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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/04 20060101AFI20221220BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20221220BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01J37/04 Z
H01J37/147 B
H01J37/28 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021529593
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2019026275
(87)【国際公開番号】W WO2021001919
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】榊原 慎
(72)【発明者】
【氏名】圓山 百代
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
(72)【発明者】
【氏名】谷本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】笹氣 裕子
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-058314(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069271(WO,A1)
【文献】特開2001-243904(JP,A)
【文献】特開2007-311117(JP,A)
【文献】特開2005-317558(JP,A)
【文献】特開平02-297852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/04
H01J 37/141
H01J 37/147
H01J 37/21
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場レンズとブースタ電極を有する荷電粒子線装置であって、
前記磁場レンズと前記ブースタ電極の間に絶縁体を配置し、
前記絶縁体の先端部は前記磁場レンズの一方の磁路の先端よりも、他方の磁路の先端側に突出している、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線装置であって、
前記絶縁体の先端の位置を、前記磁場レンズの前記一方の磁路の先端と、前記他方の磁路の先端との間に配置する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子線装置であって、
前記絶縁体の表面に、帯電を防止するための静電気防止膜を形成する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1記載の荷電粒子線装置であって、
前記磁場レンズの前記一方の磁路の先端と、前記他方の磁路の先端との間に、非磁性体の金属電極を配置する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子線装置であって、
前記絶縁体と前記磁場レンズの間に配置された放電用電極と、
前記放電用電極に放電対策用電圧を印加する放電対策用電源と、を備える、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1記載の荷電粒子線装置であって、
試料を前記荷電粒子線装置の内部に導入する際に、前記荷電粒子線装置の真空排気時の圧力変化をモニタし、モニタ結果に基づき、前記ブースタ電極へのブースタ電圧の印加シーケンスを制御する制御部を備える、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6記載の荷電粒子線装置であって、
表示部と、前記荷電粒子線装置の真空排気時の真空度を計測する真空ゲージを備える、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記真空ゲージの計測値に基づき、排気開始から所定時間経過後に前記真空度が基準値を超えない時、前記ブースタ電圧の出力をオフし、前記表示部に警告表示するよう制御する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項7記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記真空ゲージの計測値に基づき、排気開始から所定時間経過後に前記真空度が基準値を超えた時、前記ブースタ電圧の出力をオンするよう制御する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項7記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記真空ゲージの計測値に基づき、前記真空度が試料ロード許容値に到達した時、前記試料を真空チャンバにロードするよう制御する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
荷電粒子線を発生する荷電粒子線源と、
前記荷電粒子線源の下流側に設置され、前記荷電粒子線を照射する照射レンズと、
前記照射レンズの下流側に設置され、前記荷電粒子線からマルチビームを形成するマルチビーム形成部と、
前記マルチビーム形成部の下流に設置されたビームセパレータと、
前記ビームセパレータの下流に設置された集束レンズと、
前記ビームセパレータで分離される二次荷電粒子を検出するマルチ検出器と、を備え、
前記磁場レンズと前記ブースタ電極と前記絶縁体は、前記集束レンズの下流に設置される、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項11記載の荷電粒子線装置であって、
前記絶縁体の先端の位置を、前記磁場レンズの前記一方の磁路の先端と、前記他方の磁路の先端との間に配置する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項11記載の荷電粒子線装置であって、
前記絶縁体の表面に、帯電を防止するための静電気防止膜を形成する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項11記載の荷電粒子線装置であって、
前記磁場レンズの前記一方の磁路の先端と、前記他方の磁路の先端との間に非磁性体の金属電極を配置する、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項11記載の荷電粒子線装置であって、
前記絶縁体と前記磁場レンズの間に配置された放電用電極と、
前記放電用電極に放電対策用電圧を印加する放電対策用電源と、を備える、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置に係り、特に、低ダメージかつ高い空間分解能で荷電粒子線を照射可能な荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下、SEM)などでは試料へのダメージを低減するため、低加速化が進んでいる。低加速では光学系の収差のため、分解能が劣化する。このため、電子線を収束するための磁場レンズを通過する際に、電子を加速する方式が考案されている。この方式の電子線応用装置においては、電子線を加速するために、正の電圧を印加するブースタ電極を搭載している。
【0003】
このような電子線応用装置の磁場レンズの付近では、試料からの電子、ブースタ電界による微小放電の電子が存在する。これらの電子は、磁場レンズの磁場による回転作用を受けながら、正電圧を持つブースタ電極に引っ張られる。磁場による回転作用が強くなると、電子の飛行時間が長くなり、残留ガスをイオン化させる。生成された残留ガスのイオンもブースタ電界の影響を受けて、周囲の電極に衝突する。これらの電子やイオンにより、ブースタ電極や周囲の電極の電圧低下や放電現象を引き起こす。
【0004】
関連する先行技術として例えば特許文献1がある。特許文献1には、荷電粒子線装置の電磁重畳型対物レンズとして、互いに電気的に絶縁されたヨーク部材と、制御磁路部材と、ブースタ磁路部材を備え、低加速な電子ビームにより微細な回路パターンのウェハ試料を高分解能に観察、検査、分析する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-138024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、磁場レンズを有する電子線応用装置において、電子線を加速するためにブースタ電極を搭載すると、通常では問題にならない微小放電で発生した電子が、磁場で回転しながらブースタ電極に衝突する。このとき、電子は空間中の残留ガスをイオンに励起しながら旋回するため、イオン放電を起こし、電子線応用装置としての所望の性能を得ることができなくなるという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、試料付近で磁場を発生させる磁場レンズと、ブースタ電極を備えた構成において、イオン放電を防止することが可能な荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明においては、磁場レンズとブースタ電極を有する荷電粒子線装置であって、磁場レンズとブースタ電極の間に絶縁体を配置し、絶縁体の先端部を磁場レンズの一方の磁路の先端よりも、他方の磁路の先端側に突出させた構成の荷電粒子線装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブースタ電界に影響を与えずに、荷電粒子が旋回する空間を少なくし、イオン放電を防止する荷電粒子線装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係る電子顕微鏡の概略構成を示す図。
図2】実施例1に係る電子顕微鏡の要部の構成例を示す図。
図3】実施例2に係る電子顕微鏡の要部の構成例を示す図。
図4】実施例3に係る電子顕微鏡の要部の構成例を示す図。
図5】実施例3に係るマルチビーム装置の概略構成を示す図。
図6】実施例4に係る電子顕微鏡システムの概略構成を示す図。
図7】実施例4に係る電子顕微鏡システムの真空排気動作の一例を示すフロー図。
図8】実施例4に係る電子顕微鏡システムの真空排気速度の観察例を示す模式図。
図9】実施例5に係る電子顕微鏡の要部の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に従い順次説明する。なお、複数の図面において、同一する構成要素には、原則、同一の数番を付した。また、以下の実施例においては、荷電粒子線装置として電子顕微鏡を例示して説明するが、本発明は電子線描画装置などの他の荷電粒子線装置にも適用ができる。
【実施例1】
【0012】
実施例1は、磁場レンズとブースタ電極を有する荷電粒子線装置であって、磁場レンズとブースタ電極の間に絶縁体を備え、絶縁体の先端部を磁場レンズの一方の磁路の先端よりも、他方の磁路の先端側に突出させた構成の荷電粒子線装置の実施例である。
【0013】
図1は実施例1に係る荷電粒子線装置の一構成例である電子顕微鏡の概略断面構成を示す図である。荷電粒子線源である電子源10から放出された電子線11は偏向器12で適宜偏向され、対物レンズを構成する磁場レンズ13を経由して、試料に照射される電子プローブとなる。電子プローブが照射される試料を載置する試料ステージ14は、試料ステージ駆動機構15によりX-Y駆動等され視野選びなどを行なう。磁場レンズ13は、同図に示すように上磁路131、コイル132、及び下磁路133からなる。磁場レンズはコイル132を軟磁性体等の磁路で閉じ込める構成をとっており、磁場を形成したい空間位置で、磁路に隙間を空けている。本明細書では、二つの磁路がその隙間部分を挟んで向かいあう箇所を「磁路の先端」と記述する。
【0014】
同図に示すように、磁場レンズ13の内側には、電子線を加速するために、正のブースタ電圧18が印加されるブースタ電極16と、絶縁体17が装置の光軸の回りに設置される。試料ステージ14には図示を省略したリターディング電圧が印加される。
【0015】
上述したように、磁場レンズ13の付近では、試料からの電子、ブースタ電極16のブースタ電界による微小放電の電子が存在する。これらの電子は、磁場による回転作用を受けながら正電圧を持つブースタ電極16に引っ張られ、その飛行時間が長くなると、上述したように残留ガスをイオン化させる。生成されたイオンもブースタ電界の影響を受けて、周囲の電極に衝突する。これらの電子やイオンにより、ブースタ電極や周囲の電極の電圧低下や放電現象を引き起こす。より具体的には、アウトレンズ型の対物レンズ構造の場合、空間耐圧が20kV以上あるにも係わらず、磁場の印加によるイオン放電が原因で、5kV以下でも放電してしまうようになる。このような現象は、アウトガスが多い試料を観察する場合には特に顕著に見られる現象である。
【0016】
図2に実施例1に係る電子顕微鏡の要部である磁場レンズ13とブースタ電極16周辺の一構成例を示した。同図に示すように、磁場レンズ13とブースタ電極16の間に設置された絶縁体17は、磁場レンズ13の上磁路131、下磁路133の先端を覆う構成を有し、この構成により、微小放電による電子19の旋回する空間を少なくし、電子19の浮遊を防止する。また、上磁路131、下磁路133を構成する磁性材の先端付近に、電子の放出を抑制する材料を塗布し、微小放電による電子の発生を更に抑制するよう構成しても良い。
【実施例2】
【0017】
実施例2は、試料ステージ上に載置された試料に対して他の場所から電子が照射された際に、磁場レンズとブースタ電極の間に設置された絶縁体が帯電しないように、絶縁体が少なくとも一つの磁極の先端のみを覆う構成の荷電粒子線装置の実施例である。言い換えるなら、絶縁体の先端の位置を、磁場レンズの一方の磁路の先端と、他方の磁路の先端との間に設置する。より具体的には、絶縁体の下側の先端を、磁場レンズの上磁路の先端よりも下磁路側に突出させ、絶縁体の下側の先端が、磁場レンズの下磁路よりも上に設置する構成である。
【0018】
図3は実施例2の電子顕微鏡の要部を示す図である。図1図2と共通する数番は同一物を示している。同図に示すように、点線の円で囲われた部分において、電子線11の照射により試料ステージ14上の試料から飛んでくる電子21によって絶縁体が帯電しないように、同図に示す絶縁体20は、図1図2に示した絶縁体17と異なり、磁場レンズ13の上磁路131のみを覆う構成を有する。本実施例の構成により、絶縁体20の帯電を低減・防止し、絶縁体20の設置の本来の効果である、微小放電の電子による悪影響を防止することが可能となる。
【0019】
更に、本実施例の構成において、絶縁体20の表面に、帯電を防止するための静電気防止膜を形成するようにしても良い。この静電気防止膜は、スプレータイプで半導電体被膜を絶縁体20の表面に形成するものを利用することができる。
【実施例3】
【0020】
実施例3は、磁場レンズの上磁路と下磁路の間に非磁性体の金属電極を配置することにより、絶縁体の先端付近の電界を平行、均一にする構成の荷電粒子線装置の実施例である。
【0021】
図4は実施例3の電子顕微鏡の要部の一構成例を示す図である。同図に示すように、磁場レンズ13の上磁路131の先端と下磁路133の先端の間に非磁性体の金属電極22を配置した。非磁性体の金属電極22は、例えば接地などの所定の電位点に接続する。この非磁性体の金属電極22により、点線の楕円で囲む領域、すなわち絶縁体20の下側の先端付近の電界を平行、均一にすることができ、これにより電界を強くすることで磁場による電子の回転を抑え、放電現象を防止して、より高圧まで電圧を保持することを可能となる。
【0022】
なお、以上説明した実施例1-実施例3の電子顕微鏡の構成は、シングルビームを使った基本的な構成で説明したが、各実施例はシングルビームのものに限定されず、分解能と大視野を両立するマルチビーム構成の高速SEMや電子線描画装置などの荷電粒子線装置に適用することができる。
【0023】
図5に実施利3の構成を備える、高速SEMや電子線描画装置などのマルチビーム構成の荷電粒子線装置の一構成例を示した。マルチビーム構成の荷電粒子線装置では、電子源などの荷電粒子線源の下流側に設置され、荷電粒子線を照射する照射レンズと、照射レンズの下流側に設置され、荷電粒子線からマルチビームを形成するマルチビーム形成部と、マルチビーム形成部の下流に設置されたビームセパレータとビームセパレータの下流に設置された集束レンズと、ビームセパレータで分離される二次荷電粒子を検出するマルチ検出器などを備えている。なお、本明細書で下流とは、下側と同様、荷電粒子線源から試料に向かう側を意味する。
【0024】
すなわち、図5に示すマルチビーム構成の荷電粒子線装置においては、電子源10からの電子線は照射レンズ23を介してマルチビーム形成部24に入射し、マルチビームが形成される。各々のマルチビームはマルチビーム形成部24の下流に設置されたビームセパレータ25、集束レンズ、アパーチャ、対物レンズである磁場レンズ13等を経て、試料に照射される。試料で発生した各々の二次電子は逆経路をたどり、ビームセパレータ25により、それぞれ対応するマルチ検出器26に送られる。このようなマルチビーム構成において、磁場レンズ13は、図4に示した構成と同じく、磁場レンズ13の上磁路131の先端と下磁路133の先端の間に非磁性体の金属電極22を有する構成を備え、ブースタ電極16、絶縁体20と共に、図4を使って説明した本実施例の効果を得ることができる。
【0025】
なお、ここでは図示・説明を省略するが、図1図3を使って説明した実施例1、2の構成に対しても、図5に示すようなマルチビーム構成の荷電粒子線装置に適用でき、実施例1、実施例2の所望の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0026】
実施例4は、レジスト等のアウトガスが多い試料に電子を照射する場合、電子顕微鏡の真空ゲージの変化を観察し、真空ゲージの計測値に基づきブースタ電圧の印加時間を変化させるシーケンスを備える電子顕微鏡システムの実施例である。すなわち、試料を装置の内部に導入する際に、装置の真空排気時の圧力変化をモニタし、モニタ結果に基づき、ブースタ電極へのブースタ電圧の印加シーケンスを制御する制御部を備える電子顕微鏡システムの実施例である。また、本電子顕微鏡システムの制御部は、装置の真空排気時の圧力変化を計測する真空ゲージの計測値に基づき、排気開始から所定時間経過後に真空度が基準値を超えない場合に、警告表示を行うよう制御する構成の電子顕微鏡システムの実施例である。
【0027】
図6に示すように、真空チャンバ27の内部には、図1に示した実施例1の電子顕微鏡構成が配置される。勿論、実施例1の構成に限らず、図2図5に示した実施例2-実施例3の構成の電子顕微鏡を配置することも可能である。なお、図6に示すように、ブースタ電圧をブースタ電極に印加するためのVb電源31については、真空チャンバ27の外部に設置される。
【0028】
図6に示すように、試料交換室30が真空チャンバ27に付設され、試料交換室30と真空チャンバ27には、それぞれ真空ゲージA28、真空ゲージB29が設置される。電子顕微鏡システムを制御する制御部となる制御基板32には、真空ゲージA28,真空ゲージB29の計測値が入力される。制御基板32は、オペレータコンソール33に計測値を送って、その表示部に表示させたり、計測値に基づきVb電源31がブースタ電極に印加するブースタ電圧の値を制御する。そして、真空ゲージB29の計測値などに基づき、試料からのアウトガスが多いと判断される場合は、制御基板32は、オペレータコンソール33の表示部に警告表示を行うと共に、ブースタ電極へのブースタ電圧印加を行わないように制御することができる。
【0029】
図7図8を用いて、上述した制御部である制御基板32による電子顕微鏡システムの制御方法について説明する。図7において、オペレータがオペレータコンソール33によりシーケンス開始を選択すると、制御基板32は、試料を試料交換室30にロードするよう制御し(ステップ、以下S71)、続いて試料交換室30を真空排気するよう制御する(S72)。そして、入力される真空ゲージの計測値に基づき、真空排気速度が最低基準値を超えているか否かをチェックする(S73)。
【0030】
図8に真空排気速度の観察例を示す。同図において、横軸は排気時間、縦軸は装置内の真空度(圧力)を示している。同図に示すように、排気開始から時間の経過と共に、装置内の圧力は順次低下する。標準的な試料の場合の排気特性82では、排気開始から予め定めた所定時間経過後の真空度確認時間において、真空度を示す縦軸上の排気速度最低基準値を超えている。そこで、制御部は、S73では超えている(YES)と判断し、ブースト電圧の出力ON制御を行う(S76)。
【0031】
一方、アウトガスが多い試料の場合の排気特性83は、真空度確認時間において、排気速度最低基準値を超えていないので、S73では超えていない(NO)と判断し、ブースタ電圧の出力OFF制御を行い(S74)、真空警告フラグONとし警告表示を行う(S75)。
【0032】
更に、制御基板32は、真空ゲージの計測値に基づき、真空チャンバ27内の真空度が試料ロード許容値に到達したか否かを判断し(S77)、到達した場合(YES)、試料を真空チャンバ27にロードする(S78)。そして、真空警告フラグのON/OFF確認し(S79)、ONの場合、オペレータコンソール33に推奨の観察条件を表示し、オペレータが適宜選択を行う(S80)。真空警告フラグがOFFの場合、ブースタ電圧を含むすべての光学素子を観察条件に設定し(S81)、真空チャンバ27内の電子顕微鏡による観察を開始する。
【0033】
すなわち、本実施例によれば、制御基板32は、試料を真空チャンバ27にロードした後、警告表示がOFFの時、装置の観察条件を設定するよう制御するため、アウトガスの多寡に応じて、適切に試料の観察を実施することが可能な電子顕微鏡システムを提供することができる。
【実施例5】
【0034】
実施例5は、絶縁体と磁場レンズの間に配置された放電用電極と、放電用電極に放電対策用電圧を印加する放電対策用電源と、を備える構成の荷電粒子線装置の実施例である。すなわち、磁場コイルから放電した電子を吸収するための第2電極として放電用電極を設置した構成の荷電粒子線装置の実施例であり、本実施例の構成によりブースタ電極の電圧降下を抑制することができる。
【0035】
図9に実施例5の荷電粒子線装置の一構成例を示す。同図において、ブースタ電極16、絶縁体17と、電磁コイル13の間に第2電極として放電用電極34を設置し、放電用電極34に放電対策用電源35から放電対策用電圧を印加する。これにより、磁場コイル13から放電した電子19を放電用電極34で引き寄せ、ブースタ電圧18が印加されるブースタ電極16の電圧降下を抑制することができる。
【0036】
本発明は上記した種々の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、以上の実施例を組み合わせることで、より性能の高い荷電粒子線装置を提供することができる。また、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0037】
更に、上述した各構成、機能、制御基板等は、それらの一部又は全部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いし、所望の機能プログラムを実行する中央処理部(CPU)を作成することにより実現してもよい。
【符号の説明】
【0038】
10…電子源、11…電子線、12…偏向器、13…磁場レンズ、131…上磁路、132…コイル、133…下磁路、14…試料ステージ、15…試料ステージ駆動機構、16…ブースタ電極、17、20…絶縁体、18…ブースタ電圧、19、21…電子、22…非磁性体の金属電極、23…照射レンズ、24…マルチビーム形成部、25…ビームセパレータ、26…マルチ検出器、27…真空チャンバ、28、29…真空ゲージA、真空ゲージB、30…試料交換室、31…Vb電源、32…制御基板、33…オペレータコンソール、34…放電用電極、35…放電対策用電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9