(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】不溶化材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20221220BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09K3/00 S ZAB
B09C1/08
(21)【出願番号】P 2019526833
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2018023475
(87)【国際公開番号】W WO2019004024
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2017127612
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】横島 美香
(72)【発明者】
【氏名】上田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】中田 英喜
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-256593(JP,A)
【文献】特開2014-227457(JP,A)
【文献】特開2015-181994(JP,A)
【文献】特開2006-167524(JP,A)
【文献】特開2016-088833(JP,A)
【文献】特開昭62-183846(JP,A)
【文献】特開2011-098322(JP,A)
【文献】特開2006-272144(JP,A)
【文献】特開2008-163404(JP,A)
【文献】粉粒体供給装置委員会,粉粒体の貯槽と供給装置,13版,日本,1978年11月10日,31~39頁
【文献】金沢孝文,粉体の固結と防結(上),Gypsum & Lime,日本,1970年,No.106,104~109頁
【文献】金沢孝文,粉体の固結と防結(下),Gypsum & Lime,日本,1970年,No.108,214~218頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00;17/00-17/52
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
A62D 1/00- 9/00
C01G 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化マグネシウム含有物、及び付着水分量が10.0質量%以下である塩化第一鉄
4水和物を混合する工程であり、前記混合後に生じる発熱反応の発熱温度が50℃未満である工程を備え、
前記工程により得られる混合物の、目開き1mmの篩を用いて篩分けをした時の通過分の質量割合が
40質量%以上97質量%以下である、不溶化材の製造方法。
【請求項2】
前記混合する工程にて、前記酸化マグネシウム含有物100質量部に対して、前記塩化第一鉄4水和物20~250質量部を混合する、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れる不溶化材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル等の掘削工事により、鉛、砒素、フッ素、セレン等の自然由来の重金属類を含む土壌が発生することがある。近年、重金属類の汚染土壌の処理方法として、低コストかつ短時間で汚染物質の溶出を抑制することができる不溶化処理が注目されている。例えば、酸化マグネシウムと塩化第一鉄とを含む不溶化材は、鉛、砒素、フッ素、セレン等の重金属類に対して優れた不溶化効果を示すことが報告されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1等に記載されている従来の技術では、酸化マグネシウムと塩化第一鉄とを混合して不溶化材を調製する際に発熱したり、調製後に固結が生じたりする場合がある。
【0005】
不溶化材の製造現場では、このような発熱が不溶化材の品質低下や火災に繋がる可能性があることに鑑み、発熱温度が少なくとも塩化第一鉄の転移温度(塩化第一鉄4水和物から2水和物への転移温度:76.5℃。大木道則ほか(1989)化学大事典、東京化学同人、p.319-320等参照)未満であることが望ましい。ただし、この温度は原料の量によって変動することから、例えば50℃未満であることがより望ましい。
【0006】
また、不溶化材の施工現場では、不溶化材が施工日まで長期間貯蔵される場合があることに鑑み、不溶化材は、例えば半年以上固結せずに安定して貯蔵されていることが望ましい。
【0007】
本発明は、調製時の発熱を抑制できると共に、貯蔵安定性に優れる不溶化材、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸化マグネシウム含有物と塩化第一鉄とを含む不溶化材において、塩化第一鉄の付着水分と、不溶化材を構成する粒子のサイズと、がそれぞれ特定の範囲であれば、不溶化材調製時の発熱が抑制されて、なおかつ貯蔵安定性にも優れることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、少なくとも酸化マグネシウム含有物、及び付着水分量が10.0質量%以下である塩化第一鉄を混合してなり、目開き1mmの篩を用いて篩分けした時の通過分の質量割合が97質量%以下である不溶化材を提供する。このような不溶化材であれば、調製時の発熱を抑制できると共に、貯蔵安定性にも優れている。
【0010】
本発明において、酸化マグネシウム含有物100質量部に対して、塩化第一鉄20~250質量部を混合してなることが好ましい。これにより、鉛、砒素、セレン等の不溶化効果を向上することができる。
【0011】
本発明は、また、少なくとも酸化マグネシウム含有物、及び付着水分量が10.0質量%以下である塩化第一鉄を混合する工程を備え、当該工程により得られる混合物の、目開き1mmの篩を用いて篩分けをした時の通過分の質量割合が97質量%以下である、不溶化材の製造方法を提供する。本発明の製造方法であれば、調製時の発熱を抑制できると共に、得られる不溶化材の貯蔵安定性にも優れている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、調製時の発熱を抑制できると共に、貯蔵安定性に優れる不溶化材、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
〔不溶化材〕
本実施形態の不溶化材は、酸化マグネシウム含有物と塩化第一鉄とを含む。
【0015】
酸化マグネシウム含有物としては、市販のものであれば十分に使用することができる。ここでいう「酸化マグネシウム含有物」とは、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)やマグネサイト鉱石(MgCO3)を600~900℃の低温で焼成することで得られる軽焼酸化マグネシウムや、ドロマイト鉱石(CaMg(CO3)2)を600~900℃で焼成することで得られる軽焼酸化マグネシウムを含有する半焼成ドロマイト(MgOとCaCO3の混合物)を包含する。
【0016】
酸化マグネシウム含有物の粒度は、酸化マグネシウムの水和反応が速やかに進行するという観点から、目開き1mmの篩を用いて篩分けした時の通過分の質量割合が99.0質量%以上であることが好ましい。
【0017】
塩化第一鉄としては、市販のものであれば十分に使用することができる。ただし、塩化第一鉄は潮解性を有するため、水分を含んでいる場合がある。本実施形態において、塩化第一鉄の付着水分量は10.0質量%以下であるが、9.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下がさらに好ましく、3.5質量%以下が特に好ましい。塩化第一鉄の付着水分量が10.0質量%以下であれば、酸化マグネシウム含有物との混合時に発熱が抑制されるため好ましい。なお、塩化第一鉄の付着水分量の下限は、付着水分が少ないほど発熱を抑制することができる観点から、0.0質量%とすることができる。ただし、塩化第一鉄の付着水分量の下限は、品質制御の観点から0.1質量%であってもよい。塩化第一鉄の付着水分量は乾燥機等を用いて調整することができる。また、塩化第一鉄の付着水分量は、例えば塩化第一鉄4水和物が塩化第一鉄2水和物に転移する76.5℃よりも十分に低い温度に設定した乾燥機で十分な時間乾燥させたときの重量減少から測定することができる。
【0018】
塩化第一鉄(付着水分を含む)の添加量は、酸化マグネシウム含有物100質量部に対して20~250質量部が好ましく、30~200質量部がより好ましく、50~150質量部がさらに好ましく、65~100質量部が特に好ましく、70~100質量部が極めて好ましい。酸化マグネシウム含有物の量に対する塩化第一鉄の量がこの範囲であれば、鉛、砒素、セレン等の重金属類に対して十分な不溶化効果が得られるため好ましい。
【0019】
本実施形態の不溶化材は、さらにpH調整剤として硫酸アルミニウム等を含んでいても良い。硫酸アルミニウムは、市販のものであれば十分に使用することができ、粉末状のものが好ましい。また、硫酸アルミニウムは、無水和物または水和物のいずれであってもよい。
【0020】
硫酸アルミニウムの添加量は、酸化マグネシウム含有物100質量部に対して20~250質量部が好ましく、50~200質量部がより好ましく、100~150質量部が特に好ましい。
【0021】
硫酸アルミニウムの粒度は、硫酸アルミニウムの溶解が速やかに進行するという観点から、目開き1mmの篩を用いて篩分けした時の通過分の質量割合が97.0質量%以上であることが好ましい。
【0022】
本実施形態の不溶化材は、目開き1mmの篩を用いて篩分けした時の通過分の質量割合が97質量%以下であるが、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が特に好ましく、80質量%以下が極めて好ましい。当該質量割合が97質量%以下であれば、貯蔵時の固結が抑制されるため好ましい。当該質量割合の下限は特に限定されないが、品質のばらつきを少なくし、固結を抑制し易いという観点から、40質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、あるいは60質量%以上とすることができる。なお、質量割合は、塩化第一鉄の付着水分量や、用いる原料の粒度により調整することができる。
【0023】
本実施形態の不溶化材は、貯蔵時の固結をより抑制し易いという観点から、種々の目開きの篩を用いて篩分けした時の通過分の質量割合が、以下のようであることが好ましい。
目開き4.75mmの篩:篩分けした時の通過分の質量割合が100質量%以下であることが好ましく、99.9質量%以下であることがより好ましい。質量割合の下限としては、99.0質量%とすることができる。
目開き4mmの篩:篩分けした時の通過分の質量割合が100質量%以下であることが好ましく、99.8質量%以下であることがより好ましい。質量割合の下限としては、98.0質量%とすることができる。
目開き3mmの篩:篩分けした時の通過分の質量割合が99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましい。質量割合の下限としては、97.0質量%とすることができる。
目開き2mmの篩:篩分けした時の通過分の質量割合が99.0質量%以下であることが好ましく、97.0質量%以下であることがより好ましい。質量割合の下限としては、88.0質量%とすることができる。
【0024】
〔不溶化材の製造方法〕
本実施形態の不溶化材の製造方法は、少なくとも酸化マグネシウム含有物、及び付着水分量が10.0質量%以下である塩化第一鉄を混合する工程を備える。また、本工程により得られる混合物(すなわち、調製された不溶化材)の、目開き1mmの篩を用いて篩分けをした時の通過分の質量割合は97質量%以下である。使用する各種原料、及び当該通過分の質量割合については上述のとおりである。なお、上記本実施形態の不溶化材は、本製造方法により得られるものということができる。
【0025】
通過分の質量割合は、酸化マグネシウム含有物と塩化第一鉄とを混合後に生じる発熱反応の終了後に測定される。したがって、本実施形態の不溶化材の製造方法は、酸化マグネシウム含有物及び塩化第一鉄を混合する工程後に、さらに当該工程により得られる混合物を放置する工程を備えるということもできる。この際の放置時間は、発熱反応が十分に進む観点から、少なくとも60分間であることが好ましい。また、放置環境は、15~30℃及び10~80%RHとすることができる。なお、発熱反応は、塩化第一鉄の転移温度以下であることが好ましく、50℃以下とすることができ、45℃以下であってもよく、40℃以下であってもよい。少なくとも20℃以上の発熱温度が観測されることにより、発熱反応が進行したことを確認することができる。
【0026】
混合する方法は特に限定されないが、例えばリボンミキサー、ナウターミキサー、ドラムブレンダー、ロッキングミキサーなどの装置を用いて混合することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明について実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0028】
1.使用材料
〔酸化マグネシウム含有物〕
酸化マグネシウム含有物としては、軽焼酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ株式会社製)を用いた。
【0029】
〔塩化第一鉄〕
塩化第一鉄としては、付着水分量が異なる市販の塩化第一鉄(塩化第一鉄4水和物)を用いた。使用した塩化第一鉄の付着水分量を表1に示す。塩化第一鉄の付着水分量は、40℃に設定した乾燥機で24時間乾燥したときの重量減少量を量ることにより求めた。
【0030】
【0031】
〔硫酸アルミニウム〕
硫酸アルミニウムとしては、市販の硫酸アルミニウム14水和物(目開き1mmの篩を用いて篩分けした時の通過分の質量割合が98.37質量%)を用いた。
【0032】
2.試験方法
〔不溶化材の調製〕
不溶化材原料の配合割合は表2に示すとおりとした。表2に示す各種不溶化材の原料を、不溶化材として200gとなるように量りとり、縦33.0cm×横22.0cmのポリ袋に入れた。そしてポリ袋を振ることによって原料が均一になるまで混合し、不溶化材(混合物)を調製した。
【0033】
【0034】
〔篩通過分〕
上記〔不溶化材の調製〕において調製した不溶化材を、混合直後から60分間ポリ袋内で放置した。放置環境は、20℃、60%RHとした。その後、不溶化材を100g量りとり、目開き4.75mm、4mm、3mm、2mm及び1mmの篩(株式会社飯田製作所製)を用いて篩分けし、各篩残留分と1mmの篩通過分の質量を秤量し、それらの値から質量割合を計算した。結果を表3に示す。
【0035】
【0036】
〔発熱温度〕
上記〔不溶化材の調製〕において、不溶化材の原料を均一になるまで混合した後、混合直後から5分間の不溶化材の温度をデジタル温度計(SK-1250MC、株式会社佐藤計量器製作所製)により測定し、その最高値を発熱温度とした。発熱温度が50℃以上であるものを発熱あり、50℃未満であるものを発熱なしと判断した。結果を表4に示す。
【0037】
〔固結の評価〕
上記〔篩通過分〕で使用した不溶化材100gを、縦150mm×横80mmのポリ袋に入れ密閉した。その後、そのポリ袋を直径6.1cm×高さ8.5cmの円筒状のポリ容器に入れ、蓋をせずに上から鉄球460gの重りが入った袋を乗せることにより試験体を作製した。試験体を屋外倉庫内で貯蔵し、貯蔵開始から6ヶ月後に固結を評価した。貯蔵後の不溶化材を、目開き4.75mmの篩を用いて篩分けをした時の残留分の質量割合が10%以上であるものを固結あり、10%未満であるものを固結なしと判断した。結果を表4に示す。
【0038】
〔貯蔵安定性の評価〕
調製時の発熱温度が50℃未満であり、かつ貯蔵後に目開き4.75mm篩を用いて篩分けした時の残留分の質量割合が10%未満の場合を○、そうでない場合を×と判断した。結果を表4に示す。
【0039】
【0040】
表4に示すように、(1)付着水分が多い塩化第一鉄(比較例1)は、付着水分が少ない塩化第一鉄(実施例1~5)に比べて、調製時の発熱温度が高く、貯蔵後の4.75mm篩残留分が多いことが分かる。また、(2)付着水分が少ない塩化第一鉄(実施例3、比較例2~3)であっても、粒子が細かい不溶化材(比較例2~3)は、粒子が粗い不溶化材(実施例3)に比べて、貯蔵後の4.75mm篩残留分が多いことが分かる。
以上より、塩化第一鉄の付着水分量が10.0質量%以下であり、かつ目開き1mmの篩を用いて篩分けした時の通過分の質量割合が97質量%以下である不溶化材(実施例1~5)であれば、調製時の発熱温度が低く、固結が十分抑制されており貯蔵安定性が良いことが分かる。