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特許7202009siRNA細胞内送達のための脂質膜構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】siRNA細胞内送達のための脂質膜構造体
(51)【国際特許分類】
   C07C 215/08 20060101AFI20221228BHJP
   C07C 229/12 20060101ALI20221228BHJP
   C07C 219/06 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20221228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221228BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221228BHJP
   C07C 219/08 20060101ALI20221228BHJP
   C07D 211/62 20060101ALI20221228BHJP
   C07D 295/088 20060101ALI20221228BHJP
   C07D 295/15 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
C07C215/08 CSP
C07C229/12
C07C219/06
A61K31/713
A61P35/00
A61P37/02
A61K9/127
A61K47/18
C07C219/08
C07D211/62
C07D295/088
C07D295/15
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019525575
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018022940
(87)【国際公開番号】W WO2018230710
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2017117708
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「感染症実用化研究事業」「肝細胞を標的とした薬物送達システムの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】原島 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-084297(JP,A)
【文献】特表2014-500233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0172411(US,A1)
【文献】国際公開第2015/178343(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/153012(WO,A1)
【文献】中村 孝司、他,化学工業,化学工業社,2016年,7月号,第477~482頁
【文献】SATO, Y. et al.,Molecular Therapy,2016年,Vol. 24, No. 4,pp. 788-795
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I):
【化1】
〔式中、aは3~5の整数を示し;bは0又は1の整数を示し;R1及びR2はそれぞれ独立に下記の式(A):
【化2】
(式中、qは1~9の整数を示し;rは0又は1を示し;sは1~3の整数を示し;tは0又は1を示し;uは1~8の整数を示し;cは0又は1を示し;vは4~12の整数を示すが、bとcが同時に0となる場合には、qが3~5の整数であり、r及びtが1であり、sが1であり、かつu+vが6~10の整数である場合を除く)で表される基を示し;Xは5~7員非芳香族ヘテロ環基(ただし、当該基は炭素原子により(O-CO)b-に結合し、当該環上には1又は2個のC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基が置換していてもよい)、又は下記の式(B):
【化3】
(式中、dは0~3の整数を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基(当該C1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基は1個又は2個のフェニル基で置換されていてもよい)を示すが、R3及びR4は互いに結合して5~7員非芳香族ヘテロ環(当該環上には1又は2個のC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基が置換していていてもよい)を形成してもよい)で表される基を示す〕
で表される脂質化合物又はその塩。
【請求項2】
r及びtが0であり、q+s+uが8~18の整数である、請求項1に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項3】
r及びtが0であり、q+s+uが10~16の整数である、請求項に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項4】
rが1であり、tが0であり、qが5~9の整数であり、s+uが5~9の整数である、請求項1に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項5】
vが5~12の整数である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項6】
aが4であり、bが0又は1である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項7】
bが0であり、Xが式(B)で表される基〔ただし、dは0であり、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基(R3が示すC1-4アルキル基は1個のフェニル基で置換されていてもよい)を示すか、あるいはR3及びR4が互いに結合する場合には、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基(当該1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基は1個のC1-4アルキル基で置換されていてよい)を形成する〕である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項8】
bが1であり、Xが式(B)で表される基〔ただし、dは0~3の整数であり、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基(R3が示すC1-4アルキル基は1個のフェニル基で置換されていてもよい)を示すか、あるいはR3及びR4が互いに結合する場合には、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基(当該1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基は1又は2個の同一又は異なるC1-4アルキル基で置換されていてよい)を形成する〕である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項9】
bが1であり、Xが5~7員非芳香族ヘテロ環基(当該基は炭素原子により(O-CO)b-に結合する)であり、当該5~7員非芳香族ヘテロ環基がピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、又はピペラジニル基(当該ピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、又はピペラジニル基は、1又は2個の同一又は異なるC1-4アルキル基で置換されていてよい)である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項10】
細胞内にsiRNAを送達するための脂質膜構造体の脂質成分として用いられる、請求項1ないしのいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項11】
脂質成分として請求項1ないしのいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩を含む脂質膜構造体。
【請求項12】
リポソームである、請求項11に記載の脂質膜構造体。
【請求項13】
siRNAが内部に封入されている請求項11又は12に記載の脂質膜構造体。
【請求項14】
細胞内の標的遺伝子をノックダウンするために用いられる、請求項13に記載の脂質膜構造体。
【請求項15】
前記細胞が、免疫細胞又はがん細胞である、請求項14に記載の脂質膜構造体。
【請求項16】
患者から樹状細胞を分離・採取し、in vitroで当該樹状細胞の細胞内にsiRNAを導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与する免疫療法において、樹状細胞における標的遺伝子をノックダウンするために用いられる、請求項15に記載の脂質膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はsiRNA(short interfering RNA)などの細胞内送達のための脂質膜構造体に関する。より具体的には、本発明は、免疫細胞の核内、特に樹状細胞の細胞内にsiRNAなどを容易に送達することができるリポソームなどの脂質膜構造体に関する。
本願は、2017年6月15日に、日本に出願された特願2017-117708号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を患部に特異的に輸送する手段として脂質膜構造体であるリポソームに薬剤を封入する方法が提案されている。特に、悪性腫瘍の治療分野において抗腫瘍剤を封入したリポソームの有効性が数多く報告されている。また、遺伝子発現に利用可能な脂質膜構造体として多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND: Multifunctional envelope-type nano device;以下、本明細書において「MEND」と略す場合がある。例えば非特許文献1などを参照のこと)が提案されている。この構造体は、遺伝子などを特定の細胞内に選択的に送達するためのドラッグデリバリーシステムとして用いることができ、例えば、腫瘍の遺伝子治療などに有用であることが知られている。
【0003】
脂質膜構造体を用いて薬物、核酸、ペプチド、ポリペプチド、糖などの目的物質を標的臓器や腫瘍組織など特異的な部位に送達するための手段として、脂質膜構造体の表面を機能性分子で修飾する方法が多数提案されている。抗腫瘍剤などの薬剤を内包した脂質膜構造体は、標的細胞に到達するとエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれてエンドソーム内に包含された状態となり、その後、リソソームの酵素による加水分解作用などを受けて内包されていた薬剤を細胞質内に放出する。エンドソーム内に取り込まれたリポソームからの薬剤放出性を高めるために、リポソームの表面をペプチド(GALA:非特許文献2)で修飾したリポソーム(非特許文献3)やMEND(特許文献4)が提案されている。
【0004】
また、核酸などの目的物質を内包した脂質膜構造体を標的細胞の核内に移行させるための手段としては、例えば、リポソームの外側表面をオクタアルギニンで修飾したリポソーム(特許文献1、非特許文献4)、核移行性ペプチドで修飾された脂質膜を有する2枚膜リポソーム(特許文献2)、ガラクトースやマンノースなどの単糖で表面を修飾したリポソーム(特許文献3)が提案されている。単糖で修飾された多重脂質膜構造体(T-MEND)は脂質膜及び核膜と融合性を示し、in vitroでの試験結果において遺伝子発現効率を改善できたと報告されている。さらに、KALAペプチド(非特許文献5)により修飾された脂質膜構造体が細胞の核内に核酸などの物質を効率的に送達できることが報告されている(特許文献5)。
【0005】
一方、樹状細胞は、免疫応答の中心を担っている抗原提示細胞であることから、がん免疫療法の重要な標的細胞の1つである。がん患者から樹状細胞を採取し、体外で抗原導入や活性化を行った後、再びその患者に投与する免疫細胞療法(樹状細胞療法)も行われている。近年、樹状細胞における免疫抑制因子が発見されたことから、樹状細胞はsiRNA医薬の標的としても注目を集めており、樹状細胞療法を免疫療法と組み合わせることにより、より強力ながん免疫誘導を行えると期待されている。
【0006】
従来、樹状細胞の核内へのRNA導入に関して、shRNAを発現するレンチウイルスベクターを用いて免疫抑制因子をノックダウンしたとの報告(非特許文献6、非特許文献7)はある。しかし、人工デリバリーシステムを用いた樹状細胞へのsiRNA導入の報告は殆どない。ウイルスベクターの使用は標的遺伝子の高効率ノックダウンを実現可能であるが、安全面に問題がある。
【0007】
siRNA導入用の人工デリバリーシステムとしてR8/GALA-D-MEND(D-MEND)が報告されている(非特許文献8)。D-MENDは、細胞親和性素子であるオクタアルギニン(R8)ペプチドとエンドソーム脱出性素子であるGALAペプチドをMENDに修飾し、MENDのエンベロープ膜枚数を制御したナノキャリアである。D-MENDは、一般的に使用されるがん細胞であるHeLa細胞においてはsiRNA濃度が12 nMという低濃度で約70%のノックダウンを示し、その活性は一般導入試薬として汎用されているリポフェクタミン2000(LFN2000)と比較して2倍以上の活性を示す。
【0008】
しかしながら、マウス骨髄細胞から誘導した樹状細胞にD-MENDでトランスフェクションを行う場合には、70-80%のノックダウン効率を達成するためにsiRNA濃度を高濃度(80-120 nM)にする必要があり、siRNAの標的因子によっては40%程度のノックダウン効率に留まるという問題もある(非特許文献9)。このように従来の人工デリバリーシステムを用いた場合には、一般的ながん細胞に比べて樹状細胞におけるノックダウン効率は大きく低下する傾向があり、siRNA医薬の免疫療法分野への展開を妨げている。
【0009】
これまでに、機能性核酸、とりわけ特定の標的遺伝子の発現を抑制可能なsiRNAの効率的なin vivo送達を達成する目的で、多くのカチオン性脂質が開発されている。特に、生理的pHでは電気的に中性であり、エンドソームなどの弱酸性pH環境下ではカチオン性に変化するpH感受性カチオン性脂質の開発は著しい。JayaramanらはDLin-MC3-DMAを開発し、マウス肝臓における第7因子(F7)ノックダウンにおいてED50で0.005 mg siRNA/kgを達成した(非特許文献10)。本発明者らもこれまでに独自のpH感受性カチオン性脂質YSK05及びYSK13-C3を開発しており、F7ノックダウンにおけるED50としてそれぞれ0.06、0.015 mg siRNA/kgを達成している(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)。また、MaierらはMC3-DMAに生分解性を付与したL319を開発し、ED50で0.01 mg siRNA/kgと高い安全性の両立について報告している(非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16)。しかしながら、これら上記脂質を含む脂質ナノ粒子のエンドソーム脱出効率は未だ数%程度に過ぎないことが明らかにされており(非特許文献17)、バイオアベイラビリティを更に向上させることが可能な技術の開発が望まれている。
【0010】
さらに、Dongらはハイスループットスクリーニングを通して独自の脂質様物質cKK-E12を見出し、F7ノックダウンにおいてED50で0.002 mg siRNA/kgを達成した(非特許文献18)。当該技術は活性の面では文献上最も優れているが、高投与量における毒性や脂質の生分解性等の安全面における知見はない。
【0011】
近年、多くのがん組織、特にヒト患者がん組織は、コラーゲンをはじめとする間質成分が非常に豊富であり、それら成分ががん組織内におけるナノ粒子の浸透性を著しく妨げることが明らかにされつつある。ナノ粒子の小型化はこの問題を解決するための非常に有効な戦略として考えられている。実際に、Cabralらは、白金製剤内封高分子ミセルの直径を約30 nmに小さく制御することでがん組織内浸透性が向上し、抗腫瘍効果が向上することを報告している(非特許文献19)。siRNA送達においても同様の戦略が非常に有効であると考えられるが、脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle: LNP)を小さく制御することは技術的に難しく、報告は非常に乏しい。2液の瞬間混合を達成可能なマイクロミキサー内蔵マイクロ流路を用いることで直径30 nm程度のLNPを再現良く製造可能であることが、近年報告された(非特許文献20、非特許文献21)。一方で、LNPを小型化することで、そのsiRNA送達活性は著しく減少することが見出されている(非特許文献22、非特許文献23)。この問題を克服することは優れたがん治療用siRNA送達技術を実現する上で極めて重要である一方で、その克服法についての知見は現時点で皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2005/32593号
【文献】国際公開第2006/101201号
【文献】国際公開第2007/102481号
【文献】日本国特開2006-28030号公報
【文献】国際公開第2011/132713号
【文献】国際公開第2015/178343号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Drug Delivery System, vol.22-2, pp.115-122, 2007
【文献】Biochemistry, vol.26, pp.2964-2972, 1987
【文献】Biochemistry, vol.43, pp.5618-5628, 2004
【文献】Journal of Controlled Release, vol.98, pp.317-323, 2004
【文献】Biochemistry, vol.36, pp.3008-3017, 1997
【文献】Nature Biotechnology, vol.22, pp.1546-1553, 2004
【文献】Nature Medicine, vol.14, pp.258-265, 2008
【文献】Journal of Controlled Release, vol.143, pp.311-317, 2010
【文献】Biological and Pharmaceutical Bulletin, vol.34, pp.1348-1351, 2011
【文献】Angewandte Chemie International Edition, vol.51, pp.8529-8533, 2012
【文献】Scientific Reports, 4:4750, DOI: 10.1038/srep04750, 2014
【文献】Journal of Hepatology, vol.64, pp.547-555, 2016
【文献】Molecular Therapy, vol.24, pp.788-795, 2016
【文献】Molecular Therapy, vol.21(8), pp.1570-1578, 2013
【文献】Nature Biotechnology, vol.33(8), pp.870-876, 2015
【文献】Molecular Pharmaceutics, vol.11, pp.1424-1434, 2014
【文献】Nature Biotechnology, vol.31(7), pp.638-646, 2013
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, vol.111(11), pp.3955-3960, 2014
【文献】Nature Nanotechnology, vol.6, pp.815-823, 2011
【文献】Journal of Physical Chemistry C Nanomater Interfaces, vol.116(34), pp.18440-18450, 2012
【文献】Molecular Therapy - Nucleic Acids, vol.1, e37, 2012
【文献】Journal of Controlled Release, vol.229, pp.48-57, 2016
【文献】Journal of Controlled Release, vol.235, pp.236-244, 2016
【文献】Journal of Controlled Release, vol.225, pp.183-191, 2016
【文献】American Association of Pharmaceutical Scientists Journal, vol.14(2), pp.303-315, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、細胞、特に抗原提示能を有する樹状細胞のような免疫細胞の細胞内にsiRNAなどを効率的に送達するための手段を提供することにある。より具体的には、樹状細胞などの免疫細胞をはじめとする各種細胞の細胞内に、siRNAを効率的に送達することができる脂質膜構造体、及び当該脂質膜構造体の製造に有用な新規化合物を提供することが本発明の課題である。
特に、siRNAなどの優れた送達効率と高い安全性を両立させ、LNPの粒子径の減少に伴うsiRNAなどの送達活性の低下の克服を可能とする新規化合物及び脂質膜構造体を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、先に、免疫細胞、特に抗原提示能を有する樹状細胞における標的遺伝子の効率的なノックダウンを実現すべく、細胞内にsiRNAを効率的に送達するための手段を鋭意検討した。その結果、MENDなどの脂質膜構造体の形成において、2本の脂肪酸鎖に2つの不飽和結合を有し、親水部の炭素鎖を伸長することによりpKaを高めたYSK12などの脂質化合物を脂質成分として用いると非常に高いエンドソーム脱出性が達成されることを見出した。さらに、この脂質化合物を含む脂質組成物で調製した脂質膜構造体ではsiRNAによる標的遺伝子ノックダウンを極めて効率的に行うことができることも見出した(非特許文献24、特許文献6)。この脂質膜構造体を用いてSOCS1をノックダウンした樹状細胞では、サイトカイン産生の顕著な増強が認められ、この樹状細胞を投与したマウス群では、移植した腫瘍の生着・増殖が完全に抑制される。
【0016】
本発明者らは、さらにYSK12の構造を基にして、siRNAなどの細胞へ送達する目的の物質(以下、「送達対象物質」ということがある)のさらに優れた送達効率と高い安全性を両立させ、LNPの粒子径の減少に伴う送達対象物質の送達活性の低下の克服を可能とする新規化合物及び脂質膜構造体を提供すべく、生分解性と優れたエンドソーム脱出能、及びLNPの安定化能を付与できる新規化合物を鋭意検討した。その手段として、まず、YSK12の第3級水酸基部位から2本の適当な長さの炭化水素鎖を伸長させ、エステル結合を介して中~長鎖脂肪酸を結合させた。これにより、疎水性足場の鎖長の増大によるエンドソーム脱出能の向上、脂質分子間の疎水性相互作用の増大によるLNP安定化能の付与、及び生分解性の付与を図った。さらに、LNPの動態に大きな影響を与えるパラメーターとしてのpH感受性脂質の酸乖離定数(pKa)を調節するために、親水性部位であるアミノ基周囲の化学構造の最適化を図った。その結果、下記の式(I)で表される化合物が所望の性質を有していることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明により、下記の式(I):
【0018】
【化1】
【0019】
〔式中、aは3~5の整数を示し;bは0又は1の整数を示し;R1及びR2はそれぞれ独立に下記の式(A):
【0020】
【化2】
【0021】
(式中、qは1~9の整数を示し;rは0又は1を示し;sは1~3の整数を示し;tは0又は1を示し;uは1~8の整数を示し;cは0又は1を示し;vは4~12の整数を示すが、bとcが同時に0となる場合には、qが3~5の整数であり、r及びtが1であり、sが1であり、かつu+vが6~10の整数である場合を除く)で表される基を示し;Xは5~7員非芳香族ヘテロ環基(ただし、当該基は炭素原子により(O-CO)b-に結合し、当該環上には1又は2個のC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基が置換していてもよい)、又は下記の式(B):
【0022】
【化3】
【0023】
(式中、dは0~3の整数を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基(当該C1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基は1個又は2個のフェニル基で置換されていてもよい)を示すが、R3及びR4は互いに結合して5~7員非芳香族ヘテロ環(当該環上には1又は2個のC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基が置換していていてもよい)を形成してもよい)で表される基を示す〕
で表される脂質化合物又はその塩が提供される
【0024】
上記の発明の好ましい態様によれば、上記の式 (A)において、r及びtが0であり、q+s+uが8~18の整数、好ましくは10~16の整数である上記の脂質化合物又はその塩;rが1であり、tが0であり、qが5~9の整数、好ましくは6~8の整数であり、s+uが5~9の整数、好ましくは6~8の整数である上記の脂質化合物又はその塩;vが5~12の整数、好ましくは6~10の整数である上記の脂質化合物又はその塩が提供される。より好ましくは、上記の式(A)において、r及びtが0であり、q+s+uが8~18の整数、好ましくは10~16の整数であり、vが5~12の整数、好ましくは6~10の整数である上記の脂質化合物又はその塩;rが1であり、tが0であり、qが5~9の整数、好ましくは6~8の整数であり、s+uが5~9の整数、好ましくは6~8の整数であり、vが5~12の整数、好ましくは6~10の整数である上記の脂質化合物又はその塩が提供される。
【0025】
上記の発明の好ましい態様によれば、上記の式(I) において、aが4であり、bが0又は1である上記の脂質化合物又はその塩が提供される。より好ましい態様としては、上記の式(I) において、aが4であり;bが0又は1であり;R1及びR2がそれぞれ独立に式(A)で表される基のうち、r及びtが0であり、q+s+uが8~18の整数、好ましくは10~16の整数であり、vが5~12の整数、好ましくは6~10の整数である基、又は、rが1であり、tが0であり、qが5~9の整数、好ましくは6~8の整数であり、s+uが5~9の整数、好ましくは6~8の整数であり、vが5~12の整数、好ましくは6~10の整数である基;である、上記の脂質化合物又はその塩が提供される。
【0026】
また、別の好ましい態様によれば、上記の式(I)において、bが0であり、Xが式(B)で表される基〔ただし、dは0であり、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基(R3が示すC1-4アルキル基は1個のフェニル基で置換されていてもよい)を示すか、あるいはR3及びR4が互いに結合する場合には、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基(当該1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基は1個のC1-4アルキル基で置換されていてよい)を形成する)である上記の脂質化合物又はその塩;bが1であり、Xが式(B)で表される基(ただし、dは1~3の整数であり、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基(R3が示すC1-4アルキル基は1個のフェニル基で置換されていてもよい)を示すか、あるいはR3及びR4が互いに結合する場合には、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基(当該1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基は1又は2個の同一又は異なるC1-4アルキル基で置換されていてよい)を形成する)である上記の脂質化合物又はその塩;Xが示す5~7員非芳香族ヘテロ環基(当該基は炭素原子により(O-CO)b-に結合する)がピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、又はピペラジニル基(当該ピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、又はピペラジニル基は1又は2個の同一又は異なるC1-4アルキル基で置換されていてよい)である上記の脂質化合物又はその塩が提供される。
【0027】
別の観点からは、本発明により、細胞内にsiRNAなどの送達対象物質を送達するための脂質膜構造体の脂質成分として用いるための上記の式(I)で表される脂質化合物又はその塩が提供される。この発明の好ましい態様によれば、当該細胞が免疫細胞又はがん細胞、より好ましくは樹状細胞、単球、マクロファージ、又はがん細胞である上記の脂質化合物;当該脂質膜構造体がリポソームである上記の脂質化合物又はその塩;及び当該脂質膜構造体が多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)である上記の脂質化合物又はその塩が提供される。
【0028】
さらに別の観点からは、本発明により、脂質成分として上記の式(I)で表される脂質化合物を含む脂質膜構造体が提供される。この脂質膜構造体は、例えば、リポソームである。また、この発明の好ましい態様によれば、当該脂質膜構造体は、細胞内に物質、好ましくはsiRNAを送達するための脂質膜構造体であって、siRNAなどの送達対象物質が内部に封入されている。当該脂質膜構造体は、細胞内の標的遺伝子をノックダウンするために用いることができる。この発明の好ましい態様によれば、当該細胞が免疫細胞又はがん細胞、より好ましくは樹状細胞、単球、マクロファージ、又はがん細胞である。例えば、当該脂質膜構造体は、抗原提示能を有する樹状細胞における標的遺伝子をノックダウンするために用いることができる。従って、上記の観点から、本発明により、細胞、好ましくは免疫細胞又はがん細胞、より好ましくは樹状細胞、単球、マクロファージ、又はがん細胞における標的遺伝子のノックダウンに用いるための上記の脂質膜構造体も提供される。
【0029】
また、別の好ましい態様により、脂質成分として上記式(I)の脂質化合物、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、及びメトキシポリエチレングリコール2000ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG 2000)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含む脂質膜構造体;脂質成分として上記式(I)の脂質化合物、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、及びメトキシポリエチレングリコール2000ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG 2000)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含む脂質膜構造体;細胞が免疫細胞、好ましくは樹状細胞、単球、又はマクロファージである上記の脂質膜構造体;リポソームである上記の脂質膜構造体;及び多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)である上記の脂質化合物が提供される。
【0030】
また、本発明により、細胞、好ましくは免疫細胞、特に好ましくは樹状細胞の細胞内にsiRNAなどの送達対象物質を送達する方法であって、送達対象物質が内部に封入されており、かつ脂質成分として上記の式(I)で表される脂質化合物を含む上記の脂質膜構造体を細胞に接触させる工程を含む方法が提供される。この方法はヒトを含む哺乳類動物の生体内で行ってもよいが、生体から分離・採取された細胞を用いてin vitroで行ってもよい。
【0031】
例えば、樹状細胞を用いる場合には、患者から分離・採取された樹状細胞に対して上記の方法により細胞内に送達対象物質を導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与することにより樹状細胞療法を行うことができる。従って、本発明により、免疫療法であって、患者から樹状細胞を分離・採取し、in vitroで樹状細胞の細胞内に送達対象物質を導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与する方法が提供される。また、本発明により、患者から樹状細胞を分離・採取し、in vitroで樹状細胞の細胞内に送達対象物質を導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与する免疫療法において、樹状細胞における標的遺伝子をノックダウンするために用いる上記の脂質膜構造体が提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明の脂質化合物は、siRNAなどの送達対象物質の優れた送達効率と高い安全性を両立させ、LNPの粒子径の減少に伴うsiRNAなどの送達活性の低下の克服を可能にする脂質膜構造体を提供することができる。また、当該脂質膜構造体に対して生分解性と優れたエンドソーム脱出能、及びLNPの安定化能を付与できることができる。発明により提供される脂質膜構造体は、樹状細胞を含む免疫細胞など、siRNAなどの送達対象物質の導入が困難な任意の細胞の細胞内に効率的に移行し、エンドソームから効率的に脱出することができる。このことから、当該脂質膜構造体は、封入された送達対象物質を細胞内において効率的に放出して当該送達対象物質により標的遺伝子をノックアウトすることができる。従って、本発明の脂質膜構造体を用いて、例えばがん治療においてsiRNAなどの物質を利用した有効な免疫療法、好ましくは樹状細胞療法を行うことができる。また、本発明により提供される脂質化合物を脂質成分として用いてリポソームなどの脂質膜構造体を調製すると、非常に高いエンドソーム脱出性が達成され、当該脂質化合物を含む脂質膜構造体から細胞質中にsiRNAなどの送達対象物質を効率よく送達することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】アルコール希釈法によるLNPの調製手順の模式図である。
図2】例2において、親水性部位の化学構造がそれぞれ異なる脂質化合物を含む各LNPのpKaを示した図である。
図3A】例2において、親水性部位の化学構造がそれぞれ異なる脂質化合物を含む各LNPのin vivo F7ノックダウン活性を示した図である。
図3B】例2において、親水性部位の化学構造がそれぞれ異なる脂質化合物を含む各LNPのin vitroノックダウン活性を示した図である。
図3C】例2において、親水性部位の化学構造がそれぞれ異なる脂質化合物を含む各LNPのhemolysis活性を示した図である。
図4A】例3において、疎水性足場構造がそれぞれ異なる脂質化合物(CL4シリーズ)を含むLNPのpKaを示した図である。
図4B】例3において、疎水性足場構造がそれぞれ異なる脂質化合物(CL15シリーズ)を含むLNPのpKaを示した図である。
図5】例3において、疎水性足場構造がそれぞれ異なるCL15-LNPのin vitroノックダウン活性を示した図である。
図6A】例3において、疎水性足場構造がそれぞれ異なる脂質化合物(CL4シリーズ)を含むLNPのin vivo F7ノックダウン活性を示した図である。
図6B】例3において、疎水性足場構造がそれぞれ異なる脂質化合物(CL15シリーズ)を含むLNPのin vivo F7ノックダウン活性を示した図である。
図7A】例3において、CL4H6-LNPのin vivo F7ノックダウン活性を指標とした製剤処方の脂質組成の最適化結果を示した図である。
図7B】例3において、CL4H6-LNPのin vivo F7ノックダウン活性を指標とした製剤処方のLipid/siRNA電荷比の最適化結果を示した図である。
図8】例3において、最適組成CL4H6-LNPのin vivo F7ノックダウン効率の投与量依存性を示した図である。
図9A】例4において、CL4H6-LNPの安全性を評価した結果であり、投与24時間後における血漿中ALT/AST値を示した図である。
図9B】例4において、CL4H6-LNPの安全性を評価した結果であり、投与直前から投与24時間後までのマウス体重変化を示した図である。
図10】例4において、平均粒子径35 nm程度に制御されたCL15-LNPのin vitroノックダウン活性を示した図である。
図11】例5において、疎水性足場構造がそれぞれ異なる脂質化合物(CL4Hシリーズ)を含むLNPのpKaを示した図である。
図12】例5において、疎水性足場構造がそれぞれ異なる脂質化合物(CL4Hシリーズ)を含むLNPのin vivo F7ノックダウン活性を示した図である。
図13A】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの、投与後30分後の肝臓におけるsiRNA量(ng/g liver)の測定結果を示した図である。
図13B】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの、投与後24時間後の肝臓におけるsiRNA量(ng/g liver)の測定結果を示した図である。
図13C】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの、投与後24時間後の肝臓におけるsiRNA量(ng/g liver, 24h)と、F7ノックダウンにおけるED50との関係をプロットした図である。
図14】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの投与後1時間後の肝臓の血管(FITC)、脂質(DiI)、及びsiRNA(Cy5)の蛍光染色画像である。
図15A】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの相対血漿中F7タンパク質量(各回収日のLNP未投与マウス(NT)の血漿中F7タンパク質量を100とする)の経時的変化を示した図である。
図15B】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの相対血漿中F7タンパク質量が50となるLNP投与後経過時間(Durability)(day)と、F7ノックダウンにおけるED50との関係をプロットした図である。
図16A】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの肝臓中の各カチオン性脂質の含有量の経時的変化を示した図である。
図16B】例6において、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP、YSK05-LNP、及びYSK13-C3-LNPを投与したマウスの脾臓中の各カチオン性脂質の含有量の経時的変化を示した図である。
図17】例7において、PEG-DSG修飾CL4H6-LNPを投与したマウスの相対血中PEG-DSG修飾CL4H6-LNP量(マウスへ投与したPEG-DSG修飾CL4H6-LNP量(ID)が100%)の経時的変化を示した図である。
図18A】例7において、PLK1に対するsiRNAを搭載したPEG-DSG修飾CL4H6-LNP、及びPEG-DSG修飾YSK05-LNPを投与したOSRC2細胞皮下移植マウスの、投与後24時間後のがん組織における相対PLK1発現量(siRNA未投与のOSRC2細胞皮下移植マウス(NT)のがん組織におけるPLK1発現量を1とする)の測定結果を示した図である。
図18B】例7において、PLK1に対するsiRNAを搭載したPEG-DSG修飾CL4H6-LNP及びPEG-DSG修飾YSK05-LNPを投与したOSRC2細胞皮下移植マウスの、投与前から投与後24時間後の体重の変化率(%)の測定結果を示した図である。
図19】例8において、ICRマウス骨髄細胞から誘導したマクロファージに、CD45に対するsiRNAをトランスフェクションし、24時間培養後の各マクロファージの相対CD45発現量(siRNA未投与の腫瘍関連マクロファージ(NT)のCD45発現量を100%とする)の測定結果を示した図である。
図20】例9において、CD45に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNP又はYSK05-LNPをOSRC2細胞皮下移植マウスに投与し、投与後24時間後の腫瘍関連マクロファージの相対CD45発現量(%)(CD45に対するsiRNA未投与の腫瘍関連マクロファージ(NT)におけるCD45発現量を100%とする)の測定結果を示した図である。
図21】例10において、CL4H6-LNPを、投与開始から0、4、7、11、14、18、21、及び23日目に静脈内に0.3 mg siRNA/kg 又は1 mg siRNA/kgで反復投与したマウスの、投与開始0日目の体重を100%とする体重変化率(%)の経時的変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施態様について具体的に説明する。本願明細書において、「X1~X2(X1とX2は、X1<X2を満たす実数)」は、「X1以上X2以下」を意味する。
【0035】
本発明の実施態様に係る脂質化合物(本発明の脂質化合物)は、下記の式(I) で表される。
【0036】
【化4】
【0037】
式(I)において、aは3~5の整数を示し、好ましくは4である。
bは0又は1の整数を示す。bが0の場合には-O-CO-基が存在せず、単結合であることを意味する。
【0038】
式(I)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、下記の式(A) で表される基を示す。
【0039】
【化5】
【0040】
式(A)において、qは1~9の整数を示し;rは0又は1を示し;sは1~3の整数を示し;tは0又は1を示し;uは1~8の整数を示し;vは4~12の整数を示す。cは0又は1を示す。bが0であり、cが1である場合、又はbが1であり、cが0である場合が好ましい。
【0041】
好ましい一態様では、r及びtが0であり、q+s+uが8~18の整数、好ましくは10~16の整数である。また、別の好ましい態様では、rが1であり、tが0であり、かつqが5~9の整数、好ましくは6~8の整数であり、s+uが5~9の整数、好ましくは6~8の整数である。さらに別の好ましい態様では、vは4~12の整数、好ましくは6~10の整数、より好ましくは6である。aが4であり、bが0又は1である態様も好ましい。
ただし、bとcが同時に0となる場合には、qが3~5の整数であり、r及びtが1であり、sが1であり、かつu+vが6~10の整数である場合を除く。
【0042】
式(I)において、Xは、5~7員非芳香族ヘテロ環基、又は下記の式(B) で表される基を示す。
【0043】
【化6】
【0044】
Xが示す5~7員非芳香族ヘテロ環基は、炭素原子により(O-CO)b-に結合し、当該環上には1又は2個のC1-4アルキル基(炭素数1~4のアルキル基)又はC2-4アルケニル基(炭素数2~4のアルケニル基)が置換していてもよい。5~7員非芳香族ヘテロ環基に含まれるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子などを挙げることができる。環構成ヘテロ原子は1個でもよく、あるいは同一又は異なるヘテロ原子を2個以上含んでいてもよい。ヘテロ環基を構成するヘテロ環には1個又は2個以上の二重結合が含まれていてもよいが、ヘテロ環が芳香環となることはない。飽和のヘテロ環が好ましい場合がある。また、当該5~7員非芳香族ヘテロ環基中の1個又は2個の水素原子が置換されている置換基のうち、C1-4アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、C2-4アルケニル基としては、エテニル基(ビニル基)、プロペニル基、ブテニル基等が挙げられる。
【0045】
式(B)において、dは0~3の整数を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基を示す。C1-4アルキル基及びC2-4アルケニル基としては、前記で挙げられたものと同様のものが挙げられる。R3及びR4が示すC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基は、それぞれ1個又は2個のフェニル基で置換されていてもよい。また、R3及びR4は互いに結合して5~7員非芳香族ヘテロ環を形成してもよい。当該5~7員非芳香族ヘテロ環は、1又は2個のC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基で置換されていてもよい。
【0046】
別の好ましい態様によれば、式(I)で表される脂質化合物において、bが0であり、Xが式(B)で表される基を示す。この態様の場合、dは0であることが好ましく、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基(R3が示すC1-4アルキル基は1個のフェニル基で置換されていてもよい)を示してもよく、互いに結合して5~7員非芳香族ヘテロ環を形成してもよい。R3及びR4が互いに結合する場合には、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基を形成することが好ましく、当該1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基は1個のC1-4アルキル基で置換されていてよい。
【0047】
さらに別の好ましい態様によれば、bが1であり、Xが式(B)で表される基を示す。この態様の場合、dは1~3の整数であることが好ましく、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基(R3が示すC1-4アルキル基は1個のフェニル基で置換されていてもよい)を示してもよく、互いに結合して5~7員非芳香族ヘテロ環を形成してもよい。R3及びR4が互いに結合する場合には、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基を形成することが好ましく、当該1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、1-モルホリニル基、又は1-ピペラジニル基は1又は2個の同一又は異なるC1-4アルキル基で置換されていてよい。
【0048】
また、別の好ましい態様によれば、bが1であり、Xが5~7員非芳香族ヘテロ環基(当該基は炭素原子により(O-CO)b-に結合する)であり、当該5~7員非芳香族ヘテロ環基がピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、又はピペラジニル基であることが好ましく、当該ピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、又はピペラジニル基は1又は2個の同一又は異なるC1-4アルキル基で置換されていてよい。
【0049】
式(I)で表される脂質化合物は酸付加塩として存在する場合がある。塩を構成する酸の種類は特に限定されず、鉱酸類又は有機酸類などのいずれであってもよい。例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、又は酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸塩などを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。式(I)で表される脂質化合物又はその塩は水和物又は溶媒和物として存在する場合もあり、これらの物質も本発明の範囲に包含される。さらに、R1及びR2が異なる場合には光学異性体が存在する場合もあり、純粋な形態の光学異性体、任意の光学活性体の混合物、又はラセミ体なども本発明の範囲に包含される。
【0050】
式(I)の化合物のうち特に好ましい化合物として、R1及びR2が同一であり、aが4である化合物を挙げることができる。この化合物を含めて式(I)の化合物は、本明細書の実施例に具体的に示した方法により容易に製造することができる。この実施例の製造方法を参照し、原料化合物、試薬、及び反応条件などを適宜選択することにより、当業者は式(I)の範囲に包含される任意の化合物を容易に製造することができる。式(I)の化合物のpKaは特に限定されないが、例えば4.0~9.0程度、好ましくは4.5~8.5程度で選択することができ、この範囲のpKaを与えるように各置換基の種類を選択することが好ましい。リポソーム等の脂質構造体のエンドサイトーシスによる細胞への取り込みは、脂質構造体のpKaに影響を受ける。細胞の種類によって、エンドサイトーシスにより取り込まれやすい脂質構造体のpKaが異なる。このため、脂質構造体のpKaが標的細胞へ取り込まれやすい範囲となるように、式(I)の化合物のpKaを調整することが好ましい。
【0051】
本発明の脂質膜構造体を構成する脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和若しくは不飽和の脂肪酸エステル、又は飽和若しくは不飽和の脂肪酸などが挙げられる。
リン脂質及びリン脂質誘導体としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン、ホスファチジン酸などを挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、卵黄レシチン、大豆レシチンなどの天然物由来のリン脂質を用いることもできる。
【0052】
糖脂質としては、例えば、グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド)、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド)などが挙げられる。
【0053】
ステロールとしては、例えば、動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)、植物由来のステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)、微生物由来のステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール)などが挙げられる。
【0054】
飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸などの炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。
飽和又は不飽和の脂肪酸エステルとしては、グリセロールの1又は2個の水酸基が脂肪酸とエステル結合したグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。当該グリセリン脂肪酸エステル中の脂肪酸残基は、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸などの炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸由来のアシル基が挙げられる。具体的には、ジミリストイルグリセロール(DMG)、ジステアロイルグリセロール(DSG)等が挙げられる。
【0055】
脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、水系溶媒に分散した形態として一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、又は不定型の層状構造物などを挙げることができる。本発明の脂質膜構造体の好ましい形態としてリポソームを挙げることができる。以下、本発明の脂質膜構造体の好ましい態様としてリポソームについて説明する場合があるが、本発明の脂質膜構造体はリポソームに限定されることはない。
【0056】
本発明の脂質膜構造体は、細胞内にsiRNAなどの送達対象物質を送達するための脂質膜構造体であって、送達対象物質が内部に封入されており、かつ脂質成分として上記の式(I)で表される脂質化合物を含むことを特徴としている。本発明の脂質膜構造体により送達対象物質が送達される細胞(標的細胞)の種類は特に限定されない。本発明の脂質膜構造体は、免疫細胞、内皮細胞、上皮細胞、繊維芽細胞、肝細胞(肝実質細胞)、膵臓細胞、神経細胞、平滑筋細胞、心筋細胞等の動物を構成する各種細胞や、これらの細胞ががん化したがん細胞、分化能を備える幹細胞などの多種多様な細胞に送達対象物質を送達することができる。また、標的細胞は、動物の体内にある細胞であってもよく、培養細胞や初代培養細胞等の生体外で培養される細胞であってもよい。免疫細胞としては、樹状細胞、マクロファージ、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)、顆粒球、単球等が挙げられる。本発明の脂質膜構造体が送達される細胞としては、好ましくは免疫細胞及びがん細胞が挙げられ、特に好ましくは樹状細胞、単球、マクロファージ、及びがん細胞を挙げることができる。
【0057】
以下、送達すべき物質(送達対象物質)の好ましい例としてsiRNAについて説明するが、送達対象物質はsiRNAに限定されることはない。例えば、マイクロRNA、mRNA、プラスミドなどの核酸類のほか、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗ウイルス剤などの任意の医薬の有効成分や、糖類、ペプチド類、低分子化合物、金属化合物など任意の物質を本発明の脂質膜構造体に封入することができる。
【0058】
siRNA(small interfering RNA)は21~23塩基対からなる低分子二本鎖RNAであり、RNA干渉(RNAi)に関与し、mRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。合成のsiRNAがヒトの細胞においてRNA干渉を引き起こすことが報告されており、siRNAを用いたRNA干渉により遺伝子をノックダウンすることができることから、医薬としての利用やがんなどの治療分野において応用が期待されている。本発明において使用可能なsiRNAの種類は特に限定されず、RNA干渉を引き起こすことができるものであればいかなるものを使用してもよいが、一般的には、21~23塩基対の二本鎖RNAであって、RNA鎖の3'部分が2塩基分突出した構造をとり、それぞれの鎖は5'末端にリン酸基と3'末端にヒドロキシル基を有する構造のRNAを本発明におけるsiRNAとして使用することができる。また、リボース骨格の2'位のヒドロキシル基がメトキシ基、フルオロ基、あるいはメトキシエチル基に、ホスホジエステル結合がホスホロチオエート結合に一部置換されたsiRNAも含まれる。
【0059】
本発明の脂質膜構造体を用いて、細胞、好ましくは免疫細胞又はがん細胞、特に好ましくは樹状細胞、単球、マクロファージ、又はがん細胞の細胞内にsiRNAを送達することができる。この方法は、ヒトを含む哺乳類動物の生体内において行うこともでき、生体から分離・採取された細胞を用いてin vitroで行ってもよい。例えば、樹状細胞を用いる場合には、患者から分離・採取された樹状細胞に対して本発明の脂質膜構造体を用いて細胞内にsiRNAを導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与することにより樹状細胞療法を行うことができる。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の脂質膜構造体により細胞内に送達された二本鎖siRNAはヘリカーゼと呼ばれる酵素の働きを受けて一本鎖に解離し、標的mRNAに対するエンドヌクレアーゼ活性を示すアルゴノート(Argonaute)タンパク質等と複合体(RISC)を形成し、標的遺伝子をRNA干渉によりノックダウンすることができる。
【0060】
本発明の脂質膜構造体の脂質成分として式(I)の脂質化合物を単独で用いてもよいが、一般的には先に説明した脂質の1種又は2種以上と式(I)の脂質化合物とを組み合わせて脂質膜構造体を形成することが好ましい。複数の脂質の組み合わせ及びその配合割合は特に限定されないが、実施例に具体的に示したように、例えば標的遺伝子に対するノックダウン活性などを指標として使用する脂質の種類及び配合割合を最適化することができる。例えば、脂質成分として式(I)の化合物、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、メトキシポリエチレングリコール2000ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG 2000)の組み合わせについては、式(I)の化合物の含有割合を80~90モル%、好ましくは85モル%程度とし、PEG-DMG 2000を約1~2モル%、好ましくは1モル%程度とし、及び/又は式(I)の化合物を85モル%としたときのPOPE/Cholの割合(モル比)を0/15~4/11程度、好ましくは0/15とすることによりノックダウン活性を上昇させることができるが、これらの特定の脂質及びその配合割合に限定されるわけではない。
【0061】
本発明の脂質膜構造体の粒子径は特に限定されないが、好ましい態様として平均粒子径60~140 nm程度、より好ましくは80~120 nm程度、別の好ましい態様として平均粒子径20~50 nm程度であることがノックダウン効率の点から好ましい場合がある。多分散度指数(PDI)は0.05~0.1程度、好ましくは0.06~0.08程度、さらに好ましくは約0.07程度である。ゼータ電位は5.5 mV~6.0 mVの範囲、好ましくは5.8 mV程度とすることができる。
【0062】
本発明の脂質膜構造体には、必要に応じて適宜の表面修飾などを行うことができる。
例えば、本発明の脂質膜構造体の核内移行を促進するために、例えば、脂質膜構造体を3糖以上のオリゴ糖化合物で表面修飾することもできる。3糖以上のオリゴ糖化合物の種類は特に限定されないが、例えば、3個ないし10個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができ、好ましくは3個ないし6個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができる。
【0063】
オリゴ糖化合物としてより具体的には、例えば、セロトリオース(Cellotriose: β-D-グルコピラノシル-(1→4)-β-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、カコトリオース(Chacotriose: α-L-ラムノピラノシル-(1→2)-[α-L-ラムノピラノシル-(1→4)]-D-グルコース)、ゲンチアノース(Gentianose: β-D-フルクトフラノシル β-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)、イソマルトトリオース(Isomaltotriose:α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-D-グルコース)、イソパノース(Isopanose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-[α-D-グルコピラノシル-(1→6)]-D-グルコース)、マルトトリオース(Maltotriose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、マンニノトリオース(Manninotriose: α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-D-グルコース)、メレジトース(Melezitose: α-D-グルコピラノシル-(1→3)-β-D-フルクトフラノシル=α-D-グルコピラノシド)、パノース (Panose: α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、プランテオース(Planteose: α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-β-D-フルクトフラノシル=α-D-グルコピラノシド)、ラフィノース(Raffinose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)、ソラトリオース(Solatriose: α-L-ラムノピラノシル-(1→2)-[β-D-グルコピラノシル-(1→3)]-D-ガラクトース)、ウンベリフェロース(Umbelliferose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→2)-α-D-ガラクトピラノシド)などの3糖化合物; リコテトラオース(Lycoテトラose: β-D-グルコピラノシル-(1→2)-[β-D-キシロピラノシル-(1→3)]-β-D-グルコピラノシル-(1→4)-β-D-ガラクトース)、マルトテトラオース(Maltoテトラose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、スタキオース(Stachyose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)などの4糖化合物;マルトペンタオース(Maltopentaose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、ベルバスコース(Verbascose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)などの5糖化合物;マルトヘキサオース(Maltohexaose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)などの6糖化合物を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0064】
好ましくはグルコースの3量体ないし6量体であるオリゴ糖化合物を用いることができ、さらに好ましくはグルコースの3量体又は4量体であるオリゴ糖化合物を用いることができる。より具体的には、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースなどを好適に用いることができ、これらのうち、グルコースがα1-4結合したマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースがさらに好ましい。特に好ましいのはマルトトリオース又はマルトテトラオースであり、最も好ましいのはマルトトリオースである。オリゴ糖化合物による脂質膜構造体の表面修飾量は特に限定されないが、例えば、総脂質量に対して1~30モル%程度、好ましくは2~20モル%程度、より好ましくは5~10モル%程度である。
【0065】
オリゴ糖化合物で脂質膜構造体を表面修飾する方法は特に限定されないが、例えば、脂質膜構造体をガラクトースやマンノースなどの単糖で表面を修飾したリポソーム(特許文献3)が知られているので、この刊行物に記載された表面修飾方法を採用することができる。上記刊行物の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。この手段はポリアルキレングリコール化脂質に単糖化合物を結合して脂質膜構造体の表面修飾を行う方法であり、この手段により脂質膜構造体の表面をポリアルキレングリコールにより同時に修飾することができるので好ましい。
【0066】
脂質膜構造体の表面をポリアルキレングリコールなどの親水性ポリマーで修飾することによりリポソームの血中滞留性などの安定性を高めることができる場合がある。この手段については、例えば、特開平1-249717号公報、特開平2-149512号公報、特開平4-346918号公報、特開2004-10481号公報などに記載されている。親水性ポリマーとしてはポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどを用いることができる。ポリアルキレングリコールの分子量は、例えば300~10,000程度、好ましくは500~10,000、さらに好ましくは1,000~5,000程度である。
【0067】
ポリアルキレングリコールによる脂質膜構造体の表面修飾は、例えばポリアルキレングリコール修飾脂質を脂質膜構成脂質として用いて脂質膜構造体を構築することにより容易に行うことができる。例えば、ポリエチレングリコールによる修飾を行う場合にはステアリル化ポリエチレングリコール(例えばステアリン酸PEG45(STR-PEG45)など)を用いることができる。その他、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、n-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコー-5000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-750]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンなどのポリエチレングリコール誘導体などを用いることもできるが、ポリアルキレングリコール化脂質はこれらに限定されることはない。
【0068】
また、ポリアルキレングリコールにオリゴ糖化合物を結合させることにより、ポリアルキレングリコール及びオリゴ糖化合物による表面修飾を同時に達成することができる。もっとも、脂質膜構造体をポリアルキレングリコールやオリゴ糖化合物で表面修飾する方法は上記の方法に限定されることはなく、例えば、ステアリル化されたポリアルキレングリコールやオリゴ糖化合物など脂質化された化合物を脂質膜構造体の構成脂質として使用することにより、表面修飾を行うことができる場合もある。
【0069】
本発明の脂質膜構造体の製造にあたり、血中滞留性を高めるための脂質誘導体として、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体などを利用することもできる。また、血中滞留性を高めるための親水性ポリマーとして、ポリアルキレングリコールのほかに、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル-無水マレイン酸交互共重合体、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどを表面修飾に用いることもできる。
【0070】
本発明の脂質膜構造体は、ステロール、又はグリセリン若しくはその脂肪酸エステルなどの膜安定化剤;トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、又はブチル化ヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤;荷電物質;及び、膜ポリペプチド;などからなる群から選ばれる1種又は2種以上の物質を含んでいてもよい。正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの飽和又は不飽和脂肪族アミン;ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパンなどの飽和又は不飽和カチオン性合成脂質;又は、カチオン性ポリマーなどを挙げることができる。負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸などを挙げることができる。膜ポリペプチドとしては、例えば、膜表在性ポリペプチド、又は膜内在性ポリペプチドなどが挙げられる。これらの物質の配合量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0071】
また、本発明の脂質膜構造体には、例えば、温度変化感受性機能、膜透過機能、遺伝子発現機能、及びpH感受性機能などのいずれか1つ又は2つ以上の機能を付与することができる。これらの機能を適宜付加することにより、例えば遺伝子を含む核酸などを内包する脂質膜構造体の血液中での滞留性を向上させ、肝臓や脾臓などの細網内皮系組織による捕捉率を低下させることができる。これらに加えて、標的細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた後の当該脂質膜構造体を、エンドソームから効率的に脱出させて核内に移行させることができ、核内において高い遺伝子発現活性を達成することが可能になる。
【0072】
温度変化感受性機能を付与することができる温度変化感受性脂質誘導体としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリンなどを挙げることができる。また、pH感受性機能を付与することができるpH感受性脂質誘導体としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0073】
また、本発明の脂質膜構造体は、細胞表面の受容体や抗原に対して特異的に結合可能な抗体などの物質で修飾を施すこともできる。当該修飾により、細胞の核内への物質送達効率を改善することができる。例えば、標的組織又は臓器に特異的に発現する生体成分に対するモノクローナル抗体を脂質膜構造体の表面に配置することが好ましい。この手法は、例えば、非特許文献25などに記載されている。脂質膜構造体の構成成分として、モノクローナル抗体やそのフラグメント(例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、又はFab’フラグメントなど)中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体、例えばポリ(エチレングリコール)-α-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ω-マレインイミド、α-[N-(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリル-エチル)カルバミル)-ω-[3-[2-(2,5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-イル)エタンカルボキサミド]プロピル}-ポリ(オキシ-1,2-エタンジル)などのマレインイミド構造を有する脂質誘導体を含有させることにより、モノクローナル抗体を脂質膜構造体の膜の表面に結合させることができる。
【0074】
本発明の脂質膜構造体の表面を、連続した複数個のアルギニン残基を含むポリペプチド(以下、「ポリアルギニン」と呼ぶ。)で修飾してもよい。ポリアルギニンとしては、好ましくは4ないし20個の連続したアルギニン残基を含むポリペプチド、さらに好ましくは4ないし20個の連続したアルギニン残基のみからなるポリペプチド、特に好ましくはオクタアルギニンなどを用いることができる。リポソームなどの脂質膜構造体の表面をオクタアルギニンなどのポリアルギニンで修飾することにより、リポソームに封入された目的物質の細胞内送達効率を向上させることができる(非特許文献4; 特許文献1)。ポリアルギニンによる脂質膜構造体表面の修飾は、上記の刊行物に記載された方法に従って、例えば脂質修飾ポリアルギニン、例えばステアリル化オクタアルギニンなどを脂質膜構造体の構成脂質として使用することにより容易に行うことができる。上記刊行物の開示及びこの刊行物において引用された全ての文献の開示を参照により本明細書の開示として含める。
【0075】
また、本発明の脂質膜構造体にsiRNAを封入する際に、必要に応じて核酸導入機能を有する化合物を加えることもできる。このような化合物としては、例えば、O,O'-N-ジドデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジヘキサデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジオクタデセノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O',O''-トリデカノイル-N-(ω-トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド及びN-[α-トリメチルアンモニオアセチル]-ジドデシル-D-グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、3-β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロールなどを挙げることができる。これらの核酸導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の膜の任意の位置に配置されていてもよく、及び/又は脂質膜構造体の内部に充填されていてもよい。
【0076】
多機能性を付加したエンベロープ型ナノ構造体(MEND)が知られており、本発明の脂質膜構造体として好適に使用することができる。MENDとしては、例えば、プラスミドDNAなどの核酸とプロタミンなどのカチオン性ポリマーとの複合体をコアとし、このコアがリポソーム形態の脂質エンベロープ膜の内部に封入された構造を有するものが報告されている。また、MENDの脂質エンベロープ膜には、必要に応じてpH応答性や膜透過性を調節するためのペプチドを配置することができ、脂質エンベロープ膜の外側表面はポリエチレングリコールなどのアルキレングリコールで修飾することができることも報告されている。MENDの脂質エンベロープの内部に凝縮化されたDNA及びカチオン性ポリマーが封入され、効率的に遺伝子発現を達成できるように設計されたMENDも知られている。MENDについては、例えば非特許文献1などの総説を参照することができる。上記刊行物の開示及びこの総説において引用された全ての文献の開示を参照により本明細書の開示として含める。
【0077】
脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、水系溶媒(例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水など)に分散された形態やこの水性分散物を凍結乾燥した形態などが挙げられる。
【0078】
脂質膜構造体の製造方法も特に限定されず、当業者に利用可能な任意の方法を採用することができる。一例を挙げれば、全ての脂質成分をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、エバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって脂質膜を形成した後、水系溶媒を乾燥した上記の混合物に添加し、さらにホモジナイザーなどの乳化機、超音波乳化機、又は高圧噴射乳化機などにより乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルターなどを用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されないが、例えば、リポソームの場合には平均粒子径60~140 nm程度、好ましくは80~120 nm程度、さらに別の好ましい態様として平均粒子径20~50 nm程度であることがノックダウン効率の点から好ましい場合がある。粒子径は、例えばDLS(dynamic light scattering)法により測定することができる。本願明細書において、脂質膜構造体の平均粒子径とは、DLSにより測定された個数平均粒子径を意味する。DLSによる測定は、市販のDLS装置等を用いて常法により行うことができる。
【0079】
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩液などの緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)などを加えてもよい。この水系溶媒に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集抑制などの物理的安定性の面から、水系溶媒中の電解質を極力排除することが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面からは、水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0程度)に設定し、及び/又は窒素バブリングなどにより溶存酸素を除去することが望ましい。
【0080】
得られた脂質膜構造体の水性分散物を凍結乾燥又は噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類;乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類;ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコール;などの糖(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。また、上記水性分散物を凍結する場合には、例えば、前記の糖類やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。
【0081】
本発明の脂質膜構造体の内部には、siRNAの機能を阻害しない範囲で他の物質を封入することができる。封入可能な物質の種類は特に限定されないが、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗ウイルス剤などの任意の医薬の有効成分のほか、糖類、ペプチド類、核酸類、低分子化合物、金属化合物など任意の物質を封入することができる。核酸としては、例えば遺伝子を含む核酸を挙げることができ、より具体的には、例えば、プラスミドに組み込まれた遺伝子などを挙げることができるが、この特定の態様に限定されることはない。
【0082】
特許文献6には、YSK12を含む脂質化合物の合成方法、当該脂質化合物を用いた脂質膜構造体の調製方法、及び得られた脂質膜構造体についてTHP-1細胞(ヒト単球株)に対する遺伝子発現抑制作用及びJurkat細胞(ヒトT細胞株)に対する遺伝子発現抑制作用が具体的に示されている。特許文献6の開示の全てを参照により本明細書の開示に含める。
【実施例
【0083】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0084】
例1
本発明の脂質化合物を以下のスキームに従って合成した。疎水性足場がYSK12(特許文献6)と同じ場合、すなわち、一般式(A)中のcが0である脂質を合成する場合には、出発としてリノール酸(Compound A)を用いた。リノール酸を水素化リチウムアルミニウムで還元後(Compound B)、水酸基をメシル化することで活性化し(Compound C)、臭化マグネシウムを作用させることで臭素化した(Compound D)。δ-Valerolactoneを基質としてグリニャール反応を行うことで2本のリノール酸由来疎水性足場を連結した(Compound E)。第3級アミノ基を炭化水素鎖に直接結合させる場合には、第1級水酸基をトシル化によって活性化し(Compound F)、求核置換反応によりアミノ基を導入した。
【0085】
一方、エステル結合を介して第3級アミノ基を結合させる場合には、第1級水酸基に対してアミノ酸を脱水縮合することで連結した。疎水性足場にエステル結合を含む脂質、例えば、一般式(A)中のcが1であり、R1及びR2中にエステル結合を含む脂質の合成には、直鎖アルカン(炭素数6~10)の両末端炭素原子に結合する水素原子が臭素原子と水酸基に1つずつ置換した物質(Compound G)を出発原料として用いた。水酸基をtert-ブチルジメチルシリルエーテル化することで保護し(Compound H)、上述と同様にグリニャール反応により2分子を連結させた(Compound I)。上述と同様に、第1級水酸基部分に直接あるいはエステル結合を介して第3級アミノ基を導入後(Compound J, M)、シリルエーテルを脱保護し(Compound K,N)、脱水縮合によって任意の直鎖脂肪酸を連結した。
【0086】
【化7】
【0087】
【化8】
【0088】
以下の実施例において、脂質化合物の命名は以下の部分構造に従って「Cationic Lipid (CL)-親水性部位番号-疎水性足場2番号-疎水性足場1番号」として表記した。例えば、特許文献6に開示されているYSK12は「CL1A6」と表記される。
【0089】
【化9】
【0090】
【化10】
【0091】
(1) ((6-ブロモヘキシル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン
6-ブロモヘキサン-1-オール 20.0 g(110.5 mmol)を150 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、4℃に冷却した。tert-ブチルジメチルクロロシラン(TBSCl) 18.0 g(120 mmol)を加えたのち、トリエチルアミン(TEA) 19.5 mL(140 mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、ヘキサン300 mLを加えて懸濁させ、セライト濾過によって不溶物を除去することで粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、((6-ブロモヘキシル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン 26.0 g(88.0 mmol)を無色オイルとして得た。収率は80%であった。
【0092】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 6H), 0.89 (s, 9H), 1.31-1.54 (m, 6H), 1.86 (m, 2H), 3.40 (t, 2H), 3.96 (t, 2H).
【0093】
(2) 11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)ウンデカン-1,5-ジオール
4 mLのジエチルエーテルに((6-ブロモヘキシル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン1.2 g(4.06 mmol)を溶解し、削り屑状マグネシウム2.43 g(100 mmol)を加え、続いてヨウ素1欠片加えた。室温で10分静置した後、オイルバスで40℃に加熱しながら撹拌し、21 mLのジエチルエーテルに溶解した((6-ブロモヘキシル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン 24.8 g(83.94 mmol)を滴下した。40℃で2時間反応させた後、4℃に冷却した。続いて、δ-バレロラクトン3.67 mL(39.6 mmol)を添加し、室温で一晩反応させた。次に、4℃に冷却し、5%硫酸を滴下することで残留したマグネシウムを溶解させた。ジエチルエーテルで希釈し、有機層を水及び飽和食塩水で分液洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)ウンデカン-1,5-ジオール 14.0 g(26.3 mmol)を無色オイルとして得た。δ-バレロラクトンからの収率は66%であった。
【0094】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (s, 18H), 1.25-1.56 (m, 26H), 3.59 (t, 4H), 3.65 (t, 2H).
【0095】
(3) 11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 4-メチルベンゼンスルホネート
11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)ウンデカン-1,5-ジオール 14.0 g(26.3 mmol)を50 mLのジクロロメタンに溶解し、DMAP(N,N-ジメチル-4-アミノピリジン) 321 mg(2.63 mmol)とジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)5.50 mL(39.5mmol)を加え、4℃に冷却した。続いて、p-トルエンスルホニルクロリド(pTsCl)6.02g(31.6 mmol)を徐々に加えていった後、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、酢酸エチルで懸濁し、水及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 4-メチルベンゼンスルホネート 12.4 g(28.0 mmol)を無色オイルとして得た。収率は69%であった。
【0096】
(4) 11-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,19,19,20,20-オクタメチル-4,18-ジオキサ-3,19-ジシラヘニコサン-11-オール
11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 4-メチルベンゼンスルホネート 12.4 g(18.0 mmol)に30 mLのテトラヒドロフランを加え、4℃に冷却した。続いて、ジプロピルアミン 7.38 mL(54.0 mmol)を加えた後、室温で11日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、0.5 N 水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して11-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,19,19,20,20-オクタメチル-4,18-ジオキサ-3,19-ジシラヘニコサン-11-オール 7.27 g(11.8 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は66%であった。
【0097】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (s, 18H), 1.24-1.64 (m, 30H), 2.30-2.43 (m, 6H), 3.58 (t, 4H).
【0098】
(5) 7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール
11-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,19,19,20,20-オクタメチル-4,18-ジオキサ-3,19-ジシラヘニコサン-11-オール 7.27 g(11.8 mmol)に酢酸2.23 mL(39 mmol)及び26 mLの1.0 M テトラブチルアンモニウムフルオリドのテトラヒドロフラン溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、逆相シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;水(0.1%トリフルオロ酢酸):アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸)(連続勾配)}に供することにより精製して7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール 3.43 g(8.85 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は75%であった。
【0099】
(6) 7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジオレアート(CL4H6)
7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール 388 mg(1.0 mmol)を5 mLのジクロロメタンに溶解し、続いて、オレイルクロリド900 mg(3.0 mmol)を加えた後、4℃に冷却した。TEA 697 μL(5.0 mmol)を滴下し、室温で3時間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジオレアート(CL4H6)570 mg(0.622 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は62%であった。
【0100】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 12H), 1.18-1.71 (m, 74H), 2.01 (m, 8H), 2.24-2.30 (t, 4H), 2.32-2.42 (m, 6H), 4.04 (t, 4H), 5.32 (m, 4H).
【0101】
【化11】
【0102】
(7) 7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(CL4C6)
7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール 77.5 mg(0.20 mmol)を1 mLのジクロロメタンに溶解し、続いて、ミリストイルクロリド 197 mg(0.80 mmol)を加えた後、4℃に冷却した。DIPEA 205 μL(1.2 mmol)を滴下し、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.2 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(CL4C6)93 mg(0.115 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は58%であった。
【0103】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 12H), 1.18-1.68 (m, 74H), 2.27 (t, 4H), 2.42-2.53 (br, 6H), 4.04 (t, 4H).
【0104】
【化12】
【0105】
(8) 7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジパルミテート(CL4D6)
7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール 77.5 mg(0.20 mmol)を1 mLのジクロロメタンに溶解し、続いて、パルミトイルクロリド 220 mg(0.80 mmol)を加えた後、4℃に冷却した。DIPEA 205 μL(1.2 mmol)を滴下し、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.2 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジパルミテート(CL4D6)143 mg(0.164 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は82%であった。
【0106】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 12H), 1.18-1.68 (m, 82H), 2.27 (t, 4H), 2.45-2.53 (br, 6H), 4.04 (t, 4H).
【0107】
【化13】
【0108】
(9) 11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート
11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)ウンデカン-1,5-ジオール 5.33 g(10.0 mmol)を50 mLのジクロロメタンに溶解し、DMAP 122 mg(1.0 mmol)と1-メチルピペリジン-4-カルボオキシ酸 塩酸塩 2.16 g(12.0 mmol)を加えた。続いて、EDCI 2.49 g(13.0 mmol)を徐々に加えていった後、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 5.01 g(7.61 mmol)を無色オイルとして得た。収率は76%であった。
【0109】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (s, 18H), 1.25-2.01 (m, 26H), 2.23 (br.s, 4H), 2.78 (m, 2H), 3.58 (t, 4H), 4.08 (t, 2H).
【0110】
(10) 5,11-ジヒドロキシ5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート
11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 5.01 g(7.61 mmol)に酢酸1.43 mL(25 mmol)及び20 mLの1.0 M テトラブチルアンモニウムフルオリドのテトラヒドロフラン溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、逆相シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;水(0.1%トリフルオロ酢酸):アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸)(連続勾配)}に供することにより精製して5,11-ジヒドロキシ5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 2.34 g(5.45 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は72%であった。
【0111】
1H NMR;400 MHz δ=1.25-1.45 (m, 20H), 1.52 (m, 4H), 1.62 (m, 2H), 1.86 (m, 2H), 2.05 (m, 2H), 2.50-2.70 (m, 6H), 3.16 (m, 2H), 3.53 (t, 4H), 4.11 (t, 2H).
【0112】
(11) 7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジオレアート(CL15H6)
5,11-ジヒドロキシ5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 430 mg(1.00 mmol)を10 mLのジクロロメタンに溶解した。続いて、オレイン酸 706 mg(2.50 mmol)、DMAP 24.4 mg(0.20 mmol)及びEDCI 671 mg(3.5 mmol)を加え、室温で2時間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジオレアート(CL15H6)569 mg(0.594 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は59%であった。
【0113】
1H NMR;400 MHz)データ δ=0.88 (t, 6H), 1.20-2.05 (m, 78H), 2.28 (m, 8H), 2.82(m, 2H), 4.07 (m, 6H), 5.33 (m, 4H).
【0114】
【化14】
【0115】
(12) 7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジドデカノエート(CL15B6)
5,11-ジヒドロキシ5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 85.9 mg(0.20 mmol)を1.5 mLのジクロロメタンに溶解し、続いて、lauroyl chloride 143 mg(0.60 mmol)を加えた後、4℃に冷却した。TEA 139 μL(1.00 mmol)を滴下し、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.2 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジドデカノエート(CL15B6)101. 2 mg(0.127 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は64%であった。
【0116】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.20-2.13 (m, 70H), 2.28 (m, 8H), 2.84 (m, 2H), 4.06 (m, 6H).
【0117】
【化15】
【0118】
(13) 7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(CL15C6)
5,11-ジヒドロキシ5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 85.9 mg(0.20 mmol)を1.5 mLのジクロロメタンに溶解し、続いて、ミリストイルクロリド 163 mg(0.60 mmol)を加えた後、4℃に冷却した。TEA 139 μL(1.00 mmol)を滴下し、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.2 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(C
L15C6)116 mg(0.136 mmol)を薄黄色固体として得た。収率は68%であった。
【0119】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.20-2.10 (m, 78H), 2.28 (m, 8H), 2.82 (m, 2H), 4.06 (m, 6H).
【0120】
【化16】
【0121】
(14) 7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジパルミテート(CL15D6)
5,11-ジヒドロキシ5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 85.9 mg(0.20 mmol)を1.5 mLのジクロロメタンに溶解し、続いて、パルミトイルクロリド 181 mg(0.60 mmol)を加えた後、4℃に冷却した。TEA 139 μL(1.00 mmol)を滴下し、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.2 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジパルミテート(CL15D6)114 mg(0.126 mmol)を薄黄色固体として得た。収率は63%であった。
【0122】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.20-2.11 (m, 86H), 2.28 (m, 8H), 2.83 (m, 2H), 4.06 (m, 6H).
【0123】
【化17】
【0124】
(15) 7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジステアレート(CL15E6)
5,11-ジヒドロキシ5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 1-メチルピペリジン-4-カルボオキシレート 85.9 mg(0.20 mmol)を1.0 mLのジクロロメタンに溶解し、続いて、stearoyl chloride 181 mg(0.80 mmol)を加えた後、4℃に冷却した。TEA 139 μL(1.00 mmol)を滴下し、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.2 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-ヒドロキシ7-(4-((1-メチルピペリジン-4-カルボニル)オキシ)ブチル)トリデカン-1,13-ジイル ジステアレート(CL15E6)141mg(0.146 mmol)を薄黄色固体として得た。収率は73%であった。
【0125】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.20-2.10 (m, 94H), 2.28 (m, 8H), 2.83 (m, 2H), 4.06 (m, 6H).
【0126】
【化18】
【0127】
(16) (9z,12z)-オクタジエン-1-オール
4℃に冷却したテトラヒドロフラン(THF)190 mLに、水素化リチウムアルミニウム2.73 g(72 mmol)を懸濁した。そこへリノール酸10 g(36 mmol)を滴下し、10分間撹拌した。その後、オイルバスで加熱しながら一晩還流した。これを冷却した後、1 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100 mLを加えて反応を停止させた。次に、酢酸エチル100 mLを加えて希釈した後、濾過し、濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層を回収して、そこに無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、(9z,12z)- オクタジエン-1-オール 8.68 g(32.6 mmol)を無色オイルとして得た。収率は91%であった。
【0128】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 3H), 1.25-1.36 (m, 16H), 1.53-1.58 (m, 2H), 2.02-2.06 (m, 4H), 2.76 (t, 2H), 3.62 (t, 2H), 5.29-5.40 (m, 4H).
【0129】
(17) (9z,12z)- オクタジエン-1-メタンスルホネート
(9z,12z)- オクタジエン-1-オール 8.68 g(32.6 mmol)を100 mLのジクロロメタンに溶解した後、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)366 mg(3.26 mmol)、トリエチルアミン(TEA)6.8 mL(48.9 mmol)を加えた。続いて、滴下ロートを用いて、50 mLのジクロロメタンで希釈したメタンスルホニルクロリド(MsCl)3.03 mL(39.1 mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。反応液を回収して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、(9z, 12z)- オクタジエン-1-メタンスルホネート 10.64 g(30.9 mmol)を無色オイルとして得た。収率は95%であった。
【0130】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 3H), 1.06-1.18 (m, 18H), 1.70-1.90 (m, 2H), 2.00-2.19 (m, 4H), 2.79 (t, 2H), 3.06 (s, 3H), 4.20 (t, 2H), 5.21-5.42 (m, 4H).
【0131】
(18) 18-ブロモ-オクタデカ-(6z,9z)-ジエン
(9z,12z)- オクタジエン-1-メタンスルホネート 10.64 gを140 mLのジエチルエーテルに溶解した後、臭化マグネシウムエチルエテレート 16.0 g(61.8 mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応液を回収して、100 mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、18-ブロモ-オクタデカ-(6z,9z)-ジエン 8.85 g(26.9 mmol)を無色オイルとして得た。収率は87%であった。
【0132】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 3H), 1.27-1.46 (m, 18H), 1.80-1.88 (m, 2H), 2.00-2.09 (m, 4H), 2.77 (t, 2H), 3.40 (t, 2H), 4.20 (d, 2H), 5.29-5.41 (m, 4H).
【0133】
(19) 4-[(9z,12z)-オクタジエニル]-(13z,16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール
1.5 mLのジエチルエーテルに18-ブロモ-オクタデカ-(6z,9z)-ジエン 50 g(1.52 mmol)を溶解し、削り屑状マグネシウム609 mg(25.1 mmol)を加え、続いてヨウ素1欠片を加えた。室温で10分間静置した後、オイルバスで45℃に加熱しながら撹拌し、6 mLのジエチルエーテルに溶解した18-ブロモ-オクタデカ-(6z, 9z)-ジエン 5.0 g(15.2 mmol)を滴下した。45℃で1時間反応させた後、室温に冷却した。続いて、δ-バレロラクトン300 μL(3.23 mmol)を添加し、室温で1時間反応させた。次に、4℃に冷却し、濾過した後、濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 1.64 g(2.73 mmol)を無色オイルとして得た。δ-バレロラクトンからの収率は85%であった。
【0134】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.25-1.1.46 (m, 46H), 2.02-2.06 (m, 8H), 2.77 (t, 4H), 3.66 (t, 2H), 5.30-5.40 (m, 8H).
【0135】
(20) 4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール
4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 301 mg(0.50 mmol)を5.0 mLのジクロロメタンに溶解し、DMAP 6.11 mg(0.05 mmol)とTEA 83.6 μL(0.60 mmol)を加え、続いてp-トルエンスルホニルクロリド(pTsCl) 95.3 mg(0.50 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。続いて、反応液にシリカゲルを加え、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。その後、シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して293 mg(0.39 mmol)を無色オイルとして得た。収率は78%であった。
【0136】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 3H), 1.25-1.49 (m, 46H), 2.03-2.05 (m, 8H), 2.44 (s, 3H), 2.77 (t, 4H), 4.03 (t, 2H), 5.31-5.39 (m, 8H), 7.34 (d, 2H), 7.78 (d, 2H).
【0137】
(21) 1-N,N-ジメチルアミノ-4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 293 mg(0.39 mmol)に10 mLの 2.0 MジメチルアミンのTHF溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、100 mLのジクロロメタンを加え、100 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 155 mg(0.25 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は64%であった。
【0138】
1H NMR;500 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.23-1.40 (m, 46H), 2.02-2.07 (m, 8H), 2.26 (s, 6H), 2.33 (t, 2H), 2.77 (t, 4H), 5.31-5.39 (m, 8H).
【0139】
【化19】
【0140】
(22) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-(エチル(メチル)アミノ)ブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 650 mg(0.86 mmol)を4 mLのジクロロメタンに溶解し、エチルメチルアミン0.86 mL(10 mmol)を加え、40℃で3日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 432 mg(0.673 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は78%であった。
【0141】
1H NMR;400 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.20-1.67 (m, 49H), 2.03 (m, 8H), 2.38-2.75 (m, 7H), 2.77 (t, 4H), 5.35 (m, 8H).
【0142】
【化20】
【0143】
(23) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-(ジエチルアミノ)ブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 603 mg(0.80 mmol)を4 mLのジクロロメタンに溶解し、ジエチルアミン1.04 mL(10 mmol)を加え、40℃で3日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 401 mg(0.611 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は77%であった。
【0144】
1H NMR;400 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.20-1.67 (m, 52H), 2.03 (m, 8H), 2.38-2.75 (m, 6H), 2.77 (t, 4H), 5.35 (m, 8H).
【0145】
【化21】
【0146】
(24) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-(ジプロピルアミノ)ブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 189 mg(0.25 mmol)を1.5 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、ジプロピルアミン41 μL(0.3 mmol)を加え、室温で8日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 81 mg(0.118 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は47%であった。
【0147】
1H NMR;500 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.22-1.60 (m, 50H), 2.03 (m, 8H), 2.30-2.48 (m, 6H), 2.77 (t, 4H), 5.35 (m, 8H).
【0148】
【化22】
【0149】
(25) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-(ベンジル(メチル)アミノ)ブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 189 mg(0.25 mmol)を1.5 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、N-ベンジルメチルアミン39 μL(0.3 mmol)を加え、室温で8日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 97.4 mg(0.138 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は55%であった。
【0150】
1H NMR;500 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.23-1.60 (m, 46H), 2.03 (m, 8H), 2.18 (s, 3H), 2.37 (t, 2H), 2.77 (t, 4H), 3.47 (s, 2H), 5.35 (m, 8H), 7.30 (m, 5H).
【0151】
【化23】
【0152】
(26) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-(ピペリジン-1-イル)ブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 189 mg(0.25 mmol)を1.5 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、ピペリジン30 μL(0.3 mmol)を加え、室温で8日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 85.0 mg(0.127 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は51%であった。
【0153】
1H NMR;500 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.22-1.68 (m, 52H), 2.03 (m, 8H), 2.30-2.52 (m, 6H), 2.77 (t, 4H), 5.35 (m, 8H).
【0154】
【化24】
【0155】
(27) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-モルフォリノブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 227 mg(0.30 mmol)を2 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、モルフォリン87.1 mg(1.0 mmol)を加え、室温で7日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLのジクロロメタンを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 60.0 mg(0.09 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は30%であった。
【0156】
1H NMR;500 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.22-1.65 (m, 46H), 2.03 (m, 8H), 2.34 (t, 2H), 2.42 (br, 4H), 2.77 (t, 4H), 3.71 (t, 4H), 5.35 (m, 8H).
【0157】
【化25】
【0158】
(28) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-(4-メチルピペラジン-1-イル)ブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 227 mg(0.30 mmol)を2 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、1-メチルピペラジン100.2 mg(1.0 mmol)を加え、室温で7日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLのジクロロメタンを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 79.0 mg(0.116 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は39%であった。
【0159】
1H NMR;500 MHz δ=0.87 (t, 6H), 1.22-1.65 (m, 46H), 2.03 (m, 8H), 2.26-2.65 (m, 13H), 2.77 (t, 4H), 5.35 (m, 8H).
【0160】
【化26】
【0161】
(29) (6Z,9Z,28Z,31Z)-19-(4-(4-イソプロピルピペラジン-1-イル)ブチル)ヘプタトリコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール
4-[(9z, 12z)-オクタジエニル]-1-p-トルエンスルホニル-(13z, 16z)-トリコサジエン-4-オール 189 mg(0.25 mmol)を2 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、1-イソプロピルピペラジン42.7 μL(0.3 mmol)を加え、室温で8日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 116 mg(0.163 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は65%であった。
【0162】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.05 (d, 6H), 1.20-1.60 (m, 46H), 2.03 (m, 8H), 2.31-2.68 (m, 11H), 2.76 (t, 4H), 5.35 (m, 8H).
【0163】
【化27】
【0164】
(30) (14Z,17Z)-5-ヒドロキシ-5-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)トリコサ-14,17-ジエン-1-イル 2-(ピロリジン-1-イル)アセテート
4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 120.2 mg(0.20 mmol)を1.0 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、1-ピロリジン酢酸38.7 mg(0.30 mmol)を加え、続いてDMAP 6.1 mg(0.05 mmol)及び1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI)57.5 mg(0.30 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して117 mg(0.164 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は82%であった。
【0165】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.22-1.69 (m, 46H), 1.82 (br, 4H), 2.03 (m, 8H), 2.65 (br, 4H), 2.77 (t, 4H), 3.33 (s, 2H), 4.13 (t, 2H), 5.35 (m, 8H).
【0166】
【化28】
【0167】
(31) (14Z,17Z)-5-ヒドロキシ-5-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)トリコサ-14,17-ジエン-1-イル 2-(ピペリジン-1-イル)アセテート
4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 120.2 mg(0.20 mmol)を1.0 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、1-ピペリジン酢酸43.0 mg(0.30 mmol)を加え、続いてDMAP 6.1 mg(0.05 mmol)及びEDCI 57.5 mg(0.30 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して130 mg(0.179 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は90%であった。
【0168】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.22-1.67 (m, 52H), 2.03 (m, 8H), 2.50 (br, 4H), 2.77 (t, 4H), 3.18 (s, 2H), 4.12 (t, 2H), 5.35 (m, 8H).
【0169】
【化29】
【0170】
(32) (14Z,17Z)-5-ヒドロキシ-5-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)トリコサ-14,17-ジエン-1-イル 3-(ジメチルアミノ)プロパノエート
4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 601 mg(1.0 mmol)を5.0 mLのジクロロメタンに溶解し、3-(ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩153.6 mg(1.0 mmol)を加え、続いてDMAP 12.2 mg(0.1 mmol)及びEDCI 230 mg(1.2 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。50 mLのジクロロメタンを加え、50 mLの1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して351 mg(0.501 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は50%であった。
【0171】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.22-1.72 (m, 46H), 2.03 (m, 8H), 2.24 (s, 3H), 2.50 (t, 2H), 2.62 (t, 2H), 2.78 (t, 4H), 4.09 (t, 2H), 5.35 (m, 8H).
【0172】
【化30】
【0173】
(33) (14Z,17Z)-5-ヒドロキシ-5-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)トリコサ-14,17-ジエン-1-イル 3-(ジエチルアミノ)プロパノエート
4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 180 mg(0.30 mmol)を2.0 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、3-(ジエチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩72.7 mg(0.40 mmol)を加え、続いてDMAP 6.0 mg(0.05 mmol)及びEDCI 96 mg(0.50 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLのジクロロメタンを加え、5 mLの1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して151 mg(0.207 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は69%であった。
【0174】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.03 (t, 6H), 1.22-1.44 (m, 46H), 1.62 (m, 2H), 2.03 (m, 8H), 2.41-2.56 (m, 6H), 2.78 (m, 6H), 4.07 (t, 2H), 5.35 (m, 8H).
【0175】
【化31】
【0176】
(34) (14Z,17Z)-5-ヒドロキシ-5-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)トリコサ-14,17-ジエン-1-イル 3-(ピペリジン-1-イル)プロパノエート
4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 120.2 mg(0.20 mmol)を1.0 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、1-ピペリジンプロピオン酸47.2 mg(0.30 mmol)を加え、続いてDMAP 6.1 mg(0.05 mmol)及びEDCI 57.5 mg(0.30 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、5 mLの酢酸エチルを加え、5 mLの0.5 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して80.4 mg(0.109 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は55%であった。
【0177】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.22-1.66 (m, 52H), 2.04 (m, 8H), 2.40 (br, 4H), 2.51 (br, 2H), 2.66 (br, 2H), 2.78 (t, 4H), 4.09 (t, 2H), 5.35 (m, 8H).
【0178】
【化32】
【0179】
(35) (14Z,17Z)-5-ヒドロキシ-5-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)トリコサ-14,17-ジエン-1-イル 1-メチルピペリジン-4-カルボキシレート
4-[(9z, 12z)-オクタデカジエニル]-(13z, 16z)-トリコサジエン-1,4-ジオール 842 mg(1.40 mmol)を10 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、1-メチル-4-ピペリジンカルボン酸200 mg(1.40 mmol)を加え、続いてDMAP 17.1 mg(0.14 mmol)及びEDCI 383 mg(2.0 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、50 mLの酢酸エチルを加え、50 mLの1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して877 mg(1.21 mmol)を無色オイルとして得た。収率は86%であった。
【0180】
1H NMR;500 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.23-1.45 (m, 46H), 1.55-2.08 (m, 17H), 2.25 (s, 3H), 2.79 (t, 4H), 4.08 (t, 2H), 5.30-5.40 (m, 8H).
【0181】
【化33】
【0182】
(36) 11-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,19,19,20,20-オクタメチル-4,18-ジオキサ-3,19-ジシラヘニコサン-11-オール
11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 4-メチルベンゼンスルホネート 8.78 g(12.78 mmol)に50 mLの2.0 MジメチルアミンのTHF溶液を加え、室温で6日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して6.20 g(11.07 mmol)を無色オイルとして得た。収率は87%であった。
【0183】
(37) 7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール
11-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,19,19,20,20-オクタメチル-4,18-ジオキサ-3,19-ジシラヘニコサン-11-オール 6.20 g(11.07 mmol)に酢酸1.90 mL(33.21 mmol)及び24.4 mLの1.0 M テトラブチルアンモニウムフルオリドのテトラヒドロフラン溶液を加え、室温で2時間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、逆相シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;水(0.1%トリフルオロ酢酸):アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸)(連続勾配)}に供することにより精製して2.86 g(8.63 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は80%であった。
【0184】
1H NMR;400 MHz δ=1.20-1.60 (m, 26H), 2.80 (s, 6H), 3.02 (t, 2H), 3.62 (t, 4H).
【0185】
(38) 7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(CL1C6)
7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール 431 mg(1.30 mmol)を5 mLのジクロロメタンに溶解し、ミリスチン酸 713 mg(3.12 mmol)及びDMAP 31.8 mg(0.26 mmol)を加え、続いてEDCI 748 mg(3.90 mmol)を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(CL1C6)472 mg(0.627 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は48%であった。
【0186】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 6H), 1.16-1.70 (m, 70H), 2.22 (s, 6H), 2.28 (m, 6H), 4.04 (t, 4H).
【0187】
【化34】
【0188】
(39) 7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジパルミテート(CL1D6)
7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール 431 mg(1.30 mmol)を5 mLのジクロロメタンに溶解し、パルミチン酸 800 mg(3.12 mmol)及びDMAP 31.8 mg(0.26 mmol)を加え、続いてEDCI 748 mg(3.90 mmol)を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジパルミテート(CL1D6)557 mg(0.689 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は53%であった。
【0189】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 6H), 1.16-1.70 (m, 78H), 2.22 (s, 6H), 2.28 (m, 6H), 4.04 (t, 4H).
【0190】
【化35】
【0191】
(40) 7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(CL1C6)
7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)トリデカン-1,7,13-トリオール 1.99 g(6.0 mmol)を20 mLのジクロロメタンに溶解し、オレイン酸 4.07 g(14.4 mmol)及びDMAP 147 mg(1.20 mmol)を加え、続いてEDCI 3.45 g(18.0 mmol)を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して7-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジオレエート(CL1H6)2.56 g(2.98 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は50%であった。
【0192】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 6H), 1.16-1.75 (m, 66H), 2.01 (m, 8H), 2.21-2.35 (m, 12H), 4.04 (t, 4H), 5.32 (m, 4H).
【0193】
【化36】
【0194】
(41) 11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 3-(ジメチルアミノ)プロパノエート
11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)ウンデカン-1,5-ジオール 12.73 g(23.9 mmol)を50 mLのジクロロメタンで溶解し、3-(ジメチルアミノ)プロパン酸塩酸塩 4.04 g(26.3 mmol)及びDMAP 293 mg(2.4 mmol)を加え、続けてEDCI 5.50 g(28.7 mmol)を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、0.5 M 水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して6.66 g(10.54 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は44%であった。
【0195】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (s, 18H), 1.23-1.66 (m, 26H), 2.22 (s, 6H), 2.47 (t, 2H), 2.62 (t, 2H), 3.60 (t, 4H), 4.08 (t, 2H).
【0196】
(42) 5,11-ジヒドロキシ-5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 3-(ジメチルアミノ)プロパノエート
11-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(6-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)ヘキシル)-5-ヒドロキシウンデシル 3-(ジメチルアミノ)プロパノエート 6.66 g(10.54 mmol)に酢酸1.82 mL(31.6 mmol)及び21.1 mLの1.0 M テトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、逆相シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;水(0.1%トリフルオロ酢酸):アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸)(連続勾配)}に供することにより精製して2.40 g(5.95 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は57%であった。
【0197】
1H NMR;400 MHz δ=1.22-1.50 (m, 20H), 1.52-1.70 (m, 6H), 2.81 (s, 6H), 2.87 (t, 2H), 3.33 (t, 2H), 3.63 (t, 4H), 4.12 (t, 2H).
【0198】
(43) 7-(4-((3-(ジメチルアミノ)プロパノイル)オキシ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジテトラデカノエート(CL12C6)
5,11-ジヒドロキシ-5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 3-(ジメチルアミノ)プロパノエート 800 mg(2.0 mmol)を5 mLのジクロロメタンに溶解し、ミリスチン酸 1.005 g(4.4 mmol)及びDMAP 48.9 mg(0.40 mmol)を加え、続いてEDCI 959 mg(5.0 mmol)を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。濾液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して737 mg(0.894 mmol)を白色固体として得た。収率は45%であった。
【0199】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.18-1.70 (m, 70H), 2.22-2.31 (m, 10H), 2.48 (t, 2H), 2.61 (t, 2H), 4.05 (m, 6H).
【0200】
【化37】
【0201】
(44) 7-(4-((3-(ジメチルアミノ)プロパノイル)オキシ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジパルミテート(CL12D6)
5,11-ジヒドロキシ-5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 3-(ジメチルアミノ)プロパノエート 800 mg(2.0 mmol)を5 mLのジクロロメタンに溶解し、パルミチン酸 1.128 g(4.4 mmol)及びDMAP 48.9 mg(0.40 mmol)を加え、続いてEDCI 959 mg(5.0 mmol)を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。濾液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して690 mg(0.784 mmol)を白色固体として得た。収率は39%であった。
【0202】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.18-1.70 (m, 78H), 2.22-2.31 (m, 10H), 2.48 (t, 2H), 2.61 (t, 2H), 4.05 (m, 6H).
【0203】
【化38】
【0204】
(45) 7-(4-((3-(ジメチルアミノ)プロパノイル)オキシ)ブチル)-7-ヒドロキシトリデカン-1,13-ジイル ジオレエート(CL12H6)
5,11-ジヒドロキシ-5-(6-ヒドロキシヘキシル)ウンデシル 3-(ジメチルアミノ)プロパノエート 800 mg(2.0 mmol)を5 mLのジクロロメタンに溶解し、オレイン酸 1.243 g(4.4 mmol)及びDMAP 48.9 mg(0.40 mmol)を加え、続いてEDCI 959 mg(5.0 mmol)を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。濾液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して874 mg(0.937 mmol)を無色オイルとして得た。収率は47%であった。
【0205】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (t, 6H), 1.11-1.68 (m, 66H), 2.01 (m, 8H), 2.22-2.31 (m, 10H), 2.48 (t, 2H), 2.62 (t, 2H), 4.04 (m, 6H), 5.32 (m, 4H).
【0206】
【化39】
【0207】
(46) ((8-ブロモオクチル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン
8-ブロモオクタン-1-オール 17.78 g(85.0 mmol)を100 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、4℃に冷却した。TBSCl 13.86 g(92.0 mmol)を加えたのち、TEA 15.33 mL(110 mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、ヘキサン300 mLを加えて懸濁させ、セライト濾過によって不溶物を除去することで粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、14.0 g(44.3 mmol)を無色オイルとして得た。収率は51%であった。
【0208】
1H NMR;400 MHz δ=0.04 (s, 6H), 0.89 (s, 9H), 1.31 (m, 6H), 1.42 (m, 2H), 1.50 (m, 2H), 1.85 (tt, 2H), 3.40 (t, 2H) 3.59 (t, 2H).
【0209】
(47) 13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(8-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクチル)トリデカン-1,5-ジオール
4 mLのジエチルエーテルに((8-ブロモオクチル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン 0.70 g(2.17 mmol)を溶解し、削り屑状マグネシウム1.26 g(52 mmol)を加え、続いてヨウ素1欠片加えた。室温で10分静置した後、オイルバスで40℃に加熱しながら撹拌し、11 mLのジエチルエーテルに溶解した((8-ブロモオクチル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン 13.3 g(41.13 mmol)を滴下した。40℃で2時間反応させた後、4℃に冷却した。続いて、δ-バレロラクトン1.81 mL(19.5 mmol)を添加し、室温で一晩反応させた。次に、4℃に冷却し、5%硫酸を滴下することで残留したマグネシウムを溶解させた。ジエチルエーテルで希釈し、有機層を水及び飽和食塩水で分液洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して8.00 g(13.58 mmol)を無色オイルとして得た。δ-バレロラクトンからの収率は70%であった。
【0210】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (s, 18H), 1.25-1.60 (m, 34H), 3.59 (t, 4H), 3.65 (t, 2H).
【0211】
(48) 13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(8-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクチル)-5-ヒドロキシトリデシル 4-メチルベンゼンスルホネート
13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(8-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクチル)トリデカン-1,5-ジオール 8.00 g(13.58 mmol)を30 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、DMAP 183 mg(1.50 mmol)とTEA 2.79 mL(20.0 mmol)を加え、4℃に冷却した。続いて、pTsCl 2.86 g(15.0 mmol)を徐々に加えていった後、室温で2時間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、酢酸エチルで懸濁し、水及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して無色オイルとして得た。
【0212】
(49) 13-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,23,23,24,24-オクタメチル-4,22-ジオキサ-3,23-ジシラペンタコサン-13-オール
13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(8-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクチル)-5-ヒドロキシトリデシル 4-メチルベンゼンスルホネート 10.09 g(13.58 mmol)に30 mLの1,2-ジクロロエタンを加え、4℃に冷却した。続いて、ジプロピルアミン 3.71 mL(27.2 mmol)を加えた後、室温で10日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、0.2 N 水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して5.86 g(8.72 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は64%であった。
【0213】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (s, 18H), 0.98 (t, 6H), 1.22-1.80 (m, 38H), 2.98 (m, 6H), 3.58 (t, 4H).
【0214】
(50) 9-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)ヘプタデカン-1,9,17-トリオール
13-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,23,23,24,24-オクタメチル-4,22-ジオキサ-3,23-ジシラペンタコサン-13-オール 4.50 g(6.70 mmol)に酢酸1.72 mL(30 mmol)及び20 mLの1.0 M テトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、逆相シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;水(0.1%トリフルオロ酢酸):アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸)(連続勾配)}に供することにより精製して2.03 g(4.57 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は68%であった。
【0215】
(51) 9-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-7-ヒドロキシヘプタデカン-1,17-ジイル ジオレアート(CL4H8)
9-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)ヘプタデカン-1,9,17-トリオール 222 mg(0.50 mmol)を2.5 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、4℃に冷却した。続いて、オレイルクロリド451 mg(1.50 mmol)を加えた後、TEA 836 μL(6.0 mmol)を滴下し、室温で3時間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.2 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して68.4 mg(0.070 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は14%であった。
【0216】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 12H), 1.20-1.68 (m, 82H), 2.01 (m, 8H), 2.27 (t, 4H), 2.32-2.45 (m, 6H), 4.04 (t, 4H), 5.32 (m, 4H).
【0217】
【化40】
【0218】
(52) ((10-ブロモデシル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン
10-ブロモデカン-1-オール 25.0 g(105.4 mmol)を100 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、4℃に冷却した。TBSCl 17.3 g(115 mmol)を加えたのち、TEA 19.5 mL(140 mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、ヘキサン300 mLを加えて懸濁させ、セライト濾過によって不溶物を除去することで粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して21.0 g(59.8 mmol)を無色オイルとして得た。収率は57%であった。
【0219】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 6H), 0.89 (s, 9H), 1.24-1.34 (m, 10H), 1.42 (tt, 2H), 1.51 (tt, 2H), 1.72-1.88 (m, 2H), 3.40 (t, 2H), 3.59 (t, 2H).
【0220】
(53) 15-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(10-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)デシル)ペンタデカン-1,5-ジオール
4 mLのジエチルエーテルに((10-ブロモデシル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン 1.05 g(2.99 mmol)を溶解し、削り屑状マグネシウム1.75 g(72.0 mmol)を加え、続いてヨウ素1欠片加えた。室温で10分静置した後、オイルバスで40℃に加熱しながら撹拌し、11 mLのジエチルエーテルに溶解した((10-ブロモデシル)オキシ)(tert-ブチル)ジメチルシラン 19.95 g(56.81 mmol)を滴下した。40℃で2時間反応させた後、4℃に冷却した。続いて、δ-バレロラクトン3.67 mL(39.6 mmol)を添加し、室温で一晩反応させた。次に、4℃に冷却し、5%硫酸を滴下することで残留したマグネシウムを溶解させた。ジエチルエーテルで希釈し、有機層を水及び飽和食塩水で分液洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して11.95 g(18.52 mmol)を無色オイルとして得た。δ-バレロラクトンからの収率は69%であった。
【0221】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (s, 18H), 1.22-1.60 (m, 42H), 3.59 (t, 4H), 3.66 (t, 2H).
【0222】
(54) 15-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(10-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)デシル)-5-ヒドロキシペンタデシル 4-メチルベンゼンスルホネート
15-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(10-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)デシル)ペンタデカン-1,5-ジオール 6.00 g(9.30 mmol)を30 mLの1,2-ジクロロエタンに溶解し、DMAP 114 mg(0.93 mmol)とTEA 3.24 mL(23.25 mmol)を加え、4℃に冷却した。続いて、pTsCl 2.13 g(11.16 mmol)を徐々に加えていった後、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、酢酸エチルで懸濁し、水及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して無色オイルとして得た。
【0223】
(55) 15-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,27,27,28,28-オクタメチル-4,26-ジオキサ-3,27-ジシラノナコサン-15-オール
15-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-5-(10-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)デシル)-5-ヒドロキシペンタデシル 4-メチルベンゼンスルホネート 1.66 g(2.08 mmol)に5 mLのTHFを加え、4℃に冷却した。続いて、ジプロピルアミン 569 μL(4.16 mmol)を加えた後、室温で21日間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、1 M水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して1.80 g(2.47 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は27%であった。
【0224】
1H NMR;400 MHz δ=0.05 (s, 12H), 0.89 (m, 24H), 1.23-1.62 (m, 46H), 2.30-2.44 (m, 6H), 3.58 (t, 4H).
【0225】
(56) 11-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)ヘニコサン-1,11,21-トリオール
15-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-2,2,3,3,27,27,28,28-オクタメチル-4,26-ジオキサ-3,27-ジシラノナコサン-15-オール 1.80 g(2.47 mmol)に酢酸515 μL(9.0 mmol)及び6 mLの1.0 M テトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、逆相シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;水(0.1%トリフルオロ酢酸):アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸)(連続勾配)}に供することにより精製して1.01 g(2.02 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は82%であった。
【0226】
1H NMR;400 MHz δ=0.99 (t, 6H), 1.20-1.79 (m, 46H), 3.00 (m, 6H), 3.63 (t, 4H).
【0227】
(57) 11-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)-11-ヒドロキシヘニコサン-1,21-ジイル ジオレアート(CL4H10)
11-(4-(ジイソプロピルアミノ)ブチル)ヘニコサン-1,11,21-トリオール 250 mg(0.50 mmol)を4 mLのジクロロメタンに溶解し、4℃に冷却した。続いて、オレイルクロリド602 mg(2.0 mmol)を加えた後、DMAP 12.2 mg(0.10 mmol)及びピリジン 322 μL(4.0 mmol)を滴下し、室温で3時間反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、酢酸エチルで懸濁し、濾過によって不溶物を除去した。ろ液を0.5 N水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で分液洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することにより精製して42.5 mg(0.041 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は8.3%であった。
【0228】
1H NMR;400 MHz δ=0.88 (m, 12H), 1.17-1.65 (m, 90H), 2.01 (m, 8H), 2.28 (t, 4H), 2.30-2.45 (m, 6H), 4.05 (t, 4H), 5.32 (m, 4H).
【0229】
例2
疎水性足場がリノール酸由来であり、様々な親水性部位を有するpH感受性カチオン性脂質の評価を行った。LNPは特許文献6の実施例(例2)の方法に準じて、各pH感受性カチオン性脂質、cholesterol、methoxy polyethyleneglycol 2000 dimirystoylglycerol(PEG-DMG 2000)をモル比50:50:0.75-1.5とし、アルコール希釈法(図1)によって調製した。相的光散乱法によって算出される平均粒子径は80-120 nmであり、siRNA搭載率は90%以上であった。
【0230】
p-Toluenesulfonic acid(TNS)を用いて各LNPのpKaを求めた。TNS(終濃度:0.75 μM)とLNP(終濃度:30 μM)を各pHに調整した緩衝液中で混合し、マイクロプレートリーダーで蛍光強度を測定した。最も高い値及び低い値をそれぞれ100%及び0%荷電とし、50%荷電率を示すpHをpKaとして算出した。その結果、第3級アミノ基周辺の化学構造によって4.5以下から8.2までの幅広い範囲で様々なpKaを示した(図2)。
【0231】
エンドソーム脱出活性の指標としてのhemolysis活性、in vitroノックダウン活性及びin vivo F7ノックダウン活性を測定した。Hemolysis活性に関しては、マウス赤血球とLNPをpH6.5に調整した緩衝液中で混合し、37℃、30 minインキュベート後に遠心し、上清の545 nmにおける吸光度を測定した。LNPを加えないサンプル及び終濃度0.5%のTritonX-100を加えたサンプルをそれぞれネガティブ、ポジティブコントロールとして各サンプルのhemolysis効率を算出した。In vitroノックダウン活性に関しては、dual-luciferase安定発現HeLa(HeLa-dluc)細胞に、luciferaseに対するsiRNAを搭載したLNPを様々な濃度で添加し、24時間後にdual-luciferase assayによりノックダウン効率を算出した。添加濃度に対する標的luciferase発現量をプロットし、50%抑制するsiRNA濃度をIC50として算出した。In vivo F7ノックダウン活性に関しては、ICRマウス(4週齢、雌性)にF7に対するsiRNAを搭載したLNPを0.1 mg siRNA/kgで静脈内投与し、24時間後における血漿中F7酵素活性を測定した。pKaに対する各活性をプロットした(図3)。
【0232】
In vivo F7ノックダウン活性はpKa 6.4程度を最大活性とするベル型のpKa依存性を示し(図3A)、これは既報と同様の結果であった(非特許文献10; 非特許文献13)。ベンチマークであるCL1A6(YSK12)よりも優れたノックダウン活性を示す誘導体が複数見出された。In vitroノックダウン活性はpKaの上昇に伴って向上していく結果となった(図3B)。Hemolysis活性もpKaの上昇に伴って向上していく結果となった(図3C)。いずれの活性もおおよそ予測されるpKa依存性を示したことから、第3級アミノ基周辺の化学構造変化はpH感受性カチオン性脂質のpKaに大きく影響を与える一方で、それ以外の部分の性質への影響は比較的少ないことが示唆された。換言すれば、第3級アミノ基周辺の化学構造を変えることでpKaのみを目的の値へ調節することが可能であることが示唆された。
【0233】
例3
親水性部位をCL4及びCL15の2種に固定し、疎水性足場の化学構造を変化させた際の影響を例2と同様にして評価した。TNSを用いてpKaを測定したところ、CL4では6.25-6.40、CL15では6.80-7.25と疎水性足場構造変化による影響は認められなかった(図4A及び4B)。In vitroノックダウン活性に関しては、CL15Bを除く他の誘導体で、従来の疎水性足場を有するCL15Aよりも優れていた(図5)。特にオレイン酸を疎水性足場に持つCL15HではCL15Aと比べて約3倍程度の高い活性を示した。In vivo F7ノックダウン活性に関しては、CL4、CL15共に疎水性足場C、Dの活性は低い一方で、疎水性足場Hが疎水性足場Aと同程度以上の活性を示した(図6A及び6B)。
【0234】
特に高いF7ノックダウン活性を示したCL4Hについて、脂質組成及びlipid/siRNA電荷比に着目してノックダウン活性の観点から製剤処方の最適化を行った。CL4H:cholesterolのモル比を30:70から70:30に変化させてLNPを調製した。実験の結果、CH4H:cholesterol比60:40で最大活性を示した(図7A)。Lipid/siRNA電荷比を2.375-14.25の範囲で変化させてLNPを調製した。実験の結果、電荷比の上昇に伴ってノックダウン活性は上昇し、電荷比7程度でプラトーに達した(図7B)。この結果から、電荷比14.25を最適電荷比とした。以上の検討より最適化された処方でCL4H-LNPを調製し、F7ノックダウンの投与量依存性を検討した結果、ED50で0.002 mg siRNA/kgを示した(図8)。
【0235】
例4
CL4H-LNPのin vivoにおける安全性を検討した。ICRマウス(4週齢、雌性)に7 mg siRNA/kgで静脈内投与し、24時間後における血漿中alanin transaminase(ALT)及びaspartatetransaminase(AST)値及び投与前後の体重変化の測定を行った。比較対象として、開発者が以前に開発したpH感受性カチオン性脂質YSK13-C3を用い、脂質組成はYSK13-C3-LNPで最適化されたpH感受性脂質:cholesterol:PEG-DMG 2000 = 70:30:3(モル比)とした。YSK13-C3-LNPはALT及びAST共に10,000を超える強い肝毒性を示した一方、CL4H-LNPはPBS投与群と同レベルの軽微な肝毒性に留まった(図9A)。また、体重変化についてはYSK13-C3-LNP投与群では体重低下が認められた一方で、CL4H-LNPでは体重増加に転じた(図9B)。以上の結果から、CL4Hは安全性に優れる脂質化合物であることが示された。
【0236】
平均粒子径35 nm程度の小さなLNPのsiRNA導入活性に与える疎水性足場の影響を検討した。脂質組成をpH感受性カチオン性脂質:cholesterol:PEG-DMG 2000 = 70:30:3(モル比)とし、マイクロミキサー内蔵マイクロ流路を用いてluciferaseに対するsiRNAを搭載したLNPの製造を行った。HeLa-dluc細胞におけるluciferaseノックダウン活性を測定した結果、従来のリノール酸由来疎水性足場を有するCL15Aでは30 nM siRNAで30%以下のノックダウン効率に留まる条件下において、CL15C、CL15D及びCL15Hは10 nM siRNAでいずれも50%以上の高いノックダウン効率を示した(図10)。この結果は、長い疎水性足場を有するpH感受性カチオン性の脂質化合物により、LNPの小型化に伴うsiRNA導入効率の低下を克服できることを示している。
【0237】
例5
親水性部位をCL4に固定した3種の脂質化合物(CL4H6、CL4H8、及びCL4H10)を用いて、前記疎水性足場1の化学構造を変化させた際の影響を例2と同様にして評価した。TNSを用いてpKaを測定したところ、CL4H6では6.35、CL4H8では6.10、CL4H10では5.85であり、疎水性足場1の炭素鎖の長さが長いほどpKaは低下した (図11)。In vivo F7ノックダウン活性は、ICRマウスへF7に対するsiRNAを搭載したLNPを静脈内投与してから24時間後に、血漿中F7酵素活性を測定した。この結果、3種類の誘導体のいずれも活性を有していた。なかでもCL4H6が最も優れた活性を示した(図12)。
【0238】
例6
CL4H6と、非特許文献11等に記載されている脂質化合物YSK05及びYSK13-C3について、In vivo F7ノックダウン活性を測定し、投与から24時間後のsiRNAの残存量との関係を調べた。In vivo F7ノックダウン活性は、各脂質化合物を用いて例2と同様にしてF7に対するsiRNAを搭載したLNPを調製し、各LNPを、ICRマウス(4週齢、雌性)に0.01 mg siRNA/kgで静脈内投与し、投与後30分後と24時間後に、各マウスから肝臓を回収し、肝臓中のsiRNAをqRT-PCR法により定量した。投与後30分後の肝臓におけるsiRNAは、いずれの脂質化合物を用いたLNPでも同程度であり、肝臓移行量はほぼ同等であることが確認された(図13A)。一方で、投与後24時間後の肝臓におけるsiRNA残存量には大きな差が認められた(図13B)。CL4H6-LNPを投与した肝臓のsiRNA残存量は、YSK05-LNPを投与した肝臓の17.3倍、YSK13-C3-LNPを投与した肝臓の4.8倍であった。また、各LNPを投与したマウスのF7ノックダウンにおけるED50を求め、この値と投与後24時間後の肝臓におけるsiRNA残存量は、反比例の関係にあった(図13C)。これらの結果は、CL4H6-LNPが効率的にエンドソームを脱出し、siRNAを細胞質へ送達していることを示唆していた。
【0239】
また、各LNPを、ICRマウス(4週齢、雌性)に1 mg siRNA/kgで静脈内投与し、投与後1時間後のマウスの肝臓を切除し、核(Hoechst33342)、血管(FITC)、脂質(DiI)、及びsiRNA(Cy5)をそれぞれ蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で観察した。この結果、肝実質細胞の細胞質におけるsiRNAの蛍光量は、CL4H6-LNPを投与したマウスが最も多く、CL4H6-LNPがsiRNAを効率的に細胞質へ送達している様子が観察された(図14)。
【0240】
各LNPを、ICRマウス(4週齢、雌性)に0.3 mg siRNA/kgで静脈内投与し、血漿中F7タンパク質の量を経時的に定量した。各回収日のLNP未投与マウス(NT)の血漿中F7タンパク質量を100とした相対血漿中F7タンパク質量の経時的変化を図15Aに示す。CL4H6-LNPを投与したマウスが最も長期間、相対血漿中F7タンパク質量を低く抑えることができた。また、各LNPを投与したマウスのF7ノックダウンにおけるED50を求めたところ、この値と相対血漿中F7タンパク質量が50となるLNP投与後経過時間(Durability)(day)とは、負の相関関係にあった(図15B)。すなわち、CL4H6-LNPは、同じsiRNA投与量において、YSK05-LNP及びYSK13-C3-LNPよりも遺伝子ノックダウン活性が長期に亘って持続した。
【0241】
血漿中F7タンパク質は、Biophen FVII assay kit(Hypen BioMed製)を用いた呈色反応により定量した。この呈色反応は、まず、FVIIタンパク質をキット中の組織因子(TF)と複合体化させる。得られたFVII-TF複合体によってキット中の第X因子(FX)を活性化(FXa)させ、その酵素活性で発色基質を産生させる。産生された発色基質の量を、405nmにおける吸光度を測定して定量した。
【0242】
各LNPを、ICRマウス(4週齢、雌性)に1 mg siRNA/kgで静脈内投与し、経時的に肝臓及び脾臓を回収し、LC/MSで各カチオン性脂質を定量した。この結果、肝臓及び脾臓におけるYSK05及びYSK13-C3は、投与後72時間経過時点までほぼ一定であるのに対して、CL4H6の組織内含有量は、肝臓と脾臓のいずれにおいても経時的に減少することが確認された(図16A及び16B)。これらの結果から、CL4H6は生分解性に富むことが示され、高い安全性に寄与していると考えられた。
【0243】
例7
CL4H6-LNPをmethoxy polyethyleneglycol 2000 distearoylglycerol(PEG-DSG 2000)でさらに修飾することによって血中の滞留時間を長期化し、さらにがん細胞におけるノックダウン活性を評価した。
具体的には、まず、例2と同様にしてCL4H6-LNP を用いてPLK1に対するsiRNAを搭載したLNPを調製した。得られたCL4H6-LNPを、pH6.0の10%EtOH水溶液にPEG-DSG 2000と共に分散させ、60℃で30分間インキュベートすることにより、CL4H6-LNP をPEG-DMG 2000でさらに修飾した。このPEG-DSG修飾CL4H6-LNPを、ICRマウス(4週齢、雌性)に0.5 mg siRNA/kgで静脈内投与し、血中PEG-DSG修飾CL4H6-LNP量を経時的に定量した。PEG-DSG修飾CL4H6-LNPのマウスへ投与した量(ID)を100%とした相対血中PEG-DSG修飾CL4H6-LNP量の経時的変化を図17に示す。
【0244】
PEG-DSG修飾CL4H6-LNPと同様にして、PEG-DSG修飾YSK05-LNPを調製した。次いで、各LNPを、OSRC2細胞(ヒト腎細胞がん由来)皮下移植マウスに2 mg siRNA/kgで静脈内投与し、投与後24時間後におけるがん組織中のPLK1遺伝子の発現量をqRT-PCR法で測定した。この結果、LNP未投与のコントロールマウス(NT)のがん組織におけるPLK1発現量を1とした相対PLK1発現量は、PEG-DSG修飾CL4H6-LNPを投与したマウスとPEG-DSG修飾YSK05-LNPを投与したマウスの両方で有意に低かった。特にPEG-DSG修飾CL4H6-LNPは、PEG-DSG修飾YSK05-LNPよりも相対血中PLK1発現量が低く、優れたノックダウン活性が認められた(図18A)。
【0245】
また、各LNPを投与後24時間後のOSRC2細胞皮下移植マウスの体重を測定し、投与前の体重からの変化率(%)を調べた(図18B)。PEG-DSG修飾YSK05-LNPを投与したマウスでは、投与後にはやや体重の減少が観察されたが、PEG-DSG修飾CL4H6-LNPを投与したマウスでは、PEG-DSG修飾YSK05-LNPを投与したマウスではほとんど体重の変動はなかった。これらの結果から、PEG-DSG修飾YSK05-LNPは安全性が高く、様々に使用できることが示唆された。
【0246】
例8
CD45に対するsiRNAを搭載したCL4H6を含むLNPを骨髄由来マクロファージに導入し、CD45遺伝子のノックダウン活性を測定した。
まず、脂質組成がカチオン性脂質(CL4H6)、cholesterol、及びPEG-DMG 2000をモル比60:40:2とし、さらにCD45に対するsiRNAを用いた以外は例2と同様にして、CD45に対するsiRNAを様々な濃度で搭載したCL4H6-LNPを調製した。
ICRマウス骨髄細胞から誘導したマクロファージの培養培地に、CD45に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNPを添加し、24時間培養した。比較対象として、当該マクロファージにリポフェクタミン試薬(Lipofectamine RNAiMAX、Thermo Fisher Scientific社製)を用いてCD45に対するsiRNAをトランスフェクションし、24時間培養した。各マクロファージの24時間培養後におけるCD45遺伝子の発現量を、qRT-PCR法で測定した。CD45に対するsiRNA未投与のマクロファージ(NT)におけるCD45の発現量を100%とした各マクロファージの相対CD45発現量(%)の結果を図19に示す。CD45に対するsiRNAをCL4H6-LNPに搭載してトランスフェクションしたマクロファージのほうが、リポフェクタミン試薬を用いてCD45に対するsiRNAをトランスフェクションしたマクロファージよりも10倍以上高い効率で遺伝子ノックダウンを誘導した。
【0247】
例9
CD45に対するsiRNAを搭載したLNPを、OSRC2細胞皮下移植マウスに投与し、CD45遺伝子のノックダウン活性を測定した。
まず、脂質組成がカチオン性脂質(CL4H6又はYSK05)、cholesterol、及びPEG-DSG 2000をモル比70:30:2とし、さらにCD45に対するsiRNAを用いた以外は例2と同様にして、CD45に対するsiRNAを搭載したLNPを調製した。
各LNPを、OSRC2細胞皮下移植マウスに2 mg siRNA/kg/doseで2日連続して静脈内投与した。最終投与から48時間後における腫瘍関連マクロファージのCD45遺伝子の発現量を、フローサイトメトリーで測定した。siRNA未投与の腫瘍関連マクロファージ(NT)におけるCD45発現量を100%とした場合の各腫瘍関連マクロファージの相対CD45発現量(%)の結果を図20に示す。CD45に対するsiRNAをCL4H6-LNPに搭載して投与したマウスのほうが、YSK05-LNPに搭載して投与したマウスよりも、腫瘍関連マクロファージにおけるCD45の相対発現量が低かった。すなわち、CL4H6は、腫瘍関連マクロファージにおいて優れた遺伝子ノックダウンを誘導した。
【0248】
例10
CL4H6を含むLNPをマウスに反復投与し、安全性を評価した。LNPに搭載するsiRNAとしては、マウスに対する薬理活性のないsiRNAを用いた。
まず、pH感受性カチオン性脂質としてCL4H6を用いて、例2と同様にしてヒトPLK1に対するsiRNAを搭載したLNP(CL4H6-LNP)を調製した。得られたCL4H6-LNPを、ICRマウス(4週齢、雌性)に、3又は4日ごとに、0.3 mg siRNA/kg 又は1 mg siRNA/kgで静脈内に反復投与した。具体的には、投与開始日(0日目)、投与開始日から4、7、11、14、18、21、及び23日目に、CL4H6-LNPを静脈内投与した。0.3 mg siRNA/kg は、F7に対するsiRNAを搭載したCL4H6-LNPのED50(0.0025 mg siRNA/kg)(例6参照)の120倍の投与量であり、1 mg siRNA/kg はその400倍の投与量である。
【0249】
投与開始0、4、7、11、14、18、21、23、及び28日目に各マウスの体重を測定し、未投与群と比較した。0.3 mg siRNA/kg投与群(n=3)、1 mg siRNA/kg投与群(n=3)、及び未投与群(n=3)の、投与開始0日目の体重を100%とする体重変化率(%)の経時的変化を図21に示す。0.3 mg siRNA/kg投与群及び1 mg siRNA/kg投与群の体重変化の推移は、未投与群とほぼ同等であり、CL4H6-LNPの反復投与による全身毒性は認められなかった。
【0250】
CL4H6-LNPの反復投与開始から28日目に、0.3 mg siRNA/kg投与群、1 mg siRNA/kg投与群、及び未投与群の各マウスの血清を採取し、血液学的パラメーター、具体的には、総タンパク質(TP:g/dL)、アルブミン(ALB: g/dL)、尿素窒素(BUN:mg/dL)、クレアチニン(CRE:mg/dL)、ナトリウム(Na:mEq/L)、カリウム(K:mEq/L)、塩化物(Cl:mEq/L)、カルシウム(Ca:mg/dL)、無機リン(IP:mg/dL)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST:IU/L)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT:IU/L)、乳酸脱水素酵素(LDH:IU/L)、アミラーゼ(AMY:IU/L)、g-グルタミル基転移酵素(γ-GT:IU/L)、総コレステロール(T-CHO:mg/dL)、中性脂肪(TG:mg/dL)、高密度リポタンパク質-コレステロール(HDL-C:mg/dL)、総ビリルビン(T-BIL:mg/dL)、及びグルコース(GLU:mg/dL)を測定した。各測定は常法により行った。
【0251】
【表1】
【0252】
【表2】
【0253】
測定結果を表1及び2に示す。いずれの項目も、0.3 mg siRNA/kg投与群及び1 mg siRNA/kg投与群では、未投与群と比較して有意な変化は認められなかった
【0254】
CL4H6-LNPの反復投与開始から28日目に、各群のマウスから血清採取後、肝臓及び脾臓を回収し、病理組織学的検査(HE染色法)を実施した。
【0255】
【表3】
【0256】
結果を表3に示す。0.3 mg siRNA/kg投与群及び1 mg siRNA/kg投与群では、未投与群と比べて目立った所見は認められなかった。これらの結果から、CL4H6-LNPは安全性に優れていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0257】
本発明の脂質化合物は、siRNAなどの送達対象物質に対して優れた送達効率を達成することができ、高い安全性を両立させつつ、LNPの粒子径の減少に伴うsiRNAなどの送達活性の低下の克服を可能にする脂質膜構造体を提供することができる。また、本発明の脂質化合物を含む脂質膜構造体は、生分解性と優れたエンドソーム脱出能、及びLNPの安定化能を有しており、樹状細胞などの免疫細胞の細胞内にsiRNAなどを効率的に送達することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21