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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230105BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20230105BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230105BHJP
   A23G 1/54 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D13/80
A23G1/54
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018190389
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020058254
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 耕児
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-143433(JP,A)
【文献】特開2008-148670(JP,A)
【文献】特開2017-205061(JP,A)
【文献】特開平04-071441(JP,A)
【文献】特開昭63-126457(JP,A)
【文献】特開2010-104325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23G
A21D
C11B
C11C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(1)~(3)を全て満たす油脂組成物。
(1)油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量が2~10質量%である。
(2)油相のトリグリセリド組成中のBO2の含有量が~8質量%である。
(3)固体脂含量が、10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。
Bは炭素数22の飽和脂肪酸残基を表し、Oは炭素数18の不飽和脂肪酸残基を表し、BO2はBが1つ、Oが2つ結合しているトリグリセリドを表す。
【請求項2】
下記条件(a-1)~(a-3)を全て満たすエステル交換油脂(A)を含有する、請求項1記載の油脂組成物。
(a-1)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.45~0.65:1である。
(a-2)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量が、30~60質量%である
(a-3)トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比(BO2/B2O)が3以上である。
B2OはBが2つ、Oが1つ結合しているトリグリセリドを表す。
【請求項3】
炭素数16以上の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドと、炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドとを、前者対後者で1:2~6の質量比で含有する、請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
焼菓子用である、請求項1~3のいずれか一項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の油脂組成物を用いて製造された焼菓子。
【請求項6】
請求項5の焼菓子を用いて製造された複合菓子。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の油脂組成物を焼菓子生地に使用する、複合菓子のマイグレーションの抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキーやビスケット、バターケーキ等の焼菓子と、チョコレート等の油性菓子とを組合せて製造される、いわゆる複合菓子においては、その製造・流通・保存中に、焼菓子の表面が白色化し、外観が損なわれる白色化現象や、油性菓子の軟化現象・ブルーム現象が発生する場合がある。これらの現象の発生は、焼菓子と油性菓子との間で発生するマイグレーションと呼ばれる油脂移行が主因であると推定されている。特に、焼菓子の白色化現象については、焼菓子から油性菓子への、常温で液状の油脂成分である液状油成分のマイグレーションと、これに伴って進行する焼菓子中の固形脂の結晶粗大化等により焼菓子表面の白色化が発生すると推定されている。
【0003】
このような推定に基づき、焼菓子と油性菓子との間のマイグレーションの抑制に着目した、複合菓子の品質改良手法が従来より検討されてきた。
焼菓子と油性菓子との間のマイグレーションを抑制するだけであれば、単に固い油脂を焼菓子製造時に使用することにより解消される。しかし、この手法では得られる焼菓子の食感が硬く詰まったものとなり、口溶けが悪化してしまいやすい。これを避けるため、近年は特定のエステル交換油脂を用いる手法の検討が進められている。
【0004】
特定のエステル交換油脂を用いる手法として、例えば、特許文献1や特許文献2には、パーム分別軟部油とベヘン系油脂とのランダムエステル交換油脂を用いる手法が開示されている。また、特許文献3や特許文献4にはラウリン系油脂とベヘン系油脂とのランダムエステル交換油脂を用いる手法が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1~4に記載の油脂組成物を用いた場合であっても、焼菓子としての良好な食感と、複合菓子とした際のマイグレーションを抑制することの両立が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-148670号公報
【文献】特開2010-104325号公報
【文献】特開2012-100621号公報
【文献】特開平09-165595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、次の2点である。
(イ)口溶けがよく、食感が良好な焼菓子が得られる油脂組成物を提供すること
(ロ)マイグレーションが抑制された複合菓子が得られる油脂組成物を提供すること
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの検討の結果、特定の組成を有する油脂組成物を用いることで、SFCが比較的高い、固い油脂でありながら、従来の知見に反して、焼菓子の良好な食感を損なうことなく、マイグレーションを抑制し得ることを知見した。
【0009】
本発明は上記知見に基づくものであり、下記条件(1)~(3)を満たす油脂組成物に関するものである。
(1)含有される油相の脂肪酸組成中、炭素数20以上の飽和脂肪酸が2~10質量%含有される。
(2)含有される油相のトリグリセリド組成中、BO2が2~8%含有される。
(3)固体脂含量が、10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。
但し、B:炭素数22の飽和脂肪酸残基/ O:炭素数18の不飽和脂肪酸残基/
BO2:Bが1分子、Oが2分子結合しているトリグリセリド
【発明の効果】
【0010】
本発明の油脂組成物により、次の効果が得られる。
(イ)口溶けがよく、食感が良好な焼菓子が得られる
(ロ)マイグレーションが抑制された焼菓子や複合菓子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の油脂組成物について、好ましい実施形態に基づいて詳述する。
本発明の油脂組成物は、下記条件(1)~(3)を全て満たすものである。
(1)油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量が2~10質量%である。
(2)油相のトリグリセリド組成中のBO2の含有量が2~8%である。
(3)固体脂含量が、10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。
Bは炭素数22の飽和脂肪酸残基を表し、Oは炭素数18の不飽和脂肪酸残基を表し、BO2はBが1つ、Oが2つ結合しているトリグリセリドを表す。
【0012】
まず、条件(1)について述べる。
本発明の油脂組成物は、油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量が2~10質量%、好ましくは3~9質量%、特に好ましくは4~8質量%である。油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量を上記範囲とすることで、得られる焼菓子がサクサクとした噛みだしと良好なバラけを有し、且つ、良好な食感を有するものとなる。また、焼菓子を油性菓子とを複合させた場合に、マイグレーションが抑制される。
【0013】
炭素数20以上の飽和脂肪酸残基としては、例えば、炭素数20の飽和脂肪酸残基であるアラキジン酸残基、炭素数22の飽和脂肪酸残基であるベヘン酸残基及び炭素数24の飽和脂肪酸残基であるリグノセリン酸残基等を挙げることができる。本発明においては、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基中にベヘン酸残基を60~100質量%含有することが好ましく、70~100質量%含有することがより好ましい。
【0014】
本発明の油脂組成物は、食感を悪化させることなく、複合菓子とした際のマイグレーションを一層好ましく抑制する観点から、油相の脂肪酸残基組成における、不飽和脂肪酸残基(U)に対する飽和脂肪酸残基(S)の質量比(S/U)が、0.8~1.3であることが好ましく、0.9~1.2であることがより好ましい。
【0015】
本発明の油脂組成物中の油相の脂肪酸残基組成については例えば、「日本油化学会制定基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」を参考に、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。以下、脂肪酸残基組成の測定について同様である。
【0016】
次に、条件(2)について述べる。
本発明の油脂組成物は、油相のトリグリセリド組成中のBO2の含有量が2~8質量%である。BO2の含有量が2質量%以上であることにより、十分にマイグレーションを抑制することができ、焼菓子の白色化現象の発生を抑制することができる。また、BO2が8質量%以下であることにより、製造作業性が良好なものとなり、口溶けが良好な焼菓子が得られる。白色化現象の発生を一層効果的に抑制し、且つ一層良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、トリグリセリド組成中mのBO2の含量は3~8質量%であることが好ましく、4~8質量%であることがより好ましい。
BO2の含量が上述の範囲とすることによって、焼菓子の口溶けやサクサクとした食感を損なうことなく、焼菓子と油性菓子との間のマイグレーションが抑制される機構は明らかではないが、本発明者らは以下のとおりであると推定している。
【0017】
一般に、SU2は、U3と共に、油脂の液状油成分を主に構成することが知られている。BO2はSU2の中でも融点が比較的高いことから、油相にBO2を特定量含有させることで、保管中の焼菓子の液状油成分に「粘り」を生じさせることができ、結果としてマイグレーションを抑制できると推定される。そして、マイグレーションが抑制されることに伴って、焼菓子の白色化が抑制され、また、油性菓子との複合菓子に用いた場合には油性菓子のブルーム発生についても抑制されると考えられる。
【0018】
BO2(モノベヘニルジオレオイルグリセロール)には、1位にベヘン酸残基、2位と3位にオレイン酸残基が結合したトリグリセリド(いわゆるBOOの形式をとるもの)と、1位と3位にオレイン酸残基、2位にベヘン酸残基が結合したトリグリセリド(いわゆるOBOの形式をとるもの)の2種が存在する。本発明におけるBO2の含有量は、BOOとOBOの双方のトリグリセリド組成中における含有量の合計を示すものである。本発明においては、BOOとOBOの両者をあわせてBO2という。また、本発明において、Sは飽和脂肪酸残基を表し、Uは不飽和脂肪酸残基を表し、SU2は、Sが1つ、Uが2つ結合しているトリグリセリドを表し、U3とはUが3つ結合しているトリグリセリドを表す。
【0019】
ベヘン酸残基を構成脂肪酸残基として含有するSU2のうち、BO2の構成脂肪酸残基であるオレイン酸残基に代えて、オレイン酸残基以外の不飽和脂肪酸残基(例えばリノール酸残基(L))を含有するもの(例えば、BOL、BLL)であっても、焼菓子の白色化現象の発生を抑制し得るが、BO2含量が上記範囲にある場合に、マイグレーションを抑制する効果が得られ、それに伴って焼菓子の白色化現象を抑制する効果が特に高く得られる。
【0020】
焼菓子製造時の油脂調温や作業性をより良好なものとし、より良好な口溶けやサクサクとした食感を有する焼菓子を得る観点から、本発明の油脂組成物の油相を構成するトリグリセリド組成中における、BO2とB2O(ジベヘニルモノオレオイルグリセロール)との質量比(以下、BO2/B2Oともいう)が3.0以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましく、4.0以上であることが最も好ましい。BO2/B2Oの値の上限値は、特に制限されないが、工業的な生産の観点から、好ましくは8.0であり、より好ましくは7.0であり、最も好ましくは6.0である。BO2/B2Oの値は、トリグリセリド組成を測定し、得られたBO2トリグリセリドの含有量をB2Oトリグリセリドの含有量で除することにより得られる値である。
【0021】
B2OはBが2つ、Oが1つ結合しているトリグリセリドを表す。B2Oには、1位にオレイン酸残基、2位と3位にベヘン酸残基が結合したトリグリセリド(いわゆるBBOの形式をとるもの)と、1位と3位にベヘン酸残基、2位にオレイン酸残基が結合したトリグリセリド(いわゆるBOBの形式をとるもの)の2種が存在する。本発明におけるB2Oの含量は、BBOとBOBの双方のトリグリセリド組成中における含量の合計を示すものである。本発明においては、BBOとBOBの両者をあわせてB2Oという。
【0022】
条件(2)等で規定するトリグリセリド組成については、例えば逆相HPLCで行われるトリグリセリド分子種分析により分析することが可能である。この逆相HPLCは、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法2.4.6.2」に則って、任意の条件で実施することができ、例えば、次のような条件で測定することが可能である。トリグリセリド組成の分析については、以下同様である。
・検出部:示差屈折検出器
・カラム:ドコシルカラム(DCS)
・移動相:アセトン:アセトニトリル=65:35(体積比)
・流速:1ml/min
・カラム温度:40℃
・背圧:3.8MPa
【0023】
次に条件(3)について述べる。
本発明の油脂組成物は、固体脂含量(SFC:Solid Fat Content)が10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。SFC値が各測定温度における範囲の下限未満である場合、マイグレーション抑制効果が損なわれる。また、固体脂含量の値が各測定温度における範囲の上限超である場合、マイグレーション抑制効果は高まるものの、焼菓子の製造作業性が低下することに加えて、焼菓子の食感が、ガリガリとした硬く詰まった噛みだしとなる上、口溶けが悪化する。油脂組成物の固体脂含量が上記範囲内であることで、十分にコシのある焼菓子用油脂組成物が得られる上、マイグレーションを抑制することができ、良好な食感を有する焼菓子を得ることができる。
良好な製造作業性を有し、良好な食感の焼菓子を得ることができる油脂組成物を得る観点から、本発明の油脂組成物は10℃のSFCが45~60%であることが好ましく、50~60%であることがより好ましい。20℃のSFCが25~38%であることが好ましく、28~38%であることがより好ましい。30℃のSFCが5~18%であることが好ましく、8~18%であることがより好ましい。
【0024】
本発明において、SFCの値は、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値をSFCとする。以下、SFCの測定について同様である。
上記SFCの測定に際しては、測定対象となる試料を、80℃で15分保持して油脂を完全に融解し、これを60℃に30分保持した後、0℃に30分保持して固化させる。さらに、25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。然る後、SFCの各測定温度に順次30分保持する。その後、上記パルスNMRにてSFCを測定する。
【0025】
次に、本発明で用いることのできる油脂について述べる。
本発明の油脂組成物の油相に用いることのできる油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、微細藻類油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、からし油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びカカオ脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。上述の油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。本発明の油脂組成物は、上記条件(1)~(3)を満たす油相を、75質量%以上含有することが好ましく、85質量%以上含有することがより好ましく、95質量%以上含有することが最も好ましい。
【0026】
本発明においては、上記の油脂の中から、上記条件(1)~(3)を満たすように、1種又は2種以上が使用する。油相を構成するトリグリセリド組成中にBO2を一定量含有させる観点、及び複雑なトリグリセリド組成とすることにより微細な油脂結晶を得る観点から、本発明の油脂組成物はエステル交換油脂を含有することが好ましく、ランダムエステル交換油脂を含有することがより好ましい。具体的には、本発明の油脂組成物の油相を構成する油脂は、ランダムエステル交換油脂を好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有し、最も好ましくは油相を構成する油脂がランダムエステル交換油脂のみからなる。
【0027】
本発明においては、エステル交換油脂に対して分別や水素添加等を行った油脂についても、エステル交換油脂として取り扱うこととする。
【0028】
ここで、本発明の油脂組成物に好ましく用いられるランダムエステル交換油脂について詳述する。
本発明においては、保管中のマイグレーションを抑制しながら、好ましい製造作業性を有し、口溶けが良好でサクサクとした噛みだしの焼菓子を得る観点、及び上記条件(1)~(3)を満たす油相を容易に調製できる観点から、下記条件(a-1)~(a-3)を全て満たすエステル交換油脂(A)を含有することが好ましい。
(a-1)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.45~0.65:1である。
(a-2)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量が、30~60質量%である。
(a-3)トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比(BO2/B2O)が3以上である。
【0029】
以下、本発明の油脂組成物に好ましく含有されるエステル交換油脂(A)が満たす上記の各条件(a-1)~(a-3)について述べる。
【0030】
以下、条件(a-1)について述べる。
本発明の油脂組成物に好ましく含有されるエステル交換油脂(A)においては、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.40~0.65:1である。エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成を上記比率とすることで、本発明の油脂組成物を用いて得られる焼菓子の食感が、良好な口溶けやバラけを有し、且つサクサクとした噛みだしを有するものとなりやすい。エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、油脂組成物が好ましい可塑性と製造作業性を有するものとする観点から、0.50~0.65:1とすることがより好ましく、0.50~0.60:1とすることが最も好ましい。
【0031】
エステル交換油脂(A)の飽和脂肪酸残基組成については後述するが、不飽和脂肪酸残基については、エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基に対するオレイン酸残基の割合が80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。上限値は100質量%である。
【0032】
以下、条件(a-2)について述べる。
本発明の油脂組成物に好ましく含有されるエステル交換油脂(A)においては、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量が30~60質量%である。本発明の油脂組成物に含有されるエステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量を上記範囲とすることで、焼菓子を油性菓子と複合させた際に、マイグレーションを効果的に抑制することができる。エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量は、より効果的にマイグレーションを抑制する観点から、35~55質量%であることが好ましく、40~50質量%であることがより好ましい。
【0033】
マイグレーションをより効果的に抑制する観点から、上記エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における、炭素数16の飽和脂肪酸残基の含有量と18の飽和脂肪酸残基の含有量との和が占める割合は40~70質量%であることが好ましく、45~65質量%であることがより好ましい。
また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する、炭素数16の飽和脂肪酸残基の含有量と炭素数18と炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量との和が占める割合は80~100質量%であることが好ましく、85~100質量%であることがより好ましい。
【0034】
以下、条件(a-3)について述べる。
本発明の油脂組成物に含有されるエステル交換油脂(A)においては、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比(BO2/B2O)が3以上である。BO2/B2Oを上記範囲とすることにより、本発明の油脂組成物を用いて製造された焼菓子を油性菓子と複合させた際に、マイグレーションを効果的に抑制することができる。トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比の値は、エステル交換油脂(A)のトリグリセリド組成を測定し、得られたBO2トリグリセリドの含有量をB2Oトリグリセリドの含有量で除することにより得られる値である。得られる焼菓子の食感を損ねることなく、マイグレーションをより効果的に抑制する観点から、BO2/B2Oが3.7以上であることが好ましく、4.4以上であることがより好ましい。BO2/B2Oの値の上限値は、特に制限されないが、工業的な生産の観点から好ましくは8.0であり、より好ましくは7.0であり、最も好ましくは6.0である。
【0035】
エステル交換油脂(A)のトリグリセリド組成中のBO2とB2Oとの和が10~35質量%であることが好ましく、15~35質量%であることがより好ましい。
【0036】
本発明に好ましく用いられるエステル交換油脂(A)を得る際の原料となる油脂については、上記条件(a-1)~(a-3)を満たす範囲であれば特に制限されず、任意の動植物性油脂を原料として用いることができる。
【0037】
エステル交換油脂(A)に用いることのできる油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、微細藻類油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、からし油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びカカオ脂等の植物性油脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。上述の油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中でも特に、脂肪酸中にオレイン酸残基を多く含有する油脂と、脂肪酸中に炭素数20~22の脂肪酸残基を多く含有する油脂とを混合した油脂配合物(以下、油脂配合物(A)ともいう)をエステル交換することによって、上記条件(a-1)~(a-3)を満たすエステル交換油脂(A)を容易に得ることができる。
【0038】
上記のオレイン酸残基を多く含有する油脂としては、コーン油、微細藻類油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、オリーブ油、落花生油、ヒマワリ油、サフラワー油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックキャノーラ油及びハイオレイックサフラワー油等の常温で液体である油脂に加え、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種動植物性油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらの油脂の中から必要に応じて1種又は2種以上を使用することができる。分別処理を施した加工油脂を用いる場合、分別軟部油を用いることが好ましい。
【0039】
本発明においては、有効成分であるBO2の含量を特定の範囲まで高める観点から、油脂配合物(A)中に配合する油脂として、脂肪酸組成中にオレイン酸残基を70質量%以上含有する油脂を選択することが好ましく、オレイン酸残基を75質量%以上含有する油脂を選択することがより好ましい。そのため、上記に挙げた油脂群のうち、オレイン酸を多く含有するハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックキャノーラ油、及びそれらの加工油脂を用いることが好ましい。
【0040】
上記の炭素数20~22の脂肪酸残基を多く含有する油脂としては、ハイエルシン菜種油、魚油、サル脂、からし油、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。
【0041】
上記エステル交換油脂(A)は、上記油脂配合物(A)をエステル交換することにより得られる。このエステル交換反応は、例えばナトリウムメトキシド等の化学的触媒を用いる手法であっても、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼ等の酵素を用いる手法であっても行うことができ、いずれも常法に従って行うことができる。トリグリセリド組成を複雑なものとし、マイグレーションを抑制する効果を高めるために、エステル交換反応を行う際には、ランダムエステル交換を行うことが好ましい。
【0042】
上記エステル交換油脂(A)は、ヨウ素価が55以上であることが好ましく、57以上であることがより好ましく、59以上であることがさらに好ましい。
【0043】
上記エステル交換油脂(A)は、固体脂含量が、10℃で好ましくは5~35%、より好ましくは10~33%、さらに好ましくは20~30%、20℃で好ましくは1~20%、より好ましくは5~18%、さらに好ましくは9~15%、30℃で好ましくは1~15%、より好ましくは3~12%、さらに好ましくは5~10%である。
【0044】
本発明の油脂組成物は、上記条件(1)~(3)を全て満たすことが容易となる観点から、上記エステル交換油脂(A)を、油相基準で、15~60質量%含有することが好ましく、15~55質量%含有することがより好ましい。
【0045】
本発明の油脂組成物は、上記エステル交換油脂(A)に加えて、以下詳述する、条件(b-1)~(b-4)を全て満たすエステル交換油脂(B)を含有することが好ましい。上記エステル交換油脂(A)に加えて、エステル交換油脂(B)を含有することにより、油脂組成物がさらに複雑なトリグリセリド組成となるため、得られる焼菓子の食感の低下を抑えながら、マイグレーションの発生をより効果的に抑制できるため好ましい。
(b-1)トリグリセリド組成中のS3の含有量が1.0~12質量%である。
(b-2)トリグリセリド組成中のS2Uの含有量が50~90質量%である。
(b-3)トリグリセリド組成中のSU2及びU3の合計した含有量が5~40質量%である。
(b-4)脂肪酸残基組成に含まれる飽和脂肪酸残基が、実質的に炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基とで構成され、且つ炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比が1.0~2.5である。
S3はSが3分子結合しているトリグリセリドを表し、S2UはSが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリドを表す。
以下、エステル交換油脂(B)を各条件ごとに述べる。
【0046】
まず条件(b-1)について述べる。上記エステル交換油脂(B)は、トリグリセリド組成中にS3を1.0~12質量%、好ましくは2.0~10質量%含有する。S3の含有量が1.0質量%以上であると、固形脂量が十分に得られるため、液状油成分を留めやすく、マイグレーションが抑制されやすくなり好ましい。
また、12質量%以下であると、得られる焼菓子の食感を損ねずに、マイグレーションを抑制することができるため好ましい。
【0047】
次に条件(b-2)について述べる。上記エステル交換油脂(B)はトリグリセリド組成中にS2Uを50~90質量%、より好ましくは55~75質量%含有する。S2Uの含有量が上記の範囲内であると、得られる焼菓子の食感が、ガリガリとした硬く詰まった噛みだしとなることを防ぐことができ、良好な口溶けとなりやすいため好ましい。また、マイグレーションが一層抑制されるため好ましい。さらに焼菓子生地製造時に室温下で適度な硬さとなり、一層良好な製造作業性を有する油脂組成物となるため好ましい。
【0048】
次に条件(b-3)について述べる。上記エステル交換油脂(B)はトリグリセリド組成中にSU2とU3を合計して5~40質量、好ましくは10~30質量%含有する。SU2とU3との含有量の和が上記範囲内であることで、マイグレーションが一層抑制され、得られる焼菓子の食感が一層良好になるため好ましい。
【0049】
次に条件(b-4)について述べる。上記エステル交換油脂(B)は、その脂肪酸残基組成に含まれる飽和脂肪酸残基が、実質的に炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基とで構成され、且つ炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比が1.0~2.5、好ましくは1.2~2.3、より好ましくは1.3~2.0である。炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比を上記範囲とすることによって、マイグレーションが抑制されるため好ましい。
条件(b-4)における「飽和脂肪酸残基が実質的に炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基とで構成される」とは、脂肪酸残基中の飽和脂肪酸残基に占める、炭素数18の飽和脂肪酸残基と炭素数16の飽和脂肪酸残基の含有量の和が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であることを意味する
【0050】
本発明においては、食感の維持と、複合菓子とした際のマイグレーションの抑制とを両立する観点から、エステル交換油脂(B)の脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基の含有量が50~70質量%であることが好ましく、55~65質量%であることがより好ましい。また、マイグレーションを一層抑制する観点から、エステル交換油脂(B)の脂肪酸残基中の飽和脂肪酸残基に占める炭素数14以下の飽和脂肪酸残基の含量が5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
上記の、条件(b-1)~(b-4)を満たすエステル交換油脂(B)は例えば次のようにして得られる。
まず、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和が、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基の含有量の90質量%以上であり、炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比が好ましくは1.0~2.5、より好ましくは1.2~2.3、最も好ましくは1.3~2.0である油脂配合物を調製する。以下、このエステル交換油脂(B)を得るための油脂配合物を、油脂配合物(B)と記載する場合がある。
【0052】
後述する分別の際の固液分離の効率を高める観点から、上記油脂配合物(B)の脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基(U)に対する飽和脂肪酸残基(S)の質量比(S/U)が2.5~3.2であることが好ましく、2.6~3.0であることがより好ましい。
【0053】
油脂配合物(B)を調製するために用いられる油脂としては、特に制限されず、公知の食用油脂を用いることができる。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びカカオ脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂のうちから1種又は2種以上を選択し、混合して、上記の油脂配合物(B)とすることができる。これらの油脂の中でも、脂肪酸残基組成中の炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量を高め、炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比を上記の好ましい範囲に調整しやすい観点から、パーム油、パーム油の分別硬部油、パーム油の分別軟部油、各種極度硬化油脂のうちから1種又は2種以上を油脂配合物(B)に含有させることが好ましい。
【0054】
上記極度硬化油脂として、例えば、パーム油の極度硬化油脂、大豆油の極度硬化油脂、菜種油の極度硬化油脂、ハイオレイックヒマワリ油の極度硬化油脂及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂などが挙げられる。これらの極度硬化油脂のうち、上記の脂肪酸残基組成中の炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含量や質量比を容易に満たすことができることから、パーム油の極度硬化油脂を用いることが好ましい。
パーム油の極度硬化油脂を用いる場合、例えばパーム油と、パーム油の極度硬化油とを、50:50~70:30の質量比となるように混合することにより、上記条件を満たす油脂配合物を得ることができる。
【0055】
油脂配合物(B)が極度硬化油脂を含む場合、トランス脂肪酸含量を実質的に含有させない観点から、ヨウ素価が5以下である極度硬化油脂を用いることが好ましく、ヨウ素価が3以下である極度硬化油脂を用いることがより好ましい。
【0056】
本発明においては、上記油脂配合物(B)に対して、エステル交換反応を行い、エステル交換油脂を得る。このエステル交換反応は、例えばナトリウムメトキシド等の化学的触媒を用いる手法であっても、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼ等の酵素を用いる手法であっても行うことができ、いずれも常法に従って行うことができる。トリグリセリド組成を複雑なものとし、マイグレーションを抑制する効果を一層高めるために、エステル交換反応を行う際には、ランダムエステル交換を行うことが好ましい。
【0057】
得られたエステル交換油脂を分別することにより、本発明に好ましく用いられるエステル交換油脂(B)が得られる。
【0058】
以下、エステル交換油脂(B)を得るための分別工程について詳述する。
分別工程では、上記のようにして得られたエステル交換油脂、好ましくはランダムエステル交換油脂から、晶析により上記エステル交換油脂の低融点部又は中融点部からなる、エステル交換油脂(B)を得る。晶析とは、融解状態の油脂を冷却結晶化して、結晶部を析出させ、これを結晶部と液状部に分離し、油脂中の成分を分別することを指す。低融点部とは、晶析により、高融点部分を分離除去して得られた低融点画分のことであり、中融点部とは、晶析により、高融点部分と液状画分を分離除去した中融点画分のことである。
尚、中融点部は、例えば晶析により、高融点部分が取り除かれた上記エステル交換油脂の低融点画分に対して、さらに分別を行うことにより、該低融点画分中の高融点画分として得られるものであり、例えば低融点部分が取り除かれた上記エステル交換油脂の高融点画分に対して、さらに分別を行うことにより、該高融点画分中の低融点画分として得られるものである。
【0059】
油脂を晶析により分別する際に、冷却結晶化する方法は特に限定されるものではなく、例えば、(1)撹拌しながら冷却結晶化する方法、(2)静置下で冷却結晶化する方法、(3)撹拌しながら冷却結晶化した後、さらに静置下で冷却結晶化する方法、及び(4)静置下で冷却結晶化した後、機械的撹拌により流動化する方法を挙げることができる。結晶部と液状部との分離が容易な結晶化スラリーが得られる観点から、(1)、(3)及び(4)のいずれかの方法をとることが好ましく、(1)の方法をとることがより好ましい。結晶化温度は、結晶化スラリー中の結晶部の割合、即ち、結晶化温度での上記エステル交換油脂のSFCが下記の範囲となる温度が好ましい。
【0060】
上記ランダムエステル交換油脂の晶析においては、上記の冷却結晶化により得られる結晶化スラリー中の結晶部の割合、即ち、結晶化温度での上記ランダムエステル交換油脂のSFCを10~70%とすることが好ましく、30~60%とすることが好ましく、35~55%とすることが最も好ましい。SFCを上記範囲とすることによって、本発明の油脂組成物として有用な油脂成分のみを選択的に分離する際の効率が上がり、分別の回数を少なくすることが可能となる。
【0061】
上記ランダムエステル交換油脂の冷却温度や時間については、上記ランダムエステル交換油脂のSFCが上記範囲となるような条件が好ましく、例えば、上記ランダムエステル交換油脂が完全溶解した状態から、30分~30時間かけて、30~60℃、好ましくは35~50℃まで冷却し、該温度を30分~80時間、好ましくは1~70時間保持することにより、上記範囲のSFCを満たすことができる。
【0062】
上記ランダムエステル交換油脂の晶析において、完全溶解された上記ランダムエステル交換油脂を上記範囲のSFCとなるまで冷却する際には、急冷及び徐冷のいずれも可能であり、又はこれらを組合せて上記範囲のSFCに調整してもよい。得られた結晶化スラリーの結晶部と液状部との分離を容易にし、且つ得られる液状部の収率を向上させるために、上記ランダムエステル交換油脂の結晶が析出する温度帯以下においては徐冷することが好ましい。
【0063】
本発明において上記ランダムエステル交換油脂を急冷する場合、その冷却速度は5℃/h以上であることが好ましく、5~20℃/hであることがより好ましく、上記ランダムエステル交換油脂を徐冷する場合、その冷却速度は0.3~3.5℃/hであることが好ましく、0.5~3.0℃/hであることがより好ましい。
【0064】
さらに、上記ランダムエステル交換油脂の結晶が析出する温度帯以下においては、上記範囲の好適なSFCが得られる温度まで冷却する過程の中で、冷却により析出した結晶を1回又は2回以上熟成させることができる。本発明における結晶の熟成とは、結晶をより均一なものにすると同時にさらに結晶化を進めて、結晶部と液状部を濾別しやすい結晶状態とし、結果として収率を向上させる操作を指す。具体的には、30~60℃、好ましくは35~50℃の任意の温度で、定温の状態で、30分~80時間保持することによって、熟成を行うことができる。尚、熟成の回数の上限は、特に制限はないが通常は5回、好ましくは4回である。
【0065】
晶析に供する上記ランダムエステル交換油脂の組成に応じて、晶析条件は適宜調整されるが、例えば、完全溶解の状態から47~50℃まで1~2時間で到達するよう急冷した後、結晶化スラリーを得るまでの間に、38~44℃の任意の温度で1回又は2回以上の熟成工程を経る晶析条件が好ましい。各熟成工程間の温度移行は徐冷により行われることが好ましい。
【0066】
結晶部と液状部とを分離する方法としては、自然濾過、吸引濾過、圧搾濾過、遠心分離、及びこれらの組合せ等が挙げられる。分離操作を簡便に、且つ効率的に行うために、フィルタープレスやベルトプレス等を用いた圧搾濾過を選択することが好ましい。上記ランダムエステル交換油脂が、上記結晶化時に、結晶化温度での固体脂含量が高く、高粘度の結晶化スラリーであったり、塊状体が存在したりする場合等においては、濾過時に加わる圧力によってスラリー化させることが容易なので、特に圧搾濾過が適している。
【0067】
圧搾濾過によって分別を行う場合の圧力は、好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.5~5MPaである。圧搾時の圧力は圧搾初期から圧搾終期にかけて徐々に上昇させることが好ましく、その圧力の上昇速度は、好ましくは1MPa/分以下、さらに好ましくは0.5MPa/分以下、最も好ましくは0.1MPa/分以下である。加圧速度が1MPa/分より大きいと、得られるエステル交換油脂(B)の収率が低下する恐れがある。
【0068】
上記油脂配合物(B)の中融点部を得る場合には、一度晶析した後に、得られた結晶部若しくは得られた液状部を、好ましくは上記条件の晶析によって、再度分別することにより中融点部を得ることができる。
【0069】
上記エステル交換油脂(B)は上昇融点が25~45℃であることが好ましく、30~40℃であることがより好ましい。
【0070】
また、上記エステル交換油脂(B)は、10℃のSFCが55~75%であることが好ましく、60~75%であることがより好ましい。20℃のSFCが30~50%であることが好ましく、35~50%であることがより好ましい。30℃のSFCが10~30%であることが好ましく、10~20%であることがより好ましい。SFCを上記範囲とすることで、マイグレーションの発生が抑制されやすく、食感の良好な焼菓子が得られやすい。
【0071】
エステル交換油脂(B)を、上記エステル交換油脂(A)と共に、本発明の油脂組成物に含有させることにより、マイグレーションを一層抑制することのできる油脂組成物を得ることができる。マイグレーションを一層抑制することのできる油脂組成物を得る観点から、本発明の油脂組成物は、油相中に上記のエステル交換油脂(B)を40~85質量%含有することが好ましく、50~80質量%含有することがより好ましく、55~75質量%含有することが最も好ましい。
【0072】
本発明の油脂組成物は、好ましくは上記エステル交換油脂(A)を含有し、より好ましくは上記エステル交換油脂(A)に加えて上記エステル交換油脂(B)を含有する。また、本発明の油脂組成物は、上記条件(1)~(3)を満たす限り、エステル交換油脂(A)及びエステル交換油脂(B)以外のその他油脂を含有してもよい。
その他油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びカカオ脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。上記油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合し用いることができる。油相を構成するトリグリセリド組成を、複雑なトリグリセリド組成とすることにより、マイグレーションの発生を十分に抑制する観点から、ランダムエステル交換油脂が好ましく選択される。
【0073】
本発明の油脂組成物が上記エステル交換油脂(A)及びエステル交換油脂(B)以外に、ランダムエステル交換油脂を含有する場合には、パーム系のランダムエステル交換油脂を含有することが好ましい。ここで、パーム系のランダムエステル交換油脂とは、ランダムエステル交換反応に付す前の油脂配合物中に、パーム系油脂を好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上含有するものであり、このパーム系油脂とは、パーム油やパーム核油、若しくは、パーム油、パーム核油に対し水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を指す。本発明の効果を一層顕著にする観点から、上記のパーム系のランダムエステル交換油脂の含有量は、本発明の油脂組成物の油相中の30質量%以下とすることが好ましく、5~28質量%であることがより好ましい。
【0074】
本発明の油脂組成物においては、上記エステル交換油脂(A)及びエステル交換油脂(B)の合計が、油相の60~100質量%となることが好ましく、70~100質量%となることがより好ましい。
【0075】
本発明の油脂組成物は、実質的にトランス脂肪酸を含まないことが好ましい。ここでいう「実質的にトランス脂肪酸を含まない」とは、油相中、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基としてのトランス脂肪酸の含量が好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下であることを意味する。
【0076】
本発明の油脂組成物には、油脂以外にもその他の成分を含有させることができる。
その他の成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0077】
本発明の油脂組成物は乳化剤を含有することが好ましい。乳化剤としては、例えば、モノグリセリドやジグリセリド等のグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム及びポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化成分が挙げられる。これらの乳化剤の中でも、本発明の油脂組成物は炭素数16以上の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドと、炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドとを、前者:後者で、好ましくは1:2~8、より好ましくは1:2.5~7、さらに好ましくは1:3~6の質量比で含有する。焼菓子生地中に乳脂を含有する場合であっても、マイグレーションの発生を好ましく抑制することができるためである。
【0078】
炭素数16以上の飽和脂肪酸残基を有する上記モノグリセリドは、その構成脂肪酸鎖が炭素数16~22であることが好ましく、16~20であることがより好ましい。また、炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基を有する上記モノグリセリドは、その構成脂肪酸鎖が炭素数16~22であることが好ましく、16~20であることがより好ましい。
【0079】
本発明の油脂組成物における、炭素数16以上の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの含有量と、炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの含有量との和は、油脂組成物中、0.1~1.2質量%であることが好ましく、0.3~1.0質量%であることが好ましい。
【0080】
本発明の油脂組成物は、乳化剤として、ソルビタン脂肪酸エステルを含有することが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルを含有させることで、マイグレーションを一層抑制することができるからである。
本発明においてはマイグレーションを効果的に抑制する観点から、用いられるソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸残基であることが好ましく、炭素数18の飽和脂肪酸残基であることがより好ましい。
【0081】
上記ソルビタン脂肪酸エステルのエステル化率は好ましくは35~85%であり、より好ましくは50~80%である。エステル化率が35%以上であると、マイグレーションを一層抑制することができる。またエステル化率が85%以下のソルビタン脂肪酸エステルは、工業的な生産又は商業的に販売されており市販品の入手が容易であるため好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルのエステル化率(%)は下記式により算出される。下記式中のエステル価及び水酸基価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.3.3-1996 エステル価]及び[2.3.6-1996 ヒドロキシル価]に準じて測定される。

エステル化率(%)={エステル価/(エステル価+水酸基価)}×100
【0082】
本発明の油脂組成物がソルビタン脂肪酸エステルを含有する場合、その含有量は、好ましくは0.1~1.0質量%、より好ましくは0.3~0.7質量%である。マイグレーションの発生を一層効果的に抑制することができる。
【0083】
本発明の油脂組成物は、可塑性を有することが好ましい。油脂組成物の形態は、水相を含有するマーガリンタイプとすることができ、水相を含有しないショートニングタイプとすることもできる。本発明の油脂組成物が水相を含有する場合、水相を含有する場合には、水分含量は25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下がより好ましい。また乳化物である場合には、その乳化形態は、油中水型及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0084】
次に本発明の油脂組成物の製造方法について述べる。
本発明の油脂組成物は、上記条件(1)~(3)を満たすことができる油相を溶解した後、必要に応じ、水相を添加して乳化し、冷却し、結晶化させることにより製造される。
詳しくは、まず、上記条件(1)~(3)を満たすことができるように、各種油脂を1種又は2種以上選択して、加熱溶解し、混合・撹拌を行い、油相を調製する。尚、油溶性のその他の成分については、必要により油相に含有させることができる。また、必要に応じて、水に水溶性のその他の成分を添加した水相を調製した後、該水相を油相に添加し、乳化する。
【0085】
次に、殺菌処理を行うのが好ましい。尚、殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
次に、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、さらに好ましくは-5℃/分以上とする。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組合せ等が挙げられる。
【0086】
本発明の油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、任意に、窒素、空気等を含気させ、可塑性や作業性を向上させることができる。含気させる場合は、本発明の油脂組成物100gに対して、好ましくは10~50cc含入させる。
【0087】
上記のようにして得られた本発明の油脂組成物は、焼菓子に用いた際に良好な口溶けやサクサクとした食感を得ることができ、後述の複合菓子とした際に、マイグレーションが好ましく抑制される。このため、上記の油脂組成物は、焼菓子用として特に優れている。
また、本発明の油脂組成物は、焼菓子用途の他に、バタークリーム用、サンドクリーム用、マーガリン・ショートニング用、アイスクリームやアイスコーティング用、ホイップクリーム等の水中油型乳化油脂の油相、フライ用等に使用することもできる。
【0088】
次に、本発明の焼菓子について述べる。
本発明の焼菓子は、上記の油脂組成物を練込油脂や折込油脂として用いたものである。焼菓子生地が乳脂を含む場合であっても、効果的にマイグレーションを抑制する観点から、本発明の油脂組成物を練込油脂として焼菓子生地中に練込ことが好ましい。
【0089】
上記焼菓子としては、例えば、パイやペストリー、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等のバターケーキ、アイスボックスクッキー、ワイヤーカットクッキー、サブレ、ラングドシャクッキー等のクッキー、ビスケット等が挙げられる。
これらの焼菓子の生地は、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法等、公知の方法によって製造することができ、常法に従って焼成される。
【0090】
焼菓子生地を製造する際の本発明の油脂組成物の使用量は、選択した焼菓子の種類によって決定されるものであり、特に限定されないが、例えば、ワイヤーカットクッキー生地中に5~30質量%含有される。
【0091】
次に、本発明の複合菓子について述べる。
本発明の複合菓子は、本発明の焼菓子用油脂組成物を用いた本発明の焼菓子と油性菓子とを組合せたものである。焼菓子と油性菓子とを組合せるとは、焼菓子の表面に油性菓子を配置するか、又は焼菓子中に油性菓子を配置することをいう。油性菓子としては、例えば、ナッツ類及びチョコレート類等が挙げられる。本発明の焼菓子用油脂組成物の効果が顕著に得られることから、焼菓子とチョコレートとが組合せた複合菓子が好ましい。
【0092】
上記ナッツ類としては、ピーナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、ピーカンナッツ、オーナッツ、マカデミアナッツ、ブラジルナッツ、ココナッツ、松、けし、ヒマワリ等の種実や堅果、それらのホール品・割物品・スライス品、それらを用いたペースト・ピューレ等の加工品等が挙げられる。
【0093】
上記チョコレートとは、カカオマスやココアパウダー等のカカオ成分を含有し、カカオ成分にさらに粉乳等の各種粉末食品、油脂類、糖類、乳化剤、香料、色素等の中から選択した原料を任意の割合で混合し、常法によりロール掛け、コンチング処理して得たものを意味する。もちろん、気相や水相を含有するものも使用することができる。
【0094】
上記各種粉末食品としては、例えば、脱脂粉乳、全粉乳、果実粉末、果汁粉末、生クリーム粉末、チーズ粉末、コーヒー粉末、ヨーグルト粉末等が例示される。各種粉末食品を使用する場合、その配合量は、チョコレート中、好ましくは0.5~60質量%、さらに好ましくは1~50質量%である。
【0095】
上記油脂類としては、カカオバター、その他の動植物性油脂、及びこれらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられ、これらは単独で又は混合して使用することができ、好ましくはテンパリング型のものを使用する。油脂類の配合量は、チョコレート中、好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは30~60質量%である。
【0096】
上記乳化剤としては、特に限定されず、必要に応じて粘度上昇を抑制する目的で、レシチン、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を添加することができる。乳化剤の配合量は、チョコレート中、好ましくは0.01~10質量%、さらに好ましくは0.1~5質量%である。
【0097】
本発明の複合菓子における複合化方法の例としては、チョコレートの場合は、チョコレートをフィリング用、サンド用、トッピング用、コーティング用、エンローバー用等として焼菓子と組合せたり、砕いた焼菓子をチョコレート中に埋め込む方法が挙げられる。また焼成前の焼菓子生地に小片状のチョコレートを分散させる方法も挙げられる。
尚、ナッツ類の場合についても、これに準じて複合することができる。
【0098】
次に、本発明の複合菓子のマイグレーションの発生の抑制方法について述べる。
本発明の複合菓子のマイグレーションの抑制方法は、複合菓子に用いる焼菓子を製造する際に、上記の油脂組成物を用いることを特徴とする。
本方法によれば、焼菓子生地中に乳脂を含有する場合であっても、複合菓子におけるマイグレーションが抑制され、伴って焼菓子の白色化や、油性菓子表面のブルーム等の発生を抑制するものである。
本発明の抑制方法が用いられる複合菓子としては、特に限定されず、上記の油脂組成物を用いて製造された焼菓子と、ナッツ類、チョコレート等の油性菓子が組合せたものを挙げることができるが、マイグレーションを抑制する効果が顕著に得られることから、焼菓子とチョコレートとが組合せた複合菓子に好ましく適用される。
【0099】
上記複合菓子に用いられる焼菓子としては、例えば、パイやペストリー、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等のバターケーキ、アイスボックスクッキー、ワイヤーカットクッキー、サブレ、ラングドシャクッキー等のクッキー、ビスケット等が挙げられ、焼菓子を製造する際に使用される油脂組成物の量は、焼菓子の種類によっても異なるが、例えば、ワイヤーカットクッキー生地中に5~30質量%含有される。
【実施例
【0100】
以下、実施例を基に本発明をさらに詳述する。本発明は以下の実施例に限定されない。
(製造例1:エステル交換油脂(1)の製造)
ハイオレイックヒマワリ油(脂肪酸残基組成中のオレイン酸残基量が80質量%超)70質量部と、ハイエルシン菜種油の極度硬化油(ヨウ素価1未満)30質量部とを、それぞれ加熱溶解した状態で混合して得られた油脂配合物(1)に対し、ナトリウムメトキシドを触媒として、常法に従ってランダムエステル交換反応を行った。この後、常法に従って、漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)及び脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量は対油5質量%)の精製処理を行い、エステル交換油脂(1)(以下、IE-1ともいう。)を得た。
得られたIE-1は、上記のエステル交換油脂(A)に該当する。脂肪酸残基組成中の、飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.54:1であった。脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基に対するオレイン酸残基の割合は92.9質量%であった。また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量は、42.3質量%であった。脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の含有量と18の飽和脂肪酸残基の含有量との和が占める割合は50.4質量%であった。さらに、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドの質量比(BO2/B2O)は4.9、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの和は17.40質量%であった。
【0101】
(製造例2:エステル交換油脂(2)の製造)
パーム油55質量部と、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施したパーム極度硬化油45質量部とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製した。この精製された油脂からドライ分別により高融点部を除去し、常法に従って、漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)及び脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量は対油5質量%)の精製処理を行い、エステル交換油脂(2)を得た。以下、このエステル交換油脂(2)をIE-2ともいう。
上記のIE-2を得るためのドライ分別については次のとおり行った。まず、精製されたランダムエステル交換油脂を完全に溶解した状態(60℃)で、ジャケット付ガラス製晶析槽に投入した。投入したランダムエステル交換油脂を、油脂温度が45℃となるまで8.3℃/時間で急冷し、油脂温度が45℃で3時間の熟成工程を経て、39.5℃で結晶化スラリーを得た。油脂を晶析槽に投入してから上記の3時間の熟成工程を終了するまでの工程は、40rpmで撹拌しながら行った。45℃から39.5℃への温度移行は1℃/時間での徐冷により行った。この結晶化スラリーを濾過分別し、高融点部を除去し、得られた低融点部を常法により精製したものを上記のIE-2として得た。
得られたIE-2は、エステル交換油脂(B)に該当する。IE-2は、トリグリセリド組成中にS3を8.3質量%含有し、S2Uを65.7質量%含有し、SU2とU3の含有量の和が19.5質量%であった。また、IE-2の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量は97.5質量%であった。さらにIE-2の脂肪酸残基組成中の炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比は、1.85であった。また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基の含有量は60.2質量%であった。
【0102】
(製造例3:エステル交換油脂(3)の製造)
ヨウ素価55のパーム分別軟部油80質量部とハイエルシン菜種油の極度硬化油(ヨウ素価1未満)20質量部とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(3)を得た。以下、このエステル交換油脂(3)をIE-3ともいう。
得られたIE-3は、パーム系のランダムエステル交換油脂に該当する。脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で1.31:1であった。脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基に対するオレイン酸残基の割合は79.9質量%であった。また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量は、14.3質量%であった。脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数16と18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は79.6質量%であった。さらに、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドの質量比(BO2/B2O)は5.0、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドの和は2.76質量%であった。
【0103】
(製造例4:エステル交換油脂(4)の製造)
ヨウ素価55のパーム分別軟部油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(4)を得た。以下、このエステル交換油脂(4)をIE-4ともいう。
得られたIE-4は、パーム系のランダムエステル交換油脂に該当する。脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、前者:後者で0.9:1であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は95.3質量%であった。脂肪酸残基組成中の炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比は、9.7であった。また、トリグリセリド組成におけるSU2トリグリセリドとU3トリグリセリドの和は34.3質量%であった。
【0104】
(製造例5:エステル交換油脂(5)の製造)
ヨウ素価65のパーム分別軟部油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(5)を得た。以下、このエステル交換油脂(5)をIE-5ともいう。
得られたIE-5は、パーム系のランダムエステル交換油脂である。脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、前者:後者で0.7:1であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は95.7質量%であった。脂肪酸残基組成中の炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比は、9.2であった。また、トリグリセリド組成におけるSU2トリグリセリドとU3トリグリセリドの和は38.1質量%であった。
【0105】
(製造例6:エステル交換油脂(6)の製造)
パーム核油75質量部、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施したパーム極度硬化油25質量部からなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(6)を得た。以下、このエステル交換油脂(6)をIE-6ともいう。
得られたIE-6は、パーム系のランダムエステル交換油脂である。脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、前者:後者で5.2:1であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は39.0質量%であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における炭素数12の飽和脂肪酸残基の含有量は40.7質量%であった。また、トリグリセリド組成におけるSU2トリグリセリドとU3トリグリセリドの和は3.2質量%であった。
【0106】
上記の6種のエステル交換油脂IE-1~6と、パーム油を用いて、表1に示す油脂配合で油脂組成物A~Lを製造した。各油脂組成物の詳細については、表2にまとめて示した。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
(実施例1)
表1中の油脂配合物A100質量部とレシチン0.1質量部とからなる油相を65℃に加熱溶解した。次に、加熱溶解された油相を、急冷可塑化しながら、油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物Aを得た。
(実施例2)
表1中の油脂配合物Bを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Bを得た。
(実施例3)
表1中の油脂配合物Cを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Cを得た。
(実施例4)
表1中の油脂配合物Dを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Dを得た。
(実施例5)
表1中の油脂配合物Eを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Eを得た。
(実施例6)
表1中の油脂配合物Fを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Fを得た。
(実施例7)
表1中の油脂配合物Gを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Gを得た。
(実施例8)
表1中の油脂配合物Hを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Hを得た。
【0110】
(比較例1)
表1中の油脂配合物Iを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Iを得た。
(比較例2)
表1中の油脂配合物Jを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Jを得た。
(比較例3)
表1中の油脂配合物Kを用いた他は、実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Kを得た。
(比較例4)
表1中の油脂配合物Lを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Lを得た。
【0111】
<チョコレート複合クッキーの製造方法>
上記の実施例1~8、及び比較例1~4で得られた油脂組成物A~Lを用いて、下記配合・製造方法でワイヤーカットクッキーA~Lを製造した。その後、得られたワイヤーカットクッキーとチョコレートとを複合させて、チョコレート複合クッキーを製造した。
【0112】
(ワイヤーカットクッキーの製造方法)
15℃に調温した油脂組成物A~Lのうち1つを27質量部、無塩バター(油分83%)を22.5質量部、上白糖を50質量部だけミキサーボウルに量って、卓上ミキサーにセットし、軽く混合した後、高速で7分間クリーミングした。次いで、低速で混合しながら、30秒かけて水11.5質量部を添加した後、全卵(油分10.3%)12質量部、食塩1質量部を添加し、さらに1分混合した。ここに、予め混合して篩っておいた薄力粉(油分1.7%)100質量部とベーキングパウダー1質量部との混合物を添加し、低速で1分混合して、ワイヤーカットクッキー生地を得た。得られたワイヤーカットクッキー生地A~Lは、含まれる油脂中の38.4質量%が乳脂であった。
得られたクッキー生地を、厚さ7ミリ、直径48ミリの丸型にワイヤーカット成型した。成型したクッキー生地をオーブン(フジサワ社製)で、上火180℃下火170℃にて17分焼成後、25℃にて40分冷却し、ワイヤーカットクッキーA~Lを得た。ワイヤーカットクッキーの後の英字は使用した油脂組成物に対応している。
【0113】
(チョコレートとの複合化方法)
まず、複合化させるチョコレートを、砂糖44.6質量部、カカオマス25質量部、カカオバター30質量部及びレシチン0.4質量部からなる配合にて、常法に従い、溶解、ロール掛け、コンチング処理し、テンパー型チョコレートとして調製した。続いて、得られたテンパー型チョコレートをテンパリングし、ワイヤーカットクッキーA~Lの重量に対して3倍量をカップに量り、ここに上記ワイヤーカットクッキーA~Lを表面が出るように浸して、チョコレート複合クッキーA~Lを製造した。チョコレート複合クッキーの後の英字は使用した油脂組成物に対応している。
【0114】
(チョコレート複合クッキーの評価方法)
得られたチョコレート複合クッキーA~Lのクッキー部分の保存安定性(白色化現象の発生の有無)及びチョコレート部分の保存安定性(ブルーム現象の発生の有無)、チョコレート複合クッキーのクッキー部分の食感、並びにチョコレート複合クッキーの保存中のマイグレーションについて、下記評価基準に則って評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0115】
(チョコレート複合クッキーの保存安定性)
チョコレート複合クッキーA~Lを25℃で保存し、保存開始から60日後のクッキー部分の保存安定性(白色化現象の発生の有無)及びチョコレート部分の保存安定性(ブルーム現象の発生の有無)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。
クッキー部分の保存安定性の評価基準
◎:白色化なし
〇:表面にやや色ムラあり
△:若干白色化
×:白色化あり
チョコレート部分の保存安定性の評価基準
◎:ブルームなし
○:やや艶がない
△:若干ブルームあり
×:ブルームあり
【0116】
(チョコレート複合クッキーのクッキー部分の食感)
チョコレート複合クッキーA~Lを25℃で保存し、保存開始から60日後のクッキーの食感(噛みだし、口溶け、口中での崩壊性)について、同一の品を喫食した際に同一の評価点を付すことができるように訓練された10人のパネラーにより、下記評価基準に従って4段階で官能評価を行った。評価の際には、チョコレート複合クッキーと同一の保存条件で保存された、複合化されていないクッキーを対照品として用いた。
表3においては、パネラー10名の合計点を評価点数として、評価点数が32~40点を◎、23~31点を○、14~22点を△、13点以下を×として示した。
【0117】
評価基準
4点:非常に口溶けやバラけがよく、良好なサクサクとした噛みだしを有している。
3点:口溶け・バラけがよく、やや目が詰まっているが、サクサクとした噛みだしを有している。
2点:口溶けやバラけがやや悪く、目が詰まっていて、固い噛みだしを有している。若しくは、口溶け・バラけはよいが、軟らかく、サクサクとした噛みだしが乏しかった。
1点:口溶け・バラけが悪い上、噛みだしが固く、ガリガリとした食感を有している。若しくは、口溶け・バラけはよいが、軟らかく、サクサクとした噛みだしが感じられなかった。
【0118】
(チョコレート複合クッキーの保存中のマイグレーション評価)
チョコレート複合クッキーA~Lの製造直後に、得られたチョコレート複合クッキーのクッキー部分について、SMART System5(CEM Japan社製)を使用して油分を測定した。チョコレート複合クッキーを25℃で保存し、保存開始から60日後において、チョコレート複合クッキーのクッキー部分について、製造直後と同様にして油分を測定した。製造直後及び保存後の油分の値から、油分移行率を次式により求めた。

〔(A-B)/A〕×100 (%)
(A:製造直後のクッキーの油分、B:保存後のクッキーの油分)
【0119】
表1においては、油分移行率が30%以下を-、30%超35%以下を±、35%超45%以下を+、45%超を++として示した。油分移行率が高いほど、チョコレート複合クッキーにおけるクッキーからチョコレートへの油分の移行が多いことを示す。チョコレート複合クッキーの保存中のマイグレーションの評価については、-又は±の評点が得られたものを合格として取り扱った。それ以外の評価については、◎又は○の評点が得られたものを合格として取り扱った。
【表3】
【0120】
これらの試験により、使用した油脂組成物の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基が一定程度含有されることで、クッキー部分の保存安定性が高まる傾向にあることがうかがわれた。
一方で、例えばチョコレート複合クッキーAとチョコレート複合クッキーKを比較すると、同等程度に脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基量であるにも関わらず、その評価が分かれている。このことからも分かるとおり、単に炭素数20以上の飽和脂肪酸残基が含有されていればよいのではなく、BO2の形態で含有されることで、マイグレーションを抑えられ、良好な外観や食感が得られやすいことが確認された。
また、チョコレート複合クッキーJの結果から、単にBO2が多く含まれるだけではなく、用いる油脂組成物のSFCが一定程度高まっていることがマイグレーションの抑制に重要であることが示唆された。
【0121】
<検討2>
上述の油脂組成物A及び油脂組成物Bの配合をベースに、乳化剤の使用について検討した。
【0122】
(実施例1-2)
油脂配合物A99.5質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)を0.4質量部加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物A-2を得。
【0123】
(実施例1-3)
油脂配合物A99.0質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)0.4質量部、ソルビタン脂肪酸エステルとしてソルビタントリステアレート(エステル化率75%)0.5質量部を加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物A-3を得た。
【0124】
(実施例2-2)
油脂配合物B99.5質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)を0.4質量部加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物B-2を得た。
(実施例2-3)
油脂配合物B99.0質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)0.4質量部、ソルビタン脂肪酸エステルとしてソルビタントリステアレート(エステル化率75%)0.5質量部を加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物B-3を得た。
【0125】
得られた油脂組成物A-2、A-3、B-2、B-3を用いて、検討1と同様にチョコレート複合クッキーA-2、A-3、B-2、B-3を製造した。得られたチョコレート複合クッキーA-2、A-3、B-2、B-3を、温度プログラム設定が可能な恒温槽を用いて、18℃での4時間の保管と、27℃での2時間の保管とを、交互に繰り返すサイクル試験を28日間実施した。得られたチョコレート複合クッキーそれぞれに対して、保存開始から、14日後、28日後の時点において、検討1と同じ評価基準で評価を行った。これらの評価結果について、表4に示す。
【0126】
【表4】