(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】電池用活物質、電池用複合活物質、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20221227BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221227BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221227BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/587
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2022534955
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021116
(87)【国際公開番号】W WO2022009572
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2020116972
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】松木 光一郎
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/002602(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104466142(CN,A)
【文献】国際公開第2019/107336(WO,A1)
【文献】特開2018-106830(JP,A)
【文献】国際公開第2020/016280(WO,A1)
【文献】WILAMOWSKA, Monika et al.,Tailoring of SiOC composition as a way to better performing anodes for Li-ion batteries,Solid State Ionics,NL,Elsevier B.V.,2014年07月01日,Volume 260,p.94-100,DOI:10.1016/j.ssi.2014.03.021,Available online 16 April 2014
【文献】DUBEY, Romain J.-C. et al.,Silicon oxycarbide-antimony nanocomposites for high-performance Li-ion battery anodes,Nanoscale,英国,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY,2020年06月10日,12,p.13540-13547,DOI:10.1039/D0NR02930K
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 4/587
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、O、及びCを含む元素から構成される非晶質珪素系材料であり、
固体
29Si-NMRスペクトルのケミカルシフト20ppm~-150ppmの範囲において、SiO
2C
2及びSiO
3Cに帰属される各々ピーク積分値の合計値AとSiO
4に帰属されるピーク積分値Bとの比率(A/B)が0.5以上5.0以下であり
、
ラマンスペクトルにおいて、1595cm
-1付近の位置する炭素のG-バンドと、1320cm
-1付近に位置する炭素のD-バンドとのピーク強度比(G/D)が0.6以上0.8以下である電池用活物質。
【請求項2】
空気中で熱分解させたときの重量減少開始温度が550℃以上である請求項1記載の電池用活物質。
【請求項3】
空気中で熱分解させたときの重量減少量が2wt%以上30wt%以下である請求項1又は2記載の電池用活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の活物質を負極に含む二次電池。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の活物質を構成要素の一部に含む電池用複合活物質。
【請求項6】
請求項5記載の複合活物質の構成要素に、黒鉛、低結晶性炭素、及び非晶質炭素から選ばれる少なくとも1種の炭素材料を含む電池用複合活物質。
【請求項7】
請求項5又は6記載の複合活物質の構成要素に、平均粒径150nm以下の珪素粒子を含む電池用複合活物質。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の複合活物質を負極に含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si、O、及びCを含む元素から構成される非晶質珪素系材料である電池用活物質、これを含む電池用複合活物質、及びこれらを負極に含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯電子機器の普及に伴い、小型・高容量二次電池の需要が高まっている。その中でもリチウムイオン電池(LIBと表記する場合がある)などの二次電池は、電気自動車(EV)用途等への展開が急速に進められている。二次電池において、1回の充電で走行可能な距離(航続距離)は、電気自動車の性能をはかる重要項目である。電気自動車の性能を裏付けるものは搭載される電池性能であり、高容量、高効率、高容量維持率のことである。
【0003】
充放電容量においては従来型の炭素材料(黒鉛の理論容量:372mAh/g)に比べてスズ(理論容量:994mAh/g)、ケイ素(理論容量:4199mAh/g)は、理論容量が高いため多くの検討がなされている。しかしスズ系材料やケイ素材料は、充放電時に活物質の微粉化などが起きるため、充放電容量の低下が回避できない問題がある。問題解決策が数多く提案されてはいるが実用化には至らず、現在なお改善が続けられている。
【0004】
一方、容量においてはケイ素材料に劣るが、充放電時に生じる副反応挙動等に伴うリチウム吸蔵中の体積膨張等といった材料劣化現象の少ない材料として、ケイ素と炭素の直接結合を有する有機ケイ素化合物の高温焼成物が容量維持率の向上に寄与することが提案されている(下記特許文献1)。
【0005】
また、ケイ素(Si)と酸素(O)、炭素(C)からなる材料は、一定の充放電容量を保持しながら高い容量維持率の材料開発を行う提案も多くなされている。例えば、炭素質物相中に組成式SiOxCy(0.2≦x≦3、1≦y≦5)で示される組成物相が分散する粒子を用いる活物質(下記特許文献2)、架橋基を有する反応性シラン、シロキサンを硬化させた架橋物を不活性雰囲気下700~1400℃で焼結させた活物質(下記特許文献3)、ケイ素、炭素、酸素からなり、炭素含有量が0.2~10mol%、酸素含有量が0.5~40mol%、Si-C結合がケイ素原子に対して0.1~17.29mol%以下である活物質(下記特許文献4)等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-144474号公報
【文献】特開2003-197193号公報
【文献】特開2006-062949号公報
【文献】特開2009-283366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1-4に記載の二次電池における活物質では、充放電容量、初回クーロン効率(初回効率)とサイクル特性(容量維持率特性)を同時に改善できた材料がなく、特に放電容量が800mAh/g未満と推定され、ケイ素材料と比べて非常に放電容量が低いことが課題である。
【0008】
前記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、良好な初回クーロン効率とサイクル特性を維持した上、放電容量を例えば800mAh/g以上に向上させることができる電池用活物質、これを含む電池用複合活物質、及びこれらを負極に含む二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するため、鋭意検討した結果、Si、O、及びCを含む元素から構成される非晶質珪素系材料において、特定の微細構造を有する電池用活物質を含むことで前記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
項1.Si、O、及びCを含む元素から構成される非晶質珪素系材料であり、固体29Si-NMRスペクトルのケミカルシフト20ppm~-150ppmの範囲において、SiO2C2及びSiO3Cに帰属される各々ピーク積分値の合計値AとSiO4に帰属されるピーク積分値Bとの比率(A/B)が0.5以上5.0以下である電池用活物質。
項2. 前記活物質を空気中で熱分解させたときの重量減少開始温度が550℃以上である項1記載の電池用活物質。
項3. 前記活物質中を空気中で熱分解させたときの重量減少量が2wt%以上30wt%以下である項1又は2記載の電池用活物質。
項4. 前記活物質のラマンスペクトルにおいて、1595cm-1付近の位置する炭素のG-バンドと、1320cm-1付近に位置する炭素のD-バンドとのピーク強度比(G/D)が0.8以下である項1~3のいずれか1項に記載の電池用活物質。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載の活物質を負極に含む二次電池。
項6. 項1~4のいずれか1項に記載の活物質を構成要素の一部に含む電池用複合活物質。
項7. 項6記載の複合活物質の構成要素に、黒鉛、低結晶性炭素、及び非晶質炭素から選ばれる少なくとも1種の炭素材料を含む電池用複合活物質。
項8. 項6又は7記載の複合活物質の構成要素に、平均粒径150nm以下の珪素粒子を含む 電池用複合活物質。
項9. 項6~8のいずれか1項に記載の複合活物質を負極に含む二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電池用活物質を含有する負極を含む二次電池は、良好な初回クーロン効率とサイクル特性を維持でき、さらに放電容量を例えば800mAh/g以上に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における電池用活物質の固体
29Si-NMRスペクトルのチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<電池用活物質>
本発明の電池用活物質は、Si、O、及びCを含む元素から構成される非晶質珪素系材料であり、シリコンオキシカーバイド(SiOC)を主成分とし、Si、O、及びCの各元素による三次元ネットワーク構造で成っている。Siと結合する原子の種類(O、又はC)、及びそれぞれの原子との結合の数から、主に3種類に分けることができ、それぞれSiO2C2、SiO3C、及びSiO4と記すこととする。これらO及びCと様々な比率で結合したSiが、さらにランダムに結合したものがSiOCである。本発明の電池用活物質は、固体29Si-NMRスペクトルのケミカルシフト20ppm~-150ppmの範囲において、SiO2C2及びSiO3Cに帰属される各々ピーク積分値の合計値AとSiO4に帰属されるピーク積分値Bとの比率(A/B)が0.5以上5.0以下である。
【0014】
リチウムイオン二次電池の充放電過程において、炭素を活物質とする負極の場合を例にした場合、充電時には、炭素とリチウムイオンとが挿入反応により化学結合が生じ炭素がリチウムを補足する。放電時には、炭素に補足されたリチウムが、電子の放出によってリチウムイオンとなり、炭素から離れる脱離反応が行われる。この炭素とリチウムイオンとの挿入、脱離反応の繰り返し、つまり可逆的に反応が進行することによって充放電が行われる。本発明の活物質であるSiOCの場合、SiO2C2、SiO3C、及びSiO4其々がランダムに結合して一つの活物質を形成している。SiO2C2、SiO3Cとは、リチウムイオンとの挿入・脱離反応が可逆的に進行可能であるが、SiO4は、リチウムイオンの一部とシリケート化合物を生じるため、リチウムイオンの挿入、脱離反応が部分的に不可逆になることがある。
【0015】
さらに具体的に説明を加えると、SiOCは、リチウムイオンの接近によりSiOC内部の電子分布の変動が生じ、SiOCとリチウムイオンの間に静電的な結合や配位結合などが形成されるため、リチウムイオンがSiOCの骨格中に貯蔵される。そしてこれらの配位結合エネルギーは比較的低いため、リチウムイオンの脱離反応が容易に行われる。つまりSiOCが充放電の際にリチウムイオンの挿入・脱離反応を可逆的に起こすことができる。従って、我々はこのメカニズムを捉えることによって、SiO4の存在量に対するSiO2C2、SiO3C、それぞれの存在量の合計値が可逆容量の改善に強く寄与し、その合計値が多いほど、可逆容量が向上し、初回クーロン効率が改善できることを見出すに至った。
【0016】
一方、SiO4の存在量が多い場合、SiOCとリチウムイオンの間に静電的な結合や配位結合などを形成する際、SiO4とリチウムイオンとの化学反応を容易に起し、化学安定性の高いケイ酸リチウム化合物が生じるため、一部のリチウムイオンが前記のSiO4に固定される。
【0017】
従って、前記メカニズムからSiO4の存在量を削減することにより、前記ケイ素材料の可逆充放電容量を向上させることができる。しかし、SiO4のように、Siとの結合が全てO原子である場合、Si-Cの結合が1つでも存在する場合に比べて化学結合エネルギーが高く、リチウムイオンがSiO4から脱離しなくとも、ケイ素材料の骨格構造を保持する働きがあると考えられ、SiOCが活物質の容量維持率の向上面で大きく寄与することに繋がる。よって本発明のSiOC活物質において、SiO4は必要不可欠な構造である。
【0018】
つまりSiO2C2、SiO3C、それぞれの存在量の合計値が、SiO4の存在量に対して、大きい方が可逆充放電容量の向上に繋がるが、大きすぎるとサイクル特性の向上が阻害されることになる。その反面、小さい方がサイクル特性は向上するが、小さすぎると可逆充放電容量の向上が阻害されることになる。このような性質を有している材料がゆえに、後述するような具体的なSiO2C2、SiO3C、それぞれの存在量の合計値と、SiO4の存在量の比率が極めて重要な因子となる。そしてSiO2C2、SiO3C、及びSiO4それぞれの存在量は、固体29Si-NMR測定により定量可能である。
【0019】
本発明の非晶質珪素系材料の構造は、
29Si-固体NMRの測定で同定することができる。該材料の固体
29Si-NMRスペクトルにおいて、ケミカルシフト20ppm~-150ppmの範囲にSiO
2C
2、SiO
3Cに帰属される各々ピーク積分値の合計値Aと、SiO
4に帰属されるピーク積分値Bとの比率(A/B)が0.5以上5.0以下である範囲を示す活物質である。本発明の電池用活物質における固体
29Si-NMRスペクトルの一例を
図1に示す。
【0020】
前記固体
29Si-NMRスペクトルでは、
図1に例示したように、SiO
2C
2、SiO
3C、及びSiO
4に帰属されるピークのケミカルシフトは、おおよそそれぞれ-20ppm~-50ppm、-50ppm~-90ppm、-90ppm~-140ppmに観測されるものである。しかし、それぞれのピークは、SiOCが存在する周囲の環境状態等によりケミカルシフトは変化するため、種々の条件を鑑みたうえで固体
29Si-NMRスペクトルを解析した結果、SiO
2C
2、SiO
3C、及びSiO
4と帰属されるピークのことを示しており、前述したケミカルシフトの値の範囲内に必ず存在すると限定されるものではなく、種々のサンプルの状態、測定条件から正しく帰属されたピークのそれぞれの積分値を算出することで、前記比率(A/B)を求めることができる。固体
29Si-NMRスペクトルにおけるそれぞれの積分値は、非晶質珪素系材料におけるそれぞれのモル比を表す。よって、前記比率(A/B)は、SiO
4、1モル比に対するSiO
2C
2、及びSiO
3Cの合計モル比を意味する。前記比率(A/B)が、つまりモル比が0.5以上5.0以下であることで良好な初回クーロン効率とサイクル特性を維持でき、さらに放電容量を例えば800mAh/g以上に向上させることができる。
【0021】
また、前記29Si-固体NMRスペクトルからは、SiC4、及びSiOC3のピークが40ppm~-20ppmに現れる場合がある。各々のピークは、SiC4が10ppm~-20付近に、SiOC3は40ppm~-20ppm付近に現れる。このようにピークが重複している領域があり、正確に定量値を明示することが29Si-固体NMRスペクトルからは困難である。さらに、SiC4は、リチウムイオンと挿入・脱離反応しないことが知られている。SiOC3は、リチウムイオンと挿入・脱離反応するが、一般的に存在量は少ない。理想的には、SiOC3のピーク積分値を前記合計値Aに加え、SiC4のピーク積分値を前記合計値Bに加える等によって範囲を明示し、充放電特性の向上条件として可能であることが容易に考えられる。しかし、前記理由よりSiC4、及びSiOC3のピーク積分値を考慮することは現実的ではないため、前述のようにSiO2C2、SiO3Cに帰属される各々ピーク積分値の合計値Aと、SiO4に帰属されるピーク積分値Bとの比率(A/B)が0.5以上5.0以下の範囲と定めた。
【0022】
(前駆体)
前述のSiOCは、前述のSiOC前駆体であるシラン化合物を不活性ガス雰囲気中で焼成することにより形成することができる。該シラン化合物は、Si-O結合、及びSi-C結合を基本構造とする分子構造で構成されている。該前駆体の分子構造の設計・調整を行うことで、不活性ガス雰囲気中での高温焼成後のSiOCの骨格構成をコントロールすることができ、前駆体分子構造と密に相関するSiOC骨格を有する構造体が得られる。
【0023】
前記前駆体は、Si-O結合、及びSi-C結合を含む分子構造であることが好ましく、Si-O結合とSi-C結合は同一分子内であることがより好ましい。
【0024】
一例を示すと、下記一般式(S-1)および/または下記一般式(S-2)、および/または下記一般式(S-3)、および/または下記一般式(S-4)、および/またはこれら下記一般式の組合せを含む構造単位を有するものが好ましい。
【化1】
(S-1)
【化2】
(S-2)
【化3】
(S-3)
【化4】
(S-4)
(前記一般式(S-1)、(S-2)、(S-3)、(S-4)において、R1、R2、R3、R4、R5、R6は全て一価の置換基であり、例示すると、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、加水分解性基、脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素類、アラルキル基、アシル基、又は以下の官能基を有する一価の置換基(官能基はビニル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、グリシジル基、チオール基)を表す。X1、X2、X3、X4、X5、X6は全て二価の置換基であり、それぞれ独立して、酸素原子、アルキレン類、アルケン類、アルキン類、二価の芳香族類、エーテル類、ケトン類、エステル類、2級アミン類、アミド類、またはこれらを組み合わせた二価の置換基を示す。l、m、x、yは0以上の整数を示す。)
なお、前記一般式(S-1)、(S-2)、(S-3)、(S-4)中のR1やX1等の記号で示す基は、複数有する場合、それぞれ独立し、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
前記加水分解性基としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシル基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロイル基等のアルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基、アントラセノキシ基、ペンタセノキシ基、アリルオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基等が挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0026】
これらの基が加水分解されることにより加水分解性シリル基は縮合反応によりシロキサン結合の形成、又は未反応部分はそのまま、もしくは水酸基となる。前記熱硬化反応と並行して、水酸基や未反応加水分解性基間で加水分解縮合反応が進行することで、固体状のポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0027】
前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基等の炭素原子数1~30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。また、シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数3~30のシクロアルキル基が挙げられる。中でもシクロアルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましい。
【0028】
前記不飽和炭化水素基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等の炭素数2~30のアルケニル基、後述する官能基を有する一価の置換基と重複するが、ビニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、中でもビニル基、アリル基が好ましい。
【0029】
前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、スチリル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等の炭素原子数6~30のアリール基が挙げられる。中でも芳香族炭化水素基としては、フェニル基が好ましい。
【0030】
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。ベンジル基が好ましい。前記アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基等の脂肪族モノカルボン酸系アシル基、及び、ベンゾイル基、シンナモイル基等の芳香環含有アシル基が挙げられる。脂肪族モノカルボン酸系アシル基が好ましく、アセチル基がより好ましい。
【0031】
前記官能基を有する一価の置換基における該官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、グリシジル基、チオール基が挙げられる。具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、(メタ)アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、アミノオキシプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルオキシプロピルメチルジアルコキシシラン、エポキシシクロヘキシルトリアルコキシシラン、チオールプロピルトリアルコキシシラン、p-スチリルトリアルコキシシランが挙げられる。該官能基は、ポリシロキサンセグメント中に2個以上存在することが好ましく、3~200個存在することがより好ましく、3~50個存在することが更に好ましい。該官能基を2個以上存在させた状態で、熱分解前にポリシロキサン化合物を加熱処理することにより、架橋反応が進行し、固体状とすることにより、熱分解処理を容易に行うことができる。
【0032】
前記2価の置換基としては、前述のように酸素原子、アルキレン類、アルキン類、2価の芳香族類、及び、エーテル類、ケトン類、エステル類、2級アミン類、アミド類を有する2価の置換基が挙げられる。其々具体例を挙げると、アルキレン類はメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、シクロヘキシレン等、アルキン類はビニレン、イソプレン、ブテン、ブタジエン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン等のアルケン、エチン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシン等、2価の芳香族類としてフェニレン、ビフェニレン、アルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、アルキニルベンゼン、ジアルキニルベンゼン、ナフチレン等を挙げることができる。中でもアルキレン類、アルケン類、2価の芳香族類が好ましく、エチレン、フェニレンが特に好ましい。
【0033】
該前駆体は、公知の方法で製造できるが、以下(1)、(2)、(3)として好ましい幾つかの製造方法を例示する。但し、製造方法はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(1)前記した1つ以上の置換基と、1つ以上の加水分解性基を有するシラン化合物を1種類以上と、必要に応じて触媒存在下、有機溶媒中で加水分解縮合反応を行うことによって前駆体としてのシラン化合物を製造する方法。
前記触媒は、加水分解性基がハロゲンの場合は無触媒、アルカリ金属水酸化物、アミン類等が好ましい。他の加水分解性基の場合は、酸性触媒、又はアルカリ性触媒が好適に使用でき、酸性触媒としては、リン酸、塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸等が好ましく、アルカリ触媒としては、アミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、が好ましい。
【0035】
(2)前記した置換基とヒドロキシシリル基を有するシロキサン化合物と、前記した置換基とビニルシリル基、或いはアリルシリル基等を有するシロキサン化合物を塩化白金、有機白金錯体等の白金触媒を用い、有機溶媒中でシリル化反応を行うことによって前駆体としてのシラン化合物を製造する方法。
【0036】
(3)前記した置換基と加水分解性基、及びヒドロキシシリル化合物と、前記した置換基と加水分解性基、及びビニルシリル基、或いはアリルシリル基等を有するシラン化合物を、塩化白金、有機白金錯体等の白金触媒を用い、有機溶媒中でシリル化反応を行った後、加水分解反応を行う為に、前述した酸性触媒、又はアルカリ触媒を用いてシロキサン結合を形成させることによって前駆体としてのシラン化合物を製造する方法。
前記溶媒は芳香族類、アルコール類、ケトン類、エステル類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、アミド類、ニトリル類、スルフィド類等が好ましい。特にトルエン、キシレン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピペリジン、ピリジン、ピロール、イミダゾール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジン、メチルピロリドン、アセトニトリル、ジメチルスルオキシドがより好ましい。
【0037】
(フリー炭素F)
本発明の電池用活物質において、非晶質珪素系材料は、SiOC骨格構造等とともに炭素のみで構成される骨格部分を有し、一部の炭素原子がSiOC骨格中の一部のSi原子と結合しており、フリー炭素と呼ばれ、充放電特性に影響を与える成分である。以下、該フリー炭素をフリー炭素Fと記す。フリー炭素Fは、SiO2C2,SiO3C、及びSiO4で構成されるSiOCの集合体中に形成しているものであり、該SiOCの一部のSi原子と結合しているためSiOC内部、及び表面のSi原子とフリー炭素F間の電子伝達がより容易となる。このため充放電時のリチウムイオンの挿入・離脱反応が速やかに進行し、SiOC活物質の充放電特性が向上すると考えることができる。また、リチウムイオンの挿入・脱離反応によって、SiOC活物質は僅かではあるが膨張・収縮することがあるが、フリー炭素Fがその近傍に存在することで活物質全体の膨張・収縮が緩和され、サイクル特性を大きく向上させる効果がある。
【0038】
前記フリー炭素Fは、前駆体シラン化合物の不活性ガス雰囲気中の熱分解に伴い形成したものである。前記フリー炭素Fは、具体的にはシラン化合物の分子構造中にある炭化可能な部位、及び置換基等が不活性化する雰囲気中で高温熱分解によって炭素成分となり、これらの一部の炭素がSiOC骨格の一部と結合している特徴がある。前記炭化可能な成分は、特に限定されないが、炭化水素が好ましく、アルキル類、アルキレン類、アルケン類、アルキン類、芳香族類がより好ましく、さらに芳香族類であることが好ましい。
【0039】
前記フリー炭素Fの量は、活物質の充放電特性に対して重要なパラメータである。その炭素量が不十分であれば、導電性に劣り、充放電特性が悪化することがある。一方、フリー炭素Fの炭素量が多すぎると、フリー炭素F自体の理論容量が低いため、活物質全体の充放電容量が低下する。
【0040】
前記フリー炭素Fの存在状態は、熱分析(TG-DTA)で同定することが可能である。SiOC骨格中のC原子と異なり、フリー炭素Fは、大気中で熱分解されやすく、空気存在下で測定した熱重量減少量により全フリー炭素の存在量を求めることができる。つまり全フリー炭素量は、熱重量示差熱分析装置Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer(TG-DTA)を用いることで定量できる。また、該測定からの熱重量減少挙動より得られる熱分解温度挙動(分解反応開始温度、分解反応終了温度、熱分解反応種の数、各熱分解反応種における最大重量減少量の温度など)の変化も容易に把握でき、これらの温度値を用いてフリー炭素Fの状態を判断することができる。一方、SiOC骨格中のC原子、つまり前記SiO2C2、SiO3C、及びSiO4を構成するSi原子と結合している炭素原子は、非常に強い化学結合を有するために熱安定性が高く、熱分析装置測定温度範囲において大気中で熱分解されることがないと考えられる。また、前記前駆体の有機シラン化合物を不活性ガス雰囲気中の熱分解により形成されるフリー炭素Fは、ハードカーボンと類似する特性を有しているため、大気中において約550℃~900℃の温度範囲に熱分解されることに伴い、急激な重量減少が発生する。TG-DTAの測定条件の最高温度は特に限定されないが、全フリー炭素の熱分解反応を完全に終了させるために、大気中、室温(約25℃)から1000℃以上までの条件下でTG-DTA測定を行うのが好ましい。
【0041】
本発明の電池用活物質は、一定量以上のフリー炭素Fを含む場合、該活物質を空気中で熱分解させたときの熱重量減少開始温度が550℃以上となることが好ましい。また、フリー炭素Fを含む場合、前述の理由により熱重量減少量が2wt%以上30wt%以下であることが好ましく、3wt%以上25wt%以下であることがより好ましい。
【0042】
前記活物質がフリー炭素Fを有する場合、前記熱分析手段のほか、ラマン分光測定によってフリー炭素の状態を把握することができる。ラマン分光スペクトルにおいて、1590cm-1付近の位置する炭素のG-バンド(グラファイト長周期炭素格子構造)と、1350cm-1付近に位置する炭素のD-バンド(乱れや欠陥のあるグラファイト短周期炭素格子構造)とのピーク強度比G/Dが0.8以下であることが好ましく、0.6以上0.8以下であることがより好ましい。G/Dがこの範囲であると、フリー炭素の長周期構造と短周期構造の構成バランスがとれた状態となり、前記SiOC3、SiO2C2,SiO3C、及びSiO4とフリー炭素間の電子伝達が促進されるため好ましい。
【0043】
<電池用複合活物質>
本発明の電池用複合活物質は、本発明の電池用活物質を構成要素の一部に含む限り特に制限されないが、構成要素としてさらに、一般的に電池の負極材に使用される黒鉛、低結晶性炭素、及び非晶質炭素から選ばれる少なくとも1種の炭素材料を、焼成前、又は焼成後に混合させることが好ましい。これら種々の炭素材料を含むことで、それぞれの特性に応じて選択でき好ましい特性を発現できる。一例として、黒鉛等の結晶性の高い炭素材料と複合化させた場合は、初回クーロン効率、サイクル特性(寿命)、及び容量維持率を向上させるため好ましい。これらの炭素材料の割合は、複合活物質全量に対して、例えば1~80重量%、好ましくは5~60重量%である。
【0044】
(フリー炭素G)
前記黒鉛、低結晶性炭素、及び非晶質炭素から選ばれる少なくとも1種の炭素材料は、前述のような特性を有し、該活物質において、単独炭素成分、すなわちフリー炭素としての振る舞いをする。しかし該フリー炭素は、SiOC中のSi原子との結合を有せず、前記フリー炭素Fで述べたフリー炭素中の一部の炭素原子が、SiOC中の一部のSi原子と結合し、SiOCと密接な存在を形成する炭素成分とは異なる。そのため、以下、SiOC中のSi原子との結合を有さないフリー炭素をフリー炭素Gと記す。該フリー炭素Gは、活物質全体の抵抗率低減化効果により、前述のように初回クーロン効率や容量維持率を向上させる。但し前述のフリー炭素Fの特性と比較すると、SiOC活物質の充放電特性改善においては限定的効果と成らざるを得ない。しかし、SiOC中の一部のSi原子と結合したフリー炭素Fの存在を前提として、さらにフリー炭素Gを組合わせることによって、充放電特性をより向上させる炭素成分として重要である。
【0045】
((SiOC/炭素源樹脂/Si)3成分系)
本発明の電池用複合活物質は、本発明の電池用活物質を構成要素の一部に含む限り特に制限されないが、構成要素として前述したような炭素材料を含むことが好ましく、該炭素材料を含有させる方法として前述のように該炭素材料を直接混合させる方法以外に、焼成することによって該炭素材料となるような炭素源樹脂を焼成前に混合・分散させてもよい。該炭素源樹脂は、ポリシロキサン化合物との混和性が良く、また不活性雰囲気中で高温焼成により炭化されることがあれば特に限定されないが、芳香族官能基を有する合成樹脂類や天然原料等を用いることが好ましい。合成樹脂としては、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。安価入手や不純物排除の観点からフェノール樹脂の使用がより好ましい。
【0046】
本発明の電池用複合活物質では、構成要素として平均粒径[体積平均粒子径(D50)]150nm以下の珪素(0価)粒子を含んでいてもよい。このような珪素粒子を含むことにより、前述のように活物質の初期充放電性能(充放電容量、初回クーロン効率)を向上させる効果がある。珪素粒子の平均粒径(D50)は、活物質のサイクル特性との相関性があるため、好ましくは10~150nm、さらに好ましくは15~120nmである。珪素粒子の平均粒径は、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置などを用い動的光散乱法により測定することができる。150nmを超える大きいサイズの珪素粒子は、大きな塊となり、充放電時に微粉化現象が起やすいため、活物質の充放電性能が低下する傾向が想定される。また、10nm未満の小サイズの珪素粒子は細かすぎるため、シリコン粒子同士が凝集しやすくなる傾向がある。そのため、活物質中へ小粒子シリコンを均一に分散させるのが困難となり、また、微小粒子の表面活性エネルギーが高いゆえにシリコン粒子の表面も酸化されやすくなり、活物質の高温焼成で小粒子シリコンの表面上に副生成物などが多くなる傾向もあり、これが充放電性能の大幅な低下に繋がる。
【0047】
本発明の電池用複合活物質に含むことができる珪素粒子の形状は、特に制限されるものではないが、一例としてシート形状を有することが好ましく、また長軸方向の長さが50~300nm、且つ厚みが1~60nmであることが好ましい。本発明においてシート形状とは、特に厚み/長さ(いわゆるアスペクト比)が0.5以下であることをいう。アスペクト比が0.5を超える大サイズの珪素粒子は、大きな塊となり、充放電時に微粉化現象が起やすいため、活物質の充放電性能が低下する傾向が想定される。
【0048】
シート形状を有する珪素粒子の形態は、動的光散乱法で平均粒径の測定が可能であるが、透過型電子顕微鏡(TEM)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の観察、及び解析手段を用いることで、前述の厚み/長さ等の、サンプルの形態(サイズ、形状など)をより容易かつ精密に観察することができる。なお、シート状シリコンナノ粒子を内包した負極活物質粉末の場合は、サンプルを集束イオンビーム(FIB)等で切断して断面をFE-SEM観察することができ、またはサンプルをスライス加工してTEM観察によりシリコン粒子の状態を観察することができる。本発明に定められる珪素粒子のサイズ範囲は、TEM画像に映る視野内のサンプルの主要部分50粒子をベースにした計算結果である。観察視野の限界もあるゆえ、本発明における珪素粒子が前述の範囲から外れるサイズを有しても構わない。また、前記珪素粒子としては、シリコン純度が97%以上のものが好ましく、99.0%以上がより好ましい。
【0049】
本発明の電池用複合活物質の構成要素として、前記炭素材料、及び前記珪素粒子を含む場合において、該炭素材料を前駆体中に炭素源樹脂として含有させるときは、前駆体の全重量に対して、珪素粒子の添加量を3~50質量%、シラン化合物の固形分を15~85質量%含有し、炭素源樹脂の固形分を3~70質量%に設定することが好ましく、珪素粒子の固形分添加量を8~40質量%、シラン化合物の固形分を20~70質量%に、炭素源樹脂の固形分を3~60質量%に設定することがより好ましい。
【0050】
(負極)
本発明の二次電池において負極は、本発明の電池用活物質または本発明の電池用複合活物質を必須成分として、必要に応じてその他の有機結着剤(バインダ)、導電助剤などの成分を含んで構成されるスラリーを集電体銅箔上へ塗布して薄膜とすることにより得られる。
【0051】
<二次電池>
本発明の二次電池は、本発明の電池用活物質または本発明の電池用複合活物質を負極に含む限り特に制限はされない。本発明の二次電池は、通常、正極および前記負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群等としたりし、これら極板群を電解液とともに外装体中に封入した構造である。本発明の二次電池は、例えば、湿式電解質二次電池に用いる場合、正極と、本発明の負極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより構成することができる。この構成に従って二次電池を組み立てることにより本発明の二次電池を製造することができる。
【0052】
こうして得られる負極を有する本発明の二次電池は、本発明の電池用活物質(又は本発明の電池用複合活物質)を含むことから、特に本発明の電池用活物質または本発明の電池用複合活物質を含む負極は、リチウムイオン二次電池に使用することにおいて良好な初回クーロン効率とサイクル特性を維持でき、さらに放電容量を例えば800mAh/g以上(ハーフセル測定電圧範囲:0.01-1.5V)に向上させることができる。
【0053】
<電池用活物質の製造方法>
本発明の電池用活物質は、特に限定されないが、例えば、前記シラン化合物が有機溶剤中に溶解されている場合、該有機溶剤を脱溶媒及び乾燥することで前駆体を得る工程(前駆体の製造)、得られた前駆体を不活性雰囲気中で焼成することにより焼成物を得る工程(前駆体の焼成)、及び得られた焼成物を粉砕することで活物質を得る工程(活物質の製造)により製造することができる。
【0054】
(前駆体の製造)
前記の前駆体を得る工程では、前記シラン化合物有機溶剤の脱溶剤、及び乾燥を行う。有機溶媒を溜去することを目的とする脱溶剤と乾燥の作業では、ロータリーエバポレータ、減圧又は常圧留去可能なガラス、又は金属等で加熱部、冷却部等を有し、加熱機能、冷却機能、圧力制御機能等の部品を組み立てた装置等を用いて行い、乾燥作業では、熱風乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機等を用いることができる。
【0055】
本発明の電池用複合活物質の構成要素として、前記炭素材料や、前記珪素粒子を含む前駆体製造において、前記シラン化合物と混合する工程が必要となるが、その手段においてはいかなる方法を用いてもよく、さらに該工程が脱溶剤前、脱溶剤後のどちらの工程で行われても何ら問題はなく、特に限定されるものではない。代表例として、乾式法や湿式法等があるが、乾式法、湿式法問わず、攪拌、振り混ぜ、振動、気体の封入等による流動攪拌、その他種々の方法で行ってよい。湿式法においてはさらに種々の分散方法を用いることができる。代表例としては、ディスパー、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、フィルミックス、超音波ホモジナイザー、等を挙げることができる。さらにいかなる分散剤や、分散助剤を用いることも可能であり、その場合の分散手段においても、前記分散方法を用いることができる。
【0056】
(アルカリ金属化合物の添加)
前記前駆体のシラン化合物に、アルカリ金属やアルカリ土類金属化合物を加えてもよい。アルカリ金属やアルカリ土類金属化合物としては、特に限定されないが、例えばリチウムやマグネシウム金属化合物が挙げられる。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属化合物をハロゲン類化合物や有機錯体化合物などとして加えても構わない。前記アルカリ金属やアルカリ土類金属化合物と前記シラン化合物を混合させることで、高温焼成で得られる活物質SiOCの骨格中に存在する電気化学反応の不可逆反応は、アルカリ金属やアルカリ土類金属化合物と反応・化学結合することがあるため、不可逆反応の相対量が低減することに伴い、初回クーロン効率が向上する効果が得られる。
【0057】
(前駆体の焼成)
前記焼成物を得る工程は、前記で得られた前駆体を不活性雰囲気中で、高温焼成する工程である。つまり、前駆体の焼成では、熱分解可能な有機成分を完全分解させ、その他の主成分を焼成条件の精密制御により前記活物質、又は前記複合活物質に適した焼成物を得る。詳細には、前記前駆体シラン化合物中に存在するSi-O、Si-C等といった結合の分解反応による、Si、C、Oのラジカル末端や、反応性配位結合等といった反応性活性化部位の生成、及び該反応性活性化部位が引き起こす反応によって新たに生成するSi-O、Si-C等の結合の構築によって、SiOC骨格構造を形成する。さらに炭素源樹脂を含む場合、均一化分散されていた炭素源樹脂も炭化されることで、SiOC骨格を有する三次元構造体中においてフリー炭素Gに転化される。
【0058】
(焼成条件)
焼成条件は、特に制限されないが、不活性雰囲気下、約600℃以上で処理することが好ましい。一般的に焼成は、装置のプログラム設定に沿って加熱することにより行われるものである。焼成における最高到達温度は、設定する最高温度であり、焼成物の構造や性能に強く影響を与えるものである。最高到達温度は1000℃~1300℃であることが好ましく、より好ましくは1050℃~1250℃である。この温度範囲で焼成することにより、非晶質珪素系材料における化学結合状態をより微細化することができ、より優れた充放電特性が得られる。
【0059】
焼成方法は、特に限定されないが、雰囲気中にて加熱機能を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能である。焼成用装置については、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。
【0060】
焼成は、酸化性ガスが含有しない雰囲気下で行うことが好ましく、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気、または窒素/水素の混合ガス、純水素、一酸化炭素などの還元性雰囲気で行うことが好ましい。
【0061】
(予備酸化処理)
また、前記の前駆体の焼成の前に、予備酸化処理を行っても良い。この予備酸化処理により、シラン化合物の有機成分がより効率よく熱分解されるほか、特定化学結合部分を活性化させることもできる。さらに、珪素を含む場合には、珪素の表面上に薄い酸化膜を付与させることができる。また、電池に用いられるときに電解液に対する化学安定性が高くなり、珪素表面の暴露を防ぐことができ、電解液の分解を抑制する効果もある。このため予備酸化処理を行うことで活物質のサイクル特性を向上させることができる。予備酸化処理条件については、大気中、200℃~450℃の温度範囲が好ましく、250℃~400℃がより好ましい。
【0062】
(活物質の製造)
活物質を得る工程は、前記で得られた焼成物を粉砕し、必要に応じて分級することで活物質を得るものである。粉砕は目的とする粒径まで一段で行っても良いし、数段に分けて行っても良い。例えば焼成物が10mm以上の塊または凝集粒子となっていて、10μmの活物質を作製する場合はジョークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕を行い1mm程度の粒子にした後、グローミル、ボールミル等で100μmとし、ビーズミル、ジェットミル等で10μmまで粉砕する。粉砕で作製した粒子には粗大粒子が含まれる場合がありそれを取り除くため、また、微粉を取り除いて粒度分布を調整する場合は分級を行う。使用する分級機は風力分級機、湿式分級機等目的に応じて使い分けるが、粗大粒子を取り除く場合、篩を通す分級方式が確実に目的を達成できるために好ましい。
【0063】
<負極の製造方法>
本発明の二次電池において負極は、本発明の電池用活物質または本発明の電池用複合活物質を必須成分として、必要に応じてその他の有機結着剤(バインダ)、導電助剤などの成分を含んで構成されるスラリーを集電体銅箔上へ塗布して薄膜とすることにより得られる。本発明の二次電池における負極は、例えば、前述の電池用活物質または本発明の電池用複合活物質と、有機結着材であるバインダとを、溶剤とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで得ることができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも得ることができる。
【0064】
(有機粘着剤:バインダ)
前記有機結着剤(バインダ)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR);エチレン性不飽和カルボン酸エステル(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、およびエチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等)からなる(メタ)アクリル共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの高分子化合物が挙げられる。前記有機結着剤としては、化学安定性が高い水性バインダも採用することができる。
【0065】
これらの有機結着剤(バインダ)は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。リチウムイオン二次電池負極の負極層中の有機結着剤の含有比は、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、3~15質量%であることがさらに好ましい。
【0066】
有機結着剤(バインダ)の含有比が1質量%以上であることで密着性が良好で、充放電時の膨張・収縮によって負極構造の破壊が抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗の上昇が抑えられる。
【0067】
(導電助剤)
また、前記負極材スラリーには、必要に応じて、導電助剤を混合してもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の電池用活物質(又は本発明の電池用複合活物質)全量に対して1~15質量%程度とすればよい。
【0068】
(集電体)
前記集電体の材質および形状については、特に限定されず、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0069】
前記負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
【0070】
前記集電体上に形成された負極層および集電体と一体化した負極層は、用いた有機結着剤に応じて熱処理することが好ましい。例えば、公知慣用されている水系のスチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR)などを用いた場合には100~130℃で熱処理すればよく、ポリイミド、ポリアミドイミドを主骨格とした有機結着剤を用いた場合には150~450℃で熱処理することが好ましい。
【0071】
この熱処理により溶媒の除去、バインダの硬化による高強度化が進み、粒子間及び粒子と集電体間の密着性が向上できる。尚、これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0072】
また、熱処理する後に、負極はプレス(加圧処理)しておくことが好ましい。本発明の電池用活物質(又は本発明の電池用複合活物質)を用いた負極では、電極密度が1.0~1.8g/cm3であることが好ましく、1.1~1.7g/cm3であることがより好ましく、1.2~1.6g/cm3であることがさらに好ましい。電極密度については、高いほど密着性及び電極の体積容量密度が向上する傾向があるが、密度が高すぎると、電極中の空隙が減少することで珪素など体積膨張の抑制効果が弱くなるためサイクル特性が低下する。
【0073】
<正極>
前記正極は、前記負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0074】
前記正極層に用いる正極材料としては、特に制限されない。非水電解質二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池を作製する場合には、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用いればよく、特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、およびこれらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。
【0075】
<セパレータ>
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製する非水電解質二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0076】
<電解液>
前記電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
【0077】
<二次電池>
本発明の二次電池は、特に限定されないが、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。前述した本発明のリチウムイオン二次電池負極活物質は、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタ、固体リチウム二次電池などにも適用することが可能である。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明の電池用活物質を実際に作製、評価した一部の代表例を紹介するが、前述のように該作成、評価方法はこれらに限るものではない。
【0079】
(合成例1:ポリシロキサン前駆体の合成)
トリメトキシメチルシラン(MeSi(OMe)3)21.8g、ジメトキシジフェニルシラン(Ph2Si(OMe)2)9.8gを用い、イソプロピルアルコール(IPA)34gの混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら70℃に加温した。温度が安定したところで純水4.2gと、1%りん酸エステルのIPA溶液0.17gを加え4時間反応させた。その後130℃まで加熱し、IPAと水が完全になくなるまで留去することでポリシロキサン前駆体を得た。ポリシロキサン前駆体における各シロキサンの割合(モル%)は、表3に記載のとおりである。
【0080】
(合成例2~7:ポリシロキサン前駆体の合成)
前記合成例1において、トリメトキシメチルシラン(MeSi(OMe)3)とジメトキシジフェニルシラン(Ph2Si(OMe)2)を、トリメトキシメチルシラン(MeSi(OMe)3)、トリメトキシフェニルシラン(PhSi(OMe)3)、ジメトキシジメチルシラン(Me2Si(OMe)2)、ジメトキシジフェニルシラン(Ph2Si(OMe)2)に代えて、各々の重量を表1に記した値としたこと以外は、全て合成例1と同様に行った。ポリシロキサン前駆体における各シロキサンの割合(モル%)は、表3に記載のとおりである。
【0081】
(合成例8~9:前駆体の合成)
前記合成例1において、トリメトキシメチルシラン(MeSi(OMe)3)とジメトキシジフェニルシラン(Ph2Si(OMe)2)、イソプロピルアルコール(IPA)の混合液を、ヒドロキシシランを有するポリジメチルシロキサン(SiH含有PDMS)、1,3,5,7-テトラメチル 1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,4-ビス(ジメチルビニルシリル)ベンゼンに代えて、各々の重量を表2に示した値とし、トルエン34gとの混合液に代えたこと以外は全て合成例1と同様に行った。ポリシロキサン前駆体における各シロキサンの割合(モル%)は、表3に記載のとおりである。
【0082】
(比較合成例1、2:ポリシロキサン前駆体の合成)
前記合成例1において、トリメトキシメチルシラン(MeSi(OMe)3)とジメトキシジフェニルシラン(Ph2Si(OMe)2)を、トリメトキシメチルシラン(MeSi(OMe)3)、トリメトキシフェニルシラン(PhSi(OMe)3)に変えて、各々の重量を表2に記した値とした以外は全て合成例1と同様に行った。ポリシロキサン前駆体における各シロキサンの割合(モル%)は、表3に記載のとおりである。
【0083】
(比較合成例3、4:前駆体の合成)
前記合成例8において、ヒドロキシシランを有するポリジメチルシロキサン(SiH含有PDMS)、1,3,5,7-テトラメチル 1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,4-ビス(ジメチルビニルシリル)ベンゼンの重量を表2に示した値としたこと以外は全て合成例8と同様に行った。ポリシロキサン前駆体における各シロキサンの割合(モル%)は、表3に記載のとおりである。
【0084】
【0085】
【0086】
(実施例1~9、比較例1~4:活物質の作製)
合成例1~9及び比較合成例1~4で得られた各シラン化合物の前駆体を窒素気流下、800℃で2時間焼成後、さらに窒素気流下、1100℃で6時間焼成した。これを乳鉢で粉砕した後、さらにビーズミルで5~10μm程度になるように粉砕して、各活物質を得た。
【0087】
(実施例10:前駆体複合物、及び活物質の作製)
合成例2において、反応終了後の反応液を、減圧下70℃でIPA、水を留去、濃縮し、NV60%で処理を終了した。該濃縮液100gに、平均粒径1ミクロンの人造黒鉛粉末を30g加え、ディスパーで分散させた。その後110℃で溶媒を完全に留去した後110℃で真空乾燥し、黒鉛を含むポリシロキサン前駆体を得た。
該前駆体を窒素気流下、800℃で2時間焼成後、さらに窒素気流下、1100℃で6時間焼成した。これを乳鉢で粉砕した後、さらにビーズミルで5~10μm程度になるように粉砕して、各活物質を得た。
【0088】
(実施例11:前駆体複合物、及び活物質の作製)
実施例10において合成後の濃縮液100gに、平均粒径1ミクロンの黒鉛粉末30gを加えた混合液に、平均粒径100nmのSi粒子市販品10g加えたこと以外は全て実施例10と同様に行った。
【0089】
(比較例5)
実施例10において用いた合成例2の反応液に変えて、比較合成例3における反応終了後の反応液を用いたこと他は全て実施例10と同様に行った。
【0090】
(比較例6)
実施例11において用いた合成例2の反応液に変えて、比較合成例3における反応終了後の反応液を用いたこと他は全て実施例11と同様に行った。
【0091】
(29Si-NMRの測定及び解析方法)
実施例1~12、及び比較例1~6の各活物質のサンプルを、φ4mm 固体 NMR 試料管に採取し、固体NMR分析装置(JEOL RESONACE製、JNM-ECA600)にて、シングルパルス測定した。得られた固体29Si-NMRスペクトルデータをDelta5にてフーリエ変換したデータを、ACD LabsソフトウェアにてGauss +Lorentz関数を用いて波形分離を行った。波形分離にて得られたピーク面積を元に、ケミカルシフト20ppm~-150ppmの範囲にSiOC3、SiO2C2、SiO3Cに帰属される各々ピーク積分値の合計値Aと、SiO4に帰属されるピーク積分値Bとの比率(A/B)を算出した。算出したA/Bの結果を表4及び5に示す。
【0092】
(活物質の特性評価)
実施例1~12、及び比較例1~6の各活物質のサンプルを、熱重量示差熱分析装置TG/TDA(型番「Thermo plus EVO2」、RIGAKU製)で大気中1000℃まで昇温した時、熱分解によって重量減少が開始するときの温度と、該熱分解による重量減少率を遊離炭素(フリー炭素)量とし、該測定結果から熱分解開始温度を求めた。フリー炭素量を表4及び5に示す。
さらに実施例1~9、及び比較例1~4の各活物質のサンプルを、ラマン分光装置(型番「NRS-5500」、日本分光製)より1320cm-1付近(Dバンド)のピーク強度Dと、1595cm-1付近(Gバンド)のピーク強度Gとの比、G/Dを評価した。G/Dを表4及び5に示した。
【0093】
(電極及び電池の作製と評価)
実施例1~11、及び比較例1~6の各活物質800mg、アセチレンブラック(導電助剤)100mg、カーボンオキシメチルセルロース25mg、純水1000mgを混合し、泡取り練太郎を用い2000rpmで、5分攪拌後、0.5分脱泡した。その後スチレンブタジエンゴム(バインダ)75mg、純水 100mgを加えさらに泡取り練太郎を用い2000rpmで、5分攪拌後、0.5分脱泡し、スラリーを得た。
このスラリーを膜厚60μmになるように銅板上に塗布、70℃に加温したホットプレート上で5分間乾燥した。そして直径14mmの円状にカットし、110℃真空乾燥し、負極である電極を作製した。
【0094】
前述のように作製した負極とLi金属箔である正極を用い、25μmのポリプロピレン製セパレータを介して前記負極と正極を対向させ、電解液(1mol/LのLiPF6、炭酸ジエチル:炭酸エチレン=1:1(容積比))を吸着させて評価用ハーフ電池を作製した。
【0095】
下記カットオフ電圧と充放電レートの条件で10回の充放電を行い、充放電特性の評価を行った。初回効率と容量維持率(10回)は以下のようにして求めた。評価結果を表4及び5に示す。
カットオフ電圧範囲:0.005~1.5V
充放電レート:0.1C(初期から3サイクルまで)、0.2C(4サイクル以後)
初回効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)
容量維持率(10回目)=10回目の放電容量(mAh/g)/初回放電容量(mAh/g)
【0096】
【0097】
【0098】