(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20221227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20221227BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20221227BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20221227BHJP
A61K 36/8998 20060101ALI20221227BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20221227BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20221227BHJP
A23L 33/11 20160101ALI20221227BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P43/00 111
A61P39/06
A61K31/352
A61K31/575
A61K36/8998
A61P43/00 121
A23L33/10
A23L33/105
A23L33/11
(21)【出願番号】P 2018124331
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598043054
【氏名又は名称】日生バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】惠 淑萍
(72)【発明者】
【氏名】千葉 仁志
(72)【発明者】
【氏名】布田 博敏
(72)【発明者】
【氏名】陳 震
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩志
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196429(JP,A)
【文献】特開2016-199501(JP,A)
【文献】Nutrients,2017年,Vol.9, 1252,pp.1-14
【文献】J Basic Clin Physiol Pharmacol.,2016年,Vol.27, No.5,pp.473-482
【文献】日本未病システム学会雑誌,2015年,Vol.21, No.2,pp.167-170
【文献】日本食物繊維学会誌,2011年,Vol.15, No.2,p.119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00 -36/9068
A61K 31/33 -33/44
A23L 33/00 -33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦若葉に含まれる特定成分を有効成分として含む、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化用剤であって、
前記大麦若葉が、分けつ開始期から出穂開始前期までに成長した大麦若葉であり、
前記特定成分が、
前記大麦若葉を圧搾することにより得られた搾汁液から酢酸エチルにより抽出することにより得ることができる、以下の化合物(b)及び(e)を少なくとも含み、化合物(a)、(c)及び(d)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含
むことを特徴とする、前記活性化用剤。
(a)組成式:C
33H
40O
19、分子量:740、化合物名:ロビニン
(b)組成式:C
27H
30O
15、分子量:594、化合物名:サポナリン
(c
)組成式:C
25H
37O
5N
2、分子量:445の化合物
(d)組成式:C
21H
20O
10、分子量:432、化合物名:アフゼリン
(e)組成式:C
29H
50O、分子量:414、化合物名:β-シトステロール
【請求項2】
請求項1に記載の活性化用剤を含んでなる、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化用剤(以下「Nrf2活性化用剤」ということがある。)に関し、さらに詳しくは、大麦若葉又はその処理物を有効成分として含むNrf2活性化用剤、該活性化用剤を含んでなる、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
Keap1(Kelch-like ECH-associated protein 1)は、生体防御機構において中心的役割を果たし、また多くのファイトケミカル(例えばスルフォラファン、クルクミン等)の標的分子として注目されている。非ストレス状態の細胞において、Keap1は転写因子Nrf2(NF-E2-related factor 2)と結合し、プロテアソーム依存的なNrf2の分解を促進する。このことから、Keap1はNrf2の抑制因子と言える。しかしながら、親電子性物質や活性酸素によってKeap1のSH基が酸化あるいは修飾を受けると結合能が失われてNrf2が遊離し、リン酸化を受けた後に核内へ移行し、諸種の生体防御遺伝子のARE領域(抗酸化剤応答配列;Antioxidant Response Element)に結合して、その発現を活性化する(非特許文献1、2、
図1参照)。かかる遺伝子発現の活性化を本明細書において「Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化」、又は「Nrf2活性化」という。
【0003】
Nrf2の標的遺伝子としては、諸種の生体防御遺伝子、例えば親電子性物質の解毒化酵素であるグルタチオンS-転移酵素(GST)やNAD(P)Hキノン還元酵素(NQO1)などの異物代謝酵素群、グルタチオン合成酵素やヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)などの酸化ストレス防御遺伝子群、抗炎症性遺伝子群、ユビキチンプロテアソーム系に関与する遺伝子群、ヘム・鉄代謝遺伝子、薬物トランスポーター遺伝子などが挙げられる。Nrf2は、これら遺伝子群を統一的に誘導し、活性酸素や求電子性物質等によるストレスに対する恒常性維持機構として働いていると考えられる。(非特許文献1、2参照)
【0004】
ここで、生体内で発生する親電子性物質や活性酸素は、生体の構成成分である脂質、タンパク質、DNA等と容易に反応するため、高血圧症、癌、炎症、動脈硬化、自己免疫疾患、糖尿病性合併症、神経障害性疾患、肝機能障害、虚血再潅流障害、加齢に伴う慢性疾患などの諸種の疾病を誘起・進展させる。
【0005】
上記のとおり、Nrf2は、親電子性物質や活性酸素に応答して転写が促進される抗酸化酵素等の生体防御酵素の遺伝子発現を制御すること、またNrf2の活性は、加齢と共に低下することが知られている。従って、Nrf2の活性化は、生体の抗酸化防御及び解毒能力を高め、酸化ストレスが関与する種々の疾患の予防又は改善(治療)に有効であると考えられる。このため、安全性が高く、長期間服用しても副作用がない物質として、天然物由来のNrf2の活性化作用を有する成分の探索がなされている(例えば特許文献1~4参照)。
【0006】
一方、麦類の若葉、特に大麦若葉は、安全性が高く、長期間服用しても副作用がない機能性飲食品として長年利用されている。大麦若葉は、これまでに抗潰瘍作用、抗高コレステロール作用、抗炎症作用、血糖降下作用、抗変異原作用、抗血栓作用、血管保護作用、脂肪細胞分化抑制作用、メラミン合成阻害作用、骨粗鬆症予防作用、活性酸素消去酵素(SOD)遺伝子発現促進作用等の多彩な生理作用を有することが報告されている(例えば非特許文献3、特許文献5~8参照)。また、その製造方法についても諸種の提案がなされている(例えば特許文献9~12参照)。
【0007】
しかしながら、本発明でいう大麦若葉又はその処理物が、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化作用を有することについて、本発明者らの知る限り、報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-199501号公報
【文献】特開2016-196429号公報
【文献】特開2016-183111号公報
【文献】特開2015-40177号公報
【文献】特開2008-56580号公報
【文献】特開2011-51948号公報
【文献】特開2013-63940号公報
【文献】特開2015-140338号公報
【文献】特開2009-148213号公報
【文献】特開2003-33151号公報
【文献】特開2002-65204号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】村上明 化学と生物 第53巻 第5号 第305~312頁 2015年
【文献】伊藤健 生化学 第81巻 第6号 第447~455頁 2009年
【文献】萩原義秀、他 日本食品化学工学会誌 第48巻 第10号 第712~725頁 2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のとおり、細胞内でNrf2による生体防御遺伝子の発現を活性化できれば、生体の抗酸化防御や解毒能力を高め、酸化ストレスが関与する諸種の疾患の予防又は改善(治療)に有効であると考えられる。
すなわち本発明の課題は、安全性が高く、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化作用を有し、長期間にわたって安心して服用できるNrf2活性化用剤、該Nrf2活性化用剤を含む、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の低下(以下「Nrf2の活性低下」ということがある。)に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)用飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、長期間服用しても安全である大麦若葉又はその処理物、並びに大麦若葉又はその処理物に含まれる特定の成分が、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化作用を有することを見いだした。本発明はこの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)分けつ開始期から出穂開始前期までに成長した大麦若葉又はその処理物を有効成分として含む、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化用剤であって、以下の化合物(b)及び(e)を少なくとも含み、化合物(a)、(c)及び(d)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでいてもよいことを特徴とする前記活性用剤。
(a)組成式:C33H40O19、分子量:740、化合物名:ロビニン
(b)組成式:C27H30O15、分子量:594、化合物名:サポナリン
(c)組成式:C25H37O5N2、分子量:445
(d)組成式:C21H20O10、分子量:432、化合物名:アフゼリン
(e)組成式:C29H50O、分子量:414、化合物名:β-シトステロール
(2)大麦若葉又はその処理物が、大麦若葉の搾汁液、搾汁粉末又は乾燥粉末である、(1)に記載の活性化用剤。
(3)(1)又は(2)に記載の活性化用剤を含んでなる、Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の低下(以下「Nrf2の活性低下」ということがある。)に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)用飲食品。
【0013】
また、本発明の実施の他の形態として、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)を必要とする対象者に、上記大麦若葉又はその処理物を投与する工程を備えた、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)を予防又は改善(治療)する方法や、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)剤として使用するための上記大麦若葉又はその処理物や、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)における使用のための上記大麦若葉又はその処理物や、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)剤を製造するための上記大麦若葉又はその処理物の使用を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有効成分である上記大麦若葉又はその処理物が、細胞内のKeap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子発現の活性化作用を有するので、生体の抗酸化防御や解毒能力を高め、酸化ストレスが関与する諸種の疾患の予防又は改善(治療)等の効果が期待できる。また、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)を必要とする対象者に対する、副作用を伴うことのない、かかる疾患若しくは状態の予防又は改善(治療)が期待される。
【0015】
本発明に用いられる大麦若葉は、安全性には全く問題がなく飲食品又は医薬品の形態に自由に調製することができるため、健常者はもとより、老齢者、病弱者、病後の人等も長期間に亘って摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Keap1-Nrf2経路(システム)を示す図である。
【
図2】大麦若葉抽出液(搾汁液)の分画フローを示す図である。
【
図4】酢酸エチル分画(BLE)、中間層分画(BLG)、水層分画(BLW)のCCK-8アッセイ結果を示す図である。
【
図5】酢酸エチル分画(BLE)、中間層分画(BLG)、水層分画(BLW)のレポータージーンアッセイ結果を示す図である。
【
図6】レポータージーンアッセイの活性が高かった分画(BLE)のHPLC分析によるクロマトグラムを示す図である。
【
図7】HPLC画分のCCK-8アッセイ結果(その1)を示す図である。
【
図8】HPLC画分のCCK-8アッセイ結果(その2)を示す図である。
【
図9】HPLC画分のCCK-8アッセイ結果(その3)を示す図である。
【
図10】HPLC画分のリポータージーンアッセイ結果(その1)を示す図である。
【
図11】HPLC画分のリポータージーンアッセイ結果(その2)を示す図である。
【
図12】HPLC画分のリポータージーンアッセイ結果(その3)を示す図である。
【
図13】画分5(No.5)のLC/MSによる分析結果を示す図である。
【
図14】画分6(No.6)のLC/MSによる分析結果を示す図である。
【
図15】画分8(No.8)のLC/MSによる分析結果を示す図である。
【
図16】画分9(No.9)のLC/MSによる分析結果を示す図である。
【
図17】画分24(No.24)のLC/MSによる分析結果を示す図である。
【
図18】画分24(No.24)の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図19】画分24(No.24)と先行研究の
1H-NMRデータの比較を示す図(表)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明は、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0018】
本発明の好ましい態様において、Nrf2活性化用剤は、大麦若葉又はその処理物を有効成分として含むものである。該大麦若葉又はその処理物としては、分けつ開始期から出穂開始前期(草丈が20~40cm程度)に収穫された大麦の若葉(茎葉)又はその処理物が好適に用いられる。
【0019】
ここで、大麦としては、例えば、二条大麦、四条大麦、六条大麦、裸大麦等のHordeum vulgare種に属するものであれば、如何なる種でもよく、どの品種も用いることができるが、二条大麦、六条大麦、裸大麦が好ましく、六条大麦が特に好ましい。
【0020】
さらに具体的には、二条大麦(ビール大麦)の品種としては、例えば、あおみのり、あぐりもち、アサカゴールド、きぬゆたか、おうみゆたか、キリニジョウ、はるな二条、あまぎ二条、ふじ二条、イシュクシラズ、ミサトゴールデン、カワホナミ、カワミズキ、きぬか二条、こまき二条、さきたま二条、とね二条、サチホゴールデン、さつきばれ、しゅんれい、ミハルゴールド、スカイゴールデン、タカチホゴールデン、つゆしらず、とね二条、なす二条、ニシノゴールド、ニシノチカラ、ニシノホシ、はるか二条、にらさき二条、にら二条、はるしずく、さつき二条、ほうしゅん、ミカモゴールデン、ミホゴールデン、みょうぎ二条、ヤシオゴールデン、ヤチホゴールデン、北育41号、彩の星、りょうふう等が挙げられる。
【0021】
六条大麦の品種としては、例えば、アサマムギ、カシマゴール、ミノリムギ、カトリムギ、ムサシノムギ、ドリルムギ、サナダムギ、はがねむぎ、さやかぜ、すずかぜ、シュンライ、シルキースノウ、シンジュボシ、すずかぜ、セツゲンモチ、ナトリオオムギ、ハマユタカ、ハヤミオオムギ、ファイバースノウ、倍取、ミユキオオムギ等が挙げられる。
【0022】
裸大麦の品種としては、例えば、イチバンボシ、センボンハダカ、サヌキハダカ、キカイハダカ、サンシュウ、ナンプウハダカ、シラタマハダカ、ユウナギハダカ、ダイシモチ、トヨノカゼ、ハヤテハダカ、赤神力、一早生、ビワイロハダカ、ユウナギハダカ、ベニハダカ、ハシリハダカ、マンネンボシ(旧マンテンボシ)、センボンハダカ等が挙げられる。
【0023】
これら品種は各農業試験場、農業研究センター、民間企業等により育成され、実や若葉等が食用(飲料を含む。)に利用されているものである。これら品種から、その栽培地域に適した品種を選択して育成し、若葉(茎葉)を収穫するのが好ましい。
【0024】
本発明における大麦若葉とは、上記のとおり、分けつ開始期から出穂開始前期までの背丈が20~40cm程度に成長した若葉(茎葉)を意味する。
【0025】
大麦若葉の処理物としては、大麦若葉をNrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)を必要とする対象者が摂取できる形態に処理した物であれば如何なる形態のものであってもよいが、例えば、その搾汁処理物、粉砕処理物、細断処理物、乾燥処理物、焙煎処理物、抽出処理物、粉末化処理物、凍結処理物の他、搾汁・乾燥粉末化処理物、乾燥処理物、粉砕・濾過処理物(ピューレ、ジュース)、細断・熱湯抽出処理物等の処理物、これらの組み合わせ処理物等が挙げられる。
【0026】
これらの中で、通常用いられる形態としては、若葉(茎葉)の搾汁処理物(搾汁液)の粉末化処理物(以下「搾汁粉末」ということがある。)、若葉の乾燥処理物(以下「乾燥粉末」ということがある。)が好適である。
【0027】
ここで、搾汁粉末は、例えば、特許文献5~9等に記載の方法に準じて、大麦の若葉を収穫した(刈り取った)後に、圧搾により搾り出した液(搾汁液)を、必要に応じて適当な賦形剤と混合し、噴霧乾燥することにより調製することができる。この搾汁粉末は、そのままで、あるいは他の賦形剤等を配合して、本発明のNrf2活性化用剤として好適に利用できる。
【0028】
また、乾燥粉末は、例えば、特許文献10や11等に記載の方法に準じて、大麦の若葉を収穫した(刈り取った)後に、細断し、乾燥処理及び粉砕処理、必要に応じてブランチング処理を組み合わせて調製することができる。この乾燥粉末は、そのままで、あるいは他の賦形剤等を配合して、本発明のNrf2活性化用剤として好適に利用できる。
【0029】
本発明において、大麦若葉又はその処理物は、後述する実施例において具体的に示す通り、細胞内のNrf2による抗酸化遺伝子(生体防御遺伝子)群発現の活性化(促進)作用を有するので、本発明のNrf2活性化用剤を用いることにより、生体の抗酸化防御や解毒能力を高め、酸化ストレスが関与する諸種の疾患の予防又は改善(治療)等の効果が期待できる。また、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)を必要とする対象者に、副作用を伴うことなく、かかる疾患若しくは状態の予防又は改善(治療)が期待される。
【0030】
かかるNrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態としては、例えば、酸化ストレスにより引き起こされる疾患、自己免疫反応により引き起こされる疾患、炎症反応により引き起こされる疾患などが挙げられる。さらに具体的には、高血圧症、動脈硬化、虚血性心疾患、虚血再灌流障害、腎不全、多発性硬化症、視神経脊髄炎、自己免疫疾患、網膜症、黄斑変性症、白内障、アルツハイマー病、パーキンソン病、神経変性疾患、炎症性疾患、癌、肝炎、肝機能障害、皮膚障害、糖尿病性腎不全、糖尿病性神経障害、糖尿病、喘息、肺繊維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、慢性肺疾患、加齢に伴う慢性疾患が挙げられる。
【0031】
ここで、大麦若葉には、既に諸種の生理活性成分の存在することが確認されている(例えば、非特許文献3参照)。本発明者らの検討によれば、本発明における大麦若葉又はその処理物には、下記の化合物(a)~(e)からなる群より選ばれる化合物が含まれ、これら化合物は上記Nrf2による生体防御遺伝子発現の活性化作用を有することが推察された。
(a)組成式:C33H40O19、分子量:740、化合物名:ロビニン
(b)組成式:C27H30O15、分子量:594、化合物名:サポナリン
(c)組成式:C25H37O5N2、分子量:445
(d)組成式:C21H20O10、分子量:432、化合物名:アフゼリン
(e)組成式:C29H50O、分子量:414、化合物名:β-シトステロール
【0032】
ここで、ロビニン(robinin)、サポナリン(Saponarin)及びアフゼリン(Afzelin)は、何れも3-ヒドロキシフラボン(3-ヒドロキシ-2-フェニルクロメン-4-オン)骨格を有するフラボノイドに糖がグリコシド結合により結合した化合物、即ちフラボノール配糖体(flavonol glycoside)である。したがって、本発明におけるNrf2活性化用剤は、フラボノール配糖体が主要な有効成分である可能性がある。
【0033】
フラボノール配糖体としては、上記3種の化合物に限定されず、単独又複数の種でNrf2活性化作用を有するものであれば、如何なるフラボノール配糖体であってもよい。具体的は、例えば、上記3種の化合物の他に、アストラガリン(astragalin)、アザレイン(azalein)、ヒペロシド(hyperoside)、イソクェルシトリン(イソクエルシトリン、イソケルシトリン、isoquercitrin)、ケンペリトリン(kaempferitrin)、クェルシトリン(クエルシトリン、ケルシトリン、quercitrin)、ルチン(rutin、ルトサイド、クェルセチン-3-ルチノシド)、アムレンシン(amurensin)、イカリイン(icariin)等が挙げられる。
【0034】
また、化合物(b)(サポナリン)は大麦若葉に含まれる生理活性物質として知られている(非特許文献3)。化合物(e)(β-シトステロール)は幅広い陸生植物に含有されている物質である。よって、本発明の活性化用剤は、化合物(b)と(e)の少なくとも2種の化合物を含むものであり、化合物(a)、(c)及び(d)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでいてもよく、これら化合物の少なくとも1種を含むものが好ましい。本発明において、「化合物(b)と(e)の少なくとも2種の化合物を含むものであり、化合物(a)、(c)及び(d)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい」とは、具体的には、化合物(b)及び(e)を含むもの、好ましくは、化合物(b)、(e)及び(a)を含むもの、化合物(b)、(e)及び(c)を含むもの、化合物(b)、(e)及び(d)を含むもの、より好ましくは、化合物(b)、(e)、(a)及び(c)を含むもの、化合物(b)、(e)、(a)及び(d)を含むもの、化合物(b)、(e)、(c)及び(d)を含むもの、さらに好ましくは、化合物(b)、(e)、(a)、(c)及び(d)を含むものを挙げることができる。
【0035】
本発明のNrf2活性化用剤は、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)を必要とする対象者に、大麦若葉又はその処理物を投与する工程を備えた、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)を予防又は改善(治療)する方法や、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)剤として使用するための大麦若葉又はその処理物や、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)における使用のための大麦若葉又はその処理物や、Nrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)剤を製造するための大麦若葉又はその処理物の使用が期待される。
【0036】
なお、本明細書において、疾患若しくは状態の「予防又は改善」とは、疾患若しくは状態の、調節、進行の遅延、緩和、発症予防、再発予防、抑制等を包含する意味で使用される。
【0037】
本発明における大麦若葉又はその処理物は、水との親和性が高く、溶解又は懸濁状態とすることでき、飲食品及び医薬品に通常添加され得る成分との混和性に優れている。また、大麦若葉は既に飲食品として長年にわたって用いられている成分である。したがって、この大麦若葉又はその処理物を有効成分とするNrf2活性化用剤は、日常の食生活に適宜取り入れて無理なく安心して摂取することができる。
【0038】
本発明のNrf2活性化用剤は、「Nrf2による生体防御遺伝子発現の活性化を促進するために用いる」という用途(以下「Nrf2の活性化用」ということがある。)が限定された、細胞内のNrf2による生体防御遺伝子発現の活性化の有効成分として、大麦若葉又はその処理物を含有する剤であり、単独でも飲食品や医薬品(製剤)として使用することができる。また、飲食品や医薬品等の種々の組成物に、Nrf2による生体防御遺伝子発現の活性化の有効成分として含有させることができる。これにより、Nrf2の活性化用の飲食品組成物又は医薬品組成物を得ることができる。得られたNrf2の活性化用の飲食品組成物又は医薬品組成物は、上述のNrf2の活性低下に起因する疾患若しくは状態(症状)に有効に用いることができる。
【0039】
本発明におけるNrf2活性化用剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物等、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、粉末剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤の他、飲料、食品等の通常の食品や医薬品で用いられる形態を挙げることができる。また、製剤の形態としては、摂取量を調節しやすい粉末剤やカプセル剤、錠剤、顆粒剤、ドリンク等を好適に例示することができる。
【0040】
本発明において、大麦若葉又はその処理物は、そのまま用いてもよく、従来から知られている通常の方法で所望の製剤を製造して用いてもよい。例えば、製剤の製造上許可される諸種の添加剤と混合し、組成物として成型することができる。添加剤としては、本発明の効果を損なわない範囲において添加されるものであればよく、例えば、生薬、ビタミン、ミネラル等の他に、賦形剤、界面活性剤、被膜剤、油脂類、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料;着色料;香料;緩衝剤;酸化防止剤;pH調整剤;クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等の酸味料;等が挙げられる。
【0041】
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、デンプン、セルロース、マルチトール、デキストリン等を挙げることができる。上記界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。上記被膜剤としては、例えば、ゼラチン、プルラン、シェラック、ツェイン等を挙げることができる。上記油脂類としては、例えば、小麦胚芽油、米胚芽油、サフラワー油等を挙げることができる。上記ワックス類としては、例えば、ミツロウ、米糠ロウ、カルナウバロウ等を挙げることができる。上記甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、ステビア、サッカリン、スクラロース等を挙げることができる。
【0042】
上記生薬としては、例えば、高麗人参、アメリカ人参、田七人参、霊芝、プロポリス、アガリクス、ブルーベリー、イチョウ葉及びその抽出物等を挙げることができる。上記ビタミンとしては、例えば、ビタミンD、K等の油溶性ビタミン、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン等の水溶性ビタミンを挙げることができる。
【0043】
また、本発明によれば、大麦若葉又はその処理物を有効成分とするNrf2活性化用剤を含んでなる飲食品又は医薬品が提供される。ここで「含んでなる」とは、所望する製品形態に応じた生理学的に許容されうる担体を含んでいてもよく、また併用可能な他の補助成分を含有する場合も意味する。
【0044】
本発明において、飲食品とは、医薬品以外のものであって、前記のとおり経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品等の即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料等の飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子等の菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレーやシチューの素類等の調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズ等の油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類等の乳製品;卵加工品、魚肉ハムやソーセージ、水産練り製品等の水産加工品;畜肉ハムやソーセージ等の畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアル等の農産加工品;冷凍食品等が挙げられる。
【0045】
また飲食品には、健康食品(例えば、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、特別用途食品(例えば、病者用食品、乳幼児用調整粉乳、妊産婦又は授乳婦用粉乳等)等の他、脂質吸収の増加やNrf2の活性低下に起因する疾患又は状態(症状)のリスク低減、予防又は改善の表示を付した飲食品のような分類のものも包含される。
【0046】
本発明の別の態様によれば、Nrf2活性化用剤を含んでなる飲食品であって、細胞内のNrf2による生体防御遺伝子発現の活性化により予防又は改善しうる疾患若しくは状態の予防、又は改善する機能が表示された飲食品が提供されうる。
【0047】
本発明において、医薬品とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤又は非経口製剤として調製したものである。経口製剤の場合には、前記のとおり、経口摂取可能な形態であれば特に限定されない。また、非経口製剤の場合には、注射剤や座剤の形態をとることができる。簡易性の点からは、経口製剤であることが好ましい。製剤化のために許容されうる添加剤としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0048】
本発明において、Nrf2活性化用剤中の有効成分の含有量は、製剤の種類、形態や、予防又は改善の目的等により一律に規定は難しいが、例えば、成人(体重60kg)1日あたり、大麦若葉の搾汁粉末として、通常15mg~15g程度、好ましくは50mg~9g程度、また、大麦若葉の乾燥粉末として、通常50mg~15g程度、好ましくは100mg~9g程度である。さらに、必要な1日あたりの有効成分の摂取量を摂取(服用)できるように、1日あたりの摂取量を考慮し、製剤中の含有量を適宜設定すればよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]大麦若葉抽出液(搾汁液)の製造
特開2009-148213号公報(特許文献9)に記載の方法に準じて、刈り取った大麦の若葉(茎葉)10kgを圧搾し、抽出液(搾汁液)を8kg得た。
【0051】
[実施例2]大麦若葉抽出物の機能性評価
2-1.目的
Keap1-Nrf2経路(システム)は細胞内において、一連の抗酸化遺伝子(生体防御遺伝子)を発現させることにより活性酸素等を消去する重要な経路である(
図1参照)。同経路(システム)の活性化物質は新規の抗酸化物質(間接抗酸化物質)として期待することができる。
そこで、Keap1-Nrf2経路(システム)を観察できるリポータージーンアッセイ法と各種分画法を組み合させて、大麦若葉抽出物中より同経路(システム)活性化物質の探索を実施した。
【0052】
2-2.大麦若葉抽出液(搾汁液)の分画
まず、大麦若葉抽出液(搾汁液)(3.5L)をろ過後、その上清を凍結乾燥し、酢酸エチルによる抽出を行った。同抽出により、酢酸エチル分画(BLE)、中間層分画(BLG)、水層分画(BLW)の3つの分画を得た(
図2参照)。
これらの分画をDMSO(dimethyl sulfoxide)に溶解し、肝培養細胞を用いた細胞毒性試験及びリポータージーンアッセイを行った。
【0053】
2-3.細胞毒性試験(CCK-8アッセイ)
試験化合物の細胞毒性はCell Counting Kit 8(CCK8、同人化学)のプロトコルに従って測定した。C3A細胞を96穴プレートに8.0×104/wellとなるよう播種し、24時間培養した。その後、大麦若葉抽出液(分画又は画分)を細胞に200μL/well、添加した。さらに24時間後、MEMで20倍希釈したCCK-8溶液を200μl/well、添加した。2時間後、プレートリーダー(Wallac 1420 ARVO Mx plate reader, PerkinElmer)で450nmの吸光度を測定した。
【0054】
2-4.リポータージーンアッセイ
ヒト培養株化細胞(C3A)を白色96穴プレートに8×10
3個/wellとなるように播種し、Nrf2が結合するプロモーター領域に存在するARE配列(Antioxidant Response Element)とルシフェラーゼ遺伝子を有するリポーターベクターと補正用のリポーターベクター(pGL4.37[luc2P/ARE/Hygro]vector: pGL4.75[hRluc/CMV]Vector=20:1、Certificate of Analysis Part# 9PIE364, Part# 9PIE693、Promega Corporation)をFuGENE HD Transfection Reagent (FuGENE HD: Plasmid DNA= 4: 1、Promega Corporation)を用いてトランスフェクションした。24時間後、大麦若葉抽出物を添加した。さらに24時間後Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega Corporation)を添加、ルシフェラーゼ活性を測定した(
図3参照)。
【0055】
2-5.CCK-8アッセイ結果
CCK-8アッセイを行った結果、BLG、BLEは1.25mg/mlまで細胞毒性が観察されなかった。一方、BLEは0.12mg/mlから毒性が観察された(
図4参照)。
【0056】
2-6.各分画のリポータージーンアッセイ結果
リポータージーンアッセイを行った結果、BLE、BLGは、濃度依存的に活性の増加が観察されたが、BLWは、ほとんど活性が観察されなかった。高濃度(600μg/ml)で活性が認められたBLGは、BLEとBLWの混合した画分であることから、低濃度(15μg/ml)で活性を有するBLEをその後の分画に用いることとした(
図5参照)。
【0057】
2-7.酢酸エチル分画(BLE)のHPLC分析
次に、リポータージーンアッセイの活性の高かった分画(BLE)を、下記の条件でHPLC(CAPCELL PAK C18)による分画を行い、25の画分(HPLC画分)を得た(
図6参照)。また、これら25画分以外の部分を集めたものをバックグラウンド(BG)として用いた。
HPLC条件
カラム:CAPCELL PAK C18, 250mm×10mm, 5μm
グラジエント:0~3分、メタノール:水=35:65
30分までにメタノール100%後、15分間保持
5分間メタノール:水=35:65でコンディショニング
検出波長:210nm
流速:4ml/min
【0058】
2-8.HPLC画分のCCK-8アッセイ結果
各画分のCCK-8アッセイ結果を
図7~9に示す。
【0059】
2-9.HPLC画分のリポータージーンアッセイ
各画分のリポータージーンアッセイを行った結果、他の画分と比較し、画分5,6,8,9,18及び19において、リポータージーンアッセイの活性が70以上と有望な画分が得られた(
図10~12参照)。
【0060】
[実施例3]活性成分の分析
3-1.画分5の分析
LC-MS/MSを用いて画分5の分析を行った。得られた分子量及びフラグメントイオンからロビニン(robinin)であることが推定された(
図13参照)。
【0061】
3-2.画分6の分析
LC-MS/MSを用いて画分6の分析を行った。得られた分子量及びフラグメントイオンからサポナリン(saponarin)であることが推定された(
図14参照)。
【0062】
3-3.画分8の分析
LC-MS/MSを用いて画分8の分析を行った。得られた分子量及びフラグメントイオンでは成分の化学構造を推定することができなかった(
図15参照)。
【0063】
3-4.画分9の分析
LC-MS/MSを用いて画分9の分析を行った。得られた分子量及びフラグメントイオンからアフゼリン(afzelin)と推定された(
図16参照)。
【0064】
3-5.画分24の分析
リポータージーンアッセイの活性が低かったが、画分24について、LC-MS/MSとNMRによる分析を行った。得られた結果から、β-sitosterolと同定した(
図17、
図18、
図19参照)。
【0065】
上記のとおり、大麦若葉抽出物(搾汁液)よりリポータージーンアッセイ法と各種分画法を用いて、抗酸化物質の探索を行った結果、robinin、saponarin、afzelinが推定、β-sitosterolが同定(参考文献[5])された。これらはすでに直接抗酸化物質(direct antioxidant)として報告があるが[Janeesh & Abraham, 2014(参考文献[1]); Kamiya & Shibamoto, 2012(参考文献[2]); Vellosa et al., 2015(参考文献[4]); Rosenblat, Volkova, & Aviram, 2013(参考文献[3])]、大麦若葉又はその処理物にはこれら化合物が含まれ、且つこれら化合物がKeap1-Nrf2経路(システム)を活性化させる間接抗酸化物質(indirect antioxidant)となり得ることは、本発明者らの知る限り報告はない。
【0066】
参考文献
[1] Janeesh, P. A., & Abraham, A. (2014). Robinin modulates doxorubicin-induced cardiac apoptosis by TGF-beta 1 signaling pathway in Sprague Dawley rats. Biomedicine & Pharmacotherapy, 68(8), 989-998.
[2] Kamiyama, M., & Shibamoto, T. (2012). Flavonoids with Potent Antioxidant Activity Found in Young Green Barley Leaves. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 60(25), 6260-6267.
[3] Rosenblat, M., Volkova, N., & Aviram, M. (2013). Pomegranate phytosterol (beta-sitosterol) and polyphenolic antioxidant (punicalagin) addition to statin, significantly protected against macrophage foam cells formation. Atherosclerosis, 226(1), 110-117.
[4] Vellosa, J. C. R., Regasini, L. O., Bello, C., Schemberger, J. A., Khalil, N. M., Morandim-Giannetti, A. D., Bolzani, V. D., Brunetti, I. L., & Oliveira, O. M. M. D. (2015). Preliminary in vitro and ex vivo evaluation of afzelin, kaempferitrin and pterogynoside action over free radicals and reactive oxygen species. Archives of Pharmacal Research, 38(6), 1168-1177.
[5] Torres-Naranjo et al. (2016) Chemical constituents of Muehlenbeckia tamnifolia (Kunth) meisn (Polygonaceae) and its in vitro α-amilase and α-glucosidase inhibitory activities. Molecules21(11), 1461.