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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20221220BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20221220BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20221220BHJP
   C08F 8/48 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08L33/12
C08K3/105
C08F220/14
C08F8/48
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018142215
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020019832
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 亮輔
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506683(JP,A)
【文献】特開2014-136719(JP,A)
【文献】特開2017-155184(JP,A)
【文献】特開2017-125185(JP,A)
【文献】特開2014-84340(JP,A)
【文献】特開平9-48818(JP,A)
【文献】特開2010-126550(JP,A)
【文献】特開2008-138025(JP,A)
【文献】特開2017-61601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無水グルタル酸構造単位と前記無水グルタル酸構造単位以外の単量体単位との合計に対して0.02mol%以上4.1mol%以下の前記無水グルタル酸構造単位を有する重合体、及び、
(B)重合体組成物全体に対して、総量で0.1質量ppm以上2質量ppm以下のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、を含み、
前記重合体は、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸、アクリル酸メチル、及び、芳香族ビニルからなる群より選択される2つ以上の単量体を重合させてなる重合体である、
重合体組成物。
【請求項2】
前記重合体において、前記無水グルタル酸構造単位以外の単量体単位は、メタクリル酸に由来する単量体単位、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位、アクリル酸に由来する単量体単位及びアクリル酸メチルに由来する単量体単位の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
前記重合体は、メタクリル酸を重合させてなる重合体、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸メチルを重合させてなる重合体である、請求項1または2に記載の重合体組成物。
【請求項4】
前記無水グルタル酸構造単位以外の単量体単位は、前記無水グルタル酸構造単位と前記無水グルタル酸構造単位以外の単量体単位との合計に対して、メタクリル酸に由来する単量体単位を1mol%以上26mol%以下含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の重合体組成物。
【請求項5】
前記重合体組成物は、230℃、3.8kg荷重でのMFR値が、1以上7以下の範囲である、請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重合体組成物を含む、成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の成形体を含む、光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、又はメタクリル酸メチル-スチレン共重合体等の重合体は、その透明性、機械的性質及び成形加工性等の優れた特性から、車両用部材、電気関係部材又は工業部材等の広い分野で使用されている。
【0003】
特許文献1には、メタクリル酸及び/又はアクリル酸単位を含むビニル単量体単位からなる共重合体を熱処理して閉環させることにより6員環酸無水物単位を有する共重合体を製造し、製造するに際し共重合体中に次亜リン酸塩を0.001~0.5質量%存在させる共重合体の製造方法が記載されている。この製造方法では、共重合体中でメタクリル酸及び/又はアクリル酸を6員環酸無水物単位へと極めて高い閉環率で転換することによって、メタクリル酸及び/又はアクリル酸の存在による共重合体の吸水性上昇の問題を解決すると共に、次亜リン酸塩を0.001~0.5質量%存在させることによって、着色の少ない無色透明な共重合体が製造できるとされている。具体的には、実施例において、共重合体を樹脂温度280℃又は290℃で閉環造粒を行うことによって、95重量%以上の閉環率(%)(生成した酸無水物重量(g)/仕込みメタクリル酸量(g)×100)で転換された共重合体が製造される旨について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-48818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用等のテールランプ又はヘッドランプは、従来まで、主にハロゲンランプが用いられていた。そのため、光学レンズ等の光学部材の原材料には高耐熱性が必要とされ、一般的に無機ガラスが使用されていた。しかし、近年では、ランプの光源として、従来のハロゲンランプに代えてLEDランプが使用されている。LEDランプが光源として使用される場合、光学レンズ等の光学部材には無機ガラスが有する程の耐熱性は必要とされない。そのため、前述した特許文献1に記載されているような重合体が光学レンズ等の光学部材の原材料として用いられ、それに伴い光学レンズを備えるランプユニット等の軽量化が可能となった。
【0006】
しかしながら、今後、車両用等のランプの光源としてより高輝度のLEDランプが使用されることが想定される。また、LEDランプが高輝度になることにより、前述した光源の光学レンズ等は従来以上の高温高湿度環境での耐湿熱白化性が求められることが想定される。本発明者は、このような光源の光学レンズ等の光学部材の原材料として例えば前述した特許文献1に記載の重合体を用いた場合、耐湿熱白化性について十分に適した性能が発揮されないという事を見出した。
【0007】
更に、本発明者は、特許文献1に記載の共重合体の製造方法について、いくら着色が少なく透明な共重合体が製造できるとは言っても、共重合体中における6員環酸無水物単位の含有量が適切な所定の範囲内の量に調整されていなければ、成形体の黄色度が適切に抑えられず、特に光学レンズ等の光学部材に好適に利用され得ないという課題を見出した。
【0008】
本発明は、優れた耐湿熱白化性を有し且つ黄色度が抑えられて成形され得る重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の要旨によれば、(A)環構造単位と前記環構造単位以外の単量体単位との合計に対して0.01mol%以上10mol%以下の前記環構造単位を有する重合体、及び、
(B)重合体組成物全体に対して0.1質量ppm以上2質量ppm以下のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、を含む、
重合体組成物が提供される。
【0010】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記環構造単位は、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位及びラクトン構造単位からなる群から選択される1以上であり得る。
【0011】
本発明の上記態様において、前記環構造単位は、無水グルタル酸構造単位であり得る。
【0012】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記重合体において、前記環構造単位以外の単量体単位は、メタクリル酸に由来する単量体単位、メタクリル酸エステルに由来する単量体単位、アクリル酸に由来する単量体単位及びアクリル酸エステルに由来する単量体単位の少なくとも1つを含み得る。
【0013】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記重合体は、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、アクリル酸エステル、芳香族ビニル、置換又は非置換の無水マレイン酸、及び、置換又は非置換のマレイミドからなる群より選択される2つ以上の単量体を重合させてなる重合体であり得る。
【0014】
本発明の上記態様において、前記重合体は、メタクリル酸を重合させてなる重合体、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを重合させてなる重合体であり得る。
【0015】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記環構造単位以外の単量体単位は、前記環構造単位と前記環構造単位以外の単量体単位との合計に対して、メタクリル酸に由来する単量体単位を1mol%以上26mol%以下含み得る。
【0016】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記重合体は、前記環構造単位と前記環構造単位以外の単量体単位との合計に対して、0.02mol%以上5mol%以下の前記環構造単位を有し得る。
【0017】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記重合体組成物は、230℃、3.8kg荷重でのMFR値が、1以上7以下の範囲であり得る。
【0018】
本発明の第2の要旨によれば、本発明の第1の要旨の重合体組成物を含む、成形体が提供される。
【0019】
本発明の第3の要旨によれば、本発明の第2の要旨の成形体を含む、光学部材が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重合体組成物は、優れた耐湿熱白化性を有し且つ黄色度が抑えられて成形され得る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
【0022】
<重合体組成物>
本発明の実施形態において、重合体組成物は、
(A)環構造単位と環構造単位以外の単量体単位との合計に対して0.01mol%以上10mol%以下の環構造単位を有する重合体、及び、
(B)重合体組成物全体に対して0.1質量ppm以上2質量ppm以下のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、を含む。
以下、本実施形態に係る重合体組成物の各要素及び特性等について詳細に説明する。
【0023】
(A)の重合体は、主鎖に環構造単位を有する構造となっており、重合可能なビニル系単量体である2以上の単量体を原料とするものである。「主鎖」とは、2以上の単量体が重合することにより形成されたビニル基由来の炭素鎖である。「単量体」は重合前の原料の状態を指し、「単量体単位」は重合後において連結されている単位毎の状態を指す。「主鎖に環構造単位を有する」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの少なくとも2個が環構造を形成する原子群の一部となり、その結果、主鎖の中に環構造単位が組み込まれていることを意味する。即ち、(A)の重合体は、1以上の「環構造単位」と1以上の「環構造単位以外の単量体単位」とを有する。
【0024】
(A)重合体
(環構造単位(a))
重合体の環構造単位(a)は、2つの単量体が重合する際に又は重合した後に閉環して形成され得る環構造単位、又は、環を有している1つの単量体が重合することにより主鎖に環が組み入れられた環構造単位のいずれであっても構わない。
【0025】
環構造単位(a)は、環構造単位(a)と環構造単位(a)以外の単量体単位との合計に対して、0.01mol%以上10mol%以下の割合で重合体に含有されている。環構造単位(a)は、該合計に対して、好ましくは0.02mol%以上9mol%以下、より好ましくは0.02mol%以上8mol%以下、更に好ましくは0.02mol%以上5mol%以下、より更に好ましくは0.02mol%以上4.1mol%以下、また更に好ましくは0.02mol%以上3mol%未満、より更に好ましくは0.02mol%以上2.5mol%以下、また更に好ましくは0.02mol%以上0.16mol%以下の割合で重合体に含有されている。本明細書において、重合体が含有する環構造単位(a)の割合(mol%)は、13C-NMR法によって各種環構造単位に応じたピーク範囲におけるピークの積分値を求めることによって算出される数値、又は、含まれる環の構造に応じて13C-NMR法と更に補助的にH-NMR法及び/若しくはIR法も用いて算出される数値とする。環構造単位(a)の含有量を0.01mol%以上とすることにより、共重合体の耐熱性が優れる。一方、環構造単位(a)の含有量を10mol%以下とすることにより、重合体組成物の成形体の黄色度が抑えられる。特に、環構造単位(a)の含有量が10mol%を超えてしまうと、成形体の黄色度が大きく顕著に増してしまう。このように環構造単位(a)の含有量を適切な所定の範囲内の量に調整することによって、その成形体の黄色度を抑制することができ、光学レンズ等の光学部材に好適に用いられる。重合体における環構造単位(a)の含有量(mol%)は、後述する単量体の種類及び割合(mol%又は質量%)並びに重合方法を考慮することによって、当業者であれば適宜調整することが可能である。
【0026】
環構造単位(a)は、重合体の主鎖の一部として組み入れられる環構造単位であれば特に限定されないが、特に、6員環の環構造単位又は5員環の環構造単位が好ましい。
【0027】
環構造単位(a)は、例えば、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位及びラクトン構造単位からなる群から選択される1以上とすることができる。特に、無水グルタル酸構造単位とすることができる。以下、それぞれの環構造単位について説明する。
【0028】
・無水グルタル酸構造単位(a-1)
以下の式(1)に、無水グルタル酸構造単位を示す。
【化1】
[式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0029】
無水グルタル酸構造単位(a-1)は、例えば、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、メタクリル酸又はアクリル酸とから得られる重合体を、重合工程の際に又は重合工程後に環化縮合させることにより形成することができる。特に、メタクリル酸、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを環化縮合させることにより形成することができる。
【0030】
・無水マレイン酸構造単位(a-2)
以下の式(2)に、無水マレイン酸構造単位を示す。
【化2】
[式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が6以上20以下の置換又は非置換のアリール基、又は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基又はアリール基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0031】
無水マレイン酸構造単位(a-2)は、置換又は非置換の無水マレイン酸を重合工程において共重合させることにより形成することができる。置換又は非置換の無水マレイン酸としては例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸等が挙げられる。これらの置換基を有していてもよい無水マレイン酸のうち、共重合が容易なことから、無水マレイン酸が好ましい。
【0032】
・マレイミド構造単位(a-3)
以下の式(3)に、マレイミド構造単位を示す。
【化3】
[式(3)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
は、水素原子、又は、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0033】
好ましくは、上記式(3)は次の通りである。
[式(3)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
は、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0034】
マレイミド構造単位(a-3)は、例えば特定の単量体を重合工程において共重合させることにより形成することができる。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-エチルフェニルマレイミド、N-ブチルフェニルマレイミド、N-ジメチルフェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-(o-クロロフェニル)マレイミド、N-(m-クロロフェニル)マレイミド、N-(p-クロロフェニル)マレイミド等のN-アリール基置換マレイミドが挙げられる。
【0035】
・グルタルイミド構造単位(a-4)
以下の式(4)に、グルタルイミド構造単位を示す。
【化4】
[式(4)中、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
12は、水素原子、又は、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0036】
好ましくは、上記式(4)は次の通りである。
[式(4)中、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
12は、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0037】
グルタルイミド構造単位(a-4)は、例えば、メタクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸を共重合させた後、高温下でアンモニア、アミン又は尿素を反応させる方法、又はポリメタクリル酸無水物とアンモニア又はアミンとを反応させる方法等の公知の方法によって得ることができる。
【0038】
・ラクトン構造単位(a-5)
以下の式(5)に、ラクトン構造単位を示す。
【化5】
[式(5)中、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
16は、水素原子、又は、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0039】
好ましくは、上記式(5)は次の通りである。
[式(5)中、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
16は、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0040】
ラクトン構造単位(a-5)を重合体中に導入する方法は、特に限定はされない。ラクトン構造は、例えば、置換基としてヒドロキシ基を有するアクリル酸又はアクリル酸エステルと、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルとを共重合して、分子鎖にヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシ基との間で、脱アルコール又は脱水縮合を生じさせることにより形成することができる。
【0041】
重合に用いるヒドロキシ基を有するアクリル酸又はアクリル酸エステルとしては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキルが挙げられる。好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸又は2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルである。2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルとしては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル等が挙げられる。これらのうち、特に好ましくは、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル又は2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルである。
【0042】
(単量体(b))
(A)の重合体の原料である単量体(b)は、重合可能なビニル系単量体であれば限定されない。但し、単量体(b)の一部において、単量体(b)同士で閉環して前述の環構造単位(a)を形成し得るもの又は単量体(b)の時点で環構造を有しておりそのまま前述の環構造単位(a)となって重合し得るものを含む。このような環構造単位(a)となり得る単量体(b)は、最終的に形成される重合体の環構造単位(a)を前述した所定の範囲内で含有するように、原料の単量体(b)に含まれる。環構造単位(a)とならない単量体(b)は、そのまま重合体中において環構造単位以外の単量体単位として存在する。
【0043】
例えば、単量体(b)は、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、アクリル酸エステル、芳香族ビニル、置換又は非置換の無水マレイン酸、及び、置換又は非置換のマレイミドからなる群より選択される2つ以上を含むことができる。単量体(b)は、単一の種類であっても複数の種類であってもよい。特に、単量体(b)は、メタクリル酸、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを含むことができる。
【0044】
メタクリル酸エステルは、以下の式(6)に示される単量体である。
【化6】
[式(6)中、R17はメチル基を表し、
18は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0045】
上記式(6)に示すメタクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(t-ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。メタクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
アクリル酸エステルは、以下の式(7)に示される単量体である。
【化7】
[式(7)中、R19は水素原子を表し、
20は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0047】
上記式(7)に示すアクリル酸エステルは、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。アクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
芳香族ビニルは、以下の式(8)に示される単量体である。
【化8】
[式(8)中、R21は、水素原子、又は、炭素数が1以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
nは、0以上5以下の整数を表し、
22は、水素原子、又は、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
22は全て同じ基であっても、異なる基であってもよく、
22同士で環構造を形成してもよく、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0049】
好ましくは、上記式(8)は次の通りである。
[式(8)中、R21は、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
nは、0以上5以下の整数を表し、
22は、水素原子、又は、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
22は全て同じ基であっても、異なる基であってもよく、
22同士で環構造を形成してもよく、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0050】
上記式(8)に示す芳香族ビニルは、特に限定されるものではないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等が挙げられる。芳香族ビニルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
特に限定されるものではないが、前述したような単量体(b)から得られる重合体のうち、例えば、以下のような環構造単位(a)を有する構造単位を重合体の一部において含むものが挙げられる。なお、式中nは整数を表す。
【0052】
例えば、単量体(b)としてメタクリル酸メチル、メタクリル酸及びスチレンを用いることによって、以下のような無水グルタル酸構造単位(a-1)を有する構造単位(式(9))が形成される。
【化9】
【0053】
更に、単量体(b)としてメタクリル酸メチル及びメタクリル酸を用いることによって、以下のような無水グルタル酸構造単位(a-1)を有する構造単位(式(10))が形成される。
【化10】
【0054】
例えば、単量体(b)としてメタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン及びα-メチルスチレンを用いることによって、以下のような無水マレイン酸構造単位(a-2)を有する構造単位(式(11))が形成される。
【化11】
【0055】
例えば、単量体(b)としてメタクリル酸メチル、N-シクロヘキシルマレイミド及びスチレンを用いることによって、以下のようなマレイミド構造単位(a-3)を有する構造単位(式(12))が形成される。
【化12】
【0056】
例えば、単量体(b)としてメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル及び2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを用いることによって、以下のようなラクトン構造単位(a-5)を有する構造単位(式(13))が形成される。
【化13】
【0057】
環構造単位(a)と環構造単位(a)以外の単量体単位との合計に対する環構造単位(a)以外の単量体単位の割合は、100mol%から重合体中に含まれる前述の環構造単位(a)のmol%を差し引いた割合(mol%)となる。重合体中に複数の環構造単位(a)以外の単量体単位を含む場合、前述した13C-NMR法等により各々の環構造単位(a)以外の単量体単位に応じたピーク範囲におけるピークの積分値を求めることによって(詳細には必要に応じて補助的なH-NMR法及びIR法も用いて数値を算出することによって)、各々の環構造単位(a)以外の単量体単位の割合(mol%)を求めることができる。
【0058】
例えば、環構造単位(a)以外の単量体単位は、メタクリル酸に由来する単量体単位(式(14))、メタクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(15))、アクリル酸に由来する単量体単位(式(16))、アクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(17))及び芳香族ビニルに由来する単量体単位(式(18))からなる群から選択される少なくとも1つを含む。特に、環構造単位(a)以外の単量体単位は、メタクリル酸に由来する単量体単位(式(14))、メタクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(15))、アクリル酸に由来する単量体単位(式(16))及びアクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(17))の少なくとも1つを含み得る。式(15)におけるR18は前述の式(6)のR18と同様であり、式(17)におけるR20は前述の式(7)のR20と同様であり、式(18)におけるR21及びR22は前述の式(8)のR21及びR22と同様である。
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0059】
例えば、メタクリル酸(若しくはアクリル酸)、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステル(アクリル酸及びアクリル酸エステル)が、原料として単量体(b)の一部又は全部として用いられる場合、その重合体における環構造単位(a)以外の単量体単位は、メタクリル酸に由来する単量体単位(若しくはアクリル酸に由来する単量体単位)、又は、メタクリル酸に由来する単量体単位及びメタクリル酸エステルに由来する単量体単位(若しくはアクリル酸に由来する単量体単位及びアクリル酸エステルに由来する単量体単位)を含み得る。メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルは、好ましくはメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチルである。かかる場合、これらの環構造単位(a)以外の単量体単位は、環構造単位(a)と環構造単位(a)以外の単量体単位との合計に対して、メタクリル酸エステルに由来する単量体単位(又はアクリル酸エステルに由来する単量体単位)を60mol%以上98.99mol%以下、好ましくは74.64mol%以上98.98mol%以下含み得る。更に、同合計に対して、メタクリル酸に由来する単量体単位(又はアクリル酸に由来する単量体単位)を1mol%以上30mol%以下、好ましくは1mol%以上26mol%以下、より好ましくは6mol%以上26mol%以下、更に好ましくは7.48mol%以上25.2mol%以下、より更に好ましくは10mol%以上25.2mol%以下含み得る。更に、同合計に対して、メタクリル酸エステルとメタクリル酸と(又はアクリル酸エステルとアクリル酸と)が環化縮合したグルタル酸無水物を0.01mol%以上10mol%以下、好ましくは0.02mol%以上9mol%以下、より好ましくは0.02mol%以上8mol%以下、更に好ましくは0.02mol%以上5mol%以下、より更に好ましくは0.02mol%以上4.1mol%以下、また更に好ましくは0.02mol%以上3mol%未満、より更に好ましくは0.02mol%以上2.5mol%以下、また更に好ましくは0.02mol%以上0.16mol%以下含み得る。メタクリル酸エステル(又はアクリル酸エステル)と比較して、メタクリル酸に由来する単量体単位(又はアクリル酸に由来する単量体単位)をかかる所定の低い範囲内の割合(mol%)で含ませることによって、重合体組成物が光学レンズ等の光学部材の原材料として利用される際に、そのガラス転移温度(Tmg)及び吸水率を好適な数値とすることができる。更に、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル(特にメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチル)に由来する単量体単位を多く含むことによって、重合体の耐候性や光学特性を高めることができる。単量体(b)がその他の化合物である場合でも、当業者であれば各単量体(b)の種類及びその特性を考慮し且つそれらの含有割合(mol%又は質量%)を適宜調整することによって、重合体組成物について所望するガラス転移温度(Tmg)及び吸水率とすることは可能である。
【0060】
(B)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属
重合体組成物に含まれ得るアルカリ金属は、周期表の1族に属する元素のうち水素を除いたものであり、具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs及びFrである。本実施形態の重合体組成物に含まれるアルカリ土類金属は、周期表の2族に属する元素であり、具体的には、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaである。これらのうち、Na、K及びCaからなる群から選択される1種又は2種以上の元素、特にNaとすることができる。上記重合体組成物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のみを含んでいてもよく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の両方を含んでいてもよい。
【0061】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、重合体組成物全体に対して、0.1質量ppm以上2質量ppm以下、好ましくは0.15質量ppm以上2質量ppm以下、より好ましくは0.17質量ppm以上2質量ppm以下、更に好ましくは0.2質量ppm以上2質量ppm以下、また好ましくは0.1質量ppm以上1.5質量ppm以下、より好ましくは0.2質量ppm以上1.2質量ppm以下、更に好ましくは0.2質量ppm以上1.2質量ppm以下の割合で含まれる。本明細書において、重合体組成物中に含有されるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合は、重合体組成物を灰化後、酸溶解し、ICP-MS装置によって測定される数値とする。このように調整された所定の割合(質量ppm)で重合体組成物中にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含ませることによって、重合体組成物に優れた耐湿熱白化性を発揮させることができる。なお、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、重合体組成物中において、そのままの形態、金属イオンの形態、塩の形態(例えばリン酸二水素ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等)において含有されていてもよい。
【0062】
本実施形態の重合体組成物中には、その他の成分として、製造工程等において不可避的に混入してしまう微量成分(重合開始剤、重合安定剤、分子量調整剤等の添加剤の残留物)を含んでいてもよい。
【0063】
本実施形態の重合体組成物は、例えば、230℃、3.8kg荷重でのMFR(メルトフローレート)値が、1以上7以下、好ましくは2以上6以下、より好ましくは4以上6以下の範囲であり得る。本明細書において、MFR値は、JIS K7210-1999に規定された方法において、230℃、3.8kg荷重で測定される値である。MFRをこのような値とすることによって、重合体組成物が光学レンズ等の光学部材の原材料として利用される際に、例えば重合体組成物が射出形成等される際に、好適な流動性を奏する。
【0064】
<重合体組成物の製造方法>
単量体(b)の重合方法については、特に制限はなく、例えば、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の公知の重合法を採用することができる。特に、懸濁重合を採用することができる。懸濁重合は、例えば、水、重合開始剤、連鎖移動剤、懸濁安定剤及び必要に応じて他の添加剤等をオートクレーブに仕込み、通常、攪拌下に単量体(b)の成分を供給して加熱することにより実施される。水の使用量は、容量比で、単量体(b)の成分に対して、1~5倍量、特に1~3倍量程度とする。
【0065】
重合開始剤は、特に制限されるものではなく、例えば、ラウリルパーオキサイド、1,1―ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンル等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。重合開始剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0066】
連鎖移動剤は、特に制限されないが、例えば、n-ドデシルメルカプタン(特に、1-ドデシルメルカプタン)、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート等のメルカプタン類等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0067】
懸濁安定剤は、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテルが挙げられる。また、部分けん化されたビニルアルコール、アクリル酸重合体及びゼラチン等の水溶性ポリマーを使用することもできる。
【0068】
懸濁重合では、例えば、重合後に得られたスラリー状の反応物を脱水及び必要に応じて洗浄した後、乾燥させる。乾燥後、ビーズ状の重合体組成物が得られる。ビーズ状の重合体組成物はそのまま使用してもよいし、更に押出機(例えば脱気押出機)で押出してペレット形状の重合体組成物としてもよい。前述したように、原料の単量体(b)の種類の選択及び割合(mol%又は質量%)の調整だけでなく、適切な重合方法及びその条件を選択することによっても、成形体の黄色度を抑制できる重合体組成物を製造することができる。例えば、押出機を使用する際の造粒温度を高すぎない適切な温度(例えば190℃以上250℃以下、好ましくは210℃以上220℃以下)に設定する。又は、例えば押出機内での滞留時間を長すぎない適切な時間に設定する。例えば、押出機内での滞留時間毎の組成物処理量に換算すると、押出機のスクリュー回転数が60rpm以上100rpm、好ましくは80rpmの場合、処理量1kg/Hr以上2.0kg/Hr以下、好ましくは処理量1kg/Hr以上1.5kg/Hr以下に設定する。或いは、例えば後処理において高温(例えば290℃程度)で長く加熱しすぎないようにする。このように適宜選択して設定することによって、顕著に閉環縮合してしまうことを防止することができる。その結果、環構造単位(a)の割合(mol%)を前述した所定の範囲内に調整することができ、成形体の黄色度を抑制することができる。
【0069】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、重合体組成物を製造する際に様々な手法を適用することによって、結果産物である重合体組成物に前述の調整された所定の割合(質量ppm)で含ませることができる。例えば、重合組成に、リン酸二水素アルカリ金属塩又はリン酸二水素アルカリ土類金属塩、特に、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム又はリン酸二水素カルシウム等を適切に調整した量において含有させてもよい。或いは、重合の際に、懸濁安定剤としてポリアクリル酸ナトリウム等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む添加剤を適切に調整した量において使用してもよい。或いは、懸濁重合後の工程において、脱水されたスラリー状反応物に対して、適切な回数及び量での水等(例えば純水)による洗浄工程を行うことによっても重合体組成物が含むアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の量を調整することができる。
【0070】
<成形体及び光学部材>
本実施形態の成形体は、前述の実施形態の重合体組成物を含み、所望の用途に応じた形状を適宜とり得る。成形体の製造方法は、例えば、前述の重合体組成物を、所望の形状の金型のキャビティ内に充填して、冷却等の工程を得た後、金型から取り出すことにより製造することができる。
【0071】
本実施形態の光学部材は、前述の成形体を含む。即ち、前述の実施形態の重合体組成物を含む。そのため、優れた耐湿熱白化性を有し且つ黄色度が抑えられる。本明細書に用いられる用語「光学部材」とは、光学レンズ、導光部材等を意味する。例えば、自動車若しくはオートバイ等の車輌灯、街路灯、電気スタンド又は家庭用一般照明等の点灯器具全般に使用され得る光学レンズ又は導光部材等を意味する。
【0072】
本実施形態の光学部材は、通常、前述の実施形態における重合体組成物を射出成形して得られる。詳しくは、本実施形態の光学部材は、前述の重合体組成物を成形材料とし、これを溶融状態で金型のキャビティ内に射出充填し、次いで冷却した後、成形された成形体を金型から剥離することにより得ることができる。具体的には、例えば、前述の重合体組成物をペレット状にしてホッパーからシリンダー内に投入し、スクリューを回転させながら該重合体組成物を溶融させ、スクリューを後退させて、シリンダー内に前述の重合体組成物を所定量充填し、スクリューを前進させることにより圧力をかけながら溶融した重合体組成物を金型に射出充填し、金型が充分に冷めるまで一定時間保圧した後、金型を開いて成形体を取り出すことにより、本実施形態の光学部材を作製することができる。本実施形態の光学部材を作製する際の諸条件(例えば、成形材料のキャビティ内の溶融温度、成形材料を金型に射出する際の金型温度、重合体組成物を金型に充填した後に保圧する際の圧力等)は、適宜設定すればよく、特に限定されない。
【実施例
【0073】
以下の実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、本明細書において、「メタクリル系重合体組成物」とは、メタクリル酸及び/又はメタクリル酸エステルを少なくとも一部において重合させてなる重合体を含む組成物を意味する。
【0074】
・メタクリル系重合体組成物の調製
(実施例1)
攪拌機の備わった5Lオートクレーブ内において、メタクリル酸(以下MAAと記す、(株)日本触媒製)とメタクリル酸メチル(以下MMAと記す)とを下記表1に示す組成で混合して単量体成分を得た。この単量体成分に、単量体成分の総和100質量部に対し、重合開始剤としてラウリルパーオキサイド(化薬アクゾ(株)製「ラウロックスK」)を0.4質量部及び連鎖移動剤として1-ドデシルメルカプタン)を0.5質量部添加し、これらを溶解させた。更に、単量体成分の総和100質量部に対し、懸濁安定剤としてヒドロキシエチルセルロース(以下HECと記す、三昌(株)製「SANHEC H」)0.060質量部をイオン交換水に溶解させて懸濁重合水相としたうえで、前述の単量体成分の総和100質量部に対し水相150質量部を添加し、懸濁重合を行った。得られたスラリー状の反応液を脱水機((株)コクサン製「遠心機 H-122」)を使用して、脱水及び40Lのイオン交換水を用いて2回洗浄した後、乾燥させ、ビーズ状のメタクリル系重合体組成物を得た。このビーズ状のメタクリル系重合体組成物を、20mmベント付き押出機(東洋精機社製のME型ラボプラストミル)を用いて、スクリュー回転数80rpm、重合体組成物温度220℃で処理量1.5kg/Hr造粒を行い、ペレット形状のメタクリル系重合体組成物を得た。
【0075】
(実施例2及び3)
懸濁重合水相を調製する際に、単量体成分の総和100質量部に対し、更にリン酸二水素ナトリウム(米山化学(株)製)を各々0.015質量部又は0.075質量部、懸濁重合水相に溶解させた以外は、実施例1と同様にして、メタクリル系重合体組成物を得た。
【0076】
(実施例4~6)
下記表1に示すように、MAAとMMAとの組成比が各々異なる以外は、実施例1と同様にして、メタクリル系重合体組成物を得た。
【0077】
(実施例7)
懸濁重合水相を調製する際に、単量体成分の総和100質量部に対し、更にリン酸二水素ナトリウム(米山化学(株)製)を0.015質量部、懸濁重合水相に溶解させ、造粒を行いペレット形状とした後に、ホットプレート(アズワン(株)製「HPD-3000BZN」)を用いて290℃で2時間加熱した以外は、実施例6と同様にして、メタクリル系重合体組成物を得た。
【0078】
(比較例1)
懸濁重合水相を調製する際に、単量体成分の総和100質量部に対し、更にリン酸二水素ナトリウム(米山化学(株)製)を0.18質量部、懸濁重合水相に溶解させた以外は、実施例1と同様にして、メタクリル系重合体組成物を得た。
【0079】
(比較例2)
懸濁重合水相を調製する際に、単量体成分の総和100質量部に対し、更に懸濁安定剤としてポリアクリル酸ナトリウム(以下PMAと記す)を0.015質量部、懸濁重合水相に溶解させた以外は、実施例2と同様にして、メタクリル系重合体組成物を得た。
【0080】
(比較例3)
調製途中において得られるスラリー状の反応液を、脱水後洗浄しないこと以外は、実施例3と同様にして、メタクリル系重合体組成物を得た。
【0081】
(比較例4)
造粒を行いペレット形状とした後に、ホットプレート(アズワン(株)製「HPD-3000BZN)を用いて290℃で6時間加熱した以外は、実施例6と同様にして、メタクリル系重合体組成物を得た。
【0082】
以下の表1に、実施例1~7及び比較例1~4におけるメタクリル系重合体組成物の重合処方及び後処理工程等を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
・分析
<共重合体組成の分析>
実施例1~7及び比較例1~4において得られたメタクリル系重合体組成物の共重合組成を分析した。共重合組成は、核磁気共鳴装置(Bruker社製「Avance600」(10mmクライオプローブ))で13C-NMRを測定することによって求めた。測定溶媒は重クロロホルムを用い、測定温度は27℃とし、インバースゲートプロトンデカップリング法によって測定した。パルス繰り返し時間は20秒とし、積算回数は4000回とし、化学シフト値基準はクロロホルムとした。MMAの値は、173.0~180.4ppmのピークの積分値より求めた。MAAの値は、180.4~188.0ppmのピークの積分値より求めた。MMAとMAAとが環化縮合することによって形成される無水グルタル酸構造の値は、170.0~173.0ppmのピークの積分値より求めた。
【0085】
<ナトリウム含有量の分析>
実施例1~7及び比較例1~4において得られたメタクリル系重合体組成物中のナトリウム含有量を分析した。各々のメタクリル系重合体組成物を灰化後、酸溶解し、ICP-MS装置(パーキンエルマー社製「ELAN DRCII」)を用いてナトリウム含有量を測定した。測定条件は、RFパワーを1.5kWとし、プラズマガス流量を17L/分とし、補助ガス流量を1.4L/分とし、試料導入量を100μL/分とした。
【0086】
共重合体組成及びナトリウム含有量の分析結果は、下記の測定及び評価結果と共に後の表2に示す。
【0087】
・測定及び評価
<黄色度の測定>
実施例1~7及び比較例1~4において得られたメタクリル系重合体組成物の成形片について、黄色度を測定した。得られた各々のメタクリル系重合体組成物を、90℃で12時間乾燥した後、プレス成形機((株)神藤金属工業所製のシンドー式ASF型油圧プレス)を用いて220℃のプレス温度でプレス成形を行い、厚み3mm(50mm×50mm×3mm)の試験成形片を得た。次いで、得られた各々の試験成形片を、色彩情報測定器((株)村上色彩技術研究所製「HR-100」)を用い、3mmtでの黄色度をJIS K7361-1に準拠して測定した。
【0088】
<湿熱白化度の測定>
実施例1~7及び比較例1~4において得られたメタクリル系重合体組成物の成形片における耐湿熱白化性を評価するために、湿熱試験前後での湿熱白化度を測定した。黄色度測定と同様に、各々のメタクリル系重合体組成物においてプレス成形を実施し、50mm×50mm×3mmの試験成形片を得た。次いで、得られた各々の試験成形片を、温度80℃、湿度95%に設定した環境試験機(ESPEC社製のライトスペック恒温恒湿器「LHU-113」)中に200時間静置した。試験前と試験後の試験成形片のヘイズ値を、色彩情報測定器((株)日本電色工業製「SD-7000」)を用い、JIS K7136に準拠して測定した。試験前後でのヘイズ値の差を湿熱白化度(%)として求めた。
【0089】
<ガラス転移温度の評価>
実施例1~7及び比較例1~4において得られたメタクリル系重合体組成物がランプカバーの原材料として好適に利用され得るかどうかを確認するために、ガラス転移温度を評価した。JIS-K7121に準拠して、各々のメタクリル系重合体組成物の試料についてガラス転移温度(Tmg)(℃)を測定した。測定機器には示差走査熱量計((株)日立ハイテクサイエンス製「DSC7020」)を窒素ガス流量50mL/分の条件下で用いた。まず、20℃/分で室温(23℃)から150℃まで昇温(1次昇温)し、150℃で5分間保持して試料を完全に融解させた後、10℃/分で150℃から-35℃まで降温して-35℃で1分間保持し、更に、210℃まで10℃/分で再び昇温(2次昇温)した。この間に描かれるDSC曲線のうち、2次昇温時の階段状変化部分曲線と各ベースライン延長線から縦軸方向に等距離にある直線との交点(中間点ガラス転移温度)をガラス転移温度(Tmg)(℃)として測定した。1試料当たり2点の測定を行い、2点の算術平均(小数点以下四捨五入)を測定値とした。
【0090】
<吸水率の評価>
実施例1~7及び比較例1~4において得られたメタクリル系重合体組成物が光学部材の原材料として好適に利用され得るかどうかを確認するために、吸水率を評価した。白化度測定と同様に、各々のメタクリル系重合体組成物においてプレス成形を実施し、50mm×50mm×3mmの試験成形片を得た。得られた各々の試験成形片を、80℃で24時間乾燥機内において乾燥し、各々の試験成形片の乾燥状態での質量を精秤した。その後、80℃の温水に各々の試験成形片を120時間浸漬させ、浸漬後の質量を精秤した。吸水率を下記式により算出した。
吸水率(%)={([浸漬後の質量]-[乾燥時の質量])/[乾燥時の質量]}×100
【0091】
以下の表2に、分析結果並びに評価及び測定結果を示す。
【表2】
【0092】
上記表1及び表2から分かるように、比較例1は、実施例1~3と比較すると、懸濁重合水相を調製する際に溶解させたリン酸二水素ナトリウムの量が多いため(実施例1では溶解させていない)、メタクリル系重合体組成物のナトリウム含有量は多くなっていた。比較例2は、実施例2と比較すると、溶解させたリン酸二水素ナトリウムの量は同様であるが、更に懸濁安定剤としてPMAも溶解させたため、メタクリル系重合体組成物のナトリウム含有量が顕著に多くなっていた。比較例3は、実施例3と比較すると、溶解させたリン酸二水素ナトリウムの量は同様であるが、スラリー状の反応液を脱水後洗浄しなかったため、ナトリウムが残存していたと考えられ、メタクリル系重合体組成物のナトリウム含有量は多くなっていた。比較例1~3は、実施例1~3と比較して、湿熱試験白化度(%)について顕著に大きくなっていたため、重合体組成物中のナトリウム含有量が所定の数値範囲量よりも多い場合、耐湿熱白化性が顕著に劣ってしまうということが分かった。
【0093】
比較例4は、実施例7と比較すると、懸濁重合水相を調製する際に、リン酸二水素ナトリウムを溶解させないが、後処理において290℃で4時間長く加熱したため、MMAとMAAとがより多く反応及び閉環し、グルタル酸無水物がより多い割合となっていた。比較例4は、実施例7と比較して、メタクリル系重合体組成物の黄色度について顕著に大きくなっていたため、重合体組成物中の環構造単位が所定の割合(mol%)よりも多い場合、黄色度が大きくなってしまうということが分かった。実施例1に対して原料のMMAとMAAとの組成比のみしか差異がない実施例4~6については、湿熱試験白化度(%)及び黄色度のいずれにもおいても問題はなかった。更に、実施例1~7及び比較例1~4のいずれにおいても、光学レンズ等の光学部材の原材料として好適に適用され得るTmg及び吸水率の数値であった。
【0094】
これらの結果から、重合体組成物中のナトリウム含有量及び重合体中の環構造単位の割合を所定の範囲内の値に調整することによって、優れた耐湿熱白化性を有し且つ黄色度が抑えられて成形され得る重合体組成物とすることができることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の重合体組成物は、優れた耐湿熱白化性を有し且つ黄色度が抑えられて成形され得、光学レンズ又は導光部材等として、自動車若しくはオートバイ等の車輌灯、街路灯、電気スタンド又は家庭用一般照明等の点灯器具全般において好適に利用され得る。