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特許7201456層厚及び粘弾性係数の測定方法、及び層厚及び粘弾性係数の測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】層厚及び粘弾性係数の測定方法、及び層厚及び粘弾性係数の測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/00 20060101AFI20221227BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20221227BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
G01N19/00 C
G01N11/00 A
G01R27/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019008711
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020118513
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】我妻 美千留
(72)【発明者】
【氏名】市橋 素子
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134396(JP,A)
【文献】特許第5372263(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00
G01N 11/00
G01R 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振周波数を持つ圧電素子を有するセンサを溶液に浸漬し、
前記溶液中で前記圧電素子に層が形成されることにより生ずる、前記共振周波数の基本周波数Fs1がシフトする変化量ΔFs1と、前記共振周波数の高次波の周波数Fsnがシフトする変化量ΔFsnと、前記基本周波数を頂点とするピーク波形の半値半幅Fw1がシフトする変化量ΔFw1と、前記高次波を頂点とするピーク波形の半値半幅Fwnがシフトする変化量ΔFwnとを取得し、
前記変化量ΔFs1、前記変化量ΔFsn、前記変化量ΔFw1、及び前記変化量ΔFwnから評価関数を利用して、前記層の厚みhと、前記層の貯蔵弾性率G'と、前記層の前記基本周波数Fs1に基づく損失弾性率G''と、前記層の前記高次波の周波数Fsnに基づく損失弾性率G''とを算出する
層厚及び粘弾性係数の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載された層厚及び粘弾性係数の測定方法であって、前記圧電素子のインピーダンスの変化ΔZから決まる周波数変化量ΔFs1'、ΔFw1'、ΔFsn'、及びΔFwn'の式を利用して、前記基本周波数及び前記高次波の複素粘弾性率を
=G'+iG''・・・(A5)式
=G'+iG''・・・(A6)式
とし、
前記基本周波数及び前記高次波の貯蔵弾性率を
G'=G'=G'・・・(A7)式
としたときの前記評価関数となる方程式、
=(ΔFs1-ΔFs1')+(ΔFw1-ΔFw1')・・・(A8)式
=(ΔFsn-ΔFsn')+(ΔFwn-ΔFwn')・・・(A9)式
の和、または、
=(ΔFs1-ΔFs1')の絶対値+(ΔFw1-ΔFw1')の絶対値・・・(A8)'式
=(ΔFsn-ΔFsn')の絶対値+(ΔFwn-ΔFwn')の絶対値・・・(A9)'式
の和である、S+S・・・(A10)式
が最小となるとして評価し、h、G'、G''、G''の組を算出する
層厚及び粘弾性係数の測定方法。
(式中において、Z:水晶のせん断モード音響インピーダンス(gm/sec/cm)、f:基本周波数(Hz)、ω:角周波数、ρ:層の密度(g/cm)、h:層の厚み(nm)、G:複素弾性率(MPa)、G':貯蔵弾性率(MPa)、G'':基本周波数に基づく損失弾性率(MPa)、G'':高次波の周波数に基づく損失弾性率(MPa)、ρ:層の密度(g/cm)、ρ:溶液の密度(g/cm)、η:溶液の粘度(Pa・s))
【請求項3】
請求項1または2に記載された層厚及び粘弾性係数の測定方法であって、
前記評価関数によるh、G'、G''、G''の組を求める計算において、反復法を用いて、h、G'、G''、G''の組を最適化する
層厚及び粘弾性係数の測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載された層厚及び粘弾性係数の測定方法であって、
前記反復法において、最急降下法、ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法、ガウス・ニュートン法、シンプレック法のいずれかの非線形最小二乗法の最適化手法を用いる
層厚及び粘弾性係数の測定方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載された層厚及び粘弾性係数の測定方法であって、
前記高次波として、3倍波(n=3)を用いる
層厚及び粘弾性係数の測定方法。
【請求項6】
共振周波数を持った圧電素子を有するセンサと、
前記センサが溶液に浸漬され前記溶液中で前記圧電素子に層が形成されることにより生ずる、前記共振周波数の基本周波数Fs1がシフトする変化量ΔFs1と、前記共振周波数の高次波の周波数Fsnがシフトする変化量ΔFsnと、前記基本周波数を頂点とするピーク波形の半値半幅Fw1がシフトする変化量ΔFw1と、前記高次波を頂点とするピーク波形の半値半幅Fwnがシフトする変化量ΔFwnとを取得する測定部と、
前記変化量ΔFs1、前記変化量ΔFsn、前記変化量ΔFw1、及び前記変化量ΔFwnから評価関数を利用して、前記層の厚みhと、前記層の貯蔵弾性率G'と、前記層の前記基本周波数Fs1に基づく損失弾性率G''と、前記層の前記高次波の周波数Fsnに基づく損失弾性率G''とを算出する演算部と
を具備する層厚及び粘弾性係数の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層厚及び粘弾性係数の測定方法、及び層厚及び粘弾性係数の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子等の圧電素子を利用した膜厚計測では、圧電素子の電極表面に物質が付着すると、物質の量に応じて圧電素子の共振周波数が変動する性質が利用されている。このような膜厚計測によれば、真空容器内で成膜される層の厚みが精度よく計測される。
【0003】
特に近年では、真空用途のみならず、溶液に圧電素子を浸し、この圧電素子に形成される層の厚み及び粘弾性係数を計測する手法が提供されている。溶液中の膜はVoightモデルに合うことが多いため、例えば、3つの周波数データからVoightモデルを適用し、層の厚み及び粘弾性係数を計測する手法などが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5372263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、溶液中の膜にVoightモデルを適用した場合、溶液中において層が圧電素子に形成し始める初期の段階では、該モデルに合わず、初期段階での層厚が測定できない場合がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、圧電素子に形成される層の厚みを初期の段階から高精度に測定し、さらに、そのときの層の粘弾性係数を測定する、層厚及び粘弾性係数の測定方法、その測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る層厚及び粘弾性係数の測定方法では、共振周波数を持つ圧電素子を有するセンサが溶液に浸漬される。
上記溶液中で上記圧電素子に層が形成されることにより生ずる、上記共振周波数の基本周波数Fs1がシフトする変化量ΔFs1と、上記共振周波数の高次波の周波数Fsnがシフトする変化量ΔFsnと、上記基本周波数を頂点とするピーク波形の半値半幅Fw1がシフトする変化量ΔFw1と、上記高次波を頂点とするピーク波形の半値半幅Fwnがシフトする変化量ΔFwnとが取得される。
上記変化量ΔFs1、上記変化量ΔFsn、上記変化量ΔFw1、及び上記変化量ΔFwnから評価関数を利用して、上記層の厚みhと、上記層の貯蔵弾性率G'と、上記層の上記基本周波数Fs1に基づく損失弾性率G''と、上記層の上記高次波の周波数Fsnに基づく損失弾性率G''とが算出される。
【0008】
このような層厚及び粘弾性係数の測定方法によれば、圧電素子に層が形成し始める初期段階から層の厚みを精度よく測定することができる。
【0009】
上記の粘弾性係数の測定方法においては、上記圧電素子のインピーダンスの変化ΔZから決まる、次の周波数変化量ΔFs1'、ΔFw1'、ΔFsn'、及びΔFwn'の式を利用して、
【0010】
【数1】
・・・(A1)式
【0011】
【数2】
・・・(A2)式
【0012】
【数3】
・・・(A3)式
【0013】
【数4】
・・・(A4)式
【0014】
また上記基本周波数及び上記高次波(n倍波)の複素弾性率を
=G'+iG''・・・(A5)式
=G'+iG''・・・(A6)式
とし、
上記基本周波数及び上記高次波(n倍波)の貯蔵弾性率を
G'=G'=G'・・・(A7)式
としたときの前記評価関数となる方程式、
=(ΔFs1-ΔFs1')+(ΔFw1-ΔFw1')・・・(A8)式
=(ΔFsn-ΔFsn')+(ΔFwn-ΔFwn')・・・(A9)式
の和、または
=(ΔFs1-ΔFs1')の絶対値+(ΔFw1-ΔFw1')の絶対値・・・(A8)'式
=(ΔFsn-ΔFsn')の絶対値+(ΔFwn-ΔFwn')の絶対値・・・(A9)'式
である、S+S・・・(A10)式
が最小となるとして評価し、h、G'、G''、G''の組を算出してもよい。
(式中において、Z:水晶のせん断モード音響インピーダンス(gm/sec/cm)、f:基本周波数(Hz)、ω:角周波数、ρ:層の密度(g/cm)、h:層の厚み(nm)、G:複素弾性率(MPa)、G':貯蔵弾性率(MPa)、G'':基本周波数に基づく損失弾性率(MPa)、G'':高次波の周波数に基づく損失弾性率(MPa)、ρ:層の密度(g/cm)、ρ:溶液の密度(g/cm)、η:溶液の粘度(Pa・s))
【0015】
このような層厚及び粘弾性係数の測定方法によれば、圧電素子に層が形成し始める初期段階から層の厚みを精度よく測定できるとともに、測定したΔFs1、ΔFsn、ΔFw1、及びΔFwnと同じ個数のパラメータであるh、G'、G''、G''を求めるため、ΔFs1'、ΔFsn'、ΔFw1'、及びΔFwn'を構成するh、G'、G''、G''のいずれかに誤差が集中することがない。
【0016】
上記の粘弾性係数の測定方法においては、上記評価関数によるh、G'、G''、G''の組を求める計算において、反復法を用いて、h、G'、G''、G''の組を最適化してもよい。
【0017】
このような層厚及び粘弾性係数の測定方法によれば、反復法が取り入れられるので、h、G'、G''、G''の組が短い時間で精度よく求められる。
【0018】
上記の粘弾性係数の測定方法においては、上記反復法において、最急降下法、ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法、ガウス・ニュートン法、シンプレック法のいずれかの非線形最小二乗法の最適化手法を用いて、h、G'、G''、G''の組を最適化してもよい。
【0019】
このような層厚及び粘弾性係数の測定方法によれば、反復計算において、最急降下法、ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法、ガウス・ニュートン法、シンプレック法、などが取り入れられるので、h、G'、G''、G''の組が短い時間で精度よく求められる。
【0020】
上記の粘弾性係数の測定方法においては、上記高次波として、3倍波(n=3)を用いてもよい。
【0021】
このような層厚及び粘弾性係数の測定方法によれば、基本周波数と3倍波に基づく、ΔFs1、ΔFs3、ΔFw1、及びΔFw3によって、h、G'、G''、G''の組が精度よく算出される。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る層厚及び粘弾性係数の測定装置は、センサと、測定部と、演算部とを具備する。
上記センサは、共振周波数を持った圧電素子を有する。
上記測定部は、上記溶液中で上記圧電素子に層が形成されることにより生ずる、上記共振周波数の基本周波数Fs1がシフトする変化量ΔFs1と、上記共振周波数の高次波の周波数Fsnがシフトする変化量ΔFsnと、上記基本周波数を頂点とするピーク波形の半値半幅Fw1がシフトする変化量ΔFw1と、上記高次波を頂点とするピーク波形の半値半幅Fwnがシフトする変化量ΔFwnとを取得する。
上記演算部は、上記変化量ΔFs1、上記変化量ΔFsn、上記変化量ΔFw1、及び上記変化量ΔFwnから評価関数を利用して、上記層の厚みhと、上記層の貯蔵弾性率G'と、上記層の上記基本周波数Fs1に基づく損失弾性率G''と、上記層の上記高次波の周波数Fsnに基づく損失弾性率G''とを算出する。
【0023】
このような層厚及び粘弾性係数の測定装置によれば、圧電素子に層が形成し始める初期段階から層の厚みを精度よく測定することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上述べたように、本発明によれば、圧電素子に形成される層の厚みを初期の段階から高精度に測定し、さらに、そのときの層の粘弾性係数を測定する、層厚及び粘弾性係数の測定方法、その測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】図(a)は、アドミッタンス法における水晶振動子の共振周波数Fを頂点とするピーク波形を示す図である。図(b)は、共振周波数Fの基本周波数Fs1と、共振周波数の高次波Fs3、Fs5が示されている。
図2】本実施形態に係る層厚及び粘弾性係数の測定装置を示すブロック構成図である。
図3】本実施形態の層厚及び粘弾性係数の測定方法を説明するフローチャート図の一例である。
図4】本実施形態の層厚及び粘弾性係数の測定方法を説明するフローチャート図の一例である。
図5】本実施形態の層厚及び粘弾性係数の測定方法を説明するフローチャート図の一例である。
図6】水晶振動子に層が形成するときの時間と厚みの測定値との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、圧電素子としては、例えば、水晶振動子を例にあげて実施形態を説明する。
【0027】
また、本実施形態における各式において、ω:角周波数、ρ:層の密度(g/cm)、h:層の厚み(nm)、G:複素弾性率(MPa)、G':貯蔵弾性率(MPa)、G'':基本周波数に基づく損失弾性率(MPa)、G'':高次波の周波数に基づく損失弾性率(MPa)、ρ:層の密度(g/cm)、ρ:溶液の密度(g/cm)、η:溶液の粘度(Pa・s)、Z:水晶のせん断モード音響インピーダンス(gm/sec/cm)、f:層が付着していない水晶振動子の基本周波数(Hz)を表す。
【0028】
本実施形態に係る、層厚及び粘弾性係数の測定方法の基本原理から説明する。
【0029】
図1(a)は、アドミッタンス法における水晶振動子の共振周波数Fを頂点とするピーク波形を示す図である。図1(a)には、共振周波数Fの他に、半値半幅Fが示されている。半値半幅Fは、半値周波数幅の半分であり、例えば、ピーク波形の半値幅の半分を意味する。図1(b)は、共振周波数Fの基本周波数Fs1と、共振周波数の高次波Fs3、Fs5が示されている。
【0030】
Martinらの伝送理論(V.E.Granstaff,S.J..Martin,J.Appl.Phys. 1994,75,1319)によれば、粘弾性層が溶液中で水晶振動子に吸着する場合、粘弾性層が溶液中で水晶振動子に吸着する前の水晶振動子のインピーダンスZと、粘弾性層が付着した水晶振動子のインピーダンスZとの差、すなわち、インピーダンスの変化量ΔZは、以下の(1)式で表される。
【0031】
【数5】
・・・(1)式
【0032】
(1)式から、粘弾性層が溶液中で水晶振動子に吸着する前の水晶振動子の共振周波数Fs1と、粘弾性層が付着した水晶振動子の共振周波数Fs1との差、すなわち、共振周波数の変化量ΔFs1は、次の(2)式で表される。さらに、共振周波数Fs1を頂点とするピーク波形の半値半幅Fw1の変化量ΔFw1は、次の(3)式で表される。また、Fs1と、Fw1とに含まれる添え字「s1」、「w1」は、共振周波数の基本周波数を意味する。
【0033】
【数6】
・・・(2)式
【0034】
【数7】
・・・(3)式
【0035】
ここで、本実施形態では、溶液の粘性負荷が生じないことを条件とする。例えば、溶液の粘性負荷の変化が生じるのは、バッファー溶液とサンプル溶液の粘度が大きく異なる場合であり、濃度の高いグリセロール溶液を含むサンプルをバッファー溶液に加えて測定する場合で、殆どの場合はサンプル溶液とバッファー溶液の粘度はほぼ等しく、粘性変化が生じないからである。従って、(2)式及び(3)式の第1項は、無視することができ、(2)式及び(3)式は、下記の(4)式及び(5)式に書き換えることができる。
【0036】
【数8】
・・・(4)式
【0037】
【数9】
・・・(5)式
【0038】
また、共振周波数には、基本周波数Fs1の他に高次波の周波数が含まれる。高次波の周波数とは、例えば、基本周波数Fs1の奇数倍の3倍波、5倍波、7倍波・・・である。
【0039】
このような高次波の周波数についても、粘弾性層が溶液中で水晶振動子に吸着する前の水晶振動子における高次波の共振周波数Fsnと、粘弾性層が付着した水晶振動子の高次波の共振周波数Fsnとの差、すなわち、共振周波数の変化量ΔFsnが次の(6)式で表される。また、共振周波数Fsnを頂点とするピーク波形の半値半幅Fwnの変化量ΔFwnは、次の(7)式で表される。ここで、nは、奇数である。
【0040】
【数10】
・・・(6)式
【0041】
【数11】
・・・(7)式
【0042】
例えば、高次波が3倍波のとき、その次数nは「3」であり、(6)、(7)式は、次の(8)、(9)式のように書き換えられる。
【0043】
【数12】
・・・(8)式
【0044】
【数13】
・・・(9)式
【0045】
また、複素弾性率Gにおいては、G=G'(貯蔵弾性率)+iG''(損失弾性率)と書き表せることから、G、Gのそれぞれは、
=G'+iG''・・・(10)式
=G'+iG''・・・(11)式
と書き表せる。
【0046】
これらの数式で表されたΔFs1、ΔFw1、ΔFsn、ΔFwnについては、測定装置を用いて直接測定することができる。これら周波数の測定は、発振回路による方法、インピーダンスアナライザ、ネットワークアナライザ等、外部機器からの周波数掃引によって得られる方法によって実行される。共振周波数F、共振周波数Fのコンダクタンス値の半分を持つ半値半幅の周波数Fが計測できるものであれば、測定方法は特に限定はされない。
【0047】
例えば、図2は、本実施形態に係る層厚及び粘弾性係数の測定装置を示すブロック構成図である。
【0048】
図1に示すように、測定装置100は、圧電素子1aを有するセンサ1と、測定部であるネットワークアナライザ2と、制御部3と、演算部6と、演算部7と、表示部8と、記憶部9とを具備する。
【0049】
センサ1、ネットワークアナライザ2は、制御部3により制御される。演算部6は、ネットワークアナライザ2で測定された周波数の周波数成分を演算する。演算部7は、演算部6で得られた結果を用いて膜厚及び粘弾性を演算する。表示部8は、演算部6、7で得られた周波数、粘弾性等の値を表示する。制御部3、演算部6、7、及び表示部8は、通常のパソコンとモニタとにより構成されてもよい。
【0050】
また、センサ1の温度調整を行うために、ペルチェ素子等の温度制御部4をセンサ1下に備えてもよい。温度制御部4を調整するための温度調整部5は、制御部3により制御される。
【0051】
共振周波数を持つ圧電素子1aは、水晶振動子の他に、APM(ACOUSTIC PLATE MODE SENSOR)、FPW(FLEXURAL PLATE-WAVE SENSOR)、またはSAW(SOURFACE ACOUSTIC-WAVE SENSOR)等であってもよい。
【0052】
例えば、本実施形態では、ネットワークアナライザ2が溶液中で水晶振動子に層が形成されることにより生ずる、基本周波数Fs1の変化量ΔFs1と、周波数Fsnの変化量ΔFsnと、半値半幅Fw1の変化量ΔFw1と、半値半幅Fwnの変化量ΔFwnとを取得する。
【0053】
演算部6、7は、変化量ΔFs1、変化量ΔFsn、変化量ΔFw1、及び変化量ΔFwnからΔFs1、ΔFsn、ΔFw1、及び変化量ΔFwn含む評価関数を立てて、層の厚みhと、層の貯蔵弾性率G'と、層の基本周波数Fs1に基づく損失弾性率G''と、層の高次波の周波数Fsnに基づく損失弾性率G''を算出する。演算部6、7における演算では、記憶部9に格納されたコンピュータプログラムが用いられる。
【0054】
記憶部9は、ハードディスク、光ディスク、フラッシュメモリ等の記録媒体を有し、本実施に係る層厚及び粘弾性係数の測定方法のアルゴリズムを自動的に実行するコンピュータプログラムを格納したり、取得したデータ、算出したデータ等を保存したりする。
【0055】
次に、本実施形態に係る層厚及び粘弾性係数の測定方法について説明する。
【0056】
本実施形態では、n倍波(n=2n+1、nは整数)の周波数変化分の中から少なくとも2つの周波数を選択し(例えば、基本周波数と3倍波)、水晶振動子に形成される層にVoightモデルの制限をかけずに、層の厚みと、層の粘弾性係数とを算出する。
【0057】
ここで、溶液中では層が厚くなるにつれ水を含み、Voightモデルに近づくものの、Voightモデルに基づく連立方程式による解法を利用しない本実施形態では、Gに含まれるG'においては、周波数依存性がないとし、周波数で一定とする。すなわち、
G'=G'=G'・・・(12)式
とする。
【0058】
また、基本周波数に基づくG''と、高次波(n倍波)に基づくG''とは、独立して算出する。そして、G'、G''、G''、hのそれぞれを評価関数を利用して求める。
【0059】
測定方法としては、まず、測定装置100のセンサ1が溶液に浸漬される。溶液には、圧電素子1aに形成される層が溶解されている。
【0060】
次に、測定装置100では、溶液中で圧電素子1aに層が形成されることにより生ずる、基本周波数Fs1の変化量ΔFs1と、周波数Fsnの変化量ΔFsnと、半値半幅Fw1の変化量ΔFw1と、半値半幅Fwnの変化量ΔFwnとが取得される。
【0061】
次に、測定装置100において、測定されたそれぞれの変化量ΔFs1、変化量ΔFsn、変化量ΔFw1、及び変化量ΔFwnから評価関数を利用して、層の厚みhと、層の貯蔵弾性率G'と、層の基本周波数Fs1に基づく損失弾性率G''と、層の高次波の周波数Fsnに基づく損失弾性率G''が算出される。
【0062】
具体的には、厚みh、貯蔵弾性率G'、損失弾性率G''、及び損失弾性率G''を求めるために、各測定値と並んで、厚みh、貯蔵弾性率G'、損失弾性率G''、及び損失弾性率G''等で書き表された(4)式~(7)式と同じ式を導入する。
【0063】
例えば、計算のために、以下の(13)式~(16)式を導入する。ここで、厚みh、貯蔵弾性率G'、損失弾性率G''、及び損失弾性率G''の算出に用いられる式には、測定値であるΔFs1、ΔFw1、ΔFsn、ΔFwnと区別するために、右上に「'」が付されている。
【0064】
【数14】
・・・(13)式
【0065】
【数15】
・・・(14)式
【0066】
【数16】
・・・(15)式
【0067】
【数17】
・・・(16)式
【0068】
続いて、次の2式、
=(ΔFs1-ΔFs1')+(ΔFw1-ΔFw1')・・・(17)式
=(ΔFsn-ΔFsn')+(ΔFwn-ΔFwn')・・・(18)式
の和である、S+S・・・(19)式
が最小となるときのh、G'、G''、G''の組を算出する。なお、本実施形態では、(19)式を評価関数1とする。
【0069】
上記は、SとSとの和(評価関数1)が所謂最小二乗法により、最小となる評価を行っている。つまり、この数式一式によって和(S+S)が最小となる評価を行っており、それ故、和(S+S)を評価関数としている。
【0070】
また、評価としては、別手法でもよく、例えば、
=(ΔFs1-ΔFs1')の絶対値+(ΔFw1-ΔFw1')の絶対値・・・(17)'式
=(ΔFsn-ΔFsn')の絶対値+(ΔFwn-ΔFwn')の絶対値・・・(18)'式
の和である、S+S・・・(19)'式
が最小となるときのh、G'、G''、G''の組を算出してもよい。なお、本実施形態では、(19)'式を評価関数2とする。
【0071】
本願で開示している上記評価手法(つまり評価関数1,2)は、測定結果(ΔFs1、ΔFw1、ΔFsn、ΔFwn)とG'、G''、G''、hからの演算結果(ΔFs1'、ΔFw1'、ΔFsn'、ΔFwn')とが、同一となるべきと考える技術思想である。本実施形態では、測定結果と演算結果は同一となるのが理想であるので、その差分を取るとゼロへ近づくことを利用した評価関数としている。つまり、同一へ近づく事が評価できるのであれば、別の演算手法、つまり評価関数を選定しても良い。
【0072】
つまり、測定装置100のセンサ1が溶液に浸漬された後、評価装置100で取得し求められる各変化量(ΔFs1、ΔFw1、ΔFsn、ΔFwn)が組み込まれた合計値(S+S)が最小となる評価を評価基準とし、不明な各パラメータを振って、不明パラメータを確定させる。
【0073】
また、上記においてΔFs1'、ΔFw1'、ΔFsn'、ΔFwn'を求める場合、「パラメータを振る」という表現を用いている。本実施形態の計算では任意の初期値(パラメータ)から微小増減(振る)させ複数計算を行いて根を求めるアルゴリズムを利用した、所謂、反復法が用いられている。ここで、"根"とは、評価関数で示した値に収束する根(例えば、膜厚h等)である。
【0074】
つまり、h、G'、G''、G''の組を求めるときに、反復計算を行う。この際、最急降下法、ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法、ガウス・ニュートン法、シンプレック法などの非線形最小二乗の最適化手法を用いて、h、G'、G''、G''の組を最適化してもよい。
【0075】
演算部6、7における負荷が増大すれば演算処理の時間が増加するため、測定装置100の時間分解能が落ち、性能の低下に繋がる。このため、上記で示した反復法の中で演算部6、7に最適な手法を採用することが好ましい。
【0076】
図3図5は、本実施形態の層厚及び粘弾性係数の測定方法を説明するフローチャート図の一例である。
【0077】
フローチャートでは、高次波として3倍波(n=3)を選び、層厚及び粘弾性係数の測定する方法が示されている。なお、高次波として3倍波(n=3)が選ばれた場合、(17)式~(19)式は、
=(ΔFs1-ΔFs1')+(ΔFw1-ΔFw1')・・・(17)式
=(ΔFs3-ΔFs3')+(ΔFw3-ΔFw3')・・・(18)式
+S・・・(19)式
【0078】
または、
=(ΔFs1-ΔFs1')の絶対値+(ΔFw1-ΔFw1')の絶対値・・・(17)'式
=(ΔFs3-ΔFs3')の絶対値+(ΔFw3-ΔFw3')の絶対値・・・(18)'式
の和である、S+S・・・(19)'式
となる。
【0079】
特に、本実施形態の測定方法は、圧電素子1aに形成される層の厚みとして極薄の数nm以下の厚みを測定する場合に有効に機能する。
【0080】
測定方法では、機能的な計算の固まりをサブルーチンとして、そのサブルーチンの中を段階的に詳細化して計算するトップダウンアプローチが図られる。例えば、処理1(図3)には、処理2(図4)のサブルーチンが含まれ、処理2には、処理3(図5)のサブルーチンが含まれる。図3図5に示されたフローチャートは、例えば、記憶部9に格納されたコンピュータプログラムにより実行できる。
【0081】
なお、レーベンバーグ・マーカート法は、非線形関数の自乗和の形で表された関数の極小を求める反復法である。例えば、レーベンバーグ・マーカート法は、現在の解(最新の解)が正解から遠い場合は正解に収束する最急降下法と同じように動作し、現在の解が正解から近い場合はニュートン法を実行する。
【0082】
図3に示すように、処理1においては、まず、層厚hが層厚の初期値として最低値(hmin)とされる(ステップS11)。
【0083】
次に、サブルーチンである処理2が実行される(ステップS20)。処理2の詳細については、後述する。
【0084】
処理2が実行された後、層厚hには、微小な量の層厚Δhが加算され、層厚hが微小量Δh分増加する(ステップS12)。
【0085】
次に、層厚hが最大値(hmax)以下と判断された場合には、再び、処理2にまで戻り、ステップS20、ステップS12が実行される。層厚hが最大値(hmax)よりも大きいと判断された場合は、処理1によって求めたh、G'、G''、G''を初期値として、最急降下法、ニュートン法、及びレーベンバーグ・マーカート法、ガウス・ニュートン法、シンプレック法などにより、S+Sが最小となるh、G'、G''、G''の組が算出される。
【0086】
処理1に含まれる処理2について説明する。
【0087】
図4に示すように、処理2においては、まず、貯蔵弾性率G'が貯蔵弾性率の初期値として最低値(G'min)とされる(ステップS21)。
【0088】
次に、サブルーチンである処理3が実行される(ステップS30)。処理3の詳細については、後述する。
【0089】
処理3が実行された後、貯蔵弾性率G'には、微小な量の貯蔵弾性率ΔG'が加算され、貯蔵弾性率G'が微小量ΔG'分増加する(ステップS22)。
【0090】
次に、貯蔵弾性率G'が最大値(G'max)以下と判断された場合は、再び、処理3にまで戻り、ステップS30、ステップS22が実行される。貯蔵弾性率G'が最大値(G'max)よりも大きいと判断された場合は処理2が終了となり、処理1のステップS12に進む。
【0091】
処理2に含まれる処理3について説明する。
【0092】
図5に示すように、処理3においては、ステップS31~ステップS34のフローと、ステップ35~ステップS38のフローとが個別に実行される。これら二つのフローは、併行して進行させてもよく、どちらか一方を他方に前後させて進行させてもよい。
【0093】
ステップS31~ステップS34について説明する。
【0094】
まず、損失弾性率G''が損失弾性率の初期値として最低値(G''min)とされる(ステップS31)。
【0095】
次に、Sが最小となるG'、G''、hの組が保存される(ステップS32)。
【0096】
次に、損失弾性率G''には、微小な量の損失弾性率ΔG''が加算され、損失弾性率G''が微小量ΔG''分増加する(ステップS33)。
【0097】
次に、損失弾性率G''が最大値(損失弾性率G''max)以下と判断された場合は、再び、ステップS32にまで戻り、ステップS33、ステップS34が実行される。損失弾性率G''が最大値(G''max)よりも大きいと判断された場合は、次のステップS39に進む。
【0098】
ステップS35~ステップS38について説明する。
【0099】
まず、損失弾性率G''が損失弾性率の初期値として最低値(G''min)とされる(ステップS35)。
【0100】
次に、Sが最小となるG'、G''、hの組が保存される(ステップS36)。
【0101】
次に、損失弾性率G''には、微小な量の損失弾性率ΔG''が加算され、損失弾性率G''が微小量ΔG''分増加する(ステップS37)。
【0102】
次に、損失弾性率G''が最大値(損失弾性率G''max)以下と判断された場合は、再び、ステップS36にまで戻り、ステップS37、ステップS38が実行される。損失弾性率G''が最大値(G''max)よりも大きいと判断された場合は、次のステップS39に進む。
【0103】
次に、ステップS39では、S+Sが最小となるh、G'、G''、G''の組が保存される。この保存された組が処理1によって処理されるh、G'、G''、G''の初期値となる。この後、処理2において、ステップS22が実行される。
【0104】
本実施形態においては、高次波が3倍波に限定されず、図1(b)に示す基本周波数(n=1)及び高次波のうちの少なくとも2つの周波数を用いれば、本実施形態を実行することができる。例えば、基本周波数と3倍波との組み合わせの他、基本周波数と5倍波との組み合わせ等である。上記では、一例として、基本周波数と3倍波とを用いて、層厚及び粘弾性係数の測定する例をあげている。
【0105】
ここで、Voightモデルを適用した手法(以降、比較例の方法)では、水晶振動子に形成する層のh、G'、G''、G''を求める際、本実施形態と同様に、基本周波数の共振周波数の変化量ΔFs1と、その半値半幅の変化量ΔFw1、共振周波数の3倍波の変化量ΔFs3と、その半値半幅ΔFw3を測定する。
【0106】
但し、比較例の場合、G'は周波数依存性がなく一定値、且つ、G''が周波数に比例するとしている。従って、求めるパラメータは、hと、G'と、G''(G''=mG''=G''、mは、比例係数)との3つとなり、測定値は、例えば、ΔFs1、ΔFw1、ΔFs3、ΔFw3の中のΔFs1、ΔFw1、ΔFw3の3つで足りる。すなわち、3つの測定値から、直接、h、G'、G''を計算することができる。
【0107】
しかし、3つの測定値から、直接、h、G'、G''を計算した場合、算出されたh、G'、G''から逆算して、例えば、ΔFs3を計算すると、ΔFs3の計算と、ΔFs3の測定値とで整合が取れなくなる場合がある。すなわち、ΔFs1、ΔFw1、ΔFs3、ΔFw3の中から計算に取り入れなかった測定値と、h、G'、G''から逆算して求めた計算値とが整合せず、計算に取り入れなかった測定値に誤差が集中してしまう。
【0108】
また、比較例の場合、溶液中において層が圧電素子に形成し始める初期の段階では、例えば、Voightモデルに合わず、初期段階での層厚が精度よく測定できない場合がある。
【0109】
これに対して、本実施形態によれば、ΔFs1、ΔFw1、ΔFsn、ΔFwnの4つの測定値から、4つの測定値と同じ個数の4つの解、すなわち、h、G'、G''、G''を算出する。このため、計算に取り入れない測定値がなく、計算に取り入れなかった測定値に誤差が集中することが起きない。
【0110】
また、本実施形態によれば、溶液中において層が圧電素子1aに形成し始める初期の段階から層の厚みを精度よく測定できる。特に、層厚として、数nm以下の測定に有効である。
【実施例
【0111】
図6(a)、(b)は、水晶振動子に層が形成するときの時間と厚みの測定値との関係を示すグラフ図である。ここで、図6(a)は、比較例の方法で測定した場合の例であり、図6(b)は、本実施形態の方法で測定した場合の例である。圧電素子1aとしては、水晶振動子を用いている。そして、この水晶振動子に、スーパーオキシドディスムターゼ1(Superoxide dismutase1, SOD1)を形成している。
【0112】
図6(a)に示す比較例では、SOD1溶液に水晶振動子を浸した初期の段階(10分以内)では、SOD1の厚みが精度よく計測されない。例えば、比較例の方法では、厚みが3nmまでは、SOD1の厚みが計測されず、SOD1の厚みが3nm近くになってから、その厚みが計測され始めることが分かる。
【0113】
これに対し、図6(b)に示す本実施形態では、SOD1溶液に水晶振動子を浸した初期の段階からSOD1の厚みが計測されることが分かる。
【0114】
【表1】
【0115】
表1には、ΔFs1、ΔFw1、ΔFs3、ΔFw3の実測値と計算値とが示されている。実施例1及び比較例1は、水晶振動子にミオシン(myosin)層が形成された例である。実施例2及び比較例2は、水晶振動子にコラーゲン(collagen)層が形成された例である。実施例3及び比較例3は、水晶振動子にアビジン(Avidin)層が形成された例である。
【0116】
表1の結果から、比較例1~3では、ΔFs1、ΔFw1、ΔFs3、ΔFw3の中、とりわけΔFs3の誤差が著しいことが分かる。すなわち、ΔFs1、ΔFw1、ΔFs3、ΔFw3の中のΔFs3に誤差が集中している。
【0117】
これに対し、実施例1~3では、ΔFs1、ΔFw1、ΔFs3、ΔFw3のそれぞれにおいて、実測値及び計算値が同程度になっていることが分かる。
【0118】
誤差合計%=((計算値ΔFs1-実測値ΔFs1)/計算値ΔFs1+(計算値ΔFw1-実測値ΔFw1)/計算値ΔFw1+(計算値ΔFs3-実測値ΔFs3)/計算値ΔFs3+(計算値ΔFw3-実測値ΔFw3)/計算値ΔFw3)×100・・・(20)式
【0119】
上記の(20)式で誤差合計を定義すると、比較例1~3では、誤差合計が10%以上50%以下であるのに対し、実施例1~3は、誤差合計が10%より小さくなることが分かった。
【0120】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、基本周波数と、3倍波と、5倍波とを用い、G'、G''、G''、G''、hを評価関数を用いて求めてもよい。また、膜が付く前後の圧電素子のインピーダンスZの変化ΔZと計算値の周波数の関係式は、ここにあげた式以外もあり、これらについても今回の手法が同様に適用できる。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0121】
1…センサ
1a…圧電素子
2…ネットワークアナライザ
3…制御部
4…温度制御部
5…温度調整部
6、7…演算部
8…表示部
9…記憶部
100…測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6