(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】分析装置、分析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20221221BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2018245040
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094145
【氏名又は名称】小野 由己男
(72)【発明者】
【氏名】水野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】青山 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 絵里佳
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-066269(JP,A)
【文献】特開2007-155631(JP,A)
【文献】特表2004-528567(JP,A)
【文献】特開2008-261712(JP,A)
【文献】特開2015-219200(JP,A)
【文献】特表2015-531480(JP,A)
【文献】特開2008-045975(JP,A)
【文献】特開平06-088793(JP,A)
【文献】特表2005-527833(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061368(WO,A1)
【文献】特開2018-185247(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0338357(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105092624(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、前記測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する装置であって、
前記蛍光X線を測定するX線測定装置と、
前記測定対象に光を照射する光源を有し、前記光源から前記測定対象に照射された光を用いて、前記測定対象に含まれる炭素化合物の
X線の波長領域を含まない波長領域における光学的特性を取得する光学特性測定装置と、
前記炭素化合物の光学的特性に基づいて前記測定対象に含まれる前記炭素化合物の量に関する情報を算出し、
算出した前記炭素化合物の量に関する情報と、前記X線測定装置により測定された前記蛍光X線の強度と、に基づいて、前記炭素化合物による自己吸収の影響を補正した蛍光X線の強度を算出する演算部と、
を備える分析装置。
【請求項2】
前記光学特性測定装置は、前記測定対象の光学的特性を測定するセンサーを有する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記センサーは、前記測定対象の画像データを取得する画像取得センサーである、請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記光学特性測定装置は、前記センサーと前記測定対象との間に配置される光フィルタを有する、請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記光源は白色光源である、請求項
1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記演算部は、可視光領域における前記炭素化合物の光学的特性に基づいて、前記測定対象に含まれるブラックカーボンの含有量を算出する、請求項1~
5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
前記演算部は、可視光領域における前記炭素化合物の光学的特性に基づいて、前記測定対象に含まれる有機炭素の含有量を算出する、請求項1~
6のいずれかに記載の分析装置。
【請求項8】
前記演算部は、赤外領域における前記炭素化合物の光学的特性に基づいて、前記測定対象に含まれる有機炭素の含有量を算出する、請求項1~
7のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
前記演算部は、赤外領域における前記炭素化合物の光学的特性に基づいて、前記測定対象に含まれるブラックカーボンの含有量を算出する、請求項1~
8のいずれかに記載の分析装置。
【請求項10】
前記測定対象を捕集する捕集フィルタをさらに備える、請求項1~
9のいずれかに記載の分析装置。
【請求項11】
測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、前記測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する方法であって、
前記蛍光X線を検出するステップと、
光源により前記測定対象に光を照射するステップと、
前記光源から前記測定対象に照射された光を用いて、前記測定対象に含まれる炭素化合物の
X線の波長領域を含まない波長領域における光学的特性を取得するステップと、
前記炭素化合物の光学的特性に基づいて、前記測定対象に含まれる前記炭素化合物の量に関する情報を算出するステップと、
前記炭素化合物の量に関する情報と前記蛍光X線の強度とに基づいて、前記炭素化合物による自己吸収の影響を補正した蛍光X線の強度を算出するステップと、
を含む分析方法。
【請求項12】
測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、前記測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記方法は、
前記蛍光X線を検出するステップと、
光源により前記測定対象に光を照射するステップと、
前記光源から前記測定対象に照射された光を用いて、前記測定対象に含まれる炭素化合物の
X線の波長領域を含まない波長領域における光学的特性を取得するステップと、
前記炭素化合物の光学的特性に基づいて、前記測定対象に含まれる前記炭素化合物の量に関する情報を算出するステップと、
前記炭素化合物の量に関する情報と前記蛍光X線の強度とに基づいて、前記炭素化合物による自己吸収の影響を補正した蛍光X線の強度を算出するステップと、
を含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、当該測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する分析装置、分析方法、及び、当該分析方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、当該測定対象に含まれる元素を分析する方法が知られている。
例えば、大気中に含まれる浮遊粒子状物質(例えば、PM2.5)を捕集フィルタに捕集し、当該捕集された浮遊粒子状物質から発生する蛍光X線に基づいて浮遊粒子状物質に含まれる元素を分析する装置が知られている(例えば、特許文献1)。
この装置は、所定の時間毎に浮遊粒子状物質を捕集して連続的な分析を実行できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光X線を用いた測定対象の元素分析においては、測定対象が発生した蛍光X線を測定対象自身が吸収する現象(自己吸収)の影響により、元素分析を正確に実行できないことがある。例えば、浮遊粒子状物質のような主成分が炭素化合物である測定対象の場合、当該炭素化合物の自己吸収により、測定対象に含まれる炭素以外の元素の分析が正確に実行できないことがある。
なお、上記の炭素化合物としては、例えば、ブラックカーボン、有機炭素、ブラウンカーボンなど、主成分の元素は炭素であるが化学的構造や性質が異なる種々の物質がある。例えば、野焼きなど物質の燃焼により生じた浮遊粒子状物質は、有機炭素を主成分とする。
【0005】
また、測定対象に含まれる炭素化合物を正確に定量することは難しく、炭素化合物による自己吸収の影響を正確に把握することは困難であった。その結果、X線検出器にて検出された蛍光X線を正確に補正して、測定対象に含まれる元素を精度よく分析することができなかった。
【0006】
本発明の課題は、測定対象から発生する蛍光X線に基づく元素分析において、測定対象に含まれる炭素化合物の量に関する情報を正確に算出するとともに、当該炭素化合物の量に関する情報に基づいて、蛍光X線に関する情報を正確に補正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る分析装置は、測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、当該測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する装置である。測定装置は、X線測定装置と、光学特性測定装置と、演算部と、を備える。
X線測定装置は、蛍光X線を測定する。光学特性測定装置は、測定対象に含まれる炭素化合物の光学的特性を取得する。
演算部は、炭素化合物の光学的特性に基づいて、測定対象に含まれる炭素化合物の量に関する情報を算出する。また、演算部は、炭素化合物の量に関する情報に基づいて、X線測定装置により測定された蛍光X線に関する情報を補正する。
これにより、測定対象に含まれる炭素化合物の量に関する情報を、当該炭素化合物の光学的特性に基づいて正確に算出しつつ、光学的特性を用いて算出された炭素化合物の量に関する情報に基づいて、炭素化合物による自己吸収の影響を受けた蛍光X線に関する情報を正確に補正できる。
【0008】
光学特性測定装置は、測定対象の光学的特性を測定するセンサーを有してもよい。これにより、測定対象に含まれる炭素化合物の光学的特性を測定できる。
【0009】
上記センサーは、測定対象の画像データを取得する画像取得センサーであってもよい。これにより、測定対象の広い範囲の光学的特性を画像データとして取得できる。
【0010】
光学特性測定装置は、画像取得センサーと測定対象との間に配置される光フィルタを有してもよい。これにより、特定波長領域における炭素化合物の光学的特性を取得できる。
【0011】
光学特性測定装置は、測定対象に光を照射する光源を有してもよい。これにより、より明瞭な炭素化合物の光学的特性を取得できる。
【0012】
光源は白色光源であってもよい。これにより、広い波長領域における炭素化合物の光学的特性を明瞭に取得できる。
【0013】
演算部は、可視光領域における炭素化合物の光学的特性に基づいて、測定対象に含まれるブラックカーボンの含有量を算出してもよい。これにより、測定対象に含まれるブラックカーボンの含有量に基づいて、測定対象から発生する蛍光X線に関する情報を補正できる。
【0014】
演算部は、可視光領域における炭素化合物の光学的特性に基づいて、測定対象に含まれる有機炭素の含有量を算出してもよい。これにより、有機炭素の含有量の割合が多い場合に、可視光領域の光学的特性に基づいて、有機炭素の含有量を算出できる。
【0015】
演算部は、赤外領域における炭素化合物の光学的特性に基づいて、測定対象に含まれる有機炭素の含有量を算出してもよい。これにより、測定対象に含まれる有機炭素の含有量に基づいて、測定対象から発生する蛍光X線に関する情報を補正できる。
【0016】
演算部は、赤外領域における炭素化合物の光学的特性に基づいて、測定対象に含まれるブラックカーボンの含有量を算出してもよい。これにより、ブラックカーボンの含有量の割合が多い場合に、赤外光領域の光学的特性に基づいて、ブラックカーボンの含有量を算出できる。
【0017】
上記の分析装置は、測定対象を捕集する捕集フィルタをさらに備えてもよい。これにより、捕集フィルタに捕集した状態で測定対象に含まれる元素分析を実行できる。
【0018】
本発明の他の見地に係る分析方法は、測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、当該測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する方法である。分析方法は、以下のステップを含む。
◎蛍光X線を検出するステップ。
◎測定対象に含まれる炭素化合物の蛍光X線以外の光学的特性を取得するステップ。
◎炭素化合物の光学的特性に基づいて、測定対象に含まれる炭素化合物の量に関する情報を算出するステップ。
◎炭素化合物の量に関する情報に基づいて、蛍光X線に関する情報を補正するステップ。
これにより、測定対象に含まれる炭素化合物の量に関する情報を当該炭素化合物の光学的特性に基づいて正確に算出しつつ、光学的特性を用いて算出された炭素化合物の量に関する情報に基づいて、正確に蛍光X線に関する情報を補正できる。
【0019】
本発明のさらに他の見地に係るプログラムは、上記の分析方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、当該測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する場合において、測定対象に含まれる炭素化合物の量に関する情報を当該炭素化合物の光学的特性に基づいて正確に算出しつつ、光学的特性を用いて算出された炭素化合物の量に関する情報に基づいて、正確に蛍光X線に関する情報を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】捕集フィルタに捕集された粒子状物質の画像データの一例を示す図。
【
図5】第1画像データの輝度の積算値と粒子状物質の捕集量との関係を示す図。
【
図6】輝度ヒストグラムと炭素化合物の含有量との関係の一例を示す図。
【
図8】粒子状物質の分析動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.第1実施形態
(1)分析装置の構成
(1-1)概要
以下、
図1を用いて、第1実施形態に係る分析装置100の構成を説明する。
図1は、分析装置の構成を示す図である。第1実施形態に係る分析装置100は、大気中に浮遊する粒子状物質(例えば、PM2.5などの微小粒子)を捕集し、当該粒子状物質に含まれる元素を分析する装置である。すなわち、本実施形態の分析装置100は、粒子状物質FPを主な測定対象とする。
そのため、分析装置100は、例えば、危険な粒子状物質の発生源又はその近傍に配置され、当該発生源などから発生する粒子状物質を分析する。例えば、交通量が多い道路(幹線道路、高速道路など)沿い又はその近傍、粒子状物質を発生する可能性がある工場地帯又はその近傍に配置される。
【0023】
第1実施形態に係る分析装置100は、大気中に浮遊する粒子状物質を捕集するための捕集フィルタ1と、捕集フィルタ1に捕集した粒子状物質から発生する蛍光X線を測定するX線測定装置2と、捕集フィルタ1に捕集した粒子状物質に含まれる炭素化合物の光学的特性を取得する光学特性測定装置3と、演算部4と、を備える。
【0024】
(1-2)捕集フィルタ
捕集フィルタ1は、例えば、補強層と、補強層上に積層して形成された捕集層とを有する、白色のテープ状部材である。補強層は、例えば、高分子材料(ポリエチレンなど)の不織布にて形成される。捕集層は、粒子状物質FP(粒径:2.5μm以下)を捕集可能な孔を有する。捕集層は、例えば、フッ素樹脂系材料にて形成される。捕集フィルタ1のうち、粒子状物質FPが捕集された箇所を「捕集領域」と呼ぶ。その他、1層のガラスフィルタ、1層のフッ素樹脂系材料のフィルタなどを、捕集フィルタ1として使用できる。
捕集フィルタ1は、送り出しリール1aから送り出し、巻き取りリール1bにより巻き取ることで、長さ方向(
図1の太矢印にて示す方向)に移動できる。
【0025】
図1に示すように、分析装置100には、捕集フィルタ1の長さ方向であって、捕集フィルタ1の移動の上流側の第1位置P1に対応する位置に、捕集部5が設けられている。捕集部5は、吸引ポンプ51と、吸引口53と、排出口55と、を有する。
吸引ポンプ51は、吸引口53に吸引力を発生させる。吸引力を発生した吸引口53は、排出口55から捕集フィルタ1の第1位置P1に向けて大気Aを排出させ、大気Aに含まれる粒子状物質FPを捕集領域に捕集させる。
【0026】
(1-3)X線測定装置
X線測定装置2は、第1位置P1よりも捕集フィルタ1の移動の下流側の第3位置P3に設けられる。X線測定装置2は、第3位置P3に存在する粒子状物質FPにX線を照射することにより、当該粒子状物質FPから発生した蛍光X線を測定する装置である。
具体的には、X線測定装置2は、X線源21と、検出器23とを有する。X線源21は、捕集フィルタ1の第3位置P3に捕集された粒子状物質FPにX線を照射する。X線源21は、例えば、パラジウムなどの金属に電子線を照射してX線を発生させる装置である。
【0027】
検出器23は、X線源21によりX線を照射された粒子状物質FPから発生する蛍光X線を検出する。検出器23にて検出した蛍光X線は、粒子状物質FPの元素分析のために用いられる。検出器23は、例えば、シリコン半導体検出器やシリコンドリフト検出器などのX線を測定するための装置である。
【0028】
(1-4)光学特性測定装置
光学特性測定装置3は、捕集フィルタ1の長さ方向において、第1位置P1と第3位置P3との間の第2位置P2に設けられる。光学特性測定装置3は、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の光学的特性を取得する装置である。光学特性測定装置3にて取得する「光学的特性」とは、X線以外の、すなわちX線の波長領域を含まない、紫外~赤外の波長領域の光やγ線領域についての特性をいう。X線の波長領域としては、例えば10pmから10nmの領域をいい、紫外~赤外の波長領域としては例えば10nmから1m、γ線の波長領域としては、例えば1pmから10pmの波長領域を含む10pm以下の波長をいう。
本実施形態において、光学特性測定装置3は、画像取得センサー31と、光フィルタ33と、光源35と、を有する。
【0029】
画像取得センサー31は、受光面が捕集フィルタ1の粒子状物質FPが捕集される側の表面と対向するよう、捕集フィルタ1の長さ方向の第2位置P2に設けられる。画像取得センサー31は、例えば、捕集フィルタ1の第2位置P2に捕集された粒子状物質FPの二次元の画像データを取得する二次元センサーである。
このような画像取得センサー31は、例えば、電荷結合素子(CCD)が二次元アレイ状に配置されたCCDイメージセンサー、受光素子がアレイ状に配置されたCMOSイメージセンサーである。
【0030】
また、画像取得センサー31は、広角レンズなどの光学部材を備え、広い視野領域VA(
図1)の画像データを取得できる。
【0031】
光フィルタ33は、高さ方向において、画像取得センサー31の受光面と捕集フィルタ1との間に設けられ、捕集フィルタ1(第2位置P2の粒子状物質FP)からの光のうち特定波長領域に含まれる光のみを通過し、画像取得センサー31に受光させる。
本実施形態において、光フィルタ33は、可視光フィルタ33aと、赤外光フィルタ33bと、を有する。なお、可視光フィルタ33aと赤外光フィルタ33bは、手動又は自動にて切り換えて、画像取得センサー31の受光面と捕集フィルタ1との間に配置できる。
【0032】
可視光フィルタ33aは、可視光領域の光を通過させるフィルタである。可視光フィルタ33aが画像取得センサー31の受光面と捕集フィルタ1との間に配置されたとき、画像取得センサー31は、捕集フィルタ1(粒子状物質FP)の可視光領域の画像データ(可視光画像データ)を取得できる。
【0033】
後述するように、可視光画像データは、第2位置P2における捕集フィルタ1の「黒さ」の度合いを表す。従って、可視光画像データの「黒さ」の度合いに基づいて、第2位置P2の捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質FPに含まれるブラックカーボン(黒色の炭素化合物)の含有量を算出できる。
【0034】
有機炭素(後述)も可視光領域において光学的特性を有するが、一般的にその強度は弱い。従って、粒子状物質FPにブラックカーボンが含まれる場合、ブラックカーボンの影響により、可視光領域における有機炭素の光学的特性は可視光画像データにおいて認識しにくい。
その一方で、粒子状物質FPにブラックカーボンがほとんど含まれず有機炭素の含有量の割合が高い場合、可視光領域におけるブラックカーボンの影響は小さくなり、可視光領域における有機炭素の光学的特性が可視光画像データにおいて認識できるようになる。
よって、粒子状物質FPにブラックカーボンがほとんど含まれないと考えられる場合には、可視光画像データに基づいて、有機炭素の含有量を算出できる。
【0035】
赤外光フィルタ33bは、赤外領域の光を通過させるフィルタである。赤外光フィルタ33bが画像取得センサー31の受光面と捕集フィルタ1との間に配置されたとき、画像取得センサー31は、捕集フィルタ1(粒子状物質FP)の赤外領域の画像データ(赤外画像データ)を取得できる。
【0036】
赤外画像データは、捕集フィルタ1の第2位置P2から発生する赤外光の強度を表す。また、炭素化合物のうち有機炭素(炭素を主成分とする分子)は、それが有する官能基により、特定の波長(領域)の赤外光を吸収する。従って、赤外画像データに表された赤外光の強度に基づいて、捕集フィルタ1の第2位置P2に捕集された粒子状物質FPに含まれる有機炭素の含有量を算出できる。
有機炭素としては、例えば、ブラウンカーボン、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素などがある。有機炭素の種類毎に、特定の光学的特性を有する。
【0037】
なお、どの波長領域の赤外光の強度を赤外画像データとして取得するかは、粒子状物質FPの発生源などに基づいて、どのような有機炭素が粒子状物質FPに含まれうるかにより決定できる。
【0038】
ブラックカーボンも赤外領域において光学的特性を有するが、一般的にその強度は弱い。従って、粒子状物質FPに有機炭素が多く含まれる場合、有機炭素の影響により、赤外領域におけるブラックカーボンの光学的特性は赤外画像データにおいて認識しにくい。
その一方で、粒子状物質FPに有機炭素がほとんど含まれずブラックカーボンの含有量の割合が高い場合、赤外領域における有機炭素の影響は小さくなり、赤外領域におけるブラックカーボンの光学的特性が赤外画像データにおいて認識できるようになる。
よって、粒子状物質FPに有機炭素がほとんど含まれないと考えられる場合には、赤外画像データに基づいて、ブラックカーボンの含有量を算出できる。
【0039】
光源35は、画像取得センサー31の視野領域VAを均一に照射できるよう、複数配置される。具体的には、
図2に示すように、複数の光源35は、基板上において、その長軸が捕集フィルタ1の長さ方向と平行となる楕円上に所定の間隔を有して配置される。
図2は、複数の光源の配置の一例を示す図である。
光源35のこのような配置により、捕集フィルタ1の長さ方向の広い範囲に均一に光を照射できる。複数の光源35が配置される楕円の長軸及び/又は短軸の大きさは、視野領域VAの縦横の長さの比率などに応じて適宜決定できる。また、複数の光源35は、視野領域VAの形状等に応じて、楕円以外の任意の形状の周上に配置することもできる。
光源35を設けることにより、捕集フィルタ1の第2位置P2のより明瞭な画像データを取得できる。
【0040】
本実施形態において、光源35は、例えば、表面実装型の白色LEDである。光源35として白色光源を用いることで、広い波長範囲を含む光を捕集フィルタ1の第2位置P2に照射できる。その結果、広い波長領域における炭素化合物の光学的特性を表す明確な画像データを取得できる。
【0041】
図1及び
図2に示すように、光源35が取り付けられた基板には、複数の光源35が配置された楕円よりも小さい開口が設けられている。画像取得センサー31は、受光面が当該開口から突出するように設けられている。
【0042】
図1に示すように、光学特性測定装置3は、板状部材37を有してもよい。板状部材37は、画像取得センサー31により捕集フィルタ1の画像データを取得する際に、捕集フィルタ1の視野領域VAの画像取得センサー31と対向する表面とは反対側に配置される。
なお、板状部材37の厚みは、光を過度に通過させるものでなければ、例えば、厚板状又は薄膜状など、任意の厚みとできる。
捕集フィルタ1(粒子状物質FP)の画像データを取得する際に板状部材37を配置することにより、捕集フィルタ1(粒子状物質FP)の画像データをより明瞭にすることができる。
【0043】
他の実施形態として、黒色の無反射シートなどの高い光吸収率(例えば、99.99%の吸収率)を有する部材を、板状部材37として用いることもできる。このような高い光吸収率を有する部材を板状部材37として用いることにより、例えば、光源35から発生する光が他の部材にて反射することで生じる反射光を完全に防ぐことができる。
【0044】
(1-5)演算部
演算部4は、
図3に示すように、CPU41と、RAM、ROMなどの記憶装置43と、ディスプレイ45(例えば、液晶ディスプレイなど)と、分析装置100の各部との間のデータ及び信号の入出力、信号変換などを行う各種インターフェース47(例えば、I/Oポート、通信インターフェースなど)と、を有するコンピュータシステムである。
図3は、演算部の構成を示す図である。
演算部4は、分析装置100の各部の制御、及び、分析装置100の各部で取得したデータ(蛍光X線のデータ、光学特性測定装置3にて取得したデータ(上記の画像データ)など)を用いた演算を行う。
【0045】
具体的には、演算部4は、光学特性測定装置3を制御して、捕集フィルタ1の第2位置P2に捕集されている粒子状物質FPの光学的特性を表すデータ(本実施形態では、画像データ(可視光画像データ、赤外画像データ))を取得し、当該データから、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の量に関する情報を算出する。
本実施形態では、演算部4は、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の含有量を、炭素化合物の量に関する情報として算出する。
【0046】
また、演算部4は、X線測定装置2を制御して、捕集フィルタ1の第3位置P3に捕集されている粒子状物質FPから発生した蛍光X線を、蛍光X線のエネルギーと各エネルギーにおける蛍光X線の強度とが関連付けられた蛍光X線スペクトルとして取得する。
本実施形態において、演算部4は、上記画像データから算出した炭素化合物の量に関する情報に基づいて、第3位置P3に存在する粒子状物質FPに含まれる炭素化合物による蛍光X線の自己吸収の度合いを算出し、この自己吸収の度合いに基づいて、取得した蛍光X線スペクトルに関する情報を補正する。本実施形態では、演算部4は、取得した蛍光X線スペクトルに関する情報として、取得した蛍光X線スペクトルの強度を補正する。
その後、演算部4は、強度を補正した蛍光X線スペクトルにおいて、強度のピークが存在するエネルギー値に基づいて、粒子状物質FPに含まれる元素の定量を行う。
【0047】
なお、上記の制御及び演算は、演算部4の記憶装置43に記憶され、演算部4のCPU41が実行するプログラムにより実現されてもよい。また、上記の制御及び演算の一部を、演算部4のハードウェアにより実現することもできる。
【0048】
(1-6)捕集量測定部
図1に示すように、分析装置100は、捕集量測定部6を備えていてもよい。捕集量測定部6は、捕集フィルタ1の第1位置P1に捕集された粒子状物質FPの捕集量を測定する。
具体的には、捕集量測定部6は、β線源61と、β線検出器63とを有する。β線源61は、排出口53内部に設けられ、第1位置P1に向けてβ線を照射する。β線検出器63は、吸引口55内部においてβ線源61に対向するよう設けられ、捕集領域を透過したβ線の強度を測定する。
第1位置P1に捕集された粒子状物質FPの捕集量は、β線検出器63にて測定されたβ線の強度に基づいて、粒子状物質FPの質量濃度として算出できる。
【0049】
(2)画像データを用いた炭素化合物の含有量の算出原理
(2-1)輝度の積算値に基づく算出方法
以下、捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質FPを撮影した画像データに基づいて、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物(ブラックカーボン、有機炭素)の含有量を算出する原理について説明する。
例えば、画像取得センサー31の前に可視光フィルタ33aを配置して、可視光領域における画像データ(可視光画像データ)を画像取得センサー31にて取得した場合、
図4の(1)~(3)に示すような二次元の画像データが取得される。
図4は、捕集フィルタに捕集された粒子状物質の画像データの一例を示す図である。
【0050】
図4の(1)~(3)に示す画像データは、粒子状物質FPの捕集フィルタ1への捕集量を変化させて得られたものである。
図4の(1)は、粒子状物質FPが全く又は殆ど捕集されていない場合の画像データであり、
図4の(3)は、粒子状物質FPの捕集量が多い場合の画像データであり、
図4の(2)は、粒子状物質FPの捕集量が上記(1)と(3)の場合の中間である場合の画像データである。
このように、画像取得センサー31にて取得される画像データにおいては、粒子状物質FPの捕集量が多くなるに従って、その中心部分の「輝度」が減少する。
【0051】
また、画像データには、粒子状物質FPの捕集量により輝度が変化する部分(第1画像データIM1と呼ぶ)に加えて、粒子状物質FPの捕集量により輝度がほとんど変化しない部分(第2画像データIM2と呼ぶ)が含まれる。
捕集量により輝度が殆ど変化しない第2画像データIM2は、捕集フィルタ1の粒子状物質FPが捕集されていない部分に対応する。
このように、画像取得センサー31にて取得する画像データに、第1画像データIM1と第2画像データIM2とを含めておくことで、捕集フィルタ1における粒子状物質FPが捕集された部分と捕集されていない部分とを、容易に特定できる。
【0052】
また、
図4に示す画像データに含まれる画素のうち、第1画像データIM1に含まれる画素の輝度値を積算し、当該積算値と粒子状物質FPの捕集量との関係をグラフ化すると、
図5に示すようになる。
図5は、第1画像データの輝度の積算値と粒子状物質の捕集量との関係を示す図である。
なお、
図5に示す第1画像データIM1の輝度の積算値と粒子状物質の捕集量との関係は、輝度の積算値と粒子状物質FPの捕集量とを関連付けて、第1検量線SC1(
図3)として予め取得され、記憶装置43に記憶される。
【0053】
具体的には、第1画像データIM1に含まれる画素の輝度の積算値は、粒子状物質FPの捕集量が増加するに従って減少する。この輝度の積算値の減少は、主に、粒子状物質FPに含まれる黒色のブラックカーボンに起因している。
従って、画像データを取得後に、第1画像データIM1に含まれる画素の輝度を積算し、第1検量線SC1と算出した輝度の積算値とを対応付けることで、捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質FPに含まれるブラックカーボンの含有量を算出できる。
【0054】
なお、画像取得センサー31の前に赤外光フィルタ33bを配置して、赤外領域における画像データ(赤外画像データ)を画像取得センサー31にて取得した場合にも、
図4に示すのと同様に、粒子状物質FPの捕集量の増加に従って、赤外画像データに含まれる第1画像データIM1の輝度が減少する。
【0055】
赤外画像データは、捕集フィルタ1の表面から反射した赤外光が画像取得センサー31により受光されることにより取得される画像データである。従って、粒子状物質FPの捕集量の増加に従って、赤外画像データに含まれる第1画像データIM1の輝度が減少することは、粒子状物質FPにより赤外光が吸収されることを意味している。
【0056】
上記のように、粒子状物質FPによる赤外光の吸収は、主に、粒子状物質FPに含まれる有機炭素に起因しているので、上記可視光画像データの場合と同様にして、赤外画像データに含まれる第1画像データIM1の輝度の積算値と、赤外画像データに含まれる第1画像データIM1の輝度の積算値と有機炭素の含有量との関係(第2検量線SC2と呼ぶ)と、を用いて、粒子状物質FPに含まれる有機炭素の含有量を算出できる。
なお、第2検量線SC2(
図3)は、第1検量線SC1と同様に、予め取得されて記憶装置43に記憶されている。
【0057】
(2-2)輝度差に基づく算出方法
上記にて説明した輝度の積算値に基づいて炭素化合物の含有量を算出する方法以外にも、第1画像データIM1と第2画像データIM2との輝度差に基づいて炭素化合物の含有量を算出することもできる。以下、その方法について説明する。
例えば、
図4の(1)~(3)に示す画像データのそれぞれについて、画像データ内でとりうる輝度と、画像データに含まれる特定の輝度を有する画素の数と、を関連付けると、
図6の(1)~(3)に示すようなヒストグラム(輝度ヒストグラムと呼ぶ)が得られる。
図6は、輝度ヒストグラムと炭素化合物の含有量との関係の一例を示す図である。
【0058】
すなわち、
図6の(1)は、粒子状物質FPが全く又は殆ど捕集されていない場合の輝度ヒストグラムである。
図6の(3)は、粒子状物質FPの捕集量が多い場合の輝度ヒストグラムである。
図6の(2)は、粒子状物質FPの捕集量が中程度である場合の輝度ヒストグラムである。
【0059】
図6に示す輝度ヒストグラムには、(i)(
図6の(1)の輝度ヒストグラム以外では)第1ピークPE1と第2ピークPE2との2つのピークが見られる、及び、(ii)第1ピークPE1のピーク位置(第1輝度Br1と呼ぶ)と第2ピークPE2のピーク位置(第2輝度Br2と呼ぶ)との差分、すなわち輝度差ΔBRは、粒子状物質FPの捕集量が多くなるに従い増加する、との特徴がある。
上記の第1輝度Br1は第2輝度Br2よりも小さい。このことから、第1ピークPE1は第1画像データIM1(粒子状物質FPの捕集領域)に含まれる画素の輝度分布に対応し、第2ピークPE2は第2画像データIM2(捕集フィルタ1)に含まれる画素の輝度分布に対応する。
【0060】
なお、第2ピークPE2は第2画像データIM2の輝度分布に対応するので、輝度ヒストグラムにおいて第2輝度Br2は殆ど変化しない。その一方、粒子状物質FPの捕集量が多くなるに従い、第1輝度Br1は低輝度の方向にシフトする。従って、輝度差ΔBRは、主に、第1輝度Br1が粒子状物質FPの捕集量に従ってシフトすることより生じる。
【0061】
また、
図4の(1)に示す画像データに対応する輝度ヒストグラム(
図6の(1))において(実質的に)1つのピーク(第2ピークPE2)しか存在しないのは、粒子状物質FPが全く又は殆ど捕集されていない場合には、第1画像データIM1に含まれる画素の輝度分布と、第2画像データIM2に含まれる画素の輝度分布と、の間に全く又は殆ど差がないことを理由とする。
【0062】
このように、画像取得センサー31にて取得した画像データから
図6に示すような輝度ヒストグラムを生成し、輝度ヒストグラムに含まれる2つのピークの差分から輝度差ΔBRを算出することで、当該輝度差ΔBRに基づいて、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の含有量を算出することもできる。
輝度ヒストグラムを用いて含有量を算出する場合には、記憶装置43に記憶される第1検量線SC1及び第2検量線SC2は、輝度ヒストグラムにおける輝度差ΔBRと炭素化合物の含有量との関係を示したデータとなる。
【0063】
上記の輝度差ΔBRに基づく含有量の算出方法は、例えば、画像データにおける第1画像データIM1と第2画像データIM2との割合が変化しうる場合に特に有効である。
なぜなら、画像データにおいて第1画像データIM1と第2画像データIM2との割合が変化しても、輝度ヒストグラムにおいて第1ピークPE1と第2ピークPE2が現れる輝度(第1輝度Br1、第2輝度Br2)は変化せず、その結果、輝度差ΔBRが、第1画像データIM1と第2画像データIM2との割合によって変化しないからである。
【0064】
第1画像データIM1と第2画像データIM2との割合が変化しうる場合は、例えば、画像データに粒子状物質FPの捕集領域の全体が含まれるよう画像取得センサー31を位置合わせすることが困難であるか、及び/又は、捕集フィルタ1の移動量を精度よくコントロールする(捕集領域を第2位置P2に正確に移動させる)ことが困難な場合に発生しうる。
【0065】
(3)分析動作
以下、
図7及び
図8を用いて、粒子状物質FPを分析する際の分析装置100の動作を説明する。
図7は、分析装置の全体動作を示すフローチャートである。
図8は、粒子状物質の分析動作を示すフローチャートである。
分析装置100の分析動作は、ステップS1において、捕集部5が、捕集フィルタ1の第1位置P1に大気A中の粒子状物質FPを捕集することから始まる。捕集部5は、あらかじめ決められた所定の時間(例えば、1時間)だけ粒子状物質FPを捕集フィルタ1に捕集する。
その後、ステップS2において、捕集フィルタ1を移動させて、第1位置P1の粒子状物質FPを、第2位置に移動させる。
【0066】
捕集フィルタ1に捕集した粒子状物質FPを第2位置P2に移動後、光学特性測定装置3により、第2位置P2に移動してきた捕集フィルタ1上の粒子状物質FPの光学的特性を表すデータを取得する。本実施形態では、粒子状物質FPの画像データを取得する。
具体的には、まず、ステップS3において、可視光領域のデータを取得する。より具体的には、光源35により捕集フィルタ1の第2位置の周囲に光を照射し、画像取得センサー31と捕集フィルタ1との間に可視光フィルタ33aを配置する。その後、画像取得センサー31により可視光画像データを取得する。
次に、ステップS4において、赤外領域のデータを取得する。具体的には、上記の可視光フィルタ33aを赤外光フィルタ33bに交換する。その後、画像取得センサー31により赤外画像データを取得する。
【0067】
このように、本実施形態においては、粒子状物質FPの光学的特性を表すデータとして、可視光領域のデータ(可視光画像データ)と、赤外領域のデータ(赤外画像データ)と、を個別に取得する。なぜなら、後述するように、X線の吸収係数はブラックカーボンと有機炭素とで異なっており、各炭素化合物よる自己吸収の影響を個別に算出する必要があるからである。
【0068】
光学的特性を表すデータ(画像データ)を取得後、ステップS5において、捕集フィルタ1を移動させて、第2位置P2の粒子状物質FPを、第3位置P3に移動させる。その後、ステップS6において、粒子状物質FPの元素分析を実行する。
【0069】
本実施形態において、粒子状物質FPの元素分析は、
図8に示すフローチャートに従って、X線測定装置2にて取得した蛍光X線スペクトルを粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の量に関する情報に基づいて補正し、補正後の蛍光X線スペクトルを用いて実行される。
まず、ステップS61において、粒子状物質FPから発生する蛍光X線スペクトルを取得する。具体的には、X線源21により粒子状物質FPにX線を照射することで蛍光X線を発生させ、その蛍光X線を検出器23にて検出する。演算部4は、検出器23にて検出した蛍光X線について、蛍光X線のエネルギー値と強度とを関連付けて、蛍光X線スペクトルを生成する。
【0070】
その後、演算部4は、取得した蛍光X線スペクトルに関する情報を、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の量に関する情報に基づいて補正する。本実施形態では、取得した蛍光X線スペクトルの強度を、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の含有量に基づいて補正する。具体的には、以下のステップを実行する。
まず、ステップS62において、炭素化合物の量に関する情報を算出する。
具体的には、演算部4は、ステップS3にて取得した可視光領域のデータを用いて、粒子状物質FPに含まれるブラックカーボンの含有量を算出する。本実施形態においては、可視光画像データの輝度の積算値、又は、可視光画像データの輝度差に基づいて、粒子状物質FPに含まれるブラックカーボンの含有量を算出する。
【0071】
後述するように、蛍光X線の吸収は、捕集フィルタ1上に堆積した粒子状物質FP(炭素化合物)の厚みにより決定される。従って、演算部4は、可視光画像データの輝度の積算値、又は、可視光画像データの輝度差ΔBRに基づいて、捕集フィルタ1上のブラックカーボンの厚さを算出する。
可視光画像データの第1画像データIM1と第2画像データIM2の輝度差ΔBRは、直接的には捕集フィルタ1上のブラックカーボンの厚みにより生じる。従って、演算部4は、可視光画像データに基づいて、捕集フィルタ1上の粒子状物質FPの厚さを直接的に算出できる。
その後、ブラックカーボンの厚み(体積)と密度とを乗算して、ブラックカーボンの含有量を算出できる。
【0072】
また、演算部4は、ステップS4にて取得した赤外領域のデータを用いて、粒子状物質FPに含まれる有機炭素の含有量を算出する。本実施形態においては、赤外画像データの輝度の積算値、又は、赤外画像データの輝度差ΔBRに基づいて、上記と同様にして、粒子状物質FPに含まれる有機炭素の含有量を算出する。
【0073】
なお、演算部4は、粒子状物質FPに含まれるブラックカーボンの重量、及び、有機炭素の重量を算出してもよい。この場合、以下に説明する式において、吸収係数μ1(ブラックカーボンの吸収係数)、μ2(有機炭素の吸収係数)は、質量吸収係数となる。
吸収係数は、例えば、ブラックカーボン、有機炭素(ブラウンカーボン、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素など)の各標準試料とグレーチャートとを用いて予め算出しておく。
【0074】
上記のように、有機炭素には、ブラウンカーボン、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素などがあり、互いに異なる光学的特性を有する。従って、有機炭素の吸収係数μ2は、有機炭素の吸収係数有機炭素として含まれると考えられる化合物の各吸収係数μ21、μ22、μ23、・・・としてもよい。
【0075】
次に、ステップS63において、演算部4は、演算部4は、ステップS62にて算出した炭素化合物の量に関する情報に基づいて、蛍光X線に関する情報を補正する。
具体的には、演算部4は、ステップS61にて取得した蛍光X線スペクトルの強度を、以下のX線の吸収を表す式を用いて補正する。以下の式において、Iは蛍光X線の実測された強度であり、I0は自己吸収による影響がない場合の蛍光X線の強度である。q1はブラックカーボンの含有量、q2は有機炭素の含有量である。μ1はブラックカーボンの吸収係数、μ2は有機炭素の吸収係数である。
I=I0*exp{-(μ1*q1+μ2*q2)}
【0076】
このように、X線の吸収係数は、ブラックカーボンと有機炭素とで異なっているので、ブラックカーボンの含有量(q1)と有機炭素の含有量(q2)を個別に算出することで、粒子状物質FPにおける蛍光X線の自己吸収量をより正確に算出できる。
【0077】
演算部4は、上記の吸収を表す式を、自己吸収による影響がない場合の蛍光X線の強度I0について解いてI0=I*exp(μ1*q1+μ2*q2)との式を導出し、この式の「I」にステップS61にて取得した蛍光X線スペクトルの強度を代入し、「q1」にステップS62にて算出したブラックカーボンの含有量を代入し、「q2」にステップS63にて算出した有機炭素の含有量を代入することで、補正された蛍光X線スペクトルの強度I0を算出する。
【0078】
なお、吸収係数μ1、μ2の値は、X線のエネルギー値により異なっているので、演算部4は、上記の蛍光X線スペクトルの強度の補正を、蛍光X線スペクトルに含まれる各エネルギー値の強度に対して実行する。その後、演算部4は、蛍光X線のエネルギー値と補正後の強度とを関連付けて、補正後の蛍光X線スペクトルを生成する。
吸収係数μ1、μ2の値とX線のエネルギー値との関係は、互いに関連付けられて記憶装置43に記憶されている。
【0079】
蛍光X線スペクトルの補正後、演算部4は、補正後の蛍光X線スペクトルを用いて、粒子状物質FPに含まれる元素の分析(定量)を実行する。具体的には、演算部4は、補正後の蛍光X線スペクトルに含まれるピーク位置から、粒子状物質FPに含まれる元素を特定する。また、当該ピーク位置における蛍光X線の強度から、対応する元素の含有量(濃度)を算出する。
【0080】
粒子状物質FPの分析を終了後、分析動作を継続する場合(ステップS7において「No」)、上記のステップS1~S6が再度実行される。これにより、本実施形態の分析装置100は、連続的に粒子状物質FPの分析を実行できる。
その一方、分析動作を停止する場合(ステップS7において「Yes」)、分析動作は終了する。
【0081】
(4)まとめ
このように、本実施形態の分析装置100では、粒子状物質FPのような炭素化合物を主成分とする測定対象の分析を行う場合において、X線測定装置2にて取得した蛍光X線の強度を、当該炭素化合物の含有量に基づいて補正をしている。これにより、粒子状物質FPに含まれる元素分析をより精度よく実行できる。
炭素化合物による自己吸収は、特に、測定対象に含まれる軽元素(例えば、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、カリウム(K)など)の分析結果に大きく影響する。なぜなら、炭素化合物によるX線の吸収は低エネルギー側で大きくなり、かつ、軽元素は比較的低エネルギー側に蛍光X線のピーク位置が存在するからである。
【0082】
従って、実測された蛍光X線の強度を、測定対象に含まれる炭素化合物の含有量に基づいて補正することで特に軽元素の分析を精度よく実行でき、その結果、これら軽元素の正確な分析結果に基づいて、測定対象の由来も正確に知ることができる。
【0083】
また、可視光画像データ、赤外画像データのような粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の光学的特性を表すデータを用いることで、当該炭素化合物の光学的特性に基づいて、粒子状物質FPに含まれる炭素化合物の含有量をより精度よく算出できる。
【0084】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(A)上記の
図7及び8のフローチャートを用いて説明した分析動作において、各処理の順番、及び/又は、各処理の内容は、適宜変更できる。
【0085】
(B)光学特性測定装置3として、例えば、赤外線センサーなどの赤外領域の炭素化合物の光学的特性を測定できるセンサー、及び/又は、可視光センサーなどの可視光領域の炭素化合物の光学的特性を測定できるセンサーを用いてもよい。赤外線センサーと可視光センサーとを組み合わせて光学特性測定装置3として用いてもよいし、赤外センサー又は可視光センサーのいずれかのみを光学特性測定装置3として用いてもよい。
赤外線センサーとしては、例えば、サーモパイルセンサー、フローセンサーなど、赤外吸収又は反射を測定できるセンサーを用いることができる。
また、可視光センサーとしては、例えば、フォトダイオードなどの可視光吸収又は反射を測定できるセンサーをもちいル事ができる。
【0086】
(C)光源35は、白色光源に限られず、出力する光の波長域が異なる複数の光源にて構成されてもよい。例えば、可視光画像データを取得する場合には白色光源を用い、赤外画像データを取得する場合には赤外光源(例えば、赤外ランプ)を用いてもよい。
また、特定波長の光を出力するレーザ発振器、LEDなどを光源35として用いることもできる。
【0087】
(D)光学特性測定装置3を、グレーティング(回折格子)と、アレイセンサーにて構成してもよい。この場合、グレーティングは、粒子状物質FPからの光を波長毎に分離する。アレイセンサーは、複数の光センサーがアレイ(直線)状に配列されたセンサーであり、グレーティングで分離された各波長の光の強度を測定する。
【0088】
(E)上記の測定対象の光学的特性に基づく蛍光X線の強度の補正は、主成分が黒色又は赤外領域に特徴的な特性を有する炭素化合物以外の測定対象についても適用できる。
例えば、トナー、粉末食品など、黒色及び白色以外の色を有する測定対象に含まれる不純物元素を分析する場合にも適用できる。この場合には、光フィルタ33として、測定対象が反射/吸収する色の光を通過させるフィルタを用いる。
【0089】
(F)画像取得センサー31は、CCDセンサー以外にも、捕集フィルタ1上の粒子状物質FPからの反射光の強度を測定するセンサーであってもよい。
【0090】
(G)光フィルタ33は、特定の波長域に光を遮断するものであってもよい。例えば、赤外領域をカットする光フィルタ33を配置することで、粒子状物質FPからの可視光領域の光を検出し、光フィルタ33を外して可視光領域の光と赤外領域の光を検出するようにしてもよい。
【0091】
(H)光学特性測定装置3は、粒子状物質FPからの光をスペクトルとして取得してもよい。当該スペクトルに含まれるピーク位置から、ブラックカーボンが含まれているか、有機炭素が含まれているかを判断し、ピーク強度からこれら炭素化合物の含有量を算出してもよい。
【0092】
(I)光フィルタ33は、様々な波長領域の光を通過させる複数の光フィルタにより構成されていてもよい。この場合には、どのフィルタを配置したときに粒子状物質FPからの光が検出されたかにより、どの炭素化合物が含まれているかと、当該炭素化合物の含有量とを特定できる。
【0093】
(J)捕集量測定部6は、β線源61とβ線検出器63との組み合わせに限られず、例えば、LED又はレーザ発振器と光散乱検出器との組み合わせにより構成されてもよい。すなわち、捕集量測定部6は、捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質FPによる光の散乱を用いて、粒子状物質FPの質量濃度を測定してもよい。
【0094】
(K)蛍光X線スペクトルの強度以外にも、例えば、蛍光X線スペクトルを用いて得られた定性結果、及び/又は、定量結果についても、蛍光X線に関する情報として、炭素化合物の量に関する情報に基づいて補正することができる。
【0095】
(L)光学特性測定装置3にて測定された光学的特性に基づいて、例えば、捕集フィルタ1に堆積した炭素化合物の厚み(に相当する値)、X線の透過率/反射率など、を炭素化合物の量に関する情報として算出することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、測定対象から発生する蛍光X線に基づいて、当該測定対象に含まれる元素に関する情報を取得する分析装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0097】
100 分析装置
1 捕集フィルタ
1a 送り出しリール
1b 巻き取りリール
2 X線測定装置
21 X線源
23 検出器
3 光学特性測定装置
31 画像取得センサー
33 光フィルタ
33a 可視光フィルタ
33b 赤外光フィルタ
35 光源
37 板状部材
4 演算部
41 CPU
43 記憶装置
45 ディスプレイ
47 インターフェース
5 捕集部
51 吸引ポンプ
53 吸引口
55 排出口
6 捕集量測定部
61 β線源
63 β線検出器
A 大気
Br1 第1輝度
Br2 第2輝度
FP 粒子状物質
IM1 第1画像データ
IM2 第2画像データ
P1 第1位置
P2 第2位置
P3 第3位置
PE1 第1ピーク
PE2 第2ピーク
SC1 第1検量線
SC2 第2検量線
VA 視野領域
ΔBR 輝度差