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特許7197066ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20221220BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20221220BHJP
   C08G 75/0286 20160101ALI20221220BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K5/541
C08G75/0286
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022550764
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2022022423
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021174570
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】茨木 拓
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊男
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 広清
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-132379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂であり、300℃で測定した溶融粘度(V6)が1,000Pa・s以上の範囲であり、かつ、動的粘弾性測定において、角周波数1/sのときtanδが280℃~330℃で1未満の領域を有すること、
前記熱可塑性エラストマー(B)の配合量がポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して0.5~12質量部の範囲であること、及び/又は、シランカップリング剤(C)の配合量がポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して1.0質量部以下の範囲であること、かつ、
粘度変化率が150%以下であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。(ただし、溶融粘度(V6)は、300℃、荷重:1.96×10 Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した値であり、粘度変化率はキャピラリーレオメーターにより、せん断速度12.16sec-1、300℃で測定した溶融粘度を用いて次式より算出したものであること。)
粘度変化率〔%〕=(30分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕/5分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕)×100
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の流動電位法により測定するゼータ電位がpH7.8~8.2において、-70mV以上である、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記シランカップリング剤(C)がアミノ基を有するものである、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
溶融混練物である請求項1~3の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項6】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を配合し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂であり、かつ、動的粘弾性測定において、角周波数1/sのときtanδが280℃~330℃で1未満の領域を有すること、
前記熱可塑性エラストマー(B)の配合量がポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して0.5~12質量部であること、かつ、
粘度変化率が150%以下であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。(ただし、粘度変化率はキャピラリーレオメーターにより、せん断速度12.16sec-1、300℃で測定した溶融粘度を用いて次式より算出したものであること。)
粘度変化率〔%〕=(30分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕/5分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕)×100
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の流動電位法により測定するゼータ電位がpH7.8~8.2において、-70mV以上である、請求項6記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記シランカップリング剤(C)がアミノ基を有するものである、請求項6又は7記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形する工程を有する成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる、直接液体に又はその蒸気に接する部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産性、成形性に優れ、かつ高耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックが開発され、軽量でもあることから金属材料に代わる材料として電気、電子機器や自動車用等の部材として幅広く使用されている。特にポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと表す)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと表す)樹脂は、耐熱性に優れつつ、かつ、機械的強度、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性にも優れるため、自動車部品や電気電子部品、水廻り部品などの分野で、広範に利用されている。
【0003】
一方、水又は水溶液に接する水廻り部品においては、使用環境下において樹脂組成物に含まれる強化材、例えばガラス繊維等が脱落しにくい材料、また、長期の使用においても割れ等が発生しない靭性の高い材料が求められている。これにより、強化材の配合量を低減し、高粘度かつ高靭性な樹脂組成物に対する要求が年々高まっている。
【0004】
PAS樹脂組成物の靭性改善の技術としては、例えば、特許文献1のように、アミノ基含有化合物、及びエポキシ基を含有するエラストマーを配合する技術が知られている。しかしながら、強化材を含まないPAS樹脂組成物において実用的な靭性を得ようとすると、PAS樹脂よりも耐熱性の低いエラストマーを多量に配合することになり、成形中に発生する分解ガスが多くなることによって、加工性、特に連続成形性に課題があった。
【0005】
また、靭性を向上させるためにPAS樹脂の架橋度を上昇させた場合には、ラジカル量の増加により樹脂が溶融状態で滞留した場合に増粘しやすくなることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-56007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、機械的強度、特に靭性に優れるPAS成形品、及び、当該成形品を提供可能な滞留による増粘及び発生ガスを抑制した加工性に優れるPAS樹脂組成物、並びに、それらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、架橋型PAS樹脂に、特定の範囲の量の熱可塑性エラストマー及び/又はシランカップリング剤を組み合わせることで、PAS樹脂樹脂組成物の、靭性に優れ、かつ、滞留による増粘及び発生ガスを抑制することで加工性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示は、PAS樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を配合してなるPAS樹脂組成物であって、前記PAS樹脂(A)が架橋型PAS樹脂であり、かつ、動的粘弾性測定において、角周波数1/sのときtanδが280℃~330℃で1未満の領域を有すること、前記熱可塑性エラストマー(B)の配合量がPAS樹脂(A)100質量部に対して12質量部以下の範囲であること、及び/又は、シランカップリング剤(C)の配合量がPAS樹脂(A)100質量部に対して1質量部以下の範囲であること、及び、粘度変化率が150%以下であることを特徴とする、PAS樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本開示は、前記記載のPAS樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【0011】
また、本開示は、PAS樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法であって、前記PAS樹脂(A)が架橋型PAS樹脂であり、かつ、動的粘弾性測定において、角周波数1/sのときtanδが280℃~330℃で1未満の領域を有すること、前記熱可塑性エラストマー(B)の配合量がPAS樹脂(A)100質量部に対して0.5~12質量部であること、及び粘度変化率が150%以下であることを特徴とするPAS樹脂組成物の製造方法に関する。
【0012】
また、本開示は、前記記載の製造方法でPAS樹脂組成物を製造する工程、得られたPAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する成形品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、架橋型PAS樹脂に、熱可塑性エラストマーもしくはシランカップリング剤とを含み、機械的強度、特に靭性に優れるPAS成形品、及び、当該成形品を提供可能な加工性に優れるPAS樹脂組成物及びそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、PAS樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を配合してなる。以下、説明する。
【0015】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、必須成分として架橋型PAS樹脂を配合してなる。
【0016】
PAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0017】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0018】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0019】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0020】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0021】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0022】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本開示では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0023】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0024】
また、PAS樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0025】
(溶融粘度)
本開示のPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、靭性及び機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは1,000Pa・s以上の範囲であり、そして、より好ましくは1500Pa・s以上の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0026】
(非ニュートン指数)
本開示のPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがさらに好ましい。このようなPAS樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本開示において非ニュートン指数(N値)は、キャピラリーレオメーターを用いて融点+50℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0027】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]
【0028】
(分子量)
本開示のPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂は、1-クロロナフタレンを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量が、40,000以上の範囲にピークを有するものが好ましい。PAS樹脂のピーク分子量が、この範囲であれば、PAS樹脂の分子末端量が低下するためナトリウム含有量が小さくなり、かつ、本開示のPAS樹脂組成物からなる樹脂成形体において、十分な機械的強度が得られるため好ましい。
【0029】
(ゼータ電位)
本開示のPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂は、流動電位法により測定するゼータ電位がpH7.8~8.2において、-70mV以上であることが好ましく、-65mV以上であることがより好ましい。また、-50mV以下であることが好ましく、-55mV以下であることがより好ましい。なお、PAS樹脂のゼータ電位は、該樹脂から非晶状態のフィルム(例えば縦5.0cm、横3.0cm、厚み0.1cm)を作製し、SurPASS3(Anton Paar社)を用いて電解液:1mmol/LのKCl水溶液中、測定温度22~26℃でフィルム表面のゼータ電位を3回測定したときの平均値を言うものとする。
【0030】
(損失正接)
本開示のPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂は、動的粘弾性測定によって得られる損失正接(tanδ)が1未満となる温度域を、角周波数1/sのときに280℃以上330℃以下に有する。一般にtanδが大きいほど、すなわち、損失弾性率(E”)が大きいほど、塑性変形しやすく、tanδが小さいほど、すなわち、貯蔵弾性率(E’)が大きいほど、弾性変形しやすい材料であると言える。
【0031】
なお、本開示のPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂の損失正接(tanδ)は、220℃から330℃まで、角周波数1/s、歪み0.1%の条件で、レオメーター(例えば、TA Instruments社製レオメーター「ARES-G2」)を用いて動的粘弾性を測定して、得られる損失弾性率(E”)から貯蔵弾性率(E’)を除することで算出した値(E”/E’)である。
【0032】
(製造方法)
前記PAS樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でアルカリ金属硫化物及び/又はアルカリ金属水硫化物(以下、スルフィド化剤と略すことがある。)剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、ジハロゲノ芳香族化合物類、極性有機溶媒、及びスルフィド化剤を含む配合物が、(極性有機溶媒)/(スルフィド化剤)=0.02/1~0.9/1(モル比)の範囲になるように反応器に仕込み、好ましくは不活性ガス雰囲気下開放系で昇温を開始して、前記配合物を脱水し、かつ当該脱水の進行とともに固形物を析出させ、均一に各成分を分散させた低含水固形物を得た後、所定の温度に冷却して、必要により極性有機溶媒及び/又はジハロゲノ芳香族化合物類をさらに前記低含水固形物に添加し、不活性ガス雰囲気下にて重合を行う方法(特許3637543号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)が特に好ましい。
【0033】
PAS樹脂の製造方法としては、上記製造法2を用いた重合方法、より詳細には、極性溶媒(例えば、極性有機溶媒)中、少なくとも1種のポリハロゲノ芳香族化合物と少なくとも1種のスルフィド化剤とを適当な重合条件下で反応して得られるPAS樹脂を含有する反応混合物(スラリー)を得る工程を一例に挙げて以下説明する。また、本実施形態においては、スラリーがスルフィド化剤及び有機溶媒の存在下に、ポリハロゲノ芳香族化合物及び/又は有機溶媒を連続的、乃至、断続的に加えながら反応させることにより得られる形態も包含する。
【0034】
本実施形態で用いられるポリハロ芳香族化合物とは、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18のアルキル基を有する化合物が挙げられる。上述のジハロゲノ芳香族化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ジハロゲノ芳香族化合物以外のポリハロゲノ芳香族化合物としては、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、これらの化合物をブロック共重合してもよい。上記具体例の中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。なお、上述のポリハロゲノ芳香族化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記各ハロゲノ芳香族化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子及び/又は臭素原子であることが好ましい。
【0035】
また、枝分かれ構造とすることによってPAS樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲノ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロゲノ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン等が挙げられる。
【0036】
更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロゲノ芳香族化合物を挙げることができ、具体的には、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類及びこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。
【0037】
また、これらの活性水素含有ポリハロゲノ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロゲノ芳香族化合物も使用できる。
【0038】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロゲノ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0039】
ニトロ基を有するポリハロゲノ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノ又はジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノ又はジハロニトロピリジン類;或いは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0040】
極性有機溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0041】
本実施形態で用いられるスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物及び/又はアルカリ金属水硫化物が挙げられる。
【0042】
アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0043】
アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0044】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0045】
本開示のPAS樹脂組成物に用いられるPAS樹脂は、少なくとも該樹脂の一部から形成された評価試料である試験片の表面のゼータ電位値が、pH7.8~8.2(例えば、pH=8.0)において-50~-65mVの範囲を示すことが好ましい。前記試験片の表面のゼータ電位値が、pH7.8~8.2(例えば、pH=8.0)において-50~-65mVの範囲を示しやすい傾向に必要な特定の重合条件としては、以下の条件(a)~(c)が挙げられる。
(a)原料の仕込みから重合反応が終了するまでに使用した有機溶媒の総量が、硫黄源であるスルフィド化剤1molに対して1~6molの比率であることが好ましい。
(b)最初に仕込む有機溶媒の量が、硫黄源であるスルフィド化剤1molに対して、0.01~0.50molの比率であることが好ましい。
(c)重合反応後のPAS樹脂(又はスラリー)に酸又は水素塩を添加することが好ましい。より好ましくは、重合工程における重合反応後のPAS樹脂(又はスラリー)に酸又は水素塩を添加して、当該反応混合物のpHを7~11に調整する。
【0046】
上記(c)の条件における酸としては、例えば、炭酸、シュウ酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、モノクロロ酢酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸、蓚酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、或いはメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸などの有機酸、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸又はリン酸等の無機酸が挙げられる。上記(c)の条件における水素塩としては、硫酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。実機での使用においては、金属部材への腐食が少ない有機酸が好ましい。
【0047】
本実施形態のPAS樹脂の重合工程において、上記(a)の条件を採用すると、重合中のPAS樹脂の濃度が高くなる為、脂肪族系環状化合物の開環物がPAS樹脂の末端に付与する反応が進みやすくなるという理由から、特定のゼータ電位値を示しうる。また、本実施形態における重合工程において、上記(b)の条件を採用すると、重合中のPAS樹脂の濃度が高くなる為、脂肪族系環状化合物の開環物がPAS樹脂の末端に付与する反応が進みやすくなるという理由から、特定のゼータ電位値を示しうる。また、本実施形態における重合工程において、上記(c)の条件を採用すると、PAS樹脂内に酸性成分が内包され、精製工程で酸性分が滲み出てくることにより、PAS樹脂の末端官能基の一部がイオン交換しプロトン化するという理由から、特定のゼータ電位値を示しうる。
【0048】
本実施形態において、試験片の表面のゼータ電位値がpH7.8~8.2(例えば、pH=8.0)において-50~-65mVの範囲とするためには、重合工程又は下記精製工程において、前記PAS樹脂に酸を添加することが好ましい。そのため、上記(a)~(c)の重合条件のうち、特に(c)を満たすことにより、前記ゼータ電位値が所定の範囲になる傾向が強い。
【0049】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(後処理4)の方法が、PAS樹脂の分子末端に存在するナトリウム等の金属原子を効果的に除去することができ、ナトリウム含有量の少ないPAS樹脂を得られるため好ましい。
【0050】
後処理工程において、前記試験片の表面のゼータ電位値がpH7.8~8.2(例えば、pH=8.0)において-50~-65mVの範囲を示しやすい傾向に必要な特定の精製条件としては、以下の条件(d)~(f)が挙げられる。
(d)所定量以上の酸溶液を用いて粗PAS樹脂を酸処理することが好ましい。より好ましくは、PAS樹脂の総重量の約2倍以上の酸溶液を用いて酸処理する。
(e)上記(d)の酸処理で使用する酸溶液のpHが6以下であることが好ましい。
(f)140~260℃の熱水をPAS樹脂の総重量の1.5~10倍用いて、熱水洗浄することが好ましい。
【0051】
後処理工程において、上記(d)~(f)の条件を採用すると、イオン交換反応により、PAS樹脂の末端官能基をプロトン化することができる。上記酸溶液に使用する酸は、pH6以下の酸溶液を調製できれば特に制限されることはなく、上記(c)の条件における酸を援用することができる。
【0052】
尚、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0053】
このようにして得られた直鎖状構造PAS樹脂の架橋方法は、公知の方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、前記造粒物を空気あるいは酸素富化空気中などの酸化性雰囲気下で加熱処理を行う方法が挙げられる。加熱条件は、加熱処理に要する時間と、加熱処理後のPAS樹脂の溶融時の熱安定性が良好となる観点から180℃以上から、PAS樹脂の融点より20℃低い温度範囲であることが好ましい。ただし、ここでの融点とは、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamond)を用いてJIS K 7121に準拠して測定したものをさす。
【0054】
空気あるいは酸素富化空気中などの酸化性雰囲気中で加熱処理する場合の酸素濃度は、酸化速度が速く処理を短時間に行える観点から、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10質量%以上の範囲であってよく、そして、ラジカル発生量増大を抑制し加熱処理時の増粘を抑えつつ、かつ、色相が良好な観点から、好ましくは30体積%以下、より好ましくは25体積%以下の範囲であって良い。
【0055】
本開示のPAS樹脂組成物は、熱可塑性エラストマー(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を配合してなる。
【0056】
<熱可塑性エラストマー(B)>
本実施形態で用いる熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー又はシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上から、好ましくは12質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0057】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、又は2以上のα-オレフィンの共重合体、1又は2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。また、前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。そして、前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種又は2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
<シランカップリング剤(C)>
本実施形態で用いるシランカップリング剤としては、特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましく、特にアミノ基を含有するシランカップリング剤が好ましい。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0059】
本実施形態で用いるシランカップリング剤の配合量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上から、好ましくは1.0質量部以下の範囲である。かかる範囲において、発生ガス量と加工性のバランスに優れるため好ましい。
【0060】
本開示のPAS樹脂組成物は、実質的に非強化PAS樹脂組成物であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、少量の充填剤を任意成分として配合することができる。これら充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、炭素繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスフレーク、ミルドファイバー、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、ケイ酸カルシウム、ゼオライト、ベーマイト等の非繊維状充填剤も使用できる。充填剤の配合量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは25質量部以下、より好ましくは15質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械的強度と成形性を示すため好ましい。また、充填剤を含まない場合(非強化)、成形品の使用中に充填剤が脱離する恐れがないため、特に好ましい。
【0061】
更に、本開示のPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本開示において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本開示の樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂(A)100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0062】
また本開示のPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及び離型剤(ステアリン酸やモンタン酸を含む炭素原子数18~30の脂肪酸の金属塩やエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなど)等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0063】
また、本開示のPAS樹脂組成物は、粘度変化率が150%以下であることを特徴とする。なお、本開示における樹脂組成物の粘度変化率は、キャピラリーレオメーター(例えば、株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフ」)を用いて、せん断速度12.16sec-1、300℃、オリフィスのL/D=40の条件下で測定した溶融粘度を用いて次式より算出した値をいう。
粘度変化率〔%〕=(30分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕/5分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕)×100
【0064】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法であって、前記PAS樹脂(A)が架橋型PAS樹脂であり、かつ、280℃以上で、角周波数1/sのときtanδが1未満の領域を有すること、前記熱可塑性エラストマー(B)の配合量がPAS樹脂(A)100質量部に対して0.5~12質量部であること、及び粘度変化率が150%以下であることを特徴とする。以下、詳述する。
【0065】
本開示のPAS樹脂組成物の製造方法は、上記必須成分を配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する。より詳しくは、本開示のPAS樹脂組成物は、各必須成分、及び、必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本開示に用いる樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる
【0066】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂(A)の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0067】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、前記成分のうち、必須成分のガラス繊維(B)や必要に応じて他の繊維状充填剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0068】
このように溶融混練して得られる本開示のPAS樹脂組成物は、前記必須成分と、必要に応じて加える任意成分及びそれらの由来成分を含む溶融混合物である。このため、本開示のPAS樹脂組成物は、PAS樹脂(A)が連続相を形成し、他の必須成分や任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。本開示に係るPAS樹脂組成物は、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0069】
本実施形態に係る成形品はPAS樹脂組成物を溶融成形してなる。また、本実施形態に係る成形品の製造方法は、前記PAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。このため、本開示の成形品は、PAS樹脂(A)が連続相を形成し、他の必須成分や任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。PAS樹脂組成物が、かかるモルフォロジーを有することにより、耐薬品性、特に燃料バリア性及び機械的強度、特に靭性に優れた成形品が得られる。
【0070】
本開示のPAS樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは130~190℃に設定すればよい。
【0071】
本開示の成形品の製造方法は、前記成形品にアニール処理する工程を有してもよい。アニール処理は、成形品の用途あるいは形状等により最適な条件が選ばれるが、アニール温度はPAS樹脂(A)のガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは該ガラス転移温度+10℃以上の温度範囲であり、より好ましくは該ガラス転移温度+30℃以上の温度範囲である。一方、260℃以下の範囲であることが好ましく、240℃以下の範囲であることがより好ましい。アニール時間は特に限定されないが、0.5時間以上の範囲であることが好ましく、1時間以上の範囲であることがより好ましい。一方、10時間以下の範囲であることが好ましく、8時間以下の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られる成形品のひずみが低減し、かつ、樹脂の結晶性が向上するだけでなく、機械的特性がさらに向上するため好ましい。アニール処理は空気中で行ってもよいが、窒素ガス等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0072】
本開示のPAS樹脂成形品は、靭性及び加工性に優れることを特徴としたものであり、特に直接液体に、又は、その蒸気に接する部品、すなわち、燃料部品や水廻り部品に好適である。例えばパイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類、(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー、等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)など流体を搬送する為の配管及び配管に付属する各種の部品が挙げられる。さらに具体的には、給湯機や風呂の湯量、温度センサ等といった水廻り部品や、燃料タンク、燃料チューブ、燃料センサー、燃料ポンプ、ベーンポンプ、オートレシオ流量計等といった車載用燃料部品に好適に用いることができる。また、本開示の成形品は上記の部品のみではなく、以下のような通常の樹脂成形品とすることもできる。例えば箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体又はモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モータ、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、温度センサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイル及びそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例
【0073】
以下、実施例、比較例を用いて説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0074】
<実施例1~7及び比較例1~4>
表1に記載する組成成分及び配合量にしたがい、各材料を配合した。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α(製品名)」にこれら配合材料を投入し、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度320℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。ガラス繊維及び炭素繊維はサイドフィーダー(S/T比0.5)から投入し、それ以外の材料はタンブラーで予め均一に混合しトップフィーダーから投入した。得られた樹脂組成物のペレットを140℃ギヤオーブンで2時間乾燥した後、射出成形することで各種試験片を作製し、下記の試験を行った。
【0075】
<評価>
【0076】
(1)引張破断伸びの測定
得られたペレットをシリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、金型温度140℃に温調したISO Type-Aダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ISO Type-Aダンベル片を得た。なお、ウェルド部を含まない試験片となるよう1点ゲートから樹脂を射出して作製したものとした。得られたダンベル片をISO 527-1及び2に準拠した測定方法で引張破断伸び(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(2)粘度変化率の測定
得られた樹脂組成物のペレットを用いて、キャピラリーレオメーター(株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフD1」)により、せん断速度12.16sec-1、300℃、L/D=40の条件で溶融粘度を測定した。粘度変化率は次式より算出した。結果を表1に示す。
粘度変化率〔%〕=(30分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕/5分保持した際の溶融粘度〔Pa・s〕)×100
【0078】
(3)ウエイトロス(発生ガス量)の測定
PPSの粉体試料を精密天秤にて4.00gアルミ製シャーレに秤量した。150℃に設定された乾燥機内に試料を1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次いで、同シャーレを、325℃に設定された乾燥機内に1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次式より各試料のウェイトロスを算出した。結果を表1に示す。
ウエイトロス〔wt%〕=(150℃加熱後の秤量値〔g〕-370℃加熱後の秤量値〔g〕)/150℃加熱後の秤量値〔g〕×100
【0079】
【表1】
【0080】
なお、表1中の配合成分は下記のものを用いた。
【0081】
A-1:架橋型PPS樹脂(溶融粘度(V6)2800Pa・s、280~310℃においてtanδが1未満、ゼータ電位-56mV、非ニュートン指数2.3)
A-2:架橋型PPS樹脂(溶融粘度(V6)1500Pa・s、280~300℃においてtanδが1未満、ゼータ電位-60mV、非ニュートン指数2.1)
a-3:リニア型PPS樹脂(溶融粘度(V6)120Pa・s、275~330℃で常にtanδが1以上、ゼータ電位-66mV、非ニュートン指数1.1)
【0082】
(製造例1) PPS樹脂(A-1~a-3)の製造
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブに、p-ジクロロベンゼン(以下、「p-DCB」と略記する。)33.222kg(226モル)、NMP4.560kg(46モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水26.794kgを留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンターで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.089kg(0.9モル)であったことから、仕込んだNMPの98%(45.1モル)がSMABに加水分解されていることを示す。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.196モルであった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水Na2Sに変わる場合の理論脱水量は27.921gであることから、オートクレーブ内の残水量1127g(62.6モル)の内、812g(45.1モル)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの315g(17.5モル)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示している。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.076モルであった。
【0083】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP45.203kg(456モル)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.038モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p-DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は273g(15.2モル)であった。
【0084】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は42g(2.3モル)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.196モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.50MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、650gを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3リットルの温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(a-3)を得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は約120Pa・sであった。得られたPPS樹脂を210~250℃の酸化性雰囲気下で目標の粘度まで熱架橋し、架橋型PPS樹脂(A-1)及び(A-2)を得た。
【0085】
B-1:熱可塑性エラストマー(アルケマ社製 LOTADER AX-8930)
B-2:熱可塑性エラストマー(アルケマ社製 LOTADER AX-8390)
B-3:熱可塑性エラストマー(ダウ・ケミカル社製 Engage 8842)
C-1:シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
C-2:シランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)
【0086】
実施例と比較例を対比すると、実施例の材料は靭性、粘度変化率(滞留した際の増粘率)及びウエイトロス(発生ガス量)の全てがバランスよく優れていることが認められる。
【要約】
ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂、熱可塑性エラストマー及び/又はシランカップリング剤を含み、特に靭性に優れるPAS成形品及び当該成形品を提供可能な滞留による増粘及び発生ガスを抑制した加工性に優れるPAS樹脂組成物並びにそれらの製造方法を提供すること。さらに詳しくは、PAS樹脂と熱可塑性エラストマー及び/又はシランカップリング剤を配合してなるPAS樹脂組成物であって、PAS樹脂が架橋型PAS樹脂であり動的粘弾性測定において角周波数1/sのときtanδが280℃~330℃で1未満の領域を有すること、熱可塑性エラストマーの配合量がPAS樹脂100質量部に対して12質量部以下の範囲であること及び/又はシランカップリング剤の配合量がPAS樹脂100質量部に対して1.0質量部以下の範囲であること、かつ、粘度変化率が150%以下であることを特徴とするPAS樹脂組成物、成形品、それらの製造方法。
【選択図】なし