(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】多孔質膜、光学素子、光学系、交換レンズ、光学装置および多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20221220BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20221220BHJP
G02B 1/111 20150101ALI20221220BHJP
【FI】
C08J9/28 CFH
C01B33/12 C
C01B33/12 D
G02B1/111
(21)【出願番号】P 2021509647
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014100
(87)【国際公開番号】W WO2020196851
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2019063714
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼子
(72)【発明者】
【氏名】米山 健司
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 昌宏
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-221911(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175124(WO,A1)
【文献】特開2014-214063(JP,A)
【文献】特開2006-342049(JP,A)
【文献】特開2016-130290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
C01B33/00-33/193
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3級アミンと水とメトキシプロパノール(PGME)とを含む溶媒と
オルトケイ酸テトラメチルとを混合して混合溶液を準備する工程と、
前記混合溶液を攪拌する工程と、
攪拌後の前記混合溶液を基板上に塗布し、塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱して
屈折率が1.1~1.23である多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜の表面に、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いてシランカップリング剤処理する工程と、を有する、多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記混合溶液を攪拌する工程において、前記混合溶液を15~30℃で攪拌する、多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項
1または
2に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記混合溶液を攪拌する工程において、前記混合溶液を12~100時間攪拌する、多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項
1から
3までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記多孔質膜を形成する工程において、前記塗布膜を140~180℃に加熱する、多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項
1から
4までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記多孔質膜を形成する工程において、前記塗布膜を1~5時間加熱する、多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項
1から
5までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記3級アミンは、トリエチルアミンである多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1
から6までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記シランカップリング剤処理は、気相処理、液相処理またはミスト処理である多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記シランカップリング剤処理された前記多孔質膜の水に対する接触角が40°以上である、多孔質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記シランカップリング剤処理された前記多孔質膜は、表面にトリメチルシリル基を有する、多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法において、
前記シランカップリング剤処理された前記多孔質膜は、350nmの波長における散乱が1000ppm以下である、多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
基材上に単層膜で構成される反射防止膜を備える光学素子の製造方法において、
前記単層膜を請求項1から10までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法により形成する工程を含む、光学素子の製造方法。
【請求項12】
基材上に多層膜で構成される反射防止膜を備える光学素子の製造方法において、
前記多層膜のうち少なくとも一層を請求項1から10までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法により形成する工程を含む、光学素子の製造方法。
【請求項13】
基材上に多層膜で構成される反射防止膜を備える光学素子の製造方法において、
前記多層膜のうち最外層を請求項1から10までのいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法により形成する工程を含む、光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記基材がレンズである、請求項11から13までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜、光学素子、光学系、交換レンズ、光学装置および多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、屈折率が1.28~1.38の低屈折率反射防止膜が開示されている。このような低反射防止膜においては、低い屈折率を有するとともに、耐環境性に優れていることも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によれば、多孔質膜は、シリカ粒子を有する多孔質膜であって、屈折率が1.1~1.25であり、水に対する接触角が40°以上である。
第2の態様によれば、多孔質膜は、シリカ粒子を有する多孔質膜であって、屈折率が1.1~1.25であり、表面にトリメチルシリル基を有する。
第3の態様によれば、多孔質膜は、シリカ粒子を有する多孔質膜であって、屈折率が1.1~1.25であり、表面がシランカップリング剤処理されている。
第4の態様によれば、多孔質膜の製造方法は、3級アミンと水とメトキシプロパノール(PGME)とを含む溶媒とケイ素化合物とを混合して混合溶液を準備する工程と、前記混合溶液を攪拌する工程と、攪拌後の前記混合溶液を基板上に塗布し、塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を加熱して多孔質膜を形成する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】一実施の形態における、多孔質膜の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】一実施の形態における撮像装置の斜視図である。
【
図3】一実施の形態における撮像装置の別の例の正面図である。
【
図4】一実施の形態における撮像装置の別の例の背面図である。
【
図5】比較例および実施例における多孔質膜の屈折率を示す図である。
【
図6】比較例および実施例における多孔質膜の、350nmの波長および544nmの波長の光に対する散乱を示す図である。
【
図7】比較例および実施例における多孔質膜の、水に対する接触角を示す図である。
【
図8】比較例および実施例の多孔質膜に対してIR測定を行い、1259cm
-1付近に吸収帯の有無を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
-実施の形態- 図面を参照しながら、一実施の形態による多孔質膜について説明する。本実施の形態の多孔質膜は、シリカ粒子(SiO2粒子)により構成され、低屈折率であり、耐環境性に優れる多孔質膜である。
【0007】
本実施の形態の多孔質膜は、シリカ粒子のゲルネットワークにより構成され、膜内には数ナノメーターサイズの多数の空孔を有する構造を備える。本実施の形態の多孔質膜の屈折率が1.1~1.25の範囲であり、より好ましくは1.17~1.23の範囲である。なお、本明細書における屈折率とは、波長550nmの光に対する屈折率のことを意味する。本実施の形態の多孔質膜は、水に対する接触角が40°以上であり、より好ましくは45°以上である。この接触角を実現するため、多孔質膜は表面にトリメチルシリル基を有する。また、本実施の形態の多孔質膜は、350nmの波長における散乱が1000ppm以下であり、より好ましくは900ppm以下である。
【0008】
以下、上記の多孔質膜を製造するための製造方法について説明する。
ケイ素化合物を塩基触媒下で加水分解、脱水縮合させることにより、本実施の形態の多孔質粒子を形成する。ケイ素化合物として、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)を用いる。このオルトケイ酸テトラメチルを、3級アミンと水とメトキシプロパノール(PGME)とを含む溶媒に添加して攪拌する。3級アミンとして、たとえばトリエチルアミンを用いることができる。なお、容器の溶媒に、液寿命を延ばすことを目的として、硝酸を所定量添加してもよい。攪拌は、常温程度の状態で行われる。このときの温度が高すぎると反応速度が速すぎて、最終的に形成される多孔質膜の屈折率を制御しにくい傾向にある。逆に、温度が低すぎると反応速度が遅すぎて、最終的に形成される多孔質膜が脆くなる傾向にある。従って、攪拌中の温度は15~30℃であることが好ましく、20~25℃であることが更に好ましい。また、このときの攪拌時間も、形成される多孔質膜の屈折率に影響する条件である。攪拌時間は、得たい屈折率に応じて適宜設定されるが、例えば、12~100時間の範囲とすることができる。攪拌時間が長いほど、多孔質膜の屈折率が低くなる傾向にある。攪拌により、オルトケイ酸テトラメチルは以下のように加水分解して、溶液中にシリカ粒子が形成される。
Si(OMe)4+2H2O →SiO2+4MeOH
【0009】
攪拌後の溶液を基板上に塗布し、成膜処理により塗布膜を形成する。成膜処理は、たとえばスピンコーターを用いて行われる。スピンコーターを用いる際に設定する条件を適宜設定することにより、塗布膜の膜厚を任意の厚さとすることができる。成膜された塗布膜においては、シリカ粒子が連結して、ゲルネットワークが形成される。この塗布膜を加熱して硬化させる。このときの加熱の条件として、加熱温度は140~180℃の範囲、加熱時間は1~5時間の範囲とすることができる。具体的には、加熱温度は、たとえば160℃、加熱時間は、たとえば3時間とすることができる。加熱時間が長過ぎると、最終的に形成される多孔質膜は脆くなるので、温度管理は重要である。加熱処理により、ゲルネットワークが脱水縮合して、数ナノメーターサイズの多数の空孔を有する多孔質膜が形成される。加熱後、塗布膜を所定時間、常温に静置することにより冷却し、多孔質膜の形成が完了する。
【0010】
上記のようにして形成された多孔質膜の表面には、多量のOH基が存在している。多孔質膜の表面のOH基は、高温高湿度環境において互いに縮合し、多孔質膜の屈折率を変化させてしまったり、膜厚を変化させてしまう原因となるため、OH基が多量に存在している状態では耐環境性に乏しい多孔質膜となる。そこで、本実施の形態では、多孔質膜の表面をシランカップリング剤処理し、OH基の量を低減させる。シランカップリング剤処理は、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いて行う。このシランカップリング剤処理は、気相処理、液相処理またはミスト処理の何れを採用してもよい。気相処理を行う場合、ヘキサメチルジシラザンを気化させた環境(密閉容器中)に、多孔質膜が形成された基板を常温で所定時間静置する。その後、所定の温度で所定の時間加熱する。液相処理を行う場合、ヘキサメチルジシラザンの溶液中に多孔質膜が形成された基板を浸漬し、超音波を印加した状態に所定時間放置し、その後、所定の温度で所定の時間加熱する。ミスト処理を行う場合、多孔質膜が形成された基板を容器中に入れ、ミスト状のヘキサメチルジシラザンを容器内に充満させる。所定時間経過後、基板を容器から取り出し、洗浄した後、所定の温度で所定の時間加熱する。
【0011】
上記のシランカップリング剤処理により、多孔質膜の表面のOH基とシランカップリング剤のトリメチルシリル基とが結合(カップリング)する。すなわち、多孔質膜の表面にトリメチルシリル基が形成される。この結果、多孔質膜は、シランカップリング剤処理前に比べて水に対する接触角が相対的に大きくなり、上記の値となる。すなわち、シランカップリング剤処理により多孔質膜表面のOH基の量が低減し、高温高湿度環境でのOH基に由来する多孔質膜の屈折率変化や膜厚変化が抑制されるため、多孔質膜は高い耐環境性を有する。
【0012】
図1に示すフローチャートを用いて、上述した多孔質膜の製造方法を説明する。
ステップS1では、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)を、3級アミンと水とメトキシプロパノール(PGME)とを含む溶媒に添加して室温にて攪拌し(攪拌処理)、ステップS2へ進む。攪拌する時間(反応時間)は、製造する多孔質膜に要求される屈折率に基づいて決定される。
【0013】
ステップS2では、スピンコーターの回転テーブル上に固定された基板上に攪拌後の溶液を塗布した後、回転テーブルを回転させ、塗布膜を形成する成膜処理を行い、ステップS3へ進む。ステップS3では、形成された塗布膜を、たとえば、加熱温度160℃、加熱時間3時間で加熱して硬化させ(加熱硬化処理)多孔質膜を形成し、ステップS4へ進む。ステップS4では、多孔質膜の表面をシランカップリング剤処理し、多孔質膜表面のOH基量を低減させる。シランカップリング剤処理は、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いて、気相処理、液相処理、ミスト処理のうちの何れかにより行われる。以上により、本実施の形態の多孔質膜が得られる。
【0014】
このようにして得られた多孔質膜は、反射防止膜として好適に使用することができる。反射防止膜は、単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。反射防止膜が多層膜である場合、使用する膜材料の屈折率が大きいほど、あるいは最外層に低屈折率膜を使用することにより光学性能が向上したり、同じ光学性能でも多層膜の数を減らせることが知られている。特に、最外層だけを屈折率が1.30以下の低屈折率膜とすることによって、光学性能を極めて高くできることがシミュレーションにより明らかになっている。本実施の形態の多孔質膜は、1.1~1.25という低い屈折率を有するため、反射防止膜の構成として好適に使用でき、とりわけ、反射防止膜を構成する多層膜の最外層として好適に使用できる。なお、最外層とは、当該多層膜のうち最も基材から離れた層のことを意味する。
【0015】
上述した反射防止膜を備える光学素子は、例えば、レンズ等として好適に使用できる。このようなレンズを含む光学系としては、例えば、対物レンズ、集光レンズ、結像レンズ、カメラ用交換レンズ等が挙げられる。そして、これらは、レンズ交換式カメラ、レンズ非交換式カメラ等の撮像装置や、顕微鏡等の光学装置に用いることができる。なお、光学装置としては、上述した撮像装置や顕微鏡に限られず、ビデオカメラ、テレコンバーター、望遠鏡、双眼鏡、単眼鏡、レーザー距離計、プロジェクタ等も含まれる。以下に撮像装置の一例を説明する。
【0016】
図2は、本実施の形態の多孔質膜を含む反射防止膜を備えた光学系を有する撮像装置の斜視図である。 撮像装置1はいわゆるデジタル一眼レフカメラ(レンズ交換式カメラ)であり、撮影レンズ103(光学系)は、本実施の形態の多孔質膜を含む反射防止膜を備えたレンズを有するものである。カメラボディ101のレンズマウント(不図示)にレンズ鏡筒102が着脱自在に取り付けられる。そして、当該レンズ鏡筒102の撮影レンズ103を通過した光がカメラボディ101の背面側に配置されたマルチチップモジュール106のセンサチップ(固体撮像素子)104上に結像される。このセンサチップ104は、いわゆるCMOSイメージセンサ等のベアチップであり、マルチチップモジュール106は、例えばセンサチップ104がガラス基板105上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
【0017】
図3は、本実施の形態の多孔質膜を含む反射防止膜を備えた光学素子を有する撮像装置の他の例の正面図であり、
図4は、
図3に示す撮像装置の背面図である。 この撮像装置CAMは、いわゆるデジタルスチルカメラ(レンズ非交換式カメラ)であり、撮影レンズWL(光学系)は本実施の形態の多孔質膜を含む反射防止膜を備えたレンズを有するものである。
【0018】
撮像装置CAMは、不図示の電源ボタンを押すと、撮影レンズWLのシャッタ(不図示)が開放されて、撮影レンズWLで被写体(物体)からの光が集光され、像面に配置された撮像素子に結像される。撮像素子に結像された被写体像は、撮像装置CAMの背後に配置された液晶モニタLMに表示される。撮影者は、液晶モニタLMを見ながら被写体像の構図を決めた後、レリーズボタンB1を押し下げて被写体像を撮像素子で撮像し、メモリ(不図示)に記録保存する。撮像装置CAMには、被写体像が暗い場合に補助光を発光する補助光発光部EF、撮像装置CAMの種々の条件設定等に使用するファンクションボタンB2等が配置されている。
【0019】
これらのカメラ等に用いられる光学系にはより高い反射防止性能が求められる。これを実現するためには、本実施の形態の多孔質膜を反射防止膜に用いることが有効である。
【0020】
上述した実施の形態の多孔質膜の実施例について説明する。
[実施例]
本実施例においては、多孔質膜は以下の手順により形成する。 樹脂製ボトルに、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)(富士フイルム和光純薬)を54.43グラム入れる。次に、トリエチルアミン(東京化成)を36.1μLと、純水1.731mLとを、それぞれマイクロピペットで測り取り、樹脂製ボトル中に添加し、マグネチックスターラーを600rpmの回転速度で5分間回転させて攪拌し、塩基溶媒を形成する。
【0021】
上記の塩基溶媒中に、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)(東京化成)を7.31グラム添加し、常温で所定の時間攪拌する。さらに1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)を27.2グラム加えて、PGMEの含有比率が70wt%となるように希釈して塗布液を得る。塗布液の液寿命を延ばすために硝酸を添加する場合には、硝酸(1.42)(富士フイルム和光純薬)を11μL滴下してもよい。塗布液をシリンジに収容し、5.0μmメッシュのシリンジフィルターを通して基板上に滴下する。塗布液が滴下された基板をスピンコーターの回転テーブルに固定し、回転テーブルを、5秒間で3000rpmまで加速し、その状態で30秒間回転を保持した後、5秒間で減速して停止させる。回転テーブルの回転制御は予め設定されたプログラムに従って行われる。スピンコーターにより基板上で成膜された塗布膜はオーブンを用いて、加熱温度160℃、加熱時間3時間の条件で加熱される。加熱後、常温にて24時間静置する。以上の手順により、基板上に多孔質膜が形成される。この状態を、以下の説明では、テストピースと呼ぶ。
【0022】
テストピースの多孔質膜にシランカップリング剤処理を行う。上述したように、シランカップリング剤処理を行う方法としては、気相処理と液相処理とミスト処理とがある。以下、それぞれの処理条件を記載する。
<気相処理> 1L程度の容量の密閉容器にテストピースとヘキサメチルジシラザン(HMDS)(東京化成)0.614μLを入れ、常温にて24時間静置する。その後、密閉容器から取り出したテストピースを加熱温度60℃、加熱時間30分で熱処理する。
【0023】
<液相処理> ヘキサメチルジシラザン(HMDS)をメタノールにて30wt%に希釈してHMDS希釈液を作製する。このHMDS希釈液にテストピースを浸漬し、超音波を印加しながら20分間処理する。処理後のテストピースをメタノール中で1分間超音波洗浄し、その後、加熱温度60℃、加熱時間30分で熱処理する。
【0024】
<ミスト処理> テストピースを加熱温度70℃、加熱時間30分で熱処理する。熱処理後、テストピースを容器に入れ、容器内でネブライザーを用いてヘキサメチルジシラザン(HMDS)のミストを充満させる。ネブライザーにより5分間ミストを発生させた後、ミストの発生を停止させた状態で5分間経過させ、その後、容器からテストピースを取り出す。取り出したテストピースを加熱温度70℃、加熱時間30分で熱処理する。熱処理後のテストピースをメタノールに浸漬し、2分間超音波洗浄する。その後、テストピースを純水で洗浄した後、加熱温度70℃、加熱時間30分で熱処理する。
【0025】
図5は、上記の製造方法によって製造した多孔質膜の各実施例と各比較例の屈折率を示す図である。
図5(a)は、比較例1~6の屈折率を示す。比較例1~6は、表面にシランカップリング剤処理が施されていない多孔質膜である。比較例1は多孔質膜の製造時における塩基溶媒とオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)の混合溶液の攪拌時間が15時間である。比較例2~6は、それぞれ、攪拌時間が18時間、21時間、24時間、48時間、96時間の多孔質膜である。
図5(b)は、実施例1~6の屈折率を示す。実施例1~6は、それぞれ比較例1~6と同様の条件により形成した多孔質膜の表面に気相処理によるシランカップリング剤処理を施したものである。すなわち、実施例1~6は、それぞれ、攪拌時間が15時間、18時間、21時間、24時間、48時間、96時間の多孔質膜である。
図5(c)は、実施例7~12の屈折率を示す。実施例7~12は、それぞれ比較例1~6と同様の条件により形成した多孔質膜の表面に液相処理によるシランカップリング剤処理が施されたものである。すなわち、実施例7~12は、それぞれ、攪拌時間が15時間、18時間、21時間、24時間、48時間、96時間の多孔質膜である。
図5(d)は、実施例13~18の屈折率を示す。実施例13~18は、それぞれ比較例1~6と同様の条件により形成した多孔質膜の表面にミスト処理によるシランカップリング剤処理が施されたものである。すなわち、実施例13~18は、それぞれ、攪拌時間が15時間、18時間、21時間、24時間、48時間、96時間の多孔質膜である。
【0026】
図5に示すように、多孔質膜の屈折率は、製造時における塩基溶媒とオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)の攪拌時間が長いほど小さい。また、表面にシランカップリング剤処理を施すことにより多孔質膜の屈折率は、シランカップリング剤処理が施される前に比べて大きい。なお、
図5に示すように、シランカップリング剤処理の有無によらず、屈折率は1.25よりも小さい。なお、
図5には記載していないが、反応時間を96時間以上とした場合には、形成される多孔質膜の屈折率は、1.1より小さくなる。
【0027】
図6は、上記の各実施例および各比較例の多孔質膜と、350nmの波長および544nmの波長の光に対する散乱との関係を示す図である。
図6(a)は比較例1~6、
図6(b)は実施例1~6、
図6(c)は実施例7~12、
図6(d)は実施例13~18の散乱を示す。
図6に示す散乱の値は、多孔質膜への入射光に対する散乱光の割合を示す。散乱光は、積分球を用いて検知された前方散乱と後方散乱とを合わせたものである。実施例の多孔質膜の散乱の値は、すべて1000ppm以下の値であり、本実施例の製造方法により製造された多孔質膜の散乱は十分に小さいことがわかる。すなわち、本実施例の多孔質膜は、表面が平滑であり、微細な内部構造を有するという特性を有する。これにより、本実施例の多孔質膜は、可視光領域の光学部材用の薄膜として用いることができる。
【0028】
図7は、上記の各実施例および各比較例の多孔質膜の、水に対する接触角示す図である。
図7(a)は比較例1~6、
図7(b)は実施例1~6、
図7(c)は実施例7~12、
図7(d)は実施例13~18の多孔質膜の、水に対する接触角を示す。
図7(a)に示すように、比較例1~6の多孔質膜は、シランカップリング剤処理が施されていないため、接触角が7.3°~14.7°と小さい。これに対して、
図7(b)~(d)に示すように、表面にシランカップリング剤処理が施された実施例1~18の多孔質膜の、水に対する接触角は、いずれも40°を超えており、比較例1~6の多孔質膜の接触角と比較してはるかに大きいことがわかる。これは、シランカップリング剤処理を施すことにより、多孔質膜の表面にトリメチルシリル基が形成され、これにより水に対する接触角が増加、すなわち、多孔質膜の表面のOH基の量が低減されたものと推定される。
【0029】
多孔質膜の表面にトリメチルシリル基が存在するか否かは、IR(赤外線吸収分光)測定により判定することができる。すなわち、IR測定において、トリメチルシリル基に特有に含まれるSi-C結合による1259cm-1付近の吸収が観察された場合には、トリメチルシリル基の存在を確認できる。
【0030】
図8は上記の各実施例および各比較例をIR測定し、1259cm
-1付近に吸収帯の有無を確認した結果を示す。
図8(a)は比較例1~6、
図8(b)は実施例1~6、
図8(c)は実施例7~12、
図8(d)は実施例13~18の多孔質膜のIR測定結果を示す。比較例1~6については1259cm
-1付近に吸収帯が確認されなかったが、実施例1~18については全て1259cm
-1付近に吸収帯が確認された。すなわち、実施例1~18の多孔質膜の表面にはトリメチルシリル基が存在していることがわかる。このことが水に対して大きな接触角を示すことが推定される。
【0031】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。(1)多孔質膜はシリカ粒子を有し、屈折率が1.1~1.25であり、水に対する接触角が40°以上である。これにより、多孔質膜は、低屈折率と高い耐環境性とを有するので、光学部材の薄膜等の用途に用いることができる。
【0032】
(2)多孔質膜は、表面のOH基がシランカップリング剤処理され、トリメチルシリル基を有する。これにより、多孔質膜の接触角が大きくなる。すなわち、多孔質膜の表面のOH基量が低減されているため、高温高湿度環境でのOH基に由来する多孔質膜の屈折率変化や膜厚変化を抑制することができる。
【0033】
(3)多孔質膜は、350nmの波長における散乱が1000ppmより小さい。これにより、多孔質膜は低散乱の膜であるので、光学部材の反射防止膜等の用途に用いることができる。
【0034】
(4)3級アミンと水とメトキシプロパノール(PGME)とを含む溶媒とケイ素化合物とを混合して混合溶液を準備し、攪拌し、攪拌後の混合溶液を基板上に塗布し、塗布膜を形成し、塗布膜を加熱して多孔質膜を形成する。これにより、簡便なプロセスにて、フッ酸等を用いることなく安全に低屈折率な多孔質膜を製造することができる。
【0035】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【0036】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特願2019-63714号(2019年3月28日出願)
【符号の説明】
【0037】
1、CAM…撮像装置103、WL…撮影レンズ