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特許7201180レトロウイルス増殖抑制剤およびこれを含有するレトロウイルス感染予防薬、レトロウイルス感染症発症予防薬
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  • 特許-レトロウイルス増殖抑制剤およびこれを含有するレトロウイルス感染予防薬、レトロウイルス感染症発症予防薬 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】レトロウイルス増殖抑制剤およびこれを含有するレトロウイルス感染予防薬、レトロウイルス感染症発症予防薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20221227BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20221227BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20221227BHJP
   A61K 36/03 20060101ALN20221227BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P31/18
A61P31/14
A61K36/03
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019523986
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2018021962
(87)【国際公開番号】W WO2018225847
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2017113196
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504426218
【氏名又は名称】株式会社サウスプロダクト
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊波 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】友利 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇悦
(72)【発明者】
【氏名】福島 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宮良 恵美
(72)【発明者】
【氏名】今泉 直樹
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-237103(JP,A)
【文献】特開2006-083285(JP,A)
【文献】特開2012-067023(JP,A)
【文献】特開2011-098899(JP,A)
【文献】特開2006-306897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合した金属結合型フコイダンを含有し、
金属がカリウムの場合には、金属結合型フコイダンにおけるカリウムの含有量が質量換算でフコイダン1に対して0.1%以上、5%以下であり、
金属がカルシウムの場合には、金属結合型フコイダンにおけるカルシウムの含有量が質量換算でフコイダン1に対して1%以上、5%以下であり、
金属がマグネシウムの場合には、金属結合型フコイダンにおけるマグネシウムの含有量が質量換算でフコイダン1に対して1%以上、5%以下であり、
金属がセレンの場合には、金属結合型フコイダンにおけるセレンの含有量が質量換算でフコイダン1に対して1%以上、5%以下であり、
金属が亜鉛の場合には、金属結合型フコイダンにおける亜鉛の含有量が質量換算でフコイダン1に対して%以上、5%以下である
ことを特徴とするレトロウイルス増殖抑制剤。
【請求項2】
レトロウイルスが、HTLV-1またはHIV-1である請求項1記載のレトロウイルス増殖抑制剤。
【請求項3】
フコイダンが、オキナワモズクフコイダンである請求項1または2記載のレトロウイルス増殖抑制剤。
【請求項4】
構造タンパク質の産生を抑制するものである請求項1~3の何れかに記載のレトロウイルス増殖抑制剤。
【請求項5】
合胞体の形成を阻止するものである請求項1~4の何れかに記載のレトロウイルス増殖抑制剤。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のレトロウイルス増殖抑制剤を含有するレトロウイルス感染予防薬。
【請求項7】
請求項1~5の何れかに記載のレトロウイルス増殖抑制剤を含有するレトロウイルス感染症発症予防薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトロウイルス増殖抑制剤およびこれを含有するレトロウイルス感染予防薬、レトロウイルス感染症発症予防薬に関する。
【背景技術】
【0002】
レトロウイルスは、遺伝子として1本鎖RNAを有する球状のウイルスである。このレトロウイルスは、オンコウイルス、レンチウイルス、スプーマウイルス等のいくつかの亜科に分かれる。
【0003】
これらレトロウイルス亜科のうち、HIV-1、2等のレンチウイルス亜科は後天性免疫不全症候群(AIDS)との関連、HTLV-1、2のオンコウイルス亜科はHTLV-1関連脊髄症(HAM)、成人T細胞白血病(ATL)、HTLV-1関連ブドウ膜炎(HU)との関連が知られている。
【0004】
これまでレトロウイルスに関連する疾患の治療には抗ウイルス薬を複数併用する抗レトロウイルス療法が主流であるが(例えば、インテグラーゼ阻害薬1剤と核酸系逆転写酵素阻害薬2剤の併用療法)、服薬のコンプライアンスの維持や費用が高いうえ、有効性にも問題があり、広く普及していない(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Casartelli N., HIV-1 cell-to-cell transmission and antiviral strategies: an overview., Curr. Drug Targets, 17, 65-75, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便な方法で、レトロウイルスの増殖を抑制する手段を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、フコイダンの硫酸基のカウンターイオンを特定の金属イオンにすることにより、レトロウイルスの増殖を抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、フコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合した金属結合型フコイダンを含有し、
金属が亜鉛の場合には、金属結合型フコイダンにおける亜鉛の含有量が質量換算でフコイダン1に対して0.005%以上である
ことを特徴とするレトロウイルス増殖抑制剤である。
【0009】
また、本発明は、上記レトロウイルス増殖抑制剤を含有するレトロウイルス感染予防薬またはレトロウイルス感染症発症予防薬である。
【0010】
更に、本発明は、フコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウムおよびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合したことを特徴とする金属結合型フコイダンである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレトロウイルス増殖抑制剤は、レトロウイルスのカプシドタンパク質産生を抑制するためレトロウイルスの増殖を阻止することができる。また、本発明のレトロウイルス増殖抑制剤は、レトロウイルスが感染した細胞が合胞体となることも阻止することができる。
【0012】
従って、本発明のレトロウイルス増殖抑制剤は、レトロウイルス感染予防薬またはレトロウイルス感染症発症予防薬に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1における合胞体形成の有無の判定基準を示す図である(A:合胞体形成陰性、B:合胞体形成陽性)。
図2】実施例1で得た硫酸基に結合する金属を変化させたフコイダンを、ATL-056i培養細胞に最終濃度10μg/mlで培地に添加・投与した後、2日後のp24産生量を測定した結果を示す図である。
図3】実施例12で得たセレン結合型フコイダンを、ATL-056i培養細胞に最終濃度10μg/mlで培地に添加・投与した後、2日後のp24産生量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のレトロウイルス増殖抑制剤の有効成分は、硫酸基に、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合した金属結合型フコイダン(以下、単に「金属結合型フコイダン」ということもある)である。
【0015】
この金属結合型フコイダンにおいて金属の含有量は、金属がカリウム、カルシウム、マグネシウムおよびセレンからなる群から選ばれる場合には、特に限定されないが、例えば、質量換算でフコイダン1に対してカリウム、カルシウム、マグネシウムおよびセレンからなる群から選ばれる金属が0.005%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.1%以上、特に好ましくは0.5%以上、特により好ましくは1%以上である。これら金属量の上限は特に限定されないが、例えば、5%以下である。
【0016】
また、この金属結合型フコイダンにおいて金属の含有量は、金属が亜鉛の場合には、後記するように通常のフコイダンに含まれる亜鉛の含有量と区別するため、質量換算でフコイダン1に対して亜鉛が0.005%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.1%以上、特に好ましくは0.5%以上、特により好ましくは1%以上である。これら金属量の上限は特に限定されないが、例えば、5%以下である。
【0017】
フコイダンの由来は特に限定されず、例えば、オキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アカモク(Sargassum horneri (Turner) C.Agardh)、マコンブ(Laminaria Japonica Areschoug)、ヒバマタ(Fucus distichus)、ホンダワラ(Sargassum fulvellum)等の褐藻綱の海藻由来のものが挙げられる。これらのフコイダンの中でもオキナワモズク由来のオキナワモズクフコイダンが好ましい。
【0018】
オキナワモズクフコイダンは下記式で示すようにα1,3結合したフコースを主鎖として、フコース6分子にグルクロン酸が1分子結合したものであり、また、フコースの半分は硫酸化されているものである。
【0019】
【化1】
【0020】
上記したフコイダンは、例えば、株式会社サウスプロダクト、タカラバイオ株式会社、フナコシ株式会社等から市販されているものや、文献(M.Nagaoka,et al. : Structural study of fucoidan from Cladosiphon okamuranus TOKIDA.Glycoconjugate Journal 16 : 19-26,1999)記載の方法により抽出したもの等を特に制限なく使用することができる。また、フコイダンは、塩酸等の酸で加水分解して分子量を調整したものであってもよい。
【0021】
フコイダンの硫酸基には通常、何も結合していないか、ナトリウムや少量(0.0001~0.002質量%程度)の亜鉛が結合しているが、これに代えてカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上を結合させるには、フコイダンを含有する溶液を調製し、イオン交換によってフコイダンの硫酸基にこれらの金属を結合させればよい。
【0022】
上記で用いられるフコイダンを含有する溶液は、特に限定されず、例えば、既に精製されたフコイダンを水等に溶解させた溶液や、フコイダンを含有する褐藻類を弱酸性溶液などで抽出し、不溶物を除去して調製されたもの等が挙げられる。この溶液におけるフコイダンの含有量は特に限定されないが、例えば、0.1~5質量%、好ましくは1~3質量%である。
【0023】
上記において、イオン交換の方法は、特に限定されず、例えば、フコイダンを含有する溶液を、酸性の溶液に対して透析や加水ろ過し、その後、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンからなる群から選ばれる金属(以下、単に「金属」ということもある)の1種または2種以上を含むアルカリ性の水溶液で中和する方法(中和法)、フコイダンを含有する溶液に前記金属の塩の1種または2種以上を添加し、更にエタノールを添加して沈殿させる方法(沈殿法)、イオン交換樹脂を用いる方法等で行うことができる。
【0024】
上記中和法で用いられる酸性の溶液は、特に限定されず、例えば、水に塩酸等の酸を添加してpHを1~5、好ましくは2.5~3.5に調製することにより得られる。
【0025】
フコイダンを含有する溶液を、酸性の溶液に対して透析する方法は特に限定されず、例えば、3質量%程度のフコイダンを含有する溶液を透析膜に入れ、約10倍容以上の酸性溶液に入れ、一晩撹拌することでできる。なお、透析膜のかわりに限外ろ過膜を用いれば加水ろ過ができる。
【0026】
上記で用いられる前記金属の1種または2種以上を含有するアルカリ性の水溶液は、水に溶解した際にアルカリ性を呈するカリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物およびセレン化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を添加する等して調製される。水に溶解した際にアルカリ性を呈するカリウム化合物としては、例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。水に溶解した際にアルカリ性を呈するカルシウム化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。水に溶解した際にアルカリ性を呈するマグネシウム化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。水に溶解した際にアルカリ性を呈する亜鉛化合物としては、例えば、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、グルコン酸亜鉛等が挙げられる。水に溶解した際にアルカリ性を呈するセレン化合物としては、例えば、亜セレン酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ性の水溶液に含まれるカリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物およびセレン化合物の量は、フコイダンに対するカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、セレンの量が上記した量になるように添加すればよい。このように調製したアルカリ性の水溶液を上記のようにして調製されたフコイダンを含有する酸性の水溶液に接触させる。この接触は水溶液中で行われる。また、アルカリ性の水溶液中の金属量は、特に限定されず、フコイダンに結合させたい金属の量にあわせて適宜調整すればよい。
【0027】
上記沈殿法に用いられるフコイダンを含有する溶液は、上記中和法で用いられるものと同様で良い。また、前記金属の塩の1種または2種以上は、水に溶解した際にカチオンとして解離するものである。カリウム化合物としては、塩化カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。カルシウム化合物としては、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。セレン化合物としては、四塩化セレン、亜セレン酸ナトリウム等が挙げられる。フコイダンを含有する溶液に添加される金属塩の量は特に限定されず、フコイダンに結合させたい金属の量にあわせて適宜調整すればよい。フコイダンを含有する溶液に、前記金属の塩の1種または2種以上を添加した後は、更に等倍量程度のエタノール等のアルコールを添加し、静置等する。
【0028】
上記方法でイオン交換を行った後は、適宜、洗浄、乾燥、精製を行ってもよい。
【0029】
上記のようにしてフコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合した金属結合型フコイダンが得られる。これら金属結合型フコイダンにおいて、フコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンが結合したことおよびその量は原子吸光光度計やイオンクロマトグラフィで測定することができる。
【0030】
以上説明したフコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合した金属結合型フコイダン、好ましくはフコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウムおよびセレンからなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合した金属結合型フコイダンは、レトロウイルス増殖を抑制することができる。なお、ここでレトロウイルス増殖の抑制とは、感染細胞と非感染細胞の合抱体形成を抑制すること、p24等のカプシドタンパク等の構造タンパク質の産生を抑制することをいう。
【0031】
そのため、上記金属結合型フコイダンはレトロウイルス増殖抑制剤とすることができる。ここでレトロウイルスとしては、HTLV-1またはHIV-1が好ましい。
【0032】
本発明のレトロウイルス増殖抑制剤は、上記金属結合型フコイダンを含んでいるだけでよいが、フコイダンを1日あたり100mg以上、好ましくは500mgとなる量で、金属結合型フコイダンの効果を損なわない成分と共に、常法に従って、粉末状、顆粒状、液状、ゲル状にし、これらを飲料、錠剤、ソフトカプセル等の形態にすればよい。
【0033】
また、本発明のレトロウイルス増殖抑制剤の有効成分である金属結合型フコイダンは、従来から食用の褐藻綱の海藻由来であるため、これをそのまま従来公知の飲食品に含有させてもよい。
【0034】
なお、本発明のレトロウイルス増殖抑制剤は、レトロウイルスのカプシドタンパク質産生を抑制することができ、また、レトロウイルスが感染した細胞が合胞体となることも阻止することができる。
【0035】
そのため、本発明のレトロウイルス増殖抑制剤は、レトロウイルス感染予防薬またはレトロウイルス感染症発症予防薬にすることができる。
【0036】
具体的に、本発明のレトロウイルス増殖抑制剤をレトロウイルス感染予防薬に用いる場合、HTLV-1またはHIV-1に感染していない者が、上記形態にした金属結合型フコイダンを1日4000mg程度までの量で、1日1~3回に分けて1か月以上、連続して摂取すればよい。
【0037】
更に、本発明のレトロウイルス増殖抑制剤をレトロウイルス感染症発症予防薬に用いる場合、抗HTLV-1またはHIV-1抗体陽性で臨床的にキャリアの状態であるが、ATLおよびHAM、HU、AIDSを発症していない者が、上記形態にした金属結合型フコイダンを1日4000mg程度までの量で、1日1~3回に分けて1か月以上、連続して摂取すればよい。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
実 施 例 1
金属結合型フコイダンの調製:
(1)フコイダン(ナトリウム結合型)の調製
水に生のオキナワモズクを投入、撹拌した。6NHClを用いてpH3.0に調整し、90℃にて1時間抽出した。遠心分離し、上清をUF膜(分画分子量10,000)にて脱塩・濃縮した。25%NaOHを用いて中和(pH5.5)した。凍結乾燥し、フコイダン(分子量10,000以上)とした。
【0040】
(2)金属の異なるフコイダンの調製
(a)亜鉛結合型フコイダンの調製
上記(1)で得たフコイダン1gをミリQ水100mLに溶解し、分画分子量8,000の透析膜を用いて、希薄塩酸(pH3.0)1Lに対して一晩透析した。透析終了後pH3.0以下であることを確認した。これに水酸化亜鉛をpH5.5になるよう加えた。遠心分離によって不溶な水酸化亜鉛を除去した。上清を凍結乾燥し、亜鉛結合型フコイダンとした。
(b)カルシウム結合型フコイダンの調製
上記(1)で得たフコイダン1gをミリQ水100mLに溶解し、分画分子量8,000の透析膜を用いて、希薄塩酸(pH3.0)1Lに対して一晩透析した。透析終了後pH3.0以下であることを確認した。これに水酸化カルシウムをpH5.5になるよう加えた。遠心分離によって不溶な水酸化カルシウムを除去した。上清を凍結乾燥し、カルシウム結合型フコイダンとした。
(c)ナトリウム結合型フコイダンの調製
上記(1)で得たフコイダン1gをミリQ水100mLに溶解し、分画分子量8,000の透析膜を用いて、希薄塩酸(pH3.0)1Lに対して一晩透析した。透析終了後pH3.0以下であることを確認した。これに水酸化ナトリウムをpH5.5になるよう加えた。遠心分離によって不溶な水酸化ナトリウムを除去した。上清を凍結乾燥し、ナトリウム結合型フコイダンとした。
(d)マグネシウム結合型フコイダンの調製
上記(1)で得たフコイダン1gをミリQ水100mLに溶解し、分画分子量8,000の透析膜を用いて、希薄塩酸(pH3.0)1Lに対して一晩透析した。透析終了後pH3.0以下であることを確認した。これに水酸化マグネシウムをpH5.5になるよう加えた。遠心分離によって不溶な水酸化マグネシウムを除去した。上清を凍結乾燥し、マグネシウム結合型フコイダンとした。
(e)カリウム結合型フコイダンの調製
上記(1)で得たフコイダン1gをミリQ水100mLに溶解し、分画分子量8,000の透析膜を用いて、希薄塩酸(pH3.0)1Lに対して一晩透析した。透析終了後pH3.0以下であることを確認した。これに水酸化カリウムをpH5.5になるよう加えた。遠心分離によって不溶な水酸化カリウムを除去した。上清を凍結乾燥し、カリウム結合型フコイダンとした。
【0041】
上記で調製したフコイダンを表1のように命名した。また、原子吸光光度計で各フコイダンに含まれる置換した金属含量を測定した結果も表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
カリウム結合型フコイダンは、カリウムを質量換算でフコイダン1に対して0.15%含んでいた。カルシウム結合型フコイダンは、カルシウムを質量換算でフコイダン1に対して2.07%含んでいた。マグネシウム結合型フコイダンは、マグネシウムを質量換算でフコイダン1に対して1.50%含んでいた。亜鉛結合型フコイダンは、亜鉛を質量換算でフコイダン1に対して1.26%含んでいた。
【0044】
実 施 例 2
p24の産生量の測定:
実施例1で得た硫酸基に結合する金属を変化させたフコイダンを、ATL-056i培養細胞に最終濃度10μg/mlで培地に添加・投与した後、2日後のp24産生量を測定した。p24産生量は、HTLV-1p24抗原捕獲抗体およびHRP標識p24検出抗体を用いて以下の手順で測定した。なお、抗体は文献(Tanaka Y., et al.,Elimination of human T cell leukemia virus type-1-infected cells by neutralizing and antibody-dependent cellular cytotoxicity-inducing antibodies against human T cell leukemia virus type-1 envelope gp46. AIDS Res. Hum. Retroviruses, 30, 542-552, 2014.)記載の方法に従って作製した。その結果を図2に示した。
【0045】
<測定試薬・器具>
カセット:ELISA用16ウエル(8ウエル×2)
p24抗原捕獲抗体液:p24抗原捕獲抗体の200倍液、0.2%Triton-X100、0.2%BSA、0.01%チメロサールを含むPBSに溶解したもの
ブロッキング溶液:1%カゼイン/PBS、0.01%チメロサールを含む
抗原希釈液:0.2%Triton-X100、0.2%BSA、0.01%チメロサールを含むPBSに溶解したもの
p24スタンダードの原液:組み換えHTLV-1p24 500ng/ml
HRP標識p24検出抗体液:HRP標識p24検出抗体の200倍液、0.2%Triton-X100、0.2%BSA、0.01%チメロサールを含むPBSに溶解したもの
洗浄液:0.05%Tween-20を含むPBS
基質発色溶液:気質として0.01%過酸化水素、発色剤としてTMBを含むクエン酸緩衝液
停止液:2N硫酸
【0046】
<測定手順>
p24抗原捕獲抗体液50μlを各ウエルに入れ、1時間静置し、次いでブロッキング溶液100μlを各ウエルに入れ10分間静置し、洗浄する操作を5回繰り返し、p24抗原捕獲抗体がコーティングされたカセットを作製した。p24抗原捕獲抗体がコーティングされたカセットの各ウエルに抗原希釈液を50μl入れる。p24スタンダードの原液50μlをウエルに入れ、希釈液で段階希釈を行った。各ウエルに検体を50μlずつ入れる。HRP標識抗体p24検出抗体液を50μl入れ、シールした後、室温で1時間反応させた。反応後、反応液を捨て、洗浄液で5回洗浄する。次に、基質発色溶液を各ウエルに80μlずつ入れた後、遮光して、室温で10~15分間静置し、発色を確認し、その後、停止液を各ウエルに50μlずつ入れる。最後にプレート吸光度計で波長450nm(対照波長540nmまたは630nm)で吸光度を測定し、予め作成した検量線から、検体中のp24抗原を定量する。
【0047】
以上の結果から、フコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウムまたは亜鉛が結合した金属結合型フコイダン(Fuco-2、Fuco-3、Fuco-4、Fuco-5)は、フコイダン(ナトリウム結合型)に比べて、HTLV-1のカプシドタンパク質(p24)の産生を顕著に抑制することが分かった。
【0048】
実 施 例 3
合胞体形成の有無:
実施例1で調製した硫酸基に結合する金属を変化させたフコイダンを、各種濃度でATL患者由来HTLV-1感染細胞および非感染ヒトT細胞株Jurkatに投与し、8時間後と24時間後に顕微鏡で細胞の様子を観察した。図1のAの状態であれば合胞体の形成を阻止したと判断し、Bの状態であれば合胞体の形成を阻止していないと判断した。8時間後と24時間後に合胞体の形成を完全に阻止したと判断できた濃度を完全阻止濃度とし、それを表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
以上の結果から、フコイダンンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウムまたは亜鉛が結合した金属結合型フコイダン(Fuco-2、Fuco-3、Fuco-4、Fuco-5)は、フコイダン(ナトリウム結合型)に比べて合胞体の形成を阻止することが分かった。特にフコイダンンの硫酸基にカリウム、カルシウムまたはマグネシウムが結合した金属結合型フコイダン(Fuco-2、Fuco-3、Fuco-4)の形成阻止効果は顕著であった。
【0051】
実 施 例 4
飲料:
実施例1(1)で得たフコイダン(ナトリウム結合型)1g、クエン酸125mg、スクラロース25mgを50mlの水に溶解させたものを容器に充填し、飲料を得た。
【0052】
実 施 例 5
投与試験:
実施例4で得た飲料を被験者(HTLV-1キャリア:年齢20才以上:10人)に配布して1回1本、1日3回で6か月間毎日飲用してもらった。この飲料飲用前から飲用が終了する6か月後まで1か月ごとに体重・血圧を測定して静脈血10mlを採血した。静脈血は、比重遠心法によりPBMCsを分離後、-80℃で保存した。保存PBMCsより常法に従ってDNAを抽出して、以下のようなリアルタイムPCR法によりプロウイルス量を測定した。その結果を表4に示した。
【0053】
<リアルタイムPCR法>
リアルタイムPCRにより症例DNA中のHTLV-1プロウイルスおよびヒトβ鎖グロビン遺伝子のコピー数を測定し、1細胞あたりのHTLV-1プロウイルスは1コピー、β鎖グロビン遺伝子は2コピーとして100 PBMCs中のHTLV-1プロウイルスのコピー数を算出した。測定にはLightCycler 480(Roche Diagnostics)を使用し、TaqManプローブ法で行った。HTLV-1の検出には、HTLV-1でよく保存されているpX領域をターゲットとした。使用したプローブおよびプライマーの配列(配列番号1~6)を表3に示した。反応液は1×LightCycler 480 Probe Master(Roche Diagnostics)、0.5μM sense primer、0.5μM antisense primer、0.1μM TaqMan probe、テンプレートDNA 50ngで総量20μlに調製した。検量線はHTLV-1プラスミドDNAを1×10~10コピー、健常人DNAを2.5×10~10コピーで作成した。反応条件は最初の熱変性を95℃で5分行い、95℃で10秒、60℃で30秒を50サイクルとした。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
―:測定せず
【0056】
HTLV-1プロウイルス量(コピー数/100 PBMCs)は、飲用前よりも飲用6カ月後で有意に低下していた(中央値12.3 vs 10.0、Willcoxonの符号付順位検定、p=0.021)。
【0057】
以上の通り、HTLV-1キャリアがフコイダン(ナトリウム結合型)を飲用することによりHTLV-1プロウイルス量を減少させることができた。そのため、合胞体形成試験でフコイダン(ナトリウム結合型)よりも顕著に効果が高かったフコイダンの硫酸基にカリウム、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛からなる群から選ばれる金属の1種または2種以上が結合した金属結合型フコイダンを、HTLV-1キャリアが飲用した場合には、顕著にHTLV-1プロウイルス量を減少させると予測される。
【0058】
実 施 例 6
金属結合型フコイダンの調製:
実施例1(1)において、生のオキナワモズクを生のガゴメ昆布に代える以外は同様にしてフコイダンを調製する。このフコイダンについて、実施例1(2)の操作を行い、金属の異なるフコイダンを調製し得る。
【0059】
実 施 例 7
金属結合型フコイダンの調製:
実施例1(1)において、生のオキナワモズクを生のわかめに代える以外は同様にしてフコイダンを調製する。このフコイダンについて、実施例1(2)の操作を行い、金属の異なるフコイダンを調製し得る。
【0060】
実 施 例 8
飲料:
実施例1(2)で得た各金属結合型フコイダンの一つを1.5g、クエン酸125mg、スクラロース25mgを50mLの水に溶解させたものを容器に充填し、飲料を得た。
【0061】
実 施 例 9
飲料:
実施例1(2)で得た各金属結合型フコイダンの一つを0.5g、クエン酸125mg、スクラロース25mgを50mLの水に溶解させたものを容器に充填し、飲料を得た。
【0062】
実 施 例 10
細胞毒性の確認:
実施例1(2)で得られた各金属結合型フコイダン(0、62.5、125、250、500または1000μg/mL)について、文献(Haneji K., et al., Fucoidan extracted from Cladosiphon okamuranus Tokida induces apoptosis of human T-cell leukemia virus type 1-infected T-cell lines and primary adult T-cell leukemia cells. Nutr. Cancer., 52, 189-201, 2005.)に従って細胞毒性を調べた。その結果、少なくとも1000μg/mLの濃度まで細胞毒性は認められなかった。
【0063】
実 施 例 11
安全性の確認:
実施例1(2)(a)で得られた亜鉛結合型フコイダン(0、250、500または833mg/kg/rat)について、文献(Li N. et al., Toxicological evaluation of fucoidan extracted from Laminaria japonica in Wistar rats. Food Chem Toxicol. 43, 421-426, 2005.)に従ってラットを用いた安全性を調べた。その結果、少なくとも833mg/kg/ratの濃度で28日まで問題は認められなかった。
【0064】
実 施 例 12
金属結合型フコイダンの調製:
実施例1の(1)で得たフコイダン5gを蒸留水100mLに溶解した。これとは別に4塩化セレン2.2077gを蒸留水100mLに溶解した。これらを混合した後、エタノール200mLを加え、室温で放置した。遠心(10000rpm、10分間)を行い、沈殿物をエタノールで3回洗浄し、エバポレーター(70℃)で乾燥させた。エタノール沈殿物をミリQ水で溶解後、透析を行った。透析後、凍結乾燥を行い、セレン結合型フコイダンとした。原子吸光光度計でセレン結合型フコイダンに含まれる置換した金属含量を測定したところ、セレン結合型フコイダンはセレンを177.1ppmで含んでいた(セレン結合型フコイダンは、セレンを質量換算でフコイダン1に対して1.77%含んでいた)。
【0065】
実 施 例 13
合胞体形成の有無:
実施例12で得られたセレン結合型フコイダンについて、実施例3と同様の方法により合胞体形成抑制作用を調べた結果、合胞体形成完全阻止濃度は1.25mg/mLであった。
【0066】
実 施 例 14
p24の産生量の測定:
実施例12で得られたセレン結合型フコイダンについて、実施例2と同様の方法により、ATL-056i培養細胞に最終濃度10μg/mLで培地に添加・投与した2日後のp24産生量を測定した。その結果を図3に示した。セレン結合型フコイダンはp24抗原産生を顕著に抑制することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のレトロウイルス増殖抑制剤は、レトロウイルスの感染を予防したり、レトロウイルス感染症の発症を予防したりすることができる。
図1
図2
図3
【配列表】
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