(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】研磨用組成物、シリコンウェーハの研磨方法、及び研磨装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221227BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221227BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20221227BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221227BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2022072705
(22)【出願日】2022-04-26
【審査請求日】2022-08-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大関 正彬
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-154707(JP,A)
【文献】特開2008-235491(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168534(WO,A1)
【文献】特開2019-009278(JP,A)
【文献】国際公開第2009/037903(WO,A1)
【文献】特開2017-135387(JP,A)
【文献】特開2006-270066(JP,A)
【文献】特開2005-045229(JP,A)
【文献】特開2004-247542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハを研磨するための研磨用組成物であって、
砥粒として平均粒子径100nm以下のシリカ、及び陽イオン界面活性剤を含むものであり、かつ、
前記研磨用組成物は、pHが9.0以上であり、かつ、ゼータ電位が±30mV以内のものであ
り、かつ、
前記陽イオン界面活性剤が、親水基が第4級アンモニウムで、疎水基に炭素数14以上のアルキル基を有している構造の界面活性剤であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記陽イオン界面活性剤が、テトラデシルトリメチルアンモニウム=ブロミド(TMAB)であることを特徴とする請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
シリコンウェーハの研磨方法であって、
請求項1又は請求項2に記載の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨することを特徴とするシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項4】
シリコンウェーハを研磨するための研磨装置であって、
前記研磨装置は、シリコンウェーハを研磨するための研磨布、及び
請求項1又は請求項2に記載の研磨用組成物を供給するための供給装置を有するものであることを特徴とする研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコンウェーハの研磨に用いる研磨用組成物、研磨方法、及び研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)は、主に、シリコンおよびガリウム砒素等からなるウェーハ表面に形成された酸化膜、金属膜、およびセラミックス膜等の多層配線用薄膜を平坦化するために利用され、ウェーハ表面に多層配線を構築し、高性能化および高集積化が進んだ超LSI(Large Scale Integration)を製造する上で必要不可欠な技術になっている。
【0003】
従来、シリコンの研磨に用いられる研磨用組成物として、平均粒径が42nmであるコロイダルシリカと、低分子量脂肪族アミンとを含むシリコン研磨剤が知られている(特許文献1)。
【0004】
低分子量脂肪族アミンは、エチレンジアミンおよびメチルアミン等からなる。そして、このシリコン研磨剤において、コロイダルシリカは、3.8重量%の含有量を有し、低分子量脂肪族アミンとしてのエチレンジアミンは、3.1重量%の含有量を有する。そして、このシリコン研磨剤を用いてシリコンを研磨することによって、1.143μm/分の研磨速度が得られている。
【0005】
また、特許文献2にあるように、砥粒、水溶性高分子化合物、1種または2種以上の陽イオン界面活性剤および塩基性モノマー化合物を含む研磨剤組成物であり、特に水溶性高分子化合物としてヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性多糖類を、陽イオン界面活性剤として第4級アンモニウム化合物を、また塩基性モノマー化合物として窒素元素を有する塩基性化合物を含む研磨用組成物などが開示されている。
【0006】
また、特許文献3にあるように、シリコンの研磨速度を向上させることを目的に、シリカ粒子と、NH2(CH2CH2NH)nH(nは2以上の整数)からなるポリエチレンアミンとを含む研磨用組成物が開示されている。また、シリカ粒子と、NH2(CH2CH2NH)nH(nは1以上の整数)からなるポリエチレンアミンと、銅イオン捕捉剤と、pH調整剤とを含む研磨用組成物が開示されている。
【0007】
半導体シリコンウェーハの研磨工程は、シリカと塩基性化合物からなる研磨用組成物(研磨剤)を供給しながら研磨布とウェーハを摺動させることにより、平坦化と表面欠陥除去を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-100675号公報
【文献】特開2008-235491号公報
【文献】特開2011-258825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウェーハの研磨では、表面欠陥除去を高い生産性で実現することが要求され、そのためには、高い加工速度が求められる。
【0010】
これまで、高い加工速度を得るための方策として、例えば加工圧力を高めるなどの方策があるが、同時に欠陥の発生を誘発してしまうという問題点がある。また、塩基性化合物の濃度を上げ、高いpHで加工する手法もあるが、欠陥がより顕在化したり、取り代形状に異方性が発生したりする等の問題点がある。さらには、砥粒濃度を上げる手法もあるが、砥粒濃度は加工速度に対しそこまでの影響を及ぼさず、コスト増大にもつながるため実用性は乏しく、低濃度でも高い加工速度を実現する添加剤が求められていた。
【0011】
これまで、高い加工速度を実現する方法として、特許文献3に示すようなポリエチレンアミン類や、特許文献2等が用いられているが、十分な加工速度は得られていない。
【0012】
そこで本発明では、研磨(加工)速度を向上できる研磨用組成物及び研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、研磨用組成物であって、砥粒として平均粒子径100nm以下のシリカ、及び陽イオン界面活性剤を含むものであり、かつ、前記研磨用組成物は、pHが9.0以上であり、かつ、ゼータ電位が±30mV以内のものである研磨用組成物を提供する。
【0014】
このような研磨用組成物であれば、シリカ砥粒を用い、pH9.0以上の研磨条件でも、研磨(加工)速度を向上できる。
【0015】
また、前記陽イオン界面活性剤が、親水基が第4級アンモニウムで、疎水基に炭素数14以上のアルキル基を有している構造の界面活性剤であることが好ましい。
【0016】
このとき、前記陽イオン界面活性剤が、テトラデシルトリメチルアンモニウム=ブロミド(TMAB)であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明では、このような陽イオン界面活性剤を好適に用いることができる。
【0018】
また本発明では、シリコンウェーハの研磨方法であって、上記の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨するシリコンウェーハの研磨方法を提供する。
【0019】
このようなシリコンウェーハの研磨方法であれば、シリカ砥粒を用い、pH9.0以上の研磨条件でも、研磨(加工)速度を向上できる。
【0020】
また本発明では、シリコンウェーハを研磨するための研磨装置であって、前記研磨装置は、シリコンウェーハを研磨するための研磨布、及び上記の研磨用組成物を供給するための供給装置を有するものである研磨装置を提供する。
【0021】
このような研磨装置であれば、シリカ砥粒を用い、pH9.0以上の研磨条件でも、研磨(加工)速度を向上できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、平均粒子径100nm以下のシリカを砥粒として用い、pHを9.0以上に調整し、さらに陽イオン界面活性剤を添加して、ゼータ電位を±30mV以内とすることで加工速度が飛躍的に上昇することができる。このような研磨用組成物を使用することで研磨の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の研磨装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述のように、研磨(加工)速度を向上できる研磨用組成物及び研磨方法の開発が求められていた。
【0025】
本発明者らが鋭意研究した結果、研磨レート増大にはシリカ砥粒の持つ表面電位を低減しシリカを無極性化することが重要である点を見出した。なお、シリカの表面電位はゼータ電位を測定することにより評価されることが一般的である。そこで、シリカを疎水化(無極性化)する為には、平均粒子径100nm以下のシリカを砥粒として用い、pHを9.0以上に調整し、さらに陽イオン界面活性剤を添加し、ゼータ電位を±30mV以内に調整した研磨用組成物を用いることに想到した。
【0026】
即ち、本発明は、研磨用組成物であって、砥粒として平均粒子径100nm以下のシリカ、及び陽イオン界面活性剤を含むものであり、かつ、前記研磨用組成物は、pHが9.0以上であり、かつ、ゼータ電位が±30mV以内のものである研磨用組成物である。
【0027】
以下、本発明について図面を参照して実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
[研磨用組成物]
本発明の研磨用組成物は、砥粒として平均粒子径100nm以下のシリカ、及び陽イオン界面活性剤を含むものであり、かつ、前記研磨用組成物は、pHが9.0以上であり、かつ、ゼータ電位が±30mV以内のものである研磨用組成物である。
【0029】
本発明の研磨用組成物は、シリカ砥粒の持つ表面電位を低減しシリカを無極性化することによって、研磨レート増大させることができる。シリカの表面電位はゼータ電位を測定することにより評価されることが一般的である。そこで本発明の研磨用組成物では、ゼータ電位を±30mV以内、好ましくは0~-30mVの範囲とする。なお、本発明において、ゼータ電位は、ベックマン・コールター社製DelsaNanoC(電気泳動法による測定)によって測定した値とすることができる。
【0030】
本発明の研磨用組成物は、pHが9.0以上である。pHの上限には特に制限はないが、例えば、pH=11.0以下とすることができる。pHを9.0以上に調整するためのアルカリ性化合物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニアなどが好適に用いられる。
【0031】
研磨は、一般的には、酸性側、アルカリ側どちらでも実施されるが、本発明の研磨用組成物はアルカリ側での研磨で用いるものである。特に、pH9.0以上のアルカリ側だと研磨したシリコンを溶解でき、パッド上に残留することを防ぐことができるため好ましい。酸性側では、研磨布の詰まりなどが生じやすく、ドレッシングが必要になったり、研磨布の交換頻度が増えるなど別なデメリットが生じる。
【0032】
なお、本発明の研磨用組成物は、分散媒としては、水、特に純水を用いることが好ましい。
【0033】
(シリカ)
本発明の研磨用組成物においては、砥粒として、平均粒子径100nm以下のシリカを用いる。
【0034】
特に仕上げ研磨工程では表面粗さを向上するため平均粒子径100nm以下のシリカが用いられている。このような粒径では研磨レートが遅くなる傾向にあり、本発明により研磨レートを向上させるメリットが大きい。なお、本発明は仕上げ研磨用途に限定されない。
【0035】
平均粒子径100nm以下のシリカとしては、シリコンウェーハの研磨で一般的に用いられているものであれば特に制限なく用いることができるが、例えば、コロイダルシリカとすることができる。また平均粒子径としても100nm以下であれば特に制限はないが、例えば、50nm以下とすることができる。平均粒子径の下限は特に制限されないが、例えば、10nm以上とすることができる。平均粒子径100nm以下のシリカの配合量としては特に限定されないが、研磨用組成物100質量部に対して、0.1質量部~1質量部の範囲とすることが好ましい。0.1質量部以上であれば、砥粒数が十分であり高い研磨効率が得られる。1質量部以下であれば、砥粒の凝集による研磨効率の低下や操作性の悪化のおそれがない。
【0036】
なお、本発明における平均粒子径は、BET法により測定される比表面積から算出される平均一次粒径である。
【0037】
(陽イオン界面活性剤)
本発明では、研磨レート促進剤として、陽イオン界面活性剤を用いる。陽イオン界面活性剤としては特に制限はないが、例えば、第4級アンモニウムが親水基の界面活性剤であり、特に、疎水基に炭素数14以上、好ましくは炭素数14~20のアルキル基を有している構造のブロモ化物のものが好ましい。
【0038】
例えば、下記構造式のテトラデシルトリメチルアンモニウム=ブロミドを用いることができる。
【化1】
【0039】
このような陽イオン界面活性剤を添加し、ゼータ電位が±30mVとなるような条件に設定することで、加工速度が飛躍的に上昇する研磨を実施することができる。
【0040】
特に、シリカを疎水化(無極性化)することが重要で、陽イオン界面活性剤として、第4級アンモニウムが親水基の界面活性剤であり、疎水基に炭素数14以上のアルキル基を有している構造のブロモ化物の添加剤、例えば、テトラデシルトリメチルアンモニウム=ブロミド(TMAB)を添加することで、ゼータ電位が減少傾向にあることを見出した。特に、ゼータ電位が±30mVになるように陽イオン界面活性剤を添加することが好ましい。上記のような陽イオン界面活性剤を用い、ゼータ電位を調整することで、安定した研磨レートの向上ができる。
【0041】
本発明の研磨用組成物中、陽イオン界面活性剤の添加量は10ppm~125ppm程度とすることが好ましく、20ppm~100ppm程度とすることがより好ましい。添加量は、研磨条件や必要とされる研磨レートにより適宜設定すればよい。
【0042】
平均粒子径100nm以下のシリカを砥粒として用い、pHが9.0以上の研磨条件において、アミンなど添加することなしで測定したゼータ電位は-46mVであった。TMAB等の陽イオン界面活性剤を添加することでゼータ電位は変化し、約25ppmの添加でゼータ電位-26mVと良好な範囲であった。研磨レートが向上する条件としてゼータ電位±30mV以内をより確実に維持するには10ppm以上添加することが好ましい。陽イオン界面活性剤の濃度は特に限定するものではないが、本発明の最適濃度は、これまでのアミン濃度より明らかに低く、少量の添加で安定した研磨レートを維持できるメリットがある。一方、陽イオン界面活性剤は、低濃度でも大幅にレートが増大したのに対し、高濃度にし過ぎない方がよい。高濃度にし過ぎなければ、例えばシリカ吸着が飽和する等の影響がなく、添加量に見合うだけのレート増大の効果が得られる。
【0043】
(水溶性高分子)
シリカと陽イオン界面活性剤のほか、研磨用組成物には水溶性高分子を含んでいても良い。水溶性高分子を添加することで欠陥低減や粗さ改善の効果がある。水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体などが良く用いられ、さらにはヒドロキシエチルセルロースや、プロピオニルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどが用いられる。
【0044】
また、さらなる欠陥低減の観点から、上記水溶性高分子と異なり合成高分子を用いる傾向もあり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの高分子およびその誘導体が好適に用いられる。
【0045】
[研磨装置]
さらに本発明では、シリコンウェーハを研磨するための研磨装置であって、前記研磨装置は、シリコンウェーハを研磨するための研磨布、及び上述の研磨用組成物を供給するための供給装置を有するものである研磨装置を提供する。
【0046】
以下、図面を参照しながら、本発明の研磨装置についてさらに詳細に説明する。
【0047】
研磨装置としては、両面研磨でも片面研磨でもどちらでも良い。両面研磨は、上定盤と下定盤に研磨布を貼り付け、キャリアと呼ばれるウェーハ保持具によりウェーハを保持し研磨用組成物を供給しながら研磨を行うものである。片面研磨は、研磨ヘッドに固定したウェーハに対し、片面からのみ研磨布で研磨するものである。なお、片面研磨の方が本発明の効果が顕著である。
【0048】
なお、ウェーハの研磨工程は、例えば、一次研磨工程(両面研磨装置)、二次研磨工程(片面研磨装置:不織布タイプの研磨パッド)、仕上げ研磨工程(片面研磨装置:スエードタイプの研磨パッド)からなるが、本発明の研磨用組成物は片面研磨装置を用いる二次研磨工程もしくは仕上げ研磨工程で使用するのが好適であり、さらには仕上げ研磨工程で使用するのが特に好適である。ただし、この研磨に限定されるものではない。
【0049】
図1に本発明の研磨装置(片面研磨装置)の一例の概略を示す。そして
図1に示すように、この片面研磨装置1は、真空吸着用の溝2を上面に有するベース定盤3と、該ベース定盤3の上面に真空吸着で固定された脱着可能な研磨定盤4(例えば厚さが30mm以下のもの)と、該研磨定盤4に貼付された研磨パッド5と、ウェーハWを保持する研磨ヘッド6、研磨パッド5上に研磨用組成物(スラリー)を供給するノズル7を有している。
【0050】
ベース定盤3は、溝2を介してその上面に研磨定盤4を真空吸着できるようになっている。またベース定盤3は回転可能であり、真空吸着された研磨定盤4も一体となって回転可能になっている。また、研磨ヘッド6は、研磨時、ウェーハWを保持して研磨パッド5にウェーハWの表面を摺接させて研磨するためのものである。ベース定盤3、研磨定盤4、研磨ヘッド6、ノズル7自体は特に限定されるものではなく、例えば従来と同様のものを用いることができる。
【0051】
本研磨装置のノズル7は本発明の研磨用組成物を供給する供給装置である。この研磨用組成物供給装置は、平均粒子径100nm以下のシリカと陽イオン界面活性剤を添加し、pHを9.0以上、ゼータ電位を±30mV以内に調整した研磨用組成物を供給できるようになっている。
【0052】
また、研磨布としては、表面品質の観点から樹脂製のものが望ましく、耐摩耗性が良好なことからウレタン樹脂を用いるのが良い。ウレタン樹脂は不織布などの繊維に含浸させて研磨布として用いても良いし、ウレタン樹脂を加熱して発泡ウレタン樹脂を形成しそれを研磨布として用いても良いし、PETフィルムなどの基材上にウレタン樹脂を塗布し、加水分解によりスウェードを形成しそれを研磨布として用いても良い。研磨布は研磨用組成物を効率的に作用するため、溝のようなテクスチャ構造を有しているのが好ましい。
【0053】
[シリコンウェーハの研磨方法]
また、本発明では、シリコンウェーハの研磨方法であって、上述の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨するシリコンウェーハの研磨方法を提供する。
【0054】
本発明のシリコンウェーハの研磨方法としては、特に二次研磨や仕上げ研磨で用いることが好ましく、特に仕上げ研磨で用いるのが好ましい。研磨は、シリカ砥粒を用い、アルカリ条件下で行う。この時用いられる研磨用組成物として、平均粒子径100nm以下のシリカを砥粒として用い、pHを9.0以上に調整し、さらに陽イオン界面活性剤を添加し、ゼータ電位を±30mV以内に調整した本発明の研磨用組成物を用いる。また研磨装置としては、上述の本発明の研磨装置を用いることができる。
【0055】
このような本発明の研磨用組成物を供給し研磨することで、加工速度が飛躍的に上昇し研磨することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1~4、及び比較例1~5)
35nmコロイダルシリカを1wt%含む砥粒にアンモニアを加えpHを9.0以上に調整した研磨用組成物に対して、研磨レート促進剤を種類及び濃度を変えて添加し、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。実施例では、研磨レート促進剤として、陽イオン界面活性剤としてテトラデシルトリメチルアンモニウム=ブロミド、及びステアリルトリメチルアンモニウム=ブロミドを用いた。比較例では、研磨レート促進剤を無添加のもの、またエチレンオキシド-プロピレンオキシドブロック共重合体、ヘキシルトリメチルアンモニウム=ブロミド、アミノエチルピペラジン、エチレンジアミンを用いた。
【0058】
次に、CMPとして、
図1に示す装置を用い、上記で調製した研磨用組成物を用いてシリコンウェーハの研磨を行い、各組成物について研磨レートの確認を行った。研磨レートは、研磨前後での基板の膜厚差を時間で割ることにより比較した。なお、比較例1の研磨レートを規格化し100とした。結果を表1に併記する。
【0059】
【0060】
表1に示すように、本発明の研磨用組成物(即ち、本発明のシリコンウェーハの研磨方法)であれば、研磨用組成物のゼータ電位を±30mV以内に調整することによって、シリカ砥粒の持つ表面電位を低減しシリカを無極性化して研磨レートを増大させることができる。特に、陽イオン界面活性剤としてテトラデシルトリメチルアンモニウム=ブロミド(疎水部の炭素数14)を用いた場合、ステアリルトリメチルアンモニウム=ブロミド(疎水部の炭素数18)を用いた場合よりもさらに高い研磨レートが得られることが分かった(実施例1、4)。また、陽イオン界面活性剤の濃度を高くする(実施例2)、組成物のpHを高くする(実施例3)こと等により、より高い研磨レートが得られることが分かった。
【0061】
一方、比較例1は、レート促進剤を添加せず、ゼータ電位を±30mV以内に調整しなかったために実施例ほどの高い研磨レートを得ることはできなかった。また、比較例2~5は、レート促進剤を添加したがゼータ電位を±30mV以内に調整しなかったため、研磨レートは比較例1と同等レベルか、もしくは比較例1よりも低下した。
【0062】
本明細書は、以下の発明を包含する。
[1]:研磨用組成物であって、砥粒として平均粒子径100nm以下のシリカ、及び陽
イオン界面活性剤を含むものであり、かつ、前記研磨用組成物は、pHが9.0
以上であり、かつ、ゼータ電位が±30mV以内のものであることを特徴とする
研磨用組成物。
[2]:前記陽イオン界面活性剤が、親水基が第4級アンモニウムで、疎水基に炭素数1
4以上のアルキル基を有している構造の界面活性剤であることを特徴とする上記
[1]に記載の研磨用組成物。
[3]:前記陽イオン界面活性剤が、テトラデシルトリメチルアンモニウム=ブロミド
(TMAB)であることを特徴とする上記[1]又は上記[2]に記載の研磨用
組成物。
[4]:シリコンウェーハの研磨方法であって、上記[1]、上記[2]、又は上記
[3]に記載の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨することを特徴と
するシリコンウェーハの研磨方法。
[5]:シリコンウェーハを研磨するための研磨装置であって、前記研磨装置は、シリコ
ンウェーハを研磨するための研磨布、及び上記[1]、上記[2]、又は上記
[3]に記載の研磨用組成物を供給するための供給装置を有するものであること
を特徴とする研磨装置。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1…片面研磨装置、 2…溝、 3…ベース定盤、 4…研磨定盤、
5…研磨パッド、 6…研磨ヘッド、 7…ノズル。 W…ウェーハ。
【要約】
【課題】研磨(加工)速度を向上できる研磨用組成物及び研磨方法を提供することを目的とする。
【解決手段】研磨用組成物であって、砥粒として平均粒子径100nm以下のシリカ、及び陽イオン界面活性剤を含むものであり、かつ、前記研磨用組成物は、pHが9.0以上であり、かつ、ゼータ電位が±30mV以内のものであることを特徴とする研磨用組成物。
【選択図】
図1