(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】植物中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の増量方法、前記化合物含量が増加した植物の生産方法、及び前記化合物含量が増加した植物、及び前記植物を利用した食品又は飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20221221BHJP
A23L 21/12 20160101ALI20221221BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20221221BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20221221BHJP
C12J 1/02 20060101ALI20221221BHJP
C12J 1/04 20060101ALI20221221BHJP
C12G 1/00 20190101ALI20221221BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L21/12
A23L2/02 A
A23L2/00 F
C12J1/02
C12J1/04 101B
C12G1/00
A01G7/00 601C
(21)【出願番号】P 2021080165
(22)【出願日】2021-05-11
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020133211
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020207801
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】鶴本 智大
(72)【発明者】
【氏名】藤川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 敦司
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-143377(JP,A)
【文献】国際公開第2020/085782(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0289792(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0005533(US,A1)
【文献】国際公開第2018/199307(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
A01G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物若しくはその部分又はその破砕物或いは植物培養細胞に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m
2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び
前記照射後の植物若しくはその部分又はその破砕物或いは前記植物培養細胞を1日以上暗所保管すること、
を含むことを特徴とする植物若しくはその破砕物或いは植物培養細胞中のスチルベノイドの増量方法。
【請求項2】
ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実若しくはその破砕物に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m
2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び
前記照射後の果皮又は果実若しくはその破砕物を1日以上暗所保管すること、
を含むことを特徴とするブドウ果皮又はブドウ果実若しくはその破砕物中のスチルベノイドの増量方法。
【請求項3】
前記ブドウ果皮又はブドウ果実若しくはその破砕物中でスチルベノイドと、TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及びそれらの塩からなる群より選択される1以上の化合物とを増量する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記光照射は、300~400nmの波長域の光の照射量が前記275~295nmの波長域の光の照射量の50%未満で照射される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記果皮が成熟したブドウ果実の果皮である、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記275~295nmの波長域の光が0.1~1,000μmol/m
2/sの光量子束密度で照射される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記光照射は、ピーク波長285±5nm及び半値全幅5~15nmの波長スペクトルを有する光
を照射する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記光照射は、LEDを光源とする光を照射する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記スチルベノイドがレスベラトロールである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記暗所保管は、15℃~25℃の温度で実施する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実若しくはその破砕物に、請求項2~10のいずれか1項に記載の方法を適用することを特徴とする、スチルベノイドが増量されたブドウ果皮又は果実若しくはその破砕物の生産方法。
【請求項12】
ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実若しくはその破砕物に、請求項2~10のいずれか1項に記載の方法を適用する工程、及び
得られるブドウ果皮又は果実若しくはその破砕物を加工する工程を含むことを特徴とする、食品又は飲料の製造方法。
【請求項13】
前記食品又は飲料がレーズン、ジャム、ジュース、清涼飲料水、果実酢又は果実酒である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
植物若しくはその部分又はその破砕物或いは植物培養細胞に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m
2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び
前記照射後の植物若しくはその部分又はその破砕物或いは前記植物培養細胞を1日以上暗所保管すること、を含むことを特徴とする植物若しくはその破砕物或いは植物培養細胞中のTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及びそれらの塩からなる群より選択される1以上の化合物の増量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の増量方法、前記化合物含量が増加した植物を生産する方法、前記化合物含量が増加した植物、スチルベノイド含量が増加した食品及び飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、収穫後のブドウに紫外光(特に、UV-C)を照射した後、室温で保管することにより、レスベラトロール含量を増加させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物における、レスベラトロールのようなスチルベノイド並びに/又はその他の有用物質の量を安全及び/又は効率的に増加させることのできる方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び、前記照射後の植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物を1日以上暗所保管することを含むことを特徴とする植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又はブドウ果実)又はその破砕物中のスチルベノイドの増量方法が提供される。
また、本開示によれば、植物若しくはその部分又はその破砕物或いは植物培養細胞に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び、前記照射後の植物若しくはその部分又はその破砕物或いは前記照射後の植物培養細胞を1日以上暗所保管すること、を含むことを特徴とする植物若しくはその部分又はその破砕物或いは植物培養細胞中のTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及びそれらの塩からなる群より選択される1以上の化合物の増量方法が提供される。
また、本開示によれば、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び、前記照射後の植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物或いは前記植物培養細胞を1日以上暗所保管することを含むことを特徴とする、スチルベノイドが増量された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞の生産方法が提供される。
【0006】
また、本開示によれば、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、前記照射後の植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物を1日以上暗所保管すること、及び、得られる植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を加工することを含むことを特徴とする、食品又は飲料の製造方法が提供される。
また、本開示によれば、成熟した植物若しくはその部分(特に、ブドウの少なくとも果皮を含む果実)であって、質量分析法による該植物若しくはその部分(特に、果皮)中のレスベラトロールとフェニルアラニンとのシグナル強度比(レスベラトロールのシグナル強度/フェニルアラニンのシグナル強度)が0.5以上であり、該植物若しくはその部分(特に、果皮)の細胞は、レスベラトロール生合成経路に関与する酵素の発現量を増大させるための遺伝子操作を受けていない、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果実又はその果皮)が提供される。
更に、本開示によれば、質量分析法によるレスベラトロールとフェニルアラニンとのシグナル強度比(レスベラトロールのシグナル強度/フェニルアラニンのシグナル強度)が0.5以上であり、原料として遺伝子組換え植物若しくはその部分(特に、ブドウ)を用いていない食品又は飲料(植物がブドウの場合、特に、ワイン)が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の増量方法によれば、植物における、レスベラトロールのようなスチルベノイド並びに/又はその他の有用物質の含量を安全及び/又は効率的に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、収穫した成熟ブドウ(品種:巨峰)の果実(果粒)に照射したLED光(ピーク波長:290nm)の照射量(2,250、22,500又は225,000μmol/m
2)と、光照射に続いて15℃で1日暗所保管した後の果皮中のレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、収穫した成熟ブドウ(品種:巨峰)の果実(果粒)へのLED光(ピーク波長:290nm)の照射(照射量:225,000μmol/m
2)後に15℃で暗所保管した期間(1日又は2日)と、果皮中のレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、収穫した成熟ブドウ(品種:マスカット・ベーリーA)の果実(果房)へのLED光(ピーク波長:290nm)の照射(照射量:225,000μmol/m
2)後に果粒状態で暗所保管した期間(1日、2日又は5日)と、果皮中のレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、LED光(ピーク波長:290nm;照射量:225,000μmol/m
2)の照射後、果房のまま2日暗所保管した成熟ブドウ(品種:マスカット・ベーリーA)の果皮中のレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)を、収穫後果房のまま2日暗所保管した非照射対照と比較して示すグラフである。
【
図5】
図5は、LED光(ピーク波長:290nm;照射量:225,000μmol/m
2)の照射後、果房のまま2日暗所保管した成熟ブドウ(品種:マスカット・ベーリーA)の果皮に含まれる幾つかのフェノール性化合物の検出量と、収穫後果房のまま2日間(=48時間)暗所保管した非照射対照の果皮に含まれる当該幾つかのフェノール性化合物の検出量との比を示すグラフである。
【
図6】
図6は、購入した成熟ブドウ(品種:シャインマスカット)の果実(果粒)に照射したLED光(ピーク波長:290nm)の照射量(0、2,250、22,500又は225,000μmol/m
2)と、光照射せずに又は光照射に続いて15℃で2日間暗所保管した果皮中のレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、LED光(ピーク波長:290nm;照射量:225,000μmol/m
2)の照射後、15℃で5日間暗所保管した、購入した成熟ブドウ(品種:シャインマスカット)の果実(果粒)の果皮中のレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)を示すグラフである。
【
図8】
図8は、購入した成熟ブドウ(品種:デラウェア)の果実(果粒)へのLED光(ピーク波長:280nm;照射量:216,000μmol/m
2)の照射後の暗所保管の温度(5、15、25又は40℃)及び期間(1日又は5日)と、果皮中のレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、LED光(ピーク波長:280nm;照射量:6,750μmol/m
2)の照射後、2日暗所保管したシロイヌナズナに含まれる幾つかのTCA回路の代謝物、スペルミジン及び4-アミノ酪酸の検出量と、2日間暗所保管した非照射対照に含まれる当該化合物の検出量との比を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例12に用いた、「Bailey Alicante A」の葉組織由来の白色系カルス(左)及び赤色系カルス(右)を示す写真である。
【
図11】
図11は、LED光(ピーク波長:280nm;照射量:50,000μmol/m
2)の照射後、2日間暗所保管したカルス(白色系カルス及び赤色系カルス)中のスレスベラトロール含量(μg/g乾燥重量)と、2日間暗所保管した非照射カルスに含まれるレスベラトロール含量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、数値範囲「a~b」(a、bは具体的数値)は、両端の値「a」及び「b」を含む範囲を意味する。換言すれば、「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0010】
本開示は、第1の観点からは、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞中のスチルベノイドの増量方法であって、前記植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物或いは前記植物培養細胞に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び、前記照射後の植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物を1日以上暗所保管すること、を含むことを特徴とする方法(以下、「本開示の第1の増量方法」とも呼ぶ)である。
本開示は、第2の観点からは、植物若しくはその部分又はその破砕物或いは植物培養細胞に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び、前記照射後の植物若しくはその部分又はその破砕物或いは前記照射後の植物培養細胞を1日以上暗所保管すること、を含むことを特徴とする植物若しくはその部分又はその破砕物或いは植物培養細胞中のTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及びそれらの塩からなる群より選択される1以上の化合物の増量方法(以下、「本開示の第2の増量方法」とも呼ぶ)である。以下、本開示の第1の増量方法及び本開示の第2の増量方法をまとめて「本開示の増量方法」と呼ぶ。
本開示は、別の1つの観点からは、スチルベノイドが増量された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物の生産方法であって、前記植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、及び、前記照射後の植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物を1日以上暗所保管することを特徴とする方法である。
本開示は、さらに別の1つの観点からは、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に、本開示の第1の増量方法を適用することを特徴とする、スチルベノイドが増量された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞の生産方法であり得る。以下、本生産方法及び上記生産方法をまとめて「本開示の生産方法」と呼ぶ。
【0011】
本開示は、後記の実施例により示されるとおり、収穫後の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞に波長域約275~295nmの光を照射し、その後1日以上暗所保管することにより、当該植物若しくはその部分(特に、果皮)或いは植物培養細胞中のスチルベノイド含量を顕著に増加させることができるという新たな知見に基づく。よって、本開示によれば、紫外光(特にUV-C)への曝露によるDNA損傷やアレルギー物質の生成等の悪影響を低減しつつ、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞中のスチルベノイドの増量に有効な特定波長域の光を比較的高い照射量で照射することが可能になるため、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞中のスチルベノイド(特に、レスベラトロール)を安全及び/又は効率的に増量させることができる。
【0012】
本明細書において、植物は特に限定されないが、例えばスチルベノイド及び/又はポリアミンアルカノイドを生成し得る植物である。
特定の実施形態において、植物は、スチルベノイド(特に、レスベラトロール)を天然に生成し得る限り、特に限定されず、例えば、被子植物、特に双子葉植物であり得る。
別の特定の実施形態において、植物は、ポリアミンアルカノイドを生成し得る限り、特に限定されず、例えば、被子植物、特に双子葉植物であり得る。
本発明の方法に好適な双子葉植物には、例えばブドウ科(特にブドウ属)、ツツジ科(特にスノキ属)、ナス科(特にナス属)、スグリ科(特にスグリ属)、ツバキ科(特にツバキ属)、アオイ科(特にカカオ属)、タデ科(特にソバ属及びソバカズラ属)、ミカン科(特に、ミカン属、キンカン属及びカラタチ属)、ヒガンバナ科(特にネギ属)、イネ科(特にイネ属)、マメ科(特にダイズ属及びラッカセイ属)、ショウガ科(特にショウガ属及びウコン属)、アカネ科(特にコーヒーノキ属)、アブラナ科(特にアブラナ属、ダイコン属)、メギ科(特にミヤオソウ属)、バラ科(特にオランダイチゴ属、サクラ属及びリンゴ属)、キク科(特にアキノゲシ属)、シソ科(特にシソ属)、グネツム科(特にグネツム属)、ミソハギ科(特にザクロ属)の植物が含まれる。また、オオバコ、ドクダミ、クチナシなどの薬草、ウスベニアオイ、食菊などの食用花も含まれる。本発明に用いることができる植物の具体例としては、(レスベラトロール及びアントシアニンを生成する)ブドウ、(レスベラトロールを生成する)マウンテンクランベリー、コケモモ、リンゴンベリー、サンタベリー、イタドリ、メリンジョ、ピーナッツ(ラッカセイ)、アーモンド、リンゴ、ザクロ、イチゴ、(アントシアニンを生成する)ブルーベリー、ナス及びカシス、(カテキンを生成する)チャノキ、(カカオポリフェノールを生成する)カカオ、(ルチンを生成する)ソバ、柑橘類(ミカン属、キンカン属又はカラタチ属に属する植物)及びタマネギ、(フェルラ酸を生成する)イネ、(イソフラボンを生成する)マメ科植物、(クルクミンを生成する)ウコン、(ショウガオールを生成する)ショウガ、並びに(コーヒーポリフェノールを生成する)コーヒーノキ等が挙げられる。
本開示において、植物は、幼植物体であっても、成植物体であってもよいし、或いは、栄養成長期の植物体であっても、生殖成長期の植物体であってもよい。本開示において「幼植物体」とは、発芽後(より具体的には発根後)から、例えば葉齢10まで、より具体的には葉齢7まで、より具体的には葉齢5まで、より具体的には葉齢3までの植物体をいう。本開示において「成植物体」とは、例えば葉齢3以降、より具体的には葉齢5以降、より具体的には葉齢7以降、より具体的には葉齢10以降の植物体をいう。特定の実施形態において、植物は、収穫後の植物である。
本開示において、植物培養細胞は上記植物の培養細胞であり得る。植物培養細胞は、懸濁培養物又はカルス培養物の形態であってよい。
本発明の方法に用い得る植物若しくはその部分又はその破砕物は、それ自体又はその抽出物若しくは加工品が食用、飲用又は薬用に利用可能であることが好ましい。
【0013】
好適な実施形態において、植物はブドウ属植物(Vitis spp.)である。
よって、好適には、本開示は、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実若しくはその破砕物中のスチルベノイドの増量方法、スチルベノイド含量が増加したブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実若しくはその破砕物を生産する方法、スチルベノイド含量が増加したブドウ果皮又は該果皮を含むブドウ果実若しくはその破砕物、並びに、スチルベノイド含量が増加した食品及び飲料(例えば果実酒、特にワイン)に関する。
【0014】
本明細書において、「植物」は、文脈上、植物全体のみを意味していることが明らかな場合を除き、植物の部分を含む。植物の「部分」は、根系、茎、葉、花及び果実から選択される1以上の器官又は該器官の構成要素(例えば、果実の構成要素である果皮)の1つ以上であり、例えば、シュート系(茎及び葉と、任意に花及び/又は果実)、茎、葉、果実又は果皮であり得る。
好ましくは、植物又はその部分は、その細胞が、増量しようとする化合物の生合成経路に関与する酵素の発現量を増大させるための遺伝子操作を受けていない。
植物又はその部分の「破砕物」は、植物又はその部分に、切断及び/又は圧縮などの物理的破壊手段を適用して得られる結果物であって、含まれる植物細胞の少なくとも一部が生存しているものであり、例えば組織片又は残渣である。
【0015】
本明細書において、「ブドウ」は、ブドウ属植物(Vitis spp.)であれば特に限定されず、ブドウ属種間の交雑種であってもよい。ブドウは、例えば、Vitis vinifera種、Vitis labrusca種、Vitis amurensis種、Vitis mustangensis種、Vitis riparia種若しくはVitis rotundifolia種に属するか、又はこれらの少なくとも1つに由来する交雑種(好ましくは前記種間での交雑種)であり得る。好ましくは、ブドウは、Vitis vinifera種に属するか、又はVitis vinifera種と、Vitis labrusca種、Vitis amurensis種、Vitis mustangensis種、Vitis riparia種及びVitis rotundifolia種から選択される1若しくは2以上の種との間の交雑種である。
品種の具体例としては、アリアニコ(Alianiko/Aglianico)、カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)、カベルネ・フラン(Cabernet Franc)、ガメ(Gamay)、カルメネール(Carmenere)、ガルナチャ/グルナッシュ(Garnacha/Grenache)、サンジョベーゼ(Sangiovese)、シラー(Syrah)、ジンファンデル(Zinfandel)、テンプラニーリョ(Tempranillo)、ネッビオーロ(Nebbiolo)、バルベーラ(Barbera)、ピノ・ノワール(Pinot Noir)、マルベック(Malbec)、メルロー(Merlot)、モンテプルチアーノ(Montepulciano)、アルバリーニヨ(Albarino)、ヴィオニエ(Viognier)、ゲヴュルツトラミネール(Gewurztraminer)、甲州(Koshu)、シャルドネ(Chardonnay)、シュナン・ブラン(Chenin blanc)、セミヨン(Semillon)、ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon blanc)、トレッビアーノ(Trebbiano)、トロンテス(Torrontes)、ピノ・グリ(Pinot gris)、フルミント(Furmint)、ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximenez)、マスカット・オブ・アレキサンドリア(Muscat of Alexandria)、マカベオ(Macabeo)、ミュスカデ(Muscadet)、モスカート(Moscato)、リースリング(Riesling)、コンコード(Concord)、巨峰(Kyoho)、ピオーネ(Pione)、マスカット・ベーリーA(Muscat Bailey A)、シャインマスカット(Shine Muscat)、ルビーロマン(Ruby Roman)、デラウェア(Delaware)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
好ましくは、本明細書で用いるブドウは、少なくとも果皮の細胞が、レスベラトロール生合成経路に関与する酵素の発現量を増大させるための遺伝子操作を受けていない。レスベラトロール生合成経路に関与する酵素は、代表的には、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)、桂皮酸4-ヒドロキシラーゼ(C4H)、4-クマル酸:CoAリガーゼ(4CL)及びスチルベンシンターゼ(STS)である。
本明細書において、「遺伝子操作」とは、一般には、組換えDNA技術を用いること、特に、組換えDNA技術、ゲノム編集技術又は化学物質による変異誘発法を用いることをいい、自然環境下での交雑育種法の使用は含まない。遺伝子操作は、例えば、外因性の遺伝子、コーディング配列及び/若しくは調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、サプレッサー、サイレンサー)の導入、内因性遺伝子、コーディング配列及び/若しくは調節エレメントの改変並びに/又は内因性遺伝子、コーディング配列及び/若しくは調節エレメントの全て若しくは一部の欠失であり得る。
より好ましくは、ブドウは非遺伝子操作体である。
【0017】
本明細書において、「果皮」は、より具体的には外果皮をいう。果皮は、果肉から分離されていてもよい。果皮には、果皮片(例えば、分割物)が含まれる。特定の実施形態において、果皮は収穫された植物(の果実)の果皮である。より具体的実施形態において、果皮は収穫されたブドウ果実の果皮である。
本明細書において、「果実」は、少なくとも果皮を含むものであれば、種子を含んでいても含んでいなくてもよい。後者の場合、無核果実であってもよいし、有核果実から種子を除去したものであってもよい。果実には、果実片(例えば、分割物)が含まれる。特定の実施形態において、果実は収穫された果実である。より具体的実施形態において、果実は収穫されたブドウ果実である。この場合、ブドウ果実は、除梗されていないもの(果房)であってもよいし、除梗後のもの(果粒)であってもよい。
果実の「破砕物」は、少なくとも果皮を含み、圧搾又は搾汁後の果実であり得る。破砕物としては、例えば、「マスト」等の、果皮と果汁と果肉と種子との混合物、及び、例えば、「ポマース」等の、果皮と種子との混合物が挙げられる。
【0018】
果実は成熟した果実であることが好ましく、果皮は成熟した果実のものであることが好ましい。本明細書において、「成熟した果実」とは、一般に、生食用又は加工若しくは醸造用に収穫された果実をいう。
幾つかの実施形態において、成熟したブドウ果実は、糖度が15oBrix以上、より具体的には16oBrix以上、より具体的には17oBrix以上、より具体的には18oBrix以上、より具体的には19oBrix以上、より具体的には20oBrix以上であり得る。この場合、糖度の上限は特に規定されないが、例えば25oBrixであり得る。
別の幾つかの実施形態において、成熟したブドウ果実は、酸含量(滴定酸:酒石酸換算)が0.9%(又はg/100mL)以下、より具体的には0.8%(又はg/100mL)以下、より具体的には0.7%(又はg/100mL)以下、より具体的には0.6%(又はg/100mL)以下、より具体的には0.5%(又はg/100mL)以下であり得る。
別の幾つかの実施形態において、成熟したブドウ果実は、満開後70日以降、より具体的には75日以降、より具体的には80日以降、より具体的には85日以降、より具体的には90日以降に収穫されたものであり得る。この場合、満開後の日数の上限は特に規定されないが、例えば125日、120日、115日又は110日であり得る。本明細書において、ブドウに関して「満開」とは、花穂の全花蕾の80%以上が開花した時をいい、ここで、「開花」とは、花蕾から花冠が脱落した状態をいう。
果皮が成熟したブドウ果実のものであるか否かは、果皮色に基づいて、例えば、当該品種のブドウ専用に作成されたカラーチャート等を参照して決定してもよい。
【0019】
本開示において、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に照射する光は、波長域275~295nmの光を含み、好ましくは、波長域285~295nmの光である。この波長域の光を照射することにより、DNAの光変性及び/又はアレルギー物質の生成を抑制しつつ、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の含量を安全及び/又は効率的に増加させることができる。
一方、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞はその他のフェノール性化合物も多く含み、それら化合物により波長域275~295nmの光も吸収されるため、波長域275~295nmの光は、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞に対して、比較的高い照射量で照射する必要がある。
【0020】
植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞へ照射する275~295nmの波長域の光の照射量の下限は、50,000μmol/m2であり、例えば60,000μmol/m2、より具体的には70,000μmol/m2、より具体的には80,000μmol/m2、より具体的には90,000μmol/m2、より具体的には100,000μmol/m2、より具体的には150,000μmol/m2であり得る。275~295nmの波長域の光の照射量が50,000μmol/m2未満である場合、光受容体UVR8の活性化を介するスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の生合成経路を有意に活性化するに至らないため、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の顕著な増量を達成できないと推測される。
【0021】
275~295nmの波長域の光の照射量の上限は、特に限定されないが、例えば2,500,000μmol/m2、より具体的には2,000,000μmol/m2、より具体的には1,500,000μmol/m2、より具体的には1,000,000μmol/m2、より具体的には900,000μmol/m2、より具体的には800,000μmol/m2、より具体的には700,000μmol/m2、より具体的には600,000μmol/m2、より具体的には500,000μmol/m2であり得る。275~295nmの波長域の光の照射量が2,500,000μmol/m2を超える場合、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)或いは植物培養細胞を大きく損傷する可能性が高くなるため、スチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩が増量した植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞を得ることができない可能性が高く、得られたとしても食用として適さないことが多い。
【0022】
275~295nmの波長域の光の照射量の範囲は、上記の下限値及び上限値の任意の組合せであり得る。照射量の範囲の具体例として、50,000~2,500,000μmol/m2、50,000~2,000,000μmol/m2、50,000~1,500,000μmol/m2、50,000~1,000,000μmol/m2、60,000~1,000,000μmol/m2、70,000~1,000,000μmol/m2、70,000~800,000μmol/m2、80,000~800,000μmol/m2、80,000~500,000μmol/m2、100,000~500,000μmol/m2及び120,000~500,000μmol/m2が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
一方、DNA及びRNAの吸収極大波長が260nm付近であるため、260nm付近の波長の光は植物への悪影響が大きいことが懸念される。よって、200~270nmの波長域の光の照射量は、275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満であることが好ましく、15%未満であることがより好ましく、10%未満であることがより好ましく、5%未満であることがさらに好ましく、1%未満であることが最も好ましい。
【0024】
加えて、300~400nmの波長域の光は、植物におけるフェノール性化合物の増量には寄与せず、むしろ植物の損傷に作用することが知られているため(国際公開第2018/199307号)、その照射量が275~295nmの波長域の光の照射量の50%以上となると、スチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩が増量した植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞を効率的に得ることができなくなる。300~400nmの波長域の光の照射量は、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞への悪影響を回避する観点から、275~295nmの波長域の光の照射量の50%未満であることが好ましく、40%未満であることがより好ましく、30%未満であることがより好ましく、25%未満であることがより好ましく、20%未満であることがより好ましく、15%未満であることがより好ましく、10%未満であることがより好ましく、5%未満であることがより好ましい。
【0025】
275~295nmの波長域の光は、例えば、0.1~1,000μmol/m2/sの光量子束密度で照射される。0.1μmol/m2/s未満の場合には、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)の鮮度を維持しつつ、植物(特に、ブドウ果皮)におけるスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の増量を効率的に達成できないことがある。1,000μmol/m2/sを超える場合には、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)或いは植物培養細胞の損傷を誘導することがある。275~295nmの波長域の光は、好ましくは1~1,000μmol/m2/s、より好ましくは1~800μmol/m2/s、より好ましくは2~800μmol/m2/s、より好ましくは2.5~600μmol/m2/s、より好ましくは5~600μmol/m2/s、より好ましくは10~600μmol/m2/s、より好ましくは20~600μmol/m2/sの光量子束密度で照射される。
【0026】
本開示に用いる光源としては、275~295nmの波長域の光を照射できるものであれば特に制限されず、例えば、UVランプなどの一般に使用される紫外光光源を用いることができる。UVランプとしては、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、キセノンランプ、蛍光灯、白熱電灯、メタルハライドランプや高圧水銀ランプを挙げることができる。また、紫外光として、太陽光から光学フィルターなどにより取り出したものを用いてもよい。
用いる光源が、275~295nmの波長域の光とともに、200~270nmの波長域の光を、275~295nmの波長域の光の光量子束密度の20%以上で発するものである場合には、275~295nmの波長域の光に対する透過率が200~270nmの波長域の光に対する透過率より大きいフィルターを併せて用いることにより、ブドウ果皮又は果実若しくはその破砕物或いは植物培養細胞に照射される200~270nmの波長域の光の光量子束密度が、275~295nmの波長域の光の光量子束密度の20%未満としてもよく、より具体的には、15%未満、10%未満、5%未満又は1%未満としてもよい。
追加的に又は択一的に、用いる光源が、275~295nmの波長域の光とともに、300~400nmの波長域の光を、275~295nmの波長域の光の光量子束密度の50%以上で発するものである場合には、275~295nmの波長域の光に対する透過率が300~400nmの波長域の光に対する透過率より大きいフィルターを併せて用いることにより、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に照射される300~400nmの波長域の光の光量子束密度が、275~295nmの波長域の光の光量子束密度の50%未満としてもよく、より具体的には、40%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満又は5%未満としてもよい。
【0027】
エネルギー効率の観点から、275~295nmの波長域の光は、主ピーク波長を、例えば285±7nm内に、より好ましくは285±5nm内に有する光として照射される。第2ピークは存在しないか、存在してもその強度が主ピークの1/10以下であることが好ましい。本明細書において、「主ピーク波長」とは強度が最大となるピーク波長をいう。なお、例えばLED光のような、スペクトルがシングルピークを示す光については、「ピーク波長」は「主ピーク波長」と同義である。
主ピーク(ピーク波長275~295nm内)の半値全幅は5~15nmであることが好ましい。主ピークの半値全幅が15nm以下であることにより、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の増量に寄与しない波長域の光の照射を回避しつつ、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の増量に有効な波長域の光を選択的照射することが可能となることに加え、エネルギー効率も更に向上する。主ピークの半値全幅が5nm未満の光も、本開示の増量方法及び生産方法に使用可能であるが、費用対効果の観点から、主ピークの半値全幅が5nm以上の光を用いることが現時点では好ましい。幾つかの好適な具体的実施形態においては、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に照射される光はピーク波長285±5nm及び半値全幅5~15nmの波長スペクトルを有する光である。
【0028】
本開示において植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に照射する光の光源としては、発光スペクトルにおいてシングルピークを有する発光ダイオード(LED)又はレーザダイオード(LD)が特に好ましい。光源としてLED又はLDを用いる場合、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の増量に寄与しない波長域の光の照射を回避しつつ、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の増量に有効な波長域の光を選択的照射することが容易に実現可能となる。また、LED又はLDの使用は、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率及び経済性の観点からも好ましい。加えて、照射量及び/又は光子量束密度の制御/管理が容易になる。
275~295nmの波長域の光を発することができるLEDは、例えばAlGaN系材料やInAlGaN系材料を用いたものであり得る。
【0029】
275~295nmの波長域の光の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞への照射量は、例えば、光源の点灯及び消灯の制御により(例えば、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞が静置されている場合)、又は、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物が照射領域を通過するのに要する時間の制御により(例えば、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物が搬送装置で搬送されている場合)、50,000~2,500,000μmol/m2に設定し得る。
【0030】
275~295nmの波長域の光は、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞に対して、連続光として若しくは間欠光として又はそれらの組合せとして照射されてもよい。275~295nmの波長域の光は、間欠光として照射されることが好ましい。間欠光とすることにより、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞及び/又は光源の温度上昇を回避又は低減することができる。間欠光の具体例は、パルス幅が100ms以下、より具体的には50ms以下、より具体的には20ms以下、より具体的には10ms以下、より具体的には5ms以下で、デューティ比が50%以下、より具体的には40%以下、より具体的には30%以下、より具体的には20%以下、より具体的には10%以下、より具体的には5%以下である。
【0031】
光照射の間、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞は、静止していてもよいし、動いていてもよく、例えば回転、振動又は浮遊していてもよいし、撹拌されていてもよい。また、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞は、搬送中に光照射されてもよい。或る具体的実施形態において、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物は、外観(例えばサイズ及び/又は傷若しくは腐敗の有無)、色及び/又は糖度などの品質検査の間に光照射されてもよい。
光照射の間、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞は、常時、定期的に又は必要に応じて、冷却されてもよい。冷却は、例えば、水の噴射又は水への浸漬によって行うことができる。
照射は、一方向からであってもよいし、二又は三以上の方向からであってもよい。照射が二方向から行われる場合、当該二方向は、上下方向、左右方向又は前後方向のような正反対の二方向であることが好ましいが、これに限定されない。
275~295nmの波長域の光は、照射対象の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実(果皮片又は果実片を含む))の全体に照射する必要はなく、必要な照射量で照射される限り、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)の限定領域に照射されてもよい。例えば、照射対象の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、照射に際して、メッシュやストライプメッシュ等で覆われていてもよい。
培養植物細胞に照射する場合、培地による吸収を回避するため、275~295nmの波長域の光が培地を透過しないように照射することが好ましい。より具体的には、固体培地で培養中の植物細胞に対しては、培地の上方から275~295nmの波長域の光を照射することが好ましく、液体培地で培養中の植物細胞に対しては、当該液体表面に細胞が広がった状態で275~295nmの波長域の光を照射することが好ましい。
植物若しくはその部分への275~295nmの波長域の光の照射には、国際公開第WO2021/006342に開示の植物処理装置を用いることができる。
【0032】
275~295nmの波長域の光を照射後、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞は、24時間以上暗所に保管する。本明細書において、「暗所」とは、光合成光量子束密度が当該果皮中の細胞において光合成を起こさせないレベル、より具体的には、光合成光量子束密度≦10μmol/m2/sである場所をいう。暗所保管時間は、より具体的には36時間以上、より具体的には48時間以上、より具体的には50時間以上、より具体的には60時間以上、より具体的には72時間以上、より具体的には84時間以上、より具体的には96時間以上、より具体的には100時間以上であり得る。
【0033】
暗所保管時間の上限は、光照射後に暗所保管されている植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞中のスチルベノイド並びに/又はTCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及び/若しくはそれらの塩の含量が、275~295nmの波長域の光を照射せずに同条件で暗所保管される植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物或いは植物培養細胞である非照射対照に対して増加している限り特に制限されない。例えば、光照射後の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を発酵食品(飲料を含む)の原材料として発酵に供する場合、暗所保管は、当該発酵終了まで、より具体的には圧搾又は搾汁まで、例えば3週間、2週間、1週間又は5日間まで行われ得る。また、例えば、照射した植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を非発酵食品(飲料を含む)の原材料として用いる場合、暗所保管は、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物の腐敗が始まるまで、より具体的には、温度にもよるが、例えば10日(240時間)、9日(216時間)、8日(192時間)、7日(168時間)、6日(144時間)又は5日(120時間)まで行われ得る。
【0034】
暗所保管時の温度は、特に制限されないが、例えば8~38℃、より具体的には10~35℃、より具体的には10~30℃にて行われ得る。例えば、光照射後の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を発酵食品又は飲料の原材料として発酵に供する場合、暗所保管は、20~35℃、より具体的には21~33℃、より具体的には22~30℃、より具体的には23~28℃で行われてもよい。また、例えば、照射後の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を非発酵食品又は飲料の原材料として用いる場合、暗所保管は、10~25℃、より具体的には11~23℃、より具体的には12~20℃、より具体的には13~18℃で行われてもよい。
暗所は、例えば、樽を含む貯蔵タンク、冷蔵庫(室)を含む貯蔵庫若しくは保管庫、輸送コンテナ又は貨車、航空機、船舶若しくは貨物自動車の荷室の内部、或いは、段ボールのような遮光性包装材若しくは梱包材の内部であり得る。
【0035】
本明細書において、「スチルベノイド」は、植物若しくはその部分(例えば、ブドウ、特に、ブドウ果皮)において天然に合成され得るものであれば特に制限されず、例として、トランス型又はシス型の、レスベラトロール、ピセイド(パイシードともいう)、ε-ビニフェリン、δ-ビニフェリン、ピセアタンノール、アストリンギン等が挙げられる。本明細書において、好ましいスチルベノイドは、レスベラトロール、特にトランス型レスベラトロールである。本明細書において、単に「レスベラトロール」という場合には、トランス型及びシス型のいずれの形態も含む。
【0036】
本明細書において、「スチルベノイドの増量」又は「スチルベノイド含量の増加」とは、自然光下で栽培された非遺伝子組換え植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物と比較して、スチルベノイドの量が増加していること、例えば100%以上、より好ましくは200%以上、より好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上、より好ましくは700%以上、より好ましくは900%以上、より好ましくは1400%以上、より好ましくは1900%以上、より好ましくは2400%以上増加していることをいう。
同様に、本明細書において、「レスベラトロールの増量」又は「レスベラトロール含量の増加」とは、自然光下で栽培された非遺伝子組換え植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物と比較して、レスベラトロールの量が増加していること、例えば100%以上、より好ましくは200%以上、より好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上、より好ましくは700%以上、より好ましくは900%以上、より好ましくは1400%以上、より好ましくは1900%以上、より好ましくは2400%以上増加していることをいう。
【0037】
スチルベノイド(特に、レスベラトロール)の測定は、例えばクロマトグラフィーにより行うことができる。クロマトグラフィーとしては液体クロマトグラフィー(例えばHPLC)が挙げられるがこれに限定されない。
スチルベノイド分離のための液体クロマトグラフィーは、スチルベノイドの分離に適切な方法であれば、当該分野において公知のいずれの液体クロマトグラフィーも使用でき、分離モードについて限定されない。分離モードの例としては、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーが挙げられ得る。好ましくは液体クロマトグラフィーの分離モードは、逆相クロマトグラフィーである。
【0038】
スチルベノイド分離のための液体クロマトグラフィーの具体的条件は、用いる分離モードでのスチルベノイドの分離に対し適切であるように適宜決定できる。
スチルベノイド分離のための液体クロマトグラフィーは、グラジエント溶出法を用いてもよい。
液体クロマトグラフィーがグラジエント溶出法による場合、溶離液Aとして、任意に0.01~10%の酸を含む水を用い、溶離液Bとして、任意に0.01~10%の酸を含んでいてもよい極性溶媒を用い、グラジエントを、例えば30~60分間で、A:B=100:0~0:100の間とすることができる。流速は特に限定されないが、例えば0.1~3ml/分であり得る。
スチルベノイドの検出は、例えば190~800nmでの吸光度の測定により行うことができる。
【0039】
本開示の第1の増量方法の適用により、自然光下で栽培された植物(特に、非遺伝子組み換え植物)若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実若しくはその破砕物)と比較して、スチルベノイド(特に、レスベラトロール)の量が3倍以上、例えば4倍以上、より好ましくは5倍以上、より好ましくは8倍以上、より好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、より好ましくは20倍以上、より好ましくは25倍以上高い植物を得ることができる。よって、本開示の増量方法によれば、収穫した植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)を高付加価値食物として、又は高付加価値食品若しくは飲料の原材料として安価に提供することができる。
【0040】
本開示の第1の増量方法の幾つかの実施形態において、本開示の第1の増量方法を適用した植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はそれらの破砕物中では、追加的に、TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸及び/又はアブシジン酸が増量され得る。
また、本開示の第2の増量方法の適用により、自然光下で栽培された植物(特に、非遺伝子組換え植物)若しくはその部分と比較して、TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸及び/又はアブシジン酸が増量した植物を得ることができる。
本明細書において、「TCA回路の代謝物」は、TCA回路(又はクエン酸回路若しくはクレブス回路)における生成物及び中間体を含む。TCA回路の代謝物は、植物(例えば、ブドウ、特に、その果皮)において天然に生成され得るものであれば特に制限されず、例として、ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸、cis-アコニット酸、D-イソクエン酸、α-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)、スクシニルCoA、コハク酸、フマル酸、L-リンゴ酸及びオキサロ酢酸等が挙げられる。TCA回路の代謝物は、酸である場合、遊離酸の形態であっても塩の形態であってもよい。代表的には、TCA回路の代謝物は、ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸、cis-アコニット酸、D-イソクエン酸、α-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)、スクシニルCoA、コハク酸、フマル酸、L-リンゴ酸及びオキサロ酢酸並びにそれらの塩からなる群より選択される1以上の化合物である。
【0041】
本明細書において、「ポリアミンアルカロイド」は、2以上のアミノ基を有する有機塩基性化合物(好ましくは、直鎖脂肪族炭化水素)であって、植物(例えば、ブドウ、特に、その果皮)において天然に生成され得るものであれば特に制限されず、例として、アグマチン、プトレシン、カダベリン、スペルミジン、N'-アセチルスペルミジン、カルボキシスペルミジン、ノルスペルミジン、ホモスペルミジン、アミノプロピルホモスペルミジン、スペルミン、N'-アセチルスペルミン、ノルスペルミン、サーモスペルミン、ホモスペルミン、カナバルミン、1,3-ジアミノプロパン等が挙げられる。代表的には、ポリアミンアルカロイドは、プトレシン、スペルミジン及びスペルミンからなる群より選択される1以上の化合物である。ポリアミンアルカロイドは、遊離酸の形態であっても塩の形態であってもよい。
4-アミノ酪酸及びアブシジン酸は、遊離酸の形態であっても塩の形態であってもよい。
【0042】
本明細書において、「TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸及び/又はアブシジン酸の増量」又は「TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸及び/又はアブシジン酸の含量の増加」とは、自然光下で栽培された非遺伝子組換え植物(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物と比較して、TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸及び/又はアブシジン酸の量が増加していること、例えば20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上、より好ましくは200%以上、より好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上、より好ましくは500%以上増加していることをいう。
【0043】
TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸及び/又はアブシジン酸など目的とする化合物の測定は、例えばクロマトグラフィー及び/又は質量分析により行うことができる。クロマトグラフィーとしては液体クロマトグラフィー(例えばHPLC)又はガスクロマトグラフィーが挙げられるがこれに限定されない。
液体クロマトグラフィー(LC)については、スチルベノイドの分離に関して上述したとおりである。
ガスクロマトグラフィー(GC)は、目的の化合物の分離に適切な方法であれば、当該分野において公知のいずれのガスクロマトグラフィーも使用できる。ガスクロマトグラフィーの具体的条件は、目的化合物の分離に対し適切であるように適宜決定できる。
質量分析(MS)は、目的の化合物の分離に適切な方法であれば、当該分野において公知のいずれの質量分析法も使用でき、イオン化モード及び質量分離モードについて限定されない。イオン化モードの例として、電子イオン化法、エレクトロスプレーイオン化法、化学イオン化などが挙げられ得る。質量分離モードの例として、磁場型、四重極型、イオントラップ型などが挙げられる。
質量分析は、液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーと組み合わされてもよい。
【0044】
本開示の第1の増量方法又は本開示の生産方法を適用して生産された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物は、スチルベノイド(特に、レスベラトロール)を高含量で含むブドウ由来食品又は飲料を製造するための原材料として好適である。
したがって、別の1つの観点から、本開示はまた、
植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射すること、
前記照射後の植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を1日以上暗所保管すること、及び
得られる植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を加工すること
を含むことを特徴とする、食品又は飲料の製造方法(以下、「本開示の食品又は飲料の製造方法」ともいう)も提供する。
本開示の食品又は飲料の製造方法は、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)又はその破砕物に、本開示の第1の増量方法を適用する工程、及び、得られる植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を加工する工程を含むことを特徴とする、食品又は飲料の製造方法であり得る。
【0045】
食品又は飲料は、非発酵食品又は飲料であってもよいし、発酵食品又は飲料であってもよい。食品又は飲料は、例えば、ドライフルーツ(例えば、植物がブドウの場合、レーズン)、ジャム、ジュース、清涼飲料水、果実酢又は果実酒であり得る。植物がブドウの場合、果実酒の具体例は、ワイン及びポマース・ブランデー(例えばグラッパ)が挙げられるが、これらに限定されない。
ドライフルーツを製造するための加工は、例えば、スチルベノイドが増量された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果実)を、天火干し又は熱風などの人工的手法により乾燥させることを含む。
ジャムを製造するための加工は、例えば、スチルベノイドが増量された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果実)又はその破砕物を煮熟することを含む。
ジュースや清涼飲料水を製造するための加工は、例えば、スチルベノイドが増量された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果実)又はその破砕物(好ましくは種子を含まないもの)から搾汁することを含み、酵素処理(ペクチン分解)、濾過及び酒石除去の1つ以上を更に含んでいてもよい。
果実酒又は果実酢を製造するための加工は、例えば、スチルベノイドが増量された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)又はその破砕物を発酵させることを含み、圧搾、熟成、澱引き、濾過及び蒸留の1つ以上を更に含んでいてもよい。
【0046】
幾つかの実施形態において、本開示の食品又は飲料の製造方法は、原料として用いる植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)に由来するスチルベノイド以外のスチルベノイドを添加する工程を含まない。
【0047】
本開示の生産方法により生産された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、スチルベノイド(特に、レスベラトロール)を高含量で含む。追加的に又は代替的に、本開示の生産方法により生産された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及びそれらの塩からなる群より選択される1以上の化合物を高含量で含む。
したがって、別の1つの観点から、本開示は、成熟した植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)に、本開示の第1の増量方法を適用することにより生産することができる植物若しくはその部分(特に、ブドウ成熟果皮又は果実)も提供する。
【0048】
別の1つの観点から、本開示はまた、成熟した植物若しくはその部分(特に、ブドウの少なくとも果皮を含む果実)であって、質量分析法による該果皮中のレスベラトロールとフェニルアラニンとのシグナル強度比(レスベラトロールのシグナル強度/フェニルアラニンのシグナル強度)が0.5以上であり、該植物若しくはその部分(特に、果皮)の細胞は、レスベラトロール生合成経路に関与する酵素の発現量を増大させるための遺伝子操作を受けていない、植物若しくはその部分(特に、ブドウ果実又はその果皮)(以下、「本開示の植物又はその部分」ともいう)も提供する。
特定の実施形態において、成熟した植物若しくはその部分は収穫後の植物若しくはその部分である。
【0049】
本開示の植物又はその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、質量分析法による果皮中のレスベラトロールとフェニルアラニンとのシグナル強度比が0.50以上であり、より好ましくは0.51以上であり、より好ましくは0.52以上であり、より好ましくは0.53以上であり、より好ましくは0.54以上である。
【0050】
質量分析法(MS)は、レスベラトロール及びフェニルアラニンの分析に適切な方法であれば、当該分野において公知のいずれの質量分析法であってもよく、イオン化モード及び質量分離モードについて限定されない。イオン化モードの例として、エレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法及び大気圧光イオン化法が挙げられ得る。質量分離モードの例として、電場収束型、四重極型、飛行時間型、イオントラップ型、オービトラップ型、イオンサイクロトロン共鳴型並びにこれらのタンデム型及びハイブリッド型が挙げられ得る。幾つかの実施形態において、質量分析は、イオン化モードがエレクトロスプレーイオン化法であり、質量分離モードが四重極-オービトラップのハイブリッド型であるMS/MS法による。
質量分析の分析条件は、用いるイオン化モード及び質量分離モードでのレスベラトロール及びフェニルアラニンの分析に適切であるように適宜決定できる。
【0051】
好ましくは、質量分析法の前に、公知の分離法(例えば、液体クロマトグラフィー(LC))により、例えば、果皮抽出物等の被検試料から、レスベラトロール及び/又はフェニルアラニンを含む画分を分離する。
液体クロマトグラフィーは、レスベラトロール及び/又はフェニルアラニンを含む画分の分離に適切な方法であれば、当該分野において公知のいずれの液体クロマトグラフィーもでき、分離モードについて限定されない。分離モードの例としては、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーが挙げられ得る。幾つかの実施形態において、液体クロマトグラフィーは、逆相クロマトグラフィーである。
【0052】
液体クロマトグラフィーの条件は、用いる分離モードでのレスベラトロール及び/又はフェニルアラニンを含む画分の分離に適切であるように適宜決定できる。
液体クロマトグラフィーに用いるカラムは、分離モードに応じて公知のものから適宜選択できる。逆相クロマトグラフィーには、一般にはオクタデシル化シリカゲル(ODS)カラム(C18カラムとも呼ばれる)を用い得るがこれに限定されない。
移動相(溶離液)として、水、極性有機溶媒、及び/又はこれらの混合溶媒(水と1以上の極性有機溶媒との混合溶媒、2以上の極性有機溶媒の混合溶媒)を用いることができる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-若しくはイソ-プロパノール、アセトニトリル、アセトン、ヘキサンジオキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、テトラヒドロフランが挙げられる。溶離液には、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、トリクロロ酢酸などの酸又はアンモニア、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどの塩基を、例えば0.01~10M加えてもよい。
移動相の流速は特に限定されないが、例えば0.1~2ml/分であり得る。
【0053】
液体クロマトグラフィーには、果皮の抽出物を供することができる。抽出は、公知の方法のいずれかにより行なうことができ、例えば溶媒抽出による。
溶媒抽出に用いる溶媒には、公知の溶媒から適宜選択することができる。溶媒は、例えば、水(常温のもの~沸騰水)、水と混和性の有機溶媒、又はこれらの混合溶媒(水と1以上の水と混和性の有機溶媒との混合溶媒、2以上の水と混和性の有機溶媒の混合溶媒)を用いることが可能である。水は熱水又は沸騰水として用いてもよい。水と混和性の有機溶媒は、極性有機溶媒であり得、例えば、メタノール、エタノール、n-若しくはイソ-プロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、テトラヒドロフランが挙げられる。極性有機溶媒には酸が加えられていてもよい。酸は、例えば、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸、リン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸又は過塩素酸であり得る。酸は、有機溶媒に、例えば0.05~5%、好ましくは0.1~3%の重量比で含まれ得る。
【0054】
抽出は加温(例えば80~90℃)及び/又は加圧下で行なってもよい。抽出は還流抽出であってもよい。抽出時間は特に制限されず、抽出効率の観点から適切に決定できる。
果皮は、そのまま抽出に用いてもよいが、粉砕して用いてもよい。抽出又は粉砕の前に、植物を乾燥及び/又は凍結させてもよい。乾燥は、任意の方法によるが、例えば、熱風乾燥、常温乾燥、減圧乾燥又は凍結乾燥であり得る。
抽出液は、例えば、夾雑物を除去するため、適切なフィルターにより濾過してもよく、遠心分離に供されてもよい。
【0055】
幾つかの実施形態において、植物又はその部分(特に、ブドウ果皮)或いは植物培養細胞中のレスベラトロールとフェニルアラニンとの存在比は、LC-MS/MS法により決定される。具体的実施形態において、LCは逆相クロマトグラフィーであり、MS/MSは四重極-オービトラップのハイブリッド型である。より具体的な実施形態において、LCはC18カラムを用いる逆相クロマトグラフィーであり、MS/MSは、イオン化モードがエレクトロスプレーイオン化法である四重極-オービトラップ型MS/MSである。
【0056】
本開示の植物又はその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、植物若しくはその部分の細胞(植物の部分がブドウ果皮又は果実の場合、少なくともブドウ果皮の細胞)が、レスベラトロール生合成経路に関与する酵素の発現量を増大させるための遺伝子操作を受けていない。レスベラトロール生合成経路に関与する酵素は、代表的には、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)、桂皮酸4-ヒドロキシラーゼ(C4H)、4-クマル酸:CoAリガーゼ(4CL)及びスチルベンシンターゼ(STS)である。
本開示の植物又はその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、好ましくは非遺伝子操作体である。
【0057】
本開示のブドウ果皮又は果実は、例えば、果皮がレスベラトロールを少なくとも1500μg/g乾燥重量、より具体的には少なくとも1550μg/g乾燥重量、より具体的には少なくとも1600μg/g乾燥重量、より具体的には少なくとも1650μg/g乾燥重量の量で含む。
本開示のブドウ果皮又は果実は、いずれの種(例えば、上記の種)又は交雑種(例えば、上記種間での交雑種)に属するブドウの果皮又は果実であり得る。本開示のブドウ果皮又は果実はまた、いずれの品種のブドウの果皮又は果実であり得、より具体的には、上記の品種のブドウの果皮又は果実であり得る。本開示のブドウ果皮又は果実は、好ましくは、Vitis vinifera種に属するか、又はVitis vinifera種と、Vitis labrusca種、Vitis amurensis種、Vitis mustangensis種、Vitis riparia種及びVitis rotundifolia種から選択される1若しくは2以上の種との間の交雑種である。幾つかの実施形態において、本開示のブドウ果皮又は果実は、マスカット・ベーリーAの果実又は果皮である。
【0058】
本開示の植物又はその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、例えば、成熟した植物又はその部分(特に、ブドウ果皮又は少なくとも果皮を含むブドウ果実)に、本開示の生産方法により生産することができるが、当該方法により生産されたものに限定されない。
【0059】
本開示の植物又はその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、スチルベノイド(特に、レスベラトロール)を高含量で含むため、スチルベノイドを高含量で含む食品又は飲料(例えば、果実酒)の原材料として好適である。
したがって、別の1つの観点から、本開示はまた、質量分析法によるレスベラトロールとフェニルアラニンとのシグナル強度比(レスベラトロールのシグナル強度/フェニルアラニンのシグナル強度)が0.5以上であり、原料として遺伝子組換え植物又はその部分(特に、ブドウ)を用いていない果実酒(以下、「本開示の果実酒」ともいう)も提供する。
【0060】
植物がブドウである場合、本開示の果実酒(すなわち、ブドウ果実酒)は、ワイン(好ましくは、赤ワイン)又はポマース・ブランデー(例えばグラッパ)であり得るが、これらに限定されない。
本開示の果実酒(特に、ブドウ果実酒)は、質量分析法によるレスベラトロールとフェニルアラニンとのシグナル強度比が0.50以上であり、より好ましくは0.51以上であり、より好ましくは0.52以上であり、より好ましくは0.53以上であり、より好ましくは0.54以上である。
本開示の果実酒におけるレスベラトロールとフェニルアラニンとのシグナル強度比を測定する質量分析法は、本開示の植物又はその部分について上述したとおりである。
【0061】
本開示の果実酒(特に、ブドウ果実酒)は、例えば、レスベラトロールを少なくとも15μg/mL、より具体的には少なくとも15.5μg/mL、より具体的には少なくとも16μg/mL、より具体的には少なくとも16.5μg/mLの量で含む。
本開示のブドウ果実酒は、いずれの種(例えば、上記の種)又は交雑種(例えば、上記種間での交雑種)に属するブドウを用いて醸造されたものであってもよいが、好ましくは、Vitis vinifera種に属するか、又はVitis vinifera種と、Vitis labrusca種、Vitis amurensis種、Vitis mustangensis種、Vitis riparia種及びVitis rotundifolia種から選択される1若しくは2以上の種との間の交雑種のブドウを用いて醸造されたものである。幾つかの実施形態において、本開示のブドウ果実酒は、マスカット・ベーリーAを用いて醸造された果実酒である。
【0062】
本開示の生産方法により生産された植物若しくはその部分(特に、ブドウ果皮又は果実)は、追加的に又は代替的に、収穫後長期間にわたって、鮮度を維持し及び/又は抗カビ性を維持若しくは亢進することができる。
したがって、別の1つの観点から、本開示は、収穫後の植物の鮮度を維持し及び/又は抗カビ性を維持若しくは亢進する方法であって、前記植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物に、275~295nmの波長域の光の照射量が50,000~2,500,000μmol/m2となり、且つ200~270nmの波長域の光の照射量が、前記275~295nmの波長域の光の照射量の20%未満となるように光照射することを含むこと特徴とする方法(以下、「本開示の収穫後植物の処理方法」ともいう)である。
幾つかの実施形態において、本開示の収穫後植物の処理方法は、更に、前記照射後の植物若しくはその部分(特に、果皮又は果実)又はその破砕物を1日以上暗所保管することを含む。
本開示の収穫後植物の処理方法には、国際公開第WO2021/006342に開示の植物処理装置を用いることができる。
【0063】
「植物」、「植物の部分」、「破砕物」、「275~295nmの波長域の光」(その光源及び照射様式も含む)、「200~270nmの波長域の光」、「照射量」及び「暗所保管」に関しては、本発明の増量方法及び/又は本発明の生産方法について上記したとおりである。
鮮度の評価は、当該分野において公知の任意の方法により行うことができ、例えば、外観観察、成分測定及び物理的測定の1以上に基いて行い得る。外観観察は、例えば、重量減少率、委縮、腐敗、色(果実及び/又は果皮の色を含む)などの項目について行い得る。成分測定は、例えば、糖度、酸度、ビタミンC濃度及び/又は呼吸量の測定を含み得る。物理的測定は、例えば、硬度、色調及び/又はテクスチャの測定を含み得る。
抗カビ性の評価は、当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。例えば、抗カビ性の評価は、カビ(例えば、胞子)を対象植物の表皮に付着させた後、当該カビの生育の有無を判定することにより行い得る。
【実施例】
【0064】
以下の実施例において、
波長測定は、マルチチャンネル検出器(型式:PMA-11 C7473;浜松ホトニクス)を用いて、発光スペクトルを測定することにより行った。
照度〔W/m2〕は、用いたLEDのピーク波長で感度校正したフォトダイオードセンサー(型式:PD300-UV;オフィール)を用いて測定した。
光量子束密度は、測定した照度から次の換算式により得た。
光量子束密度〔mol/m2/s〕= 照度〔W/m2〕/ (アボガドロ数〔mol-1〕× プランク定数〔J s〕×光速度〔m/s〕÷ 波長〔m〕)
照射量〔mol/m2〕は、光量子束密度〔mol/m2/s〕と照射時間〔sec〕の積として算出した。
【0065】
(実施例1)
収穫した成熟ブドウ(品種:巨峰)の果実(果粒)に、照射量が2,250、22,500又は225,000μmol/m2となるように、2.5、25又は250μmol/m2/sの照度(光量子束密度)のLED光(ピーク波長:290nm)を照射した後、当該果実を15℃の暗所に1日(24時間)保管した。光照射から暗所への移動までは、収穫当日に行った。
1日の保管後、果皮のみを凍結乾燥後に粉砕し、80%メタノールを用いる溶媒抽出に供した。得られた抽出液を下記の分析条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC:Prominence, 島津製作所)に供してレスベラトロールを定量した。対照として、光を照射せずに15℃の暗所に1日保管した果実(果粒)についても同様に分析した。分析は、各実験群あたり、3果粒を1サンプルとして3サンプルについて行った。
【0066】
<HPLC条件>
・カラム:ODSカラム(Triart C18(150×4.6mm, S-5μm)、YMC)
・カラム温度:40℃
・流速:1ml/分
・注入量:10μl
・移動相:溶離液A 0.1%ギ酸水溶液
溶離液B 0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
リニアグラジエント:30分間かけてB:1%~100%
・検出:190~800nm
【0067】
結果:
HPLC分析により得られた、果皮1g(乾燥重量)に含まれるレスベラトロール量(μg)を
図1に示す。
図1において、縦軸は果皮中のレスベラトロール含量を示し、横軸の上段は照度(光量子束密度)を示し、下段は照射量を示す。
ブドウ果皮中のレスベラトロール量は、当該果皮が由来するブドウ果実への波長ピーク290nm付近の光の照射量に依存して増加した。
レスベラトロール量は、波長が290nm付近の光を225,000μmol/m
2の照射量で照射したブドウ果実においては、当該光を照射しなかった果実(図中の「Cont」)に対して約4.5~10倍に増加した一方、当該光を2,250μmol/m
2の照射量で照射したブドウ果実においては、ほとんど増加しなかった。
【0068】
この結果から、ピーク波長が290nm付近の光は、照射量が22,500μmol/m
2以上となると、ブドウ果皮中のレスベラトロール量を増加させることが示された。
理論には拘束されないが、280nm付近の光は光受容体UVR8の活性化(単量体化)を介してシキミ酸経路を促進し得ること(国際公開第2018/199307号)を考慮すれば、波長域275~295nmの光の照射によるブドウ果皮中のスチルベノイド量の増加に、光受容体UVR8の活性化が関与していると推察される。
波長域275~295nmの光の照射量が低すぎると、植物色素であるフェノール性化合物の遮光効果によって、光受容体UVR8の活性化が十分に誘導されないため、果皮中のスチルベノイドの生合成が活性化されないと考えられる(
図1の照射量「2,250μmol/m
2」のデータを参照)。一方、照度が高すぎると、合成されたフェノール性化合物(スチルベノイドを含む)が分解されてしまうと考えられる(
図1の照度「250μmol/m
2/s」での照射量「225,000μmol/m
2」のデータを参照)。
したがって、波長域275~295nmの光を、スチルベノイドの光分解量が生合成量を上回らない照度で長時間照射することで、照射したブドウ果皮中のスチルベノイド量を効率的に増量できると考えられる。
【0069】
(実施例2)
収穫した成熟ブドウ(品種:巨峰)の果実(果粒)に、照射量が225,000μmol/m2となるように、250μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:290nm)を照射した後、当該果実を15℃の暗所に1日(24時間)又は2日(48時間)保管した。光照射から暗所への移動までは、収穫当日に行った。
暗所での保管後、果皮中のレスベラトロール量についてのHPLC分析を、実施例1と同様に行った。分析は、各実験群あたり、3果粒を1サンプルとして3サンプルについて行った。
【0070】
結果:
得られたHPLC分析結果を
図2に示す。
図2において、縦軸は果皮中のレスベラトロール含量を示し、横軸の上段は暗所保管日数を示し、下段は照射量を示す。
光照射後48時間の暗所保管を行ったブドウ果実の果皮において、レスベラトロール量は、光照射しなかった果実(図中の「Cont」)に対して約31倍に増加した。
この結果から、ブドウ果皮中のレスベラトロール量は、波長域275~295nmの光の照射後に、暗所でより長期間保管することで、更に増加することが理解できる。
理論には拘束されないが、暗所での長期間保管は、波長域275~295nmの光の照射により誘導された、スチルベノイド(特にレスベラトロール)の生合成経路に関与する酵素の遺伝子のアップレギュレーションを長期間継続させ、その結果として、スチルベノイド(特にレスベラトロール)の合成量を増大させたと推察される。
【0071】
(実施例3)
ワイン醸造用に収穫した成熟ブドウ(品種:マスカット・ベーリーA)の果実(果房)に、照射量が225,000μmol/m2となるように、250μmol/m2/sの照度でLED光(ピーク波長:290nm)を或る一方向から7.5分間、その反対方向から更に7.5分間照射した後、当該果実を果粒として15℃の暗所に1日(24時間)、2日(48時間)又は5日(120時間)保管した。光照射から暗所への移動までは、収穫当日に行った。
暗所での保管後、果皮中のレスベラトロール量についてのHPLC分析を、実施例1と同様に行った。分析は、各実験群あたり、3果粒を1サンプルとして3サンプルについて行った。
【0072】
結果:
得られたHPLC分析結果を
図3に示す。
図3において、縦軸は果皮中のレスベラトロール含量を示し、横軸の上段は暗所保管日数を示し、下段は照射量を示す。
マスカット・ベーリーAにおいても、巨峰と同様に、波長域275~295nmの光の照射により、果皮中のレスベラトロール量が増量した。レスベラトロール量は、光照射後の暗所保管期間が1日で非照射対照の約2.7倍、2日で約12.57倍、5日で29.1倍に増加した。換言すれば、光照射により、ブドウ果皮中のレスベラトロール量は、少なくとも5日間の暗所保管の間増加し続けた。
この結果から、波長域275~295nmの光の照射は、品種に関らず、ブドウ果皮中のスチルベノイド(特にレスベラトロール)量を増加させることができること、及び、光照射によるスチルベノイド生合成経路の活性化は、暗所保管により、少なくとも5日間は継続することが理解できる。
【0073】
(実施例4)
収穫した成熟ブドウ(品種:マスカット・ベーリーA)の果実(果房)に、照射量が225,000μmol/m2となるように、250μmol/m2/sの照度でLED光(ピーク波長:290nm)を或る一方向から7.5分間、その反対方向から更に7.5分間照射した後、当該果実を果房のまま15℃の暗所に2日(48時間)保管した。光照射から暗所への移動までは、収穫当日に行った。
暗所での保管後、果皮中のレスベラトロール量についてのHPLC分析を、実施例1と同様に行った。対照として、光を照射せずに2日暗所保管した果実についても同様に分析した。分析は、各実験群あたり、1サンプル(3果粒)について行った。
【0074】
結果:
得られたHPLC分析結果を
図4に示す。
図4において、縦軸は果皮中のレスベラトロール含量を示し、横軸は照射量を示す。
レスベラトロール量は、果房のまま光照射し、2日暗所保管した後の果皮において、果房のまま光照射せず、2日暗所保管した後の果皮に対して約6.5倍に増加した。
また、果房での暗所保管後の果皮中のレスベラトロール量は、果粒での暗所保管後の果皮中の量と同等であった。
【0075】
(実施例5)
ワイン醸造用に収穫した成熟ブドウ(品種:マスカット・ベーリーA)の果実(果房)に、照射量が225,000μmol/m2となるように、250μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:290nm)を或る一方向から7.5分間、その反対方向から更に7.5分間照射した後、当該果実を果房のまま15℃の暗所に2日(48時間)保管した。光照射から暗所への移動までは、収穫当日に行った。
2日の保管後、果皮のみを凍結乾燥後に粉砕し、80%メタノールを用いる溶媒抽出に供した。得られた抽出液を下記の分析条件でLC-MS(LC:UltimateTM 3000, Thermo Fisher Scientific;MS:Q ExactiveTM, Thermo Fisher Scientific)に供してスチルベノイドを含むフェノール性化合物の量を測定した。対照として、収穫後、光を照射せずに2日暗所保管した果実についても同様に分析した。分析は、各実験群あたり、1サンプル(3果粒)について行った。
【0076】
<LC条件>
・カラム:ODSカラム(InertSustain(登録商標) AQ-C18(2.1×150mm, 3μm-particle), GL Sciences)
・カラム温度:40℃
・流速:0.2ml/分
・注入量:2μl
・移動相:移動相A 0.1%ギ酸水溶液
移動相B アセトニトリル溶液
・LCグラジエントプログラム:
時間(分) 0.0 3.0 30.0 35.0 35.1 40.0
移動相A(%) 98 98 2 2 98 98
移動相B(%) 2 2 98 98 2 2
【0077】
<MS条件>
・測定時間:3~30分間
・イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)
・測定質量範囲:m/z:80~1,200
・フルスキャン分解能:70,000
・MS/MSスキャン分解能:17,500
・MS/MSプレカーサー選択法:Data Dependent Scan (Top 10)
・Dynamic Exclusion:20秒間
【0078】
結果:
分析結果を下記表1及び
図5に示す。
図5において、縦軸は各フェノール化合物の検出量比を示し、横軸はフェノール性化合物を示す。
【表1】
【0079】
ピーク波長290nm付近の光を照射したブドウ果皮中のレスベラトロールとフェニルアラニンとの存在比(レスベラトロールの強度/フェニルアラニンの強度の比)は0.54であり、非照射対照における存在比0.04と比較して大幅に上昇した。
また、ピーク波長290nm付近の光を照射したブドウ果皮において、レスベラトロールに加えて、シス-ピセイド及びε-ビニフェリン(共にスチルベノイドの一種)並びにシアニジン酸グルコシド(アントシアニンの一種)及びエピカテキンガレート(プロアントシアニジンの一種)が増量したことが確認できた。
【0080】
この結果から、ピーク波長290nm付近の光の照射は、ブドウ果皮において、フェノール化合物の生合成経路を全体的に活性化するのではなく、スチルベノイド(特にレスベラトロール)の生合成経路を特に顕著に活性化することが理解できる。
【0081】
(実施例6)
購入した成熟ブドウ(品種:シャインマスカット)の果実(果粒)に、照射量が2,250、22,500又は225,000μmol/m2となるように、250μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:290nm)を照射した後、当該果実を15℃の暗所に2日(48時間)保管した。
暗所での保管後、果皮中のレスベラトロール量についてのHPLC分析を、実施例1と同様に行った。対照として、光を照射せずに2日暗所保管した果実についても同様に分析した。分析は、各実験群あたり、3果粒を1サンプルとして3サンプルについて行った。
【0082】
結果:
得られたHPLC分析結果を
図6に示す。
図6において、縦軸は果皮中のレスベラトロール含量を示し、横軸は照射量を示す。
白ブドウにおいても、赤ブドウと同様に、波長域275~295nmの光の照射(照射量:225,000μmol/m
2)により、対照に対して果皮中のレスベラトロール量が約3倍に増量した。
この結果から、本開示による波長域275~295nmの光の照射は、果皮の色に関わらず、ブドウ果皮中のスチルベノイド(特にレスベラトロール)量を増加させることができることが理解できる。
【0083】
(実施例7)
購入した成熟ブドウ(品種:シャインマスカット)の果実(果粒)に、照射量が225,000μmol/m2となるように、250μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:290nm)を照射した後、当該果実を15℃の暗所に5日(120時間)保管した。
暗所での保管後、果皮中のレスベラトロール量についてのHPLC分析を、実施例1と同様に行った。
【0084】
結果:
得られたHPLC分析結果を
図7に示す。
図7において、縦軸は果皮中のレスベラトロール含量を示し、横軸の上段は暗所保管日数を示し、下段は照射量を示す。なお、図中、対照(Cont)及び光照射後の保管期間が2日(48時間)のデータは、実施例6のデータである。
白ブドウにおいても、赤ブドウと同様に、波長域275~295nmの光の照射後の暗所保管期間が5日の時のレスベラトロール量は、2日の時より更に増加した(対照に対して約12.9倍)。
この結果から、果皮の色に関わらず、波長域275~295nmの光の照射後の暗所保管期間が長いほど、ブドウ果皮中のスチルベノイド(特にレスベラトロール)量が増加することが理解できる。
【0085】
(実施例8)
購入した成熟ブドウ(品種:デラウェア)の果実(果粒)に、照射量が216,000μmol/m2となるように、600μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:280nm)を照射した後、当該果実を5、15、25又は40℃の暗所に1日(24時間)又は5日(120時間)保管した。
暗所での保管後、果皮中のレスベラトロール量についてのHPLC分析を、実施例1と同様に行った。対照として、光を照射及び暗所保管をしていない果実についても同様に分析した。分析は、各実験群あたり、1サンプル(3果粒)について行った。
【0086】
結果:
得られたHPLC分析結果を
図8に示す。
図8において、縦軸は果皮中のレスベラトロール含量を示し、横軸の上段は暗所保管の温度を示し、中段は照射量を示し、下段は保管日数を示す。
光照射後の15及び25℃で5日の暗所保管により、果皮中のレスベラトロール量は60倍以上に増加した。
一方、5℃で1日の暗所保管では、果皮中のレスベラトロール量は増加せず、5日の暗所保管により約2倍に増加した。40℃で1日及び5日の暗所保管により、果皮中のレスベラトロール量はそれぞれ2倍以上及び約3倍以上に増加した。
この結果より、暗所保管時の温度が低すぎても、高すぎても、レスベラトロール量の増加率は抑制され得、15℃~25℃の温度で暗所保管されることが好ましいことが理解される。
【0087】
(実施例9)
ブドウにおける遺伝子発現解析
収穫した成熟ブドウ(品種:マスカット・ベーリーA)の果実(果房)に、照射量が225,000μmol/m2となるように、250μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:290nm)を或る一方向から7.5分間、その反対方向から更に7.5分間照射した。
2回目の照射の直後に、果皮のみを液体窒素で凍結させた。その後、Maxwell(登録商標) simply RNA plant kit (Promega)を取扱説明書に従って用いて、果皮からのトータルRNAを調製した。
調製したトータルRNAについてRNA-seq解析を行った(株式会社マクロジェン・ジャパン)。シーケンス解析には、NovaSeq6000システム(イルミナ社)を用いた。解析は、各実験群あたり、1サンプル(3果粒)について行った。
【0088】
表2に、発現量が1.2倍以上となった遺伝子を示す。
【表2】
【0089】
植物に275~295nmの波長域の光を所定の照射量で照射することにより、当該植物において、TCA回路、ポリアミンアルカロイド合成及び代謝経路並びにアブシジン酸合成経路に関与する酵素群の遺伝子がアップレギュレートされることが確認された。
この結果より、当該植物において、TCA回路、ポリアミンアルカロイド合成及び代謝経路並びにアブシジン酸合成経路が活性化され、したがって当該経路における生成物も増量することと推察される。
【0090】
また、表2に記載した遺伝子に加えて、過敏感反応に関連する遺伝子(RIN4、RPM1、RPS2、EDS1、PAR1、HSP90)及び防御関連遺伝子の誘導に関連する転写因子(WRKY22、PIT6)が、1.2倍以上にアップレギュレートされていた。
この結果より、275~295nmの波長域の光を所定の照射量で照射した植物においては、ファイトアレキシン及び感染特異的タンパク質が増量しており、したがって当該植物は病原体(又は病原菌)(例えば糸状菌、細菌及びウイルス)に対する抵抗性が増強していると推測される。
【0091】
(実施例10)
シロイヌナズナにおける遺伝子発現解析
シロイヌナズナに、2.5μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:280nm;半値全幅:10nm;Deep UV-LED日亜化学工業社製)を45分間照射した(照射量:6,750μmol/m2)。
一部のシロイヌナズナについては照射直後に、別の一部のシロイヌナズナについては照射後2日間(48時間)暗所保管した後に、シュートを液体窒素で凍結させた。その後、NucleoSpin(登録商標) RNA plant (タカラバイオ株式会社)を取扱説明書に従って用いてトータルRNAを調製した。
調製したトータルRNAについてRNA-seq解析を行った(タカラバイオ株式会社)。シーケンス解析には、NovaSeq6000システム(イルミナ社)を用いた。解析は、各実験群あたり、3サンプルについて行った。
【0092】
表3に、発現量が1.2倍以上となった遺伝子を示す。
【表3】
【0093】
種が異なっても、275~295nmの波長域の光を所定の照射量で照射した植物において、TCA回路、ポリアミンアルカロイド合成及び代謝経路並びにアブシジン酸合成経路に関与する酵素群の遺伝子がアップレギュレートされることが確認された。
また、このアップレギュレーションは、照射直後(保管0日)から観察され、少なくとも2日間暗所保管した後にも観察された。
この結果より、本明細書に開示した光照射により、種に関わらず、植物において、TCA回路、ポリアミンアルカロイド合成及び代謝経路並びにアブシジン酸合成経路が活性化され、したがって当該経路における生成物も増量することが理解できる。
【0094】
(実施例11)
シロイヌナズナに、2.5μmol/m2/sの照度のLED光(ピーク波長:280nm;半値全幅:10nm;Deep UV-LED日亜化学工業社製)を45分間照射した(照射量:6,750μmol/m2)。
2日間の暗所保管後、シュートを液体窒素で凍結させて粉砕し、続いて溶媒抽出に供した。
得られた抽出液を、下記の条件1又は2でLC-MS分析(LC:UltimateTM3000 RSLC, Thermo Fisher Scientific;MS:Q ExactiveTM, Thermo Fisher Scientific)に供するか、又は下記の条件3でGC-MS分析(QP2010 Ultra及びAOC-5000 plus, Shimadzu)に供した。或いは、得られた抽出液に、メトキシアミン/ピリジンを添加(メトキシム化)し、続いてN-メチル-N-(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドを添加(トリメチルシリル化)した後、得られたトリメチルシリル化体について下記の条件4でGC-MS分析(QP2010 Ultra及びAOC-5000 plus, Shimadzu)を行った。分析は、各実験群あたり、3サンプルについて行った。
【0095】
溶媒抽出は次のとおりに行った。分析条件1でのLC-MS分析用には、75%メタノールを用いて行い、分析条件2でのLC-MS分析用には、試料(シュート粉砕物)にメタノール:メチル tert-ブチルエーテルの3:10混合溶媒を6.5倍量添加してホモジナイズした後、試料の1.25倍量の超純水を添加してメチル tert-ブチルエーテル画分を回収することにより行った。また、分析条件3でのGC-LC分析用には、試料にメタノール:メチル tert-ブチルエーテルの3:10混合溶媒を13倍量添加してホモジナイズした後、試料の2.5倍量の超純水を添加してメチル tert-ブチルエーテル画分を回収し、続いて10%三フッ化ホウ素メタノールを添加(メチルエステル化)した後、超純水及びヘキサンを添加してヘキサン画分を回収することにより行った。更に、分析条件4でのGC-LC分析用には、75~80%メタノールを用いて行った。
対照として、光を照射せずに2日暗所保管したシロイヌナズナについても同様に分析した。
【0096】
<LC-MS分析条件1>
<LC条件>
・カラム:ODSカラム(InertSustain(登録商標) AQ-C18(2.1×150mm, 3μm-particle), GL Sciences)
・カラム温度:40℃
・流速:0.2ml/分
・注入量:2μl
・移動相:移動相A 0.1%ギ酸水溶液
移動相B アセトニトリル溶液
・LCグラジエントプログラム:
時間(分) 0.0 3.0 30.0 35.0 35.1 40.0
移動相A(%) 98 98 2 2 98 98
移動相B(%) 2 2 98 98 2 2
【0097】
<MS条件>
・測定時間:3~30分間
・イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)
・測定質量範囲:m/z:80~1,200
・フルスキャン分解能:70,000
・MS/MSスキャン分解能:17,500
・MS/MSプレカーサー選択法:Data Dependent Scan (Top 10)
・Dynamic Exclusion:20秒間
【0098】
<LC-MS分析条件2>
<LC条件>
・カラム:ODSカラム(SunShell C18(2.1×150mm, 2.6μm-particle), ChromNik Technologies)
・カラム温度:40℃
・流速:0.2ml/分
・注入量:2μl
・移動相:移動相A 0.1%ギ酸及び10mMギ酸アンモニウム添加 アセトニトリル/水(60:40)
移動相B 0.1%ギ酸及び10mMギ酸アンモニウム添加 2-プロパノール/アセトニトリル(90:10)
・LCグラジエントプログラム:
時間(分) 0.0 10.0 20.0 35.0 45.0 55.0 55.1 60.0
移動相A(%) 70 65 45 35 0 0 70 70
移動相B(%) 30 35 55 65 100 100 30 30
【0099】
<MS条件>
・測定時間:3~30分間
・イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)
・測定質量範囲:m/z:80~1,200
・フルスキャン分解能:70,000
・MS/MSスキャン分解能:17,500
・MS/MSプレカーサー選択法:Data Dependent Scan (Top 10)
・Dynamic Exclusion:20秒間
【0100】
<GC-MS分析条件3>
・カラム:DB-5ms (Agilent Technologies)
・気化室温度:280℃
・オーブン温度:40℃(2分間)~320℃(5分間)、昇温速度6℃/分
・連結部温度:280℃
・イオン源温度:280℃
・イオン化法:電子イオン化(EI)
・流速:39cm/分(1.1mL/分)
・走査速度:2,500u/秒
・測定質量範囲:m/z:45~500
・注入量:0.5μl
【0101】
<GC-MS分析条件4>
・カラム:DB-5 (30m×0.250mm×1.00μm;Agilent Technologies)
・気化室温度:280℃
・オーブン温度:100℃(4分間)~320℃(8分間)、昇温速度4℃/分
・連結部温度:280℃
・イオン源温度:280℃
・イオン化法:電子イオン化(EI)
・流速:39cm/分(1.1mL/分)
・走査速度:2,000u/秒
・測定質量範囲:m/z:45~600
・注入量:0.5μl
【0102】
分析結果を
図9及び表4に示す。
表4には、検出量比(照射/未照射)が1.2以上となった化合物を示す。
【表4】
【0103】
275~295nmの波長域の光を所定の照射量で照射したシロイヌナズナにおいて、遺伝子のアップレギュレーションに対応して、TCA回路、ポリアミンアルカロイド合成及び代謝経路並びにアブシジン酸合成経路の生成物の増量が確認できた。
この結果及び実施例9の結果を併せて考えると、275~295nmの波長域の光を所定の照射量で照射したブドウ(例えば果皮)においても、遺伝子のアップレギュレーションに対応して、TCA回路、ポリアミンアルカロイド合成及び代謝経路並びにアブシジン酸合成経路の生成物が増量していると推論できる。
【0104】
以上の結果をまとめると、275~295nmの波長域の光を所定の照射量で照射し、その後1日以上暗所保管することにより、種に関わらず、当該植物若しくはその部分又はその破砕物中のスチルベノイド(特に、レスベラトロール)を増量させることができ、追加的に又は代替的に、TCA回路の代謝物、ポリアミンアルカロイド、4-アミノ酪酸、アブシジン酸及びそれらの塩からなる群より選択される1以上の化合物を増量させることができる。
【0105】
(実施例12)
カルスの誘導
「Bailey Alicante A」の葉を、70%エタノールに浸漬後、滅菌水溶液(0.5%次亜塩素酸ナトリウム、0.01%Tween20)に20分間浸漬した。その後、滅菌水で3回洗浄した葉を1cm角に切断して下記培地にて暗所中24℃で培養してカルスを誘導した。なお、暗所中24℃での培養を継続しながら14日間ごとに新鮮な培地に継代し、その際、白色系カルス及び赤色系カルスを分離した。
培地組成
ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類1袋(4.6g)/L
2%スクロース
0.01% myo-イノシトール
1×10-4%チアミン-HCl,
6×10-5%カイネチン
5×10-6% 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸
1.0%寒天agar, pH5.8
UV照射及び暗所保管
上記のように得た植物培養細胞(カルス)に、照射量が50,000μmol/m2となるように、25μmol/m2/sの照度(光量子束密度)のLED光(ピーク波長:280nm;LED:NCSU334B,日亜化学工業社製)を照射した後、直ちに23℃の暗所で2日間保管した。対照として、非照射の植物培養細胞を23℃の暗所で2日間保管した。
【0106】
レスベラトロール含量分析
分析には、約1cm(縦)×1cm(横)×0.5cm(高さ)(体積:約0.5cm
3)の白色カルス及び赤色カルス各1個を用いた(
図10)。
暗所保管後、凍結乾燥及び粉砕し、80%メタノールで抽出した。
得られた抽出液を下記条件によりHPLC分析した(Prominence、島津製作所社製)。
<HPLC条件>
・カラム:ODSカラム(Triart C18(150×4.6mm, S-5μm)、YMC)
・カラム温度:40℃
・流速:1ml/分
・注入量:10μl
・移動相:溶離液A 0.1%ギ酸水溶液
溶離液B 0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
リニアグラジエント
・検出:190~800 nm
【0107】
<結果>
レスベラトロール含量分析の結果を
図11に示す。
白色系カルスについては、波長が280nm付近の光を50,000μmol/m
2の照射量で照射することにより、レスベラトロール含量が3.8倍増加した。
赤色系カルスについては、同様の照射により、レスベラトロール含量が49.9倍以上増加した。
この結果から、本開示による光照射及び暗所保管は、培養植物細胞においても、植物体と同様にスチルベノイド含量を増量させることができる。
【0108】
本開示の使用例として、店舗照明、ショーケース用照明、食品収納庫用照明、ダウンライトなどに利用できる。店舗で使用する場合は、営業終了後、店舗内に陳列又は/及び倉庫に保管されている野菜、果物、生花などに本開示の条件でUV照射し、UV照射後、営業開始まで暗所保管することで、営業時には、植物中の有用成分を増量させることができる。家庭で使用する場合は、就寝時に、食品収納庫に保管されている野菜や果物、花瓶などに生けられている生花などに本開示の条件でUV照射することで、起床時には、植物中の有用成分を増量させることができる。
物流コンテナに、本開示の条件でUV照射する装置を搭載してもよい。植物を運搬中に、UV照射および暗所保管することで、荷物搬入時には、植物中の有用成分を増量させることができる。