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特許7199106被験者における興奮性亢進の判定方法及びキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】被験者における興奮性亢進の判定方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20221223BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221223BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221223BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20221223BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221223BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20221223BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12N15/09 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020542919
(86)(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019004916
(87)【国際公開番号】W WO2019156257
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】62/628,324
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、難治性疾患実用化研究事業、研究開発課題名「神経疾患の集中的な遺伝子解析及び原因究明に関する研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】辻 省次
(72)【発明者】
【氏名】石浦 浩之
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】Gene,2000年,Vol.242,pp.65-73
【文献】臨床神経学,2014年,Vol.54, No.12,pp.1142-1145
【文献】Neurogenetics,2010年,Vol.11,pp.409-415
【文献】PLOS ONE,2015年,No.e0125906,pp.1-13
【文献】Nature Genetics,2018年,Vol.50,pp.581-590
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68-1/70
C12N 15/09-15/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者からの核酸サンプル中のTTTCA及びTTTTAのリピート伸長、又はTTTCAの相補的配列及びTTTTAの相補的配列のリピート伸長を検出することを含む、前記被験者における振戦及び/又はてんかんを示す興奮性亢進の判定補助方法であって、
TTTCA及びTTTTAが前記被験者からの遺伝子のイントロン中に存在し、
前記遺伝子が、SAMD12遺伝子、TNRC6A遺伝子、及びRAPGEF2遺伝子の少なくとも1つであり、
TTTCA、TTTTA、TTTCAの相補的配列、及びTTTTAの相補的配列のそれぞれの前記リピート伸長が50リピート超である、
方法。
【請求項2】
前記核酸サンプルが染色体DNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リピート伸長のサイズに基づいて前記興奮性亢進の予想発症年齢を計算することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記興奮性亢進が脳内の興奮性亢進である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記興奮性亢進が大脳内の興奮性亢進である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記興奮性亢進が皮質ニューロンの興奮性亢進である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記興奮性亢進が良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
被験者からのサンプル中にUUUCAのリピート伸長を有するRNA fociを検出することを含む、前記被験者における振戦及び/又はてんかんを示す興奮性亢進の判定補助方法であって、
前記サンプルがニューロンであり、
前記RNA fociが前記ニューロンの核中に存在し、
前記リピート伸長が50リピート超である、
方法。
【請求項9】
前記興奮性亢進が脳内の興奮性亢進である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記興奮性亢進が大脳内の興奮性亢進である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記興奮性亢進が皮質ニューロンの興奮性亢進である、請求項8から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記興奮性亢進が良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんである、請求項8から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
被験者からの核酸サンプル中のTTTCA及びTTTTAのリピート伸長、又はTTTCAの相補的配列及びTTTTAの相補的配列のリピート伸長を検出するように構成された核酸試薬を含む、前記被験者における振戦及び/又はてんかんを示す興奮性亢進の判定キットであって、
TTTCA及びTTTTAが前記被験者からの遺伝子のイントロン中に存在し、
前記遺伝子が、SAMD12遺伝子、TNRC6A遺伝子、及びRAPGEF2遺伝子の少なくとも1つであり、
TTTCA、TTTTA、TTTCAの相補的配列、及びTTTTAの相補的配列のそれぞれの前記リピート伸長が50リピート超である、
キット。
【請求項14】
前記核酸試薬が、TTTCA、TTTTA、又はそれらの前記相補的配列の前記リピート伸長を検出するように構成されたPCRプライマーを含む、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記PCRプライマーが、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の相補的配列を含む、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記核酸試薬が、TTTCA、TTTTA、又はそれらの前記相補的配列の前記リピート伸長を検出するように構成されたハイブリダイゼーションプローブを含む、請求項13に記載のキット。
【請求項17】
前記ハイブリダイゼーションプローブが、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の相補的配列を含む、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記ハイブリダイゼーションプローブが、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の近接配列の相補的配列を含む、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
前記近接配列のサイズが20kb未満である、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
被験者からのサンプル中のUUUCAのリピート伸長を検出するように構成されたプローブを含む、前記被験者における振戦及び/又はてんかんを示す興奮性亢進の判定キットであって、
前記サンプルがニューロンの核中に存在するRNA fociであり、
前記リピート伸長が50リピート超である、
キット。
【請求項21】
前記プローブがTGAAAを含む、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記プローブが蛍光色素を有する標識である、請求項20又は21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
[0001] 被験者における興奮性亢進の判定方法及びキットが開示される。
【背景技術】
【0002】
背景技術
[0002] 良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は、良性の臨床経過を示すミオクローヌス振戦(皮質振戦)及び、稀に生じるてんかんにより特徴付けられる常染色体優性遺伝性の疾患である(MIM601068)。この疾患は、家族性本態性ミオクローヌスてんかん(FEME)、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)、家族性成人型ミオクローヌスてんかん(FAME)、常染色体優性遺伝性皮質振戦、ミオクローヌス、及びてんかん(ADCME)、並びにてんかんを伴う家族性皮質ミオクローヌス振戦(FCMTE)をはじめとする各種名称で呼ばれてきた。これまでのところ、少なくとも60家系が日本で報告されている。これまでに調べられた日本の家系及び中国の家系はすべて、8q24に連鎖することが示されている。一方、常染色体優性遺伝を示す類似の臨床所見を有するイタリア、フランス、及びタイ出身の家系は、それぞれ、遺伝子座位異質性を示唆する2p(FAME2/FCMTE2)、5p(FAME3/FCMTE3)、及び3q(FAME4/FCMTE4)に連鎖することが示されている。宇山らは、日本の熊本県でBAFMEの出現率を1/35,000と推定し、日本でBAFMEの出現率が高いことを示唆した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】[0003]Uyama, E., Fu, Y.H., & Ptacek, L.J. Familial adult myoclonic epilepsy (FAME). In: Delgado-Escueta, A.V., Guerrini, R., Medina, M.T., Genton, P., Bureau, M., Dravet, C., eds. Advances in neurology, Vol. 95: Myoclonic Epilepsies. Philadelphia, Lippincott Willams & Wilkins. 281-288 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0004] コピー数解析を含めて候補領域内に位置する38遺伝子のすべてのエクソンの包括的変異解析にもかかわらず、原因となる変異は同定されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
問題の解決策
[0005] 本発明者らは、8q24に連鎖するBAFMEの原因となる変異としてSAMD12のイントロンに非コードTTTCA及びTTTTAペンタヌクレオチド(5塩基)リピート伸長を同定した。さらに、本発明者らは、SAMD12中のリピート伸長が除外されたBAFMEファミリーのTNRC6及びRAPGEF2Aに類似のTTTCA及びTTTTAリピート伸長を同定した。これらの知見から、TTTCA及びTTTTAペンタヌクレオチドリピート伸長は、伸長リピートが存在する遺伝子に関わらず、おそらくRNA媒介毒性機序を介して、BAFMEを含めて神経細胞の興奮性亢進の病態機序に本質的な役割を果たすことが強く示唆される。
【0006】
[0006] 本開示のある態様は、被験者からの核酸サンプル中のTTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出することを含む、被験者における興奮性亢進の判定又は診断方法に関する。TTTCAリピートの伸長は、BAFME患者に排他的に存在するが、この伸長はまた、限られた割合の健常者にも稀に存在する。
【0007】
[0007] 本開示のある態様は、被験者からの核酸サンプル中のTTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出することと、リピート伸長が検出された場合、被験者に興奮性亢進治療用の医薬組成物を投与することと、を含む、被験者における興奮性亢進の治療方法に関する。
【0008】
[0008] 上記の方法において、核酸サンプルは染色体DNAでありうる。上記の方法において、TTCA及びTTTTAは、被験者からの遺伝子のイントロン中に存在しうる。上記の方法において、遺伝子は、SAMD12遺伝子、TNRC6A遺伝子、及びRAPGEF2遺伝子の少なくとも1つでありうる。上記の方法において、リピート伸長は50リピート超でありうる。以上の方法は、リピート伸長のサイズに基づいて興奮性亢進の予想発症年齢を計算することをさらに含みうる。上記の方法において、興奮性亢進は脳内の興奮性亢進でありうる。上記の方法において、興奮性亢進は大脳内の興奮性亢進でありうる。上記の方法において、興奮性亢進は皮質ニューロンの興奮性亢進でありうる。上記の方法において、興奮性亢進は癲癇でありうる。上記の方法において、興奮性亢進は良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんでありうる。
【0009】
[0009] 本開示のある態様は、被験者からのサンプル中のUUUCAのリピート伸長を有するRNA fociを検出することを含む、被験者における興奮性亢進の判定又は診断方法に関する。
【0010】
[0010] 本開示のある態様は、被験者からのサンプル中のUUUCAのリピート伸長を有するRNA fociを検出することと、RNA fociが検出された場合、被験者に興奮性亢進治療用の医薬組成物を投与することと、を含む、被験者における興奮性亢進の治療方法に関する。
【0011】
[0011] 上記の方法において、サンプルは神経細胞でありうる。上記の方法において、RNA fociは神経細胞核に存在しうる。上記の方法において、興奮性亢進は脳内の興奮性亢進でありうる。上記の方法において、興奮性亢進は大脳内の興奮性亢進でありうる。上記の方法において、興奮性亢進は皮質神経細胞の興奮性亢進でありうる。上記の方法において、興奮性亢進はてんかんでありうる。興奮性亢進は良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんでありうる。
【0012】
[0012] 本開示のある態様は、被験者からの核酸サンプル中のTTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出するように構成された核酸試薬を含む、被験者における興奮性亢進の判定又は診断キットに関する。
【0013】
[0013] 上記のキットにおいて、核酸試薬は、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出するように構成されたPCRプライマーを含みうる。上記のキットにおいて、PCRプライマーは、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の相補的配列を含みうる。上記のキットにおいて、核酸試薬は、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出するように構成されたハイブリダイゼーションプローブを含みうる。上記のキットにおいて、ハイブリダイゼーションプローブは、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の相補的配列を含みうる。上記のキットにおいて、ハイブリダイゼーションプローブは、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の近接配列の相補的配列を含みうる。上記のキットにおいて、近接配列のサイズは、20kb未満でありうる。
【0014】
[0014] 本開示のある態様は、被験者からのサンプル中のUUUCAのリピート伸長を検出するように構成されたプローブを含む、被験者における興奮性亢進の判定又は診断キットに関する。
【0015】
[0015] 上記のキットにおいて、プローブはTGAAAを含みうる。上記のキットにおいて、プローブは蛍光色素で標識しうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】[0016]BAFMEに対する候補領域のリファインメント。(a)連鎖解析及びハプロタイプ解析に使用したBAFMEファミリーの家系図。四角及び丸は、それぞれ、男性及び女性を表す。罹患者は、塗潰し記号により表される。記号を通る斜線は、死亡者を表す。(b)3.1の累積多点ロッドスコアを有する単一ピークを示すパラメトリック連鎖解析。従来の研究で同定された候補領域も示される。(c)6家系の詳細なハプロタイプ。家系間の共有ハプロタイプは灰色で示される。(d)ハプロタイプ解析により規定された最小候補領域。これは単一エクソン(SAMD12のエクソン4)とその周囲のイントロンとを含む。
図2A】[0016]SAMD12中のリピート伸長変異の同定。(TTTTA)7(TTA)(TTTTA)11又ハ17を含有する3名(F7361のII-2、II-3、及びIII-3)におけるSAMD12のイントロン4のPCR産物のサンガーシーケンシング。TTA中断の下流に位置するTTTTAリピート単位の数は、一見すると、父親では17/17、母親では11/11、及び息子では11/11であり、メンデルの法則に一致しない。
図2B】[0016]SAMD12中のリピート伸長変異の同定。患者(F6906のII-6)について、TTTTAリピートの周辺のショートリードの手動アライメント。リピートの参照配列は、マイナス鎖(hg19のchr8:119,379,055~119,379,157)で(TTTTA)7(TTA)(TTTTA)13であるが、代表的なショートリードの手動アライメントは、リピートの下流に異常TTTCAリピート伸長を示す。図に示されない他のペアリードがこの領域にユニークにアライメントされることから、伸長TTTCAリピートの存在がさらに支持される。
図2C】[0016]SAMD12中のリピート伸長変異の同定。SAMD12のエクソン4、イントロン4、及びエクソン5の模式図。伸長TTTTAリピート及びTTTCAリピートをそれぞれ検出するために、SAMD12のイントロン4のTTTCAリピート伸長の上流にTTTTAリピート伸長が位置すると仮定して、プライマーセット(「P1、P2、及びP3アンカー」、並びに「P3、P4、及びP4アンカー」)を設計する。配列(図8)を含有するようにプローブ1a及び1bを設計し、サザンブロット解析に使用する。
図2D】[0016]SAMD12中のリピート伸長変異の同定。リピートプライムPCR解析の代表的な結果。2つの独立した実験は類似の結果を示した。48家系の82名の患者では、F6906のII-6に対する結果に示されたのと同様に、TTTTAリピート伸長及びTTTCAリピート伸長の両方が実証された(上側パネル)。ファミリーF6115では、リピートプライムPCR解析は、TTTTAリピート伸長のみを示した(中間パネル)。対照では、参照配列中のそれに対応する短いTTTTAリピートのみが検出される(下側パネル)。
図2E】[0016]SAMD12中のリピート伸長変異の同定。サザンブロット解析により確認されたリピート伸長。ジゴキシゲニン標識プローブ1a及び1bを用いて、罹患者(F6906のII-6)は伸長対立遺伝子を示したが、非罹患者(F6906のII-7)は示さなかった。2つの独立した実験は類似の結果を示した。
図2F】[0016]SAMD12中のリピート伸長変異の同定。F6115のサザンブロット解析。ゲノムDNAをSacIにより消化し、ジゴキシゲニン標識プローブ1a及び1b又はジゴキシゲニン標識(TGAAA)9図8a)を用いてサザンブロット解析に付した。罹患者(F6115のI-2、II-1、及びII-2)では、ジゴキシゲニン標識プローブ1a及び1bは、正常対立遺伝子に由来する2.3kbの断片のほかに伸長リピートに対応する追加の断片を示した(左側パネル)。ジゴキシゲニン標識(TGAAA)9図8a及び図8d)を用いたサザンブロット解析は、TTTCAを標的とするリピートプライムPCRが図2dに示されるように増幅ができなかったという事実にもかかわらず、伸長対立遺伝子にTTTCAリピートが含有されることを示した(右側パネル)。こうした知見から、F6115の患者における伸長対立遺伝子は、F6906の患者を含めて他の場合のものとは異なるリピート構成を有することが示唆される。実験は1回実施した。
図3A】[0016]SAMD12中の異常リピート伸長の2つのリピート構成。SMRTシーケンシングにより決定されたリピート伸長を含むBACクローンDNA断片のヌクレオチド配列。この解析によりF6906のII-6で正確なリピート構成が決定された。本発明者らがリピートプライムPCR解析によりTTTCAリピート伸長の検出に失敗したファミリーF6115で、SMRTシーケンシングは、2つのTTTTAリピート伸長間にTTTCAリピート伸長を示した。
図3B】[0016]SAMD12中の異常リピート伸長の2つのリピート構成。BAFME1家系のSAMD12中のリピート構成の模式図。ほとんどの家系は、TTTTA伸長が上流に位置し且つTTTCA伸長が下流に位置するリピート構成1に適合する結果を示した。1家系(F6115)のみは、TTTCAリピート伸長が2つのTTTTAリピート伸長間に位置するリピート構成2を有することを、本発明者らは見いだした。
図4A】[0016]リピート長は、てんかんの発症年齢に逆相関し、且つ世代間不安定性を示す。サザンブロット解析により推定されたSAMD12中の伸長TTTCAリピート及びTTTTAリピート(リピート構成1)のサイズ及びてんかんの発症年齢。ゲノムDNAが末梢血白血球(50名の患者)及びリンパ芽球様細胞系(LCL)(4名の患者)から抽出されたヘテロ接合変異を有する患者は、それぞれ、黒丸及び黒四角により表される。F6115の伸長リピート(リピート構成2)のデータはこの解析には含まれない。点線は、ヘテロ接合リピート伸長を有する患者(n=54)の線形回帰直線を表す。ヘテロ接合リピート伸長を有する患者の伸長リピートの長さは、てんかんの発症年齢に有意に逆相関した(p=3.5×10-4、相関係数の有意性の検定)。逆相関は、18.4kbのリピート長を有する単一の外れ値を除外しても、依然として観測されることに留意すべきである(p=8.9×10-4、相関係数の有意性の検定)。ホモ接合変異を有する4名の患者のうち、3名の患者の末梢血白血球における伸長リピートのサイズは、末梢血白血球又はLCLが入手不能であった剖検患者(F8140のV-3)を除いて、白丸により表される。てんかんの発症年齢に対する平均リピート長のプロットにより示されるように、ホモ接合リピート伸長を有する患者におけるてんかんの発症年齢は、より若くなる傾向があることから、ホモ接合患者における発症年齢に及ぼす相加的遺伝子効果の可能性が示唆される。
図4B】[0016]リピート長は、てんかんの発症年齢に逆相関し、且つ世代間不安定性を示す。世代間で不安定なリピート長を示す末梢白血球からのゲノムDNAを用いた代表的なサザンブロット解析。この家系(F8398)では、リピート伸長は後続の世代でより大きくなる。実験は1回実施した。
図5】[0016]BAFME1患者の神経病理学的研究。(a~d)SAMD12中にTTTCAペンタヌクレオチドリピート伸長(リピート構成1)を有するBAFME剖検患者の脳の組織病理学的特徴。ホモ接合変異を有する患者の小脳皮質(a~c:F8140のV-3)及びヘテロ接合変異を有する患者の小脳皮質(d:F8138のII-7)。(a)細胞体の周辺にハロー様アモルファス物質(体細胞萌芽)を示す残留プルキンエ細胞及び変形した核。(b)銀含浸により実証された体細胞萌芽を有するプルキンエ細胞の他の一例。(c)2つのプルキンエ細胞のハロー様アモルファス物質は、カルビンジンプロテインD-28kに対して免疫陽性である。実験を6回実施し、信頼できる同様の結果を得た。(d)体細胞萌芽を有していない3つのプルキンエ細胞。(a、d)ヘマトキシリン-エオシン染色、(b)ボディアン染色、及び(c)免疫染色後にヘマトキシリンで対比染色。バー=25μm(a、b、及びd)並びに50μm(c)。(e)SAMD12中にTTTCAペンタヌクレオチドリピート伸長(リピート構成1)を有する患者の剖検脳の大きな皮質神経細胞中にRNA fociを示す蛍光in situハイブリダイゼーション解析。Cy3標識(TGAAA)12プローブを使用したときにRNA fociが観測されたので、RNA fociはUUUCAリピートからなるとみなされる。類似の結果は、他の4名のヘテロ接合患者及び3名の対照で得られた。RNA fociは、アンチセンスCy3-(TTTCA)12プローブを用いた場合、罹患脳で検出されなかった。リボヌクレアーゼA前処置では、罹患脳で蛍光シグナルを生成しなかったが、デオキシリボヌクレアーゼI前処置では、蛍光シグナルが残留した(データは示されていない)。本発明者らは、UUUUAリピート伸長を標的とするCy3-(TAAAA)12やCy3-(TAAAA)18プローブを用いた場合には、RNA fociを観察しなかった。
図6A】[0016]TNRC6A(BAFME6)及びRAPGEF2(BAFME7)中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長変異の同定。TNRC6A中のリピート伸長変異の模式図。TTTCA及びTTTTAリピート伸長をそれぞれ検出するように設計されたプライマーセット「P5、P6、及びP6アンカー」並びに「P7、P8、及びP8アンカー」は、伸長リピートの模式図の下に示される。配列(図8b)を含有するプローブ6a及び6bを設計し、サザンブロット解析に使用する。
図6B】[0016]TNRC6A(BAFME6)及びRAPGEF2(BAFME7)中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長変異の同定。リピートプライムPCR解析の代表的な結果。図は、患者におけるTTTTA及びTTTCAリピート伸長の存在を示す(上側パネル)。F9283の全部で5名の罹患者では、TTTTA及びTTTCAリピート伸長の両方が検出される。実験を独立して2回実施し、同様の結果を得た。
図6C】[0016]TNRC6A(BAFME6)及びRAPGEF2(BAFME7)中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長変異の同定。F9283のサザンブロット解析。ジゴキシゲニン標識プローブ6a及び6bを用いたサザンブロット解析は、罹患者において伸長対立遺伝子に対応する10kbの断片(矢印)を示した(左側パネル)。実験を独立して2回実施し、同様の結果を得た。ジゴキシゲニン標識(TGAAA)9プローブを用いたサザンブロット解析は、罹患者における伸長対立遺伝子(矢印)がTTTCAリピート伸長を含有することを示す(右側パネル)。TNRC6A中の伸長リピートの長さは、SAMD12中のものほど不安定でない。実験は1回実施した。
図6D】[0016]TNRC6A(BAFME6)及びRAPGEF2(BAFME7)中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長変異の同定。RAPGEF2中の異常リピート伸長の模式図。TTTTA及びTTTCAリピート伸長をそれぞれ検出するように設計されたプライマーセット「P9、P10、及びP10アンカー」並びに「P11、P12、及びP12アンカー」は、伸長リピートの模式図の下に示される。配列(図8c)を含有するプローブ7a~dを設計し、サザンブロット解析に使用する。
図6E】[0016]TNRC6A(BAFME6)及びRAPGEF2(BAFME7)中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長変異の同定。F8241のリピートプライムPCR解析の結果。図は、III-2におけるTTTTA及びTTTCAリピート伸長の両方の存在を示す(上側パネル)。非罹患兄弟姉妹(III-1)では、TTTTAリピート伸長は検出されたが、TTTCAリピート伸長は検出されなかった(中間パネル)。母親(II-2)では、正常な短いTTTTAリピートのみが検出される(下側パネル)。実験を独立して2回実施し、同様の結果を得た。
図6F】[0016]TNRC6A(BAFME6)及びRAPGEF2(BAFME7)中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長変異の同定。F8241のサザンブロット解析。ジゴキシゲニン標識プローブ7a~dを用いて行ったサザンブロット解析(左側パネル)は、罹患患者(III-2)において伸長対立遺伝子に対応する20kbの断片(矢印)を示した。ジゴキシゲニン標識(TGAAA)9プローブを用いたサザンブロット解析(右側パネル)は、罹患患者(III-2)において伸長対立遺伝子(矢印)がTTTCAリピート伸長を含有することを示す。非罹患兄弟姉妹(III-1)では、正常対立遺伝子に対応する8.9kbのバンドのほかに短い伸長に対応する10.1kbの断片が観測される。しかしながら、ジゴキシゲニン標識(TGAAA)9プローブを用いたサザンブロット解析(右側パネル)では、10.1kbの断片を示さなかったことから、III-1における短い伸長は、TTTCAリピート伸長を含有しないことが示唆される。これらの実験を独立して2回実施し、同様の結果を得た。
図7】[0016]TTTTAリピート伸長を示すSAMD12中のリピートの上流領域にアライメントされたショートリード。上段:2名の罹患者の全ゲノム配列解析の結果は、上流領域にTTTTAリピート伸長を含有する変異対立遺伝子を示唆する。下段:罹患者の全ゲノム配列解析の結果は、下流領域にTTTCAリピート伸長を示唆する。下段の図は、図2bのものと同一である。
図8】[0016]リピート、サザンブロット解析に使用したプローブ、及び制限部位の位置の模式図。(a~c)。研究に使用したプローブの模式図。物理的位置はhg19に基づく。鋳型用に調製されたサブクローン化されたゲンム断片を用いてPCRによりジゴキシゲニン(DIG)標識プローブ合成を実施する。プローブ合成に使用したプライマーは図27に列挙される。必要とされたとき、ハイブリダイゼーションシグナルを増加させるために複数のプローブをハイブリダイゼーション緩衝液(Roche DIG Easy-Hyb)に混合導入した。(d)(TGAAA)9プローブの模式図。ゲノム断片から作製されたDIG標識プローブは、正常対立遺伝子及び伸長対立遺伝子の両方にハイブリダイズされるが、DIG-(TGAAA)9プローブは、TTTCAリピート伸長を含有する伸長対立遺伝子に排他的にハイブリダイズされる。
図9】[0016]SAMD12中にリピート伸長変異を有するファミリー(リピート構成1)。罹患者は、塗潰し記号により表される。記号を通る斜線は、死亡者を表す。赤色ドットを有する記号は、ゲノムDNAサンプルが入手可能であった者を表す。
図10】[0016]SAMD12中にリピート構成1及び2を有する家系の疾患ハプロタイプ。SNPタイピング、PacBio RSIIを用いたBACクローンのシーケンシング、及び10X GemCode技術を用いたゲノミックDNAのシーケンシングにより、ハプロタイプを決定した。rs3900767とrs62533397との間で、配列変異体はすべて、リピート伸長変異を除き一致した。そのため、共通の創始者が存在し且つ一方の構成が他方の構成に由来した可能性が高い。
図11】[0016]リピート伸長を表すアセンブルナノポアリードのドットプロット。2つのサンプルの各々に対するSTR伸長を有するアセンブルコンティグ(X軸)と、伸長を有していないSTR部位(chr8:119,379,052~119,379,172)の周囲のその対応するhg19領域(Y軸)と、の間のドットプロット。X軸の下では、4色のインタリーブパターンはゲノム配列を示し、赤色バーは2つのサンプル中のSTR伸長を表し、赤色及び青色のそれぞれの着色バーは、プラス鎖及びマイナス鎖におけるナノポアリードアライメントを示す。STR伸長を有するナノポア元リードは、x軸のアセンブルコンティグにアライメントされたことから、STR伸長の存在を支持した。これとは対照的に、STR伸長を有していないリードは、y軸のhg19参照ゲノムにアライメントされた。こうしたアライメントは、y軸の右側に対して示されており、STR伸長のヘテロ接合性を示唆する。(a)F6906のII-6(SAMD12中のリピート構成1)。(b)F6115のII-1(SAMD12中のリピート構成2)。
図12】[0016]1D2技術によるSAMD12中のリピート伸長を表すナノポアリード。SAMD12のリピート構成1(F6906のII-6、a)及びリピート構成2(F6115のII-1、d)の生のナノポア1D2リードが示される。Tandem Repeat Finder(バージョン4.09)を用いてカウントされたTTTCAモチーフ及びTTTTAモチーフの数が、それぞれ、(b)及び(e)に示される。依然としてエラーを含むおそれがあるので、これらのモチーフ数の解釈には注意を払わなければならない。観測されたリードと推定されたピュアリピートとの間の一致率は約90%である(それぞれc及びf)。
図13】[0016]各種組織/細胞におけるSAMD12中のリピート伸長の体細胞不安定性。実験はすべて、ゲノムDNAのSacI消化後に実施し、且つハイブリダイゼーションは、プローブ1a及び1bを用いて実施した。(a)白血球のリピート伸長の長さ及びリンパ芽球様細胞系のリピート伸長の長さは同程度であった。(b~d)脳及び他の組織の各種部分におけるリピート伸長の長さ。F8138のII-5、F8135のII-3、F8138のII-7、及びF8136のII-5は、スメアパターンを示し、一方、ホモ接合患者(F8140のV-3)は、いくぶん離散したパターンを示す。小脳からのゲノムDNAは、それほど体細胞不安定性を示さない傾向がある。実験は1回実施した。ヘテロはヘテロ接合体、ホモはホモ接合体、LCLはリンパ芽球様細胞系、NCは非保有者である。
図14】[0016]SAMD12中のリピート長の世代間不安定性。(a)親子ペアの世代間不安定性。親子ペア(n=20)で観測された伸長リピートの長さの平均増加は、+0.89kb(95%信頼区間+0.12~+1.48kb)であった。(b)父子ペア及び母子ペアにおけるリピート長の世代間不安定性。伸長は、父系伝達(n=9)(+0.28kb、95%信頼区間-0.38~+0.94kb)よりも母系伝達(n=11)(+1.2kb、95%信頼区間-0.03~+2.5kb)の方が大きい傾向があったが、その差は統計的に有意でなかった(p=0.29、両側ウィルコクソン順位和検定)。
図15】[0016]ホモ接合状態又はヘテロ接合状態の伸長リピートを有する患者の小脳で観測されたRNA foci。オリゴヌクレオチド(Cy3-(TGAAA)12及びCy3-(TTTCA)12)を用いた蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)解析は、ホモ接合状態又はヘテロ接合状態の伸長リピートを有する患者の小脳ではRNA fociを示したが、対照の小脳ではRNA fociは観測されなかった。実験を2回実施し、同様の結果を得た。
図16】[0016]RNA-seq解析により脳内の不発転写が示唆された。(a~c)Integrative Genomic Viewerを用いて可視化されたアライメントショートリード。SAMD12転写物の模式図は上に示される。ホモ接合患者(1名の患者)及びヘテロ接合患者(2名の代表的な患者)では、リードカバー率は、伸長リピートの下流の領域(領域2)のものと比較して伸長リピートの上流の領域(領域1)で増加した。この増加は、おそらく、伸長リピートでの不発転写に起因する。かかる増加は、患者の肝臓(b)及びリンパ芽球様細胞系(c)では起こらなかった。6つのBAFME1脳、8つの対照脳、6つのBAFME1リンパ芽球様細胞系、2つの対照細胞系、及び3つのBAFME1肝臓で、同様の結果が独立して得られた。(d)領域1及び2の平均リードカバレッジの定量。ホモ接合BAFME1患者(n=1)、ヘテロ接合BAFME1患者(n=5)、及び対照(n=8)の脳のリードカバー率、ホモ接合BAFME1患者(n=2)、ヘテロ接合BAFME1患者(n=4)、及び非罹患ファミリーメンバー(n=2)のリンパ芽球様細胞系のリードカバー率、並びにホモ接合患者(n=1)及びヘテロ接合BAFME1患者(n=2)の肝臓のリードカバー率が示される。患者はすべて、SAMD12中のリピート伸長変異(リピート構成1)を有する。図中のラインは比の平均を表す。統計解析にウィルコクソンの順位和検定を使用した。「*」は、有意差(p<0.05)が存在することを表す。(e)不発転写のモデル。罹患脳でのみ観測された、領域2と比較した領域1のリードカバレッジ比の増加は、異常リピート伸長に起因する不発転写により引き起こされると推測された(Ameur et al. Nat. Struct. Mol. Biol. 18, 1435-1440 (2011))。E1-4はエクソン1~4を表す。(f)エクソン4/5接合及びエクソン5に対するプライマーを用いてqRT-PCR解析により決定された脳内のSAMD12転写物1の発現レベル(ヘテロ接合BAFME1患者(n=4)及び対照(n=5))。内因性対照としてRPL13Aの発現レベルを使用した。データは平均及び平均の標準誤差として示される。SAMD12転写物1の発現レベルは、不発転写産物が存在するときでさえも、罹患脳内で変化しなかった(両側スチューデントのt検定)。SAMD12転写物2の厳密な定量は不発転写産物の存在下では困難であることに留意されたい。ホモはホモ接合、ヘテロはヘテロ接合、LCLはリンパ芽球様細胞系、n.s.は有意でないものである。
図17】[0016]脳内のSAMD12タンパク質の発現レベル。(a)上側パネルは、BAFME1脳(後頭葉、ホモ接合患者(n=1)及びヘテロ接合患者(n=5))並びに対照(後頭葉、n=5)のSAMD12タンパク質(アイソフォーム1)のウェスタンブロットの画像である。下側パネルは、β-アクチンのウェスタンブロットの画像である。(b)各脳内のβ-アクチン発現に対するSAMD12タンパク質(アイソフォーム1)の相対発現のグラフ図。(c)SAMD12アイソフォーム1の相対発現レベルの棒グラフ(ホモ接合患者(n=1)、ヘテロ接合患者(n=5)、及び対照(n=5))。ヘテロ接合リピート伸長を有する患者の脳内のSAMD12アイソフォーム1の発現レベルは、対照の脳よりも低かった(両側t検定、p=0.0074、95%信頼区間0.59~1.57対1.59~2.58)。データは平均及び平均の標準誤差として示される。「*」は、有意差(p<0.05)が存在することを表す。実験を独立して2回繰り返し、類似の結果を得た。
図18】[0016]TTTCAリピート伸長は、F9283及びF8241のTNRC6A及びRAPGEF2でそれぞれ同定される。一方のファミリー(F9283)は、TNRC6A中にTTTCAリピート伸長変異を有していたが、他方のファミリー(F8241)は、RAPGEF2中にTTTCAリピート伸長変異を有していた。
図19】[0016]TNRC6A中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長。変異対立遺伝子は、ショート(22)TTTTAリピートと伸長TTTTAリピートとの間の伸長TTTCAリピートからなることが、ショートリードの手動アライメントから示された。参照ゲノム配列(hg19中のchr16:24,624,761~24,624,850)中には(TTTTA)18が存在する。
図20】[0016]TNRC6A中の伸長TTTCAリピートの局在化。リピート伸長は、RefSeqデータベースに登録されたTNRC6Aのエクソン1の上流領域で同定された。リピート配列の周辺のスプライスされた転写物の存在が脳RNA-seqデータから示唆され、これはスプライスされたEST(HY329817)としても登録されている。(a)転写物は、脳、胎盤、腎臓、及び膵臓で発現されることがRT-PCR解析によりさらに確認される。(b)伸長リピートは、脳内で発現されたTNRC6Aの転写物のイントロン(イントロン1aとして表される)に位置することが、こうした知見から示唆される。実験を2回実施し、同様の結果を得た。
図21】[0016]BAFME6ファミリーのパラメトリック連鎖解析。すべての染色体のパラメトリック連鎖解析(a)及びBAFMEの既知の座位(b)。両矢印は既知の候補領域を表す。解析では、BAFME1、BAFME2、BAFME3、及びBAFME4の他の座位を排除する。
図22】[0016]RAPGEF2中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長。変異対立遺伝子は、伸長TTTTAリピートとショート(「n」として表される)TTTTAリピートとの間の伸長TTTCAリピートからなることが、ショートリードの手動アライメントから示された。参照ゲノム配列(hg19中のchr4:160,263,679~160,263,768)には(TTTTA)5(TATTA)(TTTTA)12が存在する。
図23】[0016]F8241のハプロタイプ解析。(a)F8241のIII-1及びIII-2は同一父系対立遺伝子を有することが、ハプロタイプ解析から示唆される。このことは高密度SNPデータ解析によっても確認される(データは示されていない)。(b)発端者(III-2)の伸長リピートは、大幅な伸長(>20kb)及び体細胞不安定性を示す。非罹患姉妹の伸長対立遺伝子はTTTTAリピートのみからなることから、同様に手の震えを有していた父親から伝達されたとき、伸長TTTCAリピートが欠失した可能性がある。
図24】[0016]マイクロサテライトの解析に使用したプライマー。
図25】[0016]リピートプライムPCR解析に使用したプライマーリスト。
図26】[0016]RNA-seq及び全ゲノム配列解析における5’-TTTCA/5’-TGAAA、5’-CTTCA/5’-TGAAG、及び5’-GTTCA/5’-TGAACモチーフが充填されたリードの数。
図27】[0016]TRhistを用いて全ゲノム配列解析により示された各種リピートモチーフを含有するリードの数。F9283及びF8241の発端者では、5’-AAATG(対向鎖中の5’-TTTCAに等価である)を含有する多数のリードが、SAMD12中にTTTTCAリピート伸長を有する2名のBAFME患者(F8135及びF8140)のときと同様に観察された。AAATG(=TTTCA)、AACTG(=GTTCA)、及びAAGTG(=CTTCA)リピート伸長はいずれも、7名の対照では観測さなかった。
図28】[0016]参照配列(hg19)中のTTTCA/TGAAA又はTTTTA/TAAAAリピート。(a)参照配列(hg19)中の(TTTCA)>9/(TGAAA)>9又は(TTTTA)>9/(TAAAA)>9リピートの数が示される。これらのうち、BAFME2、BAMFE3、及びBAFME4の候補領域に位置するもの及びイントロンに位置するものが示される。(b)参照配列中の最長イントロンTTTTA/TAAAA又はTTTCA/TGAAAリピート。(c)BAFMEの候補領域のイントロンに位置する(TTTCA)>9/(TGAAA)>9又は(TTTTA)>9/(TAAAA)>9リピートが示される。
図29】[0016]サザンブロットハイブリダイゼーション解析に使用したジゴキシゲニン標識プローブの生成に使用したプライマー。
図30】[0016]BACクローニングに使用したプライマー配列。
図31】[0016]剖検患者死亡年齢及びの死亡原因。
図32】[0016]RT-PCRに使用したプライマー配列。
図33】[0016]SAMD12中にリピート伸長変異を有する4名のヘテロ接合BAFME患者及び8名の対照被験者のRNA-seq解析。データはすべて、デフォルト設定条件でCufflinks, Cuffquant, and Cuffdiff(v2.2.1)により計算される(Trapnell, C. et al. Nat. Biotechnol. 28, 511-515 (2010))。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[0017] てんかんはよくみられる神経疾患であり、イオンチャネル又はニューロトランスミッター受容体の変異が、単一遺伝子の異常によるてんかんの原因になることが多い。以下の実施例に記載されるように、SAMD12のイントロン4中の異常TTTCA及びTTTTAリピート伸長が良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)を引き起こすことを、本発明者らは見いだした。BACクローンの単一分子リアルタイムシーケンシング及びゲノムDNAのナノポアシーケンシングは、SAMD12中の2つのリピート構成を示した。興味深いことに、SAMD12中にリピート伸長が観測されなかったBAFMEの臨床診断を有する2つの家系では、TNRC6A及びRAPGEF2のイントロン中に類似のTTTCA及びTTTTAリピート伸長がさらに同定されたことから、同一のリピートモチーフの伸長が、伸長リピートが位置する遺伝子のいかんを問わずBAFMEを含めて興奮性亢進の病理発生に関与することが示唆される。非コードリピート伸長が、ミオクローヌス振戦及びてんかんの原因となるニューロン機能不全もたらすというこうした知見は、非コードリピート伸長疾患の理解の範囲をさらに拡大する。
【0018】
[0018] 以下の実施例に記載されるように、本発明者らは、BAFMEの原因としてSAMD12中にTTTCA及びTTTTAリピート伸長の2つの構成を見いだした(BAFME1として表される)。2つのリピート構成のどちらかのリピート伸長が51ファミリー中49ファミリーで確認されたことから、BAFME1は、各種形態のBAFMEの中でも群を抜いて最も多く見受けられる形態であることが示唆される。伸長TTTTAリピートの長さが伸長TTTCAリピートに匹敵することがゲノムDNAのナノポアシーケンシングにより示されたことから、TTTCA及びTTTTAリピート伸長がBAFMEの病態機序にどのように関与するかを研究する必要性が示唆される。
【0019】
[0019] 本発明者らはさらに、SAMD12中のリピート伸長が除外された2つのBAFME家系のTNRC6A(BAFME6として表される)及びRAPGEF2(BAFME7として表される)中にTTTCA及びTTTTAリピート伸長を見いだした。SAMD12、TNRC6A、及びRAPGEF2の遺伝子産物は、脳内で発現している。参照ゲノム中のこれらの遺伝子のリピート配列は、主にTTTTAリピートのショートストレッチからなり、そのうち2つはAlu配列のポリAテールに位置する。
【0020】
[0020] SAMD12、TNRC6A、及びRAPGEF2中のTTTCAリピート伸長は、対照被験者では見いだされなかったが、SAMD12、TNRC6A、及びRAPGEF2中に、それぞれ、対照被験者の5.9%、0.9%、及び0.5%は、TTTTAリピート伸長を有することが、3つの座位のTTTTAリピートを標的とするRP-PCR解析から示された。対照被験者に0.2~3kbからさらに大きなサイズに及ぶTTTTAリピートが存在することから、伸長TTTTAリピートは、おそらく疾患に寄与しないことが示唆される。同様の現象は、SCA31でも記載されている。
【0021】
[0021] SAMD12中に伸長リピートを有する脳内のSAMD12タンパク質レベルは、わずかではあるが有意に減少することが、ウェスタンブロット解析により示されたことから、SAMD12タンパク質レベルの減少は、疾患に寄与する可能性がある。しかしながら、同一の伸長リピートモチーフが別個の遺伝子で同定されたという知見から、UUUCA及びUUUUAリピート伸長自体を含有するRNA分子の発現は、各個別遺伝子の生理学的機能の変化ではなくBAFMEの病理発生に関与することが強く主張される。以上に記載したように、TTTTAリピートの伸長はまた、限られた割合の対照被験者でも観察されることから、伸長TTTCAリピートが主にBAFMEの病理発生に関与することが裏付けられる。SAMD12中に伸長リピートを有する剖検脳内の神経細胞の核内に、UUUCAリピートを有するがUUUUAリピートを有していないRNA fociが存在することは、この見解をさらに支持する。RNA fociは、非コードリピート伸長を有するいくつかの神経変性障害で観測されており、それらにおける特徴的な神経病理学的知見であると考えられる。UUUCAリピートがRNA fociにどのように優先的には組み込まれるかはまだ解明されてないが、RNA媒介毒性、とくに、伸長UUUCAリピート媒介毒性は、BAFMEの病理発生の根底にある機序であることが、こうした一連の証拠から強く示唆される。
【0022】
[0022] てんかんは、家族性発生が稀ではない、よく診られる神経疾患である。イオンチャネル又はニューロトランスミッターレセプターの変異が単一遺伝子の異常によるてんかんの原因であるという従来の知見とは対照的に、本発明者の知見は、てんかんにおける非コードリピート伸長の役割を強調する。注目すべきこととして、臨床所見は、何十年にもわたり手のミオクローヌス振戦のきわめて緩徐な進行を示したにすぎず、且つ神経病理学的検査は、ホモ接合変異を有する患者でのみプルキンエ細胞の軽度の消失を示したが、かかる変化は、ヘテロ接合変異を有する患者では顕在化せず、それ以外では、ホモ接合変異又はヘテロ接合変異のどちらを有する患者でも中枢神経系の他の領域に明らかな変化はなかった。こうした知見は、非コードリピート伸長に起因する他の疾患とは著しく対照的であることから、BAFMEの主要の疾患機序は、皮質神経細胞の興奮性亢進をもたらす機能障害であることが示唆される。しかしながら、手の皮質振戦は緩徐に進行し、且つ体性感覚誘発電位の大きさは何十年もかけて大きくなることが、BAFME患者の綿密な臨床所見から示唆されることから、てんかんは、神経変性、神経回路網に生じる撹乱、及び/又は適正な電気生理学的ネットワークの維持の鍵となるタンパク質の撹乱に起因する可能性がある。
【0023】
[0023] 本発明者らは、罹患脳のRNA-seqデータに変化したリピートモチーフの蓄積を見い出した。興味深いことに、CUUCA及びGUUCAリピートは、患者のLCL又は肝臓からのものでは観察されなかった。これとは対照的に、本発明者らは、3名の剖検患者からの全ゲノム配列データ中にCTTCA及び/又はGTTCAリピートが充填された痕跡量の配列を観測したにすぎなかった(図26b)。CUUCA及び/又はGUUCAリピートは、罹患脳でのみ観測されたことから、CUUCA及びGUUCAリピート配列は、SAMD12の変異対立遺伝子に由来するという解釈が支持される。こうした知見からRNA編集の可能性を生じるが、他の機序も考えられる。改変RNA配列をもたらす厳密な機序をさらに調べる必要があるが、非コードリピート伸長疾患の疾患機序を調べる際にこうした知見を考慮に入れるべきである。本発明者らは、UUUCA及びUUUUAリピートに特異的なもののほかにCUUUA又はGUUCAリピートに特異的なものを含めてより広範にわたるRNA結合タンパク質を考慮する必要がある。本発明者らはまた、CUUCA、GUUCA、UUUUA、及びUUUCAリピートからそれぞれ予測されるポリ-(LHFTS)、ポリ-(VQFSS)、ポリ-(FYFIL)、及びポリ-(FHFIS)を含めてより広範にわたるリピート関連非ATG依存転写によって合成されるタンパク質を考慮する必要があろう。
【0024】
[0024] ショートリードシーケンサーによる非コードリピート伸長の検出は困難である。本発明者らは、以前、伸長CAGリピートとのハイブリダイゼーション用としてとくに設計されたプローブを用いて、伸長CAGリピートを直接同定するために、リピート伸長の直接同定及びクローニング技術(DIRECT)という方法を開発し、SCA2に対する遺伝子をクローニングした。この際、本発明者らは、全ゲノムシーケンシングにより得られたペアエンドリードを用いて、伸長リピートモチーフを直接同定するために、DIRECTのin silicoバージョンを考案した。この方策により、我々は、TNRC6A及びRAPGEF2中のTTTCA及びTTTTAリピート伸長を発見することが可能であった。この方策は、広範にわたる神経学的疾患における非コードリピート伸長の捜索を加速するであろうと、本発明者らは考える。さらに、3つの独立した遺伝子に由来する同一の伸長リピートモチーフが発見されれば、非コードリピート伸長に起因することがすでに同定されている疾患でさえも、追加の遺伝子が十分に関与しうる可能性が高まる。とくに、参照配列(hg19)のBAFME2(2q)、BAFME3(5p)、及びBAFME4(3q)の候補領域に9リピート単位超のTTTCAリピートは登録されていないが、BAFME2の候補領域に位置するSTARD7のイントロン1中のTTTTAリピート並びにBAFME3の候補領域に位置するMARCH6のイントロン1中及びTRIOのイントロン34中のTTTTAリピートは、こうした疾患に対する潜在的に良好な候補である(図28)。
【0025】
[0025] 本発明者らは、SAMD12、TNRC6A、及びRAPGEF2中の非コードTTTCAリピート伸長がBAFMEの原因になることを見い出した。このことは、てんかんの分子基盤に関する我々の知見を拡大し、解明された疾患の分子機序に基づいてBAFMEを含めて興奮性亢進に対する有効な治療手段の開発をもたらすはずである。本発明者らは、本発明が非コードリピート伸長に起因する他の疾患の発見をさらに加速するであろうと予想する。
【0026】
[0026] 本発明者らによる以上の知見に基づいて、本発明の実施形態に係る被験者における興奮性亢進の判定又は診断方法は、被験者からの核酸サンプル中のTTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出することを含む。核酸サンプル中のリピート伸長の存在は、被験者が興奮性亢進を有するか又は興奮性亢進を有すリスクがあることを示唆する。本方法は、被験者が興奮性亢進を有するか又はそのリスクがあるかの決定に使用可能である。
【0027】
[0027] 興奮性亢進は、脳内の興奮性亢進、大脳内の興奮性亢進、皮質神経細胞の興奮性亢進、てんかん、又は良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)でありうる。
【0028】
[0028] 被験者は、ヒト又はヒト以外の動物である。被験者は、興奮性亢進を有する患者でありうる。核酸サンプルは、リピート伸長の検出前に被験者から採取しうる。本方法はin vivoで行いうる。核酸サンプルは、染色体DNAなどのDNAでありうるか、又は代替的に核酸サンプルは、RNAでありうる。
【0029】
[0029] TTTCAリピート伸長は、50リピート超、100リピート、150リピート超、200リピート超、250リピート超、300リピート超、350リピート超、又は400リピート超でありうる。
【0030】
[0030] 伸長TTTCAは、150塩基対超、500塩基対、750塩基対超、1,000塩基対超、1,250塩基対超、1,500塩基対超、1,750塩基対超、又は2,000超塩基対のサイズでありうる。
【0031】
[0031] 伸長TTTTAは、500塩基対超、750塩基対超、1,000塩基対超、1,250塩基対超、1,500塩基対超、1,750塩基対超、又は2,000超塩基対のサイズでありうる。
【0032】
[0032] TTCA及びTTTTAは、被験者からのいずれかの遺伝子のイントロン中に存在しうる。たとえば、遺伝子は、SAMD12遺伝子、TNRC6A遺伝子、及びRAPGEF2遺伝子の少なくとも1つでありうる。
【0033】
[0033] 実施形態に係る被験者における興奮性亢進の判定又は診断方法は、リピート伸長のサイズに基づいて興奮性亢進の予想発症年齢を計算することをさらに含みうる。
【0034】
[0034] 本発明者らは、リピート長を含めてリピート伸長のサイズが興奮性亢進の発症年齢に逆相関することを見いだした。したがって、たとえば、リピート伸長のサイズと興奮性亢進の発症年齢との間の逆相関を表す式を用いることにより、検出されたリピート伸長のサイズに基づいて興奮性亢進の予想発症年齢を計算することが可能である。
【0035】
[0035] 本発明の実施形態に係る被験者における興奮性亢進の判定又は診断キットは、被験者からの核酸サンプル中のTTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出するように構成された核酸試薬を含む。
【0036】
[0036] キットは、本発明の実施形態に係る被験者における興奮性亢進の判定又は診断方法に使用可能である。キットはin vivoで使用しうる。
【0037】
[0037] 核酸試薬は、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出するように構成されたPCRプライマーを含みうる。PCRプライマーは、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の相補的配列を含みうる。
【0038】
[0038] PCRは、リピートプライムPCR及びロングレンジPCRでありうる。リピートプライムPCR及びロングレンジPCRは、リピート伸長を検出可能である。リピートプライムPCRの適用は、Neuron 72, 257-268, October 20, 2011に記載されている。リピートプライムPCRでは、核酸は、初期段階でフォワードプライマーとリバースプライマーとの間で増幅される。フォワードプライマーの濃度は低いので、フォワードプライマーは使い尽くされる。その後、核酸は、アンカープライマーとリバースプライマーとの間で増幅される。アンカープライマーが存在しない場合、リピート配列はランダムにアニールされる。かかる場合には、ごく短いPCR産物が生成され、リピート伸長の検出は困難である。アンカープライマーが存在する場合、PCR産物は、アンカープライマーとリバースプライマーとの間で生成されるので、フォワードプライマーのアニーリングにより初期段階で生成されたPCR産物の分布を反映する。PCR産物の櫛状分布を得ることが可能である。アンカープライマーはいずれの特定の配列にも限定しないことに留意すべきである。
【0039】
[0039] 代替的に、キット中の核酸試薬は、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列のリピート伸長を検出するように構成されたハイブリダイゼーションプローブを含みうる。ハイブリダイゼーションプローブは、たとえば、サザンブロッティングに使用可能である。サザンブロッティングは、リピート伸長を検出可能である。ハイブリダイゼーションプローブは、伸長リピート配列を含有する断片化核酸を検出するように構成される。断片化核酸は、制限酵素を用いることにより調製される。制限酵素は、適切に選択される。好ましくは、伸長リピート配列に近接する制限部位が選択される。制限酵素により調製された断片化核酸のサイズは、20kb未満、10kb未満、又は5kb未満でありうる。
【0040】
[0040] ハイブリダイゼーションプローブは、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の相補的配列を含みうる。ハイブリダイゼーションプローブは、伸長リピート配列の周りのゲノム配列の相補的配列を含みうる。ハイブリダイゼーションプローブは、TTTCA、TTTTA、又はそれらの相補的配列の近接配列の相補的配列を含みうる。近接配列のサイズは、20kb未満、10kb未満、又は5kb未満でありうる。ハイブリダイゼーションプローブは、伸長リピート配列を含有する断片化核酸の部分配列のゲノム配列の相補的配列を含みうる。
【0041】
[0041] 本発明の実施形態に係る被験者における興奮性亢進の判定又は診断方法は、被験者からのサンプル中のUUUCAのリピート伸長を有するRNA fociを検出することを含む。サンプル中のUUUCAのリピート伸長を有するRNA fociの存在は、被験者が興奮性亢進を有するか又は興奮性亢進を有するリスクがあることを示唆する。本方法は、被験者が興奮性亢進を有するか又は興奮性亢進を有するリスクがあるかの決定に使用可能である。
【0042】
[0042] サンプルは、UUUCAのリピート伸長を有するRNA fociの検出前に被験者から採取しうる。本方法はin vivoで行いうる。サンプルはニューロンでありうる。RNA fociはニューロン核に存在しうる。
【0043】
[0043] リピート伸長は、50リピート超、100リピート、150リピート超、200リピート超、250リピート超、300リピート超、350リピート超、又は400リピート超でありうる。
【0044】
[0044] 伸長UUUCAは、150塩基対超、500塩基対、750塩基対超、1,000塩基対超、1,250塩基対超、1,500塩基対超、1,750塩基対超、又は2,000塩基対超のサイズでありうる。
【0045】
[0045] 本発明の実施形態に係る被験者における興奮性亢進の判定又は診断キットは、被験者からのサンプル中のUUUCAのリピート伸長を検出するように構成されたプローブを含む。
【0046】
[0046] キットは、本発明の実施形態に係る被験者における興奮性亢進の判定又は診断方法に使用可能である。キットはin vivoで使用しうる。
【0047】
[0047] キット中のプローブは、TGAAAを含みうる。プローブは、Cy-3や放射性物質などの蛍光色素で標識しうる。
【実施例
【0048】
[0048] (実施例1:患者)
書面によるインフォームドコンセントを得た後、51家系から91名の罹患患者及び9名の非罹患家系メンバーを本研究に登録した。51家系はすべて、常染色体優性遺伝に合致する多発家系であった。患者は、良性臨床経過を伴うミオクローヌス振戦及び/又はてんかんを示した。神経変性疾患が示唆される孤発性疾患又は明らかな進行性疾患を有する患者は除外した。研究は、東京大学、新潟大学、及び他の参加施設の施設内審査委員会により承認された。ゲノムDNAは、標準的手順を用いて末梢血白血球、LCL、又は剖検組織から抽出した。死亡原因を図31に示す。
【0049】
[0049] (実施例2:SNPジェノタイピング)
製造業者の説明書に従ってGenome-Wide Human SNPアレイ6.0(Affymetrix)を用いてSNPジェノタイピングを行った。Genotyping Console 3.0.2(Affymetrix)を用いてSNPをコールし抽出した。対照サンプルのハーディー・ワインベルグ検定で>0.05のp値、>0.98のコール率、及び>0.05のマイナー対立遺伝子頻度を有するSNPのみをさらなる解析に使用した。
【0050】
[0050] (実施例3:ゲノムワイド連鎖研究)
完全浸透度を有する常染色体優性モデルによりマーカー間距離80kb~120kbでパイプラインソフトウェアSNP-HiTLink及びAllegroバージョン2を用いてゲノムワイド連鎖研究を実施した。疾患対立遺伝子頻度を10-6に設定した。Allegroを用いてハプロタイプを再構築した。罹患者からのゲノムDNAサンプルのPacBio RSII及びドロップレットディジタルPCR解析を用いたBACクローンの配列解析により同定されたSNPもまた、ハプロタイプ再構築に使用した。
【0051】
[0051] (実施例4:マイクロサテライトタイピング)
図24に示されるプライマー対、ABI PRISM 3130xl又は3730シーケンサー(Life Technologies)、及びGeneScanソフトウェア(Life Technologies)を用いてマイクロサテライトマーカーをタイピングした。組換え事象を最小限に抑えるようにハプロタイプを手動で再構築した。
【0052】
[0052] (実施例5:全ゲノム配列解析)
製造業者の説明書に従ってHiSeq2000又はHiSeq2500(Illumina、100、101、又は150bpペアエンド)を用いて患者又は対照の全ゲノム配列解析を実施した。デフォルトパラメーターでBWA(v0.5.9)を用いてショートリードをNCBI37/hg19にアライメントした。マルチアライメントリード又はデュプリケートリードを除去し、SAMtools(v0.1.12)mpileupコマンドを用いて変異体をコールした。RefSeq(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/RefSeq/)、dbSNP134(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)、1000 genomesデータベース(http://www.1000genomes.org/)、及びExACデータベース(http://exac.broadinstitute.org/)を用いて変異体をアノテートした。
【0053】
[0053] (実施例6:リピートプライムPCR解析)
図25に示されるプライマーを用いてリピートプライムPCR解析を実施した。ABI PRISM 3130xl又は3730のシーケンサー(Life Technologies)を用いてフラグメント解析を実施した。
【0054】
[0054] (実施例7:サザンブロット解析)
10μgのゲノミックDNAを制限酵素で消化してから、0.8%アガロースゲル中で電気泳動した。分離されたDNA断片をキャピラリーブロッティングにより正荷電ナイロンメンブレン(Roche Applied Science)に移し、紫外光に暴露して架橋させた。プラスミド中にクローン化されたゲノム断片のPCR増幅によりジゴキシゲニン(DIG)標識プローブを作製した(プライマー対及び制限酵素は図29に示される)。反復配列を回避するようにプローブを設計し、且つPCRによる標識反応でジゴキシゲニンの取込みを最適化するように<600bp及び600~1,500bpのサイズ範囲に対してDIG-dUTP:dTTPの比をそれぞれ0.7:1.3及び0.35:1.65に調整した。サザンブロット解析でプローブの高感度を達成するために複数のプローブの組合せを利用した。DIG標識(TGAAA)9は、Eurofins Genomicsから購入した。プレハイブリダイゼーション後、Rocheのプロトコルを用いて42℃でハイブリダイゼーションを一晩行った。最後に、PCR増幅により作製されたプローブに対して65℃及びDIG標識(TGAAA)9オリゴヌクレオチドプローブに対して60℃の0.5×SSC及び0.1%SDS中でメンブレンを毎回15分間にわたり2回洗浄した。抗DIG-AP抗体、Fabフラグメント(Roche)、CDP-star(Roche)、及びLAS3000mini(富士フイルム)を用いてプローブを検出した。
【0055】
[0055] (実施例8:BACライブラリーの構築物、伸長リピートを有するゲノムDNA断片を含有するクローンの単離、及びPacBio RSIIによる単一分子リアルタイム(SMRT)シーケンシング)
2名の患者(SAMD12中にリピート構成1を保有するF6906のII-6及びSAMD12中にリピート構成2を保有するF6115のII-1)に由来するリンパ芽球様細胞系(LCL)から構築されたBACライブラリーから、リピート伸長を含有する細菌人工染色体(BAC)クローンを単離した。簡潔に述べると、SacIによる部分消化後、ゲノムDNA断片をpKS145ベクター中にライゲートした。標準的BACライブラリー構築/スクリーニング手順とは異なり、リピート領域の周りのユニーク配列に対するプライマー対(図30)を用いて、直接PCR増幅の繰返しにより、アレイ化せずに、元のトランスフェクタントのプールから候補クローンを直接単離した。最後に、リピートプライムPCR解析により、F6906のII-6からの1つのクローン及びF6115のI-2からの2つのクローンがリピート伸長変異を有することを確認した。P4-C2化学を用いたPacific Biosciences RSIIシーケンサーにより3つのクローンをSMRTシーケンシングに付した。
【0056】
[0056] (実施例9:MinIONシーケンサーを利用した全ゲノム配列解析)
R9.4及びR9.5フローセルを備えたMinIONシーケンサー(Oxford Nanopore Technologies)を用いて全ゲノム配列解析を実施した。NGM-LRを用いて参照ゲノムhg19へのアライメントを実施した。miniasmアセンブラーを用いてSAMD12中のリピート伸長変異を有するリードのコンティグへのアセンブリーを行った。TTTCA及びTTTTAモチーフの数をカウントするためにTandem Repeat Finder(バージョン4.09)を使用された。
【0057】
[0057] (実施例10:GemCode技術を用いたハプロタイプ解析)
F6906及びF6115にファウンダー染色体が存在するかを解明するために、F6906とF6115との間で疾患ハプロタイプを比較した。F6115のI-2では、2つのBACクローンが得られた。一方のクローンは、リピート伸長のセントロメア側の118kb領域をカバーし、且つ他方のクローンは、リピートのテロメア側の89kb領域をカバーする。これに対して、F6906のII-6では、リピート伸長及び伸長リピート配列のセントロメア側の100kb領域をカバーする単一のBACクローンのみが得られた。F6906のテロメア側領域の疾患ハプロタイプを決定するために、Gemcode技術(10X Genomics)を使用した。GemCodeゲルビーズ及びライブラリーキット(10X Genomics)を用いてバーコード付きライブラリーを作製した後、HiSeq2500の3レーンを用いて(100bp、ペアエンド)シーケンシングを実施し、結合されたリードを生成した。Long Rangerパイプラインv2.1.2(10X Genomics)を用いて、バーコード付きライブラリーのショートリードデータをプレコールされた変異データ(vcfファイル)と共に解析した。Loupeソフトウェアv2.1.1(10X Genomics)を用いて、フェージングされたハプロタイプを可視化した。
【0058】
[0058] (実施例11:神経病理学的検査)
4つのファミリーからの6名のBAFME1患者(図9及び図31に示されるように、1名のホモ接合患者:F8140のV-3、並びに5名のヘテロ接合患者:F8135のI-2及びII-3、F8136のII-5、並びにF8138のII-5及びII-7)の一般的な剖検を死後6時間以内に実施した。脳及び脊髄を20%緩衝ホルマリンで固定し、複数の組織ブロックをパラフィンに包埋した。ヘマトキシリンとエオシン及びボディアンを含めていくつかの染色を用いて、厚さ4μmのセクションで病理組織学的検査を実施した。カルビンジンプロテインD-28kに対するマウスモノクローナル抗体でセクションを免疫染色した(CaBP、Swant、1:50)。色素原としてジアミノベンジジンを用いてHistofine Simple Stain MAX-POキット(Nichirei)によりペルオキシダーゼ-ポリマーベース法で結合抗体を可視化した。
【0059】
[0059] (実施例12:RNA fociの検出のための蛍光in situハイブリダイゼーション)
6名の罹患患者(1名のホモ接合変異保有者及び5名のヘテロ接合変異保有者)並びに6名の対照被験者からのホルマリン固定パラフィン包埋脳組織を検査した。Cy3標識60マーオリゴヌクレオチドプローブ([TGAAA]12、[TTTCA]12、[TAAAA]12、及び[TAAAA]18)をEurofins Genomicsから購入した。Ventana XTシステム及びRiboMapキット(Roche)を用いて、脱パラフィン、固定(RiboPrep、37℃で30分間)、前処置(37℃で10分間)、プロテアーゼ処置(プロテアーゼ2[Roche]、37℃で4分間)、ハイブリダイゼーション(100pmolプローブ/スライド、37℃で12時間)、及び洗浄(2×RiboWashで3回、37℃で6分間)を実施した。PBS中1.2μMのTOTO-3(Invitrogen)で核を30分間対比染色した。自己蛍光シグナルを低減するために、70%エタノール中0.1%スダンブラックBで組織を5分間処置した。DAPI(VectaShield)を含む封入媒体を用いてスライドにカバースリップを載せ、共焦点レーザー顕微鏡法(Zeiss LSM510)により画像をキャプチャーした。
【0060】
[0060] (実施例13:RNA-seq解析)
5名の罹患者及び7名の対照からの剖検脳(後頭葉)、3名の罹患者からの肝臓、並びに6名の罹患者及び2名の非罹患ファミリーメンバーからのLCLから全RNAを抽出した。DNアーゼ処置後、Ribo-Zero Gold(Epicentre)を用いてrRNAを枯渇させた。TruSeq RNAサンプル調製キットv2(Illumina)を用いてライブラリーを構築し、配列解析(101bpペアエンド、HiSeq2000)に付した。TopHat2(v2.0.8b)を用いてショートリードを参照ゲノムNCBI37/hg19にアライメントした。シンプルモチーフが充填されたリードの同定のためにTRhistを使用した。差次的発現遺伝子の検出のために、TopHat v2.0.8bを用いてショートリードを参照ゲノム(hg19)及びトランスクリプトーム配列(GENCODEバージョン14、https://www.gencodegenes.org/)にアライメントした。デフォルト設定を用いてCufflinks, Cuffquant, and Cuffdiff(v2.2.1)により差次的発現遺伝子の転写物定量及び検出を実施した。SAMD12中にTTCA及びTTTTAリピート伸長を有するBAFME脳内の転写制御の異常を探究するために、4つのヘテロ接合BAFME1脳及び8つの対照脳(後頭葉)のRNA-seqデータをトランスクリプトーム解析に付した。SAMD12中にヘテロ接合変異を有する1つの脳からのRNAサンプルは、バイオアナライザー(Agilent)により評価されたRINスコア(<3)が低いため使用しなかった。
【0061】
[0061] (実施例14:定量RT-PCR解析によるSAMD12 mRNA発現レベルの決定)
オリゴdTプライマーと脳から抽出された0.4μgの全RNAとを含有する10μlの全体積中でPrimeScript第1鎖cDNA合成キット(タカラ)を用いてcDNAを合成した。製造業者のプロトコルに従ってPower SYBR Green PCRマスターミックス(Thermo Fisher Scientific)を用いて定量PCRを実施した。qPCRに使用したプライマーセットは図32に列挙される。StepOne機器(Thermo Fisher Scientific)を用いて、次のように、すなわち、95℃で15秒間の変性と65℃で50秒間のアニーリング及び伸長とを含むサイクルを40又は45回行う2工程PCRを用いて、cDNAを増幅した。StepOneソフトウェアv2.1を用いて比較CT法によりデータを解析した。特定のPCR反応を確認するためにPCR産物もシーケンスした。
【0062】
[0062] (実施例15:ウェスタンブロッティング)
ウェスタンブロット解析のために、SAMD12中に伸長リピートを有する6名のBAFME患者(1名のホモ接合患者及び5名のヘテロ接合患者)並びに5名の対照被験者の剖検脳組織サンプル(後頭葉)を切除し、10体積の放射性免疫沈降アッセイ緩衝液(RIPA緩衝液)で溶解した。2-メルカプトエタノールを含有するLaemmliサンプル緩衝液を添加して80℃で5分間煮沸した後、15%SDS-ポリアクリルアミドゲル(E-T15S、日本のアトー)を用いて60μgの全タンパク質を分離し、続いてPVDFメンブレン(Merck KGaA)上にエレクトロブロッティングした。EZblockCAS(アトー)で45分間ブロッキングした後、一次抗体(1:6000希釈の抗ヒトSAMD12ウサギ抗体(ab121831、Abcam)及び1:1000希釈の抗ヒトβ-アクチンマウス抗体(C-4、Santa-Cruz))と共にメンブレンを4℃で一晩インキュベートした。一次抗体と共にインキュベートした後、メンブレンを20分間洗浄し、次いでHRP結合二次抗体(1:5000希釈の抗マウスIgG抗体(NA931、GE healthcare)又は1:5000希釈の抗ウサギIgG抗体(NA934、GE healthcare)と共に室温で1時間インキュベートした。0.05%Tween 20(TBS-T)を含むトリス緩衝生理食塩水(pH7.4)中でメンブレンを150分間洗浄し、続いてイ-ジ-ウエストルミプラス(アトー)で可視化した。SAMD12バンドのシグナルを内部対照としてのβ-アクチンバンドに対応するものに規格化した。デンシトメトリーソフトウェア(ImageJ ver1.51k)を用いてシグナルを定量した。
【0063】
[0063] (実施例16:リピート配列の検索)
全ゲノム配列解析及びRNA-seq解析のために、TRhistプログラムを用いてリピート配列を保有するショートリード配列をカウントした。ミスマッチのない13塩基以下のリピートモチーフで完全充填されたリードのみをカウントした。図27では、150bpペアエンドリードを用いて全ゲノム配列解析が実施された4名のBAFME患者及び7名の対照被験者が列挙されている。11名の被験者すべてで9リード未満が観測されたリピートモチーフは省略した。
【0064】
[0064] (実施例17:統計解析)
リピート長とてんかん又はミオクローヌス振戦の発症年齢とのピアソン相関係数及び両側検定のp値を計算した(図4a)。ウィルコクソンの順位和検定を用いて母系伝達対父系伝達におけるリピート長の変化を比較した(図14)。ウィルコクソンの順位和検定を用いてRNA-seqデータの領域1及び2のリードカバレッジ比を比較した(図16d)。両側スチューデントのt検定を用いてSAMD12転写物1対RPL13Aの相対発現を比較した(図16f)。等分散を確認した後、両側スチューデントのt検定を用いてウェスタンブロット解析の結果の統計解析を実施した(図17)。0.05未満のp値を有意であるとみなした。
【0065】
[0065] (実施例18:ペンタヌクレオチドリピート伸長の同定)
30Mbを包含する8q22.1~8q24.13において3.1の累積多点ロッドスコアを有する単一ピークが連鎖解析により示されたことから、従来の研究が確認された(図1a及び図1b及び図21)。ハプロタイプ解析(図1a及び図21)により6ファミリーすべてに共有されるコアハプロタイプ(rs2325945-rs7464659-rs6994270-rs9643124-rs4876828-rs2514991)が示された(図1c)。D8S0379iとrs4876833とにより区切られた領域は、SAMD12(ステライルαモチーフドメイン含有12)のエクソン4とフランキングイントロン部分とのみを含有する(図1d)。
【0066】
[0066] 患者(F6906のII-6)の全ゲノム配列解析によりエクソン4に非同義変異は示されなかった。本発明者らは、SAMD12のイントロン4に位置するTTTTAペンタヌクレオチドリピートに注目した。参照ゲノム中のそのリピート構成は、転写ストランド中の(TTTTA)7(TTA)(TTTTA)13である。家系の3名のリピート長は、一見、メンデル遺伝に合致しないので(図2a)、罹患した父親及び子孫の疾患対立遺伝子は、PCRにより増幅されなかった可能性がある。興味深いことに、SAMD12のイントロン4のユニーク配列にアライメントされたリードを一方に有する患者からのペアリードを検査することにより、本発明者らは、参照ゲノムに存在しない「追加」のTTTCAリピート配列を見いだした(図2b)。さらに、本発明者らは、罹患者(F8135のII-3及びF6906のII-6)の追加のTTTCAリピート伸長の上流にTTTTAリピート伸長の存在を表す配列を観測した(図7)。こうした知見に基づいて、本発明者らは、伸長リピートの構造を仮定し(図2c)、TTTCA及びTTTTAリピートを標的とするリピートプライムPCR(RP-PCR)解析用のプライマーセットを設計した(図25)。実際に、RP-PCR解析により、F6906のII-6における伸長TTTCA及びTTTTAリピートを含有するこの仮定されたリピート構成に合致するPCR産物が実証された(図2d)。サザンブロット解析(図8a)により、伸長対立遺伝子の存在がさらに確認された(図2e)。
【0067】
【表1】
【0068】
[0067] 51家系からの患者に対してSAMD12中のTTTCA及びTTTTAリピートを標的とするRP-PCR解析を実施したところ、3家系(F6115、F9283、及びF8241)を除く48家系(図9)からの82名の患者で両方のリピート伸長の存在が確認された。
【0069】
[0068] SAMD12中のTTTCAリピートを標的とするRP-PCRにより解析されたTTTCAリピート伸長は、1,000名の対照被験者では観察されなかった。これとは対照的に、SAMD12中のTTTTAリピートを標的とするRP-PCR解析では、対照被験者の5.9%(59名/1,000名)はTTTTAリピートの伸長を有することが示された。リピートにフランキングするプライマーを利用したPCRベース解析に基づいて、TTTTAリピート伸長のサイズは、28名の対照被験者における100~300TTTTAリピート単位に対応する約0.5~1.5kbであった。しかしながら、31名の対照被験者(3.1%)ではPCR増幅に失敗したことから、かなり大きなTTTTA伸長が少ない割合の対照被験者に存在することが示唆される。
【0070】
[0069] 注目すべきこととして、F6115の3名の患者(I-2、II-1、及びII-2)は、TTTCAリピートを標的とするRP-PCR解析により決定したとき、リピート伸長を示さなかったが、TTTTAリピートを標的とするRP-PCR解析により決定したときのみ、リピート伸長を示した(図2d)。しかしながら、リピート近傍のユニークプローブ(1a及び1b、図8a)又はジゴキシゲニン標識(TGAAA)9オリゴヌクレオチドプローブを用いたサザンブロット解析では、伸長対立遺伝子が罹患者に存在し、且つTTTCAリピート伸長が伸長対立遺伝子内に含まれることが示唆された(図2f)。残りの2ファミリー(F9283及びF8241)ではSAMD12中の伸長TTTCAリピートも伸長TTTTAリピートも見いだされなかった。
【0071】
[0070] (実施例19:単一分子リアルタイム(SMRT)シーケンシングにより決定された伸長リピートの構造)
伸長リピート構成をさらに明確化するために、本発明者らは、2名の患者(F6906のII-6及びF6115のI-2)から変異対立遺伝子を細菌人工染色体(BAC)中にクローニングした。BACクローンの全ヌクレオチド配列は、Pacific Biosciences RSIIシーケンサーを利用してSMRTシーケンシングにより決定した。
【0072】
[0071] F6906の患者II-6からのBACクローンの配列解析により、TTTCAリピート伸長はTTTTAリピート伸長の下流に位置することが示された(リピート構成1、図3a)。
【0073】
[0072] 他の1名の患者(F6115のI-2)からのBACクローンのSMRTシーケンシングにより、2つのTTTTAリピート伸長間のTTTCAリピート伸長が実際に示された(リピート構成2、図3a及び図3b)。TTTCAリピートを標的とするRP-PCR解析の失敗(図2d)は、TTTCAリピートとプライマーP3との間の距離が長いことに起因すると結論付けられた。
【0074】
[0073] SNPタイピング、SMRTシーケンシング、及び10×GemCode技術(10X Genomics)を利用したハプロタイプ解析により、F6906(リピート構成1)及びF6115(リピート構成2)の疾患ハプロタイプに見いだされた変異体はすべて、リピート伸長変異を除く111.7kb領域で完全にマッチしたことから、2つのハプロタイプの共通の創始者の可能性が示された(図10)。
【0075】
[0074] (実施例20:ナノポアシーケンシングにより決定された伸長リピートの構造)
BACクローンのSMRTシーケンシングにより決定された伸長リピートのサイズ(F6906のII-6の0.94kb及びF6115のI-2の1.0kb)は、サザンブロット解析により決定されたもの(F6906のII-6の5.9kb及びF6115のI-2の3.9kb)よりも短かったことから、BACクローニング時の伸長リピートの短縮が示唆されたので、本発明者らは、MinIONシーケンサー(Oxford Nanopore Technologies)を利用して、F6906のII-6及びF6115のII-1の末梢血白血球から抽出された2つのゲノムDNAをさらにシーケンスした。我々は、伸長リピートの周辺のゲノム配列にマップされたリードを収集し、miniasm assembler 14を用いてリピート伸長を有するものをコンティグにアセンブルした(図11)。本発明者らは、ナノポアシーケンシングのエラーリード及び/又は伸長リピートの体細胞不安定性を反映する思われるリピート長のかなり大きな変動を見いだしたが、本発明者らは、II-6(F6906)及びII-1(F6115)の各々で1D2シーケンシングキット(Oxford Nanopore Technologies)を用いて同一のDNA断片のプラス鎖及びマイナス鎖に由来する一対の2つのリードを見いだした。本発明者らは、対向鎖の配列情報を用いることにより1つの鎖におけるエラーを部分修正することが可能であったため、2つのサンプルで変異対立遺伝子の配列を生成した(図12)。次いで、本発明者らは、Tandem Repeat Finderを用いてリピート伸長を2つのモチーフに分割しTTTCA及びTTTTAモチーフの数をカウントした。伸長リピートは、解析により(TTTTA)598(TTTCA)458(F6906のII-6)及び(TTTTA)221(TTTCA)225(TTTTA)81(F6115のII-1)(図12b及び図12e)として推定された。
【0076】
[0075] (実施例21:伸長リピートは体細胞不安定性を呈する)
伸長リピートの存在は、末梢血白血球、リンパ芽球様細胞系(LCL)、又は剖検組織から抽出された41家系からの77名の患者のゲノムDNAを用いてサザンブロット解析によりさらに確認された。SAMD12中の伸長TTTCA及びTTTTAリピートのサイズは、440~3,680リピート単位に対応する2.2~18.4kbの範囲内であると推定された。伸長リピートの長さは、同一個体からの末梢血白血球とLCLとの間で類似していることから、これらの細胞では伸長リピートの安定性が示唆される(図13a)。しかしながら、患者の脳、肝臓、及び腎臓を含む剖検組織の大多数では、広範なスミアパターンがサザンブロット解析により示されたことから(図13b~d)、末梢血白血球又はLCLと比較してこれらの組織では伸長されたリピートの体細胞不安定性が増加していることが示唆される。
【0077】
[0076] (実施例22:リピート長は癲癇の発症年齢に逆相関し且つ世代間不安定性を示す)
伸長リピートの長さとてんかんの発症年齢との間の相関を調べるために、末梢血白血球(n=50)又はLCL(n=4)から抽出されたゲノミックDNAのサザンブロット解析により、伸長リピートの長さを決定した。てんかんの発症年齢を入手可能であったヘテロ接合変異(リピート構成1)を有する54名の患者では、伸長リピートの長さは、てんかんの発症年齢に逆相関した(図4a、r=-0.47、p=3.5×10-4)。同様に、リピート長はまた、ミオクローヌス振戦の発症年齢に逆相関した(r=-0.34、p=0.013、n=53、データは示されていない)。
【0078】
[0077] 本発明者らは、ホモ接合伸長を有する4名の患者(F8115の1名の患者、F8140の2名の患者、及びF8398の1名の患者)を同定した。末梢白血球から得られた2つの対立遺伝子の平均リピート長(n=3)を考えると、それらのてんかんの発症年齢は、同様のサイズの伸長リピートを有するヘテロ接合患者よりも早くなる傾向があった(図4a)。ホモ接合変異を有する患者の一部では、脚にミオクローヌスも現れて60歳代で歩行が障害され、且つ脳萎縮を伴う認知低下が観察され、ヘテロ接合変異を有する患者よりも重篤な臨床所見を示した。
【0079】
[0078] 伸長リピートの長さは、後続世代にわたり不安定な傾向があり、これまでの臨床的観察で見出された遺伝学的表現促進現象に合致した(図4b及び図14)。
【0080】
[0079] (実施例23:SAMD12中にリピート伸長を有する患者の神経病理学的知見)
SAMD12中のリピート伸長(リピート構成1)を有する6名の患者の剖検脳で神経病理学的検査を行った。最も顕著な特徴は、ホモ接合変異を有する患者の小脳皮質で観察され、プルキンエ細胞の軽度なびまん性の消失及びいくつかのプルキンエ細胞の細胞質の周りのハロー様アモルファス物質が顕在化した(図5a及び図5b)。この物質は、カルビンジンD-28kに対して明らかに免疫陽性であった(図5c)。残りのプルキンエ細胞のサブセットのこうした変性の特徴は、31型脊髄小脳失調症(SCA31、MIM117210)、ペンタヌクレオチドリピート伸長を有する疾患、及び両対立遺伝子TBCD変異(MIM617193)に起因する早発性神経変性脳症を有する患者で観察される体細胞萌芽に類似していた。これに対して、ヘテロ接合変異を有する患者の小脳では、この特徴は顕在化しなかった(図5d)。ヘテロ接合変異又はホモ接合変異のどちらを有する患者でも、他の脳領域では明らかな変化はなかった。
【0081】
[0080] (実施例24:RNA fociが神経細胞で観察される)
SAMD12中に伸長リピートを有する患者の脳にRNA fociが存在するかを決定するめに、Cy3標識(TGAAA)12又は(TTTCA)12オリゴヌクレオチドプローブを用いて6名の患者及び5名の対照からの剖検脳で蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を行った。UUUCAリピートを標的とするCy3-(TGAAA)12プローブを使用したとき、RNA fociは、罹患脳では皮質神経細胞で明らかに観察され、且つそれほどでもないがプルキンエ細胞で観察されたが、RNA fociは、対照脳ではCy3-(TGAAA)12を用いて観察されなかった(図5e及び図15)。
【0082】
[0081] (実施例25:脳内のグローバルトランスクリプトーム解析及び不発転写)
差次的に発現された84種(ダウンレギュレートされた40種及びアップレギュレートされた44種)の遺伝子が剖検脳のRNA-seq解析により示されたが(図33)、示差的にスプライシングされたいずれの転写物も検出されなかった。しかしながら、SAMD12座位を調べることにより、本発明者らは、リピートの上流に位置する過剰のイントロンリードを見いだしたので、おそらく、伸長リピートにおける不発転写が原因であろう(図16a、図16d、図16e)。かかる過剰のリード数は、LCLでも肝臓でも観察されなかった(図16b~d)。
【0083】
[0082] (実施例26:RNA-seq解析は罹患脳への改変リピートモチーフの蓄積を示した)
特定のリピートモチーフが充填されたショートリードを本発明者らが検索したとき、本発明者らは、TTTCAリピート伸長を有するSAMD12の転写物に対応する、5’-TTTCA又は5’-TGAAAリピートが充填されたショートリードを患者の脳内に排他的に見いだした(表2)。きわめて興味深いことに、5’-CTTCA又は5’-TGAAGリピートが充填されたショートリード及び5’-GTTCA又は5’-TGAACリピートが充填されたものもまた、罹患脳内に見いだされたが、かかる配列は、患者からの肝臓(n=3)にもLCL(n=6)にも、対照被験者(図26)からの脳(n=8)にもLCL(n=2)にも観察されなかった。こうした観察から、とくに罹患脳内の伸長リピートの改変リピートモチーフの存在が示唆される。
【0084】
【表2】
【0085】
[0083] (実施例27:脳内のSAMD12転写物及びSAMD12タンパク質の発現レベルの解析)
剖検脳内のSAMD12転写物の発現レベルを調べるために、定量逆転写PCR解析を実施したところ、罹患脳内のSAMD12転写物1のレベルに有意な変化を示さなかった(図16f)。SAMD12転写物2の厳密な定量は不発転写産物の存在下では困難であったことに留意されたい。しかしながら、ウェスタンブロット解析により、罹患脳内でわずかではあるがSAMD12タンパク質のレベルの有意な減少が示された(図17)。
【0086】
[0084] (実施例28:他のファミリーにおけるTNRC6A及びRAPGEF2中のTTTCA及びTTTTAペンタヌクレオチドリピート伸長)
以上に記載したように、SAMD12中のTTTCA及びTTTTAペンタヌクレオチドリピート伸長は、2つのファミリー(F9283及びF8241、図18)では観測されなかったので、他の遺伝子中の類似のTTTCA及びTTTTAリピート伸長が病原性変異に関与するという仮説を立てた。全ゲノム配列解析(図27)及びジゴキシゲニン標識(TGAAA)9プローブを用いたサザンブロット解析(図6c及び図6f)のデータを用いてリピートモチーフを検索したところ、2つのファミリー(F9283及びF8241)でも、それぞれ、TNRC6A(トリヌクレオチドリピート含有遺伝子6A)及びRAPGEF2(Rapグアニンヌクレオチド交換因子2)に異常なTTTCA及びTTTTAリピート伸長を有することが示された。
【0087】
[0085] アライメントに基づいて、本発明者らは、伸長TTTCAリピートが、TNRC6Aのエクソン1の上流非コード領域の(TTTTA)22と伸長TTTTAリピートとの間に位置すると仮定した(図19図20、及び図6a)。このことは、RP-PCR(図6b)及びリピート近傍のプローブを用いたサザンブロット解析(6a及び6b、図8b)又はジゴキシゲニン標識(TGAAA)9プローブ(図6c)により確認された。伸長リピートの共分離は、F9283ファミリーの5名の罹患者及び1名の非罹患者でさらに確認された(図18)。TNRC6A中のTTTCAリピート伸長は、1,000名の対照被験者でもSAMD12中にリピート伸長を有する患者でも見いだされなかった。TNRC6A中のTTTTAリピートを標的とするRP-PCR解析では、対照被験者の0.9%(9/1,000)はTTTTAリピート伸長を有することが示された。リピートにフランキングするプライマーを利用したPCR解析では、伸長TTTTAリピートのサイズは7名の対照被験者で約0.2~0.6kbの範囲内であることが示された。しかしながら、2名の対照被験者(0.2%)ではPCR増幅に失敗したことから、かなり大きなTTTTA伸長が非常に小さな割合の対照被験者に存在することが示唆される。
【0088】
[0086] F8241ファミリーでは、TTTCAリピート伸長は、ユニーク配列にアンカーされたペアリードを用いて染色体4q32.1上のRAPGEF2のイントロン14中に同様に同定された(図22及び図6d)。RP-PCR(図6e)並びにリピート近傍のプローブ(7a~d、図8c)及びジゴキシゲニン標識(TGAAA)9プローブを用いたサザンブロット解析(図6f)では、非罹患母親には見いだされなかったTTTCAリピート伸長の存在が罹患患者(III-2)で確認された。プローブ7a~dを用いたサザンブロット解析では、非罹患兄弟姉妹で追加のバンドが示された(III-1、図6f)。しかしながら、ジゴキシゲニン標識(TGAAA)9プローブを用いたサザンブロット解析では、III-1のTTTCAリピートの存在は除外された(図6f)。PCR増幅産物のより大きなサブクローン断片のサンガーシーケンシングでは(III-1)、シンプルTTTTAリピートのみが示された。興味深いことに、ハプロタイプ解析では、非罹患兄弟姉妹(III-1)は、同様に振戦運動を示した父親から伝達された発端者のものと同一のハプロタイプを有することが示された(図23a)。まとめると、TTTTAリピート間に位置する伸長TTTCAリピートは、伸長対立遺伝子が父親(II-1)から子孫(III-1)に伝達されるとき、欠失された(図23b)。こうした観察は、RAPGEF2中のTTTCAリピート伸長の病原性をさらに支持する。RAPGEF2中のTTTCAリピート伸長は、1,000名の対照被験者でもSAMD12中にリピート伸長を有する患者でも見いだされなかった。RAPGEF2中のTTTTAリピートを標的とするRP-PCR解析では、対照被験者の0.5%(5/1,000)は伸長を有することが示された。PCR解析では、伸長TTTTAリピートのサイズは3名の対照被験者で約0.3~3kbの範囲内であることが示された。しかしながら、2名の対照被験者(0.2%)では伸長TTTTAリピートのPCR増幅に失敗されたことから、かなり大きなTTTTA伸長が非常に小さな割合の対照被験者に存在することが示唆される。
[0087] リピートプローブ
【化1】
[0088] プローブ1a
【化2】
[0089] プローブ1b
【化3】
[0090] プローブ6a
【化4】
[0091] プローブ6b
【化5】
[0092] プローブ7a
【化6】
[0093] プローブ7b
【化7】
[0094] プローブ7c
【化8】
[0095] プローブ7d
【化9】
【0089】
[0096] ヌクレオチド位置はhg38に基づく。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図16F
図17A
図17B
図17C
図18
図19
図20A
図20B
図21A
図21B
図22
図23A
図23B
図24
図25
図26A
図26B
図27
図28A
図28B
図28C
図29
図30
図31
図32
図33A
図33B
図33C
【配列表】
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