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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230105BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019061996
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020162376
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100130247
【弁理士】
【氏名又は名称】江村 美彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】奥寺 暁大
(72)【発明者】
【氏名】平山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】杉村 竹三
(72)【発明者】
【氏名】遠山 陽平
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-047260(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023556(WO,A1)
【文献】特開2014-220486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部ダイオードを有する2つの半導体スイッチが直列接続されて構成される第1アームと、
前記第1アームと並列接続され、前記内部ダイオードを有する2つの前記半導体スイッチが直列接続されて構成される第2アームと、
前記第1アームの中間点と、前記第2アームの中間点とにそれぞれ設けられ、負荷が接続される出力端子と、
前記第1アームおよび前記第2アームを構成する前記半導体スイッチを所定の周期でオン/オフ制御することで、前記第1アームおよび前記第2アームに印加される直流電力を交流電力に変換する制御を行う制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記第1アームおよび前記第2アームを構成する前記半導体スイッチのいずれかが有する前記内部ダイオードに順方向の電流が流れる場合には、前記内部ダイオードの当該内部ダイオードを有する前記半導体スイッチを、前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御することで、前記内部ダイオードを流れる電流の傾きを抑制する制御を行う、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1アームおよび前記第2アームを構成する4つの前記半導体スイッチのうち一方の対角線上に位置する2つの前記半導体スイッチをオンの状態にすることで前記負荷に電流を通じている際に、過電流が検出された場合にはオンの状態にされている2つの前記半導体スイッチの一方をオフの状態にするとともに、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御することで前記内部ダイオードを流れる電流の傾きを抑制する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記過電流が検出された場合には、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御するとともに、デューティ比が増加するように制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記過電流が検出された場合には、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御するとともに、オン時の制御電圧が増加するように制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1アームおよび前記第2アームを構成する4つの前記半導体スイッチのうち一方の対角線上に位置する2つの前記半導体スイッチをPWM制御に応じてオンの状態にすることで前記負荷に電流を通じている際に、過電流が検出された場合にはオンの状態にされている2つの前記半導体スイッチの一方をオフの状態にするとともに、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期であって、前記過電流を検出した時点における前記PWM制御のパルス幅に応じたデューティ比によりオン/オフ制御することで前記内部ダイオードを流れる電流の傾きを抑制する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記半導体スイッチをオフからオンに切り換える際に、当該半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフする制御を所定の期間実行することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記半導体スイッチは、カスコード型GaN-HEMTであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、逆変換器および制御部を備える電力変換装置において、逆変換器は、ワイドバンドギャップ半導体のスイッチング素子を備える複数の上アームおよび下アームを有し、制御部は、逆変換器に過電流が流れた際に、上下アームの内の一方であり過電流の経路上に配置される第1アームをオフにし、かつ、第1アームの対となる第2アームをオンにした後に、第2アームに流れる電流に応じて第2アームをオフにすることで、大きな電流がボディダイオードに流れ、通電劣化現象が加速されることを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-226197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された技術では、帰還経路に流れる電流が一定の閾値を超えないように制御する。しかしながら、特定のスイッチング素子の場合には、電流の傾きであるdi/dtについても制御する必要があるが、特許文献1に開示された技術では、電流の傾きについては制御することができないという問題点がある。
【0005】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、電流の傾きについても制御可能な電力変換装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一側面は、内部ダイオードを有する2つの半導体スイッチが直列接続されて構成される第1アームと、前記第1アームと並列接続され、前記内部ダイオードを有する2つの前記半導体スイッチが直列接続されて構成される第2アームと、前記第1アームの中間点と、前記第2アームの中間点とにそれぞれ設けられ、負荷が接続される出力端子と、前記第1アームおよび前記第2アームを構成する前記半導体スイッチを所定の周期でオン/オフ制御することで、前記第1アームおよび前記第2アームに印加される直流電力を交流電力に変換する制御を行う制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記第1アームおよび前記第2アームを構成する前記半導体スイッチが有する前記内部ダイオードに順方向の電流が流れる場合には、当該内部ダイオードを有する前記半導体スイッチを、前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御することで、前記内部ダイオードを流れる電流を抑制する制御を行う、ことを特徴とする。
このような構成によれば、電流の傾きについても制御が可能になる。
【0007】
また、本発明の一側面は、前記制御手段は、前記第1アームおよび前記第2アームを構成する4つの前記半導体スイッチのうち一方の対角線上に位置する2つの前記半導体スイッチをオンの状態にすることで前記負荷に電流を通じている際に、過電流が検出された場合にはオンの状態にされている2つの前記半導体スイッチの一方をオフの状態にするとともに、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御することで前記内部ダイオードを流れる電流を抑制する制御を行うことを特徴とする。
このような構成によれば、過電流の検出に応じて、短い周期でスイッチングすることで、内部ダイオードを流れる電流の傾きを抑制することができる。
【0008】
また、本発明の一側面は、前記制御手段は、前記過電流が検出された場合には、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチ前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御するとともに、デューティ比が増加するように制御を行うことを特徴とする。
このような構成によれば、オフの状態にした半導体スイッチが有する内部ダイオードを流れる電流の傾きを抑制することができる。
【0009】
また、本発明の一側面は、前記制御手段は、前記過電流が検出された場合には、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフ制御するとともに、オン時の制御電圧が増加するように制御を行うことを特徴とする。
このような構成によれば、電流の傾きが徐々に増加するように制御することができる。
【0010】
また、本発明の一側面は、前記制御手段は、前記第1アームおよび前記第2アームを構成する4つの前記半導体スイッチのうち一方の対角線上に位置する2つの前記半導体スイッチをPWM制御に応じてオンの状態にすることで前記負荷に電流を通じている際に、過電流が検出された場合にはオンの状態にされている2つの前記半導体スイッチの一方をオフの状態にするとともに、オフの状態にした前記半導体スイッチと同じアームにおける他方の前記半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期であって、前記過電流を検出した時点における前記PWM制御のパルス幅に応じたデューティ比によりオン/オフ制御することで前記内部ダイオードを流れる電流を抑制する制御を行うことを特徴とする。
このような構成によれば、PWMのパルス幅に応じた制御により、内部ダイオードを流れる電流の傾きを抑制することができる。
【0011】
また、本発明の一側面は、前記制御手段は、前記半導体スイッチをオフからオンに切り換える際に、当該半導体スイッチを前記所定の周期よりも短い周期でオン/オフする制御を所定の期間実行することを特徴とする。
このような構成によれば、半導体スイッチの切り換えの際に生じる電流の傾きについても抑制することができる。
【0012】
また、本発明の一側面は、前記半導体スイッチは、カスコード型GaN-HEMTであることを特徴とする。
このような構成によれば、カスコード型GaN-HEMTの内部ダイオードを流れる電流の傾きを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電流の傾きについても制御可能な電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来例の構成と流れる電流を説明するための図である。
図2】従来例の動作を説明するための図である。
図3】従来例の構成と流れる電流を説明するための図である。
図4】従来例の構成と流れる電流を説明するための図である。
図5】従来例の動作を説明するための図である。
図6】従来例の構成と流れる電流を説明するための図である。
図7】従来例の動作を説明するための図である。
図8】従来例の動作を説明するための図である。
図9】カスコード型GaN-HEMTの構成例を示す図である。
図10図9に示すカスコード型GaN-HEMTの動作を説明するための図である。
図11】本発明の構成例を示す図である。
図12図11に示す構成例を制御する論理回路の構成例である。
図13図12に示す論理回路に入力される信号を生成する回路の構成例である。
図14図12に示す論理回路の構成例である。
図15図14に示す論理回路の動作を示す真理値表である。
図16図14に示す論理回路の動作を示す真理値表である。
図17】本発明の実施形態の動作を説明するための図である。
図18】本発明の変形実施形態の動作を説明するための図である。
図19】本発明の変形実施形態の動作を説明するための図である。
図20】本発明の変形実施形態の動作を説明するための図である。
図21】本発明の変形実施形態の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について説明する。以下では、図1図8を参照して、従来の電力変換装置における過電流を抑制する動作について説明した後、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、従来の電力変換装置10の構成例を示す図である。図1に示す例では、電力変換装置10は、内部ダイオード15,16を有する半導体スイッチ11,12(以下、適宜Q1,Q2と称する)が直列接続された第1アーム112と、内部ダイオード17,18を有する半導体スイッチ13,14(以下、適宜Q3,Q4と称する)が直列接続された第2アーム134とを有している。半導体スイッチ11のソースおよび半導体スイッチのドレインと、半導体スイッチ13のソースおよび半導体スイッチ14のドレインとの間には出力端子21,22を介して負荷20が接続されている。また、半導体スイッチ11,13のドレインと、半導体スイッチ12,14のソースとの間には電解コンデンサ19が接続されている。
【0017】
ここで、半導体スイッチ11,12が直列接続された第1アーム112は、PWM(Pulse Width Modulation)駆動アームとされ、半導体スイッチ13,14が直列接続された第2アーム134は、極性駆動アームとされる。
【0018】
図2は、図1に示す従来例の動作を説明するためのタイミングチャートである。図2(A)および図2(B)に示すように、半導体スイッチ11,12には、相互に異なる極性のPWMパルスが印加される。また、図2(C)および図2(D)に示すように、半導体スイッチ13,14には、相互に異なる極性の極性パルスが印加される。
【0019】
図2において、矢印で示すタイミングで、負荷20に対して過電流が流れていることが検知されたとする。すなわち、図1(A)に破線の矢印で示すように、半導体スイッチ11、負荷20、および、半導体スイッチ14を介して過電流が通じたとする。このような場合、図示しない制御部は、半導体スイッチ14をオフの状態にする(ゲートブロックする)。これにより、負荷20に流れる電流を遮断することができる。
【0020】
ところで、負荷20がインダクタンス成分を有する場合、電流を遮断しても負荷20に電流が流れ続けようとするので、半導体スイッチ14をオフの状態にすると、図1(B)に示すように、半導体スイッチ13の内部ダイオード17を介して電流が流れることになる。内部ダイオード17の耐電流特性は半導体スイッチ13よりも小さいので、内部ダイオード17に過大な負荷がかかることになる。
【0021】
そこで、従来においては、図2(C)および図3(A)に示すように、半導体スイッチ13をオンの状態に制御することで(帰還経路ONにすることで)、内部ダイオード17に流れる電流を、半導体スイッチ13にバイパスさせ、内部ダイオード17に過負荷がかかることを防止する。
【0022】
負荷20に流れる過電流が解消した場合には、通常のPWM制御に戻るために、図3(B)に示すように、半導体スイッチ14をオンにし、半導体スイッチ13をオフの状態にする。
【0023】
以上は、半導体スイッチ11から半導体スイッチ14に電流が流れる場合の例であるが、図4に破線の矢印で示すように、半導体スイッチ13から半導体スイッチ12に電流が流れる場合においても同様の動作が可能である。すなわち、図5において、矢印で示すタイミングで、負荷20に対して過電流が流れていることが検知されたとする。すなわち、図4(A)に破線の矢印で示すように、半導体スイッチ13、負荷20、および、半導体スイッチ12を介して過電流が通じたとする。このような場合、図示しない制御部は、半導体スイッチ12をオフの状態にする(ゲートブロックする)。これにより、負荷20に流れる電流を遮断することができる。
【0024】
このとき、負荷20がインダクタンス成分を有する場合、負荷20に電流が流れ続けようとするので、図4(B)に示すように、内部ダイオード15を介して電流が流れることになる。内部ダイオード15の耐電流特性は半導体スイッチ11よりも小さいので、内部ダイオード15に過大な負荷がかかることになる。
【0025】
そこで、図5(A)および図6(A)に示すように、半導体スイッチ11をオンの状態に制御する(帰還経路ONにする)ことで、負荷20に流れる電流を、半導体スイッチ11にバイパスさせ、内部ダイオード15に過負荷がかかることを防止する。
【0026】
負荷20に流れる過電流が解消した場合には、通常のPWM制御に戻るために、図6(B)に示すように、半導体スイッチ12をオンにし、半導体スイッチ11をオフの状態にする。
【0027】
なお、図1および図2の例では、半導体スイッチ11,14を介して負荷20に電流が流れている際に過大電流が検出され、半導体スイッチ14をオフにするようにしたが、図7(A)に示すように、半導体スイッチ11をオフにする(ゲートブロックする)ようにしてもよい。その際、内部ダイオード16、負荷20、および、半導体スイッチ14を介して電流が通じるので、内部ダイオード16に負荷がかかる。そこで、この場合には、図7(B)に示すように半導体スイッチ12をオンの状態にする(帰還経路ONにする)ことで、内部ダイオード16に流れる電流をバイパスさせることができる。
【0028】
また、図4および図5の例では、半導体スイッチ13,12を介して負荷20に電流が流れている際に過大電流が検出され、半導体スイッチ12をオフにするようにしたが、図8(C)に示すように、半導体スイッチ13をオフにする(ゲートブロックする)ようにしてもよい。その際、内部ダイオード18、負荷20、および、半導体スイッチ12を介して電流が通じるので、内部ダイオード18に負荷がかかる。そこで、この場合には、図8(D)に示すように半導体スイッチ14をオンの状態にする(帰還経路ONにする)ことで、内部ダイオード18に流れる電流をバイパスさせることができる。
【0029】
ところで、半導体スイッチ11~14として、図9に示すカスコード型GaN-HEMTを使用する場合を考える。図9に示すカスコード型GaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)は、Si-MOS(Metal Oxide Semiconductor)型のFET(Field Effect Transistor)と、ゲート電圧を印加しない場合にオンの状態となるノーマリON型GaN-HEMTがカスコード接続されて構成されている。
【0030】
図9に示すカスコード型GaN-HEMTでは、ゲートとソースの間に駆動電圧が印加されていない場合、Si-MOSはオフの状態となるので、ノーマリON型GaN-HEMTのゲートの電圧はソースよりも低くなることからオフの状態となる。一方、カスコード型GaN-HEMTのゲートとソースの間に駆動電圧が印加されている場合、Si-MOSはオンの状態となるので、ノーマリON型GaN-HEMTのゲートの電圧はソースと略同じになることからオンの状態となる。
【0031】
以上は、ドレインとソース間に順方向の電圧(ドレイン電圧>ソース電圧)が印加された場合の動作である。ドレインとソース間に逆方向の電圧(ドレイン電圧<ソース電圧)が印加された場合、図10に示すように、Vgs(ゲートとソース間の電圧)とVth(閾値電圧)との関係によって、Si-MOSまたは内部ダイオードのいずれかを電流が流れる。すなわち、Vgs<Vthの場合には、図10(A)に示すように内部ダイオードに電流が流れる。また、Vgs>Vthの場合には、図10(B)に示すようにSi-MOSに電流が流れる。
【0032】
ところで、カスコード型GaN-HEMTが有する内部ダイオードは、電流の時間的変化を示すdi/dtが所定の閾値を超えないように制御する必要がある。di/dtが所定の閾値を超えた場合、内部のインダクタンス成分による逆起電力により、内部ダイオードがコラプスを生じる可能性があるためである。
【0033】
そこで、本発明の実施形態では、図9および図10に示すカスコード型GaN-HEMTのような形態の内部ダイオードを有する半導体スイッチを用いた場合であっても、di/dtが所定の閾値を超えないように制御することを特徴とする。なお、以下では、カスコード型GaN-HEMTを、図9の矢印の先に示すように簡略化して示すものとする。
【0034】
(A)本発明の実施形態の構成の説明
図11は、本発明の実施形態に係る電力変換装置30の構成例を示す図である。図11において、電力変換装置30は、電解コンデンサ19、負荷20、および、カスコード型GaN-HEMT31~34を有している。
【0035】
ここで、電解コンデンサ19は、図示しない直流電源から供給される直流電力を平滑化して出力する。
【0036】
カスコード型GaN-HEMT31~34は、図9および図10に示す構成を有し、後述する論理回路51から供給されるドライブ信号によってオン/オフの状態が制御され、例えば、150Vの直流電圧を100Vの交流電圧に変換して出力する。なお、図11に示す回路の前段に昇圧回路または降圧回路を設けることで、出力電圧を変更可能としてもよい。
【0037】
カスコード型GaN-HEMT31,32は直列接続されて第1アーム312を構成する。カスコード型GaN-HEMT31のソースと、カスコード型GaN-HEMT32のドレインの間には出力端子21を介して負荷20が接続される。
【0038】
カスコード型GaN-HEMT33,34は直列接続されて第2アーム334を構成する。カスコード型GaN-HEMT33のソースと、カスコード型GaN-HEMT34のドレインの間には出力端子22を介して負荷20が接続される。
【0039】
負荷20は、例えば、家電製品等であり、製品の種類によって、様々なインピーダンス成分を有する。
【0040】
図12は、図11に示すカスコード型GaN-HEMT31~34を駆動するための制御回路50の構成例を示している。図12の例では、制御回路50は、論理回路51およびドライブ回路52~55を有している。
【0041】
論理回路51は、図14を参照して後述する構成を有する論理回路であり、入力される信号の論理値に応じた値を出力する。なお、論理回路51には、駆動PWMパルス、極性パルス、過電流検出信号、および、過電流時パルスが入力される。
【0042】
ここで、駆動PWMパルス信号は、通常時(異常な電流が流れていない場合)におけるPWM信号で、例えば、100kHzの周波数を有する信号である。
【0043】
極性パルス信号は、出力しようとする交流電力の周波数(例えば、50Hzまたは60Hz)でハイ(High)/ロー(Low)を繰り返す信号である。
【0044】
過電流検出信号は、通常時はハイの状態であり、負荷20に過電流が流れた場合には、ローの状態になる信号である。
【0045】
過電流時パルス信号は、過電流時に使用される周波数が高いPWM信号で、例えば、1MHz(駆動PWMパルスの10~100倍程度の周波数)の信号である。
【0046】
ドライブ回路52~55は、論理回路51から出力される信号の電力を増幅し、Q1駆動信号~Q4駆動信号として、カスコード型GaN-HEMT31~34のゲートに供給する。
【0047】
図13は、論理回路51に供給する信号を生成するための回路を示している。図13(A)は、通常時における駆動PWMパルス信号を生成して出力する回路、および、異常時における過電流時パルス信号を生成して出力する回路を示している。図13(A)では、比較器61には50Hzまたは60Hzの正弦波が入力されるとともに、100kHzまたは1MHzの三角波信号が入力され、例えば、正弦波信号>三角波信号の場合には出力をハイの状態にし、正弦波信号<三角波信号の場合には出力をローの状態にすることで、正弦波に対応するPWM信号を出力する。
【0048】
図13(B)は、極性パルス信号を生成して出力する回路を示している。図13(B)では、比較器62には50Hzまたは60Hzの正弦波が入力されるとともに、基準電圧Vref(例えば、Vref=0)が入力されている。比較器は、例えば、正弦波信号>基準電圧Vrefの場合には出力をハイの状態にし、正弦波信号<基準電圧Vrefの場合には出力をローの状態にすることで、正弦波に対応する極性パルス信号を生成して出力する。
【0049】
図13(C)は、過電流検出信号を生成して出力する回路を示している。図13(C)の例は、増幅器63および比較器64によって構成される。増幅器63は、例えば、負荷20またはカスコード型GaN-HEMT31~34に流れる電流を検出するための検出抵抗の両端の電圧を増幅して出力する。比較器64は、増幅器の出力と閾値電圧とを比較し、増幅器の出力>閾値電圧の場合には出力をローの状態にし、増幅器の出力<閾値電圧の場合には出力をハイの状態にすることで過電流検出信号を生成して出力する。
【0050】
図14は、図12に示す論理回路51の構成例を示している。図14の例では、論理回路51は、NOT回路71,72、AND回路73~76、および、OR回路77,78を有している。
【0051】
図15および図16は、図15に示す回路の真理値表を示している。ここで、nOCは過電流検出信号を示し、OC_PWMは過電流時パルス信号を示し、POLEは極性パルス信号を示し、また、PWMは駆動PWMパルス信号を示している。
【0052】
図15は過電流検出時(nOC=0)における真理値表を示している。図15に示すように、カスコード型GaN-HEMT33,34であるQ3,Q4はPOLE(極性パルス信号)によってのみ変化し、PWM(駆動PWMパルス信号)やOC_PWM(過電流時パルス信号)による影響は受けない。また、カスコード型GaN-HEMT31,32であるQ1,Q2はOC_PWM(過電流時パルス信号)が1のときに、POLE(極性パルス信号)に応じてどちらかが1となる。また、OC_PWM(過電流時パルス信号)が0のときはQ1,Q2は0のままである。さらに、過電流検知時は対角となる素子(Q1,Q4もしくはQ2,Q3)が同時にオンの状態になることはない。
【0053】
図16は、通常動作時の真理値表を示している。図16に示すように、Q3,Q4はPOLE(極性パルス信号)によってのみ変化し、PWM(駆動PWMパルス信号)やOC_PWM(過電流時パルス信号)による影響は受けない(なお、過電流検知時も同様なのでnOC(過電流検出信号)の影響も受けない)。また、Q1,Q2はPWM(駆動PWMパルス信号)によってのみ変化する。POLE(極性パルス信号)やOC_PWM(過電流時パルス信号)の影響は受けない。
【0054】
(B)本発明の実施形態の動作の説明
つぎに、本発明の実施形態の動作について説明する。図17は、本発明の実施形態の動作を説明するためのタイミングチャートである。図17に示すように、本実施形態では、カスコード型GaN-HEMT31,32にはPWMパルス信号が供給され、カスコード型GaN-HEMT33,34には極性パルス信号が供給される。なお、カスコード型GaN-HEMT31~34は、ゲートに印加される信号がハイの状態になった場合にはオンの状態になり、ゲートに印加される信号がローの状態になった場合にはオフの状態になるのは、図1等に示す半導体スイッチ11~14と同様である。
【0055】
カスコード型GaN-HEMT33,34がそれぞれオフおよびオンの状態で、カスコード型GaN-HEMT31,32がそれぞれオンおよびオフの場合には、図11(A)に間隔が短い破線で示すように、カスコード型GaN-HEMT31、負荷20、および、カスコード型GaN-HEMT34を介して電流が流れる。
【0056】
このような状態において、図17に矢印で示すように過電流が発生したとすると、過電流検出信号がローの状態になる。この結果、論理回路51は、図17(D)に示すように、Q4駆動信号をローの状態にする(ゲートブロックする)ので、カスコード型GaN-HEMT34がオフの状態になる。
【0057】
負荷20がインダクタス成分を有する場合、カスコード型GaN-HEMT34がオフの状態になると、カスコード型GaN-HEMT33を介して電流が流れ続けようとする。このとき、カスコード型GaN-HEMT33がオフの状態を維持する場合、内部ダイオードに全ての電流が流れるため、di/dtが規定値を超えてしまう可能性がある。
【0058】
そこで、本実施形態では、図17(C)の一部を下段に拡大して示すように、カスコード型GaN-HEMT33を通常時よりも短い周期(例えば、1/10~1/100の周期)でスイッチングする。これにより、カスコード型GaN-HEMT33を流れる電流は、図10(A)および図10(B)に示すように、内部ダイオードとSi-MOSとを交互に流れることから、内部ダイオードに流れる電流がdi/dtの規定値を超えることを防止できる。
【0059】
なお、以上では、カスコード型GaN-HEMT31からカスコード型GaN-HEMT34へ過電流が流れた際に、カスコード型GaN-HEMT34をオフの状態にするようにしたが、カスコード型GaN-HEMT34はオンのままで、カスコード型GaN-HEMT31をオフの状態にするようにしてもよい。その場合には、カスコード型GaN-HEMT32の内部ダイオードに電流が流れるので、当該内部ダイオードに流れる電流がdi/dtの既定値を超えることを防止するために、カスコード型GaN-HEMT32を、通常よりも短い周期でオン/オフするようにしてもよい。
【0060】
また、以上は、カスコード型GaN-HEMT31,34がオンの場合に過電流が流れた場合の動作であるが、カスコード型GaN-HEMT32,33がオンの場合に過電流が流れた場合にも同様の動作によって、内部ダイオードに流れるdi/dtを減少させるようにしてもよい。
【0061】
より詳細には、カスコード型GaN-HEMT32,33がオンの場合に過電流が検出されたとき、カスコード型GaN-HEMT32,33のいずれか一方をオフの状態にする。例えば、カスコード型GaN-HEMT32をオフの状態にすると、カスコード型GaN-HEMT31の内部ダイオードを介して電流が流れ続けようとするので、その場合には、カスコード型GaN-HEMT31を通常よりも短い周期(例えば、1/10~1/100の周期)でスイッチングさせることで、内部ダイオードに流れる電流を減少させることができる。
【0062】
一方、カスコード型GaN-HEMT33をオフの状態にすると、カスコード型GaN-HEMT34の内部ダイオードを介して電流が流れ続けようとするので、その場合には、カスコード型GaN-HEMT34を通常よりも短い周期(例えば、1/10~1/100の周期)でスイッチングさせることで、内部ダイオードに流れる電流を減少させることができる。
【0063】
以上に説明したように、本発明の実施形態によれば、カスコード型GaN-HEMT31~34を有する電力変換装置において、過電流が検出された場合には、オンの状態にされている2つのカスコード型GaN-HEMTの一方をオフの状態にするとともに、オフの状態にしたカスコード型GaN-HEMTに対して直列接続されている他のカスコード型GaN-HEMTを、通常の周期よりも短い周期でオン/オフするようにしたので、内部ダイオードに流れる電流のdi/dtを抑制し、内部ダイオードに負荷がかかったり破損したりすることを防止できる。
【0064】
(C)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、図17に示すように、帰還経路に該当するカスコード型GaN-HEMT(図17の例ではカスコード型GaN-HEMT33)を同じデューティ比によってオン/オフするようにしたが、例えば、図18に示すように、内部ダイオードを流れる電流が時間の経過とともに増加するようにデューティ比を変化させてもよい。このような制御によれば、内部ダイオードに流れる電流が徐々に増加することから、内部ダイオードに流れる電流のdi/dtをより確実に抑制することができる。なお、このような動作を実現するための構成としては、例えば、図13(A)に示すVinとして、ランプ関数を用いるようにすればよい。もちろん、これ以外の構成でもよい。
【0065】
また、以上の各実施形態では、帰還経路に該当するカスコード型GaN-HEMTを駆動する電圧は一定としたが、例えば、図19に示すように、内部ダイオードを流れる電流が時間の経過とともに増加するように駆動電圧を変化させてもよい。このような制御によれば、内部ダイオードに流れる電流が徐々に増加することから、内部ダイオードに流れる電流のdi/dtをより確実に抑制することができる。なお、このような動作を実現するための構成としては、例えば、図13(A)に示す比較器61の出力信号と、ランプ関数との積を演算するようにすればよい。もちろん、これ以外の構成でもよい。
【0066】
また、図20に示すように、過電流を検出した際のPWMパルスのデューティ比に応じて、帰還経路に該当するカスコード型GaN-HEMTのデューティ比を変化させるようにしてもよい。より詳細には、過電流を検出した際のPWMパルスのデューティ比が小さい場合には、図20(E)に示すように小さいデューティ比でスイッチングし、過電流を検出した際のPWMデューティ比が大きい場合には、図20(F)に示すように大きいデューティ比でスイッチングするようにしてもよい。このような構成によれば、内部ダイオードに流れる電流に応じた適切なデューティ比によってスイッチングすることができる。なお、このような動作を実現するための構成としては、例えば、図13(A)に示すVinを、PWM信号のデューティ比に応じて変化させるようにすればよい。もちろん、これ以外の構成でもよい。
【0067】
また、以上の実施形態では、過電流が流れる場合の制御を例に挙げて説明したが、例えば、図21に示すように、カスコード型GaN-HEMTをオフからオンの状態に切り換える際に、内部ダイオードに過電流が流れることを防止するために、通常よりも短い周期で一時的にスイッチングするようにしてもよい。なお、このような動作を実現するための構成としては、例えば、オフからオンに切り換える際に、図13(A)に示す比較回路に供給する発振信号の周期が一時的に短くなるようにすればよい。もちろん、これ以外の構成でもよい。
【0068】
なお、図11図14等に示す回路は一例であって、本発明がこれらの回路に限定されるものではない。
【0069】
また、以上の実施形態では、半導体スイッチとして、カスコード型GaN-HEMTを例に挙げて説明したが、これ以外の半導体スイッチを用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 電力変換装置
11~14 半導体スイッチ
15~18 内部ダイオード
19 電解コンデンサ
20 負荷
21~22 出力端子
30 電力変換装置
50 制御回路
51 論理回路
52~55 ドライブ回路
61,62,64 比較器
63 増幅器
71,72 NOT回路
73~76 AND回路
77,78 OR回路
112,312 第1アーム
134,334 第2アーム
図1
図2
図3
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図5
図6
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