IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-トリメチルアルミニウムの処理方法 図1
  • 特許-トリメチルアルミニウムの処理方法 図2
  • 特許-トリメチルアルミニウムの処理方法 図3
  • 特許-トリメチルアルミニウムの処理方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】トリメチルアルミニウムの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/72 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
B01D53/72 ZAB
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020044902
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021146223
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-04-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和浩
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 信昭
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-170326(JP,A)
【文献】特開昭60-145999(JP,A)
【文献】特開昭54-045698(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0110718(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34-53/85、
53/92、53/96、
53/14-53/18
B01J 21/00-38/74
F23C 9/08、13/00-13/08、
99/00
F23D 1/00- 1/06、
17/00-99/00
F23G 5/02、 5/033-5/12、
5/14- 5/18、
5/44- 5/48
C23C 16/12
C01F 7/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチルアルミニウム(TMA)を含有する処理対象ガスからトリメチルアルミニウムの濃度を検出するTMA濃度検出工程と、
前記TMA濃度検出工程で検出された濃度のトリメチルアルミニウムを分解するのに必要な空気中の水分濃度を算出する必要水分濃度算出工程と、
前記必要水分濃度算出工程によって算出された水分濃度に達するまで空気に水分を添加して水分添加空気を生成する水分添加工程と、
前記水分添加工程で生成された水分添加空気を、前記処理対象ガスに所定の割合で常温下で混合して、トリメチルアルミニウムと水分とを反応させる反応工程と、
前記反応工程で生成されたアルミ化合物を前記処理対象ガスから所定の分離手段によって分離する化合物分離工程とを含み
前記必要水分濃度算出工程で算出されるトリメチルアルミニウムを分解するのに必要な空気中の水分濃度が、前記TMA濃度検出工程で検出されたトリメチルアルミニウムの濃度の3倍以上であり、
前記反応工程で前記処理対象ガスと混合される水分添加空気の量が、前記処理対象ガスの量の2倍以上であることを特徴とするトリメチルアルミニウムの処理方法。
【請求項2】
前記分離手段は、耐熱性を有し、前記処理対象ガスから前記アルミ化合物を分離可能なメッシュを有するフィルターであることを特徴とする請求項記載のトリメチルアルミニウムの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメチルアルミニウムの処理方法に関し、詳しくは、トリメチルアルミニウムを水と反応させて分解処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス状の有害物質の処理には、物質の種類や処理条件に応じて様々なものがある。特に、トリメチルアルミニウム(TMA)のような有機金属化合物の処理については、燃焼バーナーで熱分解させる方法(例えば、特許文献1参照。)、高温に加熱した触媒と反応させる方法(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-351615号公報
【文献】特開2001-219033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、燃焼バーナーの燃料や冷却水を安定供給したり、処理水を排水処理したりするための設備が必要であり、燃焼により生成されるアルミ粉末を捕集する装置も必要となるなど、有害ガスの処理装置に付随して様々な設備が必要となり、実際の処理設備が複雑化、肥大化するという問題があった。
【0005】
また、特許文献2に記載の方法では、加熱用のヒーターの電力や冷却水の供給にコストがかかる他、分解により生じるアルミによって触媒が被毒するため定期的に触媒を交換しなければならず、コストの増大を招いていた。
【0006】
そこで本発明は、必要な設備を簡易に構成でき、処理にかかるコストを低く抑えたトリメチルアルミニウムの処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のトリメチルアルミニウムの処理方法は、トリメチルアルミニウム(TMA)を含有する処理対象ガスからトリメチルアルミニウムの濃度を検出するTMA濃度検出工程と、前記TMA濃度検出工程で検出された濃度のトリメチルアルミニウムを分解するのに必要な空気中の水分濃度を算出する必要水分濃度算出工程と、前記必要水分濃度算出工程によって算出された水分濃度に達するまで空気に水分を添加して水分添加空気を生成する水分添加工程と、前記水分添加工程で生成された水分添加空気を、前記処理対象ガスに所定の割合で常温下で混合して、トリメチルアルミニウムと水分とを反応させる反応工程と、前記反応工程で生成されたアルミ化合物を前記処理対象ガスから所定の分離手段によって分離する化合物分離工程とを含み、前記必要水分濃度算出工程で算出されるトリメチルアルミニウムを分解するのに必要な空気中の水分濃度が、前記TMA濃度検出工程で検出されたトリメチルアルミニウムの濃度の3倍以上であり、前記反応工程で前記処理対象ガスと混合される水分添加空気の量が、前記処理対象ガスの量の2倍以上であることを特徴としている。
【0008】
た、前記分離手段は、耐熱性を有し、前記処理対象ガスから前記アルミ化合物を分離可能なメッシュを有するフィルターであることも特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、処理対象ガスに含まれるトリメチルアルミニウムを、所定の水分濃度を有する空気と混合させることで十分に反応させて分解し、生成されたアルミ化合物を分離手段で分離して取り除くことができるので、TMAの分解に燃焼や触媒が不要であり、トリメチルアルミニウムの処理に必要な設備を簡易に構成でき、かつ、処理にかかるコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一形態例が適用されるTMA処理装置の構成を示すフロー図である。
図2図1のTMA処理装置によるTMA処理プロセスを示すブロック図である。
図3】制御部によるTMA処理プロセスの制御を示すフローチャートである。
図4】TMAと水分とを反応させ、反応後のTMA濃度を反応させた水分濃度とTMA濃度との比ごとにプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一形態例が適用されるTMA処理装置11の構成を示す模式図である。TMA処理装置11は、水反応性を有する有害な有機金属化合物の一種であるトリメチルアルミニウム(TMA)を含有する処理対象ガスを、水分が添加された空気と混合して水とTMAとを反応させ、反応によって生成されたアルミ化合物を除去することでTMAを分解処理する装置である。
【0012】
図1に示されるように、TMA処理装置11は、処理対象ガスを搬送するガス搬送経路12と、空気を供給する空気供給経路13とを備え、ガス搬送経路12及び空気供給経路13は、それぞれ、水とTMAとが十分に反応可能な広さを有するとともに、耐熱性とを有する混合室14に接続している。
【0013】
ガス搬送経路12には、処理対象ガスを一時的に貯留する処理対象ガス貯留部15と、処理対象ガス貯留部15から混合室14への流入を調節する第一開閉バルブ16とが取り付けられており、処理対象ガス貯留部15には、内部のTMAの濃度を検出するTMA濃度検出部15aが取り付けられている。
【0014】
空気供給経路13には、導入した空気に水分を添加して水分濃度を高めた水分添加空気を生成する水分添加部17と、水分添加部17から混合室14への空気の流入を調節する第二開閉バルブ18とが取り付けられている。
【0015】
混合室14には、排出口14aが取り付けられており、排出口14aを介して、処理対象ガスを水と十分に反応させてできた処理済みガスを混合室14外に排出するガス排出経路19が接続している。
【0016】
ガス排出経路19には、メッシュ孔径が5μmでステンレス製のフィルター20が、排出口14aに近接した位置に取り付けられるとともに、混合室14から処理済みガスを吸引するブロワー21が取り付けられている。
【0017】
また、TMA処理装置11は、演算処理や、情報の記憶、送受信等が可能な制御部22を備えている。制御部22は、他の機器と情報のやりとりが可能で、TMA濃度検出部15aから情報を取得でき、第一開閉バルブ16と、水分添加部17と、第二開閉バルブ18と、ブロワー21とを制御可能に構成されている。
【0018】
また、制御部22には、水分添加部17によって生成される水分添加空気の水分濃度を決定する、濃度比設定が登録されている。ここで、濃度比設定は、TMAの濃度を十分に反応させて分解するのに必要な、処理対象ガス中のTMAの濃度と空気中の水分濃度との比のことであり、処理対象ガス中のTMAの濃度の3倍以上に設定されていることが望ましい。
【0019】
さらに、制御部22は、登録された濃度比設定に基づいて、TMA濃度検出部15aが検出したTMAの濃度に対応した、TMAを十分に反応させるのに必要な空気の水分濃度である必要水分濃度を算出するとともに、水分添加部17に対し、算出した水分濃度の水分添加空気を生成可能に設定されている。
【0020】
図2は、TMA処理装置11によるTMAの処理プロセスを示すブロック図である。
【0021】
図2に示されるように、TMAの処理プロセスでは、まず、所定量の処理対象ガスが、図1の処理対象ガス貯留部15において、TMA濃度検出部15aにより混合室14内の処理対象ガスからTMAの濃度が検出されるTMA濃度検出工程が行われる。
【0022】
TMA濃度検出工程で検出されたTMAの濃度は、TMA濃度情報として制御部22に送られ、制御部22で、TMA濃度情報とあらかじめ登録された濃度比設定とに基づいて必要水分濃度が算出される必要水分濃度算出工程が行われる。
【0023】
その後、水分添加部17において、必要水分濃度算出工程で算出された必要水分濃度に基づいて、空気に水分を添加した水分添加空気が生成される水分添加工程が行われる。
【0024】
水分添加工程で生成された水分添加空気は、所定量が混合室14に供給されて、処理対象ガスと混合される反応工程が行われる。反応工程によって、TMAと水分とが反応しアルミ化合物が生じる。このとき、混合室14に流入させる水分添加空気の量は、混合室14に流入させた処理対象ガスの2倍量以上であることが望ましい。
【0025】
TMAと水分との反応工程が完了すると、混合室14内のガスが、図1のブロワー21で吸引されて図1のフィルター20を通過し、フィルター20によってアルミ化合物が分離される化合物分離工程が行われる。
【0026】
そして、化合物分離工程で吸引されたガスが、処理済みガスとして図1のガス排出経路19の下流に送られることで、TMAの処理プロセスが完了する。
【0027】
図3は、制御部22によるTMA処理プロセスの制御を示すフローチャートである。
【0028】
図3に示されるように、制御部22は、まず、処理対象ガス貯留部15内の処理対象ガスのTMA濃度情報をTMA濃度検出部15aから取得する(ステップS1)とともに、第一開閉バルブ16を開閉制御して、処理対象ガスを処理対象ガス貯留部15から混合室14へと導入するとともに、導入した処理対象ガスの量を測定する(ステップS2)。
【0029】
制御部22は、TMA濃度検出部15aからTMA濃度情報を取得すると、登録された濃度比設定に基づいて必要水分濃度を算出し(ステップS3)、算出した水分濃度に基づいて、水分添加部17に水分添加空気を生成させる(ステップS4)。
【0030】
制御部22は、水分添加空気を生成させると、第二開閉バルブ18を開閉制御し、生成させた水分添加空気を、ステップS2で混合室に導入した処理対象ガスの2倍の量、水分添加部17から混合室14へと導入し、処理対象ガスと水分添加空気とを混合させる(ステップS5)。
【0031】
その後、制御部22は、ブロワー21を起動して、混合室14内のガスをガス排出経路19に吸引してフィルター20を通過させ、処理済みガスとしてガス排出経路19の下流に送る(ステップS6)。
【0032】
このように、TMA処理装置11を用いた本発明のトリメチルアルミニウムの処理方法によれば、処理対象ガスに含まれるTMAを、混合室14で所定の水分濃度を有する空気と混合させることで十分に反応させて分解し、生成されたアルミ化合物をフィルター20で分離して取り除くことができるので、TMAの分解に燃焼や触媒が不要であり、TMAの処理に必要な設備を簡易に構成でき、かつ、処理にかかるコストを低く抑えることができる。
【0033】
また、処理対象ガスに含まれるTMAの濃度を検出し、検出したTMAの濃度の3倍以上の濃度の水分を含む空気と混合することで、TMAを十分に分解しきることができるので、TMAの処理を完全に行うことができる。
【0034】
さらに、TMAの分離をフィルター20で行うことにより、アルミ化合物の分離性能が低下してもフィルター20を交換、洗浄することで分離性能の回復ができるので、TMA処理装置11によるTMAの処理能力の維持が容易である。
【0035】
そして、フィルター20が、排出口14aに近接した位置に取り付けられているので、アルミ化合物がガス排出経路19内に付着したり堆積したりしにくく、アルミ化合物による詰まりが抑えられている。
【0036】
なお、本発明は、以上の形態例に限定されることなく、発明の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、本形態例では、アルミ化合物の分離手段として、メッシュ孔径が5μmでステンレス製のフィルターを用いているが、必ずしも分離手段をそのように構成する必要はなく、耐熱性を有し、アルミ化合物を分離可能であれば材質や構造は任意のものを選択してよい。
【0037】
また、本形態例では、水分添加部による空気への水分添加方法を特定していないが、例えば、水バブリングや水滴噴霧によって空気に水分添加してよい。ただし、空気中に水滴が存在すると混合時にTMAが水と急激に反応するので、水滴が生じないように水分添加することが望ましい。
【0038】
さらに、本形態例では、ガス搬送経路及び空気送出経路のそれぞれに開閉弁を設け、混合室で間欠的に処理対象ガスと水分添加空気とを混合することでTMAを処理しているが、必ずしも混合を間欠的にする必要はなく、ガス搬送経路及び空気送出経路のそれぞれに、開閉弁に代えてマスフローコントローラ等の流量調整器を設け、処理対象ガスと水分添加空気とを所定の割合で混合室に流入させつつ、ブロワーを常時稼働させることで、連続的にTMAを処理できるようにしてもよい。
【0039】
以下、実験例として、TMAを含む窒素ガスと、水分濃度の異なる空気とを上記のように連続的に混合室に流入させ、反応させた後に、メッシュ孔径5μmでステンレス製のフィルター(図1のフィルター20に相当)を通過させて、通過後の気体中のTMA濃度を測定した結果を記す。
【0040】
実験では、TMAを含む窒素ガス1L/minに対して、水分を添加した空気を2.7~3.5L/minの流量で混合させた。また、TMAを含む窒素ガスは、TMA濃度1000ppmのものと、2000ppmのものと、3000ppmのものとを用意し、水分の添加量を変えて、それぞれについて実験を行った。
【0041】
図4は、実験結果を記録したものであり、TMAと水分とを反応させ、反応後のTMA濃度を反応させた水分濃度とTMA濃度との比ごとにプロットしたグラフである。プロットしたデータは、TMA濃度ごとにグループ分けされている。
【0042】
図4に示されるように、窒素ガス中のTMA濃度に対して、混合する空気に含まれる水分の濃度の割合を高めていくと、反応後のTMA濃度が低下し、窒素ガス中のTMA濃度に関わらず、水分濃度が3倍以上の時にはTMAが完全に分解されていることがわかる。
【0043】
なお、TMAを含む窒素ガスに対して、上記のように2.7~3.5倍という2倍量以上の水分添加空気を混合させている理由は、同じ温度条件において、水分濃度が3倍以上必要であるが、空気の飽和水蒸気圧が処理対象ガス(窒素ガス)中のTMAの蒸気圧の3倍まではなく、同量ではTMA濃度の3倍以上の水分濃度となる空気を生成できないためである。
【0044】
理論上、蒸気圧の関係から割り出される必要な水分添加空気の量は、水分の飽和した(関係湿度100%の)空気であれば、常温(0~100℃)の範囲において、少なくともTMAの1.7倍であればよい。ただし、関係湿度100%の空気の生成は調整が難しいので、実際に使用可能な関係湿度90%以下の空気を用いることを想定すると、水分添加空気は、約2倍量以上が必要となる。
【符号の説明】
【0045】
11…TMA処理装置 12…ガス搬送経路 13…空気送出経路 14…混合室 14a…排出口 15…処理対象ガス貯留部 15a…TMA濃度検出部 16…第一開閉バルブ 17…水分添加部 18…第二開閉バルブ 19…ガス排出経路 20…フィルター 21…ブロワー 22…制御部
図1
図2
図3
図4