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特許7202574修飾カーボンナノ材料、ナノクラスター、物質送達担体及び医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】修飾カーボンナノ材料、ナノクラスター、物質送達担体及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/02 20060101AFI20230104BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230104BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230104BHJP
   C01B 32/28 20170101ALI20230104BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K9/14
A61K47/44
C01B32/28
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019559554
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2018044300
(87)【国際公開番号】W WO2019116936
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2017241067
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都 英次郎
(72)【発明者】
【氏名】于 躍
(72)【発明者】
【氏名】西川 正浩
(72)【発明者】
【氏名】劉 明
(72)【発明者】
【氏名】鄭 貴寛
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-017225(JP,A)
【文献】特表2012-528197(JP,A)
【文献】WANG, H. D. et al,Protein-modified nanodiamond particles for Layer-by-Layer assembly,Diamond & Related Materials,2011年,Vol.20,pp.1193-1198
【文献】ALBRECHT, A. et al,Self-assembling hybrid diamond-biological quantum devices,New J. Phys.,2014年,Vol.16,093002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
-Y1-R (I)
(式中、Y1は2価の連結基を示す。Rはパーフルオロ有機基を示す。)
で表される官能基で修飾されたカーボンナノ材料が自己組織化したナノクラスター。
【請求項2】
1で表される2価の連結基が、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、及び、-NH-CO-NH-からなる群から選ばれるいずれかである、請求項1に記載のナノクラスター。
【請求項3】
前記カーボンナノ材料がOH、COOH及びNH2からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面基を有し、式(I)で表される官能基は前記表面基を介してカーボンナノ材料に導入されている、請求項1又は2に記載のナノクラスター。
【請求項4】
有効成分と複合化した、請求項1~のいずれか1項に記載のナノクラスター。
【請求項5】
有効成分が生理活性物質、標識物質、香料、精油又は有機色素である、請求項に記載のナノクラスター。
【請求項6】
カーボンナノ材料がカーボンナノダイヤモンド又はカーボンナノドットである、請求項1~のいずれか1項に記載のナノクラスター。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のナノクラスターを含む、有効成分の送達担体。
【請求項8】
下記式(I)
-Y1-R (I)
(式中、Y1は2価の連結基を示す。Rは置換されていてもよいパーフルオロシクロアルキル基、置換されていてもよいパーフルオロアリール基、置換されていてもよいパーフルオロアラルキル基、置換されていてもよいパーフルオロ複素環基からなる群より選択されるいずれかを示す。)
で表される官能基で修飾されたカーボンナノ材料。
【請求項9】
1で表される2価の連結基が、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、及び、-NH-CO-NH-からなる群から選ばれるいずれかである、請求項に記載のカーボンナノ材料。
【請求項10】
カーボンナノ材料がカーボンナノダイヤモンドである、請求項8又は9に記載のカーボンナノ材料。
【請求項11】
医薬と複合化した請求項1に記載の自己組織化したナノクラスターを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾カーボンナノ材料、ナノクラスター、物質送達担体及び医薬組成物に関する。
【0002】
本明細書において、以下の略号を用いる:
CND:carbon nano diamond
SNP:super nano particle
【背景技術】
【0003】
カーボンナノダイヤモンド(以下、「CND」と称する)は、ダイヤモンド固有の性質に加え、平均粒径が小さく、比表面積が大きいという特徴を有しており、更には、比較的安価であり、入手が容易という利点がある。CNDは、爆発法や高温高圧法などによって製造することができる(特許文献1)。CNDは毒性の低さ、優れた生体適合性及び安定した蛍光特性を有することから、生物医療分野での応用が幅広く研究されている。さらに、特許文献2、3は、修飾されたCND及びその製造方法について開示する。
【0004】
CNDの生物医療分野での応用の例として、非特許文献1では、CNDに抗癌剤であるシスプラチンを担持させることによりシスプラチン-CND複合体を作製したこと、pHが酸性領域にある場合に複合体からシスプラチンを遊離させることが可能であること、複合体から遊離した薬剤は遊離のシスプラチンと同程度の細胞毒性を保持していることが報告されている。また、非特許文献2では、CND表面に抗癌剤エピルビシンを疎水性相互作用により吸着させ、さらに大腸癌の上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor; EGFR)に特異性のある抗体(anti-EGFR-PEG)を結合させた脂質ベシクルで当該エピルビシン-CND複合体を包み込むことで溶解性を高め、癌細胞に対する薬物集積作用ならびに効能について報告している。
【0005】
CNDに薬物を担持させた従来の複合体は、基本的に薬物担持量が少ないことや複合体形成後に水中分散性が著しく低下する問題点がある。
【0006】
CNDの水や極性有機溶媒への溶解性、分散性及び分散安定性を向上させるために、CNDの表面を高分子により修飾することが提案されている。例えば、特許文献4では、ナノダイヤモンドの表面を、ポリグリセリン鎖を含む特定の基で修飾することにより、水や極性有機溶媒への溶解性、分散性及び分散安定性が大幅に向上することが報告されている。しかしながら、従来技術では、基本的にCNDの分散性を高めることに主眼が置かれており、表面化学修飾後のCNDを利用した自己組織化能に関する評価や薬物担持を目的とするナノ構造制御に関する研究は皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-202458号公報
【文献】特開2017-186234号公報
【文献】特開2017-186235号公報
【文献】特開2010-248023号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Bo Guan et al., Small 2010, 6, 1514-1519
【文献】Laura Moore et al., Adv. Mater. 2013, 25, 3532-3541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、医薬品、香料などの生理活性物質を効果的に担持可能で、且つ生理的環境下で優れた溶解性を示す材料を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の修飾カーボンナノ材料、ナノクラスター、物質送達担体及び医薬組成物を提供するものである。
〔1〕 下記式(I)
-Y1-R (I)
(式中、Y1は2価の連結基を示す。Rは有機基を示す。)
で表される官能基で修飾されたカーボンナノ材料が自己組織化したナノクラスター。
〔2〕 Y1で表される2価の連結基が、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、及び、-NH-CO-NH-からなる群から選ばれるいずれかである、〔1〕に記載のナノクラスター。
〔3〕 Rで表される有機基が、フルオロ有機基、パーフルオロ有機基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基又は置換されていてもよい複素環基である、〔1〕又は〔2〕に記載のナノクラスター。
〔4〕 前記カーボンナノ材料がOH、COOH及びNH2からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面基を有し、式(I)で表される官能基は前記表面基を介してカーボンナノ材料に導入されている、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のナノクラスター。
〔5〕 有効成分と複合化した、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のナノクラスター。
〔6〕 有効成分が生理活性物質、標識物質、香料、精油又は有機色素である、〔5〕に記載のナノクラスター。
〔7〕 カーボンナノ材料がカーボンナノダイヤモンド又はカーボンナノドットである、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のナノクラスター。
〔8〕 〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のナノクラスターを含む、有効成分の送達担体。
〔9〕 下記式(I)
-Y1-R (I)
(式中、Y1は2価の連結基を示す。Rはフルオロ有機基又はパーフルオロ有機基を示す。)
で表される官能基で修飾されたカーボンナノ材料。
〔10〕 Y1で表される2価の連結基が、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、及び、-NH-CO-NH-からなる群から選ばれるいずれかである、〔9〕に記載のカーボンナノ材料。
〔11〕 カーボンナノ材料がカーボンナノダイヤモンドである、〔9〕又は〔10〕に記載のカーボンナノ材料。
〔12〕 医薬と複合化した〔1〕に記載の自己組織化したナノクラスターを含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生理活性物質、香料、有機色素などの有効成分を効果的に担持可能で、且つ生理的環境下で優れた溶解性を示す表面化学修飾カーボンナノ材料クラスターならびに該ナノクラスターを含む医薬組成物などの複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】抗癌剤カンプトテシン(CPT)を内包した各種ナノ材料における癌細胞排除効果。(a) CPTを内包したPEG化リポソーム(CPT@DSPE-PEG);(b) CPTとCND-oriの複合体(CPT@CND-ori);(c) CPT@CND-oriがPEG化DSPEから構成されるリポソームに内包された複合体(CPT@DSPE-PEG@CND-ori);(d) CPTとPFOA修飾CNDの複合体(CPT@CND-SNP);(e) 図1(a)~(d)の各種材料とコントロールによるU2OS細胞に対する細胞生存度の試験結果。1.Control(溶媒のみ)、2.PEG-CPT(CPT@DSPE-PEG)、 3.CND-CPT(CPT@CND-ori)、 4.CND-PEG-CPT(CPT@DSPE-PEG@CND-ori)、 5. CND-PFOA-CPT(CPT@CND-SNP)。
図2】表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)の合成方法とキャラクタリゼーション。 (a) 表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)の合成方法。 (b) 表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)水溶液の紫外-可視-近赤外吸収スペクトル。 (c) 動的光散乱による表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)の粒子径解析結果(平均粒子径:90 nm)。写真は、CND濃度を0.32 mg mL-1に調整した表面化学修飾CND複合ナノクラスター水溶液を示している。 (d) 透過型電子顕微鏡による表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)の構造解析。
図3】(a) 表面化学修飾前のCND(CND-ori)(1)と表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)(2)の熱重量分析。 (b) 透過型電子顕微鏡による表面化学修飾前のCND(CND-ori)の構造解析。 (c) カイザーテストによる表面化学修飾前のCNDと表面化学修飾CND複合ナノクラスターのアミノ基定量分析(n =3 )。(d) 表面化学修飾前のCND(CND-ori)と表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)のゼータ電位(n = 3)。CND濃度: 0.32 mg mL-1。(e) 表面化学修飾前のCND(CND-ori)と表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)の表面張力(n = 3)。CND濃度: 0.32 mg mL-1
図4】蛍光プローブBODIPYを内包した表面化学修飾CND複合ナノクラスターの蛍光顕微鏡を用いた細胞内分布解析。(a) BODIPYを内包した表面化学修飾CND複合ナノクラスターの製造方法。 (b) 紫外-可視-近赤外スペクトル。黒線(1): BODIPYを溶解したDMSO。灰色線(2):BODIPYを内包する前の表面化学修飾CND複合ナノクラスター水溶液(CND-SNP)。緑線(3):BODIPYを内包させた表面化学修飾CND複合ナノクラスター水溶液(BODIPY@CND-SNP)。 (c) BODIPYを内包させた表面化学修飾CND複合ナノクラスター水溶液を2時間、4℃と37℃でインキュベートしたU2OS細胞の蛍光顕微鏡像。CND濃度: 3.2 μg mL-1。(d) 表面化学修飾CND複合ナノクラスターの有無におけるU2OS細胞中のLAMP1(リソソームマーカー)のウエスタンブロッティング。CND濃度: 3.2 μg mL-1。β-Tubulinは導入コントロールとして使用した。(e) HeLa細胞にBODIPYを内包させた表面化学修飾CND複合ナノクラスター水溶液(BODIPY@CND-SNP)を4時間、37℃でインキュベートした時の蛍光顕微鏡像。赤色:リソソーム、緑色: BODIPYを内包させた表面化学修飾CND複合ナノクラスター。
図5】表面化学修飾CND複合ナノクラスターの細胞内分布挙動。(a) 蛍光プローブBODIPYの内包前後の表面化学修飾CND複合ナノクラスター水溶液の蛍光スペクトル解析。灰色線(1):BODIPY内包前。緑色線(2):BODIPY内包後。(b) U2OS細胞への表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP)導入前後の光学顕微鏡解析(明視野像)。CND濃度: 3.2 μg mL-1。インキュベート時間:12時間。図5(b)のCND-SNPの右上の矢印は、細胞内に導入された表面化学修飾CND複合ナノクラスターを示している。
図6】抗癌剤カンプトテシン(CPT)を封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスターのin vitroにおける癌細胞排除効果。(a) CPTを封入前後の表面化学修飾CND複合ナノクラスター水溶液(灰色線(2):CPT封入前(CND-SNP)、赤線(3):CPT封入後(CPT@CND-SNP))とCPTを溶解したDMSO(黒線(1))の紫外-可視-近赤外吸収スペクトル。(b) CPTならびにCPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CPT@CND-SNP)のU2OS細胞に対する細胞毒性評価。インキュベート時間:24時間。(c)Control、CPT、CND-SNPならびにCPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CPT@CND-SNP)とU2OS細胞を48時間インキュベートした時のクリスタルバイオレットによる生細胞染色。(d) Control、CPT、CND-SNPならびにCPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CPT@CND-SNP)とU2OS細胞を24時間インキュベートした時のフローサイトメトリーを用いたアポトーシス解析。(e) フローサイトメトリーの定量解析結果。(f) ウエスタンブロッティングによるU2OS細胞中のアポトーシス関連バイオマーカー解析。β-actinは導入コントロールとして使用した。CND濃度: 3.2 μg mL-1、CPT濃度:10 μg mL-1
図7】各種抗癌剤を封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスターのin vitroにおける癌細胞排除効果。(a) 各種抗癌剤(Curcumin, Carmofur, Cisplatin, Methotrexate)を封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスターのU2OS細胞に対する細胞毒性評価。インキュベート時間:24時間。(b) 表面化学修飾CND複合ナノクラスターそのもの(CND-SNP)、ならびにPFOAのヒト正常線維芽細胞(TIG-3)に対する細胞毒性評価。(c) CPT、CPTを封入したPFOA、ならびにCPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CPT@CND-SNP)のU2OS細胞に対する細胞毒性評価。インキュベート時間:24時間。
図8】CPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスターのin vivoにおける癌細胞排除効果。 (a) CPT(2.78 mg kg-1)、CPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CPT@CND-SNP, 3.56 mg kg-1)、CPTを封入していない表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP)、PBS緩衝液を腹腔内投与したHT-29固形癌を有するヌードマウスの経時変化。 (b) 各処理後の腫瘍体積比の経時変化。(c) 各処理後のマウス体重の経時変化。(d) エンドポイントにおける各処理後の腫瘍サイズ。
図9】表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP, 3.56 mg kg-1)ならびにPBS緩衝液を経口投与したマウスの平均体重。
図10】カルボキシル化CND(CND-COOH)ならびにアミノ化CND(CND-NH2)表面に異なる長さのアルキル鎖(C8:octyl, C12:dodecyl, C18:oleyl)を導入した際のCND複合ナノクラスター水溶液の写真と動的光散乱による測定値。アミノ化CNDは、例えば以下の文献に従い製造可能である:A. Krueger, Chem. Eur. J. 2008, 14, 1382-1390; Y. Liu, Chem. Mater. 2004, 16, 3924-3930; A. Krueger, Langmuir 2008, 24, 4200-4204; Denisov S.A., IOP Conf. Series: Materials Science and Engineering 16 (2010) 012005; A. Krueger, Advanced Functional Materials, 22(5), 890-906.
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、カーボンナノ材料はカーボンナノダイヤモンド、カーボンナノドットを包含する。
本発明のカーボンナノ材料は、下記式(I)
-Y1-R (I)
(式中、Y1は2価の連結基を示す。Rは有機基を示す。)
で表される官能基で修飾されている。この官能基で修飾されたカーボンナノ材料を「修飾カーボンナノ材料」と記載することがある。
【0014】
本発明のカーボンナノ材料は、式(I)で表される官能基を1個又は2個以上有している。式(I)で表される官能基は、修飾カーボンナノ材料の0.0001~30質量%程度、好ましくは0.001~20質量%程度、好ましくは0.01~15質量%程度、好ましくは0.05~10質量%程度である。
【0015】
1で表される2価の連結基としては、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、-NH-CO-NH-が挙げられる。
【0016】
Rで表される有機基としては、フルオロ有機基、パーフルオロ有機基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい複素環基が挙げられる。有機基は、フルオロ有機基又はパーフルオロ有機基が好ましい。
【0017】
Rで表されるフルオロ有機基又はパーフルオロ有機基としては、置換されていてもよいフルオロアルキル基、置換されていてもよいフルオロシクロアルキル基、置換されていてもよいフルオロアリール基、置換されていてもよいフルオロアラルキル基、置換されていてもよいフルオロ複素環基、置換されていてもよいパーフルオロアルキル基、置換されていてもよいパーフルオロシクロアルキル基、置換されていてもよいパーフルオロアリール基、置換されていてもよいパーフルオロアラルキル基、置換されていてもよいパーフルオロ複素環基が挙げられる。
【0018】
置換されていてもよい(アルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基)、置換されていてもよい(シクロアルキル基、フルオロシクロアルキル基、パーフルオロシクロアルキル基)、置換されていてもよい(アリール基、フルオロアリール基、パーフルオロアリール基)、置換されていてもよい(アラルキル基、フルオロアラルキル基、パーフルオロアラルキル基)、置換されていてもよい(複素環基、フルオロ複素環基、パーフルオロ複素環基)の置換基としては、ハロゲン原子、C1~C4アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ、C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、NO、NO2、NH2、CN、OH、SH、COOH、CONH2、NHCOCH3、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、モノアルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニルなどが挙げられ、置換基を有する各官能基の置換基の数は、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。好ましい置換基としては、フッ素原子、塩素原子、アリールオキシ、アラルキルオキシ、C1~C4アルキル、NH2、CN、OH、COOH、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシカルボニルが挙げられる。
【0019】
置換されていてもよいアルキル基は、置換アルキル基と非置換アルキル基(以下、単に「アルキル基」という)を包含する。アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、アイコシル、ヘンアイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシルなどの直鎖又は分岐を有するC1-C24アルキル基が挙げられる。
【0020】
フルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換された直鎖又は分岐を有するC1-C24フルオロアルキルを包含し、パーフルオロアルキル基は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された直鎖又は分岐を有するC1-C24パーフルオロアルキルを包含する。
【0021】
直鎖又は分岐を有するC1-C24フルオロアルキルとしては、Cpqr(pは1~24の整数、qは1~2pの整数、rは1~2pの整数を示し、q+r=2p+1である。)が挙げられ、直鎖又は分岐を有するC1-C24パーフルオロアルキルとしては、Cs2s+1(sは1~24の整数を示す)が挙げられる。
【0022】
置換されていてもよいシクロアルキル基は、置換シクロアルキル基と非置換シクロアルキル基(以下、単に「シクロアルキル基」という)を包含する。シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルが挙げられる。
【0023】
フルオロシクロアルキル基は、シクロアルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換された基(例えばモノフルオロシクロペンチル、ジフルオロシクロペンチル)を包含し、パーフルオロシクロアルキル基は、シクロアルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基(例えばパーフルオロシクロペンチル、パーフルオロシクロヘキシル)を包含する。
【0024】
置換されていてもよいアリール基は、置換アリール基と非置換アリール基(以下、単に「アリール基」という)を包含する。アリール基としては、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アントリル、ビフェニリル、テトラヒドロナフチル、クロマニル、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニル、インダニル及びフェナントリルが挙げられる。
【0025】
フルオロアリール基は、アリール基の水素原子の一部がフッ素原子で置換された基(例えばフルオロフェニル、ジフルオロフェニル、トリフルオロフェニル)を包含し、パーフルオロアリール基は、アリール基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基(例えばパーフルオロフェニル、パーフルオロビフェニル、パーフルオロナフチル)を包含する。
【0026】
置換されていてもよいアラルキル基は、置換アラルキル基と非置換アラルキル基(以下、単に「アラルキル基」という)を包含する。アラルキル基としては、ベンジル、ナフチルメチル、フルオレニルメチル、アントリルメチル、ビフェニリルメチル、テトラヒドロナフチルメチル、クロマニルメチル、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルメチル、インダニルメチル及びフェナントリルメチル、フェネチル、ナフチルエチル、フルオレニルエチル、アントリルエチル、ビフェニリルエチル、テトラヒドロナフチルエチル、クロマニルエチル、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルエチル、インダニルエチル及びフェナントリルエチルが挙げられる。
【0027】
フルオロアラルキル基は、アラルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換された基(例えばモノフルオロベンジル、ジフルオロベンジル、トリフルオロベンジル、モノフルオロフェネチル、ジフルオロフェネチル、トリフルオロフェネチル)を包含し、パーフルオロアラルキル基は、アラルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基(例えばパーフルオロベンジル、パーフルオロフェネチル)を包含する。
【0028】
置換されていてもよい複素環基は、置換複素環基と非置換複素環基(以下、単に「複素環基」という)を包含する。複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、ベンゾ[b]チエニル及びベンズイミダゾリルなどが挙げられる。
【0029】
フルオロ複素環基は、複素環基の水素原子の一部がフッ素原子で置換された基(例えばモノフルオロフリル、モノフルオロピリジル、モノフルオロインドリル)を包含し、パーフルオロ複素環基は、複素環基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基(例えばパーフルオロフリル、パーフルオロチエニル、パーフルオロピロリル、パーフルオロインドリル)を包含する。
【0030】
「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を意味するが、フッ素、塩素、臭素が好ましく、フッ素又は塩素がさらに好ましく、フッ素が特に好ましい。
【0031】
1~C4アルコキシとして、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシが挙げられる。
【0032】
アリールオキシとして、フェニルオキシ、ナフチルオキシ、フルオレニルオキシ、アントリルオキシ、ビフェニリルオキシ、テトラヒドロナフチルオキシ、クロマニルオキシ、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルオキシ、インダニルオキシ及びフェナントリルオキシが挙げられる。
【0033】
アラルキルオキシとして、ベンジルオキシ、ナフチルメチルオキシ、フルオレニルメチルオキシ、アントリルメチルオキシ、ビフェニリルメチルオキシ、テトラヒドロナフチルメチルオキシ、クロマニルメチルオキシ、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルメチルオキシ、インダニルメチルオキシ及びフェナントリルメチルオキシ、フェネチルオキシ、ナフチルエチルオキシ、フルオレニルエチルオキシ、アントリルエチルオキシ、ビフェニリルエチルオキシ、テトラヒドロナフチルエチルオキシ、クロマニルエチルオキシ、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルエチルオキシ、インダニルエチルオキシ及びフェナントリルエチルオキシが挙げられる。
【0034】
1~C4アルキルとして、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチルが挙げられる。
【0035】
2~C4アルケニルとして、ビニル、アリル、1-ブテニルが挙げられる。
【0036】
モノアルキルアミノとして、メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、tert-ブチルアミノ、n-ペンチルアミノ、イソペンチルアミノ、ヘキシルアミノが挙げられる。
【0037】
ジアルキルアミノとして、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジn-プロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジn-ブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジtert-ブチルアミノ、ジn-ペンチルアミノ、ジイソペンチルアミノ、ジヘキシルアミノが挙げられる。
【0038】
モノアルキルアミノカルボニルとして、メチルアミノカルボニル、エチルアミノカルボニル、n-プロピルアミノカルボニル、イソプロピルアミノカルボニル、n-ブチルアミノカルボニル、イソブチルアミノカルボニル、tert-ブチルアミノカルボニル、n-ペンチルアミノカルボニル、イソペンチルアミノカルボニル、ヘキシルアミノカルボニルが挙げられる。
【0039】
ジアルキルアミノカルボニルとして、ジメチルアミノカルボニル、ジエチルアミノカルボニル、ジn-プロピルアミノカルボニル、ジイソプロピルアミノカルボニル、ジn-ブチルアミノカルボニル、ジイソブチルアミノカルボニル、ジtert-ブチルアミノカルボニル、ジn-ペンチルアミノカルボニル、ジイソペンチルアミノカルボニル、ジヘキシルアミノカルボニルが挙げられる。
【0040】
アルコキシカルボニルとして、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、イソペンチルオキシカルボニル及びヘキシルオキシカルボニルが挙げられる。
【0041】
アリールオキシカルボニルとして、フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル、フルオレニルオキシカルボニル、アントリルオキシカルボニル、ビフェニリルオキシカルボニル、テトラヒドロナフチルオキシカルボニル、クロマニルオキシカルボニル、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルオキシカルボニル、インダニルオキシカルボニル及びフェナントリルオキシカルボニルが挙げられる。
【0042】
表面にOH、COOH、NH2などの基を多数有するカーボンナノ材料(以下、「CNM」と記載することがある)は公知であり、このような材料を用いて以下のスキーム(1)~(10)に従い、本発明の官能基で修飾されたカーボンナノ材料を得ることができる。
スキーム
【0043】
【化1】
【0044】
【化2】
【0045】
(式中、XはCl、Br又はIを示す。CNMはカーボンナノ材料を示す。n1は1以上の整数を示す。n2は0以上の整数を示す。Rは前記に定義されるとおりである。)
上記スキーム(1)~(10)の反応は常法に従い行うことができ、OH、NH2又はCOOHの表面基を有するカーボンナノ材料1gに対し、R-COX、R-NH2、R-OH、R-Xのいずれかの化合物を1mg~過剰量使用し、0℃から溶媒の沸騰する温度において1~24時間反応させることで目的とする生成物を得ることができる。溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0046】
本発明のナノクラスターは、官能基で修飾されたカーボンナノ材料を水又は緩衝液などの適当な水性媒体に懸濁させ、超音波照射により自己組織化させて作製することができる。超音波照射後、クラスターを形成していない未反応の官能基修飾カーボンナノ材料を遠心分離などの精製操作により除去し、自己組織化ナノクラスターを分離することができる。
【0047】
本発明のナノクラスターは、有効成分を含む適当な溶媒に懸濁させることにより、有効成分と複合化させることができる。有効成分はナノクラスターの表面又は内部に存在する。有効成分としては、生理活性物質、標識物質、精油、香料、有機色素などが挙げられる。
【0048】
標識物質としては、フルオレセイン、オレゴングリーン、エオシン、エリスロシン等のフルオレセイン類;テトラメチルローダミン誘導体、テキサスレッド誘導体、ローダミンB base、リサミンローダミンB、ローダミン6G等のローダミン類;クマリン類;ダンシル型(ジメチルアミノナフタレンスルホン酸型)蛍光色素;NBD型色素;ピレン;R-フィコエリスリン、フロフィコシアニン、アロフィコシアニン等のフィコビリプロテイン;BODIPY誘導体;Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5等のCy(登録商標)色素;Alexa Fluor350、405、430、488、532、546、555、568、594、633、647、680、700、750等のアレキサ(登録商標)フローラなど挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、グレープフルーツ、ライム、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、フェンネル、スターアニス、クローブ、シナモン、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、ホップ、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0050】
香料の成分としては、l-メントール、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエン、ブタノール、ペンタノール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、プレノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、2,6-ノナジエノール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、フルフリルアルコール、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナール、シトロネラール、シトラール、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、フルフラール、ヘリオトロピン、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、ヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノン、ラズベリーケトン、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、メチルチャビコール、アネトール、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリド、酪酸、4-メチル-3-ペンテン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、メタンチオール、フルフリルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジフルフリルジスルフィド、アリルイソチオシアネートなどが挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
天然色素としては、アナトー色素、コチニール色素、紅麹色素、β-カロチン、ハイビスカス色素、サーフルイエロー、カカオ色素、リボフラビン、クロロフィル、カラメル、アンナット、カルミン、ラッカイン酸、ブラジリン、クロシン、シコニン、シソニン、ルチンなどが挙げられる。
【0052】
有効成分と複合化した本発明のナノクラスターは、哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコなど)の生体内または皮膚に投与もしくは適用した場合に、有効成分を徐々に放出する。したがって、有効成分と複合化した本発明のナノクラスターは、医薬品もしくは医薬組成物、化粧品、口腔用組成物として有用である。化粧品としては、ファンデーション、フェイスパウダー、ローション、乳液、口紅、化粧水、美容液、マッサージクリーム、保湿クリーム、パック、洗顔料、シャンプー、リンス、育毛剤、ボディパウダーなどが挙げられる。口腔用組成物としては、マウスウォッシュ、マウスリンス、練歯磨き、歯磨き粉、チューインガム、飴、グミ、ラムネなどが挙げられる。医薬品の剤形としては、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、丸剤、チュアブル錠、注射剤、坐剤、シロップ剤、軟膏剤、硬膏剤などが挙げられる。また、本発明のナノクラスターは、有効成分を徐々に放出するので、有効成分の送達担体として有用である。
【0053】
生理活性物質は、医薬、核酸、タンパク質を含む。医薬としては、抗腫瘍剤、抗高血圧剤、抗低血圧剤、抗精神病剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗躁剤、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、抗癲癇剤、オピオイドアゴニスト、喘息治療剤、麻酔剤、抗不整脈剤、関節炎治療剤、鎮痙剤、ACEインヒビター、鬱血除去剤、抗生物質、抗狭心症剤、利尿剤、抗パーキンソン病剤、気管支拡張剤、抗利尿剤、利尿剤、抗高脂血症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、制吐剤、抗感染症剤、抗新生物剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、抗アレルギー剤、解熱剤、抗痛風剤、抗ヒスタミン剤、止痒剤、骨調節剤、心血管剤、コレステロール低下剤、抗マラリア剤、鎮咳剤、去痰剤、粘液溶解剤、鼻詰り用薬剤、ドパミン作動剤、消化管用薬剤、筋弛緩剤、神経筋遮断剤、副交感神経作動剤、プロスタグランジン、興奮薬、食欲抑制剤、甲状腺剤又は抗甲状腺剤、ホルモン、抗偏頭痛剤、抗肥満剤、抗炎症剤などが挙げられる。好ましい医薬は抗腫瘍剤である。抗腫瘍剤としては、ホルモン療法剤(例えば、ホスフェストロール、ジエチルスチルベストロール、クロロトリアニセリン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、酢酸クロルマジノン、酢酸シプロテロン、ダナゾール、アリルエストレノール、ゲストリノン、メパルトリシン、ラロキシフェン、オルメロキフェン、レボルメロキシフェン、抗エストロゲン(例、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェンなど)、ピル製剤、メピチオスタン、テストロラクトン、アミノグルテチイミド、LH-RHアゴニスト(例、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリンなど)、ドロロキシフェン、エピチオスタノール、スルホン酸エチニルエストラジオール、アロマターゼ阻害薬(例、塩酸ファドロゾール、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、フォルメスタンなど)、抗アンドロゲン(例、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミドなど)、5α-レダクターゼ阻害薬(例、フィナステリド、エプリステリドなど)、副腎皮質ホルモン系薬剤(例、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンなど)、アンドロゲン合成阻害薬(例、アビラテロンなど)、レチノイドおよびレチノイドの代謝を遅らせる薬剤(例、リアロゾールなど)などが挙げられ、なかでもLH-RHアゴニスト(例、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリンなど))、アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、塩酸ナイトロジェンマスタード-N-オキシド、クロラムブチル、シクロフォスファミド、イホスファミド、チオテパ、カルボコン、トシル酸インプロスルファン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、トリエチレンメラミン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ピポブロマン、エトグルシド、カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、アルトレタミン、アンバムスチン、塩酸ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニムスチン、プミテパ、リボムスチン、テモゾロミド、トレオスルファン、トロフォスファミド、ジノスタチンスチマラマー、カルボコン、アドゼレシン、システムスチン、ビゼレシン)、代謝拮抗剤(例えば、メルカプトプリン、6-メルカプトプリンリボシド、チオイノシン、メトトレキサート、エノシタビン、シタラビン、シタラビンオクフォスファート、塩酸アンシタビン、5-FU系薬剤(例、フルオロウラシル、テガフール、UFT、ドキシフルリジン、カルモフール、ガロシタビン、エミテフールなど)、アミノプテリン、ロイコボリンカルシウム、タブロイド、ブトシン、フォリネイトカルシウム、レボフォリネイトカルシウム、クラドリビン、エミテフール、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、ペントスタチン、ピリトレキシム、イドキシウリジン、ミトグアゾン、チアゾフリン、アンバムスチン)、抗癌性抗生物質(例えば、アクチノマイシンD、アクチノマイシンC、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸エピルビシン、ネオカルチノスタチン、ミスラマイシン、ザルコマイシン、カルチノフィリン、ミトタン、塩酸ゾルビシン、塩酸ミトキサントロン、塩酸イダルビシン)、植物由来抗癌剤(例えば、エトポシド、リン酸エトポシド、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、テニポシド、パクリタキセル、ドセタクセル、ビノレルビン、カンプトテシン、塩酸イリノテカン)、免疫療法剤(BRM)(例えば、ピシバニール、クレスチン、シゾフィラン、レンチナン、ウベニメクス、インターフェロン、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、リンホトキシン、BCGワクチン、コリネバクテリウムパルブム、レバミゾール、ポリサッカライドK、プロコダゾール)、細胞増殖因子ならびにその受容体の作用を阻害する薬剤(例えば、トラスツズマブ(ハーセプチン(商標);抗HER2抗体)、ZD1839(イレッサ)、グリーベック(GLEEVEC)などの抗体医薬)が挙げられる。抗腫瘍剤の対象となる癌の種類としては、結腸・直腸癌、肝臓癌、腎臓癌、頭頸部癌、食道癌、胃癌、胆道癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられ、好ましくは結腸・直腸癌、胃癌、頭頸部癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、胆道癌、肝臓癌が挙げられる。
【0054】
核酸としては、特に制限はなく、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等いかなるものであってもよい。また、核酸は1~3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)または特殊な結合を含有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチドなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレート化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。好ましい核酸としては、siRNAなどのRNAが挙げられる。
【0055】
siRNAとは、標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列又はその部分配列(好ましくはコード領域内)(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相同なヌクレオチド配列とその相補鎖からなる二本鎖オリゴRNAである。siRNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相同な部分の長さは、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21~23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。また、siRNAの全長も、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21~23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。
【0056】
標的ヌクレオチド配列と、siRNAに含まれるそれに相同な配列との関係については、100%一致していてもよいし、塩基の変異があってもよい(少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)。
【0057】
siRNAは、5’又は3’末端に5塩基以下、好ましくは2塩基からなる、塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’等の配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0058】
siRNAは任意の標的遺伝子に対するものであってよい。siRNAは、その発現亢進が対象疾患の発症および/または増悪に関与する遺伝子を標的とするものであることが好ましく、より具体的には、その遺伝子に対するアンチセンス核酸が、臨床もしくは前臨床段階に進んでいる遺伝子や新たに知られた遺伝子を標的とするもの等が挙げられる。
【0059】
siRNAは、1種のみで使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
タンパク質としては、酵素、受容体、抗体、抗原、インターフェロン、インターロイキンなどのサイトカインなどが挙げられる。
【0061】
本発明のナノクラスターの平均粒径は、1~1000nm程度、好ましくは3~800nm程度、より好ましくは5~500nm程度、さらに好ましくは10~300nm程度、特に30~250nm程度である。
【0062】
ナノクラスターのゼータ電位としては、好ましくは5~30mV程度、より好ましくは10~25mV程度である。
【0063】
本発明のナノクラスターが有効成分と複合化している場合、ナノクラスター100質量部に対し、有効成分を5~50質量部程度、好ましくは10~20質量部程度含む。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0065】
実施例1
<実験方法>
表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)の合成
表面化学修飾CND複合ナノクラスターは以下の方法により合成した(図2(a))。
【0066】
表面にアミノ基を有するCND-ori水溶液(1 mL)(CND濃度:3.2 mg/mL, Daicel, Tokyo, Japan)、パーフルオロオクタン酸(perfluorooctanoic acid)(PFOA)(10 mg)(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)、及び、水溶性カルボジイミド(water soluble carbodiimide)(10 mg)(WSC)(Wako, Osaka, Japan)を、バス(bath)型超音波装置(USD-2R; power output, 80 W; oscillation frequency, 40 kHz; AS ONE)により超音波を5分間照射することにより、2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MES)緩衝液(9 mL)(pH 6.0, 100 mM)に溶解させた。室温で5分間激しく攪拌後、混合物を遠心分離によりMilli-Q水で3回洗浄し、未反応化合物を除去した。遠心分離によって生成したペレットをパルス型超音波装置(VCX-600; Sonics, Danbury, CT, USA)により超音波を10分間照射することで蒸留水(10 mL)に分散させた。遠心分離(VCX-600; Sonics, Danbury, CT, USA)(1,000 rpm、10分、20℃)を掛け、パルス型超音波装置によって形成した不純物を除去し、表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)が分散している上澄み溶液を以後の実験に用いた。
【0067】
BODIPY並びにCPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(BODIPY@CND-SNP並びにCPT@CND-SNP)の調製方法は以下の通りである。上述したPFOA を化学修飾したCNDペレット(CND-SNP cluster)に蒸留水(10 mL)、BODIPY(1 mg)(Sigma-Aldrich)あるいはcamptothecin(CPT)(10 mg)(Wako)を加え、バス型超音波装置を用いて10分間超音波照射した。調製した混合物は4℃で保存し、各生物学的実験に使用した。CPTを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CPT@CND-SNP)を図1(d)に示し、BODIPYを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(BODIPY@CND-SNP)の製造工程を図4(a)に示す。
【0068】
表面化学修飾CND複合ナノクラスターの合成のキャラクタリゼーション
表面化学修飾前のCND(CND-ori)と表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)のナノ構造は、高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)(EM-002B; Topcon, Tokyo, Japan)(120 kV)を用いて解析した(図2(d)、図3(b))。表面化学修飾CND複合ナノクラスターの流体力学的径は動的光散乱(DLS)(Photal FPAR-1000; Otsuka Electronics, Osaka, Japan)を用いて調査した(図2(c))。各種サンプルの光学特性や濃度は、紫外-可視-近赤外スペクトルメータ(V-730 BIO; Jasco, Tokyo, Japan)を用いて決定した(図2(b)、図4(b)、図5(a))。表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP cluster)ならびに未修飾CND粉末(CND-ori)(各2 mg)を熱重量測定装置(TGA Q 500; TA Instrument, New Castle, DE, USA)によって酸素ガス雰囲気下(10℃ min-1)で燃焼させ、表面化学修飾されたPFOA量を解析した(図3(a))。BODIPYの封入前後における表面化学修飾CND複合ナノクラスターの蛍光特性を蛍光スペクトルメータ(FP-6500; Jasco)により観察した(図4(b)、図5(a))。
【0069】
表面化学修飾CND複合ナノクラスターならびに未修飾CNDのアミノ基の定量はカイザーテストキット(60017-1EA, Sigma-Aldrich)を用いて下記の要領で調査した。表面化学修飾CND複合ナノクラスターあるいは未修飾CND粉末(0.64 mg)を蒸留水(200 μL)に添加した。次いで、当該水溶液に溶液1(200 μL)(Phenol, 80% in ethanol)と溶液2(200 μL)(KCN in H2O/ pyridine)を加え、CNDに由来する粉末が良く分散するまでバス型超音波装置に掛けた。加熱ブロック(EB-603; AS ONE)により120℃、10分間加熱後、溶液3(200 μL)(Ninhydrin, 6% in ethanol)を加え、さらに10分間加熱した。得られた溶液を室温で30分間冷却し、60% ethanolを加え、全量が3 mLになるように希釈した。遠心分離後(15,000 rpm、5分間)、上澄み溶液の紫外-可視スペクトルを解析した。570 nmの吸光度をCND表面上の遊離のアミノ基として下式により算出した(図3(c))。
【0070】
【数1】
【0071】
なお、希釈量は3 mL、励起係数(extinction coefficient)は15000 m-1 cm-1である。ブランクのサンプルは蒸留水を用いて同様の方法により正確に調製した。結果は、未修飾CNDのアミノ基量を100%として算出した。
【0072】
表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP)のゼータ電位は、Kyowa Interface Science Co., Ltd.(Saitama, Japan)によりゼータ電位測定システム(ZEECOM ZC-3000; Microtec Co., Ltd., Chiba, Japan)を用いて測定した(図3(d))。
【0073】
表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP)の界面張力は、Mitsui Chemical Analysis & Consulting Service, Inc.(Tokyo, Japan)により全自動表面張力計(CBVP-Z; Kyowa Interface Science Co., Ltd.)を用いて測定した(図3(e))。
【0074】
細胞培養と細胞毒性評価
ヒト結腸腺癌(HT-29)、ヒト骨肉腫細胞(U2OS)、ヒト子宮頸癌(HeLa)、ヒト正常線維芽細胞(TIG3)は、JCRB Cell BankあるいはDS Pharma Biomedical (Tokyo, Japan)より購入し、fetal bovine serum(10%)、L-glutamine(2 mM)、sodium pyruvate(1 mM)、gentamycin、penicillin-streptomycin(100 IU mL-1)、Hank's balanced salt solution (Life Technologies, MD, USA)が入ったDMEM培地(Gibco BRL, Grand Island, NY, USA)を用いて37℃、5%二酸化炭素環境下で培養した。細胞の形態観察は位相差顕微鏡(Nikon Eclipse TE300, Japan)を用いて記録した(図5(b))。細胞毒性評価は、クリスタルバイオレット染色(Wako)とcell counting kit-8(CCK-8; Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)を用いて行った。CCK-8 assayでは、細胞を96-wellプレート上に播種(7000 cells well-1)し、接着のために一晩インキュベートした。インキュベート後、細胞を薬物や各種ナノ材料に曝露した。新鮮な培地で洗浄後、CCK-8 assayキットの取扱説明書に従い、細胞はCCK-8溶液とインキュベートし、450 nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(infinite M200 PRO; TECAN, Switzerland)により解析した。クリスタルバイオレットアッセイでは、細胞を12-wellプレート上に播種(1.5×105 cells well-1)後、一晩インキュベートした。細胞を冷却したPBS緩衝液で洗浄後、予備冷却しておいたmethanol/acetone(v/v, 1:1)混合液で10分間固定化した。固定化した細胞は0.1% crystal violet溶液で一晩染色した。細胞毒性評価に関わる全ての実験は少なくとも3回以上実施した(図1(e)、図6(b)、図6(c)、図7(a)-図7(c))。
【0075】
蛍光顕微鏡ライブイメージング
細胞はイメージング用ガラスボトムディッシュに播種し、接着のために一晩インキュベートした。次いで、当該細胞にBODIPYを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスターを添加し、37℃あるいは4℃で2時間インキュベートした。インキュベート後、細胞核をHoechst 33342(1 μg mL-1, Thermo Scientific, Waltham, MA, USA)で10分間染色した。その3分後にPBS緩衝液で洗浄し、フェノールレッドフリーのRPMI 1640培地(Thermo Scientific)を加え、細胞のライブイメージングを実施した。BODIPYを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスターの細胞内分布を調べるためにLysoTracker Red(Thermo Scientific)を用い、マニュアルに従いながら下記の要領で同時染色した。まず、BODIPYを封入した表面化学修飾CND複合ナノクラスターで細胞を4時間処理した後、LysoTracker試薬(100 nM)を37℃、2時間インキュベートした。細胞を新鮮なPBS緩衝液で3回洗浄後、Hoechst 33342(1 μg mL-1)を共に10分間インキュベートした。染色した細胞はフェノールレッドフリーの培地中でミラーユニット(IX3-FGFPXL, Olympus)とEM-CCDカメラ(DP80; Olympus)を搭載した蛍光顕微鏡(IX73; Olympus)を用いて観察した(図4(c)、図4(e))。
【0076】
ウエスタンブロッティング
細胞はprotease inhibitor cocktail (Roche Applied Science, Mannheim, Germany)を添加したRIPA緩衝液(Thermo Scientific)を用いて採取した。各種タンパク質濃度はPierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)により決定した。ウエスタンブロッティングは既報(非特許文献:Yu et al. Cell Death and Disease (2017) 8, e2755; doi:10.1038/cddis.2017.33)に従い、rabbit anti-LAMP1(ab24170; Abcam, Cambridge, MA, USA)、anti-Bcl-xL(2762; Cell Signaling, MA, USA)、anti-Bcl-2(2876; Cell Signaling)、anti-caspase-8(06-775; Millipore, Billerica, MA, USA)、anti-caspase-3(H-277; Santa Cruz, CA, USA)、anti-PARP-1(H-250; Santa Cruz)、mouse anti-β-Tubulin(T5293; Sigma-Aldrich)、anti-p53(DO-1; Santa Cruz)、anti-β-actin(AC-15; Abcam)の各種抗体を用いて実施した(図4(d)、図6(f))。
【0077】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーはアポトーシスを検出可能なAnnexin-Vと7-AADによる二重染色により実施した。細胞を3×105cells well-1の密度になるように6-wellプレート上に播種後、接着のために一晩インキュベートした。24時間後、細胞を採取し、アポトーシスアッセイをマニュアルに従い、Guava Nexin Reagent(Millipore)、Annexin V-PEならびに 7-AADを含むカクテル溶液を用いてGuava PCA flow cytometer(Millipore)により解析した。アポトーシス細胞の割合はFlowJo software(Version 7.6, FlowJo LLC, Oregon, USA)により算出した(図6(d)、図6(e))。
【0078】
In vivo抗癌実験と毒性評価
5週齢のメスのヌードマウス(n = 5; average weight = 18 g; C57BL/6NCrSlc)をJapan SLC, Inc (Shizuoka, Japan)より購入し、specific pathogen-free(SPF)環境下で一週間馴化させた。全ての動物実験は、産業技術総合研究所ならびにJapan SLC, Incの動物実験委員会の承認を得て実施した。HT-29細胞分散液(1 × 106 cells)(100 μL)とculture medium/matrigel(Corning, NY, USA)から成る混合溶液(v/v, 1:1)をマウス腹部皮下に投与し、癌モデルマウスを作成した。8日後、固形癌を形成させたマウスの腹腔内に表面化学修飾CND複合ナノクラスター(3.56 mg kg-1)、CPT(2.78 mg kg-1)、CPTを内包した表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CPT, 2.78 mg kg-1; CND-SNP, 3.56 mg kg-1)、PBS緩衝液を各200 μL投与した。マウスの行動や性状、固形癌サイズ測定、マウス体重の推移は、二日に一度実施した(図8(a)-(d))。なお、固形癌のサイズは下式により算出した。
V = L × W2/2
このとき、Vは固形癌体積、Lは固形癌の長さ、Wは固形癌の幅をそれぞれ示している。
【0079】
一方、表面化学修飾CND複合ナノクラスター(CND-SNP)のin vivo毒性評価は、5週齢のメスのヌードマウス(n = 5; average weight = 18 g、C57BL/6NCrSlc)に表面化学修飾CND複合ナノクラスター(3.56 mg kg-1)あるいはPBS緩衝液を経口投与し、28日間、2日に一回の頻度でマウス体重(図9)と行動・性状を注意深く調査した。マウス血液検査は、表面化学修飾CND複合ナノクラスター(3.56 mg kg-1)あるいはPBS緩衝液を11週齢のメスのマウス(n = 6; average weight = 21 g、BALB/cAJcl)の尾静脈に各200 μL投与し、28日後、腹部大動脈より血液採取した。全血球数(complete blood cell count:CBC)ならびに生化学検査は、Japan SLC, Inc.とOriental Yeast Co., Ltd. (Tokyo, Japan)により解析された。
【0080】
【表1】
【0081】
データの統計解析
データ中の±は標準偏差、nは使用したサンプル数を示している。データの統計解析は、Student's t-testを用いた。*、**、***は、それぞれ< 0.05、< 0.005、< 0.001のp値を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10