(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20221220BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2020563854
(86)(22)【出願日】2019-01-04
(86)【国際出願番号】 JP2019000034
(87)【国際公開番号】W WO2020141573
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 若奈
(72)【発明者】
【氏名】星 賢匠
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188473(JP,A)
【文献】特開2012-033376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光測定のR値が0.27未満であり、CuKα線によるX線回折パターンにおける六方晶構造(101)面の回折ピーク(P1)と菱面体構造(101)面の回折ピーク(P2)との強度比(P1/P2)が
3.6以下である黒鉛粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
ラマン分光測定のR値が0.27未満であり、CuKα線によるX線回折パターンにおける炭素(002)面の回折ピーク(P3)と炭素(110)面の回折ピーク(P4)との強度比(P3/P4)が
300以下である黒鉛粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
前記黒鉛粒子の体積平均粒子径が2μm~30μmである、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記黒鉛粒子の窒素ガス吸着法におけるBET比表面積が2m
2/g~15m
2/gである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記黒鉛粒子の平均円形度が85%以上である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記黒鉛粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が1.6以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
前記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素を有する請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液と、を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型、軽量、かつ高エネルギー密度という特性を活かし、従来からノート型パーソナルコンピュータ(PC)、携帯電話、スマートフォン、タブレット型PC等の電子機器に広く使用されている。近年、CO2排出による地球温暖化等の環境問題を背景に、電池のみで走行を行うクリーンな電気自動車(EV)、ガソリンエンジンと電池を組み合わせたハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等が普及してきており、EV、HEV、PHEV等に搭載される電池としてリチウムイオン二次電池(車載用リチウムイオン二次電池)が用いられている。また最近では、電力貯蔵用にもリチウムイオン二次電池が用いられており、多岐の分野にリチウムイオン二次電池の用途が拡大している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極材の性能が、リチウムイオン二次電池の入力特性に大きく影響する。リチウムイオン二次電池用負極材の材料としては、炭素材料が広く用いられている。負極材に使用される炭素材料は、黒鉛と、黒鉛より結晶性の低い炭素材料(非晶質炭素等)とに大別される。黒鉛は、炭素原子の六角網面が規則正しく積層した構造を有し、リチウムイオン二次電池の負極材としたときに六角網面の端部よりリチウムイオンの挿入反応及び脱離反応が進行し、充放電が行われる。
【0004】
非晶質炭素は、六角網面の積層が不規則であるか、六角網面を有しない。非晶質炭素を用いた負極材では、リチウムイオンの挿入反応及び脱離反応が負極材の全表面で進行する。そのため、負極材として黒鉛を用いる場合よりも出力特性に優れるリチウムイオン電池が得られやすい(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。一方、非晶質炭素は黒鉛よりも結晶性が低いため、エネルギー密度が黒鉛よりも低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-370662号公報
【文献】特開平5-307956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EV、HEV、PHEV等の車載用リチウムイオン二次電池においては、回生効率、急速充電化等に関わる入力特性をより向上することが可能な負極材が求められている。また、車載用リチウムイオン二次電池においては、高温保存特性も求められている。しかしながら、入力特性と高温保存特性をより高いレベルで両立することが困難であった。一般に、入力特性を向上させるために負極材の比表面積を増加させると、高温保存特性が悪化する傾向にある。一方で、高温保存特性を向上させるために、負極材の比表面積を減少させると、入力特性が悪化する傾向にある。このように、入力特性と高温保存特性とは、一般にトレードオフの関係にある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、入力特性及び高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を包含する。
【0009】
<1> ラマン分光測定のR値が0.27未満であり、CuKα線によるX線回折パターンにおける六方晶構造(101)面の回折ピーク(P1)と菱面体構造(101)面の回折ピーク(P2)との強度比(P1/P2)が5.0以下である黒鉛粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
<2> ラマン分光測定のR値が0.27未満であり、CuKα線によるX線回折パターンにおける炭素(002)面の回折ピーク(P3)と炭素(110)面の回折ピーク(P4)との強度比(P3/P4)が1000以下である黒鉛粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
<3> 前記黒鉛粒子の体積平均粒子径が2μm~30μmである、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<4> 前記黒鉛粒子の窒素ガス吸着法におけるBET比表面積が2m2/g~15m2/gである、<1>~<3>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<5> 前記黒鉛粒子の平均円形度が85%以上である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<6> 前記黒鉛粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が1.6以下である、<1>~<5>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<7> 前記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素を有する<1>~<6>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<8> <1>~<7>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
<9> <8>に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液と、を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、入力特性及び高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。負極材又は組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、負極材又は組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。負極材又は組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、負極材又は組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」の語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0013】
<リチウムイオン二次電池用負極材>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材は、ラマン分光測定のR値が0.27未満であり、CuKα線によるX線回折パターンにおける六方晶構造(101)面の回折ピーク(P1)と菱面体構造(101)面の回折ピーク(P2)との強度比(P1/P2)が5.0以下である黒鉛粒子を含む。
また、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材は、ラマン分光測定のR値が0.27未満であり、CuKα線によるX線回折パターンにおける炭素(002)面の回折ピーク(P3)と炭素(110)面の回折ピーク(P4)との強度比(P3/P4)が1000以下である黒鉛粒子を含む。
リチウムイオン二次電池用負極材は、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
【0014】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を用いることで、入力特性及び高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0015】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材は、黒鉛粒子を含む。黒鉛粒子は、CuKα線によるX線回折パターンにおける六方晶構造(101)面の回折ピーク(P1)と菱面体構造(101)面の回折ピーク(P2)との強度比(P1/P2)が5.0以下であるか、あるいは、CuKα線によるX線回折パターンにおける炭素(002)面の回折ピーク(P3)と炭素(110)面の回折ピーク(P4)との強度比(P3/P4)が1000以下である。
【0016】
強度比(P1/P2)は、その値が小さいほど、菱面体構造の黒鉛粒子の含有率が多いことを意味する。菱面体構造の黒鉛粒子は、例えば、天然に産出される鱗片状黒鉛を機械的に球形化処理する際の加圧によって生成する。したがって、強度比(P1/P2)を5.0以下にする方法としては、黒鉛に外圧処理を施す方法が挙げられる。具体的には、外圧処理を施す方法としては、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所)等の装置を用いる方法が挙げられる。
また、強度比(P3/P4)は、その値が小さいほど、炭素網面層間(002)が小さいことを意味する。炭素網面層間(002)が小さい黒鉛粒子は、例えば、天然に産出される鱗片状黒鉛を機械的に球形化処理する際の加圧によって生成する。なお、結晶性炭素である黒鉛は、非晶質炭素に比べて、炭素網面層間(002)が小さい。したがって、強度比(P3/P4)を1000以下にする方法としては、黒鉛に外圧処理を施す方法が挙げられる。具体的には、外圧処理を施す方法としては、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所)等の装置を用いる方法が挙げられる。
【0017】
黒鉛粒子の強度比(P1/P2)は、5.0以下であってもよく、4.5以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.7以下であることがさらに好ましく、3.6以下であることが特に好ましい。
【0018】
黒鉛粒子の強度比(P3/P4)は、1000以下であってもよく、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましく、150以下であることが特に好ましい。
【0019】
黒鉛粒子のCuKα線によるX線回折パターンは、CuKα線を試料(黒鉛粒子)に照射し、回折線をゴニオメーターにより測定して得ることができる。具体的には、以下の条件で測定することができる。
モノクロメーター:結晶モノクロメーター
走査モード:2θ/θ
走査タイプ:連続
出力:40kV、30mA
発散スリット:5°
散乱スリット:5°
受光スリット:10mm
測定範囲:0°≦2θ≦80°
サンプリング幅:0.01°
【0020】
得られたX線回折パターンにおいて、ピークの半値幅2θを下記ブラッグの式により換算することによって求める。そして、下記の位置の回折角(2θ±0.2°)にピークトップを有する回折ピークが、それぞれP1、P2,P3、及びP4である。
【0021】
ブラッグの式: 2dsinθ=nλ
ここで、dは結晶面間隔、θは回折角度、nは反射次数、λはX線波長(0.15418nm)を示している。
【0022】
回折ピークP1:回折角44°~45°付近
回折ピークP2:回折角42.5°~43.5付近
回折ピークP3:回折角26°~27°付近
回折ピークP4:回折角70°~80°付近
【0023】
なお、後述の被覆黒鉛粒子であっても、非晶質炭素を被覆していない黒鉛粒子であっても、強度比(P1/P2)の好適な範囲は上記の通りである。また、後述の被覆黒鉛粒子であっても、非晶質炭素を被覆していない黒鉛粒子であっても、強度比(P3/P4)の好適な範囲は上記の通りである。
【0024】
黒鉛粒子は、ラマン分光測定のR値が0.27未満である。
R値は、波長532nmのグリーンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、波数1580cm-1~1620cm-1の範囲において最大強度を示す第1のピークP1のピーク強度I1580に対する、波数1350cm-1~1370cm-1の範囲において最大強度を示す第2のピークP2のピーク強度I1350の比(I1350/I1580)である。ここで、波数1580cm-1~1620cm-1の範囲に現れる第1のピークP1とは、通常、黒鉛結晶構造に対応すると同定されるピークである。また、波数1350cm-1~1370cm-1の範囲に現れる第2のピークP2とは、通常、炭素の非晶質構造に対応すると同定されるピークである。
【0025】
本開示において、ラマン分光測定は、レーザーラマン分光光度計(例えば、型番:NRS-1000、日本分光株式会社)を用い、黒鉛粒子を平らになるようにセットした試料板に半導体レーザー光を照射して測定を行う。測定条件は以下の通りである。
半導体レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:850cm-1~1950cm-1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去
【0026】
黒鉛粒子は、表面の少なくとも一部が非晶質炭素で被覆されていてもよい。黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を非晶質炭素で被覆することで、表面での電解液との反応性が低減し、初期の充放電効率を良好に維持しつつ入出力特性がより向上する傾向にある。黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が存在するか否かは、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果に基づいて判断することができる。以下、表面の少なくとも一部を非晶質炭素で被覆されている黒鉛粒子を「被覆黒鉛粒子」ともいう。
【0027】
被覆黒鉛粒子における非晶質炭素の含有率は、特に制限されない。入出力特性の向上の観点からは、非晶質炭素の含有率は、被覆黒鉛粒子の全体に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。容量の低下を抑制する観点からは、非晶質炭素の含有率は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
非晶質炭素の含有率は、以下の方法により求めることができる。
(1)被覆黒鉛粒子を15℃/分の昇温速度で加熱し、30℃~950℃の範囲で質量を測定する。
(2)30℃~700℃での質量減少を非晶質炭素の質量とする。
この非晶質炭素の質量を用いて、下記式により非晶質炭素の含有率を求める。
非晶質炭素の含有率(質量%)=(非晶質炭素の質量/30℃での被覆黒鉛粒子の質量)×100
【0029】
被覆黒鉛粒子における非晶質炭素の平均厚さは、初期の充放電効率及び入力特性の観点から、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがさらに好ましい。
また、被覆黒鉛粒子における非晶質炭素の平均厚さは、エネルギー密度の観点から、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
被覆黒鉛粒子の場合も、R値は、0.27未満であり、0.26以下であることが好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。
表面を非晶質炭素で被覆していない黒鉛粒子の場合には、R値は、0.20以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.14以下であることがさらに好ましい。
【0031】
強度比(P1/P2)又は強度比(P3/P4)が上記数値範囲内にあり、かつR値が上記範囲内にある黒鉛粒子を得る方法は、特に限定されないが、例えば、強度比(P1/P2)又は強度比(P3/P4)が上記数値範囲にある球形化黒鉛粒子を、CO2ガス、水蒸気、O2ガス等の存在する雰囲気下で熱処理する方法を挙げることができる。このような熱処理によってR値を上記範囲内にすることができる理由は明らかではないが、以下のように推測することができる。
例えば、球形化黒鉛粒子の場合、球形化黒鉛粒子の表面には、機械的に球形化処理を行った際に崩壊して生じた微粒子が付着する。この微粒子は結晶性が低い。球形化黒鉛粒子を熱処理することで、表面に存在する微粒子が燃焼して除去されるため、R値が上記範囲内になると考えられる。但し、本発明は、上記推測によって限定されない。また、熱処理を施す黒鉛粒子は、球形化黒鉛粒子に限定されず、強度比(P1/P2)又は強度比(P3/P4)が上記数値範囲内にあるものであればよい。例えば、人造黒鉛であってもよい。
【0032】
熱処理の雰囲気は、O2ガスが存在する雰囲気(例えば、空気雰囲気)であることが好ましい。O2ガスの存在する雰囲気で熱処理を行う場合、O2ガスの含有率は1体積%~30体積%であることが好ましい。O2ガスの含有率を上記範囲内とすることで、効果的にR値を上記範囲内とすることができる傾向にある。
【0033】
熱処理の時間は、ガス雰囲気、処理温度等により、適宜設定することが好ましい。例えば、空気雰囲気下における熱処理の場合、熱処理の温度は300℃~800℃であることが好ましく、400℃~750℃であることがより好ましい。この温度範囲内であると、R値を上記範囲内とすることができる傾向にある。
また、空気雰囲気下における熱処理の時間は、熱処理の温度、黒鉛粒子の種類等に応じて異なるが、0.5時間~24時間であることが好ましく、1時間~6時間であることがより好ましい。この時間内であれば、効果的にR値を上記範囲内とすることができる傾向にある。
【0034】
また、熱処理の雰囲気をCO2ガス雰囲気とした場合の熱処理の温度は、600℃~1000℃であることが好ましく、700℃~900℃であることがより好ましい。また、CO2ガス雰囲気下における熱処理の時間は、熱処理温度、炭素材料の種類に応じて異なるが、0.5時間~24時間であることが好ましく、1時間~6時間であることがより好ましい。
【0035】
被覆黒鉛粒子は、黒鉛粒子に対して上記の熱処理を施した後に、非晶質炭素を被覆して得ることができる。黒鉛粒子に対して上記の熱処理を施さずに非晶質炭素で被覆した後で熱処理を施す、あるいは非晶質炭素を被覆しながら熱処理を施しても、黒鉛粒子の表面に付着した結晶性の低い微粒子は充分に除去されない傾向にあり、R値を上記範囲内とすることは難しい場合がある。
【0036】
被覆黒鉛粒子は、上述の熱処理を施した黒鉛粒子と、非晶質炭素の前駆体と、を含む混合物をさらに熱処理する(第二の熱処理)ことによって得ることができる。非晶質炭素の前駆体としては、熱処理により非晶質炭素に変化しうるものであれば特に限定されず、ピッチ、有機高分子化合物等が挙げられる。
【0037】
ピッチとしては、例えば、エチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等を熱分解して作製されるピッチ、及びナフタレン等を超強酸存在下で重合させて作製されるピッチが挙げられる。
ピッチの軟化点は70℃~250℃であることが好ましく、75℃~150℃であることがより好ましく、80℃~120℃であることがさらに好ましい。ピッチの軟化点はJIS K 2425:2006に記載のタールピッチの軟化点測定方法(環球法)によって求められた値をいう。
【0038】
有機高分子化合物としては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の熱可塑性樹脂、デンプン、セルロース等の天然物質などが挙げられる。
【0039】
混合物は、必要に応じて、非晶質炭素の前駆体の他に、粒子状のその他の炭素性物質(炭素質粒子等)を含んでもよい。混合物が非晶質炭素の前駆体と共に炭素質粒子を含む場合、非晶質炭素の前駆体から形成される非晶質炭素と炭素質粒子とは、材質が同じであっても異なっていてもよい。
その他の炭素性物質として用いられる炭素質粒子は特に制限されず、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、土状黒鉛等の粒子が挙げられる。
【0040】
混合物の調製方法は、特に制限されず、例えば、湿式混合、粉体混合、及びメカニカル混合が挙げられる。
湿式混合では、熱処理を施した黒鉛粒子、及び非晶質炭素の前駆体、並びに必要に応じてその他の炭素性物質(炭素質粒子等)を溶媒に混合した後に溶媒を除去する。
粉体混合では、黒鉛粒子、及び非晶質炭素の前駆体、並びに必要に応じてその他の炭素性物質(炭素質粒子等)を粉体の状態で混合する。
メカニカル混合では、力学的エネルギーを加えながら、黒鉛粒子、及び非晶質炭素の前駆体、並びに必要に応じてその他の炭素性物質(炭素質粒子等)を混合する。
【0041】
混合物を熱処理(第二の熱処理)する際の温度は、特に制限されない。例えば、700℃~1500℃であることが好ましく、750℃~1300℃であることがより好ましく、800℃~1100℃であることがさらに好ましい。非晶質炭素の前駆体の炭素化を充分に進行させる観点からは、第二の熱処理の温度は700℃以上であることが好ましい。第二の熱処理の温度は、第二の熱処理の開始から終了まで一定であっても、変化してもよい。
【0042】
第二の熱処理の時間は、非晶質炭素の前駆体の種類によって、適宜調整する。例えば、非晶質炭素の前駆体として、軟化点が100℃(±20℃)のコールタールピッチを使用した場合は、400℃までは、10℃/分以下の速度で昇温させることが好ましい。また、第二の熱処理において昇温過程を含む合計の時間は、2時間~18時間であることが好ましく、3時間~15時間であることがより好ましく、4時間~12時間であることがさらに好ましい。
【0043】
第二の熱処理の雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であれば特に限定されず、工業的な観点から窒素ガス雰囲気であることが好ましい。
第二の熱処理によって得た焼成物は、カッターミル、フェーザーミル、ジューサーミキサー等で解砕してもよい。また、解砕された焼成物を篩分けしてもよい。
【0044】
黒鉛粒子(表面の少なくとも一部を非晶質炭素で被覆した黒鉛粒子の場合には、被覆された黒鉛粒子)の体積平均粒子径(D50)は、2μm~30μmであることが好ましく、5μm~25μmであることがより好ましく、7μm~20μmであることがさらに好ましい。黒鉛粒子の体積平均粒子径が30μm以下であると、放電容量及び放電特性が向上する傾向にある。黒鉛粒子の体積平均粒子径が2μm以上であると、初期充放電効率が向上する傾向にある。
体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD-3000J、株式会社島津製作所)を用いて体積基準の粒度分布を測定し、D50(メジアン径)として求められる。
【0045】
黒鉛粒子(表面の少なくとも一部を非晶質炭素で被覆した黒鉛粒子の場合には、被覆された黒鉛粒子)の窒素ガス吸着法におけるBET比表面積は、2m2/g~15m2/gであることが好ましく、2m2/g~13m2/gであることがより好ましい。
黒鉛粒子のBET比表面積が2m2/g以上であると、入力特性がより向上する傾向にある。また、黒鉛粒子のBET比表面積が15m2/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤、導電材等のほかの材料との混合性が良好になる傾向にある。
【0046】
さらに、被覆していない黒鉛粒子のBET比表面積は、3m2/g~15m2/gであることがさらに好ましく、4m2/g~13m2/gであることが特に好ましい。
【0047】
また、被覆黒鉛粒子のBET比表面積は、2m2/g~10m2/gであることがさらに好ましく、2m2/g~8m2/gであることが特に好ましい。
【0048】
BET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて、液体窒素温度(77K)での窒素吸着を一点法で測定して算出することができる。測定装置としては、例えば、フローソーブ III 2310、株式会社島津製作所を用いて、窒素とヘリウムの混合ガス(窒素:ヘリウム=3:7)を使用し、液体窒素温度(77K)での窒素吸着を相対圧0.3の一点法で測定してBET法により算出することができる。
【0049】
BET比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。
【0050】
前処理では、例えば、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、例えば、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定してもよい。
【0051】
黒鉛粒子(表面の少なくとも一部を非晶質炭素で被覆した黒鉛粒子の場合には、被覆された黒鉛粒子)の平均円形度は、85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、89%以上であることがさらに好ましい。
【0052】
黒鉛粒子の円形度とは、黒鉛粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径である円相当径から算出される円としての周囲長を、無機充填材の投影像から測定される周囲長(輪郭線の長さ)で除し、100を乗じて得られる数値であり、下記式で求められる。尚、円形度は真円では100%となる。
円形度={(相当円の周囲長)/(粒子断面像の周囲長)}×100
【0053】
具体的に黒鉛粒子の平均円形度は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(例えば、マルバーン社、FPIA-3000)を用いて測定することができる。なお、測定温度は25℃とし、測定試料の濃度は10質量%とし、カウントする粒子の数は12000個とする。また、分散用の溶媒として水を用いる。
【0054】
黒鉛粒子の円形度を測定する際には、黒鉛粒子を予め水中で分散させておくことが好ましい。例えば、超音波分散、ボルテックスミキサー等を使用して黒鉛粒子を水中で分散させることが可能である。黒鉛粒子の粒子崩壊又は粒子破壊の影響を抑制するため、測定する黒鉛粒子の強度に鑑みて、超音波の強さ及び時間を適宜調整してもよい。
超音波処理としては、例えば、超音波洗浄器(ASU-10D、アズワン株式会社)の槽内に任意の量の水を貯めた後、黒鉛粒子の分散液の入った試験管をホルダーごと槽内の水に浸漬し、1分間~10分間超音波処理することが好ましい。この処理時間内であれば黒鉛粒子の粒子崩壊、粒子破壊、試料温度の上昇等を抑制したまま、黒鉛粒子を分散させやすくなる。
【0055】
黒鉛粒子(表面の少なくとも一部を非晶質炭素で被覆した黒鉛粒子の場合には、被覆された黒鉛粒子)の平均アスペクト比(長軸/短軸)は、1.6以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.4以下であることがさらに好ましい。
平均アスペクト比が1.6以下であると、電極層の厚さ方向での導電性がより向上する傾向にある。
【0056】
黒鉛粒子の平均アスペクト比は、顕微鏡で黒鉛粒子を拡大し、任意に100個の黒鉛粒子を選択して長軸/短軸を測定して、その測定値の算術平均値をとったものである。ここで、長軸方向の長さは、観察される黒鉛粒子を二本の平行線A、A’で接するように挟んだとき、その間隔が最も大きくなる場合のA、A’間の距離であり、短軸方向の長さは、前記長軸方向の長さを決める二本の平行線A、A’に対して垂直な二本の平行線B、B’で前記黒鉛粒子を接するよう挟んだとき、その間隔が最も大きくなる場合のB、B’間の距離である。
【0057】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極は、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含む。リチウムイオン二次電池用負極は、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層及び集電体の他、必要に応じて他の構成要素を含んでもよい。
【0058】
リチウムイオン二次電池用負極は、例えば、リチウムイオン二次電池用負極材と結着剤を溶剤とともに混練してスラリー状のリチウムイオン二次電池用負極材組成物を調製し、これを集電体上に塗布して負極材層を形成することで作製したり、リチウムイオン二次電池用負極材組成物をシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することで作製したりすることができる。混練は、撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダー等の分散装置を用いて行うことができる。
【0059】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物の調製に用いる結着剤は、特に限定されない。結着剤としては、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル及びアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸の単独重合体又は共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル等のイオン伝導性の大きな高分子化合物などが挙げられる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物が結着剤を含む場合、結着剤の含有量は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池用負極材と結着剤の合計100質量部に対して0.5質量部~20質量部であってもよい。
【0060】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物は、増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はその塩、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等を使用することができる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物が増粘剤を含む場合、増粘剤の含有量は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池用負極材100質量部に対して、0.1質量部~5質量部であってもよい。
【0061】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物は、導電補助材を含んでもよい。導電補助材としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、導電性を示す酸化物、導電性を示す窒化物等の無機化合物などが挙げられる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物が導電補助材を含む場合、導電補助材の含有量は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池用負極材100質量部に対して、0.5質量部~15質量部であってもよい。
【0062】
集電体の材質は特に制限されず、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等から選択できる。集電体の状態は特に制限されず、箔、穴開け箔、メッシュ等から選択できる。また、ポーラスメタル(発泡メタル)等の多孔性材料、カーボンペーパーなども集電体として使用可能である。
【0063】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体に塗布して負極材層を形成する場合、その方法は特に制限されず、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、コンマコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等の公知の方法を採用できる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体に塗布した後は、リチウムイオン二次電池用負極材組成物に含まれる溶剤を乾燥により除去する。乾燥は、例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機又はこれらの装置の組み合わせを用いて行うことができる。必要に応じて負極材層に対して圧延処理を行ってもよい。圧延処理は、平板プレス、カレンダーロール等の方法で行うことができる。
【0064】
シート、ペレット等の形状に成形されたリチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体と一体化して負極材層を形成する場合、一体化の方法は特に制限されない。例えば、ロール、平板プレス又はこれらの手段の組み合わせにより行うことができる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体と一体化する際の圧力は、例えば、1MPa~200MPa程度であることが好ましい。
【0065】
負極材層の負極密度は、特に制限されない。例えば、1.1g/cm3~1.8g/cm3であることが好ましく、1.1g/cm3~1.7g/cm3であることがより好ましく、1.1g/cm3~1.6g/cm3であることがさらに好ましい。負極密度を1.1g/cm3以上とすることで、電気抵抗の増加が抑制され、容量が増加する傾向にあり、1.8g/cm3以下とすることで、入出力特性及びサイクル特性の低下が抑制される傾向がある。
【0066】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液とを含む。
【0067】
正極は、上述した負極の作製方法と同様にして、集電体上に正極材層を形成することで得ることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にしたものを用いることができる。
【0068】
正極材層の形成に用いる正極材料は、特に制限されない。正極材料としては、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物(金属酸化物、金属硫化物等)、導電性高分子材料などが挙げられる。より具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、これらの複酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、添加元素M’を含む複酸化物(LiCoaNibMncM’dO2、a+b+c+d=1、M’:Al、Mg、Ti、Zr又はGe)、スピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)等の金属化合物、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素などが挙げられる。正極材料は、1種単独であっても2種以上であってもよい。
【0069】
電解液は特に制限されず、例えば、電解質としてのリチウム塩を非水系溶媒に溶解したもの(いわゆる有機電解液)を使用することができる。
リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等が挙げられる。リチウム塩は、1種単独でも2種以上であってもよい。
非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、シクロペンタノン、シクロヘキシルベンゼン、スルホラン、プロパンスルトン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル等が挙げられる。非水系溶媒は、1種単独でも2種以上であってもよい。
【0070】
リチウムイオン二次電池における正極及び負極の状態は、特に限定されない。例えば、正極及び負極と、必要に応じて正極及び負極の間に配置されるセパレータとを、渦巻状に巻回した状態であっても、これらを平板状として積層した状態であってもよい。
【0071】
セパレータは特に制限されず、例えば、樹脂製の不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とするものが挙げられる。リチウムイオン二次電池の構造上、正極と負極が直接接触しない場合は、セパレータは使用しなくてもよい。
【0072】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に制限されない。例えば、ラミネート型電池、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池及び角型電池が挙げられる。
【0073】
本開示のリチウムイオン二次電池は、入力特性及び高温保存特性に優れるため、電気自動車、パワーツール、電力貯蔵装置等に使用される大容量のリチウムイオン二次電池として好適である。特に、加速性能及びブレーキ回生性能の向上のために大電流での充放電が求められている電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等に使用されるリチウムイオン二次電池として好適である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1>
(1)負極材の作製
黒鉛粒子として球形化天然黒鉛(体積平均粒子径:10μm)60gを容積0.864Lのアルミナるつぼ内に入れ、空気雰囲気で500℃に保たれた状態で1時間静置し、負極材を得た。
【0076】
[R値の測定]
ラマン分光測定は、ラマン分光器「レーザーラマン分光光度計(型番:NRS-1000、日本分光株式会社」を用い、負極材が平らになるようにセットした試料板に半導体レーザー光を照射して測定を行った。測定条件は以下の通りである。
半導体レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:850cm-1~1950cm-1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去
【0077】
[X線回折の測定]
負極材を石英製の試料ホルダーの凹部分に充填し、測定ステージにセットした。以下の測定条件においてX線回折装置で測定を行った。CuKα線を用いたX線回折測定の詳細は以下のとおりである。
【0078】
-測定装置及び条件-
X線回折装置:Ultima IV、株式会社リガク
モノクロメーター:結晶モノクロメーター
走査モード:2θ/θ
走査タイプ:連続
出力:40kV、30mA
発散スリット:5°
散乱スリット:5°
受光スリット:10mm
測定範囲:0°≦2θ≦80°
サンプリング幅:0.01°
【0079】
得られたX線回折パターンから、六方晶構造(101)面の回折ピーク(P1:回折角2θ=44.3°)と菱面体構造(101)面の回折ピーク(P2:回折角2θ=43.2°)との強度比(P1/P2)を算出した。
【0080】
また、得られたX線回折パターンから、回折角2θ=26°~27°付近に検出される炭素(002)面回折ピーク(P3)と、回折角2θ=70°~80°付近に検出される炭素(110)面回折ピーク(P4)との強度比(P3/P4)を算出した。
【0081】
[体積平均粒子径]
負極材を界面活性剤とともに精製水中に分散させた分散液を、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3000J、株式会社島津製作所)の試料水槽に入れた。次いで、分散液に超音波をかけながらポンプで循環させ、得られた粒度分布の体積累積50%粒子径を体積平均粒子径として求めた。
【0082】
[比表面積の測定]
負極材の比表面積は、比表面積/細孔分布測定装置(フローソーブ III 2310、株式会社島津製作所)を用いて、窒素とヘリウムの混合ガス(窒素:ヘリウム=3:7)を使用し、液体窒素温度(77K)での窒素吸着を相対圧0.3の一点法で測定してBET法により算出した。
【0083】
[平均円形度の測定]
負極材を水に入れ、10質量%の水分散液を調製して、測定試料を得た。超音波洗浄器(ASU-10D、アズワン株式会社)の槽内に貯めた水に、測定試料の入った試験管をホルダーごと入れた。そして、1分間~10分間の超音波処理を行った。
超音波処理を行った後、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(マルバーン社、FPIA-3000)を用いて、25℃で黒鉛粒子の平均円形度を測定した。カウントする粒子の数は12000個とした。
【0084】
[平均アスペクト比の測定]
黒鉛粒子を電子顕微鏡で黒鉛粒子を拡大し、任意に100個の黒鉛粒子を選択して、上述の方法で長軸/短軸を測定し、その算術平均値を求めた。
【0085】
(2)リチウムイオン二次電池の作製
負極材98質量部に対し、増粘剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース、第一工業製薬株式会社、セロゲンWS-C)の水溶液(CMC濃度:2質量%)を、CMCの固形分量が1質量部となるように加え、10分間混練を行った。次いで、負極材とCMCの合計の固形分濃度が45質量%~60質量%となるように数回に分けて精製水を加え、10分間混練を行った。続いて、結着剤としてSBR(スチレン-ブタジエン共重合体、BM400-B、日本ゼオン株式会社)の水分散液(SBR濃度:40質量%)を、SBRの固形分量が1質量部となるように加え、10分間混合してペースト状のリチウムイオン二次電池用負極材組成物(負極材組成物)を作製した。次いで、負極材組成物を、厚さ11μmの電解銅箔に単位面積当りの塗布量が4.5mg/cm2となるようにクリアランスを調整したコンマコーターで塗工して、負極材層を形成した。その後、ハンドプレスで1.2g/cm3に負極密度を調整した。負極材層が形成された電解銅箔を直径14mmの円盤状に打ち抜き、試料電極(負極)を作製した。
【0086】
正極活物質として(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)(BET比表面積:0.4m2/g、平均粒子径(D50):6.5μm)を用いた。この正極活物質に、導電材としてアセチレンブラック(商品名:HS-100、平均粒子径48nm(デンカ株式会社カタログ値)、デンカ株式会社製)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとを順次添加し、混合することにより正極材料の混合物を得た。質量比は、正極活物質:導電材:結着剤=80:13:7とした。さらに上記混合物に対し、分散溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、混練することによりスラリーを形成した。このスラリーを正極用の集電体である平均厚みが20μmのアルミニウム箔の両面に実質的に均等かつ均質に塗布した。その後、乾燥処理を施し、密度2.7g/cm3までプレスにより圧密化し、正極を作製した
【0087】
作製した試料電極(負極)、セパレータ、正極の順にコイン型電池容器に入れ、電解液を注入して、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)(ECとEMCの体積比は3:7)の混合溶媒にLiPF6を1.0mol/Lの濃度になるように溶解したものを使用した。初期負極容量/初期正極容量=1.2になるように設計した。
【0088】
セパレータとしては、厚み20μmのポリエチレン製微孔膜を使用した。作製したリチウムイオン二次電池を0.2CA相当の電流値で4.2VまでCC充電後0.02CA相当までCV充電した。その後30分休止させ、0.2CA相当の電流値で2.7Vまで放電し30分間休止した。この一連の工程を1サイクルとし、これを3サイクル繰り返して初期化した。この時の3サイクル目の放電容量をSOC=100%と定義する。初期化したリチウムイオン二次電池を使用して、下記の方法により入力特性、及び高温保存特性の評価を行った。
【0089】
[入力特性の評価]
入力特性は、直流抵抗(DCR)により評価した。
(1)初期化したリチウムイオン二次電池を0.2CA相当の電流値でSOC=50%まで充電した。
(2)0.1CA相当の電流値で11秒間充電し、10秒目の電圧の変化量を求めた。
(3)次いで、再度SOC=50%に調整した後、0.2CA相当の電流値で11秒間充電し、10秒目の電圧の変化量を求めた。
(4)同様にして0.5CAでの電圧の変化量を求めて、各電流値とそれに対応する電圧変化量の値をプロットし、その傾きをDCR(Ω)とした。傾きは最小二乗法により算出した。測定は全て25℃の恒温槽内で実施し、各測定は15分の間隔を設けた。
【0090】
[高温保存特性の評価]
(1)初期化したリチウムイオン二次電池を0.2CA相当の電流値で4.2Vまで定電流充電し、次いで4.2Vで電流値が0.02CA相当になるまで定電圧充電した。次に、0.2CA相当の電流値で2.7Vまで定電流放電した。このときの放電容量を「放電容量1」(mAh)とした。
(2)0.2CA相当の電流値で4.2Vまで定電流充電し、次いで4.2Vで電流値が0.02CA相当になるまで定電圧充電した。ここまでの測定は25℃の恒温槽内で実施し、各測定には15分の間隔を設けた。
(3)(2)の電池を、60℃の恒温槽内で14日間静置した。
(4)(3)の電池を、25℃の恒温槽内に5時間静置した後、0.2CA相当の電流値で2.7Vまで定電流放電した。15分の間隔を設けた後に、0.2CA相当の電流値で2.7Vまで定電流放電した。
(5)(4)の電池を、25℃の恒温槽内で0.2CA相当の電流値で4.2Vまで定電流充電し、次いで4.2Vで電流値が0.02CA相当になるまで定電圧充電した。次に、0.2CA相当の電流値で2.7Vまで定電流放電した。このときの放電容量を「放電容量2」(mAh)とした。測定の間隔は15分間とした。
(6)(1)で求めた「放電容量1」及び(5)で求めた「放電容量2」から、下記の(式1)を用いて高温保存特性を求めた。
高温保存特性(%)=(放電容量2/放電容量1)×100
【0091】
<実施例2>
実施例1と同様にして、但し、黒鉛粒子の熱処理温度を600℃にして、負極材及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0092】
<実施例3>
実施例1と同様にして、但し、黒鉛粒子の熱処理温度を700℃にして、負極材及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0093】
<比較例1>
実施例1の原料として用いた黒鉛粒子を熱処理せず、そのまま負極材として用いてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0094】
<比較例2>
鱗片状黒鉛粒子を熱処理せず、そのまま負極材として用いてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0095】
<実施例4>
実施例1で得られた負極材100質量部と、7.5質量部のコールタールピッチ(軟化点:98℃、残炭率:50質量%)と、を粉体混合して混合物を得た。次いで、混合物の熱処理を行って、実施例1で得られた負極材の表面に非晶質炭素が付着した焼成物を作製した。熱処理は、窒素流通下、200℃/時間の昇温速度で25℃から1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持することで行った。実施例1で得られた負極材の表面に非晶質炭素が付着した焼成物をカッターミルで解砕し、350メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下分をリチウムイオン二次電池用負極材(負極材)とした。得られた負極材を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0096】
<実施例5>
実施例4と同様にして、但し、実施例2で得られた負極材を用いて、表面に非晶質炭素が付着したリチウムイオン二次電池用負極材(負極材)を得た。得られた負極材を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0097】
<実施例6>
実施例4と同様にして、但し、実施例3で得られた負極材を用いて、表面に非晶質炭素が付着したリチウムイオン二次電池用負極材(負極材)を得た。得られた負極材を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0098】
<比較例3>
実施例4と同様にして、但し、実施例1の原料として用いた黒鉛粒子を熱処理せず、そのまま負極材として用いて、表面に非晶質炭素が付着したリチウムイオン二次電池用負極材(負極材)を得た。得られた負極材を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0099】
<比較例4>
実施例4と同様にして、但し、鱗片状黒鉛粒子を熱処理せず、そのまま負極材として用いて、表面に非晶質炭素が付着したリチウムイオン二次電池用負極材(負極材)を得た。得られた負極材を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
表1及び表2の結果に示されるように、実施例の負極材を用いて作製したリチウムイオン二次電池は、比較例の負極材を用いて作製したリチウムイオン二次電池に比較して、入力特性、及び高温保存特性に優れていることがわかる。