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特許7200435耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた耐ボールベアリング摺動摩耗部材
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  • 特許-耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた耐ボールベアリング摺動摩耗部材 図1
  • 特許-耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた耐ボールベアリング摺動摩耗部材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた耐ボールベアリング摺動摩耗部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20221226BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221226BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221226BHJP
   C08L 77/12 20060101ALI20221226BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K3/013
C08K7/02
C08L77/12
F16C33/20 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022501375
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021023996
(87)【国際公開番号】W WO2022004553
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020112583
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中村 真奈
(72)【発明者】
【氏名】鄭 祐政
(72)【発明者】
【氏名】酒井 不二
(72)【発明者】
【氏名】長永 昭宏
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239754(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071495(WO,A1)
【文献】特開2015-108037(JP,A)
【文献】特開2015-108036(JP,A)
【文献】特開2020-007394(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016370(WO,A1)
【文献】特開平05-202225(JP,A)
【文献】特開2008-063498(JP,A)
【文献】特開2015-028181(JP,A)
【文献】特開2018-104527(JP,A)
【文献】特開2012-193343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08K 3/013
C08K 7/02
C08L 77/12
F16C 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液晶性樹脂、
(B)粒状充填剤、及び
(C)ウィスカー
を含有し、
前記(A)液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであり、
前記(B)粒状充填剤は、シリカ及び硫酸バリウムからなる群より選択される1種以上であり、
前記(B)粒状充填剤のメディアン径は、0.3~5.0μmであり、
前記(B)粒状充填剤の含有量は、7.5~22.5質量%であり、
前記(C)ウィスカーの含有量は、2.5~17.5質量%であり、
前記(B)粒状充填剤と前記(C)ウィスカーとの合計の含有量は、12.5~32.5質量%である耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
更に(D)エポキシ基含有共重合体を含有する請求項1に記載の組成物であって、
前記(D)エポキシ基含有共重合体の含有量は、1~5質量%である組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物からなる耐ボールベアリング摺動摩耗部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた耐ボールベアリング摺動摩耗部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有し、優れた寸法安定性も有するため高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。最近では、液晶性樹脂は、これらの特長を生かして、精密機器部品に使用されるようになっている。
【0003】
液晶性樹脂が使用される部品としては、例えば、FPCコネクター等のコネクター;メモリーカードソケット等のソケット;レンズホルダー等のカメラモジュール用部品;リレーが挙げられる。これらの部品は、表面白化抑制、機械的強度、寸法精度、及び低発塵性に優れることが求められ、また、2つ以上の部材が動的に接触するような形態で用いられる場合があるため、摺動摩耗性(即ち、2つ以上の部材が動的に接触したときの摩耗のしやすさ)が低減されていることも求められる。例えば、特許文献1には、表面外観に優れかつ摺動性に優れた液晶性樹脂組成物からなる成形品を提供することを課題として、液晶性樹脂と特定の体積平均粒子径を有するタルクとを特定の比で含有する液晶性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
上述した部品の中でも、液晶性樹脂組成物からなる成形体とボールベアリングとが動的に接するような形態で用いられる部品の場合には、特に、ボールベアリング摺動摩耗性(即ち、ボールベアリングと動的に接触したときの摩耗のしやすさ)が低減されていることが求められる。また、当該部品が衝撃を受けて、上記成形体に凹みが生じた際に、元に戻りにくいと、上記成形体とボールベアリングとの動的な接触に不具合が生じる恐れがある。よって、上記部品は、耐衝撃性、即ち、衝撃を受けて、凹みが生じても元に戻りやすい特性を有することも求められる。なお、特許文献2には、ボールベアリングと動的に接するような形態で用いられるカメラモジュール用部品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5087958号公報
【文献】欧州特許第2938063号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の液晶性樹脂組成物では、ボールベアリング摺動摩耗性は低減されているが、耐衝撃性はむしろ悪化している。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、表面白化抑制、機械的強度、寸法精度、及び低発塵性にバランスよく優れつつ、ボールベアリング摺動摩耗性が低減され、かつ、耐衝撃性が維持された耐ボールベアリング摺動摩耗部材を製造するために用いられる耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物並びにそれを用いた耐ボールベアリング摺動摩耗部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、液晶性樹脂と粒状充填剤とウィスカーとを含有し、粒状充填剤のメディアン径が所定の範囲であり、粒状充填剤、ウィスカー、及びこれらの合計の各々の含有量が所定の範囲である液晶性樹脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) (A)液晶性樹脂、(B)粒状充填剤、及び(C)ウィスカーを含有し、前記(B)粒状充填剤のメディアン径は、0.3~5.0μmであり、前記(B)粒状充填剤の含有量は、7.5~22.5質量%であり、前記(C)ウィスカーの含有量は、2.5~17.5質量%であり、前記(B)粒状充填剤と前記(C)ウィスカーとの合計の含有量は、12.5~32.5質量%である耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物。
【0009】
(2) 前記(B)粒状充填剤は、シリカ及び硫酸バリウムからなる群より選択される1種以上である(1)に記載の組成物。
【0010】
(3) 更に(D)エポキシ基含有共重合体を含有する(1)又は(2)に記載の組成物であって、前記(D)エポキシ基含有共重合体の含有量は、1~5質量%である組成物。
【0011】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の組成物からなる耐ボールベアリング摺動摩耗部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物を原料として、耐ボールベアリング摺動摩耗部材を製造すれば、表面白化抑制、機械的強度、寸法精度、及び低発塵性にバランスよく優れつつ、ボールベアリング摺動摩耗性が低減され、かつ、耐衝撃性が維持された耐ボールベアリング摺動摩耗部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(a)は、実施例で凹みの深さを計測するために成形した成形体を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のBB断面を示す部分縦断面図である。なお、特に記載がない限り図中の数値の単位はmmである。
図2図2(a)は、実施例で行った内倒れ変形評価に用いたコの字型液晶性樹脂成形体を示す斜視図であり、図2(b)は、上記コの字型液晶性樹脂成形体を示す側面図である。
図3図3は、摺動摩耗量評価の方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
<耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物>
本発明の耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂、(B)粒状充填剤、及び、(C)ウィスカーを含有する。
【0016】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0017】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0~10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0018】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0019】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0020】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;1,4-フェニレンジカルボン酸、1,3-フェニレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン、N-アセチル-p-アミノフェノール等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C~C)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:-(CH-(n=1~4)及び-O(CHO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0021】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒、N-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001~1質量%、特に約0.01~0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合法により分子量の増加を図ることができる。
【0022】
上記のような方法で得られた(A)液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec-1で3Pa・s以上500Pa・s以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記(A)液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0023】
本発明の液晶性樹脂組成物において、(A)液晶性樹脂の含有量は、好ましくは67.5~87.5質量%又は66.5~82.5質量%であり、より好ましくは69~84質量%又は67~80質量%である。(A)成分の含有量が上記範囲内であると、流動性、耐熱性等の点で好ましい。
【0024】
[(B)粒状充填剤]
(B)成分は粒状充填剤であり、(B)成分のメディアン径は0.3~5.0μmである。上記メディアン径が0.3μm以上であると、成形体の耐衝撃性が維持されやすい。上記メディアン径が5.0μm以下であると、成形体の表面白化抑制効果が高くなりやすい。上記メディアン径は、好ましくは0.5~5.0μmであり、より好ましくは0.5~4.0μmである。なお、本明細書において、(B)成分のメディアン径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値をいう。液晶性樹脂組成物中の(B)成分のメディアン径は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存した(B)成分について、上記方法を適用することで測定される。(B)成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(B)成分の粒状充填剤としては、例えば、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カリウムアルミニウム、珪藻土、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;ピロリン酸カルシウム、無水リン酸二カルシウム等のリン酸塩;炭化硅素;窒化硅素;窒化硼素等が挙げられる。本発明においては、成形体の表面白化抑制及び成形体の低発塵性の観点から、(B)成分として、シリカ及び硫酸バリウムからなる群より選択される1種以上を使用することが好ましく、シリカを使用することがより好ましい。
【0026】
(B)成分の含有量は、本発明の液晶性組成物において、7.5~22.5質量%である。(B)成分の含有量が7.5質量%以上であると、成形体の寸法精度が高くなりやすいとともに、ボールベアリング摺動摩耗性が低減された成形体を得やすい。(B)成分の含有量が22.5質量%以下であると、成形体の表面白化抑制効果が高くなりやすく、成形体の耐衝撃性が維持されやすい。(B)成分の好ましい含有量は、8.5~21質量%である。
【0027】
[(C)ウィスカー]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、ウィスカーが含まれる。本発明に係る液晶性樹脂組成物にウィスカーが含まれることにより、成形体の機械的強度が向上しやすいとともに、ボールベアリング摺動摩耗性が低減された成形体を得やすい。本明細書において、ウィスカーとは、鉱物繊維を指し、より具体的には、針状単結晶を指す。ウィスカーは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
(C)ウィスカーの平均繊維長は、好ましくは5~200μmであり、より好ましくは7~170μmであり、更により好ましくは9~150μmである。上記平均繊維長が上記範囲内であると、成形体の機械的強度がより向上しやすい。なお、本明細書において、(C)ウィスカーの平均繊維長としては、ウィスカーの実体顕微鏡画像10枚をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により、実体顕微鏡画像1枚ごとに100本のウィスカー、即ち、合計1000本のウィスカーについて繊維長を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の(C)ウィスカーの平均繊維長は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存したウィスカーについて、上記方法を適用することで測定される。
【0029】
(C)ウィスカーの平均繊維径は、好ましくは0.2~15μm以下であり、より好ましくは0.25~10μmである。上記平均繊維径が上記範囲内であると、成形体の機械的強度がより向上しやすい。なお、本明細書において、(C)ウィスカーの平均繊維径としては、ウィスカーを走査型電子顕微鏡で観察し、30本のウィスカーについて繊維径を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の(C)ウィスカーの平均繊維径は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存したウィスカーについて、上記方法を適用することで測定される。
【0030】
(C)ウィスカーのアスペクト比、即ち、平均繊維長/平均繊維径の値は、本発明に係る液晶性樹脂組成物からなる耐ボールベアリング摺動摩耗部材等の成形体の機械的強度等の観点から、好ましくは8以上であり、より好ましくは10~100であり、更により好ましくは15~75である。
【0031】
(C)ウィスカーとしては、特に限定されず、例えば、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)、炭酸カルシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化珪素ウィスカー、三窒化珪素ウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、炭化珪素ウィスカー、ボロンウィスカーが挙げられ、入手性等の点で、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)、炭酸カルシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)等がより好ましい。
【0032】
(C)成分の含有量は、本発明の液晶性樹脂組成物において、2.5~17.5質量%である。(C)成分の含有量が2.5質量%以上であると、機械的強度が向上しやすいとともに、ボールベアリング摺動摩耗性が低減された成形体を得やすい。(C)成分の含有量が17.5質量%以下であると、成形体の耐衝撃性が維持されやすい。(C)成分の含有量は、好ましくは4.5~14質量%である。
【0033】
更に、(B)成分と(C)成分との合計の含有量は、本発明の液晶性樹脂組成物において、12.5~32.5質量%であり、好ましくは16~31質量%である。上記合計の含有量が12.5質量%以上であると、成形体の寸法精度が高くなりやすいとともに、ボールベアリング摺動摩耗性が低減された成形体を得やすい。上記合計の含有量が32.5質量%以下であると、成形体の表面白化抑制効果及び成形体の低発塵性が高くなりやすく、成形体の耐衝撃性が維持されやすい。
【0034】
[(D)エポキシ基含有共重合体]
本発明の液晶性組成物は、(D)エポキシ基含有共重合体を含有してもよい。(D)エポキシ基含有共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。(D)エポキシ基含有共重合体としては、特に限定されず、例えば、(D1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体及び(D2)エポキシ基含有スチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。(D)エポキシ基含有共重合体は、本発明の液晶性樹脂組成物から得られる成形体のボールベアリング摺動摩耗性を低減させることに
寄与する。
【0035】
(D1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、α-オレフィンに由来する繰り返し単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位とから構成される共重合体が挙げられる。
【0036】
α-オレフィンは特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられ、中でもエチレンが好ましく用いられる。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは下記一般式(IV)で示されるものである。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル、イタコン酸グリシジルエステル等であり、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
【化4】
【0037】
(D1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体において、α-オレフィンに由来する繰り返し単位の含有量は87~98質量%であり、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位の含有量は13~2質量%であることが好ましい。
【0038】
本発明で用いる(D1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、本発明を損なわない範囲で上記2成分以外に第3成分としてアクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α-メチルスチレン、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上に由来する繰り返し単位を、上記2成分100質量部に対し0~48質量部含有してもよい。
【0039】
本発明の(D1)成分であるエポキシ基含有オレフィン系共重合体は、各成分に対応するモノマー及びラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により容易に調製することができる。より具体的には、通常、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとをラジカル発生剤の存在下、500~4000気圧、100~300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤とを混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0040】
(D2)のエポキシ基含有スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン類に由来する繰り返し単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位とから構成される共重合体が挙げられる。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルについては、(D1)成分で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0041】
スチレン類としては、スチレン、α-メチルスチレン、ブロム化スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、スチレンが好ましく用いられる。
【0042】
本発明で用いる(D2)エポキシ基含有スチレン系共重合体は、上記2成分以外に第3成分として他のビニルモノマーの1種又は2種以上に由来する繰り返し単位を含有する多元共重合体であってもよい。第3成分として好適なものは、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上に由来する繰り返し単位である。これらの繰り返し単位を共重合体中に40質量%以下含有するエポキシ基含有スチレン系共重合体が(D2)成分として好ましい。
【0043】
(D2)エポキシ基含有スチレン系共重合体において、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位の含有量は2~20質量%であり、スチレン類に由来する繰り返し単位の含有量は80~98質量%であることが好ましい。
【0044】
(D2)エポキシ基含有スチレン系共重合体は、各成分に対応するモノマー及びラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により調製することができる。より具体的には、通常、スチレン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとをラジカル発生剤の存在下、500~4000気圧、100~300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、スチレン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤とを混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0045】
なお、(D)エポキシ基含有共重合体としては、(D1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が耐熱性の点で好ましい。(D1)成分と(D2)成分とを併用する場合、これら成分同士の割合は、適宜、要求される特性に沿って選択することができる。
【0046】
(D)エポキシ基含有共重合体の含有量は、本発明の液晶性樹脂組成物において、例えば、0~5質量%でよく、好ましくは1~5質量%である。(D)成分の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性を損なわず、ボールベアリング摺動摩耗性が低減された成形体を得やすい。より好ましい上記含有量は2~4質量%である。
【0047】
[(E)カーボンブラック]
本発明に任意成分として用いる(E)カーボンブラックは、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なものであれば、特に限定されるものではない。通常、(E)カーボンブラックには一次粒子が凝集して出来上がる塊状物が含まれているが、50μm以上の大きさの塊状物が著しく多く含まれていない限り、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体の表面に多くのブツ(カーボンブラックが凝集した細かいブツブツ状突起物(細かい凹凸))は発生しにくい。上記塊状物粒子径が50μm以上の粒子の含有率が20ppm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。好ましい含有率は5ppm以下である。(E)成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(E)カーボンブラックの配合量としては、液晶性樹脂組成物において、例えば、0~5質量%でよく、0.5~5質量%の範囲が好ましい。カーボンブラックの配合量が0.5質量%以上であると、得られる樹脂組成物の漆黒性が低下しにくく、遮光性に不安が出にくい。カーボンブラックの配合量が5質量%以下であると不経済となりにくく、またブツが発生しにくい。
【0049】
[(F)離型剤]
本発明に任意成分として用いる(F)離型剤としては、一般的に入手可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、脂肪酸エステル類、脂肪酸金属塩類、脂肪酸アミド類、低分子量ポリオレフィン等が挙げられ、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル(例えば、ペンタエリスリトールテトラステアレート)が好ましい。(F)成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(F)離型剤の配合量としては、液晶性樹脂組成物において、例えば、0~3質量%でよく、0.1~3質量%の範囲が好ましい。離型剤の配合量が0.1質量%以上であると、成形時の離型性が向上するとともに、ボールベアリング摺動摩耗性が低減された成形体を得やすい。離型剤の配合量が3質量%以下であるとモールドデポジット(即ち、成形における金型への付着物をいう。以下、「MD」ともいう。)が低減しやすい。
【0051】
[その他の成分]
本発明の液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤等のその他の成分も要求性能に応じ適宜添加することができる。その他の成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
その他の充填剤とは、(B)粒状充填剤、(C)ウィスカー、及び(E)カーボンブラック以外の充填剤をいい、例えば、(B)成分以外の粒状充填剤;板状充填剤;(C)成分以外の繊維状充填剤が挙げられる。その他の充填剤は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。(B)成分以外の粒状充填剤としては、例えば、メディアン径が0.3μm未満又は5.0μm超である粒状充填剤が挙げられる。板状充填剤としては、例えば、マイカ、タルクが挙げられる。(C)成分以外の繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維が挙げられる。但し、成形体の耐衝撃性等の観点から、本発明の液晶性樹脂組成物は、板状充填剤を含有しないことが好ましい。また、成形体の耐衝撃性、成形体の低発塵性等の観点から、本発明の液晶性樹脂組成物は、(C)成分以外の繊維状充填剤を含有しないことが好ましい。
【0053】
[耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の調製方法]
本発明の耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、上記(A)~(C)成分、並びに、任意に、上記(D)~(F)成分及びその他の成分の少なくとも1種を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の調製が行われる。
【0054】
[耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物]
上記のようにして得られた本発明の液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性の観点、成形性の観点から、溶融粘度が90Pa・sec以下であることが好ましく、80Pa・sec以下であることがより好ましい。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10~20℃高いシリンダー温度、剪断速度1000sec-1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0055】
<耐ボールベアリング摺動摩耗部材>
本発明の液晶性樹脂組成物を用いて、耐ボールベアリング摺動摩耗部材を製造する。本発明の耐ボールベアリング摺動摩耗部材は、表面白化抑制、機械的強度、寸法精度、及び低発塵性にバランスよく優れつつ、ボールベアリング摺動摩耗性が低減され、かつ、耐衝撃性が維持されている。本発明の耐ボールベアリング摺動摩耗部材は、使用時にボールベアリングと動的に接触するような部品に用いることができ、具体的には、例えば、ボールベアリングと動的に接するような形態で用いられる、レンズホルダー等のカメラモジュール用部品等に用いることができる。
【実施例
【0056】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
<液晶性樹脂>
・液晶性ポリエステルアミド樹脂
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は336℃、350℃における溶融粘度は19.0Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
(I)4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1380g(60モル%)
(II)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);157g(5モル%)
(III)1,4-フェニレンジカルボン酸(TA);484g(17.5モル%)
(IV)4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);388g(12.5モル%)
(V)N-アセチル-p-アミノフェノール(APAP);126g(5モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);110mg
アシル化剤(無水酢酸);1659g
【0058】
<液晶性樹脂以外の材料>
・シリカ1:アドマファインSO-C2((株)アドマテックス製、シリカ、メディアン径0.5μm)
・シリカ2:アドマファインSO-C6((株)アドマテックス製、シリカ、メディアン径2.0μm)
・シリカ3:デンカ溶融シリカFB-5SDC(デンカ(株)製、シリカ、メディアン径4.0μm)
・マイカ:AB-25S((株)ヤマグチマイカ製、マイカ、メディアン径25.0μm)
・タルク:クラウンタルクPP(松村産業(株)製、タルク、メディアン径14.6μm)
・チタン酸カリウム:ティスモN-102(大塚化学(株)製、チタン酸カリウムウィスカー(チタン酸カリウム繊維)、平均繊維径0.3~0.6μm、平均繊維長10~20μm)
・ウォラストナイト:NYGLOS 8(NYCO Materials社製、ケイ酸カルシウムウィスカー(ウォラストナイト)、平均繊維長136μm、平均繊維径8μm)
・ガラス繊維:ECS03T-786H(日本電気硝子(株)製、チョプドストランド、繊維径10μm、長さ3mm)
・エポキシ基含有オレフィン系共重合体:ボンドファースト2C(住友化学(株)製、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、グリシジルメタクリレートの含有量6質量%)
・カーボンブラック:VULCAN XC305(キャボットジャパン(株)製、平均粒子径20nm、粒子径50μm以上の粒子の割合が20ppm以下)
・離型剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート(エメリーオレオケミカルズジャパン(株)製)
【0059】
<耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1、表2、又は表3に示す割合(単位:質量%)で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、シリンダー温度350℃にて溶融混練し、耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
【0060】
<表面白化>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE30DUZ」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用試験片(12.5mm×120mm×0.8mm)を得た。測定用試験片を3分間、室温の水中(80ml)で超音波洗浄機(出力300W、周波数45kHz)にかけた。その後、測定用試験片の表面を目視で観察した。測定用試験片の表面白化を下記の基準で評価した。結果を表1~3に示す。
○(良好):試験片の全面で白化が認められない。
×(不良):試験片の平滑部に明らかな白化が認められる。
〔成形条件〕
シリンダー温度:350℃
金型温度:80℃
射出速度:100mm/sec
【0061】
<曲げ試験>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、ISO試験片A形を得た。この試験片を切り出し、測定用試験片(80mm×10mm×4mm)を得た。この測定用試験片を用いて、ISO 178に準拠し、曲げ強度、曲げ歪、及び曲げ弾性率を測定した。このうち、曲げ強度の測定結果を下記の基準で評価した。結果を表1~3に示す。
○(良好):曲げ強度が150MPa以上であった。
×(不良):曲げ強度が150MPa未満であった。
〔成形条件〕
シリンダー温度:350℃
金型温度:90℃
射出速度:33mm/sec
【0062】
<ボールベアリング摺動摩耗性>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用試験片(80mm×80mm×1mm)を得た。軽荷重往復動試験機を用いて、図3に示す通り、測定用試験片1上で、グリース2を介して、アーム3先端のボール4(直径5mm、SUS製)に荷重をかけ、下記の往復摺動条件で往復摺動試験を行った後、測定用試験片1に残ったボールベアリング摺動痕の幅を、実体顕微鏡を用いて計測し、ボールベアリング摺動摩耗性を下記の基準で評価した。結果を表1~3に示す。
○(良好):ボールベアリング摺動痕の幅が540μm以下であった。
×(不良):ボールベアリング摺動痕の幅が540μm超であった。
〔成形条件〕
シリンダー温度:350℃
金型温度:80℃
射出速度:33mm/sec
〔往復摺動条件〕
すべり速度:5cm/sec
ストローク:20mm
荷重:29.6N(3kg重)
往復回数:1000回
グリース:東レ・ダウコーニング(株)製、モリコートEM-30L
【0063】
<凹みの深さ>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形し(ゲート:ピンゲート、ゲートサイズ:φ0.3mm)、図1(a)及び図1(b)に示すような成形体を得た。
〔成形条件〕
成形機:住友重機械工業(株)、SE30DUZ
シリンダー温度:350℃
金型温度:90℃
射出速度:200mm/sec
【0064】
デュポン式落下衝撃試験機((株)安田精機製作所)を用いて、下記の条件で上記成形体の天面におもりを落下させた後、当該成形体に残った凹みの深さを、レーザー顕微鏡を用いて計測した。凹みの深さを成形体の耐衝撃性を表す指標として用いた。結果を表1~3に示す。
〔試験条件〕
落下高さ:15mm
落下おもり:75g
撃ち型:直径0.75mm
【0065】
<内倒れ変形評価>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形して、図2(a)及び図2(b)に示すコの字型液晶性樹脂成形体(厚み:0.5mm)を得、(株)キーエンス製画像寸法測定器IM-6020を使用し、図2(b)に示す角A(ゲート側)及び角B(反ゲート側)を測定した。角Aと角Bとの平均を計算し、成形体の寸法精度を表す指標として用いた。結果を表1~3に示す。
[成形条件]
成形機:住友重機械工業、SE30DUZ
シリンダー温度:350℃
金型温度:90℃
射出速度:100mm/sec
【0066】
<ダスト発生数>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE30DUZ」)を用いて、以下の成形条件で成形し、12.5mm×120mm×0.8mmの成形体を得た。この成形体を試験片として使用した。
〔成形条件〕
シリンダー温度:350℃
金型温度:80℃
射出速度:100mm/sec
〔評価〕
上記試験片を3分間、室温の水中(80ml)で超音波洗浄機(出力300W、周波数45kHz)にかけた。その後、パーティクルカウンター(RION(株)製 液中微粒子計数器KL-11A(PARTICLECOUNTER))にて、上記水中に存在する2μm以上の粒子数を測定し、ダスト発生数として下記の基準で評価した。結果を表1~3に示す。
○(良好):ダスト発生数が60000個/80ml以下であった。
×(不良):ダスト発生数が60000個/80ml超であった。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表1~3に記載の結果から明らかなように、実施例の成形体は、表面白化抑制、機械的強度、寸法精度、及び低発塵性にバランスよく優れつつ、ボールベアリング摺動摩耗性が低減され、かつ、衝撃性が維持されていることが確認された。
図1
図2
図3