(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】不飽和二重結合含有化合物、それを用いた酸素吸収剤、及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 43/178 20060101AFI20221226BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20221226BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221226BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C07C43/178 C CSP
C07C69/54 Z
C08L101/00
C08K5/00
(21)【出願番号】P 2019557188
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2018043061
(87)【国際公開番号】W WO2019107252
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017231077
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 大樹
(72)【発明者】
【氏名】福本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】宇治田 克爾
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬次
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-099276(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102942460(CN,A)
【文献】特表2013-525564(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0018233(KR,A)
【文献】特開昭57-016001(JP,A)
【文献】高分子,1964年,13 巻 6 号,pp. 419-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
(II)で表される不飽和二重結合含有化合物。
【化2】
(一般式(II)中、R
9
は水素原子又はメチル基を表し、R
10
は水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基のいずれかを表す。R
11
、R
12
、R
13
、及びR
14
はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表す。)
【請求項2】
前記一般式(II)においてR
9が水素原子である、請求項
1に記載の不飽和二重結合含有化合物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の不飽和二重結合含有化合物を含む酸素吸収剤。
【請求項4】
前記不飽和二重結合含有化合物中のビニル基に対して遷移金属塩を0.001~10mol%含む、請求項
3に記載の酸素吸収剤。
【請求項5】
請求項
3又は
4に記載の酸素吸収剤及び樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂が活性エネルギー線硬化性樹脂である、請求項
5に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の不飽和二重結合含有化合物、それを用いた酸素吸収剤、及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料等に使用される不飽和ポリエステル樹脂等のラジカル重合性樹脂は、ポリマー主鎖中に不飽和結合を有し、ビニル架橋剤によって架橋及び硬化する。これらのラジカル重合性樹脂を塗料用途に用いる場合、通常、空気雰囲気下で架橋を行うため空気中の酸素により阻害されやすく、硬化が遅くなる問題や、表面がべたつくという問題等がある。これらの問題を防ぐ手段として、特許文献1及び2には樹脂に酸素吸収剤を添加する技術が提案されている。また、前記酸素吸収剤として、特許文献3及び4にはアリルグリシジルエーテル等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-130610号公報
【文献】特開平5-78459号公報
【文献】特開昭61-101518号公報
【文献】米国特許第3644568号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗料用途においては、従来、反応性希釈剤としてスチレン等が多く用いられてきたが、環境保護の観点から、難揮発性の(メタ)アクリル酸エステルへ転換する動きが高まっている。しかし、(メタ)アクリル酸エステルを使用する場合は、従来の反応性希釈剤を用いる場合よりも酸素による阻害が発生しやすいという問題があった。
【0005】
本発明は前記従来の課題を鑑みてなされたものであって、塗料等に用いた場合に架橋反応や硬化反応を十分に進行させることができる酸素吸収性能を有する不飽和二重結合含有化合物を提供することを目的とする。また、この不飽和二重結合含有化合物を含む酸素吸収剤、及びこれを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、下記一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物によれば、従来の酸素吸収剤よりも発生したラジカルをより安定化させることができて、より高い酸素ラジカル捕捉性能、すなわち、酸素吸収性能を示すことを見出し、当該知見に基づいて更に検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は下記[1]~[10]を提供する。
[1]下記一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物。
【化1】
【0008】
(一般式(I)中、X及びYはそれぞれ独立してカルコゲン原子を表し、R1、R2、R7、及びR8はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表し、R3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表す。Jは炭素数3~15の脂肪族炭化水素からなる連結基を表し、前記連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよく、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを置換基として有していてもよい。nは1~5の任意の整数である。ただし、Y、R5、R6、R7、及びR8が複数存在する場合は、それぞれ異なる原子又は基であってもよい。)
【0009】
[2]前記一般式(I)においてXが酸素原子である、[1]に記載の不飽和二重結合含有化合物。
[3]前記一般式(I)においてR3及びR6が水素原子である、[1]又は[2]に記載の不飽和二重結合含有化合物。
[4]前記一般式(I)においてR4及びR5がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である、[1]~[3]のいずれかに記載の不飽和二重結合含有化合物。
【0010】
[5]下記一般式(II)で表される、[1]~[4]のいずれかに記載の不飽和二重結合含有化合物。
【化2】
(一般式(II)中、R
9は水素原子又はメチル基を表し、R
10は水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基のいずれかを表す。R
11、R
12、R
13、及びR
14はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表す。)
【0011】
[6]前記一般式(II)においてR9が水素原子である、[5]に記載の不飽和二重結合含有化合物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の不飽和二重結合含有化合物を含む酸素吸収剤。
[8]前記不飽和二重結合含有化合物中のビニル基に対して遷移金属塩を0.001~10mol%含む、[7]に記載の酸素吸収剤。
[9][7]又は[8]に記載の酸素吸収剤及び樹脂を含む樹脂組成物。
[10]前記樹脂が活性エネルギー線硬化性樹脂である、[9]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗料等に用いた場合に架橋反応や硬化反応を十分に進行させることができる酸素吸収性能を有する不飽和二重結合含有化合物を提供することができる。また、この不飽和二重結合含有化合物を含む酸素吸収剤、及びこれを含む樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物>
本発明の不飽和二重結合含有化合物は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【化3】
【0014】
(一般式(I)中、X及びYはそれぞれ独立してカルコゲン原子を表し、R1、R2、R7、及びR8はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表し、R3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表す。Jは炭素数3~15の脂肪族炭化水素からなる連結基を表し、前記連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよく、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを置換基として有していてもよい。nは1~5の任意の整数である。ただし、Y、R5、R6、R7、及びR8が複数存在する場合(すなわち、nが2以上の整数である場合)は、それぞれ異なる原子又は基であってもよい。)
【0015】
一般式(I)において、X及びYはそれぞれ独立してカルコゲン原子を表す。X及びYは、不飽和二重結合含有化合物の製造容易性の観点、酸素吸収性能を向上させる観点から、酸素原子又は硫黄原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0016】
一般式(I)におけるR1、R2、R7、及びR8はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表す。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0017】
炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、イソ-3-ヘキセニル基、及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0018】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基、及びジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、R1、R2、R7、及びR8はそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数2~6のアルケニル基のいずれかであることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0020】
一般式(I)におけるR3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表す。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0021】
炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、イソ-3-ヘキセニル基、及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0022】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基、及びジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、R3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数2又は3のアルケニル基、及びアリール基のいずれかであることが好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。中でも不飽和二重結合含有化合物の酸素吸収性能を向上させる観点から、R3及びR6はいずれも水素原子であることが好ましく、R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましく、いずれも水素原子であることがより好ましい。
【0024】
一般式(I)において、Jは炭素数3~15の脂肪族炭化水素からなる連結基を表し、前記連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよく、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを置換基として有していてもよい。
前記連結基としては、不飽和二重結合含有化合物の取扱いの容易性の観点から、炭素数3~10の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数3~5の脂肪族炭化水素基がより好ましい。
【0025】
前記連結基は、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを置換基として有していてもよい。前記スチリルオキシ基としては、例えば、4-スチリルオキシ基等が挙げられる。また、前記炭素数2~5のアルケニルオキシ基は、炭素数2~5のビニルオキシ基であってもよい。
前記連結基が有する置換基としては、不飽和二重結合含有化合物の酸素吸収性能を向上させる観点から、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。
【0026】
前記連結基の具体例としては、例えば、下記一般式(J-1)で表されるいずれかの構造を有する連結基等が挙げられ、原料の入手容易性の観点から、下記一般式(J-2)で表される連結基が好ましく、不飽和二重結合含有化合物の酸素吸収性能を向上させる観点から、下記一般式(J-3)で表される連結基がより好ましい。なお、一般式(J-1)~(J-3)中の「*」はX又はYとの結合点を示す。
【0027】
【0028】
【0029】
一般式(J-2)及び(J-3)において、R9はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、好ましくは水素原子である。R10は水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基のいずれかを表し、好ましくは水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基である。なお、前記炭素数2~5のアルケニルオキシ基は、炭素数2~5のビニルオキシ基であってもよい。
【0030】
一般式(I)において、nは1~5の任意の整数であり、原料の入手容易性の観点から1~4が好ましく、1又は2がより好ましい。
【0031】
一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物の具体例としては、例えば、下記化合物等が挙げられ、酸素吸収性能の観点から、下記一般式(II)で表される不飽和二重結合含有化合物が好ましい。
【0032】
【0033】
【化7】
(一般式(II)中、R
9は水素原子又はメチル基を表し、R
10は水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基のいずれかを表す。R
11、R
12、R
13、及びR
14はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表す。)
【0034】
一般式(II)において、R9は水素原子又はメチル基を表し、好ましくは水素原子である。R10は水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基のいずれかを表し、好ましくは水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基である。なお、前記炭素数2~5のアルケニルオキシ基は、炭素数2~5のビニルオキシ基であってもよい。
【0035】
一般式(II)において、R11、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基のいずれかを表し、好ましい態様は、前記一般式(I)におけるR1、R2、R7、及びR8と同じである。
【0036】
<不飽和二重結合含有化合物の製造方法>
本発明の不飽和二重結合含有化合物の製造方法に特に制限はなく、公知方法を単独で又は組み合わせて応用することにより製造することができる。例えば、下記式(A-1)で表される不飽和二重結合含有化合物を製造する場合、水酸化カリウム等のアルカリ存在下、対応するアルコールである3-メチル-2-ブテン-1-オールに対してエピクロロヒドリン等の連結基Jを形成可能な化合物を反応させることにより製造することができる。反応条件としては、十分に反応させる観点から、25~70℃程度の温度で2~10時間程度撹拌することが好ましい。
【0037】
【0038】
[酸素吸収剤]
本発明の酸素吸収剤は、前記一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物を含むものである。前述のとおり本発明の不飽和二重結合含有化合物は酸素吸収性能に優れるため、これを含む酸素吸収剤を塗料等に用いた場合は、架橋反応や硬化反応を十分に進行させることができる。
【0039】
<遷移金属塩>
本発明の酸素吸収剤は、本発明の不飽和二重結合含有化合物を含むため十分な酸素吸収性能を有するが、酸素吸収性能を更に向上させるために遷移金属塩を更に含んでもよい。
前記遷移金属塩を構成する遷移金属としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルト、ロジウム、チタン、クロム、バナジウム、及びルテニウム等が挙げられる。これらの中でも、酸素吸収剤の酸素吸収性能を向上させる観点から、鉄、ニッケル、銅、マンガン、及びコバルトが好ましく、コバルトがより好ましい。
【0040】
前記遷移金属塩における遷移金属の対イオンとしては、相溶性の点から有機酸由来のアニオン種が好ましく、有機酸としては、例えば、酢酸、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2-エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、オレイン酸、カプリン酸、及びナフテン酸等が挙げられる。
【0041】
本発明に用いる遷移金属塩は前記遷移金属と前記対イオンとを任意に組み合わせたものを用いることができるが、製造コストと酸素吸収性能とのバランスの観点から、2-エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、及びステアリン酸コバルトが好ましい。
【0042】
酸素吸収剤が遷移金属塩を含む場合、その含有量は、不飽和二重結合含有化合物中のビニル基に対して、0.001~10mol%が好ましく、0.005~5mol%がより好ましく、0.01~1mol%が更に好ましく、0.1~1mol%がより更に好ましい。なお、遷移金属塩の含有量のmol%は、不飽和二重結合含有化合物中のビニル基100molに対する値である。
遷移金属塩の含有量が前記範囲内であると、酸素吸収剤に十分な酸素吸収性能を付与することができる。
【0043】
<酸素吸収剤中の不飽和二重結合含有化合物の含有量>
本発明の酸素吸収剤中の一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物の含有量に特に制限はないが、効果的に酸素を吸収する観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上がより更に好ましく、85質量%以上がより更に好ましく、90質量%以上がより更に好ましい。また、酸素吸収剤の製造コストの観点から、実質的に100質量%が好ましく、99.9質量%以下がより好ましく、99.8質量%以下が更に好ましい。
【0044】
<酸素吸収剤の任意成分>
本発明の酸素吸収剤は、一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物及び遷移金属塩の他に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を含んでもよい。具体的には、充填剤、紫外線吸収剤、顔料、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、染料、酸化防止剤、レベリング剤、及びたれ止め剤等を含んでもよい。
【0045】
<酸素吸収量>
本発明の酸素吸収剤は常温においても優れた酸素吸収性能を示す。具体的に、本発明の酸素吸収剤が遷移金属塩を含む場合の20℃における酸素吸収量は、1日後の値として、好ましくは2mL/g以上であり、より好ましくは4mL/g以上であり、更に好ましくは6mL/g以上である。
また、本発明の酸素吸収剤が遷移金属塩を含む場合の60℃における酸素吸収量は、1日後の値として、好ましくは10mL/g以上であり、より好ましくは25mL/g以上であり、更に好ましくは45mL/g以上である。
【0046】
一方、本発明の酸素吸収剤が遷移金属塩を含まない場合の20℃における酸素吸収量は、1日後の値として、好ましくは1mL/g以上であり、より好ましくは2mL/g以上であり、更に好ましくは2.5mL/g以上である。
また、本発明の酸素吸収剤が遷移金属塩を含まない場合の60℃における酸素吸収量は、1日後の値として、好ましくは10mL/g以上であり、より好ましくは20mL/g以上であり、更に好ましくは25mL/g以上である。
なお、酸素吸収剤の酸素吸収量の上限に制限はなく、酸素吸収量は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0047】
<酸素吸収剤の製造方法>
本発明の酸素吸収剤は、一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物と、必要に応じて遷移金属塩及び/又は各種添加剤とを混合することにより得ることができる。具体的には、一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物と、遷移金属塩とを撹拌、混合する等して得ることができる。
【0048】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、本発明の酸素吸収剤及び樹脂を含むものである。一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物は、それ自体が重合性基や反応性基を有するため、樹脂に配合しても該樹脂の架橋反応や重合反応等を阻害しにくい。したがって、本発明の樹脂組成物は、酸素存在下でも樹脂の架橋反応や重合反応等の収率が低下しにくい点で優れている。
【0049】
<樹脂>
本発明の樹脂組成物に用いる樹脂は、塗料、接着剤、及びコーティング剤等に用いられる樹脂であれば特に制限はない。当該樹脂はラジカル重合性樹脂であってもよく、また、UV硬化性樹脂等の活性エネルギー線硬化性樹脂であってもよい。用途等にもよるが本発明の効果がより顕著に奏されること等から、当該樹脂は活性エネルギー線硬化性樹脂であることが好ましい。
樹脂の具体例としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、重合性基を有する(メタ)アクリル樹脂、及びウレタン(メタ)アクリレート樹脂等のラジカル重合反応により硬化可能な樹脂;
ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分又は完全鹸化物、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等の酸素バリア性が求められる樹脂等が挙げられる。
また、前記樹脂以外にも必要に応じて、フッ素樹脂、ポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いてもよい。
【0050】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、プロピレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体等、多価アルコール化合物とα,β-不飽和多塩基酸化合物及び他の多塩基酸化合物との共重合体、並びに、該共重合体にスチレン等のラジカル重合性単量体を添加したもの等が挙げられる。
【0051】
前記多価アルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA、及び水添ビスフェノールF等が挙げられる。
【0052】
前記α,β-不飽和多塩基酸化合物としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びシトラコン酸等が挙げられ、前記他の多塩基酸化合物としては、例えば、無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘット酸、アジピン酸、及びセバシン酸等が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
これらの共重合体は、更にアリルグリシジルエーテル等の不飽和アルコールのグリシジル化合物を共重合成分の1つとして含んでもよい。
【0054】
ビニルエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂末端に(メタ)アクリル酸を付加させたもの等、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させたもの等が挙げられる。
【0055】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、多価アルコール化合物と過剰の多価イソシアネート化合物より合成されるイソシアネート基残存ポリマーに(メタ)アクリル酸を付加させたもの等が挙げられる。前記多価アルコール化合物は前記不飽和ポリエステル樹脂の説明における多価アルコール化合物と同様のものとすることができ、前記多価イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
本発明の樹脂組成物中における一般式(I)で表される不飽和二重結合含有化合物の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~50質量部であり、より好ましくは0.2~30質量部であり、更に好ましくは0.5~10質量部である。
【0057】
<樹脂組成物の任意成分>
本発明の樹脂組成物は、顔料、染料、充填剤、紫外線吸収剤、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、酸化防止剤、レベリング剤、及びたれ止め剤等を適宜含んでもよい。また、本発明の樹脂組成物は、希釈剤として、例えばスチレン、(メタ)アクリル酸エステル等を含んでもよく、重合性の観点から(メタ)アクリル酸エステルを含む場合に本発明の効果がより顕著に奏されるため特に好ましい。
顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アニリンブラック、カーボンブラック、シアニンブルー、及びクロムエロー等が挙げられる。充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、及びクレー等が挙げられる。
【0058】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、樹脂と本発明の酸素吸収剤とを混合することにより得ることができる。具体的には、本発明の酸素吸収剤、樹脂、及び必要に応じて任意成分を撹拌等によって混合することにより得ることができる。
【0059】
<樹脂組成物の用途>
本発明の樹脂組成物は、例えば、塗料、接着剤、及びコーティング剤等の用途に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における物性値の測定は、以下の方法により行った。
【0061】
[酸素吸収量(20℃)の測定方法]
実施例又は比較例で得た酸素吸収剤から100mgを精秤し、内容量20mLのサンプル瓶に入れた。その後、サンプル瓶内の湿度を調整するために0.5mLのイオン交換水が入った小瓶を該サンプル瓶に入れ、該サンプル瓶の開口部をポリテトラフルオロエチレン樹脂でシールされたゴムキャップ及びアルミシールで塞いだ。
このサンプル瓶を20℃の恒温槽に静置し、1日、5日、及び15日間経過後、それぞれ該サンプル瓶内の残存酸素量を残存酸素計(飯島電子工業株式会社製;パックマスターRO-103)を使用して測定した。
対照用として、実施例及び比較例で得た酸素吸収剤を入れなかったこと以外は同様の条件で残存酸素量を測定し、実施例及び比較例で得た測定値と対照用に得た測定値との差(酸素吸収量)を求め、酸素吸収剤1gあたりの酸素吸収量を算出して酸素吸収剤の酸素吸収量(20℃)[mL/g]とした。なお、同じ試験を3度行い、その平均値を採用した。
【0062】
[酸素吸収量(60℃)の測定方法]
酸素吸収量(20℃)の測定において、恒温槽の温度を20℃から60℃に変更したこと以外は同様に酸素吸収剤の酸素吸収量(60℃)[mL/g](3度の試験の平均値)を測定した。
【0063】
〔実施例1〕
1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパンの合成
【化9】
【0064】
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応器に、窒素気流下、3-メチル-2-ブテン-1-オール61.8g(0.717mol)、水酸化カリウム36.84g(0.657mol)を仕込んだ。内温を10℃以下に保持し、撹拌しながらエピクロロヒドリン19.34g(0.209mol)を滴下し、滴下終了後50℃に昇温した。内温50℃で6時間撹拌し、その後25℃まで冷却した。反応液を4M塩酸水溶液で中和し、上層をイオン交換水310mLで洗浄した。得られた有機層を蒸留により精製し、前記一般式(A-1)で表される1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン28.77g(0.126mol;収率60.3%)を得た。その1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0065】
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS)δ:5.34(tsept,J=6.8,1.6Hz,2H),4.00(d,J=6.8Hz,4H),3.94(dhex,J=4.4,1.6Hz,1H),3.49(dd,J=9.6,6.4Hz,2H),3.43(dd,J=9.6,4.8Hz,2H),2.84(d,J=4.0Hz,1H),1.74(s,6H),1.67(s,6H)
【0066】
〔実施例2〕
1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパンの合成
【化10】
【0067】
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応器に、空気気流下、アセトニトリル16.1g、1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン11.43g(0.050mol)、トリエチルアミン8.41g(0.083mol)を仕込んだ。内温を15℃以下に保持し、撹拌しながらメタクリル酸クロリド6.30g(0.060mol,重合禁止剤としてp-メトキシフェノール2200ppmを含有)を滴下し、滴下終了後25℃に昇温した。内温25℃で1.5時間撹拌した。反応液にイオン交換水7.07g、p-ジメチルアミノピリジン61mgを加え、25℃で2時間撹拌し、副生物の無水メタクリル酸が分解したことを確認したのち、酢酸エチルで三回抽出した。有機層を2質量%塩酸水溶液、3質量%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。得られた有機層を蒸留により精製し、前記一般式(A-2)で表される1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパン7.70g(0.026mol;収率52%)を得た。その1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0068】
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS)δ:6.14(s,1H),5.56(quin,J=1.6Hz,1H),5.32(tquin,J=4.0,1.6Hz,2H),5.18(quin,J=5.2Hz,1H),3.99(dq,J=14.8,3.2Hz,4H),3.62(d,J=5.2Hz,4H),1.95(d,J=1.6Hz,3H),1.74(s,6H),1.66(s,6H)
【0069】
〔実施例3〕
ガラス製サンプル瓶中に、実施例1で製造した1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン5.00g(21.9mmol)とステアリン酸コバルト(II)(和光純薬工業社製;純度90質量%)34mg(0.048mmol;1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン中のビニル基に対して0.11mol%)を加えよく撹拌し、酸素吸収剤を得た。評価結果を表1に示す。
【0070】
〔実施例4〕
実施例3において、ステアリン酸コバルト(II)を加えなかったこと以外は同様にして酸素吸収剤を得た。評価結果を表1に示す。
【0071】
〔比較例1〕
実施例3において、実施例1で製造した1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパンを下記式で表される化合物(E-1)5.00g(東京化成工業社製;純度99%;29.0mmol)に変更し、ステアリン酸コバルト(II)の量を34mgから44mg(64mmol;化合物(E-1)中のビニル基に対して0.11mol%)に変更したこと以外は実施例3と同様の手法で酸素吸収剤を得た。評価結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
〔比較例2〕
実施例4において、1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパンを前記式で表される化合物(E-1)(東京化成工業社製;純度99%)に変更したこと以外は実施例4と同様の手法で酸素吸収剤を得た。評価結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
表1に示すように、本発明の不飽和二重結合含有化合物は、常温でも優れた酸素吸収能を有していることが分かる。また、驚くべきことに遷移金属塩を用いなくても酸素を吸収することができ、樹脂組成物の架橋反応や硬化反応を十分に発現させることができることが分かる。
【0076】
[UV硬化性樹脂の重合阻害防止効果]
UV硬化性樹脂の酸素による重合阻害防止効果を確認する試験は、以下の方法で行った。
直径3cmの穴をあけたPETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム;厚み125μm)を、穴のないPETフィルム上に貼り付けることによりセルを作製した。
次に、1,9-ジアクリロイルノナン(大阪有機化学工業社製)を100質量部、光重合開始剤としてIrgacure184(BASF社製)を3質量部混合し、更に実施例で製造した不飽和二重結合含有化合物を1質量部添加して混合することによりUV硬化組成物を得た。これを前記セルに入れ、照度150W/cm2、積算光量300mJ/cm2の照射条件でUV硬化を行った。その後、硬化物の表面をアセトン含浸したコットンでふき取り、その前後の重量変化を測定し、その測定値とUV硬化組成物の比重とから未硬化部分だった樹脂分の厚みを算出した。
【0077】
〔実施例5〕
前述のUV硬化性樹脂の重合阻害防止効果試験における実施例の不飽和二重結合含有化合物として、実施例1で製造した1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパンを使用した。結果を表2に示す。
【0078】
〔実施例6〕
実施例5における1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパンを実施例2で製造した1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパンに変更したこと以外は、実施例5と同様の方法で試験を行った。結果を表2に示す。
【0079】
〔比較例3〕
実施例5において、実施例1で製造した不飽和二重結合含有化合物を添加しなかったこと以外は同様の方法で試験を行った。結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
表2に示すように、本発明の不飽和二重結合含有化合物は活性エネルギー線硬化性樹脂の酸素による重合阻害防止効果が大きく、本発明の不飽和二重結合含有化合物を添加することで、UV塗料やUVインキ等に対し、空気存在下あるいは酸素が存在しうるような環境においても良好な硬化性を与えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の酸素吸収剤は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及びウレタン(メタ)アクリレート樹脂等のラジカル重合反応を伴う硬化過程を含む樹脂の架橋反応又は硬化反応における酸素による悪影響を抑制する酸素吸収剤として好適に用いることができる。また、樹脂中に混合したり表面に塗布したりすることで、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分又は完全鹸化物等の酸素バリア性が求められる樹脂において酸素バリア性能を向上させることができる。