(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の正極材料を調製する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221228BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020552329
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2019056210
(87)【国際公開番号】W WO2019185349
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-28
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】テヒョン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】テ-ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘジョン・ヤン
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-045998(JP,A)
【文献】特開2016-162748(JP,A)
【文献】特開2006-054159(JP,A)
【文献】特開平11-079751(JP,A)
【文献】特開2005-332713(JP,A)
【文献】国際公開第2017/042654(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/042655(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni及びCoを含み、以下の一般式、
Li
1+a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1-kA
k)
1-aO
2(式中、Aは、
Al、Mg、Zr、Nb、Si、P、Mo、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、及びTiからなる群から選択されるドーパントであり、-0.03≦a≦0.06、0.05≦x≦0.35、0.10≦z≦0.95、x+y+z=1、かつk≦0.05である)を有する単結晶モノリシック粒子を含む、粉末状正極材料を調製する方法であって、
- Ni及びCo担持前駆体とLi担持前駆体とを含む混合物を提供することと、
- 前記混合物を複数工程の焼結プロセスに供し、それによって、最終焼結工程において、D50が2.0~8.0μmである一次粒径分布を有する凝集した一次粒子を含む焼結したリチオ化中間材料を得ることと、
- 前記リチオ化中間材料を湿式ボールミル粉砕工程に供し、それによって、前記凝集した一次粒子を解凝集し、解凝集された一次粒子を含むスラリーを得ることと、
- 前記解凝集された一次粒子を前記スラリーから分離することと、
- 前記解凝集された一次粒子を、300℃と、前記複数工程の焼結プロセスの前記最終焼結工程における温度よりも少なくとも20℃低い温度との間の温度で熱処理し、それによって、Ni及びCoを含む単結晶モノリシック粒子を得ることと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記Ni及びCo担持前駆体が、D50≧10μmの粒径分布を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Ni及びCo担持前駆体が、Ni及びCo担持硫酸塩又は塩化物溶液の熱分解プロセスから得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Ni及びCo担持前駆体とLi担持前駆体とを含む混合物において、前記Liの遷移金属に対する比が0.65~0.95であり、前記複数工程の焼結プロセスが、以下の工程:
- 650~850℃の温度、1/3~15時間、酸化雰囲気中での第1の焼結工程であって、それによって、リチウム欠乏前駆体粉末を得る、第1の焼結工程と、
- 前記リチウム欠乏前駆体粉末をLiOH、Li
2O及びLiOH.H
2Oのいずれか1つと混合して、それによって、第2の混合物を得て、前記混合物が、0.95~1.10のLiの遷移金属に対する比を有する、工程と、
- 前記第2の混合物を、800~1000℃の温度で、6~36時間、酸化雰囲気中で焼結する工程と、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物を複数工程の焼結プロセスに供する工程と前記湿式ボールミル粉砕工程との間に、乾式粉砕工程が、空気分級ミル又はエアジェットミルにおいて実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記湿式ボールミル粉砕工程が、溶液中で実施され、前記溶液中の溶媒が水である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記湿式ボールミル粉砕工程が、溶媒と、30~70重量%のリチオ化中間材料とを含む溶液中で、0.5~10mmの直径を有する鋼、ZrO
2、Al
2O
3、及びWCビーズのいずれか1つを使用して実施される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記湿式ボールミル粉砕工程が、鋼、ZrO
2、Al
2O
3、及びWCビーズのいずれか1つを使用して実施されるカスケード湿式
ボールミル粉砕工程であり、前記カスケード湿式ボールミル粉砕工程が、10~50mmのビーズ及び<20cm/秒の粉砕速度を使用する第1の工程と、0.2~5mmのビーズ及び<500cm/秒の粉砕速度を使用する最終工程と、を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記湿式ボールミル粉砕工程が、2~8μmのD50及び1.3未満のスパンを有する解凝集された一次粒子を含むスラリーまで実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記解凝集された一次粒子の前記熱処理工程が、300~850℃の温度で実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記湿式ボールミル粉砕工程において、ドーパントA
担持前駆体又はCo担持前駆体を前記溶液に添加する、
請求項6又は7に記載の方法。
【請求項12】
前記ドーパントA
担持前駆体又は
前記Co担持前駆体が、水酸化アルミニウム又は水酸化コバルト、CoSO
4、Al
2(SO
4)
3、及びNaAl(OH)
4のいずれか1つである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Co担持前駆体が、Co-ナノ酸化物、又はCoSO
4
及びCo(NO
3)
2
からなる群から選択されるコバルト塩のいずれかであり、前記ドーパントA担持前駆体が、Al、Mg、Zr、Nb、Si、P、Mo、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、及びTiのいずれか1つ以上のナノ酸化物又は塩である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記スラリーから分離された前記解凝集された一次粒子が、前記熱処理工程の前に、Al(OH)
3、Al
2O
3、Co硝酸塩、及びMnドープCo酸化物のいずれか1つからなるナノ粒子で乾式コーティングされる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
Ni及びCoを含み、一般式Li
1+a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1-kA
k)
1-aO
2(式中、Aは
Al、Mg、Zr、Nb、Si、P、Mo、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、及びTiからなる群から選択されるドーパントであり、-0.03≦a≦0.06、0.05≦x≦0.35、0.10≦z≦0.95、x+y+z=1、かつk≦0.05である)を有する単結晶モノリシック粒子であって、D50が2.0~8.0μmであり、スパンが≦1.5である粒径分布を有する、粒子を含む、粉末状正極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特に自動車用途に特に使用される現代の電池は、高いエネルギー密度及び長いサイクル寿命を必要とする。現在、電池のコスト及びエネルギー密度要件から、いわゆるNMC又はNCAが、自動車用途の電池において支配的な正極材料である。NMCは、リチウムニッケル-マンガン-コバルト酸化物化合物の略称である。
【0002】
最新式のNMC、高NiNMC、超高NiNMC又はNCA化合物は、小さな一次粒子で構成される通常球状の高密度二次粒子で構成される、一般式Li1+a(Niz(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-aO2を有する粉末である。ここで、高NiNMCの定義は、Ni過剰(1-x-y、「z」と称する)が、少なくとも0.4かつ0.7未満であるNMCである。超高NiNMCは、zが少なくとも0.7であるNMCとして定義される。NCAは、Li1+a’(Ni1-x’-y’Coy’Alx’)1-a’O2の式を有するリチウムニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物である。二次粒子の中央粒径(体積分布のもの、以下D50と称する)は、典型的には5~15μmである。時に、D50は高出力用途についてはより小さい(約3μm)場合もあり、又はより大きい場合もあるが、典型的には20μm以下である。一次粒子は、典型的には0.5μm以下である。この形態は「多結晶」と定義することができ、この最新式の形態は、正極材料の長い開発の歴史の成果である。
【0003】
正極材料を生成するためには、一般に遷移金属前駆体をリチウム(Li)前駆体とブレンドし、酸化雰囲気中で焼成する。目標は、正確な層状結晶構造を有し、適切な結晶化度を有する適切なLi化学量論量を有する正極材料を得ることである。更に、不純物は、低いか又は特定の所望のレベルに制御される必要がある。最新式の多結晶正極材料では、一般に、焼結はかなり穏やかなプロセスであり、前駆体の形状が保存される。また、前駆体の遷移金属組成は、正極材料でも保たれる。したがって、最新式のNMC、高NiNMC、超高NiNMC、及びNCAに関して、製品設計のほとんどの態様は、遷移金属前駆体段階で既に対応されている。
【0004】
上で説明したとおり、一般に、成形された遷移金属前駆体が、最新式の製品に適用される。この方法は、問題点及び利点を有する。利点は、成形された遷移金属前駆体が、最終正極材料を設計するためのツールになる点である。例えば、高密度球状多結晶形態は、この方法から得ることができる。その他の点では、ロジスティクスに関しては、用途に応じて要件が常に異なるため、プロセスの後半段階で粒径分布(particle size distribution、PSD)又は形態などの正極材料の特性を設計することが好ましい。例えば、電力用途にはD50の小さな正極材料を使用してよく、高エネルギー用途には圧縮密度の高い材料を使用してよい。各グレードが専用の成形された遷移金属前駆体を必要とするので、多くの異なるグレードが存在する場合、ロジスティクスが非常に困難になる。したがって、1つの遷移金属前駆体が全ての最終製品の要件を満たすことが望ましい。これは前駆体統一と呼ばれ、最終製品が後半のプロセス工程で設計されるプロセスを必要とする。
【0005】
成形された混合遷移金属前駆体を調製するためにほぼ例外なく適用されるプロセスは、共沈プロセスである。一般に、金属溶液(通常、遷移金属硫酸塩)及び苛性塩基溶液(通常、NaOH)の流れを反応器に供給し、遷移金属水酸化物を沈殿させ、これを溶液から分離し、乾燥させる。
【0006】
成形前駆体を得るための別の潜在的なアプローチは、成形工程として噴霧乾燥プロセスを適用することである。噴霧乾燥中、微細分散した遷移金属酸化物、水酸化物又は炭酸塩を含むスラリーの液滴をホットゾーンに噴霧する。溶媒の蒸発後、成形された遷移金属前駆体を得ることができる。非成形遷移金属前駆体を利用する焼結プロセスが存在する場合、噴霧乾燥プロセスを必要としない。したがって、非成形遷移金属前駆体の使用によって、プロセスコストを低減できる可能性がある。特に興味深い非成形前駆体は、硫酸塩又は塩化物溶液の噴霧熱分解によって調製された、噴霧熱分解混合遷移金属酸化物である。共沈と比較して、噴霧熱分解は、廃棄物のないプロセスであり得る。硝酸溶液の噴霧熱分解も、硝酸を十分に再生させることが可能である場合には、場合により興味深いものである。
【0007】
通常の共沈反応では、1モルのNa2SO4溶液が廃液として生じて、反応スキーム:2NaOH+M’SO4→M’(OH)2+Na2SO4(式中、M’は、Ni、Mn、及びCoなどの遷移金属である)に従って、1モルの混合遷移金属水酸化物を生成する。これは、1.0kgのM’(OH)2当たり約1.5kgのNa2SO4に変換することができる。これとは対照的に、生じた酸を、遷移金属前駆体を溶解させるために使用できることが可能であることにより、熱分解プロセスは、はるかに少ない廃棄物で実施することができる。熱分解工程は、遷移金属が原子スケールで十分に混合された遷移金属前駆体を供給することができるため、興味深い。以下の反応式は、閉ループアプローチを強調するために理想化されている。式中、Meは、概して原子スケールでは混合されていないNi、Co及びMn原料の混合物を表し、一方、Me’は、遷移金属が溶液中又は生成物中において原子スケールで十分に混合されていることを示す。
【0008】
1)原料(酸化物)の溶解:2HCl+MeO→Me’Cl2+H2O
2)十分に混合された遷移金属酸化物が得られる熱分解:Me’Cl2+H2O→Me’O+2HCl(気体)
3)再利用:HCl(気体)→HCl(液体)及び反応1)におけるHCI(液体)の再使用
熱分解プロセスは、典型的には、十分に成形された前駆体を供給することができない。しかしながら、これは、非成形遷移金属前駆体を利用するプロセスが開発された場合、非常に好ましい前駆体となる。
【0009】
遷移金属前駆体物質の純度が問題である。共沈遷移金属水酸化物前駆体は、例えば、共沈反応で使用されるM’SO4流に由来する若干の硫酸塩(SO4)不純物を含有し得る。Li前駆体を用いた焼結中、SO4の大部分はLi2SO4の形態で存続する。いくつかの用途では、Li2SO4が特定の少ない含有量であることが有益である。しかしながら、最終正極材料中のSO4含有量は、生成物中のM’と比較して1モル%を超えない必要があるが、これは、電気化学的に不活性なLi2SO4が支配的になるので可逆容量が減少し得るためである。これによって、遷移金属前駆体中の不純物が制限される。
【0010】
工業的熱分解は、数秒間にわたる非常に速いプロセスである。温度が低すぎる場合、全ての硫酸塩又は塩素(Cl)が反応するとは限らず、遷移金属前駆体は、顕著なレベルの不純物を有する場合がある。これらの不純物は、熱分解温度を上昇させた後、又は得られた遷移金属酸化物を洗浄及び濾過した後もなお残留する場合がある。これらの不純物は、後半の加工工程で除去する必要がある。最終生成物中には硫酸塩又は塩素が可溶性LiCI又はLi2SO4として存在するため、1つの可能性は、最終正極材料に中間又は最終の洗浄を適用することである。しかしながら、この中間洗浄工程は、プロセスコストを増加させる。
【0011】
全体的な処理能力の高いプロセスにおいて高品質の正極材料を得ることは、Ni含有量が増加するにつれてますます困難になる。例えばNi含有量(Ni/M’(モル/モル)から計算される)が0.7よりも高い場合、焼結プロセス中に安価かつ容易に入手可能な炭酸リチウム(Li2CO3)をLi前駆体として使用することはほとんど不可能であり、空気の代わりに純粋な酸素雰囲気が必要となる。超高NiNMC及びNCA化合物は、Li2COの代わりにLiOH又はLi2OをLi供給源として必要とする。また、追加の焼結工程が必要になるか、又は焼結を低処理能力で行う必要がある。更に、炭酸塩含有量などの遷移金属前駆体の純度に関する要件が、より厳しくなる。最後に、超高NiNMC及びNCA化合物は、(より低いNi含有量の)NMC化合物よりもはるかに空気の影響を受けやすい。これらの困難性は全て、超高Ni及びNCAのプロセスコストを著しく増加させる。したがって、超高NiNMC又はNCAに関して、調製プロセスは、常に製品性能とプロセスコストとの間の妥協の産物である。
【0012】
最近では、成形された前駆体から多結晶化合物の概念を放棄した、「モノリシック」と呼ばれる新しい型のNMCが登場し始めている。その理想的な形態では、粉末は、高密度の「モノリシック」粒子からなり、この場合、各粒子は一次粒子からなるのではなく、単結晶自体である。モノリシック化合物は、単結晶又は一体化合物とも呼ばれる。全体的に、モノリシック正極材料の概念は、新しいものではない。例えば、正極材料として携帯型電池で使用されるLiCoO2(LCO)は、多くの場合、モノリシック形態であり、単結晶粒子のD50は約20μmである。その形態は、多くの場合、その不規則な粒子形状から「ジャガイモ形状」と呼ばれる。この形状は、モノリシックNMCについても典型的にみることができる。ジャガイモ形状は、多結晶化合物と比較して、以下のことを可能にする。
1)表面積を減少させる。電池内の荷電化合物の比表面積がより小さいと、電解質と正極材料との間の反応が起こり得る面積が減少するので、副反応が少なく、安全性がより良好であるという利点を有する。
2)より良好なパッケージング密度。平滑な表面及び不規則なジャガイモ形状により、高密度の粉末パッキングが可能になる。例えば、電極加工中、比較的小さい力で、より高密度の電極を実現することができる。これにより、電池のエネルギー密度が増加し、また必要とされる電解質の量も減少する。
3)高い粒子強度。粒子は、電池のサイクリング中に体積変化によって引き起こされる機械的ひずみにより耐えることができるので、より良好なサイクル安定性が得られる。
【0013】
LCOと比較して、NMC化合物(又は高NiNMC、超高Ni、NCA)は、モノリシック形態を実現するのがそれほど容易ではない。一般に、モノリシック形態を実現するためには多結晶形態と比較してより高い焼結温度又はより多いLi過剰が必要とされるが、それは、これらの要因が一次粒子の成長を促進するためである。しかしながら、NMC化合物の一次及び二次粒子は強力に凝集する傾向があるので、解凝集(粉砕)が困難な凝集ブロックを形成し、粉砕された凝集体は、強力な粉砕プロセス後に不良な形態を有し得る。所望のモノリシックNMC化合物は、均一なPSDを有するが、これらの粉砕された凝集体は、明白な大きな及び小さな粒子のテールを示す広いPSDを有する。非常に大きな粒子及び非常に小さな粒子の存在により、得られる可逆容量は、既知の多結晶材料よりもはるかに低く、比較的低いサイクル安定性が観察される。したがって、多結晶正極材料は、数十年にわたってモノリシック材料を完全に圧倒している。高品質のモノリシック形態を実現することができるプロセスを開発することは非常に困難である。
【0014】
正極材料の特性は、バルクLi拡散のようなバルク特性、構造崩壊に対するバルクの安定性、及び脆性に依存する。重要な設計パラメータは、金属組成、ひずみ、結晶化度、及び表面特性である。表面コーティングにより、表面上に保護フィルムを適用する。表面コーティングの後に熱処理を行うことにより、勾配型の表面改質がもたらされ得る。これらの表面改質は、電解質中の正極材料の安定性の向上に寄与し得る。
【0015】
あるいは、電荷移動抵抗を改変することができる。特に、勾配改変はクラック形成を防止することができ、良好なサイクル安定性につながる。コーティングの典型的な例は、Al系コーティングである。表面コーティング又は勾配型表面改質は、性能を改善する潜在能力を有するが、一般に、プロセスコストを増加させる追加の加工工程を必要とする。
【0016】
本発明の目的は、単結晶モノリシック粒子を含む粉末状正極材料を調製するための専用の方法を提供して、このような材料及びそれを作製するプロセスの上述の要件に対処することである。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、プロセスのコスト及び複雑性の増加がわずかである、他の多くのプロセス工程、例えばインサイチュコーティング、塩基の除去、不純物の除去、及び勾配コーティングと組み合わせることができる、湿式粉砕工程を含むモノリシック正極材料を生成するプロセスを提供する。
【0018】
第1の態様からみると、本発明は、Ni及びCoを含み、以下の一般式、Li1+a((Niz(Ni1/2Mn1/2)yCox)1-kAk)1-aO2(式中、Aは、ドーパントであり、-0.03≦a≦0.06、0.05≦x≦0.35、0.10≦z≦0.95、x+y+z=1、かつk≦0.05である)を有する単結晶モノリシック粒子を含む、粉末状正極材料を調製する方法であって、
- Ni及びCo担持前駆体(bearing precursor)とLi担持前駆体とを含む混合物を提供することと、
- 当該混合物を複数工程の焼結プロセスに供し、それによって、最終焼結工程において、D50が2.0~8.0μmである一次粒径分布を有する凝集した一次粒子を含む焼結したリチオ化中間材料を得ることと、
- 当該リチオ化中間材料を湿式ボールミル粉砕工程に供し、それによって、当該凝集した一次粒子を解凝集し、解凝集された一次粒子を含むスラリーを得ることと、
- 当該解凝集された一次粒子を当該スラリーから分離することと、
- 当該解凝集された一次粒子を、300℃又は更には500℃と、当該複数工程の焼結プロセスの当該最終焼結工程における温度よりも少なくとも20℃低い温度との間の温度で熱処理し、それによって、Ni及びCoを含む単結晶モノリシック粒子を得ることと、
を含む、方法を提供することができる。例えば、最終焼結温度が900℃である場合、熱処理温度は、500~880℃未満の温度であってよい。最終熱処理工程の温度が高すぎる場合、再度焼結が起こる。したがって、温度の上限は、更に850℃に限定され得る。本発明における「湿式ボールミル粉砕」の定義は、水である溶媒中においてビーズの衝撃によって一次粒子を解凝集するプロセスである。湿式ボールミル粉砕は、溶媒中における「従来のボールミル粉砕」、並びに溶媒中における「従来のビーズミル粉砕」であってもよい。従来のボールミル粉砕プロセスは、回転容器を用いて、撹拌器なしで実施され、従来のビーズミル粉砕プロセスは、固定式容器内で回転撹拌器を用いて実施される。ある実施形態では、yは0~0.50の間で変動し得る。別の実施形態では、0.35≦z≦0.95である。複数工程の焼結プロセスに続いて、焼結されたリチオ化中間材料の粒径を減少させるために、ジョークラッシュ破砕工程を行ってもよい。
【0019】
Ni及びCo担持前駆体は、D50≧10μmの粒径分布を有し得るが、それは、この種の前駆体に使用される標準的な共沈プロセスにおいてこのサイズがより容易に得られるためである。その場合、前駆体は、混合遷移金属系水酸化物又はオキシ水酸化物であってよい。しかしまた、Ni及びCo担持前駆体は、Ni及びCo担持硫酸塩又は塩化物溶液の熱分解プロセスから得ることもできる。
【0020】
Ni及びCo担持前駆体はMnを含んでいてもよい。Ni及びCo担持前駆体がMnを含む場合、y>0、特に1-x-z≧y>0である。
【0021】
Ni及びCo担持前駆体とLi担持前駆体とを含む混合物において、Liの遷移金属に対する比が0.65~0.95であるより精密な方法では、複数工程の焼結プロセスは、以下の副工程:
- 650~850℃の温度、1/3~15時間、酸化雰囲気中での第1の焼結工程であって、それによって、リチウム欠乏前駆体粉末を得る、第1の焼結工程と、
- 当該リチウム欠乏前駆体粉末をLiOH、Li2O及びLiOH.H2Oのいずれか1つと混合して、それによって、第2の混合物を得、当該混合物が、0.95~1.10のLiの遷移金属に対する比を有する、工程と、
- その第2の混合物を、800~1000℃の温度で、6~36時間、酸化雰囲気中で焼結する工程と、を含む。ある実施形態では、第1の焼結工程は、1/3~3時間の滞留時間を有するロータリーキルン内で実施してよい。
【0022】
特定の実施形態では、混合物を複数工程の焼結プロセスに供する工程と湿式ボールミル粉砕工程に供する工程との間に、乾式粉砕工程が、空気分級ミル又はエアジェットミルにおいて実施される。この工程を使用して、複数工程の焼結プロセスに由来する小さな凝集片を更に小さな、すなわち、200μmの最大サイズ(D100)を有する凝集体に破壊することができるが、それは、粉砕処理能力を高めることができるためである。
【0023】
湿式ボールミル粉砕工程は、水と30~70重量%のリチオ化中間材料とを含むか又はそれらからなる溶液中で、0.5~10mmの直径を有する鋼、ZrO2、Al2O3、及びWCビーズのいずれか1つを使用して実施してよい。また、ビーズの直径は、少なくとも1mmであってもよい。しかしながら、湿式ボールミル粉砕工程では、この最終湿式ボールミル粉砕工程の前の工程に由来する凝集体のサイズに応じて、0.2~5mmのビーズ及び<50cm/秒の粉砕速度を使用してもよい。例えば、湿式ボールミル粉砕工程が、鋼、ZrO2、Al2O3、及びWCビーズのいずれか1つを使用して実施されるカスケード湿式ボールミル粉砕工程である特定の一実施形態では、当該カスケード湿式ボールミル粉砕工程は、10~50mm、又は更には30~50mmのビーズ及び<20cm/秒の粉砕速度を使用する第1の工程と、0.2~5mmのビーズ及び<500cm/秒の粉砕速度を使用する最終工程と、を含む。一般的な実施形態では、湿式粉砕工程は、D50が2~8μm、スパンが1.3未満又は0.9~1.3、又は更には1.0未満の、解凝集された一次粒子を含むスラリーが得られるまで実施される。
【0024】
他の実施形態では、湿式ボールミル粉砕工程において、ドーパントA又はCo担持前駆体が溶液に添加される。このドーパントA又はCo担持前駆体は、例えば、水酸化アルミニウム又は水酸化コバルト、CoSO4、Al2(SO4)3、及びNaAl(OH)4のいずれか1つであってよい。また、一般的な方法では、Co担持前駆体は、Co-ナノ酸化物、又はCoSO4若しくはCo(NO3)2などのコバルト塩のいずれかであり、ドーパントA担持前駆体は、Al、Mg、Zr、Nb、Si、P、Mo、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、及びTiのいずれか1つ以上のナノ酸化物又は塩であってもよい。別の実施形態では、スラリーから分離された、解凝集された一次粒子を、熱処理工程の前に、Al(OH)3、Al2O3、Co硝酸塩、及びMnドープCo酸化物のいずれか1つからなるナノ粒子で乾式コーティングする。
【0025】
第2の態様からみると、本発明は、Ni及びCoを含み、一般式Li1+a((Niz(Ni1/2Mn1/2)yCox)1-kAk)1-aO2(式中、Aはドーパントであり、-0.03≦a≦0.06、0.05≦x≦0.35、0.10≦z≦0.95、x+y+z=1、かつk≦0.05である)を有する単結晶モノリシック粒子であって、D50が2.0~8.0μmであり、スパンが≦1.5、好ましくは≦1.2である粒径分布を有する、粒子を含む、粉末状正極材料を提供することができる。ある実施形態では、yは0~0.50の間で変動し得る。別の実施形態では、0.35≦z≦0.95である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】湿式ボールミル粉砕プロセスの概略図である。101-(回転)チャンバ、102-粉砕媒体(ボール)、103-溶媒、104-標的粉末、及び105-チャンバの回転方向である。
【
図2】湿式ビーズミル粉砕プロセスの概略図である。201-(固定)チャンバ、202-粉砕媒体(ボール)、203-溶媒、204-標的粉末、及び206-回転撹拌器である。
【
図3】実施例1及び比較例1のPSD曲線、x軸:粒径(μm)、y軸:体積%である。
【
図4】EX1-C1のSEM画像、倍率×5000である。
【
図5】実施例2及び比較例2のPSD曲線、x軸:粒径(μm)、y軸:体積%である。
【
図6】サイクル温度45℃の、4.2VでのCEX3、4.2VでのEX2-C2、及び4.3VでのEX2-C2におけるフルセルサイクル数の関数としての容量である。
【
図7】(a)CEX3及び(b)EX2-C2のSEM画像、倍率×5000である。
【
図8】pEX3、EX3-C1、EX3-C2、及びEX3-C3の粒子のSEM画像である。
【
図9】pEX4のSEM画像、倍率×20000(a)及び×2000(b)である。
【
図10】実施例4及び比較例4のPSD曲線、x軸:粒径(μm)、y軸:体積%である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、適合した粒径分布及び優れた電気化学的特性を有する、モノリシック正極材料を生成するプロセスを提供する。当該プロセスは、単一又は複数の固相反応、湿式粉砕、及び後続の熱処理で構成される。
【0028】
本発明では、焼結された凝集化合物の一次粒径は、少なくとも2μm、最大で8μmであり得ることが示されている。従来の多結晶NMC化合物の一次粒径が0.5μmよりも小さいことを考慮すると、この一次粒径の範囲は大きい。一次粒径は、焼結温度、焼結時間、及び焼結添加剤によって制御することができる。焼結された凝集化合物を生成する一般的なプロセスは、遷移金属前駆体をLi前駆体と混合する工程を含む。Al、Mg、及びZrなどの追加のドーパントは、プロセスのこの段階で又はそれ以降に添加され得る。混合物は、複数工程の焼結プロセス(国際公開第2017-042654号に開示されているものなど)によって焼結される。典型的なLi前駆体は、Li2CO3、LiOH、LiOH・H2O、又はLi2Oである。Li2CO3は、zの値がより大きい(高NiNMC)場合、複数工程の焼結プロセスの第1の焼結工程に適用され得る。CO3を含まない前駆体は、超高Ni化合物に適用され、より一般的には、複数工程の焼結プロセスの最終焼結工程に適用される。焼結は、空気又は酸素のような酸素含有雰囲気中で実施される。焼結は、セラミックのサガー又はトレイを使用して、チャンバ型炉(例えば、RHK(Roller Hearth kiln))内で実施することができる。あるいは、焼結、特に複数工程の焼結プロセスの第1の焼結工程は、空気又は酸素中で高処理能力回転窯(RK)において実施することができる。焼結された凝集化合物を得るために、温度及び時間のような焼結条件を選択する。これらはそれぞれ、2~8μmの一次粒径を実現するのに十分な高さ及び長さである。このような一次粒径を実現するための焼結温度(複数工程の焼結プロセスにおいて最も高い滞留温度である)の典型的な範囲は、800~1000℃であり、6~36時間の焼結時間にわたる。本発明において、焼結された凝集化合物は、リチオ化遷移金属酸化物を含有し、Li/M’のモル比は、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.8、最も好ましくは1に近くてよい。
【0029】
焼結された凝集化合物は、強力に凝集した粒子からなる。それは、更なる加工前に、ジョークラッシャのような破砕工具によって約5mmよりも小さい、依然として凝集しているより小さな片に破壊する必要がある、「ブロック」(体積約3cm3を有する)であることが多い。次いで、破砕された化合物は、5mm未満の粒径を有する強力に凝集した一次粒子と、2~8μmの粒径を有する単結晶とからなる。一次粒子は、単なる物理的凝集体ではなく、互いに堅固に焼結されてもいる。次いで、破砕された化合物を粉砕する必要がある。しかしながら、空気分級ミルなどの「通常の」乾式粉砕技術は、堅固に凝集した粒子をその構成要素である一次粒子に破壊するために、単独では効率的でない。一般に、長い通常の乾式粉砕プロセスでは、大きな凝集体が一次粒子に破壊される前にサブミクロンサイズを有する微粒子が生成される。得られた粉末のPSD測定は、微粒子のテール及び拡張された大きな粒子のテールの存在を示す。乾式粉砕プロセスによって得られるスパン(=(D90-D10)/D50)の値は高すぎ、典型的には3よりも大きい。粉砕の繰り返し及び追加のふるい分けを伴う分級技術によって、このスパンは低減され得るが、1.5未満になるのはまれである。本発明において提案される粉砕技術に応じて、通常の乾式粉砕技術は、粉砕処理能力を増加させることができるので、より小さな片(約5mmよりも小さい)を更により小さな凝集体(200μmよりも小さい)に破壊するために予め必要とされる場合がある。
【0030】
本発明は、本発明の鍵となる溶媒ベースの粉砕を、ジョークラッシュ破砕された小片又は乾式粉砕された小さな凝集体に適用する。本発明におけるとびぬけて最も好適な溶媒は、水である。したがって、本発明における「湿式ボールミル粉砕」の定義は、水中においてビーズの衝撃によって一次粒子を解凝集するプロセスである。水は、安価で、不燃性であり、湿式粉砕を他のプロセスと組み合わせることを可能にする。水の別の重要な利点は、焼結された凝集粒子の、単一の一次粒子への解凝集を引き起こすことである。凝集粒子における粒界は、水に可溶性であるLi2CO3又はLi2SO4のようなLi塩を含有する。これらの塩は、一次粒子間の強い接触を促進する。水のような湿式媒体では、当該塩は溶解し、一次粒子間の接触を緩めることができる。したがって、水の作用による粉砕工程により、多くの一次粒子を損傷させることなく、かつ過剰な量の微粒子を生成することもなく、一次粒子を解凝集させることができる。乾式ボールミル粉砕は、はるかに長い粉砕時間及びより多くの粉砕エネルギーが必要であるため、望ましくないことが判明した。粉砕エネルギーだけでなく、粉砕の質も、乾式ボールミル粉砕の欠点である。例えば、一次粒子は、二次粒子から解凝集される前に乾式ボールミル粉砕の高粉砕エネルギーによって破壊され、その結果、より微細な画分が生じる。
【0031】
本発明における湿式ボールミル粉砕は、溶媒中における従来のボールミル粉砕に加えて、溶媒中における従来のビーズミル粉砕を含む。従来の「ボール/ビーズ」粉砕プロセスは、本発明における湿式粉砕プロセスである。一般に、ボールミル粉砕は、ナノスケールの混合物又は超微粉末を生成するために使用される。しかしながら、本発明は、粒径が制御された正極材料を生成するために、ボールミル粉砕プロセスを適用する。
図1及び
図2は、従来のボールミル粉砕プロセス(回転容器を使用、撹拌器なし)及び従来のビーズミル粉砕プロセス(固定式容器において回転撹拌器を使用)の概略図を示す。湿式ボールミル粉砕の目的は、微粒子を生成することなく、一次粒子を二次粒子から分離することである。したがって、粉砕条件を慎重に選択する。
【0032】
湿式ボールミル粉砕の粉砕効果は、ボールのサイズ、粉砕の速度及び時間に大きく依存する。粉砕速度は、従来のボールミル粉砕装置については1秒あたりの容器の総回転長、又は水平若しくは垂直ビーズミル粉砕装置については撹拌器先端の総回転長(先端速度)として定義することができる。例えば、50cmの円周を有する容器がボールミル粉砕装置において1秒あたり1回転する場合、粉砕速度は50cm/秒である。粉砕媒体として10mmのボールを使用する場合、所望のPSDを達成するためにはより長い粉砕時間が必要となる。粉砕媒体として2mmのボールを使用する場合、より短い粉砕時間が必要となる。本発明におけるボールの最適なサイズは、0.5~10mmの範囲である。粉砕速度は、従来のボールミル粉砕装置において、典型的には50cm/秒未満、多くの場合わずか10cm/秒である。ビーズミル粉砕装置における粉砕速度(先端速度)は、典型的には500cm/秒未満である。粉砕速度がより速いと、粒径をより速く減少させることができるが、より多くの微粒子が生成され得る。したがって、粉砕速度及び粉砕時間の微調整が必要となる。
【0033】
粉砕中の固形分含量(固形分/(固形分+溶媒))は、少なくとも30重量%かつ最大70重量%であり得る。粉砕媒体として、金属(鋼)又はZrO2ボールが最も好ましいが、それは、密度、コスト、及び摩耗の良好な落とし所であるためである。しかしながら、Al2O3及びWCなどの他の媒体を使用することもできる。
【0034】
湿式ボールミル粉砕後、粉砕された単結晶一次粒子のスラリーが得られる。PSDは、スラリーから直接測定することができる。D50は、少なくとも2μmかつ最大8μmであり、これは、固相反応後の焼結された凝集粒子の一次粒子径と基本的に同じである。スパンは低く、典型的な値は0.9~1.3である。著者らは、ボールサイズと粉砕速度との組み合わせは、水及び凝集化合物の密度と共に、スラローム又はスネークライン床においてボールが通過する溶媒に比較的小さな粒子が追従する強力な分級効果をもたらすと推測する。より大きな粒子は溶媒流に追従することができないので、直線的に前方に移動し、2つのボールの間で破砕されて、より多くの粉砕を受ける可能性がはるかに高い。
【0035】
モノリシック正極材料の重要なパラメータは、粒径である。小さなD50(約3μm)を有する正極材料は、電池において高い電力性能を有する。しかしながら、D50が小さすぎると、表面積がより大きくなることからパッケージング密度及び安全性が低下する。粒径が増加した場合、パッケージング密度が増加し、安全性が向上する。しかしながら、D50が8μmを超えると、レート性能が過度に低下する。したがって、D50(モノリシック化合物の一次粒径)は重要な設計パラメータである。周囲温度で動作する自動車用電池では、D50は、少なくとも2μmかつ最大8μmである必要がある。最適な粒径は、60℃で動作するポリマー電池などの高温動作電池については高い側にあってもよい。
【0036】
前述のように、モノリシック化合物の粒径は、焼結後の一次粒径を決定する焼結温度、及び湿式粉砕条件によって制御することができる。モノリシック正極材料の湿式粉砕プロセスには3つの主な利点がある:前駆体の柔軟性、表面不純物の制御、及びインサイチュでの表面改質が可能であること。
【0037】
第1に、本発明のプロセスにより、様々な形状の混合遷移金属前駆体を使用することが可能となる。前駆体の形状及びサイズが、最終的な正極材料の好ましい形状及びサイズに似ていることを意味する「成形された」前駆体である必要はない。可能な混合遷移金属前駆体は、混合遷移金属水酸化物、炭酸塩、酸化物、又はオキシ水酸化物である。好ましくは、前駆体は、原子スケールで十分に混合された遷移金属カチオンを有する。しかしながら、いくつかの実施態様では、異なる遷移金属化合物の混合物を利用することもできる。混合遷移金属前駆体は、広く利用されている沈殿した混合遷移金属水酸化物(mixed transition metal hydroxides、MTH)のような「通常の」前駆体であり得る。前駆体の調製から廃棄物が生じる。本発明は、低コストに焦点を合わせて前駆体プロセスを開発することを可能にし、この前駆体を様々なモノリシック生成物に適用する。したがって、本発明のプロセスは、単純なロジスティクス(前駆体の統一)又は前駆体の柔軟性(異なる供給元-コモディティ化)も可能にする。混合遷移金属前駆体は、熱分解プロセスなどの廃棄物のない「クリーンな」プロセスによって生成することができる。熱分解プロセスにおいて得られる酸化物の形状を設計することは非常に困難であるか又は不可能であるが、それは、一般的に、熱分解された前駆体が、凝集した小さな結晶子からなり、その結果、粉末密度が比較的低くなるためである。このような前駆体は、「成形工程」が必要になるため、通常の正極材料の生成には利用されない。例えば、所望の形態は、別個の噴霧乾燥工程によって得ることができる。本発明のプロセスは、この噴霧乾燥工程をバイパスすることを可能にする。
【0038】
第2に、湿式ボールミル粉砕プロセスは、正極材料の表面不純物の量を低減することができる。未反応のLiOH又はLi2CO3(表面塩基とも呼ばれる)のような大量の表面不純物の存在は、より高いNiを有するNMCの調製には問題である。湿式ボールミル粉砕プロセスは、水を溶媒として使用するとき、水へのLiOH及びLi2CO3の溶解度に達するまで、これらの不純物を効率的に溶解させる。したがって、湿式粉砕プロセスを利用して、表面の塩基不純物を除去することができる。例えば、固形分含有量が50%である場合、水へのLi2CO3の溶解度が15g/Lであるので、正極材料l00gあたり約1.5gのLi2CO3(1.5重量%)を除去することができる。したがって、超高NiNMC又はNCAのためのプロセスにおける最も重要な点である表面不純物の懸念には、容易に対処することができる。
【0039】
表面不純物は、単純な洗浄プロセスによって除去することもできる。例えば、乾式粉砕プロセス後の粉末を、水(重量で粉末の10~50%)の入った容器に入れ、撹拌器(ビーズは存在しない)により高RPMでスラリーを撹拌する。しかしながら、この単純な洗浄プロセスは、水中での撹拌によって一次粒子を硬質凝集二次粒子から分離することは決してできないため、湿式ボールミル粉砕プロセスに劣る。湿式ボールミル粉砕は、高品質の一次粒子を分離するだけでなく、表面不純物を効果的に除去することも可能な単純な工程である。
【0040】
具体的な不純物は、熱分解プロセスに由来する塩素(Cl)であり得る。遷移金属塩化物はかなり不活性であるので、熱分解された遷移金属前駆体は、相当量のCl不純物を含有している場合がある。その不純物の除去には、追加の工程が必要であり、実行可能ではない場合がある。本プロセスは、除去工程を省略することを可能にする。その前の焼成工程の後、Cl不純物は、LiClなどの高度に可溶性の塩として存在する。LiClは、湿式粉砕プロセス中に水に容易に溶解することができる。同様に、硫酸塩を使用して熱分解プロセスを実施することもでき、Li2SO4などの硫酸塩不純物も同様に可溶性である。したがって、湿式粉砕プロセスを利用して、塩素又は硫酸塩のような不純物を除去することができる。
【0041】
第3に、著者らは、湿式粉砕により、別個のプロセス工程を適用することなく、粉砕中にインサイチュ表面コーティングを実現できることを見出した。典型例は、水酸化アルミニウム又は水酸化コバルトによるコーティングである。正極材料が高いNi含有量を有しかつLi/M’のモル比が高い場合、正極材料は固有の表面塩基含有量を有する。水のような溶媒では、場合によりLiとプロトンとの間のイオン交換によって、一部のLiが正極材料から抽出された結果、溶液のpHが増大する。塩基性溶液の存在を利用して、水酸化物を正極材料の表面上に沈殿させることができる。一例として、湿式粉砕プロセス中にCoSO4のようなコバルト塩を溶媒に添加した場合、硫酸塩は塩基及びCo(OH)2沈殿物を中和する。驚くべきことに、この沈殿は粒子の表面で起こり、沈殿層は、進行中の穏やかな粉砕に耐えるのに十分な強度である。同様の反応において、Alを、Al2(SO4)3又はNaAl(OH)4のような塩に添加してもよい。Alが溶媒中に高pHで沈殿しない必要がある場合であっても、正極材料粒子の表面がAlで覆われていることが観察される。著者らは、NMCのような正極物質の表面化学により、粉砕中に一次粒子上へのAl表面沈殿が可能になると推測する。インサイチュコーティング及び粉砕の多くの組み合わせが可能である。
【0042】
粉砕プロセスの処理能力は、粉砕カスケードを使用することによって著しく増大させることができる。湿式ボールミル粉砕カスケードの例では、第1の粉砕工程において、比較的大きなボール(例えば、10mm、又は更には30~50mmのボール)及び比較的低い粉砕速度(<20cm/秒)によって小片を小さな凝集体に破壊する。この第1の粉砕工程は、あるいは、ACM(空気分級ミル)又はAJM(エアジェットミル)のような乾式粉砕装置において実施してもよい。しかしながら、乾式粉砕も大きなボールを用いる湿式粉砕も、粉砕を完了するのに十分に効率的ではない。特に、第1の粉砕工程で乾式粉砕技術を適用したとき、標的粉末は粉砕中に大量の空気に曝露され、その結果、粉末の表面上に炭酸塩不純物が形成される。したがって、第2の湿式粉砕プロセスにおいて湿式粉砕を継続して粉砕を完了させることに加えて、炭酸塩不純物を除去する。この第2のプロセスは、前述のような湿式ボールミル粉砕プロセスであってよい。例えば、第1の工程が、上述したような比較的大きなボールを用いた湿式粉砕プロセスである場合、第2のプロセス工程において、典型的な小さなボールサイズは0.2~5mmの範囲であり、典型的な粉砕速度は500cm/秒未満である。速度がより高い場合、一次粒子が損傷してしまう恐れがある。
【0043】
湿式ボールミル粉砕後、溶液を固形分から分離する必要がある。これは、蒸発、濾過、又は遠心分離などの任意の好適な分離プロセスによって達成することができる。蒸発は、比較的エネルギー集約的であり、不純物の除去が望まれている場合にはあまり好適ではない。したがって、蒸発は特別な場合にのみ指定されるが、より一般的には、濾過又は遠心分離が、固形分から液体を分離するために望まれるプロセス工程である。得られた湿潤固体は、通常、更なる加工を容易にするために乾燥させる。液体は、好適な再利用プロセスによって再利用することができる若干の微量のLiを含有する。
【0044】
本発明のプロセスの最後の工程は、「回復焼成(healing firing)工程」と呼ばれる熱処理である。湿式粉砕プロセス中、Liは固形分から溶液中に失われる。モノリシック正極材料は、場合によりプロトンを含有し、乾燥後に熱力学的に安定ではない。したがって、特に記載されている機械的粉砕中に水に曝露された結果、電気化学的性能が低下する。更に、より高い焼結温度(多結晶化合物のものと比較して)が粉砕前に適用されるので、これも、電気化学的性能が低下する原因となり得る。根底にある理由は、焼結温度が高いと、Li2Oを粒界上に押し出すことによって、より高いカチオンが混入するか(Niは結晶構造中のLi層上に存在する)又は更にはあまり酸化されていない正極材料が生じることである。したがって、追加の回復焼成工程を適用して、正極材料を熱力学的により安定な化合物に変換する。回復焼成工程の温度は、300℃よりも高く(又は更には500℃よりも高く)、かつその前の焼結工程の最高焼結温度よりも(少なくとも20℃)低い。これは、Ni含有量が高い場合には、酸化的雰囲気中、好ましくは空気中又は酸素中で、RHK又はRKなどの好適な炉内において実施することができる。回復焼成プロセスの温度が、その前の焼結工程の最高焼結温度よりも高い場合、一次粒子の更なる焼結及び再凝集が起こり、最終生成物はそのモノリシックな形態を失う。加えて、Li損失に起因して又はプロセス設計により、粉砕されたモノリシック正極材料のLi/M’モル比が目標値から逸脱し、その結果、Li欠乏(目標値未満のLi/M’比)が生じることがある。したがって、典型的にはLiOH又はLi2Oの形態の追加のLiを添加し、回復焼成を十分に高い温度で実施して、LiとLi欠乏正極材料との完全な反応を達成する。
【0045】
湿式粉砕工程をインサイチュコーティング工程と組み合わせた場合、又は湿式粉砕後にエクスサイチューコーティング工程を適用した場合、回復焼成工程における正確な温度の選択が特に指定される。例えば、粉砕されたNMCがCoによってインサイチュでコーティングされていた場合、低温でコアシェル(NMCコア上のLCOシェル)生成物、又は高温で均一にCo富化されたNMCのいずれかが得られる。同様の検討が、Alコーティングにも当てはまる。Alは高温でドープされ、低温でコーティングされ、中間温度で勾配が達成される。
【0046】
回復焼成工程の後、高性能のモノリシック生成物が得られる。追加の表面コーティング又は他の生成物とのブレンドのような更なる処理を、生成物の設計に従って適用することができる。回復焼成の前に、特定の設計目標を適用すること、例えば、他の生成物とブレンドすることも可能である。この場合、回復焼成工程は、モノリシックNMCを含有する異なる生成物の混合物に適用される。
【0047】
本発明のプロセスには3つの熱処理工程(第1の焼成、第2の焼成、及び回復焼成)が存在するので、最終生成物のLi化学量論量(Li/M’)は、これらの熱処理工程のいずれか1つで調整可能であり得る。例えば、空気を酸素含有ガスとして使用するとき、炭酸塩表面不純物を制限するために、高Ni化合物の第1の焼成では低Li/M’(例えば0.8)を選択してよい。次に、Li/M’を増加(例えば、1.06まで)させるために、第2の焼成において更にリチウムを添加してよい。回復焼成において、Li化学量論量は、遷移金属含有コーティング剤(例えば、5モル%のCoSO4)を添加することによって調整可能である。
【0048】
実施例では、以下の分析方法を使用する。
【0049】
SEM分析
正極材料及び前駆体の形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)技術によって分析する。この測定は、25℃で、9.6×10-5Paの高真空環境下でJEOL JSM 7100F若しくは走査型電子顕微鏡装置によって、又はJSM-6000によって実施する。
【0050】
PSD分析
PSDは、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えるMalvern Mastersizer 3000を用いて測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D10、D50、及びD90は、累積体積%分布の10%、50%、及び90%における粒径として定義される。スパンは、(D90-D10)/D50として定義される。
【0051】
炭素分析
正極材料中の炭素の含有量は、Horiba EMIA-320V炭素/硫黄分析機によって測定する。1gのサンプルを高周波誘導炉内のセラミック製るつぼ内に入れる。タングステン1.5g及びスズ0.3gを、促進剤としてるつぼ内に添加する。プログラム可能な温度にサンプルを加熱する。燃焼の間に生成したガスを、次に、4つの赤外線検出器により分析する。低及び高CO2及びCOの分析により、炭素濃度を求める。
【0052】
塩素分析
塩素含有量は、燃焼イオンクロマトグラフィー法によって測定する。装置は、Analytik Jena製のマルチマトリクスサンプラーMMS-5000、Analytik Jena製の燃焼モジュール、Metrohm製の吸収体モジュール920、及びMetrohm製の811小型ICプロで構成される。粉末サンプルをアルミナボートで計量する。ボートをMMS-5000に載置し、MagIC Netソフトウェアを介して分析シーケンスを開始する。ボートは、1100℃の温度である燃焼モジュールに自動的に入る。得られたガスは、0.01%H2O2溶液が充填された吸収体モジュールに回収される。吸収体溶液はイオンクロマトグラフに自動的に注入され、3.2mMのNa2CO3及び1mMのNaHCO3の溶出液を使用してクロマトグラフィーが行われる。アニオンの量は、ソフトウェアによって計算される。
【0053】
コインセル試験
正極の調製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極材料、導電体(Super P、Timcal)、バインダー(KF#9305、Kureha)を、重量比90:5:5の配合で含有するスラリーを、高速ホモジナイザーによって調製する。均質化したスラリーを、230μmのギャップを有するドクターブレードコータを使用してアルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃にて乾燥させて、次にカレンダー工具を使用してプレスする。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔の片との間に配置する。EC/DMC(1:2)中1MのLiPF6を電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0054】
従来の「定カットオフ電圧」試験である本発明のコインセル試験は、表1に示すスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(東洋製)を用いて、25℃でサイクルする。コインセル試験手順には、160mA/gの1C電流規格を使用し、以下のような2つの部分を含む:パートIは、4.3~3.0V/Li金属ウインドウ範囲における0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cでのレート性能の評価である。初期充電容量CQ1及び放電容量DQ1を定電流モード(CC)で測定する第1のサイクルを除いて、全ての後続サイクルは、0.05Cの終止電流基準で、充電中、定電流定電圧の特徴を示す。第1のサイクルについては30分間、全ての後続サイクルについては10分間の休止時間(各充電と放電との間)が許容される。パートIIは、1Cにおけるサイクル寿命の評価である。充電カットオフ電圧は、4.5V/Li金属として設定される。4.5V/Li金属における放電容量は、サイクル7及び34において0.1Cで測定され、またサイクル8及び35において1Cで測定される。QF1Cの容量減退は以下のように計算される:
【0055】
【0056】
【0057】
フルセル試験
200mAhのパウチ型セルを以下のように調製する:正極材料、Super-P(Super-P、Timcal)、正極導電剤としてのグラファイト(KS-6、Timcal)、及び正極バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF 1710、Kureha)を、活物質粉末、正極導電剤(それぞれSuper P及びグラファイト)、及びバインダーの質量比が92/3/1/4となるように、分散媒体としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に添加する。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔から作製された正極集電体の両面に適用する。適用領域の幅は26mmであり、長さは190mmである。正極活物質の典型的な担持重量は、約11±1mg/cm2である。次いで、電極を乾燥させ、120kgf(11.77N.m)の圧力を使用してカレンダー加工する。また、正極の端部には、正極集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。市販の負極が用いられる。要するに、グラファイト、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比96/2/2の混合物を、銅箔の両面に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な担持重量は、約9±1mg/cm2である。エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)の体積比1:1:1の混合溶媒中に1.2モル/Lの濃度でヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)塩を溶解させることにより、非水性電解質を得る。それは、0.5重量%のリチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、0.5重量%の1,3-プロパンスルトン(PRS)、及び1.0重量%のジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)を添加剤として含有する。
【0058】
正極シート、負極シート、及びこれらの間に差し込まれた微多孔性ポリマーセパレータシート(22μm)を、巻線コアロッドを用いて螺旋状に巻いて、螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得た。アセンブリ及び電解質は、次に、風乾室内で-50℃の露点にてアルミニウム積層されたパウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次電池が調製される。二次電池の設計容量は、4.20Vまで充電する場合には200mAhである。フルセル試験手順は、200mA/gの1C電流規格を使用する。
【0059】
予備充電及び形成
非水性電解質溶液に、調製した乾燥した電池を室温で8時間含浸させる。電池をその理論容量の15%まで0.25Cの電流で予備充電し、室温で1日間エージングする。次いで、電池を脱気し、アルミニウムパウチを密閉する。4.2V又は4.3VまでCCモード(定電流)で、C/120のカットオフ電流に達するまでCVモード(定電圧)で、電池を0.25Cの電流で充電する。電池を、2.7Vに下がるまでCCモードで、0.50Cの電流で放電させる。次いで、4.2V又は4.3VまでCCモードで、C/20のカットオフ電流に達するまでCVモードで、0.50Cの電流で完全に充電する。充電された電池を、1週間エージングする。エージングされた電池は、最終充電工程及びサイクリング工程の準備が整っている。
【0060】
最終的な充電
予備充電及び形成工程後のエージングされた電池を、2.7Vに下がるまでCCモードで0.50Cの電流で放電させる。これを、4.2V又は4.3VまでCCモードで、C/20のカットオフ電流に達するまでCVモードで、1.0Cの電流で再度充電する。次いで、電池を、2.7Vに下がるまでCCモードで、0.2Cの電流で放電させる。この放電工程で得られた放電容量を、電池の比容量(SQ)として定義する。電池を、4.2V又は4.3VまでCCモードで、1.0Cの電流で充電する。最終的な充電工程は、25℃又は45℃で行う。
【0061】
フルセルサイクリング
予備充電及び形成工程後のエージングされた電池を、25℃又は45℃にて以下の条件下で数回充電及び放電して、充放電サイクル性能を判定する:
- 4.2V又は4.3Vまで1CのCCモードで、C/20に達するまでCVモードで充電を行う、
- セルを10分間休止するように設定する。
- 2.7Vに下がるまで1Cで、CCモードで放電を行う、
- セルを10分間休止するように設定する。
- 電池が約80%の保持容量に達するまで充放電サイクルを進める。100サイクル毎に、2.7Vに下がるまでCCモードで、0.2Cの電流で1回放電させる。QF1000は、初期放電容量と比較した1000サイクル後の相対放電容量(1000回目のサイクルでのフルセル放電容量/1回目のサイクルでのフルセル放電容量)である。
【0062】
ICP分析
Ni、Mn、及びCo(及びドーパント)の含有量は、Agillent ICP720-ESを使用することにより、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法を用いて測定する。2gの前駆体粉末サンプルを、三角フラスコ内の10mLの高純度塩酸に溶解させる。前駆体を完全に溶解させるため、フラスコをガラスで覆い、ホットプレート上で加熱してもよい。室温まで冷却した後、溶液を100mLのメスフラスコに移し、蒸留(DI)水でフラスコを3~4回すすぐ。その後、メスフラスコの100mLの標線までDI水を充填し、続いて、完全に均質化する。5mLの溶液を5mLピペットで取り出し、2回目の希釈のために50mLメスフラスコに移し、そのメスフラスコの50mLの標線まで10%塩酸を充填し、次いで、均質化する。最後に、この50mLの溶液をICP測定に使用する。
【0063】
本発明は、以下の実施例によって更に説明される。
【0064】
実施例1及び比較例1
この例は、詳細に高NiモノリシックNMCを生成するための製造プロセス、及び各プロセス工程後の生成物の特徴を示し、中間生成物を比較例とみなす。EX1-C1と名付けられ、目標式Li(Ni0.60Mn0.17Co0.23)O2を有するモノリシック高NiNMCは、以下のように実行される焼結プロセス(プロセスA)、粉砕プロセス(プロセスB)、及び回復焼成(プロセスC)を通して得られる。
【0065】
プロセスA.凝集している中間高NiNMCの調製
この二重焼結プロセスは、国際公開第2018/158078A1号に開示されている:Li供給源と混合遷移金属前駆体(以下MTHと称する))との間の固相反応。
A1)共沈:韓国特許第101547972(B1)号に記載のプロセスによって、Ni0.625Mn0.175Co0.200O0.43(OH)1.57の組成を有するMTHを調製する。MTHは、約4μmのD50を有し、pEX1と名付けられる。
A2)1回目のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、LiOH・H2O及びMTHを、0.90のLi/M’比で、ヘンシェルミキサーにおいて30分間均質にブレンドする。
A3)1回目の焼結:1回目のブレンド工程から得られたブレンドを、チャンバ炉内において、O2雰囲気下、700℃で10時間焼結する。この工程から得られた生成物は、Li/N’=0.90の粉末状リチウム欠乏焼結前駆体である。
A4)2回目のブレンド:Liの化学量論量をLi/M’=1.01に補正するため、リチウム欠乏焼結前駆体をLiOH・H2Oとブレンドする。ブレンドは、30分間ヘンシェルミキサーで実施される。
A5)2回目の焼結:2回目のブレンドから得られたブレンドを、チャンバ炉内において、酸素含有雰囲気中、930℃で12時間焼結する。焼結されたブロックをジョークラッシュ破砕装置によって破砕し、CEX1-Aと命名する。
【0066】
プロセスB.モノリシック形態を有する高NiNMCの調製
B1)1回目の粉砕:破砕された大きな凝集化合物(A5))を、空気分級粉砕装置によって粉砕して、凝集している中間高NiNMCを調製する。凝集している中間高NiNMCを、CEX1-B1と名付ける。
B2)2回目の粉砕-湿式ボールミル粉砕:
図1に示すように、得られた凝集している中間粒子をモノリシックな一次粒子に分離させるために、湿式ボールミル粉砕プロセスを適用する。1kgの凝集している中間高NiNMCを、1Lの脱イオン水及び10mmのZrO
2ボールの入った5Lの容器(直径=16.5cm)に、容器の体積の25%の充填比で入れる。50RPMで15時間、直径6cmのローラーを有する市販のボールミル装置において容器を回転させる。計算された粉砕速度は、約16cm/秒である。
B3)濾過及び乾燥:湿式粉砕された固体粉末を、ブフナーフィルタを使用することによって水から分離する。濾過した湿式粉砕された化合物を、乾燥空気を用いる従来のオーブンにおいて80℃で乾燥させる。乾燥させたモノリシック高NiNMCを、CEX1-B2と名付ける。
【0067】
プロセスC.回復した最終モノリシック高NiNMCの調製
C1)3回目のブレンド:B3)から得られた化合物を、湿式粉砕中のLi損失を補償するために5.5モル%のLiOH-H2O(B2から得られた化合物中のM’に対して)と、そして、5.0モル%のナノ硝酸コバルト(B2から得られた化合物中のM’に対して)とブレンドする。ブレンドは、アイリッヒミキサーと呼ばれるブレンド装置で1分間実施する。
C2)回復焼成(3回目の焼結):C1)から得られたブレンドを、チャンバ炉において、酸素含有雰囲気下、750℃で10時間加熱する。焼結化合物をふるい分けする。最終高NiモノリシックNMCを、EX1-C1と名付ける。
【0068】
目標式Li(Ni0.60Mn0.17Co0.23)O2を有する高NiモノリシックNMC、EX1-C2は、工程A5)における2回目の焼成温度が930℃の代わりに950℃であることを除いて、EX1-C1と同じ調製方法によって得られる。
【0069】
【0070】
表2は、実施例1及び比較例1の物理的及び電気化学的特性を示す。詳細なPSDを
図3に示す。CEX1-B1(1回目の乾式粉砕後の生成物)は、出発MTH(pEX1)よりもはるかに広いスパンを有することが観察され、これは、乾式粉砕が凝集粒子を適切に破壊できないことを示す。特に、CEX1-B1は、多くの大きな凝集粒子(PSD曲線の右のテール)を有し、これは電池の容量を場合により低下させることがある。CEX1-B2(湿式粉砕後の生成物)は、CEX1-B1よりも低いスパン及び小さなD50を有し、適切なモノリシック形態を有する。しかしながら、CEX1-B2の容量(DQ1)及びサイクル安定性(QF1C)などの電気化学的特性は、CEX1-B1よりも悪い。湿式粉砕プロセスは、粒子に対する物理的負荷を誘発し、一部のLiがイオン交換を通して水によって抽出されると考えられる。EX1-C1(Li及びCoを用いた回復焼成後)は、CEX1-B2よりもわずかに高いD50を有し、これは、Li及びCoを用いた回復焼成が粒径を増加させることができることを示す。
図4は、EX1-C1のFE-SEM画像を示す。EX1-C1は、モノリシック粒子を含むことが明らかである。それは微粒子(粉状にされた一次粒子)を含まず、大きな凝集粒子を含まない、適切なスパンをなお有するため、所望のモノリシック形態を有するとみなすことができる。EX1-C1の電気化学的特性は、容量及びサイクル寿命の観点でCEX1-B1よりもはるかに良好である。高NiNMC中の炭素不純物は、粒子の表面上にLi
2CO
3形態で存在し、最も厄介な不純物の1つである。EX1-C1(Li及びCoを用いた回復焼成後)の炭素不純物は、CEX1-B1(1回目の乾式粉砕後)の炭素不純物よりもはるかに少なく、これは、湿式粉砕プロセス中に表面塩基不純物(Li
2CO
3)が洗い流されることを意味する。
【0071】
モノリシックNMC化合物のPSDは、プロセスAのプロセス条件によって制御することができる。最良の湿式粉砕条件は、一次粒子を粉状にすることなく、凝集粒子を一次結晶子(粒子)に破壊する条件である。したがって、プロセスA中に成長した一次粒子が、モノリシックNMCのD50を決定する。EX1-C2のD50は、EX1-C1よりも大きいが、これは、工程A5)中のEX1-C2の2回目の焼結温度がEX1-C1のそれよりも高いためである。したがって、モノリシックNMCのD50は、MTHのD50などの混合遷移金属前駆体(pEX1)の初期特性を補正することなく、焼結条件を修正することによって容易に制御できることが証明される。これは、多くの最終生成物が異なる用途のために異なるD50を有する必要があるが、1つの(統一された)前駆体のみから出発して生成することができるので、ロジスティクスの観点で大きな利点である。
【0072】
実施例2及び比較例2
この例は、超高NiモノリシックNMCを生成するための製造プロセス、及び各プロセス工程後の生成物の特徴を示し、中間生成物を比較例とみなす。目標式Li0.97(Ni0.86Co0.14)1.03O2を有する超高NiモノリシックNMC、EX2-C1は、以下のように実行される二重焼結プロセス(プロセスA)、粉砕プロセス(プロセスB)、及び回復焼成(プロセスC)を通して得られる。
【0073】
プロセスA.凝集している中間超高NiNMCの調製
A1)共沈:韓国特許第101547972(B1)号に記載のプロセスによって、Ni0.90Co0.10O0.15(OH)1.85の組成を有するMTHを調製する。MTHは、約4.4μmのD50を有し、pEX2と名付けられる。
A2)1回目のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、LiOH・H2O及びMTHを、0.90のLi/M’比で、ヘンシェルミキサーにおいて30分間均質にブレンドする。
A3)1回目の焼結:1回目のブレンド工程から得られたブレンドを、パイロットRHK炉において、O2雰囲気下、700℃で10時間焼結する。この工程から得られた生成物は、Li/N’=0.90の粉末状リチウム欠乏焼結前駆体である。
A4)2回目のブレンド:Liの化学量論量をLi/M’=0.95に補正するため、リチウム欠乏焼結前駆体を、LiOHとブレンドする。ブレンドは、30分間ヘンシェルミキサーで実施される。
A5)2回目の焼結:2回目のブレンドから得られたブレンドを、パイロットRHK炉において、O2雰囲気下、830℃で10時間焼結する。焼結されたブロックをジョークラッシュ破砕装置によって破砕する。
【0074】
プロセスB.モノリシック形態を有する超高NiNMCの調製
B1)1回目の粉砕:破砕された大きな凝集化合物を、空気分級粉砕装置によって粉砕して、凝集している中間高NiNMCを調製する。凝集している中間超高NiNMCを、CEX2-B1と名付ける。
B2)2回目の粉砕(湿式ボールミル粉砕):工程B3)における乾燥をN2雰囲気中で行うことを除いて、凝集している中間超高NiNMCとしてCEX2-B1を使用して、CEX1-B2のプロセスBと同じプロセスによって、CEX2-B2を調製する。
【0075】
プロセスC.回復した最終超高NiモノリシックNMCの調製
C2)における回復焼成をO2雰囲気下、700℃で行うことを除いて、乾燥した超高NiモノリシックNMCとしてCEX2-B2を使用して、EX1-C1のプロセスCと同じプロセスによって、EX2-C1を調製する。
ナノ硝酸コバルト粉末を添加せず、工程C1)において0.5モル%のLiOHのみを添加することを除いて、EX2-C1と同じプロセスによって、Li0.97(Ni0.90Co0.10)1.03O2の式を有するEX2-C2を調製する。
【0076】
【0077】
表3は、実施例2及び比較例2の物理的及び電気化学的特性を示す。詳細なPSDを
図5に示す。PSD、炭素(表面塩基)含有量、及び電気化学的特性の観点から、超高NiモノリシックNMC(実施例2)について高NiモノリシックNMC(実施例1)と全く同じ結論を導くことができる。特に、EX2-C2の炭素含有量は、その高いNi含有量を考慮すると、優れている。EX2-C2は、CEX2-B1よりも良好なサイクル安定性及びわずかに高い容量を有し、これは回復焼成中のCo添加が任意選択的であることを示す。実際に、Co添加剤は、サイクリング安定性をわずかに犠牲にするが、顕著に容量を増加させる。
【0078】
比較例3
この例は、従来の超高Ni多結晶NMC化合物と比較して、本発明のプロセスから得られる超高NiモノリシックNMCの利点を示す。
【0079】
CEX3と名付けられた超高Ni多結晶NMCは、目標式Li(Ni0.90Co0.10)O2を有し、以下のように実行されるLi供給源とMTHとの間の直接固相反応である単一焼結プロセスを介して得られる。
1)共沈:韓国特許第101547972(B1)号に記載のプロセスによって、Ni0.90Co0.10O0.17(OH)1.83の組成を有するMTHを調製する。MTHは、約15μmのD50を有する。MTHをpCEX3と名付ける。
2)ブレンド:LiOH及びMTHを、1.0のLi/M’比で、ヘンシェルミキサーにおいて30分間均質にブレンドする。
3)焼結:ブレンド工程から得られたブレンドを、パイロットRHK炉において、O2雰囲気下、740℃で10時間焼結する。
4)乾式粉砕:工程3)から得られた焼結粉末を空気分級粉砕装置によって粉砕して、超高Ni多結晶NMCを調製する。超高Ni多結晶NMCを、CEX3と名付ける。
【0080】
CEX3及びEX2-C2のフルセル試験を、4.2V~2.7V又は4.3V~2.7Vのサイクリング電圧範囲で45℃にて実施する。4.2VでのCEX3の比容量(SQ)は185.6mAh/gであるが、EX2-C2の比容量は183.9mAh/gであり、これは、超高Ni多結晶NMCが、超高NiモノリシックNMCよりもわずかに高い容量を有することを意味する。しかしながら、EX2-C2のサイクル安定性は、
図6に示すとおり、CEX3よりも著しく良好である。
図7(a)及び(b)は、CEX3及びEX2-C2のSEM画像を示す。CEX3は、一般的な市販の超高Ni多結晶NMCとみなすことができる。一般に、大きな粒径を有する生成物のサイクリング安定性は、より小さい粒径を有する生成物よりも良好である傾向がある。したがって、CEX3よりも小さいD50を有するEX2-C2のサイクル安定性が優れていることは、驚くべきことである。更により驚くべき所見は、4.3Vなどのより高い電圧でのEX2-C2のサイクル安定性も、4.2Vの通常電圧でのCEX3のサイクル安定性と比較して非常に良好であることである。したがって、超高NiモノリシックNMCは、超高Ni多結晶NMC化合物と比較して、通常の及び高い電圧で電池において優れたサイクリング安定性を有することが証明される。
【0081】
実施例3
この実施例は、このプロセスが前駆体粒径を柔軟に選択できるという利点を有することを示す。目標式Li(Ni0.57Mn0.19Co0.24)O2を有するモノリシックNMC化合物、EX3-C1~C3は、以下を除いて、EX1-C1と同じプロセスを介して得られる:
1)工程A2)において、pEX3(以下を参照されたい)をMTHとして使用すること、
2)工程A4)において、Li化学量論量をLi/M’=1.06に補正するために、LiOH・H2Oを添加すること、
3)工程A5)において、表4に記載される2回目の焼結温度を使用すること、並びに
4)工程C1)において、5.0モル%のMnドープされたナノCo酸化物(3モル%のMn対Co)を、ナノCo硝酸塩及びLiOH・H2Oの代わりに添加すること。
【0082】
連続撹拌タンク反応器(CSTR)を使用して、大量生産ラインにおいて共沈プロセスによって、組成Ni0.60Mn0.20Co0.20O0.17(OH)1.83を有するpEX3を調製する。2Mの金属硫酸塩(M’SO4(式中、M’=Ni0.60Mn0.20Co0.20))の供給流及び10MのNaOHの供給流を、反応器に供給する。更に、15MのNH4OHの供給流を錯化剤として添加する。滞留時間(反応器の容積を総流量で除したもの)は3時間であり、温度は60℃に設定する。不純物のレベルを低く保つためには、N2の保護雰囲気が推奨される。沈殿物を含有する、溢れ出しているスラリーを回収する。回収されたスラリーを濾過し、脱イオン水で洗浄する。洗浄した湿潤化合物を、N2雰囲気下、150℃で24時間乾燥させる。得られた前駆体は、pEX3と名付けられ、11.8μmのD50及び球形(形状)形態を有する。
【0083】
【0084】
表4は、実施例3の2回目の焼結温度及びPSDを示す。
図8は、pEX3、EX3-C1、EX3-C2、及びEX3-C3の形態を示す。この実施例のコアは、MTHのpEX3が約12μmのD50を有し、これは、モノリシックNMCの推奨D50範囲(2μm~8μm)よりもはるかに大きい。EX3-C1、EX3-C2、及びEX3-C3のD50は、モノリシックNMC化合物の粒径が、MTHの粒径にかかわらず、焼結温度によって制御され得ることを示す。ここでも、これは、実施例1で説明したようなロジスティクスの観点から大きな利点である。更に、2~5μmの範囲のD50などの小さな粒径と比較して、10~13μmのD50範囲などの大きな粒径を有するMTHは、共沈プロセスによって調製するのが比較的容易であるが、それは、濾過の問題を引き起こさないためである。また、大きな粒径を有するMTHの密度は、小さな粒径を有するものよりも高い。従来のRHK又はRK焼結プロセスではブレンドの密度が生成物の処理能力を決定するため、これは、焼結プロセス(プロセスA)における処理能力に直接関連している。
【0085】
実施例4及び比較例4
この例は、熱分解プロセスなどの単純な調製方法によって生成された非成形前駆体を使用して、モノリシックNMCを調製できることを示す。EX4-Cと名付けられた高NiモノリシックNMCは、目標式Li(Ni0.58Mn0.18Co0.24)O2を有し、以下を除いて、EX1-C1と同じプロセスを介して得られる:
1)工程A2)において、pEX4(以下を参照されたい)を混合遷移金属前駆体として使用すること、
2)工程A4)において、Li化学量論量(Li/M’=1.06)を補正するためにLiOH・H2Oを添加し、その結果、ACM粉砕後に「CEX4-B1」が得られること、並びに
3)工程C1)において、5.0モル%のMnドープされたナノCo酸化物(3モル%のMn対Co)を、ナノCo硝酸塩及びLiOH・H2Oの代わりに添加すること。
【0086】
噴霧熱分解プロセスによって、Ni0.60Mn0.20Co0.20Cl0.02O1.15の組成を有するpEX4を調製する。混合金属塩化物の溶液を熱分解反応器に噴霧し、これを、天然ガスを利用した火炎(大部分はメタン)によって加熱する。混合金属溶液の金属組成は、Ni0.60Mn0.20Co0.20である。有効滞留時間は数秒であり、反応器内で高温ガスを循環させる好適な反応器設計によって増加する。気相では、反応
【0087】
【化1】
が約900℃で起こり、固体M’O
1+Xが沈殿する。一般に、反応が完全には完了しないため、一部のM’Cl
2は固相中に留まる。反応器の出口で、固体M’O
1+xをHClガスから分離し、続いて、洗浄及び乾燥工程を行って、未反応のM’Cl
2の一部を除去する。しかしながら、洗浄プロセスにもかかわらず、一部のClは、最終的に得られる酸化物中に依然として残る。得られた前駆体は、pEX4と名付けられ、約51%のM’O及び49%のM’
3O
4構造からなり、高Cl不純物(約0.8重量%)を含む。
図9(a)及び(b)は、pEX4の形態を示す。これは、非常に小さな一次粒子(300nm未満)を有する毛羽立ち型の非成形前駆体である。CEX4-B1を凝集している中間粒子として使用することを除いて、CEX1-B2と同じプロセスによって、CEX4-B2を調製する。
【0088】
【0089】
表5及び
図10は、実施例4及び比較例4のPSDを示す。
図9(a)及び(b)に示すように、pEX4は、超微粒子及び凝集している微粒子からなる。CEX4-B1(1回目の乾式粉砕後)は、非常に広いスパン及び大きなD50を有し、これは、一次粒子が不均質に強力に凝集していることを意味する。湿式粉砕は、この場合でもまた効果的に凝集粒子を一次粒子に破壊し、モノリシックNMC(CEX4-B2)の望ましいPSDが得られる。回復焼成は、PSDに大きな影響を及ぼさない(EX4-C)。したがって、非成形ナノ前駆体を前駆体として使用しても、モノリシック形態が本発明によって容易に実現され得ることが証明される。湿式粉砕プロセスの更なる利点は、溶媒に可溶性である任意の不純物をプロセス中に除去できることである。Clを用いた熱分解プロセスからのCl不純物も、Cl不純物に対処するために追加の工程を必要とすることなく、湿式プロセス中に除去することができる。この例では、金属前駆体中の非常に高いCl含有量にもかかわらず、湿式粉砕工程(CEX4-B2)後のCl含有量は非常に低い。Cl含有量は、回復焼成工程中にそれ以上変化しない。
【0090】
プロセス例1
この例は、ボールサイズ、粉砕速度、及び粉砕時間などの異なる粉砕条件によって、湿式ボールミル粉砕された化合物の目標PSDが実現され得ることを示す。国際公開第2018/158078(A1)号(欧州特許出願第17159083.9号)で論じられているような二重焼結プロセス(プロセスA)及び以下のように実行される湿式粉砕プロセス(プロセスB)を通して、目標式Li(Ni0.625Mn0.175Co0.200)O2を有するモノリシック高NiNMC化合物が得られる。
【0091】
プロセスA.凝集している中間高NiNMCの調製
A1)共沈:韓国特許第101547972(B1)号に記載のプロセスによって、Ni0.625Mn0.175Co0.200O0.43(OH)1.57の組成を有するMTHを調製する。MTHは、約4μmのD50を有し、pEX1と名付けられる。
A2)1回目のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、Li2CO3及びMTHを、0.85のLi/M’比で、ヘンシェルミキサーにおいて30分間均質にブレンドする。
A3)1回目の焼結:ブレンドを、RHKにおいて、酸素含有雰囲気下、935℃で10時間焼結する。この工程から得られた生成物は、Li/N’=0.85を有する粉末状リチウム欠乏焼結前駆体である。
A4)ブレンド:Liの化学量論量をLi/M’=1.01に補正するために、リチウム欠乏焼結前駆体をLiOH・H2Oとブレンドする。ブレンドは、30分間ヘンシェルミキサーで実施される。
A5)2回目の焼結:2回目のブレンドを、RHKにおいて、酸素含有雰囲気下、890℃で10時間焼結する。焼結されたブロックをジョークラッシュ破砕装置によって破砕する。ジョークラッシュ破砕された大きな凝集化合物をPEX1-Aと名付ける。
【0092】
プロセスB.モノリシック形態を有する高NiNMCの調製
B1)湿式ボールミル粉砕:
図1に示すように、A5)から得られた凝集している中間粒子をモノリシックな一次粒子に破壊するために、湿式ボールミル粉砕プロセスを適用する。4つの250mLのボトル(直径=6cm)に、50mLの脱イオン水、ZrO
2ボール、及び50gのPEX1-Aを、ボトルの体積の25%の充填比で充填する。ボトルを、直径6cmのローラーを有する市販のボールミル装置において回転させる。表6は、得られた湿式ボールミル粉砕されたサンプルPEX1-B1、PEX1-B2、PEX1-B3、及びPEX1-B4の粉砕速度、ボールサイズ、及び粉砕時間を示す。
【0093】
【0094】
表6は、粉砕された化合物の粉砕条件及びPSDを示す。異なる粉砕条件にもかかわらず、全ての粉砕されたサンプルは、非常に類似したPSDを有する。ボールサイズがより小さく、粉砕速度がより速いとき、目標PSDを実現するための粉砕時間を低減できることが観察される。
【0095】
プロセス例2
この例は、水が湿式粉砕プロセスに好ましい溶媒であり、湿式ボールミル粉砕が超音波処理よりも優れていることを示す。以下のように実行される二重焼結プロセス(プロセスA)及び湿式ボールミル粉砕プロセス(プロセスB)を通して、目標式Li(Ni0.6Mn0.2Co0.2)O2を有するモノリシック高NiNMC化合物が得られる:
【0096】
プロセスA.凝集している中間高NiNMCの調製
A2)1回目のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、Li2CO3及びpEX3を、0.70のLi/M’比で、工業用レーディゲミキサーにおいて均質にブレンドする。
A3)1回目の焼結:ブレンドを、RKにおいて、酸素含有雰囲気中、滞留時間62分間で、760℃において焼結する。この工程から得られた生成物は、Li/N’=0.70の粉末状リチウム欠乏焼結前駆体である。
A4)2回目のブレンド:Liの化学量論量をLi/M’=1.01に補正するため、リチウム欠乏焼結前駆体をLiOH・H2Oとブレンドする。ブレンドは、工業用レーディゲミキサーで実施される。
A5)2回目の焼結:2回目のブレンドを、チャンバ炉において、酸素含有雰囲気下、900℃で10時間焼結する。焼結ブロックを、ジョークラッシュ破砕装置によって破砕し、PEX2-Aと名付けられる大きな凝集化合物を得る。
【0097】
プロセスB.モノリシック形態を有する高NiNMCの調製
B1)湿式ボールミル粉砕:凝集している中間粒子(PEX2-A)をモノリシックな一次粒子に破壊するために、湿式ボールミル粉砕プロセスを適用する。4つの250mLのボトル(直径=6cm)に、50mLの脱イオン水、ZrO2ボール、及び50gのPEX1-Aを、ボトルの体積の25%の充填比で充填する。ボトルを、直径6cmのローラーを有する市販のボールミル装置において回転させる。表7は、PEX2-B1、PEX2-B2、CPEX2-B1、及びCPEX2-B2を得るための溶媒の種類及び粉砕時間を示す。
【0098】
【0099】
溶媒としてアセトンを用いて粉砕されたサンプルは、水を用いて粉砕されたものよりも高いD50及びスパンを有することが観察され、これは、水がアセトンよりも興味深い溶媒であることを示す。
【0100】
CPEX2-B3は、以下の手順によって調製される:PEX2-Aは、ACMによって乾式粉砕され、PEX2-A1と命名される。2.4kgのPEX2-A1及び3.2Lの水を、3.3Lのスラリー容器に入れる。STH-1500S(Sonictopia製)を使用して、スラリーの超音波処理を実施する。スラリーを、体積150mLの超音波容器に2.5L/分でポンプ注入する。スラリーが超音波処理システム内で循環するように、超音波容器の出口をスラリー容器に接続する。容器内では、超音波プローブにより1500ワットの出力電力を印加する。処理を1時間継続する。CPEX2-B3は、6.95μmのD50及び2.0のスパンを有し、これは、PEX2-B1又はPEX2-B2のいずれよりもはるかに大きい。これは、撹拌による通常の洗浄よりもはるかにより強力な処理である超音波処理が、凝集した一次粒子を適切に分離できないことを示す。
【0101】
プロセス例3
この例は、従来のビーズミル粉砕プロセスが本発明における湿式ボールミル粉砕プロセスに好適であることを示す。湿式ビーズミル粉砕生成物(PEX3-B1、PEX3-B2、及びPEX3-B3)を、以下の手順によって調製する:2回目の焼結温度が935℃であることを除いて、CEX1-Aと同じ手順によって、ジョークラッシュ破砕された大きな凝集化合物PEX3-Aを調製する。次いで、PEX3-AをACMにより乾式粉砕し、PEX3-Bと名付ける。2kgのPEX3-B及び2Lの水を5Lのプラスチックビーカーに入れる。混合スラリーを、オーバーヘッドスターラーによって連続的に撹拌する。連続型湿式ビーズミル粉砕システム(Dae-Wha Tech製のKM-FM)の入口及び出口にビーカーを接続する。
図2に示されるように、ビーズミルシステムは、0.9L(固定)チャンバ(201)と、長さ58mmの回転撹拌器(206)と、チャンバ内の1mmのZrO
2ビーズ(202)2.4kgと、スラリーをチャンバに注入するポンプと、を有する。1分当たり2Lの流量で、スラリーをビーズミルチャンバ内に連続的に注入する。撹拌器を、300cm/秒の先端速度で回転させる。チャンバを通過するスラリーを、同じ5Lのプラスチックビーカー内に回収する。このプロセスを、スラリーの目標PSDを達成するまで継続する。表8は、対照例としてのPEX3-Bと共に、粉砕された生成物PEX3-B1~B3の粉砕時間及びPSDを示す。比較的速い粉砕速度及び小さいボールサイズの湿式ビーズミル粉砕は、短時間(10分間)で望ましいPSDを実現することができる。
【0102】
【0103】
プロセス例4
この例では、湿式ボールミル粉砕中のインサイチュ表面処理を示す。湿式ビーズミル粉砕生成物(PEX4-B1)及びインサイチュでCoコーティングされた生成物(PEX4-B2)を、以下の手順によって調製する:3kgのCEX1-B1及び2Lの水を5Lプラスチックビーカーに入れる。混合スラリーを、オーバーヘッドスターラーによって連続的に撹拌する。連続型湿式ビーズミル粉砕システム(Dae-Wha Tech製のKM-FM)の入口及び出口にビーカーを接続する。
図2に示されるように、ビーズミルシステムは、0.9L(固定)チャンバ(201)と、長さ58mmの回転撹拌器(206)と、チャンバ内の1mmのZrO
2ビーズ(202)2.4kgと、スラリーをチャンバに注入するポンプと、を有する。1分当たり2Lの流量で、スラリーをビーズミルチャンバ内に連続的に注入する。撹拌器を、300cm/秒の先端速度で回転させる。チャンバを通過するスラリーを、同じ5Lのプラスチックビーカー内に回収する。20分後、チャンバを通過する全てのスラリーを回収し、ブフナーフィルタを使用することにより、湿式粉砕された固体動力(solid power)を水から分離する。濾過した湿式粉砕された化合物を、乾燥空気を用いる従来のオーブンにおいて80℃で乾燥させ、PEX4-B1と名付ける。2M(mol/L)CoSO
4溶液150mLを3kgのCEX1-B1及び2Lの水と共に5Lのプラスチックビーカーに添加したことを除いて、PEX4-B1と同じ手順によって、PEX4-B2を調製する。表9は、粉砕された生成物PEX4-B1及びインサイチュでコーティングされた生成物PEX4-B2のPSD及びICP結果を示す。
【0104】
【0105】
PEX4-B2のプロセスにおいて添加されるCoSO4の量は1.0モル%であり、これは、CoSO4溶液中のCoとCEX1-B1中のM’(Ni、Mn、及びCo)とのモル比が1.0%であることを意味する。PEX4-B1及びPEX4-B2のICP結果及びPSDは、粒径分布を変化させることなく、1.0モル%のCoから0.8モル%がPEX4-B2の表面上に沈殿することを示す。
【0106】
プロセス例5
この例は、粉砕速度が、湿式ボールミル粉砕プロセスにおける主な制御パラメータのうちの1つであることを示す。表10に記載の粉砕速度を除いてPEX3-B2と同じ手順によって、湿式ビーズミル粉砕された生成物(PEX5-B1、PEX5-B2、及びPEX5-B3)を調製する。
【0107】
【0108】
表10中の4つのサンプルの湿式ボールミル粉砕時間は、2kgの粉末に対して20分間である。粉砕速度が増加するにつれて、D50は減少し、スパンは増加する。これは、粉砕速度が高いと、微粒子が生じることからスパンを犠牲にする一方で、粉砕をより速く達成することを意味する。PSD測定により得られた1μm未満の累積体積は、望ましくない微粒子の生成を示す基準として使用することができる。粉砕RPMが600cm/秒であるとき、1μm未満の体積が急速に増加する(PEX5-B3)。したがって、最終的な湿式ボールミル粉砕の粉砕速度は、500cm/秒未満であることが好ましい。