(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】レトルト食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 20/20 20160101AFI20230104BHJP
A23L 3/00 20060101ALI20230104BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20230104BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20230104BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20230104BHJP
A23L 17/00 20160101ALN20230104BHJP
【FI】
A23K20/20
A23L3/00 101C
A23K20/158
A23K20/163
A23L13/00 Z
A23L17/00 Z
(21)【出願番号】P 2019152068
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲西 由美子
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
(72)【発明者】
【氏名】大石 幸恵
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-082660(JP,A)
【文献】特開平05-268908(JP,A)
【文献】特開平08-140627(JP,A)
【文献】国際公開第2015/105112(WO,A1)
【文献】特開2008-099670(JP,A)
【文献】特開2013-009671(JP,A)
【文献】特開2017-000040(JP,A)
【文献】特開2009-077651(JP,A)
【文献】特開2007-117088(JP,A)
【文献】特開2002-315550(JP,A)
【文献】特開2016-182121(JP,A)
【文献】特開2016-049056(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0320085(US,A1)
【文献】特開2002-306126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 20/20
A23L 3/00
A23K 20/158
A23K 20/163
A23L 13/00
A23L 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉類及び/又は魚介類を含む食材に、鉄分と油脂と増粘多糖類とを含有する混合液を添加することと、該混合液が添加された食材をレトルト加熱することとを含
み、
該鉄分が、塩化第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、フェリチン、及びラクトフェリンからなる群より選択される、
レトルト食品の製造方法。
【請求項2】
前記鉄分が硫酸鉄である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記増粘多糖類がキサンタンガム、タマリンドガム及びグアーガムからなる群より選択される1種以上である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記油脂が液状油脂である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記レトルト食品中、前記混合液に含まれる鉄分の含有量が鉄換算で0.001質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記レトルト食品中、前記混合液に含まれる油脂の含有量が0.1~15質量%である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記レトルト食品中、前記混合液に含まれる増粘多糖類の含有量が0.0001~0.1質量%である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記レトルト食品のpHが5~9である、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記鉄分と油脂と増粘多糖類とを含む混合液が、該鉄分と油脂と増粘多糖類とを均質に混合することにより調製される、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記レトルト食品が非ヒト動物用食品である、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト加熱は、食品を容器に密封した状態で加圧加熱する常用の殺菌方法であり、レトルト加熱を経て製造された食品はレトルト食品と呼ばれる。レトルト食品は、容器のまま常温で長期保存が可能であり且つ簡便に調理できるため利便性が高い。様々な種類のレトルト食品がヒト用又は動物用として提供されている。
【0003】
近年、1つの食品から様々な栄養素を補うことができる食品、例えば完全栄養食品、栄養強化食品などへの需要が高まっている。例えば、鉄分等のミネラル類、ビタミン類などを補充した食品が、ヒト用食品だけでなく、ペットフード等の動物用食品として市販されている。これらの食品については、栄養面の要求を満たすだけでなく、美味しさや見た目の良さを有していることが望まれる。特許文献1には、ヘム鉄、塩、澱粉及び油脂を含有する液状食品を製造するに当たって、予めヘム鉄を乳化剤溶液と混合することを特徴とするヘム鉄含有液状食品の製造方法が提案され、また、この方法により液状食品中に黒い凝集物が発生することを防止し、外観の良好なヘム鉄含有液状食品を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄分強化食品の製造において、鉄分を補充された食品をレトルト加熱すると、該食品に含まれる肉類や魚介類が、該補充された鉄分の影響で黒っぽくくすんだ色になる(黒化)という現象が起こっていた。このような黒化は、食品の見た目を損ない、その商品価値を低下させる。補充された鉄分に起因するレトルト食品中の肉類又は魚介類の黒化の防止が望まれる。本発明は、補充された鉄分に起因する肉類又は魚介類の黒化がない、良好な外観を有するレトルト食品の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鉄分を油脂と増粘多糖類を含む液体に混合し、食品に配合することで、該食品をレトルト加熱したときに生じる、補充された鉄分に起因する肉類や魚介類の黒化を抑制することができることを見出した。
【0007】
本発明は、肉類及び/又は魚介類を含む食材に、鉄分と油脂と増粘多糖類とを含有する混合液を添加することと、該混合液が添加された食材をレトルト加熱することとを含む、レトルト食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、鉄分を補充された食品をレトルト加熱したときに生じていた、該補充された鉄分に起因するレトルト食品中の肉類又は魚介類の黒化を抑制する。本発明によれば、肉類又は魚介類の黒化が抑制された、良好な外観を有する鉄分強化レトルト食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、レトルト食品の製造方法を提供する。本発明により提供されるレトルト食品は、原料となる食材に由来しない(すなわち、外添の又は補充された)鉄分を含有する。従来、鉄分を補充された食品をレトルト加熱すると、該食品に含まれる肉類や魚介類が、該補充された鉄分の影響で、黒っぽくくすんだ色になる(黒化)という現象が起こっていた。このような肉類や魚介類の黒化は、pHが5~9程度の食品で特に促進される。本発明は、該補充された鉄分に起因するレトルト食品中の肉類又は魚介類の黒化を抑制することによって、良好な外観を有する鉄分強化レトルト食品を提供することを可能にする。
【0010】
本発明によるレトルト食品の製造方法は、肉類及び/又は魚介類を含む食材に、鉄分と油脂と増粘多糖類とを含有する混合液を添加することと、該混合液が添加された食材をレトルト加熱することとを含む。
【0011】
当該レトルト食品に用いられる肉類及び魚介類は、ヒト又は非ヒト動物用の食材として通常供されるものであれば、その種類は特に限定されない。該肉類には、畜肉、獣肉、家禽肉、野鳥肉が含まれ、その例としては、牛、豚、馬、羊、ヤギ、シカ、鶏、七面鳥、ウズラ、アヒル、鴨などが挙げられるが、これらに限定されない。魚介類の例としては、魚類、貝類、イカ、タコ、エビ、カニなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
当該レトルト食品の製造に用いられる食材は、上述の肉類及び/又は魚介類を含んでいればよいが、必要に応じてその他の食材を含むことができる。その他の食材の例としては、野菜類、穀類、乳製品、油脂、糖類、だし、調味料などの通常の食材、及び、食物繊維、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、微量元素、甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤などの食品添加物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
当該レトルト食品に補充(外添)される鉄分は、食品添加物として許容されている種類のものであればよく、その例としては、塩化第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム(クエン酸鉄ナトリウム)、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、硫酸第一鉄(硫酸鉄)、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、フェリチン、ラクトフェリンなどが挙げられる。このうち、硫酸鉄が好ましい。
【0014】
本発明の方法において、当該鉄分は、該鉄分と油脂と増粘多糖類とを含有する混合液(以下の本明細書において、鉄混合液とも称する)に調製され、該混合液がレトルト食品の食材に添加される。該鉄混合液に含有される油脂は、食用油脂であればよいが、該鉄混合液の調製の容易さの観点からは、液状油脂が好ましい。サラダ油、綿実油、コーン油などの常温(20℃)で液状の油脂がより好ましい。該鉄混合液に含有される増粘多糖類の例としては、キサンタンガム、タマリンドガム、グアーガム、カシアガム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ローカストビーンガムなどが挙げられ、好ましくはキサンタンガム、タマリンドガム、及びグアーガムが挙げられる。これらの増粘多糖類は、いずれか1種又は2種以上の組み合わせで用いることができる。好ましくは、該鉄混合液は、該鉄分と油脂と増粘多糖類に加えて、水をさらに含有する。
【0015】
当該鉄混合液は、鉄分と油脂と増粘多糖類と、必要に応じて水とを混合することで調製することができる。鉄分に起因するレトルト食品中の肉類又は魚介類の黒化を抑制するためには、鉄分を油脂及び増粘多糖類とよく混合することが好ましい。より好ましくは、該鉄混合液は、鉄分と油脂と増粘多糖類とを水分と油脂が分離せず一様に分散する程度に均質に混合することにより調製される。さらに好ましくは、該鉄混合液は、鉄分と油脂と増粘多糖類と水とを、水分と油脂が分離せず一様に分散する程度に均質に混合することにより調製される。例えば、液状油脂と増粘多糖類を含む液体に鉄分を添加して撹拌するか、油脂と増粘多糖類と水を撹拌して得られた液体に鉄分を添加してさらに撹拌するか、又は鉄分、油脂、増粘多糖類、及び必要に応じて水を撹拌する、などの手順により該鉄混合液を調製することができる。撹拌には、ホイッパー、高速回転撹拌機、コロイドミル、超音波式乳化機、又はせん断型、衝撃型もしくはキャビテーション型のホモジナイザー、などを用いることができる。鉄分による肉類又は魚介類の黒化の抑制効果を高める観点からは、食材に添加される該鉄混合液は、鉄分と油脂と増粘多糖類と、必要に応じて水とを含む均質化された液体であることが好ましい。
【0016】
当該鉄混合液における鉄分、油脂及び増粘多糖類の含有量は、質量比で、鉄分(鉄換算):油脂=好ましくは1:10~5000、より好ましくは1:30~4000、さらに好ましくは1:50~3000であり、かつ油脂:増粘多糖類=好ましくは1:0.03~0.0001、より好ましくは1:0.01~0.0005である。
【0017】
本発明の方法で製造されるレトルト食品中における、当該鉄混合液に含まれる鉄分の含有量は、鉄換算で、該レトルト食品の全量中、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.001~0.01質量%である。該レトルト食品中における、該鉄混合液に含まれる油脂の含有量は、該レトルト食品の全量中、好ましくは0.1~15質量%以上、より好ましくは0.2~10質量%である。該レトルト食品中における、該鉄混合液に含まれる増粘多糖類の含有量は、該レトルト食品の全量中、好ましくは0.0001~0.1質量%以上、より好ましくは0.001~0.05質量%である。
【0018】
当該鉄混合液を食材へ添加するタイミングは、レトルト加熱前であればよいが、食材の調理後且つレトルト加熱前が好ましい。該鉄混合液を添加された食材をレトルト加熱することで、レトルト食品を製造することができる。例えば、肉類及び/又は魚介類を含む食材を通常の手順で調理し、レトルト加熱すればよい状態の食品を準備する。得られた食品に鉄混合液を添加し、次いでレトルト加熱すれば、レトルト食品を製造することができる。
【0019】
レトルト加熱では、容器に当該鉄混合液を含有する食品を充填して密封し、加熱する。該容器は、レトルト加熱に使用可能なものであれば特に限定されず、缶や瓶、レトルトパウチ等の公知のものを用いることができる。該加熱は、一般的なレトルト加熱の条件、例えば、厚生労働省による「容器包装詰加圧加熱殺菌食品の製造基準」に従った条件であればよく、例えば102~130℃で3~120分間の加熱であり、好ましくは、品温123℃で17分間の加熱、又はこれと同等もしくはそれ以上の効果を有する加圧加熱殺菌処理である。
【0020】
本発明の方法で製造されたレトルト食品は、補充された鉄分に起因する肉類及び/又は魚介類の黒化が抑制されているため、良好な外観を有する。当該レトルト食品は、肉類及び/又は魚介類を含有する限りにおいて、その種類は特に限定されず、またヒト用食品及び非ヒト動物用食品(ペットフード等)を包含する。また、pH5~9で鉄分に起因する肉類や魚介類の黒化が促進されることから、該レトルト食品のpHが5~9であると、肉類及び/又は魚介類の黒化抑制効果をより享受できる点で好ましい。より好ましくは、本発明で製造されるレトルト食品のpHは5.5~6.5である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0022】
試験1
表1の(A)に示す材料を合わせ、ホイッパーを用いて均質になるまで混合し、混合液を調製した。得られた混合液と、表1の(B)に示す食材とを混合し、140gずつレトルトパウチに包装し、123℃で17分間レトルト加熱した。得られたレトルト食品を20℃で1週間保存後、パウチを開封し、内部の食品のpH及び色を評価した。得られたレトルト食品のpHはいずれもpH5.8~6.1の範囲であった。色評価では、訓練された10名のパネラーが下記の評価基準に従って食品(各々n=3)の色を目視評価し、食品ごとに30個のデータの平均値を求めた。色評価の結果を表1に示す。
<色の評価基準>
5点:対照例と同等
4点:対照例よりわずかに黒っぽくくすんでいるが良好
3点:対照例より黒っぽくくすんでいるが品質上問題はない
2点:対照例より黒っぽくくすみが目立ち、やや不良
1点:対照例より黒っぽくくすみが顕著で不良
【0023】
【0024】
試験2
マグロを鶏胸肉に代えて、試験1と同様の手順でレトルト食品を製造及び保存し、食品のpH及び色を評価した。レトルト食品の材料には表2に示すものを用いた。得られたレトルト食品のpHはpH5.8~6.1の範囲であった。色評価の結果を表2に示す。
【0025】
【0026】
試験3
表3の(A)に示す材料を合わせ、ホモジナイザーで均質化して混合液を調製した。表3の(B)に示す水とボイルマグロをミキサーにかけて粉砕し、これに、上記の混合液、及び表3の(B)に示す残りの食材を加えて撹拌した。得られた食品を140gずつレトルトパウチに包装し、123℃で17分間レトルト加熱した。得られたレトルト食品を20℃で1週間保存後、パウチを開封し、内部の食品をミキサーにかけた後、pH及び色を評価した。得られたレトルト食品のpHはいずれもpH5.8~6.1の範囲であった。色評価では、色彩色差計(CR-5;コニカミノルタ)を用いて食品のL*、a*、b*を測定した。測定では、1食品につき3サンプルを用意し、1サンプルあたり2回の測定を行って、得られた6個のデータの平均値を求めた。各試験食品について、下記式により対照例との色差ΔE*abを求めた。
ΔE*ab = [(L*1 - L*2)2+(a*1 - a*2)2+(b*1 - b*2)2]1/2
ここで、L*1、a*1、b*1は、試験食品のL*、a*、b*
L*2、a*2、b*2は、対照例のL*、a*、b*
【0027】
色評価の結果を表3に示す。JIS Z8721では、ΔE*abが3.2以下の場合、一般的な標準色見本と試料色との目視判定による許容色差範囲としている。実施例7での色の変化はこの許容範囲内に入った。
【0028】