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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ノッチフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/209 20060101AFI20221221BHJP
   H01P 1/207 20060101ALI20221221BHJP
   H01P 7/06 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01P1/209
H01P1/207 C
H01P7/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022533132
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2021044012
(87)【国際公開番号】W WO2022118865
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2020200186
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】西浦 正樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴史
(72)【発明者】
【氏名】小林 策治
(72)【発明者】
【氏名】久保 伸
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082434(JP,A)
【文献】特表2009-539291(JP,A)
【文献】米国特許第05256990(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第03729402(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0051724(US,A1)
【文献】特開2005-175612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/20- 1/209
H01P 7/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の周波数の電磁波を除去するノッチフィルタであって、
断面が矩形をなし規定の周波数帯を通過させるための方形導波管と、
前記特定の周波数に応じた寸法で形成され、該方形導波管の軸方向のいずれかの箇所において、該矩形の長辺で構成されるE面に直交する方向に突出するように取り付けられた1以上のキャビティとを備え、
前記キャビティは、円筒形状であり、
前記方形導波管は、
開口部において、前記矩形の長辺および短辺の長さが、前記周波数帯に応じて定まる寸法となっており、
前記キャビティが取り付けられている部位において、前記矩形の短辺の長さが、前記開口部よりも狭い狭路部となっているノッチフィルタ。
【請求項2】
請求項1記載のノッチフィルタであって、
前記狭路部における前記矩形の短辺の長さは、前記特定の周波数の電磁波が所定のモードで伝播するよう設定されているノッチフィルタ。
【請求項3】
請求項1記載のノッチフィルタであって、
前記狭路部は、さらに前記矩形の長辺の長さが、前記開口部よりも狭い狭路部となっているノッチフィルタ。
【請求項4】
請求項1記載のノッチフィルタであって、
前記円筒形状の高さが異なる複数のキャビティが、それぞれ当該円筒形状の軸が前記矩形の長辺と平行となるように配置されているノッチフィルタ
【請求項5】
請求項1記載のノッチフィルタであって、
前記方形導波管の対向するE面にそれぞれ1以上のキャビティを備えるノッチフィルタ。
【請求項6】
請求項1記載のノッチフィルタであって、
前記開口部の寸法を有する広路部と、前記狭路部とがテーパ状に連結されているノッチフィルタ。
【請求項7】
請求項1記載のノッチフィルタであって、
前記開口部の寸法を有する広路部と、前記狭路部とが段差を設けて連結されているノッチフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管とキャビティとを用いたノッチフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の周波数の電磁波を除去するためのフィルタとして、導波管にキャビティを設けた形のノッチフィルタが知られている。導波管は、その開口部の形状に応じて、規定の周波数の電磁波のみを通過させるよう構成されており、かかる導波管に除去すべき電磁波の周波数に応じたキャビティを取り付けることによって、いわばキャビティで電磁波を捕捉し、導波管を通り抜けないようにすることで、当該電磁波を除去することができる。
導波管の形状については、規定の周波数を精度良く通過させるよう種々の工夫が提案されている。例えば、特許文献1は、ミリ波帯の電磁波をTE10モードで伝送する導波管において、低域側の上限にカットオフ周波数が合うように導波路口径を部分的に狭めた構成を開示する。また、特許文献2は、規定の周波数が異なる2つの導波管をクランク状に連結した構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-17695号公報
【文献】特開2015-56721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導波管においては、開口部の形状に応じて定まる規定の周波数よりも低い周波数の電磁波は効率的にカットすることができるが、周波数が高い電磁波は容易に通過してしまう性質がある。従って、導波管にキャビティを設けても、こうした高周波の電磁波がノイズとなり、目的とする周波数の電磁波の除去が効率的に実現できない課題があった。
本発明は、かかる課題に鑑み、導波管にキャビティを設けたノッチフィルタの性能を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
特定の周波数の電磁波を除去するノッチフィルタであって、
断面が矩形をなし規定の周波数帯を通過させるための方形導波管と、
前記特定の周波数に応じた寸法で形成され、該方形導波管の軸方向のいずれかの箇所において、該矩形の長辺で構成されるE面に直交する方向に突出するように取り付けられた1以上のキャビティとを備え、
前記方形導波管は、
開口部において、前記矩形の長辺および短辺の長さが、前記周波数帯に応じて定まる寸法となっており、
前記キャビティが取り付けられている部位において、前記矩形の短辺の長さが、前記開口部よりも狭い狭路部となっているノッチフィルタと構成することができる。
【0006】
一般に規定の周波数帯を通過させるための方形導波管は、長辺から構成されるE面、短辺から構成されるH面からなる筒状の形状をなしており、規定の周波数帯およびそれ以上の周波数の電磁波が通過する。そして、規定の周波数帯の電磁波は、方形導波管内をTE10モードなどの状態で比較的安定して伝播するのに対し、規定より高い周波数帯の電波は、このような安定した状態で通過するとは限らない。
これに対し、本発明においては、キャビティを設けた箇所を狭路部とすることにより、除去すべき特定の周波数(以下、ノッチ周波数ということもある。)の電磁波の伝播を狭路部内で安定させることができるため、キャビティで効率的に除去することが可能となる。電磁波を安定させるためには、狭路部の長辺の寸法ではなく、短辺を短くすること、即ち、キャビティが設けられているE面の間隔を狭めることが特に効果的である。
【0007】
本発明において規定の周波数としては、いわゆるQバンド、Uバンドなど導波管の分野で用いられる帯域で特定することができるが、これらに限定されるものではない。
また、特定の周波数は、方形導波管内を通過し得る周波数内で任意に設定でき、規定の周波数帯の下限値よりは高い範囲の周波数となる。特に、規定の周波数帯の上限値よりも高い周波数とすることが好ましい。
キャビティは、特定の周波数の電磁波を内部で共鳴させることにより除去するものであるから、かかる原理に基づいて設計された形状であれば、直方体状の空洞など種々の形状をとり得る。
【0008】
本発明のノッチフィルタにおいては、
前記狭路部における前記矩形の短辺の長さは、前記特定の周波数の電磁波が所定のモードで伝播するよう設定してもよい。
【0009】
こうすることにより、狭路部における特定の周波数の電磁波を一層、安定させることができ、キャビティでの除去効率をさらに向上させることができる。
所定のモードとしては、例えば、TE10モードなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
もっとも、本発明において狭路部における矩形の短辺の長さは、所定のモードに限らず任意に決めても差し支えない。開口部よりも狭路部の幅を抑えることにより、特定の周波数の電磁波を安定させる効果は得られるからである。所定のモードを考慮して幅を設定することは、その効果をより向上させる手段に過ぎない。
【0010】
本発明のノッチフィルタにおいては、
前記狭路部は、さらに前記矩形の長辺の長さが、前記開口部よりも狭い狭路部となっているものとしてもよい。
【0011】
シミュレーションの結果、E面の間隔を狭めることに加えて、矩形の長辺の長さを短くした場合、即ちH面の間隔を狭くした場合、所定の周波数以下の電磁波を減衰させる効果、即ち、ハイパスフィルタの効果を併せ持つことが判明した。
【0012】
本発明のノッチフィルタにおいては、
前記キャビティは、円筒形状としてもよい。
【0013】
キャビティは、本来、任意の形状をとり得るが、特定の周波数を効率的に除去するためには、十分な加工精度が求められる。円筒形状は、かかる点で他の形状に比較して、精度よく加工しやすいという利点がある。また、特定の周波数を除去するための寸法を、解析的に求めやすいという利点もある。
円筒形状のキャビティとする場合、その配置も種々の態様が考えられ、その軸方向を方形導波管の短辺またはH面に平行に配置してもよいし、その軸方向が方形導波管の長辺またはE面に平行になるよう配置してもよい。
【0014】
キャビティを円筒形状とする場合、
前記円筒形状の高さが異なる複数のキャビティが、それぞれ当該円筒形状の軸が前記矩形の長辺と平行となるように配置されているものとしてもよい。
【0015】
シミュレーションの結果、キャビティを円筒形状とする場合、その高さ長辺の長さ、即ちキャビティ長が、除去される電磁波の周波数に影響を与えることが判明した。従って、キャビティ長が異なる複数のキャビティを備えることにより、複数の周波数の電磁波を除去することができることになる。
一つのキャビティでは、それに対応した周波数を中心にある程度の幅をもった周波数の電磁波が除去される。従って、複数のキャビティについて、それぞれ除去される周波数が相互に重畳するようにキャビティ長を決めれば、全体としては、特定の周波数を中心に幅広く電磁波を除去することが可能となる。また、複数のキャビティについて、それぞれ除去される周波数が相互に重畳しないようにキャビティ長を決めれば、全体としては、分離された複数の周波数の電磁波を除去することが可能となる。このようにキャビティ長は、目的に応じて種々の設定が可能である。
【0016】
本発明のノッチフィルタにおいては、
前記方形導波管の対向するE面にそれぞれ1以上のキャビティを備えるものとしてもよい。
【0017】
シミュレーションの結果、両側にキャビティを設けることにより、電磁波の除去の効率が向上することが判明した。
また、キャビティを方形導波管の対向するE面に設ける場合には、それぞれのキャビティの方形導波管の軸方向の取り付け位置が異なるように設けることが好ましい。つまり、方形導波管の短辺、長辺にx軸、y軸、軸方向にz軸を定義するとき、それぞれのキャビティのz座標が異なるようにすることが好ましい。
もっとも、キャビティの位置は任意に設定可能であり、複数のキャビティを設ける場合、方形導波管の片方にのみ設けてもよい。
【0018】
本発明のノッチフィルタにおいては、
前記開口部の寸法を有する広路部と、前記狭路部とがテーパ状に連結されているものとしてもよい。
【0019】
こうすることにより、広路部と狭路部とを円滑に連結することができ、比較的加工しやすい利点がある。
テーパ状の連結部の設け方は、種々の方法が考えられる。例えば、方形導波管の入口側の広路部と狭路部、および出口側の広路部と狭路部の2カ所の連結部のうち、一方のみをテーパ状としてもよいし、双方をテーパ状としてもよい。また、テーパ状の連結部の長さは任意に設定可能である。
【0020】
本発明のノッチフィルタにおいては、
前記開口部の寸法を有する広路部と、前記狭路部とが段差を設けて連結されているものとしてもよい。
【0021】
シミュレーションの結果、こうすることにより、反射特性が改善すること、即ち、方形導波管に進入した電磁波が、通過せずに、いずれかの箇所で反射することによる悪影響が緩和されることが判明した。
段差は、一段階としてもよいし、複数段階としてもよい。
【0022】
本発明は、以上で説明した種々の特徴を全て備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図2】キャビティの寸法と周波数との相関を示すチャートである。
図3】実施例としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。
図4】比較例としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図5】比較例としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。
図6】変形例(1)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図7】変形例(2)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図8】変形例(2)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。
図9】変形例(3)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図10】変形例(3)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。
図11】変形例(3)としてのノッチフィルタの反射特性を示す説明図である。
図12】変形例(4)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図13】変形例(4)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。
図14】変形例(5)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図15】変形例(5)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図(1)である。
図16】変形例(6)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図17】変形例(6)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図(1)である。
図18】変形例(7)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図19】変形例(7)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図(1)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
A.ノッチフィルタの構成:
図1は、実施例としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図1(a)には、ノッチフィルタ10の斜視図を示した。ノッチフィルタ10の本体は、快削銅、無酸素銅、純アルミニウム、アルミニウム合金など高周波の電磁波に対する抵抗が小さい金属を適宜選択することができる。ノッチフィルタ10は、概略直方体となっており、端面には、図示するように矩形の開口部11が形成されている。対向する端面にも同様の開口部が形成されている。ノッチフィルタ10の内部は、中空の導波管とキャビティが形成されている。電磁波は、開口部11から導入され、開口部11の寸法によって規定される周波数帯の電磁波がノッチフィルタ10の内部を通過し、対向する端面の開口部に伝搬される。途中、キャビティに対応する特定の周波数の電磁波は除去される。以下、この除去される特定の周波数をノッチ周波数と言うこともある。
【0025】
図1(b)には、ノッチフィルタ10の内部を表す平面図を示した。内部に形成されている中空部分のみを図示した状態となっている。この中空部分は、先に説明した通り、導波管20と円形キャビティ30、32とを接続管31、33で接続した構成となっている。導波管20の断面形状は長辺、短辺からなる矩形であり、開口部の幅W1は、図1(a)に示した開口部11の短辺(横方向)に対応している。導波管20のうち、長辺で構成される平面をE面と呼び、短辺で構成される平面をH面と呼ぶ。
円形キャビティ30、32は、任意の位置に取り付けることが可能であるが、実施例では、導波管20の軸方向の位置が異なるように取り付けた。つまり、矩形断面の短辺方向にx軸、長辺方向にy軸を定義し、導波管20の軸方向にz軸を定義すると円形キャビティ30、32のz座標は異なる値となる。こうすることにより、それぞれの円形キャビティ30、32をより効率的に作用させることができる。
開口部11の長辺の寸法、および短辺の寸法(H面の間隔)(単に幅と称することもある)(W1)は、導波管20を通過させる電磁波の周波数帯に応じて設計することができる。本実施例では、QバンドのTE10モードを考慮し、幅W1を2.845ミリメートルに設定した。
【0026】
導波管20の平面形状は、図示する通り、幅が変化している。即ち、入り口側から、幅W1と同一の幅の広路部21、徐々に幅が狭くなるテーパ部22、幅W1よりも狭い狭路部23が形成され、その後、徐々に幅が広くなるテーパ部24、幅W1と同一の幅の広路部25へとつながっている。
【0027】
導波管20の全長Lは任意に設計可能であるが、本実施例では50ミリメートルとした。また、広路部21の長さL2は5ミリメートル、開口部からテーパ部22、24の末端までの距離L1は10ミリメートルとした。L1、L2は任意に設計可能であるが、テーパ部22、24の長さ(即ち、L1-L2)が、短い場合、電磁波が反射する恐れがあるため、十分になめらかに広路部21、25と狭路部23とを接続できる程度の長さを確保することが好ましく、少なくとも電磁波の半波長以上の長さを確保しておくことが好ましい。
幅は、このように変化するものの、高さ(長辺の長さまたはE面の間隔)は、一定となっている。
【0028】
円形キャビティ30、32および接続管31、33は、後述する方法などによって、捕捉する電磁波の周波数に応じて設計することができる。本実施例では、Uバンド帯の56GHzを捕捉するよう設計した。円形キャビティ30、32は、狭路部23の途中に設けられている。好ましくは中央付近が良い。
円形キャビティ30、32および接続管31、33の高さは、導波管20と同一としてもよいし、それよりも小さくしてもよい。
【0029】
狭路部23の幅W3は、円形キャビティ30、32で捕捉する電磁波の周波数に応じて決めることができる。上述の通り、本実施例ではUバンド帯の電磁波を捕捉するため、狭路部23の幅W3は、Uバンド帯のTE10モードを想定し2.388ミリメートルとした。半幅W2は、その1/2で、1.194ミリメートルとなる。
狭路部23の長さは、円形キャビティ30、32での捕捉効果が向上するのに十分な長さを確保しておくことが望ましい。長さは、実験または解析によって定めることができるが、少なくとも捕捉するUバンド帯の半波長を円形キャビティ30、32の前後に確保できる程度の長さを確保することが好ましい。
【0030】
B.円形キャビティの設計方法:
円形キャビティの設計方法について説明する。
図2は、キャビティの寸法と周波数との相関を示すチャートである。横軸は、キャビティの直径Dと、キャビティ長Lとの比である。キャビティ長Lとは、円筒状のキャビティの高さを言う。縦軸は、キャビティの直径とノッチ周波数frの積である。また、それぞれの変数は、次の事項を意味する。
mは、円筒状のキャビティ内における周回方向に関する電界Erの全周期変化の数である。
nは、円筒状のキャビティ内における半径方向に関する電界Etの半周期変化の数である。
xiは、円筒状のキャビティ内における軸方向、即ち高さ方向に関する電界Erの半周期変化の数である。
【0031】
ノッチ周波数frを設定し、m、n、xiを任意に選択すれば、図2のチャートによって、これらのパラメータに応じて、キャビティの直径Dとキャビティ長Lの比を求めることができる。その上で、方形導波管の寸法、ノッチフィルタ全体の寸法などを考慮しながら、キャビティの直径Dおよびキャビティ長Lをそれぞれ設定すればよい。
【0032】
C.ノッチフィルタの効果:
図3は、実施例としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。図1に示したノッチフィルタを用いた場合の各周波数における減衰効果を示した。
先に説明した通り、ノッチフィルタはQバンド帯を通過させる導波管と、Uバンド帯に含まれる56GHzの周波数を除去する円形キャビティを備えている。
図3におけるグラフC1は、導波管に狭路部を設けない場合の結果を表しており、目的とする周波数から若干ずれた55GHzおよび59GHzで減衰が現れていることが分かる。一方、グラフC2は、導波管に狭路部を設けた場合の結果である。目的とする56GHzを含む範囲で、顕著な減衰が得られていることが分かる。
このように、導波管に狭路部を設けることにより、ノッチフィルタの性能が大きく向上することが実験で確認された。
【0033】
上述の結果が得られる原理については、完全に解明された訳ではないが、次のような理由によるものと推測される。即ち、Qバンド帯に合わせた開口部を有する導波管の場合、Qバンド帯以下の周波数帯の電磁波は開口部で除去することができるものの、Qバンド帯以上の高周波数の電磁波(例えば、Uバンド帯の電磁波)は比較的容易に導波管を通過してしまう。導波管の寸法はQバンド帯に合わせて設計されているため、Qバンド帯の電磁波は、いわゆるTE10モード、即ち導波管の幅に半波長が収まる状態で安定して通過することになる。これに対し、Uバンド帯の電磁波などは、波長がQバンド帯よりも短いため、Qバンド帯用に設計された導波管内では、安定しない可能性がある。従って、この状態で導波管にキャビティを設けたとしても、キャビティによって電磁波を捕捉できる確率が低下し、図3のグラフC1に示すように十分な性能が得られないと考えられる。これに対し、実施例のノッチフィルタのように、Uバンド帯に合わせて設計した狭路部をキャビティの取り付け部付近に設ければ、Uバンド帯の電磁波が安定するため、キャビティによって捕捉されやすくなる。この結果、図3のグラフC2に示すように、減衰効果を向上させることが可能となる。
【0034】
図4は、比較例としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。比較例のノッチフィルタでは、図1に示した実施例のノッチフィルタ10と基本的な構成は同様である。実施例と比較例との相違点は次の通りである。実施例のノッチフィルタ10では、導波管20の中央付近に、開口部の幅W1よりも幅が狭くなる狭路部23が形成されている。これに対して、図4における比較例としてのノッチフィルタでは、導波管の全長にわたって幅は、開口部の幅W1で均一である。また、比較例としてのノッチフィルタでは、導波管の中央付近において、開口部の高さH1よりも低い高さH2となっている。即ち、比較例は実施例において幅の代わりに導波管の長辺の長さを短くすることによって狭路部を形成した構成に該当する。
【0035】
図5は、比較例としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合の周波数ごとの減衰を求めたシミュレーション結果を示している。実線で示したグラフC51は実施例のノッチフィルタに対する結果を表しており、破線で示したグラフC52は比較例のノッチフィルタに対する結果を表している。ノッチ周波数である56GHz付近では、実施例の結果C51ではピークP51に示される通り約80dBの減衰量となっているのに対し、変形例の結果C52ではピークP52に示される通り約35dBの減衰量となっている。即ち、ノッチフィルタによる効果は、比較例の方が実施例よりも低いことが分かる。
このことは、狭路部を設ける場合には、導波管の長辺の長さを低くするよりも、幅、即ち、キャビティが設けられている側面の間隔を狭くする方が効果的であることを表している。
【0036】
以上で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備える必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりすることが可能である。また、本発明は、上述の実施例に限らず、種々の変形例を構成することができる。
【0037】
D.変形例:
D1.変形例(1):
図6は、変形例(1)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。
図6(a)は、図1で説明したノッチフィルタ10の導波管20、円形キャビティ30、32の斜視図である。
図6(a)は、導波管40に対して、4つの円形キャビティ41~44を取り付けたノッチフィルタの斜視図である。
図6(c)は、導波管50に対して、6つの円形キャビティ51~56を取り付けたノッチフィルタの斜視図である。
【0038】
このように円形キャビティは、2つに限らず任意の数を設けることができる。必ずしも偶数に限る必要もない。また、複数、設ける場合には、それぞれ捕捉する電磁波の周波数に応じて寸法を変えてもよい。こうすることで多様な電磁波を除去することが可能となる。
図2の例では、いずれもUバンド帯を除去することを想定しており、導波管20、40、50の狭路部の幅は一定となっているが、捕捉する周波数に応じて狭路部の幅を多段階に変化させても良い。
【0039】
D2.変形例(2):
図7は、変形例(2)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。変形例(2)のノッチフィルタでは、図1に示した実施例のノッチフィルタ10と基本的な構成は同様である。実施例と変形例(2)との相違点は次の通りである。実施例のノッチフィルタ10では、導波管20の中央付近に、開口部の幅W1よりも幅が狭くなる狭路部23が形成されている。これに対して、図7における変形例(2)としてのノッチフィルタでは、狭路部は、実施例と同様に開口部よりも狭い幅W3とし、さらに、開口部の高さH1よりも低い高さH2となっている。即ち、比較例は、導波管の幅と長辺の長さの双方を狭くすることによって狭路部を形成した構成に該当する。
【0040】
図8は、変形例(2)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合の周波数ごとの減衰を求めたシミュレーション結果を示している。実線で示したグラフC81は実施例のノッチフィルタに対する結果を表しており、破線で示したグラフC82は変形例(2)のノッチフィルタに対する結果を表している。ノッチ周波数である56GHz付近では、実施例と変形例(2)の結果は、ピークP71に示される通り同等となっているのに対し、変形例(2)の結果C82ではピークP82に示される通り32GHz以下の低い周波数帯で大きな減衰が生じている。即ち、変形例(2)におけるノッチフィルタは、ハイパスフィルタとして機能していることが分かる。
このことは、狭路部において、幅とともに長辺の長さも狭くした場合、ノッチ周波数を減衰させる効果に影響を与えることなく、付加的にハイパスフィルタとしての効果を発揮させることができる。
【0041】
D3.変形例(3):
図9は、変形例(3)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。変形例(3)のノッチフィルタでは、図1に示した実施例のノッチフィルタ10と基本的な構成は同様である。実施例と変形例(3)との相違点は次の通りである。実施例のノッチフィルタ10では、入り口側から、幅W1と同一の幅の広路部21、徐々に幅が狭くなるテーパ部22、幅W1よりも狭い狭路部23が形成されている。これに対して、図9における変形例(3)としてのノッチフィルタでは、テーパ部22に代えて、広路部と狭路部の中間の幅を有する中間路部22aが形成されており、広路部21と中間路部22aとの境界は段差s1、中間路部22aと狭路部23との境界は段差s2となっている。中間路部22aの長さは、テーパ部22と同じである。
変形例(3)では、中間路部22aは、一定の幅としたが、広路部21から狭路部23に向けて、幅を狭くしてもよい。中間路部22aの形状に関わらず、広路部21と狭路部23との連結を、段差s1、s2のように不連続にした点が変形例(3)の特徴である。変形例(3)から中間路部22aを省略し、広路部21と狭路部23とを直接連結、即ち、一段階の段差で連結してもよい。逆に、変形例(3)よりも多くの段数で階段状に連結してもよい。
【0042】
図10は、変形例(3)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合の周波数ごとの減衰を求めたシミュレーション結果を示している。実線で示したグラフC101は実施例のノッチフィルタに対する結果を表しており、破線で示したグラフC102は変形例(3)のノッチフィルタに対する結果を表している。図示する通り、段差を設けてもノッチフィルタの効果はほとんど影響を受けないことが分かる。
【0043】
図11は、変形例(3)としてのノッチフィルタの反射特性を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合に、導波管のいずれかの箇所で反射してくる電磁波の強さを求めたシミュレーション結果を示している。破線で示したグラフC111は実施例のノッチフィルタに対する結果を表しており、実線で示したグラフC112は変形例(3)のノッチフィルタに対する結果を表している。図の領域aに示す通り、30~50GHzの範囲では、グラフC112の方がグラフC111よりも低い値を示しており、反射してくる電磁波が弱いことを表している。即ち、変形例(3)のノッチフィルタは、実施例のノッチフィルタよりも反射特性が向上していることが分かる。このように、広路部と狭路部との連結部分に段差を設けることにより、反射特性を向上させることができる。
【0044】
D4.変形例(4):
次に変形例(4)を示す。変形例(4)のノッチフィルタでは、図1に示した実施例のノッチフィルタ10と基本的な構成は同様であり、テーパ部22の形状がそれぞれ異なっている。
図12は、変形例(4)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。実施例のノッチフィルタ10では、テーパ部22は、広路部21と狭路部23とを直線的に連結する。これに対して、変形例(4)としてのノッチフィルタでは、テーパ部22に代えて、広路部と狭路部を曲線状に連結する連結部22bが形成されている。変形例(4)では、連結部22bは、広路部と狭路部に接するように設定されたS字状の曲線としたが、外側に凸の曲線、内側に凸の曲線などとしても良い。
図13は、変形例(4)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合の周波数ごとの減衰を求めたシミュレーション結果を示している。実線で示したグラフC131は実施例のノッチフィルタに対する結果を表しており、破線で示したグラフC132は変形例(4)のノッチフィルタに対する結果を表している。図示する通り、段差を設けてもノッチフィルタの効果はほとんど影響を受けないことが分かる。
【0045】
D5.変形例(5):
次に変形例(5)を示す。変形例(5)のノッチフィルタでは、図1に示した実施例のノッチフィルタ10と基本的な構成は同様であり、テーパ部22の長さがそれぞれ異なっている。
図14は、変形例(5)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。図14(a)に示す通り変形例(5)のノッチフィルタは、実施例のノッチフィルタ10のテーパ部22を短くしたテーパ部22cが形成されている。テーパ部22cが短くなる結果、広路部21の長さは変更していないため、狭路部とテーパ部との境界の位置は、実施例では開口部から距離L1であるのに対し、変形例(5)では距離L1aのように短くなっている。説明の便宜上、図14(a)、図14(b)に示した形態を、変形例(5)における形態1と呼ぶこととする。
テーパ部22cの長さは、任意に設定可能である。テーパ部22cを長さ0とすれば、図14(c)に示すように、テーパ部22cが存在しない状態、即ち、広路部21と狭路部23とが直接に連結され、段差sが形成される状態となる。この形態を、変形例(5)における形態2と呼ぶこととする。
図15は、変形例(5)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合の周波数ごとの減衰を求めたシミュレーション結果を示している。実線で示したグラフC151は実施例のノッチフィルタに対する結果、破線で示したグラフC152は変形例(5)の形態1に対する結果、および一点鎖線で示したグラフC153は変形例(5)の形態2に対する結果を表している。図示する通り、いずれの結果においても、ノッチフィルタの効果はほとんど影響を受けないことが分かる。
【0046】
上述の変形例に加えて、入口側と出口側でテーパの状態を変えてもよい。例えば、入口側はテーパ部を設け、出口側は段差を設けるようにしてもよい。その逆であってもよい。このように広路部と狭路部との連結は、種々の変形例が考えられる。
【0047】
D6.変形例(6):
次に変形例(6)を示す。変形例(6)のノッチフィルタでは、図1に示した実施例のノッチフィルタ10と導波管の基本的な構成は同様であり、円形キャビティの数及び高さ(キャビティ長という)がそれぞれ異なっている。
図16は、変形例(6)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。図16に示す通り、実施例のノッチフィルタは2個の円形キャビティ30、32を備えているのに対し、変形例(6)のノッチフィルタは、左右に合計6個の円形キャビティ30a~30d、32a、32bを備える。また、実施例では、円形キャビティ30、32のキャビティ長は同一であるのに対し、変形例では、円形キャビティ30a~30dのキャビティ長は実施例と同一とし、円形キャビティ32a、32bは実施例よりも約5%長くした。
図17は、変形例(6)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合の周波数ごとの減衰を求めたシミュレーション結果を示している。実線で示したグラフC171は実施例のノッチフィルタに対する結果を表しており、破線で示したグラフC172は変形例(6)に対する結果を表している。ピークP171に見られる通り、変形例(6)においては、ノッチ周波数以外の周波数において、顕著に減衰効果が生じていることが分かる。このようにキャビティ長の異なる複数のキャビティを用意することにより、複数の周波数をノッチ周波数として減衰させることが可能となる。
変形例(6)において、円形キャビティの数およびそれぞれのキャビティ長は任意に決めることができる。変形例(6)では、2種類のキャビティ長で円形キャビティを用意したが、3種類以上のキャビティ長で用意してもよい。
また、変形例(6)では、入口側にキャビティ長の長い円形キャビティ32a、32bを配置しているが、その配置も任意に決めることができる。
【0048】
D7.変形例(7):
次に変形例(7)を示す。変形例(7)のノッチフィルタでは、図1に示した実施例のノッチフィルタ10と導波管の基本的な構成は同様であり、円形キャビティの数及び配置が異なっている。
図18は、変形例(7)としてのノッチフィルタの構成を示す説明図である。実施例では、導波管の左右に2個の円形キャビティ30、32を備えるのに対し、変形例(7)のノッチフィルタは、導波管の片方に3個の円形キャビティを備える。それぞれの円形キャビティの寸法は、実施例と同じである。円形キャビティの数、配置、寸法は、図18に示した例に限らず、任意に設定可能である。
図19は、変形例(7)としてのノッチフィルタの効果を示す説明図である。Qバンド帯の電磁波を導波管に通過させた場合の周波数ごとの減衰を求めたシミュレーション結果を示している。実線で示したグラフC191は実施例のノッチフィルタに対する結果を表しており、破線で示したグラフC192は変形例(7)に対する結果を表している。ピークP191に見られる通り、変形例(7)のノッチフィルタでは、ノッチ周波数における減衰効果がやや低下していることが分かる。しかし、領域bに示されるように、40GHz付近では、実施例よりも変形例(7)の方が電磁波の減衰が低く、即ち、損失が低いことが分かる。
このように円形キャビティの数および配置によって、ノッチ周波数よりも低い所定の周波数における損失を緩和することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の種々の実施例および変形例を説明した。本発明は、その趣旨を変更しない範囲で、さらに種々の変形例を構成可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、導波管とキャビティとを用いたノッチフィルタに適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 ノッチフィルタ
11 開口部
20 導波管
21、25 広路部
22a 中間路部
22、22b、22c、24 テーパ部
23 狭路部
30、30a~30d、32、32a、32b 円形キャビティ
31、33 接続管
40 導波管
41~44 円形キャビティ
50 導波管
51~56 円形キャビティ


図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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