(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】端子及び端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20230105BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230105BHJP
H01R 43/16 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R13/03 A
H01R43/16
(21)【出願番号】P 2019042298
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
【審査官】松原 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-164967(JP,A)
【文献】特開2014-164905(JP,A)
【文献】特開2005-298838(JP,A)
【文献】特開2012-155933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 13/03
H01R 43/048,43/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が圧着接続される、金属部材を有する圧着部と、相手接続先と接続されるコネクタ部と、を備える端子であって、
前記圧着部が、溶接により形成された溶接部と該溶接部とは異なる領域である非溶接部とを有し、前記金属部材が、Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が0.10原子%以上、残部がCu及び不可避不純物からなり、
前記金属部材の表面には、めっき膜が設けられておらず、
前記溶接部の、外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が、50原子%以下である端子。
【請求項2】
前記溶接部の、外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が、30原子%以下である請求項1に記載の端子。
【請求項3】
前記添加元素が、Mg、Al、Si、Mn及びZnからなる群から選択された元素の少なくとも1種である請求項1または2に記載の端子。
【請求項4】
板状の金属部材を、端子を展開した形状に対応した平面形状に加工する金属部材加工工程と、
加工した金属部材を曲げ加工して該金属部材の両端部を接触させた接触部を形成することで、電線が挿入される空間を設ける圧着部形成工程と、
前記接触部に所定のエネルギー量のレーザを照射して該接触部をレーザ溶接する溶接工程と、を備え、
前記金属部材が、Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が0.10原子%以上、残部がCu及び不可避不純物からなり、
前記金属部材の表面には、めっき膜が設けられておらず、
前記溶接工程における雰囲気の酸素分圧が、260hpa以下であ
り、前記溶接工程により形成された溶接部の、外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が、50原子%以下である、端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子を製造する際や端子の保管の際の溶接部の変色を防止することで、端子の製造不良率を低減し、優れた外観を有する端子及び該端子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ワイヤハーネスなどにおける電線と端子との接続は、オープンバレル型と呼ばれる端子で電線をかしめて圧着する圧着接続が一般的である。しかし、オープンバレル型端子では、電線と端子の接続部分(接点)に水分等が付着してしまうと、電線や端子に用いられる金属表面の酸化や腐食が進み、接続部分における電気抵抗が上昇してしまう。電線と端子の接続部分における金属の酸化や腐食の進行は、接続部分の割れや接触不良の原因となり、製品寿命と接続信頼性に影響する。
【0003】
また、電線と端子の圧着接続時に加工割れが生じ、この加工割れの部分に水分等が付着してしまうと、やはり、電線や端子に用いられる金属表面の酸化や腐食が進んでしまう。そこで、電線と端子の圧着接続時の加工割れ及び圧着接続後の止水性に優れた端子が求められている。
【0004】
圧着接続時の加工割れ及び圧着接続後の止水性を備えた端子として、筒状圧着部の非溶接部における金属部材に、通常部と焼きなまし部を形成することが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、電線と端子基材の接点に外部からの水分の付着を防止できるので、電線や端子を構成する金属の酸化や腐食を低減することが可能となり、また、端子が焼きなまし部を有することにより、筒状圧着部の圧着時の加工割れを防止するものである。
【0005】
一方で、オープンバレル型端子では、筒状圧着部を形成するために、筒状圧着部に対してレーザ溶接等の溶接を行うことがある。レーザ溶接等の溶接を行うと、溶接条件や端子の合金組成、個体差、ロット差等によっては、筒状圧着部に形成される溶接部に変色が発生することがある。
【0006】
溶接部に変色が発生すると、端子の品質上問題がない場合でも、端子製造工程中における視覚的及び/または情報処理的に行われる品質管理工程や、製造した端子の保管後に実際に電線に端子を装着する際や端子使用の際に、端子の製造不良と判断されることがある。従って、溶接部に変色が発生すると、端子の品質上問題がない場合でも、端子の製造不良率が向上してしまうことがある。また、溶接部の変色は、外観不良とされて、やはり、端子の製造不良と扱われることがある。従って、従来の端子では、溶接部の変色を防止することに、改善の余地があった。本発明者らは、溶接時に発生する溶接部の変色は、溶接部に生じる銅の酸化膜厚の厚さの相違によって、溶接部の干渉色に違いが出ることが原因であるとの知見を得、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、端子を製造する際や端子の保管、使用の際に、圧着部の溶接部の変色が防止されることで、端子の製造不良の発生を防止でき、また、優れた外観を有する端子、及び該端子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]電線が圧着接続される、金属部材を有する圧着部と、相手接続先と接続されるコネクタ部と、を備える端子であって、
前記圧着部が、溶接により形成された溶接部と該溶接部とは異なる領域である非溶接部とを有し、前記金属部材が、Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が0.10原子%以上、残部がCu及び不可避不純物からなり、
前記溶接部の、外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が、50原子%以下である端子。
[2]前記溶接部の、外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が、30原子%以下である[1]に記載の端子。
[3]前記添加元素が、Mg、Al、Si、Mn及びZnからなる群から選択された元素の少なくとも1種である[1]または[2]に記載の端子。
[4]板状の金属部材を、端子を展開した形状に対応した平面形状に加工する金属部材加工工程と、
加工した金属部材を曲げ加工して該金属部材の両端部を接触させた接触部を形成することで、電線が挿入される空間を設ける圧着部形成工程と、
前記接触部に所定のエネルギー量のレーザを照射して該接触部をレーザ溶接する溶接工程と、を備え、
前記金属部材が、Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が0.10原子%以上、残部がCu及び不可避不純物からなり、前記溶接工程における雰囲気の酸素分圧が、260hpa以下である端子の製造方法。
【0010】
上記[1]の態様では、Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素(以下、単に「添加元素」ということがある。)が0.10原子%以上、残部がCu及び不可避不純物からなる金属部材が、端子の圧着部に用いられることにより、圧着部の溶接部では、Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が銅よりも先に酸化される。従って、溶接部に生じる銅の酸化膜厚の厚さの相違を防止でき、結果、溶接部の干渉色に違いが出ることを防止できる。また、上記[1]の態様では、前記金属部材を溶接して生じる溶接部では、外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が、50原子%以下に抑制されている。
【0011】
溶接部と溶接されていない部分(以下、「非溶接部」ということがある。)とは、圧着部の断面のSEM(Scanning Electron Microscope)画像を観察することで判別、特定することができるので、本明細書中、「溶接部」とは、SEM画像を観察することで特定した領域を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の端子の態様によれば、端子を製造する際に圧着部に溶接部が形成されるところ、添加元素が0.10原子%以上、溶接部の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が50原子%以下であることにより、溶接部に生じる銅の酸化膜厚の厚さの相違を防止できることから、端子を製造する際や端子の保管、使用の際に、溶接部の変色、特に、溶接部の表層部の変色が、防止される。このように、圧着部に形成される溶接部の変色が防止されることで、端子の製造不良の発生を防止でき、また、優れた外観を得ることができる。
【0013】
本発明の端子の態様によれば、溶接部の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が30原子%以下であることにより、圧着部に形成される溶接部の変色、特に、溶接部の表層部の変色がより確実に防止され、また、より優れた端子の外観を得ることができる。
【0014】
本発明の端子の製造方法の態様によれば、金属部材が、Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が0.10原子%以上、残部がCu及び不可避不純物からなり、溶接工程における雰囲気の酸素分圧が260hpa以下であることにより、溶接部に生じる銅の酸化膜厚の厚さの相違を防止できることから、端子を製造する際や端子の保管、使用の際に、溶接部の変色を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態例に係る端子の概要を説明する斜視図である。
【
図2】筒状圧着部における溶接部と非溶接部を説明した断面図である。
【
図3】首部における溶接部と非溶接部を説明した断面図である。
【
図4】筒状圧着部における、長手方向に対し直交方向の断面のSEM画像である。
【
図5】首部における、長手方向に対し直交方向の断面のSEM画像である。
【
図6】実施例1における、オージェ電子分光測定にて測定した、溶接部表面からの深さと銅及び添加元素の存在比率の結果を示すグラフである。
【
図7】比較例1における、オージェ電子分光測定にて測定した、溶接部表面からの深さと銅及び添加元素の存在比率の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態に係る端子について説明する。まず、本発明の実施形態に係る端子の構造について、図面を用いながら説明する。
図1は、本発明の実施形態例に係る端子の概要を説明する斜視図である。
図2は、筒状圧着部における溶接部と非溶接部を説明した断面図である。
図3は、首部における溶接部と非溶接部を説明した断面図である。
図4は、筒状圧着部における、長手方向に対し直交方向の断面のSEM画像である。
図5は、首部における、長手方向に対し直交方向の断面のSEM画像である。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る端子1は、電線(図示せず)が圧着接続される圧着部である筒状圧着部30と、相手接続先(図示せず)と接続されるコネクタ部20と、筒状圧着部30とコネクタ部20との間に設けられた、筒状圧着部30とコネクタ部20を橋渡しして一体的につなぐ首部(トランジション部)40と、を備えている。
【0018】
コネクタ部20は、例えば、雄型端子の挿入タブを有する構造、雄型端子の挿入タブの挿入を許容するボックス部である。本発明の実施形態において、雄型端子の挿入タブやボックス部の細部の形状は、特に限定されない。本発明の実施形態では、端子1の説明の便宜上、雌型端子の例を示している。
【0019】
筒状圧着部30は、端子1と電線とを圧着接続する部位である。筒状圧着部30の一端は、電線を挿入することができる挿入口31を有し、他端は首部40に接続されている。筒状圧着部30は、電線の挿入方向に沿って延在している。筒状圧着部30の首部40側は、水分等の浸入を防止するために、閉口した閉塞部32となっている。閉塞部32の形成方法は、特に限定されないが、例えば、レーザによる溶接、プレス成型等を挙げることができる。本明細書においては、筒状圧着部30と首部40の境界について、電線と端子1とが圧着接続される部分から挿入口31までの部位、すなわち、筒状圧着部30の閉塞部32から挿入口31までの部位が筒状圧着部30である。端子1の筒状圧着部30は、形状が筒状であれば止水性に対して一定の効果を得られるので、端子1の使用条件等に応じて、長手方向の形状やサイズは、適宜選択可能である。
【0020】
端子1は、溶接により筒状圧着部30が形成されていることから、筒状圧着部30には溶接により形成された溶接部72が形成されている。筒状圧着部30は、金属部材の曲げ加工により、断面がC字形状の圧着部を形成した上で、該圧着部をその向かい合う両端で溶接して、金属部材の筒状圧着部30を形成する。このように、筒状圧着部30を形成する溶接は、電線の挿入方向に沿って、筒状圧着部30の挿入口31から閉塞部32まで行われるので、筒状圧着部30において、溶接部72は挿入口31から閉塞部32まで延在している。溶接部72の寸法は、特に限定されないが、例えば、筒状圧着部30の電線の挿入方向に対して直交する断面において、溶接痕(溶接ビート)の領域が、それ以外の領域の2~5%の面積率を有するように溶接する。
【0021】
図4に示すように、筒状圧着部30の断面のSEM画像を観察することで、筒状圧着部30における溶接部72と非溶接部71を判別、特定することができるので、筒状圧着部30における溶接部72は、SEM画像を観察することで特定した領域を意味する。
図4では、中央部が溶接部であり、溶接部の両側が非溶接部である。この場合、必要に応じて、筒状圧着部30の断面をエッチングすることで、SEM画像による溶接部72の判別、特定を容易化できる。筒状圧着部30の断面のSEM画像を観察することで、
図2に示すように、筒状圧着部30の溶接部72と非溶接部71を判別、特定することができる。
【0022】
筒状圧着部30では、筒状圧着部30を構成する金属部材と電線とが圧着接続されることにより、電線と端子1を機械的に接続し且つ電気的にも接続する。筒状圧着部30は、かしめ治具を用いてかしめることにより、電線を圧着接続することができる。筒状圧着部30に電線が圧着接続されることで、電線の終端接続構造体が形成される。このような接続構造体を複数束ねることによって、例えば、自動車用ワイヤハーネスとすることができる。
【0023】
首部40は、筒状圧着部30の閉塞部32から閉塞状態を維持したままコネクタ部20の方向へ延在した部位である。首部40は、電線の挿入方向に対して直交方向において対向する金属部材の部位が接した状態となっている。従って、首部40は、電線の挿入方向に対して直交方向における断面積がコネクタ部20及び筒状圧着部30の上記断面積よりも小さい構造となっている。
【0024】
端子1は、溶接により首部40が形成されていることから、首部40には溶接により形成された溶接部74が形成されている。首部40は、金属部材の折り曲げ加工により、金属部材の重ね合わせ部を形成した上で、該重ね合わせ部の重ね合わせ方向から、該重ね合わせ部を電線の挿入方向に対して直交方向に幅方向全体にわたって溶接して、金属部材の首部40を形成する。重ね合わせ部の重ね合わせ方向から首部40がその幅方向全体にわたって溶接されることにより、溶接部74は首部40の幅方向全体にわたって延在している。首部40がその幅方向全体にわたって溶接されることで、首部40に封止性が付与される。
【0025】
図5に示すように、首部40の断面のSEM画像を観察することで、首部40における溶接部74と非溶接部71を判別、特定することができるので、首部40における溶接部74は、SEM画像を観察することで特定した領域を意味する。
図5では、中央部が溶接部であり、溶接部の両側が非溶接部である。この場合、必要に応じて、首部40の断面をエッチングすることで、SEM画像による溶接部74の判別、特定を容易化できる。筒状圧着部30の断面のSEM画像を観察することで、
図3に示すように、首部40の溶接部74と非溶接部71を判別、特定することができる。
図3は、端子1を筒状圧着部30の溶接部72と非溶接部71のうち筒状圧着部30の溶接部72に対向する領域にそって、首部40を縦割りにした断面の説明図である。
【0026】
首部40における溶接部74の幅、すなわち、首部40の電線挿入方向における溶接部74の寸法は、特に限定されないが、首部40の溶接部74における封止性を確実に得つつ、首部40の機械的強度と耐久性をさらに向上させる点から、溶接部74の部位における首部40の厚さの0.1倍以上2倍以下が好ましく、0.3倍以上1倍以下が特に好ましい。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る端子1に用いる金属部材について説明する。端子1に用いる金属部材は板材であり、板材の金属部材を所定形状に曲げ加工し、曲げ加工した金属部材を溶接して首部40と筒状圧着部30を形成することで、端子1を製造することができる。端子1に電線(例えば、アルミニウム電線)を圧着接続するためには、所定の肉厚を有する端子1とする。端子1に用いる板材の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.2mm以上0.7mm以下が挙げられる。
【0028】
端子1に用いる金属部材の成分としては、銅(Cu)よりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が0.10原子%以上、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなる銅合金を用いる。上記金属部材が用いられることにより、従来用いられる通常の溶接条件にて形成された溶接部72、74について、溶接部72、74の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が、50原子%以下に抑制することができる。
【0029】
溶接部72、74の外表面からの深さにおけるCuの平均濃度ではなく、溶接部72、74の外表面から10nm以上の深さにおけるCuの平均濃度とするのは、溶接部72、74における金属部材表面には、溶接により生じるコンタミ層が形成され、溶接部72、74の表面から10nm未満の深さの範囲では、コンタミ層の影響により、変色に影響を与える溶接部の成分が正しく評価できないためである。一方で、溶接部72、74の外表面から200nmまでの深さにおけるCuの平均濃度とするのは、端子1の外観の変色に関連する金属部材表層部の成分を測定するためである。上記から、本発明の実施形態に係る端子1では、溶接部72、74について、外表面から10nm以上200nm以下の深さの範囲におけるCuの平均濃度が制御される必要がある。
【0030】
端子1に用いる金属部材の添加元素の合計が0.10原子%以上、溶接部72、74の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が50原子%以下であることにより、溶接部72、74に生じるCuの酸化膜厚の厚さの相違を防止できることから、端子1を製造する際や端子1の保管、使用の際に、溶接部72、74の変色、特に、溶接部72、74の表層部の変色が、防止される。このように、溶接部72、74の変色が防止されることで、端子1の製造不良の発生を防止でき、また、優れた端子1の外観を得ることができる。
【0031】
溶接部72、74の変色が防止される点では、金属部材の添加元素の合計の濃度は0.10原子%以上であれば、特に限定されないが、溶接部72、74に生じるCuの酸化膜厚の厚さの相違をより確実に防止することで溶接部72、74の変色がより確実に防止される点から、0.20原子%以上が好ましく、2.0原子%以上がより好ましく、5.0原子%以上がさらに好ましく、10.0原子%以上が特に好ましい。一方で、金属部材に添加される添加元素の合計の濃度の上限値は、溶接部72、74の変色が防止される点では、高いほど好ましいが、端子1として必要な他の特性(例えば、機械的強度、金属組織に対する欠陥発生の防止等)とのバランスの点から、15原子%以下が好ましい。
【0032】
Cuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素、すなわち、Cuよりも酸化されやすい添加元素としては、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)等が挙げられる。これらのうち、溶接部72、74に生じるCuの酸化膜厚の厚さの相違をより確実に防止することで溶接部72、74の変色がより確実に防止される点から、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)が好ましい。上記した添加元素は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
溶接部72、74の外表面から10nm以上200nm以下の深さの範囲におけるCuの平均濃度は50原子%以下であれば、特に限定されないが、溶接部72、74に生じるCuの酸化膜厚の厚さの相違をより確実に防止することで溶接部72、74の変色がより確実に防止される点から、45原子%以下がより好ましく、30原子%以下が特に好ましい。一方で、接部72、74の外表面から10nm以上200nm以下の深さの範囲におけるCuの平均濃度の下限値は、低いほど好ましいが、例えば、5.0原子%が挙げられる。端子1では、溶接部72、74の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度は50原子%以下なので、溶接部72、74の外表面から10nm以上200nm以下の深さの範囲における添加元素の合計の平均濃度は、50原子%以上となり得る。
【0034】
なお、溶接部72、74の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度は、例えば、オージェ電子分光測定法により測定することができる。
【0035】
端子1に用いる金属部材には、上記添加元素に加えて、必要に応じて、さらに、Cuよりも高い酸素分圧にて酸化される元素、すなわち、Cuよりも酸化されにくい元素(以下、「任意元素」ということがある。)が添加されていてもよい。任意元素としては、例えば、ニッケル(Ni)、すず(Sn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、リン(P)等が挙げられる。端子1に用いる金属部材に上記任意元素が添加されることで、溶接部72、74の変色防止特性以外の他の特性(例えば、機械的特性、金属組織に対する欠陥発生の防止等)を端子1に付与することができる。
【0036】
端子1に用いる金属部材の表面には、必要に応じて、ニッケル(Ni)及び/またはすず(Sn)がめっきされためっき膜が設けられていてもよい。これらのめっき膜には、例えば、表面層がすず(Sn)めっき膜で下地層が銅(Cu)めっきまたはニッケル(Ni)めっきといった2層構造のめっき膜が挙げられる。また、表面層がすず(Sn)めっき、中間層が銅(Cu)めっき、下地層がニッケル(Ni)めっきといった3層構造のめっき膜が挙げられる。端子1を構成する金属部材の表面が、上記めっき膜で被覆されていることにより、端子1に耐食性が付与されて、端子1の耐久性向上に寄与する。なお、めっき膜は、必要に応じて、任意成分として、銅(Cu)、銀(Ag)等も含まれた合金のめっき膜でもよく、銅(Cu)めっき、銀(Ag)めっきをさらに設けためっき膜でもよい。めっき膜の厚さは、端子1の使用条件等により適宜調整可能であり、例えば、0.3マイクロメートル(μm)~1.2マイクロメートル(μm)が挙げられる。
【0037】
次に、端子1の製造方法例について説明する。まず、上記成分を有する板状の銅合金からなる金属部材を、端子1を展開した形状に対応した所定の平面形状に加工する(金属部材加工工程)。加工方法としては、例えば、打ち抜き加工が挙げられる。所定の平面形状に加工した金属部材の一端部を曲げ加工することにより、金属部材の両端部を接触させた接触部を形成することで、電線が挿入される空間を設ける(圧着部形成工程)。具体例としては、所定の平面形状に加工した金属部材の一端部を曲げ加工することにより、電線挿入方向に対して直交方向の断面がC字形状の圧着部を形成する。その後、接触部に所定のエネルギー量のレーザを照射して該接触部をレーザ溶接する(溶接工程)。具体例としては、圧着部をその向かい合う両端で溶接して、金属部材の筒状圧着部、すなわち、端子1の筒状圧着部30に対応する部位を形成する。
【0038】
次に、所定の平面形状に加工した金属部材の中間部を電線の挿入方向に沿って左右から折り曲げ加工することにより、金属部材の重ね合わせ部を形成する。その後、該重ね合わせ部の重ね合わせ方向から、該重ね合わせ部を電線の挿入方向に対して直交方向に、該重ね合わせ部の幅方向全体にわたってレーザ溶接して、金属部材の首部、すなわち、端子1の首部40に対応する部位を形成する。その後、所定の平面形状に加工した金属部材の他端部を曲げ加工することにより、コネクタ部20を形成する。
【0039】
端子1の製造方法では、筒状圧着部30に対応する部位を形成するにあたり、圧着部に対する前記溶接工程における雰囲気の酸素分圧を、260hpa以下に制御する。また、必要に応じて、首部40に対応する部位を形成するにあたり、溶接工程における雰囲気の酸素分圧を、260hpa以下に制御する。上記成分を有する銅合金からなる金属部材において、溶接工程における雰囲気の酸素分圧を260hpa以下に制御することで、溶接時におけるCuの酸化が抑制される。従って、溶接部72、74に生じるCuの酸化膜厚の厚さの相違を防止でき、ひいては、溶接部72、74の変色が防止される。
【0040】
溶接工程における雰囲気の酸素分圧を、260hpa以下に制御する方法としては、例えば、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを含む雰囲気中、またはアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを含むガスが対流している雰囲気中にて、溶接する方法が挙げられる。溶接工程における雰囲気の酸素分圧は260hpa以下であれば、特に限定されないが、添加元素の添加量を抑制しつつ、溶接部72、74に生じるCuの酸化膜厚の厚さの相違をより確実に防止することで溶接部72、74の変色がより確実に防止される点から、200hpa以下が好ましく、100hpa以下がより好ましく、50hpa以下が特に好ましい。一方で、溶接工程における雰囲気の酸素分圧の下限値は、変色がより確実に防止される点から、低いほど好ましが、例えば、1.0hpaが挙げられる。
【0041】
電線の芯線としては、例えば、銅合金線、アルミニウム合金線などが挙げられる。アルミニウム合金芯線の具体例としては、鉄(Fe)を約0.2質量%、銅(Cu)を約0.2質量%、マグネシウム(Mg)を約0.1質量%、シリコン(Si)を約0.04質量%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物からなるアルミニウム芯線が挙げられる。他の合金組成として、Feを約1.05質量%、Mgを約0.15質量%、Siを約0.04質量%、残部がAlおよび不可避不純物のもの、Feを約1.0質量%、Siを約0.04質量%、残部がAlおよび不可避不純物のもの、Feを約0.2質量%、Mgを約0.7質量%、Siを約0.7質量%、残部がAlおよび不可避不純物のものなどが挙げられる。これらは、さらにTi、Zr、Sn、Mn等の合金元素を含んでいてもよい。芯線の絶縁被覆として使用する被覆材としては、例えば、PE、PPなどのポリエレフィンを主成分としたもの、PVCを主成分としたもの等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1~10、比較例1~3
端子の製造方法
下記表1に示す銅合金からなる金属部材を用いて、上記した構成を有する実施形態の端子を製造した。具体的には、下記表1に示す成分を有する板厚1.0mmの板状の銅合金を、端子を展開した形状に対応した平面形状にプレス打抜きにより加工した。所定の平面形状に加工した板状の銅合金の一端部を曲げ加工することにより、電線挿入方向に対して直交方向の断面がC字形状の圧着部を形成した。次に、所定の平面形状に加工した板状の銅合金の中間部を電線の挿入方向に沿って左右から折り曲げ加工により、銅合金の重ね合わせ部を形成した。次に、所定の平面形状に加工した金属部材の他端部を曲げ加工することにより、コネクタ部を形成した。その後、予め特定しておいた最適溶接条件に対し±1%、±5%、±10%のレーザ出力及び下記表1に示す酸素分圧の雰囲気下にて、圧着部を対向する両端にレーザを照射してレーザ溶接することで端子の筒状圧着部を形成し、また、上記重ね合わせ部の重ね合わせ方向から、該重ね合わせ部を電線の挿入方向に対して直交方向に該重ね合わせ部の幅方向全体にわたってレーザを照射してレーザ溶接することで端子の首部を形成した。アルミニウム電線としては断面積5mm2のものを用いた。電線挿入方向に対して直交方向における筒状圧着部の断面積は、アルミニウム電線の上記断面積に対応して14mm2とした。その後、アルミニウム電線を筒状圧着部に挿入し、アルミニウム電線を端子に圧着した。なお、レーザを照射することで形成された溶接部について、レーザ照射面と反対側の面が凝固するレーザ出力の最小値を最適溶接条件とした。
【0044】
レーザ溶接の実験条件は、下記の通りである。
・使用レーザ光源:半導体レーザ
・ガルバノスキャナ(非テレセントリック)を用いた掃引照射
・レーザ光出力:800W
・掃引速度:50~500mm/sec.
・全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポットサイズ:30μm)
【0045】
端子の製造に用いた銅合金の成分組成、銅合金のめっき膜の成分、レーザ溶接時の雰囲気の酸素分圧について、下記表1に示す。
【0046】
【0047】
変色評価
溶接部表面の幅方向の中央部分を300倍で撮影したカラー写真を対し、カラーチェッカー(エックスライト社製)の中で最も近い色を選んだ。上記操作を溶接部の長手方向に3mmの等間隔で3箇所実施し、3箇所とも同じ色が選ばれた場合には、変色なしと評価して、下記表2にて「○」と表記し、3箇所のうち1箇所でも異なる色が選ばれた場合には、変色ありと評価して、下記表2にて「×」と表記した。
【0048】
溶接部表面からの深さと銅及び添加元素の存在比率の関係は、オージェ電子分光測定機(アルバック・ファイ株式会社製、「Model 680」)にて測定した。実施例1における、溶接部表面からの深さと銅及び添加元素の存在比率の測定結果を
図6に、比較例1における、溶接部表面からの深さと銅及び添加元素の存在比率の測定結果を
図7に、それぞれ示す。なお、実施例2~10、比較例2~3についても、実施例1、比較例1と同様にして、オージェ電子分光測定にて、溶接部表面からの深さと銅及び添加元素の存在比率を測定した。
【0049】
溶接部表面からの深さと銅及び添加元素の存在比率の測定結果から得られた、溶接部の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度(10nm以上200nm以下のCu平均濃度)と溶接条件を変動させた際の溶接部の変色の有無を、下記表2に示す。
【0050】
【0051】
表1、2から、金属部材としてCuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素が0.10原子%以上含まれる銅合金を用い、溶接部の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が50原子%以下である実施例1~10の端子では、レーザ溶接時の雰囲気の酸素分圧が260hpa以下において、最適溶接条件に対しレーザ出力が少なくとも±1%変動しても、溶接部の変色を防止できた。また、溶接部の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が45原子%以下である実施例3~5、7~10の端子では、最適溶接条件に対しレーザ出力が少なくとも±5%変動しても、溶接部の変色を防止できた。また、溶接部の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が30原子%以下である実施例7~10の端子では、最適溶接条件に対しレーザ出力が±10%変動しても、溶接部の変色を防止できた。
【0052】
また、添加元素としてMg、Al、Si、Mn及びZnからなる群から選択された元素の少なくとも1種を使用した実施例1~4、7~10は、添加元素としてCoを使用した実施例5、6と比較して、溶接部の変色をより確実に防止できた。
【0053】
一方で、金属部材としてCuよりも低い酸素分圧で酸化される添加元素の含有量が0.05原子%以下である銅合金を用い、溶接部の外表面から10nm以上200nm以下の深さにおけるCuの平均濃度が65原子%以上である比較例1~3の端子では、レーザ溶接時の雰囲気の酸素分圧を260hpa以下に制御しても、最適溶接条件に対しレーザ出力が±1%変動しても、溶接部の変色が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の端子は、端子を製造する際や端子の保管、使用の際に溶接部の変色が防止されることで、製造不良の発生を防止でき、また、優れた外観を有するので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、自動車用ワイヤハーネス、ロボット用、船舶用、航空機用の配線体の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 端子
20 コネクタ部
30 筒状圧着部
40 首部
72 筒部圧着部の溶接部
74 首部の溶接部