(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】スクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20221220BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20221220BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221220BHJP
A61K 31/4155 20060101ALI20221220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221220BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221220BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20221220BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61K45/00
A61K31/4155
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/16
(21)【出願番号】P 2019518883
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2018019208
(87)【国際公開番号】W WO2018212312
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-10
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】木村 温英
(72)【発明者】
【氏名】佐子 優
(72)【発明者】
【氏名】松田 賢
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕二
(72)【発明者】
【氏名】栗本 恵実
(72)【発明者】
【氏名】萬代 敬生
(72)【発明者】
【氏名】田中 麻衣子
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/077401(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/049731(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/163485(WO,A1)
【文献】特表2017-501233(JP,A)
【文献】特表2007-509152(JP,A)
【文献】DAVIE, B.J. et al.,Synthesis and Pharmacological Evaluation of Analogues of Benzyl Quinolone Carboxylic Acid (BQCA) Designed to Bind Irreversibly to an Allosteric Site of the M1 Muscarinic Acetylcholine Receptor,Journal of Medicinal Chemistry,American Chemical Society,2014年05月23日,Vol.57/No.12,pp.5405-5418
【文献】HOMSHER, M.F. et al.,High-Throughput Agonist Shift Assay Development for the Analysis of M1-Positive Allosteric Modulators,SLAS DISCOVERY,2017年04月20日,Vol.22/No.8,p.1060-1066
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 33/15
C07K 16/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、
α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(M1PAM)のスクリーニング方法:
(1)
コリン作動性ムスカリンM1受容体(M1R
)又はその部分ペプチドと、試験化合物、ACh及び検出可能なM1アンタゴニストとを接触させる工程、
(2)試験化合物のα値を測定する工程
であって、α値は、下記の数式(ii):
【数1】
(式中、Yは特異的な結合の%であり;[A]、[B]及び[C]はそれぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1アンタゴニストの濃度であり;K
A
、K
B
及びK
C
は、それぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1アンタゴニストの平衡乖離定数を表し;並びにα
AB
及びα
BC
は、それぞれ試験化合物とACh、試験化合物と検出可能なM1アンタゴニストの結合協同性を表す。)によってα
AB
として計算され、及び
(3)低α値のM1PAMを選択する工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、
α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(M1PAM)のスクリーニング方法:
(1)
コリン作動性ムスカリンM1受容体(M1R
)又はその部分ペプチドと、試験化合物及び検出可能なAChとを接触させる工程、
(2)試験化合物のα値を測定する工程
であって、α値は、下記の数式(i):
【数2】
(式中、Yは特異的な結合の%であり;[A]及び[B]はそれぞれ検出可能なACh及び試験化合物の濃度であり;K
A
及びK
B
はそれぞれ検出可能なACh及び試験化合物の平衡乖離定数を表し;並びにαは試験化合物と検出可能なAChの結合協同性を表す。)によって計算され、及び
(3)低α値のM1PAMを選択する工程。
【請求項3】
以下の工程を含む、
α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(M1PAM)のスクリーニング方法:
(1)
コリン作動性ムスカリンM1受容体(M1R
)又はその部分ペプチドと、試験化合物、検出可能なM1PAM及びAChとを接触させる工程、
(2)試験化合物のα値を測定する工程
であって、α値は、下記の数式(iii):
【数3】
(式中、Yは特異的な結合の%であり;[A]、[B]及び[C]は、それぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1PAMの濃度であり;K
A
、K
B
及びK
C
は、それぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1PAMの平衡乖離定数を表し;並びにα
AB
及びα
AC
は、それぞれAChと試験化合物、AChと検出可能なM1PAMの結合協同性を表す。)によってα
AB
として計算され、及び
(3)低α値のM1PAMを選択する工程。
【請求項4】
低α値が1より大きく1,000以下である、請求項
1ないし
3何れか一項記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
低α値が10以上500以下である、請求項
1ないし
4何れか一項記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
コリン系副作用が下痢である、請求項1ないし
5何れか一項記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
4-フルオロ-2-[(3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]-5-メチル-6-[4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル]-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1-オン、2-(2-フルオロフェニル)-5-(4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル)-2,5-ジヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-3-オンおよび2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-(1H-ピラゾール-5-イル)イソインドリン-1-オンからなる群から選択される、低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを含有してなる、コリン系副作用を低減する、アルツハイマー病、統合失調症、認知症状を伴う統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病、パーキンソン病又はレヴィー小体型認知症治療剤。
【請求項8】
4-フルオロ-2-[(3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]-5-メチル-6-[4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル]-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1-オン、2-(2-フルオロフェニル)-5-(4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル)-2,5-ジヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-3-オンおよび2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-(1H-ピラゾール-5-イル)イソインドリン-1-オンからなる群から選択される、低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを含有してなる、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤により引き起こされるコリン系副作用を患っている患者における、アルツハイマー病、統合失調症、
認知症状を伴う統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病
、パーキンソン病又はレヴィー小体型認知症治療剤。
【請求項9】
4-フルオロ-2-[(3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]-5-メチル-6-[4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル]-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1-オン、2-(2-フルオロフェニル)-5-(4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル)-2,5-ジヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-3-オンまたは2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-(1H-ピラゾール-5-イル)イソインドリン-1-オンからなる群から選択される、低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを含有してなる、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の投与量低減剤。
【請求項10】
コリン系副作用が下痢である、請求項7または8記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(M1PAM)を見出すための有用かつ効率的なスクリーニング方法に関する。また、本発明は、低α値のM1PAM、又は当該M1PAMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを用いた、アルツハイマー病等の治療、及びコリン系副作用の低減方法などに関する。ここで、ポジティブアロステリックモジュレーターとは、内因性活性化物質(コリン作動性ムスカリンM1受容体においてはアセチルコリン(ACh))とは異なる部位に結合して受容体機能を増強する作用を有する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
AChは、中枢神経系及び神経筋接合部(副交感神経、運動神経)でシグナル伝達を誘発する神経伝達物質である。中枢神経系では、アセチルコリンニューロンの起始核は脳幹及び前脳にあり、それらのアセチルコリンニューロンは大脳皮質、海馬及び辺縁領域に投射している。さらに、線条体等のある脳領域におけるいくつかの介在ニューロンは、神経伝達物質としてAChを利用する。アセチルコリン受容体はリガンド依存性イオンチャンネル(コリン作動性ニコチン受容体)とGタンパク質共役型受容体(コリン作動性ムスカリン受容体)に分類される。コリン作動性ムスカリン受容体は、AChに対する受容体の1種であり、ムスカリンが当該受容体を選択的に活性化することに基づいて命名された。ムスカリン受容体はさらに細かくM1~M5のサブタイプで分類され、コリン作動性ムスカリンM1受容体(M1R)は主に脳に広く分布し、特に学習、記憶、睡眠などに深くかかわっていることが知られている。脳生理学におけるM1Rの重要性は周知であり、M1R機能増強作用を有する化合物は、精神疾患、神経変性疾患、記憶障害、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、及びレヴィー小体型認知症等の予防又は治療剤として有用であると期待されている(非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0004】
【0005】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【0006】
特許文献2には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0007】
【0008】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【0009】
特許文献3には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体型認知症等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0010】
【0011】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【0012】
特許文献4には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体型認知症等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0013】
【0014】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【0015】
特許文献5には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体型認知症等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0016】
【0017】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【0018】
特許文献6には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体型認知症等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0019】
【0020】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【0021】
特許文献7には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体型認知症等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0022】
【0023】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【0024】
特許文献8には、M1PAM活性を有し、アルツハイマー病、統合失調症、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体型認知症等の治療に有用な化合物として、下記化合物が開示されている。
【0025】
【0026】
[式中、各記号は当該文献で定義されている通り。]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【文献】WO 2013/129622
【文献】WO 2014/077401
【文献】WO 2015/174534
【文献】WO 2015/163485
【文献】WO 2015/190564
【文献】WO 2016/208775
【文献】WO 2017/069173
【文献】WO 2010/059773
【非特許文献】
【0028】
【文献】Nature Reviews Drug Discovery, 2007, 6, 721-733.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は、生活の質(QOL)の向上等の観点から、コリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(本明細書中、「M1PAM」と略記する場合がある)が引き起こし得る副作用を見出し、当該副作用が回避されたM1PAMを創出するための有用かつ効率的なスクリーニング方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、低α値のM1PAMを用いた、アルツハイマー病などの治療、及びコリン系副作用の低減方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、低α値のM1PAMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤等を用いた、アルツハイマー病などの治療、及びコリン系副作用の低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、まず、下痢等のコリン系副作用がコリン作動性ムスカリンM1受容体(本明細書中、「M1R」と略記する場合がある)を介して出現することを見出した。次に、本発明者らは、種々のM1PAMを評価したところ、M1PAMのα値と、電場刺激による回腸の収縮強度との間に、正の相関関係があることを見出した。さらに、本発明者らは、上記α値が低い値であるM1PAMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との併用療法が、それぞれの化合物の単独療法と比較して、予想外に優れたアルツハイマー病等の治療効果を奏することも見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0031】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターのスクリーニング方法。
[2]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、有効量の低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを、哺乳動物に投与することを含む、方法。
[2-1]投与後の哺乳動物において、副作用の重篤度をモニターし、スコア化することを更に含む、[2]の方法。
[3]哺乳動物が、コリン作動性の障害を有する哺乳動物である、[2]の方法。
[4]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療する方法であって、有効量の低α値のM1PAMを、哺乳動物に投与することを含み、
該哺乳動物が、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤により引き起こされるコリン系副作用を患っている、方法。
[5]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、哺乳動物に、有効量のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与し、次いで低α値のM1PAMを投与することを含む、方法。
[6]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、以下:
(i)哺乳動物にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与して、副作用を引き起こすこと、及び
(ii)有効量の低α値のM1PAMを、(i)の哺乳動物に投与すること
を含む、方法。
[7]哺乳動物に投与されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量を低減する方法であって、有効量の低α値のM1PAMを、哺乳動物に投与することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、WT及びM1R KOマウス(本明細書中、「M1KOマウス」と表記する場合がある)における、化合物C投与による下痢の誘発について示す(実施例11)。化合物C投与後の120分間、マウスを観察した。下痢の重篤度を以下の通りスコア化した:0、健常なペレット;1、湿っているが形がある糞;2、膨張した又は粘液性の糞;3、重度の水様の下痢。観察中の最大スコアを採用した。データを平均値+S.E.M.(n=10)で表した。
**:Aspin-Welch検定により、WTマウスの溶媒投与群と比較し、P≦0.01であることを示す。
NS:StudentのT検定により、M1R KOマウスの溶媒投与群と比較し、P>0.05であることを示す。
【
図2】
図2は、回腸収縮とM1PAMパラメーターとの関係について示す(実施例12)。回腸収縮の増強と、(A) M1PAM活性であるpIP値との相関、(B) AChとPAMとの結合協同性に関連するパラメーターであるlog 痰ニの相関、又は(C)AChのシグナル伝達能におけるPAMのアロステリック効果の強度に関連するパラメーターであるlog 竄ニの相関を示す散布図であり、結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たり、n=3~11。実施例12において、本図に用いたパラメーターを表1及び2に示した。Pearsonの相関検定により、r (相関係数)及びp値を計算した。なお、IPは変曲点を示す。
【
図3-A】
図3は、マウスの認知と下痢における低癇l化合物 (化合物B)の影響について示す(実施例13)。(A) 化合物Bの化学構造。
【
図3-B】
図3は、マウスの認知と下痢における低癇l化合物 (化合物B)の影響について示す(実施例13)。(B) 単離したマウス回腸に電気刺激(EFS)を加えた際の、化合物B処置(0.1 nM~1・)による回腸収縮の増強。TLZは、1 nMテレンゼピンの前処置を意味する。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たり、n=7。
【
図3-C】
図3は、マウスの認知と下痢における低癇l化合物 (化合物B)の影響について示す(実施例13)。(C) 化合物B (10~1000 mg/kg)の経口投与による下痢の誘発。結果は平均値±S.E.M.で表す。
【
図3-D】
図3は、マウスの認知と下痢における低癇l化合物 (化合物B)の影響について示す(実施例13)。(D) 化合物B (10~1000 mg/kg)の経口投与による下痢の誘発。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たりn=6。
【
図3-E】
図3は、マウスの認知と下痢における低癇l化合物 (化合物B)の影響について示す(実施例13)。(E) 化合物B (10~100 mg/kg)の経口投与後90分における、マウス海馬でのArc mRNA発現レベルの変化をTaqMan PCRにより検出した。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たり、n=5~6。
【
図3-F】
図3は、マウスの認知と下痢における低癇l化合物 (化合物B)の影響について示す(実施例13)。(F) Y迷路課題における5分間の測定でのスコポラミン誘発性自発的交替行動率の低下に対する、化合物Bの影響。試験の60分前に化合物Bを経口投与し、試験の30分前にスコポラミンを皮下投与した。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たり、n=11。**:Aspin-WelchのT検定により、対照群と比較し、P≦0.01であることを示す。#:Shirley-Williamsの両側検定により、スコポラミン投与群と比較し、P≦0.05であることを示す。
【
図4-A】
図4は、マウスにおける認知と下痢に対する高癇l化合物 (化合物A)の影響について示す(実施例14)。(A) 化合物Aの化学構造。
【
図4-B】
図4は、マウスにおける認知と下痢に対する高癇l化合物 (化合物A)の影響について示す(実施例14)。(B) 単離したマウス回腸にEFSを加えた際の、化合物A投与 (0.1 nM~1・)による回腸収縮の増強。TLZは、1 nMテレンゼピンの前処置を意味する。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たりn=3~4。
【
図4-C】
図4は、マウスにおける認知と下痢に対する高癇l化合物 (化合物A)の影響について示す(実施例14)。(C) 化合物A(3~30 mg/kg)の経口投与による下痢の誘発。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たりn=6。#:Williamsの両側検定により、対照群と比較し、P≦0.05であることを示す。
【
図4-D】
図4は、マウスにおける認知と下痢に対する高癇l化合物 (化合物A)の影響について示す(実施例14)。(D) 化合物A (3~30 mg/kg)の経口投与後90分における、マウス海馬でのArc mRNA発現レベルの変化をTaqMan PCRにより検出した。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たりn=6。#:Shirley-Williamsの両側検定により、対照群と比較し、P≦0.05であることを示す。
【
図4-E】
図4は、マウスにおける認知と下痢に対する高癇l化合物 (化合物A)の影響について示す(実施例14)。(E) 5分間の測定条件下におけるY迷路課題での、スコポラミン誘発性自発的交替行動率の低下に対する、化合物Aの影響。試験の60分前に化合物Aを経口投与し、試験の30分前にスコポラミンを皮下投与した。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たりn=7~8。**:Aspin-WelchのT検定により、対照群と比較し、P0.01であることを示す。#:Williamsの両側検定により、スコポラミン投与群と比較し、P0.05であることを示す。Aspin-WelchのT検定により、溶媒投与群と比較し、P=0.08であった。Williamsの両側検定により、スコポラミン投与群と比較し、P=0.06であった。
【
図4-F】
図4は、マウスにおける認知と下痢に対する高癇l化合物 (化合物A)の影響について示す(実施例14)。(F) 8分間の測定条件下におけるY迷路課題での、スコポラミン誘発性自発的交替行動率の低下に対する、化合物Aの影響。試験の60分前に化合物Aを経口投与し、試験の30分前にスコポラミンを皮下投与した。結果は平均値±S.E.M.で表す。1群当たりn=7~8。**:Aspin-WelchのT検定により、対照群と比較し、P0.01であることを示す。#:Williamsの両側検定により、スコポラミン投与群と比較し、P0.05であることを示す。Aspin-WelchのT検定により、溶媒投与群と比較し、P=0.08であった。Williamsの両側検定により、スコポラミン投与群と比較し、P=0.06であった。
【
図5】
図5は、in vitro及びin vivoにおいて、化合物DがヒトM1Rを選択的に活性化し、199という低α値を有することを示す(実施例23)。A、ヒトM1~5Rを発現するCHO-K1細胞における、Ca
2+応答に対する化合物Dの影響。データは、10・ AChへの応答活性を100%とした際の割合で表す(n=4)。B、ACh±化合物Dによる、ヒトM1Rを発現するFreeStyle 293細胞膜からの[
3H]-ピレンゼピン結合の置換に対する、化合物Dの影響。データは、[
3H]-ピレンゼピン結合の阻害%で表した(n=2)。C、野生型及びM1R KOマウスの海馬における、IP1産生に対する化合物Dの影響。化合物Dはサンプリングの3時間前に投与した。値は平均値+S.E.M.(n=10)である。IP1産生量は、海馬サンプル中のタンパク質濃度に対するIP1濃度の割合として計算し、溶媒投与群(対照群)に対する割合(%)として表す。**:Aspin-Welch検定により、野生型マウスの溶媒投与群と比較し、P0.01であることを示す。
NS :StudentのT検定により、M1R KOマウスの溶媒投与群と比較し、P>0.05であることを示す。
【
図6】
図6は、in vitro及びin vivoにおいて、化合物CがM1Rを選択的に活性化し、1786という高α値を有することを示す(実施例24)。A、化合物Cの構造。B、ヒトM1~5Rを発現するCHO-K1細胞における、Ca
2+応答に対する化合物Cの影響。データは10・ AChへの応答活性を100%とした際の割合で表す(n=3)。C、ACh±化合物Cによる、ヒトM1Rを発現するFreeStyle 293細胞膜からの[
3H]-ピレンゼピン結合の置換に対する、化合物Cの影響。データは[
3H]-ピレンゼピン結合の阻害%で表す(n=2)。D、野生型及びM1R KOマウスの海馬における、IP1産生に対する化合物Cの影響。in vivoでのIP1アッセイにおいて、化合物Cはサンプリングの3時間前に投与した。値は平均値+S.E.M.(n=10)である。in vivoでのIP1産生量は、海馬サンプル中のタンパク質濃度に対するIP1濃度の割合として計算し、溶媒投与群(対照群)に対する割合(%)として表した(n=10)。**:Aspin-Welch検定により、野生型マウスの溶媒投与群と比較し、P0.01であった。
NS:StudentのT検定により、M1R KOマウスの溶媒投与群と比較し、P>0.05であった。
【
図7】
図7は、マグヌス法において、高癇lのM1PAMである化合物Cと比較して、化合物Dが回腸の自発運動に及ぼす影響がより低いことを示す(実施例25)。回腸の自発運動に対する化合物Cと化合物Dの影響。データは、代表的なトレース (上図)、及び処置前を100%とした際の収縮率(%)の平均値+S.E.M(下図、n=8)を表す。
【
図8】
図8は、ドネペジルと同様に、化合物Dと化合物Cの両方が、新奇物体認識課題 (NORT)においてラットのスコポラミン誘発認知機能障害を改善することを示す(実施例26)。A、スコポラミン誘発認知機能障害に対するドネペジルの影響。B、スコポラミン誘発認知機能障害に対する低用量の化合物D (0.03~0.3 mg/kg, p.o.)の影響。C、スコポラミン誘発認知機能障害に対する高用量の化合物D (0.3~3 mg/kg, p.o.)の影響。D、スコポラミン誘発認知機能障害に対する化合物C (0.03~3 mg/kg, p.o.)の影響。獲得試行の0.5、2及び2時間前に、ドネペジル、化合物D及び化合物Cをそれぞれ経口投与した。獲得試行の30分前に、スコポラミンを0.1 mg/kgで皮下投与した。以下の式を用いてNDIを計算した:新奇物体との相互作用時間/総相互作用時間×100 (%)。データは、平均値+S.E.M.(n=8)で表す。対照群との有意差を、*** P≦0.001 (StudentのT検定)により示す。スコポラミン投与群との有意差を、# P≦0.05 (Williamsの両側検定)により示した。
【
図9】
図9は、ラットにおけるドネペジル、化合物D及び化合物Cの下痢誘発に対する影響を示す(実施例27)。A、ラットにおけるドネペジルの下痢誘発に対する影響。B、ラットにおける化合物Dの下痢誘発に対する影響。C、ラットにおける化合物Cの下痢誘発に対する影響。ドネペジル、化合物D及び化合物Cの投与後、動物を240分間観察した(A~C)。下痢の重篤度を以下の通りスコア化した:0、健常なペレット;1、湿っているが形がある糞;2、膨張した又は粘液性の糞;3、重度の水様の下痢。観測中の最大スコアを採用した。データを平均値+S.E.M.(n=6~10)で表した。#:Williams検定の両側検定により、溶媒投与群と比較し、P≦0.05であることを示す。
【
図10】
図10は、ラットにおける化合物Dとドネペジルの併用の影響について示す(実施例28)。A、ラット海馬におけるIP1産生に対する化合物D (3 mg/kg, p.o.)とドネペジル (3 mg/kg, p.o.)の併用の影響。サンプリングの3及び1.5時間前に、化合物Dとドネペジルをそれぞれ投与した。in vivoでのIP1産生量は、海馬サンプル中のタンパク質濃度に対するIP1濃度の割合として計算し、溶媒投与(対照群)に対する割合(%)として表した。値は、1群当たりn=6で、平均値+S.E.M.である。** Dunnettの多重比較検定により、溶媒+溶媒投与群(対照群)と比較して、P0.01であった。B、無効用量の化合物Dとドネペネジルの併用は、NORTにおいてラットのスコポラミン誘発認知機能障害を改善する。獲得試行の2及び0.5時間前に、化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とドネペジル (0.1 mg/kg, p.o.)をそれぞれ投与した。獲得試行の30分前に、スコポラミンを0.1 mg/kgで皮下投与した。以下の式を用いてNDIを計算した:新奇物体との相互作用時間/総相互作用時間×100 (%)。データは、平均値+S.E.M.(n=8)で表した。**:StudentのT検定により、溶媒(p.o.)+溶媒 (s.c.)投与群(対照群)と比較して、P0.01であった。#:Dunnettの多重比較検定により、溶媒 (p.o.)+スコポラミン (s.c.)投与群と比較して、P0.05であった。
【
図11】
図11は、ドネペジルの薬物動態に化合物Dが影響しないことを示す(実施例28)。A、ドネペジルの血漿中濃度の経時変化。B、化合物Dの血漿濃度の経時変化。化合物D(0.1 mg/kg, p.o)又は溶媒を時点0 (1回目の投薬)で投与した。1回目の投薬の1.5時間後、ドネペジル(塩酸塩のフリー体換算したものとして)を0.1 mg/kgで経口投与した。値は、1群当たりn=5で、平均値±標準偏差で示す。
【
図12】
図12は、無効用量での化合物Cとドネペジルの併用が、NORTにおいてラットのスコポラミン誘発認知機能障害を改善しないことを示す(実施例29)。獲得試行の2及び0.5時間前に、化合物C (0.03 mg/kg)とドネペジル (0.1 mg/kg)をそれぞれ経口投与した。獲得試行の0.5時間前に、スコポラミンを0.1 mg/kgで皮下投与した。以下の式を用いてNDIを計算した:新奇物体との相互作用時間/総相互作用時間×100 (%)。データは平均値+S.E.M.(n=8)で表した。
***:StudentのT検定により、溶媒 (p.o.)+溶媒 (s.c.)投与群(対照群)と比較して、P≦0.001であった。
【
図13-A】
図13は、カルバコール及び化合物Cとは対照的に、化合物Dは後脱分極(ADP)上昇のみを示したことを示す(実施例30)。(A) カルバコール (10 μM、10分間)をバス内適用した際の第5層錐体神経細胞における膜電位の記録チャート。20秒間隔での短い電流刺激(約450 pA)により、短時間の活性化が生じた。
【
図13-B】
図13は、カルバコール及び化合物Cとは対照的に、化合物Dは後脱分極(ADP)上昇のみを示したことを示す(実施例30)。(B) 電流刺激に対する個々の反応は、より速いタイムスケールで引き起こされる。後過分極(AHP)及びADPを拡大表示する。
【
図13-C】
図13は、カルバコール及び化合物Cとは対照的に、化合物Dは後脱分極(ADP)上昇のみを示したことを示す(実施例30)。(C) AHP (左)、ADP (中央)及び膜電位(RMP、右)に対する、カルバコールの影響をまとめる。
【
図13-D】
図13は、カルバコール及び化合物Cとは対照的に、化合物Dは後脱分極(ADP)上昇のみを示したことを示す(実施例30)。(D) 化合物Dの投与後、AHP、ADP及びRMPにおける平均変化の比較をまとめたグラフを示す。値は平均値±S.E.M.(n=5)である。結果の統計解析には、複数群の比較をANOVAにより行い、続いて対応のあるデータについてDunnettの検定を行った。溶媒投与群と比較して、*P≦0.05、**P0.01であった。
【
図13-E】
図13は、カルバコール及び化合物Cとは対照的に、化合物Dは後脱分極(ADP)上昇のみを示したことを示す(実施例30)。(E) 化合物Cの投与後、AHP、ADP及びRMPにおける平均変化の比較をまとめたグラフを示す。値は平均値±S.E.M.(n=5)である。結果の統計解析には、複数群の比較をANOVAにより行い、続いて対応のあるデータについてDunnettの検定を行った。溶媒投与群と比較して、*P≦0.05、**P0.01であった。
【
図14】
図14は、無効用量の化合物Dとリバスチグミンの併用が、NORTにおいてラットのスコポラミン誘発認知機能障害を改善することを示す(実施例31)。獲得試行の2及び0.5時間前に、化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)をそれぞれ投与した。獲得試行の0.5時間前に、スコポラミンを0.1 mg/kgで皮下投与した。以下の式を用いてNDIを計算した:新奇物体との相互作用時間/総相互作用時間×100 (%)。データは、平均値+S.E.M.(n=8)で表す。
**:StudentのT検定により、溶媒(p.o.)+溶媒 (s.c.)投与群(対照群)と比較して、P0.01であった。
#:Dunnettの多重比較検定により、溶媒 (p.o.)+スコポラミン (s.c.)投与群と比較して、P≦0.01であった。
【
図15】
図15は、ヒトM1Rをコードする核酸配列(配列番号:1)を示す。
【
図16】
図16は、ヒトM1Rのアミノ酸配列(配列番号:2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明について、以下の通り説明する。
【0034】
本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、及び当該分野における慣用記号に従う。
【0035】
本明細書において「コリン系副作用」とはコリン刺激作用が増強されることにより引き起こされる副作用を意味し、その具体例としては、下痢、嘔気、嘔吐、流涎、発汗、徐脈、低血圧、呼吸抑制、虚脱、痙攣、悪心、胃酸分泌亢進、睡眠障害、食欲不振、倦怠感、流涙、縮瞳などが挙げられる。好ましくは、M1Rに起因するコリン系副作用である。より好ましくは、下痢である。
【0036】
本明細書において「コリン作動性の障害」とは、コリン作動性神経伝達における神経の変性や機能不全に起因する障害を意味し、AChの合成、小胞体への貯蔵、分泌、受容体(ムスカリン性若しくはニコチン性)への結合又は分解等、AChの少なくとも1以上の作用機構が正常に機能しない状態が含まれる。「コリン作動性の障害」に関連する疾患の具体例としては、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症等が挙げられる。
【0037】
本明細書において「コリン系副作用が低減される」とは、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト)において、M1PAMは最小認知有効用量と最小コリン系副作用用量との間のより広い安全域を有することを意味する。この安全域は、最小コリン系副作用用量/最小認知有効用量により計算する。この安全域は好ましくは、2倍以上である。より好ましくは、5倍以上である。さらに好ましくは、10倍以上である。よりさらに好ましくは、20倍以上である。特に好ましくは、30倍以上である。別の実施態様では、本安全域は好ましくは、2~10,000倍である。より好ましくは、5~1,000倍である。さらに好ましくは、10~500倍である。よりさらに好ましくは、20~250倍である。特に好ましくは、30~100倍である。哺乳動物は好ましくは、マウスである。別の実施態様では、哺乳動物は好ましくは、ラットである。さらに別の実施態様では、哺乳動物は好ましくは、ヒトである。
【0038】
本明細書において「α値」とは、M1PAMとアセチルコリン(本明細書中、「ACh」と略記する場合がある)との間の結合協同性を示す値である(Wootten, D. et. al., Nat Rev Drug Discov. 2013 Aug;12(8):630-44)。
【0039】
また、本発明において「α値」は、例えば後述の数式(i)~(iii)に記載のallosteric ternary complex modelから算出することができる。
【0040】
本明細書において、M1PAMは、タンパク質、ペプチド、抗体、非ペプチド性化合物などのいずれの形態であってもよい。M1PAMは、好ましくは非ペプチド性化合物である。
【0041】
(1)α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたM1PAMのスクリーニング
本発明は、α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたM1PAMのスクリーニング方法を提供する。
【0042】
本発明のスクリーニング方法において指標となるα値について、低α値のM1PAMは、コリン系副作用が低減され得る。また、低α値のM1PAMは、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症等の予防又は治療において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)との優れた併用効果を示し得る。そのため、低α値のM1PAMは、コリン系副作用が低減される、及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)との優れた併用効果が期待される、アルツハイマー病、統合失調症(幻覚、妄想、妄想性障害、パラノイア、解体した会話、思考の論理プロセスの乱れ(例、散漫、無秩序、非論理的、又は奇妙)、及びその組み合わせからなる群から選択される陽性症状;引きこもり、無気力、感情の平板化、快感消失、社会的相互作用の欠如、意欲の低下、思考の硬直性又は堅さ、平担な情動又は情動鈍麻、明確な思考(concrete thoughts)の低下、動機付けの失敗、乏しい自発性、乏しいイニシアチブ及びその組み合わせからなる群から選択される陰性症状;注意の欠落、物の呼称能力の欠落、作業記憶の欠落、長期記憶の蓄積の欠落、実行能の欠落、情報処理の遅れ、神経活動の遅れ、長期うつ病、及びその組み合わせからなる群から選択される認知症状)、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症等の予防又は治療薬として使用することができる。
【0043】
従って、α値は、コリン系副作用が低減されたM1PAM、及び/又はアルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症等の予防又は治療においてアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)との優れた併用効果が期待されるM1PAMのスクリーニングのための指標として用いることができる。
【0044】
α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたM1PAMのスクリーニング方法には、以下に詳述する、(A)検出可能なAChを用いることを特徴とする方法、(B)検出可能なコリン作動性ムスカリンM1受容体アンタゴニスト(M1アンタゴニスト)を用いることを特徴とする方法、(C)検出可能なM1PAMを用いることを特徴とする方法等が含まれる。
【0045】
(A)検出可能なAChを用いることを特徴とするスクリーニング方法
本スクリーニング方法は、以下の工程:
(a) M1R又はその部分ペプチドと、試験化合物及び検出可能なAChとを接触させ、
(b) 試験化合物のα値を測定し、及び
(c) 低α値のM1PAMを選択すること
を含む。
【0046】
当該スクリーニング方法(A)において、α値は、下記のallosteric ternary complex model(数式(i))から計算することができる(Price, M.R. et. al., Mol. Pharmacol. 2005 Nov;68(5): 1484-95.)。
【0047】
【0048】
Yは特異的な結合の%であり;[A]及び[B]はそれぞれ検出可能なACh及び試験化合物の濃度であり;KA及びKBはそれぞれ検出可能なACh及び試験化合物の平衡乖離定数を表し;並びにαは試験化合物と検出可能なAChとの協同性である。1より大きい協同性の値は、ポジティブな協同性を表し(オルソステリックリガンド結合のアロステリック促進)、1より小さい協同性の値は、ネガティブな協同性を表す(オルソステリックリガンド結合のアロステリック阻害)。
【0049】
(B)検出可能なM1アンタゴニストを用いることを特徴とするスクリーニング方法
本スクリーニング方法は、以下の工程:
(a) M1R又はその部分ペプチドと、試験化合物、ACh及び検出可能なM1アンタゴニストとを接触させ、
(b) 試験化合物のα値を測定し、及び
(c) 低α値のM1PAMを選択すること
を含む。
【0050】
当該スクリーニング方法(B)において、α値は、下記のallosteric ternary complex model(数式(ii))からαABとして計算することができる(Davie, B.J. et. al., J. Med. Chem. 2014 Jun 26;57(12):5405-18.)。
【0051】
【0052】
Yは特異的な結合の%であり;[A]、[B]及び[C]はそれぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1アンタゴニストの濃度であり;KA、KB及びKCは、それぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1アンタゴニストの平衡乖離定数を表し;並びにαAB及びαBCは、それぞれ試験化合物とACh、試験化合物と検出可能なM1アンタゴニストの協同性である。1より大きい協同性の値は、ポジティブな協同性を表し(オルソステリックリガンド結合のアロステリック促進)、1より小さい協同性の値は、ネガティブな協同性を表す(オルソステリックリガンド結合のアロステリック阻害)。
【0053】
当該スクリーニング方法(B)において用いられるM1アンタゴニストとしては、特に限定されないが、例えばピレンゼピン、キヌクリジニル ベンジラート(QNB)、N-メチル スコポラミン、テレンゼピン、アトロピン、4-ジフェニルアセトキシ-N-メチルピペリジンメチオジド(4-DAMP)、8-[4-[3-[4-[3-[[4-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-8-イル)-1,2,5-チアジアゾール-3-イル]オキシ]プロプ-1-イニル]フェニル]プロプ-2-イノキシ]-1,2,5-チアジアゾール-3-イル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、8-[4-[3-[3-[3-[[4-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-8-イル)-1,2,5-チアジアゾール-3-イル]オキシ]プロプ-1-イニル]フェニル]プロプ-2-イノキシ]-1,2,5-チアジアゾール-3-イル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、ペンチルチオ-TZTP、8-[4-(3-フェニルプロプ-2-イノキシ)-1,2,5-チアジアゾール-3-イル]-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、キサノメリン、サブコメリン、アレカイジンプロパルギルエステル、N-[(1R,2R)-6-[1-[(4-フルオロフェニル)メチル-メチルアミノ]エチリデンアミノ]-2-ヒドロキシ-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-1-イル]-4-フェニルベンズアミド、4-(4-ブチルピペリジン-1-イル)-1-(2-メチルフェニル)ブタン-1-オン、オキソトレモリン、アレコリン、オキソトレモリン-M、オキソトレモリン、4-[(3-クロロフェニル)カルバモイルオキシ]but-2-イニル-トリメチルアザニウム クロリド、ピロカルピン、ミラメリン、メチルフルメチド、(2R)-2,8-ジメチル-3-メチリデン-1-オキサ-8-アザスピロ[4.5]デカン、2,8-ジメチル-3-メチリデン-1-オキサ-8-アザスピロ[4.5]デカン、カルバコール、フルトレトニウム、ベタネコール、プロパン-2-イル 4-[4-[(3aS,7aS)-2-オキソ-3a,4,5,6,7,7a-ヘキサヒドロ-3H-ベンゾイミダゾール-1-イル]ピペリジン-1-イル]-4-メチルピペリジン-1-カルボキシレート、メタコリン、(3S)-3-(アセチルオキシ)-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-1-イウム、[(8R)-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン-8-イル] アセテート、ブチルチオ-TZTPなどが挙げられる。好ましくは、ピレンゼピン、QNB、N-メチル スコポラミン、テレンゼピン、アトロピン、4-DAMPである。より好ましくは、ピレンゼピンである。これらのM1アンタゴニストは新規なものであってもよく、また公知のものであってもよい。
【0054】
(C)検出可能なM1PAMを用いることを特徴とするスクリーニング方法
本スクリーニング方法は、以下の工程:
(a) M1R又はその部分ペプチドと、試験化合物、検出可能なM1PAM及びAChとを接触させ、
(b) 試験化合物のα値を測定し、そして
(c) 低α値のM1PAMを選択すること
を含む。
【0055】
当該スクリーニング方法(C)において、α値は、下記のallosteric ternary complex model(数式(iii))からαABとして計算することができる。
【0056】
【0057】
Yは特異的な結合の%であり;[A]、[B]及び[C]は、それぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1PAMの濃度であり;KA、KB及びKCは、それぞれACh、試験化合物及び検出可能なM1PAMの平衡乖離定数を表し;並びにαAB及びαACは、それぞれAChと試験化合物、AChと検出可能なM1PAMの協同性である。1より大きい協同性の値は、ポジティブな協同性を表し(オルソステリックリガンド結合のアロステリック促進)、1より小さい協同性の値は、ネガティブな協同性を表す(オルソステリックリガンド結合のアロステリック阻害)。
【0058】
当該スクリーニング方法(C)において用いられる検出可能なM1PAMとしては、特に限定されないが、例えば WO 2013/129622、WO 2014/077401、WO 2015/174534、WO 2015/163485、WO 2015/190564、WO 2016/208775、WO 2017/069173又はPCT/JP2017/009529に記載のM1PAM;Benzyl quinolone carboxylic acid (BQCA)などが挙げられる。これらのM1PAMは新規なものであってもよく、また公知のものであってもよい。
【0059】
上記のスクリーニング方法(A)~(C)において、M1R又はその部分ペプチドは、単離されたM1R又はその部分ペプチドであってもよく、またM1R又はその部分ペプチドを産生する能力を有する細胞において発現しているものであってもよい。
【0060】
M1Rとしては、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と同一若しくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質が挙げられる。M1Rは、哺乳動物(好ましくはヒト)の細胞あるいは組織に由来するタンパク質であってもよく、また合成タンパク質であってもよい。
【0061】
配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。
【0062】
本発明の配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質としては、例えば、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号:2で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の活性(例、リガンド結合活性、シグナル情報伝達作用)を有するタンパク質が好ましい。
【0063】
M1Rは、好ましくは配列番号:2で表わされるアミノ酸配列からなるヒト由来M1Rである。
【0064】
M1Rの部分ペプチドとしては、例えば、上記したM1Rと部分的に同一のアミノ酸配列を有し、かつ実質的に同質の活性(例、リガンド結合活性、シグナル情報伝達作用)を有するペプチドが用いられる。部分ペプチドを構成するアミノ酸の数は、M1Rを構成するアミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上である。
【0065】
上記のスクリーニング方法(A)~(C)において、M1R又はその部分ペプチドは、それらを産生する細胞・組織から単離精製してもよいし、化学的に合成してもよいし、遺伝子工学的に組換えタンパク質として製造してもよい。
【0066】
当該M1R又はその部分ペプチドと、試験化合物等との接触は、例えば、水若しくは適当な緩衝液中で行うことができる。水又は緩衝液中の試験化合物の濃度は、試験化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM~約30,000nMの範囲で適宜選択される。接触の際にインキュベートを行ってもよい。インキュベート時間としては、例えば、約10分~約24時間が挙げられる。
【0067】
上記のM1R又はその部分ペプチドを産生する能力を有する細胞としては、それらを生来発現しているヒト若しくは他の哺乳動物細胞、又はそれを含む生体試料(例、血液、組織、臓器)であれば特に制限はないが、浮遊性細胞株(攪拌培養、振とう培養、旋回培養(例、旋回振とう培養)、マイクロキャリア培養又は無血清培地にて培養等を行い、浮遊状態で培養された接着性細胞を含む)(例、浮遊性HEK293細胞株)等が好ましく挙げられる。非ヒト動物由来の血液、組織、臓器等の場合は、それらを生体から単離して培養してもよく、またあるいは生体自体にM1PAMを投与し、一定時間経過後にそれら生体試料を単離してもよい。
【0068】
また、M1R又はその部分ペプチドを産生する能力を有する細胞としては、公知慣用の遺伝子工学的手法により作製された各種の形質転換体が例示される。当該手法で用いられる宿主としては、例えば、哺乳動物細胞、例えば、HepG2細胞、HEK293細胞(浮遊性HEK293細胞(例、FreeStyle 293細胞)を含む)、H4IIE-C3細胞、HeLa細胞、LNCaP-FGC細胞、PC-3細胞、DU-145細胞、ヒトFL細胞、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記する場合がある)(浮遊性CHO細胞(例、FreeStyle CHO細胞)を含む)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記する場合がある)、マウスL細胞、マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞、ラットH4IIE-C3細胞、ラットGH3細胞などが用いられ得る。また、宿主として、M1Rを生来発現していない細胞を用いることも出来る。
【0069】
形質転換体は、具体的には、M1RをコードするDNA(即ち、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA)を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結して宿主動物細胞に導入することにより調製することができる。
【0070】
M1RをコードするDNAは、例えば、配列番号:1で表されるヌクレオチド配列に基づいて、適当なオリゴヌクレオチドをプローブ若しくはプライマーとして合成し、前記したM1Rを産生する細胞・組織由来のcDNA若しくはcDNAライブラリーから、例えば、ハイブリダイゼーション法やPCR法を用いてクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring HarborLab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、当該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0071】
DNAのヌクレオチド配列は、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。例えば、クローニングされたDNAから、例えばTAU5領域等の、欠失させてもM1Rとしての機能を消失させない領域の一部若しくは全部を欠失させたり、あるいは一部の領域が欠失したM1RをコードするDNAに、当該欠失した領域の全部若しくは一部を挿入・付加したりすることができる。
【0072】
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、又は所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。当該DNAはその5'末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3'末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGA又はTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0073】
発現ベクターとしては、動物細胞発現プラスミド(例:pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo);λファージなどのバクテリオファージ;レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、レンチウイルスなどの動物ウイルスベクターなどが用いられる。プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであれば、いかなるものでもよい。例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0074】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点(以下、SV40 oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと略称する場合がある、メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子(以下、amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、チミジンを含まない培地によって目的遺伝子を選択することもできる。
【0075】
上記したM1R又は部分ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換することにより、コリン作動性ムスカリンM1受容体又は部分ペプチド発現細胞を製造することができる。
【0076】
形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより行うことができる。例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456 (1973)に記載の方法を用いることができる。
【0077】
上記のようにして得られる形質転換細胞や生来コリン作動性ムスカリンM1受容体又はその部分ペプチドを産生する能力を有する哺乳動物細胞又は該細胞を含む組織・臓器は、例えば、約5~20%の胎仔牛血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science,122巻,501(1952)〕,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology,8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199巻,519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕などの培地中で培養することができる。培地のpHは約6~8であるのが好ましい。培養は通常約30~40℃で行ない、必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0078】
上記のスクリーニング方法において、M1R又はその部分ペプチドと試験化合物等との接触は、例えば、M1Rを産生する能力を有する細胞を試験化合物等の存在下で培養することによっても実施することができる。
【0079】
上記のスクリーニング方法(A)~(C)において用いられる試験化合物としては、M1PAM活性を有するものであれば特に限定されないが、例えばタンパク質、ペプチド、抗体、非ペプチド性化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などの物質が挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよく、また公知のものであってもよい。試験化合物の具体例としては、WO 2013/129622、WO 2014/077401、WO 2015/174534、WO 2015/163485、WO 2015/190564、WO 2016/208775又はPCT/JP2017/009529などに記載のM1PAMが挙げられる。
【0080】
試験化合物の上記M1R又は部分ペプチド又はこれらを産生する細胞との接触は、例えば、上記の培地や各種緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液)の中に試験化合物を添加して、細胞を一定時間インキュベートすることにより実施することができる。添加される試験化合物の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM~約10000nM、好ましくは約1nM~約1000nMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約10分~約24時間が挙げられる。
【0081】
M1R又は部分ペプチドを産生する細胞が、非ヒト哺乳動物個体の形態で提供される場合、該個体の状態は特に制限されないが、例えば、M1R又は部分ペプチドのタンパク質コード配列(CDS)を含む核酸を、発現可能な形態で導入されたトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いることができる。当該トランスジェニック動物は常法により作製することができる。
【0082】
使用される動物の飼育条件に特に制限はないが、SPFグレード以上の環境下で飼育されたものであることが好ましい。試験化合物の該細胞との接触は、該個体への試験化合物の投与によって行われる。投与経路は特に制限されないが、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、経口投与、気道内投与、直腸投与等が挙げられる。投与量も特に制限はないが、例えば、1回量として約0.5~20 mg/kgを、1日1~5回、好ましくは1日1~3回、1~14日間投与することができる。
【0083】
上記のスクリーニング方法(A)~(C)において、検出可能なACh、検出可能なコリン作動性ムスカリンM1受容体アゴニスト又は検出可能なM1PAM(以下、検出可能な物質と略記する場合がある)の測定法としては、標識物質を用いる測定法と標識物質を用いない測定法がある。
【0084】
本発明において「検出可能(detectable)」とは、標識物質を用いる測定法、標識物質を用いない測定法等を用いて、検出可能な物質とM1R又はその部分ペプチドとの結合を検出することができることを意味する。
【0085】
標識物質を用いる測定法としては、標識剤として、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などを用いる方法が挙げられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。好ましくは、放射性同位元素が用いられる。
【0086】
標識物質を用いない測定法としては、Surface plasmon resonance (SPR)法(Chu, R. et. al., Sci. Rep. 2014 Dec 8;4:7360.)、ASMS法 (Whitehurst, C.E. et. al., J. Biomol. Screen. 2006 Mar;11(2):194-207)、Back-Scattering Interferometry (BSI)法 (Molecular Sensing社、Baksh, M.M. et.al., Nat Biotechnol. 2011 Apr;29(4):357-60.)、Nuclear Magnetic Resonance (NMR)法、Isothermal Titration Calorimetry (ITC)法が挙げられる。
【0087】
例えば、上記のスクリーニング方法(A)~(C)において、それぞれ数式(i)~(iii)から計算される、試験化合物のα値が、約0より大きく約1,000以下、好ましくは約0より大きく約800以下、より好ましくは約0より大きく約500以下である場合、該試験化合物を、低α値のM1PAMとして選択することができる。別の実施態様では、該験化合物のα値が、約1より大きく約1,000以下、好ましくは約1より大きく約800以下、より好ましくは約1より大きく約500以下である場合、該試験化合物を、低α値のM1PAMとして選択することができる。さらに別の実施態様では、該験化合物のα値が、約10以上約1,000以下、好ましくは約10以上約800以下、より好ましくは約10以上約500以下である場合、該試験化合物を、低α値のM1PAMとして選択することができる。このように選択される低α値のM1PAMは、コリン系副作用の低減されたM1PAMである。
【0088】
(2)低α値を有するM1PAMを用いた治療方法
【0089】
本発明の治療方法において、低α値とは、約0より大きく約1,000以下、好ましくは約0より大きく約800以下、より好ましくは約0より大きく約500以下のα値を意味する。別の実施態様では、低α値とは、約1より大きく約1,000以下、好ましくは約1より大きく約800以下、より好ましくは約1より大きく約500以下のα値を意味する。さらに別の実施態様では、低α値とは、約10以上約1,000以下、好ましくは約10以上約800以下、より好ましくは約10以上約500以下のα値を意味する。これらのα値は、実施例4の結合アッセイ及び実施例9のデータ分析に記載の方法、あるいはこれらに準じた方法により測定されたα値である。
【0090】
本発明の治療方法において用いられる「低α値のM1PAM(本明細書中、「本発明化合物」と略記する場合がある)」としては、例えば、WO 2013/129622、WO 2014/077401、WO 2015/174534、WO 2015/163485、WO 2015/190564、WO 2016/208775、PCT/JP2017/009529等に記載された化合物が挙げられる。上記スクリーニング方法(A)~(C)により選択される、低α値のM1PAMも本発明化合物に含まれる。本発明化合物は、好ましくは、1,5-アンヒドロ-2,3-ジデオキシ-3-({[5,8-ジフルオロ-1-(4-メトキシベンジル)-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)-DL-threo-ペンチトール、5,8-ジフルオロ-N-[(1,2-trans)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]-1-(4-メトキシベンジル)-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミド、8-フルオロ-N-[(1,2-trans)-2-ヒドロキシシクロペンチル]-4-オキソ-1-[4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル]-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミド、1-[4-(1,3-ジメチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル]-N-[(1,2-trans)-2-ヒドロキシシクロペンチル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミド、2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-((テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)イソインドリン-1-オン、3-フルオロ-2-((2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-3-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-4-イル)オキシ)ベンゾニトリル、4-((2,4-ジフルオロベンジル)オキシ)-6-(4-(1-メチル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)ベンジル)-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-d]ピリミジン-5-オン、4-((4-(2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)-3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-ピロロ[3,4-c]ピリジン-2-イル)メチル)ベンズアミド、 4-(2,2-ジフルオロエトキシ)-2-(4-(1,3-ジメチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-1,2-ジヒドロ-3H-ピロロ[3,4-c]ピリジン-3-オン、4-(2,2-ジフルオロプロポキシ)-6-(4-(1,3-ジメチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-d]ピリミジン-5-オン、4-(2,2-ジフルオロプロポキシ)-6-(4-(1,3-ジメチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-フルオロベンジル)-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-d]ピリミジン-5-オン、2-[(3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]-6-(4-メトキシベンジル)-4,5-ジメチル-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1-オン、4-フルオロ-2-[(3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]-5-メチル-6-[4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル]-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1-オン、2-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロヘキシル)-4,5-ジメチル-6-((6-メチルピリジン-3-イル)メチル)イソインドリン-1-オン、8-フルオロ-3-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロペンチル)-7-メチル-6-((6-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン-3-イル)メチル)-2,3-ジヒドロ-4H-1,3-ベンゾオキサジン-4-オン、8-クロロ-6-((6-クロロピリジン-3-イル)メチル)-3-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロペンチル)-7-メチル-2,3-ジヒドロ-4H-1,3-ベンゾオキサジン-4-オン、3-(trans-2-ヒドロキシシクロヘキシル)-7-メチル-6-((6-メチルピリジン-3-イル)メチル)-2,3-ジヒドロ-4H-1,3-ベンゾオキサジン-4-オン、3-((3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル)-7-メチル-6-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)ベンジル)-2,3-ジヒドロ-4H-1,3-ベンゾオキサジン-4-オン、 N-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロペンチル)-5-メチル-4-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)ベンジル)ピリジン-2-カルボキサミド、N-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロペンチル)-5,6-ジメチル-4-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)ベンジル)ピリジン-2-カルボキサミド、N-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロヘキシル)-5,6-ジメチル-4-((6-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)メチル)ピリジン-2-カルボキサミド等の化合物又はその塩である。
【0091】
ここで、塩としては、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩が挙げられる。
無機塩基との塩の好適な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アンモニウム塩が挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン]、tert-ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチレンジアミンとの塩が挙げられる。
無機酸との塩の好適な例としては、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸、リン酸との塩が挙げられる。
有機酸との塩の好適な例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン、リジン、オルニチンとの塩が挙げられる。
酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸との塩が挙げられる。
これらの塩のなかでも、薬学的に許容し得る塩が好ましい。
【0092】
本発明化合物は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト)に対して、例えば、アルツハイマー病、統合失調症(幻覚、妄想、妄想性障害、パラノイア、解体した会話、思考の論理プロセスの乱れ(例、散漫、無秩序、非論理的、又は奇妙)、及びその組み合わせからなる群から選択される陽性症状;引きこもり、無気力、感情の平板化、快感消失、社会的相互作用の欠如、意欲の低下、思考の硬直性又は堅さ、平担な情動又は情動鈍麻、明確な思考(concrete thoughts)の低下、動機付けの失敗、乏しい自発性、乏しいイニシアチブ及びその組み合わせからなる群から選択される陰性症状;注意の欠落、物の呼称能力の欠落、作業記憶の欠落、長期記憶の蓄積の欠落、実行能の欠落、情報処理の遅れ、神経活動の遅れ、長期うつ病、及びその組み合わせからなる群から選択される認知症状)、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体型認知症等の疾患の予防又は治療薬として有効である。
【0093】
統合失調症の陰性症状は、さらに一次陰性症状(原発性陰性症状)及び二次陰性症状(続発性陰性症状)に細分することができる。一次陰性症状には、薬物療法の副作用、精神病後抑うつ又は堕落によってよりよく説明される症状は含まれない。一実施態様として、本発明化合物は、哺乳動物に対して、情動の平坦化(感情の不動、不応答、乏しいアイコンタクト、限られた体の動き)、アロギー、意欲消失、快感消失、不快な気分(抑うつ、不安及び怒り)、睡眠パターンの乱れ(日中の睡眠、情動不安/夜間活動)、異常な精神運動活動(歩調合せ、ロッキング、無関心的不動)、洞察力の欠如から選ばれる群より選択される統合失調症一次陰性症状又は統合失調症二次陰性症状の予防又は治療薬として有効である。
【0094】
一実施態様として、本発明化合物は、哺乳動物に対して、統合失調症-関連疾患、統合失調症スペクトラム障害、急性統合失調症、慢性統合失調症、NOS統合失調症、統合失調情動障害、統合失調症様障害、パラフレニー、妄想性パーソナリティー障害、スキゾイドパーソナリティー障害、統合失調型パーソナリティー障害、妄想性障害、精神病、精神病の要素を有する疾病、精神病性障害、短期精神病性障害、アルツハイマー病性精神病、パーキンソン病性精神病、共有精神病性障害、妄想型、解体型、緊張型、鑑別不能型、及び/又は残遺型の統合失調症、及び統合失調症様障害の予防又は治療薬として有効である。
【0095】
本発明化合物は、優れたM1PAM活性を有するので、上記疾患に対して優れた予防・治療効果が期待できる。
【0096】
本発明化合物は、毒性が低く、かつ副作用も少ない等の医薬品として優れた性質を有するので、哺乳動物に対して、経口的、又は非経口的に安全に投与できる。「非経口」には、静脈内、筋肉内、皮下、臓器内、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、膣内、腹腔内、腫瘍内部、腫瘍の近位などへの投与及び直接的な病巣への投与を含む。
【0097】
本発明化合物の投与量は、投与対象、投与ルート、症状によっても異なり、特に限定されないが、例えばアルツハイマー病の成人患者(体重40~80kg、例えば60kg)に経口投与する場合、当該化合物として、例えば1日0.001~1,000mg/kg体重、好ましくは1日0.01~100mg/kg体重、好ましくは1日0.1~10mg/kg体重である。別の実施態様として、例えば1日0.01~1,000mg、好ましくは1日0.1~200mg、より好ましくは1日1~20mgである。この量を1日1回~3回に分けて投与することができる。
【0098】
本発明化合物を含有する医薬(本明細書中、「本発明の医薬」と略記する場合がある)は、医薬製剤の製造法として自体公知の方法(例、日本薬局方記載の方法)に従って、本発明化合物を単独で、又は当該化合物と薬理学的に許容される担体とを混合した医薬組成物として使用することができる。本発明の医薬は、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠、舌下錠、口腔内崩壊錠、バッカル錠等を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、トローチ剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、放出制御製剤(例、速放性製剤、徐放性製剤、徐放性マイクロカプセル剤)、エアゾール剤、フィルム剤(例、口腔内崩壊フィルム、口腔粘膜貼付フィルム)、注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、経皮吸収型製剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、坐剤(例、肛門坐剤、膣坐剤)、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)、点眼剤等の医薬組成物として、経口的又は非経口的(例、静脈内、筋肉内、皮下、臓器内、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、膣内、腹腔内、病巣等)に安全に投与することができる。
【0099】
前記の「薬理学的に許容される担体」としては、製剤素材(starting material)として慣用されている各種の有機あるいは無機担体が用いられる。例えば、固形製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤等が用いられ、液状製剤においては、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、及び無痛化剤等が用いられる。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることもできる。
【0100】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸が挙げられる。
【0101】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカが挙げられる。
【0102】
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられる。
【0103】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L-ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0104】
溶剤としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油が挙げられる。
【0105】
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0106】
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子が挙げられる。
【0107】
等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールが挙げられる。
【0108】
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液が挙げられる。
【0109】
無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコールが挙げられる。
【0110】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸が挙げられる。
【0111】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロールが挙げられる。
【0112】
本発明の医薬中の本発明化合物の含量は、通常0.01~100%(w/w)、好ましくは0.1~95%(w/w)である。
【0113】
本発明化合物は、また上記疾患の予防・治療効果に加えて、低α値に起因するコリン系副作用低減効果も、同時に期待できる。
【0114】
本発明化合物は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤と併用される。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤としては、好ましくは、ドネペジル(塩酸ドネペジルを含む)、リバスチグミン、ガランタミンが挙げられる。より好ましくは、ドネペジル(塩酸ドネペジルを含む)、リバスチグミンが挙げられる。さらに好ましくは、ドネペジル(塩酸ドネペジルを含む)が挙げられる。以下、本発明化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を併用することを「本発明における併用」と称する。
【0115】
本発明における併用では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の投与量を、その単独投与量と比べて低減することができる。
【0116】
本発明における併用では、本発明化合物及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤をそれぞれ単独で使用する場合と比べて、上記疾患の予防・治療効果において、優れた効果が得られる。このような効果は、両薬剤の相加効果を超える効果、すなわち相乗効果である。
【0117】
また、本発明における併用では、本発明化合物又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の単独使用では上記疾患の予防・治療効果が十分に得られない程度に少ない投与量でも、当該効果を十分に得ることができる。すなわち、本発明における併用では、両薬剤の薬効用量を実質的に低減することができる。
【0118】
さらに、上述の併用によるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の投与量の低減及び優れた相乗効果により、アルツハイマー病などの疾患の治療の際に、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤投与中(あるいは投与後)の患者で発生するコリン系副作用を低減でき、あるいは将来アセチルコリンエステラーゼ阻害剤投与に起因するコリン系副作用が発生する可能性がある患者についても、コリン系副作用の発生を抑制することができる。
【0119】
本発明の併用では、本発明化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。本発明の併用の好適な態様では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が哺乳動物(好ましくはヒト)に投与された後に、該哺乳動物に本発明化合物が投与される。本発明の併用のさらに好適な態様では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が哺乳動物(好ましくはヒト)に投与され、該哺乳動物でコリン系副作用(好ましくは下痢)が発生した(あるいは観察された)後に、該哺乳動物に本発明化合物が投与される。
【0120】
本発明の併用での投与形態は、特に限定されず、投与時に、本発明化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、(1)当該化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)当該化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)当該化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)当該化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)当該化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、本発明化合物;アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)などが挙げられる。
【0121】
本発明の併用では、本発明の医薬と同様に、本発明化合物又は(及び)アセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを薬理学的に許容され得る担体とを混合した医薬組成物として使用することができ得る。
【0122】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択し得る。本発明化合物の投与量は、投与対象、投与ルート、症状によっても異なり、特に限定されないが、例えばアルツハイマー病の成人患者(成人、体重40~80kg、例えば60kg)に経口投与する場合、当該化合物として、例えば1日0.001~1,000mg/kg体重、好ましくは1日0.01~100mg/kg体重、好ましくは1日0.1~10mg/kg体重である。別の実施態様として、例えば1日0.01~1,000mg、好ましくは1日0.1~160mg、より好ましくは1日0.3~15mgである。ドネペジルとしては、例えば1日0.3~23mgである。リバスチグミンとしては、例えば1日0.3~18mgである。ガランタミンとしては、例えば1日0.3~24mgである。この量を1日1回~3回に分けて投与することができる。
【0123】
本発明化合物とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、組み合わせ等により適宜選択し得る。
【実施例】
【0124】
本発明は、非限定的な本発明の実施態様の実例を提供する、以下の実施例を参照することにより、より完全に理解される。
【0125】
実施例1:動物
雄性のICRマウスは、CLEA Japan Inc. (Tokyo, Japan)により供給され、6~17週齢で使用した。C57BL/6-Chrm-1tm1 Stl/J WTマウス及びKOマウスは、マサチューセッツ工科大学(Cambridge, MA)から入手し、8ヶ月齢で使用した。これらの動物は、少なくとも1週間の馴化後、実験に使用した。全てのマウスを光調節された飼育室(午前7:00に点灯する、12時間の明/暗サイクル)内で飼育した。飼料と水を自由に与えた。
【0126】
実施例2:試薬
[3H]-ピレンゼピンはPerkinElmer (Waltham, MA)から入手した。実験で用いた他の試薬は、特記しない限り、Tocris Bioscience (Minneapolis, MN)から購入した。M1PAM (7-(((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロヘキシル)オキシ)-2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)ベンジル)イソインドリン-1-オン (以下、本明細書中「化合物A」と略記する場合がある)、3-フルオロ-2-((2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-3-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-4-イル)オキシ)ベンゾニトリル (以下、本明細書中「化合物B」と略記する場合がある)、3-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロヘキシル)-6-((6-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン-3-イル)メチル)ベンゾ[h]キナゾリン-4(3H)-オン (以下、本明細書中「化合物C」と略記する場合がある)、2-(2-フルオロフェニル)-5-(4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル)-2,5-ジヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-3-オン (以下、本明細書中「化合物E」と略記する場合がある)、2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-(2-(ピペリジン-1-イル)エトキシ)イソインドリン-1-オン (以下、本明細書中「化合物F」と略記する場合がある)、2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-(1H-ピラゾール-5-イル)イソインドリン-1-オン(以下、本明細書中「化合物G」と略記する場合がある))を、0.5% (w/v)メチルセルロース (MC)となるように蒸留水で懸濁し、経口投与した。スコポラミン臭化水素酸塩を、生理食塩水中で溶解し、皮下に投与した。in vivoでの実験で使用した全ての化合物を、マウスに対し体重1kg当たり10又は20 mLの量で投与した。in vitroでのマグヌスアッセイでは、化合物をジメチルスルホキシド (DMSO)中に溶解した。化合物A、化合物B、化合物F及び化合物Gは、WO2014/077401に記載の製造法、参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。化合物Cは、WO 2010/059773に記載の参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。化合物Eは、WO 2011/049731に記載の参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。
【0127】
実施例3:マグヌスアッセイ
終夜絶食した後、マウスを断頭により屠殺した。回腸を速やかに摘出し、氷冷したKrebs液(120.7 mM NaCl、5.9 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1.2 mM MgCl2、15.5 mM NaHCO3、1.2 mM NaH2PO4及び11.5 mM グルコース)中に浸漬した。縦方向に回腸を10~15mmの長さに切り出し、腸間膜及び脂肪組織を分離し、95% O2/5% CO2でエアレーションした、10 mLのKrebs液を含むオーガンバスにマウントした。バス温度を37℃に維持した。単離した回腸に0.5gの荷重を与えた。アイソメトリックトランスデューサー(MLT050/A, ADInstruments, New South Wales, Australia)及び記録計(PowerLab 8/30 ML870 and Octal Bridge Amp ML228, ADInstruments)を用いて、単離した回腸の収縮応答を連続的に記録した。
【0128】
単離した回腸の両側に、白金電極 (3-20 mm apart, Iwashiya Kishimoto Medical Instruments, Kyoto, Japan)をマウントした。電極を電気刺激装置(SEN-3401, Nihon Kohden, Tokyo, Japan)、及び矩形波パルス(電極上20V、パルス幅50 ms及び周波数20 Hz)のEFS増幅器 (SEG-3104, Nihon Kohden)に接続し、パルス列を10秒間続け、20秒間停止した。
【0129】
EFSにより、維持された強直収縮が生成され、その後続いて弛緩が起きた。収縮を、ベースラインからの最大の強度で測定した。最大収縮における試験化合物の影響を測定した。各実験の開始時に、収縮応答の安定性を確認するために、1時間以上、一連のEFSサイクルを適用した。試験化合物の作用を調べる試験には、1時間のEFSにより誘発した収縮応答で安定性を示した回腸を使用した。
【0130】
EFSに対する応答が定常状態に到達した後、その後の投与間には洗浄を行わずに、化合物をマグヌスバスに累積的に添加した。隣接する2つの投与間の間隔は常に、少なくとも5分とし、化合物の各濃度において、単離した回腸に少なくとも10回電気刺激を加えた。化合物処置を全て累積した後、バスを3回洗浄し、回腸を更に30分間静置させた。10応答分の最大強度の平均値から、EFS誘発回腸収縮における化合物の各濃度の影響を計算した。次いで、濃度-応答曲線を作成するために、DMSO (溶媒)の前処置時に得られた最大収縮の平均値に対する比(%)として、回腸収縮応答を表した。弛緩応答は非常に小さかったために、それらに対する化合物の影響は分析しなかった。
【0131】
実施例4:結合アッセイ
結合アッセイを96ウェルプレート中で行った。アッセイバッファー (20 mM HEPES、100 mM NaCl、10 mM MgCl2、0.1%脂肪酸フリーBSA)中で、一過的にヒトM1Rを発現したFreeStyle 293細胞由来の細胞膜を、試験化合物、ACh、及び4nM[3H]-ピレンゼピンを含むアッセイバッファー(20mM HEPES、100mM NaCl、10mM MgCl2、0.1%脂肪酸フリーのウシ血清アルブミン(BSA))と共にインキュベートした。室温で2時間インキュベートした後、セルハーベスター(PerkinElmer)を用いて細胞膜をGF/Cフィルタープレート(PerkinElmer, Massachusetts, USA)に移し、300 μLの50 mM Tris-HClで5回洗浄した。次いで、GF/Cプレートを42℃で乾燥させた。25 μLのMicroScint 0 (PerkinElmer)を添加し、TopCount (PerkinElmer)により放射能を測定した。10 μMアトロピンの存在下で、非特異的な結合を定義した。
【0132】
実施例5:実験におけるCa2+流動アッセイ
ヒトM1R (hM1R-CHO)を安定して発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO-K1)細胞を、壁面が黒の384ウェルクリアボトムプレート(5,000細胞/ウェル)に播種し、10% FBS及び100 U/mLペニシリン-ストレプトマイシンを補充したHam's F-12培地中で、5% CO2存在下で、終夜37℃で培養した。翌日、培地を除去し、2.5 μg/mL Fluo-4 AM及び1.25 mMプロベネシドを含むアッセイバッファー (20 mM HEPES、0.1%脂肪酸フリーのBSAを含むHank's緩衝塩類溶液)を用いて、5% CO2存在下で、30分間37℃でインキュベートした。室温で30分インキュベートした後、化合物を用いて細胞を刺激した。本実験においては、ACh及び各PAMを同時に細胞に添加した。蛍光イメージングプレートリーダー (FLIPR)Tetraシステム(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を使用して、カルシウム流動を測定した。
【0133】
実施例6:下痢の詳細な評価
実験日に、マウスをランダムに4群に分けた(n=6~9)。マウスを個別のケージに移し、1時間以上馴化させた。溶媒(10若しくは20 mL/kg)、又は化合物A (3、10若しくは30 mg/kg, p.o.)、化合物B (10、30、100、300若しくは1,000 mg/kg, p.o.)若しくは化合物C (10 mg/kg, p.o.)を含む各化合物の単一用量のいずれかを、各マウスに投与した。動物をモニターし、投与後0.5、1、2、4及び6時間で、下痢の重篤度をスコア化した。0~3の任意のスコア化基準を用いて下痢を評価した:0、健常なペレット;1、湿っているが形がある糞;2、膨張した又は粘液性の糞;3、重度の水様の下痢。観測中の最大スコアを採用した。
【0134】
実施例7:定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)分析
in vivoでの薬物動態 (PD)マーカー解析のために、化合物A又は化合物Bの投与後90分で、断頭によりマウスを屠殺した。海馬組織を脳から単離した。RNA抽出まで、これらの組織を-80℃で保存した。QIAzol Lysis Reagent及びRNeasyキット (Quiagen, Hilden, Germany)を用いて、製造業者の指示に従い、個々の組織からトータルRNAを抽出した。ABI PRISM 7900HTシーケンス検出装置 (Life Technologies, Bedford, MA)及びTaqMan試薬 (Eurogentec, Seraing, Belgium)を用いて、RT-PCRを行った。製造業者の指示に従って、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH) mRNA転写産物を用いて、RNA定量を標準化した。マウス Arc分析のために、以下のプライマーを用いた:フォワードプライマー、5'-AGCTGAAGCCACAAATGCAG-3’(配列番号:3);リバースプライマー、5’-CTGAGTCACGGAGCTGAGC-3’(配列番号:4);TaqManプローブ、5'-AGACCTGACATCCTGGCACCTCCTGG-3’(配列番号:5)。マウス Gapdh分析に使用したプライマーは、ABI (Applied biosystems-Life Technologies, Waltham, MA)から購入したTaqMan Rodent GAPDH Control Reagent、VICプローブであった。
【0135】
実施例8:マウスでのY迷路課題
Y迷路装置は、全てのアーム間で等しい角度の3本のアームの迷路を備え、黒色のアクリル製であった。各アームは、40 cm長、4 cm幅及び12 cm壁からなった。Y迷路を防音室に設置し、照度を10 ルクスに設定した。試験の60分前に、化合物B (10又は30 mg/kg)及び化合物A (1、3又は10 mg/kg)を経口投与した。30分後、スコポラミン (0.3又は1 mg/kg、臭化水素酸塩、s.c.)を投与することにより、記憶障害を誘発した。スコポラミンの投与後30分で、マウスをY迷路に進入させ、自発的交替行動(alternation)を視覚的に5~8分間評価した。各動物で1回の試行を行った。4本の足が全て、Y迷路の中央からアーム通路の3分の1以上進入した場合、マウスはアームに入っていると判定した。交替行動を、重なり合った三つ組セットにおいて3本の各々のアームへの連続的な進入で定義し、可能な交替行動(アームへの総進入数-2)に対する実際の(総交替行動)の比×100に準拠して、交替行動率を%で表した。マウスのアームへの総進入数が10回未満の低い探索行動を示した場合、そのデータを解析から除外した。交替行動率を有意に下げるため、スコポラミン(0.3又は1 mg/kg)の投与量を調整した。
【0136】
実施例9:データ解析
全データをGraphPad Prism 5ソフトウェア (GraphPad Software Inc., California, USA)を用いて分析した。放射性リガンド結合データを、以下のallosteric ternary complex modelにグローバルフィットさせた:
【0137】
【0138】
Yは特異的な結合の%であり;[A]、[B]及び[C]は、それぞれACh、アロステリックモジュレーター及び[3H]-ピレンゼピンの濃度であり;KA、KB及びKCは、それぞれACh、アロステリックモジュレーター及び[3H]-ピレンゼピンの平衡乖離定数を表し;並びにαAB及びαBCは、それぞれアロステリックモジュレーターと、ACh又は[3H]-ピレンゼピンの協同性である。1より大きい協同性の値は、ポジティブな協同性を表し(オルソステリックリガンド結合のアロステリック促進)、1より小さい協同性の値は、ネガティブな協同性を表す(オルソステリックリガンド結合のアロステリック阻害)。M1PAMとAChの機能的相互作用は、以下のアロステリック操作モデルに全体的に適合した (Nat Rev Drug Discov. 2009;8(1): 41-54、及びTrends Pharmacol Sci. 2007;28(8): 382-9)。
【0139】
【0140】
薬理効果とEmaxは、最大の可能な効果を表し;[A]及び[B]は、それぞれAChとPAMの濃度であり;KA及びKBは、それぞれAChとPAMの平衡乖離定数を表し;τA及びτBは、それぞれAChとPAM効能の操作可能な測定値を表し;αはAChとPAMの結合協同性であり (M1Rに対するAChの親和性を促進する指標);βはAChシグナル伝達効能におけるPAMのアロステリック効果の強度であり;nは勾配係数を表す。機能的なデータの分析のために、各PAMの平衡乖離定数、及びAChと各PAMの協同性を、結合実験で決定したものに固定した。
【0141】
実施例10:統計
実験結果は、平均値±平均値の標準誤差(S.E.M.)で表した。α水準0.05でのAspin-WelchのT検定により2群間の統計的有意差を評価した。試験化合物の複数用量の影響を試験した実験において、分散の均質性を試験するために使用したBartlett検定を用いて影響を分析し、続けてWilliamsの両側検定 (パラメトリックデータについては、Bartlett検定によりP > 0.05)又はShirley-Williamsの両側検定 (非パラメトリックデータについては、Bartlett検定によりP≦0.05)を行った。EXSUS (Ver.8.0.0, CAC EXICARE Corporation, Tokyo, Japan)を用いてデータを分析し、統計的有意をP≦0.05に設定した。
【0142】
実施例11:野生型 (WT)及びM1Rノックアウト (KO)マウスにおける下痢への化合物Cの影響
M1PAMによる下痢誘発がM1R活性化に起因するか否かを決定するために、WT及びM1R KOマウスの両方に選択的M1PAMである化合物Cを経口投与した。WTマウスにおいては、化合物Cは10 mg/kgで下痢を誘発したが、M1R KOマウスにおいては誘発しなかった(
図1)。それゆえ、化合物Cを含むM1PAMは、げっ歯類においてはM1R活性化を介して下痢を誘発する。
【0143】
実施例12:回腸収縮とM1PAMパラメーターの関連性
細胞外環境(例えばM1R周囲のACh濃度等)は、脳と末端組織では異なっており、異なる特徴を有する各M1PAMは、体内で組織毎に異なった効果を発揮し得る。それゆえ、回腸収縮と関連する、カギとなるM1Rモジュレーションパラメーターを探索することとした。最初に、in vitroでの機能解析のために、他のムスカリンサブタイプよりも100倍以上の選択性を有する7つのM1PAMを選択した(表1)。次いで、これらのM1PAMの様々なM1PAMパラメーターを、in vitroでの結合モジュレーションアッセイを使用して評価した(表1~2)。次に、マグヌスアッセイを使用して、回腸収縮応答におけるこれらの化合物の影響を検討した。コントロール条件と比べて、回腸収縮レベルは93~116%であった(表2)。回腸収縮応答と様々なM1PAMパラメーターとの相関を調べた。pIP、log α又はlog βと1 μMでの回腸収縮増強のPearsonの相関分析の結果を
図2に示す。pIPとlog βはいずれも、増強したレベルの回腸収縮と相関を示さなかった(
図2A、r=0.4979、P=0.2555、
図2C、r=-0.5505、P=0.2004)。興味深いことに、log αは、0.80より大きい相関係数であり、回腸収縮応答と有意に相関した(
図2B、r=0.8075、P=0.0281)。
【0144】
【0145】
内在性リガンドAChの最大応答の50%の活性を誘導するEC50は、AChなしの条件下でのM1Rに対するアゴニスト活性を反映する。変曲点(IP)は、AChの最大応答の20%の活性を誘導する低濃度のACh(EC20)存在下において、M1PAMを適用した際の、各M1~M5Rに対するPAMの活性を反映する。M1Rに対するin vitroでの各パラメーターの結果は、3回の独立した実験の平均値とS.E.M.で表す。N/Aは、「該当なし」を意味する。PAMはポジティブアロステリックモジュレーターを意味する。(表1)。
【0146】
【0147】
オルソステリックリガンドの結合及びシグナル伝達におけるM1PAMのアロステリック効果は、それぞれα値及びβ値により反映される。KB値はフリーM1Rに対するPAMの親和性を意味する。τBは系における内因性アゴニスト活性を表す。マグヌスアッセイにおいては、単離したマウス回腸にEFSを加えた上で、PAM投与 (1 μM)による回腸収縮の増強率を示す。in vitroでの結合パラメーターの結果は、3回の独立した実験の平均値とS.E.M.で表される。in vitroでのマグヌスアッセイの結果は、1群当たりn=3~11の、平均値とS.E.M.で表される。N/Aは、「該当なし」を意味する(表2)。
【0148】
実施例13:マウスの認知機能と下痢に対する低α値化合物 (化合物B)の影響
より小さいα値のM1PAMの詳細なプロファイルを評価するために、log αが1.18 (α=16)の化合物Bを代表化合物として選択した(
図3-A、表2)。化合物Bは1 μMまででEFS誘発回腸収縮に影響を与えなかった(
図3-B)。この結果から予想されたように、化合物Bは1000 mg/kgまでで重篤な下痢を誘発しなかった (
図3-C、
図3-D);この化合物は、より高い投薬量では薬物動態が線形性を示さず、1000 mg/kgの血漿濃度は、30 mg/kgの時よりも3.6倍しか高くなかった(表3)ことを示す。認知機能課題のための投薬量を選択するために、Arc mRNAの発現誘導をM1R活性化に対するPDマーカーとして使用した;BQCAはM1R活性化により脳内のArc mRNA発現レベルを上昇させることが報告されている(Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America. 2009;106(37): 15950-5)。化合物Bは10~100 mg/kgで、マウス海馬内のArc mRNA発現レベルを約2倍に増加させた(
図3-E)。この結果から、10及び30 mg/kgの用量を、マウスでのスコポラミン誘発認知障害に対する薬効評価のために選択した。30 mg/kgの化合物Bは、5分の測定条件下で、マウスのY迷路課題におけるスコポラミン誘発認知機能障害を有意に改善した (
図3-F)。それゆえ、低α値のM1PAMは、何ら下痢の兆候を呈さずに認知機能障害を改善することができ得ることを示す。
【0149】
【0150】
30及び1000 mg/kgでの化合物Bの血漿中濃度。経口投与の0.5、1、2、4及び6時間後、血漿サンプルを採取した。結果は平均値を表す。1群当たり、n=3。
【0151】
実施例14:マウスの認知機能と下痢誘発に対する高α値化合物 (化合物A)の影響(比較例)
次に、高α値の代表化合物として化合物Aを選択した(
図4-A);化合物Aは3.30のlog α (α=2371)を有する(表2)。予想されたように、化合物A (0.1 nM~1 μM)は、in vitroマグヌスアッセイにおいて濃度依存的なEFS誘発回腸収縮の増強を引き起こし、この増強は1 nMのテレンゼピンにより抑制された (
図4-B)。この結果と一致して、化合物Aは10及び30 mg/kgで、マウスにおいて重篤な下痢を引き起こした(図-4C)。化合物Aは、用量依存的にArc mRNAの発現レベルを上昇させ、マウスでは30 mg/kgで有意な増加を示した(
図4-D)。次いで、Y迷路課題でのスコポラミン誘発認知機能障害を用いて、マウスにおける認知機能改善を評価した。5分間の測定条件下においては、スコポラミンは、有意な自発的交替行動率の減少を引き起こさなかったが、10 mg/kgの化合物Aはスコポラミン誘発認知機能障害を改善する傾向を示した (
図4-E)。測定時間を8分間に延長した場合、スコポラミン投与は顕著な認知機能障害を誘発し、10 mg/kgの化合物Aは、マウスにおけるY迷路課題でスコポラミン誘発性の自発的交替行動率の低下を有意に改善した (
図4-F)。
【0152】
実施例15:動物
in vivo IP1アッセイ及び新奇物体認知課題において、雄性のLong Evansラット (日本エスエルシー株式会社, Hamamatsu, Japan)を使用した。副作用の評価のために、雄性のSprague-Dawleyラットを、日本チャールス・リバー株式会社 (Yokohama, Japan)から購入した。全てのラットは、6~9週齢の時に使用した。in vitro マグヌスアッセイでは、雄性のICRマウス (日本クレア株式会社, Tokyo, Japan)を7~9週齢で使用した。電気生理学実験のために、雄性のC57BL/6Jマウス (日本クレア株式会社)を4~10週齢で使用した。C57BL/6-Chrm-1tm1 Stl/J野生型マウス及びM1R KOマウスは、マサチューセッツ工科大学(Cambridge, MA)から入手し、8ヶ月齢で使用した。全ての動物は、7:00に点灯する12時間の暗/明サイクルの、温度及び湿度を調整した飼育室にて群飼した。餌料と水を自由に与えた。全ての動物は、使用前の少なくとも1週間、施設に馴化飼育した。本研究で使用した動物のケア及び使用並びに実験プロトコールは、武田薬品工業株式会社の実験動物利用管理委員会に承認されたものであった。
【0153】
実施例16:化合物
化合物C及び4-フルオロ-2-[(3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]-5-メチル-6-[4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル]-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1-オン (以下、本明細書中「化合物D」と略記する場合がある)は、武田薬品工業株式会社が合成した。ドネペジル塩酸塩は、Mega Fine Pharma (P) Limited (Mumbai, India)から購入した。スコポラミン臭化水素酸塩は、Tocris Bioscience (Ellisville, MO)から購入した。塩化リチウム(LiCl)は、和光純薬工業株式会社(Osaka, Japan)から入手した。化合物Dは蒸留水中0.5% (w/v)メチルセルロースに懸濁し、ドネペジル塩酸塩は蒸留水に溶解し、いずれも経口で投与(p.o.)した。スコポラミン臭化水素酸塩及びLiClは生理食塩水に溶解し、皮下に投与(s.c.)した。ドネペジル及びスコポラミンの用量を、それぞれの塩として表す。in vivo試験で使用した化合物はそれぞれ、ラットに対しては体重1kg当たり2 mLの用量で投薬し、マウスに対しては体重1kg当たり10 mLの用量で投薬した。In vitroマグヌス法及びin vitro電気生理学的研究では、化合物はジメチルスルホキシド (DMSO)中に溶解した。化合物Dは、WO2016/208775に記載の参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。
【0154】
実施例17:Ca2+流動アッセイ
ヒトM1受容体を発現するCHO-K1細胞を、壁面が黒の96ウェルクリアボトムプレート(Corning, New York, NY)に30,000細胞/ウェルで播種し、1日間37℃、5%CO2で培養した。培地を除去し、カルシウム色素バッファー (HBSS (Life Technologies, Carlsbad, CA)、20 mM HEPES (Life Technologies)、0.1%脂肪酸フリーBSA (Wako)、0.08% pluronic F127 (Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)、2.5 μg/mL Fluo-4 (Dojindo Laboratories)、1.25 mM プロベネシド (Dojindo Laboratories))を用いて細胞を30分間、37℃、5%CO2で培養した。30分、室温でインキュベートした後、EC20濃度(0.8~1 nM)のAChを含むアッセイバッファー (HBSS (Life Technologies)、20 mM HEPES (Life Technologies)、0.1%脂肪酸フリーBSA (Wako))に様々な濃度で溶解した試験化合物を用いて、細胞を刺激し、CellLux (PerkinElmer)を使用してCa2+応答を測定した。M1PAMのポジティブアロステリックモジュレーション活性を決定するために、EC20AChに対する応答を0%の応答として設定し、10 μM AChに対する応答を100%の応答として設定した。化合物の有効性は、変曲点の値(IP)として示した。変曲点の値と95%信頼性区間は、対照群のパーセントとして示されたデータからGraphPad Prism 5 ソフトウェア(GraphPad Software Inc., LaJolla, CA, USA)のXLfitにより、計算された。
【0155】
実施例18:In vivoイノシトール1リン酸(IP1)アッセイ
手順
[3H]-ミオイノシトールを用いた、in vivoホスホイノシチド加水分解を測定するための方法が報告されている (Bymaster et al., Brain. Res. 1998 Jun 8;795(1-2):179-90;Patel and Freedman, Eur. J. Pharmacol. 1994 May 17;267(3):329-34.)。in vivo ホスホイノシチド加水分解をより容易に評価するために、均一性時間分解蛍光法(HTRF)を用いたアッセイ系、IP-One HTRF(登録商標)アッセイキット (Cisbio Bioassays, Codolet, France)(Trinquet et al., Anal Biochem. 2006 Nov 1;358(1):126-35.)を開発した。
Long EvansラットとC57BL/6Jマウスをアッセイに用いた。実験日に、動物を個別のケージに移し、少なくとも1時間馴化させ、サンプリングの3、1.5及び3時間前に、化合物D (3 mg/kg, p.o.)、ドネペジル (3 mg/kg, p.o.)及び化合物C (10 mg/kg, p.o.)をそれぞれ投与した。全てのIP1アッセイにおいて、化合物D又は化合物Cの投与後2時間で、IP1の分解を阻害するために、LiCl (10 mmol/kg)を皮下に投与した。LiClの投与後1時間で、動物を断頭により屠殺し、脳を摘出し、50 mM LiClを含む冷生理食塩水を用いて洗浄した。脳から海馬を速やかに単離し、ドライアイス上で凍結し、重量を測定し、分析まで-80℃で保存した。海馬組織重量に対し、39 (ラットでは)又は19 (マウスでは)倍量のホモジナイゼーションバッファー(10 mM HEPES pH 7.4、50 mM LiCl、150 mM NaCl及び1% Triton X-100)中で、ヒスコトロン (Physcotron) (Microtec Company Limited, Chiba, Japan)を用いて、各組織をホモジナイズした。ホモジネートを1時間、4℃でローテーター上でインキュベートし、12000g、20分、4℃で遠心分離した。上清を回収し、マトリクスの干渉を防ぐために、39 (ラットでは)又は19 (マウスでは)倍の希釈バッファー(10 mM HEPES pH 7.4、50 mM LiCl及び150 mM NaCl)を用いて希釈した。希釈した上清をIP1及びタンパク質濃度の測定に供した。希釈した上清 (20 μl)を384ウェルOptiplate (PerkinElmer)に移し、キット中で供された溶解バッファー中に希釈したd2-標識IP1 (5 μl)及びテルビウムクリプテート標識抗IP1 抗体 (5 μl)を添加した。少なくとも1時間、室温でインキュベーション後、EnVisionマルチラベルリーダー(PerkinElmer)を使用して、665 nm及び615 nmにおける蛍光強度を測定した。HTRF比 (665 nmでの蛍光/615 nmでの蛍光×104)に基づいて、IP1濃度を計算した。製造業者の指示に従って、Pierce BCAタンパク質アッセイキット (Thermo Scientific, Rockford, IL)により、タンパク質濃度を決定した。総タンパク質濃度に対するIP1の濃度の比として、in vivo IP1レベルを計算し、溶媒投与群(対照群)に対する%として表した。
【0156】
実施例19:In vitro回腸収縮
終夜絶食させた後、マウスを屠殺した。回腸を速やかに摘出し、氷冷したKrebs液(120.7 mM NaCl、5.9 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1.2 mM MgCl2、15.5 mM NaHCO3、1.2 mM NaH2PO4及び11.5 mM グルコース)中に浸漬した。縦方向に回腸を10~15mmの長さに切り出し、腸間膜及び脂肪組織を分離し、95% O2/5% CO2でエアレーションした、10 mLのKrebs液を含むオーガンバスにマウントした。バス温度を37℃に維持した。単離した回腸に0.5gの受動的荷重を与えた。アイソメトリックトランスデューサー(MLT050/A, ADInstruments, New South Wales, Australia)及び記録計(PowerLab 8/30 ML870 and Octal Bridge Amp ML228, ADInstruments)を用いて、単離した回腸の収縮応答を連続的に記録した。単離した回腸の両側に、白金電極 (3-20 mm apart, Iwashiya Kishimoto Medical Instruments, Kyoto, Japan)をマウントした。
収縮は、ベースラインからの最大の強度で測定した。最大の収縮における試験化合物の影響を測定した。試験化合物の影響を調べるために、収縮応答が安定化した回腸を使用した。その後の単一化合物における各処置濃度間には洗浄を行わずに、化合物をオーガンバスに累積的に添加した。隣接する2つの処置濃度間の間隔は常に、少なくとも3分とした。単一化合物の処置の全てを累積した後、バスを3回洗浄し、単離した回腸を更に30分間静置させた。回腸自発的収縮における各濃度の化合物の影響を、6応答分の最大強度の平均値から計算した。次いで、化合物処置前のDMSO (溶媒)時に得られた最大の収縮に対する平均値の比として、回腸収縮応答を表した。濃度-応答曲線を作成するために、DMSO処置に対する割合で補正し、%で表した。弛緩が非常に小さかったために、それらに対する化合物の影響は分析しなかった。
【0157】
実施例20:電気生理学
4週齢の雄性のC57BL/6マウス由来の内側前頭前野(mPFC)の冠状脳切片で実験を行った。動物を速やかに屠殺し、氷冷N-メチル-D-グルタミン(NMDG)人工脳脊髄液(aCSF) (92 mM NMDG、2.5 mM KCl、0.5 mM CaCl2、1.25 mM NaH2PO4、6 mM MgSO4、30 mM NaHCO3、25 mMグルコース、20 mM HEPES、2 mM チオウレア、5 mM アスコルビン酸ナトリウム及び3 mM ピルビン酸ナトリウム) (Ting J.T. et al., Methods Mol Biol. 2014;1183:221-42)中に、脳を摘出した。振動スライサーを用いて、切片を300 μmの厚さでカットした。最初に、NMDG aCSFを含むホールディングチャンバーに、15分間以内34℃で切片を移した。次いで、HEPES aCSF (92 mM NMDG、2.5 mM KCl、2 mM CaCl2、1.25 mM NaH2PO4、2 mM MgSO4、30 mM NaHCO3、25 mM グルコース、20 mM HEPES、2 mM チオウレア、5 mM アスコルビン酸ナトリウム及び3 mM ピルビン酸ナトリウム)を含むホールディングチャンバーに、少なくとも1時間、室温で切片を移した。その後、切片をレコーティングチャンバーに移し、aCSF(124 mM NaCl、5 mM KCl、1.2 mM NaH2PO4、1.5 mM MgCl2、2.5 mM CaCl2、10 mM グルコース及び24 mM NaHCO3)に、切片を浸漬し1~2 ml/分の流速で灌流した。カルボゲン(95% O2/5% CO2)を用いて、全てのバッファーを常時バブリングし、飽和させた。細胞内溶液 (135 mM グルコン酸カリウム、4 mM KCl、10 mM HEPES、0.2 mM EGTA、4 mM MgATP、0.3 mM Na2GTP、KOHでpH 7.3に調整)で満たしたホウケイ酸ピペット(5~7 MΩ)を用いて、視覚的に特定した第5層錐体神経細胞で、電流クランプ記録を32~33℃で行った。Multiclamp 700B増幅器とDigidata 1440Aインタフェースボード(Molecular Devices Japan, Tokyo, Japan)を使用して、2 kHzでフィルタリングし、10 kHzでサンプリングして、シグナルを獲得し、pClamp10ソフトウェアを用いて分析した。
【0158】
実施例21:新奇物体認識課題 (NORT)
手順
試験前日に、Long Evansラットを行動試験室の環境に1時間以上馴化させ、空の試験箱(灰色のポリ塩化ビニルボックス(40×40×50cm))に個別で10分間馴化させた。試験は、獲得試行と保持試行と呼ばれる2つの3分間の試験で構成された。これらの試行は、所与の試験間隔(ITI)によって隔てられた。試験日に、獲得試行においては、ラットに2つの同一の物体(A1とA2)を3分間探索させた。保持試行においては、ラットに再び見覚えのある物体(A3)と新奇物体(B)を3分間探索させた。物体探索は、ラットが舐める、嗅ぐ、嗅ぎながら手足で物体に触れるで定義した。上を見て物体にもたれ掛ること、物体の上に立つこと又は座ることは除外した。各試験における各物体(A1、A2、A3及びB)の探索時間は、手動で測定した。新奇物体識別指標 (NDI)は以下の式を用いて計算した:新奇物体との相互作用/総相互作用×100 (%)。
【0159】
スコポラミン誘発認知機能障害に対する単独療法の影響
獲得試行と保持試行を4時間のITIにより隔てた。獲得試行の2時間、1時間及び2時間前に、化合物D (0.03、0.1、0.3、1及び3 mg/kg, p.o.)、ドネペジル (0.1、0.3及び1 mg/kg, p.o.)並びに化合物C (0.03、0.1及び 0.3 mg/kg, p.o.)をそれぞれ経口投与した。獲得試行の30分前に、スコポラミン (0.1 mg/kg)を皮下投与した。
【0160】
スコポラミン誘発認知機能障害に対する、化合物Dと、ドネペジル又はリバスチグミンとの併用の影響
獲得試行と保持試行を4時間のITIにより隔てた。ドネペジル又はリバスチグミンとの併用においては、化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)を投与した1.5時間後、ドネペジル (0.1 mg/kg, p.o.)又はリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)を投与した。
【0161】
スコポラミン誘発認知機能障害に対する、化合物Cとドネペジルの併用の影響
獲得試行と保持試行を4時間のITIにより隔てた。ドネペジルとの併用においては、化合物C (0.03 mg/kg, p.o.)を投与した1.5時間後、ドネペジル (0.1 mg/kg, p.o.)を投与した。
【0162】
実施例22:コリン系副作用の評価
SD系ラットを個々に観察ケージに入れ、少なくとも1時間馴化させた。各ラットに、溶媒、ドネペジル (1、3、10及び30 mg/kg, p.o.)単独、化合物D (1、3、10及び30 mg/kg, p.o.)単独、化合物C (0.01、0.03、0.1及び0.3 mg/kg, p.o.)単独、化合物D (1及び3 mg/kg, p.o.)とドネペジル (0.3 mg/kg, p.o.)の併用、又は化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)の併用を投与し、下痢、痙攣、流涙、流涎、縮瞳及び骨格筋攣縮を含むコリン系副作用を評価した。化合物単独については投薬の0.5、1、2、4及び6時間後に、併用研究についてはドネペジル又はリバスチグミンの投薬後、10分及び30分、並びに1、2、4及び6時間に、群の割り当てについて知らされていない観察者によって重篤度をスコア化した。下痢の重篤度は以下の通りスコア化した:0、健常なペレット;1、湿っているが形がある糞;2、膨張した又は粘液性の糞;3、重度の水様の下痢。下痢については、2以上のスコアがつけられたラットとマウスの数を数えた。骨格筋攣縮については、上肢と下肢の両方の著しい骨格筋の攣縮を伴うラットの数を数えた。流涙については、中程度から顕著な流涙(眼周囲の体液よりも激しい流涙)が誘発されたラットの数を数えた。流涎については、口の周りが一見して濡れているという個体ではなく、激しい唾液分泌が誘発されたラットの数を数えた。観察中の最大のスコアを採用した。
【0163】
統計
実験結果は平均値±S.E.M.で表した。用量依存性を検討した試験では、Williamsの片側検定又はShirley-Williamsの片側検定により、溶媒投与群と試験化合物投与群の統計比較を行い、P≦0.025で有意差を示すものとした。2群間の統計分析は、StudentのT検定により行い、0.05未満のP値を統計的に有意と考えた。ドネペジル等との併用試験については、適切な場合には、P≦0.05に設定した統計的有意性でDunnett又はSteelの多重比較検定を行った。
【0164】
実施例23:in vitro及びin vivoで、低α値を有する化合物DはヒトM1Rを選択的に活性化する
まず最初に、ヒトM1Rを発現するCHO-K1細胞におけるCa
2+流動アッセイを用いて、化合物ライブラリーからM1PAMをスクリーニングし、ヒット化合物のM1R選択性について評価した。選択された化合物について、α値によって示されるAChとM1R間の結合親和性の促進に対する活性値を、結合モジュレーションアッセイにより評価した。その結果、低α値を有する活性の高い選択的M1PAMとして、化合物Dが見出された。EC
20AChに対する作用増強を検証すると、ヒトM1Rに対する化合物DのIP値は2.7 nMであった(
図5A)。化合物DのM1R選択性は、他のヒトムスカリン受容体サブタイプよりも3700倍以上であった;各ヒトムスカリン受容体サブタイプを発現するCHO-K1細胞を使用したCa
2+流動アッセイにおける、M2~M5Rに対する化合物DのIPは、1000 nMより高かった(
図5A)。AChによる、ヒトM1Rからの[
3H]-ピレンゼピンの置換を測定する結合モジュレーションアッセイにより、化合物Dが199のα値を有していることが明らかになった(
図5B)。野生型及びM1R KOマウスの海馬において、3 mg/kgの化合物DによるIP1産生を評価した。野生型マウスにおいては、3 mg/kgの化合物Dは海馬内でIP1産生を有意に増加させた(153.3±9.3%、
図5C)。重要なことに、M1R KOマウスの海馬において、3 mg/kg, p.o.の化合物DはIP1産生を増加させなかった(
図5C)。野生型とM1R KOマウス間でPKプロファイルにおける有意差は観察されず(表4)、それゆえマウスにおいて化合物DはM1R活性化によりIP1産生を増加させる。
【0165】
【0166】
実施例24:in vitroとin vivoで高α値を有する化合物Cは、M1Rを選択的に活性化する(比較例)
α値がM1PAMの薬理学的プロファイルにどのように影響するかを理解するために、化合物DのIP値と類似するIP値で化合物Dより高いα値を有するM1PAMとして、化合物Cの特徴を調べた。結合モジュレーションアッセイにおいて、化合物Cは1786のα値を有し(
図6C)、ヒトM1Rを発現するCHO-K1細胞を使用したin vitro Ca
2+機能的アッセイで0.62 nMのIP値を示した。各ヒトムスカリン受容体サブタイプを発現するCHO-K1細胞を使用したCa
2+流動アッセイにおいて、M2~M5Rに対する化合物CのIPは、1,000 nMより高かった(
図6B)。野生型及びM1R KOマウスの海馬において、10 mg/kgの化合物CによるIP1産生を評価した。野生型マウスの海馬において、化合物Cは10 mg/kg, p.o.でIP1産生を有意に増加させたが、M1R KOマウスにおいては増加させなかった(
図6D)。野生型とM1R KOマウス間では、化合物Cの脳内濃度において有意差は観察されず(表5)、それゆえ化合物CはマウスにおいてM1R活性化によりIP1産生を増加させる。
【0167】
【0168】
実施例25:高α値のM1PAMである化合物Cと比較して、化合物Dは、マグヌス法において回腸運動性に与える影響がより小さい。
in vitroマグヌスアッセイを使用して、回腸収縮における化合物Dと化合物Cの影響を調べた。化合物Cは、濃度依存的に自発性回腸運動性を増強したが、化合物Dは増強しなかった(
図7)。それゆえ、高α値のM1PAMと比較して、化合物Dは、回腸運動性に与える影響がより小さい。
【0169】
実施例26:ドネペジルと同様、化合物Dと化合物Cの両方がNORTにおいて、ラットのスコポラミン誘発認知機能障害を改善した
次に、ドネペジルを対照として使用し、NORTにおけるラットの認知記憶過程へのM1PAM(化合物Dと化合物C)の影響を評価した。スコポラミン誘発認知機能障害は、動物とヒトにおけるコリン作動性の障害と関連する認知機能障害モデルとして使用されている。認知記憶試験において、ドネペジルは0.3及び1 mg/kgでNDI を有意に増加させた (P≦0.025、
図8A)。ドネペジルと同様、化合物Dは0.3、1及び3 mg/kgで、スコポラミン誘発認知機能障害に対し、NDIを有意に増加させた(0.3 mg/kgが、ラットにおける化合物Dの最小薬効用量である) (P≦0.025、
図8B~C)。化合物Cはまた、0.1及び0.3 mg/kgで、スコポラミン誘発認知機能障害を改善した(0.1 mg/kgが、ラットにおける化合物Cの最小薬効用量である) (P≦0.025、
図8D)。それゆえ、化合物D、化合物C及びドネペジルは、ラットにおけるコリン作動性の障害と関連する認知機能障害を選択的に改善する。
【0170】
実施例27:M1PAMはドネペジルよりもコリン系副作用のリスクが小さい
ドネペジル、化合物D及び化合物Cは、ラットにおいて用量依存的に下痢を誘発した(10及び30 mg/kgではP≦0.025、
図9A;10及び30 mg/kgではP≦0.025 (10 mg/kgが、ラットにおける化合物Dの最小下痢誘発用量である)、
図9B;0.1及び0.3 mg/kgではP≦0.025 (0.1 mg/kgが、ラットにおける化合物Cの最小下痢誘発用量である)、
図9C)。ラットにおけるドネペジル、化合物D及び化合物Cのコリン作動性副作用を表6に示した。ラットにおいては、ドネペジルは10 mg/kg, p.o.で下痢に加え流涎、縮瞳及び骨格筋攣縮を誘発した一方で、化合物Dは30 mg/kgまで、化合物Cは0.3 mg/kgまで、下痢以外のコリン作動性の副作用を誘発しなかった。
【0171】
【0172】
ドネペジル、化合物D又は化合物Cを投与後、ラットを240分間観察した。下痢については、2以上のスコアがつけられたラットの数を数えた。骨格筋攣縮については、上肢と下肢の両方の著しい骨格筋攣縮を伴うラットの数を数えた。流涙については、中程度から顕著な流涙(眼周囲の体液よりも激しい流涙)が誘発されたラットの数を数えた。流涎については、口の周りが一見して濡れている個体ではなく、激しい唾液分泌が誘発されたラットの数を数えた。観察中の最大のスコアを採用した。データは、総ラット当たりの発生数で表した。発生率 (%)をカッコ内に記載した。
【0173】
実施例28:無効用量の化合物Dとドネペジルの併用は、NORTにおけるラットのスコポラミン誘発認知機能障害を改善する
M1PAMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の薬理学的メカニズムを考慮すると、化合物Dとドネペジル間の相乗効果が期待される。ラット海馬において、化合物D (3 mg/kg)とドネペジル (3 mg/kg)の併用は、各化合物の単独投与と比較して、より顕著なIP1産生の増加を引き起こした(
図10A)。NORTにおけるスコポラミン誘発認知機能障害への無効用量での化合物D (0.1 mg/kg)とドネペジル (0.1 mg/kg)の併用効果を評価した。獲得試行においては、これら化合物の投与は探索時間に対して影響を与えなかった。保持試行においては、溶媒投与群(対照群)のラットは4時間のITI後、67.6% NDIで既知の物体と新奇物体を識別した一方で、スコポラミンを投与したラットは既知の物体と新奇物体を識別できず、有意に低いNDI (52.7%)を示した (
図10B)。化合物Dの0.1 mg/kg、およびドネペジルの0.1 mg/kgは、単独ではNDIに影響を与えず (それぞれ54.1%と52.7%、
図10B)、0.1 mg/kgの化合物Dとドネペジルの併用投与はスコポラミンを投与したラットにおける溶媒投与群と比較して、有意にNDIを増加させた (63.0%) (P≦0.05、
図10B)。化合物単独と、化合物Dとの併用では、ドネペジルのPKプロファイルにおいて有意な差はなく(
図11)、それゆえ無効用量の化合物Dとドネペジルは、スコポラミンを投与したラットの認知機能改善において相乗効果を有する。
また、ラットにおける化合物Dとドネペジルの併用投与後の副作用プロファイルの特徴を調べた。ラットの認知機能改善における化合物Dとドネペジルの両方の有効用量は0.3 mg/kgであった。化合物D (1 mg/kg)とドネペジル (0.3 mg/kg)の併用投与は、ラットにおけるコリン系副作用を何ら引き起こさなかった(表7)。
【0174】
【0175】
ドネペジル単独、化合物D単独、及び両方の化合物を併用投与した後、ラットを240分間観察した。下痢については、2以上のスコアがつけられたラットの数を数えた。骨格筋攣縮については、上肢と下肢の両方の著しい骨格筋攣縮を伴うラットの数を数えた。流涙については、中程度から顕著な流涙(眼周囲の体液よりも激しい流涙)が誘発されたラットの数を数えた。流涎については、口の周りが一見して濡れている個体ではなく、激しい唾液分泌が誘発されたラットの数を数えた。観察中の最大のスコアを採用した。データは、総ラット当たりの発生数で表した。発生率 (%)をカッコ内に記載した。
【0176】
実施例29:無効用量での化合物Cとドネペジルの併用は、ラットのNORTにおけるスコポラミン誘発認知機能障害を改善しなかった(比較例)
無効用量での化合物C (0.03 mg/kg)とドネペジル (0.1 mg/kg)の併用時の、NORTにおけるスコポラミン誘発認知機能障害への影響を評価した。獲得試行においては、化合物の投与は探索時間に対して影響を与えなかった。保持試行においては、溶媒投与群(対照群)のラットは4時間のITI後、65.6% NDIで既知の物体と新奇物体を識別した一方で、スコポラミンを投与したラットは既知の物体と新奇物体を識別できず、有意に低いNDI (51.1%)を示した (
図12)。化合物C (0.03 mg/kg)又はドネペジル (0.1 mg/kg)の単独投与群では、いずれも無効用量では、NDIに影響を与えなかった (それぞれ52.3%と49.5%、
図12)。化合物C (0.03 mg/kg)とドネペジル (0.1 mg/kg)の併用投与は、スコポラミンを投与したラットの溶媒投与群と比較して、NDIを有意に増加させなかった (54.8%)(
図12)。それゆえ1000を超える高α値のM1PAMとドネペジルの併用は、ラットのスコポラミン誘発認知機能障害を相乗的に改善しない。
【0177】
実施例30:カルバコール及び化合物Cとは対照的に、化合物DはADP生成のみを示した
M1Rは、第5層錐体神経細胞において3つのコリン作動性の作用:静止膜電位(RMP)と、通常、活動電位発生の短い期間に続く、後過分極(AHP)や後脱分極(ADP)といった生理学的応答に寄与することが知られている(Gulledge et al., J. Neurosci. 2009 Aug 5;29(31): 9888-9902.)。異なるα値のM1PAMの脳機能への影響を調べるために、化合物Dと化合物Cによるコリン作動性の興奮を評価した。最初に、ムスカリン受容体アゴニストのカルバコール (10 μM、10分間)をバスアプリケーションにより試験した(
図13-A、
図13-B、
図13-C)。カルバコールは、第5層錐体神経細胞において、脱分極電流刺激後のAHPを抑制し(
図13-C左)、ADP電位を生成し(
図13-C中央)、RMPの脱分極を誘発した(
図13-C右)。これらの条件下で、化合物Dは10 μMで有意にADPを生成したが、RMPの脱分極やAHPの抑制は惹起しなかった(
図13-D)。一方で、化合物CはRMPにおいて閾値下の変化を引き起こし、AHPを抑制し、ADPを生成した(
図13-E)。
【0178】
実施例31:化合物Dとリバスチグミンの併用(認知、副作用)
次に、無効用量での化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)を併用した際の、NORTにおけるスコポラミン誘発認知機能障害に対する影響を調べた。獲得試行においては、化合物投与は探索時間に対して影響を与えなかった。保持試行においては、溶媒投与群(対照群)のラットは4時間のITI後、65.9%のNDIで既知の物体と新奇物体を識別した一方で、スコポラミンを投与したラットは既知の物体と新奇物体を識別できず、有意に低いNDI (53.7%)を示した (
図14)。化合物D (0.1 mg/kg)とリバスチグミン (0.1 mg/kg)はいずれも、単独投与でNDIに影響を与えなかった (それぞれ56.8%と53.9%、
図14)。0.1 mg/kgの化合物D (p.o.)とリバスチグミン (i.p.)の併用は、スコポラミンを投与したラットの溶媒投与群と比較して、NDIを有意に増加させた (64.9%)(
図14)。
また、NORTと同じ投与条件下で、化合物Dとリバスチグミンの併用投与後の、ラットにおける副作用プロファイルの特徴を調べた。化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)の併用は、ラットにおいてコリン系副作用を何ら引き起こさなかった(表8)。
【0179】
【0180】
リバスチグミン単独、化合物D単独、又は両方の化合物を併用投与した後、ラットを240分間観察した。下痢については、緩い若しくは粘液便又は下痢が誘発されたラットの数を数えた。骨格筋攣縮については、上肢と下肢の両方の著しい骨格筋攣縮を伴うラットの数を数えた。流涙については、中程度から顕著な流涙(眼周囲の体液よりも激しい流涙)が誘発されたラットの数を数えた。流涎については、口の周りが一見して濡れている個体ではなく、激しい唾液分泌が誘発されたラットの数を数えた。観察中の最大のスコアを採用した。データは、総ラット当たりの発生数で表した。発生率 (%)をカッコ内に記載した。
【0181】
本出願は、米国仮特許出願第62/508,609号(出願日:2017年5月19日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明のスクリーニング方法は、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(M1PAM)を効率的に選択することができ、アルツハイマー病等の治療に効果的でコリン系副作用の低減されたM1PAMを見出すために有用である。
【配列表】