IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 111/04 20060101AFI20221221BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20221221BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20221221BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20221221BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20221221BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20221221BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20221221BHJP
   C10M 137/08 20060101ALN20221221BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20221221BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20221221BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20221221BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20221221BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20221221BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20221221BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20221221BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
C10M111/04
C10M169/04
C10M101/02
C10M107/34
C10M105/38
C10M133/04
C10M137/04
C10M137/08
C10M137/10 Z
C10N30:00 B
C10N30:04
C10N30:08
C10N40:00 A
C10N40:12
C10N40:30
C10N40:08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019572303
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2019005711
(87)【国際公開番号】W WO2019160123
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018026369
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 浩紀
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-516637(JP,A)
【文献】特開2013-023596(JP,A)
【文献】特開2018-009106(JP,A)
【文献】特開2015-004028(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00524783(EP,A1)
【文献】特開2008-75059(JP,A)
【文献】特開平5-105885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油(A)と、下記一般式(b-1)で表されるポリアルキレングリコール(B1)及びポリオールエステル(B2)を含む合成油(B)とを含有する潤滑油組成物であって、
前記成分(B1)の含有量が、潤滑油組成物の全量基準で1.0~70質量%であり、
前記成分(B2)の含有量が、潤滑油組成物の全量基準で2.0~90質量%であり、
鉱油(A)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、5~95質量%であり、
ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いられる、潤滑油組成物。
B1 -[(OR B2 -OR B3 (b-1)
(上記一般式(b-1)中、
aは1以上の数であり、
bは1であり、
B1 は、水素原子又は炭素数1~6の1価の炭化水素基であり、
B2 は、炭素数3又は4のアルキレン基であり、
B3 は、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、フェニルプロピル基又はフェニルブチル基である。)
【請求項2】
成分(B1)と成分(B2)との含有量比〔(B1)/(B2)〕が、質量比で、10/90~80/20である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
成分(B1)及び成分(B2)の合計含有量に対する、成分(A)の含有量比〔(A)/((B1)+(B2))〕が、質量比で、0.05~19.0である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらにアミン系酸化防止剤(C1)を含む酸化防止剤(C)を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
成分(C1)の窒素原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、50~3000質量ppmである、請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
さらに中性リン酸エステル(D1)、酸性リン酸エステル(D2)、酸性リン酸エステルのアミン塩(D3)、及び硫黄-リン系化合物(D4)から選ばれる1種以上のリン系化合物(D)を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
成分(D)のリン原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、10~1600質量ppmである、請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
金属原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
JIS K2520に準拠し、温度54℃における水分離性試験を行った際、乳化層が3mLに到達するまでの時間を表す抗乳化度が15分以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いる、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いられる潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン、ガスタービン等の各種ターボ機械や、回転式ガス圧縮機、往復動式圧縮機等の圧縮機、油圧機器、及び工作機械の油圧ユニット等の機器に用いられる潤滑油組成物は、高温環境下の系内を長期間循環しながら使用されることがある。
潤滑油組成物は、高温環境下で長期間使用されることで、酸化劣化に伴うスラッジが析出し易くなる。析出したスラッジは、例えば、回転体の軸受に付着し発熱することによる軸受の損傷や、循環ライン中に設けられたフィルタの目詰まりの発生、制御バルブに堆積することによる制御系統の作動不良等の問題を引き起こすことがある。
そのため、高温環境下の系内を長時間循環しながら使用される潤滑油組成物には、スラッジ析出の抑制効果の向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリグリコール系合成油とエステル系合成油の混合油である合成基油と、非対称型ジフェニルアミン系化合物等の特定の化合物群から選択される1以上のアミン系酸化防止剤とを含有する空気圧縮機用潤滑油組成物が開示されている。
特許文献1によれば、当該空気圧縮機用潤滑油組成物は、酸化を適切に抑制しつつ、スラッジの析出が抑制できる旨の結果が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/146805号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水や水蒸気が混入する恐れのある、タービン等の機器に使用される潤滑油組成物は、水や水蒸気の混入によって乳化することにより、機器のトラブルを引き起こす要因となる。
このため、このような機器に使用される潤滑油組成物には、乳化し難く、また乳化しても水と分離しやすい性質、すなわち、水分離性に優れていることが求められる。
なお、特許文献1においては、潤滑油組成物の水分離性に関する検討は行われていない。
【0006】
本発明は、高温環境下で長期間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高く、優れた水分離性を有する、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いられる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定量の鉱油と、ポリアルキレングリコール(以下、「PAG」ともいう)及びポリオールエステル(以下、「POE」ともいう)を含む合成油との組み合わせからなる混合基油を含有する潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕鉱油(A)と、ポリアルキレングリコール(B1)及びポリオールエステル(B2)を含む合成油(B)とを含有する潤滑油組成物であって、
鉱油(A)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、5~95質量%であり、
ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いられる、潤滑油組成物。
〔2〕上記〔1〕に記載の潤滑油組成物を、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いる、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、高温環境下で長期間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高く、優れた水分離性を有する。そのため、当該潤滑油組成物は、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械への使用に適している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した値を意味する。
リン原子、金属原子の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定した値を意味する。
窒素原子の含有量は、JIS K2609に準拠して測定した値を意味する。
【0010】
〔潤滑油組成物〕
本発明の潤滑油組成物は、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いられるものであって、鉱油(A)と、ポリアルキレングリコール(PAG)(B1)及びポリオールエステル(POE)(B2)を含む合成油(B)とを含有する。
本発明の潤滑油組成物では、基油として、鉱油(A)と共に、PAG及びPOEを含む合成油とを併用した混合基油を用いることで、高温環境下で長時間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高く、優れた水分離性を有するものとなり得る。
【0011】
鉱油は、水分離性に優れているが、高温環境下での酸化安定性が劣り、劣化物を生じ易く、その劣化物はスラッジとして析出し、装置の不具合を生じさせる原因となる。
PAGは、高温環境下で発生し得る劣化物を溶解して、その劣化物がスラッジとして析出するのを抑制し得るという性質を有しているが、水分離性に問題がある。また、極性が高過ぎるため,鉱油等の非極性基油との相溶性に劣るため、鉱油とPAGの混合基油では、互いの欠点を補い合うような性能を発揮することは難しい。
一方で、POEは、高温環境下で発生し得る劣化物の溶解性の点ではPAGに比べて劣るが、他の基油との相溶性に優れるという性質を有するため、PAG及び鉱油の双方に対して相溶性が良好である。なお、POEも、水分離性には問題がある。
そのため、本発明では、鉱油、PAG、及びPOEの3種の基油を組み合わせることで、「鉱油」の水分離性に優れているという特性と、「PAG」の高温環境下で生じ得る劣化物を溶解し得るという特性とを共にバランスよく発現させ得る潤滑油組成物とすることができる。
【0012】
なお、PAG及びPOEを含むが、鉱油を含まない基油を用いた場合、水分離性に問題があり、さらに添加剤を配合すると水分離性は低下する傾向にある。
一方で、鉱油及びPOEを含むが、PAGを含まない基油を用いた場合、高温環境下で発生し得る劣化物の溶解性の点では、PAG単独で用いた場合に比べて劣る。
さらに、鉱油及びPAGを含むが、POEを含まない基油を用いた場合、鉱油とPAGとの相溶性が悪いため、鉱油が持つ特性と、PAGが持つ特性が、発現され難い。
つまり、本発明では、鉱油、PAG、及びPOEの三種の基油を併用しているため、それぞれが有する利点を生かしつつ、各基油のデメリットは他の基油で補うことが可能となる。
その結果、本発明の潤滑油組成物は、高温環境下で長期間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高く、優れた水分離性を有する。
【0013】
なお、高温環境下で長期間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらにアミン系酸化防止剤(C1)を含む酸化防止剤(C)を含有することが好ましい。
また、耐摩耗性の向上の観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに、中性リン酸エステル(D1)、酸性リン酸エステル(D2)、及び酸性リン酸エステルのアミン塩(D3)から選ばれる1種以上のリン系化合物(D)を含有することが好ましい。
そして、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(C)及び(D)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
【0014】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)及び(B)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常65質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%以下、好ましくは99.9質量%以下である。
【0015】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは97~100質量%である。
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分について説明する。
【0016】
<鉱油(A)>
本発明で用いる鉱油(A)としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の精製処理を一つ以上施して得られる鉱油;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(GTL)等が挙げられる。
これらの鉱油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の一態様で用いる鉱油(A)としては、API(米国石油協会)の基油カテゴリーのグループ2又は3に分類される鉱油が好ましい。
【0017】
本発明の一態様で用いる鉱油(A)の40℃における動粘度としては、好ましくは8~350mm/s、より好ましくは10~150mm/s、更に好ましくは12~100mm/s、より更に好ましくは15~68mm/sである。
【0018】
また、本発明の一態様で用いる鉱油(A)の粘度指数としては、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。
【0019】
本発明の潤滑油組成物において、成分(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、5~95質量%であり、好ましくは10~95質量%、より好ましくは20~93質量%、更に好ましくは40~92質量%、より更に好ましくは60~90質量%である。
成分(A)の含有量が5質量%未満であると、水分離性が劣る潤滑油組成物となり、特に、各種添加剤を配合した場合、水分離性の低下の程度はより大きくなる。
一方、成分(A)の含有量が95質量%超となると、成分(B1)及び(B2)の含有量を十分に確保できないため、高温環境下でスラッジが析出し易く、酸化安定性が劣る潤滑油組成物となる。
【0020】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B1)及び成分(B2)の合計含有量に対する、成分(A)の含有量比〔(A)/((B1)+(B2))〕は、質量比で、水分離性に優れた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、より好ましくは0.30以上、更に好ましくは0.70以上、より更に好ましくは1.50以上、特に好ましくは3.50以上であり、また、高温環境下で長期間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、好ましくは19.0以下、より好ましくは15.0以下、より好ましくは12.0以下である。
【0021】
<合成油(B)>
本発明の潤滑油組成物に含まれる合成油(B)は、ポリアルキレングリコール(B1)と、ポリオールエステル(B2)とを含む。
なお、本発明の一態様で用いる合成油(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B1)及び(B2)以外の合成油をさらに含有してもよい。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、合成油(B)中の成分(B1)及び(B2)の合計含有量は、当該潤滑油組成物中に含まれる合成油(B)の全量(100質量%)基準で、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0022】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、高温環境下で長期間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、成分(B1)と成分(B2)との含有量比〔(B1)/(B2)〕は、質量比で、好ましくは10/90~80/20、より好ましくは15/85~70/30、更に好ましくは20/80~60/40、より更に好ましくは25/75~55/45である。
【0023】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、高温環境下で長期間の使用に対しても、酸化安定性に優れ、スラッジ析出の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは7質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上であり、また、水分離性に優れた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0024】
[ポリアルキレングリコール(B1)]
ポリアルキレングリコール(B1)としては、例えば、アルキレンオキシドが重合又は共重合して得られる重合体が挙げられる。
なお、ポリアルキレングリコール(B1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の一態様で用いるポリアルキレングリコール(B1)の数平均分子量(Mn)としては、潤滑油組成物の粘度指数を向上させる観点から、好ましくは200~10,000、より好ましくは240~5,000、更に好ましくは280~3,000、より更に好ましくは320~1,500である。
なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、測定条件としては、実施例に記載の条件が挙げられる。
【0026】
また、本発明の一態様で用いるポリアルキレングリコール(B1)は、スラッジ析出の抑制効果をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、末端の少なくとも一つ以上を置換基で封鎖したポリアルキレングリコールであることが好ましい。
ポリアルキレングリコールの末端を封鎖し得る上記置換基としては、例えば、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基、又は、環形成原子数3~10の複素環基が挙げられ、炭素数1~10の1価の炭化水素基が好ましい。
なお、上記置換基として選択し得る、1価の炭化水素基、アシル基、及び複素環基に関する具体的な基の例示、並びに、好適な炭素数又は環形成原子数の範囲は、後述の式(b-1)中のRB1及びRB3に関する規定と同じである。
【0027】
本発明の一態様において、ポリアルキレングリコール(B1)としては、スラッジ析出の抑制効果をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、下記一般式(b-1)で表される化合物であることが好ましい。
B1-[(ORB2-ORB3 (b-1)
【0028】
上記一般式(b-1)中、RB1は、水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基、炭素数1~10の2~6価の炭化水素基、又は、環形成原子数3~10の複素環基である。
B2は、炭素数2~4のアルキレン基である。
B3は、水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基、又は、環形成原子数3~10の複素環基である。
【0029】
bは、1~6の整数であり、好ましくは1~4の整数、より好ましくは1~3、更に好ましくは1である。
なお、bは、前記一般式(b-1)中のRB1との結合部位の数に応じて定められる。
例えば、RB1がアルキル基やシクロアルキル基等の1価の炭化水素基やアシル基の場合には、bは1となる。つまり、RB1が炭化水素基又は複素環基であり、当該基の価数が1、2、3、4、5、及び6価である場合、bはそれぞれ1、2、3、4、5及び6となる。
【0030】
aは、1以上の数であり、前記一般式(b-1)で表される化合物の数平均分子量の値に応じて適宜設定される値である。
なお、異なる2種以上の前記一般式(b-1)で表される化合物を用いる場合には、aの値は平均値(加重平均値)となり、当該平均値が1以上であればよい。
また、RB2及びRB3が複数存在する場合は、複数のRB2及びRB3は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0031】
なお、本発明の一態様において、前記一般式(b-1)中のRB1及びRB3の少なくとも一つが、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基、炭素数1~10の2~6価の炭化水素基、又は、環形成原子数3~10の複素環基であることが好ましく、炭素数1~10の1価の炭化水素基であることがより好ましい。
【0032】
B1及びRB3として選択し得る、炭素数1~10の1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、プロピルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等のアリールアルキル基;等が挙げられる。
なお、上記アルキル基は直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。
当該1価の炭化水素基の炭素数としては、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~4である。
【0033】
B1及びRB3として選択し得る、炭素数2~10のアシル基が有する炭化水素基部分は、直鎖、分岐鎖、環状のいずれであってもよい。当該炭化水素基部分としては、上述のRB1及びRB3として選択し得る1価の炭化水素基のうち炭素数1~9のものが挙げられる。
なお、当該アシル基の炭素数としては、好ましくは2~10、より好ましくは2~6である。
【0034】
B1として選択し得る、2~6価の炭化水素基としては、上述のRB1として選択し得る1価の炭化水素基から更に水素原子を1~5個除いた残基や、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、1,2,3-トリヒドロキシシクロヘキサン、1,3,5-トリヒドロキシシクロヘキサン等の多価アルコールから水酸基を除いた残基等が挙げられる。
なお、当該2~6価の炭化水素基の炭素数としては、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~4である。
【0035】
B1及びRB3として選択し得る、環形成原子数3~10の複素環基としては、酸素原子含有複素環基、又は硫黄原子含有複素環基が好ましい。なお、当該複素環基は、飽和環であってもよく不飽和環であってもよい。
当該酸素原子含有複素環基としては、例えば、1,3-プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、及びヘキサメチレンオキシド等の酸素原子含有飽和複素環や、アセチレンオキシド、フラン、ピラン、オキシシクロヘプタトリエン、イソベンゾフラン、及びイソクロメン等の酸素原子含有不飽和複素環が有する水素原子を1~6個除いた残基が挙げられる。
また、当該硫黄原子含有複素環基としては、例えば、エチレンスルフィド、トリメチレンスルフィド、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン、及びヘキサメチレンスルフィド等の硫黄原子含有飽和複素環や、アセチレンスルフィド、チオフェン、チアピラン、及びチオトリピリデン等の硫黄原子含有不飽和複素環等が有する水素原子を1~6個除いた残基が挙げられる。
当該複素環基の環形成原子数としては、好ましくは3~10、より好ましくは3~6、更に好ましくは5又は6である。
【0036】
B2として選択し得る、炭素数2~4のアルキレン基としては、例えば、エチレン基(-CHCH-)等の炭素数2のアルキレン基;トリメチレン基(-CHCHCH-)、1-メチルエチレン基(プロピレン基)(-CH(CH)CH-)等の炭素数3のアルキレン基;テトラメチレン基(-CHCHCHCH-)、1-メチルトリメチレン基(-CH(CH)CHCH-)、2-メチルトリメチレン基(-CHCH(CH)CH-)、ブチレン基(-C(CHCH-),1-エチルエチレン基(-CH(CHCH)CH-、1,2-ジメチルエチレン基(-CH(CH)-CH(CH)-)等の炭素数4のアルキレン基が挙げられる。
なお、RB2が複数存在する場合、複数のRB2は、互いに同一であってもよく、2種以上のアルキレン基の組み合わせであってもよい。
これらの中でも、RB2としては、エチレン基(-CHCH-)又は1-メチルエチレン基(プロピレン基)(-CH(CH)CH-)が好ましい。
【0037】
なお、前記一般式(b-1)で表される化合物において、オキシプロピレン単位(-OCH(CH)CH-)の含有量は、当該化合物の構造中のオキシアルキレン(式中のORB2)の全量(100モル%)基準で、好ましくは50~100モル%、より好ましくは65~100モル%、更に好ましくは80~100モル%である。
【0038】
本発明の一態様で用いる成分(B1)の40℃における動粘度としては、好ましくは8~350mm/s、より好ましくは10~150mm/s、更に好ましくは12~100mm/s、より更に好ましくは15~68mm/sである。
【0039】
また、本発明の一態様で用いる成分(B1)の粘度指数としては、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは120以上、より更に好ましくは140以上である。
【0040】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B1)の含有量は、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1.0~70質量%、より好ましくは1.2~50質量%、より好ましくは1.4~30質量%、更に好ましくは1.5~20質量%、より更に好ましくは1.7~12質量%、特に好ましくは1.9~6質量%である。
【0041】
[ポリオールエステル(B2)]
ポリオールエステル(B2)としては、例えば、分子内に四級炭素を一つ以上有し、且つ、当該四級炭素の少なくとも一つにメチロール基が1~4個結合してなるヒンダードポリオールと、脂肪族モノカルボン酸とのエステルであるヒンダードエステルが挙げられる。
ポリオールエステル(B2)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
なお、ポリオールエステル(B2)は、通常、ポリオールの全ての水酸基がエステル化された完全エステルであるが、本発明の効果に影響を与えない範囲で、一部の水酸基がエステル化されずに残った部分エステルを含んでいてもよい。
【0043】
前記ヒンダードポリオールとしては、下記一般式(b-2)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
【0044】
前記一般式(b-2)中、RB11及びRB12は、それぞれ独立に、炭素数1~6の一価の炭化水素基、又はメチロール基(-CHOH)である。
nは、0~4の整数を示し、好ましくは0~2、より好ましくは0~1、更に好ましくは0である。なお、n=0の場合は単結合となり、下記一般式(b-2’)で表される化合物となる。
【0045】
【化2】

〔前記一般式(b-2’)中、RB11及びRB12は、それぞれ独立に、炭素数1~6の一価の炭化水素基、又はメチロール基(-CHOH)である。〕
【0046】
B11及びRB12として選択し得る、炭素数1~6の一価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。
なお、上記アルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。
これらの中でも、RB11及びRB12として選択し得る、炭素数1~6の一価の炭化水素基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0047】
下記一般式(b-2)で表される化合物としては、例えば、ジアルキルプロパンジオール(アルキル基の炭素数は1~6である)、トリメチロールアルカン(アルカンの炭素数は2~7である)、ペンタエリスリトール等のヒンダードポリオール及びこれらの脱水縮合物が挙げられ、より具体的には、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、トリメチロールヘキサン、トリメチロールヘプタン、ペンタエリスリトール、2,2,6,6-テトラメチル-4-オキサ-1,7-ヘプタンジオール、2,2,6,6,10,10-ヘキサメチル-4,8-ジオキサ-1,11-ウンデカジオール、2,2,6,6,10,10,14,14-オクタメチル-4,8,12-トリオキサ-1,15-ペンタデカジオール、2,6-ジ(ヒドロキシメチル)-2,6-ジメチル-4-オキサ-1,7-ヘプタンジオール、2,6,10-トリ(ヒドロキシメチル)-2,6,10-トリメチル-4,8-ジオキサ-1,11-ウンデカジオール、2,6,10,14-テトラ(ヒドロキシメチル)-2,6,10,14-テトラメチル-4,8,12-トリオキサ-1,15-ペンタデカジオール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)、テトラ(ペンタエリスリトール)、ペンタ(ペンタエリスリトール)等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、及びこれらの二分子又は三分子の脱水縮合物が好ましく、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、及びペンタエリスリトールがより好ましく、トリメチロールプロパンが更に好ましい。
【0048】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数5~22の飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
当該飽和脂肪族モノカルボン酸のアシル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸等の直鎖状飽和モノカルボン酸;イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、2,2-ジメチルプロパン酸、2,2-ジメチルブタン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2,2-ジメチルオクタン酸、2-エチル-2,3,3-トリメチルブタン酸、2,2,3,4-テトラメチルペンタン酸、2,5,5-トリメチル-2-t-ブチルヘキサン酸、2,3,3-トリメチル-2-エチルブタン酸、2,3-ジメチル-2-イソプロピルブタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸等の分岐状飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
これらの脂肪族モノカルボン酸は、エステル化の際、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
飽和脂肪族モノカルボン酸の炭素数としては、好ましくは5~18、より好ましくは6~14、更に好ましくは8~10である。
【0049】
本発明の一態様で用いるポリオールエステル(B2)の40℃における動粘度としては、好ましくは8~350mm/s、より好ましくは10~150mm/s、更に好ましくは11~100mm/s、より更に好ましくは12~68mm/sである。
【0050】
また、本発明の一態様で用いるポリオールエステル(B2)の粘度指数としては、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上、より更に好ましくは120以上である。
【0051】
本発明の一態様で用いるポリオールエステル(B2)の数平均分子量(Mn)としては、好ましくは100~8,000、より好ましくは200~4,000、更に好ましくは300~2,000、より更に好ましくは400~1,000である。
【0052】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B2)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは2.0~90質量%、より好ましくは2.5~70質量%、より好ましくは3.0~55質量%、更に好ましくは3.5~40質量%、より更に好ましくは4.0~30質量%、特に好ましくは4.5~15質量%である。
【0053】
[成分(B1)及び(B2)以外の合成油]
本発明の一態様で用いる合成油(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B1)及び(B2)以外の他の合成油をさらに含有してもよい。
他の合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;二塩基酸エステル(例えば、ジトリデシルグルタレート等)、芳香族エステル(例えば、トリメリット酸2-エチルヘキシル、ピロメリット酸2-エチルヘキシル)、リン酸エステル等の成分(B2)以外の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の成分(B1)以外の各種エーテル;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;等が挙げられる。
これらの合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
<酸化防止剤(C)>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、酸化安定性を良好とすると共に、劣化生成物の発生を抑制し、スラッジ析出の抑制効果を向上させた潤滑油組成物とする観点から、アミン系酸化防止剤(C1)を含む酸化防止剤(C)を含有することが好ましい。
また、本発明の一態様で用いる酸化防止剤(C)は、アミン系酸化防止剤(C1)と共に、アミン系酸化防止剤(C1)以外の酸化防止剤をさらに含有してもよい。
【0055】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)中の成分(C1)の含有量としては、劣化生成物の発生を抑制し、スラッジ析出の抑制効果をより向上させ、且つ、酸化安定性に優れた潤滑油組成物とする観点から、成分(C)の全量(100質量%)基準で、好ましくは30~100質量%、より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは60~100質量%、より更に好ましくは70~100質量%である。
【0056】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)の含有量は、劣化生成物の発生を抑制し、スラッジ析出の抑制効果をより向上させ、且つ、酸化安定性に優れた潤滑油組成物とする観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~7質量%、更に好ましくは0.1~5質量%である。
【0057】
[アミン系酸化防止剤(C1)]
アミン系酸化防止剤(C1)としては、酸化防止性能を有するアミン系化合物であればよいが、ナフチルアミン(C11)、ジフェニルアミン(C12)等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤(C1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の一態様において、ナフチルアミン(C11)とジフェニルアミン(C12)とを共に含むことが好ましい。
【0058】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ナフチルアミン(C11)とジフェニルアミン(C12)との含有量比〔(C11)/(C12)〕としては、質量比で、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは15/85~85/15、更に好ましくは20/80~80/20、より更に好ましくは25/75~75/25である。
【0059】
ナフチルアミン(C11)としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン、アルキルフェニル-β-ナフチルアミン等が挙げられるが、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン及びアルキルフェニル-β-ナフチルアミンが好ましい。
アルキルフェニル-α-ナフチルアミン及びアルキルフェニル-β-ナフチルアミンが有するアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~30であるが、鉱油(A)及び合成油(B)との溶解性を向上させると共に、スラッジ析出の抑制効果をより向上させる観点から、より好ましくは1~20、更に好ましくは4~16、より更に好ましくは6~14である。
【0060】
ジフェニルアミン(C12)としては、下記一般式(c-1)で表される化合物であることが好ましく、下記一般式(c-2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0061】
【化3】
【0062】
前記一般式(c-1)、(c-2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基、環形成原子数6~18のアリール基で置換された炭素数1~30のアルキル基である。
当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
前記一般式(c-1)中、z1及びz2は、それぞれ独立に、0~5の整数であり、好ましくは0又は1、より好ましくは1である。なお、R及びRが複数存在する場合、複数のR及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0063】
なお、R及びRとして選択し得る、当該アルキル基の炭素数としては、1~30であるが、好ましくは1~20、より好ましくは1~10である。
当該アルキル基に置換し得るアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。
【0064】
アルキルフェニル-ナフチルアミンが有するアルキル基、及び、ジフェニルアミンが有し得るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0065】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、劣化生成物の発生を抑制し、スラッジ析出の抑制効果をより向上させ、且つ、酸化安定性に優れた潤滑油組成物とする観点から、アミン系酸化防止剤(C1)の窒素原子換算での含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~3000質量ppm、より好ましくは100~2000質量ppm、更に好ましくは120~1500質量ppm、より更に好ましくは150~1000質量ppmである。
【0066】
[アミン系酸化防止剤(C1)以外の酸化防止剤]
酸化防止剤(C)としては、上述のアミン系酸化防止剤(C1)以外の酸化防止剤も含有してもよい。そのような酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0067】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6-ジ-t-アミル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の単環フェノール系化合物や、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等の多環フェノール系化合物が挙げられる。
【0068】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、アミン系酸化防止剤(C1)100質量部に対する、フェノール系酸化防止剤の含有量としては、好ましくは0~100質量部、より好ましくは0~60質量部、更に好ましくは0~40質量部である。
【0069】
<リン系化合物(D)>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、耐摩耗性の向上の観点から、さらに、中性リン酸エステル(D1)、酸性リン酸エステル(D2)、酸性リン酸エステルのアミン塩(D3)、及び硫黄-リン系化合物(D4)から選ばれる1種以上のリン系化合物(D)を含有することが好ましい。
なお、さらに防錆性を向上させる観点から、成分(D)は、成分(D1)及び成分(D3)から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。また、比較的少量の添加量で酸化安定性と耐摩耗性とを両立できる観点から、成分(D3)及び成分(D4)から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0070】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)のリン原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは10~1600質量ppm、より好ましくは20~1200質量ppm、更に好ましくは50~1000質量ppm、より更に好ましくは100~800質量ppm、特に好ましくは150~600質量ppmである。なお、成分(D3)及び成分(D4)から選ばれる1種以上を用いるときは、該リン原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは10~50質量ppm、より好ましくは10~30質量ppmとすることができる。
【0071】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~2.0質量%、より好ましくは0.02~1.5質量%、更に好ましくは0.05~1.0質量%、より更に好ましくは0.10~0.70質量%である。なお、成分(D3)及び成分(D4)から選ばれる1種以上を用いるときは、成分(D)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~1.0質量ppm、より好ましくは0.01~0.2質量ppm、さらに好ましくは0.01~0.05質量ppmとすることができる。
【0072】
[中性リン酸エステル(D1)]
中性リン酸エステル(D1)としては、下記一般式(d1-1)で表される化合物(D11)であることが好ましい。
【化4】
【0073】
前記一般式(d1-1)中、RD1~RD3は、それぞれ独立に、炭素数1~18(好ましくは3~18)のアルキル基、又は、炭素数1~18(好ましくは3~12)のアルキル基で置換された環形成炭素数6~18のアリール基である。
D1~RD3として選択し得る、炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
これらのアルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0074】
前記環形成炭素数6~18のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルナフチル基等が挙げられ、フェニル基が好ましい。
なお、RD1~RD3として選択し得る、「炭素数1~18のアルキル基で置換されたアリール基」としては、上述のアリール基の環形成炭素原子と結合している水素原子の少なくとも一つが、上述の炭素数1~18のアルキル基によって置換された基が挙げられる。
【0075】
化合物(D11)としては、下記一般式(d1-2)で表される化合物(D12)であることがより好ましい。
【化5】
【0076】
前記一般式(d1-2)中、RD11~RD13は、それぞれ独立に、炭素数1~18のアルキル基である。当該アルキル基としては、上述のRD11~RD13として選択し得るアルキル基と同じものが挙げられる。
11~R13として選択し得る、当該アルキル基の炭素数としては、1~18であるが、防錆性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは3~12、より好ましくは3~8、更に好ましくは3~6、より更に好ましくは3である。
また、p1~p3は、それぞれ独立に、1~5の整数であり、1~2の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0077】
[酸性リン酸エステル(D2)]
酸性リン酸エステル(D2)としては、下記一般式(d2-1)で表される化合物、及び、下記一般式(d2-2)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【化6】
【0078】
前記一般式(d2-1)、(d2-2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基である。当該アルキル基としては、上述のRD1~RD3として選択し得るアルキル基のうち、炭素数1~12のアルキル基と同じものが挙げられる。
及びRとして選択し得る、当該アルキル基の炭素数としては、好ましくは3~10、より好ましくは6~10、更に好ましくは8~10である。
なお、前記一般式(d2-1)中のR及びRは、同一であってもよく、互いに異なるものであってもよい。
【0079】
[酸性リン酸エステルのアミン塩(D3)]
酸性リン酸エステルのアミン塩(D3)としては、前記一般式(d2-1)で表される化合物のアミン塩、及び、前記一般式(d2-2)で表される化合物のアミン塩から選ばれる1種以上であることが好ましい。
当該アミン塩を形成するアミンとしては、下記一般式(d3)で表される化合物であることが好ましい。なお、当該アミンは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化7】
【0080】
前記一般式(d3)中、qは、1~3の整数を示す。
は、それぞれ独立に、炭素数6~18のアルキル基、炭素数6~18のアルケニル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基、又は炭素数6~18のヒドロキシアルキル基であり、炭素数6~18のアルキル基が好ましい。
なお、Rが複数存在する場合、複数のRは、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0081】
として選択し得る、前記アルキル基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
として選択し得る、当該アルキル基の炭素数としては、6~18であるが、好ましくは7~16、より好ましくは8~15、更に好ましくは10~13である。
【0082】
として選択し得る、前記アルケニル基としては、例えば、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等が挙げられる。
当該アルケニル基は、直鎖アルケニル基であってもよく、分岐鎖アルケニル基であってもよい。
として選択し得る、当該アルケニル基の炭素数としては、6~18であるが、好ましくは7~16、より好ましくは8~15、更に好ましくは10~13である。
【0083】
として選択し得る、前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルナフチル基等が挙げられる。
として選択し得る、当該アリール基の炭素数としては、6~18であるが、好ましくは6~16、より好ましくは6~14である。
【0084】
として選択し得る、前記アリールアルキル基としては、上述のアルキル基が有する水素原子が上述のアリール基に置換された基が挙げられ、具体的には、フェニルメチル基、フェニルエチル等が挙げられる。
として選択し得る、当該アリールアルキル基の炭素数としては、7~18であるが、好ましくは7~16、より好ましくは8~14である。
【0085】
として選択し得る、前記ヒドロキシアルキル基としては、上述のアルキル基が有する水素原子がヒドロキシ基に置換された基が挙げられ、具体的には、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシトリデシル基等が挙げられる。
として選択し得る、当該ヒドロキシアルキル基の炭素数としては、6~18であるが、好ましくは7~16、より好ましくは8~15、更に好ましくは10~13である。
【0086】
[硫黄-リン系化合物(D4)]
硫黄-リン系化合物(D4)としては、モノチオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、トリチオリン酸エステル、モノチオリン酸エステルのアミン塩、ジチオリン酸エステルのアミン塩、モノチオ亜リン酸エステル、ジチオ亜リン酸エステル、トリチオ亜リン酸エステルなどが挙げられ、これらの中では、ジチオリン酸エステルが好ましい。
また、耐摩耗性をより良好にする観点から、ジチオリン酸エステルの中でも、末端にカルボキシル基あるいはエステル残基を有するジチオリン酸エステルが好ましい。硫黄-リン系化合物(D4)は、末端にカルボキシル基やエステル残基を有することで極性が高くなるため、上記した特定のエステル系合成基油(A)を基油として使用する本実施形態においても、極圧剤としての機能を発揮しやすくなる。
【0087】
末端にカルボキシル基あるいはエステル残基を有するジチオリン酸エステルの具体例としては、以下の一般式(d4)で示される化合物が挙げられる。
【化8】

式(d4)において、Rは炭素数1~8の直鎖又は分岐のアルキレン基を表し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~20の炭化水素基を表す。またRは水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。
【0088】
式(d4)においては、Rは、基油に対する溶解性を良好にする観点から、直鎖又は分岐の炭素数1~8のアルキレン基であることが好ましく、直鎖又は分岐の炭素数2~4のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数2のアルキレン基又は分岐の炭素数3~4のアルキレン基であることが更に好ましい。具体的には、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH2CH3)-、-CH2CH(CH3)CH2-、及び-CH2CH(CH2CH2CH3)-等が好ましく挙げられ、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH3)CH2-がより好ましく、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-がさらに好ましい。
【0089】
及びRそれぞれは、極圧性能を良好なものとしつつ、基油に対する溶解性を良好にする観点から、直鎖又は分岐の炭素数1~8のアルキル基が好ましく、直鎖又は分岐の炭素数3~6のアルキル基がより好ましい。具体的には、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、2-エチルブチル、1-メチルペンチル、1,3-ジメチルブチルおよび2-エチルヘキシルの各基からなる群より選ばれるように選択されることが好ましく、これらのうち、イソプロピル、イソブチル、t-ブチルが更に好ましい。
【0090】
またRは、極圧性能や基油に対する溶解性を良好なものとする観点から、水素原子又は、直鎖あるいは分岐の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。具体的には、水素原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルおよびt-ブチルの各基が好ましく、これらのうち、水素原子、メチル基、エチル基が更に好ましい。
【0091】
<他の潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の成分(B)~(D)以外の他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、防錆剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、消泡剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
これらの潤滑油用添加剤を配合する場合、潤滑油用添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、添加剤の種類に応じて適宜調整されるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常0.001~10質量%、好ましくは0.005~5質量%、より好ましくは0.01~2質量%である。
【0093】
PAGやPOE等の基油に、アルケニルコハク酸エステルを配合してなる潤滑油組成物は、水分離性の低下も招く。
しかしながら、本発明の潤滑油組成物では、アルケニルコハク酸エステルと相溶性が良好である鉱油(A)を含有しているため、アルケニルコハク酸エステルが有する防錆性を効果的に発現させることができる。また、アルケニルコハク酸エステルを配合しても、良好な水分離性を有する潤滑油組成物とすることができる。
【0094】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、アルケニルコハク酸エステルの含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~5.0質量%、より好ましくは0.005~2.0質量%、更に好ましくは0.01~1.0質量%、より更に好ましくは0.02~0.50質量%である。
【0095】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、高温環境下で長期間の使用に伴い発生するスラッジを抑制する観点から、金属原子含有化合物を実質的に含有しないことが好ましい。
ここで、「金属原子含有化合物」が含有する金属原子とは、アルカリ金属原子、アルカリ土類原子、遷移金属原子を指す。
【0096】
なお、本明細書において、「金属原子含有化合物を実質的に含有しない」とは、所定の目的をもって、金属原子含有化合物を含有させる態様を否定する規定であって、金属原子含有化合物が不純物として含有する場合まで否定する規定ではない。
ただし、不純物として含まれる金属原子含有化合物の含有量についても、極力少ない程好ましい。
【0097】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属原子の含有量としては、高温環境下で長期間の使用に伴い発生するスラッジを抑制する観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100質量ppm未満、より好ましくは50質量ppm未満、更に好ましくは10質量ppm未満、より更に好ましくは5質量ppm未満である。
本明細書において、金属原子の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定した値を意味する。
【0098】
〔潤滑油組成物の各種物性〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは5~300mm/s、より好ましくは10~200mm/s、更に好ましくは15~100mm/sである。
【0099】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは105以上、より更に好ましくは110以上である。
【0100】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、ASTM D7873の酸化安定性試験(Dry-TOST法)に準拠して測定した、120℃の環境下での、試験開始から960時間後のスラッジ生成量としては、好ましく1.0mg/100ml以下、より好ましく0.7mg/100ml以下、更に好ましく0.5mg/100ml以下である。
なお、当該スラッジ生成量は、ASTM D7873に準拠し、平均孔径1.0μmのメンブランフィルターを用いて測定した値である。
【0101】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、ASTM D7873の酸化安定性試験(Dry-TOST法)に準拠して測定した、120℃の環境下での、試験開始から960時間後のRPVOT残存率としては、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは72%以上である。
なお、RPVOT残存率は、下記の式より算出された値である。
・[RPVOT残存率](%)=[試験後のサンプルのRPVOT時間]/[試験前のサンプルのRPVOT時間]×100
【0102】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、JIS K2520に準拠し、温度54℃における水分離性試験を行った際、乳化層が3mLに到達するまでの時間を表す抗乳化度としては、好ましくは15分以下、より好ましくは10分以下、更に好ましくは5分以下である。
【0103】
本発明の一態様の潤滑油組成物について、後述の実施例の測定条件に基づいて測定されたトラクション係数としては、好ましくは0.020以下、より好ましくは0.018以下である。
【0104】
〔潤滑油組成物の用途、潤滑方法〕
本発明の潤滑油組成物は、ターボ機械、圧縮機(冷凍機を除く)、油圧機器、又は工作機械に用いられるものである。
具体的には、本発明の一態様の潤滑油組成物は、ポンプ、真空ポンプ、送風機、ターボ圧縮機、蒸気タービン、原子力タービン、ガスタービン、水力発電用タービン等のターボ機械の潤滑に用いられるターボ機械用潤滑油(ポンプ油、タービン油等);回転式圧縮機、往復動式圧縮機等の圧縮機の潤滑に用いられる軸受油、ギヤ油及び制御系作動油;油圧機器に用いられる油圧作動油;工作機械の油圧ユニットに用いられる工作機械用潤滑油;等として好適に使用し得る。
【0105】
つまり、本願は、下記〔1〕の使用方法も提供し得る。
〔1〕鉱油(A)と、ポリアルキレングリコール(B1)及びポリオールエステル(B2)を含む合成油(B)とを含有し、鉱油(A)の含有量が5~95質量%である潤滑油組成物を、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、又は工作機械に用いる、潤滑油組成物の使用方法。
なお、本発明の潤滑油組成物の具体的な構成、並びに、ターボ機械、圧縮機、油圧機器、及び工作機械の具体的な例示は、上述のとおりである。
【実施例
【0106】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0107】
[各種物性値の測定方法]
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)数平均分子量(Mn)
下記の測定条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法に準拠し、標準ポリスチレン換算でのMnを測定した。
(測定条件)
・ゲル浸透クロマトグラフ装置:アジレント社製、「1260型HPLC」
・標準試料:ポリスチレン
・カラム:Shodex社製「LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
(3)リン原子、金属原子の含有量
JPI-5S-38-92に準拠して測定した。
(4)窒素原子の含有量
JIS K2609に準拠して測定した。
【0108】
実施例1~7、比較例1~5
下記に示す鉱油、合成油、アミン系酸化防止剤、リン系化合物、及び他の添加剤を、表1に示す配合量にて添加し、十分に混合して、潤滑油組成物(I)~(VII)及び(i)~(v)をそれぞれ調製した。
これらの潤滑油組成物の調製に使用した各成分の詳細は、以下のとおりである。
【0109】
(鉱油)
・「150N鉱油」:APIの基油カテゴリーのグループ2に分類される鉱油、40℃動粘度=30.6mm/s、粘度指数=104。
(合成油)
・「PAG」:H-(OCH(CH)CH-OCで表される、一方の末端がブチルエーテルで封止されたポリプロピレングリコール(前記一般式(b-1)中のRB1が水素原子、RB2がプロピレン基、RB3がn-ブチル基、bが1である化合物)。40℃動粘度=37.2mm/s、粘度指数=173、Mn=800。
・「POE」:トリメチロールプロパントリエステル(トリメチロールプロパンと炭素数8~10のカルボン酸との完全エステル)。40℃動粘度=19.6mm/s、粘度指数=138。
(アミン系酸化防止剤)
・「ナフチルアミン」:p-オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、窒素原子含有量=4.2質量%。
・「ジフェニルアミン」:ビス(p-オクチルフェニル)アミン、前記一般式(c-2)中のR及びRがオクチル基である化合物、窒素原子含有量=3.6質量%。
(リン系化合物)
・「中性リン酸エステル」:トリス(p-イソプロピルフェニル)ホスフェート、前記一般式(d1-2)中のp1~p3が1であり、RD11~RD13がイソプロピル基であって、当該イソプロピル基がパラ位に結合した化合物。リン原子含有量=6.8質量%。
・「酸性リン酸エステルアミン」:前記一般式(d2-1)及び前記一般式(d2-2)で表される化合物の混合物と、前記一般式(d3)で表される化合物とのアミン塩(一般式(d2-1)及び一般式(d2-2)におけるR及びRは炭素数8又は10のアルキル基であり、一般式(d3)におけるRは炭素数12のアルキル基、qは1又は2である)。リン原子含有量=4.8質量%。
・チオリン酸エステル1:3-ジイソブトキシフォスフィノチオイルサルファニル-2-メチルプロパノイックアシド、リン原子含有量=9.3質量%。
・チオリン酸エステル2:エチル-3-[{ビス(1-メチルエトキシ)フォスフィノチオイル}チオ]プロピオネート、リン原子含有量=9.9質量%
(他の添加剤)
・「防錆剤」:アルケニルコハク酸のハーフエステル。
・「消泡剤」:シリコーン系消泡剤、アクリル系消泡剤。
【0110】
調製した潤滑油組成物の各々について、表1及び2に示す各種物性値を上述の方法に基づき測定すると共に、以下の試験を行って、潤滑油組成物の各種性状を評価した。これらの結果を表1及び2に示す。
【0111】
(1)酸化安定性試験(Dry-TOST)
ASTM D7873の酸化安定性試験(Dry-TOST)に準拠して、120℃の環境下で、試験開始から960時間後のスラッジ生成量及びRPVOT残存率を測定した。
なお、スラッジ生成量は、ASTM D7873に準拠し、平均孔径1.0μmのミリポア社のメンブランフィルターを用いて測定した。
また、RPVOT残存率は、下記の式より算出した。
・[RPVOT残存率](%)=[試験後のサンプルのRPVOT時間]/[試験前のサンプルのRPVOT時間]×100
【0112】
(2)水分離性試験
JIS K2520に準拠し、温度54℃における水分離性試験を行い、乳化層が3mLに到達する時間(抗乳化度、単位:分)を測定した。
【0113】
(3)トラクション係数の測定
EHD油膜測定器(PCS Instumental社製)を用いて、下記の測定条件にて、トラクション係数を測定した。
・ディスク:直径46mm、SAE AISI52100鋼
・ボール:直径19mm、SAE AISI52100鋼
・荷重:20N
・転がり速度:2.0m/s
・油温:60℃
・すべり率:10%
【0114】
(4)耐摩耗性試験
FZGギヤ試験機を用い、ISO 14635-1に準拠し、規定に沿って段階的に荷重を上げ、スコーリングが発生した荷重のステージを評価した。荷重のステージが高いほど、耐スコーリング性に優れることを示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
実施例1~7で調製した潤滑油組成物は、酸化安定性に優れており、スラッジ析出の抑制効果が高く、また、優れた水分離性を有する結果となった。また、トラクション係数も低く、耐摩耗性の向上効果も見られた。
一方、比較例1で調製した潤滑油組成物は、酸化安定性が劣り、実施例に比べて、スラッジ生成量が多く、RPVOT残存率も低い結果となった。また、耐摩耗性の観点からも不十分である。
また、比較例2、3、4、5で調製した潤滑油組成物は、酸化安定性及び耐摩耗性は良好であるが、水分離性が劣り、これらの中でも比較例4は酸化安定性が特に悪く、スラッジ生成量がかなり多い結果となった。