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  • 特許-テトラアルコキシシランの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】テトラアルコキシシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/04 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
C07F7/04 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018240859
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2019119736
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2017252118
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591054303
【氏名又は名称】コルコート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】崔 星集
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】堀越 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】片岡 ▲祥▼
(72)【発明者】
【氏名】ゲェン テュイ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 稔
(72)【発明者】
【氏名】熊井 浩
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088498(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170666(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170665(WO,A1)
【文献】特開2003-252879(JP,A)
【文献】特開2013-136539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールと酸化ケイ素を反応させる第一工程、及び前記第一工程で得られた反応混合物の気化成分をモレキュラーシーブに接触させる第二工程を含むテトラアルコキシシランの製造方法であって、
前記第一工程が、温度(T)が200℃<T<300℃に制御されている反応器内で行われ、
前記第二工程が、内部に前記モレキュラーシーブが設置され、温度(T)が10℃≦T≦150℃に制御されている容器内で行われ、
前記気化成分が、温度(T)が190℃≦T≦300℃に制御されている往路流路を介して前記反応器から前記容器に移動し、
前記モレキュラーシーブに接触した成分が、復路流路を介して前記容器から前記反応器に移動することを特徴とする、テトラアルコキシシランの製造方法。
【請求項2】
前記第一工程が、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下で行われる、請求項1に記載のテトラアルコキシシランの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属化合物が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のテトラアルコキシシランの製造方法。
【請求項4】
前記反応混合物が、共沸蒸留を行うための化合物を含まない、請求項1~3の何れか1項に記載のテトラアルコキシシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラアルコキシシランの高効率な製造方法に関し、より詳しくはモレキュラーシーブを利用するテトラアルコキシシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラアルコキシシランは、各種シラン化合物、有機シリコーンポリマー、各種シリル化剤、コロイダルシリカおよびセラミックス等を製造する為の原料として用いられている。
従来から知られているアルコキシシラン類の工業的製造方法としては、例えば、天然の二酸化ケイ素を出発原料とし、炭素と混合して高温下で還元する事によって金属ケイ素を得て、これを塩素と反応させて得られる、四塩化ケイ素を原料としてアルコールと反応させる方法が知られている(特許文献1参照)。また金属ケイ素とアルコールを直接反応させる製造方法も知られている(特許文献2参照)。
しかし、これらの方法は、いずれも高温を要する金属ケイ素製造過程を経由する必要があり、エネルギー効率が悪い事が問題となっている。
他方、シリカから直接アルコキシシランを製造する方法として、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素を触媒としてシリカとアルキルカーボネートとを反応させて、アルコキシシランを製造する方法が知られている(特許文献3、4参照)。これらの方法は上記金属ケイ素を原料としないため、エネルギー効率的には有利である一方、比較的高価な化合物であるアルキルカーボネートを、化学量論としてシリカに対して少なくとも2倍のモル量を投入する必要があり、テトラアルコキシシランの工業的製法としては経済的な課題がある。
本発明者らは、メタノールと酸化ケイ素を原料としてテトラメトキシシランを製造できることを見出し、二酸化炭素の存在下でメタノールと酸化ケイ素を反応させ、かつモレキュラーシーブを用いて副生した水を除去することによりテトラメトキシシランを高収率で得られる方法を開発した(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-114991号公報
【文献】米国特許第2473260号
【文献】特開2001-114786号公報
【文献】特許第3026371号公報
【文献】特開2017-88498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、テトラアルコキシシランを省エネルギーかつ高収率で製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アルコールと酸化ケイ素の反応を行う反応器と、反応混合物の気化成分をモレキュラーシーブに接触させる容器を、気化成分が反応器と容器間を移動するための往路流路と復路流路で結び、さらに反応器の温度、往路流路の温度、容器の温度をそれぞれ特定の範囲に制御することにより、副生した水を効果的に除去して、テトラアルコキシシランを高収率で製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> アルコールと酸化ケイ素を反応させる第一工程、及び前記第一工程で得られた反応混合物の気化成分をモレキュラーシーブに接触させる第二工程を含むテトラアルコキシシランの製造方法であって、前記第一工程が、温度(T)が200℃<T<300℃に制御されている反応器内で行われ、前記第二工程が、内部に前記モレキュラーシーブが設置され、温度(T)が10℃≦T≦150℃に制御されている容器内で行われ、前記気化成分が、温度(T)が190℃≦T≦300℃に制御されている往路流路を介して前記反応器から前記容器に移動し、前記モレキュラーシーブに接触した成分が、復路流路を介して前記容器から前記反応器に移動することを特徴とする、テトラアルコキシシランの製造方法。
<2> 前記第一工程が、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下で行われる、<1>に記載のテトラアルコキシシランの製造方法。
<3> 前記アルカリ金属化合物が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選択される少なくとも1種である、<2>に記載のテトラアルコキシシランの製造方法。
<4> 前記反応混合物が、共沸蒸留を行うための化合物を含まない、<1>~<3>の何れかに記載のテトラアルコキシシランの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、テトラアルコキシシランを高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一態様であるテトラアルコキシシランの製造方法に使用することができる装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0010】
<テトラアルコキシシランの製造方法>
本発明の一態様であるテトラアルコキシシランの製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)は、アルコールと酸化ケイ素を反応させる第一工程(以下、「第一工程」と略す場合がある。)、及び第一工程で得られた反応混合物の気化成分(以下、「気化成分」と略す場合がある。)をモレキュラーシーブに接触させる第二工程(以下、「第二工程」と略す場合がある。)を含む方法であり、第一工程が、温度(T)が200℃<T<300℃に制御されている反応器(以下、「反応器」と略す場合がある。)内で行われ、第二工程が、内部にモレキュラーシーブが設置され、温度(T)が10℃≦T≦150℃に制御されている容器(以下、「容器」と略す場合がある。)内で行われ、気化成分が、温度(T)が190℃≦T≦300℃に制御されている往路流路を介して反応器から容器に移動し、モレキュラーシーブに接触した成分が、復路流路を介して容器から反応器に移動することを特徴とする。
本発明者らは、アルコールと酸化ケイ素の反応(第一工程)を行う反応器と気化成分をモレキュラーシーブに接触(第二工程)させる容器を、気化成分が反応器と容器間を移動するための往路流路と復路流路で結び、さらに反応器の温度(T)、往路流路の温度(T)、容器の温度(T)をそれぞれ前記の特定の範囲に制御することによって、テトラアルコキシシランを高収率で製造することができることを見出したのである。
モレキュラーシーブは、アルコールと酸化ケイ素の反応によって副生した水を除去する脱水剤として利用することになるが、その条件によって、水が十分に除去されず、テトラアルコキシシラン収率が低下してしまったり、モレキュラーシーブが劣化してしまったり
することがあった。本発明者らは、反応器の温度(T)、往路流路の温度(T)、容器の温度(T)をそれぞれ前記の特定の範囲に制御することによって、モレキュラーシーブの脱水作用や気化成分の運搬効率等を高めるとともに、モレキュラーシーブの劣化を抑制して、長時間安定的に効率良くテトラアルコキシシランを製造することができることを明らかとしたのである。
なお、「第一工程」と「第二工程」を含むとは、第一工程と第二工程が独立して進行する態様のみならず、第一工程と第二工程がそれぞれ同時に進行する態様も含まれるものとする。
【0011】
(第一工程)
第一工程は、アルコールと酸化ケイ素を反応させる工程であるが、アルコールの種類は、特に限定されず、製造目的であるテトラアルコキシシランに応じて適宜選択することができる。例えばアルコールとしてメタノールを用いるとテトラメトキシシランを、エタノールを用いるとテトラエトキシシランを製造することができる。
アルコールは、脂肪族アルコールと芳香族アルコールのどちらでもよく、またアルコール中の炭化水素基は、分岐構造、環状構造、炭素-炭素不飽和結合等のそれぞれを有していてもよい。
アルコールの炭素原子数は、通常1以上、好ましくは2以上であり、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。
具体的なアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、ベンジルアルコール、フェノール等が挙げられる。中でも、エタノールが好ましい。なお、従来の金属ケイ素を用いた方法では、アルコールの炭素原子数が多いものほど、テトラアルコキシシランの収率は低下し易い傾向にあるが、本発明の製造方法を利用することによって、高収率でテトラアルコキシシランを製造することができる。
なお、アルコールの使用量は、酸化ケイ素の物質量に対して、通常1倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であり、通常10000倍以下、好ましくは5000倍以下、より好ましくは3000倍以下である。
【0012】
第一工程は、アルコールと酸化ケイ素を反応させる工程であるが、酸化ケイ素とは、ケイ素原子(Si)と酸素原子(O)を主要な構成元素として含む化合物を意味し、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)、或いはゼオライト等の他の金属との複合酸化物であってもよいことを意味する。
具体的な酸化ケイ素としては、ケイ石、ケイ砂、ケイ藻土、石英等の天然鉱物、ケイ素含有植物の焼成灰、火山灰、ケイ酸塩類、シリカゾル由来のシリカゲル、ヒュームドシリカ、シリカアルミナ、ゼオライト等が挙げられる。
【0013】
第一工程は、温度(T)が200℃<T<300℃に制御されている反応器内で行われる工程であるが、温度(T)は、好ましくは205℃以上、より好ましくは210℃以上であり、原料アルコールがエタノールの場合は更に好ましくは240℃以上であり、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下である。上記範囲内であると、テトラアルコキシシランをより高収率で製造することができる。
なお、温度(T)を制御する方法は、ヒーター等を利用して反応器外表面を加熱すること、恒温水又は恒温オイルを反応器外表面を循環させる事等が挙げられる。
【0014】
第一工程は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下で行われることが好ましい。アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物の存在下であると、酸化ケイ素のケイ素-酸素結合の開裂が促進されて、テトラアルコキシシランをより収率良く生成することができる。
アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、セシウム(Cs)等が挙げられる。また、対イオンについては、水酸化物、ハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、アルコキシド、ケイ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。中でも水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、炭酸水素塩が好ましく、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属炭酸水素塩がより好ましい。
具体的なアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等が挙げられる。なお、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物は、1種類のみならず、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
アルカリ金属化合物とアルカリ土類金属化合物の総使用量は、酸化ケイ素(二酸化ケイ素の場合)1molに対して、通常0.0001mol以上、好ましくは0.001mol以上であり、通常20mol以下、好ましくは10mol以下である。上記範囲内であると、テトラアルコキシシランをより高収率で製造することができる。
【0015】
第一工程における温度(T)以外の反応条件等は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
第一工程の圧力(P)は、通常0.1MPa以上、好ましくは1.0MPa以上、より好ましくは2.8MPa以上であり、通常60MPa以下、好ましくは30MPa以下、より好ましくは20MPa以下である。
上記範囲内であると、テトラアルコキシシランをより高収率で製造することができる。
【0016】
(第二工程)
第二工程は、第一工程で得られた反応混合物の気化成分をモレキュラーシーブに接触させる工程であるが、モレキュラーシーブは、分子の篩として機能し細孔内に水を吸着して脱水できる働きのある材料であれば特に制限はなく、A型やX型の多孔質ゼオライトある3Aや4A、5A、13Xなどを好ましく用いる事ができるが、3A及び4Aであることがより好ましく、3Aであることが特に好ましい。3Aのモレキュラーシーブであると、水を選択的に除去し、テトラアルコキシシランをより収率良く生成することができる。
【0017】
第二工程は、内部にモレキュラーシーブが設置され、温度(T)が10℃≦T≦150℃に制御されている容器内で行われる工程であるが、温度(T)の温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下である。上記範囲内であると、テトラアルコキシシランをより高収率で製造することができる。
温度(T)を制御する方法は、ヒーター等を利用して容器外表面を加熱すること、第一工程の熱を利用すること、恒温水又は恒温オイルを容器外表面を循環させる事等が挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法に使用する装置としては、図1の装置を挙げることができる。以下、図1の装置を参照しながら詳細に説明する。
図1の装置101は、第一工程が行われる反応器106と、内部にモレキュラーシーブ105が設置された第二工程が行われる容器107と、気化成分104が反応器106から容器107に移動するための往路流路108と、モレキュラーシーブ105に接触した成分が容器107から反応器106に移動するための復路流路109を備えた構成となっている。反応器106にアルコール102、酸化ケイ素103、アルカリ金属化合物等を投入し、温度(T)を200℃<T<300℃に制御して第一工程を行うことになる。第一工程で得られた反応混合物の気化成分104は、往路流路108を介して容器10
7に投入され、モレキュラーシーブ105と接触した成分は、復路流路109を介して反応器106に戻ることになる。温度(T)は、10℃≦T≦150℃に制御されており、気化成分104を容器107内でモレキュラーシーブ105に接触させて、第二工程を行うことになる。そして、温度(T)と温度(T)の差により、更には往路流路108の温度(T)が190℃≦T≦300℃に制御されることによって、キャリアーガス、コンプレッサー等を利用しなくても、反応系内の温度差及び/又は圧力差によって、気化成分104が効率良く反応器106から容器107に移動するとともに、モレキュラーシーブ105に接触した成分が効率良く容器107から反応器106に移動することになる。
温度(T)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上であり、好ましくは290℃以下、より好ましくは280℃以下である。上記範囲内であると、気化成分等をより効率良く移動させることができる。温度(T)は温度(T)と同じであってもよいし、高くしてもよいし、低くしてもよい。温度(T)は温度(T)±50℃以内が好ましく、温度(T)±35℃以内がより好ましい。また。収率向上の観点から、温度(T)は温度(T)より高いほうが好ましい。T>Tとすることにより、温度(T)を低温化して、省エネルギーかつ収率の向上を実現できる。
温度(T)を制御する方法は、ヒーター等を利用して容器外表面を加熱すること、第一工程の熱を利用すること、恒温水又は恒温オイルを容器外表面を循環させる事等が挙げられる。
復路流路の温度は、温度(T)と同様であり、通常10℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、通常150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。
【0019】
第二工程は、第一工程で得られた反応混合物の気化成分をモレキュラーシーブに接触させる工程であるが、反応混合物は共沸蒸留を行うための化合物(以下、「共沸蒸留用化合物」と略す場合がある。)等を含まないことが好ましい。アルコールと副生する水が含まれる反応混合物は共沸混合物となり得るため、ベンゼン、キシレン等の共沸蒸留用化合物を添加することも考えられる。しかしながら、本発明の製造方法では、共沸蒸留用化合物を使用しなくとも、高収率でテトラアルコキシシランを製造することができる。また共沸蒸留用化合物がテトラアルコキシシランを高純度に精製する際に阻害となる事もあるため、反応混合物は共沸蒸留用化合物を含まないことが好ましいのである。
【実施例
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0021】
<実施例1>
機械撹拌機を備えた200mL容積のSUS316製オートクレーブ(日東高圧社製)の上部に、反応混合物の気化成分が移動するための往路流路としてリボンヒーターを用いて加熱できるようにした内径4.6mmのSUS316製チューブ(図1の108部に相当)、モレキュラーシーブと接触した成分が移動するための復路流路として内径4.6mmのSUS316製チューブ(図1の109部に相当)を接続した。往路流路配管内の温度(T)は、反応中は249℃に保持した。さらにこれらのチューブに、モレキュラーシーブ3A(メルク社製:2mmビーズ状)25gを入れた内容積30mlのSUS製ポータブルリアクター(耐圧硝子社製)を接続した。ポータブルリアクターの外側には恒温水を循環させて、ポータブルリアクター内部のモレキュラーシーブ部温度(T)を53℃に保持した。オートクレーブ内に、二酸化ケイ素(和光純薬 ワコーゲル 60N 63~212μm)0.9g、エタノール80g、水酸化カリウム0.008gを加え、25℃の温度下で、ボンベからアルゴンガスを、圧力計(スウェージロックFST社PGC
-50M-MG10)が示す圧力で、オートクレーブが0.75MPaになるように充填して10分間撹拌しながら保持し、密封した。その後オートクレーブ内を500rpmに撹拌しつつ240℃(T)まで加熱し、6時間反応させた。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、72.5%であった。反応結果を表1に示す。
【0022】
<実施例2>
実施例1の反応条件に対し、往路側配管内温度Tを231℃、モレキュラーシーブ部温度Tを52℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、72.2%であった。反応結果を表1に示す。
【0023】
<実施例3>
実施例1の反応条件に対し、往路側配管内温度Tを209℃、モレキュラーシーブ部温度Tを58℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、66.2%であった。反応結果を表1に示す。
【0024】
<実施例4>
実施例1の反応条件に対し、反応温度Tを260℃、往路側配管内温度Tを264℃、モレキュラーシーブ部温度Tを66.1℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、78.6%であった。反応結果を表1に示す。
【0025】
<実施例5>
実施例1の反応条件に対し、反応温度Tを280℃、往路側配管内温度Tを284℃、モレキュラーシーブ部温度Tを57.4℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、80.7%であった。反応結果を表1に示す。
【0026】
<実施例6>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、水酸化カリウムの量を0.16g、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、79.1%であった。反応結果を表1に示す。
【0027】
<実施例7>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、水酸化カリウムの量を0.16g、用いるモレキュラーシーブをモレキュラーシーブ4A(メルク社製:2mmビーズ状)90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、55.2%であった。反応結果を表1に示す。
【0028】
<実施例8>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、加えるアルカリ金属化合物の種類を水酸化カリウムからフッ化カリウム0.17gに変更し、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、91.7%であった。反応結果を表1に示す。
【0029】
<実施例9>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、加えるアルカリ金属化合物の種類を水酸化カリウムから炭酸カリウム0.21gに変更し、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、79.6%であった。反応結果を表1に示す。
【0030】
<実施例10>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、加えるアルカリ金属化合物の種類を水酸化カリウムから水酸化ナトリウム0.12gに変更し、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、72.8%であった。反応結果を表1に示す。
【0031】
<実施例11>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、加えるアルカリ金属化合物の種類を水酸化カリウムから炭酸ナトリウム0.11gに変更し、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、79.4%であった。反応結果を表1に示す。
【0032】
<実施例12>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、加えるアルカリ金属化合物の種類を水酸化カリウムから炭酸セシウム0.49gに変更し、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、84.1%であった。反応結果を表1に示す。
【0033】
<実施例13>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、用いるアルコールをメタノール90g、水酸化カリウムの量を0.16g、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)、反応温度Tを230℃、往路側配管内温度Tを240℃、モレキュラーシーブ部温度Tを60.0℃とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラメトキシシシランの収率は、51.0%であった。反応結果を表1に示す。
【0034】
<実施例14>
実施例1の反応条件に対し、二酸化ケイ素の量を1.8g、用いるアルコールを1-プロパノール90g、水酸化カリウムの量を0.16g、モレキュラーシーブ3Aを90g(100mLSUS製ポータブルリアクターに充填)、反応温度Tを210℃、往路側配管内温度Tを210℃、モレキュラーシーブ部温度Tを60.0℃とした以外は、実施例1と同様にテトラアルコキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラプロポキシシシランの収率は、78.7%であった。反応結果を表1に示す。
【0035】
<参考例1>
実施例1の反応条件に対し、往路側配管内温度Tを246℃、モレキュラーシーブを0g、モレキュラーシーブ部(空の容器内部温度)Tを65℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、20.6%であった。反応結果を表1に示す。
【0036】
<比較例1>
実施例1の反応条件に対し、往路側配管内温度Tを187℃、モレキュラーシーブ部Tを37℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、20.0%であった。反応結果を表1に示す。
【0037】
<比較例2>
実施例1の反応条件に対し、反応温度Tを180℃、往路側配管内温度Tを264℃、モレキュラーシーブ部Tを41℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、16.0%であった。反応結果を表1に示す。
【0038】
<比較例3>
実施例1の反応条件に対し、反応温度Tを200℃、往路側配管内温度Tを325℃、モレキュラーシーブ部温度Tを24℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、34.2%であった。反応結果を表1に示す。
【0039】
<比較例4>
実施例1の反応条件に対し、往路側配管内温度Tを360℃、モレキュラーシーブ部Tを151.4℃とした以外は、実施例1と同様にテトラエトキシシランの製造を行った。シリカを基準としたテトラエトキシシランの収率は、49.9%であった。反応結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の製造方法によれば、各種シラン化合物、有機シリコーンポリマー、各種シリル化剤、コロイダルシリカ、セラミックス等を製造するための原料として用いられるテトラアルコキシシランを高効率に製造することができる。
【符号の説明】
【0042】
101 本発明の製造方法に使用することができる装置
102 アルコール
103 酸化ケイ素
104 反応混合物の気化成分
105 モレキュラーシーブ
106 第一工程を行う反応器
107 第二工程を行う容器
108 反応混合物の気化成分が移動するための往路流路
109 モレキュラーシーブと接触した成分が移動するための復路流路
110 第二工程を行う容器と往路流路の接続部
図1