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特許7200919エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法およびエピタキシャルウェーハの製造方法
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  • 特許-エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法およびエピタキシャルウェーハの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法およびエピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20221227BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20221227BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20221227BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20221227BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
H01L21/66 N
H01L21/322 J
H01L21/265 Q
H01L21/265 Z
H01L21/265 T
H01L21/20
G01N21/64 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019228637
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021097174
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】柾田 亜由美
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-130397(JP,A)
【文献】特開2018-014343(JP,A)
【文献】特開2003-045928(JP,A)
【文献】特開2018-129460(JP,A)
【文献】特開2013-152977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
H01L 21/322-21/324
H01L 21/26 -21/268
H01L 21/20
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含むイオンを1×1014atoms/cm以上のドーズ量でシリコンウェーハの表面に注入して前記シリコンウェーハの表面部にゲッタリング層を形成し、次いで前記シリコンウェーハの表面上にシリコンエピタキシャル層を形成して作製された評価対象のエピタキシャルウェーハの表面に、シリコンのバンドギャップよりも大きなエネルギーを有する励起光を照射して、前記評価対象のエピタキシャルウェーハの表面から発光されるフォトルミネッセンス光の強度を評価対象の強度として測定する評価強度測定工程と、
前記炭素を含むイオンが注入されていない以外は前記評価対象のエピタキシャルウェーハと同一品種である基準となるエピタキシャルウェーハに対して前記励起光を照射した際のフォトルミネッセンス光の強度を予め評価基準の強度として測定する基準強度測定工程と、
前記基準強度に対する前記評価強度の比に基づいて、前記評価対象のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価する評価工程と、
を含むことを特徴とするエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【請求項2】
前記評価工程は、前記基準強度に対する前記評価強度の比と、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力との関係を示す検量線を予め求めておき、該検量線を用いて前記評価対象のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価する、請求項1に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【請求項3】
前記検量線は、前記基準強度に対する前記評価強度の比と、前記評価対象のエピタキシャルウェーハと同一品種のエピタキシャルウェーハの表面を不純物金属で汚染した後、前記同一品種のエピタキシャルウェーハのゲッタリング層に捕獲される前記不純物金属の濃度との関係を示す検量線である、請求項2に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【請求項4】
前記検量線は、複数の異なる品種のエピタキシャルウェーハに対するデータで構成されている、請求項2または3に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法による評価結果に基づいて、目標のゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハが得られる炭素を含むイオンの注入条件を決定し、決定した注入条件で炭素を含むイオンをシリコンウェーハの表面に注入し、次いで前記表面の上にシリコンエピタキシャル層を形成して、目標のゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハを得ることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法およびエピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの特性を劣化させる要因として、金属汚染が挙げられる。例えば、裏面照射型固体撮像素子では、この素子の基板となる半導体ウェーハに混入した金属が、固体撮像素子の暗電流を増加させる要因となり、白傷欠陥と呼ばれる欠陥を生じさせる。
【0003】
半導体素子基板への金属の混入は、種々の製造工程(基板製造工程およびデバイス製造工程)において生じる。そのため、半導体ウェーハに金属を捕獲するためのゲッタリング層が形成される。
【0004】
ゲッタリング層を形成する技術として、半導体ウェーハに炭素を含むイオンを注入する技術が知られている。そして、炭素イオンの注入ドーズ量と、ゲッタリング能力とには相関関係があることも知られている。
【0005】
例えば、特許文献1では、炭素イオン注入された半導体エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価するために、不純物金属で故意に汚染し、ゲッタリング層に捕獲される不純物金属の濃度を二次イオン質量分析法(SIMS)により測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-130397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載された方法においては、ゲッタリング能力を評価するためには、イオン注入ウェーハを故意に汚染してSIMS測定を行ったり、TEM断面写真を取得するなどの破壊検査を行ったりする必要があり、時間を要する。
【0008】
本発明の目的は、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を簡便に評価することができるエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法およびエピタキシャルウェーハの製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]炭素を含むイオンを1×1014atoms/cm以上のドーズ量でシリコンウェーハの表面に注入して前記シリコンウェーハの表面部にゲッタリング層を形成し、次いで前記シリコンウェーハの表面上にシリコンエピタキシャル層を形成して作製された評価対象のエピタキシャルウェーハの表面に、シリコンウェーハのバンドギャップよりも大きなエネルギーを有する励起光を照射して、前記評価対象のエピタキシャルウェーハの表面から発光されるフォトルミネッセンス光の強度を評価対象の強度として測定する評価強度測定工程と、
前記炭素を含むイオンが注入されていない以外は前記評価対象のエピタキシャルウェーハと同一品種である基準となるエピタキシャルウェーハに対して前記励起光を照射した際のフォトルミネッセンス光の強度を予め評価基準の強度として測定する基準強度測定工程と、
前記基準強度に対する前記評価強度の比に基づいて、前記評価対象のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価する評価工程と、
を含むことを特徴とするエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【0010】
[2]前記評価工程は、前記基準強度に対する前記評価強度の比と、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力との関係を示す検量線を予め求めておき、該検量線を用いて前記評価対象のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価する、前記[1]に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【0011】
[3]前記検量線は、前記基準強度に対する前記評価強度の比と、前記評価対象のエピタキシャルウェーハと同一品種のエピタキシャルウェーハの表面を不純物金属で汚染した後、前記同一品種のエピタキシャルウェーハのゲッタリング層に捕獲される前記不純物金属の濃度との関係を示す検量線である、前記[2]に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【0012】
[4]前記検量線は、複数の異なる品種のエピタキシャルウェーハに対するデータで構成されている、前記[2]または[3]に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法。
【0013】
[5]前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法による評価結果に基づいて、目標のゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハが得られる炭素を含むイオンの注入条件を決定し、決定した注入条件で炭素を含むイオンをシリコンウェーハの表面に注入し、次いで前記表面の上にシリコンエピタキシャル層を形成して、目標のゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハを得ることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】測定されたPL光の強度の炭素のドーズ量依存性を示す図である。
図2】鉄の濃度と基準強度に対する評価濃度の比との関係を示す検量線である。
図3】鉄の濃度と、評価濃度と基準強度との差との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明によるエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法は、炭素を含むイオンを1×1014atoms/cm以上のドーズ量でシリコンウェーハの表面に注入してシリコンウェーハの表面部にゲッタリング層を形成し、次いでシリコンウェーハの表面上にシリコンエピタキシャル層を形成して作製された評価対象のエピタキシャルウェーハの表面に、シリコンのバンドギャップよりも大きなエネルギーを有する励起光を照射して、評価対象のエピタキシャルウェーハの表面から発光されるフォトルミネッセンス光の強度を評価対象の強度として測定する評価強度測定工程と、炭素を含むイオンが注入されていない以外は評価対象のエピタキシャルウェーハと同一品種である基準となるエピタキシャルウェーハに対して上記励起光を照射した際のフォトルミネッセンス光の強度を予め評価基準の強度として測定する基準強度測定工程と、基準強度に対する評価強度の比に基づいて、評価対象のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価する評価工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明者は、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を簡便に評価するためには、非破壊的手法を用いることが最適と考え、フォトルミネッセンス(Photoluminescence、PL)法を用いることに想到した。PL法は、非破壊的手法の一種であり、シリコンウェーハの表面および内部の汚染や不純物(炭素や酸素、ドーパントなど)、欠陥に対して高感度な測定手法であり、導電型や不純物濃度を問わずに測定することが可能な方法である。
【0018】
本発明者は、室温PL法によって、異なる注入条件(ドーズ量)で炭素を含むイオンを注入した複数枚のエピタキシャルウェーハについて、それらのゲッタリング能力を実際に評価してみた。
【0019】
一般に、シリコンウェーハに対して、炭素イオン(モノマーイオン)やC、CHOなどの炭素を含むクラスターイオンを注入した場合、炭素の注入ドーズ量の増加に伴い、シリコンウェーハの注入領域に形成される欠陥量が増加して、ゲッタリング能力も増加する(例えば、特開2016-201461号公報参照)。
【0020】
上記本発明者による評価結果も、これを反映したものとなっており、炭素の注入ドーズ量を変化させると、PL光の強度も変化した。このように、PL光の強度に基づいて、注入欠陥量ひいてはゲッタリング能力を評価できることが分かった。
【0021】
しかしながら、PL光の強度は、上述のように、シリコンウェーハ内部の汚染、不純物の種類や濃度などによって変化する。そのため、PL法によるゲッタリング能力の評価は、不純物の種類や濃度などが同一である同一品種のエピタキシャルウェーハ間に限られてしまう。
【0022】
そこで、本発明者は、不純物の種類や濃度などが異なる品種のエピタキシャルウェーハ間についても、同一の指標に基づいてゲッタリング能力を評価する方法について鋭意検討した。その結果、炭素イオン注入がなされていない以外は不純物の種類や濃度などが評価対象のエピタキシャルウェーハと同一である基準となるエピタキシャルウェーハのPL光の強度を評価基準(リファレンス)とし、評価対象のエピタキシャルウェーハのPL光の強度(評価強度)と評価基準の強度(基準強度)との差(評価強度-基準強度)を用いることによって、異なる品質のエピタキシャルウェーハ間についても同一の指標でゲッタリング能力を評価できるのではないかと考えた。しかし、後述する実施例に示すように、評価強度と基準強度との差(評価強度-基準強度)とゲッタリング能力との間には、あまり強い相関が見られないことが分かった。
【0023】
そこで、本発明者がさらに検討を行った結果、基準強度に対する評価対象のエピタキシャルウェーハのPL光の強度(評価強度)の比(評価強度/基準強度)とゲッタリング能力との間に強い相関があり、基準強度に対する評価強度の比(評価強度/基準強度)を用いることによって、異なる品質のエピタキシャルウェーハ間についても同一の指標でゲッタリング能力を評価できることを見出し、本発明を完成させるに至ったのである。以下、各工程について説明する。
【0024】
[評価対象のエピタキシャルウェーハ]
まず、本発明の評価方法に供する評価対象のエピタキシャルウェーハについて説明する。評価対象のエピタキシャルウェーハの基板であるシリコンウェーハとしては、例えばシリコン単結晶からなる単結晶シリコンウェーハを用いることができる。単結晶シリコンウェーハは、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法や浮遊帯域溶融(Floating Zone、FZ)法により育成された単結晶シリコンインゴットに対してウェーハ加工処理を施して得られたものを用いることができる。また、シリコンウェーハに炭素および/または窒素を添加してもよく、シリコンウェーハにリン(P)やホウ素(B)などの適切なドーパントを用いて、n型あるいはp型としてもよい。
【0025】
ゲッタリング層は、炭素を含むイオンをシリコンウェーハの表面に注入することによって、シリコンウェーハの表面部に形成される層である。ここで、「炭素を含むイオン」とは、炭素イオンおよび炭素を含むクラスターイオンである。
【0026】
上記「炭素イオン」は、炭素原子がイオン化した単原子イオン(モノマーイオン、シングルイオン)である。一方、「炭素を含むクラスターイオン」の「クラスターイオン」は、電子衝撃法により、ガス状分子に電子を衝突させてガス状分子の結合を解離させることによって種々の原子数の原子集合体とし、フラグメントを起こさせて当該原子集合体をイオン化させ、イオン化された種々の原子数の原子集合体の質量分離を行って、特定の質量数のイオン化された原子集合体を抽出して得られるイオンである。
【0027】
すなわち、クラスターイオンは、原子が複数集合して塊となったクラスターに正電荷または負電荷を与え、イオン化したものであり、炭素イオンや水素イオンなどの単原子イオンや、一酸化炭素イオンなどの単分子イオンとは明確に区別される。クラスターイオンの構成原子数は、通常5個上100個以下程度である。
【0028】
炭素を含むクラスターイオンを注入する場合には、イオンの構成元素は炭素以外の元素として水素を含んでもよいし、ボロン、リン、ヒ素、アンチモン、酸素などの元素を含んでもよい。例えば、炭素を含むクラスターイオンとしては、C、C、CHOなどを挙げることができる。
【0029】
また、上述のような炭素を含むクラスターイオンをシリコンウェーハに注入する注入装置としては、例えば日新イオン機器株式会社製のCLARIS(登録商標)を用いることができる。
【0030】
本発明の評価対象に用いるエピタキシャルウェーハにおいては、上記炭素を含むイオンを1×1014atoms/cm以上のドーズ量で注入する。これにより、ゲッタリング能力に優れたエピタキシャルウェーハを得ることができる。一方、ドーズ量の上限については、ゲッタリング能力の点では特に限定されないが、イオン注入による欠陥を抑制する点で、1×1016atoms/cm以下とすることが好ましい。
【0031】
ゲッタリング層は、注入されるイオンのイオン形態および加速電圧などに応じて形成される深さおよび厚みが異なる。単原子イオンとしての炭素イオン注入であれば、加速電圧にも依存するものの、シリコンウェーハの表面から50~300nm程度の範囲内を炭素濃度のピークを有する、厚み100~600nm程度のゲッタリング層が形成される。クラスターイオンの形態での炭素イオン注入であれば、シリコンウェーハの表面から、50~300nm程度までの範囲内を厚み中心とする、厚み50~400nm程度のゲッタリング層が形成される。
【0032】
シリコンウェーハのゲッタリング層上に形成されるシリコンエピタキシャル層は、例えば、CVD法を用いて一般的な条件で形成することができる。具体的には、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバー内に導入し、1000~1200℃の範囲の温度でシリコンウェーハ上にエピタキシャル成長させることができる。シリコンエピタキシャル層の厚みは、特に限定されないが、1~15μmの範囲内とすることができる。
【0033】
本発明においては、こうして作製された評価対象のエピタキシャルウェーハに対して、ゲッタリング能力を評価する。
【0034】
<評価強度測定工程>
まず、評価強度測定工程において、上述のように作製された評価対象のエピタキシャルウェーハの表面に、シリコンのバンドギャップよりも大きなエネルギーを有する励起光を照射して、評価対象のエピタキシャルウェーハの表面(以下、単に「ウェーハ表面」とも言う。)から発光されるフォトルミネッセンス光の強度を評価対象の強度(評価強度)として測定する。
【0035】
本工程においては、室温PL法によって、シリコンのバンド端発光(室温で約1150nm)の発光強度を測定することが好ましい。この場合、可視~近赤外の波長領域の励起光を用い、励起された電子が基底状態に戻る際に発生する光のPLスペクトルから、波長950nm以上のバンド端発光由来のピーク波長の光の強度を求め、これをPL光の強度として用いる。
【0036】
上記PL光の強度の測定に用いる装置は、特に限定されないが、Nanometrics社製SiPHER(測定レーザ波長:532nm、823nm)や、WaferMasters社製MPL300(測定レーザ波長:532nm、650nm、827nm)などを用いることができる。
【0037】
上記PL光の強度の測定は、エピタキシャルウェーハの表面内の1以上の任意の箇所にて行うことができるが、エピタキシャルウェーハ表面全体を、例えば所定の間隔(例えば、500μm~2mm)でPL光の強度の測定を行い、測定されたPL光の強度の平均値を後の工程に供する評価強度とすることが好ましい。
【0038】
<基準強度測定工程>
また、基準強度測定工程において、炭素を含むイオンが注入されていない以外は評価対象のエピタキシャルウェーハと同一品種である基準となるエピタキシャルウェーハに対して励起光を照射した際のフォトルミネッセンス光の強度を予め評価基準の強度として測定する。
【0039】
本発明において、「エピタキシャルウェーハが同一品種である」とは、エピタキシャルウェーハが同一の製造条件で得られ、シリコンウェーハの直径、酸素濃度、炭素濃度、ドーパント種、ドーパント濃度などが実質的に等しいことを意味している。ここで、「実質的に等しい」とは、シリコンウェーハの製造工程上不可避な誤差をはじめ、本発明の作用効果を奏する範囲で許容される誤差を含む。
【0040】
例えば、同一のシリコンインゴットから得られるシリコンウェーハの表面上に同一条件でシリコンエピタキシャル層が形成された2枚のエピタキシャルウェーハは、上記「同一品種」に含まれる。これに対して、例えばシリコンウェーハの導電型が異なる2枚のエピタキシャルウェーハについては、上記「同一品種」には含まれない。
【0041】
<評価工程>
続いて、評価工程において、基準強度に対する評価強度の比に基づいて、評価対象のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価する。上述のように、基準強度に対する評価強度の比(評価強度/基準強度)をゲッタリング能力を評価する指標として用いることによって、不純物の種類や濃度が異なるエピタキシャルウェーハ間についても、同一の指標でゲッタリング能力を評価することができる。
【0042】
例えば、基準強度に対する評価強度の比と、ゲッタリング能力との関係を示す検量線を予め求めておき、該検量線を用いて行うことができる。この検量線は、例えば、基準強度に対する評価強度の比と、評価対象のエピタキシャルウェーハと同一品種のエピタキシャルウェーハの表面を不純物金属で汚染した後、同一品種のエピタキシャルウェーハのゲッタリング層に捕獲される不純物金属の濃度との関係を示す検量線とすることができる。上記不純物金属としては、鉄(Fe)や銅(Cu)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タングステン(W)などを用いることができる。
【0043】
また、本発明によって、不純物の種類や濃度が異なるエピタキシャルウェーハ間についても同一の指標(評価強度/基準強度)でゲッタリング能力を評価することができるため、上記検量線を、異なる複数の品種のエピタキシャルウェーハに対するデータで構成することができる。
【0044】
従来技術においては、同一品種のエピタキシャルウェーハ間でしか、ゲッタリング能力の評価を行うことができなかった。この点、本発明の評価方法においては、品種が異なるエピタキシャルウェーハ間においても、同一の検量線を用いてゲッタリング能力を評価することができる。
【0045】
こうして、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を簡便に評価することができる。
【0046】
(エピタキシャルウェーハの製造方法)
本発明によるエピタキシャルウェーハの製造方法は、上述した本発明によるエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法による評価結果に基づいて、目標のゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハが得られる炭素を含むイオンの注入条件を決定し、決定した注入条件で炭素を含むイオンをシリコンウェーハの表面に注入し、次いで前記表面の上にシリコンエピタキシャル層を形成して、目標のゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハを得ることを特徴とする。
【0047】
上述のように、本発明によるエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力評価方法においては、非破壊検査であるPL法によって、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を簡便に評価することができる。これにより、所望とするゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハが得られるような、炭素を含むイオンの注入条件を決定することができる。そして、決定した注入条件で炭素を含むイオンをシリコンウェーハの表面に注入し、次いで上記シリコンウェーハの表面の上にシリコンエピタキシャル層を形成することによって、所望のゲッタリング能力を有するシリコンウェーハを製造することができる。
【実施例
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0049】
<エピタキシャルウェーハの作製>
評価に供するエピタキシャルウェーハを作製するに当り、基板として、下記の表1に示す3つの異なる水準のシリコンウェーハを用意した。その際、シリコンウェーハA(以下、「基板A」と言う。)については4枚、シリコンウェーハB(以下、「基板B」と言う。)については2枚、シリコンウェーハC(以下、「基板C」と言う。)については3枚用意した。
【0050】
【表1】
【0051】
(発明例1)
基板Aの表面に、クラスターイオン注入装置(日新イオン機器株式会社製、CLARIS)を用いて、Cのクラスターイオンを、加速エネルギー80keV、ドーズ量1×1014atoms/cmで注入した後、厚み5μmのシリコンエピタキシャル層を形成して、エピタキシャルウェーハを作製した。
【0052】
(発明例2)
発明例1と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、ドーズ量を5×1014atoms/cmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0053】
(発明例3)
発明例1と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、ドーズ量を1×1015atoms/cmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0054】
(発明例4)
発明例1と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、注入するイオンをCHOとし、ドーズ量を5×1014atoms/cmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0055】
(発明例5)
発明例4と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、ドーズ量を7×1014atoms/cmとした。その他の条件は、発明例4と全て同じである。
【0056】
(発明例6)
発明例4と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、ドーズ量を1×1015atoms/cmとした。その他の条件は、発明例4と全て同じである。
【0057】
(発明例7)
発明例1と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、エピタキシャルウェーハの基板として基板Bを用い、ドーズ量を5×1014atoms/cmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0058】
(発明例8)
発明例7と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、ドーズ量を1×1015atoms/cmとした。その他の条件は、発明例7と全て同じである。
【0059】
(発明例9)
発明例1と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、エピタキシャルウェーハの基板として基板Cを用いた。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0060】
(発明例10)
発明例9と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、ドーズ量を5×1014atoms/cmとした。その他の条件は、発明例9と全て同じである。
【0061】
(発明例11)
発明例9と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、ドーズ量を1×1015atoms/cmとした。その他の条件は、発明例9と全て同じである。
【0062】
(比較例1)
発明例1と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、炭素を含むイオンを注入しなかった。その他の条件は、発明例1と全て同じである。作製されたエピタキシャルウェーハは、発明例1~6のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価するための基準となるエピタキシャルウェーハである。
【0063】
(比較例2)
発明例7と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、炭素を含むイオンを注入しなかった。その他の条件は、発明例7と全て同じである。作製されたエピタキシャルウェーハは、発明例7、8のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価するための基準となるエピタキシャルウェーハである。
【0064】
(比較例3)
発明例9と同様に、エピタキシャルウェーハを作製した。ただし、炭素を含むイオンを注入しなかった。その他の条件は、発明例9と全て同じである。作製されたエピタキシャルウェーハは、発明例9~11のエピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を評価するための基準となるエピタキシャルウェーハである。
【0065】
<PL光の強度の測定>
上述のように得られた発明例1~11、比較例1~3のエピタキシャルウェーハについて、室温PL装置(Nanometrics社製、SiPHER)を用いて、波長832nmのレーザ光をエピタキシャルウェーハの表面に照射し、エピタキシャルウェーハの表面から発光されるPL光の強度をウェーハ表面全体について測定した。
【0066】
発明例1~11、比較例1~3のエピタキシャルウェーハの各々について、ウェーハ表面全体について測定されたPL光の強度の平均値をPL光の強度とした。そして、比較例1~3のエピタキシャルウェーハのPL光の強度を基準強度とし、発明例1~11のエピタキシャルウェーハのPL光の強度を評価強度として、発明例1~11について、基準強度に対する評価強度の比を求めた。
【0067】
<Feによる強制汚染>
発明例1~11のエピタキシャルウェーハについて、ゲッタリング能力の評価を行った。まず、発明例1~11のエピタキシャルウェーハの各々を強制汚染した。具体的には、まず各エピタキシャルウェーハのシリコンエピタキシャル層の表面にFe・HNO(0.2mol/l)溶液をスピンコート法により塗布し、次いで窒素雰囲気中で1050℃、2時間の拡散熱処理を施して、Feの表面濃度を1.0×1013atoms/cmに調整した。
【0068】
<SIMS測定>
次に、各エピタキシャルウェーハについて、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry、SIMS)により、金属不純物であるFeの濃度プロファイルを得て、Feの濃度を求めた。このFeの濃度は、濃度プロファイルを積分して得られた値であり、濃度の値が大きいほど、ゲッタリング能力が高いことを示している。
【0069】
図1は、測定されたPL光の強度の炭素のドーズ量依存性を示している。図1は、比較例1~3、および炭素イオンとしてCを注入した発明例2、3、7、8、10、11のみについて示している。図1から、基板A~Cを用いたエピタキシャルウェーハのいずれについても、炭素のドーズ量の増加とともに、PL光の強度が低下することが分かる。また、基板Aと基板Bとを比較すると、炭素イオンを注入しなかった比較例1と比較例2との差は小さいのに対して、炭素イオンを注入した発明例2と発明例7、発明例3と発明例8との間には大きな差が存在することが分かる。さらに、基板のドーパント種(導電型)が異なる基板AおよびBと基板Cとでは、PL光の強度が大きく異なっているが、これは不純物濃度が大きく異なっていることによるものと思われる。
【0070】
図2は、鉄の濃度と基準強度に対する評価濃度の比(PL強度比)との関係を示す検量線を示している。図2に示したプロットを最小二乗法により一次関数でフィッティングすると、相関係数の値が0.92と非常に大きく、鉄の濃度と基準強度に対する評価濃度の比との間に極めて強い相関があることが分かる。
【0071】
また、図2に示した検量線は、異なる品質の基板のデータを用いて構成されており、品質が異なるエピタキシャルウェーハについても、同一の検量線を用いてゲッタリング能力を評価できることが分かる。そして、図2に示したような検量線を用いて、目標のゲッタリング能力を有する炭素を含むイオンの注入条件を求めることができ、求めた条件で炭素を含むイオンの注入を行ってエピタキシャルウェーハを製造することにより、目標のゲッタリング能力を有するエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【0072】
図3は、鉄の濃度と、評価濃度と基準強度との差(PL強度差)との関係を示している。図2と同様に、プロットを最小二乗法により一次関数でフィッティングしたところ、相関係数の値は0.75となり、PL強度比(評価強度/基準強度)を用いた場合に比べて、ゲッタリング能力との相関が弱いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、エピタキシャルウェーハのゲッタリング能力を簡便に評価することができるため、半導体産業において有用である。
図1
図2
図3