(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】物体検出方法及び物体検出装置
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20221227BHJP
【FI】
G06T7/00 300G
(21)【出願番号】P 2018163240
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】盧 忻
(72)【発明者】
【氏名】城澤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰男
【審査官】笠田 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-176563(JP,A)
【文献】特開2010-271872(JP,A)
【文献】特開2015-026110(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073894(WO,A1)
【文献】Brian Ayers,外1名,Home Interior Classification using SIFT Keypoint Histograms,2007 IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition,2007年06月17日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輝度勾配に基づく特徴量を用いて画像中の被検出物の存否を判定する物体検出方法において、
画像を所定数の画素で区切ったセルごとに輝度勾配ヒストグラムを作成し、
前記輝度勾配ヒストグラムにおいて開始位置および幅が異なる複数の領域を設定し、
前記複数の領域において累積分布関数を求め、
前記累積分布関数と正規累積分布関数との誤差が最小となる領域を選択し、
前記選択した領域の開始位置を1番目のビンの下境界に設定し、
前記選択した領域の幅を前記輝度勾配ヒストグラム全体のビンの幅に設定することにより、
セルごとに輝度勾配ヒストグラムのビンの下境界と幅を最適化して特徴量を算出することを特徴とする物体検出方法。
【請求項2】
前記累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出する際には、
輝度勾配ヒストグラムにおいて所定角ごとに複数の区切り位置を設定し、
各区切り位置を開始位置として数種類の幅を持つ領域を設定し、
各幅ごとに領域集合を設定し、
各領域集合において累積分布関数の増加量が最大となる領域を選択し、
前記選択された領域の累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出することを特徴とする
請求項1に記載の物体検出方法。
【請求項3】
被検出物を示す特徴量を求める特徴量構成部と、
前記特徴量を基にして識別器を構築する識別器生成部とを備え、
前記特徴量構成部は、
画像を所定数の画素で区切ったセルごとに輝度勾配ヒストグラムを作成し、
セルごとに輝度勾配ヒストグラムのビンの下境界と幅を最適化して特徴量を算出し、
前記輝度勾配ヒストグラムにおいて開始位置および幅が異なる複数の領域を設定し、
前記複数の領域において累積分布関数を求め、
前記累積分布関数と正規累積分布関数との誤差が最小となる領域を選択し、
前記選択した領域の開始位置を1番目のビンの下境界に設定し、
前記選択した領域の幅を前記輝度勾配ヒストグラム全体のビンの幅に設定することにより、
前記特徴量から被検出物の存在を示す特徴量を求めることを特徴とする物体検出装置。
【請求項4】
前記特徴量構成部は、前記累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出する際には、
輝度勾配ヒストグラムにおいて所定角ごとに複数の区切り位置を設定し、
各区切り位置を開始位置として数種類の幅を持つ領域を設定し、
各幅ごとに領域集合を設定し、
各領域集合において累積分布関数の増加量が最大となる領域を選択し、
前記選択された領域の累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出することを特徴とする
請求項3に記載の物体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輝度勾配に基づく特徴量を用いた画像認識による物体検出方法および物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顔や人物等の物体を検出するためには、通常、画像から算出される局所的な特徴量が使用される。局所的な特徴量の代表的なものとして、明暗差を利用するHaar-like特徴量、画素値の勾配方向の輝度勾配ヒストグラムを利用するHOG特徴量(Histogram of Oriented Gradients)などがある。中でもHOG特徴量は物体検出に広く使用されており、特に車載カメラに基づく歩行者・車検出の応用に非常に役立てられている。
【0003】
これらの局所的な特徴量を利用する物体検出においては、大量の教師付き画像データを用いて、検出に有効な特徴を学習させる。物体検出の性能は、特徴量記述子の良し悪しに強く依存する。このため、物体検出性能を高めるためにはより優れた局所的特徴量を見出すことが重要である。
【0004】
従来のDalalらによるHOG特徴量を用いた歩行者検出(非特許文献1)では、HOG特徴量のセルサイズを6x6画素、ブロックサイズを3x3セルに固定した大きさ、かつ、第1ビンの下境界を0度、ビンの幅を20度に固定したヒストグラムが最も良いと結論付けられており、腕や下半身など広範囲の局所領域(セル)が歩行者の輪郭として表現できることが示されている。
【0005】
これに対し特許第5916134号公報(特許文献1)では、ビン数の異なる複数のHOG特徴量を算出し(実施例ではビン数3,5,7,9)、算出された各HOG特徴量の複数のビンから特徴量パターンを求めるのに有効なビン(即ち、被検出物の検出を行う基準に適したビン)の選択を行うことが記載されている。ビン数の異なる複数のHOG特徴量を算出することにより、物体検出に効果的な成分から構成される特徴量を抽出することができ、被検出物の存否判定精度を高めることが可能であると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】N. Dalal, B. Triggs, "Histograms of oriented gradients for human detection", Proc. Conf. Computer Vision Pattern Recognition, vol. 1, pp. 886-893, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
主に車載安全システムの安全性向上のために、さらに物体検出性能を高める必要がある。そのためには、より優れた局所的特徴量を見出すことが重要である。
【0009】
そこで本発明は、さらに検出率向上ないし高速化を図ることが可能な物体検出方法および物体検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、各セルにおける輝度勾配ヒストグラムのビンを最適化すれば、物体検出性能が更に向上すると考えた。そして発明者らが鋭意検討したところ、ビンの下境界と幅を固定したり、多数のビンから有効なビンを選択したりするのではなく、セルの画素データに応じてビンの下境界と幅を最適化することにより、「物体らしい特徴」を捉えることができ、物体検出性能を更に高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明にかかる物体検出方法の代表的な構成は、輝度勾配に基づく特徴量を用いて画像中の被検出物の存否を判定する物体検出方法において、画像を所定数の画素で区切ったセルごとに輝度勾配ヒストグラムを作成し、セルごとに輝度勾配ヒストグラムのビンの下境界と幅を最適化して特徴量を算出することを特徴とする。
【0012】
上記の最適化においては、輝度勾配ヒストグラムにおいて開始位置および幅が異なる複数の領域を設定し、複数の領域において累積分布関数を求め、累積分布関数と正規累積分布関数との誤差が最小となる領域を選択し、選択した領域の開始位置を1番目のビンの下境界に設定し、選択した領域の幅を輝度勾配ヒストグラム全体のビンの幅に設定してもよい。
【0013】
上記の累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出する際には、輝度勾配ヒストグラムにおいて所定角ごとに複数の区切り位置を設定し、各区切り位置を開始位置として数種類の幅を持つ領域を設定し、各幅ごとに領域集合を設定し、各領域集合において累積分布関数の増加量が最大となる領域を選択し、選択された領域の累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出してもよい。
【0014】
また、本発明にかかる物体検出装置の代表的な構成は、被検出物を示す特徴量を求める特徴量構成部と、特徴量を基にして識別器を構築する識別器生成部とを備え、特徴量構成部は、画像を所定数の画素で区切ったセルごとに輝度勾配ヒストグラムを作成し、セルごとに輝度勾配ヒストグラムのビンの下境界と幅を最適化して特徴量を算出し、特徴量から被検出物の存在を示す特徴量を求めることを特徴とする。
【0015】
上記の特徴量構成部は、最適化する際に、輝度勾配ヒストグラムにおいて開始位置および幅が異なる複数の領域を設定し、複数の領域において累積分布関数を求め、累積分布関数と正規累積分布関数との誤差が最小となる領域を選択し、選択した領域の開始位置を1番目のビンの下境界に設定し、選択した領域の幅を輝度勾配ヒストグラム全体のビンの幅に設定してもよい。
【0016】
上記の特徴量構成部は、累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出する際には、輝度勾配ヒストグラムにおいて所定角ごとに複数の区切り位置を設定し、各区切り位置を開始位置として数種類の幅を持つ領域を設定し、各幅ごとに領域集合を設定し、各領域集合において累積分布関数の増加量が最大となる領域を選択し、選択された領域の累積分布関数と正規累積分布関数との誤差を算出してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、従来よりもさらに検出率向上ないし高速化を図ることが可能な物体検出方法および物体検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】物体検出装置の概略構成を説明するブロック図である。
【
図2】特徴量構成部の処理手順を説明するフローチャートである。
【
図3】特徴量算出部の処理手順を説明するフローチャートである。
【
図5】HOG特徴量とPDOG特徴量のヒストグラムと第1ビンを比較する図である。
【
図6】HOG特徴量とPDOG特徴量を用いた顔検出と身体検出の画像例である。
【
図7】顔検出と身体検出のエラー率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0020】
図1は物体検出装置の概略構成を説明するブロック図である。
図1に示す物体検出装置100において、特徴量構成部106において行われる処理以外の全体的な構成および処理は、従来のHOG特徴量を用いた物体検出方法および物体検出装置と同様である。本実施形態においては、本発明の新規な部分については詳細に説明し、既知の部分については簡潔に説明する。
【0021】
物体検出装置100は、トレーニング部102と実行部110から構成される。まずトレーニング部102においてトレーニング用画像134が画像入力部104に入力される。画像は一般的に動画像であるが、以下の処理は動画像から抜き出されたフレーム画像(静止画像)に対して行われる。
【0022】
特徴量構成部106では、トレーニング用画像の勾配情報を用いて、特徴量の算出および特徴量パターンの生成が行われる。特徴量とは、HOG特徴量と同様に、セルの輝度勾配方向を横軸とし、輝度勾配の大きさ(強度)を縦軸として輝度勾配をヒストグラム化した特徴量であり、角度を複数の方向領域に分割し、各方向領域に対応する輝度勾配の大きさをヒストグラムのビンの高さで示したものである。
【0023】
ただし、従来のHOG特徴量は輝度勾配ヒストグラムのビンの下境界と幅を固定していたところ(例えば下境界を0度、ビンの幅を20度)、本発明では輝度勾配ヒストグラムのビンの下境界とビンの幅を最適化する。この最適化した特徴量をPDOG特徴量(Probability Distribution of Oriented Gradients)と称する。PDOG特徴量の算出は本発明の最も特徴的な処理であり、後に詳述する。
【0024】
画像中では被検出物の輪郭が位置する箇所で輝度勾配が大きくなるので、PDOG特徴量を求めることにより画像中にある被検出物の形状を検知することができる。このときの被検出物に対するPDOG特徴量のパターンを、特徴量パターンという。
【0025】
特徴量構成部106が算出した特徴量の構成パラメータは、データベース122に格納する。特徴量の構成パラメータとは、セルの位置とサイズ、勾配ヒストグラムビンの下境界や幅、ブロックの位置とサイズを含む。
【0026】
識別器生成部108では、PDOG特徴量の構成パラメータによって全トレーニング用画像における各同種(同じ構成パラメータかつ同じビン)PDOG特徴量を求め、同一番号をつける。そして、Adaboost方法により、各同番PDOG特徴量の共通信頼度(重み)を計算し、逐次的に信頼度の高い同番PDOG特徴量を選択して識別器を生成する(重み付き加法型関数を生成する)。そして、選択された各同番PDOG特徴量の番号(どれ)とそれらに対応する信頼度(どのくらい)を識別器の重みパラメータとしてデータベース124に格納する。
【0027】
実行部110においては、カメラ130から画像入力部112に画像が入力される。特徴量算出部114では、データベース122に格納されたPDOG特徴量の構成パラメータ(セルの位置とサイズ、勾配ヒストグラムビンの下境界や幅、ブロックの位置とサイズ)を利用し、リアルタイムの入力画像における各PDOG特徴量を計算する。
【0028】
識別器実行部116では、入力画像について算出したPDOG特徴量を用いてデータベース124の重みパラメータ(番号と信頼度)を参照する。そして入力画像のPDOG特徴量の番号から、これに対応する信頼度を取得して、識別器に代入して実行する(重み付き加法型関数の計算結果を得る)。
【0029】
判定部118は、識別器実行部116の実行結果に基づいて、認識可能な被検出物(顔や人物)が存在するか否かを判定し、判定結果をディスプレイ132に出力する。
【0030】
次に、本発明の特徴であるPDOG特徴量の算出手順について説明する。
図2は特徴量構成部106の処理手順を説明するフローチャート、
図3は特徴量算出部114の処理手順を説明するフローチャート、
図4は輝度勾配を説明する画像例である。
【0031】
図2に示すように、特徴量構成部106においては、まず入力画像(トレーニング用画像)に対し、輝度勾配画像を生成する(ステップ200)。
【0032】
具体的には、まず入力画像をグレースケール化し、適当なサイズにリサイズする。リサイズした画像Iの画像位置(x,y)での輝度をL(x,y)とすると、x,y方向の微分はそれぞれ次の式で定義する。
【数1】
【0033】
そして次式によって画素位置(x,y)における勾配強度m(x,y)と勾配方向θ(x,y)をそれぞれ求める(ステップ202)。
図4(a)に、計算結果例を示す。図中右側の勾配画像では、画素単位で強度m(x,y)と方向θ(x,y)が示されており、m(x,y)が大きいほど長く、明るく表示されている。
【数2】
【0034】
画像IをNp×Np画素ごとに区切ってセルを設定する(
図4(b))。各セルの範囲内でそれぞれ、最適な輝度勾配ヒストグラムを作成する(ステップ204)。Npは例えば3,5,6等とすることができる。ステップ230~240は、ステップ204の詳細な手順である。
【0035】
まずは、任意のトレーニング用画像(正解画像と非正解画像)Iにおいて、1セル(同じ場所のセル)に含まれている任意の位置(x,y)の画素はk番目の画素とすると、その画素の勾配強度m(x,y)と勾配方向θ(x,y)はそれぞれにm
kとθ
kで表せる。画像数やセルの画素数が有限であるから、勾配強度mと勾配方向θで構成された2次元ユークリッド空間に、1セルに含まれている全ての画像(正解画像と非正解画像)位置(x,y)の(θ
k,m
k)をm軸(縦軸)とθ軸(横軸)方向に沿って離散的に散布する(ステップ230)。
図5は勾配強度mと勾配方向θで構成された2次元ユークリッド空間に、1セルに含まれている全てのトレーニング画像(正解画像と非正解画像)の画素位置(x,y)の(θ
k,m
k)を点で示したものである。縦軸において、正解画像の勾配強度m
kは正の値に取り、非正解画像の勾配強度m
kは負の値に取っている。ここで、m
kはθ
kの密度関数p(θ
k)とすれば、0度から180度の連続的な値θの累積分布関数F(θ)は以下のように定義される。
【数3】
【0036】
また、180度から210度のθの累積分布関数F(θ)は以下のように定義される(ステップ232))。210度とするのは、次に述べる領域の幅の最大を本実施形態では一例として30度としたから(180度+30度=210度)である。
【数4】
【0037】
次に、0度から210度を本実施形態では5度ずつで分割し、この二次元ユークリッド空間に合計42個の区切り位置θjをつける。
【数5】
各区切り位置θjから、本実施形態では10度、15度、20度、30度の4通りの幅の領域Ωを設定する。領域Ωは勾配ヒストグラムのビンの下境界ρと幅φを用いて(ρ,φ)と定義する。そして幅の異なる領域集合{(θj,10)},{(θj,15)},{(θj,20)},{(θj,30)},j=1...42を設定する(ステップ234)。各領域集合での累積分布関数F(θ)の増加量は、以下のように計算する。
【数6】
【0038】
そして、各領域集合で累積分布関数の増加量が最大となる領域をそれぞれ選択する(ステップ236)。
【数7】
【0039】
得られた各領域での累積分布関数F(θ)に、以下の正規累積分布関数、もしくは逆正規累積分布関数を当てはめる。
【数8】
そして、当てはめた正規累積分布関数もしくは逆正規累積分布関数と平均二乗誤差平方根εが最小となる領域Ωminを選ぶ(ステップ238)。
【数9】
ここで、K(Ω)は領域Ωに含まれるθkの数である。そして、選ばれた領域Ωminの下境界ρと幅φを、輝度勾配ヒストグラムの第1ビンの下境界と幅にする(ステップ240)。
【0040】
この確率的最適化手法によって、i番目のセルに対して、輝度勾配方向はφ(i)度ごとに量子化するものとし、ρ(i)度から180+ρ(i)度をN(i)=180/φ(i)個のビンで表現する。つまり、このi番目のセルにおけるヒストグラムviは、以下のN(i)次元ベクトルで表現される形となる。
【0041】
このようにして、各セルの輝度勾配ヒストグラムの第1ビンの下境界と幅は、全てのトレーニング画像(正解画像、非正解画像)を元に一組の下境界と幅が算出される。
【0042】
ここで
図5に示した勾配強度mと勾配方向θで構成された2次元ユークリッド空間において、
図5(a)(b)は同じセルの(θ
k,m
k)であり、(c)(d)は同じセルの(θ
k,m
k)である。
図5(a)(c)に示されるように、HOG特徴量のヒストグラムを用いた場合には第1ビンは0度から開始し、一定の幅(20度)である。一方、
図5(b)(d)に示されるように、PDOG特徴量のヒストグラムを用いた場合には、第1ビンの下境界と幅がそれぞれのセルの画素データに応じて最適化されていることがわかる。
【0043】
さらに、隣接するNc×Nc個のセルを1つのブロックと考え、ブロックB
(n)ごとに以下の式でヒストグラムを正規化する(ステップ206)。Ncは例えば3,4,5等とすることができる。
【数10】
ここで、i,jはブロックB
(n)に含まれるセル番号を表している。なお、各ブロックは一部オーバーラップしているので、ほとんどのセルが別のブロックに複数回、含まれることになる。そこで上式では、i番目セルのヒストグラムベクトルv
iがブロックB
(n)に含まれることを明示するためにv
i
(n)という記述で示している。
【0044】
ブロックB
(n)内に存在するNc×Nc個のすべての正規化勾配ヒストグラムベクトルv
i
(n)を連結し、1つのブロックB
(n)につき、1つの正規化ベクトルv
(n)が次式のように得られると考える。
【数11】
ここでN
(n)(i)はブロックB
(n)に含まれるセルv
i
(n)の次元数である。
【0045】
ブロックをずらしながら上式(数11)にしたがってブロックの表現ベクトルを計算する。画像IにNw×Nh個のセル、すなわち、(Nw‐Nc+1)×(Nh‐Nc+1)個のブロックが含まれた場合、算出された全てのv
(n)を連結したベクトルは次式となる。
【数12】
これを、画像IのPDOG特徴(記述ベクトル)とする。30×30画素の画像を扱う場合、Np=Nc=3ならばNw=Nh=10となる。以上から,最終的なHOG記述子vの次元は
【数13】
となる。なお、本発明では、これを改めて
【数14】
のように、成分v
iを使って記述する。もちろん、
【数15】
である。こうすると、添字iの違いによって「ある特定セル位置における勾配の向き」を区別することができ、さらに個々のv
iの値は、その向きの勾配の(正規化された)大きさ情報を有している、という形になる。
【0046】
特徴量構成部106は、上記のようにして算出した特徴量の構成パラメータをデータベース122に格納する(ステップ208)。すなわちデータベース122には、各セルごとに一組の構成パラメータ(下境界や幅など)が格納される。
【0047】
図3に示す特徴量算出部114の処理手順のフローチャートにおいては、
図2と説明の重複するステップには同一の符号を付して説明を省略する。トレーニング部102の特徴量構成部106がトレーニング画像を処理したのに対し、実行部110の116はカメラのリアルタイムな画像を処理する。特徴量算出部114は特徴量構成部106と同様に、輝度勾配画像を生成し(ステップ200)、画素位置(x,y)における勾配強度mと勾配方向θをそれぞれ求める(ステップ202)。
【0048】
次に特徴量算出部114は、特徴量構成部106がデータベース122に格納した特徴量の構成パラメータを読み込む(ステップ210)。そして読み込んだPDOG特徴量の構成パラメータを利用して、リアルタイムの入力画像における勾配ヒストグラムを作成する(ステップ212)。そして画像にブロックを設定し、ヒストグラムを正規化する(ステップ206)。
【0049】
図6はHOG特徴量とPDOG特徴量を用いた顔検出と身体検出の画像例である。
図6(a)のHOG特徴量を用いた顔検出では、人形の顔を検出してしまったり、人間の顔を検出しそびれてしまっている。これに対し、
図6(b)のPDOG特徴量を用いた顔検出では人間の顔だけを適切に検出できていることがわかる。
【0050】
また
図6(c)のHOG特徴量を用いた身体検出では、同じ人物に多重に検出した上で、検出漏れが多くなってしまっている。これに対し、
図6(d)のPDOG特徴量を用いた身体検出では、検出漏れもあるものの、はるかに多くの人物の身体を検出できていることがわかる。
【0051】
図7は顔検出と身体検出のエラー率を示す図であって、横軸は特徴量の数、縦軸はエラー率である。
図7(a)に示すように、本発明によるPDOG特徴量を用いて顔検出を行った場合、HOG特徴量を用いた場合と比較して、同程度の特徴量パターンの数(選択された弱識別器の数)で、すなわち物体検出の処理速度を落とさずに、エラー率を最大20%削減した。別の見方をすると、30%~40%少ない特徴量のパラメータ数で同程度の検出率向上を達成した。物体検出処理速度は特徴量パターン数に比例するため、従来技術と比較して30%~40%の物体検出処理の高速化を実現したことになり、画像認識分野において本発明の効果は非常に大きいと言える。
【0052】
一方、身体検出を行った場合、
図7(b)に示すように、PDOG特徴量を用いた場合とHOG特徴量を用いた場合の差は顔検出の場合ほど大きくない。原因として、身体の画像に含まれる情報量が顔の情報量ほど多くないためと考えられる。しかし、それでも10%程度の物体検出処理の高速化が実現されており、本発明による効果は大きいと言える。
【0053】
本発明によるPDOG特徴量パターン数は、同程度のエラー率の深層学習法(ディープラーニング)のパラメータ量の1/20程度、HOG特徴量の2/3程度で済むため、本発明は、小規模化が求められる組み込みシステムに特に適した技術である。
【0054】
以上説明したように、本発明のPDOG特徴量を用いれば、セルの画素データに応じてビンの下境界と幅を最適化することにより、「物体らしい特徴」を捉えることができ、HOG特徴量を用いた場合よりも検出率向上ないし高速化を図ることが可能な物体検出方法および物体検出装置を提供することができる。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、輝度勾配に基づく特徴量を用いた画像認識による物体検出方法および物体検出装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
100…物体検出装置、102…トレーニング部、104…画像入力部、106…特徴量構成部、108…識別器生成部、110…実行部、112…画像入力部、114…特徴量算出部、116…識別器実行部、118…判定部、122…データベース、124…データベース、130…カメラ、132…ディスプレイ、134…トレーニング用画像