(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】栄養組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/19 20160101AFI20221222BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20221222BHJP
A61P 21/06 20060101ALI20221222BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20221222BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221222BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20221222BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A23L33/19
A61K35/20
A61P21/06
A61K38/17
A61K9/08
A61K33/30
A61K31/202
(21)【出願番号】P 2019521239
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2018020589
(87)【国際公開番号】W WO2018221526
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2017109026
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】永渕 真也
(72)【発明者】
【氏名】高崎 将一
(72)【発明者】
【氏名】川島 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】大力 一雄
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-533627(JP,A)
【文献】特表2015-532104(JP,A)
【文献】特表2013-534133(JP,A)
【文献】特表2004-506437(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026429(WO,A1)
【文献】特開2010-150160(JP,A)
【文献】特表2002-538797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性の栄養組成物であって、
ホエイタンパク質及びホエイペプチドを含むタンパク質源を含有し、
前記タンパク質源の総重量に対する前記ホエイタンパク質の重量と前記ホエイペプチドの重量との合計の比率は、80重量%以上であり、
前記ホエイタンパク質の重量と前記ホエイペプチドの重量との比率は、5:1~1:10であり、
タンパク質エネルギー比が16%以上かつ50%未満であり、
100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、
EPAを1~100mg/100kcalで含有し、DHAを1~100mg/100kcalで含有し、
パラチノースを含有し、
前記パラチノースは、糖質全体の20重量%以上であり、
酸性であり、
骨格筋量増加用の栄養組成物である、栄養組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の栄養組成物であって、
当該栄養組成物のpHは、3以上5以下である、栄養組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の栄養組成物であって、
亜鉛をさらに含有する、栄養組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の栄養組成物であって、
前記タンパク質源は、ロイシンをさらに含む、栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、栄養組成物に関し、より詳細には、流動性の栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、患者等に投与するための様々な栄養組成物が知られている。栄養組成物は、例えば、患者等に不足している栄養成分を補い、病気の予防や改善に寄与する。
【0003】
特表2013-515718号公報には、筋退縮を伴う疾患の予防又は処置に用いられる栄養組成物が開示されている。当該栄養組成物は、100kcal当たり、少なくとも約12gのタンパク質様物質を含有する。タンパク質様物質には、約80重量%のホエイタンパク質が含まれる。
【0004】
特表2013-515718号公報の栄養組成物は、低カロリー且つ高タンパク質に構成されている。特表2013-515718号公報によれば、低カロリー組成物中に食物性タンパク質を与えると、高カロリー組成物中に食物性タンパク質を与えた場合と比較して、アミノ酸がより早く循環血液に達し、アミノ酸の血中レベルが高くなる。これにより、筋タンパク質の合成が刺激される。
【発明の開示】
【0005】
リハビリテーション中の患者は、一般に、低栄養の状態であることが多い。リハビリテーション中の患者が低栄養の状態のまま、十分な栄養を摂取しないと、身体機能を改善することができず、身体機能を悪化することさえある。したがって、リハビリテーション中の患者が適切な栄養の状態を維持すること(リハビリテーション栄養)が重要である。
【0006】
リハビリテーション栄養が必要な疾患として、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝不全、関節リウマチ、慢性心不全、慢性腎不全、下肢切断、大腿骨頸部骨折、糖尿病、脳卒中、癌、廃用症候群、パーキンソン病、誤嚥性肺炎、褥瘡などが挙げられる。これらの疾患では、炎症を伴うことがある。そして、炎症が起こると、筋タンパク質の異化を亢進して、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や、体重の減少を伴う悪液質を引き起こす原因となる。また、炎症が持続すると、食欲が低下して、十分な栄養を摂取しにくくなる。したがって、リハビリテーション栄養を成功させるためには、栄養療法とともに、炎症のコントロールも必要である。
【0007】
リハビリテーション中の患者の栄養の状態を適切に維持するために、栄養組成物がリハビリテーション中の患者に投与される。このとき、リハビリテーション中の患者が継続的に摂取しやすいように、栄養組成物が良好な風味を有することが好ましい。また、栄養組成物が安定した物性を有し、保存期間中にも良好な風味を維持することが好ましい。さらに、食欲不振に陥りがちなリハビリテーション中の患者が少量で必要な栄養成分を摂取できるように、栄養組成物が高カロリー(高エネルギー)な液状であることが好ましい。従来、このような用途には、脂質を高濃度で配合した栄養組成物や、タンパク質源として遊離のアミノ酸を配合した栄養組成物が用いられてきた。しかし、これらの栄養組成物には、風味が悪くて、継続的な摂取が困難である、あるいは摂取に伴い、下痢が起こるといった問題点があった。また、筋タンパク質の合成促進・異化抑制のためには、液状の組成物のタンパク質の含量を高めておくことが望ましいが、タンパク質の含量を高めると、液状の組成物の調製時の物性変化が起こりやすいといった問題点があった。
【0008】
本開示は、良好な風味及び安定した物性を有し、高カロリーであり、かつ炎症をコントロールすることができる栄養組成物を提供することを課題とする。
【0009】
本開示に係る栄養組成物は、タンパク質源を含有する。タンパク質源は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドを含む。タンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との合計の比率は、80重量%以上である。栄養組成物のタンパク質エネルギー比は、16%以上かつ50%未満である。栄養組成物は、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有する。栄養組成物は、酸性である。栄養組成物は、骨格筋量を増加させるために用いられる。
【0010】
本開示に係る栄養組成物は、酸性であるため、良好な風味を有する。すなわち、患者は、栄養組成物に対して、爽やかな風味を感じることができ、栄養組成物を抵抗なく摂取することができる。また、本開示に係る栄養組成物は、リハビリテーション中の患者等が摂取することにより、リハビリテーション中の患者等の骨格筋量を増加させることができる。このため、この栄養組成物により、リハビリテーションを効果的に行うことができる。
【0011】
本開示に係る栄養組成物において、タンパク質源の総重量のうち80重量%以上は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドである。ホエイタンパク質及びホエイペプチドは、カゼインと比較して、酸性下で固化しにくい。このため、栄養組成物において、沈殿の発生等が抑制や防止され、物性を安定させることができる。また、ホエイタンパク質及びホエイペプチドは、抗炎症作用を有する。このため、栄養組成物により、リハビリテーション中の患者等の炎症をコントロールすることができる。
【0012】
本開示に係る栄養組成物は、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、一般的な栄養組成物よりも高カロリーに構成されている。このため、本開示に係る栄養組成物によれば、比較的に少量の摂取で、患者に必要な栄養成分を補うことができる。
【0013】
本開示に係る栄養組成物において、ホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との比率は、5:1~1:10であってもよい。
【0014】
ホエイペプチドは高い抗炎症作用を有する。しかし、ペプチドを増やしすぎると、浸透圧が高くなり、下痢を引き起こす恐れがある。しかし、上記構成によれば、ホエイタンパク質とホエイペプチドとの重量比が5:1~1:10の範囲であるため、ホエイペプチドの含有量が多くなり過ぎない。よって、栄養組成物の浸透圧が高くなって、下痢等を引き起こすことを防止しながら、高い抗炎症作用をもたせることができる。
【0015】
本開示に係る栄養組成物において、pHは、3以上5以下であってもよい。
【0016】
上記構成によれば、栄養組成物を摂取する患者に対して、好ましい酸味を感じさせることができる。よって、患者が栄養組成物を継続的に摂取しやすくなる。
【0017】
本開示に係る栄養組成物は、さらに、脂質源を含有していてもよい。脂質源は、n-3系脂肪酸を含むことができる。
【0018】
上記構成によれば、n-3系脂肪酸によって、患者の疾患に伴う炎症を抑制することができる。よって、炎症が引き起こす筋タンパク質の異化の亢進を防止することができ、その結果、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や、体重の減少を伴う悪液質等を防止することができる。また、炎症の持続による食欲減退を防止することもできる。
【0019】
本開示に係る栄養組成物は、亜鉛をさらに含有していてもよい。
【0020】
本開示に係る栄養組成物において、タンパク質源は、ロイシンをさらに含んでいてもよい。
【0021】
また、本開示は、流動性の栄養組成物の使用にも向けられている。流動性の栄養組成物は、骨格筋量増加用の栄養組成物の製造のために使用される。流動性の栄養組成物は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドを含むタンパク質源を含有し、タンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との合計の比率は、80重量%以上である。流動性の栄養組成物のタンパク質エネルギー比は16%以上かつ50%未満であり、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、酸性である。
【0022】
また、本開示の流動性の栄養組成物は、対象の骨格筋量を増加させるために使用される。流動性の栄養組成物は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドを含むタンパク質源を含有し、タンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との合計の比率は、80重量%以上である。流動性の栄養組成物のタンパク質エネルギー比は16%以上かつ50%未満であり、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、酸性である。
【0023】
また、本開示は、対象の骨格筋量の増加方法にも向けられている。対象の骨格筋量の増加方法は、流動性の栄養組成物を対象に摂取させる工程を含む。流動性の栄養組成物は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドを含むタンパク質源を含有し、タンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との合計の比率は、80重量%以上である。流動性の栄養組成物は、タンパク質エネルギー比が16%以上かつ50%未満であり、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、酸性である。
【0024】
本開示によれば、良好な風味及び安定した物性を有し、高カロリーの栄養組成物を得ることができ、かつ炎症をコントロールすることができ、骨格筋量を増加させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
例えば、リハビリテーション中の患者は、一般に、低栄養の状態であることが多い。リハビリテーション中の患者が十分な栄養を摂取しない場合、身体機能を改善することができず、身体機能を悪化する場合がある。したがって、リハビリテーション中の患者等のように、低栄養の状態に陥りやすい患者について、栄養の状態に留意し、栄養の状態を適切に維持することが重要である。
【0026】
栄養の状態に留意すべき疾患として、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝不全、関節リウマチ、慢性心不全、慢性腎不全、下肢切断、大腿骨頸部骨折、糖尿病、脳卒中、癌、廃用症候群、パーキンソン病、誤嚥性肺炎、及び褥瘡等を挙げることができる。これらの疾患は、炎症を伴うことがある。そして、炎症が起こると、筋タンパク質の異化を亢進し、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や、体重の減少を伴う悪液質等を引き起こす。また、炎症が持続すると、食欲が減退し、十分な栄養を摂取しにくくなる。
【0027】
[栄養組成物の構成]
本実施形態に係る栄養組成物は、患者の栄養の状態を適切に維持するために使用される。本実施形態に係る栄養組成物は、主として、リハビリテーション栄養、あるいはリハビリテーション栄養のサポートのために用いられる。すなわち、この栄養組成物は、リハビリテーション中の患者に用いられ、低栄養の予防及び/又は改善に寄与し得る。この栄養組成物は、上述の疾患を有する患者等のように、適切な栄養の状態を維持すべき患者に投与することができる。この栄養組成物は、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予防及び/又は改善のために使用される。この栄養組成物は、筋タンパク質の合成を促進し、筋タンパク質の分解を抑制するためにも使用される。つまり、この栄養組成物は、骨格筋量の増加に寄与する。このため、リハビリテーション中の患者のリハビリテーションを効果的に行うことができる。この栄養組成物は、炎症の抑制にも寄与し得る。以下、この栄養組成物の構成について説明する。
【0028】
本実施形態に係る栄養組成物は、流動性である。この栄養組成物は、例えば、液状である。この栄養組成物は、酸性を有する。この栄養組成物において、好ましくは、pHが3~5である。
【0029】
本実施形態に係る栄養組成物において、pHが3~5であれば、この栄養組成物を摂取する患者に対して、適度な酸味を感じさせることができる。このため、この栄養組成物を患者が継続的に摂取しやすくなり、患者の栄養の状態を適切に維持することができる。
【0030】
本実施形態に係る栄養組成物は、比較的に高カロリーである。すなわち、この栄養組成物は、好ましくは、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、より好ましくは、125kcal/100ml以上、さらに好ましくは150kcal/100ml以上のカロリー密度を有する。
【0031】
本実施形態に係る栄養組成物は、タンパク質源と脂質源とを含有する。この栄養組成物は、好ましくは、タンパク質源を2~8g/100kcalで含有し、より好ましくは、タンパク質源を3~6g/100kcal、さらに好ましくは4~6g/100kcalで含有することができる。この栄養組成物は、好ましくは、脂質源を1~4g/100kcalで含有し、より好ましくは、脂質源を2~3.5g/100kcal、さらに好ましくは脂質源を2~3g/100kcalで含有することができる。前記のタンパク質源や脂質源の量となることで、高カロリー(カロリー密度が高く)かつ保存後の物性がより良好である。
【0032】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源は、骨格筋に含まれる筋タンパク質の合成の促進に寄与する。このタンパク質源は、ホエイタンパク質とホエイペプチドとを含む。この栄養組成物において、タンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との合計の比率は、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。この栄養組成物において、ホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との比率は、好ましくは5:1~1:10であり、より好ましくは3:1~1:7である。
【0033】
本実施形態に係る栄養組成物は、ホエイタンパク質とホエイペプチドとの重量比を5:1~1:10の範囲に設定することにより、この栄養組成物において、浸透圧を増加させるホエイペプチドの含有量が多くなり過ぎるのを防止することができる。よって、この栄養組成物において、浸透圧が高くなって、下痢等を引き起こすことを防止しつつ、抗炎症作用をもたせることができる。
【0034】
本実施形態に係るホエイとは、例えば牛乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分である。ホエイは一般的に、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に、副産物として得られるチーズホエイやレンネットホエイ(またはスイートホエイともいう)、脱脂乳から酸カゼイン、発酵乳やクワルクなどを製造した際に得られるカゼインホエイ、酸ホエイ、クワルクホエイである。ホエイタンパク質とは、例えば牛乳中で、カゼインを除くタンパク質の総称である。ホエイタンパク質は、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリンなどの複数の成分から構成されており、乳糖、ビタミン、ミネラルなどは含まれない。牛乳などの乳原料を酸性に調整した際に、沈殿するタンパク質がカゼイン、沈殿しないタンパク質がホエイタンパク質となる。
【0035】
なお、本実施形態に係るホエイには、ホエイを濃縮処理した濃縮ホエイ、ホエイを乾燥処理したホエイパウダー、ホエイの主要なタンパク質などを限外濾過(Ultrafiltration:UF)法などで濃縮処理した後に乾燥処理したホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate:以下、「WPC」ともいう)、ホエイを精密濾過(Microfiltration:MF)法や遠心分離法などで脂肪を除去してからUF法で濃縮処理した後に乾燥処理した脱脂WPC(低脂肪・高タンパク質)、ホエイの主要なタンパク質などをイオン交換樹脂法やゲル濾過法などで選択的に分画処理した後に乾燥処理したホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate:以下、「WPI」ともいう)、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)法や電気透析法などで脱塩処理した後に乾燥処理した脱塩ホエイ、ホエイ由来のミネラル成分を沈殿処理してから遠心分離法などで濃縮処理したミネラル濃縮ホエイなども包含される。
【0036】
本実施形態に係るホエイペプチドは、例えば、ホエイやホエイタンパク質を以下の酵素などで加水分解して製造できる。ホエイの加水分解に用いる酵素は、ペプシン、トリプシンおよびキモトリプシンであるが、植物起源のパパイン、バクテリアや菌類由来のプロテアーゼを用いた研究報告(Food Technol.,48:68-71,1994;Trends Food Sci.Technol.,7:120-125,1996;Food Proteins and Their Applications,pp.443-472,1997)もある。ホエイタンパク質を加水分解する酵素活性は大きく変動する。ペプシンはα-Laおよび変性したα-Laを分解するが、未変性の(native)β-Lgを分解しない(Neth.Milk dairy J.,47:15-22,1993)。トリプシンはα-Laをゆっくり加水分解するがβ-Lgはほとんど未分解のままである(Neth.Milk dairy J.,45:225-240,1991)。キモトリプシンはα-Laを速く分解するが、β-Lgはゆっくり分解される。パパインはウシ血清アルブミン(BSA)およびβ-Lgを加水分解するが、α-Laは抵抗性がある(Int.Dairy Journal 6:13-31,1996a)。しかしながら、Caを結合していないα-Laは酸性のpHでパパインにより完全に分解される(J.Dairy Sci.,76:311-320,1993)。
【0037】
ペプチド結合の加水分解は、荷電基の数および疎水性の増加、低分子量化、および分子の立体配置の修飾をもたらす(J.Dairy Sci.,76:311-320,1993)。機能的特性の変化は加水分解度に大きく依存する。ホエイタンパク質の機能性に共通してみられる最も大きな変化は溶解性の増加と粘度の低下である。加水分解度が高い場合、しばしば、加水分解物は加熱しても沈澱せず、pH3.5~4.2で溶解性が高い。加水分解物は、また、無処置の(intact)タンパク質よりもはるかに粘度が低い。この差異はとくにタンパク質濃度が高い場合に顕著である。その他の影響は、ゲル特性の変化、熱安定性を高める、乳化および起泡性の増強、乳化および泡の安定性の低下である。
【0038】
本実施形態で用いられるホエイペプチドは、抗炎症作用を有することが好ましい。例えばin vivoにおけるLPS誘導性TNF-αおよびIL-6産生を抑制する作用を確認する。LPS誘導性TNF-αおよびIL-6産生を抑制する作用を有するかどうかは、公知のアッセイ系(例えば、実験医学別冊、「バイオマニュアルUP実験シリーズ」、サイトカイン実験法、宮島篤、山本雅 編、(株)羊土社、1997)で確認できる。LPS誘導性TNF-α及び/又はIL-6産生の抑制効果を指標にホエインパク質の加水分解条件(変性温度、pH、温度、加水分解時間および酵素/基質の比)の最適化を上記文献(International Dairy Journal 12:813-820,2002)を参考に試みることができる。なお、本実施形態で用いられるホエイペプチドは、ホエイペプチドそのもの、限外濾過膜処理後の保持液、あるいは透過液(パーミエイト)を包含する。
【0039】
本実施形態に用いることのできるホエイタンパク加水分解物としては、例えば、以下のものがあげられる。特許第3183945号公報は、加熱変性したホエイタンパク質分離物(WPI)を、エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼで加水分解後、この加水分解物中の芳香族アミノ酸をイオン交換樹脂で吸着処理することにより得られるホエイタンパク加水分解物を開示している。特許第3183945号公報に開示されたホエイタンパク加水分解物は、Fischer比が10以上、分岐鎖アミノ酸が15%以上、芳香族アミノ酸が2%未満のホエイタンパク加水分解物(分子量200~3,000のペプチド混合物)である。
【0040】
特表平6-50756号公報は、無臭で苦味の少ないホエイペプチドを開示している。特表平6-50756号公報に開示されたホエイペプチドは、次のような手順で得られる。まず、タンパク質含量が少なくとも65%のホエイタンパク濃縮物(WPC)の12%水溶液を、60℃を超える温度で熱処理する。熱処理後、水溶液を、B.licheniformis由来のアルカラーゼおよびB.subtilis由来のニュートラーゼで15~35%のDHまで加水分解する。続いて、この加水分解物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過(Ultrafiltration:UF)後、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)で濃縮し、このNF保持液を噴霧乾燥することによってホエイペプチドが得られる。
【0041】
本実施形態で用いられる乳タンパク質加水分解物は、市販されているものとしては、例えばPeptigen IF-3080、Peptigen IF-3090、Peptigen IF-3091およびLacprodan DI-3065(Arla Foods)、WE80BG(DMV)、Hyprol 3301、Hyprol 8361およびHyprol 8034(Kerry)、Tatua2016、HMP406(Tatua)、Whey Hydrolysate 7050(Fonterra)、Biozate3(Davisco)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。タンパク質加水分解物の調整方法としては、例えば、以下の1)~5)の工程を含む、ホエイペプチドの製法が挙げられる。
【0042】
1)乾燥物として計算された少なくとも65%の蛋白質を含むホエイ蛋白と水を混合して、20%までの蛋白質含量をもつスラリーを作り、
2)60℃を超える温度までの熱処理を行い、
3)工程2)からの混合物を、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)により作られることができるプロテアーゼにより、そして/又はバチルス・サブチリス(B.subtilis)により作られることができるプロテアーゼにより、非-pH-スタット法により、15と35%との間のDHまで蛋白分解性加水分解し、
4)工程3)からの混合物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過/マイクロフィルトレーション装置上で、その透過物が蛋白質加水分解産物(ホエイペプチド)を構成するように分離し、そして
5)その加水分解を、上記酵素の失活により終了させる。
【0043】
好ましくは、上記工程1)におけるスラリーは7~12%の蛋白質含量をもつ。好ましくは、上記工程2)における熱処理は70℃と90℃の間で行われる。好ましくは、上記工程3)における加水分解は20~30%の間のDHまで行われる。 好ましくは、上記前記限外濾過/マイクロフィルトレーション装置のカットオフ値は、50,000を超える。
【0044】
好ましくは、上記工程3)又は工程5)の終わりにおける混合物は、乾燥物含量に関して計算された、1%と5%の間の炭素に対応する量で、好ましくは50℃と70℃の間の温度において、5分間より長い間、活性炭により処理され、そしてその活性炭が除去される。好ましくは、上記工程5)の後、濃縮が、好ましくは50℃と70℃の間の温度において、ナノフィルトレーション/ハイパーフィルトレーション/逆浸透、及び/又は蒸発により行われ、その後、その保持物がその蛋白質加水分解産物(ホエイペプチド)溶液として回収される。
【0045】
好ましくは、上記工程5)からの蛋白質加水分解産物(ホエイペプチド)溶液は、6.5%より低い水分含量までスプレードライされる。
【0046】
従って、ホエイ蛋白加水分解産物の製造のための方法は、
1)乾燥物として計算された少なくとも65%の蛋白質を含むホエイ蛋白と水とを混合し、約20%までの、好ましくは12%までの蛋白質含有量をもつスラリーを作り、
2)60℃を超える温度までの熱処理を行い、
3)段階2)からの混合物を、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)により作られることができるプロテアーゼ、好ましくはAlcalase(登録商標)により、及び/又はバチルス・サブチリス(B.subtilis)により作られることができるプロテアーゼ、好ましくはNeutrase(登録商標)により、非-pH-スタット法により、15%と35%との間のDHまで蛋白分解性加水分解し、
4)段階3)からの混合物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過/マイクロフィルトレーション装置上で、その透過物が上記蛋白質加水分解産物を構成するように分離し、そして、
5)その加水分解を、上記酵素の不活性化により終了させること、
を特徴とする。
【0047】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源は、ホエイタンパク質以外のタンパク質、ホエイペプチド以外のペプチド、及び/又はアミノ酸を含有することができる。この栄養組成物において、タンパク質源は、例えば、ロイシンを含有していてもよい。この栄養組成物は、好ましくは、ロイシンを0.01~1.0g/100kcalで含有し、より好ましくは、ロイシンを0.05~0.5g/100kcalで含有することができる。
【0048】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源は、カゼインを実質的に含有しない。カゼインは、ホエイタンパク質及びホエイペプチドと比較して、固化しやすい。カゼインは、特に酸性下で、固化しやすい。この栄養組成物において、タンパク質源は、カゼインを実質的に含有しないことにより、栄養組成物において、沈殿の発生等が抑制や防止され、物性を安定させることができる。
【0049】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質エネルギー比は、好ましくは16%以上50%未満であり、より好ましくは20%以上30%未満である。すなわち、この栄養組成物は、高タンパク質であり、患者の体内において、筋タンパク質の合成を促進することにより、患者の骨格筋量を増加させる。
【0050】
本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源は、n-3系脂肪酸を含有する。この栄養組成物は、好ましくは、n-3系脂肪酸を10~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、n-3系脂肪酸を30~80mg/100kcalで含有することができる。
【0051】
本実施形態に係る栄養組成物において、n-3系脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)及び/又はドコサヘキサエン酸(DHA)を含有することが好ましい。EPAとDHAは、抗炎症作用を有する。本実施形態に係る栄養組成物において、n-3系脂肪酸がEPAを含有する場合、この栄養組成物の風味の観点からは、好ましくは、EPAを1~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、EPAを10~30mg/100kcalで含有することができる。この栄養組成物において、n-3系脂肪酸がDHAを含有する場合、この栄養組成物の風味の観点からは、好ましくは、DHAを1~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、DHAを10~50mg/100kcalで含有することができる。
【0052】
本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源の少なくとも一部に、魚油を使用してもよい。魚油は、EPAとDHAを豊富に含有している。この栄養組成物において、脂質源に魚油を使用する場合、この栄養組成物は、好ましくは、魚油を0.05~0.5g/100kcalで含有し、風味の観点からより好ましくは、魚油を0.1~0.3g/100kcalで含有することができる。
【0053】
炎症が起こると、筋タンパク質の異化を亢進し、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や体重の減少を伴う悪液質等を引き起こす。また、炎症が持続すると、患者の食欲を減退させる。しかしながら、本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源がn-3系脂肪酸、特にEPA及び/又はDHAを含有する場合、患者の疾患に伴う炎症を抑制することができる。よって、炎症によって生じる上記のような弊害を軽減することができる。
【0054】
本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有していてもよい。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、消化吸収が一般的な長鎖脂肪酸トリグリセリドよりも速い。この栄養組成物は、好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリドを0.2~2.0g/100kcalで含有し、より好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリドを0.4~0.8g/100kcalで含有することができる。
【0055】
本実施形態に係る栄養組成物は、ビタミンC及び/又はビタミンEを含有することが好ましい。ビタミンCとビタミンEは、抗酸化作用を有する。この栄養組成物は、好ましくは、ビタミンCを1~1000mg/100kcalで含有し、より好ましくは、ビタミンCを10~100mg/100kcalで含有することができる。この栄養組成物は、好ましくは、ビタミンEを0.1~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、ビタミンEを1~10mg/100kcalで含有することができる。
【0056】
本実施形態に係る栄養組成物は、ビタミンCとビタミンE以外のビタミン類を含有することができる。この栄養組成物は、例えば、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸等のうち1種又は2種以上を含有することができる。
【0057】
本実施形態に係る栄養組成物は、亜鉛を含有することが好ましい。亜鉛は、抗炎症作用や筋肉の合成を高める作用を有する。この栄養組成物は、好ましくは、亜鉛を0.1~10mg/100kcalで含有し、より好ましくは、亜鉛を0.5~5mg/100kcalで含有することができる。
【0058】
本実施形態に係る栄養組成物は、亜鉛以外のミネラル類を含有することができる。この栄養組成物は、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等のうち1種又は2種以上を含有することができる。
【0059】
本実施形態に係る栄養組成物において、カリウムの含有量は、好ましくは20~500mg/100kcal、より好ましくは20~300mg/100kcalである。ナトリウムの含有量は、好ましくは20~500mg/100kcal、より好ましくは20~300mg/100kcalである。カルシウムの含有量は、好ましくは20~300mg/100kcal、より好ましくは20~250mg/100kcal、さらに好ましくは20~150mg/100kcalである。マグネシウムの含有量は、5~300mg/100kcal、より好ましくは10~200mg/100kcal、さらに好ましくは10~100mg/100kcalである。各ミネラル類の含有量を上記の範囲とすることにより、リハビリテーション中の患者等に対して適切な量のミネラル類を補充することができる。また、本実施形態に係る栄養組成物の製造時の適性(分散)を向上させるとともに、保存時において流動性の当該栄養組成物の沈殿を抑制できる。
【0060】
本実施形態に係る栄養組成物は、上述の成分以外の成分を含有していてもよい。この栄養組成物は、患者の疾患や栄養の状態等に応じた成分を必要な濃度で含有することができる。
【0061】
本実施形態に係る栄養組成物は、糖質や食物繊維等の炭水化物を含有していてもよい。この栄養組成物は、糖質として、例えばパラチノース及び/又はデキストリンを含有することができる。パラチノース及び/又はデキストリン等の糖質の含有量は、好ましくは10~16g/100kcal、より好ましくは12~14g/100kcalである。リハビリテーション栄養を必要とする疾患を有する患者では、糖尿病も併発している患者が少なくない。そこで、本実施形態に係る栄養組成物では、糖の吸収が緩やかなパラチノースを糖質全体の20重量%以上使用することが好ましい。より好ましくは、パラチノースの使用量は糖質全体の50重量%以上である。
【0062】
本実施形態に係る栄養組成物では、食物繊維として、食後の血糖上昇を抑制する効果があり、製造時において過度な粘度を生じさせにくい難消化性デキストリンを用いることが好ましい。難消化性デキストリン等の食物繊維の含有量は、好ましくは0.5~3.0g/100kcal、より好ましくは1.0~2.0g/100kcalである。
【0063】
[栄養組成物の製造方法]
次に、本実施形態に係る栄養組成物の製造方法の例を説明する。ただし、この栄養組成物の製造方法は、以下で説明する製造方法に限定されるものではない。
【0064】
まず、栄養組成物の原料を調合する。具体的には、調合タンク(ミキサー)に、溶解水:22,000gを添加(投入)する。この溶解水は、例えば、水道水、精製水、イオン交換水、逆浸透(RO)膜によって不純物が除去されたRO水等である。この溶解水は、温度を40~80℃程度に設定することができる。そして、調合タンクに、デキストリン(75重量%のデキストリン溶液):169gを添加して、溶解水及びデキストリンを混合(撹拌)する。
【0065】
次に、調合タンクに、硫酸第一鉄:0.08g、pH調整剤:26gを添加して混合してから、油脂調整液:2,328g(例えば、植物油脂:2,200g、動物油脂:128g等)を添加して混合する。さらに、ホエイペプチド(ホエイタンパク質分解物):2,640g、ホエイタンパク質濃縮物:3,000g、食物繊維:750g、パラチノース:3,360g、乳化剤:780g、分岐鎖アミノ酸:240g、安定剤:3,360gを添加して混合してから、カルシウム製剤:630g、リン酸マグネシウム:90g、セレン酵母:2g、グルコン酸亜鉛:7g、グルコン酸銅:0.36g、食塩:96g、塩化カリウム:42gを添加して混合する。
【0066】
pH調整剤は、食用に供することができれば、特に制限されるものではなく、pH調整剤には、有機酸類、無機酸類を単独で又は2種以上で混合して使用することができる。有機酸類には、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルコン酸、フマール酸及びそれらの塩等を使用することができる。無機酸類には、例えば、塩酸、リン酸及びその塩等を使用することができる。また、有機酸には、食品添加物を使用することができるが、天然由来の有機酸、例えば、レモン果汁やリンゴ果汁等も使用することができる。油脂調整液は、食用に供することができれば、特に制限されるものではなく、油脂調整液には、例えば、なたね油、パーム油、パーム分別油、米油、コーン油、魚油等を単独で又は2種以上で混合して使用することができる。油脂調整液は、温度を50~60℃程度に設定することができる。
【0067】
調合タンクで上述の成分を混合(撹拌)しながら、例えば、50~60℃、15分間以上(15~60分間)で保持する。これにより、栄養組成物の原料の調合が完了する。
【0068】
次に、調合タンクで調合された調合液(原料)を予備加熱処理及び加熱殺菌処理する。予備加熱処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、調合液を75~85℃に加熱する。加熱殺菌処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器、スチームインジェクション加熱器、スチームインフュージョン加熱器等を使用し、予備加熱処理後の調合液を例えば、120~145℃、1~10秒間で加熱する。
【0069】
次に、加熱殺菌処理された調合液を予備冷却処理及び予備均質化処理する。予備冷却処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、調合液を70~80℃に冷却する。予備均質化処理では、例えば、ホモゲナイザーを使用し、調合液を例えば、70~80℃、40~60MPaで均質化(微細化)する。そして、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、予備均質化処理された調合液を例えば、5~25℃に冷却して、中間貯液タンクに貯留する。
【0070】
中間貯液タンクで調合液を混合(撹拌)しながら、例えば、5~25℃で保持する。調合液が貯留された中間貯液タンクに、ビタミン類(例えば、ビタミンC:87g、ビタミンE:9g等)を添加して混合する。そして、中間貯液タンクに、香料:258g、甘味料:18gを添加して混合する。
【0071】
次に、ビタミン類等が添加された調合液を予備加熱処理及び本均質化処理する。予備加熱処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、調合液を70~80℃に加熱する。本均質化処理では、例えば、ホモゲナイザーを使用し、予備加熱処理後の調合液を例えば、70~80℃、40~60MPaで均質化(微細化)する。そして、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、本均質化処理された調合液を例えば、5~25℃に冷却して、最終貯液タンクに貯留する。
【0072】
最終貯液タンクで調合液(栄養組成物、中間製品)を混合(撹拌)しながら、例えば、5~25℃で保持する。調合液が貯留された最終貯液タンクから、調合液を適当な容器に充填される。これにより、本実施形態に係る栄養組成物(最終製品)が完成する。
【0073】
[効果]
本実施形態に係る栄養組成物は、酸性であるため、爽やかで良好な風味を有する。すなわち、患者等が栄養組成物に爽やかで良好な風味を感じることができ、この栄養組成物を抵抗なく摂取することができる。よって、例えば、低栄養の状態になりやすいリハビリテーション患者等が栄養組成物を継続して摂取することが容易になり、リハビリテーション患者等の栄養の状態を適切に維持することが可能となる。
【0074】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源の総重量のうち80重量%以上は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドである。ホエイタンパク質及びホエイペプチドは、カゼインと比較して、酸性下で固化しにくい。このため、栄養組成物において、沈殿の発生等が抑制や防止され、物性を安定させることができる。
【0075】
本実施形態に係る栄養組成物は、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、一般的な栄養組成物と比較して、高カロリーに構成されている。このため、患者等が栄養組成物を少量でしか摂取しなくても、患者等の栄養の状態を適切に維持することが可能となる。そして、食欲不振の患者等の栄養の状態を効果的に改善することが可能となる。
【0076】
本実施形態に係る栄養組成物は、高カロリーであるため、患者等の体内で、この栄養組成物に含まれるタンパク質源がエネルギー源として使用されることを抑制することができる。よって、筋タンパク質の分解を抑制することができると共に、この栄養組成物に含まれるタンパク質源を筋タンパク質の合成に寄与させることができるため、患者の骨格筋量を増加させることができる。このため、例えば、本実施形態に係る栄養組成物をリハビリテーション患者等に使用すれば、効果的にリハビリテーションを行うことが可能となる。このとき、リハビリテーション患者のQOL(Quolity Of Life)が向上し、介護の増加の予防や、要介護度の悪化の防止等を期待することができる。
【0077】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例】
【0078】
以下、各実施例について説明する。ただし、本開示は、下記の各実施例に限定されるものではない。
【0079】
[試験.脳卒中患者における骨格筋量の変化]
本開示に係る流動性の栄養組成物を脳卒中患者に投与した場合における、脳卒中患者における骨格筋量の変化を評価する試験を行った。この評価試験では、無作為対照化比較試験の手法が用いられている。
【0080】
(被験者の選定)
下記の条件(1)~(5)を満たす者を本試験の被験者として選定した。被験者の選定にあたり、男女の別を問わない。
【0081】
(1)患者が、初めて脳卒中を発症した初発脳卒中患者であること。
(2)入院時の栄養アセスメントにおいて、患者が低栄養の状態にあること。低栄養の状態にあるとは、入院時における患者のBMI(Body Mass Index)が18.5未満であること、または、入院時における患者の血清アルブミンが、3.5g/dL以下であることの少なくとも一方が満たされることを指す。
(3)脳卒中を発症してから入院するまでの期間が、2週間以上60日以内であり、かつ、患者の年齢が60歳以上であること。
(4)患者が手すりにつかまって立位で自力移動をすることが可能であること、あるいは、当該患者が1人の介助者による介助により移動することが可能であること。
(5)患者が経口で栄養を摂取することが可能であること。
【0082】
上記(1)~(5)を満たす患者を、本開示に係る流動性の栄養組成物を投与する介入群と、本開示に係る流動性の栄養組成物を投与しない対照群との2つの群に分けた。介入群の患者及び対照群の患者についての人数、性別、身長及び年齢を表1に示す。
【0083】
【0084】
(栄養組成物の投与)
介入群の患者には、本開示に係る流動性の栄養組成物を12週間摂取させた。本開示に係る流動性の栄養組成物の摂取量は、1日あたりのカロリー数で400kcalとなる量である。本開示に係る流動性の栄養組成物の組成を表2に示す。
【0085】
【0086】
一方、対照群の患者には、本開示に係る流動性の栄養組成物に代えて、株式会社明治製の「メイバランスHP1.5」を12週間摂取させた。メイバランスHP1.5の摂取量は、1日あたりのカロリー数で400kcalとなる量である。
【0087】
(骨格筋量の計測及び評価項目の計算)
介入群の患者及び対照群の患者の各々に対して、身体計測及び筋肉量の計測を行った。身体計測では、各患者の身長、体重及び下腿周囲長を計測した。また、右腕、左腕、右脚及び左脚の各々の筋肉量をバイオスペース社製の体成分分析装置「InBody」を用いて計測した。身体計測及び筋肉量の計測は、投与開始時(0週)、4週間経過時、8週間経過時、12週間経過時に行われた。
【0088】
各患者の骨格筋量の評価項目として、骨格筋量指数(SMI:skeletal muscle mass index)を計算した。骨格筋量指数は、下記の式を計算することによって得られる。
SMI=四肢筋肉量(kg)/身長(m)の2乗値
上記式において、四肢筋肉量は、筋肉量の計測により得られた右腕、左腕、右脚及び左脚の各々の筋肉量の合計値である。
【0089】
(解析結果)
以下、t検定を用いたデータ解析の結果を説明する。t検定には様々な種類があり、例えば、スチューデントのt検定、対応があるt検定、ウェルチのt検定が挙げられる。本実施例では、スチューデントのt検定をデータ解析に使用した。
【0090】
・介入群の患者と対照群との患者における有意差
試験開始時において、解析対象となる患者数は、介入群で10人であり、対照群で9人であった。4週間経過時において、患者数は、介入群で9人であり、対照群で9人であった。8週間経過時において、患者数は、介入群で5人であり、対照群で7人であった。12週間経過時において、患者数は、介入群で3人であり、対照群で4人であった。介入群の患者と対照群との患者とにおいて有意な差があるか否かを、スチューデントのt検定を用いて各群における患者の年齢及び身長を解析することにより確認した。解析の結果、介入群の患者と対照群の患者との間において、身長及び年齢に関する有意な差は認められなかった。
【0091】
・身体計測値の有意差
介入群及び対照群の各々における、身体計測結果を表3に示す。表3において、試験開始時を基準とした場合における体重、BMI及び下腿周囲長の変化量を示している。
【0092】
【0093】
表3に示す介入群の患者の計測結果と対照群の患者の計測結果との間に有意な差があるか否かを、スチューデントのt検定を用いて比較した。この結果、4週間経過時において、介入群の患者における下腿周囲長が、対照群の患者における下腿周囲長よりも有意に増加していることが確認された。また、介入群の患者の下腿周囲長は、8週間経過時、12週間経過時の各々の時点において、対照群の患者の下腿周囲長よりも増加傾向にあることが確認された。
【0094】
表3に示す下腿周囲長以外の項目に関して、介入群の患者及び対照群の患者との間に有意な差は認められなかった。
【0095】
・筋肉量及びSMIの有意差
介入群及び対照群の各々における、試験開始時を基準とした筋肉量及びSMIの変化を表4に示す。
【0096】
【0097】
スチューデントのt検定を用いて、表4に示す介入群の患者のSMIと対照群の患者のSMIとを解析することにより、表4に示す介入群の患者のSMIと対照群との患者のSMIとの間に有意な差があるか否かを確認した。この結果、介入群の患者のSMIが、8週目経過時点で対照群の患者のSMIと比較して増加傾向にあることが確認された。
【0098】
・麻痺の有無による下腿周囲長及び脚の体組成の有意差
介入群及び対照群の各々における、試験開始時を基準とした下腿周囲長及び脚の体組成の変化について、脚の麻痺の有無で分けて表したものを表5に示す。なお、脚の体組成とは、脚を組織する成分(筋肉、骨、水分、脂肪など)の全ての合計量である。
【0099】
【0100】
スチューデントのt検定を用いて、表5に示す介入群の患者の下腿周囲長及び脚の体組成と対照群の患者の下腿周囲長及び脚の体組成とを解析することにより、介入群の患者の下腿周囲長と対照群との患者の下腿周囲長の間に有意な差があるか否かと、介入群の患者の脚の体組成と対照群の患者の脚の体組成との間に有意な差があるか否かを確認した。この結果、脚の麻痺無しの介入群の患者の下腿周囲長が、4週目経過時点において、脚の麻痺無しの対照群の患者の下腿周囲長と比較して増加傾向があることが確認された。また、脚の麻痺無しの介入群の患者の脚の体組成が、8週目経過時点において脚の麻痺無しの対照群の患者の脚の体組成と比較して有意に増加していることが確認された。
【0101】
(考察)
上記の解析結果で説明したように、介入群の患者のSMIが、8週間経過時点で対照群の患者のSMIと比較して増加傾向にあった。これらの結果より、リハビリテーションを実施している脳卒中患者が本開示に係る流動性の機能性食品を摂取することによって、当該患者の骨格筋量を増加させる可能性があることが示唆された。
【0102】
また、SMI及び下腿周囲長は、サルコペニアの指標として使用可能である。本開示に係る流動性の機能性食品を摂取することによってSMI及び下腿周囲長が増加傾向にあることが示されている。これらのことから、本開示に係る流動性の機能性食品を摂取することでサルコペニアを予防することができる可能性が、上記の評価試験により示唆された。