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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】蛍光光度計および観測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019044976
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020148547
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀込 純
(72)【発明者】
【氏名】丸山 魁
(72)【発明者】
【氏名】栗田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】坂元 秀之
(72)【発明者】
【氏名】中島 莉乃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直貴
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-020363(JP,A)
【文献】特開2001-008892(JP,A)
【文献】特開2007-163507(JP,A)
【文献】特開2001-137173(JP,A)
【文献】特開2005-152130(JP,A)
【文献】特開平08-224240(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19854292(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62ー21/74
A61B 1/00- 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、当該光源の光を分光して励起光を生成する励起側分光器と、前記励起光が照射された試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器と、を少なくとも備える光度計部と、
前記光度計部の外部に存在する前記試料まで前記励起光を導くとともに、前記試料から放出された前記蛍光を前記光度計部まで導く導光部材と、
を備える蛍光光度計であって、
前記導光部材が、
前記試料を撮影する撮影部と、
前記撮影部の周囲に配置され、前記励起光を導いて前記試料に照射する励起光導光部材と、
前記撮影部の周囲に配置され、前記試料から放出された前記蛍光を前記光度計部まで導く蛍光導光部材と、を備え、
前記励起光導光部材および前記蛍光導光部材が、前記撮影部を取り囲むように存在する、
蛍光光度計。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光光度計であって、
前記撮影部は、前記試料に照射された前記励起光の反射光によって前記試料を撮影する、
蛍光光度計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光光度計であって、
前記撮影部が、複数の光ファイバーを束ねて構成されるイメージファイバーであり、
前記励起光導光部材および前記蛍光導光部材の各々が、複数の光ファイバーから構成され、当該複数の光ファイバーが、前記イメージファイバーの周囲においてリング状に配置されている、
蛍光光度計。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の蛍光光度計であって、
前記導光部材は、前記光度計部の筐体から突出した線状の光ファイバーユニットである、
蛍光光度計。
【請求項5】
試料まで励起光を導くとともに、前記試料から放出された蛍光を導く導光部材を有する蛍光光度計を用いて、前記試料を観測する観測方法であって、
前記導光部材の撮影部によって前記試料を撮影して画像を取得し、
前記撮影部の周囲に配置された励起光導光部材によって前記励起光を前記試料に照射するともに、前記撮影部の周囲に配置された蛍光導光部材によって、前記試料から放出された前記蛍光に基づく蛍光スペクトルを取得し、
前記励起光の波長を連続的に変化させつつ、前記画像の取得と前記蛍光スペクトルの取得を同時に行う、
観測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の観測方法であって、
連続的に変化させた前記励起光の励起波長と、前記蛍光の蛍光波長と、前記蛍光スペクトルの蛍光強度の三事象にて三次元蛍光スペクトルを取得する、
観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光光度計および当該蛍光光度計を用いた試料の観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光光度計は様々な試料に励起光を照射し、試料から発生する蛍光を測定することにより、試料に含まれる物質を分析する装置である。すなわち蛍光光度計では、試料に励起光を照射し、試料から放出された蛍光を分光し、励起スペクトル、蛍光スペクトル、時間変化、三次元蛍光スペクトルなどのスペクトルデータを取得する。励起光は光学系に応じた面積(一般的に1~2cm程度)に照射され、そのスポットで放出された蛍光を検出している。
【0003】
蛍光光度計においては、試料を試料室に設置して蛍光を照射するタイプのものに加え、光ファイバーのごとき導光部材を用いて、外部に配置された試料に励起光を導き、測定を行うタイプのものが存在する。このようなタイプの蛍光光度計によれば、試料室に入らないような大きなサイズの試料を装置の本体(試料室)の外部で測定することが可能となる。例えば、励起光を集光光学系で励起側ファイバーに導入し、外部に設置された試料に導く。試料から発生した蛍光は蛍光側ファイバーで受光し、集光光学系を経て蛍光側分光器に導かれ、検知器で検出される(非特許文献1)。
【0004】
一方で、特許文献1は、スペクトルイメージングの技術を応用し、蛍光指紋イメージング装置を開示している。一般的な蛍光光度計では励起光が照射されたスポットにおけるスペクトル情報を取得しているが、蛍光指紋イメージング装置は、蛍光の発光情報の面内の分布を画像として取得する。蛍光指紋イメージング装置は、光源(主に白色光源としてキセノンランプやハロゲンランプ)と励起側の分光器(主に光学フィルター)、観察を行うための光学系(対物レンズなど)、蛍光側の分光器(主に光学フィルター)から構成されている。分光器としては液晶チューナブルフィルターや音響光学素子フィルターなど、さまざまな波長の光を透過させる素子が市販されてきているが、励起光として有用な紫外域に対応することに着目する場合、バンドパスフィルタなどの光学フィルターが適していると記述されている。
【0005】
特許文献2は生体観察装置として、光源には分光していない白色光などを照明としてライトガイドを通じて試料に照射し、先端部に備えられた固体撮像素子にて試料の画像を取得する装置を開示している。更にRGBの撮像素子からの画像信号を基に試料の反射スペクトルを計算にて算出している。
【0006】
特許文献3は、各々の透過フィルターで波長選択した入射光を試料に照射し、蛍光検出画像を生成するとともに、それらの画像から光の強度分布を算出する蛍光内視鏡装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-98244号公報
【文献】特開2006-314557号公報
【文献】特許第5432793号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】下山進、野田裕子、「光ファイバーを用いる三次元蛍光スペクトルによる古代中国の染織物“錦”の色糸に使用された染料の同定」、分析化学、日本分析化学会、1997年、Vol.46、No.7、571-578頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、一般的な蛍光光度計では、励起光を照射した際の蛍光スペクトルや励起光の波長を変化させた際の蛍光強度を励起スペクトルとして取得している。この際、試料を設置する試料室は暗室にする必要があるため、励起光が照射された際の試料の蛍光の面内における発光分布や発光色、発光強度などの状態について確認することは困難である。
【0010】
非特許文献1の装置によれば、試料室に入らない大きな試料は、光ファイバーのごとき導光部材を用いて試料室の外で蛍光スペクトルおよび励起スペクトルを取得することは可能である。しかしながら、上述の蛍光光度計と同様に、励起光が照射された際の試料の蛍光の面内における発光分布や発光色、発光強度などの状態について確認するための具体的な方法は提示されていない。
【0011】
一方、特許文献1に開示の蛍光指紋イメージング装置は、蛍光の情報を面内の分布画像として取得する方法を実施するため、任意の励起光を照射した際の蛍光情報を画像として取得することが可能である。本装置では励起側においても蛍光側においても光学フィルターを用いる。励起側において白色光を光学フィルターにて分光するため、励起波長は光学フィルターの枚数に制限されてしまう。また、試料サイズは顕微鏡の試料ステージの大きさに制限される。さらに、蛍光側においても光学フィルターにて透過したCCDカメラからの強度情報のみが得られるため、蛍光波長は光学フィルターの枚数に制限されてしまう。この結果、励起波長と蛍光波長の組み合わせの数だけ光学フィルターが必要となり、その組み合わせ数の蛍光画像を取得する必要があるため、光学フィルターの交換作業などにより計測時間が長くなりがちである。よって、解析に必要な波長範囲を絞り込むなどの工夫が必要となり、得られる情報が限定される場合がある。
【0012】
特許文献2に開示の装置は、励起光に相当する照射光は任意の波長の光を照射することを目的としていない。また、画像信号から反射スペクトルを計算にて算出するにとどまり、蛍光スペクトルを観測した計測値として取得することは行っていない。特許文献3に開示の装置は、スペクトル取得用波長域の光の画像から光の強度分布を算出している。ここで算出される光の強度分布は蛍光のスペクトルも含まれるが、画像から算出しているため、データの分解能や波長間隔には制約が生じ得る。
【0013】
本発明は、試料のサイズにとらわれず、観測時間も短縮し得る蛍光光度計および観測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の蛍光光度計は、光源と、当該光源の光を分光して励起光を生成する励起側分光器と、前記励起光が照射された試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器と、を少なくとも備える光度計部と、前記光度計部の外部に存在する前記試料まで前記励起光を導くとともに、前記試料から放出された前記蛍光を前記光度計部まで導く導光部材と、を備える蛍光光度計であって、前記導光部材が、前記試料を撮影する撮影部と、前記撮影部の周囲に配置され、前記励起光を導いて前記試料に照射する励起光導光部材と、前記撮影部の周囲に配置され、前記試料から放出された前記蛍光を前記光度計部まで導く蛍光導光部材と、を備え、前記励起光導光部材および前記蛍光導光部材が、前記撮影部を取り囲むように存在する。
【0015】
本発明の蛍光光度計において例えば、前記撮影部は、前記試料に照射された前記励起光の反射光によって前記試料を撮影する。
【0016】
本発明の蛍光光度計において例えば、前記撮影部が、複数の光ファイバーを束ねて構成されるイメージファイバーであり、前記励起光導光部材および前記蛍光導光部材の各々が、複数の光ファイバーから構成され、当該複数の光ファイバーが、前記イメージファイバーの周囲においてリング状に配置されている。
【0017】
本発明の蛍光光度計において例えば、前記導光部材は、前記光度計部の筐体から突出した線状の光ファイバーユニットである。
【0018】
本発明の観測方法は、試料まで励起光を導くとともに、前記試料から放出された蛍光を導く導光部材を有する蛍光光度計を用いて、前記試料を観測する観測方法であって、前記導光部材の撮影部によって前記試料を撮影して画像を取得し、前記撮影部の周囲に配置された励起光導光部材によって前記励起光を前記試料に照射するともに、前記撮影部の周囲に配置された蛍光導光部材によって、前記試料から放出された前記蛍光に基づく蛍光スペクトルを取得し、前記励起光の波長を連続的に変化させつつ、前記画像の取得と前記蛍光スペクトルの取得を同時に行う。
【0019】
本発明の観測方法において例えば、連続的に変化させた前記励起光の励起波長と、前記蛍光の蛍光波長と、前記蛍光スペクトルの蛍光強度の三事象にて三次元蛍光スペクトルを取得する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、励起側分光器から単色光に分光された励起光を、励起光導光部材を通じて試料に導き、試料から発する光を蛍光導光部材にて蛍光側分光器に導き各々の波長の光を直接検知器で検出することによるスペクトルおよび画像の観察を、試料の同一対象領域で同時に取得することが可能となる。また、励起光導光部材と蛍光導光部材を備える導光部材を用いることにより、任意のサイズを持つ試料について、任意の対象領域のスペクトルおよび画像を取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明にかかる蛍光光度計の一実施形態の概略図。
図2】他の実施形態の蛍光光度計の概略図。
図3】蛍光光度計の要部の概略図。
図4】光ファイバーユニットの先端部の拡大図。
図5】光ファイバーユニットの先端部の周囲において測定の際に発生する光束を模式的に示す図。
図6】試料の画像およびスペクトルを示す図であって、(a)は白色光の照射時の画像、(b)は白色光の照射時の反射スペクトル、(c)は任意の波長の単色光の照射時の画像、(d)は当該単色光照射時の蛍光スペクトル。
図7】三次元蛍光スペクトルと画像のデータ例を示す図。
図8】加熱装置の概略図。
図9】他の加熱装置の概略図。
図10】ガス置換チャンバーの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて、本発明に係る蛍光光度計の具体的な実施の形態について詳述する。図1図2は、本発明が適用される蛍光光度計の実施の形態を示す。
【0023】
図1の蛍光光度計1は、試料に励起光を照射して、試料から放出された蛍光を測定する装置であり、光度計部10と、光度計部10をコントロールし試料を分析するデータ処理部30と、入出力を行う操作部40とを備える。
【0024】
光度計部10は、連続光を放出する光源11と、光源11の光を分光して励起光を生成する励起側分光器12と、励起光が照射された試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器15と、単色の蛍光の電気信号を検知する検知器(蛍光検知器)16と、測定対象の試料Sを収容して保持する角形セルのごとき試料容器50と、を備えている。試料容器50は、外部から遮蔽され、試料室外部からの余計な光を遮断する試料室17の内部に配置されている。励起側分光器12からの励起光は、試料室17の仕切壁に設けられ、所定のレンズを備えた励起光出射口17aを通過して試料Sに到達し、試料Sから蛍光が発生する。発生した蛍光は、試料室17の仕切壁に設けられ、所定のレンズを備えた蛍光取込口17bを通過して蛍光側分光器15に到達する。
【0025】
データ処理部30はコンピュータであり、処理部や、試料からの蛍光をデジタル変換するA/D変換器等を備える。また、操作部40は、操作者が、データ処理部30の処理に必要な入力信号を入力する操作パネル等を備える。操作部40は、データ処理部30より処理された各種分析結果や操作用画面等を表示する表示装置が設けられてもよい。
【0026】
操作者が操作部40により入力した測定条件に応じて、データ処理部30が信号を出力し、励起側分光器12が目的の波長位置に設定される。また、同じく測定条件に応じて、データ処理部30が信号を出力し、蛍光側分光器15が目的の波長位置に設定される。励起側分光器12、蛍光側分光器15は、所定のスリット幅を持つ回折格子やプリズムなどの光学素子を有しており、図示せぬパルスモータを動力とし、ギヤやカム等の駆動系部品を介して光学素子を回転運動させることでスペクトル走査が可能となる。すなわち、励起側分光器12および蛍光側分光器15は、取得した光を任意の単色光に連続的に分光可能であり、蛍光光度計1は、断続的にではなく連続的に波長を変化させつつ、スペクトルを取得することが可能である。
【0027】
図1の蛍光光度計1は、専ら試料Sが液体試料である場合に適用され、液体試料を例えば10mmの角形セルである試料容器50に分注して試料室17に設置する。その際、励起光を照射し、励起光に対して90度方向の側方に生じる蛍光を測定する。この時10mm角形セルの中央部からの蛍光を観測している。
【0028】
図2の蛍光光度計1は、専ら試料Sが固体試料である場合に適用される。試料Sは、固体試料ホルダー51に設置される。励起側分光器12から試料の表面に励起光が照射され、そこから放出された蛍光を蛍光側分光器15に取り込み、単色光に分光され、検知器16にて光を検出する。固体試料を測定する場合、固体試料ホルダー51に設置された試料Sの表面に励起光を照射し、その面から放出する蛍光を検出する表面測光という手法が用いられる。この時、一般的には励起光と蛍光は90度の位置関係の光学系を構成している。固体試料の他の測定例として、積分球に試料Sを設置して行う手法も存在する。
【0029】
図3は、本発明が適用される蛍光光度計1の要部を示し、図1図2のいずれの蛍光光度計1にも適用される。図1図2の蛍光光度計1では、光度計部10の試料室17に試料Sを設置する必要があり、測定可能な試料Sのサイズが限定される。一方、図3の構成を採用した蛍光光度計1では、試料室17の内部に試料Sが配置されず、測定対象である試料Sは光度計部10の外部に存在する。このため、試料室17の内部に配置不可能な大きなサイズの試料も測定が可能となる。本例の蛍光光度計1は、光度計部10の筐体の外面から突出するとともに光度計部10からの励起光を試料Sに導き、試料Sから放出された蛍光を光度計部10に導くことが可能な導光部材である線状の光ファイバーユニット60を備える。本実施形態では光ファイバーユニット60は、試料Sの表面に固定冶具70によって固定されているが、固定冶具70は必須ではなく、例えば操作者の手や所定のロボット等により光ファイバーユニット60を把持した状態で、試料Sの表面を滑らせながら測定することも可能である。光ファイバーユニット60は線状であって柔軟性も有しており、操作性がよい。
【0030】
光ファイバーユニット60は、励起側ファイバー61と、蛍光側ファイバー62と、イメージファイバー63とを備えている。励起側ファイバー61は、励起光出射口17aを通過した励起光を光ファイバーユニット60の先端部に位置する出射部まで導き、出射部から励起光を試料Sに照射する励起光導光部材として機能する。励起光の照射により試料Sから発生した蛍光は、蛍光側ファイバー62の取込部に取り込まれる。蛍光側ファイバー62は、取り込んだ蛍光を蛍光取込口17bに導く蛍光導光部材として機能し、蛍光取込口17bを通過した蛍光が蛍光側分光器15に到達する。
【0031】
イメージファイバー63は、出射部から照射された励起光の反射光を取り込んで試料Sを撮影する撮影部として機能し、光度計部10に設けられたカメラユニット80の画像センサーが試料の画像を生成する。カメラユニット80により生成された画像はデータ処理部30に送信され、データ処理部30は、操作部40の表示装置に画像を表示する。
【0032】
図4は、光ファイバーユニット60の先端部を拡大して示す。光ファイバーユニット60の断面における中心部にイメージファイバー63が配置され、イメージファイバー63の外側に励起側ファイバー61と蛍光側ファイバー62が束ねられた状態で配置されている。イメージファイバー63は複数本のファイバーが束ねられて1本のユニットとなるバンドルファイバーを用いることが可能である。また、イメージファイバー63の先端には、図示せぬ対物レンズと、試料Sに対する焦点を調整する機構を設けることが可能である。試料Sの大きさ、測定する対象領域の大きさ、必要な倍率等の要因に応じて対物レンズを変更してもよい。
【0033】
同様に外周部の励起側ファイバー61も複数本のファイバーから構成され、例えばイメージファイバー63を取り囲むようにリング状に配置される。蛍光側ファイバー62も同じく複数本のファイバーから構成され、イメージファイバーを取り囲むようにリング状に配置される。励起側ファイバー61と蛍光側ファイバー62は、互いの存在に偏りが無きよう、イメージファイバー63を取り囲むリング領域内において、ランダムまたは周期的に配置され、イメージファイバー63の周囲に均一的に励起側ファイバー61と蛍光側ファイバー62が存在することが好ましい。本例では、イメージファイバー63を構成する複数の光ファイバーが束ねられ、その周りにそれぞれ複数の光ファイバーから構成される励起側ファイバー61と蛍光側ファイバー62が束ねられ、外周カバーがかぶせられて光ファイバーユニット60が形成される。
【0034】
図5は、光ファイバーユニット60の先端部の周囲において、測定の際に発生する光束を模式的に示している。励起側ファイバー61からの励起光である照射光L1が試料Sに照射され、試料Sから反射光および蛍光が放出される。蛍光側ファイバー62には蛍光スペクトル測定のための蛍光である観測光L2が取り込まれ、イメージファイバー63には画像を撮影する反射光L3が取り込まれる。
【0035】
励起光導光部材である励起側ファイバー61および蛍光導光部材である蛍光側ファイバー62が、撮影部であるイメージファイバー63を取り囲むように存在する。すなわち、励起側ファイバー61がイメージファイバー63の外側を均一的に取り囲む配置とすることで、試料Sの対象領域S1の面に対し均一的に励起光を照射するとともに均一的な反射光を得ることが可能となり、照明ムラの影響が少ない試料Sの画像を得ることが可能となる。また、蛍光側ファイバー62がイメージファイバー63の外側を均一的に取り囲む配置とすることで、試料Sからの蛍光を効率的に取り込むことも可能となる。なお、「均一的」とは、完璧に均一である必要はなく、測定に支障が出ない程度に試料の画像に照明ムラが少なく、満遍なく蛍光を取得することができればよい。
【0036】
本構成を用いることで、同一対象領域S1について、照明、スペクトル観測、カメラ撮影を同時に実施することができる。ただし試料Sから反射する反射光は、励起光の反射光のみならず、自然光が試料Sから反射して得られる反射光、または図示せぬ光源から試料Sに照射して得られる反射光であってもよい。この場合、観測対象は反射光および蛍光になり、周辺環境からの自然光や別光源からの照明により生じる蛍光も観測される。
【0037】
図6は、試料Sについて取得した画像および反射スペクトル並びに蛍光スペクトルの一例を示す。図6の蛍光スペクトルの特性図において、横軸は蛍光波長EM(nm)を表している。励起側分光器12から照射される光をいわゆる0次光(励起波長EX=0nm)とすることで、分光されていない白色光を試料Sに照射することができる。図6(a)に示すように、白色光の照射時に画像を撮影することにより、白色光の反射光に基づく画像を取得することができる。また、励起側分光器12を0次光に固定し、別途用意した標準試料である白色試料の各波長の光量の分布を蛍光側分光器15で検出し、この強度を基準(1.0)に設定する。そして、試料Sからの反射による各波長の光量の分布を、白色試料の光量の分布との比率に換算することで、図6(b)に示す反射スペクトルを得ることができる。白色光照射時には、試料Sの同一対象領域S1について画像と反射スペクトルの取得が可能である。
【0038】
一方、試料Sに任意の波長の単色光(図6(c)、(d)では450nm、励起波長EX=450nm)を照射するように励起側分光器12を調整し、試料Sから放出された蛍光を測定し、単色光に対応した各波長の蛍光の強度分布を検出することで、図6(d)に示す蛍光スペクトルを得ることができる。この時、イメージファイバー63によって蛍光の観測と同時に撮影された試料Sの画像(図6(c))は、蛍光の画像となる。つまり、単色光照射時には、試料Sの同一対象領域S1について蛍光の画像と蛍光スペクトルの取得が可能である。
【0039】
本発明の蛍光光度計1を用いて試料を観測する観測方法によれば、励起側分光器12で励起光の波長を連続的に変化させつつ、試料の画像の取得と蛍光スペクトルの取得を同時に行うことが可能となる。すなわち、励起光が断続せず、連続して励起光を変化させつつ、試料を直接撮影した画像をも取得できるため、精緻な観測を行うことができる。また、励起光の波長を変えるフィルターの交換をする必要がなく、さらには画像の取得と蛍光スペクトルの取得を同時に行うことができるため、観測時間を短縮することが可能となる。ここで「同時」は、時間的に厳密に同一タイミングである必要はなく、画像の取得と蛍光スペクトルの取得の間に特別な操作、ステップが必要ではなく、実質的に同一に行うことができる意味である。
【0040】
図7は、励起側分光器12で励起波長を連続的に変化させた際の蛍光スペクトルと画像を取得した例について示す。図7の三次元蛍光スペクトルの特性図において、縦軸は励起波長EX(nm)を、横軸は蛍光波長EM(nm)を表している。蛍光光度計1は、光源11からの光を連続的に分光させることが可能な構造を有するため、光ファイバーユニット60にて試料Sの任意の対象領域に対し、任意の励起波長の光を照射した際の画像の取得と蛍光スペクトルを同時に取得することが可能である。この時、励起波長を連続的に変化させた際の蛍光スペクトルを励起波長・蛍光波長・蛍光強度の三事象にて等高線図を描くことで、図7の三次元蛍光スペクトルを得ることが可能である。つまり、励起波長を連続的に変化させた際の試料の画像、励起波長を変化させた際の試料の蛍光スペクトルを取得する際、本実施形態では光ファイバーユニット60を用いているため、任意の対象領域の測定を容易に行うことができる。
【0041】
図8から図10は、上述した光ファイバーユニット60の応用例である。図8は、試料を加熱しながら観測を行う加熱装置100を示す。加熱装置100は、加熱炉本体101と、加熱炉本体101の内部の空間に配置されたヒーター102と、ヒーター102に設置され、試料Sを載置する試料容器103と、加熱炉本体101の上部に設けられ、光を透過可能な窓104とを備える。ヒーター102は、試料容器103を介して試料Sを加熱する。窓104の上には、固定冶具70によって光ファイバーユニット60が取り付けられ、窓104を介して光ファイバーユニット60により、試料Sの画像を取得するとともに、スペクトル測定を行うことが可能である。
【0042】
窓104は、光を透過するが加熱炉本体101からの輻射熱を抑制することができるため、光ファイバーユニット60を熱から保護することができる。窓104は輻射熱を抑制しつつ、加熱炉本体101の試料Sを観察するため、熱耐性と使用する波長範囲で透過率が高い(目安として透過率80%以上)材料により構成することが望ましい。例えば、合成石英が適当な材料である。また、輻射熱を抑制するため、窓104赤外線を反射するコーティングがされていてもよい。コーティングは使用する波長域で透過性が確保されている必要がある(目安として透過率80%以上)。波長毎に窓104の透過率が異なる場合、透過率の影響で励起スペクトルや蛍光スペクトルの形状が変化するので、透過スペクトルにて補正をしてもよい。また、取得した画像についても、波長毎に窓104の透過率が異なる場合、画像の色味に影響することがあるので、透過スペクトルを用いてRGBの輝度値を補正してもよい。
【0043】
図9は加熱装置100の他の例を示す。本例では、窓104と光ファイバーユニット60との間にミラー105を設け、ミラー105を介して観測を行うことにより、加熱炉本体101からの輻射熱をさらに低減し、熱による光ファイバーユニット60の損傷の可能性をさらに抑制することが可能である。ミラー105は励起光の照明、スペクトル観測、画像撮影のため、アルミニウムなど鏡面で高い反射率を有する材料により構成することが望ましい(目安として反射率80%以上)。ミラー105は平面でもよいし、焦点を有する球面構造を有してもよい。また、輻射熱の影響をさらに低減するために、窓104とミラー105の間に輻射熱を遮るガイドを設けても良い。図8の装置と同様に、窓104に赤外線を遮へいするコーティングを施してもよく、ミラー105をハーフミラーとして、赤外線を透過し、観測に用いる紫外線、可視光線等を反射する光学特性を施してもよい。
【0044】
図10はガス置換チャンバー110を示す。ガス置換チャンバー110は、チャンバー本体111と、チャンバー本体111の内部の空間に配置され、試料Sを載置する試料容器113と、チャンバー本体111の上部に光ファイバーユニット60を取り付けるチャンバー用アダプター115とを備える。ガス置換チャンバー110により、真空や窒素雰囲気など、所望の雰囲気を維持した状態での試料Sの観測が可能となる。チャンバー用アダプター115の底部には、ガス置換チャンバー110と外部を遮断する目的で光を透過する窓114を設けている。窓114はチャンバー本体111の内部の雰囲気を保持し、かつ、試料Sを観察する目的で使用されるため、剛性があり、使用する波長範囲で透過率が高い(目安として透過率80%以上)材料により構成することが望ましい。例えば、合成石英が適当な材料である。
【0045】
本発明によれば、蛍光光度計に光照射、スペクトルの検出、画像取得検出のための光ファイバーユニットを設け、励起側分光器で任意の波長の光を試料に照射し、試料から発する光を蛍光側分光器にて蛍光スペクトルを取得しつつ、試料の画像を取得する。光ファイバーユニットの利用により、光源、励起側分光器、蛍光側分光器などが設けられた光度計部の外側の試料の観察が可能となり、試料のサイズにとらわれず測定が可能となる。さらにスペクトルと画像の取得を同時に行うことが可能となり、観測時間を短縮することが可能である。
【0046】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0047】
導光部材は、光ファイバーの他に、液体ライトガイドなど、他の導光手段も用いることができる。例えば、中心部のイメージファイバーには、複数の光ファイバーを束ねて構成されるイメージファイバーを使用し、励起光導光部材および蛍光導光部材の各々に液体ライトガイドを用いる構成などでもよい。この場合、イメージファイバーの周囲においてリング状に液体ライトガイドによる励起光導光部材および蛍光導光部材が配置される。
【符号の説明】
【0048】
1 蛍光光度計
10 光度計部
11 光源
12 励起側分光器
15 蛍光側分光器
16 検知器
17 試料室
50 試料容器
60 光ファイバーユニット(導光部材)
61 励起側ファイバー(励起光導光部材)
62 蛍光側ファイバー(蛍光導光部材)
63 イメージファイバー(撮影部)
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10