IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清食品ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】低膨潤シリアル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/122 20160101AFI20221226BHJP
   A23L 7/135 20160101ALI20221226BHJP
【FI】
A23L7/122
A23L7/135
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019057073
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020156350
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 良美
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-141056(JP,A)
【文献】特開昭49-086556(JP,A)
【文献】東海公衆衛生雑誌,2018年,Vol.6,No.1,pp.60-69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素数16~24の脂肪酸のモノグリセライドが塗布された低膨潤シリアルであって、シリアル1000mlあたり、モノグリセライドを25~70ml含有することを特徴とする低膨潤シリアル。
【請求項2】
更に、融点が40℃以下の低融点油脂を2~20ml含有することを特徴とする請求項1記載の低膨潤シリアル。
【請求項3】
シリアルと、炭素数16~24の脂肪酸のモノグリセライドを含んでなる低膨潤シリアルの製造方法であって、
モノグリセライドを、モノグリセライドの融点よりも高い温度で加熱してモノグリセライド溶融物を調整し、
且つ
シリアル1000mlに対して、モノグリセライド溶融物を25~70ml添加する、
ことを特徴とする低膨潤シリアルの製造方法。
【請求項4】
更に、融点が40℃以下の低融点油脂を加えて、モノグリセライド溶融物の粘度を低下させることを特徴とする請求項3記載の低膨潤シリアルの製造方法。

以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨潤しにくいシリアル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラノーラやフレークなどのシリアルは、栄養価が高く、長期保存でき、手軽に喫食できるため、近年、軽食としての需要が高まっている。そして、需要の高まりに合わせて、市場のニーズも多様化しており、手軽に食べられるシリアルバー(棒状成形物)やシリアルブロック(塊状成形物)なども人気を集めている。
【0003】
ところが、シリアルそのものについては改良が進んでおらず、シリアルにホットミルクやヨーグルトなどの液状物を加えると、シリアルがふやけてサクサクとした食感が失われるという長年の課題についてはなんら解決策が提案されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-130018号公報
【文献】特表2011-500094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヨーグルトのような常温~低温の液体だけではなく、ホットミルクのような高温の液体を注いだ場合であっても、サクサクとしたシリアルの食感を持続することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シリアルに、炭素数16~24の脂肪酸のモノグリセライドを加えることにより、シリアルに移行しにくくなり、ヨーグルトのような常温~低温の液体だけではなく、ホットミルクのような高温の液体を注いだ場合であっても、サクサクとしたシリアルの食感を持続することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の完成により、ヨーグルトやホットミルクのような液状物を加えた場合であっても、サクサクとしたシリアルの食感を持続させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の対象は、シリアルとモノグリセライドとからなる低膨潤シリアルである。シリアルを後述するモノグリセライドを加えることで、ヨーグルトやホットミルクのような液状物を加えても、サクサクとしたシリアルの食感を持続できる。
【0009】
低膨潤シリアルの水分含有量は4重量%以下である。水分含有量が4重量%を超えると、液状物を注ぐ以前から湿気た食感になってしまう。一方、水分含有量の下限値には特に制限はないが、シリアルの水分含有量を1重量%未満にすることは生産上困難である。したがって、生産性の観点から、低膨潤シリアルの水分含有量は1重量%以上が好ましい。
【0010】
本発明の低膨潤シリアルは、シリアル1000mlに対し、モノグリセライドを25~70ml配合したものである。なお、シリアルの容積にはシリアル間の隙間やシリアル内部に生じている空隙も含まれる。すなわち、比重が軽く、大きいシリアルを用いた場合には、単位重量当たりの容積は大きくなる。より具体的には、コーンフレーク100g当たりの容積は900~1100ml程度であり、コーンフレークよりも嵩比重の重い俵型パフでは100g当たりの容積は500~700ml程度である。
【0011】
本発明においては、シリアル1000mlに対して、モノグリセライドを25~70ml加えることが好ましく、35~55mlがより好ましい。モノグリセライドが25ml未満の場合には、シリアルをモノグリセライドで斑なく覆うことができず、シリアルが湿気やすい。一方、モノグリセライドが70mlを超える場合には、モノグリセライドの層が厚くなりすぎてシリアル本来の食感が損なわれたり、モノグリセライドの味が強くなりすぎてシリアルの風味が損なわれる。
【0012】
(シリアル)
次に、本発明に用いるシリアルについて説明する。一般にシリアルとは、トウモロコシ、オーツ麦などの禾穀類を押しつぶして焼成したフレークや、熱や圧力を加えた後、急激に減圧して膨化させたパフをいうが、本発明においては、禾穀類の使用有無は問わない。すなわち、本発明においては、禾穀類に由来する原料を含んでいないとしてもフレーク状又はパフ状に加工した食品についてはシリアルに含める。なお、複数の原料を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
シリアルに用いる原料としては、トウモロコシ、オーツ麦、小麦、大麦、米、アワ、ヒエ、キビ等の禾穀類、大豆、小豆、緑豆、インゲン豆、エンドウ豆等の菽穀類、ソバ、キヌア等の擬似穀類、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、デキストリン等の炭水化物、難消化性デキストリン、セルロース、サイリウム、ポリデキストロース等の食物繊維などが挙げられる。
【0014】
シリアルには、味の調整等の目的で、その他の原料を加えてもよい。例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、マルトデキストリン等の低分子量の甘味料、塩化ナトリウム等の塩味成分、グルタミン酸ナトリウム等の旨味成分、カフェイン等の苦味成分、クエン酸等の酸味成分、香辛料、香料等の香味成分など(以下「その他成分」という)を添加することができる。
【0015】
シリアルのかさ比重(以下単に「比重」という)は80~400g/Lであることが好ましく、100~200g/Lがより好ましい。比重が80g/L未満の場合には、シリアルが脆く欠損しやすい。また、比重が300g/Lを超える場合には、組織が密なため食感が硬くなりすぎる。
【0016】
本発明における「かさ比重(比重)」とは、シリアル1リットルあたりの重量を指す。具体的な測定法は以下の通りである。
(1)シリアルを、ビーカー(容量2000ml)の1000mlの目盛りまで投入し、振幅機を用いてシリアルが破損しない程度に30秒振動させる。
(2)投入したシリアルの上面が1000mlの目盛を下回った場合には、1000mlの目盛りまでシリアルを追加して、再度30秒振動させる。振動前後で、1000mlの目盛りとシリアルの上面がずれなくなるまで、この作業を繰り返す。
(3)ビーカーからシリアルを取り出してかさ比重(1000mlあたりのシリアルの重量(g)、単位g/L)を計測する。
【0017】
なお、シリアルの製造方法には特に制限はなく、サクサクとした食感を有していれば十分である。したがって、製造方法が明らかではない市販のシリアルを用いてもよい。
【0018】
(モノグリセライド)
本発明のモノグリセライドは、炭素数16~24の脂肪酸のモノグリセライド(以下単に「モノグリセライド」という場合には、炭素数16~24の脂肪酸のモノグリセライドを指すものとする)を含む。モノグリセライドは、常温で固体であり、且つ疎水性である。このため、ヨーグルトやホットミルクのような液状物を加えても水分がシリアルに移行しにくく、サクサクとしたシリアルの食感を持続できる。
【0019】
本発明で用いる炭素数16~24の脂肪酸のモノグリセライドとは、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の炭素数16~24の脂肪酸とグリセリンとのモノエステルである。モノグリセライドの製造方法には、グリセリンと脂肪酸から製造するエステル化法と、食用油脂とグリセリンを原料とするエステル交換法とがある。また、精製前のモノグリセライド含量は、45~70%程度であり、分子蒸留を行うことでモノグリセリド含量を90%以上に高めることができる。
【0020】
さらに、融点が70℃以上のモノグリセライド(以下「高融点モノグリセライド」という)を用いることがより好ましい。高融点モノグリセライドを用いることで、ホットミルクのような加温された液状物を加えた場合であってもシリアルの膨潤を抑制することができる。なお、高融点モノグリセライドとしては、ベヘン酸モノグリセライド、リグノセリン酸モノグリセライド等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、更に融点が40℃以下の油脂(以下「低融点油脂」という)を加えてもよい。低融点油脂は、モノグリセライドと比べて流動性が高いため、低融点油脂を少量添加することでモノグリセライドの粘度を下げて、シリアルに添加する際の作業効率が向上させることができる。一方、低融点油脂は、ホットミルクのような高温の液体を注いだ場合には、膨潤を促進する傾向がある。したがって、低融点油脂を過剰に添加しないように留意する必要がある。
【0022】
ここで、作業効率の観点から、低融点油脂の添加量は、シリアル1000mlに対して2ml以上が好ましく、5ml以上がより好ましい。また、高温液体を注いだ際の膨潤を抑制する観点から、低融点油脂の添加量はシリアル1000mlに対して20ml以下が好ましく、15ml以下がより好ましい。
【0023】
モノグリセライドには、粘度調整、味調整等の目的で、低融点油脂以外のその他の原料を添加してもよい。例えば、融点が70℃未満のモノグリセライド、単糖、二糖、オリゴ糖、マルトデキストリン等の低分子量の甘味料、塩化ナトリウム等の塩味成分、グルタミン酸ナトリウム等の旨味成分、カフェイン等の苦味成分、クエン酸等の酸味成分、香辛料、香料等の香味成分など(以下「その他成分」という)を添加することができる。
【0024】
シリアルにモノグリセライドを塗布する方法としては、モノグリセライドを溶融させてからシリアルに添加する方法(方法1)や、モノグリセライドを含むエマルション溶液(コーティング剤)をシリアルに添加する方法(方法2)などが挙げられるが、方法2を採用した場合には乾燥工程を設ける必要があるため、方法1が好適である。
【実施例
【0025】
本実施例に用いた原料の詳細は以下の通りである。
シリアル(コーンフレーク):日清シスコ社製「シスコーンBIGプレーンタイプ」、かさ比重110g/L(実測値)
ベヘン酸モノグリセライド:太陽化学社製「サンソフトNo.8100」、融点85℃(実測値)
ステアリン酸モノグリセライド;理研ビタミン社製「エマルジ―MH」、融点70℃(実測値)
低融点油脂:精製ヤシ油、融点26℃(実測値)
【0026】
(実施例1)
ベヘン酸グリセリル(炭素数22の脂肪酸のモノグリセライド)を90℃で10分加熱して完全に溶融させ、次にコーンフレーク1000mlに対し、当該溶融物を40ml斑なく添加し、速やかに冷却して低膨潤シリアル1(実施例1)を製造した。
【0027】
(実施例2~5、比較例1~4)
表1の通り変更して、低膨潤シリアル2~9(実施例2~5、及び比較例1~4)を製造した。
なお、ベヘン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド及び低融点油脂を溶融させる温度は、いずれも低膨潤シリアル1と同様に90℃である。また、低膨潤シリアル4(実施例4)については、ベヘン酸モノグリセライドの溶融物と低融点油脂の溶融物を混合してからシリアルに添加したものであり、ベヘン酸モノグリセライドを単独で使用した場合と比較して、溶融物の粘度が下がり、作業効率が大幅に改善した。
【0028】
(評価)
温度の異なる牛乳を用いて低膨潤シリアル1~9の膨潤状態を評価した。
【0029】
低温評価
100mlビーカーに入った低膨潤シリアル1~9 45mlに、7℃±1℃の牛乳50mlを加えて、完全に膨潤するまでの時間を計測した。計測は1分毎、且つ最大20分まで実施した。
【0030】
高温評価
100mlビーカーに入った低膨潤シリアル1~9 45mlに、80℃±3℃のホットミルク50mlを加えて、完全に膨潤するまでの時間を計測した。なお、低温評価の際と同様に、計測は1分毎、且つ最大20分まで実施した。
【0031】
【表1】
【0032】
ベヘン酸モノグリセライド、またはステアリン酸モノグリセライドを添加することで大幅に膨潤が改善された(実施例1,2、比較例1、2参照)。モノグリセライドの添加量が20mlの場合には、膨潤が充分には改善されなかったが、30mlの場合には明らかに膨潤が改善した(実施例3、比較例3、4参照)。低融点油脂については作業効率は向上するものの高温評価が低下する傾向だった。
【0033】
表中には示していないが、実施例4(ベヘン酸モノグリセライドを50ml)については、ベヘン酸モノグリセライドの臭いが強くなりすぎてしまいシリアル全体の風味が悪化した。なお、実施例4において、さらにベヘン酸モノグリセライドを追加した場合(ベヘン酸モノグリセライドを80ml)には、風味が悪すぎて喫食に堪えなかった。