(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】放射能測定装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/167 20060101AFI20221221BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20221221BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G01T1/167 A
G01T1/17 C
G01T1/167 C
G01T1/167 H
G01T1/167 G
G01T1/36 D
(21)【出願番号】P 2017193857
(22)【出願日】2017-10-03
【審査請求日】2020-05-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】石田 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉本 周平
(72)【発明者】
【氏名】白旗 克志
(72)【発明者】
【氏名】土原 健雄
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-543587(JP,A)
【文献】特開2014-163927(JP,A)
【文献】米国特許第09158011(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0018533(US,A1)
【文献】特開2013-257159(JP,A)
【文献】特開2016-033459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の放射性物質濃度を観測するための放射能測定装置であって、
放射線検出器と、防水性を有し且つ放射線を透過させる材料からなり、前記放射線検出器を覆うように設けられた防水容器と、前記放射線検出器から取得した信号に基づいて放射性物質濃度を算出する解析手段と、測定対象となる水域の水位を測定する水位測定手段とを備え、
前記解析手段は、前記算出した放射性物質濃度から、前記測定対象となる水域以外に由来する放射線の線量(バックグラウンド放射線量)を差し引く、バックグラウンド除去処理を実施し、前記水位測定手段の測定した水位に応じて、前記バックグラウンド放射線量を算出し、
前記防水容器は、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル及びポリカーボネートのうちの少なくとも一種を材料として含み、
前記測定対象となる水域の放射性物質濃度を
リアルタイムに把握し、
前記放射能測定装置は、前記測定対象となる水域に設置されることを特徴とする、放射能測定装置。
【請求項2】
前記放射線検出器は、シンチレータとしてNaI(Tl)、CsI(Tl)、CsI(Na)、LnBr
3、ZnS(Ag)又はCsIを有することを特徴とする、請求項
1に記載の放射能測定装置。
【請求項3】
前記放射能測定装置は、前記測定対象となる水域の水底に設置されることを特徴とする、請求項1に記載の放射能測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑な設備を用いることなく、リアルタイムで且つ正確に、水中の放射性物質濃度を把握できる放射能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波によって引き起こされた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、土壌等だけでなく、河川や、ため池、その他の水域についても放射性物質によって汚染された。特に、福島県内には3400箇所以上のため池が存在し、農業用水源として利用されていたが、その多くは水中から放射性セシウムが検出された。
【0003】
その後、環境省や福島県、その他の各機関の除染作業によって、土壌中の放射性物質は除去され、営農が再開されている地域も増えている。ただし、河川やため池等から引かれた農業用水を通じて、放射性物質が水田に流入することが懸念されることから、現在、水中の放射性物質濃度を把握することが望まれていた。
そのため、従来は測定対象となる水域の水を、一旦サンプリングした後、分析施設で放射線検出器を用いて水中の放射性物質濃度を把握していた。
【0004】
しかしながら、水中の放射性物質については、水域の種類や、かんがい期や出水期等の時期によって大きく変化することから、一回のサンプリングによって測定するだけでなく、リアルタイム且つ連続的に観測できる技術の開発が強く望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、複雑な設備を用いることなく、リアルタイムで且つ正確に、水中の放射性物質濃度を把握できる放射能測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、水中の放射性物質濃度を測定するための放射線検出器を、防水性を有し且つ放射線を透過させる材料からなる防水容器で覆うとともに、解析手段を設けて、放射線検出器から取得した信号に基づき放射性物質濃度をリアルタイムに算出することによって、リアルタイムで且つ正確に水中の放射性物質濃度を把握できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)水中の放射性物質濃度を観測するための放射能測定装置であって、放射線検出器と、防水性を有し且つ放射線を透過させる材料からなり、前記放射線検出器を覆うように設けられた防水容器と、前記放射線検出器から取得した信号に基づいて放射性物質濃度を算出する解析手段と、を備えることを特徴とする、放射能測定装置。
【0008】
(2)前記解析手段は、前記算出した放射性物質濃度から、測定対象となる水域以外に由来する放射線の線量(バックグラウンド放射線量)を差し引く、バックグラウンド除去処理を実施することを特徴とする、(1)に記載の放射能測定装置。
【0009】
(3)前記放射能測定装置は、前記測定対象となる水域の水位を測定する水位測定手段をさらに備え、前記解析手段は、前記水位測定手段の測定した水位に応じて、前記バックグラウンド放射線量を算出することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の放射能測定装置。
【0010】
(4)前記放射線検出器は、シンチレータとしてNaI(Tl)、CsI(Tl)、CsI(Na)、LnBr3、ZnS(Ag)又はCsIを有することを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の放射能測定装置。
【0011】
(5)前記放射能測定装置は、前記測定対象となる水域の水底に設置されることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の放射能測定装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複雑な設備を用いることなく、リアルタイムで且つ正確に、水中の放射性物質濃度を把握できる放射能測定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の放射能測定装置の一実施形態について、模式的に示した図である。
【
図2】本発明の放射能測定装置の放射線検出器から得られた信号に基づいて作製した光電効果のカウント数を示すスペクトルデータを示すグラフである。
【
図3】河川の降水量と放射性Csの濃度のそれぞれの推移を示したグラフである。
【
図4】本発明の放射能測定装置の一実施形態を、実際に河川で使用した際の状態を示した写真である。
【
図5】本発明の実施例で得られた、河川中のCsピーク計数、河川の水位及びCsの実測値のそれぞれの推移を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<放射能測定装置>
本発明の放射能測定装置の一実施形態について、必要に応じて図面を用いて説明する。
本発明の放射能測定装置は、水中の放射性物質濃度を観測するための放射能測定装置であって、
図1に示すように、放射線検出器10と、防水性を有し且つ放射線を透過させる材料からなり、前記放射線検出器を覆うように設けられた防水容器20と、前記放射線検出器から取得した信号に基づいて放射性物質濃度を算出する解析手段30と、を備えることを特徴とする。
【0015】
放射性物質濃度を測定するための放射線検出器10を、防水性を有し且つ放射線を透過させる材料からなる防水容器20で覆うことによって、防水を図りつつ放射線量を測定でき、さらに、解析手段30を設けて、放射線検出器10から取得した信号から放射性物質濃度をリアルタイムに算出するできる結果、リアルタイムで且つ正確に水中の放射性物質濃度を把握することが可能となる。そのため、かんがい期や出水期での、放射性物質濃度の増減についても、リアルタイムに把握することができるようになる。
【0016】
なお、本発明の放射能測定装置が放射性物質濃度を観測する際の、対象となる水域については、特に限定はされない。例えば、河川、湖、池、湾、入り江等の地学的水域や、貯水施設(ため池、ダムなど)、水路、港等の人工的水域が挙げられる。また、本発明の放射能測定装置が放射性物質濃度を観測する際の「水中」とは、前記水域中の任意の部分を意味し、水域中での深さ等は特に限定されない。
【0017】
また、本発明の放射能測定装置による濃度観測の対象である「放射性物質」は、放射能を持った物質である。その種類については、特に限定はされず、例えば、核燃料物質や、放射性元素、又は、放射性同位体、中性子から生成された放射化物質などが挙げられる。その中でも、本発明では、特に、137Cs(セシウム)、134Cs(セシウム)、40K(カリウム)、214Bi(ビスマス)、228Ac(アクチニウム)、208Tl(タリウム)、212Pb(鉛)、235U(ウラン)等の放射性物質が対象となる。これらの放射性物質は水中に含まれることが多く、本発明によって放射性物質濃度を把握する利益が大きい。
なお、本発明での「放射線」とは、α線、β線、γ線、中性子線等の人体に与える影響の強い電離放射線のことであり、「放射能」とは、放射線を発する能力のことである。その中でも本発明では、放射線として、主に「γ線」を対象としており、以後の説明で「放射線」と記載する場合には、実質的に「γ線」を示すことがある。
【0018】
(放射線検出器)
本発明の放射能測定装置は、
図1に示すように、放射線検出器10を備える。該放射線検出器10は、内部にシンチレータ等の放射線検出素子10aを有し、放射線の有無及び放射線量を検出するための機器である。
【0019】
前記放射線検出素子10aについては、放射線の有無及び放射線量を検出できるものであれば特に限定はされない。公知の放射線検出素子として、例えば、シンチレータ、電離箱、比例計数管、GM計数管、半導体検出器、熱ルミネッセンス素子、光ルミネッセンス素子、蛍光ガラス素子等が挙げられる。
その中でも、比較的容易且つ正確に放射線の種類及び放射線量を取得できる点から、前記放射線検出素子10aとして、シンチレータを用いることが好ましい。ここで、前記シンチレータとは、放射線を吸収し、励起されることにより発光する特性を示す物質の総称である。
【0020】
さらに、前記シンチレータは、放射線の中でもγ線に高い感度を有する、NaI(Tl)、CsI(Tl)、CsI(Na)、LnBr3、ZnS(Ag)又はCsIを用いることが好ましい。前記放射線吸収量の検出精度が高く、より正確に水中の放射性物質濃度を把握できるためである。さらに、NaI(Tl)、CsI(Tl)、CsI(Na)、LnBr3、ZnS(Ag)又はCsIを放射線受光素子として用いた場合、放射性物質の種類ごとに放射線量の検出を行うことが可能である。
【0021】
なお、前記放射線検出器10は、上述した放射線検出素子10a以外にも、放射線検出器に用いられる公知の部材を組み込むことが可能である。例えば、放射線検出素子10aとしてシンチレータを用いた場合には、後述する解析手段30へ送る信号を増幅するために、光電子増倍管(図示せず)を放射線検出器10内に組み込むことが可能である。
【0022】
(防水容器)
本発明の放射能測定装置は、
図1に示すように、前記放射線検出器10を覆うように設けられた防水容器20を、さらに備える。
前記防水容器20は、防水性を有し且つ放射線を透過させる材料からなる。これによって、放射線検出器10を水に曝すことなく、水中の放射性物質濃度を直接的に把握できる。
【0023】
前記防水容器を構成する材料については、防水性を有し且つ放射線を透過させるものであれば、特に限定はされない。ただし、放射線を透過させる点からは、金属のような密度が大きい材料を避けることが好ましい。
具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル系樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂、天然樹脂などが挙げられる。それらの中でも、放射線の透過性、加工の容易性、製造コスト等の点から、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル又はポリカーボネートを材料として含むことが好ましい。
【0024】
前記防水容器20の形状についても、特に限定はされず、前記放射線検出器10の形状や、水域の状態によって適宜変更することができる。例えば、前記防水容器20の形を、円柱状、多角状、球状、楕円体状、平板状、円盤状、棒状等にすることが可能である。その中でも、前記放射線検出器10の形状に対応させる点からは、前記防水容器20の形状を、円柱状又は多角柱状とすることが好ましく、水域における水の抵抗が少ないという点からは、円柱状とすることがより好ましい。
【0025】
さらに、前記防水容器20は、前記放射線検出器10に水が触れないように、放射線検出器10を覆う必要があるところ、防水容器の水と接する部分が密閉されていれば、必ずしも全面を密閉する必要はない。
図1に示すように、防水容器20の上部が水と接触していない場合には、上面については密閉しなくてもよい。
【0026】
また、
図1に示すように、前記防水容器20は、必要に応じてその内部に、放射線シールド11を有することが好ましい。前記放射線検出器10が検出する放射線のうち、不要なもの(測定対象となる水域以外に由来する放射線)をできるだけ排除することで、水中の放射性物質濃度の検出精度を高めることができるからである。
なお、前記放射線シールド11を設ける場所については、特に限定はされず、例えば
図1に示すように、前記放射線検出器10の下面を覆うように設けることができる。この場合、土壌等に含まれる放射性物質に由来した下からの放射線を抑制することが可能である。また、同様に上からの放射線を抑制するために、前記放射線検出器10の上部に放射線シールド11を設けることもできる。
また、前記放射線シールド11の材料については、放射線を遮蔽する作用があるものであれば、特に限定はされず、公知のものを用いることができる。前記放射線シールド11の材料としては、密度の大きい材料、例えば、鉛、金、銀、鉄、コンクリート等が挙げられる。
【0027】
(解析手段)
本発明の放射能測定装置は、
図1に示すように、解析手段30をさらに備える。該解析手段30は、
図1に示すように、ケーブル等の接続機器を介して前記放射線検出器10と接続されており(
図1では、アンプ33と接続されている。)、該放射線検出器10から取得した信号に基づいて放射性物質濃度を算出する。
なお、解析手段30の設けられる場所については特に限定はされない。例えば
図1では、解析手段30が、地上に設置され、前記防水容器20の外に設けられているが、解析手段30の全部又は一部が、前記防水容器20の中に入るような構成とすることも可能である。
【0028】
ここで、前記解析手段30による放射性物質濃度の算出は、分析装置34によって行われる。放射線検出器10から取得した信号に基づき、放射性物質濃度を算出する具体的な方法については、特に限定はされず、使用する計算機の種類や、状況に応じて、公知の技術を適宜選択することができる。
一例として、前記放射線検出器10から取得した信号を、
図2に示すように、波高分析器を用いて、光電効果のカウント数を示すスペクトルデータとした後、該スペクトルデータを元に、積算及びスムージング等の処理を行った後、放射線物質元素(Cs)のピーク係数(放射線物質の時間当たりの濃度(カウント数))へ変換する。一方で、ピーク係数とサンプリングによって別途得られた水中の放射性物質濃度との関係式を求めておくことで、放射性物質濃度を得ることができる。
【0029】
また、前記放射線検出器10から取得した信号については、
図1に示すように、アンプ(増幅器)33によって、増幅させた後に、放射性物質濃度を算出するための分析装置34へと送ることもできる。前記分析装置34で利用しやすいデータとすることができるためである。
【0030】
なお、前記アンプ33や、前記分析装置34の動作や、データの授受等についての制御は、例えば
図1に示すように、制御盤32によって行うことができる。この制御盤32の動作については、手動によって行うことも可能であるが、ソフトウェア等によって自動化することもできる。
【0031】
なお、前記解析手段30に用いられる機材としては特に限定はされず、市販の電子計算機(コンピュータ)に、特定のソフトウェアを組み込むことで、解析手段30として用いることが可能である。また、
図1では、解析手段30の中に電源31が組み込まれているが、電源を解析手段30とは独立した形で備えることも可能である。
【0032】
そして、本発明の放射能測定装置では、
図1に示すように、前記前記解析手段30が、算出した放射性物質濃度から、測定対象となる水域100以外に由来する放射線の線量(以下、「バックグラウンド放射線量」ということがある。)を差し引く、バックグラウンド除去処理35を実施することが好ましい。
通常、水域中の放射線濃度を観測する場合には、前記放射線検出器が、測定対象の水域100以外、例えば、大気中に含まれる放射線物質や、水底若しくは水域近くにある土壌中の放射線物質などに由来した放射線を同時に測定することとなる。そのため、バックグラウンド除去処理35を実施し、測定対象の水域100以外に由来したバックグラウンド放射線の影響を差し引くことによって、測定対象の水域100の放射性物質濃度を正確に観測することが可能になる。
【0033】
なお、一般的なバックグラウンド放射線の除去技術としては、十分な厚さの鉛等の金属からなる遮蔽物によって放射線検出器を覆うものが挙げられる。しかしながら、その場合、遮蔽物の大きさや重量が大きくなり、装置の作製や、測定場所での設置が困難となることが考えられる。また、前記遮蔽物によってバックグラウンド放射線の全てを除去することは困難であり、放射線検出器の全てを覆うと水中の放射線物質の濃度も観測できなくなることから、本発明のように、バックグランド除去処理を実施することが、装置作製の煩雑性や、観測精度の観点からも好ましい。
また、前記バックグラウンド放射線量については、常に一定ではないため、後述する水域の水位や、水域の濁度等に応じて、バックグラウンド放射線量を算出することがより好ましい。
【0034】
(水位測定手段)
また、本発明の放射能測定装置では、
図1に示すように、前記測定対象となる水域100の水位を測定する水位測定手段40をさらに備え、前記解析手段30は、前記水位測定手段40の測定した水位に応じて、前記バックグラウンド放射線量を算出することがより好ましい。放射性物質濃度をより高精度に把握できるためである。
【0035】
上述したように、前記バックグラウンド放射線量については、常に一定ではなく、水位に応じて大きく変化するものである。例えば、水位が低い場合には、水による放射線遮蔽効果が小さいため、測定対象の水域以外に由来するバックグラウンド放射線量が大きくなり、一方、水位が高い場合には、水による放射線遮蔽効果が大きいため、測定対象の水域以外に由来するバックグラウンド放射線量が小さくなることが考えられる。そのため、水域100の水位を測定し、バックグラウンド放射線量の算出の条件として用いることによって、バックグラウンド処理35を正確且つリアルタイムに実施できる結果、放射性物質濃度をより高精度に算出できる。
【0036】
なお、前記バックグラウンド放射線量の算出については、水位とバックグラウンド放射線量との関係を予め導出し、用意しておくことで、水位計40によって水位を測定するだけで、前記解析手段30において、リアルタイムにバックグラウンド除去35の処理を行うことが可能となる。
【0037】
ここで、前記水位計40については、特に限定はされず、使用目的に応じて公知のものを適宜使用することができる。
なお、
図1では、前記水位計40による測定値を、前記解析手段30のバックグラウンド除去35のために用いているが、測定した水位を放射性物質濃度の算出に利用することもでき、その場合には、水位計40を分析装置34にも接続することができる。
【0038】
なお、水位が高い場合には、水による放射線遮蔽効果が大きいため、測定対象の水域以外に由来するバックグラウンド放射線量が小さくなることを説明したが、水域の水量の増す出水時には、放射性物質を吸着した粘土等が多く含まれるため、水中の放射性物質濃度自体は高くなることが知られている。
ここで、
図3は、福島県のある河川について、7/1~10/31までの期間における、降水量及び測定した放射性Cs濃度の推移を示したグラフである。
図3では、降水量が多い、つまり河川の水位が高くなる場合には、水中のCs濃度が上がっていることがわかる。一方で、数日間降雨が無い時の河川水中の放射性Cs濃度はほぼゼロであり、この時測定される放射線量は全てバックグラウンドとなる。バックグラウンド放射線量は、水位が高いほど小さくなるので、水中のCs濃度がゼロである時にバックグラウンド放射線量と水位を測定しておけば、両者の関係を求めることができる。
【0039】
さらに、前記バックグラウンド放射線量を算出する材料として、水位以外にも、水中の濁度を用いることも可能である。その場合、本発明の放射能測定装置は、任意の濁度計(図示せず)をさらに備えることも可能である。
【0040】
なお、本発明の放射能測定装置は、測定対象となる水域100において、どのように設置しても良いが、
図1に示すように、前記測定対象となる水域100の水底100aに設置されることが好ましい。水底100aに設置することで、水域100の水が遮蔽材となるため、大気中に含まれる放射線物質や、水域近くにある土壌中の放射線物質等に由来したバックグラウンド放射線量を低減できるからである。なお、水底100aの下にある土壌101に由来したバックグラウンド放射線量については、上述したように、前記放射線検出器10の下に放射線シールド11を設けることで、低減することが可能である。
【0041】
<放射能測定方法>
次に、本発明による放射能測定方法について説明する。
本発明の放射能測定方法は、
図1に示すように、防水容器20内に設置した放射線検出器10によって、水中の放射線量を測定し、放射線検出器から取得した信号に基づいて放射性物質濃度を算出し、算出した放射性物質濃度から、測定対象となる水域100以外に由来する放射線の線量(バックグラウンド放射線量)を差し引く、バックグラウンド除去処理を実施することを特徴とする。
【0042】
上記構成を具備することで、防水を図りつつ、リアルタイムで且つ正確に水中の放射性物質濃度を把握できるとともに、バックグラウンド放射線の影響を取り除くことによって、測定対象の水域の放射性物質濃度をより高精度に把握することが可能となる。
【0043】
本発明の放射能測定方法のその他の条件については、上述した本発明の放射能測定装置の中で記載された内容と同様である。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例)
図1に示すように、放射線検出器10と、防水容器20と、解析手段30と、水位測定手段40とを備える放射能測定装置1を作製した。
なお、放射線検出器10については、5インチNaIシンチレーション検出器を用いた。また、防水容器については、長さ:2m、外形200mmのVU(塩化ビニル)管を用い、前記5インチNaIシンチレータを、ほぼ隙間がない状態で収納し、前記5インチNaIシンチレータの上部及び底部に厚さ50mmの鉛からなる放射線シールドを設けた。さらに、水位測定手段40として、市販の水位計を用いた。
なお、解析手段30については、制御盤32、アンプ33を防水容器20内に組み込み、電源31は放射線検出器10からケーブルを防水容器20外に引き出し、地上に設置したバッテリーと結ぶことで供給した。分析装置34は、市販のノートパソコンにプログラムを組み込むことで、分析装置として用いた。
【0046】
(評価)
図4に示すように、作製した放射能測定装置1を用いて、河川中のセシウム137濃度(
137Csピーク係数)を測定した。なお、測定対象の河川は、福島県双葉郡浪江町にある河川である。
図4に示す測定期間は、2016年10月11日~10月19日の9日間である。
測定結果として、
図5に、河川の水位(cm)及び算出した
137Csピーク係数(cps:カウント数/秒)の、9日間の推移を示す。また、評価指標として、適宜河川から採水し、
137Cs濃度を実測して、9日間の推移を導出した。
【0047】
図5から、出水時(水位が大きくなった時)には、算出した
137Csピーク係数は、実測した
137Cs濃度と同じ挙動で上昇していることがわかり、本発明の放射能測定装置1は、
137Cs濃度を高い精度で観測できていることがわかった。
また、10月14日~10月15日において実測によって得られた
137Cs濃度がほぼゼロである期間の水位及びCsピーク係数の推移を確認すると、バックグラウンド放射線量を示すピーク係数が、水位の下降に伴って増加していることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、複雑な設備を用いることなく、リアルタイムで且つ正確に、水中の放射性物質濃度を把握できる放射能測定装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
10 放射線検出器
11 放射線シールド
20 防水容器
30 解析手段
31 電源
32 制御盤
33 アンプ
34 分析装置
35 バックグラウンド除去
40 水位測定手段
100 水域
101 土壌