(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた耐摺動摩耗部材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20221226BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20221226BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20221226BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K3/30
C08K7/02
C08L63/00 Z
(21)【出願番号】P 2018126722
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 不二
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-009458(JP,A)
【文献】特開2015-108037(JP,A)
【文献】特開2012-087171(JP,A)
【文献】特開2002-088232(JP,A)
【文献】特開平02-067366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0161468(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液晶性樹脂、
(B)硫酸バリウム、及び
(C)エポキシ基含有共重合体
を含有し、
前記(B)硫酸バリウムのメディアン径は、10μm以下であ
り、
前記(A)液晶性樹脂の含有量は、53.5~78質量%であり、
前記(B)硫酸バリウムの含有量は、20~40質量%であり、
前記(C)エポキシ基含有共重合体の含有量は、2.0~6.5質量%である耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)液晶性樹脂、
(B)硫酸バリウム、
(C)エポキシ基含有共重合体、及び
(D)繊維状充填剤
を含有
し、
前記(B)硫酸バリウムのメディアン径は、10μm以下であり、
前記(A)液晶性樹脂の含有量は、33.5~73質量%であり、
前記(B)硫酸バリウムの含有量は、20~40質量%であり、
前記(C)エポキシ基含有共重合体の含有量は、2.0~6.5質量%であり、
前記(D)繊維状充填剤の含有量は、5~20質量%である耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の組成物からなる耐摺動摩耗部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた耐摺動摩耗部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有し、優れた寸法安定性も有するため高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。最近では、液晶性樹脂は、これらの特長を生かして、精密機器部品に使用されるようになっている。
【0003】
液晶性樹脂が使用される部品としては、例えば、FPCコネクター等のコネクター;メモリーカードソケット等のソケット;レンズホルダー等のカメラモジュール用部品;リレーが挙げられる。これらの部品は、機械的強度及び耐熱性に優れることが求められ、また、2つ以上の部材が動的に接触するような形態で用いられる場合があるため、摺動摩耗性(即ち、2つ以上の部材が動的に接触したときの摩耗のしやすさ)が低減されていることも求められる。例えば、特許文献1には、表面外観に優れかつ摺動性に優れた液晶性樹脂組成物からなる成形品を提供することを課題として、液晶性樹脂と特定の体積平均粒子径を有するタルクとを特定の比で含有する液晶性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の液晶性樹脂組成物では、摺動摩耗性の低減が不十分である。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来と同等の機械的強度及び耐熱性を有しつつ、摺動摩耗性が低減された耐摺動摩耗部材を製造するために用いられる耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物並びにそれを用いた耐摺動摩耗部材を提供することにある。なお、本明細書において、耐熱性とは、高温剛性により評価される耐熱性をいい、高温剛性は、ISO75-1,2に準拠して荷重たわみ温度(以下、「DTUL」ともいう。)を測定することで評価される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、液晶性樹脂と特定のメディアン径を有する硫酸バリウムとエポキシ基含有共重合体とを含有する液晶性樹脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) (A)液晶性樹脂、(B)硫酸バリウム、及び(C)エポキシ基含有共重合体を含有し、前記(B)硫酸バリウムのメディアン径は、10μm以下である耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物。
【0008】
(2) 前記(A)液晶性樹脂の含有量は、53.5~78質量%であり、前記(B)硫酸バリウムの含有量は、20~40質量%であり、前記(C)エポキシ基含有共重合体の含有量は、2.0~6.5質量%である(1)に記載の組成物。
【0009】
(3) 更に、(D)繊維状充填剤を含有する(1)に記載の組成物。
【0010】
(4) 前記(A)液晶性樹脂の含有量は、33.5~73質量%であり、前記(B)硫酸バリウムの含有量は、20~40質量%であり、前記(C)エポキシ基含有共重合体の含有量は、2.0~6.5質量%であり、前記(D)繊維状充填剤の含有量は、5~20質量%である(3)に記載の組成物。
【0011】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の組成物からなる耐摺動摩耗部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物を原料として、耐摺動摩耗部材を製造すれば、従来と同等の機械的強度及び耐熱性を有しつつ、摺動摩耗性が低減された耐摺動摩耗部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、摺動摩耗量評価の方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
<耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物>
本発明の耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂、(B)硫酸バリウム、及び(C)エポキシ基含有共重合体を含有する。
【0016】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0017】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0~10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0018】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する繰り返し単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0019】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0020】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C
1~C
4)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO
2-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:-(CH
2)
n-(n=1~4)及び-O(CH
2)
nO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0021】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法やスラリー重合法等が用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、2酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF3の如きルイス酸塩等があげられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001~1質量%、特に約0.01~0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0022】
上記のような方法で得られた(A)液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec-1で10MPa以上600MPa以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記(A)液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0023】
本発明の液晶性樹脂組成物において、(A)液晶性樹脂の好ましい含有量は、53.5~78質量%である。(A)成分の含有量が53.5質量%以上であれば流動性の点で好ましく、(A)成分の含有量が78質量%以下であれば耐熱性の点で好ましい。また、(A)成分の含有量は、より好ましくは59~71.5質量%、更により好ましくは62.5~67.5質量%である。但し、本発明の液晶性樹脂組成物が(D)繊維状充填剤を含む場合、該液晶性樹脂組成物において、(A)液晶性樹脂の含有量は、流動性、耐熱性等の点で、好ましくは33.5~73質量%でよく、より好ましくは43~64.5質量%でよく、更により好ましくは50.5~58.5質量%でよい。
【0024】
[(B)硫酸バリウム]
(B)硫酸バリウムは、(C)エポキシ基含有共重合体と組み合わせて用いることにより、本発明の液晶性樹脂組成物から得られる成形体の機械的強度及び耐熱性を維持しつつ、同成形体の摺動摩耗性を低減させることに寄与する。(B)硫酸バリウムは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
(B)硫酸バリウムのメディアン径は10μm以下である。上記メディアン径が10μm超であると、従来と同等の機械的強度及び耐熱性の維持と摺動摩耗性の低減との両立を図りにくい。上記両立を達成しやすいことから、上記メディアン径は、好ましくは0.3~6μm、より好ましくは0.5~3μm、更により好ましくは0.6~2μmである。なお、本明細書において、メディアン径とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値をいう。
【0026】
(B)成分の含有量は、本発明の液晶性組成物において、20~40質量%であることが好ましい。上記含有量が20~40質量%であると、従来と同等の機械的強度及び耐熱性の維持と摺動摩耗性の低減との両立を達成しやすい。上記両立をより達成しやすいことから、上記含有量は、より好ましくは25~35質量%、更により好ましくは28~32質量%である。
【0027】
[(C)エポキシ基含有共重合体]
本発明の液晶性樹脂組成物は、(C)エポキシ基含有共重合体を含有する。(C)エポキシ基含有共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。(C)エポキシ基含有共重合体としては、特に限定されず、例えば、(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体及び(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。(C)エポキシ基含有共重合体は、(B)硫酸バリウムと組み合わせて用いることにより、本発明の液晶性樹脂組成物から得られる成形体の摺動摩耗性を低減させることに寄与する。
【0028】
(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、α-オレフィンに由来する繰り返し単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位とから構成される共重合体が挙げられる。
【0029】
α-オレフィンは特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられ、中でもエチレンが好ましく用いられる。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは下記一般式(IV)で示されるものである。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル、イタコン酸グリシジルエステル等であり、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
【化4】
【0030】
(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体において、α-オレフィンに由来する繰り返し単位の含有量は87~98質量%であり、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位の含有量は13~2質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明で用いる(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、本発明を損なわない範囲で上記2成分以外に第3成分としてアクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α-メチルスチレン、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上に由来する繰り返し単位を、上記2成分100質量部に対し0~48質量部含有してもよい。
【0032】
本発明の(C1)成分であるエポキシ基含有オレフィン系共重合体は、各成分に対応するモノマー及びラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により容易に調製することができる。より具体的には、通常、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとをラジカル発生剤の存在下、500~4000気圧、100~300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤とを混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0033】
(C2)のエポキシ基含有スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン類に由来する繰り返し単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位とから構成される共重合体が挙げられる。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルについては、(C1)成分で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0034】
スチレン類としては、スチレン、α-メチルスチレン、ブロム化スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、スチレンが好ましく用いられる。
【0035】
本発明で用いる(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体は、上記2成分以外に第3成分として他のビニルモノマーの1種又は2種以上に由来する繰り返し単位を含有する多元共重合体であってもよい。第3成分として好適なものは、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上に由来する繰り返し単位である。これらの繰り返し単位を共重合体中に40質量%以下含有するエポキシ基含有スチレン系共重合体が(C2)成分として好ましい。
【0036】
(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体において、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位の含有量は2~20質量%であり、スチレン類に由来する繰り返し単位の含有量は80~98質量%であることが好ましい。
【0037】
(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体は、各成分に対応するモノマー及びラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により調製することができる。より具体的には、通常、スチレン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとをラジカル発生剤の存在下、500~4000気圧、100~300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、スチレン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤とを混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0038】
なお、(C)エポキシ基含有共重合体としては、(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が耐熱性の点で好ましい。(C1)成分と(C2)成分とを併用する場合、これら成分同士の割合は、適宜、要求される特性に沿って選択することができる。
【0039】
(C)エポキシ基含有共重合体の含有量は、本発明の液晶性樹脂組成物において、2.0~6.5質量%である。(C)成分の含有量が上記範囲内であると、機械的強度及び耐熱性を損なわず、摺動摩耗性が低減された成形体を得やすい。より好ましい上記含有量は3.5~6.0質量%であり、更により好ましい上記含有量は4.5~5.5質量%である。
【0040】
[(D)繊維状充填剤]
本発明の液晶性樹脂組成物は、(D)繊維状充填剤を含有することにより、耐熱性に更に優れる成形体を与えることができる。(D)繊維状充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
(D)繊維状充填剤の平均繊維長は、好ましくは50~200μmであり、より好ましくは100~170μmであり、更により好ましくは120~150μmである。上記平均繊維長が200μm以下であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分となりやすい。上記平均繊維長が50μm以上であると、本発明の液晶性樹脂組成物から得られる成形体は、機械的強度及び耐熱性が向上しやすい。なお、平均繊維長は実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。
【0042】
(D)繊維状充填剤の好ましい平均繊維径は1~15μm以下であり、より好ましい平均繊維径は5~10μmである。上記平均繊維径が上記範囲内であると、本発明の液晶性樹脂組成物から得られる成形体は、機械的強度及び耐熱性が向上しやすい。なお、平均繊維径は実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。
【0043】
以上の形状を満足する繊維状充填剤であれば、何れの繊維を用いることができるが、(D)繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ミルドファイバー、カーボン繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維に加えて、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)、炭酸カルシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化硼素ウィスカー、三窒化珪素ウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、炭化珪素ウィスカー、ボロンウィスカー等のウィスカー、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。入手性等の点で、(D)成分は、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)、炭酸カルシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等であることが好ましく、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)であることがより好ましい。なお、本発明の液晶性樹脂組成物中の(D)成分の形状と、配合される前の(D)成分の形状とは異なる。上述の(D)成分の形状は配合される前の形状である。配合される前の形状が上述の通りであれば、耐熱性に優れる成形体を得やすい。
【0044】
(D)成分の含有量は、本発明の液晶性樹脂組成物において、好ましくは5~20質量%、より好ましくは7~16質量%、更により好ましくは9~12質量%である。(D)成分の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物から得られる成形体の機械的強度及び耐熱性が向上しやすい。
【0045】
[(E)カーボンブラック]
本発明に任意成分として用いる(E)カーボンブラックは、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なものであれば、特に限定されるものではない。通常、(E)カーボンブラックには一次粒子が凝集して出来上がる塊状物が含まれているが、50μm以上の大きさの塊状物が著しく多く含まれていない限り、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体の表面に多くのブツ(カーボンブラックが凝集した細かいブツブツ状突起物(細かい凹凸))は発生しにくい。上記塊状物粒子径が50μm以上の粒子の含有率が20ppm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。好ましい含有率は5ppm以下である。
【0046】
(E)カーボンブラックの配合量としては、液晶性樹脂組成物において、0.5~5質量%の範囲が好ましい。カーボンブラックの配合量が0.5質量%以上であると、得られる樹脂組成物の漆黒性が低下しにくく、遮光性に不安が出にくい。カーボンブラックの配合量が5質量%以下であると不経済となりにくく、またブツが発生しにくい。
【0047】
[その他の成分]
本発明の液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0048】
その他の充填剤とは、(B)硫酸バリウム、(D)繊維状充填剤、及び(E)カーボンブラック以外の充填剤をいい、例えば、シリカ等の粒状充填剤が挙げられる。
【0049】
[耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の調製方法]
本発明の耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、上記(A)~(C)成分、及び、場合により(D)成分を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の調製が行われる。
【0050】
[耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物]
上記のようにして得られた本発明の液晶性樹脂組成物は、成形性の観点から、溶融粘度が90Pa・sec未満であることが好ましい。溶融時の流動性が高く、成形性に優れる点も本発明の液晶性樹脂組成物の特徴の一つである。上記溶融粘度は、より好ましくは80Pa・sec以下であり、更により好ましくは75Pa・sec以下である。上記溶融粘度の下限は特に限定されず、例えば、30Pa・sec以上でよく、40Pa・secでもよい。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10~20℃高いシリンダー温度、せん断速度1000sec-1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0051】
<耐摺動摩耗部材>
本発明の液晶性樹脂組成物を用いて、耐摺動摩耗部材を製造する。本発明の耐摺動摩耗部材は、従来と同等の機械的強度及び耐熱性を有しつつ、摺動摩耗性が低減されている。本発明の耐摺動摩耗部材は、使用時に2つ以上の部材が動的に接触するような部品に用いることができ、具体的には、例えば、FPCコネクター等のコネクター;メモリーカードソケット等のソケット;レンズホルダー等のカメラモジュール用部品;リレー等に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
<液晶性樹脂>
・液晶性ポリエステルアミド樹脂
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は336℃、350℃における溶融粘度は19.0Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
(I)4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1380g(60モル%)
(II)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);157g(5モル%)
(III)テレフタル酸(TA);484g(17.5モル%)
(IV)4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);388g(12.5モル%)
(V)4-アセトキシアミノフェノール(APAP);126g(5モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);110mg
アシル化剤(無水酢酸);1659g
【0054】
<液晶性樹脂以外の材料>
・硫酸バリウム1:(堺化学工業(株)製、メディアン径0.6μm)
・硫酸バリウム2:(堺化学工業(株)製、メディアン径2μm)
・エポキシ基含有オレフィン系共重合体:ボンドファースト2C(住友化学(株)製、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、グリシジルメタクリレートの含有量6質量%)
・繊維状充填剤:NYGLOS 8(NYCO Materials社製、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)、数平均繊維長136μm、平均繊維径8μm)
・カーボンブラック:VULCAN XC305(キャボットジャパン(株)製、平均粒子径20nm、粒子径50μm以上の粒子の割合が20ppm以下)
・離型剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート(エメリーオレオケミカルズジャパン(株)製)
【0055】
<耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1に示す割合で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、シリンダー温度350℃にて溶融混練し、耐摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
【0056】
<溶融粘度>
実施例及び比較例の液晶性樹脂組成物の溶融粘度を、上記ペレットを用いて測定した。具体的には、キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製作所製、キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、シリンダー温度350℃、せん断速度1000sec-1の条件での見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。結果を表1に示す。
【0057】
<曲げ試験>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、130mm×13mm×0.8mmの曲げ試験片を作製した。この試験片を用いて、ASTM D790に準拠し、曲げ強度、曲げ弾性率、及び破断歪を測定した。このうち、曲げ弾性率及び曲げ強度の測定結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 50MPa
【0058】
[荷重たわみ温度(DTUL)]
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用試験片(4mm×10mm×80mm)を得た。この試験片を用いて、ISO75-1,2に準拠した方法で荷重たわみ温度を測定した。なお、曲げ応力としては、1.8MPaを用いた。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
【0059】
<摺動摩耗量>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用ピン(直径10mm、長さ10mm)及び測定用試験片(80mm×80mm×1mm)を得た。
図1に示す通り、測定用試験片上で測定用ピンに荷重をかけ、下記の往復摺動条件で往復摺動試験を行った後、測定用ピンと測定用試験片との合計の質量減少量を算出して、摺動摩耗量とした。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
〔往復摺動条件〕
すべり速度:5cm/sec
ストローク:20mm
荷重:9.8N(1kg重)
往復回数:3000回
【0060】
【0061】
表1に記載の結果から明らかなように、実施例の成形体は、従来と同等の機械的強度及び耐熱性を有しつつ、摺動摩耗性が低減されていることが確認された。更に繊維状充填剤を含有する実施例の成形体は、更に優れた耐熱性を有することも確認された。