(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムの回収方法、回収装置及び機能層除去剤
(51)【国際特許分類】
C08J 11/08 20060101AFI20221220BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
B29B17/02
(21)【出願番号】P 2020208861
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2021-08-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】開 俊啓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智博
(72)【発明者】
【氏名】黒田 清徳
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-025041(JP,A)
【文献】特開2006-088334(JP,A)
【文献】特開2005-321537(JP,A)
【文献】特開平09-271748(JP,A)
【文献】特開昭51-115577(JP,A)
【文献】特開昭54-066985(JP,A)
【文献】特開昭53-094381(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154098(WO,A1)
【文献】特開2010-065230(JP,A)
【文献】特開平11-060795(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059516(WO,A1)
【文献】特開2001-310970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/08
B29B 17/00
C11D 7/06
C11D 7/26
C08J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能層除去工程(A)及び回収工程(B)を有し、
前記機能層除去工程(A)は、洗浄剤を用いて、ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムの機能層を除去する工程であり、
前記機能層は、ハードコート層、粘接着層及び離型層のいずれかであって、前記ハードコート層は、アクリル系ハードコート層であり、前記粘接着層は、アクリル系粘接着層であり、前記離型層は、シリコーン離型層であり、
前記洗浄剤(但し、モルホリン濃度が50質量%以上のモルホリン液を除く。)は、(a)アルカリ性化剤((b)成分として水酸基含有アミン化合物を含有する場合には、水酸基含有アミン化合物を除く。)、(b)相溶化剤及び(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物としてのアルコール類を含有し、
前記(b)相溶化剤として、芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物としてのアルコール類として、ベンジルアルコールを含み、
前記回収工程(B)は、前記機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する工程である、リサイクルポリエステル製品の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄剤が水系洗浄剤である請求項1に記載のリサイクルポリエステル製品の製造方法。
【請求項3】
前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む請求項1又は2に記載のリサイクルポリエステル製品の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムを含有する請求項3に記載のリサイクルポリエステル製品の製造方法。
【請求項5】
前記アルコール類の酸性度定数(pKa)が8.0以上、20.0以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステル製品の製造方法。
【請求項6】
前記アルコール類を2種類以上併用する請求項1~5のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステル製品の製造方法。
【請求項7】
前記機能層除去工程(A)における洗浄剤の温度が20℃以上である請求項1~6のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステル製品の製造方法。
【請求項8】
洗浄装置を有するポリエステルフィルムの回収装置であって、該洗浄装置は、洗浄剤の入った洗浄槽を有し、ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤((b)成分として水酸基含有アミン化合物を含有する場合には、水酸基含有アミン化合物を除く。)、(b)相溶化剤及び(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物としてのアルコール類を含有する洗浄剤(但し、モルホリン濃度が50質量%以上のモルホリン液を除く。)に浸漬して洗浄する装置であり、
前記機能層は、ハードコート層、粘接着層及び離型層のいずれかであって、前記ハードコート層は、アクリル系ハードコート層であり、前記粘接着層は、アクリル系粘接着層であり、前記離型層は、シリコーン離型層であり、
前記(b)相溶化剤として、芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物としてのアルコール類としてベンジルアルコールを含み、
前記洗浄装置で洗浄され、機能層が除去されたポリエステルフィルムを回収することを特徴とする、ポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項9】
前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む請求項8に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項10】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムを含有する請求項9に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項11】
前記アルコール類の酸性度定数(pKa)が8.0以上、20.0以下である請求項8~10のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項12】
前記アルコール類を2種類以上併用する請求項8~11のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項13】
前記機能層を除去したポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流すリンス装置をさらに備える請求項8~12のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項14】
前記洗浄剤が水系洗浄剤であり、前記リンス装置において、水で水系洗浄剤を洗い流す請求項13に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項15】
前記機能層が除去されたポリエステルフィルムを乾燥する乾燥装置を備える請求項8~14のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項16】
前記洗浄装置の前段に巻き出し装置を有する請求項8~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項17】
ロールトゥロール方式で回収する請求項16に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項18】
前記洗浄装置の前段に裁断装置をさらに備える請求項8~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
【請求項19】
ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムから機能層を除去するための除去剤であって、
前記機能層は、ハードコート層、粘接着層及び離型層のいずれかであって、前記ハードコート層は、アクリル系ハードコート層であり、前記粘接着層は、アクリル系粘接着層であり、前記離型層は、シリコーン離型層であり、
前記除去剤(但し、モルホリン濃度が50質量%以上のモルホリン液を除く。)は、(a)アルカリ性化剤((b)成分として水酸基含有アミン化合物を含有する場合には、水酸基含有アミン化合物を除く。)、(b)相溶化剤及び(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物としてのアルコール類を含有し、前記(b)相溶化剤として、芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含
み、前記(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物としてのアルコール類としてベンジルアルコールを含む、ポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項20】
前記除去剤が水系除去剤である請求項19に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項21】
前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む請求項19又は20に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項22】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムを含有する請求項21に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項23】
前記アルコール類の酸性度定数(pKa)が8.0以上、20.0以下である請求項19~22のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項24】
前記アルコール類を2種類以上併用する請求項19~23のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムの回収方法、リサイクルポリエステル製品、ポリエステルフィルムの回収装置及びポリエステルフィルムの機能層除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃プラスチックは、埋め立て、海洋投棄、焼却等の処理がなされていたが、埋め立て場所の確保が困難になりつつあり、海洋投棄はプラスチックが分解しないために環境面で問題になっている。また、焼却によって熱として利用することはできるが、炭酸ガスの排出により、地球温暖化につながるという問題がある。
【0003】
そこで、昨今の環境問題の高まりから、廃プラスチックの再利用、再生等のリサイクルが必要とされており、そのための研究開発が盛んに行われている。また、プラスチックはその多くが化石燃料により生産されており、資源の有効利用の点からも、リサイクル方法の構築が求められている。
【0004】
ところで、プラスチックフィルムの一種であるポリエステルフィルムは、基材フィルムとして有用であり、片面又は両面に種々の機能層が積層された、積層フィルムとして使用されることが多い。機能層としては、ハードコート層、粘接着層、加飾層、遮光層、偏光層、紫外線遮蔽層など、様々な機能層があり、機能層に応じた材料をポリエステルフィルムに積層した積層フィルムが使用されている。
【0005】
このような積層フィルムは、使用後にほとんど再利用されておらず、廃棄、焼却等がなされている。
【0006】
機能層が積層された積層フィルムをそのまま再溶融してリサイクルしようとしても、機能層を構成する材料が溶融ポリマー中に混入するため、押し出し時に異臭を発生したり、ポリマーの溶融粘度が低下したりしてフィルム製膜時の破断の原因となる。
また、仮に製膜できたとしても得られたフィルムの着色や、異物混入などによる品質の劣化が避けられない。
【0007】
また、仮に機能層を物理的に削り取るなどして剥離除去し、溶融押出しした場合も、押出し時の濾過工程で、残存した機能層によってフィルターが目詰まりを起こし、正常な製膜ができなくなるなどの問題が生じる。
【0008】
積層フィルムのリサイクル方法として、例えば、特許文献1に開示される技術がある。この技術は、基材フィルムの少なくとも片面に易溶解性樹脂層と表面機能層をこの順に積層してなる積層フィルムである。このような構成としたうえで、使用後に、易溶解性樹脂層のみ溶解可能であって、基材フィルムを溶解しない溶媒で洗浄することにより、積層フィルムから基材フィルムを分離回収しようというものである。分離回収したものは再溶融され、基材フィルムを構成していた樹脂組成物を再生することを可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示される方法は、上述のように、基材フィルムの表面に易溶解性樹脂層と表面機能層とをこの順に積層してなる積層フィルムを前提としており、易溶解性樹脂層を溶解させることによって、機能層を除去しようとするものである。
すなわち、易溶解性樹脂層を有さない、大部分の積層ポリエステルフィルムに用いることはできず、汎用性のない技術である。
上記実情に鑑みて、易溶解性樹脂層を有さない積層ポリエステルフィルムであっても、機能層を剥離でき、基材フィルムを回収することのできるポリエステルフィルムの回収方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アルカリ性化剤と、相溶化剤とを含有する洗浄剤を用いることで、機能層を除去することができ、効率的に基材のポリエステルフィルムを回収し得ることを見出した。本発明は係る知見に基づき完成したものである。すなわち、本発明は、以下の態様を有するものである。
(1)ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)相溶化剤を含有する洗浄剤で洗浄し、機能層を除去する、機能層除去工程(A)と、機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)を有するポリエステルフィルムの回収方法。
(2)前記洗浄剤が水系洗浄剤である上記(1)に記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(3)前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む上記(1)又は(2)に記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(4)前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムを含有する上記(3)に記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(5)前記洗浄剤が、さらに、(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物を含有する上記(1)~(4)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(6)前記(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物がアルコール類である上記(5)に記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(7)前記アルコール類の酸性度定数(pKa)が8.0以上、20.0以下である上記(6)に記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(8)前記アルコール類を2種類以上併用する上記(6)又は(7)に記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(9)前記(b)相溶化剤が、芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有のアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)~(8)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(10)前記機能層除去工程(A)における洗浄剤の温度が20℃以上である上記(1)~(9)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの回収方法。
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の回収方法により回収したポリエステルフィルムを、原料として少なくとも一部に含むリサイクルポリエステル製品。
(12)洗浄装置を有するポリエステルフィルムの回収装置であって、洗浄装置において、ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)相溶化剤を含有する洗浄剤で洗浄し、機能層を除去したポリエステルフィルムを回収することを特徴とする、ポリエステルフィルムの回収装置。
(13)前記機能層を除去したポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流すリンス装置をさらに備える上記(12)に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
(14)前記洗浄剤が水系洗浄剤であり、前記リンス装置において、水で水系洗浄剤を洗い流す上記(13)に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
(15)前記機能層が除去されたポリエステルフィルムを乾燥する乾燥装置を備える上記(12)~(14)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの回収装置。
(16)前記洗浄装置の前段に巻き出し装置を有する上記(12)~(15)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの回収装置。
(17)ロールトゥロール方式で回収する上記(16)に記載のポリエステルフィルムの回収装置。
(18)前記洗浄装置の前段に裁断装置をさらに備える上記(12)~(15)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの回収装置。
(19)ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムから機能層を除去するための除去剤であって、(a)アルカリ性化剤、及び(b)相溶化剤を含有する、ポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(20)前記除去剤が水系除去剤である上記(19)に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(21)前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む上記(19)又は(20)に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(22)前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムを含有する上記(21)に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(23)前記除去剤が、さらに、(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物を含有する上記(19)~(22)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(24)前記(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物がアルコール類である上記(23)に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(25)前記アルコール類の酸性度定数(pKa)が8.0以上、20.0以下である上記(24)に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(26)前記アルコール類を2種類以上併用する上記(24)又は(25)に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
(27)前記(b)相溶化剤が、芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(19)~(26)のいずれか1つに記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の回収方法によれば、機能層を有する積層ポリエステルフィルムから、機能層を容易に除去することができ、効率的に基材フィルム(ポリエステルフィルム)を回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムの回収方法は、ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)相溶化剤を含有する洗浄剤で洗浄し、機能層を除去する、機能層除去工程(A)と、機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)を有する。
ここで、機能層除去工程(A)において、(a)アルカリ性化剤、及び(b)相溶化剤を併用することが重要であり、併用によって、ポリエステルフィルム上の機能層を効果的に除去することができる。
【0014】
上述の(a)成分と(b)成分を併用することで、機能層を効果的に除去することができる機構については、定かではないが、以下のように推定している。
【0015】
すなわち、基材であるポリエステルフィルムと機能層の界面では、アルカリ性化剤から電離したヒドロキシル基による鹸化反応が進行してカルボキシラートを生成(イオン化)し、これにより、機能層が膨潤剥離や溶出すると推定している。
そして、相溶化剤を使用することにより、洗浄剤成分の相溶性が向上することで上記反応が進行しやすくなり、機能層の剥離が容易になったと考えられる。
【0016】
<積層ポリエステルフィルム>
本発明における積層ポリエステルフィルムとは、基材フィルムであるポリエステルフィルムの表面に樹脂層などの機能層が積層されたものをいう。
ポリエステルフィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造の場合、2層構造、3層構造などでもよいし、4層又はそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。また、ポリエステルフィルムは、二軸延伸フィルム等の延伸フィルムであっても未延伸フィルムであってもよい。
ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、特に限定されるものではなく、市場に流通しているものを適宜使用できる。具体的には、ジカルボン酸とジオールを重縮合してなるポリエステルが挙げられ、ジカルボン酸としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族グリコールが好ましい。
上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などが挙げられる。上記脂肪族グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等を挙げることができる。
ポリエステルはホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。また、ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸、グリコール以外の第3成分を共重合体成分として含んでもよい。
ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレートなどが挙げられ、これらの中ではポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、これらは、共重合体ポリエステルであってもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートは、ジカルボン酸単位の30モル%以下程度でテレフタル酸以外のジカルボン酸単位を有し、また、ジオール単位の30モル%程度でエチレングリコール以外のジオール単位を有してもよい。
【0017】
機能層は、その構成成分は特に限定されるものではないが、本発明の回収方法によって除去する観点からは、樹脂により構成されていることが好ましい。機能層としては、例えば、ハードコート層、粘接着層、離型層、加飾層、遮光層、紫外線遮蔽層、易接着層(プライマー層)、帯電防止層、屈折率調整層、オリゴマー封止層などが挙げられる。
【0018】
ハードコート層は、ポリエステルフィルムに耐擦傷性などを付与するために設けられる層であり、ハードコート層を形成する材料としては、特に限定されないが、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、テトラエトキシシラン等の反応性ケイ素化合物の硬化物などが挙げられる。
【0019】
粘接着層は、他の機器等に粘接着させるために設けられる層であり、粘接着層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、公知のアクリル系、ゴム系、シリコーン系等の粘着樹脂を使用することができる。
【0020】
離型層は、ポリエステルフィルムに離型性を付与するために設けられる層であり、例えば、セラミック電子部品の製造時に使用するグリーンシート成形用工程紙、偏光板、光学フィルター等のフラットパネルディスプレイ製造時に使用する光学部材の粘着セパレータなどに使用される離型フィルムに設けられる層である。離型層を構成する材料としては、特に制限はなく、例えば、硬化型シリコーン樹脂を主成分とするもの、あるいはウレタン樹脂、エポキシ樹脂等とのグラフト重合等による変性シリコーン樹脂等、長鎖アルキル基含有化合物、フッ素化合物、炭化水素系ワックス等が挙げられる。
【0021】
加飾層は、意匠性を付与するために設けられる層であり、加飾層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂に顔料、染料等が加えられ装飾がなされる。
【0022】
遮光層又は紫外線遮光層は、内容物を紫外線、可視光等から保護するために設けられる層であり、遮光層又は紫外線遮光層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、加飾層で記載した各種樹脂や、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、硫酸バリウム等の無機充填剤、木粉、パルプ粉等、セルロース粉末等の有機充填剤が挙げられる。
【0023】
易接着層(プライマー層)は、他の層やフィルムをポリエステルフィルム上に接着させるために設けられる層であり、特に限定されないが、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂等や、各種架橋剤、粒子等が挙げられる。
【0024】
帯電防止層は、他の材質との接触や剥離などにより発生する帯電を防ぐために設けられる層である。帯電防止層に使用される帯電防止剤としては、特に限定されないが、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性界面活性剤、ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(4-スチレンサルフォネート)等の導電性高分子、SnO2(Sbドープ)、In2O3(Snドープ)、ZnO(Alドープ)等の金属酸化物フィラー、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)などのカーボン化合物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。また、帯電防止層は、帯電防止剤を含む樹脂組成物から形成されてもよい。樹脂組成物に含有される樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、及びウレタン樹脂などが挙げられる。
【0025】
屈折率調整層は、屈折率を調整するために設けられる層であり、屈折率調整層を構成する材料としては、特に限定されないが、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、酸化ジルコニウムや酸化チタン等の金属酸化物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
【0026】
オリゴマー封止層は、加熱工程後のフィルム白化・異物防止のために設けられる層であり、特に限定されないが、例えば、オリゴマー封止層を構成する材料としてはアミン系化合物、イオン性樹脂などが挙げられる。また、オリゴマー封止層は、高架橋塗膜等などであってもよい。
【0027】
これら機能層は単層でも良いし、2種類以上の層が積層されていてもよい。
2種類以上の層が積層されている場合、少なくとも1層が樹脂により構成されている層であることが好ましい。
【0028】
<洗浄剤>
本発明の方法では、機能層除去工程(A)において、(a)アルカリ性化剤、及び(b)相溶化剤を含有する洗浄剤で洗浄することを特徴とする。
【0029】
(アルカリ性化剤)
本発明の洗浄剤を構成する(a)アルカリ性化剤は、洗浄液をアルカリ性とするものであり、アルカリ剤とも呼べる。アルカリ性化剤としては、無機アルカリ性化剤であっても、有機アルカリ性化剤であってもよいが、後述する(b)相溶化剤との組み合わせが好適である点から、無機アルカリ性化剤であることが好ましい。
【0030】
無機アルカリ性化剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属のケイ酸塩;アンモニアなどが挙げられる。
【0031】
本洗浄剤における無機アルカリ性化剤のうち、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、入手容易性から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましく、洗浄性から水酸化カリウムが特に好ましい。
【0032】
本洗浄剤における無機アルカリ性化剤としては、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムを組み合わせて使用することが、効果及び取り扱い性の点から好ましい。
【0033】
有機アルカリ性化剤としては、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリイソプロパノールアミン、等の有機アミン化合物等が挙げられる。
なお、有機アルカリ性化剤として、少なくとも一つの水酸基を有する化合物が含まれる場合があるが、該化合物の酸性度定数(pKa)が30以上であれば、アルカリ性化剤として取り扱う。
【0034】
本洗浄剤における有機アルカリ性化剤のうち、汎用性からモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましく、入手容易性からモノエタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましく、洗浄性からモノエタノールアミンが特に好ましい。
【0035】
また、洗浄剤全体におけるアルカリ性化剤の含有量は1~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることがさらに好ましい。上記範囲内であると、洗浄剤として充分な効果が得られる。
【0036】
(相溶化剤)
本発明に係る洗浄剤において、(b)相溶化剤は、前記(a)成分と併用することで、積層ポリエステルフィルムからの機能層の溶出を助ける働きを有するとともに、上記(a)成分と後述する好適に添加し得る(c)成分、及びその他任意に添加される添加剤等を可溶化する機能を有する。
(b)相溶化剤としては、特に制限はなく、アニオン系相溶化剤、カチオン系相溶化剤、ノニオン系相溶化剤、両性相溶化剤のいずれも使用することができる。
なお、相溶化剤には、上記アルカリ性化剤にも相当する化合物が含まれることから、本発明の洗浄剤において、(b)相溶化剤は、上記(a)アルカリ性化剤と併用するに際し、(a)成分とは異なるものを用いる。
【0037】
アニオン系相溶化剤としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、芳香族カルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α-スルホン化脂肪酸、N-メチル-N-オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、これらの塩等が挙げられる。
【0038】
カチオン系相溶化剤としては、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウム、アルキルピリジニウム、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム、N,N-ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム及びこれらの塩等が挙げられる。
【0039】
ノニオン系相溶化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンエーテル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコール、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリイソプロパノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイド等の有機アミン化合物が挙げられる。
【0040】
両性相溶化剤としては、N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N-ジアルキル-N,N-ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2-アルキル-1-カルボキシメチル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン類、N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩等のアミノカルボン酸類が挙げられる。
【0041】
なお、相溶化剤としては、後述する(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物が含まれる場合があるが、アルカノールアミン化合物、アルカノールアミド化合物、及び下記に該当する炭素数12以上のヒドロキシ化合物については、(b)相溶化剤として取り扱う。
アルカノールアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等が挙げられ、アルカノールアミド化合物としては、モノエタノールアミド、ジエタノールアミド及びトリエタノールアミド等が挙げられる。
また、炭素数12以上のヒドロキシ化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、チオエーテル系、ポリオキシアルキレングリコール系、アセチレングリコール系、エステル系及びグリコシド系の炭素数12以上のヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0042】
本洗浄剤における(b)相溶化剤のうち、相溶性及び取り扱い性の観点から、芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有のアミン化合物の使用が好ましい。具体的な化合物としては、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。これらの中でも、洗浄液の加温上限を上げる観点から、沸点が高い上記芳香族スルホン酸塩の使用がより好ましい。
なお、ここでは上述のように、(a)アルカリ性化剤とは異なる化合物を用いることが前提である。
【0043】
(a)アルカリ性化剤と(b)相溶化剤の組み合わせの具体例としては、アルカリ性化剤として無機アルカリ性化剤を使用する場合には、(b)相溶化剤としては、アニオン系相溶化剤、カチオン系相溶化剤、ノニオン系相溶化剤、及び両性相溶化剤のいずれか少なくとも1つを使用すればよい。また、(a)アルカリ性化剤として、有機アルカリ性化剤を使用する場合には、(b)相溶化剤としては、アニオン系相溶化剤、カチオン系相溶化剤、有機アミン化合物以外のノニオン系相溶化剤、及び両性相溶化剤のいずれか少なくとも1つを使用すればよい。
【0044】
また、本洗浄剤においては、(a)アルカリ性化剤として無機アルカリ性化剤を使用し、かつ(b)相溶化剤として芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有のアミン化合物から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
なかでも、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種の無機アルカリ性化剤と、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の芳香族スルホン酸塩との組み合わせが好ましい。また、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種の無機アルカリ性化剤と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリイソプロパノールアミンから選択される少なくとも1種の水酸基含有アミン化合物の組み合わせが好ましく、これらの中でも、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選択される少なくとも1種の無機アルカリ性化剤と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンから選択される少なくとも1種の水酸基含有アミン化合物を併用した組み合わせが特に好ましい。
【0045】
また、洗浄剤中の様々な添加剤を包括的に相溶させる観点から、前記相溶化剤を2種類以上併用してもよい。
また、洗浄剤中の相溶化剤の含有量としては、1~30質量%の範囲であることが好ましい。上記範囲内であると十分な洗浄性が得られる。以上の観点から、洗浄剤中の相溶化剤の含有量5~25質量%の範囲であることがより好ましく、8~20質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明に係る洗浄剤は、(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物を含有していることが好ましい。
【0047】
(少なくとも一つの水酸基を有する化合物)
前記(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物としては、アルコール類、フェノール類などが挙げられる。
【0048】
アルコール類としては、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の単価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール;グリセリン等の多価アルコール等を挙げることができる。
【0049】
フェノール類としては、フェノール、キシレノール、サリチル酸、ピクリン酸、ナフトール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ビスフェノールA、クレゾール、エストラジール、オイゲノール、没食子酸、グアイアコール、フェノールフタレイン、セロトニン、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、チモール、チロシン、ヘキサヒドロキシベンゼン等を挙げることができる。
【0050】
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよいが、とりわけ、剥離洗浄効果を高める観点から、2種類以上を併用することが好ましい。
【0051】
これらの中でも、洗浄剤のアルカリ性を損なわず、洗浄性を維持する観点からアルコール類が好ましい。
【0052】
また、洗浄性の観点から、アルコール類の酸性度定数(pKa)が8.0以上、20.0以下の範囲であることが好ましく、8.0以上、18.0以下がより好ましく、9.0以上、16.0以下がさらに好ましく、9.0以上、15.6以下の範囲が特に好ましく、9.3以上、15.4以下が最も好ましい。
アルコール類の酸性度定数(pKa)が上記範囲内であれば、洗浄剤のアルカリ性を損ねることなく、アルコキシドが生成されるため、洗浄剤の洗浄能力が向上する
【0053】
一部アルコールの酸性度定数(pKa)を次に示す。ヘキサフルオロ-2-プロパノール(pKa=9.3)、ベンジルアルコール(pKa=15.4)、メタノール(pKa=15.5)、エタノール(pKa=16.0)、1-プロパノール(pKa=16.1)、2-プロパノール(pKa=17.1)、1-ブタノール(pKa=16.1)、tert-ブタノール(pKa=18.0)。
上記に示すアルコールの酸性度定数(pKa)の値から、酸性度定数(pKa)15.4以下のアルコール類とは、メタノールよりも酸性度定数(pKa)が小さいアルコール類と言える。
また、酸性度定数(pKa)9.3以上のアルコール類とは、ヘキサフルオロ-2-プロパノールの酸性度定数(pKa)以上のアルコール類と言える。
【0054】
(成分(c)の好ましい態様1)
上記の中でも、洗浄性の観点から、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール及びベンジルアルコールがより好ましい。これらのアルコール類は、プロトンが電離してアルコキシドが生成しやすく、高い洗浄性を有する。その中でも、洗浄力の高いヘキサフルオロ-2-プロパノールが好ましい。
【0055】
さらに、洗浄能力を調整する目的で、ヘキサフルオロ-2-プロパノールと他のアルコール類を併用することも好ましい。併用する場合は、ヘキサフルオロ-2-プロパノールとメチルアルコール、ヘキサフルオロ-2-プロパノールとエチルアルコール及びヘキサフルオロ-2-プロパノールとベンジルアルコールの併用が好ましい。
【0056】
アルコール類としてヘキサフルオロ-2-プロパノールと他の単価アルコール類を用いる場合には、これらの質量部比(ヘキサフルオロ-2-プロパノール:他の単価アルコール類)は、1:1~1:100が好ましく、1:3~1:41であることがより好ましく、1:4~1:20がさらに好ましく、1:5~1:10であることが特に好ましい。
【0057】
なお、単価アルコール類を2種類以上併用した場合でも、さらに2価アルコール及び多価アルコールを併用してもよい。
【0058】
(成分(c)の好ましい態様2)
また、低揮発性及び使用可能な温度範囲の観点からは、上記の中でも、ベンジルアルコールの使用が好ましい。
【0059】
(成分(c)の好ましい態様3)
さらに、とりわけ、剥離洗浄効果を高める観点から、2種類以上を併用することが好ましく、2種類以上を併用する場合は、塗膜の性状に関わらず広くかつ相乗的に剥離洗浄効果を発現させる観点から、疎水性単価アルコールと水溶性単価アルコールの組合せが好ましい。疎水性単価アルコールとは、水と混じらずに2層に分離する単価アルコールのことを、水溶性単価アルコールとは、水と混じり1層になる単価アルコールのことを指す。
また、中でも疎水性単価アルコールとしてベンジルアルコールを、水溶性単価アルコールとしてヘキサフルオロ-2-プロパノール、メチルアルコール、エチルアルコール及びプロピルアルコールから選ばれる何れか1種以上を併用することがより好ましく、中でも、ベンジルアルコールとヘキサフルオロ-2-プロパノール及びベンジルアルコールとメチルアルコールの併用が最も好ましい。
【0060】
前記アルコール類を2種類以上併用する場合の配合比は特に制限されないが、剥離洗浄効果を特に高める観点から、疎水性単価アルコール:水溶性単価アルコールの質量部比が1:1~20:1であることが好ましく、1:1~10:1であることがより好ましく、1.5:1~10:1であることがさらに好ましい。
【0061】
なお、単価アルコール類を2種類以上併用した場合でも、さらに2価アルコール及び多価アルコールを併用してもよい。
【0062】
洗浄剤において、(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物の含有量は、10~99質量%が好ましく、20~98質量%がより好ましく、30~97質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、(a)アルカリ性化剤の量が適当となるため、ポリエステルフィルムを回収した際にアルカリ性化剤成分の析出による異物混入等が抑制され、リサイクルポリエステルフィルムの品質を維持できる。
【0063】
本発明に係る洗浄剤は、水系洗浄剤であることが好ましい。水系洗浄剤は、上記(a)~(c)成分等を水に溶解させ、また、希釈させたものである。水系洗浄剤は引火点を上げることができるため比較的安全性が高く、また、後述するリンス工程において、水を使用できる点でも有利である。
【0064】
本発明に係る洗浄剤は、上記(a)成分~(c)成分以外にも種々の添加剤を配合することができ、例えば、酸化防止剤、防錆剤、pH調整剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤などを添加することができる。
【0065】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、特に限定されず、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等を用いることができる。
【0066】
(防錆剤)
防錆剤としては、クロム酸塩、モリブデン酸塩、亜硝酸ナトリウム等の無機化合物が挙げられる。
【0067】
(pH調整剤)
pH調整剤としては乳酸、二酸化炭素、コハク酸、グルコン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸、リン酸、等が挙げられる。
【0068】
(防腐剤)
防腐剤としてはパラベン系、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、プロピオン酸塩系、デヒドロ酢酸、二酸化硫黄及びピロ亜硫酸ナトリウム系等が挙げられる。
【0069】
(粘度調整剤)
粘度調整剤としては高分子化合物、層状無機粒子などが挙げられる。
【0070】
(消泡剤)
消泡剤としては、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、ポリエーテル系化合物、アセチレングリコール系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等が挙げられる。
【0071】
<機能層除去工程(A)>
本発明に係る機能層除去工程は、前記洗浄剤を用いて、積層フィルムの機能層を除去する工程である。除去の方法としては、例えば、洗浄剤の入った洗浄槽に浸漬する浸漬法、溶液状態の洗浄剤を塗布する塗布法、溶液状態の洗浄剤又は気化した洗浄剤を吹き付ける吹き付け法などが挙げられる。これらのうち、機能層への洗浄剤の浸透性の点から、浸漬法が好ましい。
【0072】
浸漬法における洗浄剤の温度としては、室温(20℃)以上であることが好ましい。室温(20℃)以上であると、洗浄液の粘度が低く、機能層へ浸透しやすいため良好な洗浄性が得られる。以上の観点から、浸漬法における洗浄剤の温度としては40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、60℃以上であることが特に好ましい。
また、洗浄剤の温度の上限値としては、洗浄剤を溶液状態で用いる場合には、沸点以下の温度が好ましい。本願の好適な態様である水系洗浄剤の場合は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。
なお、浸漬法以外においても洗浄時の洗浄液の温度は、上記と同様である。また、浸漬法における剥離洗浄では、加水分解反応を進める目的として、マイクロ波照射を行ってもよい。
【0073】
洗浄剤のpHは、洗浄性の観点から12以上が好ましく、13以上がより好ましい。
【0074】
浸漬時間については、洗浄対象物の種類によって、以下のように適宜調整することが好ましい。
【0075】
機能層としてアクリル系粘着層を設けたポリエステルフィルムが洗浄対象の場合、1秒以上、30分以下が好ましい。1秒以上であると、洗浄剤が機能層へ充分に浸透し、洗浄性が発揮できる。一方、30分以内であると、基材であるポリエステルフィルムが過度に溶解することなく、回収した際に得られるポリエステルの量を確保できる。以上の観点から、15秒以上、20分以下であることがより好ましく、30秒以上、15分以下であることがさらに好ましく、1分以上、10分以下であることが特に好ましい。
【0076】
機能層としてアクリル系ハードコート層を設けたポリエステルフィルムが洗浄対象の場合、1秒以上、30分以下が好ましい。1秒以上であると、洗浄剤が機能層へ充分に浸透し、洗浄性が発揮できる。一方、30分以内であると、基材であるポリエステルフィルムが過度に溶解することなく、回収した際に得られるポリエステルの量を確保できる。以上の観点から、15秒以上、30分以下であることがより好ましく、30秒以上、25分以下であることがさらに好ましく、1分以上、20分以下であることが特に好ましい。
【0077】
機能層としてシリコーン離型層を設けたポリエステルフィルムが洗浄対象の場合1秒以上、30分以下が好ましい。1秒以上であると、洗浄剤が機能層へ充分に浸透し、洗浄性が発揮できる。一方、30分以内であると、基材であるポリエステルフィルムが過度に溶解することなく、回収した際に得られるポリエステルの量を確保できる。以上の観点から、15秒以上、20分以下であることがより好ましく、30秒以上、10分以下であることがさらに好ましく、1分以上、5分以下であることが特に好ましい。
【0078】
機能層除去工程の具体的な態様は、廃材である積層フィルムの形状による。
廃材である積層ポリエステルフィルムが、ロール状である場合には、洗浄剤を入れた洗浄槽の前段に巻き出し装置を設置しておき、該装置から積層フィルムを巻き出して、洗浄槽中に導入して洗浄することが好ましい。そして、連続的に次の回収工程(B)に移行する態様が好ましい。
また、機能層除去工程から後述するリンス工程において、積層ポリエステルフィルムから効率良く機能層を除去する目的で、ロールブラシ、超音波、マイクロ/ナノバブル、水流、圧縮冷気などの物理的手段を備えた設備を設けてもよい。
【0079】
廃材である積層ポリエステルフィルムが、塊状である場合には、洗浄工程の前に裁断装置を設置しておき、フレーク状にして洗浄槽に導入することが好ましい。フレーク状にすることで、積層ポリエステルフィルムと洗浄剤との接触面積が大きくなって、洗浄剤が浸透しやすくなり、効率的に機能層を除去することができる。本態様では、ベルトコンベア等を利用して、フレーク状の積層ポリエステルフィルムを連続的に洗浄槽に導入する方法が好ましい。このような態様をとることで、高い生産性で洗浄することができる。なお、本態様の場合には、洗浄はバッチ式で行うこともできる。
【0080】
<回収工程(B)>
前記機能層除去工程(A)の後に、基材フィルムであるポリエステルフィルムを回収する。回収工程の前段で、後述するリンス工程、及び乾燥工程を有することが好ましい。回収の方法としては、廃材である積層ポリエステルフィルムの形状に応じて、適当な方法を選択することができる。
【0081】
廃材である積層ポリエステルフィルムが、ロール状の場合は、ロールトゥロールで連続的に行い、適宜洗浄工程、リンス工程及び乾燥工程を経て、巻き取ることで効率的に回収することができる。
【0082】
廃材である積層ポリエステルフィルムが塊状の場合は、上述のように、機能層除去工程の前に、裁断工程を有することが好ましい。本態様の場合には、ベルトコンベア等を利用して、連続的にリンス工程、乾燥工程を通過させて、フレーク状のポリエステルを回収する態様が好ましい。
【0083】
上述のようにして回収されたポリエステルフィルムは、回収後、ペレット状にすることが、取り扱いの点で有利である。
【0084】
<リンス工程>
本発明では、機能層除去工程(A)の後、回収工程(B)の前に、洗浄剤を洗い流すリンス工程を有することが好ましい。具体的には、リンス液により、機能層を除去したポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流す工程を指す。
【0085】
リンス液としては、洗浄剤を洗い流し得るものであれば特に限定されないが、本発明の好適な態様である水系洗浄剤を用いる場合には、リンス工程に水を用いることができる。
【0086】
リンス工程の温度としては、効率的に洗い流せるとの観点から、室温付近であることが好ましく、具体的には5~50℃であることが好ましく、5~30℃であることがより好ましい。
【0087】
洗浄剤を洗い流す方法としては、機能層を除去したポリエステルフィルムに対してリンス液を吹き付ける吹き付け法、ポリエステルフィルムをリンス液の入ったリンス槽に浸漬する浸漬法などが挙げられる。ただし、洗い流す必要のない洗浄剤を使用する場合には、リンス工程は省略可能である。
【0088】
<乾燥工程>
リンス工程の後には、乾燥工程を経ることが好ましい。乾燥工程によって、ポリエステルフィルム上に残存した洗浄剤及び/又はリンス液を除去できる。なお、リンス工程が省略される場合には、乾燥工程は、機能層除去工程(A)の後に行われるとよい。
【0089】
乾燥工程の条件としては、特に限定されず、通常70~150℃で、1~30分程度の時間乾燥される。乾燥方法としては、赤外線ヒーターやオーブン等による加熱乾燥、熱風乾燥機等による熱風乾燥やマイクロ波加熱乾燥など、一般的な方法を用いることができる。
【0090】
<リサイクルポリエステル製品>
本発明の回収方法により得られたポリエステルフィルムは、ポリエステル原料として利用でき、いわゆるリサイクルポリエステル製品として、再利用することができる。具体的には、回収したポリエステルはペレット化して、ペレット状のポリエステル(ポリエステル製品)として保管することができる。また、回収されたポリエステルは、溶融押出し等によってポリエステルフィルムなどの各種のポリエステル製品に成形することもできる。
なお、回収されたポリエステルは、その製造容易性から、一旦ペレット化した後に、各種製品に成形することが好ましい。
【0091】
用途としては、通常のポリエステル製品と同様の用途に用いることができ、例えば、基材フィルムであるポリエステルフィルムとして使用することができる。当該基材フィルムに、機能層を形成することで、積層フィルムとして再利用することも可能である。
【0092】
リサイクルポリエステルは、従来の方法で製造されたポリエステルと混合して使用することもでき、また、リサイクルポリエステルと従来の方法で製造されたポリエステルを用いた多層フィルムとすることもできる。
【0093】
リサイクルポリエステル製品としては、フィルム以外にも、各種用途に使用可能であり、例えばペットボトル、ポリエステル繊維、ポリエステルシート、ポリエステル容器などを製造することもできる。
【0094】
なお、剥離した機能層に関しても、必要に応じて回収し、再利用することも可能である。
【0095】
<機能層除去剤>
本発明の別の態様によれば、ポリエステルフィルムの表面に機能層を備える積層ポリエステルフィルムから機能層を除去するための除去剤(以下「本除去剤」ともいう)が提供される。
本発明に係るポリエステルフィルム用機能層除去剤は、上述したポリエステルフィルムの回収方法における機能層除去工程(A)で使用される洗浄剤を、前記ポリエステルフィルムから機能層を除去するために使用するものである。
本除去剤の具体的態様及び好ましい態様は、上記洗浄剤と同じであり、これらを全て援用することができる。
本除去剤は、ポリエステルフィルムから機能層を容易に除去することができ、積層ポリエステルフィルムから効率的にポリエステルフィルムを回収することができる。
【0096】
<ポリエステルフィルムの回収装置>
本発明に係るポリエステルフィルムの回収装置は、洗浄装置を有する。回収装置は、洗浄装置にて洗浄され、機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する。
【0097】
ポリエステルフィルムを回収する手段は、特に限定されないが、ロール状の場合には、機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する巻取ロールを使用すればよい。
塊状の場合には、ベルトコンベヤなどの搬送装置により、所定の回収位置に機能層を除去したポリエステルフィルムを搬送させて回収してもよい。
【0098】
ポリエステルフィルムを巻き出す、及び裁断する手段は、特に限定されないが、ロール状の場合は、巻き出し装置を有していることが好ましく、さらには、巻き取りもロールで行う、いわゆるロールトゥロール方式であることが、効率的にポリエステルフィルムの回収が行える点で好ましい。
塊状の場合は、裁断装置を有していることが好ましい。裁断によって、廃材はフレーク状になり、前述のように、洗浄工程がより効率的になる。
【0099】
回収装置は、ペレット製造装置を有することも好ましく、回収されたポリエステルフィルムは、取り扱い性を容易にするために、ペレット製造装置でペレット化することが好ましい。特に塊状の廃材から回収されたポリエステルフィルムは、ペレット化することで取扱い性をより一層良好にできる。
【0100】
さらに、回収装置は、以下で詳述する通り、リンス装置、及び乾燥装置を好ましくは有する。
【0101】
(洗浄装置)
洗浄装置は、(a)アルカリ性化剤、及び(b)相溶化剤を含有する洗浄剤で洗浄する装置である。典型的には、洗浄槽に上記洗浄剤を満たした洗浄槽が挙げられ、ここに廃材である積層ポリエステルフィルムを導入し、浸漬して洗浄する。その他、溶液状態の洗浄剤を塗布する塗布装置、溶液状態又は気化した洗浄剤や、洗浄剤のミストを形成してミストを吹き付ける吹付装置などがある。
【0102】
洗浄剤は上記の通りであり、洗浄剤としては、水系洗浄剤が好ましい。水系洗浄剤を用いることで、後述するリンス装置で水によるリンスを行うことができ、好ましい。
【0103】
(リンス装置)
リンス装置は、洗浄剤にて機能層を除去した後に、ポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流すための装置である。具体的には、リンス液を吹き付ける吹付装置、リンス液に浸漬させる浸漬装置などが挙げられる。上述のように、洗浄剤として水系洗浄剤を用いることで、リンス工程で水を用いることができ、安全性が高く、また防爆装置などが不要であることからコスト面でも好ましい。
【0104】
洗浄剤とともに、ポリエステルフィルムから剥離した機能層も同時に洗い流される場合がある。水と機能層を構成していた材料はその後分離され、水はリンス工程で再利用することができ、機能層を構成していた材料も再利用することが可能である。なお、リンス装置は省略されてもよい。
【0105】
(乾燥装置)
乾燥装置は、機能層が剥離され、洗浄剤が洗い流されたポリエステルフィルムを乾燥するためのものであり、乾燥条件については、前述の通りである。乾燥装置としては、赤外線ヒーター、オーブン、熱風乾燥機、及びマイクロ波加熱乾燥機などが挙げられる。乾燥装置における乾燥工程を経て、ポリエステル基材は回収される。なお、リンス装置が省略される場合にも、乾燥装置により、機能層が剥離されたポリエステルフィルムを乾燥するとよい。
【実施例】
【0106】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0107】
<評価方法>
(1)浸漬試験
各実施例及び比較例で調製した洗浄剤を30mlの水槽に入れ、積層フィルムを浸漬させた。洗浄剤の温度、浸漬時間、及びサンプルサイズは、表に記載の通りである。
【0108】
(2)機能層の剥離評価
(2-1)目視
(粘着層を有する積層ポリエステルフィルム、及びハードコート層を有する積層ポリエステルフィルム)
浸漬した積層フィルムを取り出して表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎(very good);機能層が溶解又は剥離されており、基材であるポリエステルフィルムに大きな損傷がなく、実用上特に好ましい。
○(good);機能層が一部溶解又は剥離しており、実用上問題ない。
△(fair);機能層のごく一部が溶解又は剥離している。
×(bad);機能層が残ったままであり、実用上問題がある。
【0109】
(2-2)蛍光X線分析
(シリコーン離型層を有する積層ポリエステルフィルム)
洗浄後の積層フィルムの表面を、蛍光X線分析装置(XRF、(株)島津製作所製「XRF-1800」)を用いてSi元素の定量分析を行った。
洗浄前の積層ポリエステルフィルム表面のSi元素量を100%、積層フィルムの機能層が塗工されていないプレーンフィルムのSi元素量を0%とすることで、機能層の除去率を測定した。
◎(very good);除去率90~100%
○(good);除去率70~89%
×(bad);除去率0~69%
【0110】
(3)極限粘度
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0111】
(機能層を有する積層ポリエステルフィルム)
次の(I)~(III)の機能層を有する積層ポリエステルフィルムを、試料として用意した。
(I)積層フィルム(アクリル系粘着層を有する積層ポリエステルフィルム);
市販品(日榮新化(株)製「PET75-H120(10)ブルー」)、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚み;75μm、アクリル系粘着層の厚み;10μm
【0112】
(II)積層フィルム(アクリル系ハードコート層を有する積層ポリエステルフィルム);
下記手順にてアクリル系ハードコート層を有する積層ポリエステルフィルムを得た。
(アクリル系ハードコート溶液の調製)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート24質量部、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート6質量部、光重合開始剤(商品名:Omnirad 184、IGM Resins B.V.製)1.5質量部、トルエン70質量部の混合塗液とし、アクリル系ハードコート溶液を得た。
(アクリル系ハードコートフィルムの調製)
ポリエチレンテレフタレートフィルム;市販品(三菱ケミカル(株)製「ダイヤホイル」)上に、上記アクリル系ハードコート溶液を乾燥膜厚が約9μmとなるよう塗布し、紫外線を照射して硬化させ、アクリル系ハードコート層を有する積層ポリエステルフィルムを得た。
【0113】
(III)積層フィルム(シリコーン離型層を有する積層ポリエステルフィルム);市販品(三菱ケミカル(株)製「MRF38」)、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚み;38μm、該ポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度は0.67であった。
【0114】
[実施例1]
(a)成分として水酸化カリウム5質量部、水酸化ナトリウム5質量部、(b)成分としてモノエタノールアミン19質量部、(c)成分としてベンジルアルコール40質量部、プロピレングリコール1質量部、その他成分として水を30質量部となるように混合し、洗浄剤(pH=13以上)を調製した。
積層フィルム(I)~(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
積層フィルム(III)を浸漬時間1分、温度条件60℃で洗浄し、シリコーン離型層を除去したポリエステルフィルムの極限粘度を測定した結果、極限粘度は0.67であり、洗浄前後でのポリエステルフィルムの極限粘度は変化していなかった。
【0115】
[実施例2]
(a)成分として水酸化カリウム5質量部、水酸化ナトリウム5質量部、(b)成分としてジエタノールアミン10質量部、(c)成分としてベンジルアルコール16質量部、その他成分として水を64質量部となるように混合し、洗浄剤(pH=13以上)を調製した。
積層フィルム(I)及び(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0116】
[実施例3]
(a)成分として水酸化カリウム5質量部、(b)成分として2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム17.6質量部、(c)成分としてベンジルアルコール41.3質量部、その他の成分として水を36.1質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
積層フィルム(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0117】
[実施例4]
(a)成分として水酸化カリウム5質量部、(b)成分として2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム17.6質量部、(c)成分としてベンジルアルコール37.2質量部、メタノール4.1質量部、その他の成分として水を36.1質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
積層フィルム(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0118】
[実施例5]
(a)成分として水酸化カリウム5質量部、(b)成分として2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム17.6質量部、(c)成分としてベンジルアルコール31.0質量部、メタノール10.3質量部、その他の成分として水を36.1質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
積層フィルム(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0119】
[実施例6]
(a)成分として水酸化カリウム5質量部、(b)成分として2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム17.6質量部、(c)成分としてベンジルアルコール20.7質量部、メタノール20.7質量部、その他の成分として水を36.1質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
積層フィルム(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0120】
[実施例7]
(a)成分として水酸化カリウム5質量部、(b)成分として2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム17.6質量部、(c)成分としてベンジルアルコール37.2質量部、ヘキサフルオロ-2-プロパノール4.1質量部、その他の成分として水を36.1質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
積層フィルム(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0121】
[比較例1]
(a)成分として、水酸化カリウム30質量部、その他の成分として水を70質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。積層フィルム(I)及び(III)を用いて、表1に記載の条件で洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0122】
[比較例2]
温度条件を表1に記載のように変更したこと以外は、比較例1と同様に洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0123】
参考例として、機能層を備えない基材フィルム(IV)(ポリエチレンテレフタレートフィルム 厚み52μm)、及び基材フィルム(V)(無延伸ポリプロピレンフィルム 厚み56μm)を、試料として用意した。
試料を5分間洗浄剤に浸漬し、(株)ミツトヨ社製「シックネスゲージ ID-C112X/1012X」によって厚みを測定することで基材の厚み変化を測定した。
厚み変化が3μm以上あった場合をA、厚み変化が3μm未満であった場合をBとした。
【0124】
[参考例1]
実施例1と同じ組成の洗浄剤を用いて、表1に記載の条件で基材フィルム(IV)及び基材フィルム(V)の洗浄試験を行い、洗浄後の厚みを測定した。結果を表1に示す。
【0125】
【0126】
[参考例2]
洗浄剤における単価アルコール類の最良の形態の確認のために、実施例3~6において、洗浄温度を55℃、浸漬時間を1分に洗浄条件を変更し、以下の基準にて洗浄評価を行った。結果を表2に示す。
なお、上記と同様に、洗浄後の積層フィルムの表面について、蛍光X線分析装置を用いてSi元素の定量分析を行うことで洗浄評価を行った。
機能層の除去率は、以下の基準で判断した。
○(good);除去率50~100%
△(fair);除去率0~49%
【0127】
【0128】
表1に示す結果から、本発明の方法によれば、粘着フィルム、ハードコートフィルム、離型フィルムのいずれからも、機能層を剥離することが可能であり、ポリエステルフィルムを回収することができた。
また、実施例1の結果から、本発明の方法によれば、機能層の除去工程(洗浄工程)前後でのポリエステルフィルムの極限粘度(IV)が低下しないため、回収したポリエステルフィルムを原料とするリサイクルポリエステル製品も、機械的物性等に優れる可能性が高い。
【0129】
洗浄剤として、(a)成分のみで(b)成分を含まない比較例1及び比較例2では、本発明の効果を示さないことがわかる。
【0130】
参考例1の結果から、ポリエステルフィルムである基材フィルム(IV)は表面が一部溶融して薄膜化し、エステル結合を有さない基材フィルム(V)は表面が溶融せず薄膜化していないことがわかる。すなわち、本発明に係る洗浄剤は、基材であるポリエステルフィルムの表面を一部溶解することで、機能層を効果的に剥離していると考えられる。
【0131】
さらに、参考例2(表2)の結果から、本発明の方法によれば、(c)少なくとも一つの水酸基を有する化合物として2種類以上のアルコール類を併用することで、フィルムに影響を及ぼす可能性が低い、より低温かつより短時間での機能層剥離も可能であることが分かった。
また、疎水性アルコール:水溶性アルコールの質量部比を1.5:1~10:1とすることで、非常に優れた洗浄効果が得られることが分かった。
【0132】
以上のように、本発明によれば、1種の洗浄剤で種々の機能層を剥離することができるため、多層の異なる機能層を有する積層ポリエステルフィルムであっても、一液ですべての機能層を剥離することが可能である。また、例えば、表面にハードコート層を有し、裏面に粘着層を有する積層ポリエステルフィルムなどであっても、一度の洗浄操作で両面から機能層を剥離することができ、基材のポリエステルフィルムを回収することができる。