(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】活性炭成形体
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20230105BHJP
F02M 25/08 20060101ALI20230105BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230105BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230105BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
C01B32/168
F02M25/08 311D
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2019562994
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2018046065
(87)【国際公開番号】W WO2019131207
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017252391
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山本 孝治
(72)【発明者】
【氏名】西田 光▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】人見 充則
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆之
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-076754(JP,A)
【文献】特開平08-224468(JP,A)
【文献】特開2009-131837(JP,A)
【文献】特開2013-011243(JP,A)
【文献】特開2006-213544(JP,A)
【文献】国際公開第2007/077985(WO,A1)
【文献】特開2017-075068(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031467(WO,A1)
【文献】特表2020-506797(JP,A)
【文献】特開2013-177889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B01D 20/00 - 20/34
B01D 53/02 - 53/12
F02M 25/00 - 25/14
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積が290m
2/mL~520m
2/mLであり、容積あたりの外表面積が1.4m
2/L以上である、活性炭成形体
であって、
前記活性炭成形体は柱状構造を有し、該柱状構造は、柱軸方向の両端で開口した中空を内部に有する柱周壁と、一方の開口から他方の開口まで延在して該中空を2つ以上の区画に分割する隔壁とを含み、
(i)前記隔壁は前記柱周壁と接続し、前記隔壁は互いに接続しない;または
(ii)柱軸と直交する柱断面を観察したときに、前記隔壁は、前記柱周壁上の位置で互いに接続して三角形、四角形または五角形を形成している;または
(iii)前記隔壁として、一方の開口から他方の開口まで延在して前記中空を2つの区画に分割する内部壁と、一方の開口から他方の開口まで延在して該内部壁と前記柱周壁とを連結する連結壁とを含み、前記連結壁は2、3または4個存在する、
活性炭成形体。
【請求項2】
柱軸と直交する柱断面を観察したときに、前記隔壁は、1、2または3個存在し、各隔壁のその両端部で前記柱周壁と接続している、請求項
1に記載の活性炭成形体。
【請求項3】
柱軸と直交する柱断面を観察したときに、前記内部壁は円形状、楕円形状、三角形状または四角形状である、請求項
1に記載の活性炭成形体。
【請求項4】
前記隔壁の厚みは、前記隔壁の厚みの中心値の-5%~+5%の範囲内である、請求項
1~
3のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項5】
前記柱周壁の厚みは、前記柱周壁の厚みの中心値の-5%~+5%の範囲内である、請求項
1~
4のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項6】
前記隔壁の厚みと前記柱周壁の厚みとの差は、柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法に対して5%以下である、請求項
1~
5のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項7】
前記柱状構造は、柱軸方向に同一断面形状を有する、請求項
1~
6のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項8】
前記柱周壁の厚みおよび前記隔壁の厚みはそれぞれ、柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法に対して5~35%の範囲内である、請求項
1~
7のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項9】
前記柱周壁の厚みおよび前記隔壁の厚みはそれぞれ0.3~1.0mmの範囲内である、請求項
1~
8のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項10】
柱軸と直交する柱断面において壁部面積に対する空隙部面積の割合は20~50%である、請求項
1~
9のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項11】
柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法は3mm~9mmの範囲内である、請求項
1~
10のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項12】
HK法により求めた平均細孔径は2.1nm~2.6nmである、請求項1~
11のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項13】
ASTM D5228に準拠して求めたブタンの有効吸着量は8.0g/dL~10g/dLである、請求項1~
12のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項14】
BJH法により求めた細孔容積は0.480~0.555mL/gである、請求項1~
13のいずれかに記載の活性炭成形体。
【請求項15】
粉末状または粒状の活性炭と、滑り剤と、酸に可溶な固体希釈剤とを混合すること、
得られた混合物をバインダーおよび水と混練し、得られた混練物を所望形状に成形すること、並びに
得られた成形物を乾燥した後、酸で洗浄することにより少なくとも一部の固体希釈剤を溶出除去し、さらに乾燥すること
を含む、請求項1~
14のいずれかに記載の活性炭成形体の製造方法。
【請求項16】
請求項1~
14のいずれかに記載の活性炭成形体を備えるキャニスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭成形体、活性炭成形体の製造方法、および活性炭成形体を備えるキャニスタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車には、車両の燃料タンクからの蒸散燃料の外部への放出を防止するために、蒸散燃料の吸着および脱着が可能なキャニスタが用いられている。キャニスタには一般に吸着材として活性炭が使用されており、活性炭は、停車中には燃料タンクからの蒸散燃料を一時的に吸着または捕集し、運転中には吸着された蒸散燃料を吸気したフレッシュエアーにより置換することで脱着する。そして、脱着された蒸散燃料は、内燃機関にて燃焼される。
【0003】
このようなキャニスタで使用される活性炭としては、蒸散燃料を吸着するための微細な細孔を有するものが広く用いられる。
【0004】
そのような活性炭として、例えば特許文献1では、吸着活性の高い活性炭と吸着に不活性な非吸着部としての固体希釈剤とで形成され、所定のブタン有効吸着量およびブタン脱着率を有する吸着剤が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、微視的細孔を有する活性炭の粉末に、焼成時に消失するメルタブルコアをバインダーとともに加えて焼成することで巨視的細孔が形成されたキャニスタ用吸着材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-177889号公報
【文献】特開2013-011243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車が増えている。このハイブリッド車では、キャニスタで吸着された蒸散燃料を脱着し、エンジンへ導入して燃料として使用するためのパージ空気量が、ガソリン車と比べて大幅に低減されるため、キャニスタへの負荷量は大きくなる。このようにキャニスタへの負荷量が大きい場合でも、低エミッション性能の達成が要求される。そのためには、蒸散燃料の吸着性能および脱着性能の双方の特性をキャニスタが備えることが重要となる。
【0008】
キャニスタとして重要な通気抵抗の観点からは、吸着材(活性炭成形体)がある程度の大きさ、例えば特許文献2に開示されている4mm程度の粒径を有することが好ましいが、このように大きな吸着材では、個々の吸着材の内部に位置する一部の活性炭が蒸散燃料の吸着または脱着に寄与せず、従って微細な活性炭と比較して吸脱着性能が低くなり得る。そのため、上記特許文献2に開示される粒径の大きい活性炭成形体では、吸脱着性能を確保するために巨視的細孔を設けているが、その結果、活性炭成形体の強度が低下し得る。キャニスタは自動車に搭載されるため、より強度の高い吸着材が求められることがあった。
【0009】
従って、本発明は、自動車からの蒸散燃料を良好に吸着するだけでなく、長時間の自動車の停車による蒸散燃料の低エミッション性能を実現できる活性炭成形体を提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明の限定的な課題は、自動車からの蒸散燃料を良好に吸着するだけでなく、長時間の自動車の停車による蒸散燃料の低エミッション性能を実現でき、さらに向上した強度を有する活性炭成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の容積あたりの比表面積と特定の容積あたりの外表面積とを併せ持つ活性炭成形体により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積が290m2/mL~520m2/mLであり、容積あたりの外表面積が1.4m2/L以上である、活性炭成形体。
[2]前記活性炭成形体は柱状構造を有し、該柱状構造は、柱軸方向の両端で開口した中空を内部に有する柱周壁と、一方の開口から他方の開口まで延在して該中空を2つ以上の区画に分割する隔壁とを含む、上記[1]に記載の活性炭成形体。
[3]前記隔壁は前記柱周壁と接続し、前記隔壁は互いに接続しない、上記[2]に記載の活性炭成形体。
[4]柱軸と直交する柱断面を観察したときに、前記隔壁は、1、2または3個存在し、各隔壁のその両端部で前記柱周壁と接続している、上記[2]または[3]に記載の活性炭成形体。
[5]柱軸と直交する柱断面を観察したときに、少なくとも2個以上の隔壁は、柱断面の重心以外の位置で互いに接続している、上記[2]に記載の活性炭成形体。
[6]柱軸と直交する柱断面を観察したときに、少なくとも2個以上の隔壁は、前記柱周壁上の1若しくは2以上の位置で互いに接続している、上記[2]または[5]に記載の活性炭成形体。
[7]柱軸と直交する柱断面を観察したときに、前記隔壁は、前記柱周壁上の位置で互いに接続して三角形、四角形または五角形を形成している、上記[6]に記載の活性炭成形体。
[8]前記隔壁として、一方の開口から他方の開口まで延在して前記中空を2つの区画に分割する内部壁と、一方の開口から他方の開口まで延在して該内部壁と前記柱周壁とを連結する連結壁とを含む、上記[2]に記載の活性炭成形体。
[9]柱軸と直交する柱断面を観察したときに、前記内部壁は円形状、楕円形状、三角形状または四角形状である、上記[8]に記載の活性炭成形体。
[10]前記連結壁は2、3または4個存在する、上記[8]または[9]に記載の活性炭成形体。
[11]前記隔壁の厚みは、前記隔壁の厚みの中心値の-5%~+5%の範囲内である、上記[2]~[10]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[12]前記柱周壁の厚みは、前記柱周壁の厚みの中心値の-5%~+5%の範囲内である、上記[2]~[11]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[13]前記隔壁の厚みと前記柱周壁の厚みとの差は、柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法に対して5%以下である、上記[2]~[12]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[14]前記柱状構造は、柱軸方向に同一断面形状を有する、上記[2]~[13]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[15]前記柱周壁の厚みおよび前記隔壁の厚みはそれぞれ、柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法に対して5~35%の範囲内である、上記[2]~[14]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[16]前記柱周壁の厚みおよび前記隔壁の厚みはそれぞれ0.3~1.0mmの範囲内である、上記[2]~[15]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[17]柱軸と直交する柱断面において壁部面積に対する空隙部面積の割合は20~50%である、上記[2]~[16]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[18]柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法は3mm~9mmの範囲内である、上記[2]~[17]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[19]HK法により求めた平均細孔径は2.1nm~2.6nmである、上記[1]~[18]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[20]ASTM D5228に準拠して求めたブタンの有効吸着量は8.0g/dL~10g/dLである、上記[1]~[19]のいずれかに記載の活性炭成形体。
[21]BJH法により求めた細孔容積は0.480~0.555mL/gである、請求項1~20のいずれかに記載の活性炭成形体。
[22]粉末状または粒状の活性炭と、滑り剤と、酸に可溶な固体希釈剤とを混合すること、得られた混合物をバインダーおよび水と混練し、得られた混練物を所望形状に成形すること、並びに得られた成形物を乾燥した後、酸で洗浄することにより少なくとも一部の固体希釈剤を溶出除去し、さらに乾燥することを含む、上記[1]~[21]のいずれかに記載の活性炭成形体の製造方法。
[23]上記[1]~[21]のいずれかに記載の活性炭成形体を備えるキャニスタ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、自動車からの蒸散燃料を良好に吸着するだけでなく、長時間の自動車の停車による蒸散燃料の低エミッション性能を実現できる活性炭成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1に従って製造した活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図2】実施例2に従って製造した活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図3】実施例3に従って製造した活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図4】実施例4に従って製造した活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図5】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図6】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図7】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図8】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図9】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図10】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図11】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図12】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図13】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図14】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図15】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図16】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図17】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図18】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図19】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図20】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図21】本発明の一態様の活性炭成形体の、柱軸と直交する断面の模式図である。
【
図22】実施例1に従って製造した活性炭成形体の側面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[活性炭成形体]
本発明の活性炭成形体は、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積が290m2/mL~520m2/mLであり、容積あたりの外表面積が1.4m2/L以上である。
【0016】
容積あたりの比表面積は、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度との積であり、後述の実施例に記載の方法により求められる。また、容積あたりの外表面積は、後述の実施例に記載の方法により求められる。容積あたりの比表面積および容積あたりの外表面積が上記した特定の数値範囲または特定の下限値以上であることを満たさないと、活性炭成形体は、所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量を併せ持つことはできない。パージ効率が高くブタン残留量が低いことは、脱着性能に優れることを意味する。脱着性能に優れると、パージ空気量が少なくても蒸散燃料は良好に脱着され、その結果、ブタン残留量が低下することから、蒸散燃料の低エミッション性能が実現される。
容積あたりの比表面積は、好ましくは300m2/mL~500m2/mL、より好ましくは330m2/mL~470m2/mLであり、容積あたりの外表面積は、好ましくは1.41m2/L以上である。容積あたりの比表面積および容積あたりの外表面積が上記した特定の数値範囲または特定の下限値以上であることを満たすと、活性炭成形体は、所望のブタン有効吸着量に加えて高いパージ効率および低いブタン残留量を有しやすい。
【0017】
容積あたりの比表面積および容積あたりの外表面積の特定の数値範囲または特定の下限値以上への調整は、例えば、活性炭の賦活度、または配合する材料の割合を調整することによって達成できる。
【0018】
また、容積あたりの比表面積および容積あたりの外表面積の特定の数値範囲または特定の下限値以上への調整は、活性炭成形体が特定の形状を有することによって達成できる。従って、本発明の特定の態様では、活性炭成形体は柱状構造を有し、該柱状構造は、柱軸方向の両端で開口した中空を内部に有する柱周壁と、一方の開口から他方の開口まで延在して該中空を2つ以上の区画に分割する隔壁とを含む。
【0019】
上記柱状構造としては、円柱状構造、楕円柱状構造、および略角柱状構造等が挙げられる。これらの構造の柱軸と直交する柱断面の形状は、一部凹凸を含んだり角が丸みを帯びたりしてよく、巨視的に観察して円、楕円または多角形であればよい。略角柱状構造としては、略三角柱状構造、略四角柱状構造、略五角柱状構造、略六角柱状構造および略八角柱状構造等が挙げられるが、活性炭成形体をキャニスタに使用する場合に要求される摩耗強度が得られやすい観点からは、柱断面の角が丸みを帯びた略角柱状構造が好ましい。同様の観点から、円柱状構造および楕円柱状構造も好ましい。所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量が得られやすい観点から、柱状構造は、正円柱状構造であることがより好ましい。
【0020】
以下において、必要により添付図面を参照しつつ特定の態様を詳細に説明する。
【0021】
本発明の特定の態様において、隔壁は柱周壁と接続し、隔壁は互いに接続しない。この態様の具体的な例の、柱軸と直交する柱断面の模式図を、
図1および4~11に示す。
また、本発明の特定の態様において、柱軸と直交する柱断面を観察したときに、隔壁は、1、2または3個存在し、各隔壁のその両端部で柱周壁と接続している。この態様の具体的な例の、柱軸と直交する柱断面の模式図を、
図1および4~11に示す。
隔壁が互いに接続しないこれらの特定の形状を活性炭成形体が有することにより、隔壁が互いに接続する場合に生じる接続部での厚みの増大に起因した活性炭成形体と蒸散燃料との接触効率の低下が発現し得ないため、容積あたりの比表面積および容積あたりの外表面積を特定の数値範囲または特定の下限値以上に調整しやすい。
【0022】
図1、4および5では、互いに接続しない隔壁が1、2または3個存在し、各隔壁がその両端部で柱周壁と接続してI字形、II字型またはIII字型を形成している。
図6~8では、互いに接続しない隔壁が1、2または3個存在し、各隔壁がその両端部で柱周壁と接続してS字形、SS字型またはSSS字型を形成している。
図9および10では、互いに接続しない隔壁が2または3個存在し、各隔壁が湾曲してその両端部で柱周壁と接続している。
図11では、隔壁が3個存在し、各隔壁がその両端部で柱周壁と接続して、辺が互いに接続しない三角形様の形状を形成している。
【0023】
本発明の特定の態様において、柱軸と直交する柱断面を観察したときに、少なくとも2個以上の隔壁は、柱断面の重心以外の位置で互いに接続している。この態様の具体的な例としては、柱軸と直交する柱断面を観察したときに、2個の隔壁がT字形を形成しているもの、および3個の隔壁がH字形を形成しているもの等が挙げられる。
【0024】
本発明の特定の態様において、柱軸と直交する柱断面を観察したときに、少なくとも2個以上の隔壁は、柱周壁上の1若しくは2以上の位置で互いに接続している。この態様の具体的な例としては、柱軸と直交する柱断面を観察したときに、2個の隔壁がV字形を形成しているもの、および3個の隔壁がA字形またはN字形を形成しているもの、3個の隔壁が1若しくは2の頂点が閉じていない三角形様の形状を形成しているもの等が挙げられる。
【0025】
本発明の特定の態様において、柱軸と直交する柱断面を観察したときに、隔壁は、柱周壁上の位置で互いに接続して三角形、四角形または五角形を形成している。この態様の柱断面の模式図を、
図2、3および12に示す。
【0026】
本発明の別の特定の態様において、活性炭成形体は、隔壁として、一方の開口から他方の開口まで延在して中空を2つの区画に分割する内部壁と、一方の開口から他方の開口まで延在して内部壁と柱周壁とを連結する連結壁とを含む。
本発明の特定の態様において、柱軸と直交する柱断面を観察したときに、内部壁は円形状、楕円形状、三角形状または四角形状である。
本発明の特定の態様において、連結壁は2、3または4個存在する。
これらの態様の具体的な例の、柱軸と直交する柱断面の模式図を、
図13~21に示す。
【0027】
柱軸と直交する柱断面が
図1~21に示されている活性炭成形体の真横からの側面の模式図は、全て共通しており、実施例1に従って製造した活性炭成形体の側面の模式図(
図22)と同じである。
【0028】
所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量が得られやすい観点から、隔壁の厚みは、隔壁の厚みの中心値の-5%~+5%の範囲内であることが好ましく、-4%~+4%の範囲内であることがより好ましく、-3%~+3%の範囲内であることが特に好ましい。隔壁の厚みが隔壁の厚みの中心値に近接するほど、隔壁の厚みがより均一であることを意味しており、本発明では好ましい。
【0029】
所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量が得られやすい観点から、柱周壁の厚みは、柱周壁の厚みの中心値の-5%~+5%の範囲内であることが好ましく、-4%~+4%の範囲内であることがより好ましく、-3%~+3%の範囲内であることが特に好ましい。柱周壁の厚みが柱周壁の厚みの中心値に近接するほど、柱周壁の厚みがより均一であることを意味しており、本発明では好ましい。
【0030】
所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量が得られやすい観点から、隔壁の厚みと柱周壁の厚みとの差は、柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法に対して5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、0%であることが特に好ましい。ここで、最長外寸法とは、柱が円柱の場合は柱外径またはそれに相当するもの、柱が楕円柱の場合は柱断面の長径またはそれに相当するもの、柱が略角柱の場合は柱断面の最長対角線またはそれに相当するものを意味する。上記差が小さい程、隔壁の厚みと柱周壁の厚みがより均一であることを意味しており、本発明では好ましい。
【0031】
所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量が得られやすい観点から、柱状構造は、柱軸方向に同一断面形状を有する。このような形状は、例えば、活性炭成形体を押出成形または打錠成型によって製造することにより得られる。
【0032】
所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量が得られやすい観点から、柱周壁の厚みおよび隔壁の厚みはそれぞれ、柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法に対して5~35%の範囲内であることが好ましく、7~25%の範囲内であることがより好ましく、10~20%の範囲内であることが特に好ましい。
【0033】
柱周壁の厚みおよび隔壁の厚みはそれぞれ、好ましくは0.3~1.0mmの範囲内、より好ましく0.4~0.95mmの範囲内、特に好ましくは0.5~0.9mmの範囲内である。柱周壁の厚みおよび隔壁の厚みが上記範囲内であると、低いブタン残留量や高い硬度が得られやすい。
【0034】
柱軸と直交する柱断面において壁部面積に対する空隙部面積の割合は、好ましくは20~50%、より好ましくは25~45%、特に好ましくは30~40%である。上記割合が上記範囲内であると、低いブタン残留量や高い硬度が得られやすい。
【0035】
柱軸と直交する柱断面を観察したときの最長外寸法は、好ましくは3mm~9mmの範囲内、より好ましくは4~7mmの範囲内、特に好ましくは4~6mmの範囲内である。最長外寸法が上記範囲内であると、通気抵抗を抑えつつ、低いブタン残留量が得られやすい。
【0036】
隔壁および柱周壁の厚み、それらの中心値、最長外寸法、並びに壁部面積に対する空隙部面積の割合は、後述の実施例に記載の方法により求められる。これらの値は、例えば、活性炭成形体を押出成形によって製造する場合のノズル形状または活性炭成形体を打錠成型によって製造する場合の金型形状を調節することにより調整できる。
【0037】
柱周壁と隔壁との接続部または隔壁と隔壁との接続部では、接続部以外での柱周壁および隔壁より、壁表面でなく内部に存在する活性炭が多い。これは、蒸散燃料との接触効率の低下を招き得るため好ましくない。従って、前記内部に存在する活性炭を少なくすることが好ましい。具体的には、前記接続部において柱周壁または隔壁の厚みを部分的に薄くすることが好ましく、これは、例えば、活性炭成形体を押出成形によって製造する場合のノズル形状または活性炭成形体を打錠成型によって製造する場合の金型形状を調節することにより達成できる。
【0038】
本発明の活性炭成形体のHK法により求めた平均細孔径は、好ましくは2.1nm~2.6nm、より好ましくは2.1nm~2.4nm、特に好ましくは2.1nm~2.2nmである。上記平均細孔径が上記範囲内であると、所望のブタン有効吸着量が得られやすい。平均細孔径の上記範囲内への調整は、例えば、活性炭の賦活度を調整することによって達成できる。上記平均細孔径は、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0039】
本発明の活性炭成形体のASTM D5228に準拠して求めたブタンの有効吸着量は、好ましくは8.0g/dL~10g/dL、より好ましくは8.0g/dL~9.8g/dL、特に好ましくは8.0g/dL~9.7g/dLである。ブタンの有効吸着量が上記範囲内であると、蒸散燃料を良好に脱着しやすい。ブタンの有効吸着量の上記範囲内への調整は、例えば、活性炭の賦活度、または配合する材料の割合を調整することによって達成できる。
【0040】
本発明の活性炭成形体のASTM D5228に準拠して求めたブタン残留量は、好ましくは1.30g/dL以下、より好ましくは1.25g/dL以下、特に好ましくは1.20g/dL以下である。ブタン残留量が低い程、脱着性能に優れることを意味しており、本発明では好ましい。ブタン残留量の上記値以下への調整は、例えば、活性炭の賦活度、または配合する材料の割合を調整することによって達成できる。
【0041】
本発明の活性炭成形体のマイクロストレングス硬度(以下、MS硬度とも称する)は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは75%以上である。MS硬度は、重量負荷に対する抵抗の指標であり、後の実施例に記載の方法により測定される。活性炭成形体が上記値以上のMS硬度を有すると、活性炭成形体をキャニスタに使用する際の摩耗強度が得られやすい。MS硬度の上記値以上への調整は、例えば、バインダーの配合量を調整することによって達成できる。
【0042】
本発明の活性炭成形体の微粉量は、好ましくは0.12%以下、より好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.07%以下、より好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.025%以下である。微粉量が上記値以下であると、活性炭成形体をキャニスタに使用する際の塵埃が低減されやすい。微粉量の上記値以下への調整は、例えば、バインダーの配合量を調整することによって達成できる。微粉量は、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0043】
本発明の活性炭成形体のBJH法により求めた細孔容積は、好ましくは0.480~0.555mL/g、より好ましくは0.490~0.545mL/g、特に好ましくは0.500~0.535mL/gである。BJH法により求めた細孔容積が上記範囲内であると、所望のブタン有効吸着量が得られやすい。BJH法により求めた細孔容積の上記範囲内への調整は、例えば、活性炭の賦活度、または配合する材料の割合を調整することによって達成できる。上記細孔容積は、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0044】
本発明の活性炭成形体は、特定の、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積、および容積あたりの外表面積を有するため、蒸散燃料の良好な吸着に加えて、蒸散燃料の低エミッション性能を実現できる。また、本発明の活性炭成形体は、低い微粉量および高いMS硬度を有することができる。よって、本発明の活性炭成形体は、キャニスタへの使用に適している。従って、本発明は、本発明の活性炭成形体を備えるキャニスタも対象とする。なお、本発明の活性炭成形体は、種々の蒸散燃料、例えば、一般的な自動車燃料である通常のガソリンだけでなく、アルコールを含有するガソリン等にも適用可能である。
【0045】
[活性炭成形体の製造方法]
本発明の活性炭成形体は、例えば、粉末状または粒状の活性炭と、滑り剤と、酸に可溶な固体希釈剤とを混合すること、得られた混合物をバインダーおよび水と混練し、得られた混練物を所望形状に成形すること、並びに得られた成形物を乾燥した後、酸で洗浄することにより少なくとも一部の固体希釈剤を溶出除去し、さらに乾燥することを含む方法によって製造される。
【0046】
〔粉末状または粒状の活性炭〕
粉末状または粒状の活性炭は、原料となる炭素質材料を炭化し賦活することにより得られた活性炭を、例えば1~500μm、好ましくは1~100μm、より好ましくは10~50μmの平均粒子径を有するよう粉砕したものである。
【0047】
炭素質材料としては、炭化および賦活により活性炭を形成するものであれば特に制限はなく、植物系、鉱物系、天然素材および合成素材等から選択できる。具体的には、植物系炭素質材料としては、例えば、木材、竹、木炭、籾ガラ、およびヤシ殻等の果実殻等が挙げられ、鉱物系炭素質材料としては、例えば、石炭類(例えば、泥炭、亜炭、亜瀝青炭、瀝青炭、半無煙炭および無煙炭等)、石油系および/または非石油系ピッチ、並びにコークス等が挙げられる。天然素材としては、例えば、デンプン、セルロース(木綿および麻等の天然繊維等)、再生樹脂(レーヨンおよびビスコースレーヨン等の再生繊維等)、および半合成樹脂(アセテートおよびトリアセテート等の半合成繊維等)等が挙げられ、合成素材としては、例えば、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ビニロン等のポリビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂(ポリアクリロニトリル系樹脂等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレンおよびポリプロピレン等)、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、およびエポキシ系樹脂等が挙げられる。これらの炭素質材料は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。
【0048】
これらの炭素質材料の中でも、所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量を有する活性炭成形体が得られやすい観点から、鉱物系炭素質材料を用いることが好ましく、石炭類を用いることがより好ましく、瀝青炭および/または無煙炭を用いることが特に好ましい。
【0049】
炭素質材料の炭化および賦活条件は特に制限されず、慣用の条件を採用できる。通常、炭素質材料の炭化は、酸素または空気を遮断して、例えば400~800℃、好ましくは500~800℃、より好ましくは550~750℃で実施できる。また、炭化した炭素質材料の賦活は、通常、賦活ガス(例えば、水蒸気または二酸化炭素ガス等)の雰囲気下、例えば700~1200℃、好ましくは800~1100℃で実施できる。
【0050】
賦活後に得た活性炭の、ASTM D5228に準拠して測定されたブタンの有効吸着量は、例えば10~20g/dL、好ましくは12.5~18g/dL、より好ましくは13~16g/dLである。
【0051】
賦活後に得た活性炭のBET比表面積は、例えば250~1500m2/g、好ましくは350~1400m2/g、より好ましくは500~1300m2/gである。
【0052】
賦活後に得た活性炭の平均細孔径は、例えば0.1~100nm、好ましくは0.3~50nm、より好ましくは0.3~25nm、より好ましくは0.5~10nm、特に好ましくは0.5~5nmである。
【0053】
〔滑り剤〕
滑り剤としては、例えば、ベントナイト系化合物、セルロース系化合物およびポリビニルアルコール系化合物からなる群から選ばれた1種以上を使用できる。ベントナイト系化合物としては、例えば、ナトリウムベントナイトおよびカルシウムベントナイト等が挙げられる。セルロース系化合物としては、例えば、セルロース、およびセルロース誘導体〔セルロースエーテル類、例えば、メチルセルロース(以下、MCとも称する)等のアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロースまたはその塩;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース等〕等が挙げられ、メチルセルロースおよび/またはカルボキシメチルセルロースを使用することが好ましい。ポリビニルアルコール系化合物としては、例えば、ポリビニルアルコールおよび各種変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0054】
滑り剤の使用量は、粉末状または粒状の活性炭100質量部に対して、好ましくは5~25質量部、より好ましくは5~20質量部、特に好ましくは5~18質量部である。
【0055】
〔酸に可溶な固体希釈剤〕
酸に可溶な固体希釈剤は、後続の酸洗浄工程で少なくとも一部溶出除去され、溶出除去部が活性炭成形体において細孔となる。従って、活性炭成形体は、賦活により形成された粉末状または粒状活性炭の微細孔(以下、「賦活由来の微細孔」とも称する)に加えて、固体希釈剤の溶出除去により形成された細孔(以下、「溶出除去由来の細孔」とも称する)を有する。溶出除去由来の細孔の形成により充填密度を制御でき、本発明における、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積を制御できる。溶出除去由来の細孔を有する活性炭成形体は、実用的な硬度を有する。
【0056】
酸に可溶な固体希釈剤としては、無機化合物、例えば、酸化マグネシウム等の金属酸化物、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウム等の金属炭酸塩、水酸化カルシウム等の金属水酸化物等;塩基性高分子、例えば、N,N-ジアルキルアミノC2~3アルキル(メタ)アクリレートを単量体とする単独または共重合体等が挙げられる。これらの固体希釈剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。酸による溶出において、粘稠となりやすい高分子よりも、低粘度の溶出物を形成する固体希釈剤が好ましい。このような固体希釈剤としては、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0057】
固体希釈剤の平均粒子径は、所望する溶出除去由来の細孔の大きさに応じて選択でき、例えば0.1~30μm、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.2~15μm、特に好ましくは0.2~10μmである。粉末状または粒状活性炭の平均粒子径と固体希釈剤の平均粒子径との比率は、例えば300/1~0.01/1、好ましくは250/1~1/1、より好ましくは100/1~10/1である。
【0058】
固体希釈剤の使用量は、所望する溶出除去由来の細孔の大きさおよび割合に応じて選択でき、粉末状または粒状活性炭100質量部に対して、例えば10~150質量部、通常25~150質量部、好ましくは40~150質量部、より好ましくは50~130質量部、特に好ましくは55~120質量部である。
【0059】
粉末状または粒状の活性炭と、滑り剤と、酸に可溶な固体希釈剤との混合は、一般的な方法で実施できる。
次いで、得られた混合物をバインダーおよび水と混練する。
【0060】
〔バインダー〕
バインダーとしては、蒸散燃料の吸着および脱着雰囲気で短時間内に溶出または劣化せず、酸に対して不溶であるものが用いられる。また、バインダーの種類および使用量によって活性炭成形体の硬度が決定すること、およびバインダーによって活性炭の細孔閉塞が起こり得ることに鑑み、バインダーの種類を選択し、使用量を調整する必要がある。
バインダーは、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であってよい。その例としては、ポリオレフィン系樹脂〔ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等〕、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびシリコーン系樹脂等が挙げられる。これらのバインダーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。バインダーは、ホットメルト接着剤等のように熱接着性樹脂であってもよく、水性(水性媒体に溶解若しくは分散した形態)または油性(有機溶剤に溶解した形態)であってもよい。バインダーは、アクリル系樹脂エマルジョン等のように、分散体(特に、エマルジョン等の水性分散体)の形態で使用する場合が多い。
【0061】
バインダーの割合は、粉末状または粒状活性炭100質量部に対して、固形分換算で、例えば5~35質量部、好ましくは7~30質量部、より好ましくは9~25質量部、特に好ましくは10~20質量部である。
【0062】
混練物の密度および混練性を調整するため、粉末状または粒状活性炭と滑り剤と固体希釈剤との混合物と、バインダーとの混練に、水も用いる。水の使用量は、粉末状または粒状活性炭100質量部に対して、例えば100~300質量部、好ましくは110~250質量部、より好ましくは120~200質量部である。
【0063】
混練は、例えばミキサー、リボンミキサー、スタティックミキサー、ボールミル、サンプルミルまたはニーダー等を用いた一般的な方法で実施できる。混練温度は、水分量の変化を低減する観点から、通常0~50℃、好ましくは5~40℃である。混練時間は、バインダーの酸化劣化防止および生産効率の観点から、通常1~60分であり、好ましくは5~30分である。
【0064】
続いて、得られた混練物を、例えば打錠成型または押出成形により、所望形状に成形する。混練物の押出成形は、押出されたストランドの切断も含み、切断後に所望形状が得られる。所望形状とは、活性炭成形体に、特定の、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積、および容積あたりの外表面積をもたらす形状であって、例えば、柱状構造を有し、該柱状構造は、柱軸方向の両端で開口した中空を内部に有する柱周壁と、一方の開口から他方の開口まで延在して該中空を2つ以上の区画に分割する隔壁とを含む形状である。
【0065】
次いで、得られた成形物を乾燥した後、酸で洗浄することにより固体希釈剤を溶出除去し、さらに乾燥することにより、活性炭成形体が得られる。先に述べたように、活性炭成形体は、賦活由来の微細孔に加えて、溶出除去由来の細孔を有する。
【0066】
酸洗浄前後の乾燥方法はいずれも特に限定されず、空気、不活性ガス(例えば窒素)またはそれらの混合物の雰囲気下で、一般的な乾燥機を用いて乾燥してよい。バインダーの劣化防止および生産効率の観点から、乾燥温度は、通常60~150℃、好ましくは70~140℃である。乾燥時間は、乾燥温度等に依存するが、通常0.1~36時間、好ましくは0.5~24時間である。
【0067】
固体希釈剤を溶出除去するための酸の例としては、塩酸および硝酸等の無機酸、並びに酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、蟻酸およびクエン酸等の有機酸が挙げられる。これらの酸は単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。安全面、入手のしやすさ、コストの観点から、塩酸が好ましい。
酸は通常水溶液の形態で使用され、その濃度は通常0.5~3mol/L、好ましくは0.8~2.5mol/Lである。酸水溶液の使用量は、成形物100gに対して、通常0.5~2L、好ましくは0.8~1.5Lである。
洗浄方法としては、乾燥した成形物と酸水溶液とを接触させればよい。乾燥した成形物と酸水溶液とを混合した後に、撹拌したり、煮沸または50~90℃に加温したりすることにより、洗浄効率を向上できる。また、超音波洗浄機を使用してもよい。
洗浄時間は、温度等に依存するが、通常0.1~48時間、好ましくは0.5~24時間である。洗浄回数は、好ましくは、煮沸酸洗浄では1~5回、加温酸洗浄では1~10回である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。なお、それぞれの実施例および比較例で得られた活性炭成形体の特性は、以下のようにして評価した。
【0069】
〔平均粒子径〕
原料となる粉末状活性炭の粒径は、レーザー回折測定法により測定した。具体的には、測定する粉末状活性炭、界面活性剤およびイオン交換水を混合して得た分散液を、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300II」)を用いて透過法にて測定した。なお、分散液の活性炭濃度は、同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。また、分散液調製時の界面活性剤としては、和光純薬工業株式会社製「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用い、測定に影響する気泡等が発生しない適当量添加した。分析条件を以下に示す。
測定回数:1回
測定時間:30秒
分布表示:体積
粒径区分:標準
計算モード:MT3000II
溶媒名:WATER
測定上限:2000μm
測定下限:0.021μm
残分比:0.00
通過分比:0.00
残分比設定:無効
粒子透過性:透過
粒子屈折率:1.81
粒子形状:非球形
溶媒屈折率:1.333
DV値:0.0150~0.0700
透過率(TR):0.700~0.950
測定結果において、D50の値を平均粒子径とした。
【0070】
〔容積あたりの比表面積〕
活性炭成形体の容積あたりの比表面積は、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した。
比表面積は、BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて77Kでの窒素吸着等温線を得、この吸着等温線からBET多点法(Brunauer Emmett Teller多点法)を用いて求めた。
充填密度は、JIS K 1474に準拠して求めた。
得られた比表面積と充填密度とから、下記式により容積あたりの比表面積を算出した。
【数1】
【0071】
〔HK法により求めた平均細孔径〕
BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて77Kでの窒素吸着等温線を得、この吸着等温線からHK法(Horvath Kawazoe法)により、活性炭成形体の細孔容積を求めた。
得られた細孔容積とBET多点法により求めた比表面積とから、下記式によりHK法により求めた平均細孔径を算出した。
【数2】
【0072】
〔柱断面の最長外寸法(柱外径)、柱長さおよび壁(隔壁、柱周壁)厚み、それらの平均値、並びに壁厚みの中心値〕
ノギスを用いて33個以上の活性炭成形体の柱外径、柱長さおよび壁厚みを測定し、各々の平均値を求めた。
また、測定した壁厚みを小さい順に並べたとき中央に位置する値を、壁厚みの中心値として求めた。
【0073】
〔容積あたりの外表面積〕
活性炭成形体の容積あたりの外表面積は、下記式により算出した。
【数3】
上記式中の充填密度は、JIS K 1474に準拠して求めた。
上記式中の活性炭成形体の平均重量は、120℃で一定重量になるまで乾燥した、33個以上の活性炭成形体の重量を測定し、その平均値を計算することにより求めた。
上記式中の活性炭成形体1個あたりの外表面積は、活性炭成形体の柱外径、柱内径、柱断面における隔壁の長さ、柱長さおよび壁厚みの各平均値から算出した。
【0074】
〔柱断面の最長外寸法(柱外径)に対する壁厚み(周壁厚みまたは隔壁厚み)〕
【数4】
【0075】
〔柱断面における壁部面積に対する空隙部面積の割合〕
【数5】
上記式中の柱断面における壁部面積および空隙部面積は、活性炭成形体の柱外径、柱内径、柱断面における隔壁の長さおよび壁厚みの各平均値から算出した。
【0076】
〔MS硬度〕
内径25.4mm、長さ304.8mmの鋼製ポットに、8mmの鋼球を10個入れ、さらに、乾燥した活性炭成形体約5.0g(0.1gの桁まで秤量)を入れ、密閉した。この鋼製ポットを測定器に取り付け、1分間に25回転の速度で40分間回転させた。その後試料を取り出し、鋼球を取り除いた後、50mesh篩で篩過した。下記式に従い、篩上に残った試料の、最初に鋼製ポットに入れた試料に対する割合(単位:%)を算出し、MS硬度とした。
【数6】
【0077】
〔ブタンの有効吸着量(BWC)、吸着率、パージ効率、および残留量〕
n-ブタンの有効吸着量、吸着率、パージ効率、および残留量は、ASTM D5228に準拠して求めた。
【0078】
〔微粉量〕
活性炭成形体の微粉量は、ASTM D2862に準拠して、測定する活性炭成形体を100g程度秤量(A[g])し、篩振とう機を用いて、60メッシュの篩網によりロータップで10分間篩分けした後、篩下重量を秤量した(B[g])。下記式により、微粉量を求めた。
【数7】
【0079】
〔BJH法により求めた細孔容積〕
BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて77Kでの窒素吸着等温線を得、この吸着等温線からBJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)により、活性炭成形体の細孔容積を求めた。
【0080】
実施例1
瀝青炭を流動炉により1000℃で賦活することによって製造され、ASTM D5228に準拠して測定したBWCが15.6g/dLの石炭系活性炭を、粉砕機で平均粒子径25μmの粉末に粉砕し、粉末状活性炭を得た。
得られた粉末状活性炭100質量部に対して、60質量部の炭酸カルシウム(平均粒子径7μm)および15質量部の滑り剤(MC)を混合し、得られた混合物を、35質量部のバインダー樹脂(日本ゼオン株式会社製、アクリルエマルション「ニポールLX-851C」、固形分45質量%)および165質量部の水と混練した。
得られた混練物を、真空押出成形機により、断面が
図1の形状となるよう押出し、押出されたストランドを3~5mmの長さに切断し、120℃で3時間乾燥した。乾燥した成形物100gに対して2mol/Lの塩酸を1Lの割合で用いて煮沸洗浄し、炭酸カルシウム成分を成形物から除去し、120℃で12時間乾燥させることにより、活性炭成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0081】
実施例2
真空押出成形機により、断面が
図2の形状となるよう押出したこと以外は実施例1と同様にして、活性炭成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0082】
実施例3
真空押出成形機により、断面が
図3の形状となるよう押出したこと以外は実施例1と同様にして、活性炭成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0083】
実施例4
真空押出成形機により、断面が
図4の形状となるよう押出したこと以外は実施例1と同様にして、活性炭成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0084】
比較例1
実施例1と同様にして得られた粉末状活性炭100質量部に対して、60質量部の炭酸カルシウム(平均粒子径7μm)および5質量部の滑り剤(MC)を混合し、得られた混合物を、35質量部のバインダー樹脂(日本ゼオン株式会社製、アクリルエマルション「ニポールLX-851C」、固形分45質量%)および165質量部の水と混練した。
得られた混練物を、油圧式押出成形機により、直径約2.5mmの円柱状に押出し、押出されたストランドを3~4mmの長さに切断し、120℃で3時間乾燥した。乾燥した成形物100gに対して2mol/Lの塩酸を1Lの割合で用いて煮沸洗浄し、炭酸カルシウム成分を成形物から除去し、120℃で12時間乾燥させることにより、活性炭成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0085】
比較例2
無煙炭をロータリーキルンにより900~950℃で賦活することによって製造され、ASTM D5228に準拠して測定したBWCが15.6g/dLの石炭系活性炭を、粉砕機で平均粒子径25μmの粉末に粉砕したものを粉末状活性炭として使用したこと、および直径約2.0mmの円柱状に押出したこと以外は比較例1と同様にして、活性炭成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0086】
比較例3~7
比較例3~7では、以下の市販の活性炭を用いた。これらの活性炭の形状は、いずれも円柱状である。それぞれの評価結果を表1に示す。
比較例3:株式会社クラレ製の「2GK」
比較例4:Ingevity製の「BAX-1100」
比較例5:株式会社クラレ製の「2GK-H」
比較例6:Ingevity製の「BAX-1500」
比較例7:Ingevity製の「BAX-LBE」
【0087】
【0088】
表1に示されているとおり、特定の、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積、および容積あたりの外表面積を有する本発明の活性炭成形体(実施例1~4)は、所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量を併せ持っていた。これは、本発明の活性炭成形体をキャニスタに用いると、蒸散燃料の良好な吸着に加えて、蒸散燃料の低エミッション性能を実現できることを示す。本発明の活性炭成形体はまた、低い微粉量および高いMS硬度を有する。これは、向上した摩耗強度が要求されるキャニスタ用途にとって有利である。
【0089】
一方、特定の、BET多点法により求めた比表面積とJIS K 1474に準拠して求めた充填密度とから算出した容積あたりの比表面積、または容積あたりの外表面積を有さない活性炭成形体(比較例1~7)は、所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量を併せ持っていなかった。また、比較例4~7の活性炭成形体は、高い微粉量および低いMS強度を有したことから、実使用面でキャニスタ性能が本発明の活性炭成形体より劣ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の活性炭成形体は、所望のブタン有効吸着量、高いパージ効率および低いブタン残留量を併せ持つことから、吸着性能に加えて脱着性能に優れる。従って、本発明の活性炭成形体は、ガス吸着用の吸着材として有用であり、特に脱着性能に優れることから、例えば自動車用燃料タンクからの蒸散燃料の処理用等の吸着材として有用である。