IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特許7201135水性顔料分散体及びインクジェットインク
<>
  • 特許-水性顔料分散体及びインクジェットインク 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】水性顔料分散体及びインクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20221227BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20221227BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/322
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022538422
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016450
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2021067631
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】榎本 勇也
(72)【発明者】
【氏名】関 俊大
(72)【発明者】
【氏名】北出 麻衣子
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/158606(WO,A1)
【文献】特開2007-254735(JP,A)
【文献】特開2005-060419(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01225207(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0139576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09D 11/30-11/40
B41M 2/01-2/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスアセトアセトアリリド顔料(A)、分散剤(B)、及び水性媒体(C)を含有し、 (波長408nmにおける吸光度)/(波長450nmにおける吸光度)で表される吸光度比が1.40以上であり、
前記分散剤(B)がスチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸系共重合体であることを特徴とする水性顔料分散体。
【請求項2】
ビスアセトアリリド顔料(A)がC.I.ピグメントイエロー155である、請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項に記載の水性顔料分散体を用いた水性インクジェットインク。
【請求項4】
繊維製品への印刷に使用される、請求項に記載の水性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品等の被印刷媒体へのインクジェット印刷に使用可能な水性顔料分散体、及び当該顔料分散体を用いて調製されるインクジェットインクに関する。
【0002】
織布、不織布、編布等の繊維製品をはじめとする被記録媒体に、文字、絵、図柄等の画像を印刷する際、水性インクを使用できることが知られている。
水性インクとしては、一般に、顔料を高濃度で含有する水性顔料分散体を、必要に応じて水で希釈し、バインダー樹脂やその他添加剤を混合して得られたものが知られており、例えばポリウレタン樹脂をバインダー樹脂とした、布帛への印刷に使用するインクジェット記録用捺染インクが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、前記水性インクの被記録媒体への印刷方法としては、前記したとおりインクジェット記録装置を用いた方法が知られている。インクジェット記録装置を用いた印刷法は、印刷する絵や図柄ごとの製版が不要で、また、小ロット印刷におけるコスト削減や納期短縮等の利点を有することから、高速かつ連続的に印刷を行うことが可能な印刷方法として、幅広い技術分野での適用が検討されている。
特に繊維製品への捺染印刷では、短納期対応、多品種少量生産、サンプル作製(いわゆるモックアップ)が容易であることから、インクジェット印刷が近年高く注目されている。また、従来の捺染印刷で使用する資源/エネルギーと、インクジェット捺染を用いた場合とを比較すると、使用水量で89%減、電気量で41%減、LPGで61%減と、使用資源エネルギーを大幅に低下可能との報告がなされており、環境負荷低減の観点でもインクジェットによる捺染印刷は優れている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-199643公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】三觜拓,加藤孝行、「捺染用インクジェットプリントシステム」、日本画像学会誌、第41巻、第2号、p.189-197(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に皮膚と接触しうる捺染用途ではインクに高い安全性が求められていることから使用し得る顔料種に制限があるなかで、従来の顔料を用いた水性インクジェットインクではインクの変色や、インクジェットノズルの目詰まりによる吐出信頼性が低下する場合があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、インクの変色が抑制され、吐出信頼性が高く、繊維製品等の被印刷媒体への印刷が可能なインクジェットインク、並びに、当該インクジェットインクに用い得るインクジェット用顔料分散体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、顔料の沈降速度を一定以下とすることでインクの変色や吐出信頼性の低下が抑制されること、及び、インクにおける顔料沈降性と水性顔料分散体の分光比との間には相関があり、特定波長における吸光度比を制御することで顔料沈降速度を制御しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に関するものである。
(1)ビスアセトアセトアリリド顔料(A)、分散剤(B)、及び水性媒体(C)を含有し、(波長408nmにおける吸光度)/(波長450nmにおける吸光度)で表される吸光度比が1.40以上であることを特徴とする水性顔料分散体。
(2)ビスアセトアリリド顔料(A)がC.I.ピグメントイエロー155である、(1)の水性顔料分散体。
(3)分散剤(B)がスチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸系共重合体である、(1)又は(2)の水性顔料分散体。
(4)(1)~(3)いずれかの水性顔料分散体を用いた水性インクジェットインク。
(5)繊維製品への印刷に使用される、(4)の水性インクジェットインク。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維製品への捺染印刷等に用いることができ、インクの変色が発生せず、吐出信頼性が高い水性インクジェットインクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】インクにおける顔料沈降性(沈降速度;μm/day)と水性顔料分散体の吸光度比(Abs.(λ408)/Abs.(λ450))の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[水性顔料分散体]
本発明の「水性顔料分散体」(以下、単に「顔料分散体」又は「分散体」ということがある。)は、ビスアセトアセトアリリド顔料(A)、分散剤(B)、及び水性媒体(C)を含有するものであって、インクジェットインクの調製のために用いられるものである。以下、「顔料(A)」を「(A)成分」ということがあり、他の成分についても同様にいうことがある。
本発明の顔料分散体は、インクジェットインクのための中間製品として製造されるものであって、希釈し、必要に応じて他の成分を添加した後に水性インクジェットインクとしてインクジェット印刷に使用される。
【0013】
本発明の顔料分散体は、(波長408nmにおける吸光度)/(波長450nmにおける吸光度)で表される吸光度比が1.40以上であることを特徴とする。
測定・算出方法は特に限定されるものではないが、例えば、適切な顔料濃度(例えば、0.0005~0.005w%)となるように顔料分散体を水等で希釈した後、紫外可視分光光度計等の市販の装置を用いて380nm~700nmの吸収スペクトルを得る。得られたスペクトルの波長408nmの吸光度を波長450nmの吸光度で除して吸光度比を算出する。
【0014】
本発明の検討により、分散体の吸光度比とインク中の顔料の沈降速度との間に強い相関があり、沈降速度が相対的に小さいことで吐出信頼性が向上することが確認されている。吸光度比と沈降速度との相関に関してその詳細は明らかではないが、吸光度比が相対的に大きい分散体では微細かつ均一な分散系となっており、その結果、沈降性が良化しているものと思われる。吸光度比が1.40以上、好ましくは1.43以上、さらに好ましくは1.50以上であることにより、顔料の沈降速度が十分に小さいものとなり、吐出信頼性が向上する。
【0015】
分散体の吸光度比を調整する方法は特に限定されるものではなく、分散体中の各構成成分の種類や含有量、分散体の製造方法(例えば、分散時間や遠心分離上澄み回収率)を適宜調整することにより、上記吸光度比を有する顔料分散体を得ることができる。一般的に、微細且つ均一な分散系とすることにより、吸光度比は大きくなる。分散体吸光度比の測定はインク顔料の沈降速度測定に比して時間もかからず、一般的な分光光度計で分散体を用いて測定が可能なことから、インクを製造(インク化)して顔料沈降速度を測定することなく、簡便に吐出信頼性に優れた分散体を設計、製造することが可能となる。
【0016】
[ビスアセトアセトアリリド顔料(A)]
本発明で使用するビスアセトアセトアリリド顔料は次の一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有する。
【0017】
【化1】
(式中Rはそれぞれ独立にCH、OCH、OC、Cl、Br、NO、COOCHの何れかを表し、m=0~3の整数である。またX及びYはそれぞれ独立に、H、CH、OCH、Clの何れかを表し、ZはCH、OCH、Clの何れかを表す。)
【0018】
一般式(1)又は一般式(2)で表される顔料としてはC.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー98等が挙げられる。
特に、下記化学式(3)で示した、C.I.ピグメントイエロー155は発色性と耐久性からも好適である。式(3)中、X及びYは前記同様である。
【0019】
【化1】
【0020】
顔料(A)は、その粒子径が25μm以下のものからなる顔料が好ましく、1μm以下のものからなる顔料が特に好ましい。粒子径がこの範囲にあれば、インクジェットインク中における顔料の沈降が発生しにくく、顔料分散性が良好となる。
粒子径の測定は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定した値を採用した。
【0021】
また、顔料(A)として、顔料の表面に水酸基やカルボキシル基等の水分散性付与基を有する、いわゆる自己分散型顔料や、顔料の表面が分散樹脂で被覆された樹脂分散型顔料を使用することもできる。
【0022】
本発明の分散体において、顔料濃度としては、10~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。これらの範囲であると、希釈調整してインクジェットインクにとした際に、インク着色力とインク吐出性が好適に両立可能である。
【0023】
[分散剤(B)]
分散剤(B)は、顔料(A)を水性媒体(C)中に安定して分散させるために用いられるものであって、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の(メタ)アクリル樹脂;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のスチレン-(メタ)アクリル樹脂;スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、これら水性樹脂の塩を使用することができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」と「メタクリル酸」とを含む総称であり、類似の表現も同様である。
【0024】
なかでも、カルボキシル基等のアニオン性基を有する分散樹脂が分散安定性に優れ好ましく、アニオン性基及びスチレン等の芳香族基を有する分散樹脂が特に好ましい。
このようなアニオン性基及び芳香族基を有する分散樹脂として具体的には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0025】
アニオン性基を有する分散樹脂を用いる場合、アニオン性基の一部又は全部は中和されて塩を形成していることが好ましい。塩となることで、良好な水分散性を発現することができる。
中和に用いられる化合物は特に限定されるものではないが、例えば、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの金属水酸化物;メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミンの如きアルキルアミン類;N-メチルアミノエタノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N-ジエチルアミノエタノール、2-アミノ-2-メチルプロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンの如きヒドロキシルアミン類;エチレンジアミン、ジエチレントリアミンの如き多価アミン類等の有機アミン等を中和に用いることができる。なかでも、分散樹脂がカリウム塩を形成することが好ましく、中和には水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0026】
分散剤(B)としては市販品を用いることもでき、例えば、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPBシリーズ;ビックケミー・ジャパン社製のDisperbykシリーズ;BASF社製のEFKAシリーズ、JONCRYLシリーズ;日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSEシリーズ;エボニック社製のTEGOシリーズ;DIC社製のアクリディックシリーズ等を使用することができる。
【0027】
分散剤(B)の質量平均分子量は、顔料分散体を適度な粘度とし、分散安定性を良好にすることが容易な点で、500~100,000が好ましく、1,000~10,000がより好ましく、1,500~8,000が特に好ましい。
【0028】
分散剤(B)の酸価は、80~350mgKOH/gが好ましく、80~225mgKOH/gがより好ましく、80~200mgKOH/gがさらに好ましい。この範囲内とすることにより、分散剤の親水性と顔料吸着性のバランスがとれて顔料分散体の分散安定性が向上する。
【0029】
分散剤(B)の数平均分子量は1000~6000の範囲のものを使用することが好ましく、1300~5000であることがより好ましく、1500~4500であることがさらに好ましい。この範囲内とすることにより、水性媒体(C)中における顔料(A)の凝集等を効果的に抑制でき、顔料(A)を良好に分散させることができる。
【0030】
本発明の顔料分散体において、分散剤(B)は、顔料に対し、不揮発分換算で5~100質量%含有されることが好ましく、10~80質量%がより好ましい。これらの範囲であると、分散剤の過不足による顔料分散体の分散安定性低下を抑制し、長期的な保存においても安定な状態を維持できる。
【0031】
[水性媒体(C)]
本発明の水性顔料分散体は、該水性顔料分散体のポンプ輸送や水性顔料分散体のフィルターろ過に好適な粘度に調製するために、さらに水性媒体を含有する。
水性媒体としては、水を単独で使用してもよく、水と有機溶剤との混合溶媒を使用してもよい。
【0032】
水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を使用することができる。
【0033】
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール及びこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及び、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;1-ブタノールや2-ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、及びこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
<その他任意成分>
本発明の顔料分散体は、本発明の効果が損なわれない範囲内で、上述の(A)成分~(C)成分に加えて、その他の任意成分を含有していてもよい。
その他の成分として例えば、上記成分以外のその他樹脂、界面活性剤、ワックス、低表面張力有機溶剤、湿潤剤、浸透剤、消泡剤、防腐剤、粘度調製剤、pH調製剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0035】
その他樹脂としては、顔料分散体を調製するのに好適な水性樹脂がよく、好ましい例としては例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類;(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ウレタン樹脂、及び該水性樹脂の塩のうち、上記成分に該当しないものが挙げられる。
【0036】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、又はノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0037】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0038】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート類、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート類が好ましい。
【0039】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0040】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7~20の範囲であることが好ましい。
【0041】
市販のフッ素系界面活性剤として、ノベックFC-4430、FC-4432(以上、住友スリーエム製)、ゾニールFSO-100、FSN-100、FS-300、FSO(以上、デュポン製)、エフトップEF-122A、EF-351,352801、802(ジェムコ製)、メガファックF-470、F-1405、F474、F-444(DIC製)、サーフロンS-111、S-112、S-113、S121、S131、S132、S-141、S-145(旭硝子製)、フタージェントシリーズ(ネオス製)、フルオラッド(Fluorad)FCシリーズ(ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー製)、モンフロール(Monflor)(インペリアル・ケミカル・インダストリー製)、リコベット(Licowet)VPFシリーズ(ファルベベルケ・ヘキスト製)が挙げられる。
【0042】
シリコン系界面活性剤として、KF-351A、KF-642、オルフィンPD-501、オルフィンPD-502、オルフィンPD-570(信越化学工業製)、BYK347、BYK348(ビックケミー・ジャパン製)などが挙げられる。
【0043】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、BTシリーズ(日光ケミカルズ)、ノニポールシリーズ(三洋化成)、D-,P-シリーズ(竹本油脂)、EMALEX DAPEシリーズ(日本エマルジョン)、ペグノールシリーズ(東邦化学工業)が挙げられる。ポリエチレングリコールアルキルエステル系として、ペグノール(東邦化学工業)が挙げられる。
【0044】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG(Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0045】
ワックスとしては、例えば、カルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;パラフィンワックスはいわゆる石油系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、シリコーンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等のワックスが挙げられる。これらのワックスは、形成された記録物の表面にスリップ性を付与し耐擦過性を向上させる効果を有する。これらのワックスは、1種あるいは複数種を混合して用いることができる。これらの中でも、シリコーンワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等が好ましく用いられる。
【0046】
シリコーンワックスの市販品としては、例えば、SM8706EX、SM7036EX、SM7060EX、SM7025EX、SM490EX、SM8701EX、SM8709SR、SM8716SR、IE-7045、IE-7046T、SH7024、BY22-744EX、BY22-818EX、FZ-4658、FZ-4634EX、FZ-4602(以上商品名、東レ・ダウコーニング株式会社製)、POLON-MF-14、POLON-MF-14EC、POLON-MF-23POLON-MF-63、POLON-MF-18T、POLON-MF-56、POLON-MF-49、POLON-MF-33A、POLON-MF-55T、POLON-MF-28T、POLONMF-50、POLON-MK-206、POLON-SR-CONC、KM-9771、KM-9774、KM-2002-T、KM-2002-L-1、KM-9772、KS-7002、KS-701、X-51-1264(以上商品名、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
ポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン又はその誘導体から製造されたワックス及びそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。ポリオレフィンワックスは、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、上記の架橋性基を有するウレタン樹脂粒子の架橋性基と反応しにくく、吐出安定性に優れるものとできる観点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。
【0048】
ポリオレフィンワックスの市販品としては、例えば、AQUACER513(ポリエチレン系ワックス、平均粒子径100nm以上200nm以下、融点130℃、固形分30%)、AQUACER507、AQUACER515、AQUACER840、AQUACER1547(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等のAQUACERシリーズや、ハイテックE-7025P、ハイテックE-2213、ハイテックE-6500、ハイテックE-6314、ハイテックE-9460、ハイテックE-9015、ハイテックE-4A、ハイテックE-5403P、ハイテックE-8237(以上商品名、東邦化学株式会社製、ポリエチレン系ワックス)等のハイテックシリーズ、ノプコートPEM-17(商品名、サンノプコ社製、ポリエチレンエマルジョン、平均粒子径40nm)、ULTRALUBE E-843N(商品名、keim additec surface GmbH社製、ポリエチレンワックス)等が挙げられる。
【0049】
パラフィンワックスはいわゆる石油系ワックスである。ここで、パラフィンとは、炭素原子の数が20以上のアルカンを意味し、パラフィンワックスとは、炭素数20以上30以下の直鎖状のパラフィン系炭化水素を主成分とし、少量のイソ・パラフィンを含む分子量300~500程度の炭化水素の混合物をいう。インクがパラフィンワックスを含むことにより、記録物にスリップ性や撥水性が付与され、それにより耐擦過性が向上する。
【0050】
パラフィンワックスの市販品としては、例えば、AQUACER537、AQUACER539(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
ワックスは顔料分散体中に微粒子状態、すなわち、エマルジョン状態又はサスペンジョン状態で含有されていることが好ましい。これにより、インクの粘度をインクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲となるように調整しやすくなり、また記録時の吐出安定性、間欠吐出特性を確保しやすくなる。
【0052】
低表面張力有機溶媒としては、例えばグリコールエーテル化合物としては、ジエチレングリコールモノ(炭素数1~8のアルキル)エーテル、トリエチレングリコールモノ(炭素数1~8のアルキル)エーテル、プロピレングリコールモノ(炭素数1~6のアルキル)エーテル、ジプロピレングリコールモノ(炭素数1~6のアルキル)エーテルを挙げることができ、これらを1種又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0053】
具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテルなどを挙げることができる。
【0054】
グリコールエーテルや界面活性剤等は、インクの表面張力を調製するのに表面張力調整剤として使用することができる。具体的にはインクの表面張力が15mN/m~30mN/m以下になるよう適宜添加でき、界面活性剤の添加量は、水性顔料分散体に対して0.1~10質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.3~2質量%である。表面張力は16~28の範囲とすることがなお好ましく、18~25の範囲が最も好ましい。
【0055】
湿潤剤としては特に限定はないが、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果が得られるものが好ましい。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-オクタンジオール等のジオール化合物、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ε-カプロラクタム等の含窒素複素環化合物等が挙げられる。中でも、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールを含むことが安全性を有し、かつインク乾燥性、吐出性能に優れた効果が見られる。
湿潤剤のインク中の含有量は3~50質量%であることが好ましい。
【0056】
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。顔料分散体中の浸透剤の含有量は0.01~10質量%であることが好ましい。
【0057】
<顔料分散体の製造方法>
本発明における顔料分散体の製造方法は何ら限定されるものではない。
(A)~(C)成分と、必要に応じて添加される任意成分とを分散させて顔料分散体としてもよいし、予め、(A)、(B)成分及び(C)成分の一部や媒体等により顔料濃度の高い顔料分散ミルベース液を作製し、適宜任意成分を添加、(C)成分等の水性媒体で希釈して水性インクジェットインクの調製のための顔料分散体としてもよい。攪拌・分散装置を用いて顔料を分散させて顔料分散ミルベース液を予め作製した後に顔料分散体を作製することにより、所望の体積平均粒子径で顔料が分散された水性顔料分散体を容易に得ることができる。
以下、後者の顔料分散ミルベース液を作製した後、顔料分散体とする方法について述べる。
【0058】
顔料分散ミルベース液の製造方法としては、以下のような方法が挙げられる。
(1)必要に応じて分散剤を含有する水性媒体に顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を該水性媒体中に分散させることにより、顔料分散ミルベース液を調製する方法。
(2)顔料、及び必要に応じて分散剤を2本ロール、ミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を水性媒体中に添加し、攪拌・分散装置を用いて顔料分散ミルベース液を調製する方法。
(3)2-プロピルアルコール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等の水と相溶性を有する有機溶剤中に顔料分散剤を溶解して得られた溶液に顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、前記有機溶剤を留去し顔料分散ミルベース液を調製する方法。
【0059】
攪拌・分散装置としては、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を挙げることができ、これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
<インクジェットインク>
本発明の顔料分散体を用い、顔料の含有率が1~30質量%となる様に水性媒体で希釈し水性インクジェットインクとする。この水性媒体は、(C)成分と同様に水であってもよく、水と有機溶剤との混合物であってもよく、有機溶剤のみであってもよい。
また、水性媒体中に、顔料分散体の任意成分を含有させることもできる。
【0061】
本発明のインクジェットインクの粘度は、吐出信頼性の観点から25℃において1~20mPa・sの範囲内で作製することが望ましい。
【0062】
本発明のインクジェットインクは、25℃の大気圧下において、下記式で算出される水性顔料分散体中の顔料沈降速度が18.5μm/day以下であることが好ましい。顔料沈降速度が18.5μm/day以下(特に好ましくは、18.0μm/day以下)であることにより、インクの変色が抑制され、吐出信頼性が高いインクとすることができる。
顔料沈降速度(μm/day@1G)=Velocity in(μm/s)÷Mean RCA in(g)×86,400
【0063】
(顔料沈降速度の測定方法)
具体的には、顔料沈降速度は、例えば以下のようにして測定することができる。
LUM社製の多検体・分散性評価粒子径分布測定装置LUMiSizer LS651R及び解析ソフトウェアSEPView6を用いて測定した。光路長2mmのポリカーボネート製セル(110-131xx)にインクを340μlずつ充填し、蓋をしたあとに測定装置のローターにセルをセットした。測定条件を下記に設定して測定を開始した。
Temperature in ℃:25
Wavelength:870nm
Profiles:60
Interval in s:300
Speed in RPM:4,000
Light Factor:1.00
測定完了後、データ解析ソフトウェアSEPView6のFront Trackingにて顔料沈降速度を算出した。解析条件は以下のとおりである。
Range from in mm:114
Range to in mm:124
Threshold in %:40
Start in s:0
End in s:18,000
算出された速度(Velocity in μm/s)を次式0にて重力加速度1G下での1日あたりの速度に変換したものをインクの顔料沈降速度とした。
(式0)
顔料沈降速度(μm/day@1G)=Velocity in(μm/s)÷Mean RCA in(g)×86,400
【0064】
本発明のインクジェットインクは、各種基材への印刷性に優れ、特に繊維製品への印刷性に優れることから、織物(布帛)、編物(ニット)、糸、衣料品等の線日製品への捺染インクジェット印刷に好適に使用することが可能である。
【実施例
【0065】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。以下、特に明記のない限りにおいて、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0066】
[実施例1]
<顔料分散体の作製>
10LのSUS製寸胴に25%KOH水溶液153.91g、イオン交換水2898.89 g、2-プロピルアルコール248.01g、スチレン-アクリル酸エステル-メタクリル酸共重合体(「アクリディックWML-542」DIC社製、酸価167mgKOH/g、有効成分43.69%)659.19gを投入し、30分間撹拌した。
その後、P.Y.-155顔料;INKJET YELLOW 4GC(クラリアントジャパン社製)1440gを入れ、さらに30分間撹拌し、顔料-樹脂混合スラリー(A)を得た。
【0067】
顔料-樹脂混合スラリー(A)をインライン分散機LABOR-PILOT(IKA社製、7941rpm)にて3時間循環処理を実施し、顔料プレミクススラリー(B)を得た。
得られた顔料プレミクススラリー(B)を不揮発分が28%となるようにイオン交換水で調整し、ビーズミル分散機SC-100(日本コークス工業社製、SMローター、45Hz)にて分散処理を行い、分光比1.440の溶剤含有顔料分散体(C-1)を得た。
【0068】
溶剤含有顔料分散体(C-1)をイオン交換水で不揮発分17%に希釈し、100℃に加熱し、含有する溶剤と水の一部を留去して不揮発分24%の脱溶剤顔料分散体(D-1)を得た。
脱溶剤顔料分散体(D-1)を遠心分離処理(6000G、30分間)し、処理液全量に対して上澄みを94%回収することで、実施例1の顔料分散体(E-1)を得た。
【0069】
[実施例2~3、比較例1~2]
顔料プレミクススラリー(B)の分散機における分散処理時間、並びに、脱溶剤顔料分散体(D-1)の遠心分離処理時間及び遠心分離からの回収量を変更した以外は上記実験例1と同様にして、実施例2~3の顔料分散体(E-2)~(E-3)、及び比較例1~2の顔料分散体(HE-1~HE-2)を得た。
【0070】
[実施例4~6、比較例3~4]
<インクジェットインクの作製>
顔料分16%の顔料分散体(E-1)~(E-3)又は(HE-1)~(HE-2)25質量部、有効成分35%のウレタン樹脂組成物20質量部、アセチレン系界面活性剤(「サーフィノール440」、EVONIK社製)1質量部、グリセリン20質量部、トリエチレングリコール4.6質量部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール1質量部、pH調整剤(トリエタノールアミン)0.5質量部、防腐剤(「ACTICIDE B-20」、ソー・ジャパン社製)0.05質量部、及びイオン交換水27.85質量部を混合することによって実施例4~6のインクジェットインク(I-1)~(I-3)及び比較例3~4のインクジェットインク(HI-1)~(HI-2)を得た。
【0071】
(吸光度比測定)
顔料分が0.002%となるように顔料分散体(E-1)をイオン交換水で希釈し、紫外可視分光光度計により380nm~700nmの吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルを用いて、(波長408nmにおける吸光度)/(波長450nmにおける吸光度)を算出したところ、吸光度比は1.482だった。顔料分散体(E-2)~(E-3)、(HE-1)~(HE-2)についても同様に吸光度比を求めた。
【0072】
(沈降性評価)
インクジェットインク(I-1)を用い、上述の「(顔料沈降速度の測定方法)」に準じて顔料沈降速度を測定したところ、16.99um/day@1Gだった。インクジェットインク(I-2)~(I-3)、(HI-1)~(HI-2)についても同様に顔料沈降速度を求めた。
【0073】
上記で求めた吸光度比xと顔料沈降速度y(μm/day@1G)とをプロットしたグラフ図を図1に示す。この結果、顔料の沈降性と分散体の吸光度比との間には強い相関があり、近似曲線は、y=-14.102x+38.159であった。この結果、吸光度比1.40以上の場合に顔料沈降速度が18.5以下となることが確認された。
【0074】
【表1】
【0075】
<インクジェット吐出信頼性評価>
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B-YHに、実施例及び比較例で得たインクジェットインクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧-5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定して、20kHzで格子状のノズルチェックパターンを印刷した。30分放置後、再びノズルチェックパターンを印刷し、印刷物の様子を確認し、インクジェット吐出信頼性を判断した。
【0076】
A:チェックパターンが欠けることなく印刷できている。
B:チェックパターン上に欠けがある、または、印刷できていない。
【0077】
【表2】
【0078】
上記結果から明らかなように、本発明に係る実施例1~3の顔料分散体を使用した実施例4~6のインクジェットインクは吐出信頼性に優れる一方、吸光度比が1.40未満である比較例1~2の顔料分散体を使用した比較例3~4のインクジェットインクは吐出信頼性に劣ることが確認できた。
【要約】
本発明は、ビスアセトアセトアリリド顔料(A)、分散剤(B)、及び水性媒体(C)を含有し、(波長408nmにおける吸光度)/(波長450nmにおける吸光度)で表される吸光度比が1.40以上であることを特徴とする水性顔料分散体;当該水性顔料分散体を用いたインクジェットインクに関する。
図1