(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】分離膜のファウリング防止剤及びファウリング防止方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/08 20060101AFI20221227BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20221227BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20221227BHJP
【FI】
B01D65/08
B01D61/14 500
C02F1/44 F
C02F1/44 C
(21)【出願番号】P 2018163323
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】石井 一輝
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-209842(JP,A)
【文献】特開2015-142903(JP,A)
【文献】特開2008-229418(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141567(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111246739(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
限外濾過膜又は精密濾過膜である分離膜のファウリングを防止する薬剤であって、ホスホン酸系化合物を含有する分離膜のファウリング防止剤であり、
前記ホスホン酸系化合物がアミノホスホン酸及び/又はその塩であり、
前記分離膜が、多価金属イオン10~200mg/Lと、腐植物質とを含有し、かつ下記方法で測定されるUV260と不揮発性有機炭素(NPOC、単位:mg/L)との比が下記式(2)を満たす被処理水の処理に使用される限外濾過膜又は精密濾過膜であることを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
UV260測定方法:該被処理水を孔径0.45μmのフィルターで濾過して得られた濾過水について、紫外可視分光光度計を用いて50mmセルで波長260nmの吸光度(abs(50mmセル))を測定する。
UV260/NPOC>0.025 …(2)
【請求項2】
請求項
1において、前記アミノホスホン酸が下記式(1)で表されることを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
【化1】
(式中、Rはリン酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【請求項3】
請求項1
又は2において、前記ホスホン酸系化合物の分子量が100~1000であることを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
【請求項4】
限外濾過膜又は精密濾過膜である分離膜による水処理時に該分離膜のファウリングを防止する方法であって、該分離膜の被処理水にホスホン酸系化合物を添加する分離膜のファウリング防止方法であり、
前記ホスホン酸系化合物がアミノホスホン酸及び/又はその塩であり、
前記被処理水が、多価金属イオン10~200mg/Lと、腐植物質とを含有し、かつ下記方法で測定されるUV260と不揮発性有機炭素(NPOC、単位:mg/L)との比が下記式(2)を満たす被処理水であることを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
UV260測定方法:該被処理水を孔径0.45μmのフィルターで濾過して得られた濾過水について、紫外可視分光光度計を用いて50mmセルで波長260nmの吸光度(abs(50mmセル))を測定する。
UV260/NPOC>0.025 …(2)
【請求項5】
請求項
4において、前記アミノホスホン酸が下記式(1)で表されることを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【化2】
(式中、Rはリン酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【請求項6】
請求項
4又は5において、前記ホスホン酸系化合物の分子量が100~1000であることを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【請求項7】
請求項
4ないし
6のいずれか1項において、前記被処理水に前記ホスホン酸系化合物を0.01~20mg/Lの濃度で添加することを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限外濾過(UF)膜又は精密濾過(MF)膜である分離膜のファウリング防止剤及びファウリング防止方法に係り、特に多価金属イオンと、腐植物質とを含む被処理水をUF膜又はMF膜で膜分離処理する際に、被処理水中の腐植物質による膜汚染ないし膜閉塞を防止するファウリング防止剤とファウリング防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理システムや造水システムにおいて、原水中のSSやコロイド物質等を除去する濾過膜としてUF膜又はMF膜が広く用いられている。しかし、UF膜又はMF膜による水処理では、原水に含まれる汚染物質による膜汚染(ファウリング)の問題がある。
ファウリングは、膜給水中に存在する分離対象物質などが膜表面や細孔内に付着、堆積する現象である。ファウリングには、懸濁粒子の膜面への堆積、膜への吸着による層形成、溶解性高分子物質の膜面でのゲル化、膜細孔内部での吸着、析出、閉塞及び気泡による細孔のブロッキング(目詰まり)、並びにモジュール内での流路閉塞などが含まれる。
【0003】
特に、表層水や地下水を処理するUF膜又はMF膜では、以下の理由によりファウリングを引き起こし易い。
即ち、土壌中には、フミン酸やフルボ酸などの腐植物質が含まれているため、造水システムの原水となる表層水や地下水等には、これらの腐植物質が含まれるものとなる。フミン酸やフルボ酸のように、カルボキシル基やフェノール性ヒドロキシ基を有する有機化合物は、膜汚染性が非常に高いため、これらの腐植物質を含む水の処理に用いた分離膜はファウリング、更には膜閉塞を引き起こし易い。
【0004】
膜分離処理の前段階で凝集・吸着処理を行って腐植物質を除去することも考えられるが、凝集処理では、フルボ酸等の比較的低分子量の有機化合物の除去効果が低く、吸着処理では吸着剤の交換が定期的に必要となる。
【0005】
このため、このような前処理ではなく、膜給水に添加して、フルボ酸等の腐植物質による膜のファウリングを防止する水処理薬品が望まれる。
【0006】
従来、膜用水処理薬品としては、被処理水中の炭酸カルシウムや硫酸カルシウム等のスケール成分によるスケール障害に対応するものは多く提案されているが、腐植物質による膜汚染に対する水処理薬品の提案は殆どなされていない。
【0007】
特許文献1には、ポリビニルピロリドンやポリアクリルアミドといった、カルボニル基を有し、カルボニル炭素と窒素原子とが結合した構造を有する高分子化合物を有効成分とする、フェノール性ヒドロキシ基を有する有機化合物用分散剤が提案されているが、薬品選択の自由度や、実用化に向けた多様性の拡大のために、更なる新規薬品の開発が望まれる。
【0008】
なお、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸やホスホノブタントリカルボン酸などのホスホン酸類が逆浸透(RO)膜のカルシウム系スケールの防止に有効であることは知られているが(例えば、特許文献2の背景技術)、ホスホン酸類が、有機化合物、中でも腐植物質のUF膜又はMF膜に対するファウリングの防止効果に有効であることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-174082号公報
【文献】国際公開第2012/114953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、UF膜又はMF膜、特に多価金属イオンと、腐植物質とを含む被処理水の膜分離処理に使用されるUF膜又はMF膜のファウリングを効果的に防止することができる分離膜のファウリング防止剤及びファウリング防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ホスホン酸系化合物が、多価金属イオンが共存する被処理水中の腐植物質の分散効果に優れ、分離膜表面への腐植物質の付着を効果的に抑制することができ、膜のファウリング防止効果に優れることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 限外濾過膜又は精密濾過膜である分離膜のファウリングを防止する薬剤であって、ホスホン酸系化合物を含有することを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
【0013】
[2] [1]において、前記ホスホン酸系化合物がアミノホスホン酸及び/又はその塩であることを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
【0014】
[3] [2]において、前記アミノホスホン酸が下記式(1)で表されることを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
【0015】
【0016】
(式中、Rはリン酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【0017】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記ホスホン酸系化合物の分子量が100~1000であることを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
【0018】
[1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記分離膜が、多価金属イオン0.1mg/L以上と、腐植物質とを含有し、かつ下記方法で測定されるUV260と不揮発性有機炭素(NPOC、単位:mg/L)との比が下記式(2)を満たす被処理水の処理に使用される限外濾過膜又は精密濾過膜であることを特徴とする分離膜のファウリング防止剤。
UV260測定方法:該被処理水を孔径0.45μmのフィルターで濾過して得られた濾過水について、紫外可視分光光度計を用いて50mmセルで波長260nmの吸光度(abs(50mmセル))を測定する。
UV260/NPOC>0.025 …(2)
【0019】
[6] 限外濾過膜又は精密濾過膜である分離膜による水処理時に該分離膜のファウリングを防止する方法であって、該分離膜の被処理水にホスホン酸系化合物を添加することを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【0020】
[7] [6]において、前記ホスホン酸系化合物がアミノホスホン酸及び/又はその塩であることを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【0021】
[8] [7]において、前記アミノホスホン酸が下記式(1)で表されることを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【0022】
【0023】
(式中、Rはリン酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【0024】
[9] [6]ないし[8]のいずれかにおいて、前記ホスホン酸系化合物の分子量が100~1000であることを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【0025】
[10] [6]ないし[9]のいずれかにおいて、前記被処理水が、多価金属イオン0.1mg/L以上と、腐植物質とを含有し、かつ下記方法で測定されるUV260と不揮発性有機炭素(NPOC、単位:mg/L)との比が下記式(2)を満たす被処理水であることを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
UV260測定方法:該被処理水を孔径0.45μmのフィルターで濾過して得られた濾過水について、紫外可視分光光度計を用いて50mmセルで波長260nmの吸光度(abs(50mmセル))を測定する。
UV260/NPOC>0.025 …(2)
【0026】
[11] [6]ないし[10]のいずれかにおいて、前記被処理水に前記ホスホン酸系化合物を0.01~20mg/Lの濃度で添加することを特徴とする分離膜のファウリング防止方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、UF膜又はMF膜、特に多価金属イオンと、腐植物質とを含む被処理水の膜分離処理に使用されるUF膜又はMF膜のファウリング、更には膜閉塞を効果的に防止して、長期に亘り、安定かつ効率的な膜分離処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例で用いた外圧式ミニモジュール試験装置を示す構成図である。
【
図2】実施例1,2、参考例1,2及び比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
本発明の分離膜のファウリング防止剤は、UF膜又はMF膜である分離膜のファウリングを防止する薬剤であって、ホスホン酸系化合物を含有することを特徴とする。
また、本発明の分離膜のファウリング防止方法は、UF膜又はMF膜である分離膜による水処理時に該分離膜のファウリングを防止する方法であって、該分離膜の被処理水にホスホン酸系化合物を添加することを特徴とする。
【0031】
本発明者は、UF膜又はMF膜を用いた膜分離システムにおいて、腐植物質等の有機化合物が存在する排水を処理した場合の膜閉塞のメカニズムについて検討した結果、腐植物質単独では閉塞せず、Ca、Mg、Sr、Ba、Al、Fe等の多価金属イオンが共存することで膜閉塞が発生することが明らかとなった。そこで、多価金属イオンを含有し、かつ腐植物質等の有機化合物を含むUF膜又はMF膜給水について、ホスホン酸系化合物を膜の手前から添加した結果、膜間差圧の上昇を抑制できることを見出した。さらに、ホスホン酸系化合物の中でファウリング防止効果に優れるものについて検討した結果、後述の式(1)で表されるアミノホスホン酸を用いることで膜間差圧の上昇をより一層効果的に抑制できることを見出した。
【0032】
式(1)で表されるアミノホスホン酸による優れたファウリング防止効果のメカニズムの詳細は明らかではないが、次のように推定される。
多価金属イオン共存下での腐植物質等の有機化合物によるUF膜又はMF膜のファウリングでは、カルシウムやマグネシウム等の多価金属イオンと、腐植物質のカルボキシル基等が架橋することによって、該有機化合物が多価金属イオンの硬度成分を巻き込んで高分子化し、これが膜に付着することで膜のファウリング、更には膜閉塞に到る。ホスホン酸系化合物の中でも式(1)で表されるアミノホスホン酸は、4個のリン酸基と2個のアミノ基を有することで、腐植物質のカルボキシル基と多価金属イオンとの静電引力を低減し、これらが架橋して高分子化を抑制する効果に優れる。このため、有機化合物の高分子化、高分子化した有機化合物の付着による膜のファウリングが防止される。
【0033】
本発明において、UF膜又はMF膜のファウリング防止の有効成分として用いるホスホン酸系化合物としては、ヘキサメタリン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ヒドロキシエタンホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、2-アミノエチルホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、フィチン酸等が挙げられ、好ましくはアミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等のアミノホスホン酸であり、特に下記式(1)で表されるリン酸基(-P(O)(OH)2)を4個含有するアミノホスホン酸、具体的には、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等が好ましい。
【0034】
【0035】
(式中、Rはリン酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【0036】
本発明で用いるホスホン酸系化合物の分子量は、100~1000、特に100~800であることが好ましい。本発明において、ホスホン酸系化合物の分子量は、その分子式における原子量の合計である。
【0037】
また、上記式(1)におけるメチレン基の繰り返し数nは好ましくは1~6の整数であり、より好ましくは1~3である。
【0038】
ホスホン酸系化合物の分子量や式(1)におけるnが上記範囲内であると、腐植物質の分散効果に優れたものとなる。
【0039】
本発明において、ホスホン酸系化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、ナトリウム等の塩形として用いてもよい。
【0040】
本発明の分離膜のファウリング防止剤は、上記のホスホン酸系化合物を含むものであればよく、ホスホン酸系化合物以外の他のスケール防止剤やスライムコントロール剤を含むものであってもよい。
【0041】
本発明の分離膜のファウリング防止剤は、特に多価金属イオンと、腐植物質とを含む被処理水(以下、「本発明の膜給水」と称す場合がある。)を処理するUF膜又はMF膜に有効に適用される。ここで、多価金属イオンとしては、Ca、Mg、Sr、Ba、Al、Fe等の1種又は2種以上の金属カチオンが挙げられる。
また、腐植物質としてはフミン酸、フルボ酸などが挙げられる。腐植物質のカルボキシル基は、ナトリウム等の塩の形をとってもよい。
【0042】
腐植物質の分子量(低分子の場合)又は重量平均分子量(高分子の場合)は、通常200~1000000であり、1000~500000であることが好ましく、1000~100000であることがより好ましい。腐植物質の分子量又は重量平均分子量が200~1000000、好ましくは1000~100000程度であれば、本発明の分離膜のファウリング防止剤により効率的に分散させることが可能となる。ここで、腐植物質が高分子の場合の重量平均分子量は、GPC法で測定し、標準プルランによる検量線を用いて算出した、プルラン換算の値である。
【0043】
本発明の膜給水は、多価金属イオンを0.1mg/L以上、好ましくは10~200mg/L含有し、かつ、腐植物質を含有することで、下記方法で測定されるUV260と不揮発性有機炭素(NPOC、単位:mg/L)との比が下記式(2)を満たす水であることが、本発明の効果をより一層有効に発揮させることができ、好ましい。
UV260測定方法:該被処理水を孔径0.45μmのフィルターで濾過して得られた濾過水について、紫外可視分光光度計を用いて50mmセルで波長260nmの吸光度(abs(50mmセル))を測定する。
UV260/NPOC>0.025 …(2)
【0044】
ここで、UV260は、本発明の膜給水中の腐植物質の濃度の指標となる値である。また、NPOCは燃焼式酸化法等によって測定することができる。本発明の膜給水は、特にUV260/NPOCが0.05~1.0の水であることが好ましい。
【0045】
このような水質の本発明の膜給水としては、腐植物質を含む表層水及び地下水が挙げられる。
【0046】
本発明の分離膜のファウリング防止剤を、UF膜又はMF膜の被処理水に添加する場合、その添加量は、被処理水の水質によっても異なるが、ホスホン酸系化合物の濃度として、0.01~20mg/L、特に0.01~10mg/Lとなるような量とすることが好ましい。ホスホン酸系化合物の添加量が少な過ぎるとホスホン酸系化合物によるファウリング防止効果を十分に得ることができず、多過ぎるとホスホン酸系化合物自体が膜汚染を引き起こす可能性がある。
【0047】
なお、本発明において、MF膜の材質や孔径等には特に制限はなく、通常の排水処理や造水処理に用いられるものであればよい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0049】
[試験装置]
試験装置としては、
図1(a),(b)に示す外圧式ミニモジュール試験装置(外圧式中空糸UF膜、孔径:0.02μm、膜長さ:7.5cm、膜面積:10.6cm2、膜素材ポリフッ化ビニリデン)を用いた。
図1(a)中、1は中空糸膜、2はポッティング剤、3は原水導入口、4は排水口、5はモジュールハウジングであり、内部に中空糸膜1が装填されている。原水は導入口3からハウジング5内に導入され、中空糸膜1を透過した透過水が中空糸膜1の膜内からハウジング5外へ取り出される。
【0050】
この外圧式中空糸ミニモジュール10に
図1(b)の通り配管を接続して外圧式ミニモジュール試験装置とした。この試験装置では、原水の処理時は、バルブV1,V2,V3を閉として、ポンプPを作動させて、給水タンク6から配管11を経て原水を外圧式ミニモジュール10に導入し、透過水を配管13を経て処理水タンク7に送給するデッドエンド通水方式で膜濾過を行う。膜の逆洗浄を行う際は、ポンプPを停止し、バルブV1を閉、V2,V3を開として、配管13Aより空気を配管13に送気し、配管13内の水を中空糸膜1の内側(2次側)から外側(1次側)へ透過させる。排水時は、ポンプPを停止した状態で、バルブV1,V2を開、バルブV3を閉として、配管11Aから空気を配管11に送気し、配管12よりモジュール10内の水を排出させる。配管11A,13Aからの空気は0.15MPaで送気した。水張り時は、バルブV2を開、バルブV1,V3を閉として、ポンプPを作動させて給水タンク6内の水をモジュール10内に導入する。PIは圧力計である。
【0051】
通水試験では、後述の通水試験条件で通水し、配管11に設けた圧力計Plで膜間差圧を測定した。
【0052】
[模擬原水]
腐植物質としてフミン酸ナトリウム(シグマアルドリッチ社製 以下「フミン酸Na」と記す)を用い、以下の模擬原水A~Cを調製して試験に供した。なお、いずれの模擬原水も塩化ナトリウムで電気伝導率を50mS/mに調整すると共に、少量の水酸化ナトリウム水溶液又は硫酸水溶液でpHを6.0~6.5に調整した。
模擬原水A:純水にフミン酸NaをUV260が0.6になるように添加すると共に、塩化カルシウムを30mg-Ca/L濃度となるように添加した水
模擬原水B:純水にフミン酸NaをUV260が0.6になるように添加した水
模擬原水C:純水に塩化カルシウムを30mg-Ca/L濃度となるように添加した水
模擬原水A~Cの水質は表1に示す通りである。
【0053】
【0054】
[供試UF膜]
供試UF膜としては、クラレ社製ポリフッ化ビニリデン製UF膜「PBUF-TD」を用いた。
【0055】
[通水試験条件]
試験はいずれも、水張り:30秒、通水:28分、空気逆洗:10秒、排水:10秒を1サイクルとして繰り返し通水試験を行った。通水時の膜フラックスは4m3/(m2・D)とし、水温は24~25℃とした。
【0056】
[実施例1]
模擬原水Aに2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸を0.75mg/L(純分として)添加して上記通水試験を行い、膜間差圧の経時変化を調べ、結果を
図2に示した。
【0057】
[実施例2]
模擬原水Aにエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸を0.75mg/L(純分として)添加して上記通水試験を行い、膜間差圧の経時変化を調べ、結果を
図2に示した。
【0058】
[比較例1]
模擬原水Aに薬剤を添加することなく上記通水試験を行い、膜間差圧の経時変化を調べ、結果を
図2に示した。
【0059】
[参考例1]
模擬原水Bに薬剤を添加することなく上記通水試験を行い、膜間差圧の経時変化を調べ、結果を
図2に示した。
【0060】
[参考例2]
模擬原水Cに薬剤を添加することなく上記通水試験を行い、膜間差圧の経時変化を調べ、結果を
図2に示した。
【0061】
図2より明らかなように、フミン酸Naのみを含む模擬原水B、硬度成分であるCaのみを含む模擬原水Cでは膜間差圧は上昇しない(参考例1、参考例2)。
フミン酸NaとCaが共存する模擬原水Aでは膜間差圧の上昇が激しい(比較例1)。
このような模擬原水Aに対して、ホスホノブタントリカルボン酸を添加した実施例1では、ホスホン酸基によるスケール防止効果で膜間差圧の上昇を抑制することができる。
特に、アミノホスホン酸であるエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸を添加した実施例2では、フミン酸NaとCa
2+との架橋作用を抑制し、これらが膜面に付着することを効果的に防止することで膜間差圧の上昇をより一層有効に更に防止することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 中空糸膜
2 ポッティング剤
3 原水導入口
4 排水口
5 モジュールハウジング
6 給水タンク
7 処理水タンク
10 外圧式中空糸ミニモジュール