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特許7204030鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用
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  • 特許-鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用 図1
  • 特許-鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用 図2A
  • 特許-鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用 図2B
  • 特許-鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用 図2C
  • 特許-鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用 図3A
  • 特許-鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼ、急性肺障害、および/または急性呼吸窮迫症候群を治療、改善および/または予防するためのADAMTS13の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20230105BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 9/08 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230105BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
A61K38/48
A61P7/02
A61P11/00
A61P29/00
A61P9/08
A61P9/00
A61P9/10
A61P43/00 111
A61P7/06
A61P7/00
A61P13/12
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2022096990
(22)【出願日】2022-06-16
(62)【分割の表示】P 2019503342の分割
【原出願日】2017-08-04
(65)【公開番号】P2022113855
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】62/371,030
(32)【優先日】2016-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
(72)【発明者】
【氏名】ブルース エヴェンシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】ブラーム ゴールドシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト マヤー
(72)【発明者】
【氏名】パオロ ロサット
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ シャイフリンガー
(72)【発明者】
【氏名】マリエッタ タレセク
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505270(JP,A)
【文献】Tersteeg, C. et al.,Potential for Recombinant ADAMTS13 as an Effective Therapy for Acquired Thrombotic Thrombocytopenic Purpura,Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology,2015年,Vol.35, No.11,p.2336-2342,doi:10.1161/ATVBAHA.115.306014
【文献】Novelli, E. M. et al.,Thrombospondin-1 inhibits ADAMTS13 activity in sickle cell disease,Haematologica,2013年,Vol.98, No.11,e132-e134,doi:10.3324/haematol.2013.092635
【文献】Novelli, E. M. et al.,Plasma thrombospondin-1 is increased during acute sickle cell vaso-occlusive events and associated with acute chest syndrome, hydroxyurea therapy, and lower hemolytic rates,American Journal of Hematology,2012年,Vol.87, No.3,p.326-330,doi:10.1002/ajh.22274
【文献】Schnog, J. J. et al.,ADAMTS13 activity in sickle cell disease,American Journal of Hematology,2006年,Vol.81, No.7,p.492-498,doi:10.1002/ajh.20653
【文献】Zhou, Z. et al.,Haemoglobin blocks von Willebrand factor proteolysis by ADAMTS-13: a mechanism associated with sickle cell disease,Thrombosis and Haemostasis,2009年,Vol.101, No.6,p.1070-1077
【文献】Kopic, A. et al.,Preclinical assessment of a new recombinant ADAMTS-13 drug product (BAX930) for the treatment of thrombotic thrombocytopenic purpura,Journal of Thrombosis and Hemostasis,2016年07月,Vol.14, No.7,p.1410-1419,doi: 10.1111/jth.13341. Epub 2016 Jul 2. PMID: 27371116
【文献】Duits, A. J. et al.,Enhanced levels of soluble VCAM-1 in sickle cell patients and their specific increment during vasoocclusive crisis,Clinical Immunology and Immunopathology,1996年,Vol.81, No.1,p.96-98,doi:10.1006/clin.1996.0163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎌状赤血球症(SCD)を患うSCD対象における血管閉塞性クリーゼを治療または予防するための組成物であって、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)を含み、ADAMTS13の治療有効量でSCD対象に投与される、組成物。
【請求項2】
血管閉塞性クリーゼの症状が存在した後に、SCD対象に投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
血管閉塞性クリーゼの症状が存在する前に、SCD対象に投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、血管閉塞性クリーゼの発生頻度および/または血管閉塞性クリーゼ発作の持続期間が低減される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
血管閉塞性クリーゼの発症後48時間以内にSCD対象に投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、生存の改善、肺機能の改善、臓器障害の低減、肺血管漏出の低減、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つがもたらされる、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、炎症、血管収縮、血小板凝集、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つが低減される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、血流障害、血液凝固、血管炎症、血栓症、虚血性細胞障害、または臓器障害、あるいはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つが低減および/または防止される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、疼痛または疼痛の重篤度が軽減および/または防止される、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、臓器における血管細胞接着分子-1(VCAM-1)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、リン酸化核内因子κB(P-NF-κB)、核内因子κB(NF-κB)、エンドセリン-1(ET-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、およびヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化が低減される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、血中のヘマトクリット(Hct)、ヘモグロビン(Hb)、平均赤血球容積(MCV)、および平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)の内の少なくとも1つのレベルが増大する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、血中の細胞ヘモグロビン濃度平均(CHCM)、赤血球分布の不均一性(HDW)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、および好中球数の内の少なくとも1つのレベルが低減される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
ADAMTS13の治療有効量が約20~約6,000国際単位/kg体重である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
ADAMTS13の治療有効量が約40~約4,000国際単位/kg体重である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
ADAMTS13の治療有効量が約50~約3,000国際単位/kg体重である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
ADAMTS13の治療有効量が約100~約3,000国際単位/kg体重である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
ADAMTS13の治療有効量が約50~約500国際単位/kg体重である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
毎月、隔週、毎週、週2回、隔日、毎日、12時間毎、8時間毎、6時間毎、4時間毎、または2時間毎に、単回ボーラス注射で投与される、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記ADAMTS13の治療有効量が、前記対象においてADAMTS13活性の有効循環レベルを維持するのに十分である、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
静脈内投与または皮下投与される、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
ADAMTS13が組換えADAMTS13である、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
ADAMTS13が血漿由来である、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記対象が哺乳動物である、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記対象がヒトである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
投与可能な状態の安定な水溶液にある、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
ADAMTS13の治療有効量が約10~約500国際単位(IU)/kg体重であり、前記組成物が、毎月、隔週、毎週、週2回、毎日、または12時間毎に単回ボーラス注射で投与される安定な水溶液である、請求項21に記載の組成物。
【請求項27】
ADAMTS13の治療有効量が約10~約500国際単位(IU)/kg体重であり、前記組成物が、毎日、12時間毎、8時間毎、6時間毎、4時間毎、または2時間毎に単回ボーラス注射で投与される安定な水溶液である、請求項21に記載の組成物。
【請求項28】
血管閉塞性クリーゼの発症から48時間以内にSCD対象に投与される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記組成物をSCD対象者に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、血管閉塞性クリーゼの発生頻度および/または血管閉塞性クリーゼ発作の持続期間が低減される、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物をSCD対象に投与することにより、該組成物の投与を受けないSCD対象と比較して、血管閉塞性クリーゼの重篤度が軽減される、請求項28に記載の組成物。
【請求項31】
炎症、血管収縮、または血小板凝集の複数のマーカーの各々のより低い改善されたレベルを含む、血管閉塞性クリーゼに対する保護効果を前記対象にもたらし、前記マーカーが、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、エンドセリン-1(ET-1)、血管細胞接着分子-1(VCAM-1)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)、および核内因子κB(NF-κB)に対するリン酸化核内因子κB(P-NF-κB)の比から選択される、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項32】
前記マーカーのすべてのより低いレベルをもたらす、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
細胞ヘモグロビン濃度平均(CHCM)、赤血球分布の不均一性(HDW)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、および好中球数から選択される複数のパラメータの各々のより低いレベルを含む、改善された血液学的パラメータを前記対象にもたらす、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項34】
前記血液学的パラメータのすべてのより低いレベルをもたらす、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
ヘマトクリット(Hct)、ヘモグロビン(Hb)、平均赤血球容積(MCV)、および平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)から選択される複数のパラメータの各々のより高いレベルを含む、改善された血液学的パラメータを前記対象にもたらす、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項36】
前記血液学的パラメータのすべてのより高いレベルをもたらす、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記マーカーが、前記SCD対象の肺および腎臓の一方または両方に関連する改善を示す、請求項31または32に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、35U.S.C§119(e)に基づき、2016年8月4日に出願された米国仮特許出願第62/371,030号の利益を主張し、その内容はその全体が参照により本願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(A Disintegrin And Metalloproteinase with Thrombospondin type 1 motif, member-13)(ADAMTS13)を用いて鎌状赤血球症を治療する方法に関する。より詳細には、本発明は、ADAMTS13を投与することにより、鎌状赤血球症(SCD)に罹患する対象において血管閉塞性クリーゼ(vaso-occlusive crisis)(VOC)を治療、改善、および/または予防する方法に関する。本発明は、SCDにおけるVOCの治療、改善、および/または予防のための医薬の調製のためのADAMTS13および/またはADAMTS13を含む組成物の使用を包含する。本発明はまた、急性肺障害(ALI)および/または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において、ADAMTS13を用いて肺障害を治療、改善、および/または予防する方法、ならびに、ALIおよび/またはARDSの治療、改善、および/または予防のための医薬の調製のためのADAMTS13および/またはADAMTS13を含む組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
鎌状赤血球症(SCD)は、世界中に分布する遺伝性の赤血球障害であり、βグロブリン鎖における点突然変異(β、6V)により生じ、それは欠陥型のヘモグロビンであるヘモグロビンS(HbS)の産生をもたらす。脱酸素に続くHbS重合の反応速度論の研究は、それがヘモグロビン濃度の高次指数関数であることを示しており、鎌状赤血球化における細胞HbS濃度の重大な役割を強調した。病態生理学的研究は、毛細血管、小血管、および大血管における血管内鎌状赤血球化が様々な臓器および組織における虚血性細胞障害を伴う血管閉塞および血流障害を生じさせる、SCDの急性および慢性の臨床症状において、濃い脱水された赤血球が中心的役割を果たすことを示した。
【0004】
SCD患者において、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)および超巨大VWFマルチマーのレベルの上昇が観察されており、急性血管閉塞事象に関連する。超巨大VWFマルチマーのレベルは、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性に依存しており、ADAMTS13は、高流体剪断応力の条件下で超接着性(hyperadhesive)超巨大VWFマルチマーを切断し、止血活性と血栓リスクとの適切なバランスを維持するのに重要な役割を果たす。ADAMTS13は、プレプロ配列の切断後の残基842-843に相当する残基Tyr1605とMet1606との間でVWFを切断する。VWFマルチマーサイズおよび止血活性の調節を大いに担うのが、このVWFのADAMTS13媒介切断である。刺激を介して放出されるまたは血中を循環しているVWFは、損傷された血管壁を含む内皮下組織での血小板粘着および凝集においてコラーゲンと共に役割を果たすため、血小板血栓を形成するのに重要である。VWFの放出は、血管内皮の活性化を伴い、またそれによって部分的に誘発される。従って、血管炎症のバイオマーカーは、血管閉塞事象のリスクの追加情報を提供する。
【0005】
細胞外ヘモグロビン(ECHb)は、SCD患者において増大し、VWFのA2ドメイン、特にADAMTS13切断部位への結合により、ADAMTS13媒介VWFタンパク質分解を阻害する。同様にSCDの患者で増大するトロンボスポンジン-1(TSP1)は、超巨大VWFマルチマーのA2ドメインに結合し、ADAMTS13活性を競合的に阻害することによりADAMTS13によるVWF分解を阻害する。
【0006】
SCDは、先天性の生涯にわたる疾病である。SCDに罹患する人々は、各親から1つずつ、2つの異常ヘモグロビンβ遺伝子を受け継ぐ。人が2つのヘモグロビンS遺伝子、ヘモグロビンSS(HbSS)を有する場合、その疾患は鎌状赤血球貧血と言われる。これは、最も一般的でかつしばしば最も重篤な種類のSCDである。ヘモグロビンSC疾患およびヘモグロビンSβサラセミアは、SCDの2つの他の一般的な種類である。全ての種類のSCDにおいて、2つの異常遺伝子のうち少なくとも1つにより、人の体はその赤血球においてヘモグロビンSまたは鎌状ヘモグロビンを生成する。ヘモグロビンは、体内にわたり酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質である。鎌状ヘモグロビンは、低酸素圧条件下で重合体を形成するその傾向において正常なヘモグロビンとは異なり、その重合体が赤血球内に硬いロッドを形成し、赤血球を三日月形状または鎌状に変化させる。鎌状細胞は、柔軟性がなく、血流を遅くしまたは停止させて本質的に微小循環を妨げる、閉塞を引き起こし得る。これが生じた場合、酸素は近くの組織に到達できない。組織酸素の欠如は、突然の発作、激痛、いわゆる血管閉塞性クリーゼ(VOC)、疼痛クリーゼ(疼痛発作)、または鎌状赤血球クリーゼを生じさせ、それらは供給臓器に対する虚血性障害およびその結果の疼痛をもたらす。疼痛クリーゼは、SCDのVOCの最も顕著な臨床的特徴であり、罹患患者の救急診療部の受診および入院の主な原因である。
【0007】
VOCは、鎌状細胞網状赤血球、内皮細胞、白血球、およびVWFを含む血漿成分などの、鎌状細胞間の相互作用により開始および維持される。血管閉塞は、疼痛症候群、脳卒中、下肢潰瘍、自然流産、および腎不全などの、SCDの様々な臨床的合併症の原因となる。VOCの疼痛はしばしば治療が不完全である。VOCの現在の治療として、中でも特に、輸液、酸素、および痛覚消失(鎮痛)の使用が挙げられるが、VOCの発生率は、慢性的な赤血球(RBC)輸血、ならびにヒドロキシ尿素で低減され得る。しかしながら、疼痛管理の進歩にも関わらず、依存症、耐性、および副作用の心配のため、医師はしばしば、十分な投与量の麻薬性鎮痛薬を患者に与えることに消極的である。急性VOCに加えて、他の急性および慢性のSCDの合併症として、腎疾患、脾梗塞、細菌感染のリスクの上昇、急性および慢性貧血、胸部症候群、脳卒中および眼の疾患が挙げられる。
【0008】
SCDに罹患する患者における急性疼痛は、急性クリーゼ(急性憎悪)中の鎌型赤血球による微小血管床の閉塞に起因する虚血性組織障害により生じる。例えば、VOCの特徴である激しい骨痛は、鎌型赤血球による骨髄の血管壊死に対する急性炎症反応に続発する、特に長骨の関節近傍領域内における、骨髄内圧の上昇により生じると考えられる。疼痛はまた、骨膜または関節の関節周囲軟組織の関与のため生じ得る。慢性疼痛に対する急性クリーゼの予測できない再発の影響は、特異な疼痛症候群を作り出す。
【0009】
SCDの重篤度は人によって大きく異なる。SCDの診断およびケアにおける進歩は、SCDに罹患する人の平均寿命を延ばした。米国のような高所得国において、SCDに罹患する人の平均寿命は現在約40~60歳であるが、約40年前にはたった14歳であった。しかしながら、現在のところ、造血幹細胞移植(HSCT)がSCDの唯一の治療法である。不幸にも、殆どのSCDに罹患する人々は、移植するには高齢すぎるか、あるいは移植に成功するためのドナーとなるのに彼らと十分良好な遺伝子適合を有する血縁者がいないかのどちらかである。従って、当業界には、症候を低減し、合併症を予防し、更に寿命および生活の質を向上させることができるSCDの血管閉塞事象の治療を含む、SCDの改良された治療に対する要求がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、鎌状赤血球症(SCD)に罹患する対象において血管閉塞性クリーゼ(VOC)を治療、改善、および/または予防する方法であって、必要とする対象にADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法を包含する。
【0011】
本発明は、急性肺障害(ALI)および/または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に罹患している対象において肺障害を治療、改善、および/または予防する方法であって、必要とする対象にADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法を包含する。
【0012】
本発明は、医薬の調製のためのADAMTS13および/またはADAMTS13を含む組成物の使用を包含する。他の関連する態様も本発明において提供する。
【0013】
本発明は、SCDに罹患する対象においてVOCを治療、改善、および/または予防する方法であって、必要とする対象にADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。一部の実施形態では、VOCの症候が存在した後に対象を治療する。一部の実施形態では、VOCクリーゼの症候が存在する前に対象を治療する。一部の実施形態では、治療は、炎症、血管収縮、または血小板凝集、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減する。一部の実施形態では、治療は、生存の改善、肺機能の改善、または臓器障害の低減、肺血管漏出の低減、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つをもたらす。一部の実施形態では、治療は、血流障害(例えば虚血)、血液凝固、血管炎症、血栓症、虚血性細胞障害、または臓器障害、あるいはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減および/または防止する。一部の実施形態では、治療は、疼痛または疼痛の重篤度を低減および/または防止する。一部の実施形態では、治療は、VOCの発生頻度および/またはVOC発作の持続期間を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、臓器におけるVCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。一部の実施形態では、比較は、対照の対象に対してである。一部の実施形態では、比較は治療前に行った測量に対してである。
【0014】
ある実施形態では、臓器は、肺、肝臓、膵臓、皮膚、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、腎臓、心臓、胆嚢、または消化管(若しくは胃腸管)を含むが、それらに限定はされない。一部の実施形態では、臓器組織は、肺、肝臓、脾臓、および/または腎臓を含むが、それらに限定はされない。ある実施形態では、臓器は肺である。ある実施形態では、臓器は腎臓である。
【0015】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、血中のHct、Hb、MCV、およびMCHのレベルの内の少なくとも1つの増大、および/または血中のCHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも1つの低減をもたらす。
【0016】
本発明の一部の態様では、SCDに罹患する対象においてVOCを治療、改善または予防するためのADAMTS13の治療有効量は、約20~約6,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約4,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約100~約3,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約50~約500国際単位/kg体重である。
【0017】
ある態様では、SCDに罹患する対象においてVOCを治療、改善または予防するための投与量(dosage)または治療有効量は、約10~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約50~約450国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約150国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約100~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約400国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約100~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約300~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、または約500国際単位/kg体重である。
【0018】
更なる態様では、SCDに罹患する対象においてVOCを治療、改善または予防するための投与量または治療有効量は、約50~約1,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約900国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約800国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約300~約700国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約400~約600国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約500国際単位/kg体重である。
【0019】
一部の実施形態では、SCDに罹患する対象においてVOCを治療、改善または予防するためのADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、毎日、12時間毎、8時間毎、6時間毎、4時間毎、または2時間毎に、単回ボーラス注射で投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は静脈内または皮下投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は静脈内投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は皮下投与される。
【0020】
本発明の一部の態様では、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、VOCの発症後48時間以内に対象に投与される。一部の態様では、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、VOCの発症後24時間以内に対象に投与される。一部の態様では、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、VOCの発症後12時間以内に対象に投与される。一部の態様では、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、VOCの発症後6時間以内に対象に投与される。
【0021】
本発明の一部の態様では、VOCを予防するためのADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、対象において有効レベルのADAMTS13活性を維持するのに十分である。一部の態様では、VOCを予防するためのADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、VOCを予防するために毎月、隔週、毎週、または週2回投与される。一部の実施形態では、投与は皮下投与である。一部の態様では、投与は静脈内投与である。
【0022】
本発明は、SCDに罹患する対象においてVOCを治療または予防するためのADAMTS13を含む組成物の使用を包含する。一部の実施形態では、本発明は、SCDに罹患する対象においてVOCを治療または予防するための医薬として使用するためのADAMTS13を含む組成物を包含する。
【0023】
ある実施形態では、VOCを治療または予防する方法は、(i)ADAMTS13を投与する工程、および(ii)パラメータまたは症状が変化したか否かを評価する工程を含み、前記パラメータは、炎症、血管収縮、血小板凝集、肺機能、臓器(例えば、肺または腎臓)障害、肺血管漏出、血流、血液凝固、血管炎症、血栓症、虚血性細胞障害、疼痛の存在、疼痛の重篤度、VOCの発生頻度、VOC発作の持続期間、VCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1、TXAS、HO-1、Hct、Hb、MCV、HDW、網状赤血球数、および好中球数からなる群より選択される。
【0024】
本発明は、ALIおよび/またはARDSに罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、および/または予防する方法であって、必要とする対象にADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。一部の態様では、対象は、炎症性肺水腫、炎症性肺浸潤、酸素化障害、および低酸素血症からなる群より選択される状態または状態の組合せを患う。一部の態様では、治療は、生存の改善、肺機能の改善、または臓器障害の低減、肺血管漏出の低減、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つをもたらす。一部の態様では、治療は、炎症、血管収縮、または血小板凝集、あるいはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減する。一部の態様では、治療は、血流障害(例えば虚血)、血液凝固、血管炎症、血栓症、虚血性細胞障害、または臓器障害、あるいはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減および/または防止する。一部の実施形態では、治療は、疼痛または疼痛の重篤度を低減および/または防止する。一部の実施形態では、治療は、ALIおよび/またはARDSの発生頻度、および/またはALIおよび/またはARDS発作の持続期間を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、臓器におけるVCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。一部の実施形態では、比較は、対照の対象に対してである。一部の実施形態では、比較は治療前に行った測量に対してである。
【0025】
ある実施形態では、臓器は、肺、肝臓、膵臓、皮膚、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、腎臓、心臓、胆嚢、または消化管を含むが、それらに限定はされない。一部の実施形態では、臓器組織は、肺、肝臓、脾臓、および/または腎臓を含むが、それらに限定はされない。ある実施形態では、臓器は肺である。ある実施形態では、臓器は腎臓である。
【0026】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、血中の好中球数の低減をもたらす。
【0027】
本発明の一部の態様では、ALIおよび/またはARDSに罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、および/または予防するためのADAMTS13の治療有効量は、約20~約6,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約4,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約100~約3,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約50~約500国際単位/kg体重である。
【0028】
ある態様では、ALIおよび/またはARDSに罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、および/または予防するための投与量または治療有効量は、約10~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約50~約450国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約150国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約100~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約400国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約100~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約300~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、または約500国際単位/kg体重である。
【0029】
更なる態様では、ALIおよび/またはARDSに罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、および/または予防するための投与量または治療有効量は、約50~約1,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約900国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約800国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約300~約700国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約400~約600国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約500国際単位/kg体重である。
【0030】
一部の実施形態では、ALIおよび/またはARDSに罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、および/または予防するためのADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、炎症性肺水腫、炎症性肺浸潤、酸素化障害、または低酸素血症の検出後48時間以内に対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、炎症性肺水腫、炎症性肺浸潤、酸素化障害、または低酸素血症の検出後24時間以内に対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、炎症性肺水腫、炎症性肺浸潤、酸素化障害、または低酸素血症の検出後12時間以内に対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、炎症性肺水腫、炎症性肺浸潤、酸素化障害、または低酸素血症の検出後6時間以内に対象に投与される。
【0031】
一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、毎日、12時間毎、8時間毎、6時間毎、4時間毎、または2時間毎に、単回ボーラス注射で投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は静脈内または皮下投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は静脈内投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は皮下投与される。
【0032】
本発明の様々な態様において、ADAMTS13は組換えADAMTS13である。一部の態様では、ADAMTS13は血漿由来である。
【0033】
本発明の様々な態様において、対象は哺乳動物である。一部の態様では、対象はヒトである。
【0034】
一部の態様では、組成物は、投与可能な状態の安定な水溶液中にある。
【0035】
一部の態様では、肺障害を治療、改善、および/または予防するためのADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、対象においてADAMTS13活性の有効循環レベルを維持するのに十分である。
【0036】
本発明は、ALIおよび/またはARDSに罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、および/または予防するための、ADAMTS13を含む組成物の使用を包含する。一部の態様では、対象はALLを患う。一部の態様では、対象はARDSを患う。
【0037】
本発明は、ALIおよび/またはARDSに罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、および/または予防するための医薬として使用するための、ADAMTS13を含む組成物も包含する。
【0038】
ある実施形態では、ALI/ARDSを治療または予防する方法は、(i)ADAMTS13を投与する工程、および(ii)パラメータまたは症状が変化したか否かを評価する工程を含み、前記パラメータは、炎症、血管収縮、血小板凝集、肺機能、臓器(例えば、肺または腎臓)障害、肺血管漏出、血流、血液凝固、血管炎症、血栓症、虚血性細胞障害、ALI/ARDSの発生頻度、ALI/ARDS発作の持続期間、VCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1、TXAS、HO-1、Hct、Hb、MCV、HDW、網状赤血球数、および好中球数からなる群より選択される。
【0039】
前述の概要は、本発明の全ての態様を特定することを意図しておらず、更なる態様を下記の詳細な説明など他の欄に記載する。本明細書全体が、統合された開示として関連づけられることが意図され、たとえその特徴の組合せが本発明の同じ文、段落または節において一緒に見出されなくても、本明細書に記載されている全ての特徴の組合せが企図されていることを理解されたい。本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内における様々な変更および修飾は詳細な説明から当業者に明らかとなるから、詳細な説明および具体例は、本発明の特定の実施形態を表すが、単に例示として記載されていることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】ADAMTS13が鎌状赤血球症のマウス(SCD)を重篤な急性VOCに関連する死から保護することを示すグラフ。マウス(n=6)をrADAMTS13(BAX930/SHP655(2,940FRETS-U/kg(-3,200IU/kg)))で処置し、7%酸素に10時間曝し、その後21%酸素で3時間回復させた。rADAMTS13処置SCDマウス、ビヒクル処置AA(健康)マウス、およびADAMTS13処置AAマウスの生存曲線は、ビヒクル処置SCDマウスの生存曲線とは有意に異なっていた(p<0.001)。13時間後、ビヒクル処置SCDマウスの群に生存動物はいなかったが、他の3つの群の全てにおいて100%の動物が生存していた。
図2A】SCD(SS)マウスが、対照と比較して、気管支肺胞洗浄において有意に多い白血球数および有意に多いタンパク質含量を有することを示し、血管漏出を表した。rADAMTS13(BAX930/SHP655)での処置は、この影響を顕著に低減し、全身性炎症の低減および肺血管機能不全における異常の低減を表した。
図2B】rADAMTS13(BAX930/SHP655)が、AAおよびSCDマウスの肺においてNF-κBの低酸素誘発性活性化を防いだことを示し、ADAMTS13が低酸素状態により引き起こされる肺炎症プロセスを抑制することを表す。
図2C】rADAMTS13(BAX930/SHP655)が、低酸素条件に曝した後のSCDマウスの肺において、血管活性化および炎症性血管症の様々なマーカーの活性化を防いだことを示す。
図3A】rADAMTS13(BAX930/SHP655)が、AAおよびSCDマウスの腎臓において、正常酸素条件下のSCDマウスと同様に、NF-κBの低酸素誘発性活性化を防いだことを示し、ADAMTS13が、肺と同様に、腎臓においても低酸素状態により引き起こされた炎症プロセスを抑制することを表す。
図3B】rADAMTS13(BAX930/SHP655)が、低酸素条件に曝した後のSCDマウスの腎臓において、血管活性化および炎症性血管症の様々なマーカーの活性化を防いだことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、様々な態様において、SCDにおけるVOCを予防、改善、および/または治療するためにADAMTS13を提供する。本発明の任意の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の詳細な説明に記載されあるいは図面および実施例に例証されている構成の詳細および成分の配合に限定されないことを理解されたい。本明細書で用いられている各欄の見出しは単に構成上の目的のためのものであり、記載されている主題を限定すると解釈されるべきではない。本出願で言及されている全ての参考文献は、参照することにより本明細書に明白に組み込まれる。
【0042】
本発明は、他の実施形態を包含し、様々な様式で実行または実施される。また、本明細書で用いられる表現および用語は説明の目的のためであり、限定的と見なされるべきでないことを理解されたい。用語「含有する」、「含む」、または「有する」、ならびにそれらの変形は、その後に記載されている品目およびその等価物、ならびに追加の品目を包含することを意味する。
【0043】
以下の略語が全体にわたり用いられる。
AAマウス:ヘモグロビンA(HbA)のホモ接合体であるトランスジェニックマウス
ADAMTS:トロンボスポンジンを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ
ADAMTS13:トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13
ALI:急性肺障害
ARDS:急性呼吸窮迫症候群
BAL:気管支肺胞洗浄
DNA:デオキシリボ核酸
ET-1:エンドセリン1
FRETSU:FRETS単位
GAPDH:グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ
HbA:ヘモグロビンA
HbS:鎌状ヘモグロビン
HO-1:ヘムオキシゲナーゼ1
H/R:低酸素/再酸素化
ICAM-1:細胞間接着分子1
IU:国際単位
kDa:キロダルトン
LDH:乳酸デヒドロゲナーゼ
NF-κB:核内因子カッパ(κ)B
P-NF-κB:リン酸化核内因子κB
rADAMTS13:組換えADAMTS13
RBC:赤血球
RNA:リボ核酸
SCD:鎌状赤血球症
SSマウス:HbSのホモ接合体のトランスジェニックマウス
TXAS:トロンボキサンシンターゼ
VCAM-1:血管細胞接着分子1
VOC:血管閉塞性クリーゼ
VWF:フォン・ビルブラント因子
【0044】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数の言及を包含することをここに指摘する。属(genus)として記載されている本発明の態様に関して、全ての個々の種(species)は、本発明の個別の態様と考えられる。本発明の態様がある特徴を「含む」と記載されている場合、実施形態は、その特徴「からなる」または「から本質的になる」ことも企図されている。
【0045】
本明細書で用いられる場合、別途明記されない限り、下記の用語はそれらに与えられた意味を有する。
【0046】
本明細書で用いられる用語「鎌状赤血球症(SCD)」は、多様な形態で存在する一群の遺伝性赤血球障害を表す。SCDのいくつかの形態は、ヘモグロビンSS、ヘモグロビンSC、ヘモグロビンSβサラセミア、ヘモグロビンSβサラセミア、ヘモグロビンSD、およびヘモグロビンSEである。ヘモグロビンSC病およびヘモグロビンSβサラセミアは、SCDの2つの一般的な形態であり、本発明は全ての形態のSCDに関しかつそれらを包含する。
【0047】
本明細書で用いられる用語「血管閉塞性クリーゼ(VOC)」は、前兆なしに生じ得る突然の激しい疼痛発作である。疼痛クリーゼまたは鎌状赤血球クリーゼとしても知られているVOCは、青年および成人におけるSCDの一般的な有痛性の合併症である。VOCは、鎌状赤血球、内皮細胞、および血漿成分の間の相互作用により開始および維持される。血管閉塞は、疼痛症候群、脳卒中、下肢潰瘍、自然流産、および/または腎不全を含む、SCDの様々な臨床的合併症の原因である。
【0048】
用語「急性肺障害」(ALI)および「急性呼吸窮迫症候群」(ARDS)は、実質的な罹患率および死亡率を有する急性呼吸不全の臨床症候群を表す(Johnson et al., J. Aerosol Med. Pulmon. Drug Deliv. 23:243-52, 2010)。ALIおよびより重篤なARDSはいずれも、両側性の炎症性肺浸潤、および酸素化障害または低酸素血症を含む、無数の局所または全身発作に続発する炎症性肺水腫の突然発症により特徴つけられる肺疾患のスペクトルを表す(Walkey et al, Clinical Epidemiology 4: 159-69, 2012)。ALIおよびARDSは、肺障害または疾患の2つの臨床症候群であるが、本発明は、ALIおよびARDSのみならず、全ての形態の肺障害および肺疾患、特に酸素化障害に関連する肺障害、の治療、予防または改善におけるADAMTS13の使用に関しかつそれらを包含する。
【0049】
「トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)」は、フォン・ビルブラント因子切断プロテアーゼ(VWFCP)としても知られている。本明細書で使用される用語「ADAMTS13」または「ADAMTS13タンパク質」は、ADAMTS13のアナログ、変異体、誘導体(化学修飾誘導体を含む)、およびそれらの断片を包含する。一部の態様では、アナログ、変異体、誘導体、およびそれらの断片は、ADAMTS13と比較して高められた生物活性を有する。様々な態様において、ADAMTS13は、組換えADAMTS13(rADAMTS13)であるか、あるいは、血漿由来および血清由来のADAMTS13を包む、血液由来ADAMTS13である。
【0050】
本明細書で用いられる用語「アナログ」は、自然発生の分子に構造において実質的に類似し、かつある例では異なる程度であるが、自然発生の分子と同じ生物活性を有するポリペプチド(例えば、ADAMTS13)を意味する。アナログは、それからアナログが派生する自然発生のポリペプチドと比較して、(i)ポリペプチド(上記の通り断片を含む)の1つ以上の末端および/または自然発生のポリペプチド配列の1つ以上の内部領域における、1つ以上のアミノ酸残基の欠失;(ii)ポリペプチドの1つ以上の末端(典型的には「付加」アナログ)および/または自然発生のポリペプチド配列の1つ以上の内部領域(典型的には「挿入」アナログ)での1つ以上のアミノ酸の挿入または付加;あるいは(iii)自然発生のポリペプチド配列における他のアミノ酸による1つ以上のアミノ酸の置換;を伴う1つ以上の突然変異に基づき、アミノ酸配列の組成において異なる。置換は、置き換えられるアミノ酸とそれに置き換わるアミノ酸との物理化学的または機能的関連性に基づき、保存的であるかまたは非保存的である。
【0051】
「保存的修飾アナログ」は、アミノ酸および核酸配列の両方に適用する。特定の核酸配列に関して、保存的修飾核酸は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、あるいは核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は、本質的に同一の配列を指す。遺伝コードの縮重のために、多くの機能的に同一の核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。よって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、コドンは、コードされたポリペプチドを変化させることなく記載される対応コドンのいずれかに変更され得る。そのような核酸変異は「サイレント変異」であり、これは保存的修飾アナログの1つの種である。ポリペプチドをコードする本明細書における全ての核酸配列はまた、核酸の全ての潜在的なサイレント変異を記載する。当業者は、核酸中の各コドン(AUG(これは通常、メチオニンに対する唯一のコドンである)およびTGG(これは通常、トリプトファンに対する唯一のコドンである)を除く)が、修飾されて機能的に同一の分子をもたらし得ることを認識するであろう。従って、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載される配列のそれぞれに潜在している。
【0052】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列中の単一のアミノ酸または数パーセントのアミノ酸を変化、付加または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列への個々の置換、挿入、欠失、付加、または切断は、その変化があるアミノ酸の化学的に類似するアミノ酸での置換をもたらす場合、「保存的修飾アナログ」であることを認識するであろう。機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野においてよく知られている。そのような保存的修飾変異体は、本発明の多型変異体、種間ホモログ、および対立遺伝子に追加され、およびそれらを排除しない。
【0053】
下記8つの群はそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照)。
【0054】
本明細書で用いられる用語「変異体」は、その変異体が天然ポリペプチドの生物活性を保持することを条件に、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、挿入、または修飾を含む、ポリペプチド、タンパク質、またはそれらのアナログを指す。用語「変異体(variant)」は、一部の態様では、用語「突然変異体(mutant)」と交換可能に用いられる。
【0055】
本明細書で用いられる用語「対立遺伝子変異体」は、同じ遺伝子座を占有する遺伝子の2つ以上の多型形態のいずれかを指す。対立遺伝子変異は、突然変異により自然に生じ、一部の態様では、集団内に表現型多型をもたらす。ある態様では、遺伝子突然変異はサイレント(コードされるポリペプチドに変化をもたらさない)であり、あるいは、他の態様では、改変アミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。「対立遺伝子変異体」は、遺伝的対立遺伝子変異体のmRNA転写物に由来するcDNA、ならびにそれによりコードされるタンパク質を指す。
【0056】
用語「誘導体」は、治療または診断剤への共役、標識(例えば、放射性核種または様々な酵素による)、PEG化(ポリエチレングリコールでの誘導体化)などのポリマー共有結合、および非天然アミノ酸の化学合成による挿入または置換により、共有結合修飾されたポリペプチドを指す。一部の態様では、誘導体は、本来はその分子の部分ではない付加的な化学部分を含むように修飾される。ある態様では、これらの誘導体は化学修飾誘導体と称される。あるいは、そのような部分は、様々な態様において、分子の溶解性、吸収、および/または生物学的半減期を調節する。その部分は、様々な他の態様では、その分子の毒性を低減し、およびその分子の任意の望ましくない副作用等を排除または低減する。そのような作用を媒介できる部分は、Remington's Pharmaceutical Sciences (1980)に開示されている。そのような部分を分子にカップリングさせるプロセスは、当業界でよく知られている。例えば、一部の態様では、ADAMTS13誘導体は、タンパク質により長いin vivo半減期をもたらす化学修飾を有する。一実施形態では、ポリペプチドは、当業界で知られている水溶性ポリマーの付加により修飾される。関連する実施形態では、ポリペプチドは、グリコシル化、PEG化、および/またはポリシアリル化により修飾される。
【0057】
本明細書で用いられるポリペプチドの「断片」は、完全長のポリペプチドまたはタンパク質発現産物よりも小さなポリペプチドの任意の部分を指す。断片は、典型的には、完全長ポリペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシ末端から1つ以上のアミノ酸残基が除去されている、完全長ポリペプチドの欠失アナログである。従って、「断片」は下記に説明する欠失アナログのサブセットである。
【0058】
用語「組換え体」または「組換え発現系」は、例えば細胞に関連して用いられる場合、その細胞が、異種核酸またはタンパク質の導入、あるいは天然核酸またはタンパク質の変更によって改変されている、あるいはその細胞がそのように改変された細胞に由来することを表す。従って、例えば、組換え細胞は、天然(非組換え)型の細胞内では見られない遺伝子を発現するか、あるいは、さもなければ異常発現される、低発現される、または全く発現されない天然遺伝子を発現する。この用語はまた、例えばプロモーターまたはエンハンサーなどの、遺伝子発現において調節作用を有する組換え遺伝子エレメントを安定に組み込んだ宿主細胞も意味する。本明細書で定義される組換え発現系は、発現されるべき内因性DNA断片または遺伝子に連結した調節エレメントの誘導によりその細胞に内因性のポリペプチドまたはタンパク質を発現するであろう。細胞は原核細胞であっても真核細胞であってもよい。
【0059】
用語「組換え体」は、ポリペプチドまたはタンパク質に言及して本明細書で用いられる場合、ポリペプチドまたはタンパク質が、組換え(例えば、微生物または哺乳動物)発現系由来であることを意味する。「微生物」の場合、細菌または真菌(例えば、酵母)発現系で作られた組換えポリペプチドまたはタンパク質を指す。用語「組換え変異体」は、組換えDNA技術を用いて作られた、アミノ酸の挿入、欠失、および置換により自然発生のポリペプチドとは異なる任意のポリペプチドを指す。関心活性を失うことなくどのアミノ酸残基を置換、付加または欠失させ得るかを特定する際の指針は、特定のポリペプチドの配列を、相同ペプチドの配列と比較し、高相同性の領域になされるアミノ酸配列変化の数を最小限にすることにより見出すことができる。
【0060】
用語「剤」または「化合物」は、本発明において生物学的パラメータに影響を及ぼす能力を有する、例えばタンパク質または医薬などの任意の分子を表す。
【0061】
本明細書で用いられる「対照」は、実対照薬(active control)、陽性対照、陰性対照、またはビヒクル対照を意味しうる。当業者に理解されるように、対照を用いて、実験結果の関連性を明らかにし、試験されている条件に関して比較を提供する。ある態様では、対照は、活性予防または治療組成物を受けない対象である。ある態様では、対照は、SCD、VOC、ALIおよび/またはARDSを経験していない対象であり、例えば、健康対象またはいずれの症状もない対象であるが、それらに限定はされない。
【0062】
用語「重篤度を低減する」は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSの症状に言及する場合、その症状が、発症の遅延、重篤度の低減、発生頻度の低減を有するか、あるいはより少ない損傷を対象に生じさせることを意味する。一般的に、症状の重篤度は、対照、例えば活性予防または治療組成物を受けない対象と比較され、あるいは治療薬の投与前の症状の重篤度と比較される。その場合、その症状の対照レベルと比較して、症状が約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%(すなわち、本質的に除去される)低減された場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSの症状の重篤度を低減すると言える。ある態様では、その症状の対照レベルと比較して、症状が約10%~約100%、約20%~約90%、約30%~約80%、約40%~約70%、または約50%~約60%の間の範囲で低減された場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSの症状の重篤度を低減すると言える。ある態様では、その症状の対照レベルと比較して、症状が約10%~約30%、約20%~約40%、約30%~約50%、約40%~約60%、約50%~約70%、約60%~約80%、約70%~約90%、または約80%~約100%の間の範囲で低減された場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSの症状の重篤度を低減すると言える。一部の態様では、本発明の方法による処置は、SCDにおけるVOCおよび/またはALI/ARDSの疼痛および/または他の症状の重篤度を低減する。
【0063】
用語「発現を低減する」、「レベルを低減する」、および「活性を低減する」は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカー(限定はされないが、例えば、VCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1、TXAS、HO-1、Hct、Hb、MCV、HDW、網状赤血球数、および好中球数など)に言及する場合、バイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化が対照と比較して低減されていることを意味する。その場合、そのバイオマーカーが、対照と比較して、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%(すなわち、本質的に除去される)低減される場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を低減すると言える。ある態様では、対照と比較して、発現、レベル、および/または活性化が約10%~約100%、約20%~約90%、約30%~約80%、約40%~約70%、または約50%~約60%の間の範囲で低減された場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を低減すると言える。ある態様では、対照と比較して、バイオマーカーが約10%~約30%、約20%~約40%、約30%~約50%、約40%~約60%、約50%~約70%、約60%~約80%、約70%~約90%、または約80%~約100%の間の範囲で低減された場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を低減すると言える。
【0064】
用語「発現を増大する」、「レベルを増大する」、および「活性を増大する」は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカーに言及する場合、バイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化が対照と比較して増大されていることを意味する。その場合、そのバイオマーカーが、対照と比較して、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%増大される場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を増大すると言える。ある態様では、対照と比較して、発現、レベル、および/または活性化が約10%~約100%、約20%~約90%、約30%~約80%、約40%~約70%、または約50%~約60%の間の範囲で増大された場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を増大すると言える。ある態様では、対照と比較して、バイオマーカーが約10%~約30%、約20%~約40%、約30%~約50%、約40%~約60%、約50%~約70%、約60%~約80%、約70%~約90%、または約80%~約100%の間の範囲で増大された場合に、組成物は、SCD、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を増大すると言える。
【0065】
用語「有効量」および「治療有効量」はそれぞれ、本明細書に示されているように、ADAMTS13ポリペプチドの観測可能なレベルの1つ以上の生物活性を支持するのに用いられる、ポリペプチド(例えばADAMTS13ポリペプチド)または組成物の量を指す。例えば、有効量は、本発明の一部の態様では、SCDにおけるVOC、および/またはALI/ARDSの症状を治療または予防するのに必要な量であろう。
【0066】
「対象」は、非植物非原生生物のその通常の意味を有する。ほとんどの態様において、対象は動物である。ある態様では、動物は哺乳動物である。より特定の態様において、哺乳動物はヒトである。他の態様において、哺乳動物はペットまたはコンパニオンアニマル、家畜、あるいは動物園の動物である。ある態様では、哺乳動物は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、または非ヒト霊長類である。他の態様では、哺乳動物は、ネコ、イヌ、ウマ、またはウシである。様々な他の態様において、哺乳動物は、シカ、マウス、シマリス、リス、フクロネズミ、またはアライグマである。
【0067】
また、本明細書に記載されている任意の数値は、下限値から上限値までのすべての値を包含することが理解されるべきであり、すなわち、列挙されている最低値と最高値の間の数値のすべての可能な組み合わせが、本願に明示的に記載されていると考えるべきである。例えば、濃度範囲が約1%~50%と記載されている場合、2%~40%、10%~30%、または1%~3%などの値が本明細書に明示的に列挙されることが意図されている。上記に挙げた値は、具体的に意図されていることの単なる例示である。
【0068】
様々な態様において、範囲は、「約」または「およそ」1つの特定値からおよび/または「約」または「およそ」別の特定値までとして本明細書で表されている。値が、先行詞「約」を用いて概算として表される場合、ある程度の変動がその範囲に含まれることを理解されたい。そのような範囲は、所定の値または範囲の、1桁以内、好ましくは50%以内、より好ましくは20%以内、更により好ましくは10%以内、もっとより好ましくは5%以内であってよい。用語「約」または「およそ」に包含される許容変動は、検討中の特定の系に依存し、当業者は容易に理解することができる。
【0069】
鎌状赤血球症、および鎌状赤血球症における血管閉塞
一部の態様では、本発明は、SCDにおけるVOCの治療、改善、および/または予防における、ADAMTS13、およびADAMTS13を含む組成物を包含する。SCDは、βグロブリン遺伝子における点突然変異により生じる世界中に分布する遺伝性の赤血球障害であり、病的なHbSの合成、ならびに低酸素条件下で異常なHbS重合をもたらす。SCDの2つの主な臨床症状は、慢性溶血性貧血および急性VOCであり、それらはSCD患者の入院の主な理由である。最近の研究は、鎌状赤血球関連の急性事象および慢性臓器合併症の発生における鎌状血管症(sickle vasculopathy)の中心的役割を強調している(Sparkenbaugh et al, Br. J. Haematol. 162:3-14, 2013; De Franceschi et al., Semin. Thromb. Hemost. 226-36, 2011; and Hebbel et al, Cardiovasc. Hematol. Disord. Drug Targets, 9:271-92, 2009)。これら合併症の病理生理は、VOC、血流障害、管炎症、および/または虚血性細胞障害を伴う血栓症につながる、毛細血管および小血管における血管内鎌状赤血球化に基づく。
【0070】
最も一般的なSCDの臨床症状はVOCである。VOCは、微小循環が鎌状赤血球により閉塞された場合に生じ、供給臓器への虚血性障害および結果の疼痛を引き起こす。疼痛クリーゼは、SCDの最も顕著な臨床的特徴であり、SCDに罹患する対象または患者の救急診療部の受診および/または入院の主な原因である。
【0071】
ホモ接合型HbS症に罹患する対象または患者のおよそ半分はVOCを経験する。クリーゼ(急性憎悪)の頻度は極めてばらつきがある。一部のSCD対象または患者は、毎年6回以上もの回数の発作(episodes)を起こすが、他の患者は大きな間隔でのみ発作を起こすか、あるいは全く発作を起こさない。対象または患者それぞれは、典型的には、クリーゼの頻度に関して一貫したパターンを有する。
【0072】
本発明は、VOCに関連する虚血および疼痛(例えば、指炎、持続勃起症、腹痛、胸痛、および関節痛)、黄疸、骨梗塞、異常呼吸(例えば、頻呼吸および息切れ)、低酸素症、アシドーシス、低血圧、および/または頻脈などを含むがそれらに限定されない、VOCの少なくとも1つの症状を低減する方法を包含する。ある態様では、VOCは、これらの症状の1つ以上を含む症状として定義することができる。疼痛クリーゼは突然始まる。クリーゼは、数時間~数日持続し、その始まりと同様に突然終わり得る。疼痛は、あらゆる体の部分に影響し、しばしば腹部、付属器官、胸部、背部、骨、関節、および軟組織を含み、それは指炎(子供における両側性の痛む腫れた手および/または足)、急性関節壊死または虚血壊死、あるいは急性腹症として現れ得る。脾臓での繰り返される発作により、生命に関わる感染症に罹りやすくする梗塞および脾臓の線維化(autosplenectomy)が通常である。肝臓も梗塞し、時間とともに不全に進行し得る。乳頭壊死はVOCの一般的な腎症状であり、等張尿(すなわち、尿の濃縮不能)につながる。
【0073】
長骨を含む、四肢に激しい深部痛がある。腹痛は激しく、急性腹症に似ている;それは、他の部位からの関連痛、あるいは腹腔内の固形臓器または軟組織の梗塞に起因し得る。反応性イレウスは腸管の膨張および疼痛につながる。顔も含まれ得る。疼痛は、発熱、倦怠感、呼吸障害、勃起時疼痛、黄疸、および白血球増加を伴う場合がある。骨痛は、しばしば骨髄梗塞のせいである。疼痛は、ほとんどの骨髄活性を有する骨を含む傾向があり、また骨髄活性は年齢とともに変化するため、確かなパターンは予測可能である。出生後18か月の間、中足骨および中手骨が携わり得るため、指炎または手足症候群として現れる。上記のパターンは、一般的に直面する現象を記載するが、血液供給および感覚神経を有する対象の体のあらゆる領域がVOCの影響を受けるであろう。
【0074】
何がVOCの原因であるかについて憎悪原因が同定されないことがよくある。しかしながら、脱酸素化HbSは半固体となり、最も可能性の高いVOCの生理学的誘因は低酸素血症である。これは、急性胸部症候群または不随する呼吸器合併症のせいであり得る。アシドーシスは酸素解離曲線のシフト(ボーア効果)をもたらし、ヘモグロビンをより迅速に非飽和にさせるため、脱水も疼痛を急に引き起こし得る。血液濃縮も一般的な機序である。VOCの別の一般的な誘因は、発熱による上昇または環境温度変化による低下のいずれであっても、体温の変化である。体温の低下は、おそらく末梢血管収縮の結果としてクリーゼを引き起こすと思われる。
【0075】
ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、末梢好中球の増加を有するとして定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、肺血管漏出の増大(例えば、気管支肺胞洗浄(BAL)中の白血球数の増加および/またはタンパク質含量(BALタンパク質(mg/mL)の増加)として定義することができる。
【0076】
ある実施形態では、対照と比較して、臓器における血管活性化レベルの増大(例えば、VCAM-1および/またはICAM-1の発現、レベル、および/または活性の増大により測定される)は、VOCのマーカーである。ある実施形態では、対照と比較して、臓器における炎症性血管症のレベルの上昇(例えば、VCAM-1および/またはICAM-1の発現、レベル、および/または活性の増大により測定される)はVOCのマーカーである。ある実施形態では、対照と比較して、組織における血管活性化および炎症性血管症のレベルの上昇は、VOCのマーカーである。ある実施形態では、臓器は肺および/または腎臓である。ある実施形態では、臓器は腎臓である。
【0077】
ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、NF-κB(ここで、NF-κBの活性化は、P-NF-κB、またはP-NF-κB/NF-κB比により測定される)、VCAM-1、およびICAM-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化の増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、エンドセリン-1(ET-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、およびヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の内の少なくとも1つの発現またはレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、これらの増大は肺組織で見られる。ある実施形態では、これらの増大は腎組織で見られる。ある実施形態では、腎組織におけるTXAS、ET-1、およびVCAM-1の発現および/またはレベルの増大、ならびにNF-κBの活性化が、VOCのマーカーである。
【0078】
ある実施形態では、VOCは、血液学的パラメータにより定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも1つのレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも2つのレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも3つのレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも1つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも2つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも3つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hctレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hbレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、MCVの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOC、対照と比較して、MCHの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCMの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、HDWの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、好中球数の増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、LDHの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも1つのレベルの低減、および/または対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも1つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHのレベルの低減、および/または対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHのレベルの増大として定義することができる。
【0079】
SCOのモデル、ならびに予防または治療の有効性を試験する方法
一部の実施形態では、本開示は、SCDマウスを低酸素状態に曝すことにより模倣された急性SCD関連事象中のSCDマウスモデル(ティム・タウンズ(Tim Townes)マウス)における組換えADAMTS13(すなわち、BAX930/SHP655)の効果の試験を含む。正常酸素および低酸素条件下で試験を実施し、そのマウスモデル(全生存率を測定することを含む)での予防または治療投与の有効性、ならびに肺障害および血管炎症に対するBAX930/SHP655での治療の生物学的効果を、鎌状赤血球症マウスを低酸素状態に曝した後に試験する。
【0080】
一部の実施形態では、SCDのトランスジェニックマウスモデを用いる(Kalish et al, Haematologica 100: 870-80, 2015)。一部の態様では、健康対照(Hbatm1(HBA)TowHbbtm3(HBG1,HBB)Tow)およびSCD(Hbatm1(HBA)TowHbbtm2(HBG1,HBB*)Tow)マウスを低酸素/再酸素化(H/R)ストレスに曝した(Kalish et al.,下記参照)。そのようなH/Rストレスは、ヒトSCD患者における急性VOCおよび急性VOCで見られる臓器障害を生物学的に再生することが示されている。一部の態様では、健康(AA)およびSCD(SS)マウスは、ある時間(例えば、約10時間)低酸素状態(例えば、約7または8%酸素)に曝され、続いてある時間(例えば3時間)の再酸素化(例えば、約21%酸素、室内空気条件)を受ける(Kalish et al.,下記参照)。
【0081】
様々な態様において、SCDモデルおよび対照は、正常酸素状態または低酸素状態の条件を受ける。正常酸素実験において、健康対照(AA)およびSCD(SS)マウスは、固定容量(例えば、10mL/kg)で、rADAMTS13(例えば、2,940FRETS-U/kg(-3,200IU/kg))または緩衝液(ビヒクル)のいずれかの単回静脈内投与を受け、更に正常酸素(例えば、約21%酸素、室内空気条件)条件に曝される。ADAMTS13またはビヒクルでの処置および正常酸素状態または低酸素状態への曝露後、様々な時間の間動物を調べた。血液を採取し、全血算(CBC)を測定する。CBCは総合的な健康状態を評価し、とりわけ貧血を含む、広範囲の不調を検出するのに用いられる血液検査である。血液学的検査、凝固パラメータ、炎症のバイオマーカー、血管症、および病理組織検査を含むがそれらに限定されない、様々な他の終点を測定する。
【0082】
例示的態様において、低酸素実験を実施し、そこでは、健康対照(AA)およびSCD(SS)マウスに、固定容量(例えば、10mL/kg)で、ADAMTS13(例えば、500IU/kg、1,000IU/kg、または3,200IU/kg)またはビヒクルの単回静脈内投与を行う。ある実施形態では、ヒト対象に投与される用量(dose)は、齧歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約10%である。ある実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、齧歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約9%である。ある実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、齧歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約8%である。ある実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、齧歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約7%である。ある実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、齧歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約10%未満、例えば約7%~約10%である。
【0083】
注射後(例えば、注射の約1~3時間後)、マウスをある時間(例えば、約10時間)低酸素状態に曝し、その後、ある時間(例えば、約3時間)再酸素化を施して、SCD関連VOC事象を模倣した。一部の態様では、正常酸素試験に関して詳述したのと同じパラメータを評価する。
【0084】
更なる例示的態様において、低酸素実験を実施し、そこでは、健康対照(AA)およびSCD(SS)マウスを、ある時間(例えば、約10時間)低酸素状態(例えば、約8%酸素、またはそれ以上)に曝し、その後、ある時間(例えば、約3時間)再酸素化を施してSCD関連VOC事象を模倣した。次いで、実験的に誘発させた血管閉塞事象の直後、あるいはその約1、3、6、12、24、36、48、または72時間後を含むがそれらに限定されない、その後の様々な時点に、マウスに、固定容量(例えば、10mL/kg)で、ADAMTS13(例えば、500IU/kg、1、000IU/kg、または3、200IU/kg)またはビヒクルの単回静脈内投与を行うか、あるいは12または24時間間隔で複数回注射を行う。一部の態様では、正常酸素試験に関して詳述したのと同じパラメータを評価する。
【0085】
様々な態様において、in vitroまたはin vivoモデルでおよび/またはVOC条件下で、ADAMTS13での処置の有効性について任意の標的組織を調べた。一部の態様では、臓器組織は、肺、肝臓、膵臓、皮膚、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、腎臓、心臓、胆嚢または消化管を含むが、それらに限定されない。一部の態様では、臓器組織は、肺、肝臓、脾臓、および/または腎臓を含むが、それらに限定されない。
【0086】
例えば、一部の態様では、標的組織を採取し、正常酸素または低酸素の条件下でADAMTS13の効果を調べる。組織を凍結しおよび/またはホルマリンに固定する。凍結組織は、核内因子κB(NF-κB)、エンドセリン-1(ET-1)、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、および血管細胞接着分子-1(VCAM-1)に対する特異的抗体を用いたイムノブロット分析のために用いる。固定臓器は標準的病理検査のために用いる(H&E染色)。
【0087】
一部の実施形態では、血管収縮、血小板凝集、炎症、酸化ストレス、抗酸化反応および/または組織損傷のマーカーを測定して、処置の有効性を特定する。一部の態様では、核内因子κBを、その正常(NF-κB)形態および活性化(P-NF-κB)形態の両方において測定する。NF-κBは、炎症および抗酸化反応を調整すると説明されている転写因子である。活性化形態と正常形態との間の比を評価する。一部の態様では、ET-1を測定する。ET-1は、血管内皮細胞により産生される強力な血管収縮剤である。ET-1は、心血管肥大、肺高血圧、および慢性腎不全を含む、いくつかの病態生理学的プロセスにおいて役割を果たす。一部の態様では、HO-1を測定する。HO-1は、ヘムの異化における誘導性の律速酵素であり、血管閉塞性および溶血性クリーゼの結果の重篤度を軽減し、血管保護抗酸化剤として作用する可能性がある。一部の態様では、ICAM-1を測定する。ICAM-1は、白血球および内皮細胞の膜に低濃度で存在し続ける。ICAM-1は、血管内皮への鎌状細胞の接着に関与しないと思われるが、ICAM-1は白血球接着を促進することによりVOCを悪化させ得る。一部の態様では、TXASを測定する。TXASは、プロスタグランジンH2のトロンボキサンA2への変換を触媒する小胞体膜タンパク質である。TXASは強力な血管収縮剤であり、かつ血小板凝集の誘導因子である。従って、TXASは血管収縮および血小板凝集の強力な誘導因子である。TXASは、止血、心血管疾患、および脳卒中を含む、いくつかの病態生理学的プロセスで役割を果たす。一部の態様では、VCAM-1を測定する。VCAM-1は、リンパ球および他の血液細胞の血管内皮への接着を媒介し、従って血管閉塞事象に寄与し得る。一部の態様では、臓器組織において炎症細胞浸潤を測定する。
【0088】
例示的態様において、NF-κB、ET-1、HO-1、ICAM-1、TXAS、およびVCAM-1に対する特異的抗体を用いてイムノブロット分析を実施し、本発明のモデルまたは対象の細胞および組織におけるこれら酵素の発現を測定して、処置の有効性を決定する。例示的態様において、ビヒクルまたはADAMTS13のいずれかで処置したAAおよびSCDマウス由来の臓器組織において、NF-κB、ET-1、HO-1、ICAM-1、TXAS、および/またはVCAM-1の発現を測定する。ある実施形態では、臓器は、肺、肝臓、膵臓、皮膚、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、腎臓、心臓、胆嚢または消化管を含むが、それらに限定されない。ある実施形態では、臓器は、肺、肝臓、脾臓、および/または腎臓である。
【0089】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、臓器における血管活性化および/または炎症性血管症のレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、臓器は肺である。ある実施形態では、臓器は腎臓である。
【0090】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB(ここで、低減されたNF-κBの活性化は、P-NF-κB、またはP-NF-κB/NF-κB比により測定する)、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも2つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも3つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも4つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも5つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1の発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ICAM-1の発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、VCAM-1およびICAM-1の発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ET-1の発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、TXASの発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、HO-1の発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1発現および/またはレベル、TXAS発現および/またはレベル、およびHO-1発現および/またはレベルの内の少なくとも1つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1発現および/またはレベル、TXAS発現および/またはレベル、およびHO-1発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、臓器は肺である。ある実施形態では、臓器は腎臓である。
【0091】
更なる例示的態様において、これらマーカーの測定は、動物モデルが本明細書に記載されているように低酸素および再酸素化(H/R)の条件に曝された後に実施する。更なる例示的態様において、これらマーカーの測定は、対象がVOCを経験した後に実施する。
【0092】
一部の実施形態では、処置の有効性の指標として血流を測定する。一部の実施形態では、限定はされないが、超音波、PET、fMRI、NMR、レーザードップラー、電磁血流計、またはウェアラブル装置により測定する。
【0093】
一部の実施形態では、血栓症の低減または予防は、処置の有効性の測量である。一部の実施形態では、限定はされないが、病理組織学的試験、超音波、Dダイマー検査、静脈造影検査、MRI、またはCT/CATスキャンにより血栓症の存在を測定する。一部の態様では、臓器組織において血栓形成を特定する。
【0094】
一部の実施形態では、肺血管漏出(すなわち、肺の漏出および損傷)の低減または予防は、処置の有効性の測量である。一部の実施形態では、(肺損傷の程度および処置(例えばADAMTS13での処置)の有効性を特定するために)気管支肺胞洗浄(BAL)の測定項目およびパラメータ(総タンパク質および白血球含量)を肺血管漏出のマーカーとして測定する。肺漏出は、BAL中のタンパク質および/または白血球含量の増大をもたらし得る。BAL液を採取し、細胞内容物を遠心分離により回収し、以前報告されているようにマイクロサイトメトリーによりカウントする(Kalish et al., Haematologica 100: 870-80, 2015;その全てがおよびあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)。一部の実施形態では、末梢好中球の増大の低減または予防は、処置の有効性の測量である。好中球のパーセンテージ(%)をサイトスピン遠心機で特定し、上清液を総タンパク質含量の特定に用いる(Kalish et al.,上記参照)。
【0095】
一部の実施形態では、肺機能の改善を処置の有効性の指標として測定する。限定はされないが、ピークフロー(最大呼気流量)検査、肺活量測定および可逆性検査、肺容量検査、ガス交換検査、呼吸筋検査、呼気一酸化炭素検査、または呼気一酸化窒素検査により、肺機能を測定することができる。
【0096】
一部の実施形態では、血液学的パラメータを測定して処置(例えば、ADAMTS13での処置)の有効性を決定する。以下の血液学的パラメータを特定する:細胞障害の全般的マーカーとしての乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH);赤血球の生存性の尺度としてのヘマトクリット(Hct)および平均赤血球容積(MCV);酸素結合能の指標としてのヘモグロビン(Hb)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、および細胞ヘモグロビン濃度;濃い(dense)赤血球の存在の指標としての赤血球分布の不均一性(HDW);貧血状態の指標としての網状赤血球数;および全身性炎症状態の指標としての好中球数。
【0097】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも1つのレベルの低減を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも2つのレベルの低減を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも3つのレベルの低減を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCV、およびMCHのレベルの低減を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも1つの増大を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも2つの増大を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも3つ増大を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の増大を改善する。ある実施形態では、ADAMTS13は、対象と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHのレベルの低減を改善し、かつCHCM、HDW、LDH、および好中球レベルの低減を改善する。
【0098】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHの内の少なくとも1つのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHの内の少なくとも2つのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHの内の少なくとも3つのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも1つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも2つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも3つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13は、対象と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHレベルの増大、ならびにCHCM、HDW、LDH、および好中球レベルの低減をもたらす。
【0099】
一部の実施形態では、VWFおよび超巨大VWFマルチマーのレベルを測定する方法を用いる。SCD患者において、VWFおよび超巨大VWFマルチマーのレベルの増大が観察されており、急性血管閉塞事象に関連する。循環VWFマルチマーのレベルの増大は、高流体剪断応力の条件下で超接着性超巨大VWFマルチマーを切断し、止血活性と血栓リスクとの適切なバランスを維持するのに重要な役割を果たすADAMTS13の活性に依存する。より具体的には、ADAMTS13は、プレプロ配列の切断後のアミノ酸残基842-843に相当するアミノ酸残基Tyr1605とMet1606との間でVWFを切断する。一次止血活性に関連するVWFマルチマーサイズを大いに担うのが、このADAMTS13媒介切断である。VWFに対する特異的抗体を用いた様々なタイプのムノブロット分析を含む、VWFおよび超巨大VWFマルチマーを測定する方法を実施して、VWFの発現またはレベルを測定する。更には、VWFを測定する他の公知の方法も本発明の様々な態様に含まれる。
【0100】
一部の態様では、対照またはベースライン測量と比較して、臓器障害の低減により有効性を測定する。一部の実施形態では、限定はされないが、CT/CATスキャン、超音波、X線、MRI、および核医学などの放射線画像検査により臓器障害を測定する。一部の実施形態では、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、BUN/クレアチニン比、トロポニン、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)を含むがそれらに限定はされない、様々なバイオマーカーの変化により臓器障害を測定する。一部の実施形態では、病理組織学的検査により組織変化を測定する。
【0101】
当業者は、測定すべき臓器(上記に定義した)および/または体液に関連する、本明細書に開示される任意のバイオマーカーの適切な尺度を選択することができる。体液は、血液(血漿および血清を含む)、リンパ、脳脊髄液、泌乳産物(例えば、乳)、羊水、尿、唾液、汗、涙液、月経、糞便、ならびにそれらの一部分を含むが、それらに限定されない。
【0102】
一部の態様では、(例えば、Treadwell et al., Clin. J. Psin 30(10):902-915 (2016)に報告されている、Adult Sickle Cell Quality-of-Life Measurement Information System(ASCQ-Me)を用いて)対象の生活の質を評価することにより、有効性を測定する。ASCQ-Meは、7つのトピックスを中心に展開されている:心理的影響(精神的苦痛(例えば、絶望、孤独、憂鬱、および心配)に関する5つの質問調査;疼痛発作の頻度および重篤度(発作の回数、最後の発作からの時間;1~10のスケールで最近の発作での疼痛の重篤度;どのくらいの長さ発作が続いたか、あなたの生活に発作がどの程度影響したか);疼痛の影響(頻度および重篤度、ならびにそれが活動にどのように影響したかについて尋ねる);鎌状赤血球症の病歴チェックリスト;睡眠の影響(どの程度容易に寝付けるか、どの程度の頻度で寝付けないか);社会生活機能の影響(他者への依存度、どのように健康状態が活動に影響したか);および硬直の影響(不眠を引き起こす関節のこわばり、日中の動き、覚醒状態での動き)。
【0103】
様々な態様において、疼痛の重篤度(痛みの激しさ)(例えば、疼痛評価スケールにより測定して)、疼痛軽減、薬剤の必要性の認識、治療の満足度、VOC発生の頻度、VOC発作の持続時間、入院の長さおよび/または持続期間、入院に関連する費用、および/または鎮痛剤(例えば、アヘン剤の静脈内投与)の要求の持続期間を測定することにより、予防および/または治療の有効性を特定する。
【0104】
ある態様では、対象がその痛みを最もよく表現する1つ以上の言葉を選択するマギル/メルザック疼痛質問表(McGill/Melzack Pain Questionnaire) (Melzack et al., Pain 1975 Sep;l(3):277-99)を用いて疼痛の重篤度を測定する。ある態様では、視覚的アナログスケール(VAS)を用いて疼痛の重篤度を測定する。VASは、一方の端が「痛みなし」で、他方の端が「想像できる最大の痛み」として固定された、10cmの黒い線である。患者は、2つのアンカーの間にその痛みのレベルを線上に印をつけるように指示される。VASスコアは、「痛みなし」アンカーと、患者の痛みのレベルを指示する患者の印との間のセンチメートル(cm)での距離を測定することにより計算され、0mm~10cmの範囲にわたる疼痛の重篤度のスコアをもたらす。ある態様では、数値的評価スケール(NRS)を用いて疼痛の重篤度を測定する。NRSは、「痛みなし」と「想像できる最大の痛み」とで固定された11段階スケールである。患者は、0が痛みなしを意味し、10が想像できる最大の痛みを意味する、0~10までのスケールで彼らの現在の痛みのレベルを報告するように指示される。
【0105】
ある態様では、NRSおよびVASスケールで気づいた変化を固定するために用いられる最後の評価から患者の痛みがどのように変化したか(すなわち、現在の評価-以前の評価)の全体的評価として、疼痛軽減を測定することができる。患者は、質問:「あなたがあなたの痛みを記録した最後の時と比較して、あなたの痛みがどの程度変化したかを言って下さい」に答えて疼痛軽減を報告した。患者は、彼らの痛みが「かなり悪化した」、「少し悪化下」、「同じ」、「少し改善した」、または「かなり改善した」と答えるであろう。
【0106】
ある態様では、薬剤の必要性を、患者または医療従事者が報告することができる。
【0107】
ある態様では、治療の満足度を患者が報告する。「全くない」、「多少満足した(満足)」、「非常に満足した(満足)」、または「わからない」のスケールで報告することができる。
【0108】
急性肺障害および急性呼吸窮迫症候群
一部の実施形態では、本発明は、ADAMTS13、ADAMTS13を含む組成物、ならびに急性肺障害(ALI)および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)(結果として生じる人工呼吸器関連肺障害を含む)の治療、改善、および/または予防においてADAMTS13を使用する方法を包含する。ALI/ARDSの病因は、血管内皮および肺胞上皮の両方への損傷により説明される。NHLBI ARDS NetworkによるフェーズIII臨床試験は、生存の改善、および肺保護換気戦略および控えめな輸液プロトコル(fluid conservative protocol)を用いた機械的換気の持続期間の低減をもたらした。しかしながら、ALI/ARDSに対する既存の特異的な薬物療法はないため、更なる治療に対するまだ対処されていない強い医療ニーズがある。従って、ALI/ARDSの治療におけるADAMTS13の使用は、ALI/ARDSの治療における飛躍的な進歩である。
【0109】
ALIは、一部の態様では、肺の内皮と上皮のバリアの破壊を生じさせる急性炎症障害である。ALIの細胞の特徴は、肺胞・毛細管膜の完全性の損失、過剰な経上皮好中球遊走、および炎症誘発性細胞傷害性メディエータの放出を含む。いくつかの研究は、内皮障害に続く、VWFの放出の増大および細胞内接着分子-1(ICAM-A)のアップレギュレーションの証拠を示している(Johnson,上記参照)。好中球は炎症の主要な実行役であるため、経上皮好中球遊走はALIの重要な特徴である。好中球の長引く活性化は、基底膜の破壊、および肺胞・毛細管関門の透過性の増大に寄与する(Johnson,上記参照)。
【0110】
ARDSは、一部の態様では、急性頻呼吸発症、低酸素血症、びまん性肺浸潤、および成人での高い短期死亡率により特徴づけられる肺コンプライアンスの喪失を含む(Walkey,上記参照)。ARDSの治療戦略は、根本的な病因を治療すること、および肺障害の進行を抑制する支持療法を提供することに集中する。ARDSのほとんどの患者は、人工呼吸器の装着を必要とするほど重篤な呼吸不全を発症する。機械的人工換気は、過膨張および周期的な補充を含む機械的力から人工呼吸器関連肺障害(VALI)と呼ばれる肺への更なる損傷を引き起こす。VALIは、炎症性サイトカインの全身放出から「生物学的外傷」を引き起こす。現在、ARDSの管理の主な目標は、VALIの低減である(Walkey,上記参照)。
【0111】
ADAMTS13は、正常マウスにおいて、肺障害および血管機能不全のマーカーを有意に低減した。より具体的には、本発明は、低酸素条件下における組換えADAMTS13の正常(対照)マウスへの投与が、肺障害および血管機能不全の様々なタンパク質マーカーの肺発現の低減をもたらしたことを示し、それは、ADAMTS13を、両側性の炎症性肺浸潤、および酸素化障害または低酸素血症を含む、無数の局所または全身発作に続発する肺水腫(炎症性肺水腫を含む)の突然発症により特徴つけられる急性肺障害から生じる肺損傷を治療または改善するのに使用できることを表す。
【0112】
ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、限定はされないが、ALI/ARDSに関連する、虚血、異常呼吸(例えば、頻呼吸および息切れ)、非心原性肺水腫、肺浸潤、酸素化の低下、および換気の減少の内の1つ以上により定義することができる。本発明は、ALI/ARDSに関連する、虚血、異常呼吸(例えば、頻呼吸および息切れ)、非心原性肺水腫、肺浸潤、酸素化の低下、換気の減少、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つを含むがそれらに限定されないALI/ARDSの症状を低減する方法を包含する。
【0113】
ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、対照と比較して、末梢好中球の増加を有するとして定義することができる。ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、対照と比較して、肺血管漏出の増大(例えば、気管支肺胞洗浄(BAL)中の白血球数および/またはタンパク質含量(BALタンパク質(mg/mL)の増大)として定義することができる。
【0114】
ある実施形態では、対照と比較して、臓器における血管活性化レベルの増大は、ALIおよび/またはARDSのマーカーである。ある実施形態では、対照と比較して、臓器における炎症性血管症レベルの増大は、ALIおよび/またはARDSのマーカーである。ある実施形態では、対照と比較して、組織における血管活性化および炎症性血管症のレベルの増大はALIおよび/またはARDSのマーカーである。ある実施形態では、臓器は、肺および/または腎臓である。
【0115】
ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、対照と比較して、NF-κB(ここで、NF-κBの活性化は、P-NF-κB、またはP-NF-κB/NF-κB比により測定される)、VCAM-1、および/またはICAM-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化の増大として定義することができる。ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、対照と比較して、エンドセリン-1(ET-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、およびヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の内の少なくとも1つの発現またはレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、これらの増大は肺組織で見られる。ある実施形態では、これらの増大は腎組織で見られる。ある実施形態では、腎組織における、TXASおよびET-1の発現および/またはレベルの増大、ならびにNF-κBの活性化の増大は、ALIおよび/またはARDSのマーカーである。
【0116】
ある実施形態では、血液学的パラメーによりALIおよび/またはARDSを定義することができる。ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、対照と比較して、好中球数の増大として定義することができる。ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、対照と比較して、好中球数の増大として定義することができる。
【0117】
ある実施形態では、ALIおよび/またはARDSは、以下の血清バイオマーカーの少なくとも1つの増大により定義することができる:サーファクタント関連タンパク質(SP)-A、SP-B、SP-D、KL-6/MUC1、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-8、IL-10、IL-15、TNFα、接着分子(例えば、E、L-セレクチン)、MMP-9、LTB4、およびフェリチン(例えば、Tzouvelekis et al, Respiratory Research 2005, 6:62を参照、参照によりその全体がこの中に組み込まれる)。
【0118】
ALI/ARDSのモデル、ならびに予防または治療の有効性を試験する方法
ALIの動物モデルは、Matute-Bello et al., Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 295(3):L379-99, 2008(あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に記載されている。一部の例では、ヒトでのALIは、好中球性肺胞炎、肺胞上皮および内皮の損傷、硝子膜形成、および微小血管内血栓により病理組織学的に特徴づけられる。一部の態様では、実験的肺障害の動物モデルを用いて、ALIの機序を調べることができる。例えば、敗血症、骨折に続発する脂肪塞栓症、酸吸引、肺または遠位部の血管床の虚血-再灌流、および他の臨床的リスクなどの、ARDSの危険因子を再現することができる。ある態様では、ALIの動物モデルは、生じる生理学的および病理学的変化を含む、ALIの機序および結果を再現する。ヒトにおいて、肺内炎症反応は、臨床的に特定されるALIの発症前に始まり、ALIおよび/またはARDSの発症の約3日後に最も強い。急性炎症期の後に慢性線維増殖期が続く。例えば、肺機能検査は、肺の生検または剖検試料に見られる実質線維症と一致して、拘束を示すことができる。
【0119】
ARDSの動物モデルは、Bastarche et al., Dis. Model. Mech. 2(5-8):218-23, 2009(あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に記載されている。例えば、ヒトにおいて、肺炎および敗血症は、ARDSの発症を起こしやすい最も一般的な2つの状態である。一部の態様では、これらの状態は、グラム陰性菌エンドトキシンLPSを用いることによりマウスで作ることができ、LPSを、気管内注入または吸入により肺に直接投与するか、あるいは全身性炎症反応を引き起こすために腹腔内または静脈内に投与してよい。LPSの気管内注入で処置されたマウスは、48時間までに解消する急性でかつ強固な炎症細胞の肺への流入を有する。腹腔内LPSは、全身性炎症を活性化し、穏やかな肺障害に関連する。LPSを繰返し注射するか、あるいは腹膜腔内にLPSポンプを埋め込んで数時間または更に数日間LPSを連続的に放出させて、この損傷を増大させることができる。別の一般的に用いられている肺障害のモデルは高酸素症であり、そのモデルでは、肺胞上皮に高毒性でありかつ適度な量の炎症のみをもって広範囲の肺胞上皮損傷を生じさせる、高分圧酸素をマウスが呼吸する。更なる一般的に試験されるモデルは、ヒト人工呼吸器誘発性肺障害に非常に相関する人工呼吸器誘発性肺障害である;しかしながら、追加の刺激または極めて高い1回換気量がなければ、このモデルはマウスで実質的な肺障害を誘発しない。1つの最近の研究は、7.5ml/kgの低い1回換気量と比較して、15ml/kgの1回換気量を用いて、適度な程度の肺炎症、血管漏出、および肺胞凝固の活性化を示した。より重篤な損傷を達成するためには、より高い1回換気量(35ml/kg程度)が必要である。Matute-Bello et al. (Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 295:L379- L399, 2008)(あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)によるALIの動物モデルに関する最近の包括的なレビューは、各モデルについて非常に詳細に検討している。
【0120】
ある態様では、開示されている方法および組成物は、限定はされないが、以下のような症状を改善することができる:ALI/ARDSに関連する、虚血、異常呼吸(例えば、頻呼吸および息切れ)、非心原性肺水腫、肺浸潤(例えば、胸部X線撮影により測定される)、酸素化の低下(例えば、パルスオキシメトリー[SpO]または動脈血ガス[PaO]により測定される)、ならびに換気の減少(例えば、呼気終末COまたは動脈血ガス[PaC0]により測定され、人工呼吸器をつけた日の減少、または人工呼吸器を外した日の増加)。
【0121】
様々な態様において、予防および/または治療の有効性は、生存、入院の長さおよび/または頻度、ICU入室の長さおよび/または持続期間、および/または入院に関連する費用を評価することにより特定される。
【0122】
様々な態様において、予防および/または治療の有効性は、ALIおよび/またはARDS関連合併症の数および/または重篤度の低減を評価することにより特定される。合併症は、肺合併症(例えば、気圧性外傷、容量損傷(volutrauma)、肺塞栓、肺線維症、人工呼吸器関連肺炎(CAP)、および気道合併症);消化管合併症(例えば、出血(潰瘍、病変)、運動障害、気腹症、およびバクテリアルトランスロケーション);心臓合併症(例えば、心調律異常、および心筋機能不全);腎臓(急性腎不全、および正の輸液バランス);機械的合併症(例えば、血管損傷、気胸(肺動脈カテーテルを配置することによる)、気管損傷/狭窄(気管内チューブによる挿管および/または刺激の結果);栄養上の合併症(例えば、栄養不良(異化状態)、電解質の欠乏);ならびに全身性合併症(例えば、筋力低下、および運動耐容能)を含み得るが、それらに限定はされない。
【0123】
ある実施形態では、治療、改善、および予防の有効性の測量は、VOCに関して上述したものと同じである。
【0124】
ある実施形態では、臓器は、肺、肝臓、膵臓、皮膚、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、腎臓、心臓、胆嚢または消化管を含むが、それらに限定はされない。ある実施形態では、臓器は、肺、肝臓、脾臓、および/または腎臓である。
【0125】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、臓器における血管活性化および/または炎症性血管症のレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、臓器は肺である。ある実施形態では、臓器は腎臓である。
【0126】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ICAM-1、NF-κB(ここで、NF-κBの活性化の低減は、P-NF-κB、またはP-NF-κB/NF-κB比により測定する)、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも2つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも3つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも4つの発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の発現、レベル、および/または活性化の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ICAM-1の発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、ET-1の発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、TXASの発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、HO-1の発現および/またはレベルの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1発現および/またはレベル、TXAS発現および/またはレベル、ならびにHO-1発現および/またはレベルの内の少なくとも1つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1発現および/またはレベル、TXAS発現および/またはレベル、およびHO-1発現および/またはレベルの低減をもたらす。
【0127】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、血中の好中球数増加の改善をもたらす。
【0128】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、以下の血清バイマーカーの少なくとも1つの低減をもたらす:サーファクタント関連タンパク質(SP)-A、SP-B、SP-D、KL-6/MUC1、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-8、IL-10、IL-15、TNFα、接着分子(例えば、E、L-セレクチン)、MMP-9、LTB4、およびフェリチン。
【0129】
ADAMTS13
一部の態様では、本発明は、SCDの治療および予防における、ADAMTS13(「A13」としても知られている)、およびADAMTS13を含む組成物を包含する。ある態様では、本発明は、SCDにおけるVOCの治療および予防における、ADAMTS13、およびADAMTS13を含む組成物を包含する。ADAMTS13プロテアーゼは、主に肝臓で産生される約180kDa~200kDaのグリコシル化タンパク質である。ADAMTS13は、VWFマルチマーを切断し、血小板凝集におけるそれらの活性をダウンレギュレートする血漿メタロプロテアーゼである。現在まで、ADAMTS13は、遺伝性の血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、後天性のTTP、脳梗塞、心筋梗塞、虚血/再灌流障害、深部静脈血栓症、および播種性血管内凝固(DIC)(例えば、敗血症関連DIC)などの凝固障害に関連してきた。
【0130】
当技術分野で知られている全ての形態のADAMTS13が、本発明の方法および用途での使用が企図されている。成熟ADAMTS13は約145kDaの算出分子量を有するが、精製された血漿由来ADAMTS13は約180kDa~200kDaの見かけ分子量を有し、これはおそらく、10個の潜在的N-グリコシル化部位、ならびにTSP1リピート内のいくつかO-グリコシル化部位および1つのC-マンノシル化部位に対するコンセンサス配列と合致する、翻訳後修飾に起因すると思われる。
【0131】
本明細書で使用される「ADAMTS13」は、VWFを残基Tyr1605とMet1606の間で切断するADAMTS(トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ)ファミリーのメタロプロテアーゼを指す。本発明との関連においては、「ADAMTS13」、「A13」、または「ADAMTS13タンパク質」は、任意のADAMTS13タンパク質、例えば、霊長類、ヒト(NP_620594)、サル、ウサギ、ブタ、ウシ(XP_610784)、げっ歯類、マウス(NP_001001322)、ラット(XP_342396)、ハムスター、スナネズミ、イヌ、ネコ、カエル(NP_001083331)、ニワトリ(XP_415435)などの哺乳動物に由来するADAMTS13、ならびにその生物学的活性誘導体を包含する。「ADAMTS13」、「A13」、または「ADAMTS13タンパク質」は、組換え型の、天然の、または血漿由来のADAMTS13タンパク質を指す。活性を有する突然変異および変異ADAMTS13タンパク質も包含され、ADAMTS13タンパク質の機能的断片および融合タンパク質も同様に包含される。一部の態様では、ADAMTS13タンパク質は、精製、検出、またはその両方を容易にするタグを更に含む。本明細書に記載のADAMTS13タンパク質は、一部の態様では、追加の治療部分あるいはin vitroまたはin vivoでのイメージングに適した部分により更に修飾される。
【0132】
ADAMTS13タンパク質は、ADAMTS13活性、特にVWFの残基Tyr-842とMet-843との間のペプチド結合を切断する能力を有する任意のタンパク質またはポリペプチドを包含する。ヒトADAMTS13タンパク質としては、GenBankアクセッション番号NP_620594(NM_139025.3)のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはそのプロセシングされたポリペプチド、例えば、シグナルペプチド(アミノ酸1~29)および/またはプロペプチド(アミノ酸30~74)が除去されたポリペプチドが挙げられるが、それらに限定はされない。ある態様では、ADAMTS13タンパク質は、NP_620596(ADAMTS13アイソフォーム2、プレプロタンパク質)のアミノ酸配列またはP_620594(ADAMTS13アイソフォーム2、成熟ポリペプチド)のアミノ酸75~1371のアミノ酸配列に、高い類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。更に別の実施形態において、ADAMTS13タンパク質は、NP_620595(ADAMTS13アイソフォーム3、プレプロタンパク質)のアミノ酸配列またはNP_620595(ADAMTS13アイソフォーム1、成熟ポリペプチド)のアミノ酸75~1340のアミノ酸配列に、高い類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを包含する。ある態様では、ADAMTS13タンパク質は、VWF切断活性を有する自然変異体、およびVWF切断活性を有する人工構築物を包含する。ある態様では、ADAMTS13は、一部の基礎活性を保持する任意の自然変異体、代替配列、アイソフォーム、または突然変異タンパク質を包含する。ヒトADAMTS13の多くの自然変異体が、当業界で知られており、本発明の製剤に包含されるが、それらの一部は、R7W、V88M、H96D、R102C、R193W、T196I、H234Q、A250V、R268P、W390C、R398H、Q448E、Q456H、P457L、P475S、C508Y、R528G、P618A、R625H、1673F、R692C、A732V、E740K、A900V、S903L、C908Y、C951G、G982R、C1024G、A1033T、R1095W、R1095W、Rl123C、C1213Y、T12261、G1239V、およびR1336Wから選択される突然変異を含む。更に、ADAMTS13タンパク質は、例えば、非必須のアミノ酸における1つ以上の保存的変異により突然変異した天然および組換えタンパク質を含む。ADAMTS13の酵素活性に必須のアミノ酸は変異していないことが好ましい。これらは、例えば、金属結合に必須であることが既知であるかまたは推定されている残基、例えば残基83、173、224、228、234、281および284など、ならびに酵素の活性部位に見られる残基、例えば残基225を含む。同様に、本発明との関連において、ADAMTS13タンパク質は、代わりのアイソフォーム、例えば、完全長ヒトタンパク質のアミノ酸275~305および/または1135~1190を欠くアイソフォームを含む。
【0133】
一部の態様では、例えば、翻訳後修飾(例えば、ヒト残基142、146、552、579、614、667、707、828、1235、1354から選択される1つ以上のアミノ酸、または任意の他の天然若しくは人工修飾部位におけるグリコシル化)により、あるいは、グリコシル化、水溶性ポリマーによる修飾(例えば、PEG化、シアリル化、HES化(HESylation))、タグ化などを含むがそれらに限定はされない、ex vivoでの化学的または酵素的修飾により、ADAMTS13タンパク質を更に修飾してもよい。
【0134】
一部の態様では、ADAMTS13タンパク質は、ヒトADAMTS13、あるいは、米国特許出願公開第2011/022945号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それぞれが、あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に記載されているようなその生物学的活性誘導体または断片である。
【0135】
ある態様では、組換えADAMTS13はBAX930/SHP655であってよい。ある態様では、ADAMTS13タンパク質は、BAX930/SHP655に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性を有し、ADAMTS13の活性、特にVWFの残基Tyr-842とMet-843との間のペプチド結合を切断する能力を有する任意のタンパク質またはポリペプチドを包含する。
【0136】
タンパク質分解活性な組換えADAMTS13は、Plaimauer et al, (2002, Blood. 15; 100(10):3626-32)および米国特許出願公開第2005/0266528号(それらの文献は、あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に記載されているように、哺乳動物細胞培養で発現させることにより調製することができる。培養細胞で組換えADAMTS13を発現させる方法は、Plaimauer B, Scheiflinger F. (Semin Hematol. 2004 Jan;41(l):24-33)および米国特許出願公開2011/0086413号(それらの文献は、あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に記載されている。培養細胞において組換えADAMTS13を生成する方法に関して、国際公開第2012/006594号(あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)も参照されたい。
【0137】
試料からADAMTS13タンパク質を精製する方法は、米国特許第8,945,895号(あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。そのような方法は、一部の態様では、ADAMTS13タンパク質をヒドロキシアパタイトからの溶出液または上清中に出現させる条件下で、クロマトグラフィ的に試料をヒドロキシアパタイトと接触させることにより、ADAMTS13タンパク質を濃縮することを含む。その方法は、ADAMTS13タンパク質に結合する混合モードの陽イオン交換/疎水性相互作用樹脂を用いたタンデムクロマトグラフィを更に含んでいてよい。更なる任意選択の工程は、限外濾過/ダイアフィルトレーション、陰イオン交換クロマトグラフィ、陽イオン交換クロマトグラフィ、およびウイルス不活化を含む。一部の態様では、そのような方法は、タンパク質試料中のウイルス汚染物質を不活化することを含み、その際にタンパク質を支持体に固定化する、また、一部の態様では、米国特許第8,945,895号に記載される方法に従って調製されるADAMTS13の組成物も提供する。
【0138】
ADAMTS13組成物および投与
本発明の態様において、ADAMTS13はそれを必要とする対象に投与される。本明細書に記載されるADAMTS13を対象に投与するために、ADAMTS13は、一部の態様では、1つ以上の薬学的に許容される担体を含む組成物に製剤化される。
【0139】
用語「薬学的に許容される」は、本明細書に記載される組成物に関連して用いられる場合、生理学的に許容されかつ哺乳動物(例えばヒト)に投与されたときに通常有害反応をもたらさない、そのような組成物の分子実態または他の成分を指す。好ましくは、用語「薬学的に許容される」は、連邦または州政府の規制当局により認可された、あるいは米国薬局方または他の一般的に認められている哺乳動物(特にヒト)での使用に関する薬局方に掲載されていることを意味する。「薬学的に許容される担体」は、任意のおよび全ての臨床的に有用な溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などを含む。一部の態様では、組成物は、水または一般的な有機溶媒と溶媒和物を形成する。そのような溶媒和物も含まれる。
【0140】
一部の態様では、本発明は、米国特許出願公開第2011/0229455号(現在、米国特許第8,623,352号)および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような血漿由来ADAMTS13および組換えADAMTS13(rADAMTS13)タンパク質の安定な製剤を提供する。一部の実施形態では、本明細書に提供される製剤は、長期間保管されたときに有意なADAMTS13活性を保持する。一部の実施形態では、本発明の製剤は、ADAMTS13タンパク質の二量体化、オリゴマー化、および/または凝集を低減または遅延させる。
【0141】
一部の態様では、本発明は、治療有効量または用量のADAMTS13タンパク質、生理的濃度未満~生理的濃度の薬学的に許容される塩、安定化濃度の1つ以上の糖および/または糖アルコール、非イオン性界面活性剤、製剤に中性のpHを提供する緩衝剤、ならびに任意選択的にカルシウムおよび/または亜鉛の塩を含む、ADAMTS13の製剤を提供する。一般的に、本明細書に提供される安定なADAMTS13製剤は薬務行政に適している。一部の態様では、ADAMTS13タンパク質は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているようなヒトADAMTS13またはその生物学的活性誘導体若しくは断片である。
【0142】
一部の態様では、ADAMTS13製剤は液体または凍結乾燥製剤である。他の実施形態において、凍結乾燥製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、液体製剤から凍結乾燥される。本明細書に提供される製剤のある実施形態において、ADAMTS13タンパク質は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているようなヒトADAMTS13若しくは組換えヒトADAMTS13、またはその生物学的活性誘導体若しくは断片である。
【0143】
本発明の組成物は、様々な態様において、経口的に、局所的に、経皮的に、非経口的に、吸入スプレーにより、経膣的に、経直腸的に、または頭蓋内注射により投与される。本明細書で用いられる非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、大槽内注射、または注入技術を含む。一部の実施形態では、投与は皮下である。静脈内、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、くも膜下腔内、眼球後、肺内注射および/または特定部位での外科的埋込みによる投与も同様に企図される。一部の実施形態では、投与は静脈内である。一般的に、組成物は、発熱物質、ならびにレシピエントにとって有害となり得る他の不純物を本質的に含まない。
【0144】
組成物または医薬組成物の製剤は、選択される投与経路によって変動する(例えば、溶液またはエマルジョン)。投与される組成物を含む適切な組成物は、生理学的に許容されるビヒクルまたは担体中に調製される。溶液またはエマルジョンに関して、好適な担体として、例えば、水性またはアルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液、例えば生理食塩水および緩衝媒質などが挙げられる。非経口ビヒクルとしては、一部の態様では、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液または固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルは、ある態様では、様々な添加物、保存剤、または流体、栄養分または電解質補充物を含む。
【0145】
活性成分としてADAMTS13を含む、本発明の化合物および方法において有用な組成物または医薬組成物は、様々な態様において、投与経路に応じて薬学的に許容される担体または添加物を含む。そのような担体または添加物の例としては、水、薬学的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンゴム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、薬学的に許容される界面活性剤などが挙げられる。使用される添加物は、限定はされないが、剤形に応じて上記のものまたはそれらの組み合わせから適切に選択される。
【0146】
様々な水性担体、例えば、水、緩衝水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、または水性懸濁液は、様々な態様において、水性懸濁液の製造に好適な賦形剤との混合物中に活性化合物を含む。そのような賦形剤は、懸濁剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムであり;分散または湿潤剤は、ある場合には、自然発生のホスファチド、例えばレシチン、またはアルキレンオキシドの脂肪酸との縮合生成物、例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、エチレンオキシドの長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドの脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、またはエチレンオキシドの脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートである。水性懸濁液は、一部の態様では、1つ以上の保存剤、例えばエチル、またはn-プロピル、p-ヒドロキシベンゾエートを含む。
【0147】
一部の態様では、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、貯蔵のために凍結乾燥され、使用前に好適な担体中に再構成される。当技術分野で知られている任意の好適な凍結乾燥および再構成技術が使用される。凍結乾燥および再構成によって、様々な程度のタンパク質活性損失が引き起こされること、および補償するために使用レベルがしばしば調整されることが、当業者に認識される。
【0148】
水の添加による水性懸濁液の調製に好適な分散性粉末および顆粒は、分散または湿潤剤、懸濁剤および1つ以上の保存剤との混合物中に活性化合物を提供する。好適な分散または湿潤剤および懸濁剤は、上記ですでに述べたものにより例示される。
【0149】
一部の実施形態において、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、担体、および/または希釈剤を更に含んでいてよい。
【0150】
一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている範囲内の浸透圧を有する。
【0151】
一部の態様では、本発明は、米国特許出願公開第2011/0229455号のセクションIII(「ADAMTS13 Compositions and Formulations」)に記載されている例示的製剤を含むADAMTS13の製剤を提供する。米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているようなADAMTS13およびその組成物を製造する方法は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。更には、非経口投与可能な製剤および組成物の実際の調製方法は、当業者に公知または自明であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)に詳細に記載されている。
【0152】
様々な態様において、医薬組成物は、滅菌注射用水溶液、油性懸濁液、分散物、あるいは滅菌注射液または分散物の即時調製のための滅菌粉末の形態である。懸濁液は、一部の態様では、上述した適切な分散または湿潤剤および懸濁剤を使用して、公知技術に従って処方する。滅菌注射用調製物は、ある態様では、例えば1,3-ブタンジオール溶液としてのような、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸濁液である。一部の実施形態では、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、植物油、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液を含む、溶媒または分散媒である。更に、無菌固定油が、溶媒または懸濁化剤として慣習的に使用される。この目的のために、合成モノ-またはジ-グリセリドなどの、任意のブランドの固定油を使用する。更に、オレイン酸などの脂肪酸を、注射液の調製で使用する。
【0153】
全ての場合において、その形態は無菌でなければならず、かつ注射が容易に可能な程度に流動性でなければならない。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散物の場合には必要な粒径の維持によって、および表面活性剤の使用によって、維持される。製造および保存条件下で安定でなければならず、微生物(細菌および真菌など)の汚染作用に対して保護されなければならない。様々な抗菌および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チロメサールなど)によって微生物の作用の防止がもたらされる。多くの場合、等張剤(例えば、糖または塩化ナトリウム)を含めることが望ましいであろう。ある態様では、吸収遅延剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を組成物で使用することによって、注射用組成物の持続吸収がもたらされる。
【0154】
ある態様では、効果を高めるために、投与に有用な組成物を取込み促進剤または吸収促進剤を用いて製剤化する。そのような促進剤には、例えば、サリチラート、グリココラート/リノラート、グリコラート、アプロチニン、バシトラシン、SDS、カプラートなどが含まれる。例えば、Fix (J. Pharm. Sci., 85: 1282-1285, 1996)、およびOliyai et al. (Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol, 32:521-544, 1993)(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)を参照。
【0155】
更に、本発明の組成物および方法で使用される組成物の親水性と疎水性はバランスがうまくとれており、それにより、in vitroおよび特にin vivoでの使用の両方のための有用性が高められる一方で、そのようなバランスを欠く他の組成物は有用性が実質的に低くなる。具体的には、本発明における組成物は、体内での吸収および生物学的利用を可能にする程度の水性媒体中の適切な溶解度を有する一方で、化合物が細胞膜を横切って推定作用部位に到達するのを可能にする程度の脂質中の溶解度も有する。
【0156】
ある態様では、ADAMTS13は、医薬ビヒクル、賦形剤、媒質として機能する、薬学的に許容される(すなわち、滅菌かつ無毒の)液体、半固体、または固体希釈剤中に提供される。当技術分野で知られている任意の希釈剤が使用される。例示的な希釈剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ステアリン酸マグネシウム、メチルおよびプロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、アルギナート、デンプン、ラクトース、スクロース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、アカシアゴム、リン酸カルシウム、鉱物油、カカオバター、およびカカオ脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0157】
組成物は、送達に好都合な形態にパッケージされる。組成物は、カプセル、カプレット、サシェ、カシェ、ゼラチン、紙、または他の容器内に封入される。これらの送達形態は、組成物のレシピエント生物への送達と適合する場合、特に組成物が単位用量形態で送達される場合に、好ましい。用量単位が、例えば、バイアル、錠剤、カプセル、坐剤、またはカシェ中にパッケージされる。
【0158】
本発明は、対象においてSCDにおけるVOCを治療、改善、および/または予防する方法であって、本明細書に記載のADAMTS13またはADAMTS13組成物の有効量を投与することを含む方法を包含する。組成物は、本明細書において上述された任意の従来の方法により、治療されるべき対象に導入される。ある態様では、組成物は、(下記でより詳細に記載するように)単回投与または複数回投与である期間にわたり投与される。
【0159】
一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症後、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、60、72、84、96、108、または120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症後、約1~2時間、約1~5時間、約1~10時間、約1~12時間、約1~24時間、約1~36時間、約1~48時間、約1~60時間、約1~72時間、約1~84時間、約1~96時間、約1~108時間、または約1~120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症後、約2~5時間、約5~10時間、約10~20時間、約20~40時間、約30~60時間、約40~80時間、約50~100時間、または約60~120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、組成物は、VOCの1週間以内に投与される。一部の実施形態では、組成物は、VOC後に毎日投与される。一部の実施形態では、組成物は、VOC後に毎週投与される。一部の実施形態では、組成物は毎日投与される。一部の実施形態では、組成物は隔日で投与される。一部の実施形態では、組成物は、2日置きに投与される。一部の実施形態では、組成物は週2回投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状(例えば、症状および/またはバイオマーカー)が消失するまで投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後1日まで投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも2日間投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも3日間投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも1週間投与される。
【0160】
一部の態様では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症を予防するために投与される。そのような予防的処置では、VOCの発症を予防するのに有効なADAMTS13の循環レベルを維持するように、ADAMTS13は単回ボーラス注射または複数回投与で投与される。そのような態様では、ADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、隔日、または毎日投与される。ある態様では、注射は皮下投与される。他の態様では、注射は静脈内投与される。
【0161】
一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCを予防するためにVOCの発症前に対象に投与される。本発明のそのような態様では、組成物は、対象においてまたは対象の血中において有効レベルのADAMTS13活性を維持するのに十分な治療有効量または用量で投与される。
【0162】
本発明は、対象においてALIまたはARDSを治療、改善、または予防する方法であって、本明細書に記載のADAMTS13またはADAMTS13組成物の有効量を投与することを含む方法を包含する。組成物は、本明細書において上述された任意の従来の方法により、治療されるべき対象に導入される。ある態様では、組成物は、(下記でより詳細に記載するように)単回投与または複数回投与である期間にわたり投与される。
【0163】
一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、ALIまたはARDSの発症後、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、60、72、84、96、108、または120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、ALIまたはARDSの発症後、約1~2時間、約1~5時間、約1~10時間、約1~12時間、約1~24時間、約1~36時間、約1~48時間、約1~60時間、約1~72時間、約1~84時間、約1~96時間、約1~108時間、または約1~120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、ALIまたはARDSの発症後、約2~5時間、約5~10時間、約10~20時間、約20~40時間、約30~60時間、約40~80時間、約50~100時間、または約60~120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、組成物は、ALIまたはARDSの発症または診断後、4時間以内、8時間以内、12時間以内、1日以内、2日以内、3日以内、4日以内、5日以内、6日以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、組成物は、ALIまたはARDSの発症または診断後、1週間以内に対象に投与される。一部の実施形態では、組成物は、ALIまたはARDSの発症または診断後、毎日投与される。一部の実施形態では、組成物は、ALIまたはARDSの発症または診断後、毎週投与される。一部の実施形態では、組成物は毎日投与される。一部の実施形態では、組成物は隔日で投与される。一部の実施形態では、組成物は2日置きに投与される。一部の実施形態では、組成物は週2回投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失するまで投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後1日まで投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも2日間投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも3日間投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも1週間投与される。
【0164】
一部の態様では、ADAMTS13を含む組成物は、ALIまたはARDの発症を予防するために対象に投与される。そのような予防的処置では、ALIまたはARDの発症を予防するのに有効なADAMTS13の循環レベルを維持するように、ADAMTS13は単回ボーラス注射または複数回投与で投与される。そのような態様では、ADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、隔日、または毎日投与される。ある態様では、注射は皮下投与される。他の態様では、注射は静脈内投与される。
【0165】
一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、ALIまたはARDを予防するためにALIまたはARDの発症前に対象に投与される。本発明のそのような態様では、組成物は、対象においてまたは対象の血中において有効レベルのADAMTS13活性を維持するのに十分な治療有効量または用量で投与される。
【0166】
ADAMTS13組成物の投与/治療方法
様々な態様において、投与されるADAMTS13またはADAMTS13組成物の有効投与量は、薬物の作用を調節する様々な因子、例えば、対象の年齢、状態、体重、性別および食事、あらゆる感染の重篤度、投与時期、投与方法、ならびに他の臨床的因子によって変動する。
【0167】
一部の態様では、本発明の製剤または組成物は、最初のボーラス、続いてある期間が経過した後のブースター送達により投与される。ある態様では、本発明の製剤は、最初のボーラス、続いてADAMTS13の治療的循環レベルを維持するように連続注入により、投与される。ある態様では、本発明のADAMTS13またはADAMTS13組成物は、長期間にわたり投与される。一部の態様では、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、VOCの急性症状を低減するために迅速な治療レジメンで送達される。一部の態様では、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、VOCの発生を予防するために長期でかつ多様な治療レジメンで送達される。別の例として、本発明の組成物または製剤は、1回投与(one-time dose)として投与される。当業者は、適正な医療行為および個々の対象の臨床状態により決定される有効投与量および投与レジメンを容易に最適化する。投与頻度は、作用物質の薬物動態パラメータ、投与経路、および対象の状態に依存する。
【0168】
当業者は、投与経路および所望の投与量に応じて医薬製剤を決定する。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. (1990, Mack Publishing Co., Easton, PA 18042) pages 1435-1712(その開示は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。そのような製剤は、ある場合には、投与される組成物の物理的状態、安定性、in vivoでの放出速度、in vivoでのクリアランス速度に影響する。投与経路に応じて、好適な用量(dose)が、ある態様では、体重、体表面積または臓器サイズに従い計算される。一部の態様では、適切な投与量(dosage)は、適切な用量-応答データと共に、血液レベル投与量を決定するための確立されたアッセイを使用することより確認される。ある態様では、個体の抗体力価が、最適投与量および投与レジメンを決定するために測定される。最終投与レジメンは、主治医または医者により、医薬組成物の作用を修正する様々な因子、例えば組成物の特異的活性、対象の応答性、対象の年齢、状態、体重、性別および食事、任意の感染または悪性状態の重篤度、投与時期、ならびに他の臨床的因子(疼痛またはVOCの重篤度を含む)を考慮して決定される。
【0169】
ある態様では、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、対象において応答を誘起するのに十分な任意の用量のADAMTS13を含む。一部の実施形態では、ADAMTS13の用量は、VOCを治療するのに十分である。一部の実施形態では、ADAMTS13の用量は、VOCを予防するのに十分である。一部の実施形態では、ADAMTS13の用量は、ALLを治療するのに十分である。一部の実施形態では、ADAMTS13の用量は、ALLを予防するのに十分である。一部の実施形態では、ADAMTS13の用量は、ARDSを治療するのに十分である。一部の実施形態では、ADAMTS13の用量は、ARDSを予防するのに十分である。ADAMTS13またはADAMTS13組成物の治療的に使用するのに有効な量は、例えば、治療背景および目的に依存する。当業者であれば、治療または予防に適切な投与量レベルは、従って、一部には、送達される分子、ADAMTS13またはADAMTS13組成物が使用される適応、投与経路、ならびに患者のサイズ(体重、体表面または臓器サイズ)および状態(年齢および全体的な健康状態)によって変動することを認識するであろう。従って、臨床医は、場合によっては、最適治療効果が得られるように投与量を滴定しおよび投与経路を修正する。
【0170】
他に具体的に記載されない限り、投与量は国際単位で提供される。本明細書において下記にて論じるように、国際単位(IU)の使用は、ADAMTS13活性を測定する新規な規格である。最近まで、FRETS単位(またはFRETS試験単位)が、ADAMTS13活性を測定する規格であった。20FRETS単位(FRETS U)は、およそ21.78IUに相当する。即ち、20IUのADAMTS13は、約18.22FRETS UのADAMTS13に相当する。
【0171】
典型的な投与量は、様々な態様において、約10国際単位/kg体重~約10,000国際単位/kg体重までの範囲に及ぶ。一部の態様では、ADAMTS13の投与量または治療有効量は、上記の因子に応じて、約10,000国際単位/kg体重までまたはそれ以上までである。他の態様では、投与量は、約20~約6,000国際単位/kg体重の範囲に及び得る。一部の態様では、ADAMTS13の投与量または治療有効量は、約40~約4,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は、約100~約3,000国際単位/kg体重である。
【0172】
ある態様では、投与量または治療有効量は約10~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約50~約450国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約100国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約150国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約400国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約300~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、または約500国際単位/kg体重である。
【0173】
更なる態様では、投与量または治療有効量は約50~約1,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約900国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約800国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約300~約700国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約400~約600国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約500国際単位/kg体重である。
【0174】
一部の態様では、投与量または治療有効量は、約10国際単位/kg体重、約20国際単位/kg体重、約30国際単位/kg体重、約40国際単位/kg体重、約50国際単位/kg体重、約60国際単位/kg体重、約70国際単位/kg体重、約80国際単位/kg体重、約90国際単位/kg体重、約100国際単位/kg体重、約120国際単位/kg体重、約140国際単位/kg体重、約150国際単位/kg体重、約160国際単位/kg体重、約180国際単位/kg体重、約200国際単位/kg体重、約220国際単位/kg体重、約240国際単位/kg体重、約250国際単位/kg体重、約260国際単位/kg体重、約280国際単位/kg体重、約300国際単位/kg体重、約350国際単位/kg体重、約400国際単位/kg体重、約450国際単位/kg体重、約500国際単位/kg体重、約550国際単位/kg体重、約600国際単位/kg体重、約650国際単位/kg体重、約700国際単位/kg体重、約750国際単位/kg体重、約800国際単位/kg体重、約850国際単位/kg体重、約900国際単位/kg体重、約950国際単位/kg体重、約1,000国際単位/kg体重、約1,100国際単位/kg体重、約1,100国際単位/kg体重、約1,200国際単位/kg体重、約1,300国際単位/kg体重、約1,400国際単位/kg体重、約1,500国際単位/kg体重、約1,600国際単位/kg体重、約1,800国際単位/kg体重、約2,000国際単位/kg体重、約2,500国際単位/kg体重、約3,000国際単位/kg体重、約3,500国際単位/kg体重、約4,000国際単位/kg体重、約4,500国際単位/kg体重、約5,000国際単位/kg体重、約5,500国際単位/kg体重、約6,000国際単位/kg体重、約6,500国際単位/kg体重、約7,000国際単位/kg体重、約7,500国際単位/kg体重、約8,000国際単位/kg体重、約8,500国際単位/kg体重、約9,000国際単位/kg体重、約9,500国際単位/kg体重、および約10,000国際単位/kg体重である。
【0175】
本明細書で使用される場合、「1単位のADAMTS13活性」または「1活性単位」は、使用するアッセイに関係なく、プールされた正常ヒト血漿1mL中の活性量と定義される。しかしながら、上記で規定したように、ADAMTS13を測定または投与するための新規な規格は国際単位(IU)である。20FRETS試験単位または20FRETS単位(FRETS U)は、およそ21.78IUに相当する。即ち、20IUのADAMTS13は、約18.22FRETS UのADAMTS13に相当する。従って、新規な規格への変更は、FRETS UのIUへの変換においておよそ8.9%のシフトをもたらす。
【0176】
一部の態様では、蛍光共鳴エネルギー移動(FRETS)アッセイを用いてADAMTS13活性を測定する。FRETSは、2つの相互作用するパートナーを必要とし、その一方はドナーフルオロフォアで標識され、他方はアクセプターフルオロフォアで標識される。ADAMTS13のFRETSアッセイは、ADAMTS13による切断部位にかかるVWFのA2ドメインの化学的修飾断片を含む。これは正常血漿により容易に切断されるが、ADAMTS13欠損血漿によっては切断されない。この切断はEDTAによりブロックされ、従ってこのアッセイの試料は、EDTAではなくクエン酸塩を抗凝固剤として含むチューブに採取されなければならない。1単位のADAMTS13 FRETS-VWF73活性とは、プールされた正常ヒト血漿1mLにより切断されるのと同じ量のFRETS-VWF73基質(Kokame et al., Br J. Haematol. 2005 April; 129(1): 93-100、参照により本明細書に組み込まれる)を切断するのに必要な活性量である。
【0177】
一部の態様では、ADAMTS13の活性を測定するために更なる活性アッセイを用いる。例えば、SDSアガロースゲル電気泳動を使用して、完全長VWF分子またはVWF断片のいずれかの切断を検出するために直接的なADAMTS13活性アッセイを行ってもよく、また、コラーゲン結合アッセイを用いてADAMTS13活性の間接検出を検出してもよい。FRETSを含む、本明細書に記載されている直接アッセイは、ADAMTS13の切断部位を含む完全長VWF分子またはVWF断片のいずれかの切断産物を検出することを含む。SDSアガロースゲル電気泳動およびウェスタンブロッティングを用い、精製VWFを血漿と24時間インキュベートする。ADAMTS13によるVWFの切断が生じ、マルチマーサイズの縮小を引き起こす。この縮小はアガロースゲル電気泳動、および続くペルオキシダーゼ結合抗VWF抗体を用いるアガロースゲル電気泳動により可視化される。一連の希釈された正常血漿試料に照らして、試験試料中のADAMTS13活性の濃度を定めることができる。SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングを実施してもよく、それは、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングに続いて二量体VWF断片の可視化を含む。そのアッセイは、SDSアガロースゲル電気泳動よりも技術的に容易であり、ADAMTS13活性レベルを測定する非常に感度の良い方法であると思われる。
【0178】
一部の態様では、間接アッセイは、VWFのA2ドメインにおけるADAMTS13の切断部位を含む完全長VWF分子またはVWF断片のいずれかの切断産物を検出することを含む。そのようなアッセイは、コラーゲン結合アッセイを含み、正常血漿または精製VWFを、BaClおよびVWFを変性させる1.5M尿素の存在下で、試験血漿試料とインキュベートする。VWFはADAMTS13により切断され、残存VWFをIII型コラーゲンへの結合により測定する。標識抗VWF抗体を用いるELISAアッセイを用いて、結合したVWFを定量化する。別の間接アッセイは、リストセチン誘発凝集アッセイである。これは、上記のコラーゲン結合アッセイに類似するが、血小板凝集計を用いるリストセチン誘発血小板凝集によって残存VWFを測定する。別の間接アッセイは機能的ELISAである。このアッセイでは、VWF上のタグに対する抗体を用いて、組換えVWF断片をELISAに固定化する。VWF断片は、A2ドメインおよびTyrl605-Metl606のADAMTS13切断部位をコードし、S-トランスフェラーゼ[GST]-ヒスチジンでタグ化されている[GST-VWF73-His]。固定化GST-VWF73-His断片に血漿を添加し、ADAMTS13切断部位での固定化断片の切断が生じる。切断されたVWF断片のみを認識し、無傷の断片は認識しない第2のモノクローナル抗体を用いることにより、切断された残存VWF断片を測定する。従って、ADAMTS13活性は、残存基質濃度に反比例する。
【0179】
ある実施形態では、ADAMTS13は、最終製剤中、約0.05mg/mLと約10mg/mLの間の治療有効濃度で提供または投与される。他の実施形態では、ADAMTS13は、約0.1mg/mLと約10mg/mLの間の濃度で存在する。更に他の実施形態では、ADAMTS13は、約0.1mg/mLと約5mg/mLの間の濃度で存在する。別の実施形態では、ADAMTS13は、約0.1mg/mLと約2mg/mLの間の濃度で存在する。更に他の実施形態では、ADAMTS13は、約0.01mg/mL、または約0.02mg/mL、0.03mg/mL、0.04mg/mL、0.05mg/mL、0.06mg/mL、0.07mg/mL、0.08mg/mL、0.09mg/mL、0.1mg/mL、0.2mg/mL、0.3mg/mL、0.4mg/mL、0.5mg/mL、0.6mg/mL、0.7mg/mL、0.8mg/mL、0.9mg/mL、1.0mg/mL、1.1mg/mL、1.2mg/mL、1.3mg/mL、1.4mg/mL、1.5mg/mL、1.6mg/mL、1.7mg/mL、1.8mg/mL、1.9mg/mL、2.0mg/mL、2.5mg/mL、3.0mg/mL、3.5mg/mL、4.0mg/mL、4.5mg/mL、5.0mg/mL、5.5mg/mL、6.0mg/mL、6.5mg/mL、7.0mg/mL、7.5mg/mL、8.0mg/mL、8.5mg/mL、9.0mg/mL、9.5mg/mL、10.0mg/mL、又はそれより高い濃度で存在し得る。
【0180】
一部の実施形態では、比較的純粋なADAMTS13製剤の濃度は、分光法(すなわち、A280で測定した総タンパク質)、またはその他のバルク決定法(例えば、Bradfordアッセイ、銀染色、凍結乾燥粉末の質量など)により決定し得る。他の実施形態では、ADAMTS13の濃度は、ADAMTS13のELISAアッセイ(例えば、mg/mL抗原)により決定し得る。
【0181】
一部の態様では、本発明の製剤中のADAMTS13濃度は、酵素活性レベルとして表される。例えば、一部の実施形態では、ADAMTS13製剤は、約10単位のFRETS-VWF73活性と約10,000単位のFRETS-VWF73活性の間、またはその他の適当なADAMTS13酵素単位(IU)を含有し得る。他の実施形態では、製剤は、約20単位のFRETS-VWF73(UFV73)活性と約8,000単位のFRETS-VWF73活性の間、または約30UFV73と約6,000UFV73の間、または約40UFV73と約4,000UFV73の間、または約50UFV73と約3,000UFV73の間、または約75UFV73と約2,500UFV73の間、または約100UFV73と約2,000UFV73の間、または約200UFV73と約1,500UFV73の間、あるいはそれらの中の他のおよその範囲を含有し得る。
【0182】
一部の実施形態では、ADAMTS13は、約10UFV73/kg体重~10,000UFV73/kg体重の用量で提供または投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約20UFV73/kg体重~約8,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約30UFV73/kg体重~約6,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約40UFV73/kg体重~約4,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約100UFV73/kg体重~約3,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約200UFV73/kg体重~約2,000UFV73/kg体重の用量で投与される。他の実施形態では、ADAMTS13は、約10UFV73/kg体重、約20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,100、2,200、2,300、2,400、2,500、2,600、2,700、2,800、2,900、3,000、3,100、3,200、3,300、3,400、3,500、3,600、3,700、3,800、3,900、4,000、4,500、5,000、5,500、6,000、6,500、7,000、7,500、8,000、8,500、9,000、9,500、または10,000UFV73/kg体重、あるいはそれらの中間用量または用量範囲で投与される。
【0183】
一部の態様では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約20と約10,000UFV73の間の活性を含む。一部の実施形態では、製剤は、約10単位のFRETS-VWF73活性、または約20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,100、2,200、2,300、2,400、2,500、2,600、2,700、2,800、2,900、3,000、3,100、3,200、3,300、3,400、3,500、3,600、3,700、3,800、3,900、4,000、4,100、4,200、4,300、4,400、4,500、4,600、4,700、4,800、4,900、5,000、5,100、5,200、5,300、5,400、5,500、5,600、5,700、5,800、5,900、6,000、6,100、6,200、6,300、6,400、6,500、6,600、6,700、6,800、6,900、7,000、7,100、7,200、7,300、7,400、7,500、7,600、7,700、7,800、7,900、8,000、8,100、8,200、8,300、8,400、8,500、8,600、8,700、8,800、8,900、9,000、9,100、9,200、9,300、9,400、9,500、9,600、9,700、9,800、9,900、10,000、またはそれより多い単位のFRETS-VWF73活性を含む。
【0184】
一部の態様では、ADAMTS13の濃度は、単位容積当たりの酵素活性、例えば1mL当たりのADAMTS13酵素単位(IU/mL)で表してもよい。例えば、一部の実施形態では、ADAMTS13製剤は、約10IU/mLと約10,000IU/mLの間を含有し得る。他の実施形態では、製剤は、約20IU/mLと約8,000IU/mLの間、または約30IU/mLと約6,000IU/mLの間、または約40IU/mLと約4,000IU/mLの間、または約50IU/mLと約3,000IU/mLの間、または約75IU/mLと約2,500IU/mLの間、または約100IU/mLと約2,000IU/mLの間、または約200IU/mLと約1,500IU/mLの間、あるいはそれらの中の他のおよその範囲を含有し得る。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約150IU/mLと約600IU/mLの間を含有する。別の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mLと約1,000IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mLと約800IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mLと約600IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mLと約500IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mLと約400IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mLと約300IU/mLの間を提供する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mLと約200IU/mLの間を提供する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約300IU/mLと約500IU/mLの間を提供する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は約100IU/mLを含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約300IU/mLを含有する。様々な実施形態において、製剤は、約10IU/mL、または約20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,100、2,200、2,300、2,400、2,500、2,600、2,700、2,800、2,900、3,000、3,100、3,200、3,300、3,400、3,500、3,600、3,700、3,800、3,900、4,000、4,100、4,200、4,300、4,400、4,500、4,600、4,700、4,800、4,900、5,000、5,100、5,200、5,300、5,400、5,500、5,600、5,700、5,800、5,900、6,000、6,100、6,200、6,300、6,400、6,500、6,600、6,700、6,800、6,900、7,000、7,100、7,200、7,300、7,400、7,500、7,600、7,700、7,800、7,900、8,000、8,100、8,200、8,300、8,400、8,500、8,600、8,700、8,800、8,900、9,000、9,100、9,200、9,300、9,400、9,500、9,600、9,700、9,800、9,900、10,000、またはそれより多いIU/mLを含有する
【0185】
一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、担体、および/または希釈剤を更に含んでいてよい。更には、一実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それらの両方が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような範囲の浸透圧を有する。
【0186】
投与頻度は、使用される製剤中のADAMTS13分子の薬物動態パラメータに依存する。典型的には、臨床医は、所望の効果を達成する投与量に到達するまで組成物を投与する。従って、組成物は、様々な態様において、単回投与として、または時間をかけて2回以上の投与(同じ量の所望の分子を含んでも含まなくてもよい)として、または埋込み装置またはカテーテルを介した連続注入として投与される。一部の態様では、ADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、隔日、毎日、12時間毎、8時間毎、6時間毎、4時間毎、または2時間毎に、単回ボーラス注射で投与される。本発明の予防的または保護的処置態様では、ADAMTS13は、VOC、ALI、またはARDSの発症を防ぐのに有効なADAMTS13の循環レベルを維持するように、複数回投与で投与される。そのような態様では、ADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、隔日、または毎日投与される。ある態様では、注射は皮下投与される。(例えば、国際公開第2014151968号、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)。他の態様では、注射は静脈内投与される。適切な投与量および投与タイミングの更なる精密化は、当業者によりルーチン的になされ、当業者がルーチン的に実施する作業の範囲内にある。適切な投与量はしばしば、ルーチン的に入手される適切な用量-応答データの使用により確認される。
【0187】
ADAMTS13を含むキット
更なる態様として、本発明は、使用を容易にするようにパッケージされた、対象にADAMTS13またはADAMTS13組成物を投与するための1つ以上の医薬製剤を含むキットを包含する。
【0188】
特定の実施形態では、本発明は、単回投与単位を作成するためのキットを包含する。別の実施形態では、本発明は、複数回投与単位を提供するためのキットを包含する。キットは、様々な態様において、それぞれ、乾燥タンパク質を有する第1の容器、および水性製剤を有する第2の容器の両方を含む。単一および複数のチャンバを有する予め充填されたシリンジ(例えば、液体シリンジおよびリオシリンジ(lyosyringe))を含むキットもまた、本発明の範囲に含まれる。
【0189】
別の実施形態では、そのようなキットは、密閉ボトルまたはベッセルなどの容器内にパッケージされた、本明細書に記載される医薬製剤(例えば、治療タンパク質(例えば、ADAMTS13)を含む組成物)を、方法を実施する際の化合物または組成物の使用について記載する、容器に添付されたまたはパッケージに含まれるラベルと共に含む。一実施形態では、医薬製剤は、容器内のヘッドスペースの量(例えば、液体製剤と容器の上面との間の空気の量)が非常に小さくなるように容器にパッケージされる。好ましくは、ヘッドスペースの量は無視できる(すなわち、ほとんどない)
【0190】
一部の態様では、医薬製剤または組成物は安定剤を含む。用語「安定剤」は、例えば加熱または冷凍中に生じる悪条件などの、悪条件から組成物を保護し、および/または安定な状態での組成物または医薬組成物の安定性または有効期間を延長する、物質または賦形剤を指す。安定剤の例としては、糖、例えばスクロース、ラクトースおよびマンノース;糖アルコール、例えばマンニトール;アミノ酸、例えばグリシンまたはグルタミン酸;およびタンパク質、例えばヒト血清アルブミンまたはゼラチンが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0191】
一部の態様では、医薬製剤または組成物は抗菌性保存剤を含む。用語「抗菌性保存剤」は、組成物に添加され、複数回投与バイアルの繰り返し穿刺で(そのような容器が使用される場合)導入され得る微生物の増殖を阻害する任意の物質を指す。抗菌性保存剤の例としては、チメロサール、2-フェノキシエタノール、塩化ベンゼトニウム、およびフェノールなどの物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0192】
1つの態様では、キットは、治療タンパク質またはタンパク質組成物を有する第1の容器、および組成物のための生理学的に許容される再構成溶液を有する第2の容器を含む。1つの態様では、医薬製剤は、単位剤形でパッケージされる。キットは任意選択的に、特定の投与経路に従って医薬製剤を投与するのに好適な装置をさらに含む。一部の態様では、キットは、医薬製剤の使用を説明するラベルを含む。
【0193】
本明細書全体が、統合された開示として関連づけられることが意図され、たとえその特徴の組合せが本発明の同じ文、段落または節において一緒に見出されなくても、本明細書に記載されている全ての特徴の組合せが企図されていることを理解されたい。本発明はまた、例えば、上記において具体的に記載された変動よりも何らか狭い範囲の本発明のあらゆる実施形態も包含する。
【0194】
本明細書で引用されるあらゆる出版物、特許、および特許出願は、本発明と矛盾することのない程度まで、個々の出版物または特許出願が具体的におよび個別にその全体が参照により組み込まれることが指摘されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0195】
追加の実施形態
ある実施形態では、鎌状赤血球症(SCD)に罹患する対象において、血管閉塞性クリーゼ(VOC)を治療または予防する方法を提供する。ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を対象に投与する。対象は、SCDに罹患するヒト患者、またはSCDに罹患する動物であってよい。ADAMTS13は組換え形態であってよい。ADAMTS13は、静脈内投与に適した製剤の一部であってよい。ADAMTS13は、皮下投与に適した製剤の一部であってよい。ADAMTS13の投与量は、齧歯類において、2,500IU/kg~4,000IU/kg、2,800IU/kg~3,800IU/kg、3,000IU/kg~3,400IU/kg、約3,200IU/kg、または3,200IU/kgであってよい。ADAMTS13の投与量は、ヒト患者において、40IU/kg~100IU/kg、100IU/kg~300IU/kg、120IU/kg~240IU/kg、150IU/kg~200IU/kg、または300IU/kg~500IU/kgであってよい。ADAMTS13は、SCDに罹患するヒト患者または動物患者において、急性VOCの前、間または後に、静脈内投与され得る。ADAMTS13は、SCDに罹患するヒト患者または動物患者において、急性VOCの前、間または後に、皮下投与され得る。治療は、例えばSCDに罹患するヒト患者または動物などの対象を、VOCまたは低酸素症に関連する病的状態および死亡から保護するのに有効となり得る。
【0196】
ある実施形態では、急性肺障害(ALI)または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療または予防する方法を提供する。ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を対象に投与する。ADAMTS13は組換え形態であってよい。ADAMTS13は、静脈内投与に適した製剤の一部であってよい。ADAMTS13は、皮下投与に適した製剤の一部であってよい。ADAMTS13の投与量は、齧歯類において、2,500IU/kg~4,000IU/kg、2,800IU/kg~3,800IU/kg、3,000IU/kg~3,400IU/kg、約3,200IU/kg、または,200IU/kgであってよい。ADAMTS13の投与量は、ヒト患者において、40IU/kg~100IU/kg、100IU/kg~300IU/kg、120IU/kg~240IU/kg、150IU/kg~200IU/kg、または300IU/kg~500IU/kgであってよい。ADAMTS13は、ヒト患者または動物患者において、ALIまたはARDSの前、間または後に、静脈内投与され得る。ADAMTS13は、ヒト患者または動物患者において、ALIまたはARDSの前、間または後に、皮下投与され得る。治療は、例えばALIおよび/またはARDSのヒト患者などの対象を、病的状態および死亡から保護するのに有効となり得る。
【0197】
別の実施形態では、(a)SCDに罹患する対象におけるVOC、または(b)急性肺障害(ALI)および/または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に罹患するまたは罹患するリスクを有する対象における肺障害を、治療、改善、または予防する方法を提供する。治療有効量のADAMTS13を対象に投与する。肺障害または血管炎症は、低酸素状態に続発するまたは低酸素状態により誘発され得る。肺障害または血管炎症は、再酸素化ストレスに続発するまたは再酸素化ストレスにより誘発され得る。低酸素状態または再酸素化ストレス中、酸素レベルは、約7%、約8%、約9%、約10%、7~10%、または7~9%であり得る。対象は、SCDに罹患するヒト患者、VOCを経験しているヒト患者、ALIに罹患するヒト患者、ARDSに罹患するヒト患者、SCDに罹患する動物、VOCを経験している動物、ALIに罹患する動物、ARDSに罹患する動物、またはHbAホモ接合体の動物であってよい。ADAMTS13は、静脈内投与に適した製剤の一部であってよい。ADAMTS13は、皮下投与に適した製剤の一部であってよい。ADAMTS13の投与量は、齧歯類において、2,500IU/kg~4,000IU/kg、2,800IU/kg~3,800IU/kg、3,000IU/kg~3,400IU/kg、約3,200IU/kg、または3,200IU/kgであってよい。ADAMTS13の投与量は、ヒト患者において、40IU/kg~100IU/kg、100IU/kg~300IU/kg、120IU/kg~240IU/kg、150IU/kg~200IU/kg、または300IU/kg~500IU/kgであってよい。処置の前、間、および後の1以上の時点で、BALタンパク質含量およびBAL白血球数の1つ以上について対象をモニターしてよい。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、BALタンパク質含量を、少なくとも35%、少なくとも36%、少なくとも37%、少なくとも38%、少なくとも39%、少なくとも40%、30~45%、33~43%、34~42%、35~41%、または36~40%低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、BAL白血球数を、少なくとも35%、少なくとも36%、少なくとも37%、少なくとも38%、少なくとも39%、少なくとも40%、30~45%、33~43%、34~42%、35~41%、または36~40%低減するのに有効となり得る。
【0198】
少なくとも上記の実施形態において、ADAMTS13の投与は、VCAM-1およびICAM-1の内の少なくとも1つの活性化あるいは発現またはレベルの増大を防ぐ、および/またはET-1、TXASおよびHO-1の内の少なくとも1つの発現を低減するのに有効となり得る。図2B、2C、および3Bを参照。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも65%、少なくとも68%、少なくとも71%、少なくとも74%、少なくとも77%、少なくとも80%、65~80%、70~80%、または70~75%、TXASまたはET-1の発現またはレベルを低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも53%、少なくとも56%、少なくとも59%、少なくとも62%、少なくとも65%、53~65%、55~62%、または57~60%、ICAM-1の発現またはレベルまたは活性を低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも46%、少なくとも47%、少なくとも48%、少なくとも49%、46~49%、47~49%、または46~48%、HO-1の発現またはレベルまたは活性を低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも63%、少なくとも67%、少なくとも71%、少なくとも75%、少なくとも79%、少なくとも83%、63~83%、67~79%、または71~75%、P-NF-κB/NF-κB比を低減するのに有効となり得る。SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象において、ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも40%、少なくとも42%、少なくとも44%、少なくとも46%、少なくとも48%、少なくとも50%、40~50%、42~48%、または44~46%、VCAM-1の発現、レベル、または活性を低減するのに有効となり得る。ある実施形態では、肺においてバイオマーカー(例えば、VCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB、NF-κB、ET-1、TXASおよびHO-1)を測定する。ある実施形態では、腎臓においてバイオマーカー(例えば、VCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB、NF-κB、ET-1、TXASおよびHO-1)を測定する。
【0199】
少なくとも上記の実施形態において、SCD、VOC、ALIおよび/またはARDSに関連する肺障害または血管炎症を治療することに関して、ADAMTS13の投与は、VCAM-1およびICAM-1の内の少なくとも1つの活性化、あるいは発現またはレベルの増大を防ぐ、および/またはET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも1つの発現またはレベルを低減するのに有効となりうる。図2Bおよび2Cを参照。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも65%、少なくとも68%、少なくとも71%、少なくとも74%、少なくとも77%、少なくとも80%、65~80%、70~80%、または70~75%、TXASまたはET-1の発現またはレベルを低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも53%、少なくとも56%、少なくとも59%、少なくとも62%、少なくとも65%、53~65%、55~62%、または57~60%、ICAM-1の発現、レベルまたは活性を低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも46%、少なくとも47%、少なくとも48%、少なくとも49%、46~49%、47~49%、または46~48%、HO-1の発現またはレベルを低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも63%、少なくとも67%、少なくとも71%、少なくとも75%、少なくとも79%、少なくとも83%、63~83%、67~79%、または71~75%、P-NF-κB/NF-κB比を低減するのに有効となり得る。SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象において、ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも40%、少なくとも42%、少なくとも44%、少なくとも46%、少なくとも48%、少なくとも50%、40~50%、42~48%、または44~46%、VCAM-1の発現、レベルまたは活性を低減するのに有効となり得る。ある実施形態では、肺においてバイオマーカー(例えば、VCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB、NF-κB、ET-1、TXASおよびHO-1)を測定する。
【0200】
少なくとも上記の実施形態において、SCD、VOC、ALIおよび/またはARDSに関連する腎損傷または血管炎症を治療することに関して、ADAMTS13の投与は、VCAM-1の活性化、および/または発現レベルの増大を防止する、P-NF-κB/NF-κB比を低減する、および/またはET-1またはTXASの少なくとも1つの発現またはレベルを低減するのに有効となりうる。図3Aおよび3Bを参照。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも70%、少なくとも73%、少なくとも76%、少なくとも78%、少なくとも80%、少なくとも82%、70~82%、73~80%、または76~78%、TXASの発現またはレベルを低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも68%、少なくとも70%、少なくとも72%、少なくとも75%、少なくとも78%、68~78%、70~75%、または72~75%、P-NF-κB/NF-κB比を低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、例えばデンシトメトリーにより測定した場合に、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも58%、少なくとも60%、少なくとも62%、少なくとも64%、少なくとも67%、58~67%、60~64%、または60~62%、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象においてVCAM-1の発現またはレベルまたは活性を低減するのに有効となり得る。ある実施形態では、腎臓においてバイオマーカー(例えば、VCAM-1、P-NF-κB、NF-κB、ET-1、TXASおよびHO-1)を測定する。
【0201】
少なくとも上記の実施形態において、対象由来の血液試料を採取して、測定した以下のヘマトクリット値の1つ以上を用いて、例えばSCD、VOC、ALIおよび/またはARDSの治療をモニターすることができる:赤血球の生存性の指標として、%ヘマトクリット(Hct)および平均赤血球容積(MCV);酸素結合能の指標としての、ヘモグロビン(Hb)、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)、および細胞ヘモグロビン濃度平均(CHCM);濃い赤血球の存在の指標として赤血球分布の不均一性(HDW);貧血状態の指標として網状赤血球数(Retics);全身性炎症状態の指標として好中球数;および/または細胞障害の全般的マーカーとして乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも5%、少なくとも5.5%、少なくとも6%、少なくとも6.5%、または少なくとも7%、CHCMを低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも5%、少なくとも7%、少なくとも9%、少なくとも11%、または少なくとも13%、網状赤血球を増加させるのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%、好中球(細胞/μL)を低減するのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、または少なくとも30%、LDH(細胞/μL)を低減するのに有効となり得る。
【0202】
少なくとも上記の実施形態において、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象におけるADAMTS13の投与は、Hct%、Hb、MCV、MCH、および/またはHDWのレベルを変化させるのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象においてHct%を増大させるのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも18%、少なくとも20%、少なくとも22%、少なくとも24%、または少なくとも26%、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象においてHbを増大させるのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも18%、少なくとも20%、少なくとも22%、少なくとも24%、または少なくとも26%、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象においてMCVを増大させるのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも5%、少なくとも5.5%、少なくとも6%、少なくとも6.5%、または少なくとも7%、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象においてMCHを増大させるのに有効となり得る。ADAMTS13の投与は、対照(例えば、未処置対象)と比較して、少なくとも12%、少なくとも14%、少なくとも16%、少なくとも18%、または少なくとも20%、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象においてHDWを低減するのに有効となり得る。
【0203】
少なくとも上記の実施形態において、SCDに罹患するまたはVOCを経験している対象におけるADAMTS13の投与は、SCD関連組織損傷を低減または防ぐことができる。ある実施形態では、組織損傷は低酸素状態により引き起こされる。ある実施形態では、組織損傷は再酸素化により引き起こされる。ある実施形態では、組織は肺組織である。ある実施形態では、組織は腎組織である。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、組織における炎症細胞浸潤および/または血栓形成を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、肺組織における炎症細胞浸潤を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%、肺の炎症細胞浸潤を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、肺組織における血栓形成を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%、肺血栓形成を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、腎組織における炎症細胞浸潤を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%、腎臓の炎症細胞浸潤を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、肺組織における血栓形成を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%、肺の血栓形成を低減する。
【0204】
少なくとも上記の実施形態において、ALIおよび/またはARDSに罹患する対象におけるADAMTS13の投与は、ALRおよび/またはARDS関連組織損傷を低減または予防することができる。ある実施形態では、組織損傷は低酸素状態により引き起こされる。ある実施形態では、組織損傷は再酸素化により引き起こされる。ある実施形態では、組織は肺組織である。ある実施形態では、組織は腎組織である。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、組織における炎症細胞浸潤および/または血栓形成を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、肺組織における炎症細胞浸潤を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%、肺の炎症細胞浸潤を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、肺組織における血栓形成を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%、肺の血栓形成を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、腎組織における炎症細胞浸潤を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%、腎臓の炎症細胞浸潤を低減する。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、肺組織における血栓形成を低減させた。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、少なくとも20%、少なくとも30%、または少なくとも40%、肺の血栓形成を低減する。
【0205】
本明細書に記載される実施例および実施形態は、例示目的のためにすぎず、これらを考慮して様々な修正および変更が当業者に示唆され、それらは本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲に含まれることを理解されたい。
【実施例
【0206】
本発明の追加の態様および詳細は、限定するものではなく例示であることが意図されている下記実施例から明らかになるであろう。
【0207】
実施例1
ADAMTS13は致死的な低酸素誘発性VOCに曝されたSCDマウスの死を防いだ
急性鎌状赤血球事象は、低酸素(低酸素状態)により引き起こされるため、低酸素状態に曝されたSCDモデルにおける生存に対するADAMTS13の効果を評価するためにこの実施例を実施した。この実施例の目的は、組換えADAMTS13(rADAMTS13(BAX930/SHP655))が、致死的な低酸素誘発性VOCに曝されたヒト化SCDマウスを保護できるかを特定することであった。SCDマウスを非常に厳しい生命を脅かす低酸素/再酸素化ストレスに曝すことが、SCDマウスの生存への新規な治療的処置の有効性を評価するのに有用となり得ることは既に示されている(Sabaa et al, JCI 118: 1924, 2008)。
【0208】
4~6週令の健康対照(Hbatm1(HBA)TowHbbtm3(HBG1,HBB)Tow)マウス(すなわち、AA)およびSCD(Hbatm1(HBA)TowHbbtm2(HBG1,HBB*)Tow)マウス(鎌状赤血球症のヒト化マウスモデル(すなわち、SCDまたはSSマウス))において実験を実施した。健康(AA)および鎌状赤血球症マウス(SCDまたはSS)を、ヒトSCD患者における急性VOCで見られる臓器障害を生物学的に再現することが以前示されている厳しい低酸素/再酸素化ストレス(約7%酸素で10時間、その後約21%酸素で3時間の再酸素化)に曝す1時間前に、ビヒクルまたは2,940FRETS-U/kg(~3,200IU/kg)の投与量のrADAMTS13の静脈内投与で処置した。Kalish et al.(上記参照)に報告されている同様のプロトコルを参照。より具体的には、4つの群(n=6)のAAおよびSCDマウスを、ビヒクルまたはADAMTS13(BAX930/SHP655)(2,940FRETS-U/kg(~3,200IU/kg))で処置し、更に低酸素ストレスの状態に曝した。
【0209】
組換えADAMTS13での処置は、ビヒクルで処置したSCDマウスと比較して、SCDマウスを死から完全に保護した(10時間の低酸素状態で、rADAMTS13処置SCDマウスにおける0%の死亡率に対して、ビヒクル処置SCDマウスでは83.3%の死亡率;10時間の低酸素状態および続く3時間の再酸素化で、rADAMTS13処置SCDマウスにおける0%の死亡率に対して、ビヒクル処置SCDマウスでは100%の死亡率;p<0.001)(図1)。ビヒクルまたはrADAMTS13のいずれかで処置した健康マウスでは、マウス生存率の差は見られなかった。
【0210】
データは、ADAMTS13が、低酸素ストレスへの曝露後のSCDモデルにおいて、生存率の上昇を含む、保護効果を有することを実証した。
【0211】
実施例2
ADAMTS13は低酸素/再酸素化ストレス誘発性の肺の異常を低減する
この実施例の目的は、低酸素/再酸素化(H/R)ストレスにより誘発される肺障害および血管炎症に対するADAMTS13の効果を評価することであった。
【0212】
健康対照(Hbatm1(HBA)TowHbbtm3(HBG1,HBB)Tow)マウスおよびSCD(Hbatm1(HBA)TowHbbtm2(HBG1,HBB*)Tow)マウスを、ヒトSCD患者における急性VOCならびに急性VOCで見られる臓器障害を生物学的に再現することが以前示されている低酸素/再酸素化(H/R)ストレスに曝した。特に、6つの実験群を用いた:(1)AA 未処置、正常酸素;(2)SS 未処置、正常酸素;(3)AA ビヒクル+H/R;(4)AA ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R;(5)SS ビヒクル+H/R;および(6)SS ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R。この実験において、H/R条件は、8%酸素で10時間およびその後約21%酸素で3時間の回復であり、実験スキームは通常SCDマウスに致死的ではない(Kalish et al., Haematologica 100:870-80, 2015)。
【0213】
正常酸素およびH/Rの両方の条件下で、気管支肺胞洗浄液(BAL)中のタンパク質含量および白血球数(細胞/μLで測定した総白血球数)を測定することにより、マウスにおける肺血管漏出を評価した。
【0214】
気管支肺胞洗浄液(BAL)中のタンパク質含量および白血球数(すなわち、細胞数)を測定することにより、肺血管漏出を調べた。表1に示すように、正常酸素条件下では、健康マウスと比較して、SCDマウスにおいて、BALタンパク質レベルおよび白血球細胞数の増加が検出され、肺胞腔におけるタンパク質および炎症細胞の蓄積を示した。興味深いことに、SCDおよびAAマウスの両方において、H/Rに応答してBALタンパク質および白血球数の両方が有意に増加した。
【表1】
【0215】
データは、SCDマウスが、AAマウスと比較して、末梢好中球数(細胞/μL)の有意な増加を有していたこと;しかしながらADAMTS13での処置により好中球数が有意に減少したことを示した。データはまた、SCDマウスが、対照と比較して、より多くの白血球数(気管支肺胞洗浄(BAL)総白血球数(細胞/μL))およびより多くの白血球タンパク質含量(気管支肺胞洗浄液中のBALタンパク質(mg/mL))を有していたことも示し、SCDマウスが血管漏出を患っていることを表した。ADAMTS13での処置はこの作用を顕著に低減し(図2Aおよび表1)、ADAMTS13が、全身性炎症を低減し、および肺血管機能不全における異常を低減したことを表した。
【0216】
これらのデータは、ADAMTS13が、急性血管閉塞性クリーゼ中のSCDマウスの肺において、低酸素誘発性の炎症性血管症および肺血管漏出の異常を防いだことを表す。更に、ADAMTS13は、ビヒクル処置対照と比較して、SCDマウスおよびAAマウスの両方において、BALタンパク質含量および白血球細胞数を有意に低減し、ADAMTS13が低酸素条件下で肺に対する保護効果を有することを表した。
【0217】
実施例3
ADAMTS13は低酸素/再酸素化ストレス誘発性の肺血管活性化を低減した
肺における損傷および血管炎症に対するADAMTS13の効果を検討するために、実施例2に記載のものと同じ6つの実験群(すなわち、(1)AA 未処置、正常酸素;(2)SS 未処置、正常酸素;(3)AA ビヒクル+H/R;(4)AA ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R;(5)SS ビヒクル+H/R;および(6)SS ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R)を用いて、更なる実験を実施した。この実施例では、実施例2で報告したのと同様に、動物にビヒクルまたはADAMTS13を投与し、次いで8%酸素に10時間曝し、その後21%酸素で3時間回復させた。追加の対照(AAおよびSCD)も、ビヒクルまたはADAMTS13なしに正常酸素条件を受けた。
【0218】
炎症、血管収縮および血小板凝集の様々なマーカー(すなわち、核内因子κB(NF-κB)、エンドセリン-1(ET-1)、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、および血管細胞接着分子1(VCAM-1))に対する特異的抗体を用いたイムノブロット分析を実施して、低酸素条件(例えば、H/R)または正常酸素条件に曝した後、ビヒクルまたはrADAMTS13のいずれかで処置した健康対照(AA)マウスおよびSCDマウスの肺におけるこれらタンパク質の発現を測定した。
【0219】
この実施例からのデータは、ADAMTS13が、AAおよびSCDマウスの肺組織において、低酸素誘発性のNF-κBの活性化を防いだことを示し、ADAMTS13が低酸素状態により引き起こされる肺炎症プロセスを低減することを表す(図2B)。低酸素状態下のSCDマウスの肺において、ADAMTS13は、血管活性化および炎症性血管症のマーカーであるVCAM-1およびICAM-1の活性化を防ぎ、またエンドセリン-1(ET-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、およびヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の発現を低減させた(図2C)。
【0220】
表2は、ビヒクルまたはrADAMTS13で処置され、更に正常酸素または低酸素/再酸素化ストレスに曝された健康対照(AA)マウスおよび鎌状赤血球症(SCD)マウスの肺における、核内因子κBB(NF-κB)およびその活性化形態(P-NF-κB)、エンドセリン1(ET-1)、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、および血管細胞接着分子1(VCAM-1)に対する特異的抗体を用いたイムノブロット分析により得られた濃度測定値を報告する。
【0221】
表2に示すように、正常酸素条件下において、測定したタンパク質マーカーの全て(ICAM-1以外)が、AAマウスと比較して、SCDマウスにおいてタンパク質発現の増大を示した。低酸素条件下では、健康対照およびSCDマウスの両方において、測定したマーカーの全ての発現の更なる増大があった。しかしながら、ADAMTS13(すなわち、BAX930/SHP655)での処置は、試験した炎症、血管収縮および血小板凝集の全てのマーカーのより低いレベルによって証明されるように、AAおよびSCDマウスの両方において保護効果を有していた。
【表2】
【0222】
組換えADAMTS13は、SCDマウスで試験したタンパク質マーカーのそれぞれの発現レベルを顕著に低減させた(すなわち、ビヒクル処置SCDマウスと比較して)(表2)。更に、組換えADAMTS13は、健康対照(AA)マウスにおいて、VCAM-1を除いて試験したタンパク質マーカーの全ての肺発現を低減させた(すなわち、ビヒクル処置対照マウスと比較して)。
【0223】
これらのデータは、ADAMTS13が、急性血管閉塞性クリーゼ中のSCDマウスの肺において、低酸素誘発性炎症性血管症、および肺血管漏出の異常を防いだことを示す。加えて、ADAMTS13は、ET-1およびTXAS(両方とも急性事象中のSCDに記載される血管機能不全に寄与する因子として指摘されている)などの血管緊張の強力な調節因子の低酸素誘発性の発現増大を防いだ。更には、データは、ADAMTS13が、低酸素条件に曝された健康動物の肺組織に保護効果を有することも示した。従って、データは、ADAMTS13が、SCDおよび健康マウスの肺において低酸素ストレスに関連する血管活性化および炎症反応を低減することを表す。
【0224】
実施例4
ADAMTS13は低酸素/再酸素化ストレス誘発性の腎臓血管活性化を低減する
腎臓における損傷および血管炎症に対するADAMTS13の効果を検討するために、実施例2に記載のものと同じ6つの実験群(すなわち、(1)AA 未処置、正常酸素;(2)SS 未処置、正常酸素;(3)AA ビヒクル+H/R;(4)AA ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R;(5)SS ビヒクル+H/R;および(6)SS ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R)を用いて、更なる実験を実施した。この実施例では、実施例2および3で報告したのと同様に、動物にビヒクルまたはADAMTS13を投与し、次いで8%酸素に10時間曝し、その後21%酸素で3時間回復させた(それは、ヒトSCD患者における急性VOCおよび急性VOCで見られる臓器障害を生物学的に再現することが以前示されている)。追加の対照(AAおよびSCD)も、ビヒクルまたはADAMTS13なしに正常酸素条件を受けた。
【0225】
NF-κBおよびその活性化形態(P-NF-κB)、ならびにET-1、TXAS、およびVCAM-1に対する特異的抗体を用いたイムノブロット分析を実施して、ビヒクルまたはrADAMTS13のいずれかで処置したAAおよびSCDマウスの腎臓におけるこれらタンパク質の発現を測定した。
【0226】
表3は、ビヒクルまたはrADAMTS13のいずれかで処置し、更に正常酸素または低酸素(低酸素/再酸素化ストレス)条件に曝した健康対照(AA)マウスおよび鎌状赤血球症(SCD)マウスの腎臓における、核内因子κBB(NF-κB)およびその活性化形態(P-NF-κB)、エンドセリン1(ET-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、および血管細胞接着分子1(VCAM-1)に対する特異的抗体を用いたイムノブロット分析により得られた濃度測定値を報告する。表3に見られるように、正常酸素条件下において、AAマウスにおけるよりもSCDマウスにおいて、全てのタンパク質マーカーのレベルが高かった。低酸素条件下では、VCAM-1を除いて、全てのタンパク質マーカーがSCDおよびAAマウスの両方で更に高められた。
【表3】
【0227】
この実施例からのデータは、正常酸素条件下のSCDマウスと同様に、ADAMTS13が、AAおよびSCDマウスの腎臓において低酸素誘発性のNF-κBの活性化を防いだことを示した(表3および図3A)。低酸素状態に曝されたSCDマウスにおいて、VCAM-1、ET-1、およびTXASの発現の増大があった。ADAMTS13は、両方のマウス系統の腎臓におけるVCAM-1およびTXAS、ならびにAAマウスの腎臓におけるET-1レベルの、低酸素誘発性の発現増大を防いだ(表3および図3B)。
【0228】
これらのデータは、ADAMTS13が、血管緊張の強力な調節因子および/または急性事象中のSCDに記載される血管機能不全に寄与する因子の、低酸素誘発性の発現増大を防いだことを示す。データは、ADAMTS13が、SCDおよび健康マウスの腎臓において、低酸素ストレスに関連する血管活性化および炎症反応を低減することを示す。この実施例は、rADAMTS13が、腎臓において血管収縮および炎症性血管症などの、急性の鎌状赤血球症関連事象を低減できたことを示した。
【0229】
実施例5
ADAMTS13は様々な血液学的パラメータの低酸素/再酸素化ストレス誘発性異常を改善する
様々な血液学的パラメータに対するADAMTS13の効果を検討するために、実施例2に記載のものと同じ6つの実験群(すなわち、(1)AA 未処置、正常酸素;(2)SS 未処置、正常酸素;(3)AA ビヒクル+H/R;(4)AA ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R;(5)SS ビヒクル+H/R;および(6)SS ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R)を用いて、更なる実験を実施した。この実施例では、実施例2~4で報告したのと同様に、動物にビヒクルまたはADAMTS13を投与し、次いで正常酸素またはH/R(8%酸素に10時間、次いで約21%酸素で3時間の回復)に曝した。
【0230】
以下の血液学的パラメータを特定した:赤血球の生存性の指標としての、%ヘマトクリット(Hct)および平均赤血球容積(MCV);酸素結合能の指標としての、ヘモグロビン(Hb)、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)、および細胞ヘモグロビン濃度平均(CHCM);濃い赤血球の存在の指標としての赤血球分布の不均一性(HDW);貧血状態の指標としての網状赤血球数;全身性炎症状態の指標としての好中球数;および細胞障害の全般的マーカーとしての乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)。
【0231】
ヘマトクリットは、血液の全容積に対する赤血球の容積比である。MCVは、RBCの平均容積である。ヘモグロビは血中酸素の運搬を担うタンパク質であり、MCHは、血液試料中のRBC当たりの平均ヘモグロビン量である;CHCMは、無傷のRBC内のヘモグロビン含量を反映する。ヘモグロビン濃度分布幅(HDW)は、赤血球のヘモグロビン濃度の不均一性の測量である。網状赤血球は、新たに生成された比較的未熟な赤血球である;網状赤血球数は、十分な赤血球が骨髄で産生されているかを表す。好中球は、外傷に続き数分以内に損傷部位に集められる;従って、好中球は急性炎症の顕著な特徴であり、好中球数は炎症状態を表す。
【0232】
表4は、ADAMTS13(すなわち、BAX930/SHP655)またはビヒクルでの処置の後、正常酸素条件又は低酸素/再酸素化ストレスに曝した健康対照(AA)および鎌状赤血球症(SCD)マウスにおける血液学的パラメータを示す。表4に示すように、正常条件下では、対照(AA)マウスと比較して、SCDマウスにおいて、HctおよびHbレベルは低かったが、網状赤血球数及び好中球数と同様に、MCVおよびHDWレベルは高かった。健康対照マウスでは、低酸素条件は、網状赤血球および好中球の数を増加させた。対照マウスへのADAMTS13の投与は、好中球数の大幅な増大を改善し、炎症の低減を示した。SCDマウスでは、低酸素条件は、Hct、Hb、MCVおよびMCHを減らし、CHCM、HDW、および好中球数を増加させた。SCDマウスへのADAMTS13の投与は、Hct、Hb、MCV、およびMCHの減少を改善し、かつCHCM、HDW、および好中球数の増加を改善した。
【表4】
【0233】
実施例6
ADAMTS13は様々な病理組織検査パラメータの低酸素/再酸素化ストレス誘発性異常を改善する
様々な病理組織検査パラメータに対するADAMTS13の効果を検討するために、4つの実験群:(1)AA ビヒクル+H/R;(2)AA ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R;(3)SS ビヒクル+H/R;および(4)SS ADAMTS13(BAX930/SHP655)+H/R)を用いて、更なる実験を実施した。この実施例では、動物にビヒクルまたはADAMTS13を投与し、次いでH/R条件(8%酸素に10時間、次いで約21%酸素で3時間の回復)に曝した。
【0234】
3時間の酸素化の後、肺および腎臓を採取した。肺および腎臓の病理を分析し、炎症細胞浸潤、および血栓の存在を特定した。
【0235】
組織学的分析は、H/Rストレスが、SCDマウスの肺および腎臓の両方に重篤なSCD関連組織損傷を生じさせたことを示した。肺において、H/Rは、全てのSCDマウスにおいて炎症細胞浸潤および血栓形成を引き起こした(表5)。AAマウスでは、H/Rは、少数のマウスにおいて緩やかな炎症細胞浸潤および多少の血栓形成を引き起こした。SCDマウスにおいて、ADAMTS13(BAX930/SHP655)は、ビヒクル処置SCDマウスと比較して、炎症細胞浸潤および血栓形成を低減させた。AAマウスにおいて、ADAMTS13(BAX930/SHP655)は、肺における炎症細胞浸潤を低減させた。
【0236】
腎臓において、H/Rは、全てのSCDマウスにおいて炎症細胞浸潤および血栓形成を引き起こした。AAマウスでは、H/Rは、少数のマウスにおいてわずかな血栓形成と共に小規模の炎症細胞浸潤を引き起こした。ADAMTS13(BAX930/SHP655)は、H/Rに曝したSCDマウスの腎臓において炎症細胞浸潤を低減させ、また血栓形成にも影響を及ぼした。AAマウスでは、ADAMTS13(BAX930/SHP655)は、血栓形成には影響なしで、炎症細胞浸潤を低減させた(表5)。
【表5】
【0237】
実施例7
ADAMTS13は低酸素血症を患う対象およびARDSを発症するリスクを有する対象において臓器障害を低減する
ADAMTS13は、重篤な低酸素血症のマウスモデル(8%酸素に10時間、次いで約21%酸素で3時間の回復)において、終末器官損傷を低減することが実証されている。重篤な低酸素血症損傷は、急性肺障害(ALI)および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)(ALI/ARDS)を患う患者に見られる病態生理に対する寄与因子であるため、ALIおよび/またはARDS(ALI/ARDS)を発症するリスクを有するかまたは発症している患者へのADAMTS13の投与は、その疾患プロセスを予防、治療または改善することができ、生存、長期肺機能および他の終末器官損傷の回避などの結果の改善をもたらすと仮定された。
【0238】
マウスに、気管内注入または吸入により肺に直接、あるいは全身性炎症反応を引き起こすために腹腔内または静脈内に、LPSを投与する。気管内注入LPSで処置されたマウスは、48時間までに解消する急性でかつ強固な肺への炎症細胞流入を有する。腹腔内LPSは、全身性炎症を活性化し、穏やかな肺障害に関連する。LPSを繰返し注射するか、あるいは腹膜腔内にLPSポンプを埋め込んで数時間または数日間LPSを連続的に放出させて、この損傷を増大させることができる。
【0239】
LPSでの処置の前、およびLPSでの処置後12、24、48、72、および96時間以内に、約50、100、200、500、1,000、2,000、および3,000国際単位/kg体重の用量でADAMTS13を投与する。ADAMTS13の用量を、肺における炎症反応および臓器障害を調べるために対象を屠殺するまで、毎日または12時間毎に、皮下または静脈内投与する。
【0240】
ADAMTS13での処置は、ADAMTS13で処置したマウスの肺に存在する好中球、マクロファージ、単球、肥満細胞、好酸球、および/または好塩基球の数の低減により測定して、肺への炎症性細胞流入などの炎症反応を低減する。ADAMTS13での処置は、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、BUN/クレアチニン比、トロポニン、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)により測定して、臓器障害も低減する。
【0241】
本発明の実施のための特定の様式を含むことが見いだされまたは提案された特定の実施形態の観点から本発明を説明してきた。記載した発明の様々な修飾および変更が本発明の範囲および精神から逸脱せずに当業者に明らかになるであろう。本発明を特定の実施形態と関連させて説明してきたが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、本発明を実施するための記載された様式の様々な修飾は、関連分野の当業者に自明であり、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【0242】
最後に、本発明の好ましい実施態様を項分け記載する。
[実施態様1]
鎌状赤血球症に罹患する対象において血管閉塞性クリーゼを治療または予防する方法であって、必要とする対象に、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法。
【0243】
[実施態様2]
血管閉塞性クリーゼの症状が存在した後に、前記対象にADAMTS13が投与される、実施態様1に記載の方法。
【0244】
[実施態様3]
血管閉塞性クリーゼの症状が存在する前に、前記対象にADAMTS13が投与される、実施態様1に記載の方法。
【0245】
[実施態様4]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、炎症、血管収縮、血小板凝集、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減する、実施態様1~3のいずれかに記載の方法。
【0246】
[実施態様5]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、生存の改善、肺機能の改善、臓器障害の低減、肺血管漏出の低減、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つをもたらす、実施態様1~4のいずれかに記載の方法。
【0247】
[実施態様6]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、血流障害、血液凝固、血管炎症、血栓症、虚血性細胞障害、または臓器障害、あるいはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減および/または防止する、実施態様1~5のいずれかに記載の方法。
【0248】
[実施態様7]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、疼痛または疼痛の重篤度を低減および/または防止する、実施態様1~6のいずれかに記載の方法。
【0249】
[実施態様8]
ADAMTS13を投与することにより、処置なしと比較して、VOCの発生頻度および/またはVOC発作の持続期間を低減する、実施態様1~7のいずれかに記載の方法。
【0250】
[実施態様9]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、臓器におけるVCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化を低減する、実施態様1~8のいずれかに記載の方法。
【0251】
[実施態様10]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、血中のHct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも1つのレベルを増大させる、実施態様1~9のいずれかに記載の方法。
【0252】
[実施態様11]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、血中のCHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも1つのレベルを低減する、実施態様1~10のいずれかに記載の方法。
【0253】
[実施態様12]
ADAMTS13の治療有効量は約20~約6,000国際単位/kg体重である、実施態様1~11のいずれかに記載の方法。
【0254】
[実施態様13]
ADAMTS13の治療有効量は約40~約4,000国際単位/kg体重である、実施態様1~12のいずれかに記載の方法。
【0255】
[実施態様14]
ADAMTS13の治療有効量は約50~約3,000国際単位/kg体重である、実施態様1~13のいずれかに記載の方法。
【0256】
[実施態様15]
ADAMTS13の治療有効量は約50~約500国際単位/kg体重である、実施態様1~14のいずれかに記載の方法。
【0257】
[実施態様16]
前記ADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、毎日、12時間毎、8時間毎、6時間毎、4時間毎、または2時間毎に単回ボーラス注射で投与される、実施態様1~15のいずれかに記載の方法。
【0258】
[実施態様17]
前記ADAMTS13を含む組成物は静脈内または皮下投与される、実施態様1~16のいずれかに記載の方法。
【0259】
[実施態様18]
ADAMTS13は組換えADAMTS13である、実施態様1~17のいずれかに記載の方法。
【0260】
[実施態様19]
ADAMTS13は血漿由来である、実施態様1~17のいずれかに記載の方法。
【0261】
[実施態様20]
前記対象は哺乳動物である、実施態様1~19のいずれかに記載の方法。
【0262】
[実施態様21]
前記対象はヒトである、実施態様1~20のいずれかに記載の方法。
【0263】
[実施態様22]
前記組成物は投与可能な状態の安定な水溶液にある、実施態様1~21のいずれかに記載の方法。
【0264】
[実施態様23]
前記ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、血管閉塞性クリーゼの発症後48時間以内に対象に投与される、実施態様1~22のいずれかに記載の方法。
【0265】
[実施態様24]
血管閉塞性クリーゼを予防するための前記ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、前記対象において有効レベルのADAMTS13活性を維持するのに十分である、実施態様1~23のいずれかに記載の方法。
【0266】
[実施態様25]
鎌状赤血球症に罹患する対象において血管閉塞性クリーゼを治療または予防するためのADAMTS13を含む組成物の使用。
【0267】
[実施態様26]
鎌状赤血球症に罹患する対象において血管閉塞性クリーゼを治療または予防するための医薬として使用するためのADAMTS13を含む組成物。
【0268】
[実施態様27]
急性肺障害(ALI)および/または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、または予防する方法であって、必要とする対象に、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法。
【0269】
[実施態様28]
前記対象は、炎症性肺水腫、炎症性肺浸潤、酸素化障害、および低酸素血症からなる群より選択される状態または状態の組合せに罹患している、実施態様27に記載の方法。
【0270】
[実施態様29]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、生存の改善、肺機能の改善、臓器障害の低減、肺血管漏出の低減、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つをもたらす、実施態様27または28に記載の方法。
【0271】
[実施態様30]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、炎症、血管収縮、血小板凝集、またはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減する、実施態様27~29のいずれかに記載の方法。
【0272】
[実施態様31]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、血流障害、血液凝固、血管炎症、血栓症、虚血性細胞障害、または臓器障害、あるいはそれらの任意の組合せの内の少なくとも1つを低減および/または防止する、実施態様27に記載の方法。
【0273】
[実施態様32]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、疼痛または疼痛の重篤度を低減および/または防止する、実施態様27~31のいずれかに記載の方法。
【0274】
[実施態様33]
ADAMTS13を投与することにより、処置なしと比較して、ALIおよび/またはARDSの発生頻度、および/またはALIおよび/またはARDS発作の持続期間を低減する、実施態様27~32のいずれかに記載の方法。
【0275】
[実施態様34]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、臓器におけるVCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化を低減する、実施態様27~33のいずれかに記載の方法。
【0276】
[実施態様35]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、血中のHct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも1つのレベルを増大させる、実施態様27~34のいずれかに記載の方法。
【0277】
[実施態様36]
ADAMTS13を投与することにより、対照または処置なしと比較して、血中のCHCM、HDW、LDH、および好中球数の内の少なくとも1つのレベルを低減する、実施態様27~35のいずれかに記載の方法。
【0278】
[実施態様37]
ADAMTS13の治療有効量は約20~約6,000国際単位/kg体重である、実施態様27~36のいずれかに記載の方法。
【0279】
[実施態様38]
ADAMTS13の治療有効量は約40~約4,000国際単位/kg体重である、実施態様27~37のいずれかに記載の方法。
【0280】
[実施態様39]
ADAMTS13の治療有効量は約100~約3,000国際単位/kg体重である、実施態様27~38のいずれかに記載の方法。
【0281】
[実施態様40]
ADAMTS13の治療有効量は約50~約500国際単位/kg体重である、実施態様27~39のいずれかに記載の方法。
【0282】
[実施態様41]
前記ADAMTS13を含む組成物は、毎月、隔週、毎週、週2回、隔日、毎日、12時間毎、8時間毎、6時間毎、4時間毎、または2時間毎に単回ボーラス注射で投与される、実施態様27~40のいずれかに記載の方法。
【0283】
[実施態様42]
前記ADAMTS13を含む組成物は静脈内または皮下投与される、実施態様27~41のいずれかに記載の方法。
【0284】
[実施態様43]
ADAMTS13は組換えADAMTS13である、実施態様27~42のいずれかに記載の方法。
【0285】
[実施態様44]
ADAMTS13は血漿由来である、実施態様27~42のいずれかに記載の方法。
【0286】
[実施態様45]
前記対象は哺乳動物である、実施態様27~44のいずれかに記載の方法。
【0287】
[実施態様46]
前記対象はヒトである、実施態様27~45のいずれかに記載の方法。
【0288】
[実施態様47]
前記組成物は投与可能な状態の安定な水溶液にある、実施態様27~46のいずれかに記載の方法。
【0289】
[実施態様48]
前記ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、炎症性肺水腫、炎症性肺浸潤、酸素化障害、または低酸素血症の検出後48時間以内に対象に投与される、実施態様27~47のいずれかに記載の方法。
【0290】
[実施態様49]
肺障害を治療、改善、および/または予防するための前記ADAMTS13を含む組成物の治療有効量は、前記対象においてADAMTS13活性の有効循環レベルを維持するのに十分である、実施態様27~48のいずれかに記載の方法。
【0291】
[実施態様50]
急性肺障害(ALI)および/または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、または予防するためのADAMTS13を含む組成物の使用。
【0292】
[実施態様51]
急性肺障害(ALI)および/または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に罹患しているまたは罹患するリスクを有する対象において肺障害を治療、改善、または予防するための医薬として使用するためのADAMTS13を含む組成物。

図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B