IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許7197671電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部
<>
  • 特許-電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部 図1
  • 特許-電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部 図2
  • 特許-電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部 図3
  • 特許-電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20221220BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20221220BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20221220BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20221220BHJP
   H01B 9/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
C08L23/10
C08L25/04
H01B3/44 G
H01B3/44 K
H01B9/02 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021209527
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2022-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三ツ木 伸悟
(72)【発明者】
【氏名】三枝 哲也
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-63458(JP,A)
【文献】特開2015-183157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/04
C08L 23/10
H01B 3/44
H01B 9/02
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体であるポリプロピレン樹脂(A)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)と、を含有し、
周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線は、損失正接tanδが0.1以上0.4以下の高温側温度領域と損失正接tanδが0.1未満の低温側温度領域とを有し、前記高温側温度領域の最高温度は240℃以上である、電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項2】
前記高温側温度領域の最低温度は、90℃以上175℃以下である、請求項1に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項3】
前記高温側温度領域の最低温度は、90℃以上150℃以下である、請求項1または2に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項4】
前記高温側温度領域において、損失正接tanδが0.1以上0.3以下の範囲における最高温度は、160℃以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項5】
前記損失正接tanδの温度特性曲線において、90℃における損失正接tanδは0.1未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリプロピレン樹脂(A)および前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有比は、前記ポリプロピレン樹脂(A):前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の質量%で、20.0以上55.0以下:45.0以上80.0以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項7】
前記電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物に含まれるスチレンの含有割合は、10質量%以上30質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項8】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、スチレンに由来する構成単位を含み、かつ、エチレンに由来する構成単位および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の少なくとも一方の構成単位を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項9】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、前記スチレンに由来する構成単位は10.0質量%以上60.0質量%以下であり、前記エチレンに由来する構成単位は20.0質量%以上70.0質量%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリプロピレン樹脂(A)は、ホモポリプロピレンである、請求項1~9のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリプロピレン樹脂(A)は、エチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むランダムポリプロピレンである、請求項1~9のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリプロピレン樹脂(A)は、ホモポリプロピレンとエチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むブロックポリプロピレンである、請求項1~9のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項13】
前記電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物は、前記ポリプロピレン樹脂(A)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)とからなる、請求項1~12のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項14】
90℃で30kV/mmの交流電界を印加したときの誘電正接は、0.15%以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項15】
初期電荷量(Q0)に対する、90℃で30kV/mmの直流電界を印加したときの、5分後の電荷量(Q300)の比(Q300/Q0)は、2.00以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項16】
導体と、
前記導体の外周を被覆する内部半導電層と、
前記内部半導電層の外周を被覆する請求項1~15のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物からなる絶縁層と、
前記絶縁層の外周を被覆する外部半導電層と
を備える電力ケーブル。
【請求項17】
一方の電力ケーブルの導体と他方の電力ケーブルの導体とを接続する接続部、前記一方の電力ケーブルの導体の露出部分、および前記他方の電力ケーブルの導体の露出部分を被覆する接続部内部半導電層と、
前記接続部内部半導電層の外周を被覆する、請求項1~15のいずれか1項に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物からなる接続部絶縁層と、
前記接続部絶縁層の外周を被覆する接続部外部半導電層と
を備える電力ケーブル接続部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流電力ケーブルおよび交流電力ケーブル(以下、特に明記しない限り、直流電力ケーブルおよび交流電力ケーブルを併せて電力ケーブルという)の絶縁層には、架橋ポリエチレンからなる組成を有する材料が使用されてきた。
【0003】
ポリエチレンを電力ケーブルの絶縁層に使用する場合、電力ケーブルの導体から発する熱によって、絶縁層が破壊されることがある。このような熱による破壊を抑制するために、ポリエチレンを架橋することが行われている。一方で、ポリエチレンを架橋すると、絶縁層のリサイクル性の低下、架橋プロセスを追加することによる製造時間の大幅な増加、架橋残渣による絶縁層の電気絶縁性の低下などの問題が起こることがある。
【0004】
これらの問題を対処するため、架橋ポリエチレンの代わりに、ポリプロピレンを用いた組成開発が検討されている。ポリエチレンに比べて、ポリプロピレンの融点は高いため、ポリプロピレンを架橋させなくても、電力ケーブルの導体から発する熱による絶縁層の破壊は抑制される。
【0005】
しかしながら、ポリプロピレンは、樹脂の中では比較的柔らかいものの、ポリエチレンより硬い。ポリプロピレンを絶縁層に用いた電力ケーブルは、容易に曲げることが困難になるため、架橋ポリエチレンに比べて、電力ケーブルの施工性や輸送性などの特性が劣ることがある。また、架橋ポリエチレンと同様に、ポリプロピレンの高温での電気絶縁性は低い。ポリプロピレンの電気絶縁性を向上するために、添加材を加えることやポリプロピレンを変性させることなどの組成改良が検討されている。このような状況から、ポリプロピレンに対して柔軟性および電気絶縁性を向上するための組成開発が活発に行われている。
【0006】
例えば、自動車用途など一般的に実施されているのは、ポリプロピレンに対して、軟化剤としてエチレンプロピレンゴム(EPR)またはエチレンとα-オレフィンとのコポリマーであるオレフィン系エラストマー(TPO)を加える手法である。しかしながら、ポリプロピレンとEPRまたはTPOとは非常に混ざりづらいため、二軸押出混錬のように十分に混錬しても、ナノオーダーでの粒子間界面により、電気絶縁性能の悪化が生じることがある。
【0007】
また、ポリプロピレンとEPRまたはTPOとを混ざりやすくするため、微量のエポキシ樹脂、芳香族化合物を含有する絶縁油、パラフィンなどの添加材を加える手法が行われている。しかしながら、添加材の樹脂成分への含浸時間が短くないこと、油分添加によりブリードアウトが発生し、長期的にも十分な特性が得られないことなど、新たな問題が発生することがある。また、ヒンダードフェノール酸化防止剤やアリールアミン型酸化防止剤などの硫黄を含まない酸化防止剤を添加する手法もある。しかしながら、このような酸化防止剤は、液状または粉状であるため、分散性の悪さから、樹脂成分と十分に混ざらないことがある。
【0008】
また、EPRおよびTPOは90℃以上で軟化する。ポリプロピレンは135~175℃で溶融することから、電力ケーブルの押出成形後に、樹脂が自重で垂れ下がるいわゆるサグが生じ、さらには脱落する可能性が高い。
【0009】
更には、EPRおよびTPOを混錬したポリプロピレン組成は、熱が加わった等の分子変動による熱変形を起こしやすい。そのため、電力ケーブルの使用環境温度によっては、長期経過後に電力ケーブルが変形し、突如電気絶縁性の低下を引き起こす可能性が高い。
【0010】
また、特許文献1には、スチレンに由来する構成単位を含むスチレンブロックと、エチレンに由来する構成単位を含むエチレンブロックとを含む共重合体を有する樹脂成分を含有し、樹脂成分を構成する全構成単位に対するスチレンに由来する構成単位の含有割合が1.1モル%以上40モル%以下である電線・ケーブル用樹脂組成物が記載されている。共重合体としては、スチレン/エチレン・プロピレン/スチレンブロック共重合体やスチレン/エチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体などが挙げられる。また、共重合体は、スチレンブロックおよびエチレンブロック以外に、プロピレンなどのオレフィンを有してもよい。
【0011】
しかしながら、スチレンに由来する構成単位の含有割合を規定している特許文献1の電線・ケーブル用樹脂組成物では、可撓性が不十分であるため、電力ケーブルの柔軟性が乏しいことがある。さらには、特許文献1の電線・ケーブル用樹脂組成物では、電力ケーブルにサグなどの不具合を生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2018-035237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本開示の目的は、架橋工程を行わなくても、可撓性および電気絶縁性に優れ、熱変形およびサグを抑制できる電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1] プロピレン系重合体であるポリプロピレン樹脂(A)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)と、を含有し、周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線は、損失正接tanδが0.1以上0.4以下の高温側温度領域と損失正接tanδが0.1未満の低温側温度領域とを有し、前記高温側温度領域の最高温度は240℃以上である、電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[2] 前記高温側温度領域の最低温度は、90℃以上175℃以下である、上記[1]に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[3] 前記高温側温度領域の最低温度は、90℃以上150℃以下である、上記[1]または[2]に記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[4] 前記高温側温度領域において、損失正接tanδが0.1以上0.3以下の範囲における最高温度は、160℃以上である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[5] 前記損失正接tanδの温度特性曲線において、90℃における損失正接tanδは0.1未満である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[6] 前記ポリプロピレン樹脂(A)および前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有比は、前記ポリプロピレン樹脂(A):前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の質量%で、20.0以上55.0以下:45.0以上80.0以下である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[7] 前記電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物に含まれるスチレンの含有割合は、10質量%以上30質量%以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[8] 前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、スチレンに由来する構成単位を含み、かつ、エチレンに由来する構成単位および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の少なくとも一方の構成単位を含む、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[9] 前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、前記スチレンに由来する構成単位は10.0質量%以上60.0質量%以下であり、前記エチレンに由来する構成単位は20.0質量%以上70.0質量%以下である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[10] 前記ポリプロピレン樹脂(A)は、ホモポリプロピレンである、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[11] 前記ポリプロピレン樹脂(A)は、エチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むランダムポリプロピレンである、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[12] 前記ポリプロピレン樹脂(A)は、ホモポリプロピレンとエチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むブロックポリプロピレンである、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[13] 前記電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物は、前記ポリプロピレン樹脂(A)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)とからなる、上記[1]~[12]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[14] 90℃で30kV/mmの交流電界を印加したときの誘電正接は、0.15%以下である、上記[1]~[13]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[15] 初期電荷量(Q0)に対する、90℃で30kV/mmの直流電界を印加したときの、5分後の電荷量(Q300)の比(Q300/Q0)は、2.00以下である、上記[1]~[14]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
[16] 導体と、前記導体の外周を被覆する内部半導電層と、前記内部半導電層の外周を被覆する上記[1]~[15]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物からなる絶縁層と、前記絶縁層の外周を被覆する外部半導電層とを備える電力ケーブル。
[17] 一方の電力ケーブルの導体と他方の電力ケーブルの導体とを接続する接続部、前記一方の電力ケーブルの導体の露出部分、および前記他方の電力ケーブルの導体の露出部分を被覆する接続部内部半導電層と、前記接続部内部半導電層の外周を被覆する、上記[1]~[15]のいずれか1つに記載の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物からなる接続部絶縁層と、前記接続部絶縁層の外周を被覆する接続部外部半導電層とを備える電力ケーブル接続部。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、架橋工程を行わなくても、可撓性および電気絶縁性に優れ、熱変形およびサグを抑制できる電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物に対する周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線の一例である。
図2図2は、実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物に対する周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線の他の例である。
図3図3は、実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物を備える電力ケーブルの一例を示す横断面図である。
図4図4は、実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物を備える電力ケーブル接続部の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、架橋や油展を行わず、ポリプロピレン樹脂に対する相溶性に優れた熱可塑性エラストマーを用い、電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物の動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線に着目することによって、架橋工程を行わずに製造し、可撓性および電気絶縁性に優れ、熱が加わったなどの分子変動による熱変形およびサグを抑制できることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0019】
実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物(以下、単に絶縁性樹脂組成物ともいう)は、プロピレン系重合体であるポリプロピレン樹脂(A)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)と、を含有し、周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線は、損失正接tanδが0.1以上0.4以下の高温側温度領域と損失正接tanδが0.1未満の低温側温度領域とを有し、前記高温側温度領域の最高温度は240℃以上である。
【0020】
図1は、実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物に対する周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線の一例である。なお、図1および後述する図2は、便宜上、損失正接tanδが0.4までの損失正接tanδの温度特性曲線を示している。
【0021】
図1に示すように、実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物について、周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線(以下、単に損失正接tanδの温度特性曲線ともいう)は、損失正接tanδが0.1以上0.4以下の高温側温度領域と損失正接tanδが0.1未満の低温側温度領域とを有する。
【0022】
高温側温度領域および低温側温度領域について、損失正接tanδの温度特性曲線における損失正接tanδが0.1のときの温度を基準温度として、基準温度以上を高温側温度領域とし、基準温度未満を低温側温度領域とする。このように、損失正接tanδの温度特性曲線は、基準温度、高温側温度領域、および低温側温度領域を有する。また、損失正接tanδの温度特性曲線は、高温側温度領域および低温側温度領域を連続している。
【0023】
また、図2は、実施形態の電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物に対する周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線の他の例である。図2に示すように、損失正接tanδの温度特性曲線における損失正接tanδが0.1のときの温度が複数存在する場合、損失正接tanδが0.1となる複数の温度のうち、最高温度を基準温度とする。
【0024】
損失正接tanδが0.1未満となる温度領域である低温側温度領域について、図1に示す損失正接tanδの温度特性曲線では、基準温度よりも低い温度領域であり、図2に示す損失正接tanδの温度特性曲線では、損失正接tanδが0.1となる低温側の温度よりも高く、かつ基準温度よりも低い、温度領域である。損失正接tanδが0.1となる低温側の温度は、基準温度よりも低い。
【0025】
低温側温度領域より高温側の高温側温度領域の損失正接tanδは、0.1以上0.4以下である。高温側温度領域の損失正接tanδが0.1以上であると、絶縁性樹脂組成物の押出成形時のトルクが低下するため、絶縁性樹脂組成物の押出成形が容易になる。また、高温側温度領域の損失正接tanδが0.4以下であると、押出成形で得られた絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できるため、絶縁性樹脂組成物の形状を長期間に亘って安定して維持できる。絶縁性樹脂組成物を電力ケーブルや電力ケーブル接続部に用いると、電力ケーブルや電力ケーブル接続部の横断面の真円度が小さい状態を長期間に亘って維持できる。
【0026】
損失正接tanδが0.1以上0.4以下となる温度領域である高温側温度領域について、最高温度は240℃以上である。例えば、図1に示す損失正接tanδの温度特性曲線では、高温側温度領域の最高温度は270℃程度である。
【0027】
高温側温度領域の最高温度が240℃以上であると、例えば成型時溶融することで樹脂の自重でサグが発生することがなくなるので、ケーブルの真円性を保つことで有効である。ケーブルの真円性の観点から、高温側温度領域の最高温度は、240℃以上であり、好ましくは300℃以下である。高温側温度領域の最高温度が300℃より高い組成となると、絶縁性樹脂組成物は300℃近くまで加熱しても損失正接tanδが低いということになるので、絶縁性樹脂組成物は非常に硬い材料である、ということになる。こういった組成の絶縁性樹脂組成物を押出成形するとなると、例えば押出成形温度180~240℃で非常に大きなトルクがかかってしまい、押出成形が容易ではない。押出成形温度を更に上げればこういったトルクの問題を解決できるが、温度が高い分、絶縁性樹脂組成物の熱劣化が進行しやすくなることがある。また、この熱劣化対策として多量の酸化防止剤を絶縁性樹脂組成物に添加するときには、絶縁性の低下やブリードアウトの発生等を考慮する場合がある。
【0028】
また、損失正接tanδの温度特性曲線において、高温側温度領域の最低温度は、90℃以上175℃以下であることが好ましく、90℃以上150℃以下であることがより好ましい。高温側温度領域の最低温度とは、基準温度である。高温側温度領域の最低温度が90℃以上であると、通電時ケーブル内で発生する熱で融解するなどの分子構造変化が無くなり、また高温側温度領域の最低温度が175℃以下であると、押出成形温度を高く上げすぎずに済むため、押出成形時のサグ対策や熱劣化対策などに有効である。
【0029】
また、高温側温度領域において、損失正接tanδが0.1以上0.3以下の範囲における最高温度は、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。この最高温度は、高温側温度領域の最高温度よりも低い。損失正接tanδが0.1以上0.3以下の範囲における最高温度が160℃以上であると、押出成形中にサグを発生させること無く成形が可能である。
【0030】
また、損失正接tanδの温度特性曲線において、90℃における損失正接tanδは0.1未満であることが好ましい。換言すると、損失正接tanδの温度特性曲線において、90℃は低温側温度領域内であることが好ましい。90℃における損失正接tanδが0.1未満であると、通電時ケーブル内で発生する熱によっておこる分子構造変化が無くなるため有効である。また、100℃付近ではスチレン系エラストマーの擬似架橋の開架反応により損失正接tanδが一時的に上昇することがある。このような挙動が無い方が好ましいので、損失正接tanδの温度特性曲線において、100℃における損失正接tanδは0.1未満であることが好ましい。また、ガラス転移温度の観点から、損失正接tanδの温度特性曲線において、80℃における損失正接tanδは0.1未満であることが好ましい。但し、これらのような何かしらの分子構造変化があったとしても、溶融状態になった高温領域におけるサグ性能や、成型後の絶縁性能等に何ら影響を及ぼさないのでこの限りではない。
【0031】
損失正接tanδの温度特性曲線は、絶縁性樹脂組成物に対する周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得ることができる。動的粘弾性測定は、粘弾性測定装置(アントンパール社製、Physica MCR301)を用い、厚さ2mmのシート状の絶縁性樹脂組成物に対して、周波数100rad/s、測定温度25℃以上250℃以下、昇温温度5℃/分で行われる。
【0032】
また、絶縁性樹脂組成物は、例えばナフタレンオイル、アロマティックオイル、パラフィンオイル、ポリアロマティックオイルといったミネラルオイルやフェニル基由来のオイルなどの油状液体を、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有しなくても、十分な可撓性および電気絶縁性を有することができるが、可撓性や電気絶縁性をより向上するために、サグ耐性を低下しない程度に上記油状液体を含有してもよい。絶縁性樹脂組成物に含まれる油状液体の含有割合は、好ましくは0質量%以上25質量%以下、より好ましくは0質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上5質量%以下である。
【0033】
また、絶縁性樹脂組成物は、例えば酸化亜鉛、酸化マグネシウム、シリカ、カーボン、フラーレンなどのフィラー成分を、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有しなくても、十分な可撓性および電気絶縁性を有することができるが、可撓性や電気絶縁性をより向上するために、サグ耐性を低下しない程度に上記フィラー成分を含有してもよい。絶縁性樹脂組成物に含まれるフィラー成分の含有割合は、好ましくは0質量%以上20質量%以下、より好ましくは0質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上5質量%以下である。
【0034】
また、絶縁性樹脂組成物は、例えばポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレンなどの融点50~200℃の熱可塑性樹脂および当該熱可塑性樹脂の変性樹脂の少なくとも一方を、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有しなくても、十分な可撓性および電気絶縁性を有することができるが、可撓性や電気絶縁性をより向上するために、サグ耐性を低下しない程度に上記熱可塑性樹脂および上記熱可塑性樹脂の変性樹脂の少なくとも一方を含有してもよい。絶縁性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂および変性樹脂の合計含有割合は、好ましくは0.1質量%以上25.0質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0035】
また、絶縁性樹脂組成物は、例えばジ-t-ヘキシルパーオキサイド(日油社製パーヘキシルD)、ジクミルパーオキサイド(日油社製パークミルD)、2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製パーヘキサ25B)、α, α' -ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日油社製パーブチルP )、t-ブチルクミルパーオキサイド(日油社製パーブチルC)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(日油社製パーブチルD)などの架橋剤を、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有し架橋させずとも、十分な耐熱性および電気絶縁性を有することができるが、耐熱性や電気絶縁性をより向上するために、耐熱性や電気絶縁性を低下しない程度に上記架橋剤を含有して架橋させてもよい。さらに、少量の架橋材を混合し部分的に架橋させることで、曲げやすさなどの機械的特性の向上、耐熱性の向上などが可能となる。また、選定する架橋剤の組成によっては、電気絶縁性を向上させることができる。絶縁性樹脂組成物に含まれる架橋剤の含有割合は、好ましくは0.1質量%5.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下である。
【0036】
架橋剤によって架橋されている絶縁性樹脂組成物は、架橋型の絶縁性樹脂組成物であり、架橋剤によって架橋されていない絶縁性樹脂組成物は、非架橋型の絶縁性樹脂組成物である。
【0037】
また、絶縁性樹脂組成物は、安定化剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、またはこれらの酸化防止剤から2種類以上選定される混合物を、耐熱性、電気絶縁性、サグ耐性を低下しない程度に含有してもよい。
【0038】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、テトラキス[メチレン-3-( 3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(BASF社製イルガノックス1010)、1, 6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製イルガノックス259)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製イルガノックス1076)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製イルガ ノックス1135)であることが好ましく、テトラキス[メチレン-3-( 3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンであることがより好ましい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
チオエーテル系酸化防止剤は、4,4’-チオビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)(シプロ化成社製シーノックスBCS)、2,2’-チオビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)(BASF社製イルガノックス1081)であることが好ましく、4,4’-チオビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)であることがより好ましい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
絶縁性樹脂組成物に含まれる安定化剤の含有割合は、好ましくは0.01質量%以上10.00質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以上1.0質量%以下である。安定化剤の含有割合が0.01質量%以上であると、絶縁性樹脂組成物の耐熱性を向上できる。安定化剤の含有割合が10.00質量%以下であると、絶縁性樹脂組成物の電気絶縁性を向上できる。
【0041】
架橋処理を行わずに、可撓性および電気絶縁性に優れ、サグや熱が加わったなどの分子変動による熱変形を抑制する観点から、ポリプロピレン樹脂(A)は、ホモポリプロピレン、エチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むランダムポリプロピレン、またはホモポリプロピレンとエチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むブロックポリプロピレンであることが好ましく、エチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むランダムポリプロピレンまたはホモポリプロピレンとエチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むブロックポリプロピレンであることがより好ましく、エチレンに由来する構成単位と炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含むランダムポリプロピレンであることがさらに好ましい。
【0042】
ランダムポリプロピレンを構成するエチレンに由来する構成単位は、エチレンであることが好ましい。ランダムポリプロピレンを構成する炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位は、プロピレンまたはブテンであることが好ましい。
【0043】
ランダムポリプロピレンを構成する、エチレンに由来する構成単位(E)および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位(O)について、炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位(O)に対するエチレンに由来する構成単位(E)の比(E/O)は、好ましくは0以上、より好ましくは0.001以上、さらに好ましくは0.010以上である。ランダムポリプロピレンの比(E/O)が上記範囲内であると、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)との相溶性を向上できる。
【0044】
ブロックポリプロピレンを構成するエチレンに由来する構成単位は、エチレンであることが好ましい。ブロックポリプロピレンを構成する炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位は、プロピレンまたはブテンであることが好ましい。
【0045】
ブロックポリプロピレンを構成する、エチレンに由来する構成単位(E)および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位(O)について、炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位(O)に対するエチレンに由来する構成単位(E)の比(E/O)は、好ましくは0以上、より好ましくは0.001以上、さらに好ましくは0.010以上である。ブロックポリプロピレンの比(E/O)が上記範囲内であると、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)との相溶性を向上できる。また、ブロックポリプロピレンの比(E/O)は、好ましくは0.250以下、より好ましくは0.120以下、さらに好ましくは0.055以下である。ブロックポリプロピレンの比(E/O)が上記範囲内であると、熱を加わったときの分子変動による熱変形を抑制できる。
【0046】
絶縁性樹脂組成物に含まれるポリプロピレン樹脂(A)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有比は、ポリプロピレン樹脂(A):スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の質量%で、20.0以上55.0以下:45.0以上80.0以下であることが好ましい。
【0047】
そのなかでも、ポリプロピレン樹脂(A):スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有比について、質量%で、ポリプロピレン樹脂(A)は、より好ましくは30.0以上、さらに好ましくは35.0以上である。ポリプロピレン樹脂(A)が上記範囲内であると、ポリプロピレン樹脂(A)の形状にもよるが、押出時のトルクオーバーやホッパー下のブリッジ、成型物のクラックや白化などが起こりづらくなる。
【0048】
また、上記のなかでも、ポリプロピレン樹脂(A):スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有比について、質量%で、ポリプロピレン樹脂(A)は、より好ましくは45.0以下である。ポリプロピレン樹脂(A)が上記範囲内であると、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物の成型時のサグを抑制できる。
【0049】
また、上記のなかでも、ポリプロピレン樹脂(A):スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有比について、質量%で、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、より好ましくは40.0以上、さらに好ましくは42.5以上、特に好ましくは45.0以上である。スチレン系熱可塑性エラストマー(B)が上記範囲内であると、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。
【0050】
また、上記のなかでも、ポリプロピレン樹脂(A):スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有比について、質量%で、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、より好ましくは70.0以下、さらに好ましくは65.0以下である。スチレン系熱可塑性エラストマー(B)が上記範囲内であると、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の形状にもよるが、押出時のトルクオーバーやホッパー下のブリッジ、成型物のクラックなどが起こりづらくなる。これに加えて、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。
【0051】
また、絶縁性樹脂組成物に含まれるスチレンの含有割合は、好ましくは10質量%以上30質量%以下、より好ましくは12.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上20質量%以下である。スチレンの含有割合が上記範囲内であると、ポリプロピレンとの相溶性が増し、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。
【0052】
架橋処理を行わずに、可撓性および電気絶縁性に優れ、サグを抑制する観点から、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、スチレンに由来する構成単位を含み、かつ、エチレンに由来する構成単位および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の少なくとも一方の構成単位を含むことが好ましい。
【0053】
スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成するスチレンに由来する構成単位は、スチレンであることが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成するエチレンに由来する構成単位は、エチレンであることが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位は、プロピレンまたはブテンであることが好ましい。
【0054】
スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、スチレンに由来する構成単位は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15.0質量%以上、さらに好ましくは20.0質量%以上である。上記のスチレンに由来する構成単位が10質量%以上であると、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できる。
【0055】
また、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、スチレンに由来する構成単位は、好ましくは60.0質量%以下、より好ましくは50.0質量%以下、さらに好ましくは40.0質量%以下である。上記のスチレンに由来する構成単位が60.0質量%以下であると、スチレンに由来する構成単位以外であるエチレンに由来する構成単位や炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の総計が40.0質量%以上となるため、ポリプロピレン樹脂(A)との相溶性が向上し、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。
【0056】
また、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、エチレンに由来する構成単位は、好ましくは20.0質量%以上、より好ましくは30.0質量%以上、さらに好ましくは40.0質量%以上である。上記のエチレンに由来する構成単位が20.0質量%以上であると、ポリプロピレン樹脂(A)との相溶性が向上するため、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。
【0057】
また、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、エチレンに由来する構成単位は、好ましくは70.0質量%以下、より好ましくは67.5質量%以下、さらに好ましくは60.0質量%以下である。上記のエチレンに由来する構成単位が60.0質量%以下であると、ポリプロピレン樹脂(A)との相溶性を維持するとともに熱が加わった等の分子変動による熱変形を起こしづらくなるため、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。
【0058】
また、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位は、好ましくは10.0質量%以上、より好ましくは12.5質量%以上、さらに好ましくは15.0質量%以上である。上記の炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位が10.0質量%以上であると、耐熱性やポリプロピレン樹脂(A)との相溶性が向上するため、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性をさらに向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグをさらに抑制できる。
【0059】
また、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を構成する、スチレンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、および炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位は、好ましくは45.0質量%以下、より好ましくは42.5質量%以下、さらに好ましくは40.0質量%以下である。上記の炭素数3以上30以下のα-オレフィンに由来する構成単位が40.0質量%以下であると、耐熱性を維持しポリプロピレン樹脂(A)との相溶性を維持するとともに、熱が加わった等の分子変動による熱変形を起こしづらくなるため、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性をさらに向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグをさらに抑制できる。
【0060】
また、絶縁性樹脂組成物は、架橋処理を行わずに、可撓性、電気絶縁性、熱変形およびサグ耐性の低下が生じなければ、ポリプロピレン樹脂(A)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B)に加えて、各種添加材を含有してもよい。
【0061】
絶縁性樹脂組成物について、90℃で30kV/mmの交流電界を印加したときの誘電正接は、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。
【0062】
誘電正接は、絶縁体内部での電気エネルギー損失のことであり、交流電力での絶縁体性能を評価する指標である。絶縁体に交流電圧を印加すると、絶縁体内の分子が振動することにより、絶縁体内部で電気エネルギーの一部が熱エネルギーに変わる誘電損という現象が起こり、絶縁体が発熱する。この際の電気エネルギー損失の目安として、誘電正接(充電される電流と損失する電流との比)が用いられる。
【0063】
そのため、絶縁性樹脂組成物の上記誘電正接が0.15%以下であると、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。さらに、上記誘電正接が低いほど、絶縁性樹脂組成物は、高電圧用として、電力ケーブルに好適に用いられる。
【0064】
また、絶縁性樹脂組成物について、初期電荷量(Q0)に対する、90℃で30kV/mmの直流電界を印加したときの、5分後の電荷量(Q300)の比(Q300/Q0)は、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.75以下、さらに好ましくは1.50以下、最も好ましくは1.00である。
【0065】
比(Q300/Q0)すなわち電荷蓄積率は、直流電力での絶縁体性能を評価する指標であり、Q(t)法(電流積分法)で測定する。Q(t)法は、電流I(t)を時間積分した積分電荷量特性Q(t)=∫I(t)dtから、絶縁体内の電荷蓄積の有無を評価する方法である。積分電荷量がQ(t)=Cs・Vdc(Cs:絶縁体の静電容量、Vdc:印加直流電圧)の場合、絶縁体内の電荷蓄積が生じていないことを示唆する。積分電荷量がQ(t)>Cs・Vdcの場合、絶縁体内の電荷蓄積が生じていることを示唆する。絶縁体内の電荷蓄積が生じると、絶縁体の電界変歪が生じる。電界変歪が大きいと、絶縁体には局所的な電界集中が起こり、絶縁破壊の要因になるため、直流絶縁材料には適さない。
【0066】
そのため、上記比(Q300/Q0))が2.00以下であると、架橋処理を行わずに、絶縁性樹脂組成物の可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、絶縁性樹脂組成物のサグを抑制できる。
【0067】
上記の絶縁性樹脂組成物の製造方法は、ポリプロピレン樹脂(A)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B)を混錬する工程を含む。ポリプロピレン樹脂(A)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B)を混錬することによって、絶縁性樹脂組成物を製造できる。絶縁性樹脂組成物の製造方法では、油展および架橋を行わない。
【0068】
このような製造方法で得られた絶縁性樹脂組成物は、架橋処理を行わずに、高い可撓性および電気絶縁性、ならびに熱変形およびサグの抑制が求められている電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部に好適に用いられる。
【0069】
図3は、実施形態の絶縁性樹脂組成物を備える電力ケーブルの一例を示す横断面図である。
【0070】
図3に示すように、電力ケーブル10は、少なくとも、導体11、内部半導電層12、上記の絶縁性樹脂組成物からなる絶縁層13、および外部半導電層14を備える。内部半導電層12は、導体11の外周を被覆する。絶縁層13は、内部半導電層12の外周を被覆する。外部半導電層14は、絶縁層13の外周を被覆する。
【0071】
また、電力ケーブル10は、外部半導電層14の外周を被覆する金属遮蔽層15をさらに備えてもよい。また、電力ケーブル10は、金属遮蔽層15の外周を覆うシース16をさらに備えてもよい。
【0072】
内部半導電層12を外周に備える導体11と共に上記の絶縁性樹脂組成物を押出成形して、内部半導電層12の外周を覆う絶縁層13を形成する。続いて、既知の方法で、外部半導電層14を設け、さらに必要に応じて金属遮蔽層15およびシース16を設けることで、電力ケーブル10を製造できる。
【0073】
図4は、実施形態の絶縁性樹脂組成物を備える電力ケーブル接続部の一例を示す縦断面図である。
【0074】
図4に示すように、電力ケーブル接続部20は、一方の電力ケーブル10の導体11と他方の電力ケーブル10の導体11とを接続する接続部21、一方の電力ケーブル10の導体11の露出部分、および他方の電力ケーブル10の導体11の露出部分を被覆する接続部内部半導電層22と、接続部内部半導電層22の外周を被覆する上記の絶縁性樹脂組成物からなる接続部絶縁層23と、接続部絶縁層23の外周を被覆する接続部外部半導電層24とを備える。
【0075】
段剥処理で露出した一方の電力ケーブル10の端部の導体11と段剥処理で露出した他方の電力ケーブル10の端部の導体11とを接続する接続部21、段剥処理で露出した一方の電力ケーブル10の導体11の露出部分、および段剥処理で露出した他方の電力ケーブル10の導体11の露出部分を被覆する接続部内部半導電層22の外周を上記の絶縁性樹脂組成物で覆うことによって、接続部絶縁層23を形成する。続いて、既知の方法で接続部外部半導電層24を設けることで、電力ケーブル接続部20を製造できる。
【0076】
以上説明した実施形態によれば、油展を行わず、ポリプロピレン樹脂(A)と、ポリプロピレン樹脂(A)に対する相溶性に優れたスチレン系熱可塑性エラストマー(B)とを用い、絶縁性樹脂組成物の動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線に着目することによって、架橋工程を行わずに製造し、可撓性および電気絶縁性を向上できると共に、熱変形およびサグを抑制できる。
【0077】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0078】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1~24および比較例1~20)
ポリプロピレン樹脂(A)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B)を含む原料を混錬して、表1~3に示す組成の絶縁性樹脂組成物を製造した。具体的には、200℃以上220℃以下の押出温度で単軸押出機により混錬を行った。混錬後はペレット状にし、これを200℃以上220℃以下の温度条件でプレス成型を行うことで所望の厚みを有するシート状の絶縁性樹脂組成物を作製した。
【0080】
randomPP:プライムポリプロB241 (ランダムポリプロピレン、プライムポリマー社製)
homoPP:プライムポリプロB241 (ホモポリプロピレン、プライムポリマー社製)
blockPP:プライムポリプロB241 (ブロックポリプロピレン、プライムポリマー社製)
EVA:レバプレン600(エチレン酢酸ビニル共重合体、LANXESS社製)
SEEPS1:セプトン4077(スチレン系エラストマー(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体)、クラレ社製)
SEEPS2:セプトン4099(スチレン系エラストマー(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体)、クラレ社製)
SEPS1:セプトン2005(スチレン系エラストマー(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体)、クラレ社製)
SEBS:セプトン8006(スチレン系エラストマー(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、クラレ社製)
SEPS2:セプトン2006(スチレン系エラストマー(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体)、クラレ社製)
SEPS3:セプトン2104(スチレン系エラストマー(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体)、クラレ社製)
MAH変性homoPP:フサボンドP613(無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン、ダウ・ケミカル社製)
HDPE:ハイゼックス5000S(高密度ポリエチレン、プライムポリマー社製)
LDPE:DXM-446(低密度ポリエチレン、ダウ・ケミカル社製)
PS:トーヨースチロールG100C(ポリスチレン、東洋スチレン社製)
PMMA:パラペットCW001(メタクリル酸エステル樹脂、クラレ社製)
パラフィン系プロセスオイル:SUNPAR110(日本サン石油社製)
SiO2:QSG-10(シリカ、信越化学工業社製)
DCP:パークミルD(ジクミルパーオキサイド、日本油脂社製)
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
[測定および評価]
上記実施例および比較例で得られた絶縁性樹脂組成物について、下記の測定および評価を行った。結果を表4~6に示す。
【0085】
[1] 損失正接tanδの温度特性曲線
粘弾性測定装置(アントンパール社製、Physica MCR301)を用い、周波数100rad/s、測定温度25℃以上250℃以下、昇温温度5℃/分で、厚さ2mmのシート状の絶縁性樹脂組成物の動的粘弾性測定を行って、損失正接tanδの温度特性曲線を得た。
【0086】
[2] 誘電正接
90℃の恒温槽内でシリコーンオイルに浸漬させた厚さ0.1mm以上3.0mm以下のシート状の絶縁性樹脂組成物の同じ面にガード電極と測定電極とを設け、30kV/mmの交流電界を印加したときの絶縁性樹脂組成物の誘電正接を測定した。
【0087】
[3] 比(Q300/Q0)
Q(t)メーター(株式会社エー・アンド・デイ製、AD-9832A)を用い、90℃、直流電界30kV/mm、Q(t)法で、厚さ0.1mm以上3.0mm以下のシート状の絶縁性樹脂組成物の電荷蓄積率を測定し、5分後の電荷量(Q300)を得た。そして、初期電荷量(Q0)に対する電荷量(Q300)の比(Q300/Q0)を算出した。
【0088】
[4] サグ耐性
恒温槽内で、絶縁性樹脂組成物からなるJIS K 6251:2017に記載の厚さ2mmのダンベル状3号形の試験片の一端を固定して吊り下げた状態で、所定温度で所定時間静置した後、絶縁性樹脂組成物の伸びの有無を観察した。
【0089】
具体的には、まず、恒温槽内で吊り下げた状態の絶縁性樹脂組成物を加熱して170℃で10分間静置した後、絶縁性樹脂組成物の伸びの有無を観察した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察された場合、サグ耐性は無と判断した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察されなかった場合、170℃の恒温槽内で吊り下げた状態の絶縁性樹脂組成物を加熱して180℃で10分間静置した後、絶縁性樹脂組成物の伸びの有無を観察した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察された場合、サグ耐性は無と判断した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察されなかった場合、180℃の恒温槽内で吊り下げた状態の絶縁性樹脂組成物を加熱して190℃で10分間静置した後、絶縁性樹脂組成物の伸びの有無を観察した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察された場合、サグ耐性は無と判断した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察されなかった場合、190℃の恒温槽内で吊り下げた状態の絶縁性樹脂組成物を加熱して200℃で10分間静置した後、絶縁性樹脂組成物の伸びの有無を観察した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察された場合、サグ耐性は無と判断した。この試験を3回行い、絶縁性樹脂組成物の伸びが観察されなかった場合、サグ耐性は有と判断した。200℃は、押出成形時の想定温度である。
【0090】
[5] 熱変形(耐熱性)
長さ15mm、幅30mm、厚さ2mmの絶縁性樹脂組成物を半径5mmの半円状で長さ約35mmの棒の上に置き、絶縁性樹脂組成物に対して、140℃で30分加熱後、1kg荷重をかけて更に140℃で30分加熱後、絶縁性樹脂組成物の厚さを測り、減少率を算出した。減少率が10%未満であれば、合格とした。
【0091】
[6] 引張弾性率(可撓性)
絶縁性樹脂組成物の柔らかさを調査するために、JIS K 6921-2:2010の引張試験に基づいて引張弾性率を測定した。引張弾性率の大きな材料は応力に対してひずみが小さく、「固い」と表現し、引張弾性率の小さな材料は「柔らかい」と表現され、ここでは引張弾性率が500MPa以下を柔らかい材料とし、電力ケーブル用絶縁材として合格とした。
【0092】
[7] 空間電荷(直流特性)
空間電荷測定装置(ファイブラボ株式会社製)を用い、90℃、印加電圧9kV、測定時間24h、パルス静電応力法(PEA法)で、長さ50mm、幅50mm、厚さ0.3mmのシート状の絶縁性樹脂組成物の空間電荷を測定し、電界変歪の有無をみた。
【0093】
空間電荷測定では、PEA法を用いて、絶縁性樹脂組成物における電荷の長時間の挙動が安定かどうかを判断した。電荷の長時間の挙動が安定であると、絶縁性樹脂組成物には局所的な電界変歪が起こらないため、絶縁性樹脂組成物は直流絶縁材料に良好である。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
表1~2および表4~5に示すように、実施例1~10では、損失正接tanδの温度特性曲線は、高温側温度領域と低温側温度領域とを有し、高温側温度領域の最高温度が240℃以上であったため、可撓性および電気絶縁性に優れ、熱変形およびサグを抑制できた。また、誘電正接、Q300/Q0は非常に低く、空間電荷特性では電界変歪が無いことから、いずれの実施例も直流電流下または交流電流下で優れた電気絶縁特性を有することがわかった。特に、実施例3~8、10では、エチレン率の高いスチレン系エラストマーを多く含み且つランダムポリプロピレンに多量に添加しているため、ランダムポリプロピレンとの相溶性がよくなり、その結果として直流電流下または交流電流下の電気絶縁特性が優れている。
【0098】
さらに、表3および表6に示すように、実施例16~24のように上記実施例3に更に第3成分としてポリエチレンやポリスチレンなどの樹脂やフィラー成分、油状液体を所望の範囲内で加えたとしても、サグが発生することも無い上、直流電流下または交流電流下の電気絶縁特性が優れていた。これはスチレン系エラストマーのエチレン成分とスチレン成分、及びその配合比を制御したことで良好な相溶性が得られたためである。
【0099】
一方、比較例1~20では、損失正接tanδの温度特性曲線が低温側温度領域を有さなかった、または高温側温度領域の最高温度が240℃超であったため、可撓性や電気絶縁性の低下、熱変形やサグの発生を確認した。特に、比較例1~9では、ポリプロピレン樹脂の含有割合が20質量%以上55質量%以下でなかったことや、絶縁樹脂組成物内のスチレン系熱可塑性エラストマー由来のエチレン成分率が低いため、溶融温度以上の温度条件下の動的粘弾性測定で得られる損失正接が0.3以上となっていた。このため、電気絶縁特性が優れている組成であっても成型時溶融することで樹脂の自重でサグが発生してしまうので真円性を保てなく上手くケーブル成形ができないことになる。また、比較例10~17ではスチレン系エラストマーが含有されていないポリプロピレン組成となるが、相溶性が無いためサグが発生してしまっている。また、比較例18~20ではベース材をポリエチレンのようなプロピレン樹脂よりエチレン成分の多いも材料に変更した。その結果エチレン成分が過剰のため加熱変形性に劣ることがわかった。これはケーブルにしたときに流れる電流の電熱と外部からの荷重でいずれは変形してしまうことを示唆する。
【符号の説明】
【0100】
10 電力ケーブル
11 導体
12 内部半導電層
13 絶縁層
14 外部半導電層
15 金属遮蔽層
16 シース
20 電力ケーブル接続部
21 接続部
22 接続部内部半導電層
23 接続部絶縁層
24 接続部外部半導電層
【要約】
【課題】架橋工程を行わなくても、可撓性および電気絶縁性に優れ、熱変形およびサグを抑制できる電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物、電力ケーブルおよび電力ケーブル接続部を提供する。
【解決手段】電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物は、プロピレン系重合体であるポリプロピレン樹脂(A)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)と、を含有し、周波数100rad/sの動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性曲線は、損失正接tanδが0.1以上0.4以下の高温側温度領域と損失正接tanδが0.1未満の低温側温度領域とを有し、前記高温側温度領域の最高温度は240℃以上である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4