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特許7199074生体音検出装置、生体音検出方法、生体音検出プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】生体音検出装置、生体音検出方法、生体音検出プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 7/04 20060101AFI20221223BHJP
【FI】
A61B7/04 E
A61B7/04 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018035658
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019150117
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 幸代
(72)【発明者】
【氏名】阪田 治
(72)【発明者】
【氏名】船迫 宣宏
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0154144(US,A1)
【文献】国際公開第2017/218857(WO,A1)
【文献】特開2005-030851(JP,A)
【文献】特開2013-150723(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0015319(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0102908(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から特定の生体音を検出する生体音検出装置であって、
前記生体の生体音を検知する生体音検知部と、
前記生体音検出装置によって前記特定の生体音として検出される調整音を前記生体内に響かせる調整音伝播部と、
前記生体音検知部が検知した生体音から前記特定の生体音を検出する検出処理を行う検出処理部と、
前記生体の周囲の環境音を検知する環境音検知部と、を備え、
前記検出処理は、
前記生体音の周波数スペクトルを算出する第1周波数スペクトル算出処理と、
前記生体音の周波数スペクトルと、前記特定の生体音の複数の標準周波数スペクトルのそれぞれとを個別にマッチングすることによって、複数の第1マッチング係数を算出する第1マッチング係数算出処理と、
前記複数の第1マッチング係数に基づいて、判定用第1マッチング係数を決定する判定用第1マッチング係数決定処理と、
前記環境音の周波数スペクトルを算出する第2周波数スペクトル算出処理と、
前記環境音の周波数スペクトルと、前記特定の生体音の複数の標準周波数スペクトルのそれぞれとを個別にマッチングすることによって、複数の第2マッチング係数を算出する第2マッチング係数算出処理と、
前記複数の第2マッチング係数に基づいて、判定用第2マッチング係数を決定する判定用第2マッチング係数決定処理と、
前記判定用第1マッチング係数が第1の閾値以上であり、前記判定用第2マッチング係数が第2の閾値未満である場合に、前記生体音が前記特定の生体音であると判定する判定処理と、を含み、
前記検出処理部は、前記調整音伝播部が前記生体内に前記調整音を響かせている状態で前記生体音検知部が検知した生体音と、前記調整音伝播部が前記生体内に前記調整音を響かせていない状態で前記生体音検知部が検知した生体音と、のそれぞれについて前記検出処理を行い、さらに前記検出処理を行っている間に、周期的または非周期的に、得られた前記判定用第2マッチング係数の標準偏差に基づいて定まる範囲に含まれる前記判定用第2マッチング係数の最大値を超える値である環境閾値以上の値を、前記第1の閾値および前記第2の閾値の少なくとも一方とすることを特徴とし、
前記標準偏差に基づいて定まる範囲には、特異的な値が除かれている、生体音検出装置。
【請求項2】
複数の前記生体音検知部を備え、
前記検出処理は、
各生体音検知部が検知した生体音に対し、前記第1周波数スペクトル算出処理、前記第1マッチング係数算出処理および前記判定用第1マッチング係数決定処理を個別に行い、
いずれの生体音検知部が検知した生体音から得られた前記判定用第1マッチング係数を前記判定処理で用いるかを選択する第1選択処理をさらに含んでいることを特徴とする請求項に記載の生体音検出装置。
【請求項3】
前記判定処理では、前記判定用第1マッチング係数を蓄積し、蓄積された複数の前記判定用第1マッチング係数に基づいて、前記生体音が前記特定の生体音であるか否かを判定することを特徴とする請求項またはに記載の生体音検出装置。
【請求項4】
複数の前記環境音検知部を備え、
前記検出処理は、
各環境音検知部が検知した環境音に対し、前記第2周波数スペクトル算出処理、前記第2マッチング係数算出処理および前記判定用第2マッチング係数決定処理を個別に行い、
いずれの環境音検知部が検知した環境音から得られた前記判定用第2マッチング係数を前記判定処理で用いるかを選択する第2選択処理をさらに含んでいることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の生体音検出装置。
【請求項5】
前記検出処理部は、前記検出処理を行う前に、前記第2周波数スペクトル算出処理、前記第2マッチング係数算出処理および前記判定用第2マッチング係数決定処理を行い、得られた前記判定用第2マッチング係数に基づいて、前記第1の閾値および前記第2の閾値の初期値を決定することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の生体音検出装置。
【請求項6】
前記検出処理部は、前記判定用第1マッチング係数決定処理において決定した前記判定用第1マッチング係数が、いずれの標準周波数スペクトルとのマッチングによって得られたものであるかを示す情報を記録することを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の生体音検出装置。
【請求項7】
前記検出処理部は、前記検出処理において前記特定の生体音を検出した回数を記録することを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の生体音検出装置。
【請求項8】
前記特定の生体音は、腸の蠕動音であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の生体音検出装置。
【請求項9】
請求項のいずれか一項に記載の生体音検出装置としてコンピュータを機能させるための生体音検出プログラムであって、上記検出処理部としてコンピュータを機能させるための生体音検出プログラム。
【請求項10】
請求項に記載の生体音検出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の生体音を検出する生体音検出装置、生体音検出方法、生体音検出プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の生体音を検出する技術として、特許文献1~4に記載の技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、消化器系が発する蠕動音をフーリエ変換することによって得られるフーリエ変換スペクトル(周波数スペクトル)に基づいて蠕動音を記録した時間区間を自動的に検出する技術が記載されている。この技術では、周波数スペクトルの100~1000Hzの範囲に有意な大きさのピークを持つ時間区間を、蠕動音を記録している区間だと考えている。
【0004】
特許文献2には、心音計で検出された弁閉鎖時の弁音波形の周波数分布として、Wigner分布を採用し、さらに、Wigner分布について各時刻毎に1次モーメントを求める技術が記載されている。
【0005】
特許文献3に記載されている生体音検出処理装置は、生体音検出データ(呼吸音検出データ)をFFT処理し、振幅スペクトル、位相スペクトルおよびパワースペクトルを算出する。さらに、生体音検出処理装置はパワースペクトルから局所平均値および局所分散値を算出する。この局所分散値の大きさによって、振幅スペクトルは、正常呼吸音に対応するもの、または、連続性ラ音によるものに分類される。
【0006】
特許文献4に記載されている蠕動音検出装置は、生体音の周波数スペクトルと、複数の蠕動音の標準周波数スペクトルのそれぞれとを個別にマッチングし、複数のマッチング係数を算出することによって、複雑な演算処理を行うことなく、腸の発する生体音が蠕動音であるか否かを精度良く判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-262523号公報(2000年9月26日公開)
【文献】特開平6-90913号公報(1994年4月5日公開)
【文献】特開2004-357758号公報(2004年12月24日公開)
【文献】特開2013-150723号公報(2013年8月8日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術では、ある生体において特定の生体音が検出できなかった場合に、本当にその生体において特定の生体音が鳴っていないのか、特定の生体音は鳴っているがその生体における何らかの要因が特定の生体音の検出を妨げているのかが判別できないという問題がある。
【0009】
本発明の一態様は、上記課題に鑑みてなされたものであり、生体から特定の生体音を検出する生体音検出装置において、当該生体が、当該特定の生体音の検出が可能な生体か否かの判別を可能にするための技術を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る生体音検出装置は、生体から特定の生体音を検出する生体音検出装置であって、前記生体の生体音を検知する生体音検知部と、前記生体音検出装置によって前記特定の生体音として検出される調整音を前記生体内に響かせる調整音伝播部と、前記生体音検知部が検知した生体音から前記特定の生体音を検出する検出処理を行う検出処理部と、前記生体の周囲の環境音を検知する環境音検知部と、を備え、前記検出処理は、前記生体音の周波数スペクトルを算出する第1周波数スペクトル算出処理と、前記生体音の周波数スペクトルと、前記特定の生体音の複数の標準周波数スペクトルのそれぞれとを個別にマッチングすることによって、複数の第1マッチング係数を算出する第1マッチング係数算出処理と、前記複数の第1マッチング係数に基づいて、判定用第1マッチング係数を決定する判定用第1マッチング係数決定処理と、前記環境音の周波数スペクトルを算出する第2周波数スペクトル算出処理と、前記環境音の周波数スペクトルと、前記特定の生体音の複数の標準周波数スペクトルのそれぞれとを個別にマッチングすることによって、複数の第2マッチング係数を算出する第2マッチング係数算出処理と、前記複数の第2マッチング係数に基づいて、判定用第2マッチング係数を決定する判定用第2マッチング係数決定処理と、前記判定用第1マッチング係数が第1の閾値以上であり、前記判定用第2マッチング係数が第2の閾値未満である場合に、前記生体音が前記特定の生体音であると判定する判定処理と、を含み、前記検出処理部は、前記調整音伝播部が前記生体内に前記調整音を響かせている状態で前記生体音検知部が検知した生体音と、前記調整音伝播部が前記生体内に前記調整音を響かせていない状態で前記生体音検知部が検知した生体音と、のそれぞれについて前記検出処理を行い、さらに前記検出処理を行っている間に、周期的または非周期的に、得られた前記判定用第2マッチング係数の標準偏差に基づいて定まる範囲に含まれる前記判定用第2マッチング係数の最大値を超える値である環境閾値以上の値を、前記第1の閾値および前記第2の閾値の少なくとも一方とすることを特徴とし、前記標準偏差に基づいて定まる範囲には、特異的な値が除かれている
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、生体から特定の生体音を検出する生体音検出装置において、当該生体が、当該特定の生体音の検出が可能な生体か否かを判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る生体音検出装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る生体音検出装置による生体音検出の流れを説明するフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る生体音検出装置による検知および検出処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
(生体音検出装置10)
図1は、本発明の一実施形態に係る生体音検出装置10の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、生体音検出装置10は、調整音伝播装置(調整音伝播部)20、主制御部(検出処理部)30、生体音センサ(生体音検知部)41および環境音センサ(環境音検知部)51を備えている。
【0016】
調整音伝播装置20は、再生部11および伝播部12を備えている。主制御部30は、周波数スペクトル算出部42、マッチング係数算出部43、個別センサ判定部44、生体音センサ選択部45、周波数スペクトル算出部52、マッチング係数算出部53、個別センサ判定部54、環境音センサ選択部55、周波数スペクトル番号記録部57、閾値記録部58、閾値変更判定部59、生体音判定部60およびログ記録部61を備えている。
【0017】
また、生体音センサ41、周波数スペクトル算出部42、マッチング係数算出部43および個別センサ判定部44は、生体音センサユニット40を構成する。図1では、一個の生体音センサユニット40のみが示されているが、生体音検出装置10は、生体音センサユニット40を1個または複数個備えている。なお、各生体音センサユニット40の生体音センサ41は異なる位置に設けられていることが好ましい。生体音センサユニット40を複数備えることによって、生体音センサ41の位置による生体音の検知漏れを抑制することができる。
【0018】
環境音センサ51、周波数スペクトル算出部52、マッチング係数算出部53および個別センサ判定部54は、環境音センサユニット50を構成する。図1では、一個の環境音センサユニット50のみが示されているが、生体音検出装置10は、環境音センサユニット50を1個または複数個備えている。なお、各環境音センサユニット50の環境音センサ51は異なる位置に設けられていることが好ましい。環境音センサユニット50を複数備えることによって、環境音センサ51の位置による環境音の検知漏れを抑制することができる。
【0019】
なお、調整音伝播装置20を、調整音発生装置と称してもよい。また、生体音検出装置10から調整音伝播装置20を除いた部分を生体音カウント装置と称してもよい。また、生体音検出装置10を、調整音発生装置付き生体音カウント装置と称してもよい。
【0020】
生体音検出装置10は、特定の生体音を検出する装置である。生体音とは、生体内の音を意味する。以下、生体音検出装置10が検出する特定の生体音を対象生体音とも称する。一態様において、対象生体音は腸が発する蠕動音である。生体音検出装置10によって腸が発する蠕動音を検出することにより、腸の活性度を測定することができる。
【0021】
(生体音センサ41)
被験者となる生体の生体音を検知する音響センサである生体音センサ41は、音響信号(生体音)を検知して電気信号に変換する。生体音センサ41としては、たとえば密着型音響マイクを用いることができるが、これに限定されない。生体音センサ41は、例えば、被験者となる生体の体表などに固定され得る。対象生体音が蠕動音の場合、生体音センサ41は、被験者となる生体の腹部体表に固定されてもよい。生体音センサ41は、検知した生体音を電気信号として周波数スペクトル算出部42に出力する。
【0022】
生体音センサ41は、電気信号を増幅するための増幅器(図示せず)を備えていてもよい。なお、上記増幅器は、生体音センサ41に設けられる構成に限定されず、周波数スペクトル算出部42に設けられていてもよい。
【0023】
(周波数スペクトル算出部42)
周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部42は、アナログ/デジタル変換部(A/D変換部)を備えていることが好ましい。A/D変換部は、生体音センサ41より電気信号を受け取り、デジタルデータである生体音データに変換する。なお、A/D変換部は、生体音センサ41が備えていてもよい。
【0024】
次に、周波数スペクトル算出部42は、生体音データに対して所定の時間毎に高速フーリエ変換(Fast Fourier Transformation:FFT)処理を行うことにより、生体音の周波数スペクトル(以下において、生体音スペクトルとも記載する)を算出する(周波数スペクトル算出処理)。すなわち、時間的に連続する生体音データを、周波数スペクトル算出部42は所定の時間毎の生体音データに区切る。その上で、区切られた各生体音データを順次FFT処理する。当該所定の時間を、以下においてFFT処理間隔とも呼ぶ。FFT処理間隔は例えば0.3秒から1.0秒の範囲内とすることができるが、これに限定されず、周波数スペクトル算出部42等の能力に応じて適宜設定することができる。なお、周波数スペクトル算出部42は、FFTに代えて、ウェーブレット変換等の他のアルゴリズムを用いて生体音の周波数スペクトルを算出してもよい。
【0025】
周波数スペクトル算出部42は、所定の時間毎に算出される生体音スペクトルを、順次、マッチング係数算出部43に出力する。なお、以下においては、各部の説明を分かりやすくするために、特定のタイミングにおいて算出された1つの生体音スペクトルに着目して説明する。
【0026】
(マッチング係数算出部43)
マッチング係数算出部43は、生体音スペクトルと、複数の標準周波数スペクトルとを個別にマッチングする(相関を見る、比較する、合致点を抽出する、とも言う)ことによって、複数のマッチング係数(相関係数)を算出する(マッチング係数算出処理)。
【0027】
マッチング係数算出部43は、まず、周波数スペクトル算出部42から生体音スペクトルを受け取るとともに、生体音スペクトルとマッチングするための複数の標準周波数スペクトルを標準周波数スペクトル記憶部56から読み出す。
【0028】
一態様において、複数の標準周波数スペクトルは、それぞれが実音を基に算出した、特定の体の状態、発生モードに起因して発生する対象生体音の周波数スペクトルであり得る。複数の標準周波数スペクトルは、予め標準周波数スペクトル記憶部56に記憶しておくことができ、目的に応じて選択して使用してもよい。
【0029】
一態様において、標準周波数スペクトルは、あらかじめ医師等が対象生体音であると認識した生体音(以下において標準生体音とも記載する)を複数抽出し、それぞれの標準生体音をFFT処理したものであってもよい。
【0030】
例えば、対象生体音が腸の蠕動音である場合、マッチングに用いる標準周波数スペクトルは、複数の異なる発生モードに起因する蠕動音をFFT処理したものであることが好ましい。なぜなら、腸が蠕動運動する際、発生する蠕動音の発生モードは複数あり、それぞれの発生モードに応じて、腸は異なる蠕動音を発するからである。
【0031】
また、対象生体音は個人によって大きくばらつくことがあるため、複数の人から抽出した複数の標準生体音をFFT処理することによって複数の標準周波数スペクトルとしてもよい。また、複数の標準生体音をFFT処理し、共通のスペクトルを特に抽出したものを標準周波数スペクトルとしてもよい。さらに、健康な被験者が発生させる対象生体音をFFT処理し、統計処理することで標準周波数スペクトルを算出してもよい。
【0032】
以上のように複数の標準周波数スペクトルを用意することで、対象生体音の検出漏れを低減し、生体音が対象生体音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0033】
また、マッチング係数とは、生体音スペクトルと、標準周波数スペクトルとにおける類似の程度を表す係数である。別の言い方をすれば、生体音スペクトルが含んでいる標準周波数スペクトルの要素の大きさを表す係数である。したがって、マッチング係数が大きいほど生体音スペクトルと、標準周波数スペクトルとが類似している、すなわち、生体音スペクトルが標準周波数スペクトルの要素を多く含んでいることを意味する。
【0034】
生体音スペクトルおよび標準周波数スペクトルとのマッチングには、周知の手法を用いることができる。一態様において、マッチング係数算出部43は、0~1の範囲に含まれる実数となるマッチング係数を算出するように構成されていてもよい。マッチング係数算出部43がこのように構成されている場合、マッチング係数が1であることは、生体音スペクトルと標準周波数スペクトルとが一致していることを意味する。
【0035】
マッチング係数算出部43は、マッチングにより算出した複数のマッチング係数を個別センサ判定部44に出力する。
【0036】
(個別センサ判定部44)
個別センサ判定部44は、マッチング係数算出部43から複数のマッチング係数を受け取って、判定処理に用いる判定用マッチング係数を決定する(判定用マッチング係数決定処理)。一態様において、個別センサ判定部44は、複数のマッチング係数のうち最大のマッチング係数を判定用マッチング係数として決定する。
【0037】
個別センサ判定部44は、選択したマッチング係数に対応する標準周波数スペクトルを示す情報(例えば番号)を周波数スペクトル番号記録部57に記録してもよい。これにより、ユーザは、検出された対象生体音についてさらに詳細な情報を得ることができる。
【0038】
また、別の一態様において、個別センサ判定部44は、複数のマッチング係数を合算した値を判定用マッチング係数として決定してもよい。例えば、腸の蠕動運動は、単一の発生モードのみによって発生するとは限らず、複数の発生モードの要素を少しずつ含む蠕動運動が発生することもある。そのため、複数のマッチング係数を合算した値を判定用マッチング係数として決定することにより、生体音が複数の発生モードの要素を少しずつ含む場合であっても対象生体音として検出することができる。
【0039】
個別センサ判定部44は、決定した判定用マッチング係数を生体音センサ選択部45に出力する。
【0040】
(生体音センサ選択部45)
生体音センサ選択部45は、各生体音センサユニット40の個別センサ判定部44からそれぞれ判定用マッチング係数を受け取る。そして、生体音センサ選択部45は、いずれの生体音センサ41が検知した生体音から得られた判定用マッチング係数を、判定処理で用いるかを選択する(選択処理)。換言すれば、生体音センサ選択部45は、いずれの生体音センサユニット40の個別センサ判定部44から受け取った判定用マッチング係数を、生体音判定部60に出力するかを選択する。
【0041】
生体音センサユニット40が1つの場合は、生体音センサ選択部45は、当該生体音センサユニット40の個別センサ判定部44から受け取った判定用マッチング係数を生体音判定部60に出力する。なお、生体音センサユニット40が1つの場合は、生体音センサ選択部45を省略し、個別センサ判定部44が判定用マッチング係数を生体音判定部60に出力するように構成してもよい。
【0042】
生体音センサユニット40が複数の場合は、生体音センサ選択部45は、各生体音センサユニット40の個別センサ判定部44から受け取った判定用マッチング係数のうち、あらかじめ定めた判定基準の判定用マッチング係数を生体音判定部60に出力する。あらかじめ定めた判定基準としては、例えば、最大の判定用マッチング係数を選択するようにしてもよいが、これに限定されない。
【0043】
(環境音センサ51)
生体音検出装置10の周囲の環境音、特に、生体音センサ41の周囲の環境音を検知する音響センサである環境音センサ51は、音響信号(環境音)を検知して電気信号に変換する。環境音センサ51としては、たとえば音響マイクを用いることができるが、これに限定されない。環境音センサ51は、空中に垂下する構成であってもよい。環境音センサ51は、検知した環境音を電気信号として周波数スペクトル算出部52に出力する。
【0044】
環境音センサ51は、電気信号を増幅するための増幅器(図示せず)を備えていてもよい。なお、上記増幅器は、環境音センサ51に設けられる構成に限定されず、周波数スペクトル算出部52に設けられていてもよい。
【0045】
(周波数スペクトル算出部52)
周波数スペクトル算出部52は、周波数スペクトル算出部42と同様の構成を有しており、環境音をデジタルデータ化した環境音データに対して所定の時間毎にFFT処理を行うことにより、環境音の周波数スペクトル(以下において、環境音スペクトルとも記載する)を算出する(第2周波数スペクトル算出処理)。なお、周波数スペクトル算出部52は、FFTに代えて、ウェーブレット変換等の他のアルゴリズムを用いて環境音の周波数スペクトルを算出してもよい。
【0046】
周波数スペクトル算出部52は、所定の時間毎に算出される環境音スペクトルを、順次、マッチング係数算出部53に出力する。なお、以下においては、各部の説明を分かりやすくするために、特定のタイミングにおいて算出された1つの環境音スペクトルに着目して説明する。
【0047】
(マッチング係数算出部53)
マッチング係数算出部53は、環境音スペクトルと標準生体音との近似を判定するために、マッチング係数算出部43における生体音スペクトルのマッチングと同様に、環境音スペクトルと、複数の標準周波数スペクトルをそれぞれ個別にマッチングする(相関を見る、比較する、合致点を抽出する、とも言う)ことによって、複数の第2マッチング係数(相関係数)を算出する(第2マッチング係数算出処理)。
【0048】
一態様において、マッチング係数算出部53は、0~1の範囲に含まれる実数となる第2マッチング係数を算出するように構成されていてもよい。マッチング係数算出部53がこのように構成されている場合、第2マッチング係数が1であることは、環境音スペクトルと標準周波数スペクトルとが一致していることを意味する。
【0049】
マッチング係数算出部53は、マッチングにより算出した複数の第2マッチング係数を個別センサ判定部54に出力する。
【0050】
(個別センサ判定部54)
個別センサ判定部54は、マッチング係数算出部53から複数の第2マッチング係数を受け取って、判定処理に用いる判定用第2マッチング係数を決定する(判定用第2マッチング係数決定処理)。一態様において、個別センサ判定部54は、複数の第2マッチング係数のうち最大のマッチング係数を判定用第2マッチング係数として決定する。また別の一態様において、個別センサ判定部54は、複数の第2マッチング係数を合算した値を判定用第2マッチング係数として決定してもよい。
【0051】
個別センサ判定部54は、決定した判定用第2マッチング係数を環境音センサ選択部55に出力する。
【0052】
(環境音センサ選択部55)
環境音センサ選択部55は、各生体音センサユニット50の個別センサ判定部54からそれぞれ判定用第2マッチング係数を受け取る。そして、環境音センサ選択部55は、いずれの環境音センサ51が検知した環境音から得られた判定用第2マッチング係数を、判定処理で用いるかを選択する(第2選択処理)。換言すれば、環境音センサ選択部55は、いずれの環境音センサユニット50の個別センサ判定部54から受け取った判定用第2マッチング係数を、生体音判定部60に出力するかを選択する。
【0053】
環境音センサユニット50が1つの場合は、環境音センサ選択部55は、当該環境音センサユニット50の個別センサ判定部54から受け取った判定用第2マッチング係数を生体音判定部60に出力する。なお、環境音センサユニット50が1つの場合は、環境音センサ選択部55を省略し、個別センサ判定部54が判定用第2マッチング係数を生体音判定部60に出力するように構成してもよい。
【0054】
環境音センサユニット50が複数の場合は、環境音センサ選択部55は、各環境音センサユニット50の個別センサ判定部54から受け取った判定用第2マッチング係数のうち、あらかじめ定めた判定基準の判定用マッチング係数を生体音判定部60に出力する。あらかじめ定めた判定基準としては、例えば、最大の判定用第2マッチング係数を選択するようにしてもよいが、これに限定されない。
【0055】
(生体音判定部60)
生体音判定部60は、生体音センサ選択部45から受け取った判定用マッチング係数と、同じタイミングで環境音センサ選択部55から受け取った判定用第2マッチング係数とに基づいて、生体音センサ41で検知した生体音が対象生体音であるか否かを判定する(判定処理)。
【0056】
すなわち、環境音の中にも、標準周波数スペクトルとマッチング係数が高くなる音が存在する。例えば、物を落とした時の音や、話し声の中にもそういう音が含まれる。そのため、一態様において、生体音判定部60は、生体音由来の判定用生体音マッチング係数が閾値を超える時に、同じタイミングで、環境音由来の判定用第2マッチング係数が閾値を超える場合、そのタイミングにおいては、検知された生体音は、対象生体音ではないと判定することができる。
【0057】
このように、環境音から特定の生体音に類似する音が含まれるか否かを考慮して、特定の生体音を検出することにより、精度高く特定の生体音を検出することができる。
【0058】
そして、生体音判定部60は、判定結果をログ記録部61に記憶する。一態様において、生体音判定部60は、単位時間当たりに対象生体音であると判定した回数(対象生体音を検出した回数)をカウントして、ログ記録部61に記録してもよい。
【0059】
生体音検出装置10は、検出した対象生体音の単位時間当たりの発生回数を算出することによって、生体活動状態の変化を調べることもできる。例えば、対象生体音が腸の蠕動音である場合、摂取物によって引き起こされた腸活動や、摂取物によらずに発生する腸活動等の状態変化を観察することができる。
【0060】
また、一態様において、生体音判定部60は、閾値記録部58に記録された閾値を用いて判定処理を行う。例えば、生体音判定部60は、判定用マッチング係数が、第1の閾値以上で、第2マッチング係数が、第2の閾値未満である場合に、生体音センサ41で検知した生体音が対象生体音であると判定する。第1の閾値と第2の閾値は同じ値としてもよい。これにより、環境音に誤検出を誘発させるような音(対象生体音に類似する音)が含まれておらず、生体音に対象生体音と判断できる音が含まれている場合に、検知した生体音が対象生体音と判断することができ、精度高く対象生体音を検出することができる。
【0061】
なお、別の一態様において、生体音判定部60は、生体音センサ選択部45から受け取った判定用マッチング係数、および、環境音センサ選択部55から受け取った判定用第2マッチング係数を図示しない記憶部に蓄積し、蓄積した複数の判定用マッチング係数および判定用第2マッチング係数に基づいて、検知した生体音が対象生体音であるか否かを判定してもよい。換言すれば、判定用マッチング係数および判定用第2マッチング係数は、一定期間の複数の係数群であってもよい。これにより、意図しない異常値の影響を排除して、精度高く対象生体音を検出することができる。
【0062】
この場合、生体音判定部60は、個々のタイミングにおける判定用マッチング係数および判定用第2マッチング係数の組について、上述したように閾値との比較を行い、判定用マッチング係数が第1の閾値以上で、第2マッチング係数が第2の閾値未満であると判定された組の割合に応じて、検知した生体音が対象生体音であるか否かを判定してもよい。また、複数の判定用マッチング係数および複数の判定用第2マッチング係数について統計的な代表値(平均値等)を算出し、当該代表値を閾値と比較することにより、検知した生体音が対象生体音であるか否かを判定してもよい。
【0063】
また、一態様において、各部はリアルタイムで上述した処理を行う。また、他の態様において、各部は処理したデータを図示しない記憶部にバッファリングし、非リアルタイムで処理を行ってもよい。
【0064】
(調整音伝播装置20)
調整音伝播装置20は、生体音検出装置10によって対象生体音として検出される調整音を生体内に響かせる装置である。再生部11は、音楽プレーヤーのような音再生機であり、再生した調整音を伝播部12に入力する。伝播部12は、生体に調整音を響かせるための音伝播(生体内に音を発生する)装置であり、例えば、骨伝導スピーカによって構成される。伝播部12は、被験者となる生体の骨に接触するように装着され、調整音を振動に変換し、当該振動を骨に伝えることにより、調整音を生体の体内に響かせることができる。例えば、対象生体音が腸の蠕動音である場合には、伝播部12を、骨盤の腸骨棘または仙骨の上などに装着し、振動によって、調整音を腹腔内などに響かせることができる。。被験者となる生体に異常がなければ、調整音は、体内を経由して、生体に装着した生体音センサ41によって検知される。
【0065】
調整音は、標準周波数スペクトルとのマッチング係数が高い、ボリュームが既知の音であることが好ましい。また、調整音のボリュームは一定であってもよいし、大中小と変化してもよい。また、調整音のパターン、間隔、長さは既知であることが好ましい。
【0066】
生体音検出装置10が、調整音伝播装置20を備えることにより、調整音伝播装置20によって生体内に調整音を響かせている状態で生体音センサ41によって生体音を検知し、生体音を検出することができたか確認することにより、当該生体が、対象生体音の検出が可能な生体か否かを判別することができる。
【0067】
(生体音検出の流れ)
図2は、生体音検出装置10による生体音検出の流れを説明するフローチャートである。まず、ステップS1において、主制御部30は、カウンタNを所定値Countに設定する。続いて、ステップS2において、調整音伝播装置20は、調整音を生体の体内に響かせる(調整音伝播工程)。
【0068】
続いて、ステップS3において、検知および検出処理を行う。ステップS3における検知および検出処理では、まず、生体内に調整音を響かせている状態で、生体音センサ41が生体の生体音を検知し(第1検知工程)、主制御部30が、検知された生体音について対象生体音の検出処理を行う(検出処理工程)。検知および検出処理の詳細については後述する。
【0069】
続いて、ステップS4において、主制御部30はカウンタNを1デクリメントし、カウンタNが依然0よりも大きい場合は(ステップS5のYES)、ステップS2に戻り、カウンタNが0になった場合は(ステップS5のNO)、ステップS6に進む。これにより、検知および検出処理をN回繰り返すことができる。
【0070】
ステップS6では、生体音判定部60が、対象生体音の検出結果(カウント数)をログ記録部61に記録する。ステップS7では、調整音伝播装置20が、調整音を停止させる。そして、ステップS8において、主制御部30は、カウンタNを再度所定値Countに設定する。
【0071】
続いて、ステップS9において、検知および検出処理を行う。ステップS9における検知および検出処理では、まず、生体内に調整音を響かせていない状態で、生体音センサ41が生体の生体音を検知し(第2検知工程)、主制御部30が、検知された生体音について対象生体音の検出処理を行う(検出処理工程)。
【0072】
続いて、ステップS10において、主制御部30はカウンタNを1デクリメントし、カウンタNが依然0よりも大きい場合は(ステップS11のYES)、ステップS9に戻り、カウンタNが0になった場合は(ステップS11のNO)、ステップS12に進む。これにより、検知および検出処理をN回繰り返すことができる。
【0073】
ステップS12では、生体音判定部60が、対象生体音の検出結果(カウント数)をログ記録部61に記録する。ユーザは、ステップS6においてログ記録部61に記録されたカウント数と、ステップS12においてログ記録部61に記録されたカウント数とを比較することにより、被験者の生体音が検知できない原因が、体内の音伝播経路に原因があるのか、生体音がなっていないことに原因があるのかを確認することができる。生体から対象生体音を適切に検出できたか否かを確認することができる。
【0074】
(検知および検出処理)
図3は、生体音検出装置10による検知および検出処理を説明するフローチャートである。図3では、生体音検出装置10が、生体音センサユニット40および環境音センサユニット50をそれぞれ複数備えている場合について説明する。ここで、各生体音センサユニット40をそれぞれ、生体音センサユニット40a、生体音センサユニット40bと記載する。また、各環境音センサユニット50をそれぞれ、環境音センサユニット50a、環境音センサユニット50bと記載する。
【0075】
検知および検出処理では、各生体音センサユニット40および各環境音センサユニット50における処理がすべて並行して実施される。
【0076】
すなわち、生体音センサユニット40aでは、生体音センサ41が生体音を検知し(ステップS20a)、周波数スペクトル算出部42が生体音の周波数スペクトルを算出し(ステップS21a)、マッチング係数算出部43が複数のマッチング係数を算出し(ステップS22a)、個別センサ判定部44が判定用マッチング係数を決定する(ステップS23a)。並行して、生体音センサユニット40bでは、生体音センサ41が生体音を検知し(ステップS20b)、周波数スペクトル算出部42が生体音の周波数スペクトルを算出し(ステップS21b)、マッチング係数算出部43が複数のマッチング係数を算出し(ステップS22b)、個別センサ判定部44が判定用マッチング係数を決定する(ステップS23b)。そして、生体音センサ選択部45は、生体音センサユニット40aおよび生体音センサユニット40bがそれぞれ決定した判定用マッチング係数から、一方の判定用マッチング係数を選択する(ステップS24)。
【0077】
また、環境音センサユニット50aでは、環境音センサ51が環境音を検知し(ステップS30a)、周波数スペクトル算出部52が環境音の周波数スペクトルを算出し(ステップS31a)、マッチング係数算出部53が複数の第2マッチング係数を算出し(ステップS32a)、個別センサ判定部54が判定用第2マッチング係数を決定する(ステップS33a)。並行して、環境音センサユニット50bでは、環境音センサ51が環境音を検知し(ステップS30b)、周波数スペクトル算出部52が環境音の周波数スペクトルを算出し(ステップS31b)、マッチング係数算出部53が複数の第2マッチング係数を算出し(ステップS32b)、個別センサ判定部54が判定用第2マッチング係数を決定する(ステップS33b)。そして、環境音センサ選択部55は、環境音センサユニット50aおよび環境音センサユニット50bがそれぞれ決定した判定用第2マッチング係数から、一方の判定用第2マッチング係数を選択する(ステップS34)。
【0078】
そして、生体音判定部60が、判定処理を行う(ステップS40)。
【0079】
以上のように、生体音検出装置10は、(i)調整音伝播装置20が生体内に調整音を響かせている状態で生体音センサ41が検知した生体音と、(ii)調整音伝播装置20が生体内に調整音を響かせていない状態で生体音センサ41が検知した生体音と、のそれぞれについて検出処理を行う。
【0080】
このとき、(i)の生体音および(ii)の生体音のいずれからも対象生体音が検出できない場合は、体内で、音の伝播を阻害することが発生しており、生体音検出装置10により標準周波数スペクトルを用いて対象生体音を検出するには対象外の被験者であると認知することができる。
【0081】
また、(i)の生体音からだけ対象生体音を検出できる場合は、体内で、音の伝播を阻害することが発生していないが、生体音は検出できないことを認知することができる。
【0082】
また、(i)の生体音および(ii)の生体音のいずれからも対象生体音が検出できた場合は、体内で、音の伝播を阻害することが発生しておらず、生体音を検出できたことを認知することができる。
【0083】
これにより、ユーザは、生体音検出装置10を使用し、被験者(患者)の生体音を判定する時、生体音が検出できない場合に、(i)全く検知できる生体音が鳴っていないのか、(ii)生体音は鳴っているが、体内の伝播経路で、マッチングしない周波数スペクトルの音に変化しているために検出できないのかを判定することができる。
【0084】
(閾値変更)
閾値記録部58に記録されている閾値(第1の閾値、第2の閾値)は、一態様において、あらかじめ実験的に求め、記録しておいてもよい。
【0085】
また、一態様において、当該閾値は、閾値変更判定部59によって設定または変更されてもよい。
【0086】
(初期環境音による閾値設定)
一態様において、主制御部30が上述した生体音検出を行う前に、環境音センサ51が検知した環境音に対し、周波数スペクトル算出部52、マッチング係数算出部53および個別センサ判定部54がそれぞれ第2周波数スペクトル算出処理、第2マッチング係数算出処理および判定用第2マッチング係数決定処理を行い、閾値変更判定部59が、得られた判定用第2マッチング係数に基づいて、第1の閾値および第2の閾値の初期値を決定して閾値記録部58に記録してもよい。
【0087】
一態様において、閾値変更判定部59は、一定時間に得られた判定用第2マッチング係数を超える値を各閾値の初期値として設定する。その際、閾値変更判定部59は、標準偏差値を求めて、環境定常音でない、声や物を落とした音などは、無視してもよい。予め、分散の範囲を例えば1%というように決めて置き、定常音それ以外の分散値は、イレギュラーな環境音と判断する。
【0088】
(環境変化に応じた、リアルタイムな閾値変更)
一態様において、閾値変更判定部59は、主制御部30が上述した生体音検出を行っている間に、周期的または非周期的に、個別センサ判定部54が決定した判定用第2マッチング係数に基づいて、第1の閾値および第2の閾値の少なくとも一方を変更してもよい。
【0089】
(第1の態様)
例えば、周辺で機械を動かしたり、部屋を移動して定常音が加わったり、空調の音が加わるなどの環境音の変化によって、環境音由来の判定用第2マッチング係数が、ほとんど第2の閾値を超えてしまい、その結果、対象生体音の検出をほとんど無効にしてしまう場合がある。その場合は、環境音の定常音が変化しているので、閾値変更判定部59は、判定用マッチング係数および判定用第2マッチング係数に基づいて各閾値を変更する。例えば、一定期間(例えば、1分間)に得られた環境音由来の判定用第2マッチング係数の標準偏差から一定範囲の最大値を計算し、その値を超える値を環境閾値とする。また、一定期間(例えば、1分間)に得られた生体音由来の判定用マッチング係数の標準偏差から一定範囲の最小値を計算し、その値を生体音最低値とする。
【0090】
そして、閾値変更判定部59は、環境閾値以上で、且つ生体音最低値以上の値を各閾値とする。閾値の変更は、周期的(例えば、1分毎、5分毎等)または非周期的に行うことができる。
【0091】
(第2の態様)
また、例えば、周辺で機械を止めたり、部屋を移動して静かになったり、空調が切れるなどの環境音の変化があるのに、各閾値をそのままにしておくと、常に対象生体音を検出してしまう場合がある。その場合は、環境音の定常音が変化しているので、閾値変更判定部59は、判定用マッチング係数および判定用第2マッチング係数に基づいて各閾値を変更する。例えば、一定期間(例えば、1分間)に得られた環境音由来の判定用第2マッチング係数の標準偏差から一定範囲の最大値を計算し、その値を超える値を環境閾値とする。また、一定期間(例えば、1分間)に得られた生体音由来の判定用マッチング係数の標準偏差から一定範囲の最小値を計算し、その値を生体音最低値とする。
【0092】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態に係る生体音検出装置10によれば、体内の状態(腹水や脂肪の付き方、手術痕など)も様々で、病状や、腸等の器官が動いていない場合もある、患者(病気の被験者)や、健常者か患者か区別していない様々な被験者に対して、(i)一定期間、体内で(サンプルにした健常者がカウント出来た)既知の調整音を鳴らして、被験者の生体音を取得して、カウントできるか否かによって、健常者の標準スペクトルを使用して対象生体音を検出する本装置を使用できる対象者かどうかを確認でき、(ii)音を対象生体音と判定するか否かの閾値は、常に固定であったり、毎回、医師が音を聞いて主観で決めるのではなく、一定の基準のもと、自動的に設定して、環境や診察者による測定差をなくすことができ、(iii)複雑な演算処理を行わずに、被験者の生体音は、対象生体音であるか否かを、周囲の環境音の影響を考慮しながら、繰り返し判定して、一定間隔でカウントすることによって、生体の活動状態をモニタリングできる。
【0093】
〔変形例〕
一態様において、生体音検出装置10は、環境音センサユニット50を備えていなくともよい。その場合であっても、調整音伝播装置20によって生体内に調整音を響かせている状態で生体音センサ41によって生体音を検知し、生体音を検出することができたか確認することにより、当該生体が、対象生体音の検出が可能な生体か否かを判別することができる。この場合、生体音検出装置10は、環境音センサ選択部55および閾値変更判定部59も備えていなくともよい。また、生体音判定部60は、判定用マッチング係数と閾値記録部58に記録されている閾値とを比較することにより、検知した生体音が対象生体音であるか否かを判定すればよい。
【0094】
また、一態様において、生体音センサユニット40を複数設ける代わりに、生体音センサ41のみを複数設け、生体音センサユニット40の他の構成またはその一部は共通のものとしてもよい。また、一態様において、環境音センサユニット50を複数設ける代わりに、環境音センサ51のみを複数設け、環境音センサユニット50の他の構成またはその一部は共通のものとしてもよい。
【0095】
また、一態様において、生体音判定部60が、対象生体音の検出が可能な生体か否かを判定し、判定結果をログ記録部61に記録してもよい。すなわち、生体音判定部60は、生体内に調整音を響かせている状態で生体音センサ41によって検知された生体音から対象生体音を検出できなかった場合や、検出できた割合が低い場合には、対象生体音の検出が可能な生体ではないと判定してもよい。
【0096】
また、一態様において、生体音判定部60は、上述した様々な判定結果を、ログ記録部61に記録することに代えて、または、加えて、外部の表示部等に出力してもよい。
【0097】
また、一態様において、主制御部30の全部または一部の機能を、生体音検出装置10と通信可能なサーバによって実現してもよい。そのようなシステムも、本実施形態に係る生体音検出装置10の一態様である。
【0098】
また、一態様において、生体音判定部60は、生体内に調整音を響かせている状態と、生体内に調整音を響かせていない状態とを区別せずに、単位時間当たりにおける対象生体音の検出回数をカウントしてもよい。なぜなら、調整音をどのように鳴らすかは既知であるため、調整音を対象生体音として検出する回数は予測可能であり、対象生体音の検出回数が、調整音を対象生体音として検出する予測回数を下回った場合は、対象生体音の検出が可能な生体ではないと判定することができるからである。
【0099】
〔ソフトウェアによる実現例〕
生体音検出装置10の制御ブロック(特に主制御部30)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0100】
後者の場合、生体音検出装置10は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0101】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る生体音検出装置は、生体から特定の生体音を検出する生体音検出装置(10)であって、前記生体の生体音を検知する生体音検知部(生体音センサ41)と、前記生体内に調整音を響かせる調整音伝播部(調整音伝播装置20)と、を備えている。
【0102】
上記の構成によれば、調整音伝播部によって生体内に調整音を響かせている状態で生体音検知部によって生体音を検知し、生体音を検出することができたか確認することにより、生体から特定の生体音を検出する生体音検出装置において、当該生体が、当該特定の生体音の検出が可能な生体か否かを判別することができる。
【0103】
本発明の態様2に係る生体音検出装置は、上記態様1において、前記生体音検知部が検知した生体音から前記特定の生体音を検出する検出処理を行う検出処理部(主制御部30)をさらに備え、前記検出処理部は、前記調整音伝播部が前記生体内に前記調整音を響かせている状態で前記生体音検知部が検知した生体音と、前記調整音伝播部が前記生体内に前記調整音を響かせていない状態で前記生体音検知部が検知した生体音と、のそれぞれについて前記検出処理を行うものであってもよい。
【0104】
上記の構成によれば、生体内に調整音を響かせている状態で検知した生体音と、生体内に調整音を響かせていない状態で検知した生体音のそれぞれに対し検出処理を行うことにより、当該生体が、当該特定の生体音の検出が可能な生体か否かを好適に判別することができる。
【0105】
本発明の態様3に係る生体音検出装置は、上記態様2において、前記検出処理は、前記生体音の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出処理と、前記生体音の周波数スペクトルと、前記特定の生体音の複数の標準周波数スペクトルのそれぞれとを個別にマッチングすることによって、複数のマッチング係数を算出するマッチング係数算出処理と、前記複数のマッチング係数に基づいて、判定用マッチング係数を決定する判定用マッチング係数決定処理と、前記判定用マッチング係数に基づいて、前記生体音が前記特定の生体音であるか否かを判定する判定処理と、を含んでいてもよい。
【0106】
上記の構成によれば、生体音から特定の生体音を好適に検出することができる。
【0107】
本発明の態様4に係る生体音検出装置は、上記態様3において、複数の前記生体音検知部を備え、前記検出処理は、各生体音検知部が検知した生体音に対し、前記周波数スペクトル算出処理、前記マッチング係数算出処理および前記判定用マッチング係数決定処理を個別に行い、いずれの生体音検知部が検知した生体音から得られた前記判定用マッチング係数を前記判定処理で用いるかを選択する選択処理をさらに含んでいてもよい。
【0108】
上記の構成によれば、生体音検知部の位置による生体音の検知漏れを抑制することができる。
【0109】
本発明の態様5に係る生体音検出装置は、上記態様3または4において、前記判定処理では、前記判定用マッチング係数を蓄積し、蓄積された複数の前記判定用マッチング係数に基づいて、前記生体音が前記特定の生体音であるか否かを判定するものであってもよい。
【0110】
上記の構成によれば、意図しない異常値の影響を排除して、精度高く対象生体音を検出することができる。
【0111】
本発明の態様6に係る生体音検出装置は、上記態様3~5において、前記生体の周囲の環境音を検知する環境音検知部(環境音センサ51)をさらに備え、前記検出処理は、前記環境音の周波数スペクトルを算出する第2周波数スペクトル算出処理と、前記環境音の周波数スペクトルと、前記特定の生体音の複数の標準周波数スペクトルのそれぞれとを個別にマッチングすることによって、複数の第2マッチング係数を算出する第2マッチング係数算出処理と、前記複数の第2マッチング係数に基づいて、判定用第2マッチング係数を決定する判定用第2マッチング係数決定処理と、をさらに含み、前記判定処理は、前記判定用マッチング係数および前記判定用第2マッチング係数に基づいて、前記生体音が前記特定の生体音であるか否かを判定するものであってもよい。
【0112】
上記の構成によれば、環境音から特定の生体音に類似する音を好適に検出することができる。そして、環境音から特定の生体音に類似する音が含まれるか否かを考慮して、特定の生体音を検出することにより、精度高く特定の生体音を検出することができる。
【0113】
本発明の態様7に係る生体音検出装置は、上記態様6において、複数の前記環境音検知部を備え、前記検出処理は、各環境音検知部が検知した環境音に対し、前記第2周波数スペクトル算出処理、前記第2マッチング係数算出処理および前記判定用第2マッチング係数決定処理を個別に行い、いずれの環境音検知部が検知した環境音から得られた前記判定用第2マッチング係数を前記判定処理で用いるかを選択する第2選択処理をさらに含んでいるものであってもよい。
【0114】
上記の構成によれば、環境音検知部の位置による環境音の検知漏れを抑制することができる。
【0115】
本発明の態様8に係る生体音検出装置は、上記態様6または7において、前記判定処理は、前記判定用マッチング係数が第1の閾値以上であり、前記判定用第2マッチング係数が第2の閾値未満である場合に、前記生体音が前記特定の生体音であると判定するものであってもよい。
【0116】
上記の構成によれば、環境音に誤検出を誘発させるような音(特定の生体音に類似する音)が含まれておらず、生体音に特定の生体音と判断できる音が含まれている場合に、検知した生体音が特定の生体音と判断することができ、精度高く特定の生体音を検出することができる。
【0117】
本発明の態様9に係る生体音検出装置は、上記態様8において、前記検出処理部は、前記検出処理を行う前に、前記第2周波数スペクトル算出処理、前記第2マッチング係数算出処理および前記判定用第2マッチング係数決定処理を行い、得られた前記判定用第2マッチング係数に基づいて、前記第1の閾値および前記第2の閾値の初期値を決定するものであってもよい。
【0118】
上記の構成によれば、環境音に応じて閾値の初期値を設定することにより、精度高く特定の生体音を検出することができる。
【0119】
本発明の態様10に係る生体音検出装置は、上記態様8または9において、前記検出処理部は、前記検出処理を行っている間に、周期的または非周期的に、得られた前記判定用第2マッチング係数に基づいて、前記第1の閾値および前記第2の閾値の少なくとも一方を変更するものであってもよい。
【0120】
上記の構成によれば、環境音に応じて閾値を変更することにより、精度高く特定の生体音を検出することができる。
【0121】
本発明の態様11に係る生体音検出装置は、上記態様3~10において、前記検出処理部は、前記判定用マッチング係数決定処理において決定した前記判定用マッチング係数が、いずれの標準周波数スペクトルとのマッチングによって得られたものであるかを示す情報を記録するものであってもよい。
【0122】
上記の構成によれば、検出された特定の生体音についてさらに詳細な情報を得ることができる。
【0123】
本発明の態様12に係る生体音検出装置は、上記態様2~11において、前記検出処理部は、前記検出処理において前記特定の生体音を検出した回数を記録するものであってもよい。
【0124】
上記の構成によれば、生体活動状態の変化を好適に調べることができる。
【0125】
本発明の態様13に係る生体音検出装置は、上記態様1~12において、前記特定の生体音は、腸の蠕動音であってもよい。
【0126】
上記の構成によれば、腸の蠕動音を好適に検出することができる。
【0127】
本発明の態様14に係る生体音検出方法は、生体音検出装置によって生体から特定の生体音を検出する生体音検出方法であって、前記生体音検出装置によって前記特定の生体音として検出される調整音を前記生体内に響かせる調整音伝播工程と、前記生体内に前記調整音を響かせている状態で前記生体の生体音を検知する第1検知工程と、前記生体内に前記調整音を響かせていない状態で前記生体の生体音を検知する第2検知工程と、を含む。
【0128】
上記の構成によれば、本発明の態様1に係る生体音検出装置と同等の効果を奏する。
【0129】
本発明の各態様に係る生体音検出装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記生体音検出装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより上記生体音検出装置をコンピュータにて実現させる生体音検出装置の生体音検出プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0130】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0131】
10 生体音検出装置、11 再生部、12 伝播部、20 調整音伝播装置(調整音伝播部)、30 主制御部(検出処理部)、40 生体音センサユニット、41 生体音センサ(生体音検知部)、42 周波数スペクトル算出部、43 マッチング係数算出部、44 個別センサ判定部、45 生体音センサ選択部、51 環境音センサ(環境音検知部)、52 周波数スペクトル算出部、53 マッチング係数算出部、54 個別センサ判定部、55 環境音センサ選択部、57 周波数スペクトル番号記録部、58 閾値記録部、59 閾値変更判定部、60 生体音判定部、61 ログ記録部
図1
図2
図3