100質量%)における単量体(b-3)の割合は、耐衝撃性の面から、0.1質量%~4質量%がより好ましく、0.2質量%~3質量%がさらに好ましく、0.5質量%~2質量%が特に好ましい。
以下、ゴム部がアクリル系ゴム状重合体(β―1)である、ゴム含有グラフト重合体(A)を、アクリル系ゴム含有グラフト重合体と呼ぶ。
【0069】
(ジエン系ゴム状重合体)
ジエン系ゴム状重合体(ジエン系ゴムラテックス)を含有するラテックスは、たとえば、1,3-ブタジエンと、1,3-ブタジエンと共重合し得る一種以上のビニル系単量体とを乳化重合して製造することができる。
【0070】
ブタジエン系ゴム状重合体を含有するラテックスは、ジエン系ゴム状重合体の製造に用いられる単量体全量の100質量%において、1,3-ブタジエン50~100質量%およびこれと共重合しうる一種以上のビニル系単量体0~50質量%の単量体組成からなる。さらに、1,3-ブタジエンの割合は60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましい。
単量体全量の100質量%における1,3-ブタジエンの割合が前記下限値以上であれば、十分な耐衝撃性が得られやすい。
ここでビニル系単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル系単量体等が挙げられる。さらに、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン等の芳香族多官能ビニル化合物、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート等の多価アルコール、トリメタクリル酸エステル、トリアクリル酸エステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル等のカルボン酸アリルエステル、ジアリルフタレート、ジアリルセバケート、トリアリルトリアジン等のジおよびトリアリル化合物等の架橋性単量体を併用することもできる。
前記ビニル系単量体および架橋性単量体は、一種または二種以上を使用することができる。また、ブタジエン系ゴム重合体の重合時には必要に応じて、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、α-メチルスチレン等の連鎖移動剤を使用することができる。
【0071】
ブタジエン系ゴム状重合体を含有するラテックスの重合方法としては乳化重合法が用いられ、重合は重合開始剤の種類にもよるが40~80℃程度の範囲で適宜行うことができる。また、乳化剤としては公知の乳化剤を適宜用いることができる。重合開始前に、例えばスチレン等からなるシードラテックスを予め仕込んでおいてもよい。重合方法としては多段乳化重合が好ましい。すなわち、重合に用いるモノマーの一部を反応系内に予め仕込んでおき、重合開始後、残りのモノマーを一括添加、分割添加、または連続添加する方式とすることが好ましい。このような重合方式をとることにより、良好な重合安定性が得られ、所望の粒径および粒径分布を有するラテックスを安定して得ることができる。また、上記重合方式により得られたラテックスを用いて成分(C)のグラフト共重合体を重合することにより、耐衝撃性および成形外観に優れた樹脂組成物が得られる。多段乳化重合とする場合、初期に仕込むモノマー組成と、後から仕込むモノマー組成とを同一にしても変更してもよい。
以下、ゴム部がジエン系ゴム状重合体であるゴム含有グラフト重合体(A)のことを、ジエン系ゴム含有グラフト重合体と呼ぶ。
【0072】
(ポリオルガノシロキサン系ゴム状重合体)
ポリオルガノシロキサン系ゴム状重合体(ポリオルガノシロキサン系ゴムラテックス)は、ポリオルガノシロキサンゴム(S-1)またはポリオルガノシロキサン複合ゴム(S-2)から選ばれる1種または2種である。
【0073】
(ポリオルガノシロキサンゴム(S-1))
ポリオルガノシロキサンゴム(S-1)は、オルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサン用グラフト交叉剤(以下、「シロキサン交叉剤」とも言う。)、必要に応じてポリオルガノシロキサン用架橋剤(以下、「シロキサン架橋剤」とも言う。)および末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマー等から成るオルガノシロキサン混合物を乳化重合して得られる。
【0074】
オルガノシロキサンとしては、鎖状オルガノシロキサン、環状オルガノシロキサンのいずれも用いることができるが、環状オルガノシロキサンは、重合安定性が高く、重合速度が大きいので好ましい。
環状オルガノシロキサンとしては、3員環以上の環状オルガノシロキサンが好ましく、3~6員環のものがより好ましい。
【0075】
環状オルガノシロキサンとしては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
シロキサン交叉剤としては、前記オルガノシロキサンとシロキサン結合を介して結合し、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを構成する単量体やビニル単量体等のビニル単量体と結合を形成し得るものが好ましい。オルガノシロキサンとの反応性を考慮すると、ビニル基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。
シロキサン交叉剤を用いることによって、任意のビニル共重合体と重合可能な官能基を有するポリオルガノシロキサンを得ることができる。ポリオルガノシロキサンが任意のビニル単量体と重合可能な官能基を有することにより、ポリオルガノシロキサンと、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルやビニル単量体を化学的に結合させることができる。
【0077】
シロキサン交叉剤としては、式(I)で表されるシロキサンを挙げることができる。
【0078】
RSiR (OR(3-n) ・・・(I)
式(I)中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、またはフェニル基を示す。Rは、アルコキシ基における有機基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、またはフェニル基を挙げることができる。nは、0、1または2を示す。Rは、式(I-1)~(I-4)で表されるいずれかの基を示す。
【0079】
CH=C(R)-COO-(CH2)- ・・・(I-1)
CH=C(R)-C- ・・・(I-2)
CH=CH- ・・・(I-3)
HS-(CH- ・・・(I-4)
これらの式中、RおよびRは、それぞれ、水素またはメチル基を示し、pは1~6の整数を示す。
【0080】
式(I-1)で表される官能基としては、メタクリロイルオキシアルキル基を挙げることができる。
この基を有するシロキサンとしては、例えば、β-メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ-メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシランを挙げることができる。
【0081】
式(I-2)で表される官能基としては、ビニルフェニル基等を挙げることができる。
この基を有するシロキサンとしては、例えば、ビニルフェニルエチルジメトキシシランを挙げることができる。
【0082】
式(I-3)で表される官能基を有するシロキサンとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランを挙げることができる。
【0083】
式(I-4)で表される官能基としては、メルカプトアルキル基を挙げることができる。
この基を有するシロキサンとして、γ-メルカプトプロピルジメトキメチルシラン、γ-メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、γ-メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン、γ-メルカプトプロピルエトキシジメチルシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0084】
これらシロキサン交叉剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0085】
シロキサン架橋剤としては、前記オルガノシロキサンと結合し得る官能基を3つまたは4つ有するものが好ましい。シロキサン架橋剤としては、例えば、トリメトキシメチルシラン等のトリアルコキシアルキルシラン;トリエトキシフェニルシラン等のトリアルコキシアリールシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、テトラアルコキシシランが好ましく、テトラエトキシシランがさらに好ましい。
【0086】
末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマーとは、オルガノシロキサンオリゴマーの末端にアルキル基等を有し、ポリオルガノシロキサンの重合を停止させるシロキサンオリゴマーをいう。
末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマーとしては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、メトキシトリメチルシランを挙げることができる。
【0087】
オルガノシロキサン混合物(100質量%)中のオルガノシロキサンの含有割合は60~99.9質量%の範囲であることが好ましく、70~99.9質量%の範囲であることがより好ましい。
オルガノシロキサン混合物(100質量%)中のシロキサン交叉剤の含有率は、0.1~10質量%の範囲であることが好ましい。
オルガノシロキサン混合物(100質量%)中のシロキサン架橋剤の含有率は、0~30質量%の範囲であることが好ましい。
【0088】
(ポリオルガノシロキサン複合ゴム(S-2))
本発明において、ポリオルガノシロキサン系複合ゴム(C1-3S-2)は、ポリオルガノシロキサンゴム(S-1)および複合ゴム用ビニル重合体を含む。好ましくは、ポリオルガノシロキサン複合ゴム(S-2)は、ポリオルガノシロキサンゴム(S-1)とポリアルキル(メタ)アクリレートゴムを含む。
【0089】
複合ゴム用ビニル重合体は、複合ゴム用ビニル単量体と、必要に応じて架橋性単量体またはアクリル交叉剤とを重合して得られる。
【0090】
複合ゴム用ビニル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート等のアルキルアクリレート;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体が挙げられる。
複合ゴム用ビニル単量体としては、成形体の耐衝撃性が優れることから、n-ブチルアクリレートが好ましい。
【0091】
架橋性単量体は、重合性不飽和結合を2つ以上有する多官能性単量体である。例えば、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、ジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジメタクリル酸1,3-ブチレングリコール、ジメタクリル酸1,4-ブチレングリコール、ジアクリル酸1,6-ヘキサンジオール、トリメリット酸トリアリルが挙げられ、これらを単独で使用または2種以上併用できる。
【0092】
アクリル交叉剤は、反応性の異なる重合性不飽和結合を2つ以上有する多官能性単量体である。
反応性が異なる基を有することにより、他の成分と共に重合される際に不飽和基を温存した状態で複合ゴム内に組み込まれ、グラフト共重合体の形成を可能とする。例えば、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリルが挙げられ、これらを単独で使用または2種以上併用できる。
アクリル交叉剤は、架橋性単量体と同様に重合性不飽和結合を2つ以上有するため、架橋剤としての機能も有する。
【0093】
複合ゴム用ビニル単量体の100質量部に対し、架橋性単量体は0~15部使用されることが好ましく、0.1~10部がより好ましい。
架橋性単量体の使用量が15部以下であると前記上限値以下であれば、成形体の耐衝撃性に優れる傾向にある。
【0094】
複合ゴム用ビニル単量体の100質量部に対し、アクリル交叉剤は0~15部使用されることが好ましく、0.1~10部がより好ましい。
架橋性単量体アクリル交叉剤の使用量が15部以下であると前記上限値以下であれば、成形体の耐衝撃性に優れる傾向にある。
【0095】
ポリオルガノシロキサン複合ゴム(S-2)の100質量%において、ポリオルガノシロキサンゴム(S-1)の含有率は0.1質量%~99.9質量%であることが好ましく、5質量%~90質量%がより好ましく、7質量%~85質量%が特に好ましい。
ポリオルガノシロキサンゴム(S-1)の含有率が前記下限値以上であれば、成形体の耐衝撃性に優れる傾向にある。ポリオルガノシロキサンゴム(S-1)の含有率が前記上限値以下であれば、成形体の耐熱性に優れる傾向にある。
以下、ゴム部がポリオルガノシロキサン系ゴム状重合体であるゴム含有グラフト重合体(A)のことを、Si系ゴム含有グラフト重合体と呼ぶ。
【0096】
上記の製造方法で得られたゴム含有グラフト重合体(A)は、「ゴム状重合体」の熱可塑性樹脂に対する分散性が優れ、衝撃強度に代表される機械的強度が向上する。またウェルド強度の向上および熱可塑性樹脂が射出成形等で溶融成形される条件に依存せず良好な機械的強度を発現する(成形加工依存性が低い)。
【0097】
(乳化剤)
ゴム含有グラフト重合体(A)の製造に用いる乳化剤は、特に限定されないが、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、およびジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン酸脂肪エステル、およびグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤;並びにアルキルアミン塩等カチオン性界面活性剤を使用することができる。また、これらの乳化剤は単独でまたは併用して使用することができる。
【0098】
また、ゴム含有グラフト重合体(A)を得るための重合方法は、乳化重合、必要があれば強制乳化重合によって行うことができる。例えば、アクリル系ゴム状重合体(β-1)の重合時にアクリル成分を構成する単量体として、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル等の水溶性に乏しい単量体を選択した場合は、カレットの発生を抑制し重合を安定化させるべく、強制乳化重合法を選択することが好ましい。
【0099】
本発明のグラフト重合によって得られたラテックス状態のゴム含有グラフト重合体(A)は、凝析し洗浄した後に乾燥することにより、または、噴霧回収することにより、粉体として得ることができる。
【0100】
(熱可塑性樹脂(B))
本発明のゴム含有グラフト重合体含有樹脂組成物は、本発明のゴム含有グラフト重合体(A)および熱可塑性樹脂(B)を含む。
ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン等のオレフィン樹脂等を含め多くの熱可塑性樹脂は、メチルメタクリレートを主成分とする樹脂改質剤が多用されているため、本発明のメチルメタクリレート主成分のグラフト鎖を有するゴム含有グラフト重合体(A)が好適に使用できる。そのため熱可塑性樹脂として特に限定せず、例えばエンジニアリングプラスチック、スチレン系樹脂、ポリエステル、オレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマー、生分解性ポリマー、ハロゲン系重合体、アクリル系樹脂等多種多用な樹脂に応用できる。
【0101】
エンジニアリングプラスチックとしては、公知の各種熱可塑性エンジニアリングプラスチックであれば特に制限はなく、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体、シンジオタクチックポリスチレン、6-ナイロン、6,6-ナイロン等のナイロン系重合体、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等を例示することができる。
【0102】
また、高度に耐熱性に優れ、溶融流動性が必要とされる耐熱ABS等の特殊なスチレン系樹脂や耐熱アクリル系樹脂なども本発明におけるエンジニアリングプラスチックとして例示することができる。
【0103】
これらの中でも、強度発現性が求められる芳香族ポリカーボネート、ポリエステルおよびスチレン系樹脂がより好ましい。
【0104】
上記芳香族ポリカーボネートとしては、主鎖に炭酸エステル結合(-O-C(O)-O-)を有する高分子化合物であればよく、特に制限はない。たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン系ポリカーボネート(ビスフェノールA系ポリカーボネート)等の4,4’-ジオキシジアリールアルカン系ポリカーボネートが挙げられる。
【0105】
オレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンとその他のα-オレフィンとの共重合体;ポリプロピレン、プロピレンとその他のα-オレフィンとの共重合体;ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン-1などが挙げられる。
【0106】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・ブテン共重合体(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・ブテン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレン共重合体(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体の部分水添物:SBBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体の部分水添物、スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン共重合体の部分水添物等のスチレン系エラストマー、高分子ジオール(ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオール等)、有機ジイソシアネート(有機ジイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水素化4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートのうちでも4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)および鎖伸張剤(エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)を反応させることにより製造されるウレタン系エラストマー、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ブチルゴム、ブタジエンゴム、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体などのポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、塩素化PE系エラストマー、アクリル系エラストマー等が挙げられる。
【0107】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、ABS樹脂、AS樹脂、MABS樹脂、MBS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-マレイミド共重合体、スチレン-N-置換マレイミド共重合体、アクリロニトリル-スチレン-N-置換マレイミド共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-β-イソプロペニルナフタレン共重合体、およびアクリロニトリル-メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン-マレイミド共重合体などが挙げられる。
これらは、それぞれ単独で含有されてもよく、または2種以上が含有されてもよい。
【0108】
ポリエステルは、多塩基酸と多価アルコールからなる重合体であって、熱可塑性を有することを条件として特に限定されない。
多塩基酸としては、例えばテレフタル酸、ナフタルジカルボン酸、シクロヘキシルジカルボン酸またはそのエステル類等が挙げられ、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、1,4-ジメチロールテトラブロモベンゼン、TBA-EO等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂は単独重合体、共重合体あるいはこれら2種以上のブレンド物であってもよい。また、イーストマンケミカル製の商品名「PETG」等も好適に用いられる。
【0109】
生分解性ポリマーとしては、バイオポリエステル(PHB/Vなど)、バクテリアセルロース、微生物多糖(プルラン、カードランなど)等の微生物系ポリマーや、脂肪族ポリエステル(ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸など)、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸類(PMLGなど)等の化学合成系ポリマーや、キトサン/セルロース、澱粉、酢酸セルロースなどの天然物系ポリマー等が挙げられる。
【0110】
ハロゲン化重合体としては、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルが80質量%以上の割合で含有される共重合体、高塩素化ポリ塩化ビニルが挙げられる。
共重合体の成分としては、塩化ビニル以外に、エチレン、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、およびブチルアクリレートなどのモノビニル化合物が挙げられる。
共重合体中の100質量%において、これらのモノビニル化合物はその合計量で20質量%以下の割合で含有されてもよい。
上記単独重合体、および共重合体は、それぞれ単独で含有されてもよく、または2種以上が含有されてもよい。
また、フッ素化重合体、臭素化重合体、ヨウ素化重合体等も挙げられる。
【0111】
アクリル系樹脂として、メチルメタクリレートと共重合可能なビニル単量体を重合して得られる共重合体などを挙げることができる。
上記のメチルメタクリレートと共重合可能なビニル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、i-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物等を挙げることができる。
【0112】
ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、シンジオタクチックポリスチレン、6-ナイロンおよび6,6-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等のエンジニアリングプラスチックと、上記した熱可塑性樹脂とのポリマーアロイも本発明の範囲に含まれる。
【0113】
本発明の樹脂組成物は、上記の材料の他、本発明の目的を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤、例えば、安定剤、難燃剤、難燃助剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、発泡剤、染料、顔料等を含有することができる。
【0114】
本発明の樹脂組成物の調製する際の各材料の配合方法としては、公知のブレンド方法が挙げられ、特に限定されない。例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合、混練する方法が挙げられる。
【実施例
【0115】
以下、製造例および実施例により本発明を更に詳細に説明する。製造例1~13は、ゴム状重合体およびゴム含有グラフト重合体(A)等の製造例である。
なお、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0116】
<製造例1>
冷却管、温度計および撹拌装置を備えたセパラブルフラスコ内に表1に示す水、乳化剤からなる「成分1」を添加した。このセパラブルフラスコ内に窒素気流を通ずることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、液温を80℃まで昇温した。液温が80℃になった時点で表1に示すシードモノマー「成分2」を混合し、5分撹拌した後、表1に示す重合開始剤「成分3」を添加し、重合を開始させた(重合発熱により最大値で10℃程度上昇することがある)。その後、液温が78℃を下回らないように固定したまま25分保持した。
【0117】
さらに表1に示すゴム形成モノマー「成分4」を強制乳化させ、180分間かけて液温を80±2℃で制御しながらセパラブルフラスコ内に滴下した。その後液温を80℃±2℃に固定したまま60分保持した。このようにしてゴム状重合体のラテックスを得た。このときのゴム状重合体ラテックスの粒子径は光散乱法で測定した結果で230nmであった。重合率は99%であった。引き続き表1に示すグラフト成分モノマー「成分5」の液温を80±2℃で制御しながら30分間かけて滴下した。その後液温を80℃±2℃に固定したまま60分保持した。このようにしてアクリルゴム系グラフトラテックスを得た。重合率は99.5%であった。なお、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムは商品名「ネオペレックス G-15、KAO社製(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム16%水溶液)」を、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムは商品名「ペレックス OT-P、KAO社製(ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム80%のメタノール溶液)」を使用した。
また、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンは、下記一般式(3)で示される、商品名「プラクセルFM1」(ダイセル社製)を使用した。
CH=CCHCOO(CHOCO(CHOH ・・・(3)
【0118】
【表1】
【0119】
表2に示す「成分6」を配合した水溶液を温度40℃±5℃に設定し、その水溶液中にアクリルゴム系グラフトラテックスを投入してスラリーを形成した。液温を70℃±5に昇温し5分保持することでスラリーを凝集させた。凝集物を回収し、脱イオン水1500部に浸し、脱水する工程を2度繰り返し、温度65℃±5で12時間乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A-1)の粉体を得た。
【0120】
【表2】
【0121】
<製造例2~8>
表1に示す各成分を変更した以外は製造例1と同様にしてゴム含有グラフト重合体(A-2)~(A-3)および(B-1)~(B-5)の粉体を得た。但し、A-2およびA-3は「成分5」を強制乳化させた後滴下した。ゴムラテックス並びにグラフトラテックスの重合率はいずれも95%以上であった。
【0122】
<製造例9>
(1)ジエン系ゴム状重合体のラテックス(R-1)の製造
第一単量体混合液として表3に示す「成分7」を容量70Lのオートクレーブ内に仕込み、昇温して、液温が43℃になった時点で、表3に示す「成分8」のレドックス系開始剤を添加して反応を開始し、その後さらに液温を65℃まで昇温した。重合開始から3時間後に表3に示す「成分9」の重合開始剤を添加し、その1時間後から表3に示す「成分10」の第二単量体混合液、表3に示す「成分11」の乳化剤水溶液、表3に示す「成分12」の重合開始剤を8時間かけてオートクレーブ内に連続的に滴下した。重合開始から4時間反応させて、ゴム状重合体のラテックス(R-1)を得た。
【0123】
【表3】
【0124】
(2)ゴム含有グラフト重合体のグラフト重合体(A-4)の製造
ラテックス(R-1)222部(仕込みモノマー成分として80部)および脱イオン水143部を、攪拌機および還流冷却管を備えた反応容器内に仕込んだ。このセパラブルフラスコ内に窒素気流を通ずることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、液温を70℃まで昇温した。次いで、表4に示す「成分13」からなる水溶液を加え、引き続き、30分間加熱攪拌を続けた。さらに、表4に示す「成分14」の混合物を強制乳化し、60分間かけて反応容器内に滴下し、引き続き、120分間加熱撹拌を続けた。このようにして、ゴム状重合体に対してビニル単量体をグラフト重合させて、ゴム含有グラフト重合体のラテックスを得た。重合率は100%であった。なお、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムは商品名「ネオペレックス G-15、KAO社製(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム16%水溶液)」を使用した。
また、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンは、前記一般式(3)で示され、商品名「プラクセルFM1」(ダイセル社製)を使用した。
【0125】
【表4】
【0126】
得られたゴム含有グラフト重合体のラテックス241.3質量部に、安定剤のエマルションを2.2質量部配合して、混合した。表2に示す「成分6」を配合した水溶液を40℃にし、その水溶液中に安定剤エマルションを配合したゴム系グラフトラテックスを投入してスラリーを形成した。液温を70℃に昇温し5分保持することでスラリーを凝集させた。凝集物を回収し、脱イオン水1500部に浸し、脱水する工程を2度繰り返し、温度60℃で12時間乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A-4)の粉体を得た。
【0127】
<製造例10~11>
表4に示す各成分を変更し、表4に示す「成分14」を強制乳化しなかった以外は製造例7と同様にしてゴム含有グラフト重合体(B-6、7)の粉体を得た。重合率は100%であった。このラテックス中の重合体粒子の体積平均粒子径は170nmであり、体積平均粒子径(Dv)を個数平均粒子径(Dn)で割った値は(Dv/Dn)=1.05であった。
【0128】
<製造例12>
1)ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S-1)の製造
環状オルガノシロキサン混合物(信越シリコーン(株)製、製品名:DMC)を97.5部、テトラエトキシシラン(TEOS)を2部およびγ-メタクリロイロキシプロピルジメトキシメチルシラン(DSMA)を0.5部、混合してオルガノシロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBSNa)を0.68部、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSH)を0.68部、脱イオン水200部中に溶解した水溶液を、前記混合物中に添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで2分間撹拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合エマルションを得た。
次いで、冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に前記エマルションを仕込んだ。該エマルションを85℃に加熱し、6時間維持して重合反応させた後、25℃に冷却し、25℃で12時間保持した。その後、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液をpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S-1)を得た。
このラテックスの固形分は40%であった。また、このラテックスの数平均粒子径(Dn)は170nm、体積平均粒子径(Dv)は210nmであり、Dv/Dnは1.24であった。
【0129】
(2)ポリオルガノシロキサン複合ゴム(S-2)およびゴム含有グラフト重合体(A-5)の製造
ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S-1)を14.5部(仕込みモノマー成分として5部)容量5リットルのセパラブルフラスコ内に採取した。次いでこのセパラブルフラスコ内に、脱イオン水133部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.3部(商品名「ネオペレックス G-15、KAO社製」)を添加混合した。次いでこのセパラブルフラスコ内に、アクリル酸n-ブチル(n-BA)55.4部、メタクリル酸アリル(AMA)0.6部、tert-ブチルハイドロパーオキサイド(t-BH)0.2部の混合物を添加した。
【0130】
このセパラブルフラスコ内に窒素気流を通じることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、液温を45℃まで昇温した。45℃となった時点で硫酸第一鉄(Fe)0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA)0.003部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.2部を脱イオン水4.7部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。アクリレート成分の重合を完結させるため、液温65℃の状態を1時間維持し、ポリオルガノシロキサンとn-BAとの複合ゴムのラテックス(S-3)を得た。
【0131】
上記複合ゴムのラテックス(S-3)の温度を65℃に維持した状態で、n-BAを27.7部、AMAを0.3部、t-BHを0.1部の混合液を45分にわたって、このラテックス中に滴下した後、1時間加熱撹拌した。次いで、メタクリル酸メチル(MMA)を10部、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンを1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部(商品名「ネオペレックス G-15、KAO社製」)、脱イオン水3部、t-BHを0.06部の混合液を強制乳化し、20分にわたって、このラテックス中に滴下し重合した。滴下終了後、液温を65℃で1時間維持した後、25℃に冷却して、ゴム含有グラフト重合体(A-5)のラテックスを得た。但し、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンは、前記一般式(3)で示される、商品名「プラクセルFM1」(ダイセル社製)を使用した。
【0132】
得られたゴム含有グラフト重合体(A-5)ラテックスを、酢酸カルシウム5質量部が入った脱イオン水300質量部に添加して重合物を凝析し、水洗、脱水、乾燥してゴム質グラフト重合体(A-5)の紛体を得た。
【0133】
<製造例13>
製造例12と同様にして作製したポリオルガノシロキサンとn-BAとの複合ゴムのラテックス(S-3)の温度を65℃に維持した状態で、n-BAを27.7部、AMAを0.3部、t-BHを0.1部の混合液を45分にわたって、このラテックス中に滴下した後、1時間加熱撹拌した。次いで、メタクリル酸メチル(MMA)を10.5部、n-BAを0.5部、t-BHを0.06部の混合液を20分にわたって、このラテックス中に滴下し重合した。滴下終了後、液温を65℃で1時間維持した後、25℃に冷却して、ゴム含有グラフト重合体(B-8)のラテックスを得た。
【0134】
得られたゴム含有グラフト重合体(B-8)ラテックスを、酢酸カルシウム5質量部が入った脱イオン水300質量部に添加して重合物を凝析し、水洗、脱水、乾燥してゴム質グラフト重合体(B-8)の紛体を得た。
【0135】
〔測定1;ゴム含有グラフト重合体中のテトラヒドロフラン不溶分の分離と測定方法〕
[1]乾燥試料の調製
以下(1)~(9)の操作を行ない、有機溶剤可溶分と有機溶剤不溶分を分離する。ここで、有機溶剤として、ジエン系ゴム含有グラフト重合体(A-4、B-6およびB-7)の場合はテトラヒドロフランを、アクリル系ゴム含有重合体およびSi系ゴム含有重合体(A-1~A-3、B-1~B-5、A-5およびB-8)の場合はアセトンを使用した。
(1)ゴム含有グラフト重合体1質量%、有機溶剤99質量%からなる溶液を調製する。
(2)(1)で調整した溶液を、1時間撹拌する。
(3)(2)で撹拌した溶液を、14,000rpm、60分間、遠心分離操作する。
(4)上澄みを抽出し、フラスコ内に入れる。
(5)沈殿物(有機溶剤不溶分)に再度有機溶剤を(1)と同量添加する。
(6)(3)~(5)の操作を3回繰り返す。
(7)フラスコを温度70℃の恒温槽中にセットして、エバポレータによって揮発分を留去する。
(8)フラスコ内の残存物を蒸気乾燥機にて80℃で8時間乾燥し、さらに真空乾燥機を用いて、65℃で6時間乾燥し、有機溶剤可溶分の乾燥試料を得る。
(9)沈殿物が入った容器を60℃の恒温槽中にセットして、有機溶剤を揮発させた後、真空乾燥機にて65℃で6時間乾燥し、有機溶剤不溶分の乾燥試料を得る。
【0136】
[2]有機溶剤不溶分の算出
上記操作(9)で得た有機溶剤不溶分の乾燥試料の質量から有機溶剤不溶分率を算出する。ゴム含有グラフト重合体の仕込み質量から有機溶剤不溶分質量を減じた値が有機溶剤可溶分となる。
【0137】
〔測定2;グラフト鎖中のカプロラクトン単位(CL)の定量〕
ゴム含有グラフト重合体(A)からグラフト鎖を抽出し、組成分析を行った。グラフト鎖の抽出は、ジエン系ゴム含有グラフト重合体(A-4、B-6およびB-7)の場合はオゾン付加反応により行い、アクリル系ゴム含有重合体およびSi系ゴム含有重合体(A-1~A-3、B-1~B-5、A-5およびB-8)の場合は凍結粉砕により行った。
【0138】
[1]グラフト鎖の抽出
(凍結粉砕:A-1~A-2、B-1~B-5、A-5およびB-8)
粉砕容器として6751バイアル(ポリカーボネート管、スチールエンドプラグとスチロール型インパクター)を用い、ゴム含有グラフト重合体のアセトン不溶分0.9gを凍結粉砕(SPEX CertiPrep Ltd社製、製品名:SPEX6750 FREEZER/MILL :条件 予備冷却15分、粉砕2分間(20回/秒)、冷却時間2分冷却、4サイクル)し、凍結粉砕されたアセトン不溶分100mgを精秤し、50mLバイアルに移し、さらに30mLのアセトンを加えて攪拌後、10時間静置し、遠心分離機(日立高速冷却遠心機(CR22N)、日立工機(株)製)を用いて、温度:4℃、回転数:12,000rpmで60分間遠心分離を行い、可溶分と不溶分を分離する。得られた不溶分に再度アセトン30mLを添加し分散させ、遠心分離機にて遠心分離し、可溶分と不溶分に分離する。可溶分をイナートオーブンで窒素下、40度で10時間以上乾燥させ、「グラフト鎖乾燥試料」を得る。
【0139】
(オゾン付加反応:A-4、B-6およびB-7)
下記(1)~(9)の操作に従い行った。
(1)ジエン系ゴム含有グラフト重合体のテトラヒドロフラン(THF)不溶分を6質量%、クロロホルムと塩化メチレンとの1:1混合液94質量%を調製し分散溶液とする。
(2)前記溶液をオゾン吸収ビンに入れ、-60℃以下に調製したドライアイス-メタノール溶液に漬ける。
(3)オゾン発生装置より発生したオゾンガスを吸収ビンに吹き込みオゾン付加を行う。
(4)オゾン付加後(吸収液が青色になる)、エアーを吹き込み過剰なオゾンを取り除く。
(5)ビーカーに還元剤(水素化ほう素ナトリウム)を10質量%、メタノール90質量%溶液に調整し、マグネチックスターラーで撹拌する。溶解後、(4)吸収液を入れ3時間以上撹拌する。
(6)撹拌後、(5)の溶液に、(5)溶液の質量の1/5に相当する質量の塩酸水溶液(1:1=塩酸:水)を加えて、3時間以上撹拌する。
(7)撹拌後、分液ロートに移し2層分離させる。この下層をナスフラスコに抜液する。
(8)ナスフラスコを65℃の恒温槽中にセットして、エバポレータによって揮発分を留去する。
(9)ナスフラスコ内の残存物を65℃で8時間以上、真空乾燥して「グラフト鎖乾燥試料」を得る。
【0140】
[2]カプロラクトン単位(CL)の定量
下記(1)および(2)の操作に従い分析した。
(1)前記[1]の操作で得た「グラフト鎖乾燥試料」を、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析計)を用い、下記1)~4)に示す条件で、500℃で熱分解させ、グラフト鎖のポリマー組成比を測定した。
1)強極性カラムで極性物質を分析、カラムの商品名「DP-FFAR、アジレント・テクノロジー株式会社製、30m×0.25mm×0.25μm」
2)カラム流量:1.0mL/min
3)注入口、インターフェース温度:230℃
4)熱分解温度:500℃
【0141】
(2)組成解析:熱分解GC-MSを用い500℃熱分解により、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンの分解物としてメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンが検出されることを確認した。カプロラクトン単位(CL)は、ε-カプロラクトンとして検出されるため、ε-カプロラクトン由来のピークがCLに該当するとみなした。組成比既知の、メチルメタクリレート(MMA)と不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンの共重合体をCL量算出用の標準ポリマーとした。標準ポリマーは乳化重合により作製し、重合率は99%以上であった。また、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンのモル質量(244.3g/mol)とε-カプロラクトンのモル質量(114.1g/mol)から、標準ポリマーにおけるCLの質量割合を計算し、MMAとCLの割合を示す検量線を作成した。検量線の相関係数は0.99であった。各試料における、MMA100質量部に対するCLの質量割合を、検量線を用いて算出し、表8~表10に記載した。
【0142】
[粒子径の測定]
ナノ粒子径分布測定装置 SALD-7100(島津製作所(株)製)を使用し測定した。
【0143】
[重合率の測定]
以下の手順により、グラフトラテックスの重合率を測定する。
(i)アルミニウム皿の質量(x)を0.1mgの単位まで測定する。
(ii)アルミニウム皿に重合体(X)のラテックスを約1g取り、重合体(X)のラテックスの入ったアルミニウム皿の質量(y)を0.1mgの単位まで測定する。
(iii)重合体(X)のラテックスの入ったアルミニウム皿を180℃の乾燥機に入れ、45分間加熱する。
(iv)アルミニウム皿を乾燥機から取出し、デシケーター内で25℃まで冷却し、その質量(z)を0.1mgの単位まで測定する。
(v)以下の式に基づいて、重合体(X)のラテックスの固形分濃度(%)を算出する。
固形分濃度(%)={(z-x)/(y-x)}×100
(vi)重合体(X)を製造する際に仕込む全単量体が重合した際の固形分濃度に対する(v)により算出した固形分濃度の百分率(%)を、グラフトラテックス製造終了時の重合率とする。
【0144】
[実施例1~5、比較例1~7]
製造例1で得られたゴム含有グラフト重合体(A-1)とポリブチレンテレフタレート樹脂(「ノバデュラン5010R5」(商品名)を表5に示す組成で配合し、混合し、混合物を得た。この混合物を、バレル温度260℃に加熱した脱揮式二軸押出機(池貝鉄工社製、PCM-30)に供給して混練し、ゴム含有グラフト重合体(A-1)が15質量%配合された実施例1の樹脂組成物のペレットを作製した。
【0145】
ゴム含有グラフト重合体の種類および/または使用量、並びにその他原料の配合量を表5~7に示す条件に変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~9および比較例1~12の各樹脂組成物のペレットを作製した。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)として、(「ノバデュラン5010R5」(商品名)、PCとして、芳香族ポリカーボネート(「ユーピロンS-2000F」(商品名)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、公称の芳香族ポリカーボネート樹脂のMv:22000)、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)として、SAN系樹脂「AP-H」(商品名)、テクノUMG(株)製、公称のAN比率は26%前後、Mw11万程度)を使用した。
【0146】
【表5】
【0147】
【表6】
【0148】
【表7】
【0149】
[シャルピー衝撃試験]
各ペレットを別個に、住友射出成形機SE100DU(住友重機械工業(株)製)に供給し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの成形体(試験片)を得た。
シャルピー衝撃試験はISO-179-1に準拠し、ISO2818に準拠したTYPEAのノッチを刻んで測定した。
【0150】
[引張試験]
各ペレットを別個に、住友射出成形機SE100DU(住友重機械工業(株)製)に供給し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、1点ゲート方式にて、JIS-7139で定める多目的試験片(A1)形状を得た。
引張試験はISO-527に準拠し、引張速度は20mm/minとした。
【0151】
[ウェルド強度]
各ペレットを、それぞれ別個に、住友射出成形機SE100DU(住友重機械工業(株)製)に供給し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃にて、JIS-7139で定める多目的試験片(A1)形状を得た。
この際、以下の手順に従って該当する試験片を得た。
(1)2点ゲートにて射出成形時の射出圧および保持圧を調整し、試験片中央にウェルドラインが来るように作製(図1a)
(2)(1)のときの保持圧を4MPa上げることで図1bの試験片を作製
引張試験はISO-527に準拠し、引張速度は20mm/minとした。
本発明の評価におけるウェルド強度は、図1bに示す試験片の引張試験の破断伸度と定義する。
【0152】
[成形品のTEM観察]
各ペレットを、それぞれ別個に、住友射出成形機SE100DU(住友重機械工業(株)製)に供給し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃にて、長さ100mm×幅50mm×厚さ2mmの成形体(試験片)を得た。試験片から、図2に示すよう、長さ10mm×幅5mm×厚さ2mmの試片を切り出した。切り出した試片を、図2にて観察面と記載した断面において、中央付近が薄切面となるよう、ウルトラミクロトーム(製品名:Leica EM UC7、ライカ マイクロシステムズ(株)製)により面出しおよびトリミングした。得られた試片を2.0質量%四酸化オスミウム水溶液(和光純薬(株)製)に浸漬させ、25℃で12時間染色したのち、上記ウルトラミクロトームにより、薄片厚さ50nm、切削速度0.4mm/secの条件で薄片を切り出し、支持膜付き銅グリッドの上に回収した。グリッド上に回収した薄片を0.5質量%四酸化ルテニウム水溶液(日新EM(株)製)蒸気により、25℃で10分染色したのち、透過型電子顕微鏡(製品名:H-7600、日立(株)製)により、加速電圧80kV条件で観察した。
【0153】
【表8】
【0154】
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂(「ノバデュラン(登録商標)5010R5」)
Ac-CL:不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン(登録商標)「プラクセルFM-1」(ダイセル社製)
CL:カプロラクトン単位
MMA:メチルメタクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
【0155】
【表9】
【0156】
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂((登録商標)「ノバデュラン5010R5」)
PC:芳香族ポリカーボネート樹脂((登録商標)「ユーピロンS-2000F」)
Ac-CL:不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン(登録商標)「プラクセルFM-1」(ダイセル社製)
CL:カプロラクトン単位
MMA:メチルメタクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
【0157】
【表10】
【0158】
SAN:スチレンアクリロニトリル樹脂(「AP-H」)
PC:芳香族ポリカーボネート樹脂((登録商標)「ユーピロンS-2000F」)
Ac-CL:不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン(登録商標)「プラクセルFM-1」(ダイセル社製)
CL:カプロラクトン単位
MMA:メチルメタクリレート
St-AN:スチレンとアクリロニトリルの共重合体
【0159】
凍結粉砕後の有機溶剤抽出物(fw)またはオゾン付加反応後の有機溶剤抽出物(ow)の組成分析の結果、カプロラクトン単位が検出されたことから、本発明のゴム含有グラフト重合体(A)は、ゴム状重合体に結合したグラフト鎖に、前記一般式(3)に示される不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン由来のカプロラクトン単位(CL)が含まれるといえる。
【0160】
グラフト鎖にカプロラクトン単位(CL)を有するゴム含有グラフト重合体を用いた場合、官能基を含有しないゴム含有グラフト重合体を用いた場合に比べ、すべてのマトリックス樹脂において、衝撃強度、引張強度およびウェルド強度が向上した。また、アクリル系ゴム含有グラフト重合体、ジエン系ゴム含有グラフト重合体、およびSi系ゴム含有グラフト重合体(A-10)のすべてのゴム種で、グラフト鎖にカプロラクトン単位(CL)が存在することで、機械的物性が向上したことから、本発明ゴム含有グラフト重合体(A)による熱可塑性樹脂の強度発現性の向上は、ゴムの種類に限定されないことがわかる。
【0161】
また、グラフト鎖にカプロラクトン単位(CL)を有するアクリル系ゴム含有グラフト重合体(A-1~A-3)を用いた場合、グラフト鎖にグリシジルメタクリレート由来のエポキシ基を有するゴム含有グラフト重合体(B-2,3)と比べて、衝撃強度、引張強度およびウェルド強度が向上した。グリシジルメタクリレートを含有するゴム含有グラフト重合体は、末端のエポキシ基がポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂と化学結合すると考えられるが、成形時にエポキシ基によって架橋が生じるため、機械的強度が低下したと考えられる。
【0162】
実施例3と比較例5をみると、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを有するゴム含有グラフト重合体(B-4)と比較して、グラフト鎖にカプロラクトン単位(CL)を有するゴム含有グラフト重合体(A-1)はウェルド強度に優位性がみられた。これは、グラフト鎖の側鎖末端に存在する水酸基の反応性の差によるものであると考えられる。グラフト鎖にカプロラクトン単位(CL)を有するゴム含有グラフト重合体(A-1)は、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンに由来する末端水酸基が主鎖骨格から離れた位置に存在するが、2-ヒドロキシエチルメタクリレートの水酸基は、グラフト鎖の主鎖骨格近傍に位置するため、反応性が劣ると考えられる。グラフト鎖の水酸基がマトリクス樹脂と反応することで、ゴム含有グラフト重合体(A)がマトリクス樹脂中で均一に分散しやすくなるため、反応性の優れるカプロラクトン単位(CL)を有するゴム含有グラフト重合体(A-1)でウェルド強度が向上したと考えられる。
【0163】
図3にそれぞれ実施例8、比較例10で得られた樹脂のTEM観察結果をまとめた。海が芳香族ポリカーボネートで、島がスチレンアクリロニトリル樹脂の相図となり、黒く染まった円状のゴムがどの相に配置しているかを示している。比較例10で得られた樹脂組成物中のゴム含有グラフト重合体(B-6)由来のゴムは、芳香族ポリカーボネートとスチレンアクリロニトリル樹脂の相界面に局在化しているのに対し、実施例8で得られた樹脂組成物中のゴム含有グラフト重合体(A-4)由来のゴムはマトリックス樹脂中に均一に分散している。比較例10に比べ、実施例8は低温衝撃強度が優位であったことから、ゴムが均一に分散しているほど、衝撃強度が向上するといえる。図3から実施例8の方が比較例10に比べ、ゴムは均一に分散しており、芳香族ポリカーボネート側に存在している。また、スチレンアクリロニトリル樹脂由来の相分離も微細で均一に分散している。芳香族ポリカーボネートはスチレンアクリロニトリル樹脂に比べてやわらかいため、応力が負荷された場合、まず芳香族ポリカーボネートに変形が生じると考えられる。したがって、変形によって生じる体積ひずみをゴムのキャビテーションにより緩和するという点で、芳香族ポリカーボネート側にゴムが均一に分散して存在するのが望ましいと考えられる。またスチレンアクリロニトリル樹脂由来の相分離も微細で均一に分散しているため衝撃強度が共に高いと考えられる。
図1
図2
図3