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特許7198166イオン源異常検出装置、およびそれを用いた質量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】イオン源異常検出装置、およびそれを用いた質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221221BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20221221BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G01N27/62 G
H01J49/04
H01J49/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019119308
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004814
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 亨
(72)【発明者】
【氏名】神田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】堀江 正純
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534354(JP,A)
【文献】特開2006-266718(JP,A)
【文献】特開2003-099876(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139090(WO,A1)
【文献】特開平10-132788(JP,A)
【文献】特開2019-080192(JP,A)
【文献】特開平06-028468(JP,A)
【文献】特開2010-282093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60- G01N 27/70
H01J 49/00- H01J 49/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析成分を含有する試料液体を、噴霧手段を用いて、イオン源噴霧チャンバ内に噴霧するとともに、前記被分析成分をイオン化するイオン源の異常を検知するイオン源異常検出装置であって、
前記イオン源噴霧チャンバ内に光を照射する照射手段と、前記イオン源噴霧チャンバ内を撮影する撮影手段と、前記撮影手段で撮影された前記噴霧手段の噴霧先端部分を含む撮影画像を記憶する撮影画像記憶手段と、前記撮影画像における少なくとも一つ以上の判定画素の輝度諧調値について、その設定値を予め設定し記憶する噴霧状態判定条件設定手段と、記憶された撮影画像における前記判定画素の輝度諧調値と前記設定値を用いて噴霧状態の異常を検出する噴霧異常検出手段を備え、
前記照射手段と前記撮影手段は、前記イオン源噴霧チャンバに設けた窓ガラスを介して前記イオン源噴霧チャンバの外側に、かつ反射光の入り込みを抑制可能な光線軸の角度に配置し、
前記噴霧異常検出手段は、前記噴霧手段の噴霧先端部分を含む前記撮影画像について、発光検知領域と非発光検知領域があらかじめ設定されており、発光検知領域内に設定された前記判定画素の輝度諧調値が前記設定値よりも低く、または非発光検知領域内に設定された前記判定画素の輝度諧調値が前記設定値よりも高いことをもって噴霧状態の異常を検出し、
前記発光検知領域は、前記噴霧手段の噴霧先端部分近傍に設定され、前記非発光検知領域は、前記噴霧手段の噴霧先端部分から離れた前記発光検知領域の外側の位置に設定されていることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置であって、
前記非発光検知領域内に設定された前記判定画素の位置は、前記噴霧手段の噴霧先端部分から離れた直下の位置、並びに前記噴霧手段の噴霧先端部分から離れた両側の位置に設定されていることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項3】
請求項1記載のイオン源異常検出装置であって、
前記被分析成分を含有する試料液体を噴霧する噴霧手段は、試料液体を供給する試料供給細管と前記試料供給細管の先端部に高速気体噴流を供給する高速気体噴流供給手段より構成されることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置であって、
前記イオン源噴霧チャンバは、その内面およびその内部に設置される機器の全面もしくは一部に、照射光の反射を抑制する着色もしくは表面処理が施されていることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項5】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置であって、
前記噴霧異常検出手段が異常を判定した際に、噴霧異常発生信号を発生させことを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項6】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置であって、
前記噴霧異常検出手段の判定結果に応じて、噴霧ガス圧、試料液体流量、ノズル印加電圧、噴霧ガス温度などの液体試料を噴霧しイオン化するためのイオン源パラメータの少なくとも一つ以上を可変調整する噴霧条件制御手段を備えることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項7】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置であって、
前記噴霧異常検出手段の判定結果に応じて、前記噴霧手段のつまり解消や洗浄を行うための噴霧手段洗浄プロセスを備えるとともに、前記噴霧異常検出手段の判定結果により、質量分析を中断し、前記噴霧手段洗浄プロセスを動作させることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項8】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置であって、
前記噴霧手段による噴霧を停止させた状態で画像を取得し、噴霧停止時の取得画像における判定画素が異常範囲か否かを判定することで、非噴霧時欠陥画素を判定する欠陥画素検出手段を備え、前記欠陥画素検出手段により検出された欠陥画素を、噴霧時の異常検知のための判定画素から除いて、噴霧異常の判定処理することを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項9】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置であって、
噴霧停止時の画像を取得記憶するとともに、噴霧時の撮影画像の輝度情報から噴霧停止時の撮影画像の輝度情報を差分処理する差分処理手段を有し、前記差分処理後の画像を前記噴霧異常検出手段で異常判定画像として用いることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項10】
請求項9に記載のイオン源異常検出装置であって、
少なくとも2つ以上の噴霧状態判定条件を記憶可能にするとともに、測定対象の試料または試料溶媒条件もしくは、噴霧ガス圧、試料液体流量、ノズル印加電圧、噴霧ガス温度などの液体試料を噴霧しイオン化するためのイオン源パラメータ条件の少なくとも一つ以上によって、前記2つ以上の噴霧状態判定条件を切替える噴霧状態判定条件切替手段を備えることを特徴とするイオン源異常検出装置。
【請求項11】
請求項1に記載のイオン源異常検出装置を備えた質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧中に試料液体をスプレー噴霧して、微小帯電液滴を形成および加熱気化によりイオン化し、化学分析をする質量分析装置およびそのイオン源に係り、試料液体の噴霧異常を検出するイオン源異常検出装置、およびそれを用いた質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー質量分析装置などでは、分析する液体試料を、大気圧スプレーを用いて帯電した微小液滴を形成し、それを加熱気化させることで、液体資料に含まれる成分をイオン化し、質量分析装置に導入することで、化学分析が行われる。
【0003】
同装置では、液体試料を安定にイオン化することが必要であり、そのためには、大気圧スプレーで安定した微小液滴を形成することが重要である。しかし、大気圧スプレープロセスは、ノズルの汚染などの要因で不安定化しやすく、スプレー噴霧状態や形成される液滴の状態に影響を及ぼす。そこで、大気圧イオン化質量分析装置において、大気圧スプレープロセスの状態を安定化することは、重要である。
【0004】
質量分析装置では、大気圧化で分析対象試料を分散保持する溶液を噴霧および帯電することでイオン化し、電界の力で質量分析装置に導入し、分析対象試料の分析を行う。このイオン化プロセスは、質量分析装置の測定精度に大きく影響する。
【0005】
一般的な質量分析装置では、分析対象試料を分散保持する溶液の微滴化およびイオン化には、エレクトロスプレー法という方法が用いられる。この方法は、液体を供給するキャピラリーを高速気体噴流中に配置して液体を微小液滴化し噴霧する方法やキャピラリーと対向する電極間に高電圧を印加し、液体を電界でキャピラリーから引き出すことで噴霧する方法などがもちいられる。いずれの方法においても、噴霧される液滴は直径が数10μm以下と小さいとともに、その後、加熱することなどにより急速に気化し、液中に分散している分析対象の溶媒をイオン化する。
【0006】
このイオン化プロセスは、質量分析装置の測定精度に大きく影響することから、高い安定性が求められる。一般的質量分析装置で、噴霧プロセスの状態を観測するために窓が設けられており、操作者が窓から噴霧状態を観測することが可能である。しかし、液体を供給するキャピラリーの直径が100μm程度と細いとともに、噴霧される液体の量も少なく、その直径も数10μm以下と極めて小さく、加えて短時間で気か消失することから、噴霧状態の目視観察は極めて困難であるとともに、目視による異常判断には限界がある。
【0007】
一部の質量分析装置には、噴霧状態をより観察しやすくするために、大気圧スプレー部にカメラを設置したものもある。微細なキャピラリー先端やそこから噴出される液滴の状態を観測するためには、拡大観測することが必要である。しかし、噴霧ノズルから噴霧される液体の飛散によるカメラレンズの汚染などを考慮すると、カメラを測定対象に近接して測定することは難しく、拡大率にも限界がある。
【0008】
これらに関連して、特許文献1ではノズル先端部を観察するカメラを設置するとともに、噴霧ノズル先端に液滴が形成されるのを検出し、それをガス吹付け手段により制御することで、噴霧ノズル先端の液滴を除去する構成が開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、電極に高電圧を印加して液滴を形成するエレクトロスプレー法において、ノズル先端を観測するカメラを用いて、電極先端の液体の状態を観測し、エレクトロスプレーの電極に印加する電圧を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-127555号公報
【文献】特許24080893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1は、噴霧ノズル先端に液滴が形成されることを防止することで、ノズル先端を正常に保つことを目的としている。然しながら本システムでは、カメラで検出するのは、直径1mm程度の比較的大きな液滴としており、数μm以下の液滴で形成される噴霧状態そのものを観測することはできない。
【0012】
また特許文献2において、ここに記載されている電極先端の液体状態を観測するためには、カメラをかなりノズル先端に接近させることが必要であり、汚染などの点から、実際の観測装置に常時設置するのは難しいと思われる。
【0013】
このように、質量分析装置のイオン化プロセスにおける噴霧状態は、重要なプロセスであるにもかかわらず、観測が難しく、異常の発生を検知できないという課題を有している。
【0014】
以上のことから本発明においては、例えば質量分析装置のイオン化プロセスにおける噴霧異常を自動的に検出可能なイオン源異常検出装置、およびそれを用いた質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、被分析成分を含有する試料液体を、噴霧手段を用いて、イオン源噴霧チャンバ内に噴霧するとともに、被分析成分をイオン化するイオン源の異常を検知するイオン源異常検出装置およびそれを用いた質量分析装置であって、イオン源噴霧チャンバ内に光を照射する照射手段と、イオン源噴霧チャンバ内を撮影する撮影手段と、撮影手段で撮影された噴霧手段の噴霧先端部分を含む撮影画像を記憶する撮影画像記憶手段と、撮影画像における少なくとも一つ以上の判定画素の輝度諧調値について、その設定値を予め設定し記憶する噴霧状態判定条件設定手段と、記憶された撮影画像における判定画素の輝度諧調値と設定値を用いて噴霧状態の異常を検出する噴霧異常検出手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記構成によれば、例えば質量分析装置のイオン化プロセスにおける噴霧異常を自動的に検出可能なイオン源異常検出装置、およびそれを用いた質量分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のイオン源異常検出手段、およびそれを用いた質量分析装置のシステム全体構成を示す図。
図2】イオン源噴霧チャンバ2の噴霧ノズル1を拡大して示した図。
図3】撮影手段4により撮影される画像を模式的に示した図。
図4】本発明に係る噴霧異常を判断する処理フロー。
図5】噴霧異常が発生した際の撮影画像の状態を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を用いて、本発明のイオン源異常検出手段、およびそれを用いた質量分析装置の一実施例を説明する。
【実施例
【0019】
最初にイオン源異常検出手段、およびそれを用いた質量分析装置の全体構成について説明する。
【0020】
図1は、本発明のイオン源異常検出手段、およびそれを用いた質量分析装置のシステム全体構成を示す図である。図の左側は、異常検知対象であるイオン源30を模式的に示し、図の右側は異常検知のための噴霧状態監視手段11および質量分析装置の全体制御手段15を示す。イオン源30には、イオン源噴霧チャンバ2と、試料溶液を供給するとともに噴霧する噴霧ノズル1が配置されている。本発明においては、イオン源30に照明手段3と撮影手段4を配置し、撮影手段4から得られる限られた画像情報から、噴霧状態監視手段11で画像処理と判断を行いイオン源30の異常を検出する。
【0021】
次に、イオン源30の構造と動作について説明する。まず、質量分析装置のイオン源20におけるイオン形成プロセスについて簡単に説明する。
【0022】
図2は、イオン源噴霧チャンバ2の噴霧手段である噴霧ノズル1を拡大して示したもので、試料液滴を噴霧し微小液滴にするとともに、気化してイオン化するプロセスを説明するための図である。
【0023】
噴霧ノズル1は、試料液体供給管17と噴霧ガス供給管18の二重管構造となっている。試料液体供給管17で供給される試料液体19は、噴霧ガス供給管18で供給される高速ガス噴流の中に、供給されるため、高速ガス流の力で引きちぎられて、液滴に分断噴霧される。試料液体は、水もしくはメタノールなどのアルコール系の溶媒に試料成分が分散した溶液である。高速ガスとしては、空気もしくは窒素ガスなどが利用できる。
【0024】
また、イオン源30の噴霧プロセスでは、噴霧ノズル1に電圧を印加することで、分断噴霧された液滴に電荷が付与される。その後、形成された帯電液滴の溶媒成分を気化させることで、液滴の電荷密度が上昇し、クーロン爆発と呼ばれる現象が発生し、液滴は爆発分裂を繰り返す。そして、最終的には試料成分単体のイオンが生成される。生成された試料成分のイオンは、静電力によって質量分析装置に取り込まれ成分の同定が行われる。
【0025】
上記のイオン化プロセスにおいては、試料溶液から噴霧形成された初期液滴径が、小さいほど短い時間で効率よく溶媒を気化でき、イオン生成することができる。このため、イオン源30で噴霧生成される初期液滴径は、より小さいことが求められている。噴霧ノズル1で、生成される液滴の粒径は、噴霧に用いる高速ガスの流速が大きいほど小さくなる。高速ガスの流速を、100m/sから音速に近い数100m/s程度にすることで、数μmから数10μm程度の液滴が形成できる。
【0026】
液滴を短時間でより効率よく溶媒を気化するために、噴霧液体に数100℃の高温の加熱ガス21を吹き付けるように構成されている。高温ガスの吹付ノズルは、図1および図2には図示していないが、加熱ガス21は、図2の太矢印に示すように、噴霧直後の液体に吹き付けることで、液滴の溶媒の気化を促進させる。
【0027】
試料溶媒19と高速ガス流20および高温加熱ガス流21を用いるイオン化プロセスは、周囲への汚染と安全性を確保するために、イオン源噴霧チャンバ2内で行われる。本実施例のイオン源噴霧チャンバ2では、噴霧ガスの流れを考慮し、直径約10cm厚さ約5cm程度の円筒形アルミ製チャンバを用いている。
【0028】
次に、イオン源30の噴霧状態を観測するための観測部の構成を説明する。本実施例の構成では、試料溶液の噴霧状態を観測するために照明手段3と撮影手段4を配置した。照明手段3とカメラなどの撮影手段4は、噴霧ガス流や加熱ガス流など噴霧プロセスへの影響や汚染などを考慮して、図1に示しているようにイオン源噴霧チャンバ2に照明手段用窓5と撮影手段用窓6を設けている。これらの窓5、6にはガラスを配し、照明手段3と撮影手段4は、イオン源噴霧チャンバ2の外側に配置した。
【0029】
これらの制約により、カメラなどの撮影手段4を噴霧ノズル1の噴霧先端付近に近接させることができないとともに、レンズ直径などにも制約があることから、高倍率での撮像は難しい。さらに、前記したように、噴霧ノズルから噴霧される液滴は、数μmから数10μm程度と非常に小さいとともに、飛翔速度も噴霧ガス速度である100m/sから数100m/s近くに達する。さらに、噴霧直後の液滴は、加熱ガスなどによって急速に気化され、噴霧直後に数μmから数10μm程度あった液滴径は急速に小さくなる。これらのことから、噴霧ノズルから吹き出す噴霧液滴を直接観察することできない。
【0030】
そこで、本実施例では、イオン源噴霧チャンバ2の外側に配置した照明手段3によって、噴霧ノズル1先端付近に光を照射するように構成した。そして、イオン源噴霧チャンバ2の外側に配置した撮影手段4で、噴霧ノズル付近を観測できるように構成した。
【0031】
このように、構成して、噴霧中の噴霧ノズル付近を撮影すると、図2に示すように、噴霧ノズル1の直下の領域22では、噴霧液滴により散乱した光を観測することができる。しかし、前記したように、噴霧液滴は急速に気化することから、噴霧ノズル直下より、少し下側の噴霧領域23では、噴霧液滴による散乱項は観測できなかった。これは、照明の光を散乱することができないほど液滴径が小さくなっているためである。本発明では、この照明光による噴霧ノズル直下の散乱光の撮影情報をもとに、噴霧異常を検知する方法を提案するものである。
【0032】
次に、噴霧ノズル直下の散乱光の撮影画像を用いて、噴霧異常を検知する方法を説明する。
【0033】
図3は、本実施例の撮影手段4により撮影される画像を模式的に示した図であり、噴霧ノズル直下付近の各画素を示している。
【0034】
図3に例示する撮影画像によれば、照明光が反射した部分は白く発光し、そのほかの部分は全く発光しないことが見て取れる。反射により白く発光した部分は、一定のレベル以上の直径を有する噴霧液滴と噴霧ノズル先端である。
【0035】
図3において、31で示した部分の左側の発光領域(背景画素に比較して白い部分)が噴霧ノズル先端部での反射光であり、32で示される部分の左側の発光領域が噴霧直後の液滴による散乱光である。実際のイオン源のノズル先端の噴霧画像でも、図3に示すような局所的な限られた領域で発光した画像が観測できる。このように、背景に照射光の反射光が入らないようにすれば、図3に示すような極めて高いコントラストで、ノズル先端とその直下の噴霧液滴による散乱光を検知することが可能である。
【0036】
本実施例における噴霧異常を検知する方法においては、図3の撮像画像について、この画像のなかで、正常な噴霧状態において、安定的に非発光画素となる画素領域を非発光検知領域35とし、安定的に発光画素となる画素領域を発光検知領域34として、判定画素として用いる。そして、噴霧状態でこれらのうち非発光検知領域35の判定画素が既定の輝度以下か否か、および発光検知領域34の判定画素が既定の輝度以上か否か、で噴霧が正常か否かの判定を行うものである。
【0037】
図4は、本発明に係る噴霧異常を判断する処理フローである。この処理は計算機により実行されるのがよい。図4の最初の処理ステップS1では、照明手段3により照射し、撮影手段4により噴霧ノズル1を含むイオン源噴霧チャンバ2内の撮像を実施する。
【0038】
処理ステップS2では、入手した撮像画像について、発光検知領域34の画素情報と、非発光検知領域35の画素情報を入手する。この場合に各画素の輝度が、例えば256諧調により表現されている。諧調が高い場合に発光あり、諧調が低い場合に発光なしを表している。なお、発光検知領域34と非発光検知領域35については、事前の検討により領域が定められており、各領域について判定画素とする画素が事前に定められているものとする。判定画素は複数であってもよい。
【0039】
処理ステップS3では、発光検知領域34の画素情報について規定の輝度以上か否かを判定する。ここでは規定の輝度について、例えば256諧調のうち、200諧調以上であることを確認し、200諧調以上である場合に処理ステップS5において正常と判定する。また200諧調以下である場合に、発光不足であることから処理ステップS5において異常と判定する。ここでは想定される異常理由も併せて提示するのがよい。
【0040】
処理ステップS4では、非発光検知領域35の画素情報について規定の輝度以下か否かを判定する。ここでは規定の輝度について、例えば256諧調のうち、50諧調以下であることを確認し、50諧調以下である場合に処理ステップS5において正常と判定する。また50諧調以上である場合に、発光過多であることから処理ステップS7において異常と判定する。ここでは想定される異常理由として、例えば発行フレームが正常な形状ではなく、異常に長く形成されている、あるいは斜め方向に形成されているといった異常事象の状態も併せて提示するのがよい。
【0041】
このような判定方式を用いることで、質量分析装置のイオン源30における限られた観測画像からでも、非発光領域と発光領域の変化から、噴霧状態の変化を検知可能となる。たとえば、噴霧液体の初期液滴の液滴径が大きくなると発光領域が広がり、非発光領域の画素の輝度が増加する。また、初期液滴の液滴径が小さくなり、あるいは噴霧が停止すると、発光領域の輝度が低下する。このような変化から、噴霧ノズルから噴出する初期液滴の状態を検知することが可能となる。液滴径の変化は、供給される試料液体の流量変動や噴霧ガスの噴出速度変動や加熱ガスの温度変動などの要因で生じることが推察される。また、噴霧ノズル先端に異物が付くなどした場合、噴霧液滴による発光領域が左右にぶれるなどの異常として検知される。
【0042】
図5は、噴霧異常が発生した際の撮影画像の状態を模式的に示したものである。図5左は噴霧される液滴径が増加した場合の撮影画像の状態を模式的に示した図であり、図5中央は、左側に噴霧方向が曲がった状態を模式的に示した図であり、図5右は、噴霧が停止し、液滴による散乱がなくなった状態を模式的に示した図である。
【0043】
次に異常検知処理プロセスについて説明する。
【0044】
図1の右側に示す噴霧状態監視手段11における異常検知処理プロセス構成を説明する。まず、予め質量分析装置の全体制御手段15より、既定の試料溶液を既定の適正条件で噴霧した際の噴霧状態を判定するための異常判定画素情報および異常判定条件を設定する。異常判定画素情報とは図3の判定画素に相当し、異常判定条件とは発光検知領域34および非発光検知領域35の判定画素の輝度として既定した輝度情報である。これらの異常判定画素情報および異常判定条件は、予め、噴霧状態監視手段11の異常判定画素および異常判定条件記憶手段12に記憶される。
【0045】
質量分析装置制御手段15はイオン源30を動かすための噴霧制御手段16により、噴霧動作を開始した後、噴霧状態を確認するための噴霧観測信号26を噴霧状態監視手段11に送信する。噴霧観測信号26によって、噴霧状態監視手段11が噴霧状態を確認し、異常があれば異常検知信号13を質量分析装置制御手段15に送信するように構成されている。
【0046】
本発明のイオン源30は、イオン化プロセスへの影響を避けるために、イオン源噴霧チャンバ2の外側に照明手段3と撮影手段4を配置している。噴霧状態監視手段11は、照明手段3と撮影手段4を制御する照明およびカメラ制御手段7を備え、質量分析装置からの噴霧観測信号26を受信した後、噴霧画像の撮影を実施する。撮影した画像情報を画像記憶手段8で一時記憶した後、噴霧画素及び輝度情報抽出手段9で、噴霧異常を判定するための噴霧ノズル近傍の画素画像(図3図4)およびその輝度情報を抽出する。そして、撮影画像からの抽出情報と、予め設定した異常判定画素および異常判定条件記憶手段12に記憶されている情報を比較手段および異常判断手段10で比較判定し、異常と判断された場合は、質量分析装置制御手段15に異常検知信号13を送信する。質量分析装置制御手段15は、装置を停止するなど異常検知時装置動作制御を行う。
【0047】
次にイオン源噴霧チャンバ2の外側に設けた照明手段3による照明のありかたについて説明する。
【0048】
本発明の異常検知装置では、撮影する画像の背景と噴霧液滴による反射光のコントラスト、つまり輝度差が明確なほど噴霧状態の異常判定が容易になる。このため、背景部への照明光の入り込みをなくすことが重要となる。背景部への照明光の入り込みは、噴霧チャンバ内壁面で反射する。本実施例では、照明手段3の照明光がイオン源噴霧チャンバ2の内壁に反射して光ることを防止するために、イオン源噴霧チャンバ2の内壁を粗面するとともに黒色に着色処理した。着色処理としては、耐熱塗装やアルマイト処理などを用いることができる。
【0049】
本実施例の噴霧チャンバ2では、アルマイト処理と耐熱塗装を組み合わせた処理を施している。撮影画像には、図3及び図5に示すように、噴霧ノズル先端付近一部も写ってしまう。今回の実施例では実施していないが、噴霧ノズル先端付近の反射抑制処理によっても、さらに判定しやすい画像が得られると思われる。
【0050】
反射光を抑制するそのほかの方法としては、噴霧液滴に照射した後の光もしくは、その反射光を排気ダクト側に導く様に配置設計する方法が考えられる。この方法は、噴霧チャンバ2内における照射手段3の設置位置や内面形状に影響を与えることから、噴霧チャンバ2および内部の各種部品の配置設計が難しい。
【0051】
また、背景部への照明光の入り込みを抑制するためには、照射手段3による光の照射方向と撮影手段4との角度関係も重要である。撮影手段4と対向する位置に照明手段3を配置すると背景が明るくなるので避けるべきである。また、撮影手段と同軸方向への照明配置も噴霧チャンバ2の壁面反射の影響が大きいことからさけたほうが良い。照明手段と撮影手段には、角度を設けるとともに、反射光が撮影画像に影響場所を選定することも必要である。事前検討では、撮影手段と照明手段の光軸線の角度が、30~60度付近の時に、反射光の入り込みが抑制できた。本実施例では、撮影手段の対抗側、斜め45度付近に照明手段を配置した。
【0052】
次にイオン源噴霧チャンバ2の外側に設けた撮影手段4による撮影のありかたについて説明する。
【0053】
撮影手段4の撮影方向としては、図1に示す本実施例では円筒形をしたイオン源噴霧チャンバ2の円筒側面に配置している。図1のイオン源噴霧チャンバの図では、質量分析装置への導入口は記載していないが、円筒形状のイオン源噴霧チャンバ2の円筒中央付近の紙面奥側に質量分析装置への導入口は配置されている。撮影手段4が、円筒側面に配置されているために、質量分析装置への導入口方向側つまり、紙面に垂直方向への噴霧曲りは検出しやすいが、紙面と平行な方向への曲りは検出するのが難しい。
【0054】
本実施例では、質量分析装置への導入口方向側への噴霧まがりのほうが、測定結果への影響が大きいと思われることから、撮影手段4を円筒側面に配置した。しかし、噴霧方向の曲りを検知するためには、複数の方向に撮影手段を配置することが望ましいことは言うまでもない。この場合は、照明手段3の照射光がいずれの撮像手段の画像にも影響しない角度で、照明手段3を配置することが必要である。さらに、一つの撮影手段で全方向への噴霧曲りを観測する方法としては、噴霧ノズルの真下側にカメラを配置する方法も考えられるが、噴霧する液体による撮影手段3への汚れ対策などが必須となると思われる。
【0055】
次に異常検知時の処理について説明する。
【0056】
噴霧状態監視手段11が、異常噴霧を検知し、異常検知信号13を送信した後の処理としては、装置を停止させる方法や注意アラームを発報させる方法が取り得る。
【0057】
さらに、本発明の異常噴霧検知時の検知画像を解析する手段も設ければ、図5で説明したように、異常噴霧の状態を知ることも可能となる。たとえば、図5左の異常検知画像では、その原因として噴霧液滴径が大きくなっているもしくは、噴霧液量が増加していることが予測される。そこで、噴霧ガス圧、試料液体流量、ノズル印加電圧、噴霧ガス温度などの液体試料を噴霧しイオン化するためのイオン源パラメータの少なくとも一つ以上を可変調整し、適正な噴霧状態になるように、フィードバック制御に利用することも可能である。
【0058】
また、図5中央のように、噴霧方向の曲りを検知した場合は、その原因として、噴霧ノズル先端のつまりや汚染が予測される。この場合は、ノズル先端を洗浄するプロセスを行うことで復旧する可能性がある。そこで、質量分析装置に、噴霧ノズルのつまり解消や洗浄を行うための噴霧ノズル洗浄プロセスを備える、既噴霧異常検出手段の判定結果により、質量分析を中断し、既噴霧ノズル洗浄プロセスを動作させるなどの処理をおこなえば、質量分析装置の自動復旧を行わせることも可能である。
【0059】
このように非発光検知領域で発光が検知される異常を検知するためには、判定画素の位置は、噴霧ノズルの先端部分から離れた直下の位置、並びに噴霧ノズルの先端部分から離れた両側の位置に設定されているのがよい。これにより、発光炎の延長、発光炎の揺らぎなどを検知することができる。
【0060】
本発明の異常検知方式の検知結果を利用し、上記のような異常復帰処理を質量分析装置に組込むことで、高い信頼性と安定性を有する質量分析装置を提供できる。
【0061】
次に汚染対策処理について説明する。
【0062】
本発明の噴霧異常検知をより安定に行うためには、イオン源噴霧チャンバ内の噴霧試料による汚染対策を施すことが有効である。上記したように、本発明における噴霧異常検知は、噴霧ノズル直下に光照射し、比較的液滴径の大きな初期の噴霧液滴による散乱光の形状を特徴的な輝度状態となる画素に着目して判定するものである。
【0063】
この方法では、イオン源噴霧チャンバ2内に付着する噴霧液などによる汚れで、照射手段3による照射光の散乱状態が変わり、判定画素に影響を与える可能性がある。特に、撮影手段4側のカメラ保護窓6が噴霧された試料液滴液などで汚染された場合、判定画素への影響が懸念される。
【0064】
このようなイオン源噴霧チャンバ2内の汚れに対するロバスト性を確保する方法ための一実施例を説明する。このためには、例えば汚れによる検知誤りを防止するために、噴霧を行わない状態で、照明手段3による照明光を照射し、撮影手段4で画像を取得する。そして、撮影した画像の中で、異常判定画素に異常な輝度値を検知した場合、その判定画素を異常画素として記憶する。このように、噴霧動作を行わない状態で画像を取得し、異常判断を行うことで、異常画素を抽出することができる。そして、実際の噴霧ノズルから噴霧時の異常判定処理において、その異常画素を除いた判定画素で、異常噴霧の判断を行うようにすれば、汚れなどによる影響を防止することができる。但し、異常画素の数が多くなると異常噴霧の判定精度も低下することから、異常画素の発生数が既定数を超えた場合は、噴霧チャンバ内を洗浄するなどの対応が必要である。異常画素の発生数が既定数を超えた場合、噴霧チャンバ洗浄要の発報を行う。
【0065】
異常画素を除いての判定は汚染対策としては有効であるが、異常画素数が増えた場合、判定画素数が少なくなり、噴霧異常の判定ができなくなるという問題が生じる。そこで、汚染した判定画素も利用することで、判定画素数を減らさずに噴霧異常を判定する方法として、次の一実施例も考えられる。上記と同様に、噴霧を行わない状態で、照明手段による照明光を照射し、撮影手段で画像を取得する。そして、噴霧停止時の判定画素の輝度情報を記憶する。そして、実際の噴霧ノズルからの噴霧時の異常反映処理において、噴霧を行わない状態での輝度情報との差分処理を行い、差分処理後の画像を判定画像として用いる。このような処理を行えば、判定画素の汚染による輝度のずれをある程度除いた、異常判別を行うことができる。但し、この方法においても、汚染が正確な異常検知は難しくなることは言うまでもない。
【0066】
次に各種噴霧条件への対応について説明する。
【0067】
噴霧ノズルによる試料溶液の噴霧条件は、測定する試料の種類や濃度および溶媒の種類で条件を可変する場合がある。これによって、噴霧ノズルから噴霧される初期液滴の径や量さらには、気化までの時間などが影響を受ける場合がある。この場合、本発明の撮影手法で撮影した画像の状況にも影響を与える。そこで、噴霧条件や測定試料条件に合わせて、噴霧異常を判別する画素や判別する輝度閾値条件など変更する必要などが生じる。
【0068】
そこで、本実施例のイオン源異常検出手段およびそれを用いた質量分析装置においては、複数の噴霧状態判定条件を記憶可能にし、測定対象の試料または試料溶媒条件もしくは、噴霧ガス圧、試料液体流量、ノズル印加電圧、噴霧ガス温度などの液体試料を噴霧しイオン化するためのイオン源パラメータ条件の少なくとも一つ以上によって、既2つ以上の噴霧状態判定条件を切替える噴霧状態判定条件切替手段を設けることで、より高精度に噴霧異常の判別を可能とすることができる。
【0069】
以上説明した本発明のイオン源異常検出装置およびそれを用いた質量分析装置では、イオン源の試料溶液の噴霧状態異常を正確に検出可能にするとともに、それを用いて、高安定かつ高信頼の質量分析装置を提供できるものである。
【0070】
本発明の説明をわかり易くするために、本発明の液滴形成手段として現在広く使われているエアーノズルやエレクトロスプレーをイメージした噴霧ノズルとして説明したが、本発明異常検出手法は、噴霧ノズル以外の微小液滴を形成する各種噴霧手段に関しても広く、応用可能であることは言うまでもない。
【0071】
より具体的に述べると本発明によれば、噴霧異常検知に用いる光照射手段と撮影手段をイオン源チャンバの外側に配置することから、光照射手段と撮影手段が噴霧液体によって汚染されることはないとともに、光照射手段と撮影手段が噴霧ノズルから噴霧される試料の液体形成状態に影響を与えることもない。イオン源チャンバの外側に配置した撮影手段による撮影画像は、倍率を十分に高くすることができないために、噴霧された微小な液滴を個別に識別することができない。しかし、上記構成によれば、ノズル先端の噴霧ガスによる散乱光の発生領域と周辺との輝度差などの情報を抽出することで、低倍率の既噴霧画像から噴霧状態を識別が可能になる。さらに、上記構成によれば、予め設定した判定画素と既判定画素の判定閾値輝度情報を比較することで検知することから、低解像度の撮影画像からでも、高速で安定な異常検出が可能になる。そして、上記構成によって、判定情報に合わせた質量分析装置の制御を構築することで、適正なイオン化条件を安定維持することが可能な質量分析装置を提供できる。
【符号の説明】
【0072】
1:噴霧ノズル
2:イオン源噴霧チャンバ
3:照明手段
4:撮影手段
5:照明保護窓
6:カメラ保護窓
7:照明およびカメラ制御手段
8:画像記憶手段
9:噴霧画素および輝度情報抽出手段
10:比較手段および異常判断手段
11:噴霧状態監視手段
12:異常判定画素および異常判定条件記憶手段
13:異常検知情報
14:異常判定条件情報
15:質量分析装置制御手段
16:噴霧制御手段
17:試料溶液供給管
18:噴霧ガス供給管
19:試料溶液
20:噴霧ガス流
21:加熱ガス流
22:噴霧領域(散乱領域)
23:噴霧領域(非散乱領域)
34:判定画素(発光検知領域)
35:判定画素(非発光検知領域)
26:噴霧観測信号
図1
図2
図3
図4
図5